JP2021506310A - 二重特異性抗原結合コンストラクト - Google Patents

二重特異性抗原結合コンストラクト Download PDF

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Abstract

本発明は、二重特異性抗原結合コンストラクト及び他の多重特異性抗原結合コンストラクトに関する。ある態様において、本発明はIgG Fcドメインに融合された単一ドメイン抗体(VHH)抗原結合領域;従来のIgG抗体の重鎖Fcドメイン部分、及び従来のIgG抗体の軽鎖部分を含む二重特異性抗原結合コンストラクトに関する。本発明の二重特異性抗原結合コンストラクトは、単独で、又はタンパク質複合体中で、2つの異なる抗原を標的化することができる。【選択図】なし

Description

(関連出願)
本出願は、 2017年12月22日に出願された米国仮特許出願第62/609,523号の恩典を主張するものであり、その全ての内容は参照により本明細書に組み込まれている。
(配列表)
本出願には、 ASCII 形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。2018年12月21日に作成された前記ASCII コピーの名前は607772_AGX5-031_ST25.txtで、サイズは 59,420 バイトである。
(発明の分野)
本発明は、タンパク質複合体との結合が改善された、従来の抗体及びVHH抗体を含む、多重特異性、例えば二重特異性の抗原結合コンストラクトに関する。抗原結合コンストラクトは、タンパク質複合体中で少なくとも 2つの異なる抗原を標的化することができる。本発明はさらに、例えばサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による精製が改善された、従来の抗体及びVHH抗体を含む、多重特異性抗原結合コンストラクトに関する。
(発明の背景)
二価抗体を含む天然抗体は、特定の標的抗原上の特異的エピトープに対する免疫反応性を示す。多重特異性抗体は、名前が示す通り、潜在的に対象とする異なる標的抗原上の複数のエピトープを認識し、これらと結合するように操作された抗体である。
従来の天然抗体は典型的に、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の組合わせを含み、ここで分子の抗原結合特性は重鎖及び軽鎖、すなわちそれぞれVH及びVLドメインの可変領域又は可変ドメインによって決定される。より具体的には、従来の抗体の抗原結合部位は典型的に、VH及びVLドメインの各々の中の3つの相補性決定領域(CDR)による寄与を受ける残基を含む。
多重特異性抗体は典型的に、複数のエピトープを認識し、これらに結合することができるような、複数のVH-VLドメインのペアリングを組み込むという点で、天然抗体とは異なる。これらの抗体は商業上、複数の標的抗原と結合することができるため、きわめて重要である。しかしながら、同じ抗体分子に組み込まれる異なる重鎖及び軽鎖の間のミスペアリングが原因で、多重特異性抗体の製造及び単離には著しい困難が存在する。これらのミスペアリングにより単一特異性抗体又は非機能性若しくは非生産性の抗原結合部位を有する抗体が意図せず産生される可能性があり、それにより対象とする多重特異性抗体の収量が低下する。
図1は、2つの異なるエピトープに対し免疫反応性を示す二重特異性抗体の生産において生じ得る困難を図解する。(A)に示す二重特異性抗体は、2つの異なる重鎖及び2つの異なる軽鎖を含む。しかしながら、これら4つの免疫グロブリン鎖の適切なペアリングのみが、所望の結合プロファイル、すなわち両方の標的抗原に対する特異性を有する抗体を生じさせる。実際、示されている4つの重鎖及び軽鎖の混合物から形成され得る他の9つの起こり得る組合わせが存在し、その結果二価の単一特異性抗体(E及びH)、一価の単一特異性抗体(B、C、G、及びJ)、並びに非結合性抗体(D、F、及びI)を生じる。この問題は、多重特異性抗体分子がより複雑になるほど、すなわち抗体が結合することを意図されたエピトープ又は抗原がより多くなるほど、深刻になる。
不適切な鎖ペアリングの問題に対処することにより、多重特異性抗体の生産を改善するための様々な試みが行われている。いくつかのアプローチでは、抗体を操作してVH-VLドメイン間の正しいペアリングを促進することに焦点を当てている。例えば、米国特許出願第2010/0254989 A1号には、個別の抗体のVH及びVLをGlySerリンカーを介して遺伝学的に融合させた、二重特異性のcMet-ErbB1抗体の構築が記載されている。別のアプローチでは、二重特異性抗体を作製するためにラット-マウスのクアドローマが使用され、ここでマウス及びラットの抗体は主に元のVH-VLペアリングを形成し、二重特異性抗体はラット及びマウスのFcからなる(Lindhoferらの文献、J Immunol(1995)155:1246-1252)。
また、Fcドメインを含む二重特異性抗体について研究者らは、重鎖の定常領域に突然変異を導入して、Fc部分の適切なヘテロ二量化を促進することに焦点を当てている。いくつかのそのような技術はKleinらの文献に総説されており(mAbs (2012)4:6、1-11)、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。これらの技術には、抗体重鎖のうち一方のCH3ドメインの1つに、かさ高い残基を導入することを含む「ノブ・イントゥ・ホール」(KiH)アプローチがある。このかさ高い残基は、ペアリングされた重鎖の他方のCH3ドメインにおける相補的な「ホール」に篏合して、重鎖の適切なペアリングを促進する。
また、研究者らは重鎖及び軽鎖のペアを適切に会合させることに関する問題も解決しようと試みている。1つのアプローチでは、適切なペアリングの形成を促進するように、重鎖及び軽鎖の間のドメイン交換を含む、CrossMab原理(Kleinらの文献に総説されている)を使用する。他の研究者らは、重鎖及び軽鎖のペアリングされたVH-VLドメイン又はペアリングされたCH1-CLドメインの間の接触面を操作して、重鎖及びその同系の軽鎖間の親和性を高めることを追求した(Lewisらの文献、Nature Biotechnology (2014)32:191-198)。広範囲にわたる抗体工学を必要とする上記技術のような技術は、ある程度の成功を収めている;しかしながら、特定の突然変異を有する抗体の生産は労働集約的であり、かつヒトにおける免疫原性が高く、かつ/又はエフェクター機能の喪失という問題を抱える抗体をもたらし得る。
適切な抗原特異性を有する多重特異性抗体調製物の生産に対する別のアプローチは、適切な重鎖-軽鎖ペアリングを有する抗体を濃縮する方法の開発である。例えば、 Spiessらの文献(Nature Biotechnology (2013)31:753-758)には、2つの異なる半抗体を発現する細菌の共培養物から、MET-EGFR二重特異性抗体を生産する方法が記載されている。
また、二重特異性抗体の少なくとも1つの重鎖の定常領域を突然変異させて、アフィニティー物質、例えばプロテインAに対するその結合親和性を変化させる方法が記載されている。これにより、2つの重鎖のアフィニティー物質との差次的結合を利用する精製技術に基づいて、適切にペアリングされた重鎖ヘテロ二量体を単離することが可能となる(米国特許出願公開第2010/0331527号及びWO 2013/136186を参照されたい)。差次的結合に基づいて適切な重鎖ヘテロ二量体化を選択する方法の制約は、これらの方法が適切な重鎖-軽鎖ペアリングを有する抗体を選択せず、これらの技術が典型的に共有の又は共通の軽鎖を有する多重特異性抗体に適用されることである。
国際特許出願第PCT/EP2012/071866(WO 2013-064701)は、抗イディオタイプ結合性物質、特に抗イディオタイプ抗体の使用に基づき多重特異性抗体を単離するための方法を使用して、不適切な鎖ペアリングの問題に取り組む。抗イディオタイプ結合性物質は、2工程選択法で利用する。該方法では、第1の物質を使用して第1の抗原に特異的なVH-VLドメインペアリングを有する抗体を捕捉し、続いて第2の物質を使用して第2の抗原に特異的な第2のVH-VLドメインペアリングも有する抗体を捕捉する。
この方法の欠点は、抗体の単離に使用される抗イディオタイプ結合性物質が、その抗原結合プロファイルに応じて生産される各多重特異性抗体に特異的でなくてはならないことである。従って、PCT/EP2012/071866に記載されている方法の原理は一般的に任意の多重特異性抗体の単離に適用可能であるが、試薬、すなわち抗イディオタイプ結合性物質は、単離すべき多重特異性抗体の特定のVH-VLドメインペアリングに従って生産しなくてはならない。
(発明の概要)
本発明は、少なくとも1つの従来のFab結合領域及び1つの単一ドメイン抗体(VHH)結合領域を有する多重特異性抗原結合コンストラクトを提供することにより、最先端の技術を改良する。このフォーマットはヘテロ二量体化方法との組合わせにより、強制的に1つの二重特異性抗体の構成を生成させる。利用されているヘテロ二量化方法は、強制的にFabの重鎖領域及び重鎖のみの完全なVHHを結合させる。VHH鎖は軽鎖と会合しないため、Fab部分の軽鎖領域はその対応する重鎖とのみ会合する。
本発明は、サイズに基づいて望まない抗体から精製され得る所望の多重特異性抗原結合コンストラクト、例えば二重特異性抗体を提供することにより、最先端の技術をさらに改良する。所望の多重特異性抗原結合コンストラクトのサイズは約112 kDaであり、一方望まない抗体のサイズは約150 kDa及び/又は75 kDa である。
第一の態様において、本発明は、二重特異性抗原結合コンストラクトであって:
(a) 第1の標的抗原と結合する、第1のIgG Fc ドメインポリペプチドと動作可能に連結された単一ドメイン抗体(VHH)結合領域;及び
(b) 第2の標的抗原と結合する、第2のIgG Fcドメインポリペプチドと動作可能に連結された従来のIgG抗体のFab部分を含み、該第1及び第2のIgG Fcドメインポリペプチドが、二量体化して該二重特異性抗原結合コンストラクトを形成する、前記二重特異性抗原結合コンストラクトを提供する。
一実施態様において、 Fcドメインの二量体化は、ノブ・イントゥ・ホール相互作用、 Fabアーム交換(FAE)、静電的誘導(electrostatic steering)相互作用、又は疎水性相互作用によって起こる。
一実施態様において、第1のIgG Fcドメインポリペプチドはノブ置換を含み、第2のIgG Fcドメインポリペプチドはホール置換を含む。
一実施態様において、ノブ置換は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、及びそれらの任意の組合わせからなる群から選択される。
一実施態様において、ホール置換がアラニン(A)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、グリシン(G)、セリン(S)、スレオニン(T)、バリン(V)、及びそれらの任意の組合わせからなる群から選択される。
一実施態様において、二重特異性抗原結合コンストラクトは、約100 kDa〜約120 kDaの範囲の分子量を有する。
一実施態様において、所望の二重特異性抗原結合コンストラクトは、約112 kDaである。
別の態様において、本発明は二重特異性抗原結合コンストラクトを精製する方法であって:
(a) 異なるサイズの抗原結合コンストラクトを含む、混合抗原結合コンストラクト組成物を提供する工程;並びに
(b) サイズに基づいて混合抗原結合コンストラクト組成物を分離する工程であって、
所望の二重特異性抗原結合コンストラクトが、
(i) 第1の標的抗原と結合する、第1のIgG Fcドメインポリペプチドと動作可能に連結された単一ドメイン抗体(VHH)結合領域;及び
(ii) 第2の標的抗原と結合する、第2のIgG Fcドメインポリペプチドと動作可能に連結された従来のIgG抗体のFab部分を含み、該第1及び第2のIgG Fcドメインポリペプチドが、二量体化して該二重特異性抗原結合コンストラクトを形成する、前記工程、を含む、前記方法を提供する。
一実施態様において、サイズに基づく分離は、サイズ排除クロマトグラフィーを含む。
一実施態様において、混合抗原結合コンストラクト組成物を、最初にプロテインA-、プロテインG-、プロテインL-、又はCH1-選択的クロマトグラフィーによって精製する。
別の態様において、本発明は他の抗原結合コンストラクトの混合物中の所望の二重特異性抗原結合コンストラクトの量を決定する方法であって:
(a) 異なるサイズの抗原結合コンストラクトを含む、混合抗原結合コンストラクト組成物を提供する工程;並びに
(b) サイズに基づいて混合抗原結合コンストラクト組成物を分離する工程であって、
所望の抗原結合コンストラクトが、
(i) 第1の標的抗原と結合する、第1のIgG Fcドメインポリペプチドと動作可能に連結された単一ドメイン抗体(VHH)結合領域;及び
(ii) 第2の標的抗原と結合する、第2のIgG Fcドメインポリペプチドと動作可能に連結された従来のIgG抗体のFab部分を含み、該第1及び第2のIgG Fcドメインポリペプチドが、二量体化して該二重特異性抗原結合コンストラクトを形成する、前記工程、を含む、前記方法を提供する。
一実施態様において、サイズに基づく単離は、ゲル電気泳動を含む。
一実施態様において、所望の二重特異性抗原結合コンストラクトは、約100〜約120 kDaである。
一実施態様において、所望の二重特異性抗原結合コンストラクトは、約112 kDaである。
一実施態様において、他の抗原結合コンストラクトは約75 kDa又は約150 kDaである。
(図面の簡単な説明)
2つの異なる重鎖及び2つの異なる軽鎖を有する二重特異性抗体の生産から生じ得る、重鎖及び軽鎖の組合わせの10種の異なるペアリング((A)-(J))を示す。 図2A-2Cは、抗原結合コンストラクトの模式図を示す。図2Aは、従来の抗体の模式図を示す。図2Bは、VHHドメインの模式図を示す。図2Cは、本発明のFabドメイン/VHH二重特異性抗体の模式図を示す。 両方のFc部分にノブ・イントゥ・ホールFc突然変異及びFcデッドアグリコシル化N297A突然変異を有する二重特異性抗体の抗原結合コンストラクトの模式図を示す。従来のFab部分にホール突然変異を含み、VHH部分にノブT366W突然変異を含む。 代表的なIgG2 Fc領域のアミノ酸配列のアラインメントを示す。配列は以下のとおりである:mIgG2aHole、配列番号:32; mIgG2aKnob、配列番号:33; mFcFusionIgG2aHole、配列番号:34; mFcFusionIgG2aKnob、配列番号:35; 及びpUPEX36-mIgG2.P9、配列番号:36。 図5A-5Bは、抗原結合コンストラクトのクマシー・ブリリアント・ブルー染色を伴うSDS-PAGEを示す。染色したゲルは、非還元試料及び還元試料について示す。図5Aは、標的A及び標的Bに対する抗原結合コンストラクトのSDS-PAGEを示す。図5Bは、標的C及び標的Dに対する抗原結合コンストラクトのSDS-PAGEを示す。 図6A-6Cは、それぞれ抗原結合コンストラクトVHH2H3-mFc_Hole+4R36B7mIgG _Knob 、VHH3H2-mFc_Hole+4R36B7mIgG_Knob、及びVHH3H2-mFc_Hole単独のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)データを示す。 図7A-7Dは、Biacore(SPR)により測定した、抗原結合コンストラクトの(図7A)固定化標的抗原B、(図7B)固定化標的A、(図7C)PBS、及び(図7D)アイソタイプ対照との結合親和性を示す。 図8A-8Cは、抗原結合コンストラクトの(図8A)標的A、(図8B)標的B、及び(図8C)標的A-標的B複合体との結合の動力学を示す。
(発明の詳細な説明)
(A. 定義)
「抗体」又は「免疫グロブリン」―本明細書で使用する「免疫グロブリン」という用語は、任意の関連する特異的免疫反応性を有するか否かにかかわらず、2つの重鎖及び2つの軽鎖の組合わせを有するポリペプチドを含む。「抗体」とは、対象とする抗原(例えば、ヒト抗原)に対する顕著な既知の特異的免疫反応活性を有するような会合体を指す。特定のヒト抗原に対する「特異性」は、その抗原の種ホモログとの交差反応性を除外しない。抗体及び免疫グロブリンは、軽鎖及び重鎖を含み、それらの間の共有結合性鎖間架橋の有無は問わない。脊椎動物系の基本的な免疫グロブリン構造は、比較的よく理解されている。
一般用語「免疫グロブリン」は、生化学的に識別可能な5つの異なるクラスの抗体を含む。5つのクラスの抗体は全て、本発明の範囲内にあり、以下の議論では一般的に免疫グロブリン分子のIgGクラスを対象とする。IgGに関しては、免疫グロブリンは分子量およそ23,000ダルトンの2つの同一の軽鎖ポリペプチド及び分子量 53,000〜70,000の2つの同一の重鎖を含む。4つの鎖は、ジスルフィド結合によってY字の構成に連結される。該Y字の構成では、軽鎖がY字の口から出発して、可変領域を通るように続く重鎖を下支えする(bracket)。
抗体の軽鎖は、カッパ又はラムダ(κ、λ)に分類される。各クラスの重鎖は、κ又はλ軽鎖のいずれかと結合し得る。一般的に、軽鎖及び重鎖は互いに共有結合され、免疫グロブリンがハイブリドーマ、B細胞、又は遺伝子操作された宿主細胞のいずれかによって作製される場合、二つの重鎖の「尾」部分は、共有結合性ジスルフィド結合又は非共有結合によって互いに結合される。重鎖では、アミノ酸配列はY字構成の分岐端にあるN末端から各鎖の底にあるC末端まで走行する。当業者であれば、重鎖がガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、又はイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)に分類され、それらの間でいくつかのサブクラスがある(例えば:γ1-γ4)ことを認識されよう。それは、抗体の「クラス」をIgG、IgM、IgA IgG、又はIgEとしてそれぞれ決定するこの鎖の性質である。免疫グロブリンのサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4 、IgA1など)はよく特徴づけられ、機能的特殊化を付与することが知られている。これらの各クラス及びアイソタイプの改変形態は、当業者であれば簡単な開示に照らして容易に認識でき、従って本発明の範囲内にある。
上記のように、抗体の可変領域により、抗体は抗原上のエピトープを選択的に認識し、かつこれと特異的に結合することが可能となる。すなわち、抗体のVLドメイン及びVHドメインが組み合わされ、3次元抗原結合部位を画定する可変領域が形成される。この4鎖抗体構造は、Y字の各アームの末端に存在する抗原結合部位を形成する。より具体的には、抗原結合部位は、各VH及びVL鎖上の3つの相補性決定領域(CDR)によって画定される。
「単離抗体」―本明細書で使用する「単離抗体」とは、その天然環境の成分から分離され、かつ/又は回収された抗体である。その天然環境の夾雑的成分とは、抗体の診断又は治療上の使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及びその他のタンパク質性又は非タンパク質性成分を含み得る。抗体の天然環境の少なくとも1つの成分が存在しないため、単離抗体は組換え細胞中の本来の位置に存在する(in situ)抗体を含む。しかしながら、通常単離抗体は少なくとも1つの精製工程で調製する。
「親和性バリアント」―本明細書で使用する「親和性バリアント」という用語は、参照抗体と比較して、アミノ酸配列の1以上の変化を示すバリアント抗体を指す。親和性バリアントは、参照抗体と比較してタンパク質に対する親和性の変化を示す。典型的に、親和性バリアントは、参照抗体と比較して、タンパク質の親和性の改善を示す。この改善は、KDの低下、オフ速度の向上、又はタンパク質の非ヒトホモログとの交差反応パターンの変化であり得る。親和性バリアントは典型的に、参照抗体と比較して、CDRのアミノ酸配列に1つ以上の変化を示す。そのような置換により、CDR中の所与の位置に存在する元のアミノ酸が、天然のアミノ酸残基又は天然に出現しないアミノ酸残基とし得る異なるアミノ酸残基に置換され得る。アミノ酸の置換は、保存的又は非保存的とし得る。
「結合部位」―本明細書で使用する「結合部位」という用語は、対象とする標的抗原(例えば、ヒト抗原)との選択的結合を担うポリペプチドの領域を含む。結合ドメインは、少なくとも1つの結合部位を含む。例示的な結合ドメインには、抗体可変ドメインがある。本発明の抗体分子は、複数(例えば、2、3、4つ)の結合部位を含み得る。
「ラクダ科動物由来」―ある好ましい実施態様において、本発明の抗原結合コンストラクトは、ラクダ科動物の能動的免疫化によって生産されたラクダ科動物の従来型抗体に由来する、フレームワークアミノ酸配列及び/又はCDRアミノ酸配列を含む。しかしながら、ラクダ科動物由来のアミノ酸配列を含む本発明の抗体は、ヒトアミノ酸配列(すなわち、ヒト抗体)又はその他の非ラクダ科哺乳動物種由来のフレームワーク及び/又は定常領域配列を含むように操作し得る。例えば、ヒト又は非ヒト霊長類フレームワーク領域、重鎖部分、及び/又はヒンジ部分を、本件抗体に含めることができる。一実施態様において、1以上の非ラクダ科アミノ酸が「ラクダ科由来」抗体のフレームワーク領域に存在し得る。例えば、ラクダ科動物フレームワークのアミノ酸配列は、対応するヒト又は非ヒト霊長類アミノ酸残基が存在する1以上のアミノ酸突然変異を含み得る。さらに、ラクダ科動物由来のVH及びVLドメイン、又はそれらのヒト化バリアントをヒト抗体の定常ドメインに結合させて、キメラ分子を生成することができる。
「保存的アミノ酸置換」―「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基を類似した側鎖を有するアミノ酸残基に置換するものである。類似した側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当技術分野で定義されており、該ファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)がある。従って、免疫グロブリンポリペプチド中の非必須アミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーの別のアミノ酸残基に置換されることができる。
「エピトープ」―「エピトープ」という用語は、抗体又は抗体断片が結合するペプチド又はタンパク質上に位置するアミノ酸の特定の配列を指す。エピトープは、アミノ酸又は糖側鎖などの化学的に活性な表面分子群からなることが多く、特定の3次元構造特性並びに特定の電荷特性を有する。エピトープは、直線状とし、すなわちアミノ酸の単一配列との結合に関与し、又はコンフォメーショナルとし、すなわち抗原の必ずしも連続していなくてもよい様々な領域にある2以上のアミノ酸配列との結合に関与し得る。
「重鎖部分」―本明細書で使用する「重鎖部分」という用語は、免疫グロブリン重鎖の定常ドメイン由来のアミノ酸配列を含む。重鎖部分を含むポリペプチドは:CH1ドメイン、ヒンジ(例えば、上部、中央、及び/又は下部ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はそれらのバリアント若しくは断片の少なくとも1つを含む。一実施態様において、本発明の結合性分子は免疫グロブリン重鎖のFc部分(例えば、ヒンジ部分、CH2ドメイン、及びCH3ドメイン)を含み得る。別の実施態様において、本発明の結合性分子は定常ドメインの少なくとも一部(例えば、CH2ドメインの全て又は部分)を欠いている。ある実施形態において、少なくとも1つ、好ましくは全ての定常ドメインは、ヒト免疫グロブリン重鎖に由来する。例えば、好ましい一実施態様において、重鎖部分は完全なヒトヒンジドメインを含む。他の好ましい実施態様において、重鎖部分は完全ヒトFc部分(例えば、ヒト免疫グロブリン由来のヒンジ、CH2、及びCH3ドメイン配列)を含む。
ある実施形態において、重鎖部分の構成定常ドメインは、異なる免疫グロブリン分子に由来する。例えば、ポリペプチドの重鎖部分は、IgG1分子に由来するCH2ドメイン及びIgG3又はIgG4分子に由来するヒンジ領域を含み得る。他の実施態様において、定常ドメインは異なる免疫グロブリン分子の部分を含むキメラドメインである。例えば、ヒンジはIgG1分子由来の第1の部分及びIgG3又はIgG4分子由来の第2の部分を含み得る。上述のように、当業者であれば、重鎖部分の定常ドメインは、天然の(野生型)免疫グロブリン分子由来のアミノ酸配列が変化するように改変することができることを理解されよう。すなわち、本明細書中に開示される本発明のポリペプチドは、1以上の重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2、又はCH3)及び/又は軽鎖定常ドメイン(CL)に対する変更又は改変を含み得る。例示的な改変には、1以上のドメイン中の1以上のアミノ酸の付加、欠失、又は置換がある。
「可変領域」又は「可変ドメイン」―「可変」という用語は、可変ドメインVH及びVLの特定の部分が抗体間で配列が広範囲に異なっており、その標的抗原に対する各特定の抗体の結合及び特異性に使用されるという事実を指す。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインの全体に均一に分布しているのではない。可変性は、 抗原結合部位の部分を形成するVLドメイン及び VH ドメインの各々において、「超可変ループ」と呼ばれる3つのセグメントに集中している。Vλ軽鎖ドメインの第1、第2、及び第3の超可変ループを本明細書においてL1(λ)、L2(λ)、及びL3(λ)と呼び、VLドメイン中の残基 24-33(L1(λ)、9、10、又は11アミノ酸残基からなる)、49-53(L2(λ)、3残基からなる)、及び90-96(L3(λ)、5残基からなる )を含むものとして定義され得る(Moreaらの文献、Method 20:267-279(2000))。Vκ軽鎖ドメインの第1、第2、及び第3の超可変ループを本明細書においてL1(κ)、L2(κ)、及びL3(κ)と呼び、VLドメイン中の残基25-33(L1(κ)、6、7、8、11、12、又は13残基からなる)、49-53(L2(κ)、3残基からなる)、及び90-97(L3(κ)、6残基からなる )を含むものとして定義され得る(Moreaらの文献、Method 20:267-279(2000))。VHドメインの第1、第2、及び第3の超可変ループを本明細書においてH1、H2、H3と呼び、VHドメイン中の残基25-33(H1、7、8、又は9残基からなる)、52-56(H2、3又は4残基からなる)、及び91-105(H3、長さについて高度に可変性である)を含むものとして定義され得る(Moreaらの文献、Method 20:267-279(2000))。
別途示されない限り、L1、L2、L3という用語はそれぞれVLドメインの第1、第2、及び第3の超可変ループを指し、Vκ及びVλアイソタイプの両方から得た超可変ループを包含する。H1、H2、H3という用語はそれぞれVHドメインの第1、第2、及び第3の超可変ループを指し、γ、ε、δ、α、又はμ を含む既知の重鎖アイソタイプのいずれかから得た超可変ループを包含する。
超可変ループL1、L2、L3、H1、H2、及びH3は、各々以下に定義する「相補性決定領域」すなわち「CDR」の部分を含み得る。「超可変ループ」及び「相補性決定領域」という用語は厳密に同義ではない。それは、超可変ループ(HV)が構造に基づいて定義されているのに対し、相補性決定領域(CDR)は配列の可変性に基づいて定義されており(Kabatらの文献、免疫学の対象となるタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)、第5版、Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD., 1983)、かつHV及びCDRの制約は、一部のVH及びVLドメインにおいて異なり得るためである。
VL及びVHドメインのCDRは典型的に、以下のアミノ酸を含むものとして定義することができる:軽鎖可変ドメイン中の残基24-34(CDRL1)、50-56(CDRL2)、及び89-97(CDRL3)、並びに重鎖可変ドメイン中の残基31-35又は31-35b(CDRH1)、50-65(CDRH2)、及び95-102(CDRH3)(Kabatらの文献、「免疫学の対象となるタンパク質の配列」, 第5版、Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))。従って、HVは対応するCDR中に含まれ、別途示されない限り、本明細書におけるVH及びVLドメインの「超可変ループ」への言及は、対応するCDRも包含し、その逆も同様であるものと解釈すべきである。
可変ドメインのより高度に保存された部分は、以下に定義するフレームワーク領域(FR)と呼ぶ。ネイティブの重鎖及び軽鎖の可変ドメインは各々4つのFR(それぞれFR1、FR2、FR3、及びFR4)を含み、主に3つの超可変ループで接続されたβシート構成を採用する。各鎖の超可変ループは FRによってともに近接して保持され、他の鎖からの超可変ループとともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。抗体の構造解析により、相補性決定領域によって形成される結合部位の配列及び形状の間の関係が明らかとなった(Chothiaらの文献、J. Mol Biol. 227:799-817 (1992)); Tramontanoらの文献、J. Mol. Biol, 215:175-182 (1990)))。その配列の可変性が高いにもかかわらず、6つのループのうち5つは、「カノニカル構造」と呼ばれるレパートリーがわずか少数である主鎖のコンフォメーションを採用する。これらのコンフォメーションは、まず第1に、ループの長さによって決定され、第2に、その充填、水素結合、又は異常な主鎖コンフォメーションを仮定する能力を通じてコンフォメーションを決定するループ及びフレームワーク領域中の特定の位置に鍵となる残基が存在することによって決定される。
「CDR」―本明細書で使用する「CDR」又は「相補性決定領域」という用語は、重鎖及び軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域中に見出される不連続抗原結合部位を意味する。これらの特定の領域は、Kabatらの文献、J. Biol. Chem. 252, 6609-6616 (1977)及びKabatらの文献、「免疫学の対象となるタンパク質の配列」(1991)、及びChothiaらの文献、J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987) 及びMacCallumらの文献、J. Mol. Biol. 262:732-745 (1996) に記載されている。これらの文献を互いに比較すると、定義には重複するアミノ酸残基、又はアミノ酸残基のサブセットが含まれる。上記の各引用文献で定義されるCDRを包含するアミノ酸残基を比較のために記載する。好ましくは「CDR」という用語は、配列の比較に基づいてKabatによって定義されたCDRである。
表1:CDRの定義
Figure 2021506310
1残基付番は、Kabatらの文献、上掲の命名法に従う。
2残基付番は、Chothiaらの文献、上掲の命名法に従う。
3残基付番は、MacCallumらの文献、上掲の命名法に従う。
VHHドメインのアミノ酸残基には、Kabatらの文献によって与えられたVHドメインの一般的な付番に従って番号付ける。VHドメイン及びVHHドメインについて当技術分野で周知されているように、各CDR中のアミノ酸残基の総数は変化する場合があり、Kabat付番によって示されるアミノ酸残基の総数とは一致しない場合がある(すなわち、Kabat付番による1以上の位置が実際の配列において占有されない場合があり、又は実際の配列には、Kabat付番により許容されている数よりも多くのアミノ酸残基が含まれる場合がある)ことに留意されたい。このことは一般的に、Kabatによる付番は、実際の配列におけるアミノ酸残基の実際の付番に対応している場合も、対応していない場合もあることを意味する。VHHドメイン付番の詳細については、本明細書中に参照により組み込まれている、米国特許第8,703,131号に記載されている。
「フレームワーク領域」―本明細書で使用する「フレームワーク領域」又は「FR領域」という用語は、変数領域の部分であるが、CDRの部分ではないアミノ酸残基を含む(例えば、CDRのKabat定義を使用する)。従って、可変領域フレームワークの長さは約100〜120アミノ酸であるが、CDRの外側にあるアミノ酸のみを含む。重鎖可変領域の具体例及びKabatらの文献で定義されているCDRについて、フレームワーク領域1はアミノ酸1-30を包含する可変領域のドメインに対応し;フレームワーク領域2は、アミノ酸36-49を包含する可変領域のドメインに対応し;フレームワーク領域3はアミノ酸66-94を包含する可変領域のドメインに対応し、かつフレームワーク領域4はアミノ酸 103から可変領域の末端までの可変領域のドメインに対応する。軽鎖のフレームワーク領域は、各軽鎖可変領域CDRによって同様に区分される。同様に、 Chothiaらの文献又は McCallumらの文献によるCDRの定義を使用して、フレームワーク領域の境界は上記のように、それぞれのCDRの終端によって区分される。好ましい実施態様において、CDRはKabatによって定義される。
天然抗体では、各単量体抗体上に存在する6つのCDRは、抗体が水性環境でその3次元構成を呈する際に特定の配置をとって抗原結合部位を形成する短い不連続のアミノ酸配列である。重可変ドメイン及び軽可変ドメインの残りの部分は、アミノ酸配列において示す分子間の可変性がより小さく、かつフレームワーク領域と命名される。フレームワーク領域は概してβシートコンフォメーションを採用し、CDRはループを形成して、βシート構造と接続し、かついくつかの事例ではその部分を形成する。従って、これらのフレームワーク領域は、鎖間の非共有結合性相互作用によって6つのCDRの適切な方向への配置を提供するスキャフォールドを形成するように作用する。配置されたCDRによって形成される抗原結合部位は、免疫反応性抗原上のエピトープに相補的な表面を画定する。この相補的な表面により、免疫反応性抗原エピトープに対する抗体の非共有結合が促進される。CDRの位置は、当業者であれば容易に特定できる。
「ヒンジ領域」―本明細書で使用する「ヒンジ領域」という用語は、CH1ドメインをCH2ドメインに結合する重鎖分子の部分を含む。このヒンジ領域はおよそ25残基を含み、かつ柔軟性があるため、2つのN末端抗原結合領域は独立して運動することができる。ヒンジ領域は、3つの異なるドメイン:上部、中央、及び下部ヒンジドメイン(Rouxらの文献、J. Immunol 161:4083 (1998))に細分することができる。「完全ヒト」ヒンジ領域を含む抗体は、以下の表2に示すヒンジ領域配列の1つを含み得る。
表2:ヒトのヒンジ配列
Figure 2021506310
「断片」―「断片」という用語は、インタクトな、又は完全な抗体又は抗体鎖よりも少ないアミノ酸残基を含む抗体又は抗体鎖の一部又は部分を指す。「抗原結合断片」という用語は、抗原を結合させ、又は抗原結合(すなわち、ヒト抗原との特異的結合)のためにインタクトな抗体と(すなわち、それらが由来するインタクトな抗体と)競合する免疫グロブリン又は抗体のポリペプチド断片を指す。本明細書で使用する抗体分子の「断片」という用語は、抗体の抗原結合断片、例えば抗体軽鎖(VL)、抗体重鎖(VH)、単鎖抗体(ScFv)、F(ab’)2断片、Fab断片、Fd断片、Fv断片、及び単一ドメイン抗体断片(DAb)を含む。断片は、例えばインタクトな若しくは完全な抗体若しくは抗体鎖の化学的若しくは酵素的処理、又は組換え手段によって取得できる。
「特異性」―「特異性」という用語は、所与の標的抗原、例えばヒト標的抗原を特異的に結合する能力(例えば、該標的抗原との免疫反応性)を指す。抗体若しくはその抗原結合断片は単一特異的であり、かつ標的と特異的に結合する1以上の結合部位を含み、又は抗体若しくはその抗原結合断片が多重特異性であり、かつ同じ若しくは異なる標的と特異的に結合する2以上の結合部位を含み得る。ある実施形態において、本発明の抗原結合コンストラクトは複数の標的抗原に特異的である。ある実施態様において、本発明の抗原結合コンストラクトは2つの標的抗原に特異的である。ある実施形態において、本発明の抗原結合コンストラクトは複数のヒト標的抗原に特異的である。ある実施形態において、本発明の抗原結合コンストラクトは2つのヒト標的抗原に特異的である。例えば、一実施態様において、本発明の二重特異性結合分子は標的抗原A(標的A)及び標的抗原B(標的B)と結合する。別の例として、一実施態様において、本発明の二重特異性結合分子は標的抗原C(標的C)及び標的抗原D(標的D)と結合する。
「合成」―本明細書で使用する、ポリペプチドに関する「合成」という用語は、天然に出現しないアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。例えば、天然のポリペプチドの形態を改変した(例えば、付加、置換、若しくは欠失などの突然変異を含む)、又はアミノ酸の直線的な配列において、性質上天然には結合しない第2のアミノ酸配列(天然の場合でも、そうでない場合でもよい)と結合する第1のアミノ酸配列(天然の場合でも、そうでない場合でもよい)を含む、天然に出現しないポリペプチド。
「操作された」―本明細書で使用する「工学的」という用語は、合成手段による(例えば、組換え技術による、インビトロペプチド合成による、ペプチドの酵素的又は化学的カップリングによる、又はいくつかのこれらの技術の組み合わせによる)核酸又はポリペプチド分子の操作を含む。好ましくは、本発明の抗原結合コンストラクトは、例えばヒト化抗体及び/又はキメラ抗体、並びに抗原結合性、安定性/半減期、又はエフェクター機能などの1以上の特性を改善するように操作された抗体を含むように操作する。
「Fc領域」―本明細書で使用する「Fc領域」という用語は、その2つの重鎖のFcドメインによって形成されるネイティブな免疫グロブリンの部分を指す。ネイティブなFc領域はホモ二量体である。本明細書で使用する「バリアントFc領域」という用語は、ネイティブFc領域に対して1以上の変更を有するFc領域を指す。Fc領域は、アミノ酸の置換、付加、及び/又は欠失、付加部分の結合、及び/又はネイティブなグリカンの変更によって変更し得る。この用語は、構成するFcドメインが各々異なるFc領域を包含する。ヘテロ二量体Fc領域の例には、限定することなく、例えば米国特許第8,216,805号に記載される「ノブ・イントゥ・ホール」技術を使用して 作製されるFc領域がある。また、この用語は構成するFcドメインが例えば米国特許出願公開第2009/0252729 A1号及びUS 2011/0081345 A1号に記載のリンカー成分によってともに結合されている、単鎖Fc領域を包含する。別途言及されない限り、全ての抗体定常領域の付番は、Edelmanらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 63(1):78-85 (1969)に記載されているEU付番スキームを指す。
「ヒト化置換」―本明細書で使用する「ヒト化置換」という用語は、VH又はVLドメイン抗体中の特定の位置に存在するアミノ酸残基(例えば、ラクダ科動物由来抗体)を参照ヒトVH又はVLドメイン中の等価な位置に出現するアミノ酸残基で置換するアミノ酸置換を指す。参照ヒトVH又はVLドメインは、ヒト生殖細胞系列によってコードされたVH又はVLドメインとし得る。ヒト化置換は、本明細書で定義する抗体のフレームワーク領域及び/又はCDR中に加えることができる。
「ヒト化抗体又はバリアント」―本明細書で使用する「ヒト化抗体」又は「ヒト化バリアント」という用語は、参照抗体と比較して1以上の「ヒト化置換」を含むバリアント抗体を指し、参照抗体の部分 (例えば、VHドメイン及び/又はVLドメイン又は少なくとも1つのCDR を含む、それらの一部)は非ヒト種に由来するアミノ酸を有し、かつ「ヒト化置換」は非ヒト種に由来するアミノ酸配列中に出現する。
「重鎖のみの抗体」又は「VHH抗体」―本明細書で使用する「重鎖のみの抗体」又は「VHH抗体」という用語は、ラクダ、リャマ、アルパカを含むラクダ科の種によってのみ生産される第2の種類の抗体を指す。重鎖のみの抗体は、2つの重鎖から構成され、軽鎖を欠く。各重鎖はN末端に可変ドメインを有し、これらの可変ドメインは、従来型のヘテロ四量体抗体の重鎖、すなわち先に記載のVHドメインの可変ドメインと区別するために、「VHH」ドメインと呼ぶ。
「改変抗体」―本明細書で使用する「改変抗体」という用語は、天然には出現しないように改変された抗体の合成形態、例えば少なくとも2つの重鎖部分を含むが、2つの完全な重鎖部分を含まない抗体(例えば、ドメイン欠失抗体又はミニボディ);2以上の異なる抗原又は単一抗原上の異なるエピトープと結合するように改変された多重特異性形態の抗体(例えば、二重特異性、三重特異性など);ScFv分子と結合した重鎖分子などを含む。ScFv分子は当技術分野で公知であり、例えば米国特許第5,892,019号に記載されている。さらに、「改変抗体」という用語は、多価形態の抗体(例えば、三価、四価など、同じ抗原の3以上のコピーと結合する抗体)を含む。別の実施態様において、本発明の改変抗体は、CH2ドメインを有さずに受容体リガンドペアの1つのメンバーの結合部分を含むポリペプチドの結合ドメインを含む、少なくとも1つの重鎖部分を含む融合タンパク質である。
また、本明細書中の「改変抗体」という用語を使用して、抗体のアミノ酸配列バリアントを指してもよい。当業者であれば、抗体を改変して、その抗体の由来となる抗体と比較してアミノ酸配列が変化するバリアント抗体を生産することができることを理解されよう。例えば、「非必須」アミノ酸残基での保存的置換又は変更を引き起こすヌクレオチド又はアミノ酸の置換を加えることができる(例えば、CDR及び/又はフレームワーク残基)。アミノ酸置換は、1以上のアミノ酸の天然の又は非天然のアミノ酸による置換を含み得る。
「標的A」―本明細書で使用する「標的A」又は「標的抗原A」という用語は、本発明の抗体の従来のFabを含む部分が特異的に結合する標的抗原を指す。
「標的B」―本明細書で使用する「標的B」又は「標的抗原B」という用語は、 本発明の抗体のVHHを含む部分が特異的に結合する標的抗原を指す。標的A及び標的Bは一緒に複合体を形成し得る。ある実施態様において、標的A及び標的Bに対する特異性を有する本発明の二重特異性抗体も、標的A及び標的Bの複合体と結合し得る。
「標的C」―本明細書で使用する「標的C」又は「標的抗原C」という用語は、本発明の抗体の従来のFabを含む部分が特異的に結合する標的抗原を指す。
「標的D」―本明細書で使用する「標的D」又は「標的抗原D」という用語は、 本発明の抗体のVHHを含む部分が特異的に結合する標的抗原を指す。
「抗原結合コンストラクト」―本明細書で使用する「抗原結合コンストラクト」という用語は、IgG Fcドメイン部分に融合された単一ドメイン抗体(VHH)結合領域;従来型IgG抗体の重鎖Fcドメイン部分;及び従来型IgG抗体の軽鎖部分を含む。VHH結合領域は、単一の単量体可変抗体ドメインからなる抗体断片である。VHH結合領域は、特定の第1の抗原と選択的に結合する。従来型IgG抗体の重鎖Fcドメイン部分は、従来型IgG重鎖の可変及び定常ドメインを含む。従来型IgG抗体の軽鎖部分は、従来型IgG軽鎖の可変及び定常ドメインを含む。従来型IgG抗体の重鎖及び軽鎖部分は、特定の第2の抗原と選択的に結合する。
(B. 多重特異性抗原結合コンストラクト)
本発明の多重特異性抗原結合コンストラクトの1つの構成要素は、従来型の抗体の重鎖及び軽鎖、又はそれらの抗原結合断片であり、 ここで本明細書では「従来型の抗体」という用語を使用して、図1に示す「Y字」の構成に従って配置された免疫グロブリン重鎖及び軽鎖を含むヘテロ四量体抗体を記述する。そのような従来型の抗体は、これらに限定はされないが、リャマ、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ハムスター、ニワトリ、サル、又はヒト由来の抗体を含む任意の好適な種に由来し得る。
ある例示的な実施態様において、従来型の抗体は、その全内容が参照により本明細書に組み込まれている米国特許US 8,524,231号に記述され、かつその特許請求の範囲に記載されているSIMPLE抗体である。SIMPLE抗体は、重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)を含むことができ、ここでVH及び/若しくはVLドメイン又はそれらの1以上の相補性決定領域(CDR)は、 ラクダ科の動物に由来する;すなわち、ラクダ科動物(例えば、リャマ)の免疫化により生産された従来型の抗体に由来する。ヒトとの高い相同性を示し、又は少なくとも1つのラクダ科動物由来のCDR配列、VH及び/若しくはVLドメインを有する抗体又は抗原結合断片は、ラクダ科動物の従来型の抗体からのVH又はVLドメインのヒト化又は生殖細胞系列化バリアントであり得る。ここで、「ヒト化」及び「生殖細胞系列化」という用語は、本明細書中の別所に定義する。
ある実施態様において、従来の抗体抗原結合領域は「Fab」(抗原結合断片)と呼ぶことができる。Fab は、各重鎖及び軽鎖からの1つの定常ドメイン及び1つの可変ドメインを含む。可変重鎖及び軽鎖は、抗原結合を担うCDRを含む。従来型の抗体のFab部分は、図2A及び2Cの模式図中に見出される。
本発明の多重特異性抗原結合コンストラクトの別の構成要素は、VHHドメイン又はVHH抗体若しくはナノボディの重鎖を含む。ラクダ科動物由来の重鎖抗体であるVHH抗体は、2つの重鎖から構成され、軽鎖を欠く(Hamers-Castermanらの文献、Nature. 1993; 363; 446-8)。VHH抗体の各重鎖はN末端に可変ドメインを有し、これらの可変ドメインは、従来型の抗体の重鎖の可変ドメイン、すなわちVHドメインと区別するために、当技術分野では「VHH」ドメインと呼ぶ。従来型の抗体と同様に、分子のVHHドメインは抗原結合特異性を付与するため、単離されたVHHドメインなどのVHH抗体又は断片は、本開示の抗原結合コンストラクトの構成要素として好適である。
本開示の多重特異性抗原結合コンストラクトについて、それぞれその選択的標的抗原に特異的な従来型のヘテロ四量体抗体又はVHH抗体は、その抗原を含むポリペプチドを有する宿主種の能動的免疫化によって作製され、又は得ることができる。従来の抗体生産について、宿主種は、以下:マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ハムスター、ニワトリ、サル、又はラクダ科動物種のいずれかから選択され得る。VHH抗体の生産について、リャマ種を含むラクダ科動物からの任意の種を、それぞれの抗原を含むポリペプチドで免疫化することができる。
本発明の例示的な抗原結合コンストラクトを以下に示す。
表3:標的A/標的B抗体についての抗原結合コンストラクト配列。Kabat付番によるHCDR1-HCDR3及びLCDR1-LCDR3を太字とする。
Figure 2021506310
Figure 2021506310
Figure 2021506310
Figure 2021506310
表4:標的C/標的D抗体についての抗原結合コンストラクト配列。
Figure 2021506310
(C. VHH及び従来型の抗体の二量体化)
本発明は、従来型の二重特異性抗体フォーマットに存在する鎖のミスペアリングの問題を克服する。例えば、従来の二重特異性抗体鎖のペアリングでは、最大10種類の異なる抗体種を生じ得る(図1)。異なる10種の起こり得る選択肢のために、所望の二重特異性抗体の収量は一般的に低く、所望の二重特異性抗体を他の抗体の集団から単離することは困難となる。いくつかの例において、特定の所望の構成を強制するヘテロ二量体化法を使用することにより、この問題を部分的に克服することができる。例えば、以下に記載のヘテロ二量体化法は、特定のFcドメインの相互作用を強制し、起こり得る4つの構成のうちの1つをとる(図1(A)〜(D))。しかし残念なことに、これらのヘテロ二量化法では、依然として軽鎖のランダムなペアリングが可能であり、単一の構成を有する二重特異性抗体の均一な生成が妨げられる。
この当技術分野における不完全さを克服するために、本発明の多重特異性抗原結合コンストラクトは、第1の標的抗原と結合する単一のVHH結合領域を含む。この領域では、前記VHH結合領域は第1のIgG Fcドメインポリペプチド及び第2の標的抗原と結合する従来型のIgG抗体のFab部分に動作可能に連結される。前記Fab 部分は第2のIgG Fcドメインポリペプチドと動作可能に連結され、第1及び第2の IgG Fcドメインポリペプチドは二量体化して二重特異性抗原結合コンストラクトを形成する(図2C)。Fab の軽鎖部分は、 Fab の重鎖部分とのみペアリングすることができる。従って、これにより所望の二重特異性構成のみを得ることが保証される。
本発明の態様において、抗原結合コンストラクトの2つのFcドメインは、ノブ・イントゥ・ホールペアリングによってヘテロ二量化される。この二量体化技術では、 CH3ドメインの接触面中に施された突出部(ノブ)及び窪み(ホール)を利用する。好適な位置及び寸法をとるノブ又はホールは第1又は第2のCH3ドメインの接触面に存在し、必要となるのは隣接する接触面に対応するホール又はノブをそれぞれ施すことだけである。これにより、CH3/CH3ドメインの接触面でFcドメインのペアリングが促進及び強化される。VHHに融合されたIgG Fcドメインにはノブが提供され、従来型の抗体のIgG Fcドメインにはノブを収容するように設計されたホールが提供され、逆も同様である。「ノブ」とは、第1のFcドメインのCH3部分の接触面から突き出る少なくとも1つのアミノ酸側鎖、典型的には比較的大きな側鎖を指す。突起は第2のFcドメインのCH3部分の「ホール」に相補的かつこれに受容される「ノブ」を生み出す。「ホール」は、第2のFcドメインのCH3部分の接触面から引っ込んでいる少なくとも1つのアミノ酸側鎖、典型的には比較的小さな側鎖である。この技術は、例えば米国特許第5,821,333号、Ridgwayらの文献、Protein Engineering 9:617-621(1996)、及びCarter Pの文献、J. Immunol Methods 248:7-15 (2001)に記載されている。
ノブとして作用し得る例示的なアミノ酸残基には、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、及びトリプトファン(W)がある。CH3ドメイン中の既存のアミノ酸残基は、ノブのアミノ酸残基と交換し、又は置換することができる。置換するべき好ましいアミノ酸には、アラニン(A)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、グリシン(G)、セリン(S)、スレオニン(T)、又はバリン(V)など、小さな側鎖を有する任意のアミノ酸を含み得る。
ホールとして働き得る例示的なアミノ酸残基には、アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)、及びバリン(V)がある。CH3ドメイン中に存在するアミノ酸残基は、ホールのアミノ酸残基と交換し、又は置換することができる。置換するべき好ましいアミノ酸には、大きく又はかさ高い側鎖を有する任意のアミノ酸、例えばアルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、又はトリプトファン(W)を含み得る。
CH3ドメインは、好ましくはヒトIgG1抗体に由来する。CH3ドメインに対する例示的なアミノ酸置換には、T366Y、T366W、F405A、F405W、Y407T、Y407A、Y407V、T394S、及びそれらの組み合わせがある。好ましい例示的な組合わせは、第1のCH3ドメイン上のノブ突然変異についてT366Y又はT366W、及び第2のCH3ドメイン上のホール突然変異についてY407T又はY407Vである。
本発明のある態様において、抗原結合コンストラクトの2つのFcドメインは、Fabアーム交換(FAE)によってヘテロ二量化される。P228S ヒンジ突然変異を有するヒトIgG1は、F405L又はK409R CH3ドメイン突然変異を含み得る。2つの抗体を還元剤と混合するとFAEが導かれる。この技術は、米国特許第9,212,230号及びLabrijn A.F.の文献、Proc Natl Acad Sci USA 110(13):5145-5150 (2013)に記載されている。
本発明のある実施態様において、抗原結合コンストラクトの2つのFcドメインは、静電的誘導効果によってヘテロ二量化される。この二量体化技術では、静電的誘導を利用して、CH3/CH3ドメイン接触面でのFcドメインペアリングを促進し、かつ強化する。2つのCH3ドメイン間の電荷相補性を変更して、ホモ二量体化(同一電荷ペアリング)よりもヘテロ二量化(反対電荷ペアリング)を促進させる。この方法では、静電反発力がホモ二量体化を妨げる。例示的なアミノ酸残基の置換には、第1のCH3ドメイン中のK409D、K392D、及び/又はK370D、第2のCH3ドメイン中のD399K、E356K、及び/又はE357Kを含み得る。この技術は米国特許出願公開第2014/0154254 A1号及びGunasekaran K.の文献、J Biol Chem 285 (25) 19637-19646 (2010)に記載されている。
本発明のある実施態様において、抗原結合コンストラクトの2つのFcドメインは、疎水性相互作用効果によってヘテロ二量化される。この二量体化技術では、静電的相互作用の代わりに疎水性相互作用を利用して、CH3/CH3ドメイン接触面でのFcドメインペアリングを促進し、かつ強化する。例示的なアミノ酸残基の置換には、第1のCH3ドメイン中のK409W、K360E、Q347E、Y349S、及び/又はS354C、第2のCH3ドメイン中のD399V、F405T、Q347R、E357W、及び/又はY349Cを含み得る。第1のCH3ドメイン及び第2のCH3ドメインの間の好ましいアミノ酸残差置換のペアには、K409W:D399V、K409W:F405T、K360E:Q347R、Y349S:E357W、及びS354C:Y349Cがある。この技術は米国特許出願公開第2015/0307628 A1号に記載されている。
本発明のある実施態様において、ヘテロ二量化はロイシンジッパー融合体の使用を介し得る。抗体鎖の各CH3ドメインのC末端と融合したロイシンジッパードメインは、強制的にヘテロ二量体化を起こす。この技術は、Wranik B.の文献、J Biol Chem 287(52): 43331-43339 (2012)に記載されている。
本発明の態様において、ヘテロ二量体化は、ストランド交換操作ドメイン(SEED)ボディの使用を介し得る。IgG及びIgAフォーマットに由来するCH3ドメインは、強制的にヘテロ二量体化を起こす。この技術はMuda M.の文献、Protein Eng. Des. Sel. 24(5):447-454 (2011)に記載されている。
別途言及されない限り、本明細書中で利用する全ての抗体定常領域の付番には、Edelmanらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 63(1):78-85 (1969)に記載されているEU付番スキームに対応する。
重鎖及び/又は軽鎖のヘテロ二量化並びに非対称抗体の作製及び精製のさらなる方法は、当技術分野で公知である。例えば、その各々が参照により本明細書に組み込まれている、Klein C.の文献、mABs 4(6) 653-663(2012)及び米国特許第9,499,634号を参照されたい。
(D. Fc領域のヘテロ二量体化に基づかない修飾)
本発明の抗体分子は、重鎖及び/又は軽鎖の定常領域、特にFc領域中の、1以上のアミノ酸置換、挿入、又は欠失を有し得る。アミノ酸の置換は、置換アミノ酸を異なる天然のアミノ酸又は非天然の若しくは修飾アミノ酸で置き換える。また、例えばグリコシル化パターンの変化(例えば、N又はO結合型グリコシル化部位の付加又は欠失による)などの、その他の構造的修飾も許容される。
本発明の二重特異性抗原結合コンストラクトは、新生児Fc受容体(FcRn)への結合親和性を増加させるために、Fc領域中に修飾を加えることができる。酸性pH(例えば、およそpH 5.5〜およそpH 6.0)での増加した結合親和性が測定可能である。また、増加した結合親和性は、中性pH(例えば、およそpH 6.9〜およそpH 7.4)で測定可能である。「増加した結合親和性」により、未修飾のFc領域に対するFcRnへの増加した結合親和性を意味する。典型的に、未修飾のFc領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4の野生型アミノ酸配列を有する。そのような実施態様において、Fc領域を修飾された抗体分子の増加したFcRn結合親和性は、FcRnの野生型IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4への結合親和性に対して測定される。
FcRnとの結合を増加させ、それにより抗体薬物動態が改善されるいくつかのFc置換が報告されている。そのような置換は、例えばそれらの内容の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Zalevskyらの文献(2010) Nat. Biotechnol. 28(2):157-9; Hintonらの文献(2006) J Immunol.176:346-356; Yeungらの文献(2009) J Immunol.182:7663-7671; Presta LG.の文献 (2008) Curr.Opin.Immunol.20:460-470; 及びVaccaroらの文献(2005) Nat. Biotechnol. 23(10):1283-88で報告されている。
ある実施態様において、本明細書に記載の1以上の二重特異性抗原結合コンストラクトの抗体分子は、アミノ酸置換H433K及びN434Fを含み、又はこれらからなる修飾を含む修飾ヒトIgG Fcドメインを含む。ここでFcドメインの付番はEU付番に従う。あるさらなる実施態様において、本明細書に記載の組合わせの1以上の抗体分子が、アミノ酸置換M252Y、S254T、T256E、H433K、N434Fを含み、又はこれらからなる修飾を含む修飾ヒトIgG Fcドメインを含む。Fcドメインの付番はEU付番に従う。
また、二重特異性抗原結合コンストラクトは細胞傷害性物質、例えば化学療法剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物若しくは動物起源の酵素活性毒素、又はそれらの断片)、又は放射性同位体(すなわち、放射性コンジュゲート)とコンジュゲートされた抗体を含む免疫コンジュゲートを形成するように、修飾され得る。また、Fc領域は、参照により本明細書中に組み込まれているChan及びCarterの文献(2010) Nature Reviews: Immunology 10:301-316に記載されている通り、半減期延長のために操作することができる。
ある実施態様において、Fc領域を操作して、これをエフェクター機能を有さない、例えば抗体依存細胞細胞傷害性(ADCC)又は補体依存的細胞傷害性(CDC)を導く能力を有さないようにすることができる。そのような操作されたエフェクターを有さないFc領域は、本明細書中で「Fcデッド」と呼ぶ。ある実施態様において、本発明の二重特異性抗原結合コンストラクトは、エフェクター機能が低下した天然のIgGアイソタイプ、 例えばIgG4に由来するFc領域を有し得る。IgG4に由来するFc領域は、例えばインビボでのIgG4分子間のアームの交換を最小限に抑える修飾の導入により、治療上の有用性を高めるためにさらに修飾し得る。IgG4に由来するFc領域は、S228P置換を含むように修飾し得る。
ある実施態様において、本発明の二重特異性抗原結合コンストラクトはグリコシル化に関して修正される。例えば、アグリコシル化された抗体(すなわち、グリコシル化を有さない抗体)を作製することができる。グリコシル化を変化させて、例えば標的抗原に対する抗体の親和性を増加させることができる。そのような糖鎖修飾は、例えば抗体配列中の1以上のグリコシル化部位を変化させることによって達成することができる。例えば、1以上のアミノ酸置換を行うと、1以上の可変領域フレームワークグリコシル化部位が排除され、それによりその部位でのグリコシル化を排除することができる。そのようなアグリコシル化により、抗原に対する抗体の親和性を増加させることができる。ある実施態様において、Fc領域を操作して、グリコシル化を低下又は排除することができる。例えば、CH2ドメイン中のN297部位を突然変異させると、グリコシル化を低下又は排除することができる(Fcドメインの付番はEU付番に従う)。ある実施態様において、本発明の二重特異性抗原結合コンストラクトは1以上のN297A突然変異を含む。N297A突然変異は、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を低下させることが示されている。例えば、Borrokらの文献、(2012) ACS Chem Biol. 7(9):1596-1602.を参照されたい。
(E. 多重特異性抗原結合コンストラクトをコードするポリヌクレオチド)
また、本発明は、宿主細胞系又は無細胞発現系における多重特異性抗原結合コンストラクトポリペプチドの発現を可能にする調節配列に作用可能に連結された、本発明の多重特異性抗原結合コンストラクトをコードするポリヌクレオチド分子並びに本発明の多重特異性抗原結合コンストラクトをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを提供する。また、本発明は、これらの発現ベクターを含む宿主細胞又は無細胞発現系を提供する。
この発明の多重特異性抗原結合コンストラクトをコードするポリヌクレオチド分子には、例えば組換えDNA分子がある。本明細書で使用する「核酸」、「ポリヌクレオチド」、及び「ポリヌクレオチド分子」という用語は互換的に、単鎖又は二本鎖の任意のDNA又はRNA分子を指し、単鎖の場合はその相補的配列の分子も指す。本明細書において核酸分子について論ずる際は、特定の核酸分子の配列又は構造は、5'から3'の方向に配列を提供する通常の慣例に従って記載する場合がある。本発明のいくつかの実施態様において、核酸又はポリヌクレオチドは、「単離」される。この用語は、核酸分子に適用する場合、他の成分を分離した核酸分子を指す。これには、その由来する生物の天然のゲノム中で直近に隣接する配列を含む。例えば、「単離された核酸」は、プラスミド若しくはウイルスベクターなどのベクターに挿入された、又は原核生物細胞若しくは真核生物細胞、若しくは非ヒト宿主生物のゲノムDNAに統合されたDNA分子を含み得る。RNAに適用する場合、「単離ポリヌクレオチド」という用語は、主に先に定義したように単離したDNA分子によってコードされたRNA分子を指す。あるいは、この用語は、その天然の状態(すなわち、細胞又は組織)で会合している他の核酸から精製/分離されたRNA分子を指す場合がある。単離されたポリヌクレオチド(DNA又はRNA)は、さらに生物学的若しくは合成的手段により直接生産され、かつその生産中に存在する他の成分から分離された分子とし得る。
本発明による多重特異性抗原結合コンストラクトの組換え生産について、様々なコンストラクト構成要素をコードする組換えポリヌクレオチドを調製し(標準的な分子生物学技術を使用して)、選択した宿主細胞又は無細胞発現系で発現させるために、複製可能なベクターに挿入することができる。適切な宿主細胞は、原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞、具体的には哺乳動物細胞とし得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚性腎株(浮遊培養における増殖用にサブクローニングされた293又は293細胞、 Graham らの文献、J. Gen. Virol. 36:59 (1977)); ベビーハムスター腎細胞 (BHK, ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR (CHO, Urlaubらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4, 母親, Biol.Reprod.23:243-251 (1980));マウス骨髄腫細胞SP2/0-AG14 (ATCC CRL 1581;ATCC CRL 8287)又はNS0 (HPA培養細胞系統保存機関番号 85110503);サル腎細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76, ATCC CRL-1587);ヒト子宮頚癌細胞(HELA, ATCC CCL 2);イヌ腎細胞(MDCK, ATCC CCL 34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A, ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138, ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2, HB 8065);マウス乳癌(MMT 060562, ATCC CCL51);TRI細胞(Matherらの文献、Annals N.Y.Acad.Sci.383:44-68 (1982));MRC 5細胞;FS4細胞;及びヒト肝細胞腫株(Hep G2)、並びにDSM’s PERC-6細胞株である。これらの各々の宿主細胞における使用に好適な発現ベクターも、当技術分野において一般に公知である。
「宿主細胞」という用語は、一般に培養細胞株を指すことに留意されたい。本発明の抗原結合ポリペプチドをコードする発現ベクターが導入されたあらゆるヒトは、「宿主細胞」の定義から明示的に除外する。
(F. 多重特異性抗原結合コンストラクトの治療上有用性)
本明細書で使用する「治療する」、「治療している」、又は「治療」という用語は、症状、障害、状態、又は疾患の遅延、妨害、抑止、管理、停止、それらの重症度の軽減を意味するが、必ずしも全ての疾患に関連する症状、状態、又は障害を完全に排除することを含まない。
ヒトの治療上の使用について、本明細書に記載する多重特異性抗原結合コンストラクトを「有効量」での治療を必要とするヒト対照に投与することができる。「有効量」という用語は、所望の結果を達成するのに十分な薬剤の量又は用量を指す。ある実施態様において、「有効量」という用語は、対象への単回又は複数回用量の投与に際し、疾患の治療における治療効力をもたらす薬剤の用量の量を指す。ある実施態様において、「有効量」という用語は、ヒト患者への単回又は複数回用量の投与に際し、疾患の治療における治療効力をもたらす薬剤の用量の量を指す。たとえば、「有効量」という用語は、疾患を有するヒト患者への単回又は複数回用量の投与に際し、疾患の治療における治療効力をもたらす本発明の多重特異性抗原結合コンストラクトの用量の量を指し得る。
多重特異性抗原結合コンストラクトの治療有効量は、単回用量当たり約0.1 mg/kg体重〜約20 mg/kg体重の範囲の量を含む。ある実施形態において、多重特異性抗原結合コンストラクトの治療有効量は、単回用量当たり約1 mg/kg体重〜約10 mg/kg体重の範囲の量を含み得る。任意の個別の患者についての治療有効量は、患者の年齢及び全体的な状態、並びに治療すべき疾患の性質及び重症度などの要因に応じて定めることができる。任意の個別の患者についての治療有効量は、医療専門家が、例えば、抗原結合コンストラクトがバイオマーカーに及ぼす影響、例えば腫瘍組織における標的抗原の細胞表面発現、又は腫瘍の退縮などの症状をモニタリングすることにより、決定することができる。 任意の所与の時点で投与される抗原結合コンストラクトの量は、単独で利用する場合も、任意の他の治療剤と組合わせて利用する場合も、最適な量の抗原結合コンストラクトが治療経過中に投与されるように変更し得る。
また、本明細書に記載の抗原結合コンストラクト又はそのようなコンストラクトを含む医薬組成物を、併用療法として任意の他の治療と組合わせて投与することを意図している。
(G. 医薬組成物)
本発明の範囲には、本発明の抗原結合コンストラクトを含み、1以上の医薬として許容し得る単体又は賦形剤とともに製剤化された医薬組成物を含む。ヒトの治療上の使用のためのモノクローナル抗体などの抗原結合コンストラクトを製剤化する技術は、当技術分野で周知されており、例えばWang らの文献、J Pharm Sci 96: 1-26 (2007)に総説されている。
医薬組成物は、限定することなく、静脈内(i.v)、腹腔内(i.p.)、筋肉内(i.m)、腫瘍内、経口、その他の腸内、皮下(s.c.)、及び肺を含む、任意の好適な投与経路による投与のために製剤化することができる。
(H. 多重特異性抗原結合コンストラクトの精製)
本発明の範囲には、本発明の多重特異性抗原結合コンストラクトを精製する方法を含む。精製方法には、物理化学的分画に基づく方法を含み得る。そのような方法には、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、硫酸アンモニウム沈殿、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、固定化金属キレートクロマトグラフィー(IMAC)がある。精製方法にはアフィニティー精製を含み得る。そのような方法は、抗原結合コンストラクトの保存領域に対するアフィニティーリガンドとしてのプロテインA、プロテインG、及び/又はプロテインLに依存する。アフィニティーリガンドは、精製を容易にするために樹脂にコンジュゲートすることができる。さらなるアフィニティー精製法は、抗体のIgG CH1ドメインへの特異的な結合に依存し得る。これはCH1選択的クロマトグラフィー法である。
本件開示の多重特異性結合コンストラクトは、SECによって精製し得る。各々Fcドメインに動作可能に連結されたVHH結合領域及び従来型IgG抗体のFab部分(例えば、SIMPLE抗体)を含む本件開示の多重特異性結合コンストラクトのサイズは、約112 kDaと予想される。各々Fc ドメインに動作可能に連結された2つのFab部分の二量体化により形成される従来型IgG抗体は、約150 kDaと予測される。各々Fcドメインに動作可能に連結された2つのVHH部分の二量体化により形成されるVHH抗体は、約75 kDaと予想される。所望の多重特異性結合コンストラクト(〜112 kDa)及び2つの起こり得る望ましくない別の結合コンストラクト(〜150 kDa及び/又は75 kDa)の間のサイズの差を考慮すると、当業者であれば所望の多重特異性結合コンストラクトはSECにより望ましくない結合コンストラクトから容易に精製できることが容易に認識されよう。
結果として得た多重特異性抗原結合コンストラクトが架橋によって安定化されたかどうかにかかわらず、本発明の方法は、いくつかの実施態様において、多重特異性抗原結合コンストラクトをさらに精製する工程を含み得る。多重特異性抗原結合コンストラクトを含む混合物は、標準的なクロマトグラフィー技術、例えば(これらに限定はされないが)標準的プロテインAクロマトグラフィー、プロテインG、プロテインL、陽イオン/陰イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、チオフィリッククロマトグラフィーを使用して、又はIgG分子を捕捉するように設計されたリガンド(プロテインAミメティック、リャマVHHリガンドなど)を使用して精製することができる。あるいは、多重特異性抗原結合コンストラクトは、塩析(salt-induced precipitation)(硫酸アンモニウム)、有機溶媒の追加(DMSO、エタノール)、pH変化又は非イオン性ポリマー(ポリエチレングリコール)などの標準的技術を使用して、沈殿させることができる。別の設定では、多重特異性抗原結合コンストラクトを、膜を使用するろ過技術に適用し、多重特異性抗原結合コンストラクトを濃縮させ得る。特定の混合物は、依然として親の単一特異性IgG分子並びに多重特異性抗原結合コンストラクトを含み得るため、これら全ての技術を組み合わせることが、多重特異性抗原結合コンストラクトを精製して完全に均一にするのに必要となり得る。続いて、多重特異性抗原結合コンストラクトを親の単一特異性IgG分子から分離するために、追加の精製工程が必要となり得る。これは、第1の結合特異性のためのアフィニティーカラムを使用した結合及び溶出と、それに続く第2の結合特異性のためのアフィニティーカラムを使用した結合及び溶出により精製することにより行い得る。
(精製された)多重特異性抗原結合コンストラクトの量、品質、及び純度は、吸光度測定、 HP-SEC 、 SDS-PAGE 、ネイティブPAGE、及び RP-HPLC などの定例的な生化学的技術を使用して分析することができる。親IgG分子から多重特異性抗原結合コンストラクトを識別することができる追加の技術には、これらに限定はされないが、IEF、cIEF、CIEX、質量分析(ESI、MALDI)があり、これらにより、電荷及び/又は質量に基づいて分子の高精度な分離及び検出が可能となる。二重結合特異性抗原結合コンストラクトの2つの結合特異性は、例えばELISA、 RIA、表面プラズマ共鳴(surface plasma resonance)(SPR)、生物層干渉測定、DELFIA、FRET、 ECL、Gyros、及びAlfaScreenを使用する様々な異なる結合アッセイフォーマットのいずれかを使用して、評価することができる。精製方法は、米国特許第9,212,230号に記載されている。
(参照による組み込み)
様々な特許、公開特許出願、及び刊行物が先行する記述中に、及び以下の実施例の全体にわたって引用されており、その各々はその全体が参照により本明細書に組み込まれている。
(実施例)
本発明は、以下の非限定的実施例を参照してさらに理解される。
(実施例1―抗標的A/抗標的B抗原結合コンストラクトの作製及び精製)
抗標的Aは、標的Aに対する結合特異性を有する従来型抗体である。抗標的Aは、マウスCD4+脾臓細胞における標的Aの活性化を中和することができる。抗標的Bは、標的Bに対する結合特異性を有するVHHである。標的A、標的B、又は標的A-標的B複合体との結合のための抗標的A及び抗標的Bの二重特異性抗原結合コンストラクトは、ノブ・イントゥ・ホール(KIH)技術を使用して生成した。抗標的B VHHをmIgG2a_holeに融合した。抗標的A-VHをmIgG2a_knobとしてクローニングし、抗標的A-VLをCLVλとしてクローニングした。
抗標的A/抗標的B抗原結合コンストラクトの生産のため、10×100 mlの293E細胞に以下のコンストラクト:mFcFusionIgG2aKnob_Anti-Target B-VHH、mIgG2aHole_Anti-Target A_VH、及びCLVλ_Anti-Target Aを100 ml当たり各々20 μgトランスフェクションした。mIgG2aHole、mIgG2aKnob、mFcFusion IgG2aHole、及びmFcFusionIgG2aKnobコンストラクトは、KpnI-NotIによるpUPE(pCDNA3.1様ベクター)へのクローニングにより作製した。Anti-Target A_VHは、BsmBIを用いてpUPE-mIgG2aHoleベクターにクローニングした。Anti-Target B-VHH は、BsmBIを用いてpUPE-mFcFusionIgG2aKnobベクターにクローニングした。試料はプロテインAビーズで精製した。結合した抗原結合コンストラクトをSDS-PAGEを使用して溶出及び分析した。図5Aは、クマシーブルーで染色したSDS-PAGEゲルを示しており、抗原結合コンストラクトの精製物が112 kDaの適切なサイズにあることを図示する。分子量マーカーは試料と比較して速く移動したことに留意されたい。抗原結合コンストラクトは、完全なIgGと比較してより低いバンドを有していた。正常な筋書では、ミスペアリングにより、150 kDaの完全なIgG、75 kDaのVHH-Fc融合体、約112 kDaの二重特異性フォーマットが形成される。しかしながら、図5Aでは112 kDaの産物のみが生産されたことが示され、このことは所望の二重特異性フォーマットが優先的に生産されたことを示している。還元条件下では、2本の重鎖に対する2つのバンドが見られた。mFcFusionIgG2aKnob_Anti-Target B-VHHはCH1ドメインを含まず、軽鎖を有さず、約37 kDaの産物をもたらすことに留意されたい。mIgG2aHole_Anti-Target A-VHの重鎖は、約50 kDaと予想される。抗標的Aの軽鎖は約25 kDaである。
従って、本発明の二重特異性フォーマットは、適切な二重特異性抗体のみが得られることを保証する。特に、mIgG2aHole_Anti-Target A_VHコンストラクトのみがmFcFusionIgG2aKnob_Anti-Target B-VHHコンストラクトとペアリングする。軽鎖はVHH鎖とペアリングできないため、残る軽鎖CLVλ_Anti-Target AコンストラクトのみがAnti-Target A_VH鎖とペアリングすることができる。当業者にとって本発明が上記KIHヘテロ二量体化方法に限定されないことはすぐに明らかであろう。本明細書の別所に記載した任意の適切なヘテロ二量体化方法は、上記二重特異性抗体フォーマットで利用することができる。
(実施例2―抗標的A/抗標的B抗原結合コンストラクトの特性評価)
実施例1の抗原結合コンストラクトを、その標的A及び標的Bとの結合特性について、Biacore(SPR)により解析した。このコンストラクトは標的A及び標的Bの両方を捕捉できた(図7A及び7Bを、図7C及び7DのPBS及びアイソタイプ対照と比較されたい)。
標的A-標的B複合体に対する抗原結合コンストラクトの親和性は、標的A又は標的Bに対する親和性と比較してはるかに高く、二価結合であることが示される(図8A-8C及び表5)。Biacoreの検出限界は+/-1E-12であるため、図8に示す親和性は過大評価であることに留意されたい。
表5:Biacoreによる標的A-標的B複合体、標的A、及び標的Bに対する抗原結合コンストラクトの親和性測定。
Figure 2021506310
図8A-8C及び表5で実証する抗原結合コンストラクトの二価相互作用は、抗原結合コンストラクトが同じ複合体分子中の標的B及び標的Aと結合するのではなく、一方の複合体の標的B及び隣の複合体の標的Aと結合した結果である可能性がある。抗原結合コンストラクトが同じ複合体分子中で結合するかどうかを決定するため、Biacore CM5チップを抗原結合コンストラクトでコーティングした。標的A-標的B複合体、標的A、及び標的Bをチップに結合させた(表6)。標的Bとの親和性は、標的Bが固定化され、抗原結合コンストラクトを結合させた際に示される親和性と同様であった。標的Aは二量体であるため、標的Aは固定化した抗原結合コンストラクトと比較的高い親和性で結合した。これにより、標的Aと抗原結合コンストラクトでコーティングされたチップとの二価相互作用が可能となる。複合体の固定化された抗原結合コンストラクトに対する親和性が、標的Bの固定化された抗原結合コンストラクトに対する親和性よりも明らかに高いという事実は、抗原結合コンストラクトが1つの複合体分子中で結合することを示唆している。
表6:Biacoreによる標的A-標的B複合体、標的A、及び標的Bの親和性測定。
Figure 2021506310
(実施例3―標的C/標的D抗原結合コンストラクトの作製及び精製)
VHH2H3及びVHH3H2は、標的Dに対する結合特異性を有する異なるVHH抗体である。4R36B7は、標的Cに対する結合特異性を有する従来の抗体である。標的C及び標的Dと結合させるための二重特異性抗原結合コンストラクトVHH2H3又はVHH3H2及び4R36B7を、ノブ・イントゥ・ホール(KIH)技術を使用して作製した。VHH2H3及びVHH3H2をmIgG2a_holeと融合させた。4R36B7-VHはmIgG2a_knobとしてクローニングし、4R36B7-VLはCLVλとしてクローニングした。
標的C/標的D抗原結合コンストラクトは293E細胞で作製した。試料はプロテインAビーズにより精製した。結合した抗原結合コンストラクトをSDS-PAGEを使用して溶出及び分析した。図5Bは、クマシーブルーで染色したSDS-PAGEゲルを示しており、抗原結合コンストラクトの精製物がおよそ120 kDaの適切なサイズにあることを図示する。分子量マーカーは試料と比較して速く移動したことに留意されたい。抗原結合コンストラクトは、完全なIgGと比較してより低いバンドを有する。正常な筋書では、ミスペアリングにより、150 kDaの完全なIgG、75 kDaのVHH-Fc融合体、約120 kDaの二重特異性フォーマットが形成される。しかしながら、図5Bでは120 kDaの産物のみが生産されたことが示され、このことは所望の二重特異性フォーマットが優先的に生産されたことを示している。
従って、本発明の二重特異性フォーマットは、適切な二重特異性抗体のみが得られることを保証する。特に、4R36B7 mIgG2a Fc dead_KnobコンストラクトのみがVHH2H3-mFc dead_Hole又はVHH3H2-mFc dead_Holeコンストラクトとペアリングする。軽鎖がVHH鎖とペアリングできないため、残る軽鎖CLVλ_4R36B7コンストラクトのみが4R36B7 mIgG2a Fc dead重鎖とペアリングすることができる。当業者にとって本発明が上記KIHヘテロ二量体化方法に限定されないことはすぐに明らかであろう。本明細書の別所に記載した任意の適切なヘテロ二量体化方法は、上記二重特異性抗体フォーマットで利用することができる。
(実施例4―抗原結合コンストラクトのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC))
使用したクロマトグラフィーシステムはAgilent 1260 Infinity IIであり、4液ポンプ、自動インジェクター、冷却オートサンプラー(6℃)、オンライン脱気装置、及びDAD検出器を備えている。カラムはWaters XBridge BEH 200 Å SEC(3.5 μm、7.8×300mm、Waters、カタログ番号176003596)をWaters XBridge BEH 200 Å SEC プレガードカラム(3.5 μm、7.8×30mm、Waters、カタログ番号176003591)に結合させたものとした。カラムを最初に10カラム容量(CV)の移動相で平衡化し、これはサーモスタット付きコンパートメント中では保持しなかった。動作流速は30分間1 mL/分に設定し、この間PBSを移動相として使用した(Sigma、カタログ番号D8537)。検出器は波長280及び214nmに同時に設定した(参照波長360 nm、カットオフは100 nm)。続いて3.5%の凝集を有することが分かっている高凝集対照試料(HAC)の存在下、チャネル214nmで凝集モニタリングを行った。処理中に何度かモニタリングした試料をQC試料として引き続き使用した(taken along)。データの取得は、Chemstation OpenLab CDCソフトウェア(Agilent)を使用して行った。
以下の図 6A-6C及び表7は、標的C/標的D二重特異性抗体についてのSEC分析の結果を示す。
表7:標的C/標的D抗体についてのSEC結果。
Figure 2021506310
(実施例5―標的C/標的D抗原結合コンストラクトの特性評価)
標的C/標的D結合コンストラクトの親和性をBiacore 3000で測定した。推奨されているNHS化学を使用して、約500 RUの標的C又は標的DでコーティングされたCM5チップを実施した。抗体の濃度範囲をチップに追加した(9点の濃度、10 μg/mlから出発する)。使用された分子量は、以下の通りとした:mIgG〜150 kDa;mIgG-VHH-Fc〜120 kDa;VHH-Fc二量体80 kDa であった。親和性は、BiaEvaluationソフトウェアを使用して、1:1ラングミュア結合モデルで運動パラメータをフィッティングすることによって決定した。結果は以下の表 8 に示す。両方の抗体アームが機能的であることを見出した。
表8:Biacoreによる標的C及び標的Dの親和性測定。「NB」は結合しないことを意味する。
Figure 2021506310

Claims (20)

  1. (a) 第1の標的抗原と結合する、第1のIgG Fcドメインポリペプチドと動作可能に連結された単一ドメイン抗体(VHH)結合領域;及び
    (b) 第2の標的抗原と結合する、第2のIgG Fcドメインポリペプチドと動作可能に連結された従来のIgG抗体のFab部分を含む、二重特異性抗原結合コンストラクトであって、
    該第1及び第2のIgG Fcドメインポリペプチドが、二量体化して二重特異性抗原結合コンストラクトを形成する、前記二重特異性抗原結合コンストラクト。
  2. 前記VHH結合領域及びFab部分がラクダ科動物由来である、請求項1記載の二重特異性抗原結合コンストラクト。
  3. 前記第1及び第2のIgG Fcドメインポリペプチドが、ノブ・イントゥ・ホール相互作用、 Fabアーム交換(FAE)、静電的誘導相互作用、又は疎水性相互作用によって二量体化する、請求項1又は2記載の二重特異性抗原結合コンストラクト。
  4. 前記第1のIgG Fcドメインポリペプチドがノブ置換を含み、かつ前記第2のIgG Fcドメインポリペプチドがホール置換を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の二重特異性抗原結合コンストラクト。
  5. 前記ノブ置換がアルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、及びトリプトファン(W)からなる群から選択される、請求項4記載の二重特異性抗原結合コンストラクト。
  6. 前記ホール置換がアラニン(A)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、グリシン(G)、セリン(S)、スレオニン(T)、及びバリン(V)からなる群から選択される、請求項4又は5記載の二重特異性抗原結合コンストラクト。
  7. 約100 kDa〜約120 kDaの範囲の分子量を有する、請求項1〜6のいずれか1項記載の二重特異性抗原結合コンストラクト。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項記載の二重特異性抗原結合コンストラクトを含む、医薬組成物。
  9. 請求項1〜7のいずれか1項記載の二重特異性抗原結合コンストラクトをコードする核酸。
  10. 請求項9記載の核酸を含むベクター。
  11. 請求項10記載のベクターを含む宿主細胞。
  12. 請求項11記載の宿主細胞を培養すること、及び前記二重特異性抗原結合コンストラクトを単離することを含む、二重特異性抗原結合コンストラクトの作製方法。
  13. それに罹患する対象における疾患又は障害を治療する方法であって、該対象に請求項1〜7のいずれか1項記載の二重特異性抗原結合コンストラクトを投与することを含む、前記方法。
  14. 請求項1〜7のいずれか1項記載の二重特異性抗原結合コンストラクトを精製する方法であって、
    (a) 異なるサイズの抗原結合コンストラクトを含む、混合抗原結合コンストラクト組成物を提供する工程;並びに
    (b) サイズに基づいて混合抗原結合コンストラクト組成物を分離する工程であって、
    所望の二重特異性抗原結合コンストラクトが、
    (i) 第1の標的抗原と結合する、第1のIgG Fc ドメインポリペプチドと動作可能に連結された単一ドメイン抗体(VHH)結合領域;及び
    (ii) 第2の標的抗原と結合する、第2のIgG Fcドメインポリペプチドと動作可能に連結された従来型のIgG抗体のFab部分を含み、該第1及び第2のIgG Fcドメインポリペプチドが、二量体化して該二重特異性抗原結合コンストラクトを形成し、それにより、該二重特異性抗原結合コンストラクトを精製する、前記工程、を含む、前記方法。
  15. 前記サイズに基づいて分離する工程が、サイズ排除クロマトグラフィーを含む、請求項14記載の方法。
  16. 前記混合抗原結合コンストラクト組成物を、最初にプロテインA-、プロテインG-、プロテインL-、又はCH1-選択的クロマトグラフィーによって精製する、請求項14又は15記載の方法。
  17. 他の抗原結合コンストラクトの混合物中の請求項1〜7のいずれか1項記載の二重特異性抗原結合コンストラクトの量を決定する方法であって、
    (a) 異なるサイズの抗原結合コンストラクトを含む、混合抗原結合コンストラクト組成物を提供する工程;並びに
    (b) サイズに基づいて混合抗原結合コンストラクト組成物を分離する工程であって、
    所望の二重特異性抗原結合コンストラクトが、
    (i) 第1の標的抗原と結合する、第1のIgG Fc ドメインポリペプチドと動作可能に連結された単一ドメイン抗体(VHH)結合領域;及び
    (ii) 第2の標的抗原と結合する、第2のIgG Fcドメインポリペプチドと動作可能に連結された従来型のIgG抗体のFab部分を含み、該第1及び第2のIgG Fcドメインポリペプチドが、二量体化して該二重特異性抗原結合コンストラクトを形成する、前記工程、を含む、前記方法。
  18. 前記サイズに基づいて分離する工程が、ゲル電気泳動を含む、請求項17記載の方法。
  19. 前記所望の二重特異性抗原結合コンストラクトが、約100 kDa〜約120 kDaである、請求項17又は18記載の方法。
  20. 前記他の抗原結合コンストラクトが約75 kDa又は約150 kDaである、請求項17〜19のいずれか1項記載の方法。
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