JP2021195603A - 低合金耐熱鋼、及び低合金耐熱鋼の製造方法 - Google Patents

低合金耐熱鋼、及び低合金耐熱鋼の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高温でのクリープ強度及び低温での靱性に優れた低合金耐熱鋼の提供。【解決手段】質量%で、C:0.04〜0.10%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.10〜0.60%、Cr:1.75〜3.00%、Mo:0.01〜0.30%、W:1.20〜2.00%、V:0.10〜0.50%、Nb:0.01〜0.10%、Ti:0.005〜0.060%、Al:0.001〜0.030%、B:0.0005〜0.0060%、N:0.0010〜0.0100%、P:0.030%以下、S:0.010%以下を含み、Ni、Cu、Ta、Co、La、Ce、Y、Ca、Zr、及びMgを選択的に含有し、残部がFe及び不純物からなり、旧オーステナイト粒の平均粒径が30μm以下かつ前記平均粒径の標準偏差が15μm以下であり、金属組織全体に対するベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率が95%以上である低合金耐熱鋼。【選択図】なし

Description

本開示は、低合金耐熱鋼、及び低合金耐熱鋼の製造方法に関する。
ボイラ、化学工業、原子力用等の高温耐熱耐圧部材としては、オーステナイトステンレス鋼、Cr含有量が9〜12%の高Crフェライト鋼、Cr含有量が3%以下である低合金鋼及び炭素鋼が用いられている。これらは対象となる部品の使用温度、圧力などの使用環境と経済性を考慮として適宜選択される。
上記の材料の中でCr含有量が3%以下の低合金鋼の特徴は、Crを含有しているために炭素鋼に比べて耐酸化性、高温耐食性及び高温強度に優れること、オーステナイトステンレス鋼に比べ格段に安価で、かつ熱膨張係数が小さく、応力腐食割れをおこさないこと、さらに高Crフェライト鋼に比べても安価で、靱性、熱伝導性及び溶接性に優れることにある。
低合金鋼の代表として、SCMV4またはSTBA24(2.25Cr−1Mo鋼)、SCMV3またはSTBA22(1.25Cr−0.5Mo鋼)などがJIS規格にあり、通常Cr−Mo鋼と総称されている。
特許文献1には、高温強度を向上させる目的で析出強化元素などを添加した鋼が提案されている。
また、特許文献2には、Moに替わってWを添加することにより、Cr−Mo鋼よりも高温耐酸化性、耐食性及び高温強度が改善され、高Crフェライト鋼やオーステナイトステンレス鋼に代替して使用できる低Cr耐熱鋼に関する技術が提案されている。
特許文献3、特許文献4、特許文献5には、結晶粒径を制御することにより、溶接性、優れた耐再熱割れ性、クリープ強度や低温靱性などといった特性を有する低合金耐熱鋼に関する技術が提案されている。
例えば、特許文献3では、Ac3変態点以上かつ1000℃未満の温度で焼ならしを行うことで細粒化させ、靱性を確保する技術が開示されている。
また、特許文献4では、焼ならし温度を900〜1100℃の範囲で変化させることで、結晶粒を微細に制御している。
そして、特許文献5では、焼ならしを1000〜1100℃の範囲で実施しており、十分に高いクリープ強度を確保している。
特開昭57−131349号公報 特開平2−217438号公報 特開2000−345281号公報 特開2001−131682号公報 特開2002−194485号公報
ボイラ、化学工業、原子力用等の高温耐熱耐圧部材として使用される低合金耐熱鋼には、より優れたクリープ強度及び靱性を有することが求められる。しかしながら、本発明者らが検証を行った結果、特許文献1〜5のいずれにおいても、クリープ強度、低温靱性の面で改善の余地が残されていることが明らかとなった。
具体的には、高温耐熱耐圧部材として使用される低合金耐熱鋼は、反応プロセス中の高温条件に耐え得るべく、高温でのクリープ強度の向上が求められる。また、上記の低合金耐熱鋼が、寒冷地で使用される場合を考慮すると、低温環境下においてさらに優れた靱性を示すこと、つまり、低温での靱性の向上が求められる。
本開示の目的は上記の問題を解決し、Cr含有量が3%以下の低合金鋼の利点を生かすことを前提として500℃以上といった高温でのクリープ強度(以下、単に「クリープ強度」ともいう。)及び低温靱性(以下、単に「靱性」ともいう。)に優れた低合金耐熱鋼、及び低合金耐熱鋼の製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段は、次の態様を含む。
<1>
質量%で、
C:0.04〜0.10%、
Si:0.01〜0.50%、
Mn:0.10〜0.60%、
Cr:1.75〜3.00%、
Mo:0.01〜0.30%、
W:1.20〜2.00%、
V:0.10〜0.50%、
Nb:0.01〜0.10%、
Ti:0.005〜0.060%、
Al:0.001〜0.030%、
B:0.0005〜0.0060%、
N:0.0010〜0.0100%、
P:0.030%以下、
S:0.010%以下、
Ni:0〜0.40%、
Cu:0〜0.40%、
Ta:0〜0.10%、
Co:0〜1.00%、
La:0〜0.20%、
Ce:0〜0.20%、
Y:0〜0.20%、
Ca:0〜0.20%、
Zr:0〜0.20%、及び
Mg:0〜0.0500%、
を含み、残部がFe及び不純物からなり、
旧オーステナイト粒の平均粒径が30μm以下かつ前記平均粒径の標準偏差が15μm以下であり、金属組織全体に対するベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率が95%以上である低合金耐熱鋼。
<2>
Ni:0.01〜0.40%、
Cu:0.01〜0.40%、
Ta:0.001〜0.10%、
Co:0.01〜1.00%、
から選択される少なくとも1種の元素を含有する<1>に記載の低合金耐熱鋼。
<3>
La:0.01〜0.20%、
Ce:0.01〜0.20%、
Y:0.01〜0.20%、
Ca:0.01〜0.20%、
Zr:0.01〜0.20%、及び
Mg:0.0005〜0.0500%、
から選択される少なくとも1種の元素を含有する<1>又は<1>に記載の低合金耐熱鋼。
<4>
鋼に対してAc1変態点未満の温度かつ以下に示すパラメータAが20000以上となる条件で加熱を行う予備熱処理の工程と、
前記予備熱処理された前記鋼に対して1000℃以上の温度でオーステナイト化した後、放冷する焼きならしの工程と、
前記焼きならしされた前記鋼をAc1変態点未満の温度で焼き戻す工程と、
を含む<1>〜<3>のいずれか1項に記載の低合金耐熱鋼の製造方法。
A=(T+273.15)×(20+log10t)
ここで、T:予備熱処理の保持温度(℃)、t:予備熱処理の保持時間(h)である。
本開示の一態様によれば、高温でのクリープ強度及び低温での靱性に優れた低合金耐熱鋼、及び低合金耐熱鋼の製造方法が提供される。
以下、本開示の低合金耐熱鋼について説明する。
なお、本開示において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。また、本開示において、「〜」を用いて表される数値範囲は、特に断りの無い限り、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、「〜」の前後に記載される数値に「超」又は「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値又は上限値として含まない範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。加えて、ある段階的な数値範囲の下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。

また、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本開示における「低合金」とは、合金元素の総含有量を限定するものではなく、各元素の含有量がそれぞれ上記範囲内であれば、本開示に係る低合金耐熱鋼に含まれる。
<低合金耐熱鋼>
本開示に係る低合金耐熱鋼は、質量%で、
C:0.04〜0.10%、
Si:0.01〜0.50%、
Mn:0.10〜0.60%、
Cr:1.75〜3.00%、
Mo:0.01〜0.30%、
W:1.20〜2.00%、
V:0.10〜0.50%、
Nb:0.01〜0.10%、
Ti:0.005〜0.060%、
Al:0.001〜0.030%、
B:0.0005〜0.0060%、
N:0.0010〜0.0100%、
P:0.030%以下、
S:0.010%以下、
Ni:0〜0.40%、
Cu:0〜0.40%、
Ta:0〜0.10%
Co:0〜1.00%、
La:0〜0.20%、
Ce:0〜0.20%、
Y:0〜0.20%、
Ca:0〜0.20%、
Zr:0〜0.20%、及び
Mg:0〜0.0500%、
を含み、残部がFe及び不純物からなり、
旧オーステナイト粒の平均粒径が30μm以下かつ前記平均粒径の標準偏差が15μm以下であり、金属組織全体に対するベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率が95%以上である。
本開示の低合金耐熱鋼を上記構成とすること(すなわち、本開示の低合金耐熱鋼が上記の化学組成、及び上記の金属組織を有すること)で、高温でのクリープ強度及び低温での靱性に優れた低合金耐熱鋼が得られる。その理由は、次に述べる知見に基づくものと考えられる。
上記の化学組成を有する低合金耐熱鋼の製造方法において、Ac1点以上の温度で焼きならしを行うと、メモリー効果が起こることがある。メモリー効果とは、低炭素鋼がAc1点以上に加熱された際に、元々のオーステナイト粒を記憶し、元々のオーステナイト粒へ変化するようにα→γ変態が起こることである。つまり、メモリー効果とは、Ac1点以上に加熱された際に、旧オーステナイトが細粒化せずに粗大粒子として鋼中の金属組織に残る現象である。この粗大粒部が鋼中に存在すると、クリープ強度、靱性等が低下する原因となるため、好ましくない。
特に、鋼が次の(1)〜(3)の条件を満たすときに、メモリー効果が顕著に生じる傾向がある。
(1)金属組織が、マルテンサイトもしくはベイナイトの単一組織、またはこれらの複合組織である。
(2)化学組成において、C含有量が0.1質量%以下という低炭素のものである。
(3)Ac1点以上の温度で加熱するときに、許容量以上の残留オーステナイトが存在している。
本開示の低合金耐熱鋼の製造方法では、上記の焼きならしを行う前に、予め熱処理(以下、「予備熱処理」ともいう。)を行う。予備熱処理を行うことにより、残留オーステナイトの量が減少する。その結果、焼きならしにおいて、メモリー効果の発生が抑制され、得られる鋼中の旧オーステナイト粒が細粒化すると共に、その粒径のバラツキが抑制されるため、高温クリープ強度及び低温靱性に優れた低合金耐熱鋼が得られると考えられる。
本開示に係る低合金耐熱鋼の化学組成、金属組織、熱処理方法を限定した理由について以下に詳しく説明する。なお、以下の説明において、化学組成の含有量の%表示はすべて質量%を意味する。
[化学組成]
C:0.04〜0.10%
Cは、オーステナイト安定化元素として組織を安定化する。また、本開示の低合金耐熱鋼は、好ましくはマルテンサイトもしくはベイナイトの単一組織またはこれらの混合組織であり、さらに好ましくはベイナイトの単一組織であるが、C含有量はこれらの組織のバランス制御のためにも重要である。さらに、V、Nb、Ti等の析出強化型の元素を含む場合には、これらの元素とMX型微細炭化物を形成し、高温強度の向上に寄与する。ただし、C含有量が0.04%未満では上記の効果が得られなく、また焼入性が低下してクリープ強度と靱性を損なう。一方、C含有量が0.10%を超えると、析出炭化物が粗大化し、クリープ強度及び靭性を損なう。したがって、C含有量は0.04〜0.10%とする。C含有量は好ましくは、0.05〜0.08%である。
Si:0.01〜0.50%
Siは必要により含有させる元素で、脱酸剤として有効な元素あり、含有させると鋼の耐水蒸気酸化特性を高める元素でもある。この効果は、Si含有量が0.01%以上で得られる。しかし、0.50%を超えてSiを含有させると靱性が著しく低下し、クリープ強度に対しても有害である。したがって、Si含有量は0.01〜0.50%とする。Si含有量は好ましくは、0.10〜0.30%である。
Mn:0.10〜0.60%
Mnは、溶製時の脱硫及び脱酸効果によって熱間加工性を向上させる他、焼入性を向上させ、ベイナイトまたはマルテンサイトの組織とする元素である。これらの効果はMn含有量が0.10%以上で得られる。しかし、0.60%を超えて含有させるとクリープ強化に有効な微細な炭化物の安定性を損ない、高温長時間のクリープ強度が低下する。したがって、Mn含有量は0.10〜0.60%とする。Mn含有量は、好ましくは、0.30〜0.50%である。
Cr:1.75〜3.00%
Crは、耐酸化性と高温耐食性を改善するため不可欠な元素である。また、Crを含有すると、焼入れ性が向上するため、ベイナイトまたはマルテンサイトの組織とすることができる。Cr含有量が1.75%未満ではこれらの効果は得られない。一方、Cr含有量が3.00%を超えると粗大な炭化物が析出し、クリープ強度及び靭性が低下する。したがってCr含有量は1.75〜3.00%とする。Cr含有量は、好ましくは2.00%〜2.75%である。
Mo:0.01〜0.30%
Moは、固溶強化の作用を有しており、強度の向上に寄与する。また、MoC炭化物又はMX型炭化物などの微細析出物を形成するため、析出強化作用も有する。これらの効果は、Mo含有量が0.01%以上で得られる。一方、Mo含有量が0.30%を超えて過剰に含有させると、M23又はMC等の粗大な炭化物の析出量が増加し、靱性やクリープ強度に悪影響を与える。したがって、Moの含有量は0.01〜0.30%とした。好ましいMoの含有量は0.05〜0.25%である。
W:1.20〜2.00%
Wは、Moと同様固溶強化に寄与し、より高温のクリープ強度向上に有効である。また、この効果は、Moよりも大きい。加えて、焼入れ性が向上するため、ベイナイト又はマルテンサイト組織とすることができる。この効果は、W含有量が1.20%以上で得られる。しかし、W含有量が2.00%を超えると、長時間使用中に粗大なMC型析出物を形成して、クリープ強度や靱性を損なう。したがって、W含有量は1.20〜2.00%とする。好ましいWの含有量は、1.40〜1.80%である。
V:0.10〜0.50%
Vは、VはMX型の微細炭窒化物を形成し、高強度化に寄与する。しかし、V含有量が0.10%未満では、これらの効果は得られない。一方、V含有量が0.50%を超えると、MX型の炭窒化物が粗大化して、かえってクリープ強度と靱性を損なう。したがって、V含有量は0.10〜0.50%とする。好ましいV含有量は、0.15〜0.25%である。
Nb:0.01〜0.10%
Nbは、Vと同様にMX型の微細炭窒化物を形成し、高強度化に寄与する。さらに、NbはTiと複合して含有させれば、(Nb、Ti)(N、C)が複合析出する。複合析出した(Nb、Ti)(N、C)は広い温度範囲に渡って微細、かつ安定であるため結晶粒粗大化防止に有効である。しかしながら、Nb含有量が0.01%未満ではこれらの効果が得られない。一方、Nb含有量が0.10%を超えると粗大な炭窒化物を形成してかえって靱性を劣化させる。したがって、Nb含有量は0.01〜0.10%とする。好ましいNb含有量は、0.03〜0.08%である。
Ti:0.005〜0.060%
Tiは、C及びNと結合して微細な炭窒化物を形成して結晶粒の粗粒化を防止し、靱性の向上、焼戻し脆化及びSR割れ抑制に有効である。この効果はTi含有量が0.005%以上で得られる。しかしながら、Ti含有量が0.060%を超えると、粗大な炭窒化物を形成してかえって靱性を劣化させる。したがって、Ti含有量は0.005〜0.060%とする。好ましいTi添加含有量は、0.008〜0.020%である。
Al:0.001〜0.030%
Alは脱酸剤とし有効な元素である。また、微量含有させることで固溶強化に寄与し、クリープ強度向上に寄与する。この効果はAl含有量が0.001%以上で得られる。しかし、Al含有量が0.030%を超えるとクリープ強度と加工性を損なう。したがって、Al含有量は0.001〜0.030%とする。好ましいAl含有量は0.005〜0.025%である。なお、本開示でいうAlとは、酸可溶Al(sol.Al)のことである。
B:0.0005〜0.0060%
Bは焼入性の向上による安定した強度の確保に有効な元素である。また、粒界に偏析することで粒界強度を上げクリープ強度を向上させる。この効果は、B含有量が0.0005%以上で得られる。しかし、B含有量が0.0060%を超えるとホウ素化合物を粗大化させて強度低下や靱性低下の原因となる。したがって、B含有量は0.0005〜0.0060%とする。B含有量の好ましい範囲は0.0010〜0.0045%である。
N:0.0010〜0.0100%以下
Nは窒化物を形成する。Nは、微細な窒化物を形成した場合はクリープ強度の向上、結晶粒細粒化による靱性改善に寄与する。この効果はN含有量が0.0010%以上で得られる。一方、N含有量が0.0100%を超えると窒化物が粗大化し、靱性が劣化する。また、TiやAlによって固定できない場合、BNを形成し、焼入れ性が低下し、強度及び靱性が損なわれる。したがって、Nの含有量は0.0010〜0.0100%とする。好ましいN含有量は、0.0015〜0.0045%である。
P:0.030%以下
Pは不純物元素であり、粒界に偏析することで、靭性及びクリープ延性を低下させる。したがって、極力減らすことが好ましく、P含有量は0.030%以下とする。
Pの含有量は少なければ少ないほどよく、つまり含有量が0%に近いほどよいが、極度の低減は製造コストの増大を招くため、好ましい下限は0.003%以上、さらに好ましい下限は0.005%以上である。
S:0.010%以下
Sは、Pと同様に不純物元素であり、粒界に偏析することで、靭性及びクリープ延性を低下させる。したがって、極力減らすことが好ましく、S量は0.010%以下とする。
Sの含有量は少なければ少ないほどよく、つまり含有量が0%に近いほどよいが、極度の低減は製造コストを極端に増大させる。そのため、S含有量の好ましい下限は0.001%、さらに好ましい下限は0.003%である
本開示の低合金耐熱鋼は、前記の合金成分の他に、次に述べる合金元素を選択的に含有することができる。
本開示の低合金耐熱鋼は、Ni、Cu、Ta、及びCoから選択される少なくとも1種の元素を含有してもよい。
Ni:0〜0.40%
Niは必要により含有させる元素で、含有させればオーステナイト安定化に寄与する元素であり、かつ固溶強化作用を有する。そのため、クリープ強度の向上及び長時間使用時でのクリープ強度の低下防止に有効である。また、靭性を向上させる作用がある。これらの効果をより確実に得るには、Ni含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Ni含有量は0.40%を超えるとクリープ強度が低下する。また、経済性の観点からも過剰含有は好ましくない。したがって、含有させる場合の元素量は、Niは0.40%以下とする。また、好ましいNi含有量は0.01〜0.20%であり、より好ましいNi含有量は0.03〜0.10%である。
Cu:0〜0.40%
Cuは必要により含有させる元素で、含有させればオーステナイト安定化に寄与する元素であり、かつ固溶強化作用を有する。そのため、クリープ強度の向上及び長時間使用時でのクリープ強度の低下防止に有効である。また、靭性を向上させる作用がある。これらの効果を確実に得るには、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Cu含有量が0.40%を超えるとクリープ強度が低下する。また、経済性の観点からも過剰含有は好ましくない。したがって、含有させる場合のCu含有量は、0.40%以下とする。また、好ましいCu含有量は0.01〜0.20%であり、より好ましいCu含有量は0.03〜0.10%である。
Ta:0〜0.10%
Taは、必要により含有させる元素で、含有させればV及びNbと同様にMX型の微細炭窒化物を形成し、高強度化に寄与する。この効果を確実に得るには、Ta含有量を0.001%以上とすることが好ましい。一方、Ta含有量が0.10%を超えると粗大な炭窒化物を形成してかえって靱性を劣化させる。したがって、Taを含有させる場合は、0.10%以下とする。また、好ましいTa含有量は0.001〜0.08%であり、より好ましいTa含有量は0.002〜0.04%である。
Co:0〜1.00%
Coは必要により含有させる元素で、含有させればオーステナイト安定化に寄与する元素であり、かつ固溶強化作用を有する。そのため、クリープ強度の向上及び長時間使用時でのクリープ強度の低下防止に有効である。また、靭性を向上させる作用がある。これらの効果を確実に得るには、Co含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Co含有量が1.00%を超えるとクリープ強度が低下する。また、経済性の観点からも過剰含有は好ましくない。したがって、含有させる場合の元素量は、Coは1.00%以下とする。また、好ましいCo含有量は0.01〜0.50%であり、より好ましいCo含有量は0.05〜0.30%である。
本開示の低合金耐熱鋼は、前記の合金成分の他に、次に述べる合金元素を選択的に含有することができる。
本開示の低合金耐熱鋼は、La、Ce、Y、Ca、Zr、及びMgから選択される少なくとも1種の元素を含有してもよい。
La、Ce、Y、Ca、Zr、及びMgは、不純物であるS、Oと結合し、鋼中の清浄度を上げることで、靱性、強度、延性が改善される。
La、Ce、Y、Ca、Zrはそれぞれ、0〜0.20%の範囲で含有されることが好ましく、0.01〜0.20%の範囲で含有されることがより好ましい。Mgは0〜0.0500%の範囲の範囲で含有されることが好ましく、0.0005〜0.0500%の範囲で含有されることがより好ましい。
La、Ce、Y、Ca、Zrの含有量の下限は、上記効果を確実に得るには、各々、0.01%以上とすることが好ましい。また、Mg含有量の下限は、0.0005%以上とすることが好ましい。
一方、La、Ce、Y、Ca、及びZr含有量の少なくとも1つが0.20%超え、または、Mg含有量が0.0500%を超えると介在物が増加し、かえって靱性など損なう。
本開示の低合金耐熱鋼は、上述の各元素を含み、残部がFe及び不純物からなる化学組成のものである。
なお、「不純物」とは鉄鋼材料を工業的に製造する際に、鉱石またはスクラップ等の原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入するものを指す。また、不純物としては、H、Zn、Pb、Cd、As等が挙げられる。これらの元素は、例えば0.01%以下である。
[金属組織]
次に、本開示の低合金耐熱鋼の金属組織について説明する。
本開示の低合金耐熱鋼は、金属組織全体に対するベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率が95%以上である金属組織を有する。本開示の低合金耐熱鋼の組織は、実質的に、ベイナイトもしくはマルテンサイトの単一組織、またはこれらの混合組織からなる。また、焼戻し時に生成する少量のフェライトを含む場合もある。
金属組織全体に対するベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率は、クリープ強度及び靱性の向上の観点から、97%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
金属組織全体に対するベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率が95%未満であると、目的とするクリープ強度、及び靱性が得られないことがある。
本開示の低合金耐熱鋼の金属組織において、旧オーステナイト粒の平均粒径が30μm以下かつ前記平均粒径の標準偏差が15μm以下である。
旧オーステナイト粒の平均粒径が30μmを超えると、破壊の進展を抑制する障壁が少なくなるため、低温靱性が低下する。また、粒径の標準偏差が15μmを超えると、一部の粗大な結晶粒によって破壊が大きく進展するため、低温靱性が低下する。
旧オーステナイト粒の平均粒径の下限値は、クリープ強度の向上の観点から、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上である。
[製造方法]
本開示の低合金耐熱鋼の製造方法では、鋼に対してAc1変態点未満の温度かつ以下に示すパラメータAが20000以上となる条件で加熱を行う予備熱処理の工程と、
前記予備熱処理された前記鋼に対して1000℃以上の温度でオーステナイト化した後、放冷する焼きならしの工程と、前記焼きならしされた前記鋼をAc1変態点未満の温度で焼き戻す工程と、を含む。
A=(T+273.15)×(20+log10t)
ここで、T:予備熱処理の保持温度(℃)、t:予備熱処理の保持時間(h)である。
本開示の低合金耐熱鋼の製造方法において、上記の予備熱処理の工程を含む理由を以下に示す。
(熱処理方法)
旧オーステナイト粒を微細化する方法としては、例えば以下の(方法1)〜(方法5)が考えられる。
(方法1):強加工により多量のひずみを導入することで再結晶させ、微細な結晶粒を生成する方法。
(方法2):熱間加工の場合、低温で加工を行い、結晶粒の成長を抑制する方法。
(方法3):W及びMoの含有量を増やして粒界の移動を抑制する方法。
(方法4):MX炭窒化物(MはTiまたはNb、XはCまたはN)のピンニング効果を利用して粒成長を抑える方法。
(方法5):焼ならし前に残留オーステナイト量を減少させることで、メモリー効果を抑制し、焼ならし時の粗粒化を抑える方法。
例えば、上記の方法1では、材料の厚みによっては、十分な加工が加えられず、効果的に再結晶を活用することが難しい場合がある。
また、上記の方法2では、材料の厚みによっては、加工中に材料の温度が下がり、変形抵抗が増すため加工が実施できない場合がある。
また、上記の方法3では、前述した化学組成の範囲から外れる過剰な添加をすると、析出物が粗大になり靱性が悪化することがある。
また、上記の方法4では、1000℃を超える高温でオーステナイト化を行うと、MX炭窒化物が固溶し、ピンニング効果が失われる結果、オーステナイト化中に結晶粒が粗大に成長するため、効果的に活用することが難しい。また、前述した化学組成の範囲から外れる過剰な含有量であると、最終的な析出物が粗大になり靱性が悪化することがある。
本開示の低合金耐熱鋼は、次のような製造方法で製造できる。
即ち、素材(ビレット、スラブ等)を、例えば加熱した後、オーステナイト温度で加工を加え、300℃以下に冷却する。その後、Ac1変態点未満の温度にてパラメータA=(T+273.15)×(20+log10t)が20000以上となるように、熱処理を行う。以降、この熱処理を「予備熱処理」とも呼ぶ。ここで、Tは予備熱処理の保持温度(℃)、tは予備熱処理の保持時間(h)である。予備熱処理後に1000℃以上の焼ならし温度まで加熱して焼ならしを行う。次いで、Ac1変態点未満の焼戻し温度に加熱して焼戻しを行う。
本開示の低合金耐熱鋼の製造方法では、1000℃以上という高温で焼ならしを実施している。これは高温での焼ならしによって、MX炭窒化物(MはTiまたはNb、XはCまたはN)が固溶し、その後の焼戻しにて固溶したTiまたはNbがMX炭窒化物として微細に析出することで、優れたクリープ強度が得られるためである。
しかしながら、単に1000℃以上という高温で焼きならしを行なうと、旧オーステナイト粒の粗大化が、低温で焼ならしを行なう場合と比べて促進されるため、低温靱性が低下しやすくなる。
そこで、本開示で規定する組織を得るためには、焼ならしを実施する前の予備熱処理が特に重要である。従って、旧オーステナイト粒の粗大化を防ぐために、焼ならしの前に所定の予備熱処理を実施する必要がある。これは、焼ならし前の残留オーステナイト量を減少させることでメモリー効果を抑制でき、旧オーステナイト粒の成長を抑えることができるためである。焼ならし前の予備熱処理の条件は以下に示すパラメータAを20000以上にすることで、残留オーステナイト量を減少させることができるため、目的とする組織が得られる。また、パラメータAの上限値は、例えば製造効率の向上及びクリープ強度の向上の観点から、好ましくは23000以下であり、より好ましくは22000以下である。
A=(T+273.15)×(20+log10t)
ここで、T:熱処理の保持温度(℃)、t:熱処理の保持時間(h)である。
本開示の低合金耐熱鋼の焼きならし前の残留オーステナイト量は、クリープ強度及び靱性の向上の観点から、金属組織全体に対して面積率で、0.3%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましい。
なお、鋼中の金属組織における各組織の面積率は、後述の実施例で示される方法により測定される。
次に、本開示の低合金耐熱鋼の製造方法における各工程について、詳細に説明する。また、本開示の低合金耐熱鋼の製造方法では、次に示す工程を含んでいてもよい。
(1)成形工程
本開示の低合金耐熱鋼の製造においては、前述の化学組成(化学成分)を有する素材(鋼材)を低合金耐熱鋼の最終的な形状に成形する。成形工程には、最終的な形状とするための変形を伴う全ての工程が含まれ、例えば鋳造、鍛造、圧延加工等の工程が含まれる。
成形工程としては、例えば、素材を溶解して鋳込んだインゴットに対し、熱間鍛造、及び熱間圧延により成形するか、又は熱間鍛造、熱間圧延、及び冷間加工により成形し、低合金耐熱鋼の最終的な形状とする工程が挙げられる。
(2)予備熱処理工程
成型工程後に、鋼に対してAc1変態点未満の温度かつ既述のパラメータAが20000以上となる条件で加熱を行う予備熱処理の工程(「予備熱処理工程」ともいう。)を行う。予備熱処理の温度(すなわち、熱処理の保持温度T(℃))は、既述のパラメータAを満たせば特に限定されるものでないが、製造性の観点から、400℃〜770℃であることが好ましく、500℃〜770℃であることがより好ましく、700℃〜770℃であることがさらに好ましい。同様に、予備熱処理の保持時間(すなわち、熱処理の保持時間t)は、10分以上100時間以下であることが好ましい。
(3)焼ならし熱処理工程
予備熱処理された前記鋼材に対して1000℃以上の温度でオーステナイト化した後、放冷する工程(「焼きならし熱処理工程」ともいう。)を行う。例えば、1000℃〜1100℃で0.1時間〜1.5時間の条件で、焼ならし熱処理を施すことが好ましい。また、放冷温度は特に限定されるものではないが、室温(例えば、25℃)まで放冷することが好ましい。
(4)焼戻し熱処理工程
さらに、焼ならし熱処理工程後に、Ac1変態点未満の温度で焼き戻す工程(「焼戻し熱処理工程」ともいう。)を施す。例えば、670℃〜790℃で0.2時間〜5時間の条件で、焼戻し熱処理を行うことが好ましい。
なお、上記方法は一例であり、例えば、焼ならし熱処理及び焼戻し熱処理に関して、鋼成分及びその他の工程における条件によっては、上記好ましい条件を満たさなくても本開示の低合金耐熱鋼を製造することができる場合がある。
[用途]
本開示の低合金耐熱鋼の用途は限定されないが、例えば発電用ボイラ等、高温で使用される機器に好適に用いられる。
尚、高温で使用される機器の例としては、例えば排熱回収ボイラ用配管;石炭火力発電プラント、石油火力発電プラント、ごみ焼却発電プラント及びバイオマス発電プラント等のボイラ用配管;石油化学プラントにおける分解管;等が挙げられる。
ここで、本開示における「高温で使用」とは、例えば350℃以上700℃以下(さらには400℃以上650℃以下)の環境で使用される態様が挙げられる。
例えば、本開示の低合金耐熱鋼により成形された鋼管を製造する場合、鋼管本体に本開示の低合金耐熱鋼を用いること以外は公知の造管技術を適用することができる。具体的には、本開示の低合金耐熱鋼により成形されたシームレス鋼管としてもよいし、本開示の低合金耐熱鋼が管状に成形されて溶接された溶接管としてもよい。
以下、実施例によって本開示に係る低合金耐熱鋼をより具体的に説明する。尚、本開示に係る低合金耐熱鋼はこれらの実施例に限定されるものではない。
30kg真空誘導溶解炉にて、表1に示す化学組成の23種の鋼を溶解した。得られたインゴットを同じ圧下量となるように熱間鍛造後、熱間圧延にて20mm厚の鋼板とした。この鋼板について、予備熱処理を実施し、1000〜1100℃の範囲で焼きならし処理をおこない、その後、680〜780℃の範囲で30分の焼戻処理をおこなった。焼戻しでは、いずれも鋼板のビッカース硬度が210±10の範囲内に入るように焼戻し温度を調整した。同様に予備熱処理を実施せず、焼ならし及び焼戻しのみ実施した材料を用意した。表2に、熱処理条件及びパラメータA=(273.15+T)×(20+log10t)を記載した。ここで、Tは予備熱処理の保持温度(℃)、tは予備熱処理の保持時間(h)である。また、予備熱処理を実施せずに、焼ならし及び焼戻しを実施したものを作製した。表1及び表2中のハッチングは、本開示の範囲外の成分、本開示の範囲外の金属組織、または本開示の範囲外の熱処理条件を表す。また、表1において「−」は、その成分(元素)を含まない(意図的に添加していない)ことを意味する。
上記により、29種の試験材を作製した。ここで、焼ならし前の残留オーステナイトの全金属組織に対する面積率を後述する方法で測定した。
焼戻後の鋼板から、シャルピー衝撃試験片及びクリープ試験片を採取し、以下の条件でシャルピー衝撃試験による延性−脆性遷移温度の測定、及び500℃、270MPaの条件でクリープ試験を後述する方法で行った。また、各鋼について少なくとも30個以上の旧オーステナイト粒の粒径を後述する方法で測定し、平均値で評価した。各鋼の金属組織全体に対するベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率を後述する方法により測定した。
Figure 2021195603
(1)残留オーステナイト量の測定方法
X線回折法を用いて、残留オーステナイト量を測定した。具体的には、鋼板の板厚中央部で圧延方向に沿って切断した断面をJIS規格にて#1000以上でペーパー研磨を行った後、電解研磨を実施し、測定対象となる試料を得た。電解研磨では、電解液として過塩素酸酢酸(過塩素酸:酢酸=10:90)を用いた。また、試料がマルテンサイト変態開始温度以下に曝されると、いわゆるサブゼロ処理と同様の効果により残留オーステナイトがマルテンサイトに変態してしまい、残留オーステナイト量を正確に測定できなくなる。特に0℃以下ではマルテンサイト変態が多く起こるために、電解研磨は室温で実施した。電解研磨により、ペーパー研磨によって導入されたひずみを除去する。電解研磨後の試料表面にX線を照射し、回折波を測定する。オーステナイト相特有のピークに着目し、測定した試料のピーク強度とオーステナイト単相のピーク強度の比より、残留オーステナイト量を同定する。残留オーステナイト量の同定により、測定試料の金属組織全体に対する残留オーステナイトの組織分率が算出され、これを残留オーステナイトの面積率(%)とする。結果を表2に示す。
(2)シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験片から、10mm×10mm×55mmの試験片を切り出し、ノッチを加工した2mmVノッチフルサイズシャルピー衝撃試験片を10本採取し、シャルピー衝撃試験に供した。なお、シャルピー衝撃試験は、JIS Z 2242(2005)に準拠して行った。試験は、−80℃〜+60℃にて実施し、破面遷移温度が−30℃以下となるものを「合格(可)」、−30℃より高いものを「不合格」とした。また、破面遷移温度が−40℃以下となる特に衝撃靱性に優れるものを「合格(優)」とした。結果を表3に示す。
(3)クリープ試験
直径が6mmであるクリープ試験片を用いて、標点間距離を30mmとして、500℃、270MPaの条件でクリープ破断試験を行った。なお、クリープ破断試験は、JIS Z 2271(2010)に準拠して行った。なお、クリープ破断時間が3000時間以上となるものを「合格(可)」とし、3000時間未満のものを「不合格」とした。また、クリープ破断時間が5000時間以上となる特にクリープ強度に優れるものを「合格(優)」とした。結果を表3に示す。
(4)旧オーステナイト粒径の測定方法
鋼板の板幅中心部で板厚方向及び圧延方向に沿って切断した断面を、少なくともJIS規格にて#1000以上でペーパー研磨を行った後、粒子径0.05μmのアルミナ粒子にて仕上げバフ研磨を行う。その後、コロイダルシリカにて表面を化学研磨し、ペーパー研磨による表面のひずみを取り除く。
研磨された断面の板厚中央部の金属組織400μm×400μmを観察する。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電子後方散乱法(EBSD)により、金属組織を観察する。EBSD法では電子線を照射し、測定物質表面の回折電子から生じた後方散乱より得られる菊池パターンを測定することによって、結晶情報を得ることができる。この際、各測定点の結晶構造の情報(例えばBCC構造、FCC構造など)を得ることができる。今回は、ベイナイト主体の組織なので、BCC構造の情報を得ることができる。非特許文献(新日鉄住金技報 第404号,2016,p.24−30)の方法を参考にして、特定されたBCC構造をKurjumov−Sachs(K−S)関係から、FCC構造に変換する。
EBSD法では、指定した範囲内(今回は、400μm×400μm)を特定のステップ間隔を明けて、各スポットで測定を行う。各測定スポットをFCC構造に変換した後、隣接した測定スポット間の結晶方位が15°以上異なる領域を結晶粒界と見なす。この処理を行うことで、旧オーステナイト粒を求め、粒径を算出した。菊池パターンの解析には、TSLソリューションズ社製のソフトウェアOIMを用いた。
上記条件にて、少なくとも30個以上の旧オーステナイト粒を測定し、円相当径を算出し、その算術平均値を旧オーステナイト粒の平均粒径とし、更に平均粒径の標準偏差を算出した。なお、旧オーステナイト粒の平均粒径が30μm以下かつ平均粒径の標準偏差が15μm以下のものを「合格」、旧オーステナイト粒径の平均が30μm超もしくは粒径の標準偏差が15μm超のものを「不合格」とした。
(5)ベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率の測定方法
鋼板の板幅中心部で板厚方向及び圧延方向に沿って切断した断面を、少なくともJIS規格にて#1000以上でペーパー研磨を行った後、径0.05μmのアルミナ粒子にて仕上げバフ研磨を行う。その後、ナイタール腐食(硝酸及びエタノールの混合液、本実験では硝酸:エタノール=2:98)を実施し、光学顕微鏡を用いて倍率500倍で観察することにより、ベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率を測定した。
上記条件にて、ベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率を測定した。ベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率が95%以上となるものを「可」、99%以上となるものを「優」とした。95%未満となるものを「不可」とした。結果を表2に示す。
Figure 2021195603
Figure 2021195603
表3の記号B1鋼は旧オーステナイト粒径の標準偏差、B2鋼は旧オーステナイト粒の平均粒径及び平均粒径の標準偏差、B3鋼は旧オーステナイト粒の平均粒径及び平均粒径の標準偏差、B21鋼はC含有量及びV含有量、B22−1鋼はCr含有量及び旧オーステナイト粒の平均粒径及び平均粒径の標準偏差、B22−2鋼はCr含有量、B23−1鋼はW含有量及び旧オーステナイト粒の平均粒径及び平均粒径の標準偏差、B23−2鋼はW含有量、B24−1鋼はMo含有量及びNb含有量及び旧オーステナイト粒径の標準偏差、B24−2鋼はMo含有量及びNb含有量、B25〜B30鋼はC、Mn,Cr、Mo、W、Bのいずれかの含有量が本開示の範囲外にあり、その結果、金属組織が本開示の範囲外である比較鋼である。表3から明らかなように、比較鋼は靱性もしくはクリープ強度、またはその両方が不芳である。
これに対し、本開示鋼においては、いずれも既述の化学成分及び旧オーステナイト粒の平均粒径が30μm以下かつ平均粒径の標準偏差15μm以下であることを満たしており、本開示鋼は500℃×270MPaのクリープ試験において、破断時間が3000時間以上であり、クリープ強度が良好であった。また、破面遷移温度が−30℃以下と、良好な靱性を示した。
また、特に本開示鋼A3は旧オーステナイト粒の平均粒径が10μm以上かつ30μm以下かつ好ましい化学成分範囲を満たしており、500℃×270MPaのクリープ試験において破断時間が5000h以上でありクリープ強度が特に良好であり、シャルピー試験による遷移温度が−40℃以下と特に良好であった。
本開示の低合金耐熱合金部材は、高温でのクリープ強度及び低温での靱性に優れている。このため、本開示の低合金耐熱合金部材は、ボイラ、化学工業、原子力用などの分野で熱交換器管、配管用管、耐熱バルブ、接続継手、反応容器等の耐圧部材として使用するに好適である。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.04〜0.10%、
    Si:0.01〜0.50%、
    Mn:0.10〜0.60%、
    Cr:1.75〜3.00%、
    Mo:0.01〜0.30%、
    W:1.20〜2.00%、
    V:0.10〜0.50%、
    Nb:0.01〜0.10%、
    Ti:0.005〜0.060%、
    Al:0.001〜0.030%、
    B:0.0005〜0.0060%、
    N:0.0010〜0.0100%、
    P:0.030%以下、
    S:0.010%以下、
    Ni:0〜0.40%、
    Cu:0〜0.40%、
    Ta:0〜0.10%、
    Co:0〜1.00%、
    La:0〜0.20%、
    Ce:0〜0.20%、
    Y:0〜0.20%、
    Ca:0〜0.20%、
    Zr:0〜0.20%、及び
    Mg:0〜0.0500%、
    を含み、残部がFe及び不純物からなり、
    旧オーステナイト粒の平均粒径が30μm以下かつ前記平均粒径の標準偏差が15μm以下であり、金属組織全体に対するベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率が95%以上である低合金耐熱鋼。
  2. Ni:0.01〜0.40%、
    Cu:0.01〜0.40%、
    Ta:0.001〜0.10%、
    Co:0.01〜1.00%、
    から選択される少なくとも1種の元素を含有する請求項1に記載の低合金耐熱鋼。
  3. La:0.01〜0.20%、
    Ce:0.01〜0.20%、
    Y:0.01〜0.20%、
    Ca:0.01〜0.20%、
    Zr:0.01〜0.20%、及び
    Mg:0.0005〜0.0500%、
    から選択される少なくとも1種の元素を含有する請求項1又は請求項2に記載の低合金耐熱鋼。
  4. 鋼に対してAc1変態点未満の温度かつ以下に示すパラメータAが20000以上となる条件で加熱を行う予備熱処理の工程と、
    前記予備熱処理された前記鋼に対して1000℃以上の温度でオーステナイト化した後、放冷する焼きならしの工程と、
    前記焼きならしされた前記鋼をAc1変態点未満の温度で焼き戻す工程と、
    を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の低合金耐熱鋼の製造方法。
    A=(T+273.15)×(20+log10t)
    ここで、T:予備熱処理の保持温度(℃)、t:予備熱処理の保持時間(h)である。
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