本明細書は、スルファミダーゼ、すなわちN−スルフォグルコサミンスルフォヒドロラーゼ(「SGSH」)欠損症に罹患した対象を治療するための方法および組成物について記載する。いくつかの態様において、本明細書に記載の方法は、治療的有効量の、二機能性の融合抗体またはタンパク質を全身投与することにより、SGSHをCNSへ送達することを特徴とする。いくつかの態様において、二機能性の融合抗体は、内因性血液脳関門(BBB)受容体に対する抗体およびSGSHのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、二機能性の融合抗体は、遺伝的にSGSHと融合したヒトインスリン抗体(HIR Ab)(「HIR Ab−SGSH融合抗体」)である。いくつかの態様において、HIR Ab−SGSH融合抗体は、SGSH酵素活性を保持しながらも、インスリン受容体の細胞外ドメインに結合し、血液脳関門(「BBB」)を超えてCNS内へ輸送される。いくつかの態様において、HIR Abは、BBB上の内因性インスリン受容体に結合し、SGSHを脳内に輸送する分子的トロイの木馬として働く。いくつかの態様において、全身投与に用いられるHIR Ab−SGSH融合抗体の治療的に有効な全身用量は、一部、本明細書に記載されるように、末梢血からの融合抗体の特異的なCNS取り込み特性に基づいている。
ある態様において、本明細書は、治療が必要な対象の中枢神経系におけるSGSH欠損症の治療方法であり、治療的有効用量の、SGSH活性を有する融合抗体を該対象に全身投与することを特徴とする方法を提供する。いくつかの態様において、融合抗体は、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列、SGSHのアミノ酸配列、および免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、融合抗体は、内因性BBB受容体(例えば、ヒトインスリン受容体)の細胞外ドメインに結合し、ヘパラン硫酸の非還元末端グルコサミニド残基からのN−結合硫酸基の加水分解を触媒する。いくつかの態様において、SGSHのアミノ酸配列は、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。
いくつかの態様において、融合抗体は、スルファターゼ修飾因子タイプ1(SUMF1)により翻訳後修飾されている。いくつかの態様において、翻訳後修飾は、システインからホルミルグリシンへの変換を含む。いくつかの態様において、融合抗体はホルミルグリシンを含む。
いくつかの態様において、SGSHは、単体(separate entity)としてのその活性に比べ、その活性の少なくとも20%の活性を保持している。いくつかの態様において、SGSHおよび免疫グロブリンはそれぞれ、単体としてのその活性に比べ、その活性の少なくとも20%を保持している。
いくつかの態様において、少なくとも約10μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約20μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約30μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約40μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約50μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約100μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約200μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約300μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約400μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約500μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約1000μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約5μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約1μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約0.5μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約0.1μgのSGSH酵素が脳へ送達される。
いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると(normalized per 50 kg body weight)、少なくとも約200μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約250μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約300μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約400μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約500μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約1000μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約2000μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約150μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約100μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約50μgのSGSH酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約10μgのSGSH酵素が脳へ送達される。
いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.5mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.6mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.7mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.8mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.9mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約1mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約2mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約5mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.4mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.3mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.2mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.1mg/Kg体重を含む。
いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約1000ユニット(unit)/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約1500ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約2000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約3000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約4000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約5000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約10,000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約15,000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約20,000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約25,000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約900ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約800ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約700ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約600ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約500ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約400ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約300ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約200ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約100ユニット/Kg体重を含む。
いくつかの態様において、融合抗体のSGSH比活性は少なくとも1000ユニット/mgタンパク質である。いくつかの態様において、融合抗体のSGSH比活性は少なくとも1500ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体のSGSH比活性は少なくとも2000ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体のSGSH比活性は少なくとも3000ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体のSGSH比活性は少なくとも4000ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体のSGSH比活性は少なくとも5000ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体のSGSH比活性は少なくとも10,000ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体のSGSH比活性は少なくとも12,000ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体のSGSH比活性は少なくとも15,000ユニット/mgである。
いくつかの態様において、全身投与は、非経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経鼻投与、動脈内投与、経皮投与、または吸入投与である。
いくつかの態様において、融合抗体はキメラ抗体である。いくつかの態様において、融合抗体はヒト化抗体である。
いくつかの態様において、免疫グロブリン重鎖はIgGの免疫グロブリン重鎖である。いくつかの態様において、免疫グロブリン重鎖はIgG1クラスの免疫グロブリン重鎖である。
いくつかの態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、4以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、6以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、または3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含み、ここで該単一アミノ酸突然変異は、置換、欠失、または挿入である。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、6以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、および3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、6以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、および1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、および1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、または配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
さらなる態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
いくつかの態様において、免疫グロブリン軽鎖はκまたはλクラスの免疫グロブリン軽鎖である。
いくつかの態様において、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、5以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、または5以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含み、ここで該単一アミノ酸突然変異は、置換、欠失、または挿入である。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、5以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、および5以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、および3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、および1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、または配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
さらなる態様において、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
いくつかの態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含み、かつ、免疫グロブリン軽鎖は、配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
いくつかの態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は配列番号7と少なくとも90%同一であり、かつ、軽鎖免疫グロブリンのアミノ酸配列は配列番号8と少なくとも90%同一である。
いくつかの態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は配列番号7と少なくとも95%同一であり、かつ、軽鎖免疫グロブリンのアミノ酸配列は配列番号8と少なくとも95%同一である。
いくつかの態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は配列番号7を含み、かつ、軽鎖免疫グロブリンのアミノ酸配列は配列番号8を含む。
いくつかの態様において、SGSHは配列番号9と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、SGSHは配列番号9と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、SGSHは配列番号9のアミノ酸配列を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列は配列番号7と少なくとも90%同一、軽鎖免疫グロブリンのアミノ酸配列は配列番号8と少なくとも90%同一であり、かつ、SGSHのアミノ酸配列は配列番号9と少なくとも95%同一であるかまたは配列番号9を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列は配列番号8を含み、免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列は配列番号8を含み、かつ、SGSHのアミノ酸配列は配列番号9を含む。
いくつかの態様において、本明細書における融合抗体は、内因性BBB受容体媒介輸送系の結合によりBBBを通過する。いくつかの態様において、融合抗体は、インスリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体、およびインスリン様成長因子(IGF)受容体からなる群から選択される内因性BBB受容体を介してBBBを通過する。いくつかの態様において、融合抗体はインスリン受容体の結合によりBBBを通過する。
いくつかの態様において、全身投与は、非経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経鼻投与、動脈内投与、経皮投与、または吸入投与である。
いくつかの態様において、中枢神経系におけるSGSH欠損症は、ムコ多糖症IIIA型(MPS−IIIA)またはサンフィリッポ症候群A型である。
いくつかの態様において、本明細書は、治療が必要な対象の中枢神経系におけるN−スルフォグルコサミンスルフォヒドロラーゼ(SGSH)欠損症の治療方法であり、該方法が、治療的有効用量の、SGSH活性を有する融合抗体を該対象に全身投与することを特徴とし、融合抗体が、(a)免疫グロブリン軽鎖およびSGSHのアミノ酸配列を含む融合タンパク質、ならびに(b)免疫グロブリン重鎖を含み、融合抗体が血液脳関門(BBB)を通過する方法を提供する。いくつかの態様において、SGSHのアミノ酸配列は、免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。
いくつかの態様において、本明細書は、治療が必要な対象の中枢神経系におけるSGSH欠損症の治療方法であり、該方法が、治療的有効用量の、SGSH活性を有する融合抗体を該対象に全身投与することを特徴とし、融合抗体が、(a)配列番号10と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む融合タンパク質、および(b)免疫グロブリン軽鎖を含む方法を提供する。いくつかの態様において、融合抗体は内因性BBB受容体の細胞外ドメインに結合する。いくつかの態様において、内因性BBB受容体はヒトインスリン受容体である。いくつかの態様において、融合抗体は、ヘパラン硫酸からのN−結合硫酸エステルの加水分解を触媒する。いくつかの態様において、融合タンパク質は、配列番号10と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、融合タンパク質は配列番号10のアミノ酸配列を含む。
いくつかの態様において、本明細書は、SGSH活性を有する融合抗体であり、(a)配列番号10と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む融合タンパク質、および(b)免疫グロブリン軽鎖を含む融合抗体を提供する。いくつかの態様において、融合抗体は内因性BBB受容体の細胞外ドメインに結合する。いくつかの態様において、内因性BBB受容体はヒトインスリン受容体である。いくつかの態様において、融合抗体は内因性BBB受容体に結合する抗体である。いくつかの態様において、融合抗体はヒトインスリン受容体に結合する抗体である。いくつかの態様において、融合抗体は、ヘパラン硫酸からのN−結合硫酸エステルの加水分解を触媒する。いくつかの態様において、融合タンパク質は、配列番号10と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、融合タンパク質は、配列番号10のアミノ酸配列を含む。
いくつかの態様において、本明細書は、SGSH活性を有する融合抗体であり、(a)免疫グロブリン重鎖およびSGSHのアミノ酸配列を含む融合タンパク質、および(b)免疫グロブリン軽鎖を含む融合抗体を提供する。いくつかの態様において、SGSHのアミノ酸配列は、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。いくつかの態様において、本明細書は、SGSH活性を有する融合抗体であり、(a)免疫グロブリン軽鎖およびSGSHのアミノ酸配列を含む融合タンパク質、および(b)免疫グロブリン重鎖を含む融合抗体を提供する。いくつかの態様において、SGSHのアミノ酸配列は、免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。いくつかの態様において、融合抗体は、内因性BBB受容体の細胞外ドメインに結合する。いくつかの態様において、内因性BBB受容体はヒトインスリン受容体である。いくつかの態様において、融合抗体は内因性BBB受容体に結合する抗体である。いくつかの態様において、融合抗体はヒトインスリン受容体に結合する抗体である。いくつかの態様において、融合抗体は、ヘパラン硫酸からのN−結合硫酸エステルの加水分解を触媒する。
いくつかの態様において、本明細書における融合タンパク質はさらに、SGSHのアミノ酸配列と、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端との間にリンカーを含む。
いくつかの態様において、本明細書は、治療的有効量の本明細書に記載の融合抗体、および医薬的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物を提供する。
いくつかの態様において、本明細書は、本明細書に記載の融合抗体をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。いくつかの態様において、単離されたポリヌクレオチドは配列番号14の核酸配列を含む。いくつかの態様において、本明細書は、本明細書で提供する単離されたポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。いくつかの態様において、本明細書は、配列番号14の核酸配列を含むベクターを提供する。いくつかの態様において、本明細書は、本明細書に記載のベクターを含む宿主細胞を提供する。いくつかの態様において、宿主細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。いくつかの態様において、本明細書は、治療が必要な対象の中枢神経系におけるSGSH欠損症の治療方法であり、該方法が、治療的有効用量の、SGSH活性を有する融合抗体を該対象に全身投与することを特徴とし、融合抗体が、(a)免疫グロブリン重鎖およびSGSHのアミノ酸配列を含む融合タンパク質、および(b)免疫グロブリン軽鎖を含む方法を提供する。いくつかの態様において、SGSHのアミノ酸配列は、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。いくつかの態様において、本明細書は、治療が必要な対象の中枢神経系におけるSGSH欠損症の治療方法であり、該方法が、治療的有効用量の、SGSH活性を有する融合抗体を該対象に全身投与することを特徴とし、融合抗体が、(a)免疫グロブリン軽鎖およびSGSHのアミノ酸配列を含む融合タンパク質、および(b)免疫グロブリン重鎖を含む方法を提供する。いくつかの態様において、SGSHのアミノ酸配列は、免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。いくつかの態様において、融合抗体は、内因性BBB受容体の細胞外ドメインに結合する。いくつかの態様において、内因性BBB受容体はヒトインスリン受容体である。いくつかの態様において、融合抗体は、内因性BBB受容体に結合する抗体である。いくつかの態様において、融合抗体はヒトインスリン受容体に結合する抗体である。いくつかの態様において、融合抗体は、ヘパラン硫酸からのN−結合硫酸エステルの加水分解を触媒する。
いくつかの態様において、本明細書は、CNSにおける酵素欠損症に罹患した対象を治療するための方法および組成物を提供する。いくつかの態様において、本明細書に記載の方法は、治療的有効量の、二機能性の融合抗体またはタンパク質を全身投与することにより、ムコ多糖症III型(MPS−III)で欠損している酵素をCNSへ送達することを特徴とする。いくつかの態様において、二機能性の融合抗体は、内因性血液脳関門(BBB)受容体に対する抗体およびMPS−IIIで欠損している酵素のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、二機能性の融合抗体は、遺伝的に該酵素と融合したヒトインスリン抗体(HIR Ab)である。いくつかの態様において、融合抗体は、酵素活性を保持しながらも、インスリン受容体の細胞外ドメインに結合し、BBBを超えてCNS内へ輸送される。いくつかの態様において、融合抗体は、BBB上の内因性インスリン受容体へ結合し、該酵素を脳内に輸送する分子的トロイの木馬として働く。いくつかの態様において、全身投与に用いられる融合抗体の治療的に有効な全身用量は、一部、本明細書に記載されるように、末梢血からの融合抗体の特異的なCNS取り込み特性に基づいている。
ある態様において、本明細書は、治療が必要な対象の中枢神経系における酵素欠損症の治療方法であり、該方法が、治療的有効用量の融合抗体を該対象に全身投与することを特徴とし、融合抗体が、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列、MPS−IIIで欠損している酵素のアミノ酸配列、および免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列を含む方法を提供する。いくつかの態様において、融合抗体は、内因性BBB受容体(例えば、ヒトインスリン受容体)の細胞外ドメインに結合する。いくつかの態様において、該酵素のアミノ酸配列は、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。
いくつかの態様において、MPS−IIIで欠損している酵素はリソソーム酵素である。
いくつかの態様において、MPS−IIIで欠損している酵素は、N−スルフォグルコサミンスルフォヒドロラーゼ(SGSH)、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(NAGLU)、ヘパリン−α−グルコサミニドN−アセチルトランスフェラーゼ(HGSNAT)、またはN−アセチルグルコサミン−6−スルファターゼ(GNS)である。
いくつかの態様において、融合抗体は、スルファターゼ修飾因子タイプ1(SUMF1)により翻訳後修飾されている。いくつかの態様において、翻訳後修飾は、システインからホルミルグリシンへの変換を含む。いくつかの態様において、融合抗体はホルミルグリシンを含む。
いくつかの態様において、融合抗体は、ヘパラン硫酸からのN−結合硫酸エステルの加水分解を触媒するか、N−アセチル−α−D−グルコサミニド中のN−アセチル−D−グルコサミン残基の加水分解を触媒するか、ヘパラン硫酸のグルコサミン残基のアセチル化を触媒するか、またはヘパラン硫酸の6−硫酸基の加水分解を触媒する。
いくつかの態様において、前記酵素は、単体としてのその活性に比べ、その活性の少なくとも20%を保持している。いくつかの態様において、酵素および免疫グロブリンはそれぞれ、単体としてのその活性に比べ、その活性の少なくとも20%を保持している。いくつかの態様において、酵素は、単体としてのその活性に比べ、その活性の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、または95%を保持している。いくつかの態様において、酵素および免疫グロブリンはそれぞれ、単体としてのその活性に比べ、その活性の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、または95%を保持している。
いくつかの態様において、少なくとも約10μgの前記酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約20μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約30μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約40μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約50μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約100μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約200μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約300μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約400μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約500μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約1000μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約5μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約1μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約0.5μgの酵素が脳へ送達される。いくつかの態様において、少なくとも約0.1μgの酵素が脳へ送達される。
いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約200μgの酵素が脳に送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約250μgの酵素が脳に送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約300μgの酵素が脳に送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約400μgの酵素が脳に送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約500μgの酵素が脳に送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約1000μgの酵素が脳に送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約2000μgの酵素が脳に送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約150μgの酵素が脳に送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約100μgの酵素が脳に送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約50μgの酵素が脳に送達される。いくつかの態様において、体重50kg当たりで標準化すると、少なくとも約10μgの酵素が脳に送達される。
いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.5mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.6mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.7mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.8mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.9mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約1mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約2mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約5mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.4mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.3mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.2mg/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約0.1mg/Kg体重を含む。
いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約1000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約1500ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約2000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約3000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約4000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約5000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約10,000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約15,000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約20,000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約25,000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約900ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約800ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約700ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約600ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約500ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約400ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約300ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約200ユニット/Kg体重を含む。いくつかの態様において、融合抗体の治療的有効用量は少なくとも約100ユニット/Kg体重を含む。
いくつかの態様において、融合抗体の酵素比活性は少なくとも1000ユニット/mgタンパク質である。いくつかの態様において、融合抗体の酵素比活性は少なくとも1500ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体の酵素比活性は少なくとも2000ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体の酵素比活性は少なくとも3000ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体の酵素比活性は少なくとも4000ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体の酵素比活性は少なくとも5000ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体の酵素比活性は少なくとも10,000ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体の酵素比活性は少なくとも12,000ユニット/mgである。いくつかの態様において、融合抗体の酵素比活性は少なくとも15,000ユニット/mgである。
いくつかの態様において、全身投与は、非経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経鼻投与、動脈内投与、経皮投与、または吸入投与である。
いくつかの態様において、融合抗体はキメラ抗体である。いくつかの態様において、融合抗体はヒト化抗体である。
いくつかの態様において、免疫グロブリン重鎖はIgGの免疫グロブリン重鎖である。いくつかの態様において、免疫グロブリン重鎖はIgG1クラスの免疫グロブリン重鎖である。
いくつかの態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、4以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、6以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、または3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含み、ここで該単一アミノ酸突然変異は、置換、欠失、または挿入である。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、6以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、および3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、6以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、および1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、および1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、または配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
さらなる態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
いくつかの態様において、免疫グロブリン軽鎖はκまたはλクラスの免疫グロブリン軽鎖である。
いくつかの態様において、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、5以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、または5以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含み、ここで該単一アミノ酸突然変異は、置換、欠失、または挿入である。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、5以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、および5以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、および3以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、および1つの単一アミノ酸突然変異を含む配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
別の態様において、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、または配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
さらなる態様において、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
いくつかの態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含み、かつ、免疫グロブリン軽鎖は、配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
いくつかの態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は配列番号7と少なくとも90%同一であり、かつ、軽鎖免疫グロブリンのアミノ酸配列は配列番号8と少なくとも90%同一である。
いくつかの態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は配列番号7と少なくとも95%同一であり、かつ、軽鎖免疫グロブリンのアミノ酸配列は配列番号8と少なくとも95%同一である。
いくつかの態様において、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は配列番号7を含み、かつ、軽鎖免疫グロブリンのアミノ酸配列は配列番号8を含む。
いくつかの態様において、前記酵素は、配列番号9、配列番号17、配列番号19、または配列番号21と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、酵素は、配列番号9、配列番号17、配列番号19、または配列番号21と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、酵素は、配列番号9、配列番号17、配列番号19、または配列番号21のアミノ酸配列を含む。
いくつかの態様において、本明細書における融合抗体は、内因性BBB受容体媒介輸送系の結合によりBBBを通過する。いくつかの態様において、融合抗体は、インスリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体、およびインスリン様成長因子(IGF)受容体からなる群から選択される内因性BBB受容体を介してBBBを通過する。いくつかの態様において、融合抗体はインスリン受容体の結合によりBBBを通過する。
いくつかの態様において、全身投与は、非経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経鼻投与、動脈内投与、経皮投与、または吸入投与である。
いくつかの態様において、中枢神経系における酵素欠損症は、ムコ多糖症IIIA型(MPS−IIIA)、ムコ多糖症IIIB型(MPS−IIIB)、ムコ多糖症IIIC型(MPS−IIIC)、またはムコ多糖症IIID型(MPS−IIID)である。
いくつかの態様において、本明細書は、治療が必要な対象の中枢神経系における酵素欠損症の治療方法であり、該方法が、治療的有効用量の融合抗体を該対象に全身投与することを特徴とし、融合抗体が、(a)免疫グロブリン軽鎖およびムコ多糖症III型(MPS−III)で欠損している酵素のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、ならびに(b)免疫グロブリン重鎖を含み、血液脳関門(BBB)を通過する方法を提供する。いくつかの態様において、該酵素のアミノ酸配列は、免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。
いくつかの態様において、本明細書は、治療が必要な対象の中枢神経系における酵素欠損症の治療方法であり、該方法が、治療的有効用量の融合抗体を該対象に全身投与することを特徴とし、融合抗体が、(a)配列番号10、配列番号18、配列番号20、または配列番号22と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む融合タンパク質、および(b)免疫グロブリン軽鎖を含む方法を提供する。いくつかの態様において、融合抗体は内因性BBB受容体の細胞外ドメインに結合する。いくつかの態様において、内因性BBB受容体はヒトインスリン受容体である。いくつかの態様において、融合抗体は、ヘパラン硫酸からのN−結合硫酸エステルの加水分解を触媒するか、N−アセチル−α−D−グルコサミニド中のN−アセチル−D−グルコサミン残基の加水分解を触媒するか、ヘパラン硫酸のグルコサミン残基のアセチル化を触媒するか、またはヘパラン硫酸の6−硫酸基の加水分解を触媒する。いくつかの態様において、融合タンパク質は、配列番号10、配列番号18、配列番号20、または配列番号22と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、融合タンパク質は、配列番号10、配列番号18、配列番号20、または配列番号22のアミノ酸配列を含む。
いくつかの態様において、本明細書は、(a)配列番号10、配列番号18、配列番号20、または配列番号22と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む融合タンパク質、および(b)免疫グロブリン軽鎖を含む融合抗体を提供する。いくつかの態様において、融合抗体は内因性BBB受容体の細胞外ドメインに結合する。いくつかの態様において、内因性BBB受容体はヒトインスリン受容体である。いくつかの態様において、融合抗体は内因性BBB受容体に結合する抗体である。いくつかの態様において、融合抗体はヒトインスリン受容体に結合する抗体である。いくつかの態様において、融合抗体は、ヘパラン硫酸からのN−結合硫酸エステルの加水分解を触媒するか、N−アセチル−α−D−グルコサミニド中のN−アセチル−D−グルコサミン残基の加水分解を触媒するか、ヘパラン硫酸のグルコサミン残基のアセチル化を触媒するか、またはヘパラン硫酸の6−硫酸基の加水分解を触媒する。いくつかの態様において、融合タンパク質は、配列番号10、配列番号18、配列番号20、または配列番号22と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、融合タンパク質は、配列番号10、配列番号18、配列番号20、または配列番号22のアミノ酸配列を含む。
いくつかの態様において、本明細書は、(a)免疫グロブリン重鎖およびムコ多糖症III型(MPS−III)で欠損している酵素のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、ならびに(b)免疫グロブリン軽鎖を含む融合抗体を提供する。いくつかの態様において、該酵素のアミノ酸配列は、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。いくつかの態様において、本明細書は、(a)免疫グロブリン軽鎖およびムコ多糖症III型(MPS−III)で欠損している酵素のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、ならびに(b)免疫グロブリン重鎖を含む融合抗体を提供する。いくつかの態様において、該酵素のアミノ酸配列は、免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。いくつかの態様において、融合抗体は内因性BBB受容体の細胞外ドメインに結合する。いくつかの態様において、内因性BBB受容体はヒトインスリン受容体である。いくつかの態様において、融合抗体は内因性BBB受容体に結合する抗体である。いくつかの態様において、融合抗体はヒトインスリン受容体に結合する抗体である。いくつかの態様において、融合抗体は、ヘパラン硫酸からのN−結合型硫酸エステルの加水分解を触媒するか、N−アセチル−α−D−グルコサミニド中のN−アセチル−D−グルコサミン残基の加水分解を触媒するか、ヘパラン硫酸のグルコサミン残基のアセチル化を触媒するか、またはヘパラン硫酸の6−硫酸基の加水分解を触媒する。
いくつかの態様において、本明細書における融合タンパク質はさらに、前記酵素のアミノ酸配列と、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端との間にリンカーを含む。
いくつかの態様において、本明細書は、治療的有効量の本明細書に記載の融合抗体、および医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
いくつかの態様において、本明細書は、本明細書に記載の融合抗体をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。いくつかの態様において、単離されたポリヌクレオチドは、配列番号14、配列番号23、配列番号24、または配列番号25の核酸配列を含む。いくつかの態様において、本明細書は、本明細書における単離されたポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。いくつかの態様において、本明細書は、配列番号14、配列番号23、配列番号24、または配列番号25の核酸配列を含むベクターを提供する。いくつかの態様において、本明細書は、本明細書に記載のベクターを含む宿主細胞を提供する。いくつかの態様において、宿主細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
いくつかの態様において、本明細書は、治療が必要な対象の中枢神経系における酵素欠損症の治療方法であり、該方法が、治療的有効用量の融合抗体を該対象に全身投与することを特徴とし、融合抗体が、(a)免疫グロブリン重鎖およびムコ多糖症III型(MPS−III)で欠損している酵素のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、ならびに(b)免疫グロブリン軽鎖を含む方法を提供する。いくつかの態様において、該酵素のアミノ酸配列は、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。いくつかの態様において、本明細書は、治療が必要な対象の中枢神経系における酵素欠損症の治療方法であり、該方法が、治療的有効用量の融合抗体を該対象に全身投与することを特徴とし、融合抗体が、(a)免疫グロブリン軽鎖およびムコ多糖症III型(MPS−III)で欠損している酵素のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、ならびに(b)免疫グロブリン重鎖を含む方法を提供する。いくつかの態様において、該酵素のアミノ酸配列は、免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。いくつかの態様において、融合抗体は内因性BBB受容体の細胞外ドメインに結合する。いくつかの態様において、内因性BBB受容体はヒトインスリン受容体である。いくつかの態様において、融合抗体は内因性BBB受容体に結合する抗体である。いくつかの態様において、融合抗体はヒトインスリン受容体に結合する抗体である。いくつかの態様において、融合抗体は、ヘパラン硫酸からのN−結合型硫酸エステルの加水分解を触媒するか、N−アセチル−α−D−グルコサミニド中のN−アセチル−D−グルコサミン残基の加水分解を触媒するか、ヘパラン硫酸のグルコサミン残基のアセチル化を触媒するか、またはヘパラン硫酸の6−硫酸基の加水分解を触媒する。
参照による引用
本明細書に記載のすべての刊行物、特許、および特許出願は、各刊行物、特許、または特許出願が、具体的にかつ個々に、参照により引用されることを示されているのと同じ範囲まで、参照により本明細書に引用される。
(発明の詳細な説明)
血液脳関門(BBB)は、全身投与されたリソソーム酵素(例えば組み換えSGSH)の中枢神経系への送達を妨げる深刻な障壁である。本明細書に記載の方法および組成物は、治療的に意義のあるレベルの、ムコ多糖症III型(MPS−III)で欠損している酵素、例えば、SGSH、NAGLU、HGSNAT、GNSを、BBBを超えてCNSへ送達する上で重要な因子に対処する:1)MPS−IIIで欠損している酵素が内因性BBB輸送体上の輸送体を介してBBBを通過できるようにするための、該酵素の修飾、2)BBB輸送をもたらすために必要な修飾をした後も、酵素活性を保持することによる、全身投与された修飾酵素のCNS内への取り込み量および速度。本明細書に記載の方法および組成物の様々な態様は、(1)内因性BBB受容体の細胞外ドメインに対する免疫グロブリン(重鎖または軽鎖)に、介在配列有りまたは無しで融合した酵素(すなわち、SGSH活性を有するタンパク質)を含む融合抗体を提供することにより、そして(2)CNSにおける取り込みおよび比活性に基づいて、該融合抗体の治療的に有効な全身用量を確立することにより、これらの因子に対処する。いくつかの態様において、内因性BBB受容体に対する抗体は、ヒトインスリン受容体に対する抗体(HIR Ab)である。
従って、本明細書は、治療が必要な対象に、治療的有効用量の、二機能性のBBB受容体Ab−酵素融合抗体を全身投与することにより、中枢神経系における酵素(例えばSGSH)欠損症を治療するための組成物および方法であり、該融合抗体が、酵素活性を有し、ヒトインスリン受容体などの内因性BBB受容体輸送体の細胞外ドメインに選択的に結合する、組成物および方法を提供する。
(定義)
本明細書で用いられる「治療」または「治療する」としては、治療効果および/または予防効果を達成することが挙げられる。治療効果は、治療される原因となる障害または病状の根絶または改善を意味する。例えば、MPS−IIIAに罹患した個体において、治療効果としては、障害の進行の部分的もしくは完全な停止、または障害の部分的もしくは完全な好転が挙げられる。また、治療効果は、患者が依然として病状に罹患している可能性があるという事実があっても、患者において改善が認められるように、原因となる病状に関連する1つ以上の生理的または精神的症状の根絶または改善によっても達成される。治療の予防効果としては、病状の予防、病状の進行の遅延(例えば、リソソーム貯蔵障害の進行の遅延)、または病状が発生する可能性の低減が挙げられる。本明細書で用いられる「治療する」または「治療」は、予防を含む。
本明細書で用いられる用語「有効量」は、全身投与されると、CNSにおいて有益なもしくは所望の結果、例えば、有益なもしくは所望の臨床結果、または認知、記憶、気分の改善、または他の所望のCNSの結果を達成するために十分な量であり得る。有効量は、予防効果をもたらす量でもあり、例えば、病的または望ましくない病状の発現を、遅延、軽減、または排除する量である。該病状としては、限定されるものではないが、精神遅滞、難聴、および神経変性が挙げられる。有効量は、1回以上の投与で施行することができる。治療に関して、本明細書における組成物の「有効量」は、障害、例えば神経障害の進行を、緩和、改善、安定化、逆転、または遅延させるために充分な量である。「有効量」は、単独で用いられるか、または、疾患もしくは障害を治療するために使用される1つ以上の薬剤と併用して用いられる、本明細書におけるいずれかの組成物の量であってよい。本態様の意味の範囲内で、治療薬の「有効量」は、患者の主治医または獣医師により決定されるであろう。該量は当業者により容易に確立され、本態様に従って投与されると治療効果を であろう。治療的有効量がどれくらいの量になるかに影響する因子としては、投与される融合抗体の酵素比活性、その吸収プロフィール(例えば、脳内へのその取り込み速度)、障害を発症してからの経過時間、ならびに治療下の個体の、年齢、健康状態、他の疾患状態の存在および栄養状態が挙げられる。さらに、患者が摂取している可能性のある他の薬物は、投与される治療薬の治療的有効量の決定に影響するであろう。
本明細書で用いられる「対象」または「個体」は、動物、例えば哺乳類である。いくつかの態様において、「対象」または「個体」はヒトである。いくつかの態様において、対象はMPS−IIIAに罹患している。
いくつかの態様において、融合抗体を含む医薬組成物は、「末梢に投与される(administered peripherally)」か、または「末梢投与される(peripherally administered)」。本明細書で用いられるこれらの用語は、CNSに直接投与するのではなく、すなわち、薬剤を、血液脳関門の脳とは異なる側に接触させる、個体への薬剤、例えば治療薬の任意の投与形態を指す。本明細書で用いられる「末梢投与」としては、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経皮投与、吸入による投与、経頬(transbuccal)投与、鼻腔内投与、直腸投与、経口投与、非経口投与、舌下投与、または経鼻投与が挙げられる。
本明細書における「医薬的に許容される担体」または「医薬的に許容される賦形剤」は、それ自体は、組成物を摂取している個体に有害な抗体の産生を誘導しない、任意の担体を指す。そのような担体は当業者に周知である。医薬的に許容される担体/賦形剤についての徹底的な議論は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Gennaro, AR, ed., 20th edition, 2000: Williams and Wilkins PA, USA.に見ることができる。典型的な医薬的に許容される担体としては、塩、例えば、鉱酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩等)、および有機酸の塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩等)を挙げることができる。例えば、本明細書に記載の組成物は、液体形態で提供されてよく、0.01〜1%のポリソルベート−80等の界面活性剤、またはマンニトール、ソルビトールもしくはトレハロース等の糖質添加剤を含むまたは含まない、様々なpH(5〜8)の生理食塩水ベースの水溶液に製剤化されてよい。通常用いられる緩衝液としては、ヒスチジン緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、またはクエン酸緩衝液が挙げられる。
「組換え宿主細胞」または「宿主細胞」は、挿入に用いられる方法、例えば、直接取り込み、形質導入、f接合(f−mating)、または、組換え宿主細胞を作製するための当該技術分野で公知の他の方法を問わず、外因性ポリヌクレオチドを含む細胞を指す。外因性ポリヌクレオチドは、組み込まれていない(nonintegrated)ベクター、例えばプラスミドとして維持されてよく、あるいは宿主ゲノムに組み込まれていてよい。
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指し、本明細書において互換的に用いられる。すなわち、ポリペプチドに向けた記載は、ペプチドについての記載、およびタンパク質についての記載に同様に適用され、逆もまた同様である。これらの用語は、天然のアミノ酸ポリマー、および、1つ以上のアミノ酸残基が非天然のアミノ酸、例えばアミノ酸類似体であるアミノ酸ポリマーに適用される。本明細書で用いられるこれらの用語は、アミノ酸残基が共有結合性のペプチド結合により結合している全長のタンパク質(すなわち、抗原)を含む、任意の長さのアミノ酸鎖を包含する。
用語「アミノ酸」は、天然および非天然のアミノ酸、ならびに天然のアミノ酸と類似の様式で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣剤を指す。天然にコードされているアミノ酸は、20種類の通常のアミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリン)、ならびにピロリシン(pyrolysine)およびセレノシステインである。アミノ酸類似体は、天然のアミノ酸と同じ基本的な化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合したα炭素を有する化合物、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。該類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド主鎖を有するが、天然のアミノ酸と同じ基本的な化学構造を保持している。
アミノ酸は、一般に知られているその3文字記号、またはIUPAC−IUB生化学命名委員会(Biochemical Nomenclature Commission)により推奨されている1文字記号のいずれかによって、本明細書において言及されることがある。同様に、ヌクレオチドは、一般に許容されているその1文字表記によって言及されることがある。
用語「核酸」は、デオキシリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、またはリボヌクレオチド、および、1本または2本鎖形態のいずれかであるそのポリマーを指す。特に限定しない限り、該用語は、基準核酸と類似の結合特性を有し、かつ、天然のヌクレオチドと類似の様式で代謝される、天然ヌクレオチドの既知の類似体を含む核酸を包含する。別段特に限定しない限り、該用語は、PNA(ペプチド核酸)、アンチセンス技術で用いられるDNAの類似体(ホスホロチオエート、ホスホロアミデート等)を含むオリゴヌクレオチド類似体も指す。別段指示しない限り、特定の核酸配列は、明示的に示した配列のみならず、保存的に修飾されたその変異体(限定されるものではないが、縮重コドン置換を含む)および相補的配列も黙示的に包含する。特に、縮重コドン置換は、1つ以上の選択した(またはすべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を生成することにより達成し得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991)、Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985)、およびCassol et al. (1992); Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。
用語「単離された」および「精製された」は、実質的または本質的に、その自然環境から取り出され、またはその自然環境において濃縮された物質を指す。例えば、単離された核酸は、通常はこれに隣接している核酸、またはサンプル中の他の核酸もしくは成分(タンパク質、脂質等)から分離されたものであり得る。別の例において、ポリペプチドが、実質的に、その自然環境から取り出されている、あるいはその自然環境において濃縮されている場合、該ポリペプチドは精製されている。核酸およびタンパク質の精製および単離方法は、当該技術分野で周知である。
血液脳関門
一態様において、本明細書は、内因性BBB受容体/輸送体上の受容体媒介輸送を介して血液脳関門(BBB)を通過できる免疫グロブリンと融合した、MPS−IIIで欠損している酵素(例えばSGSH)を利用する、組成物および方法を提供する。標的化のための典型的な内因性輸送体は、BBB上のインスリン受容体である。BBBインスリン受容体は、血中インスリン、および、HIRMAbのような、ある種のペプチド模倣モノクローナル抗体(MAb)の脳内への輸送を仲介する。内因性リガンドまたはペプチド模倣MAbのいずれかにより、標的となり得る他の内因性輸送体としては、BBBトランスフェリン受容体、BBBインスリン様成長因子(IGF)受容体、BBBレプチン受容体、またはBBB低密度リポタンパク質(LDL)受容体が挙げられる。該組成物および方法は、SGSHを、末梢血から血液脳関門を超えてCNS内へ輸送するために有用である。本明細書において、「血液脳関門」は、末梢循環と脳および脊髄との間の障壁を指し、該障壁は、脳の毛細血管内皮細胞膜内の密着結合により形成され、脳内への分子の輸送を制限する極めて密着した障壁を作り出す:BBBは、分子量60Daの尿素程度の小さい分子でさえ制限できるほど密着している。脳内の血液脳関門、脊髄内の血液脊髄関門、および網膜内の血液網膜関門は、中枢神経系(CNS)内の隣接する毛細血管関門であり、まとめて血液脳関門またはBBBと称される。
BBBは、脳およびCNSのための新たな神経治療薬、診断薬、および研究手段の開発を制限している。ほとんどの巨大分子治療薬、例えば組換えタンパク質、アンチセンス薬、遺伝子医薬品、精製された抗体、またはRNA干渉(RNAi)ベースの薬剤は、薬理学的に意義のある量でBBBを通過しない。一般的に、小分子薬剤はBBBを通過できると仮定されているが、実際には、BBBを越える輸送は欠如しているため、すべての低分子薬剤の<2%が脳内で活性である。薬理学的に意義のある量でBBBを通過するためには、分子は、脂溶性でなければならず、分子量が400ダルトン(Da)未満である必要があり、大部分の低分子は、これら2つの分子的特徴を持っていない。従って、治療用、診断用、または研究用となる可能性があるほとんどの分子は、薬理学的に活性な量でBBBを通過しない。BBBを迂回するために、侵襲的な経頭蓋薬物送達戦略、例えば脳室内(ICV)注入、脳内(IC)投与、および対流強化拡散法(CED)が用いられる。脳への経頭蓋薬物送達は、高価で侵襲的な上、ほとんど効果が無い。ICV経路は、髄腔内(IT)経路とも呼ばれ、SGSHを、ICV経路で投与される薬剤に典型的な脳実質内ではなく、脳の上衣または髄膜表面のみに送達する。脳内でのタンパク質拡散効率は非常に低いため、SGSHのような酵素のIC投与は、局所的な送達しかもたらさない。同様に、拡散による薬物透過は限られているため、CED経路は、カテーテル先端近傍の脳において局所的な送達しかもたらさない。
本明細書に記載の方法は、これらの、侵襲性が高く、かつ一般的に満足できない、BBBを迂回する方法の代替案を提供し、該代替案は、本明細書に記載のHIRMAb−SGSH融合抗体組成物を全身投与すると、機能的なSGSHが、末梢血からCNS内へ、BBBを通過できるようにする。本明細書に記載の方法は、所望の二機能性のHIRMAb−SGSH融合抗体を、末梢血からCNS内へ輸送するために、BBB上のインスリン受容体(例えばヒトインスリン受容体)の発現を利用する。
内因性受容体
グルコースまたはアミノ酸のような、血中のある種の内因性低分子は、水溶性であり、ある種のBBB担体系上の担体介在輸送(CMT)により、BBBをまだ透過することができる。例えば、グルコースは、GLUT1グルコース輸送体上のCMTを介してBBBを透過する。L−DOPAのような治療用のアミノ酸を含むアミノ酸は、LAT1大型中性アミノ酸輸送体上のCMTを介してBBBを透過する。同様に、血中のある種の内因性巨大分子、例えば、インスリン、トランスフェリン、インスリン様成長因子、レプチン、または低密度リポタンパク質は、ある種のBBB受容体系上の受容体介在トランスサイトーシス(RMT)により、BBBを透過することができる。例えば、インスリンは、インスリン受容体上のRMTを介してBBBを透過する。トランスフェリンは、トランスフェリン受容体上のRMTを介してBBBを透過する。インスリン様成長因子は、インスリン様成長因子受容体上のRMTを介してBBBを透過し得る。レプチンは、レプチン受容体上のRMTを介してBBBを透過し得る。低密度リポタンパク質は、低密度リポタンパク質受容体上の輸送を介してBBBを透過し得る。
BBBは、インスリン受容体を含め、いくつかの高分子を血液から脳へ輸送できるようにする特異的受容体を有することが示されている。特に、インスリン受容体は、本明細書に記載のHIR Ab−SGSH融合抗体のための輸送体として適している。本明細書に記載のHIR−SGSH融合抗体は、ヒトインスリン受容体の細胞外ドメイン(ECD)に結合する。
インスリン受容体、およびその細胞外のインスリン結合ドメイン(ECD)は、当該技術分野で、構造的および機能的に広く特徴付けられている。例えば、Yip et al. (2003), J Biol. Chem, 278(30):27329-27332、およびWhittaker et al.(2005), J Biol Chem, 280(22):20932-20936を参照のこと。ヒトインスリン受容体のアミノ酸およびヌクレオチド配列は、GenBank受託番号:NM_000208に見ることができる。
インスリン受容体媒介輸送系に結合する抗体
MPS−IIIで欠損している酵素(例えばSGSH)を、CNSへ送達する非侵襲的なアプローチの一つは、SGSHを、インスリン受容体のECDに選択的に結合する抗体と融合することである。それにより、BBB上に発現したインスリン受容体は、BBBを超えてSGSHを輸送するベクターとして働くことができる。ある種のECD特異抗体は、内因性リガンドを模倣し得ることから、特異的受容体系上の輸送を介して細胞膜障壁を通過する。そのようなインスリン受容体抗体は、図1に概略的に示すように、分子的「トロイの木馬」または「TH」として働く。SGSHは、単独では通常、血液脳関門(BBB)を通過しない。しかし、SGSHをTHと融合すると、IRのような、脳内のBBBと脳細胞膜の両方に発現している内因性BBB受容体上の輸送により、該酵素は、BBBおよび脳細胞膜を通過できる(図1)。
従って、抗体および他の高分子は通常、脳から排除されるという事実にもかかわらず、それらが、BBB上に発現した受容体、例えばインスリン受容体の細胞外ドメインに対し特異性を有する場合、それらは、分子を脳実質内へ送達する有用な媒体となり得る。いくつかの態様において、HIR Ab−SGSH融合抗体は、ヒトBBB HIR上の外表面エピトープを結合し、この結合は、該融合抗体が、ヒトBBBインスリン受容体により仲介される輸送反応を介してBBBを通過できるようにする。
用語「抗体」は、天然か、または、部分的もしくは完全に合成的に製造された、免疫グロブリンを表す。該用語は、抗原結合ドメインであるか、または抗原結合ドメインに相同である、結合ドメインを有する、任意のポリペプチドまたはタンパク質も含む。CDR移植抗体も、該用語により考慮される。
「自然抗体」および「自然免疫グロブリン」は、通常、2本の同一の軽(L)鎖および2本の同一の重(H)鎖からなる、約150,000ダルトンのヘテロ4量体糖タンパク質である。一般的に、各軽鎖は、1つの共有結合性のジスルフィド結合により重鎖と結合しているが、ジスルフィド結合の数は、様々な免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の間で異なる。各重鎖および軽鎖は、規則的な間隔で配置された鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、その一方の端に、可変領域(「VH」)と、それに続く複数の定常領域(「CH」)を有する。各軽鎖は、一方の端に可変領域(「VL」)を、もう一方の端に定常領域(「CL」)を有し、軽鎖の定常領域は重鎖の1番目の定常領域と並び、軽鎖の可変領域は重鎖の可変領域と並ぶ。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変領域と重鎖可変領域との間の接触面を形成すると考えられる。
用語「可変領域」は、ファミリーメンバー間(すなわち、異なるアイソフォーム間または異なる種において)で配列が大幅に異なるタンパク質ドメインを指す。抗体に関して、用語「可変領域」は、特定の抗原に対する特定の各抗体の結合および特異性に用いられる、抗体の可変領域を指す。しかし、可変性は、抗体の可変領域全体に均一に分布しているのではない。可変性は、軽鎖可変領域内と重鎖可変領域内の両方にある、超可変領域と呼ばれる3つの部分に集中している。可変領域の、より高度に保存された部分は、「フレームワーク領域」または「FR」と呼ばれる。修飾されていない重鎖および軽鎖の可変領域はそれぞれ、4つのFR(それぞれ、FR1、FR2、FR3、およびFR4)を含み、該FRは、主にβシート構造をとって、3つの超可変領域でつながっており、該超可変領域は、該βシート構造をつなぐループを形成し、場合によっては、該βシート構造の一部を形成する。各鎖内の超可変領域は、FRによりごく近接してまとまり、別の鎖からの超可変領域と共にまとまって、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1991), pages 647-669を参照)。定常領域は、抗体と抗原との結合には直接関与しないが、様々なエフェクター機能、例えば、抗体依存性細胞毒性への抗体の関与を示す。
本明細書において、用語「超可変領域」は、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、抗原に相補的に直接結合し、それぞれCDR1、CDR2、およびCDR3として知られている、3つの「相補性決定領域」または「CDR」からのアミノ酸残基を含む。
軽鎖可変領域において、CDRは、一般的に、およそ残基24−34(CDRL1)、50−56(CDRL2)、および89−97(CDRL3)に対応し、重鎖可変領域において、CDRは、一般的に、およそ残基31−35(CDRH1)、50−65(CDRH2)、および95−102(CDRH3)に対応し(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1991))、および/または、「超可変ループ」からの残基(すなわち、軽鎖可変領域内の残基26−32(L1)、50−52(L2)、および91−96(L3)、ならびに、重鎖可変領域内の残基26−32(H1)、53−55(H2)、および96−101(H3)(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901 917(1987))。
本明細書において、「可変フレームワーク領域」または「VFR」は、抗原結合ポケットまたは抗原結合溝の一部を形成し、および/または、抗原と接触し得る、フレームワーク残基を指す。いくつかの態様において、フレームワーク残基は、抗原結合ポケットまたは抗原結合溝の一部であるループを形成する。ループ中のアミノ酸残基は、抗原に接触してもしなくてもよい。ある態様において、VFRのループアミノ酸は、抗体、抗体重鎖、または抗体軽鎖の三次元構造を調べることにより決定される。溶媒が接近可能なアミノ酸の位置は、ループを形成する可能性が高い、および/または抗体可変領域において抗原接触をもたらす可能性が高いことから、三次元構造は、そのような位置について解析し得る。一部の、溶媒が接近可能な位置は、アミノ酸配列の多様性を許容することができ、他のもの(例えば構造的位置)は多様性に乏しいことがある。抗体可変領域の三次元構造は、結晶構造またはタンパク質モデリングから導くことができる。いくつかの態様において、VFRは、Kabat et al., 1991により定義される位置である、重鎖可変領域のアミノ酸位置71〜78に対応するアミノ酸位置を含むか、実質的に該アミノ酸位置からなるか、または該アミノ酸位置からなる。いくつかの態様において、VFRは、CDRH2とCDRH3との間に位置するフレームワーク領域3の部分を形成する。VFRは、標的抗原と接触するためによい位置にあるループを形成するか、または、抗原結合ポケットの一部を形成することができる。
免疫グロブリンの重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンを、異なるクラスに割り当てることができる。免疫グロブリンには、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMの5つの主要なクラスがあり、これらのいくつかはさらに、サブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、およびIgA2に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常領域(Fc)はそれぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造および三次元構造は、よく知られている。
任意の脊椎動物種からの抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、その定常領域のアミノ酸配列に基づいて、「κ」および「λ」と呼ばれる、2つの明確に異なる種類のうちの1つに割り当てることができる。
本明細書に記載の抗体または融合抗体に関して、用語「選択的に結合する」(selectively bind)、「選択的に結合した」(selectively binding)、「特異的に結合する」(specifically binds)、または「特異的に結合した」(specifically binding)は、抗体または融合抗体とその標的抗原との結合を指し、その解離定数(Kd)は約10−6M、またはそれ未満、すなわち、10−7、10−8、10−9、10−10、10−11または10−12Mである。
本明細書において、用語「抗体」は、抗原と特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上のフラグメントも意味すると理解される(一般的には、Holliger et al., Nature Biotech. 23(9) 1126-1129(2005)を参照)。そのような抗体の非限定的例としては、(i)VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる一価のフラグメント(monovalent fragment)であるFabフラグメント、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合する2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメント(bivalent fragment)であるF(ab’)2フラグメント、(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント、(iv)抗体の単一アーム(single arm)のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al., (1989) Nature 341:544 546)、および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインVLおよびVHは、別々の遺伝子によりコードされるが、組換え法を用いて、合成リンカーにより連結することができ、該合成リンカーは、VL領域およびVH領域が組み合わさって一価の分子(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Bird et al. (1988) Science 242:423 426、およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879 5883、およびOsbourn et al. (1998) Nat. Biotechnol. 16:778を参照)を形成する1本鎖タンパク質としてこれらを生成することを可能にする。そのような一本鎖抗体も、用語抗体に包含されるものとする。完全なIgG分子または他のアイソタイプをコードする発現ベクターを作製するため、具体的なscFvの任意のVH配列およびVL配列を、ヒト免疫グロブリン定常領域のcDNAまたはゲノム配列と結合することができる。VHおよびVLは、タンパク質化学または組換えDNA技術のいずれかを用いて、免疫グロブリンのFab、Fv、または他のフラグメントを作製するために用いることもできる。ダイアボディのような、一本鎖抗体の他の形態も包含される。
「F(ab’)2」および「Fab’」部分は、免疫グロブリン(モノクローナル抗体)を、ペプシンおよびパパインのようなプロテアーゼで処理することにより生成させることができ、該部分は、免疫グロブリンを、2本の各H鎖内のヒンジ領域の間に存在するジスルフィド結合の近くで消化することにより生じる抗体フラグメントを含む。例えば、パパインは、IgGを、2本の各H鎖内のヒンジ領域の間に存在するジスルフィド結合の上流で切断して、2つの相同な抗体フラグメントを生じ、ここに、VL(L鎖可変領域)およびCL(L鎖定常領域)からなるL鎖、およびVH(H鎖可変領域)およびCHγ1(H鎖の定常領域内のγ1領域)からなるH鎖フラグメントが、それらのC末端領域でジスルフィド結合を介してつながっている。これら2つの相同な抗体フラグメントはそれぞれ、Fab’と呼ばれる。ペプシンは、IgGを、2本の各H鎖内のヒンジ領域の間に存在するジスルフィド結合の下流で切断して、上記のFab’がヒンジ領域でつながっているフラグメントよりもわずかに大きい抗体フラグメントを生じる。この抗体フラグメントは、F(ab’)2と呼ばれる。
Fabフラグメントは、軽鎖の定常領域、および重鎖の1番目の定常領域(CH1)も含む。Fab’フラグメントは、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含め、重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端に数残基が付加されている点で、Fabフラグメントと異なる。本明細書において、Fab’−SHは、定常領域のシステイン残基が遊離チオール基を有するFab’の名称である。F(ab’)2抗体フラグメントは、当初、Fab’フラグメントの間にヒンジシステインを有する、Fab’フラグメントの対として生成された。抗体フラグメントの他の化学結合も知られている。
「Fv」は、完全な抗原認識部位および抗原結合部位を含む、最小限の抗体フラグメントである。この領域は、密で非共有結合的に会合した、1つの重鎖可変領域および1つの軽鎖可変領域の二量体からなる。各可変領域の3つの超可変領域が相互作用して、VH−VL二量体の表面上の抗原結合部位を規定するのは、この立体配置である。合計で6つの超可変領域が、抗体へ抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変領域(または抗原に特異的な3つの超可変領域のみを含むFvの半分)でさえ、完全な結合部位よりも親和性は低いものの、抗原を認識し結合する能力を有する。
「一本鎖Fv」または「sFv」抗体フラグメントは、抗体のVH、VL、または、VHとVLドメインの両方を含み、ここで両ドメインは1本鎖ポリペプチド内に存在する。いくつかの態様において、Fvポリペプチドはさらに、VHドメインとVLドメインとの間に、ポリペプチドリンカーを含み、sFvが、抗原結合に望ましい構造を形成できるようにする。sFvの総説については、例えばPluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore eds. Springer-Verlag, New York, pp. 269 315 (1994)を参照のこと。
「キメラ」抗体は、異なる哺乳類の組み合わせからの抗体を含む。哺乳類は、例えば、ウサギ、マウス、ラット、ヤギ、またはヒトであってよい。異なる哺乳類の組み合わせとしては、ヒトおよびマウス起源からのフラグメントの組み合わせが挙げられる。
いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体はモノクローナル抗体(MAb)、典型的には、マウスモノクローナル抗体のヒト化により得られる、キメラヒト−マウス抗体である。該抗体は、例えば、抗原投与に応答して特異的ヒト抗体を産生するように「設計された」遺伝子導入マウスから得られる。この技術では、内因性の重鎖および軽鎖遺伝子座の標的破壊を含む胚性幹細胞株に由来するマウスの系統に、ヒト重鎖および軽鎖遺伝子座のエレメントを導入する。遺伝子導入マウスは、ヒト抗原に特異的なヒト抗体を合成することができ、ヒト抗体分泌ハイブリドーマを産生するために、該マウスを用いることができる。
ヒトにおける使用のために、HIR Abは、ヒトに投与された場合に、有意に免疫原性とならないような十分なヒト配列、例えば、約80%ヒトおよび約20%マウス、約85%ヒトおよび約15%マウス、約90%ヒトおよび約10%マウス、約95%ヒトおよび5%マウス、約95%を越えるヒトおよび約5%未満のマウス、または100%ヒト配列を含むことが好ましい。HIR MAbの、より高度にヒト化された形態も設計することができ、該ヒト化HIR Abは、マウスHIR Abに匹敵する活性を有し、本明細書に記載の態様に用いることができる。例えば、2002年11月27日に出願された米国特許出願公報20040101904、および2005年2月17日に出願された米国特許出願公報20050142141を参照のこと。本態様で用いる十分なヒト配列を有するヒトBBBインスリン受容体に対するヒト化抗体は、例えば、Boado et al. (2007), Biotechnol Bioeng, 96(2):381-391に記載されている。
典型的な態様において、HIR抗体またはそれから由来する融合抗体(例えば、HIR−SGHS、HIR−NGLU、HIR−HGSNAT、HIR−GNS)は、図7(配列番号1−3)に記載のHC CDR、またはその変異体の、少なくとも1つの配列に相当するCDRを含む免疫グロブリン重鎖を含む。例えば、1、2、3、4、5もしくは6以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号1のアミノ酸配列に対応するHC CDR1、1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号2のアミノ酸配列に対応するHC CDR2、または、1もしくは2以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号3のアミノ酸配列に対応するHC CDR3、ここで該単一アミノ酸突然変異は、置換、欠失、または挿入である。
別の態様において、HIR Abまたは融合Ab(例えば、HIR Ab−SGHS、HIR Ab−NGLU、HIR−Ab HGSNAT、HIR Ab−GNS)は、そのアミノ酸配列が、(図5に示す)配列番号7と少なくとも50%同一である(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100%以下の任意の他のパーセント同一である)免疫グロブリンHCを含む。
いくつかの態様において、HIR Abまたは融合Ab(例えば、HIR Ab−SGHS、HIR Ab−NGLU、HIR Ab−HGSNAT、HIR Ab−GNS)は、図7(配列番号4−6)に記載のLC CDR、またはその変異体の、少なくとも1つの配列に対応するCDRを含む免疫グロブリン軽鎖を含む。例えば、1、2、3、4もしくは5以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列に対応するLC CDR1、1、2、3もしくは4以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号5のアミノ酸配列に対応するLC CDR2、または、1、2、3、4もしくは5以下の単一アミノ酸突然変異を含む配列番号6のアミノ酸配列に対応するLC CDR3。
別の態様において、HIR Abまたは融合Ab(例えば、HIR Ab−SGHS、HIR Ab−NGLU、HIR Ab−HGSNAT、HIR Ab−GNS)は、そのアミノ酸配列が、(図6に示す)配列番号8と少なくとも50%同一である(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100%以下の任意の他のパーセント同一である)免疫グロブリンLCを含む。
さらに別の態様において、HIR Abまたは融合Ab(例えば、HIR Ab−SGHS、HIR Ab−NGLU、HIR Ab−HGSNAT、HIR Ab−GNS)は、上記のHIR重鎖およびHIR軽鎖のいずれかに対応する重鎖と軽鎖の両方を含む。
本明細書のHIR抗体は、グリコシル化されていても、されていなくてもよい。抗体がグリコシル化される場合は、抗体の機能に有意に影響しない任意のパターンのグリコシル化を用いてよい。グリコシル化は、抗体が作られる細胞に特有のパターンで起こり得、細胞タイプによって異なってもよい。例えば、マウス骨髄腫細胞により産生されるモノクローナル抗体のグリコシル化パターンは、トランスフェクトしたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞により産生されるモノクローナル抗体のグリコシル化パターンと異なり得る。いくつかの態様において、抗体は、トランスフェクトしたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞により産生されるパターンでグリコシル化される。
当業者は、現在の技術により、莫大な数の候補HIR Abまたは既知HIR Abの配列変異体を、(例えばインビトロで)容易に作製することができ、標的抗原、例えば、ヒトインスリン受容体のECD、またはその単離されたエピトープとの結合について容易にスクリーニングすることができることを、十分理解するであろう。抗体配列変異体のウルトラハイスループットスクリーニングの一例については、例えば、(オンラインで発行された)Fukuda et al. (2006)「In vitro evolution of single-chain antibodies using mRNA display」Nuc. Acid Res., 34(19)を参照のこと。Chen et al. (1999)「In vitro scanning saturation mutagenesis of all the specificity determining residues in an antibody binding site」Prot Eng, 12(4): 349-356も参照のこと。インスリン受容体ECDは、例えばColoma et al. (2000) Pharm Res, 17:266-274に記載されているように精製することができ、HIR Ab、および既知のHIR AbのHIR Ab配列変異体をスクリーニングするために用いられる。
従って、いくつかの態様において、二機能性の分子である組み換え融合抗体を作製するために、所望のレベルのヒト配列を有する遺伝的に設計されたHIR Abを、MPS−IIIで欠損している酵素(例えばSGSH)と融合する。例えば、HIR Ab−SGSH融合抗体は、(i)ヒトインスリン受容体の細胞外ドメインに結合し、(ii)ヘパラン硫酸中の硫酸エステル結合の加水分解を触媒し、(iii)BBB HIR上の輸送を介してBBBを通過することができ、かつ、末梢投与に続いて、一旦脳内に入ると、SGSH活性を保持することができる。
N−スルフォグルコサミンスルフォヒドロラーゼ(SGSH)
組み換えSGSHの全身投与(例えば、静脈注射による)が、MPS−IIIAに罹患した患者のCNSにおけるSGSHの欠損を救うことは期待できない。SGSHはBBBを通過せず、BBBを越える酵素の輸送の欠如により、末梢投与された後、CNSにおいて意義のある治療効果を有することが妨げられる。しかし、本発明者らは、HIR AbなどのBBBを通過する抗体とSGSHが(例えば、共有結合性のリンカーにより)融合すると、この酵素が、非侵襲的な末梢投与経路(例えば、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、または経口投与でさえ)をたどって、血液からCNSに入ることができるようになることを見いだした。HIR Ab−SGSH融合抗体の投与は、末梢血から脳内へのSGSH活性の送達を可能にする。本明細書は、CNSにおけるSGSH欠損症を治療するために治療的に有効なHIR Ab−SGSH融合抗体の全身用量を決定することについて記載する。本明細書に記載されているように、HIR Ab−SGSH融合抗体の適切な全身用量は、HIR Ab−酵素融合抗体のCNS取り込み特性および酵素活性の、定量的な決定に基づいて確立される。
ヘパラン硫酸は、中枢神経系内の乏突起膠細胞で合成される硫酸化グリコサミノグリカンである。本明細書において、SGSH(例えば、GenBank受託番号:NP_000190に記載のヒトSGSH配列)は、ヘパラン硫酸からのN−結合硫酸エステルの加水分解を触媒することができる、任意の天然または人工酵素を指す。
SGSHは、SGSH酵素活性の発現のために特定の翻訳後修飾を必要とする、スルファターゼファミリーのメンバーである。SGSH酵素の活性は、ホルミルグリシン生成酵素(FGE)とも称されるスルファターゼ修飾因子タイプ1(SUMF1)により、(シグナルペプチドを含む無傷なSGSHタンパク質の)Cys−70がホルミルグリシン残基に変換されると活性化される。いくつかの態様において、SGSHを含む融合抗体は、スルファターゼ修飾因子タイプ1(SUMF1)により翻訳後修飾されている。いくつかの態様において、翻訳後修飾は、システインからホルミルグリシンへの変換を含む。いくつかの態様において、融合抗体は、ホルミルグリシン残基を含むSGSHを含む。
いくつかの態様において、SGSHは、ヒトSGSHのアミノ酸配列と少なくとも50%同一である(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100%以下の任意の他のパーセント同一である)アミノ酸配列を有し、ヒトSGSHは、GenBank NP_000190に記載の502アミノ酸のタンパク質であるか、または、20アミノ酸のシグナルペプチドを欠き、かつ配列番号9(図8)に対応する、その482アミノ酸サブ配列である。ヒトSGSHの構造機能相関は研究されており、Scott et al. (1995),「Cloning of the sulphamidase gene and identification of mutations in Sanfilippo A syndrome」, Nature Genetics, 11:465-467に記載されているように、Cys−70は、翻訳後修飾のためにスルファターゼにおいて保存されている残基である。Asp−51残基は、Gliddon et al. (2004),「Purification and characterization of recombinant murine sulfamidase」, Molec. Genet. Metab. 83:239-245に記載されているように、二価陽イオンの結合に関与する。N−結合グリコシル化部位は、アミノ酸付番方式が20アミノ酸のシグナルペプチドを含む、DiNatale et al. (2001),「Heparan N-sulfatase: in vitro mutagenesis of potential N-glycosylation sites」, Biochem. Biophys. Res. Comm. 280:1251-1257に記載されているように、Asn−41、Asn−142、Asn−151、Asn−264、およびAsn−413に存在する。
いくつかの態様において、SGSHは、(図8に示す)配列番号9と少なくとも50%同一である(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100%以下の任意の他のパーセント同一である)アミノ酸配列を有する。配列番号9などの標準的なSGSH配列の配列変異体は、例えば、特定のドメインに対応する全配列または具体的なサブ配列のランダム変異導入法により、生成され得る。あるいは、上記のものなどSGSHの機能に不可欠であることが知られている残基への突然変異を防ぎながらも、部位特異的突然変異誘発法を反復して実施することができる。さらに、SGSH配列の複数の変異体の生成において、厳密なランダム変異導入法により生成するであろう機能しない配列変異体の数を大幅に減らすため、突然変異寛容性予測プログラムを用いることができる。タンパク質配列内のアミノ酸置換のタンパク質機能への影響を予測する様々なプログラム(例えば、SIFT、PolyPhen、PANTHER PSEC、PMUT、およびTopoSNP)は、例えば、Henikoff et al. (2006),「Predicting the Effects of Amino Acid Substitutions on Protein Function」, Annu. Rev. Genomics Hum. Genet., 7:61-80に記載されている。SGSH配列変異体は、当該技術分野で既知の蛍光定量的酵素アッセイにより、SGSH活性/SGSH活性の保持についてスクリーニングすることができる(Karpova et al. (1996): A fluorimetric enzyme assay for the diagnosis of Sanfilippo disease type A (MPS IIIA), J. Inher. Metab. Dis. 19: 278-285)。従って、当業者は、上記のように、当該技術分野で所定の方法により、SGSH配列変異体の極めて多様な「ライブラリー」を作製しスクリーニングすることにより、非常に多くの使用可能なSGSH配列変異体を得ることができることを、十分理解するであろう。
配列相同性パーセント(percent sequence identity)は、通常の方法によって決定される。例えば、Altschul et al., Bull. Math. Bio. 48:603 (1986)、およびHenikoff and Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1992)を参照のこと。簡潔に述べると、2つのアミノ酸配列を並べて、ギャップオープニングペナルティー(gap opening penalty)を10で用い、ギャップエクステンションペナルティー(gap extension penalty)を1で用い、かつ、Henikoff and Henikoff(前記)の「BLOSUM62」スコアリングマトリックスを用いてアライメントスコアを最適化する。次いで、相同性パーセントを、([完全な一致の総数]/[より長い配列の長さ+2つの配列を並べるためにより長い配列に導入されたギャップの数])(100)として計算する。
当業者であれば、2つのアミノ酸配列を並べるために多くの確立されたアルゴリズムが入手可能であることを十分理解しているであろう。ピアソン(Pearson)とリップマン(Lipman)の「FASTA」類似性検索アルゴリズムは、本明細書で開示されているアミノ酸配列と他のペプチドのアミノ酸配列によって共有されている相同性のレベルを調べるための適切なタンパク質アライメント法である。FASTAアルゴリズムは、Pearson and Lipman, Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)、およびPearson, Meth. Enzymol. 183:63 (1990)に記載されている。簡潔に述べると、FASTAは、最初に、保存的アミノ酸置換、挿入、または欠失を考慮することなく、最も高密度の相同性(ktup変数が1の場合)または相同性の対(ktup=2の場合)のいずれかを有するテスト配列と、問い合わせ配列(例えば、配列番号9または配列番号16)によって共有されている領域を同定することによって配列類似性を特徴付ける。次いで、アミノ酸置換マトリックスを用いて、全ての対になったアミノ酸の類似性を比較することによって、最も高密度の相同性を有する10の領域をリスコアし(rescored)、該領域の末端を「切り取り(trimmed)」、最も高いスコアに寄与している残基のみを含むようにする。「カットオフ」値(配列の長さおよびktup値に基づいて所定の式によって計算される)を越えるスコアを有するいくつかの領域がある場合は、切り取られた(trimmed)最初の領域を調べて、該領域を連結してギャップを含む近似のアライメントを形成することができるかどうか決定する。最終的に、アミノ酸挿入および欠失を考慮する、ニードルマン(Needleman)−ブンシュ(Wunsch)−セラーズ(Sellers)アルゴリズム(Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:444 (1970)、Sellers, SIAM J. Appl. Math. 26:787 (1974))の修正を用いて、2つのアミノ酸配列の最も高スコアの領域を並べる。FASTA分析用の例示的パラメーターは:ktup=1、ギャップオープニングペナルティー=10、ギャップエクステンションペナルティー=1、および置換マトリックス=BLOSUM62である。Pearson, Meth. Enzymol. 183:63 (1990)のAppendix2に説明されているように、スコアリングマトリックスファイル(「SMATRIX」)を修正することによって、FASTAプログラムにこれらのパラメーターを導入することができる。
本態様は、本明細書で開示されているアミノ酸配列と比較して保存的アミノ酸変化を有するタンパク質も含む。例えば、通常のアミノ酸の中で、「保存的アミノ酸置換」は、下記の群のそれぞれの範囲内のアミノ酸の中での置換によって説明される:(1)グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシン、(2)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、(3)セリンおよびスレオニン、(4)アスパラギン酸およびグルタミン酸、(5)グルタミンおよびアスパラギン、ならびに(6)リジン、アルギニンおよびヒスチジン。BLOSUM62表はタンパク質配列セグメントの約2,000の局所的多重アライメントに由来するアミノ酸置換マトリックスであり、500群を超える関連タンパク質の高度に保存された領域を表している(Henikoff and Henikoff, Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 89:10915 (1992))。従って、BLOSUM62置換頻度は、本態様のアミノ酸配列に導入されてよい保存的アミノ酸置換を規定するために用いることができる。(上記のような)化学的性質のみに基づいてアミノ酸置換を設計することが可能であるが、用語「保存的アミノ酸置換」は、好ましくは−1を越えるBLOSUM62値によって表される置換を指す。例えば、0、1、2、または3のBLOSUM62値によって置換が特徴付けられている場合、アミノ酸置換は保存的である。このシステムに従うと、好ましい保存的アミノ酸置換は、少なくとも1(例えば、1、2または3)のBLOSUM62値によって特徴付けられ、一方、より好ましい保存的アミノ酸置換は、少なくとも2(例えば、2または3)のBLOSUM62値によって特徴付けられる。
配列が本態様の組成物および方法において機能を有するために十分な生物学的タンパク質活性を保持している限り、アミノ酸配列は付加的な残基、例えば付加的なN末端またはC末端アミノ酸を含んでよく、本明細書で開示されている配列の1つに依然として本質的に記載されていることも理解されるであろう。
α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(NAGLU)
組み換えNAGLUの全身投与(例えば、静脈注射による)が、MPS−IIIAに罹患した患者のCNSにおけるNAGLUの欠損を救うことは期待できない。NAGLUはBBBを通過せず、BBBを越える酵素の輸送の欠如により、末梢投与された後、CNSにおいて意義のある治療効果を有することが妨げられる。しかし、本発明者らは、HIR AbなどのBBBを通過する抗体とNAGLUが(例えば、共有結合性のリンカーにより)融合すると、この酵素が、非侵襲的な末梢投与経路(例えば、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、または経口投与でさえ)をたどって、血液からCNSに入ることができるようになることを見いだした。HIR Ab−NAGLU融合抗体の投与は、末梢血から脳内へのNAGLU活性の送達を可能にする。本明細書は、CNSにおけるNAGLU欠損症を治療するために治療的に有効なHIR Ab−NAGLU融合抗体の全身用量を決定することについて記載する。本明細書に記載されているように、HIR Ab−NAGLU融合抗体の適切な全身用量は、HIR Ab−酵素融合抗体のCNS取り込み特性および酵素活性の、定量的な決定に基づいて確立される。
本明細書において、NAGLU(例えば、GenBank受託番号:NP_000254に記載のヒトNAGLU配列)は、N−アセチル−α−D−グルコサミニド中のN−アセチル−D−グルコサミン残基の加水分解を触媒することができる、任意の天然または人工酵素を指す。
いくつかの態様において、NAGLUは、GenBank NP_000254に記載のタンパク質、ヒトNAGLUのアミノ酸配列と少なくとも50%同一である(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100%以下の任意の他のパーセント同一である)アミノ酸配列を有する。いくつかの態様において、NAGLUは、配列番号17と少なくとも50%同一である(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100%以下の任意の他のパーセント同一である)アミノ酸配列を有する。配列番号17などの標準的なNAGLU配列の配列変異体は、例えば、特定のドメインに対応する全配列または具体的なサブ配列のランダム変異導入法により、生成され得る。あるいは、上記のものなどNAGLUの機能に不可欠であることが知られている残基への突然変異を防ぎながらも、部位特異的突然変異誘発法を反復して実施することができる。さらに、NAGLU配列の複数の変異体の生成において、厳密なランダム変異導入法により生成するであろう機能しない配列変異体の数を大幅に減らすため、突然変異寛容性予測プログラムを用いることができる。タンパク質配列内のアミノ酸置換のタンパク質機能への影響を予測する様々なプログラム(例えば、SIFT、PolyPhen、PANTHER PSEC、PMUT、およびTopoSNP)は、例えば、Henikoff et al. (2006),「Predicting the Effects of Amino Acid Substitutions on Protein Function」, Annu. Rev. Genomics Hum. Genet., 7:61-80に記載されている。NAGLU配列変異体は、当該技術分野で公知の蛍光定量的酵素アッセイにより、NAGLU活性/NAGLU活性の保持についてスクリーニングすることができる。従って、当業者は、上記のように、当該技術分野で所定の方法により、NAGLU配列変異体の極めて多様な「ライブラリー」を作製しスクリーニングすることにより、非常に多くの使用可能なNAGLU配列変異体が得ることができることを、十分理解するであろう。
ヘパリン−α−グルコサミニドN‐アセチルトランスフェラーゼ(HGSNAT)
組み換えHGSNATの全身投与(例えば、静脈注射による)が、MPS−IIIAに罹患した患者のCNSにおけるHGSNATの欠損を救うことは期待できない。HGSNATはBBBを通過せず、BBBを越える酵素の輸送の欠如により、末梢投与された後、CNSにおいて意義のある治療効果を有することが妨げられる。しかし、本発明者らは、HIR AbなどのBBBを通過する抗体とHGSNATが(例えば、共有結合性のリンカーにより)融合すると、この酵素が、非侵襲的な末梢投与経路(例えば、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、または経口投与でさえ)をたどって、血液からCNSに入ることができるようになることを見いだした。HIR Ab−HGSNAT融合抗体の投与は、末梢血から脳内へのHGSNAT活性の送達を可能にする。本明細書は、CNSにおけるHGSNAT欠損症を治療するために治療的に有効なHIR Ab−HGSNAT融合抗体の全身用量を決定することについて記載する。本明細書に記載されているように、HIR Ab−HGSNAT融合抗体の適切な全身用量は、HIR Ab−酵素融合抗体のCNS取り込み特性および酵素活性の、定量的な決定に基づいて確立される。
本明細書において、HGSNAT(例えば、GenBank受託番号:NP_689632に記載のヒトHGSNAT配列)は、ヘパラン硫酸からのグルコサミン残基のアセチル化を触媒することができる、任意の天然または人工酵素を指す。
いくつかの態様において、HGSNATは、GenBank NP_689632に記載のタンパク質、ヒトHGSNATのアミノ酸配列と少なくとも50%同一である(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100%以下の任意の他のパーセント同一である)アミノ酸配列を有する。いくつかの態様において、HGSNATは、配列番号19と少なくとも50%同一である(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100%以下の任意の他のパーセント同一である)アミノ酸配列を有する。配列番号19などの標準的なHGSNAT配列の配列変異体は、例えば、特定のドメインに対応する全配列または具体的なサブ配列のランダム変異導入法により、生成され得る。あるいは、上記のものなどHGSNATの機能に不可欠であることが知られている残基への突然変異を防ぎながらも、部位特異的突然変異誘発法を反復して実施することができる。さらに、HGSNAT配列の複数の変異体の生成において、厳密なランダム変異導入法により生成するであろう機能しない配列変異体の数を大幅に減らすため、突然変異寛容性予測プログラムを用いることができる。タンパク質配列内のアミノ酸置換のタンパク質機能への影響を予測する様々なプログラム(例えば、SIFT、PolyPhen、PANTHER PSEC、PMUT、およびTopoSNP)は、例えば、Henikoff et al. (2006),「Predicting the Effects of Amino Acid Substitutions on Protein Function」, Annu. Rev. Genomics Hum. Genet., 7:61-80に記載されている。HGSNAT配列変異体は、当該技術分野で公知の蛍光定量的酵素アッセイにより、HGSNAT活性/HGSNAT活性の保持についてスクリーニングすることができる。従って、当業者は、上記のように、当該技術分野で所定の方法により、HGSNAT配列変異体の極めて多様な「ライブラリー」を作製しスクリーニングすることにより、非常に多くの使用可能なHGSNAT配列変異体が得ることができることを、十分理解するであろう。
組み換えGNSの全身投与(例えば、静脈注射による)が、MPS−IIIAに罹患した患者のCNSにおけるGNSの欠損を救うことは期待できない。GNSはBBBを通過せず、BBBを越える酵素の輸送の欠如により、末梢投与された後、CNSにおいて意義のある治療効果を有することが妨げられる。しかし、本発明者らは、HIR AbなどのBBBを通過する抗体とGNSが(例えば、共有結合性のリンカーにより)融合すると、この酵素が、非侵襲的な末梢投与経路(例えば、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、または経口投与でさえ)をたどって、血液からCNSに入ることができるようになることを見いだした。HIR Ab−GNS融合抗体の投与は、末梢血から脳内へのGNS活性の送達を可能にする。本明細書は、CNSにおけるGNS欠損症を治療するために治療的に有効なHIR Ab−GNS融合抗体の全身用量を決定することについて記載する。本明細書に記載されているように、HIR Ab−GNS融合抗体の適切な全身用量は、HIR Ab−酵素融合抗体のCNS取り込み特性および酵素活性の、定量的な決定に基づいて確立される。
本明細書において、GNS(例えば、GenBank受託番号:NP_002067に記載のヒトGNS配列)は、ヘパラン硫酸からの6−硫酸基の加水分解を触媒することができる、任意の天然または人工酵素を指す。
いくつかの態様において、GNSは、GenBank NP_002067に記載のタンパク質、ヒトGNSのアミノ酸配列と少なくとも50%同一である(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100%以下の任意の他のパーセント同一である)アミノ酸配列を有する。いくつかの態様において、GNSは、配列番号21と少なくとも50%同一である(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100%以下の任意の他のパーセント同一である)アミノ酸配列を有する。配列番号21などの標準的なGNS配列の配列変異体は、例えば、特定のドメインに対応する全配列または具体的なサブ配列のランダム変異導入法により、生成され得る。あるいは、上記のものなどGNSの機能に不可欠であることが知られている残基への突然変異を防ぎながらも、部位特異的突然変異誘発法を反復して実施することができる。さらに、GNS配列の複数の変異体の生成において、厳密なランダム変異導入法により生成するであろう機能しない配列変異体の数を大幅に減らすため、突然変異寛容性予測プログラムを用いることができる。タンパク質配列内のアミノ酸置換のタンパク質機能への影響を予測する様々なプログラム(例えば、SIFT、PolyPhen、PANTHER PSEC、PMUT、およびTopoSNP)は、例えば、Henikoff et al. (2006),「Predicting the Effects of Amino Acid Substitutions on Protein Function」, Annu. Rev. Genomics Hum. Genet., 7:61-80に記載されている。GNS配列変異体は、当該技術分野で公知の蛍光定量的酵素アッセイにより、GNS活性/GNS活性の保持についてスクリーニングすることができる。従って、当業者は、上記のように、当該技術分野で所定の方法により、GNS配列変異体の極めて多様な「ライブラリー」を作製しスクリーニングすることにより、非常に多くの使用可能なGNS配列変異体が得ることができることを、十分理解するであろう。
組成物
本明細書に記載の二機能性の融合抗体は、それらの別々の構成タンパク質の活性、例えば、BBBを通過できる抗体(例えばHIR Ab)と、BBB上の内因性受容体の細胞外ドメイン(例えばIR ECD)との結合、および、MPS−IIIで欠損している酵素(例えばSGSH)の酵素活性を高い割合で保持していることが見いだされている。本明細書に記載の任意のタンパク質をコードするcDNAおよび発現ベクターの構築、ならびに、それらの発現および精製については、当業者に周知されており、本明細書の例えば実施例1〜3、ならびにBoadoら(2007), Biotechnol Bioeng 96:381-391、米国特許出願番号11/061,956および米国特許出願番号11/245,710に詳細に記載されている。
本明細書には、本明細書に記載されているように、内因性BBB受容体に対する抗体(例えばHIR Ab)を含み、BBBを通過でき、SGSHと融合されている、二機能性の融合抗体が記載されており、ここに、該内因性BBB受容体に対する抗体は、血液脳関門を通過することができ、SGSHのそれぞれが、単体としてのそれらの活性に比べ、平均してそれらの活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持している。いくつかの態様において、本明細書は、HIR AbおよびSGSHのそれぞれが、単体としてのそれらの活性に比べ、平均してそれらの活性の少なくとも約50%を保持している、HIR Ab−SGSH融合抗体を提供する。いくつかの態様において、本明細書は、HIR AbおよびSGSHのそれぞれが、単体としてのそれらの活性に比べ、平均してそれらの活性の少なくとも約60%を保持している、HIR Ab−SGSH融合抗体を提供する。いくつかの態様において、本明細書は、HIR AbおよびSGSHのそれぞれが、単体としてのそれらの活性に比べ、平均してそれらの活性の少なくとも約70%を保持している、HIR Ab−SGSH融合抗体を提供する。いくつかの態様において、本明細書は、HIR AbおよびSGSHのそれぞれが、単体としてのそれらの活性に比べ、平均してそれらの活性の少なくとも約80%を保持している、HIR Ab−SGSH融合抗体を提供する。いくつかの態様において、本明細書は、HIR AbおよびSGSHのそれぞれが、単体としてのそれらの活性に比べ、平均してそれらの活性の少なくとも約90%を保持している、融合HIR Ab−SGSH融合抗体を提供する。いくつかの態様において、HIR Abは、単体としてのその活性に比べ、その活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持しており、SGSHは、単体としてのその活性に比べ、その活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持している。従って、本明細書には、BBBを通過できる、二機能性のHIR Ab−SGSH融合抗体を含む組成物が記載されており、ここに、構成要素であるHIR AbおよびSGSHのそれぞれは、融合抗体の一部として、別々のタンパク質としてのそれらの活性に比べ、平均してそれらの活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%の活性、すなわち、それぞれHIR結合およびSGSH活性を保持している。HIR Ab−SGSH融合抗体は、本明細書に記載の任意のHIR抗体およびSGSHを含む融合タンパク質を指す。
本明細書の任意の態様において、HIR Abは、本明細書に記載の内因性BBB受容体に対する抗体、例えば、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体またはインスリン様成長因子(IGF)受容体に対する抗体、または、他の類似の内因性BBB受容体媒介輸送系に置き換えてよい。
本明細書に記載の融合抗体において、抗体とSGSHとの間の共有結合は、融合抗体がIRのECDに結合し血液脳関門を通過できるようにし、SGSHがその活性の治療的に有用な部分を保持することができるようにする限り、抗体重鎖または軽鎖のカルボキシ末端またはアミノ末端、および、SGSHのアミノ末端またはカルボキシ末端へのものであってよい。いくつかの態様において、共有結合は、抗体のHCとSGSHとの間、または、抗体のLCとSGSHとの間である。任意の適切な結合、例えば、軽鎖のカルボキシ末端とSGSHのアミノ末端、重鎖のカルボキシ末端とSGSHのアミノ末端、軽鎖のアミノ末端とSGSHのアミノ末端、重鎖のアミノ末端とSGSHのアミノ末端、軽鎖のカルボキシ末端とSGSHのカルボキシ末端、重鎖のカルボキシ末端とSGSHのカルボキシ末端、軽鎖のアミノ末端とSGSHのカルボキシ末端、または、重鎖のアミノ末端とSGSHのカルボキシ末端を用いることができる。いくつかの態様において、結合は、HCのカルボキシ末端からSGSHのアミノ末端へのものである。
SGSHは、リンカーにより、標的抗体(例えばMAb、HIR−MAb)と融合するか、または共有結合してよい。末端アミノ酸間の結合は、融合されたアミノ酸配列の一部を形成する、介在するペプチドリンカー配列により達成することができる。ペプチド配列リンカーは、長さが、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または10より多いアミノ酸であってよい。いくつかの好ましい態様を含むいくつかの態様において、ペプチドリンカーは、長さが、20、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1未満のアミノ酸である。いくつかの好ましい態様を含むいくつかの態様において、ペプチドリンカーは、長さが、少なくとも0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10のアミノ酸である。いくつかの態様において、SGSHは標的抗体に直接結合されるため、長さが0アミノ酸である。いくつかの態様において、SGSHを標的抗体に結合するリンカーはない。
いくつかの態様において、リンカーは、任意の組み合わせまたは順序で、グリシン、セリン、および/またはアラニン残基を含む。一部の例では、リンカー内のグリシン、セリン、およびアラニン残基を組み合わせた割合は、リンカー内の残基の総数の、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、または95%である。いくつかの好ましい態様において、リンカー内のグリシン、セリン、およびアラニン残基を組み合わせた割合は、リンカー内の残基の総数の、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、90%、または95%である。いくつかの態様において、任意の数のアミノ酸(天然または合成アミノ酸を含む)の組み合わせを、リンカーに用いることができる。いくつかの態様において、3アミノ酸のリンカーが用いられる。いくつかの態様において、リンカーは配列Ser−Ser−Serを有する。いくつかの態様において、2アミノ酸のリンカーは、任意の組み合わせまたは順序で、グリシン、セリン、および/またはアラニン残基を含む(例えばGly−Gly、Ser−Gly、Gly−Ser、Ser−Ser、Ala−Ala、Ser−Ala、またはAla−Serリンカー)。いくつかの態様において、2アミノ酸のリンカーは、1のグリシン、セリン、および/またはアラニン残基、ならびに他のアミノ酸(例えばSer−X、ここでXは任意の既知のアミノ酸である)からなる。さらに別の態様において、2アミノ酸のリンカーは、gly、ser、またはalaを除く、任意の2アミノ酸(例えばX−X)からなる。
本明細書に記載されているように、いくつかの態様において、長さが2アミノ酸を越えるリンカー。本明細書でさらに記載するように、該リンカーは、任意の組み合わせまたは順序で、グリシン、セリン、および/またはアラニン残基も含んでよい。いくつかの態様において、リンカーは、1のグリシン、セリン、および/またはアラニン残基、ならびに、他のアミノ酸(例えばSer−nX、ここでXは任意の既知のアミノ酸であり、nはアミノ酸の数である)からなる。さらに別の態様において、リンカーは任意の2アミノ酸からなる(例えばX−X)。いくつかの態様において、前記の任意の2アミノ酸は、任意の組み合わせまたは順序で、かつ、それらの間に介在する可変数のアミノ酸内で、Gly、Ser、またはAlaである。ある態様の一例において、リンカーは少なくとも1のGlyからなる。ある態様の一例において、リンカーは少なくとも1のSerからなる。ある態様の一例において、リンカーは少なくとも1のAlaからなる。いくつかの態様において、リンカーは少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10のGly、Ser、および/またはAla残基からなる。好ましい態様において、リンカーは、(Gly4Ser)3または他のバリエーションなどの任意の組み合わせまたは数の繰り返し配列にて、GlyおよびSerを含む。
本態様に用いるためのリンカーは、当該技術分野で公知の任意の方法を用いることによって設計されてよい。例えば、融合タンパク質の設計において、最適なアミノ酸リンカーを決定するための複数の公的に入手可能なプログラムがある。タンパク質の配列および所望の長さのリンカーのユーザーによる入力に基づいて、最適なリンカーのアミノ酸配列を自動的に生成する公的に入手可能なコンピュータープログラム(例えばLINKERプログラム)が、本方法および組成物に用いられてよい。しばしば、タンパク質設計に用いるために最適なタンパク質リンカーを予測するために、該プログラムはタンパク質サブドメインを連結する天然のリンカーの観察される傾向を用いることができる。一部の例では、該プログラムは、最適なリンカーを予測する他の方法を用いる。本態様のためのリンカーを予測するために適したいくつかのプログラムの例は、当該技術分野で記載されており、例えば、Xue et al. (2004) Nucleic Acids Res. 32, W562-W565(機能性の融合タンパク質を構築するためのリンカー配列の設計を支援するためのLINKERプログラムへのインターネットリンクを提供しているウェブサーバー版)、George and Heringa, (2003), Protein Engineering, 15(11):871-879(リンカー(linker)プログラムへのインターネットリンクを提供し、タンパク質リンカーの合理的設計を記載している)、Argos, (1990), J. Mol. Biol. 211:943-958、Arai et al. (2001) Protein Engineering, 14(8):529-532、Crasto and Feng, (2000) Protein Engineering 13(5):309-312を参照のこと。
ペプチドリンカー配列は、プロテアーゼ切断部位を含んでもよいが、これはSGSHの活性に必要ではなく、実際、これらの態様の利点は、一旦BBBを越えると、二機能性のHIR Ab−SGSH融合抗体が、切断なしに、輸送と活性の両方について、部分的にまたは完全に活性であることである。図9は、HCが、そのカルボキシ末端で、3アミノ酸の「Ser−Ser−ser」リンカーを介して、SGSHのアミノ末端と融合されている、HIR Ab−SGSH融合抗体のアミノ酸配列(配列番号10)の典型的な態様を示す。いくつかの態様において、図8に示すように、融合されたSGSH配列は、その20アミノ酸のシグナルペプチドを欠いている。
いくつかの態様において、本明細書のHIR Ab−SGSH融合抗体は、HCとLCの両方を含む。いくつかの態様において、HIR Ab−SGSH融合抗体は一価の抗体である。別の態様において、本明細書の実施例セクションに記載されているように、HIR Ab−SGSH融合抗体は二価の抗体である。
いくつかの態様において、HIR Ab−SGSH融合抗体の一部として用いられるHIR Abは、グリコシル化されていることも、されていないこともあり、いくつかの態様において、抗体は、例えば、CHO細胞内での合成によりもたらされるグリコシル化パターンでグリコシル化されている。
本明細書において、「活性」は、生理的活性(例えば、BBBを通過する能力、および/または治療活性)、IR ECDに対するHIR Abの結合親和性、またはSGSHの酵素活性を含む。
BBBを越えるHIR Ab−SGSH融合抗体の輸送は、標準的な方法により、HIR Ab単独のBBBを越える輸送と比較することができる。例えば、モデル動物、例えば、霊長類のような哺乳類によるHIR Ab−SGSH融合抗体の薬物動態および脳取り込みを用いることができる。同様に、SGSH活性を決定する標準モデルは、SGSHの機能を、単独の場合と、HIR Ab−SGSH融合抗体の一部としての場合と比較するために用いることもできる。例えば、SGSH対HIR Ab−SGSH融合抗体の酵素活性を立証する実施例4を参照のこと。HIR Ab−SGSH融合抗体対HIR Ab単独について、IR ECDに対する結合親和性を比較することができる。例えば、本明細書の実施例4を参照のこと。
本明細書は、本明細書に記載されている1つ以上のHIR Ab−SGSH融合抗体、および医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物も含む。医薬的に許容される担体/賦形剤についての徹底的な議論は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Gennaro, AR, ed., 20th edition, 2000: Williams and Wilkins PA, USAに見ることができる。本態様の医薬組成物は、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内注射、経口投与、直腸投与、経頬投与、経肺投与、経皮投与、鼻腔内投与、または、末梢投与の任意の他の適切な経路を含む、任意の末梢経路を介した投与に適した組成物を含む。
本明細書の組成物は、特に注射に適しており、例えば、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、または腹腔内投与用の医薬組成物として適している。本明細書の水性組成物は、医薬的に許容される担体または水性媒体中に溶解または分散されてよい、本態様の組成物の有効量を含む。語句「医薬的にまたは薬理学的に許容される」は、必要に応じて、動物、例えばヒトに投与された場合に、有害な、アレルギー性の、または他の有害な反応を起こさない分子実体(molecular entities)および組成物を指す。本明細書において、「医薬的に許容される担体」は、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、ならびに、等張剤および吸収遅延剤等を含む。そのような媒体および薬剤を医薬活性物質に用いることは、当該技術分野で周知である。活性成分と適合しない場合を除き、任意の従来の媒体または薬剤を治療用組成物に用いることが考慮される。補助的な活性成分を組成物に含めることもできる。
注射用組成物のための典型的な医薬的に許容される担体としては、塩、例えば、鉱酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩等)、および有機酸の塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩等)を挙げることができる。例えば、本明細書の組成物は、液体形態で提供されてよく、0.01〜1%のポリソルベート−80等の界面活性剤、またはマンニトール、ソルビトールもしくはトレハロース等の糖質添加剤を含むまたは含まない、様々なpH(5〜8)の生理食塩水ベースの水溶液に製剤化されてよい。通常用いられる緩衝液としては、ヒスチジン緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、またはクエン酸緩衝液が挙げられる。いくつかの態様において、本明細書の医薬組成物は、単糖、例えばグルコースまたはデキストロースを含む。例えば、融合抗体は、デキストロース約0.1%、約0.5%、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%またはそれより多い、デキストロースおよび/またはグルコースの溶液で投与することができる。いくつかの態様において、組成物は、約5%(w/vまたはv/v)の濃度で、グルコースおよび/またはデキストロースを含み得る。例えば、通常の保存および使用条件下で、血漿およびCSFグルコースレベルが有意に変化し低血糖を示す場合、これらの調合液は、微生物の増殖を防ぐ防腐剤を含み得る。様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等により、微生物の活動の阻止をもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。吸収を遅延する物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に用いることにより、注射用組成物の延長された吸収をもたらすことができる。
ヒト投与用の調合液は、FDAが要求する無菌状態、発熱性、一般的安全性、および純度基準および他の規制機関の基準に適合する。活性化合物は、一般的に、非経口投与用に製剤化される、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、病巣内、または腹腔内経路を介する注射用に製剤化されるであろう。活性要素または活性成分を含む水性組成物の製造は、本開示に照らして当業者に知られるであろう。典型的には、そのような組成物は、注射物質、液体溶液としても液体懸濁液としても、製造することができ、注射の前に液体を加えて溶液または懸濁液を調製するのに用いるために適した固形を製造することもでき、調合液を乳化させることもできる。
無菌注射溶液は、適切な溶媒中の必要量の活性化合物を必要に応じて上に挙げた様々な他の成分と組み合わせ、次いでろ過滅菌することにより製造される。一般的には、分散剤は、様々な無菌活性成分を、基本的分散媒質および上に挙げた必要な他の成分を含む無菌媒体に組み込むことにより製造される。無菌注射溶液を製造するための無菌粉末の場合は、製造方法には、活性成分および任意の追加の所望の成分の粉末をその予め濾過滅菌した溶液から生成する真空乾燥および凍結乾燥技術が含まれる。
製剤化されると、溶液は、投与製剤と適合するように、本明細書に記載の基準に基づく治療的に活性な量で全身投与されるであろう。製剤は、様々な剤形、例えば上記の注射溶液の形で容易に投与されるが、薬剤放出カプセルなども用いることができる。
投与される医薬組成物の適切な品質、処置回数、および単位用量は、本明細書に記載されているように、HIR Ab−SGSH融合抗体のCNS取り込み特性に、ならびに、治療する対象、対象の状態、および所望の効果に応じて変化するであろう。いずれにしても、投与担当者は、個々の対象に対する適切な用量を決定するであろう。
非経口投与、例えば静脈内または筋肉内注射用に製剤化した化合物に加え、限定されるものではないが、以下を含む本態様の他の代替投与法も用いることができる:皮膚内投与(米国特許第5,997,501号、第5,848,991号、および第5,527,288号を参照)、肺投与(米国特許第6,361,760号、第6,060,069号、および第6,041,775号を参照)、バッカル投与(米国特許第6,375,975号、および第6,284,262号を参照)、経皮的投与(米国特許第6,348,210号、および第6,322,808号)、および経粘膜投与(米国特許第5,656,284号を参照)。そのような投与方法は当該技術分野で周知である。点鼻液またはスプレー、エアロゾル、または吸入剤等の、本態様の鼻内投与を用いることもできる。点鼻液は、通常、滴剤またはスプレー剤で鼻腔に投与するよう設計された水性溶液である。点鼻液は、多くの点で鼻汁と同様であるように製造される。従って、水性点鼻液は、通常、等張であり、pH5.5〜6.5を維持するためにわずかに緩衝化されている。さらに、必要であれば、点眼薬および適切な薬剤安定剤に用いるものと同様の抗菌性保存剤を製剤に含めてもよい。様々な市販の点鼻剤が知られており、これには、例えば抗生物質および抗ヒスタミン剤が含まれ、喘息の予防に用いられる。
他の投与方法に適したさらなる製剤には坐剤およびペッサリーが含まれる。直腸ペッサリーまたは坐剤を用いることもできる。坐剤は、直腸または尿道へ挿入するための、通常薬を含んでいる、様々な重量および形状の固体剤形である。挿入後に坐剤は腔内液中で軟化し、融解または溶解する。坐剤用の従来の結合剤および担体は、一般的に、例えばポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含み、そのような坐剤は、任意の適切な範囲、例えば0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成することができる。
経口製剤は、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムのような、通常用いられる賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、持続放出製剤または粉末の形態をとる。ある特定の態様において、経口医薬組成物は、不活性希釈剤もしくは吸収可能な食用担体を含むことになるか、ハードもしくはソフトシェルゼラチンカプセルに封入されるか、錠剤に圧縮されるか、または食事療法の食品に直接組み込むことができる。経口治療投与用の活性化合物は、賦形剤と共に組み込まれてよく、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ剤、ウエハース等の形態で用いることができる。そのような組成物および製剤は、少なくとも0.1%の活性化合物を含むことができる。組成物および製剤の割合は、もちろん変化し、便宜的に、単位の重量の約2〜約75%の間、または約25〜60%の間であってよい。そのような治療的に有用な組成物中の活性化合物の量は、適切な用量が得られるような量である。
錠剤、トローチ、丸薬、カプセル等は以下のものを含んでもよい:結合剤、例えばトラガカント・ゴム、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチン;賦形剤、例えば第二リン酸カルシウム;崩壊剤、例えばコーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸等;滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム;および甘味料、例えばスクロース、ラクトース、またはサッカリンを加えてもよく、または香味剤、例えばペパーミント、ウインターグリーン油、またはチェリー香味料。単位剤形がカプセル剤である場合は、上記の種類の物質に加えて液体担体を含んでもよい。様々な他の物質は、コーティングとして、または用量単位の物理的形状を他の方法で修飾するために存在してもよい。例えば、錠剤、丸薬、またはカプセルをセラック、糖、またはその両方でコートしてもよい。エリキシル剤のシロップは、甘味料として活性化合物スクロース、防腐剤としてメチレンおよびプロピルパラベン、色素、および香味剤、例えばチェリーまたはオレンジ香味料を含んでもよい。ある態様において、経口医薬組成物は、胃の環境から活性成分を保護するために腸溶コートしてもよく、腸溶コーティング法および製剤は当該技術分野で周知である。
方法
本明細書は、治療的有効量の、本明細書に記載の融合抗体を全身投与することにより、BBBを越えてCNSへ、有効用量の、MPS−IIIで欠損している酵素(例えばSGSH)を送達する方法について記載する。いくつかの態様において、本明細書の融合抗体はHIR Ab−SGSHである。本明細書に記載されているように、HIR Ab−SGSH融合抗体の送達のための適切な全身用量は、そのCNS取り込み特性およびSGSH比活性に基づいている。SGSH欠損症に罹患した対象へのHIR Ab−SGSH融合抗体の全身投与は、CNSへSGSHを非侵襲的に送達する有用なアプローチである。さらに、本明細書は、治療的有効量の、本明細書に記載の融合抗体を全身投与することにより、対象におけるMPS−IIIを治療する(例えば、治療的に処置する)方法について記載する。いくつかの態様において、治療は治療的処置である。いくつかの態様において、治療は、MPS−IIIの1つ以上の症状を軽減する。いくつかの態様において、治療は、MPS−IIIの1つ以上の症状を、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、95%、99%、または100%軽減する。
融合抗体の治療的に有効な全身用量である融合抗体の量は、本明細書に記載されているように、投与される融合抗体のCNSの取り込み特性、例えば、全身投与された用量の内、CNSで取り込まれる割合に一部依存する。
いくつかの態様において、全身投与されるHIR Ab−SGSH融合抗体の1%(すなわち、約0.3%、0.4%、0.48%、0.6%、0.74%、0.8%、0.9%、1.05、1.1、1.2、1.3%、1.5%、2%、2.5%、3%、または約0.3%〜約3%の任意の%)が、末梢血からBBBを越えるその取り込みの結果として、脳へ送達される。いくつかの態様において、HIR Ab−SGSH融合抗体の全身投与された用量の、少なくとも0.5%(すなわち、約0.3%、0.4%、0.48%、0.6%、0.74%、0.8%、0.9%、1.05、1.1、1.2、1.3%、1.5%、2%、2.5%、3%、または約0.3%〜約3%の任意の%)が、全身投与後2時間以内、すなわち、1.8、1.7、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、0.9、0.8、0.6、0.5、または約0.5〜約2時間の任意の時間に、脳へ送達される。
従って、いくつかの態様において、本明細書は、BBBを通過する融合抗体の量が、対象の脳において、少なくとも0.5ngのSGSHタンパク質/mgタンパク質(例えば、対象の脳において、0.5、1、3、10、30、50、または0.5〜50ngの任意の他の値のSGSHタンパク質/mgタンパク質)をもたらすように、5〜50kgのヒトへ、治療的有効量の、本明細書に記載の融合抗体を全身投与する方法を提供する。
いくつかの態様において、対象の脳へ送達される酵素(例えばSGSH)活性の総ユニット数は、脳1グラム当たり、少なくとも50ミリユニットである(例えば、脳1グラム当たり、少なくとも100、300、1000、3000、10000、30000、50000、または約50〜50,000ミリユニットの任意の他のSGSH総ユニット数の、送達されるSGSH活性)。
いくつかの態様において、治療的に有効な全身用量は、少なくとも5000、10000、30000、100000、300000、1000000、5000000、または、約5,000〜5,000,000ユニットの任意の他の全身用量の酵素(例えばSGSH)活性を含む。
別の態様において、治療的に有効な全身用量は、少なくとも約1000ユニットの酵素(例えばSGSH)活性/kg体重、少なくとも約1000、3000、10000、30000、100000、または約1,000〜100,000ユニットの任意の他のユニット数の酵素活性/kg体重である。
当業者は、本明細書の融合抗体の治療的に有効な全身用量の質量が、その酵素(例えばSGSH)比活性に一部依存することを十分理解するであろう。いくつかの態様において、融合抗体の比活性は少なくとも1,000U/mgタンパク質、少なくとも約1500、2500、3500、6000、7500、9000、または、約1,000ユニット/mg〜約10,000ユニット/mgの任意の他の比活性値である。
従って、本明細書の融合抗体の比活性、および治療される対象の体重を十分考慮すると、融合抗体の全身用量は少なくとも5mg、例えば、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、100、300、または、約5mg〜約500mgの任意の他の値の融合抗体(例えばHIR Ab−SGSH)であり得る。
本明細書で用いられている用語「全身投与」または「末梢投与」は、CNSへの直接投与ではない任意の投与方法、すなわち、身体的な穿通またはBBBの破壊を含まない任意の投与方法を含む。「全身投与」は、限定されるものではないが、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、経頬投与、経皮投与、直腸投与、経肺投与(吸入)、または経口投与を含む。本明細書に記載されているように、任意の適切な融合抗体が用いられてよい。
本明細書において、SGSH欠損症は、サンフィリッポ症候群A型またはMPS−IIIAとして知られる1つ以上の病状を含む。SGSH欠損症は、脳および他の臓器内で起こる、ヘパラン硫酸の蓄積により特徴付けられる。
本明細書の組成物、例えばHIR Ab−SGSH融合抗体は、併用療法の一部として投与されてよい。該併用療法は、SGSH欠損症に罹患している患者に典型的に見られる症状の治療または軽減のための他の治療と組み合わせた本態様の組成物の投与を含む。本態様の組成物が他のCNS障害の方法または組成物と組み合わせて用いられる場合、本態様の組成物と付加的な方法または組成物の任意の組み合わせが用いられてよい。従って、例えば、本態様の組成物が他のCNS障害治療薬と組み合わせて用いられる場合、その2つは、同時に、連続的に、重複する持続期間、類似した、同一の、または異なる頻度等で投与されてよい。いくつかの場合には、本態様の組成物を1つ以上の他のCNS障害治療薬と組み合わせて含有する組成物が用いられるであろう。
いくつかの態様では、組成物、例えばHIR Ab−SGSH融合抗体は、他の薬剤と、同一の製剤内または別々の組成物として患者に同時投与される。例えば、本明細書の融合抗体は、同様にヒト血液脳関門を越えてSGSH以外の組換えタンパク質を送達するように設計された他の融合タンパク質と共に製剤化されてよい。さらに、融合抗体は、他の巨大分子または小分子と組み合わせて製剤化されてよい。
下記の特定の実施例は、単に説明の目的で提供されていると解釈されるべきであり、いかなる場合であっても決して本開示の残りの部分を限定するものではない。これ以上詳述しなくても、当業者であれば、本明細書の記載に基づいて、本態様をその最大限の範囲まで利用することができると考えられる。本明細書で引用されている全ての出版物は、それらの全体において参照することによって本明細書に援用される。参照がURLなどの識別名またはアドレスでなされている場合、該識別名は変化してよく、インターネット上の特定の情報は現れたり消えたりしうるが、インターネットを検索することによって等価な情報を見ることができると理解されるべきである。それに対する参照は、該情報が入手可能であり、公に普及していることを証明するものである。
実施例1.HIR Ab−GUSB融合タンパク質の発現および機能解析
スライ症候群とも称されるMPS−VIIで変異しているリソソーム酵素は、β−グルクロニダーゼ(GUSB)である。MPS−VIIは、脳内のグリコサミノグリカンの蓄積をもたらす。GUSB酵素はBBBを通過しないため、MPS−VIIの酵素補充療法(ERT)は、脳の治療に有効ではないようである。BBBを通過するヒトGUSBを再設計する試みにおいて、HIR Ab−GUSB融合タンパク質プロジェクトを開始した。
22アミノ酸のシグナルペプチドおよび18アミノ酸のカルボキシル末端プロペプチドを含む、ヒトGUSBタンパク質(NP_000172)のアミノ酸Met1−Thr651に対応するヒトGUSB cDNAを、逆転写(RT)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびカスタムオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)によってクローン化した。PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動で分離し、ヒトGUSB cDNAに対応する〜2.0kbの予想される主要な単一バンドを単離した。クローン化されたヒトGUSBを真核細胞発現プラスミドに挿入し、このGUSB発現プラスミドをpCD−GUSBと命名した。プラスミドの完全な発現カセットを双方向DNAシーケンシング(bi−directional DNA sequencing)によって確認した。6ウェルフォーマット中、COS細胞をpCD−GSUBでトランスフェクトすると、馴化培地中、7日で高GUSB酵素活性をもたらし(表1、実験A)、これにより機能性のヒトGUSB cDNAが成功裏に設計されたことが立証された。GUSB酵素活性を、市販の4−メチルウンベリフェリル−β−L−グルクロニド(MUGlcU)を用いた蛍光定量的アッセイで決定した。この基質をGUSBによって4−メチルウンベリフェロン(4−MU)に加水分解し、発光波長450nmおよび励起波長365nmを用いた蛍光光度計で4−MUを蛍光定量的に検出する。既知量の4−MUで検量線を作成した。アッセイは37℃で60分間インキュベーション、pH=4.8で行い、グリシン−炭酸塩緩衝液(pH=10.5)の添加によって停止した。
HIR Abの重鎖(HC)のカルボキシル末端が、22アミノ酸のGUSBシグナルペプチドを含まず、18アミノ酸のカルボキシル末端GUSBプロペプチドを含まないヒトGUSBのアミノ末端と融合されている融合タンパク質を発現する、新たなpCD−HC−GUSBプラスミド発現プラスミドを設計した。GUSB cDNAを、pCD−GUSBをテンプレートとして用いたPCRによってクローン化した。オープンリーディングフレームを維持し、かつ、HIR Ab HCのCH3領域のカルボキシル末端と、酵素の22アミノ酸のシグナルペプチドを含まないGUSBのアミノ末端の間にSer−Serリンカーを導入するために、フォワードPCRプライマーに「CA」ヌクレオチドを導入させた。GUSBリバースPCRプライマーに、成熟ヒトGUSBタンパク質の末端Thrの直後にストップコドン「TGA」を導入させる。pCD−HC−GUSBの発現カセットのDNAシーケンシングは、714ntのサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、9ntのコザック部位(Kozak site)(GCCGCCACC)、3,228ntのHC−GUSB融合タンパク質オープンリーディングフレーム、および370ntのウシ成長ホルモン(BGH)転写終結配列を含む4,321ヌクレオチド(nt)を包含した。プラスミドは、19アミノ酸のIgGシグナルペプチド、443アミノ酸のHIRMAb HC、2アミノ酸のリンカー(Ser−Ser)、および酵素シグナルペプチドおよびカルボキシル末端プロペプチドを含まない611アミノ酸のヒトGUSBで構成される、1,075アミノ酸タンパク質をコードしていた。GUSB配列は、ヒトGUSB(NP_000172)のLeu23−Thr633と100%同一であった。グリコシル化されていない重鎖融合タンパク質の予想される分子量は119,306Daであり、予想される等電点(pI)は7.83である。
COS細胞を6ウェルクラスターディッシュに蒔き、pCD−LCおよびpCD−HC−GUSBで二重トランスフェクトされたが、ここでpCD−LCはキメラHIR Abの軽鎖(LC)をコードしている発現プラスミドである。トランスフェクションはリポフェクタミン2000を用いて行い、1:2.5のμgDNA:μLリポフェクタミン2000の比率とし、馴化無血清培地を3日および7日に採取した。しかし、pCD−HC−GUSBおよびpCD−LC発現プラスミドによるCOS細胞の二重トランスフェクション後、GUSB酵素活性の特異的増加はなかった(表1、実験B)。しかし、培地のIgGは、ヒトIgG特異的ELISAによって測定すると、わずか23±2ng/mLであったため、培地中の低GUSB活性はHIRMAb−GUSB融合タンパク質の低分泌に起因しうるものであった。従って、COS細胞トランスフェクションを10xT500プレートまでスケールアップし、HIRMAb−GUSB融合タンパク質をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。IgGウエスタンブロッティングは、融合タンパク質重鎖のサイズの予想された増加を示した。しかし、HIRMAb−GUSB融合タンパク質のGUSB酵素活性は低く、6.1±0.1nmol/hr/μgタンパク質であった。対照的に、ヒト組換えGUSBの比活性は2,000nmol/hr/μgタンパク質である[Sands et al (1994) Enzyme replacement therapy for murine mucopolysaccharidosis type VII. J Clin Invest 93, 2324-2331]。これらの結果は、GUSBをHIR AbのHCのカルボキシル末端と融合した後、HIR Ab−GUSB融合タンパク質のGUSB酵素活性が、>95%失われたことを立証した。HIR Ab−GUSB融合タンパク質とHIRの細胞外ドメイン(ECD)の結合親和性を、ELISAで試験した。HIR ECDで永続的にトランスフェクトされたCHO細胞を無血清培地(SFM)中で培養し、HIR ECDをコムギ胚芽凝集素アフィニティーカラムで精製した。HIR ECDを96ウェルディッシュに蒔き、HIR Ab、およびHIR Ab−GUSB融合タンパク質とHIR ECDの結合を、ビオチン化抗ヒトIgG(H+L)ヤギ二次抗体で検出し、次いでアビジンおよびビオチン化ペルオキシダーゼで検出した。最大の結合の50%を与えるタンパク質の濃度であるED50を、非線形回帰分析で決定した。HIR受容体アッセイは、611アミノ酸のGUSBをHIRMAb重鎖のカルボキシル末端と融合した後、HIRに対する親和性に減少がないことを示した。HIR AbとHIR ECDの結合のED50は0.77±0.10nMであり、HIR Ab−GUSB融合タンパク質の結合のED50は0.81±0.04nMであった。
要約すると、HIR Ab HCのカルボキシル末端へのGUSBの融合は、HIRへの融合タンパク質の結合親和性を減少させなかった。しかし、融合タンパク質のGUSB酵素活性は、>95%減少した。
HIR AbとGUSBの融合タンパク質を成功裏に産生する試みにおいて、GUSBシグナルペプチドを含む成熟ヒトGUSBのカルボキシル末端をHIR AbのHCのアミノ末端と融合する新たなアプローチを行った。この融合タンパク質をGUSB−HIR Abと命名した。第一のステップは、この新たな融合タンパク質をコードする新たな発現プラスミドを設計することであり、このプラスミドをpCD−GUSB−HCと命名した。pCD−GUSB−HCプラスミドは、その19アミノ酸のシグナルペプチドを含まないHIRMAbの重鎖(HC)のアミノ末端が、22アミノ酸のGUSBシグナルペプチドは持つが、18アミノ酸のカルボキシル末端GUSBプロペプチドは持たないヒトGUSBのカルボキシル末端と融合された融合タンパク質を発現する。pCD−GUSBベクターは、22アミノ酸のGUSBシグナルペプチドは持つが、GUSBカルボキシル末端において18アミノ酸のプロペプチドを欠くGUSBタンパク質を発現するGUSB cDNAのPCR増幅のためのテンプレートとして用いられる。pCD−GUSBにおけるGUSBの18アミノ酸のカルボキシル末端プロペプチドは、部位特異的突然変異誘発法(SDM)によって除去した。後者は、GUSBのThr633残基の3’−隣接領域上にAfeI部位を生じ、pCD−GUSB−AfeIと命名した。次いで、カルボキシル末端プロペプチドを、(GUSBの3’−非コード領域上に位置する)AfeIおよびHindIIIで除去した。19アミノ酸のIgGシグナルペプチドは含まず、HIRMAb HCストップコドンは含むHIRMAb HCオープンリーディングフレームは、HIRMAb HC cDNAをテンプレートとして用いたPCRによって作製した。PCRによって作製されたHIRMAb HC cDNAをpCD−GUSB−AfeIのAfeI−HindIII部位に挿入し、pCD−GUSB−HCを形成した。GUSBのカルボキシル末端とHIRMAb HCのアミノ末端との間のSer−Serリンカーを、AfeI部位内に、HIRMAb HC cDNAのクローニングに用いられるPCRプライマーによって導入した。pCD−GUSB−HC発現カセットのDNAシーケンシングは、プラスミドが、22アミノ酸のGUSBシグナルペプチド、611アミノ酸のGUSB、2アミノ酸のリンカー(Ser−Ser)、および443アミノ酸のHIRMAb HCからなる1,078アミノ酸のタンパク質を発現したことを示した。GUSB配列は、ヒトGUSB(NP_000172)のMet1−Thr633と100%同一であった。
6ウェルフォーマット中、COS細胞をpCD−LCおよびpCD−GUSB−HC発現プラスミドで二重トランスフェクトすると、pCD−LCおよびpCD−HC−GUSBプラスミドでの二重トランスフェクションに比べ、馴化培地中、7日でより高いGUSB酵素活性をもたらした(表1、実験C)。しかし、ELISAによって測定した7日目の馴化培地中の培地のヒトIgG濃度がわずか13±2ng/mLであったため、GUSB−HIRMAb融合タンパク質もCOS細胞によって分泌されにくいものであった。COS細胞トランスフェクションを10xT500プレートまでスケールアップし、GUSB−HIRMAb融合タンパク質をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。SDS−PAGEは、融合されたタンパク質重鎖のサイズの予想された増加を示した。精製されたGUSB−HIRMAb融合タンパク質のGUSB酵素活性は高く、226±8nmol/hr/μgタンパク質であり、これはHIRMAb−GUSB融合タンパク質の特異的GUSB酵素活性よりも37倍高い。しかし、HIR受容体アッセイは、GUSBをHIRMAb重鎖のアミノ末端と融合した後、HIRに対する親和性が著しく減少し、受容体結合親和性の95%の減少をもたらすことを示した。HIR AbとHIR ECDの結合のED50は0.25±0.03nMであり、HIR Ab−GUSB融合タンパク質の結合のED50は4.8±0.4nMであった。
要約すると、HIR Ab HCのアミノ末端へのGUSBの融合は、融合タンパク質のGUSB酵素活性の保持をもたらしたが、HIRへのGUSB−HIR Ab融合タンパク質の結合の95%の減少を引き起こした。対照的に、HIR Ab HCのカルボキシル末端へのGUSBの融合は、HIRへのHIR Ab−GUSB融合タンパク質の結合親和性の減少をもたらさなかった。しかし、この融合タンパク質のGUSB酵素活性は>95%減少した。これらの知見は、IgG−酵素融合タンパク質の二機能性、すなわち、IgG部分と同種抗原との高親和性結合、および高い酵素活性が保持されるような方法で、リソソーム酵素とIgG分子を融合する技術の、予測できない性質を示している。
表1.トランスフェクション後のCOS細胞におけるGUSB酵素活性[平均±標準偏差(n=3ディッシュ/時点)]
実施例2.HIR Ab−GCR融合タンパク質の発現および機能解析
ゴーシェ病(GD)で変異しているリソソーム酵素は、β−グルコセレブロシダーゼ(GCR)である。GDの神経細胞障害性の形態はCNSに影響を及ぼし、これにより、脳内でGCR酵素活性が欠如するため、脳細胞内でリソソーム内封入体が蓄積することになる。GDの酵素補充療法(ERT)は、GCR酵素がBBBを通過しないことから、脳の治療に有効ではない。BBBを通過させるためにヒトGCRを再設計する一環として、HIR Ab−GCR融合タンパク質プロジェクトを、酵素活性について設計し、発現し、試験した。39アミノ酸のシグナルペプチドを含まない、ヒトGCRタンパク質(NP_000148)のアミノ酸Ala40−Gln536に対応するヒトGCR cDNAを、営利DNA作製会社でカスタム合成した。GCB cDNAを、シグナルペプチドからTGAストップコドンまでを含まない、GCBのオープンリーディングフレームを含む1522ヌクレオチド(nt)で構成した。5’末端には、StuI制限エンドヌクレアーゼ(RE)配列を付加し、3’末端には、GCR mRNAの3’−非翻訳領域からの14ntフラグメントの後にHindIII RE部位を続けた。GCR遺伝子内の内在するHindIIIおよびStuI部位を、アミノ酸配列を変化させないように突然変異させた。GCR遺伝子を、StuIおよびHindIIIを用いて、供給業者により提供されたpUCプラスミドから切り離して、HIR Ab重鎖をコードする真核細胞発現プラスミドのHpaIおよびHindIII部位に挿入し、この発現プラスミドをpCD−HC−GCRと命名した。この発現プラスミドは、HIR AbのHCとGCRとの間の3アミノ酸のリンカー(Ser−Ser−Ser)により、HIR Abの重鎖(HC)のカルボキシル末端と、39アミノ酸のGCRシグナルペプチドを含まないヒトGCRのアミノ末端を融合した、融合タンパク質を発現する。DNAシーケンシングにより、pCD−HC−GCR発現カセットを同定した。発現カセットを、2134ntのCMVプロモーター配列、2,889ntの発現カセット、および367BGHポリA配列を含む、5,390ntで構成した。プラスミドに、19アミノ酸のIgGシグナルペプチド、443アミノ酸のHIRMAb HC、3アミノ酸のリンカー(Ser−Ser−Ser)、および、該酵素シグナルペプチドを含まない497アミノ酸のヒトGCRからなる、963アミノ酸のタンパク質をコードさせた。GCR配列は、ヒトGCR(NP_000148)のAls40−Gln536と100%同一であった。グリコシル化されていない重鎖融合タンパク質の予想される分子量は104,440Daであり、予想される等電点(pI)は8.42である。
HIR Ab−GCR融合タンパク質を、一過性にトランスフェクトしたCOS細胞内で発現させた。COS細胞を6ウェルクラスターディッシュに蒔き、キメラHIR Abの軽鎖(LC)をコードする発現プラスミドであるpCD−LC、およびpCD−HC−GCRで二重トランスフェクトした。リポフェクタミン 2000を用いて、1:2.5、ugDNA:uLリポフェクタミン 2000の比でトランスフェクションを行い、馴化無血清培地を3および7日に採取した。無血清培地(SFM)への融合タンパク質の分泌を、ヒトIgG ELISAによりモニターした。馴化培地を深層ろ過により清澄し、HIR Ab−GCR融合タンパク質をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。融合タンパク質の純度を還元SDS−PAGEで確認し、融合タンパク質を、ヒトIgGまたはヒトGCRのいずれかに対する一次抗体を用いたウェスタンブロッティングにより同定した。IgG抗体とGCR抗体はいずれも、HIR Ab−GCR融合タンパク質の130kDa重鎖と反応した。
組み換えGCRの酵素アッセイについて以前に記載されているように(J.B. Novo, et al, Generation of a Chinese hamster ovary cell line producing recombinant human glucocerebrosidase, J. Biomed. Biotechnol., Article ID 875383, 1-10, 2012)、融合タンパク質のGCR酵素活性を、4−メチルウンベリフェリル−β−D−グルコピラノシド(4−MUG)を酵素基質として用いて、蛍光定量的酵素アッセイで測定した。GCR酵素アッセイを、終濃度5mMの4−MUGを用いて、0.25%Triton X−100および0.25%タウロコール酸ナトリウムを含むクエン酸/リン酸緩衝液/pH=5.5中で行い、37℃で60分間インキュベートした。酵素活性を、0.1M グリシン/0.1M NaOHを加えることにより、停止させた。GCR酵素は、4−MUG基質を、生成物である4−メチルウンベリフェロン(4−MU)に変換する。4−MU(0.03〜3nmol/チューブ)を用いて、アッセイ検量線を作成した。酵素活性をユニット/mgタンパク質として報告し、ここで1ユニット=1umol/分である。組み換えヒトGCRの酵素活性は、40ユニット/mgである(Novo et al, 2012)。しかし、HIR Ab−GCR融合タンパク質のGCR酵素活性は、組み換えGCRの比活性に比べ99%低下した、わずか0.07ユニット/mgであった。
実施例1および2は、生物学的活性のあるIgG−リソソーム酵素融合タンパク質の設計が予測不可能であることを示している。いずれの場合も、GUSBまたはGCRのいずれかと、HIR Abの重鎖のカルボキシル末端を融合すると、酵素活性の>95%を失うことになる。以下の実施例に、SGSH酵素活性が、HIR Abの重鎖のカルボキシル末端との融合後に保存されているという、驚くべき知見について記載した。
実施例3.ヒトHIR Ab重鎖−SGSH融合タンパク質発現ベクターの構築
MPS−IIIAで変異しているリソソーム酵素は、SGSHである。MPS−IIIAは、脳内にヘパラン硫酸の蓄積をもたらす。Hemsley et al. (2009)(Examination of intravenous and intra-CSF protein delivery for treatment of neurological disease」, Eur. J. Neurosci., 29:1197-1214)に記載されているように、SGSH酵素がBBBを通過しないため、MPS−IIIAの酵素補充療法は脳の治療に有効ではない。BBBを通過することができ、かつ酵素活性を示すことができる、二機能性の分子を開発するために、SGSHをHIR Abと融合した。一態様において、成熟SGSHのアミノ末端を、HIR Abの各重鎖のカルボキシル末端と融合した(図2)。
SGSHをHIR Abと融合すると、SGSHの酵素活性が保持されるかどうか不明であった。実施例1に記載のIgG−GUSB融合タンパク質の経験は、当該技術の予測できない性質を示すと共に、IgG−酵素融合タンパク質を構築すると、IgG部分またはリソソーム酵素部分が生物学的活性を弱める可能性を示している。小胞体内でアミノ末端近傍のCys残基(配列番号10のCys−514)が翻訳後修飾を受ける、タンパク質の翻訳後修飾があるまでSGSH酵素が触媒活性になり、SGSHをHIR Abと融合すると、その過程が損なわれるかどうか知られていなかったため、SGSHの状況はさらに複雑である。SGSHはスルファターゼファミリーのメンバーであり、小胞体内で、ホルミルグリシン生成酵素(FGE)とも称されるスルファターゼ修飾因子タイプ1(SUMF1)により、特定のCys残基がホルミルグリシン残基に変換されると、酵素活性が活性化される(Fraldi et al. (2007),「SUMF1 enhances sulfatase activities in vivo in five sulfatase deficiencies」, Biochem. J., 403: 305-312.)。この、内在性のシステインのホルミルグリシン残基への変換がないと、酵素はほとんど活性を持たない。例えば、HIRへの融合タンパク質の高親和性結合を保持する一環として、SGSHをHIR AbのHCのカルボキシル末端と融合したならば、IgG重鎖は宿主細胞内で翻訳された後3次元構造に折り畳まれ、次いで融合タンパク質のSGSH部分が折り畳まれるであろう。HIR Ab HC−SGSH融合タンパク質のSGSH部分が、小胞体内のSGSH−修飾因子により認識され活性化されるであろう3次元構造に折り畳まれ、HIR Ab−SGSH融合タンパク質において、完全なSGSH酵素活性の発現をもたらすかどうかは不明であった。
ヒトSGSH mRNA(GenBank受託#NM_000199)のヌクレオチド配列に由来するオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、ヒトSGSHのcDNAを作製した。表2に記載のODN、および市販のヒト肝臓ポリA+RNAを用いて、逆転写(RT)PCRにより、そのシグナルペプチドArg21−Leu−502を含まないヒトSGSHをコードするcDNAを作製した。タンデムベクター(TV)発現プラスミドにおいて、ヒトIgG1のCH3領域を含むオープンリーディングフレーム(orf)を維持し、かつ、ヒトIgG1−CH3とSGSH cDNAとの間にSer−Serリンカーを導入するために、フォーワード(FOR)ODNプライマーに、5’−隣接領域上に「CC」を持たせた。リバース(REV)ODNは、SGSH orfの末端に相補的であり、そのストップコドンTGAを含む。RT−PCRを完了し、アガロースゲル電気泳動により、SGSH orf cDNAに対応する〜1.5kbの予測された単一バンドを検出し(図3、レーン3)、ゲルで精製した。発現ベクターへ直接挿入するために、フォーワードおよびリバースODNの両方をリン酸化する。図4で概説したTV−HIRMAb−SGSHを形成するために、T4 DNAリガーゼを用いて、前駆体TVであるpUTV−1のHpaI部位へSGSH cDNAを挿入した。pUTV−1を、HpaIで線状にし、セルフライゲーションを防ぐために、アルカリホスファターゼで消化した。TV−HIRMAb−SGSHは、HIRMAb−SGSH融合タンパク質のそれぞれ軽鎖(LC)と重鎖(HC)の両方の遺伝子の後に、マウスジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子を包含する、タンデムベクターである。HIRMAb−SGSH融合タンパク質の軽鎖および重鎖の遺伝子は、CMVプロモーターにより駆動され、orfの後にウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化配列がある。DHFR遺伝子は、SV40プロモーターの影響下にあり、B型肝炎ウイルス(HBV)ポリアデニル化終止配列を含む。Midland(Midland、TX)により合成されたカスタムODNを用いて、Sequetech Corp(Mountan View、CA)において実施した双方向DNAシーケンシングにより、TV−HIRMAb−SGSHプラスミドのDNA配列を確認した。両鎖をシーケンシングすることにより、プラスミドの完全な発現カセットを確認した。各HCのカルボキシル末端へのSGSHモノマーの融合を、図2に示す。
表2.ヒトSGSH mRNA配列(GenBank NM_000199)に由来する、シグナルペプチドを含まないヒトSGSHのRT−PCRクローニングの設計、およびHIRMAb−SGSH発現ベクターの設計に用いたオリゴデオキシヌクレオチドプライマー
TV−HIRMAb−SGSHプラスミドのDNAシーケンシングは、LC遺伝子の発現カセット、HC−SGSH遺伝子、およびDHFR遺伝子を網羅する、10,000ヌクレオチド(nt)を包含した(図4)。5’末端から始めて、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、9ntの完全なコザック部位、GCCGCCACC(配列番号13のnt 1〜9)、705ntのLCのオープンリーディングフレーム(orf)(配列番号13のnt 10〜714)、次いでウシ成長ホルモン(BGH)ポリA配列、次いでリンカー配列、次いでタンデムCMVプロモーター、次いで完全なコザック部位(配列番号14のnt 1〜9)、次いで2,841ntのHIRMAb HC−SGSH融合タンパク質orf(配列番号14のnt 10〜2850)、次いでタンデムBGHポリA配列、次いでSV40プロモーター、次いで完全なコザック部位(配列番号15のnt 1〜9)、次いで564ntのDHFR orf(配列番号15のnt 10〜573)、次いでB型肝炎ウイルスポリA配列から、プラスミドを構成した(図4)。TVに、20アミノ酸のシグナルペプチドを含む234アミノ酸のHIRMAb LC(配列番号8)、および、HIRMAb HCとSGSHの946アミノ酸のタンパク質融合タンパク質(配列番号10)をコードさせた。19アミノ酸のIgGシグナルペプチド、442アミノ酸のHIRMAb HC、3アミノ酸のリンカー(Ser−Ser−Ser)、および、該酵素のシグナルペプチドを含まない482アミノ酸のヒトSGSHから、融合タンパク質HCを構成した。グリコシル化されていない重鎖融合タンパク質の予想される分子量は103,412Daであり、予想される等電点(pI)は7.44である。該融合タンパク質のSGSHドメイン内のR456H多型を除いて、HC融合タンパク質のSGSHドメインのアミノ酸配列は、ヒトSGSH(NP_000190)のアミノ酸21〜502の配列と100%同一であり、ここで該付番方式はSGSHの20アミノ酸のシグナルペプチドを含んでいる。該残基は、高頻度でアルギニン(RまたはArg)残基であるが、ヒスチジン(HまたはHis)残基も知られている。R456H多型は、SGSHの酵素活性に重大な影響を及ぼさない(Montfort et al. (2004), Expression and functional characterization of human mutant sulfamidase in insect cells, Mol. Genet. Metab. 83: 246-251)。TVは、187アミノ酸のタンパク質(配列番号16)である選択遺伝子DHFRの生成物もコードする。
実施例4.TV−HIRMAb−SGSHを用いたチャイニーズハムスター卵巣細胞の安定なトランスフェクション
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、1xHTサプリメント(ヒポキサンチンおよびチミジン)を含む無血清HyQ SFM4CHOユーティリティ(Utility)培地(HyClone)中で培養した。CHO細胞(5x106の生細胞)を、5μgのPvuIで線状にしたTV−HIRMAb−SGSHプラスミドDNAと共にエレクトロポレーションした。次いで、細胞−DNA懸濁液を氷上で10分間インキュベートした。BioRadのCHO細胞用のプリセット・プロトコール、すなわち、15msecおよび160ボルトのパルスを有する方形波で細胞をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーション後、細胞を氷上で10分間インキュベートした。細胞懸濁液を50mL培地に移し、1ウェル当たり125μlで4x96ウェルプレートに蒔いた(1ウェル当たり10,000細胞)。1研究当たり、計10回のエレクトロポレーションおよび4,000ウェルを行った。
エレクトロポレーション(EP)後、CHO細胞を37℃で8%CO2のインキュベーター内に置いた。TV内のneo遺伝子の存在のために、トランスフェクトされた細胞株は最初にG418で選択した。TV−HIRMAb−SGSHはDHFR遺伝子も含むため(図4)、トランスフェクトされた細胞は20nMメトトレキサート(MTX)およびHT欠乏培地によっても選別することができた。EP後約21日で目に見えるコロニーが検出された時点で、ELISAによるヒトIgG用に馴化培地をサンプリングした。ELISAで高ヒトIgGシグナルを示すウェルを、96ウェルプレートから1mLのHyQ SFM4CHO−Utilityを含む24ウェルプレートへ移した。24ウェルプレートを37℃で8%CO2のインキュベーターに戻した。翌週、IgG ELISAを24ウェルプレート内のクローンに対して行った。これを、6ウェルプレートからT75フラスコ、ならびに最終的にはオービタルシェーカー上の60mLおよび125mLの正方形のプラスチック瓶まで繰り返した。この段階で、最終MTX濃度は80nMであり、培地中のHIRMAb−SGSH融合タンパク質の尺度である培地のIgG濃度は、106/mLの細胞密度で>10mg/Lである。
希釈クローニング(DC)用に選択されたクローンを、インキュベーター内のオービタルシェーカーから取り出し、無菌フードに移した。40x96ウェルプレート内の4,000ウェルに、1ウェル当たり1細胞(CPW)の細胞密度で蒔くことができるように、5%透析ウシ胎児血清(d−FBS)およびペニシリン/ストレプトマイシンを含むF−12K培地中で細胞を500mLまで希釈し、最終希釈度を1mL当たり8細胞とした。無菌フード内で細胞懸濁液を調製した時点で、8チャネルピペッターまたは高精度ピペッターシステムを用いて125μL分量を96ウェルプレートの各ウェルに分注した。プレートを37℃で8%CO2のインキュベーターに戻した。1細胞/ウェルまで希釈した細胞は、血清なしでは生存できない。6日目または7日目に、DCプレートをインキュベーターから取り出し、無菌フードに移し、そこで5%透析ウシ胎児血清(d−FBS)を含む125μlのF−12K培地を各ウェルに加えた。この時点で、この選択培地は、5%d−FBS、30nM MTXおよび0.25mg/mLジェネテシンを含んでいた。最初の1CPWプレーティングから21日目、ヒトIgG ELISA用に、ロボット装置を用いて4,000ウェルのそれぞれから一定分量を取り出した。DCプレートをインキュベーターから取り出し、無菌フードに移し、そこで96ウェルプレートの1ウェル当たり100μlの培地を取り出し、8チャネルピペッターまたは高精度ピペッターシステムを用いて新たな無菌サンプル96ウェルプレートに移した。
最初の1CPWプレーティングから20日目に、40x96ウェルイムノアッセイプレートに、100μLの1μg/mLの一次抗体溶液、マウス抗ヒトIgGの0.1M NaHCO3溶液を蒔いた。プレートを4℃の冷蔵庫内で一晩インキュベートする。翌日、ELISAプレートを1xTBSTで5回洗浄し、100μLの1μg/mLの二次抗体溶液およびブロッキング緩衝液を加えた。プレートを1xTBSTで5回洗浄する。100μLの1mg/mLの4−ニトロフェニルホスフェートジ(2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール)塩の0.1Mグリシン緩衝液中溶液を、96ウェルイムノアッセイプレートに加える。マイクロプレートリーダーでプレートを読んだ。アッセイにより、4,000ウェル/実験についてのIgG出力データが得られた。最も生産性の高い24〜48ウェルをさらなる増殖用に選択した。
1CPW DCからの最も生産性の高い24ウェルプレートを無菌フードに移し、6ウェルディッシュ、T75フラスコ、およびオービタルシェーカー上の125mLの正方形のプラスチック瓶を通じて徐々にサブクローニングした。このプロセスの間、細胞の遠心分離の最終段階で血清をゼロまで減少させ、SFMへ再懸濁した。
上記の手順を、2回目の希釈クローニングで、0.5〜1細胞/ウェル(CPW)で繰り返した。この段階で、およそ40%のウェルが何らかの細胞増殖を示し、増殖を示している全てのウェルはヒトIgGを分泌もした。これらの結果により、これらの手順で1ウェル当たり平均1細胞のみが蒔かれ、CHO細胞株が単一細胞から生ずることが確認された。
10mg/Lの培地濃度で、1〜2百万細胞/mLの細胞密度で、安定にトランスフェクトされたCHO細胞により、HIR Ab−SGSH融合タンパク質は、培地へ大量に分泌された。融合タンパク質遺伝子およびSUMF1をコードする遺伝子で宿主細胞を二重トランスフェクトしていないにもかかわらず、安定にトランスフェクトされたCHO細胞により、HIR Ab−SGSH融合タンパク質が多く産生されることが観察された。トランスフェクトされた宿主細胞により馴化された培地への、SGSHの分泌を検出するためには、SGSH遺伝子でトランスフェクトされた細胞を、SUMF1補助因子で共トランスフェクトする必要があった(Fraldi et al. (2007),「SUMF1 enhances sulfatase activities in vivo in five sulfatase deficiencies」, Biochem. J., 403: 305-312)。SGSHおよびIgG−SGSH融合タンパク質を設計する予想外の利点は、SUMF1で共トランスフェクトする必要なしに、宿主細胞が融合タンパク質を分泌することである。
プロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより、CHO由来HIRMAb−SGSH融合タンパク質を精製した。図10に示すように、還元SDS−PAGEにより、HIRMAb−SGSH融合タンパク質の純度を確認した。HIRMAb単独でも、HIRMAb−SGSH融合タンパク質でも、HCおよびLCタンパク質のみが検出される。ヒトIgG(図11、左パネル)、またはヒトSGSH(図11、右パネル)に対する一次抗体を用いたウェスタンブロッティングにより、融合タンパク質を同定した。MW標準の移動度に基づいて、HIRMAb−SGSH重鎖および軽鎖の分子量(MW)、ならびに、HIRMAb重鎖および軽鎖のMWを、線形回帰により推定した。SGSHをHIRMAb重鎖と融合していることから、HIRMAb−SGSH融合重鎖のサイズ(136kDa)は、HIRMAbの重鎖のサイズ(62kDa)よりも大きい。HIRMAb−SGSH融合タンパク質およびHIRMAb抗体は同一の軽鎖を用いることから、軽鎖のサイズ(27kDa)は、両方のタンパク質で同一である。ウェスタンブロットのSDS−PAGEにおける移動度に基づくと、図2に示すヘテロ4量体HIRMAb−SGSH融合タンパク質の推定されるMWは325kDaである。
実施例5.二機能性のIgG−SGSH融合タンパク質のHIR結合とSGSH活性の分析
HIR細胞外ドメイン(ECD)に対する融合タンパク質の親和性を、ELISAで測定した。以前Coloma et al. (2000) Pharm Res, 17:266-274に記載されているように、無血清培地(SFM)中で、HIR ECDで永続的にトランスフェクトされたCHO細胞を培養し、コムギ胚芽凝集素アフィニティーカラムを用いて、HIR ECDを精製した。Nunc−Maxisorb 96ウェルディッシュにHIR ECDを蒔き、ビオチン化抗ヒトIgG(H+L)ヤギ二次抗体、次いでアビジンおよびビオチン化ペルオキシダーゼ(Vector Labs、Burlingame、CA)を用いて、HIR ECDへの、HIR AbまたはHIR Ab−SGSH融合タンパク質の結合を検出した。非線形回帰分析により、HIR AbまたはHIR Ab−SGSH融合タンパク質の、最大の結合の50%を与える濃度であるED50を決定した。HIRへの結合のED50は29±3ng/mLであり、HIRへのHIR Ab−SGSH融合タンパク質の結合のED50は107±17ng/mLである(図12)。HIR AbのMWは150kDaであり、HIR Ab−SGSH融合タンパク質のMWは325kDaである。従って、分子量の差を標準化した後の、HIR ECDへの、キメラHIR AbまたはHIR Ab−SGSH融合タンパク質の結合は同等であり、ED50はそれぞれ、0.19±0.02nMと0.33±0.05nMであった(図12)。これらの知見は、SGSH分子がIgGの両重鎖のカルボキシル末端と融合されているにもかかわらず、HIRに結合するHIR Ab−SGSH融合タンパク質の親和性が保持されていることを示している。
Karpova et al. (1996)(A fluorimetric enzyme assay for the diagnosis of Sanfilippo disease type A (MPS IIIA), J. Inher. Metab. Dis. 19: 278-285)により開発され、アッセイの基質に4−メチルウンベリフェリル−α−N−スルフォ−D−グルコサミニド(MU−αGlcNS)を使用する、2段階蛍光定量的酵素アッセイを用いて、SGSH酵素活性を測定した。該基質はSigma−Aldrich(St Louis、MO)によりカスタム合成され、該基質の構造を図13Aに概説する。該基質は、SGSHにより、4−メチルウンベリフェリル−α−D−グルコサミニド(MU−αGlcNH2)に加水分解され、これは次いで、市販の酵母α−グルコシダーゼ中のα−グルコサミニダーゼ副活性(side−activity)により、蛍光生成物である4−メチルウンベリフェロン(4−MU)に加水分解される(図13A)。0.03M バルビタールナトリウム/0.03M 酢酸ナトリウム/0.13M NaCl/pH=5.5/0.02%アジ化ナトリウム中、37℃で17時間、HIRMAb−SGSH融合タンパク質(30、100、または300ng)、およびMU−αGlcNS基質をインキュベーションすることにより、アッセイを行った。マッキルベイン緩衝液、および0.1ユニットの酵母α−グルコシダーゼを加え、37℃で24時間インキュベーションを続けた。0.5M 炭酸ナトリウム/pH=10.7を加えることにより、反応を停止した。365nm励起フィルターおよび450nm発光フィルターが付いたFarrand蛍光光度計を用いて、蛍光を測定した。蛍光ユニットからnmol/チューブに換算できるようにする、0.03〜3.0nmol/チューブの4−MU生成物を用いて、検量線を作成した。1ユニット=最初の17時間のインキュベーションの間に生成した4−MU生成物のnmol(Karpova et al, 1996)として、酵素活性を、HIRMAb−SGSH融合タンパク質のユニット/mgタンパク質として測定した。アッセイは融合タンパク質の質量に対して直線性を有し(図13B)、平均酵素活性は4,712±388ユニット/mgタンパク質であった。同じアッセイによる60kDaの組み換えヒトSGSHのSGSH酵素比活性は、15,000ユニット/mgタンパク質である(Urayama et al. (2008): Mannose 6-phosphate receptor-mediated transport of sulfamidase across the blood-brain barrier in the newborn mouse. Mol Ther 16: 1261-1266.)。しかし、SGSHを、325kDaのヘテロ4量体IgG−SGSH融合タンパク質(図2)として再設計すると、SGSHのMWは60kDaであるのに対して、SGSHの有効MWは163kDaである。分子量の差を標準化した後の有効SGSH比活性は12,800ユニット/mgタンパク質であり、これは、組み換えSGSHの酵素活性の85%である。従って、IgG−GUSB融合タンパク質で観察された結果とは対照的に(表1)、HIR AbのHCのカルボキシル末端へのSGSHの融合は、SGSH酵素の酵素活性にわずかな影響しか与えなかった。SGSHは、SGSH酵素活性の発現のために特定の翻訳後修飾を必要とするスルファターゼファミリーのメンバーであることから、CHO由来HIR Ab−SGSH融合タンパク質の高いSGSH酵素活性は驚くべきことである。ホルミルグリシン生成酵素(FGE)とも称されるスルファターゼ修飾因子タイプ1(SUMF1)により、Cys−50がホルミルグリシン残基に変換されると、SGSH酵素の活性が活性化される。安定にトランスフェクトされたCHO細胞により産生されるHIRMAb−SGSH融合タンパク質においてSGSHの酵素活性が保持されることは、HIRMAb重鎖と融合しているにもかかわらず、宿主細胞内でSGSH酵素が活性化されることを示している。
実施例6.SGSHおよび標的抗体を連結するアミノ酸リンカー
成熟ヒトSGSHは、HIR AbのHCのカルボキシル末端と、3アミノ酸のリンカー、(図9で下線を付した)Ser−Ser−Serで融合している。任意の数のリンカーのバリエーションがSer−Ser−Serリンカーの代わりに用いられる。3アミノ酸のリンカーは保持されてよいが、アミノ酸配列は代わりのアミノ酸、例えばGly−Gly−Gly、Ser−Gly−Ser、Ala−Ser−Gly、または20の天然アミノ酸の任意の数の組み合わせに変化してよい。または、リンカーは2、1、または0のアミノ酸に減らされる。0アミノ酸のリンカーの場合、SGSHのアミノ末端はHIR AbのHCのカルボキシル末端と直接融合されている。代わりに、リンカーの長さは3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または20アミノ酸まで伸長される。融合タンパク質の設計における最適なアミノ酸リンカーを決定するための複数の公的に入手可能なプログラムがあるため、そのようなリンカーは当該技術分野で周知である。頻繁に用いられるリンカーは、反復配列におけるGlyおよびSerの様々な組み合わせ、例えば(Gly4Ser)3、または他のバリエーションを含む。
実施例7.サンフィリッポA型線維芽細胞におけるHIR Ab−SGSH融合タンパク質の生物学的活性およびリソソーム分布
SGSH酵素は、ヘパラン硫酸GAGからの硫酸基を加水分解し、これにより、細胞内の他の酵素よるGAGのその後の分解が可能となる。サンフィリッポA型線維芽細胞(MPS−IIIA線維芽細胞)において、GAGからの硫酸エステルの放出に対する、HIRMAb−SGSH融合タンパク質を用いた処理の効果を試験した。細胞を、Coriell Institute for Medical Research(Camden、NJ)から入手し、6ウェルクラスターディッシュ内でコンフルエントになるまで培養し、次いで、35Sを用いたパルス・チェイス実験を行った。パルスの段階では、コンフルエントな細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、加湿インキュベーター内で、10%透析ウシ胎児血清(FBS)を含む1mLの低濃度硫酸エステルハムF12培地、および、47μCi/mLの[35S]硫酸ナトリウムと、37℃で48時間インキュベートした。培地を吸引し、ウェルをPBSで洗浄して、加湿インキュベーター内で、細胞を、通常の10%FBSを含む放射能のないDMEM/F12培地(1mL/ウェル)、および、様々な濃度のHIRMAb−SGSH融合タンパク質と、37℃で48時間インキュベートした。培地を吸引し、細胞をPBSで洗浄した。37℃で4分間、0.4mL/ウェルの0.05%トリプシン/EDTAを用いて、細胞をウェルから取り出し、このステップにより、細胞表面に付着していた放射能は取り除かれることから、リソソームのGAGには取り込まれない。細胞を無血清培地中に懸濁してトリプシン反応を停止し、1000gで遠心分離する。上清を取り出して廃棄し、細胞ペレットを、0.4mLの1N NaOH中に、60℃で1時間可溶化する。ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイを用いて、タンパク質含有量を測定する。Perkin Elmer液体シンチレーションカウンターを用いて、Ultima−gold counting solution中で、35S放射能を測定した。CPM放射能をmgタンパク質ウェルで割り、CPM/mgタンパク質としてデータを報告した(表3)。本研究は、HIRMAb−SGSH融合タンパク質の準治療濃度(0.25〜0.5μg/mL)が、MPS−IIIA線維芽細胞において硫酸エステルでラベルされたGAGを、72%〜83%減少させることを示している。
MPS−IIIA線維芽細胞における硫酸化GAGの減少は、HIRMAb−SGSH融合タンパク質が、標的細胞により取り込まれるだけでなく、標的細胞のリソソーム画分にトリアージされる(triaged)ことを示唆している。このことを、共焦点顕微鏡検査により確認した。MPS−IIIA線維芽細胞を、HIRMAb−SGSH融合タンパク質と6〜24時間インキュベートし、次いで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中で固定し、Triton X−100で透過処理し、ヒトSGSHに対するウサギ一次抗体、およびヒトリソソーム膜タンパク質1型(LAMP1)に対するマウス一次抗体とインキュベートした後、抗マウスIgG,ロバ,Alexa Fluor−488コンジュゲート(緑チャネル)、および、抗ウサギIgG,ロバ,Alexa Fluor−594コンジュゲート(赤チャネル)とインキュベーションした。洗浄したスライドを、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)(Life Technologies)で染色し、洗浄し、風乾し、Prolong Gold Antifade(Life Technologies)へ封入した。Leitz P1 Apo 100X oil液浸対物レンズ、ならびに、アルゴン(476および488nm)、ニューダイオード(new diode)(561nm)、および、ヘリウム−ネオン(633nm)レーザーをそれぞれ利用するLeica共焦点レーザー走査アダプターが付いたLeica TCS SP2 AOBS倒立蛍光顕微鏡を用いて、共焦点顕微鏡検査を行った。SGSH免疫反応性を赤チャネルで検出し、細胞内のLAMP1免疫反応性を緑チャネルで検出した。SGSHとLAMP1の免疫反応性が重複していることは、HIRMAb−SGSH融合タンパク質が、MPSIIIA線維芽細胞に取り込まれた後に、リソソーム画分へトリアージされることを示す。アイソタイプコントロール抗体でラベルした細胞において、免疫反応性はなかった。
表3.HIRMAb−SGSH融合タンパク質で処理したMPS−IIIA線維芽細胞におけるGAGの減少
実施例8.霊長類の脳へのSGSHの受容体媒介輸送
アカゲザルにおいて、インビボでのHIRMAb−SGSH融合タンパク質のBBB透過を評価した。融合タンパク質のHIRMAbドメインは、アカゲザルのような旧世界霊長類のインスリン受容体と交差反応するが、リスザルのような新世界ザルのインスリン受容体、または、マウスのインスリン受容体とは交差反応しない。従って、脳へのインビボ送達は、アカゲザルにおいて評価した。[125I]−モノヨウ化−ボルトン・ハンター試薬を用いて、比活性が3.7μCi/μgとなるように、HIRMAb−SGSH融合タンパク質を放射性ラベルした。トリクロロ酢酸(TCA)による[125I]−HIRMAb−SGSH融合タンパク質の沈殿性は、−70℃で保管している間、ラベル後少なくとも8日間は>97%であった。ラベルをする前に、0.01M 酢酸ナトリウム/140mM NaCl/pH=5.5/0.001%Tween−80、およびAmicon Ultracel−30K遠心ろ過ユニットを用いて、融合タンパク質の緩衝液交換を行った。Sephadex G−25の1x28cmカラムを用いたゲルろ過、および、0.01M 酢酸ナトリウム/140mM NaCl/pH=5.5/0.001% Tween−80の溶出緩衝液を用いて、ラベルされたHIRMAb−SGSH融合タンパク質を精製した。MPI Research(Mattawan,MI)において、17.3kgの成熟雌アカゲザルを調査した。該動物に、静脈内ボーラスにより、30秒間にわたって、左大腿静脈に、1200μCiの[125I]−HIRMAb−SGSH融合タンパク質を静脈内(IV)注射した。HIRMAb−SGSH融合タンパク質の注入量(ID)は19μg/kgであった。筋肉内ケタミンにより該動物を麻酔した。すべての手順は、米国国立衛生研究所により承認、公布された、実験動物の管理と使用に関する指針に従い実施した。総血漿[125I]放射能(DPM/mL)、および、10%冷TCAで沈殿する血漿放射能を測定するため、静脈内薬物投与の2、5、15、30、60、90、および140分後に、大腿静脈血漿を採取した。該動物を安楽死させ、主要組織(心臓、肝臓、脾臓、肺、骨格筋、および大網脂肪)のサンプルを摘出、秤量し、放射能測定用に加工した。頭蓋を開け、脳を摘出した。放射能を測定するために、前頭皮質灰白質、小脳灰白質、および脈絡叢のサンプルを摘出した。Wizard model 1470 gamma counterを用いて、125I放射能について、血漿および組織サンプルを分析した。注射した融合タンパク質の比活性に基づいて、血漿中のTCAで沈殿可能な[125I]放射能(DPM/mL)をng/mLに換算し、融合タンパク質の血漿濃度に、二項指数方程式%ID/mL=A1e−k1t+A2e−k2tを当てはめた。滞留時間の中央値(MRT)、分布容積の中央値(Vc)、定常状態分布容積(Vss)、血漿濃度曲線下面積(AUC)、および全身クリアランス(CL)を算出するために、切片(A1、A2)および傾き(k1、k2)を用いた。非線形回帰分析には、BMDP Statistical Software(Statistical Solutions Ltd、Cork、Ireland)のARサブルーチンを使用した。データを1/(%ID/mL)2で重み付けした。
BBBを越えるHIRMAb−SGSH融合タンパク質の輸送を確認する毛細血管枯渇(capillary depletion)分析用に、前頭皮質のサンプル(〜2グラム)を摘出した。毛細血管枯渇法では、後血管区画(post−vascular compartment)から、脳内の血管組織を分離する。γ−グルタミルトランスフェラーゼまたはアルカリホスファターゼのような、脳毛細血管に特異的な酵素の比活性の測定に基づくと、後血管上清は、脳血管系の>95%を枯渇している。血管区画(vascular compartment)と後血管区画を分離するため、組織グラインダーに入れた8mLの冷PBS中で、脳をホモジナイズした。8mLの冷40%デキストラン(70kDa、Sigma Chemical Co.)をホモジネートに加え、放射能を測定するためにホモジネートの一部を採取した。固定角ローターを用いて、3200g、4℃で10分間、ホモジネートを遠心分離した。脳微小血管系はペレットとして定量的に沈殿するため、後血管上清は毛細血管を枯渇した脳実質の尺度となる。ホモジネートと共に、血管ペレットおよび血管上清を、125I放射能についてカウントした。3フラクションのそれぞれについて、脳フラクション中の総[125I]放射能(DPM/グラム脳)を、140分での末梢血漿中の総[125I]放射能(DPM/μL血漿)で割った比から、分布容積(VD)を決定した。10%冷TCAで沈殿可能な後血管上清中の放射能の割合を測定した。
雄アカゲザルに、[
125I]−HIRMAb−SGSH融合タンパク質(1200μCi、324μg)を静脈注射し、TCAで沈殿可能な[
125I]−HIRMAb−SGSH融合タンパク質の血漿濃度の経時変化を図14に示す。静脈注射の2、5、15、30、60、90、および140分後に、TCAで沈殿可能な総血漿放射能の割合は、それぞれ、96±1%、95±1%、94±1%、89±1%、84±2%、79±1%、および72±2%であった。表4に示す薬物動態的(PK)パラメーターを与えるために、TCAで沈殿可能な融合タンパク質の血漿プロフィールに、二項指数方程式を当てはめた。62±4分の平均滞留時間、分布容積の中央値(Vc)より2.5倍大きい全身の分布容積(Vss)、および、高い全身クリアランス速度(1.11±0.03mL/min/kg)で、[
125I]−HIRMAb−SGSH融合タンパク質は血漿から迅速に除去される(表4)。
表4.HIRMAb−SHSH融合タンパク質の薬物動態的パラメーター
図14の血漿プロフィールから算出したパラメーター
非特異的なヒトIgG1アイソタイプコントロール抗体の脳VD(20±6μl/グラム)に比べ、注射140分後の総脳ホモジネート中のHIRMAb−SGSH融合タンパク質の分布容積(VD)(782±36μL/グラム)は大きい(表5)。IgG1アイソタイプコントロール抗体の脳VDは、脳の血液容量内に隔離されており、かつ、BBBを通過しない分子の脳取り込みを表す。後血管上清中のHIRMAb−SGSH融合タンパク質のVD(666±71μL/グラム)は、脳の血管ペレット内のHIRMAb−SGSH融合タンパク質のVD(24±17μL/グラム)より大きく(表5)、このことは、HIRMAb−SGSH融合タンパク質の大部分が、BBBを通過し脳実質を透過したことを示している。後血管上清放射能のTCA沈殿が95.9±0.7%である(表5)ことから、後血管上清中の放射能は、ラベルされた代謝物ではなく、無傷なHIRMAb−SGSH融合タンパク質を表している。
表5.HIRMAb−SGSH融合タンパク質の脳取り込みの毛細血管枯渇分析
平均値±標準偏差
静脈注射により融合タンパク質を投与し、注射の140分後に脳の測定を行った。後血管上清中の放射能は、冷10%トリクロロ酢酸で沈殿可能な95.9±0.7%であった。ヒトIgG1アイソタイプコントロール抗体に対するホモジネートVDは、以前に報告されている(Boado, R.J.; Pardridge, W.M. Comparison of blood-brain barrier transport of GDNF and an IgG-GDNF fusion protein in the Rhesus monkey. Drug Metab. Disp. 2009, 37, 2299-2304)。
成熟アカゲザルの脳は100グラムの重さがあることから、HIRMAb−SGSH融合タンパク質の組織取り込みを、100グラム湿組織重量当たりの注入量(ID)の%として表す(表6)。血漿からのHIRMAb−SGSH融合タンパク質の除去を担う主要組織は、肝臓および脾臓である(表6)。HIRMAb−SGSH融合タンパク質の大脳皮質取り込みは、0.81±0.07%ID/100グラム脳である(表6)。
表6.アカゲザルにおけるHIRMAb−SGSH融合タンパク質の組織取り込み
データは、3サンプルの平均値±標準偏差である。
要約すると、霊長類を用いた本研究は、HIRMAb−SGSH融合タンパク質が、静脈投与の後、末梢組織により取り込まれるため、血漿から迅速に除去されることを示している。しかし、SGSH単独とは異なり、HIRMAb−SGSH融合タンパク質は、迅速にBBBを透過する(表5および6)。逆に言うと、SGSH単独はBBBを通過しない(Urayama, A.; Grubb, J.H.; Sly, W.S.; Banks, W.A. Mannose 6-phosphate receptor-mediated transport of sulfamidase across the blood-brain barrier in the newborn mouse. Mol Ther. 2008, 16, 1261-1266)。
実施例9.ヒト脳へのSGSHの受容体媒介輸送
サンフィリッポA型またはMPS−IIIAは、リソソーム酵素であるスルファミダーゼ(SGSH)をコードする遺伝子の欠損が原因で起こる、リソソーム貯蔵障害である。SGSHを欠くと、ヘパラン硫酸のような、ある種のGAGが細胞内に蓄積する。脳内のヘパラン硫酸の蓄積は、重度の行動障害、一般的に7歳までに言語障害、一般的に12歳までに車椅子生活を招く歩行障害、および、平均18歳での死亡を含む、MPS−IIIAの臨床症状をもたらす(Valstar et al. (2010): Mucopolysaccharidosis Type IIIA: clinical spectrum and genotype-phenotype correlations. Ann. Neurol. 68:876-887)。
SGSH mRNAのヌクレオチド配列、およびヒトSGSHタンパク質のアミノ酸配列は、既知である(Scott et al. (1995), Cloning of the sulphamidase gene and identification of mutations in Sanfilippo A syndrome, Nature Genetics, 11:465-467)。該配列は、MPS−IIIAの酵素補充療法(ERT)用の組み換えSGSHの製造を可能にする。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞により産生されるSGSHは、15ユニット/μg酵素の比活性を有する(Urayama et al. (2008), Mannose 6-phosphate receptor-mediated transport of sulfamidase across the blood-brain barrier in the newborn mouse, Mol. Ther. 16: 1261-1266)。SGSH比活性を、上記と同じ2段階蛍光定量的酵素アッセイにより測定した(Karpova et al. (1996) A fluorimetric enzyme assay for the diagnosis of Sanfilippo disease type A (MPS IIIA), J. Inher. Metab. Dis. 19: 278-285)。組み換えSGSHを用いたMPS−IIIAのERTの問題は、他の巨大分子薬剤と同様に、SGSHがBBBを通過しないため、静脈内に投与される場合に、MPS−IIIAの有効な治療とならないことである(Hemsley et al. (2009) Examination of intravenous and intra-CSF protein delivery for treatment of neurological disease, Eur. J. Neurosci. 29: 1197-1214)。BBBを越えるSGSHの輸送は欠如していることから、多量の酵素を全身注射して、脳内でSGSHを増加させるのは困難である。従って、MPS−IIIA患者において、組み換えSGSHを用いた静脈内ERTが、脳に有益な効果を与えるとは期待できない。MPS−IIIAに罹患した犬の脳へSGSHを直接脳室内注入(ICV)することにより、BBBを迂回する目的で、脳室へ酵素を注入した(Jolly et al. (2011), Intracisternal enzyme replacement therapy in lysosomal storage diseases: routes of absorption into brain, Neuropathol Appl. Neurobiol. 37: 414-422)。ICV経路による脳への薬物送達は、脳の上衣または髄膜表面のみに薬剤を分布させることがよく知られており、これはまさに、SGSHをICV投与した後に、MPS−IIIAに罹患した犬において観察されたことである。
ICV酵素投与は、脳内に慢性的なカテーテルの埋め込みを必要とする、侵襲的方法である。MPS−IIIA患者の脳へSGSHを送達する好ましいアプローチは、受容体媒介輸送(RMT)を介してBBBを通過させるために再設計したSGSHの形態の静脈内注入を用いることである。HIRMAb−SGSH融合タンパク質は、ヒトインスリン受容体への高親和性結合を保持しており、これは、SGSHが、BBBを透過し、内因性BBBインスリン受容体上のRMTを介して、血液から脳へ入ることを可能にする。アカゲザルにおいて、HIRMAb−SGSH融合タンパク質の脳取り込みは、100グラム脳当たり、注入量(ID)の1%である(表6)。該レベルの融合タンパク質の脳取り込みを前提として、HIRMAb−SGSH融合タンパク質を静脈投与した後の脳内のSGSH酵素活性を算出することができ、脳における正常な内因性SGSH酵素活性と比べることができる。SGSH融合タンパク質のSGSH比活性は5000ユニット/mg融合タンパク質(実施例4)であり、かつ、50kgのヒトに、5mg/kgのIgG−SGSH融合タンパク質を静脈内投与すると仮定すると、注入量は、250mg、または1,250,000ユニットの融合タンパク質に等しい。アカゲザルにおいて、HIRMAb−SGSH融合タンパク質の脳取り込みは、〜1% ID/100グラム脳(表6)であり、アカゲザルの脳は100グラムの重さがある。従って、HIRMAb−SGSH融合タンパク質の脳取り込みは、静脈注射された用量の約1%であり、これは、3mg/kgの融合タンパク質を投与された50kgのヒトにおける、12,500ユニット/脳に等しい。該レベルの脳SGSH酵素活性は、ヒト脳が約1,000グラムの重さがあることから、12.5ユニット/グラム脳に等しく、また、1グラムの脳が約100mgのタンパク質に等しいことから、0.125ユニット/mg脳タンパク質の脳SGSH酵素活性に等しい。正常脳におけるSGSH酵素活性は、0.12ユニット/mgタンパク質(Tomatsu, S.; Vogler, C.; Montano, A.M.; Gutierrez, M.; Oikawa, H.; Dung, V.C.; Orii, T.; Noguchi, A.; Sly, W.S. Murine model (Galnstm(C76S)slu) of MPS IVA with missense mutation at the active site cysteine conserved among sulfatase proteins. Mol. Genet. Metab. 2007, 91, 251-258)から、1.4ユニット/mgタンパク質(Fraldi et al. (2007) Functional correction of CNS lesions in an MPS-IIIA mouse model by intracerebral AAV-mediated delivery of sulfamidase and SUMF1 genes, Human Mol. Genet 16: 2693-2702)に及ぶ。従って、3mg/kgのHIRMAb−SGSH融合タンパク質の用量の投与は、脳内で、正常な内因性SGSH酵素活性の10〜100%のSGSH酵素活性のレベルをもたらす。リソソーム貯蔵障害に罹患した患者において、標準的な人のわずか1〜2%の細胞酵素活性をもたらす酵素補充療法は、疾病の兆候および症状を発症しない(J. Muenzer and A. Fisher, Advances in the treatment of mucopolysaccharidosis type I, N. Engl J Med, 350: 1932-1934, 2004)。これらの考察は、約3mg/kg、または、1〜10mg/kgの範囲のHIRMAb−SGSH融合タンパク質の全身用量で、HIRMAb−SGSH融合タンパク質を静脈内注射すると、ヒト脳に、臨床的に意義のあるSGSH酵素を補充することができることを示している。