JP2021175898A - 摺動機械 - Google Patents
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Abstract
【課題】過酷な摺動環境下でも摺動面の摩耗を低減できる摺動機械を提供する。【解決手段】本発明は、相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、対向する摺動面間に介在する潤滑油とを備えた摺動機械である。摺動面の少なくとも一方は、摺動方向に交差する凹部が形成されたテクスチャーを有し、潤滑油は、リン(P)を含有する。凹部は、例えば、特定方向に延在する溝であり、その特定方向と摺動方向の交角は45°〜90°である。潤滑油は、例えば、その全体に対する質量割合でPを150〜1500ppm含む。摺動部材は、例えば、歯車であり、摺動面は歯面である。本発明は、摺動面間が境界潤滑状態または混合潤滑状態となり得る状況で使用される摺動機械に適用されるとよい。【選択図】図3B
Description
本発明は、高負荷が作用し得る摺動面を備える摺動機械に関する。
摺動機械は摺動部材(歯車、軸・軸受、カム等)を備え、摺動部材は摺接しつつ相対移動する摺動面を有する。摺動機械の摺動特性(摩擦特性や摩耗特性等)は、摺動面間の潤滑状態に大きく影響され、潤滑状態は摺動面の形態、使用する潤滑油、摺動機械の運転条件等により異なる。
これまでは主に、摺動面の形態改良によって低摩擦化を図る提案が多くなされてきた。これらに関連する記載が、例えば下記の特許文献にある。
特許文献1は、摺動面にディンプルを形成して摩擦低減を図る旨を提案している。特許文献2〜4は、摺動面に溝を形成して、摩擦低減や潤滑油保持を図る旨を提案している。
また、特許文献1では、ポリオールエステル系冷凍機油を潤滑油として用いている。特許文献2〜4では、潤滑油としてエンジン油を使用または想定している。しかし、いずれの特許文献にも、潤滑油の成分について具体的な記載がなく、潤滑油の成分と摺動面の形態との相関についても全く記載されていない。
ちなみに、いずれの特許文献も、流体潤滑状態を前提としており、過酷な摺動環境(境界潤滑状態〜混合潤滑状態)まで考慮してはない。
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来とは異なる観点から摺動特性の向上を図れる摺動機械等を提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、摺動面に特定のテクスチャーを形成すると共に、特定量のリン(P)を含有した潤滑油との相互作用により、摺動特性(特に耐摩耗性)が向上することを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《摺動機械》
(1)本発明は、相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、該対向する摺動面間に介在する潤滑油と、を備えた摺動機械であって、前記摺動面の少なくとも一方は、摺動方向に交差する凹部が形成されたテクスチャーを有し、前記潤滑油は、リン(P)を含有している摺動機械である。
(1)本発明は、相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、該対向する摺動面間に介在する潤滑油と、を備えた摺動機械であって、前記摺動面の少なくとも一方は、摺動方向に交差する凹部が形成されたテクスチャーを有し、前記潤滑油は、リン(P)を含有している摺動機械である。
(2)本発明の摺動機械(または摺動システム)によれば、過酷な摺動環境下でも、摺動部材(特に摺動面)の摩耗が抑制される。
このような顕著な効果が得られる理由は定かではないが、現状、次のように推察される。摺動機械の運転初期に生じ易い異物(例えば初期摩耗粉等)は、摺動方向に交差するテクスチャの凹部に捕捉(トラップ)される。これにより、摺動面間への異物の噛み込みによる焼付きや異常摩耗が抑制されるのみならず、凹部近傍(凹部内またはその周辺)にリン系潤滑皮膜が形成され得る。リン系潤滑皮膜は、摺動状態(例えば摩擦係数)が安定化する「なじみ」を早期に完了させ、摺動初期における摩耗量を抑制し得る。こうして本発明の摺動機械は、高い摩耗低減効果を発揮するようになったと考えられる。
ちなみに、リン系潤滑皮膜の形成は、摺動部材の基材等と潤滑油中のPとが、高圧または高温な環境下で反応して形成されると考えられる。そのような環境は、例えば、摺動面間の荷重(面圧)や滑り速度が大きくなる境界潤滑状態または混合潤滑状態で生じ得る。このような状況は、例えば、ヘルツ応力が10MPa以上、100MPa以上、300MPa以上さらには400MPa以上となるよう高面圧(高負荷)下で生じ易い。
《その他》
(1)本明細書でいう「摺動方向」とは、テクスチャーが形成されている摺動部材(摺動面)に対して、相手側の摺動部材がそのテクスチャーの形成領域上で相対移動する方向である。両方の摺動部材にテクスチャーが形成されているときは、各摺動部材毎に摺動方向が特定される。
(1)本明細書でいう「摺動方向」とは、テクスチャーが形成されている摺動部材(摺動面)に対して、相手側の摺動部材がそのテクスチャーの形成領域上で相対移動する方向である。両方の摺動部材にテクスチャーが形成されているときは、各摺動部材毎に摺動方向が特定される。
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。特に断らない限り、本明細書でいう「x〜yppm」はxppm〜yppmを意味する。他の単位系(μm、MPa等)についても同様である。
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の摺動機械のみならず、それを構成する摺動部材や潤滑油にも該当し得る。方法に関する構成要素も物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《テクスチャー》
テクスチャーは、少なくとも一方の摺動面に設けられる。テクスチャーの形成領域は、摺動面(相手部材と摺接する面)の全域でもよいし、その一部でもよい。後者の場合、摺動面内で、例えば、摩耗を生じ易い領域、荷重(面圧)が大きくなる領域または摺動速度が速くなる領域等にテクスチャーが形成されるとよい。
テクスチャーは、少なくとも一方の摺動面に設けられる。テクスチャーの形成領域は、摺動面(相手部材と摺接する面)の全域でもよいし、その一部でもよい。後者の場合、摺動面内で、例えば、摩耗を生じ易い領域、荷重(面圧)が大きくなる領域または摺動速度が速くなる領域等にテクスチャーが形成されるとよい。
テクスチャーは、摺動方向に交差する凹部を有する。凹部は、例えば、溝、窪み(ディンプル)等である。溝は、連続的または断続的に、特定方向に延在する開溝である。溝の断面形状は、例えば、略円弧状(略半円状、略楕円状等を含む)、略矩形状(コの字状)、略三角形状、略台形状等である。窪みは、独立して点在する凹部からなり、例えば、略半球状(断面が略円形状)等をしている。
凹部は、例えば、摺動表面にある開口縁間の最小幅が5〜40μmさらには10〜30μmである。また凹部は、例えば、その開口縁からの最大深さが1〜15μmさらには3〜10μmである。凹部の大きさや深さが過小であると、金属粉等の異物の捕捉や潤滑油の保持が不十分となり、リン系潤滑皮膜の形成が促進されない。凹部の大きさや深さが過大であると、潤滑油膜の均一的な形成が阻害されたり、凹部が応力集中により破壊起点となるおそれがある。
凹部が溝の場合、例えば、溝幅の最小値が最小幅となり、最深部から開溝縁までの最大高さが最大深さとなる。凹部が略半球状の窪みなら、その略直径が最小幅となり、その略半径が最大深さとなる。凹部が複数あるとき、それぞれの算術平均値を最小幅または最大深さとして採用する。複数の凹部は、例えば、テクスチャーを顕微鏡で観察した任意の視野(240μm×240μm)内で特定される(特に断らない限り、他の数値も同様)。
テクスチャー全体に対する凹部の面積率は、例えば、5〜40%さらには10〜30%である。凹部の面積率は、凹部の開口面積の合計を、テクスチャーの全面積で除して求まる。テクスチャーの全面積は、凹部の外縁を包絡する領域の面積である。但し、通常、上述した視野内で凹部の面積率を算出すればよい。この場合、凹部の面積率は、その視野内にある凹部の開口面積の合計を、その視野の全面積で除して求まる。
テクスチャーは、例えば、複数の凹部が規則的(周期的)または不規則的に配設されてなる。凹部が特定方向に延在する溝の場合、その特定方向と摺動方向の交角(狭角側)は45°〜90°であるとよい。その下限値は、例えば、60°以上、75°以上さらには80°以上であり、90°に近いほどよい。
溝が延在する特定方向は直線状でも、折線状でも、曲線状でもよい。上述した交角は、溝の一部の特定方向と摺動方向のなす角でもよい。摺動方向に沿って複数の溝が形成される場合、各溝のピッチ(摺動方向の隣接開口縁間距離)は、例えば、30〜200μm、50〜150μmさらには75〜125μmであるとよい。
複数の溝が周期的に配設されてなるテクスチャーの具体例として、例えば、摺動方向に略直交する平行な複数の溝からなる直交溝テクスチャー、摺動方向に沿って内側(狭まる向き)に向かう平行な複数の溝からなる並行ヘリングボーンテクスチャー、摺動方向に沿って外側(広がる向き)に向かう平行な複数の溝からなる対向ヘリングボーンテクスチャー等がある(図1A参照)。
複数の窪みが周期的に配設されてなるテクスチャーの具体例として、例えば、各窪みが桝目状(碁盤目状)または千鳥状(列間で交互にずらして配置された状態)に配列されたディンプルテクスチャーがある(図1A参照)。
テクスチャーは、凹部以外の表面(凹部間または凹部の外周囲にある平面または曲面)の粗さが、例えば、摺動方向に測定した算術平均粗さ(Ra)で2μm以下、1μm以下さらには0.5μm以下であるとよい。その粗さが増すと、凹部以外での摩耗が多くなり、テクスチャーが摺動初期から早期に消滅または摩滅し得る。なお、Raは、日本産業規格(JIS B0601−2001)に準拠した基準長さや評価長さ等に基づいて測定される線粗さである。
テクスチャーの形成方法は種々あり得る。例えば、テクスチャーは、被処理面へ高エネルギービーム(例えばレーザ、電子ビーム等)を照射してなされる。高エネルギービームとして、例えば、短パルス幅(フェムト秒、ピコ秒、ナノ秒等)のパルスレーザを利用できる。一例として、パルス幅が、例えば、1〜100psさらには5〜50psのピコ秒パルスレーザを用いるとよい。
またテクスチャーは、例えば、機械加工(例えば切削加工、研削加工)や塑性加工(例えば、バニシング加工)等により形成されてもよい。なお、テクスチャーの形成後に、適宜、研磨等の加工がなされたり、表面改質処理(例えば、熱処理、めっき膜や蒸着膜等の被膜形成)がなされてもよい。
《潤滑油》
潤滑油は、テクスチャー(特に凹部近傍)でリン系潤滑皮膜を生成するリン(P)を含有するとよい。Pは、潤滑油全体に対する質量割合で、例えば、150〜1500ppm、200〜1000ppmさらには250〜500ppm含まれる。Pが過少であるとリン系潤滑皮膜の生成量も少なくなる。Pが過多になると、金属腐食による化学摩耗が生じ易くなる。
潤滑油は、テクスチャー(特に凹部近傍)でリン系潤滑皮膜を生成するリン(P)を含有するとよい。Pは、潤滑油全体に対する質量割合で、例えば、150〜1500ppm、200〜1000ppmさらには250〜500ppm含まれる。Pが過少であるとリン系潤滑皮膜の生成量も少なくなる。Pが過多になると、金属腐食による化学摩耗が生じ易くなる。
潤滑油は、Pを含む限り、基油の種類や他の添加剤の有無等を問わない。潤滑油は、例えば、ギヤ油、作動油(ATF(Automatic Transmission Fluid、CVTF(Continuously Variable Transmission Fluid)等)、エンジン油等である。
Pは、通常、添加剤として潤滑油中に含有されている。P含有添加剤(化合物等)として、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体などの摩耗防止剤等がある。
《摺動部材》
摺動部材(組合せ)として、例えば、歯車(対)、駆動軸と軸受、シリンダ(ライナー)とピストン(ピストンリングを含む)、バルブとバルブガイド、カムの原動節と従動節、ポンプのハウジングと摺接体(インナーロータ、ベーン等)などがある。
摺動部材(組合せ)として、例えば、歯車(対)、駆動軸と軸受、シリンダ(ライナー)とピストン(ピストンリングを含む)、バルブとバルブガイド、カムの原動節と従動節、ポンプのハウジングと摺接体(インナーロータ、ベーン等)などがある。
《摺動機械》
摺動機械として、歯車対を有する減速機、変速機、駆動切替装置等の他、エンジンでもよい。本発明は、摺動面間(例えば歯面間)が境界潤滑状態または混合潤滑状態となるような高負荷が作用する摺動機械(特に歯車機構)に適用されるとよい。
摺動機械として、歯車対を有する減速機、変速機、駆動切替装置等の他、エンジンでもよい。本発明は、摺動面間(例えば歯面間)が境界潤滑状態または混合潤滑状態となるような高負荷が作用する摺動機械(特に歯車機構)に適用されるとよい。
摺動機械が使用される環境(潤滑状態)を指標するパラメーターとして、下式により定まるストライベックパラメーター(P:Stribeck Parameter/Hersey number)がある。 P=ηV/F (1)
η:潤滑油の粘度(mm2/s)、V:滑り速度(m/s)、F:荷重(N)
η:潤滑油の粘度(mm2/s)、V:滑り速度(m/s)、F:荷重(N)
Pが十分に大きい環境は流体潤滑状態であり、Pが小さくなるほど境界潤滑状態に近づく。本明細書では、η=3.94mm2/s、V=0.3m/s、F=1335Nとして算出したストライベックパラメーター(Ps)を基準にした規格化ストライベックパラメーター(P/Ps)を導入し、それに基づいて摺動機械の運転環境(潤滑状態)を示すこととした。これにより運転環境による潤滑状態の違いを相対比較をしやすくした。また、Psに係る各値(η、VおよびF)は、代表例である歯車(摺動部材)の歯面(摺動面)を想定したときに、焼き付きが起こらない範囲で過酷な運転条件を指標している。
本発明は、例えば、P/Psが0.1〜1000、1〜100さらには5〜15となる環境下で使用される摺動機械に適用されるとよい。本発明によれば、過酷な潤滑状態を含む広い運転域で、摺動機械の摩耗を抑制できる。
テクスチャーと潤滑油が及ぼす摺動特性(特に摩耗低減効果)への影響を、摺動試験(ブロックオンリング試験)により検証(評価)した。また、摺動試験後の摺動面を観察・分析した。このような具体例に基づいて、以下で本発明をより詳細に説明する。
《試料の製作》
(1)基材
浸炭焼入処理した鋼材(JIS SCM420)からなるブロック状(6.3mm×15.7mm×10.1mm)の基材を用意した。基材の表面(被覆面)は鏡面仕上げして、その表面粗さをRa0.006μmとした。その表面硬さは、740HV1であった。なお、表面粗さは、白色干渉法による非接触表面形状測定機(Zygo社製NewView5022)により測定した(以下同様)。
(1)基材
浸炭焼入処理した鋼材(JIS SCM420)からなるブロック状(6.3mm×15.7mm×10.1mm)の基材を用意した。基材の表面(被覆面)は鏡面仕上げして、その表面粗さをRa0.006μmとした。その表面硬さは、740HV1であった。なお、表面粗さは、白色干渉法による非接触表面形状測定機(Zygo社製NewView5022)により測定した(以下同様)。
ちなみに、鋼材(SCM420)の成分(質量%)は、C:0.18〜0.23%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.6〜0.9%、Cr:0.9〜1.2%、Mo:0.15〜0.25%、残部:Feおよび不純物である。
(2)テクスチャー形成
図1Aに示すテクスチャーを、レーザ加工により基材の表面(摺動面全体)に形成した。レーザには、ピコ秒パルスレーザまたはフェムト秒パルスレーザを用いた。各テクスチャーの凹部を上述した非接触表面形状測定機により確認したところ、その断面はほぼ図1Bに示すような形状となっていた。摺動面全体に対する凹部(窪みまたは溝)の開口面積の合計(面積率)は20%であった。なお、図1Aと図1Bを併せて単に「図1」という。
図1Aに示すテクスチャーを、レーザ加工により基材の表面(摺動面全体)に形成した。レーザには、ピコ秒パルスレーザまたはフェムト秒パルスレーザを用いた。各テクスチャーの凹部を上述した非接触表面形状測定機により確認したところ、その断面はほぼ図1Bに示すような形状となっていた。摺動面全体に対する凹部(窪みまたは溝)の開口面積の合計(面積率)は20%であった。なお、図1Aと図1Bを併せて単に「図1」という。
《潤滑油》
Pを含まない潤滑油(基油)として、炭化水素系ベースオイル(SK lubricants社製YUBASE 4)を用意した。
Pを含まない潤滑油(基油)として、炭化水素系ベースオイル(SK lubricants社製YUBASE 4)を用意した。
また、その基油にPを含む添加剤(城北化学工業株式会社製ジブチルホスフェート)を配合し、加熱撹拌(60℃×30分間)してP含有潤滑油を調製した。添加剤の代表組成情報とその配合割合から計算したところ、滑油全体に対するP含有量(質量割合)は300ppmであった。
《摺動試験》
(1)試験片
テクスチャーを摺動面(摺動幅:6.3mm)に形成したブロック試験片(摺動部材)を用いて、潤滑油下でブロックオンリング摩擦試験(単に「摺動試験」という。)を行った。相手側の摺動部材であるリング試験片には、浸炭鋼材(AISI4620)から成るFALEX社製S−10標準試験片(硬さHV800、表面粗さRa:0.31μm、外径φ35mm、幅8.8mm)を用いた。なお、比較のため、テクスチャーを形成していない未加工なブロック試験片についても、同様な摺動試験を行った。
(1)試験片
テクスチャーを摺動面(摺動幅:6.3mm)に形成したブロック試験片(摺動部材)を用いて、潤滑油下でブロックオンリング摩擦試験(単に「摺動試験」という。)を行った。相手側の摺動部材であるリング試験片には、浸炭鋼材(AISI4620)から成るFALEX社製S−10標準試験片(硬さHV800、表面粗さRa:0.31μm、外径φ35mm、幅8.8mm)を用いた。なお、比較のため、テクスチャーを形成していない未加工なブロック試験片についても、同様な摺動試験を行った。
(2)試験条件
試験荷重(F):445〜1335N、滑り(摺動)速度(V):0.3〜0.9m/s、油温:120℃(一定)、試験時間:30分間とした。試験荷重または滑り速度は、試験中または試験毎に調整した。P含有潤滑油および基油の(絶対)粘度(η)は、3.94mm2/s(油温:120℃)であった。
試験荷重(F):445〜1335N、滑り(摺動)速度(V):0.3〜0.9m/s、油温:120℃(一定)、試験時間:30分間とした。試験荷重または滑り速度は、試験中または試験毎に調整した。P含有潤滑油および基油の(絶対)粘度(η)は、3.94mm2/s(油温:120℃)であった。
なお、接触理論(ヘルツの式)に基づいて、各試験荷重下におけるヘルツ面圧とヘルツ接触幅(摺動方向の長さ)も算出した。本実施例の場合、ヘルツ面圧:383〜664MPa、ヘルツ接触幅:0.23〜0.41mmとなった。ちなみに、図1Aに示した各テクスチャーは、摺動方向の凹部間隔(ピッチ)が100μm以下であり、いずれもヘルツ接触幅の最小値(0.23mm)以内であった。従って、ブロック試験片とリング試験片は、少なくとも2以上の凹部を跨がる領域(接触面)で摺接していたと考えられる。
《測定》
(1)摩耗深さ
摺動試験後の摺動面に形成された摩耗痕(摩耗深さ)を、既述した非接触表面形状測定機を用いて、表面粗さと同様に測定した。摩耗深さは、摩耗痕の最大深さにより特定した。
(1)摩耗深さ
摺動試験後の摺動面に形成された摩耗痕(摩耗深さ)を、既述した非接触表面形状測定機を用いて、表面粗さと同様に測定した。摩耗深さは、摩耗痕の最大深さにより特定した。
(2)摩擦係数
摺動試験の開始から終了まで、摩擦係数(μ=T/F)を継続的に測定した。摩擦係数(μ)は、上述した試験荷重(F)とリング試験片の駆動(回転)に用する力(トルク)に基づいて算出した。摩擦係数の変化(過渡特性)から、摺動面間の「なじみ」を把握した。
摺動試験の開始から終了まで、摩擦係数(μ=T/F)を継続的に測定した。摩擦係数(μ)は、上述した試験荷重(F)とリング試験片の駆動(回転)に用する力(トルク)に基づいて算出した。摩擦係数の変化(過渡特性)から、摺動面間の「なじみ」を把握した。
《観察・分析》
摺動試験後の摺動面を走査型電子顕微鏡(SEM)または光学干渉顕微鏡により観察した。また、SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)により、その摺動面に存在する元素を分析した。
摺動試験後の摺動面を走査型電子顕微鏡(SEM)または光学干渉顕微鏡により観察した。また、SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)により、その摺動面に存在する元素を分析した。
《評価》
(1)テクスチャー
図1Aに示した各テクスチャーを有する試料(ブロック試験片)を用いて、表1Aに示す条件下で摺動試験を行った。なお、摺動試験は、特に断らない限り、P含有潤滑油を用いて行った。
(1)テクスチャー
図1Aに示した各テクスチャーを有する試料(ブロック試験片)を用いて、表1Aに示す条件下で摺動試験を行った。なお、摺動試験は、特に断らない限り、P含有潤滑油を用いて行った。
摺動試験後の各摺動面の摩耗深さ(w)を表1Bに示した。また、テクスチャーを形成しなかった試料C0の摩耗深さ(w0)に対する試料1〜5の各摩耗深さ(w)の低減率{(w0−w)/w0}を、摩耗低減率(%)として表1Bに併せて示した。なお、表1Aに示したP/Psは、規格化ストライベックパラメーターである(以下同様)。
表1Bから明らかなように、摺動方向に交差する凹部を有するテクスチャーが形成されている場合(試料1〜4)、P/Psが1となる過酷な摺動環境下で主に運転されても、摩耗低減効果が得られることがわかった。特に、テクスチャーが直交溝または並行ヘリングボーンからなる場合(試料2、3)の場合、摩耗低減率が約15〜20%となることがわかった。
試料2(直交溝)の摺動面と試料5(平行溝)の摺動面とを摺動試験後に観察したSEM像を図2Aに示した。試料2では、直交溝内に異物がトラップされ、両試験片が摺接する中央域でもテクスチャーが残存していた。一方、試料5では、平行溝にトラップされた異物は見られず、摺接中央域のテクスチャーは摩滅していた。
その試料2(直交溝)の摺動面をEDSで分析して得た元素マッピング(像)を図2Bに示した。凹部(溝)の外周囲(特に、溝の開口外縁から摺動方向側)に、P、CおよびOの濃化がみられた。特に、Pが高濃度に存在していた。これらのことから、摩耗低減効果を生じる試料2の摺動面には、リン系化合物(O、CまたはFeの一種以上とPの化合物/例えば、リン系酸化物、リン系炭化物、リン酸鉄等)が生成されることが明らかとなった。
表1B、図2Aおよび図2B(両図を併せて単に「図2」という。)から、次のことが推察される。摺動方向に交差する凹部を有するテクスチャーが摺動面に形成されていると、その凹部近傍(特に開口縁の摺動先方側)において、リン系化合物(潤滑皮膜)が形成され、摩耗低減効果が発現される。リン系化合物は、(i)凹部(近傍を含む)における異物のトラップ(噛み込み)、(ii)凹部における潤滑油の保持、(iii)凹部における高い圧力(動圧)の発生が相乗的に作用して生成されると考えられる。
特に、境界潤滑状態または混合潤滑状態となり得る過酷な摺動環境下(特に高荷重下)では、油膜切れや摺動部材間の直接接触等により生じた摩耗粉(異物)が潤滑油と共に凹部に捕捉され易くなる。つまり、上述した(i)〜(iii)が同時に満たされ易くなる。その結果、過酷な摺動環境下であるにも拘わらず、逆に、摩耗低減効果が発現されるようになったと考えられる。
このような推察は、例えば、テクスチャーが対向ヘリングボーン(試料4)のときに並行ヘリングボーン(試料3)のときよりも摩耗低減率がかなり小さくなったこと、またはテクスチャーが平行溝(試料5)のときに摩耗が逆に増加したことなどからも、妥当といえる。そのようなテクスチャー(試料4、5)では、凹部に入った異物や潤滑油が摺動面の外部へ排出され、凹部内の圧力も上昇せず、リン系化合物が生成されずに、摩耗低減効果が生じなかったと考えられる。
(2)摺動条件/潤滑状態
試料2(直交溝)と試料C0(テクスチャーなし)を用いて、滑り速度(V)を0.9m/sとして、P/Psを3倍にした摺動試験を行った。滑り速度(V)とP/Ps以外の条件は表1Aに示した通りである。このとき、摺動試験後の摩耗深さは、試料1:3.57μm、試料C0:7.24μm、摩耗低減率:50.7%となった。
試料2(直交溝)と試料C0(テクスチャーなし)を用いて、滑り速度(V)を0.9m/sとして、P/Psを3倍にした摺動試験を行った。滑り速度(V)とP/Ps以外の条件は表1Aに示した通りである。このとき、摺動試験後の摩耗深さは、試料1:3.57μm、試料C0:7.24μm、摩耗低減率:50.7%となった。
各摺動面の光学干渉顕微鏡による観察像を図3Aに示した。試料C0の摺動面には、試料2の摺動面にはない焼付きが観察された。このことから、摺動方向に交差する凹部からなるテクスチャーにより、摺動面の焼付きも抑制され得ることがわかった。
さらに、試験荷重(F):445N、滑り速度(V):0.9m/sおよび油温:120℃を、それぞれ一定(P/Ps=9)にしたまま摺動試験(試験時間:0〜30分間)を行った。このとき、摺動試験後の摩耗深さは、試料1:1.82μm、試料C0:6.95μm、摩耗低減率:73.8%となった。
摺動試験中における各試料の摩擦係数の時間変化を図3Bに示した。図3Bから明らかなように、試料2は試料C0に対して、摩擦係数が安定するまでの時間(「なじみ時間」という。)が半分以下になった。従って、摺動方向に交差する凹部からなるテクスチャーは、なじみ時間を大幅に低減させ、摺動初期のなじみを促進させることがわかった。このことも、摩耗低減に寄与していると考えられる。
(3)潤滑油
P含有潤滑油または基油の一方と試料2(直交溝)を組み合わせて、表1Aに示した条件下で摺動試験を行った。このとき、摺動試験後の摩耗深さは、P含有潤滑油:3.38μm、基油:5.13μmとなった。基油に対するP含有潤滑油の摩耗低減率は34.1%となった。換言すると、P含有潤滑油に対する基油の摩耗増加率は51.8%となった。
P含有潤滑油または基油の一方と試料2(直交溝)を組み合わせて、表1Aに示した条件下で摺動試験を行った。このとき、摺動試験後の摩耗深さは、P含有潤滑油:3.38μm、基油:5.13μmとなった。基油に対するP含有潤滑油の摩耗低減率は34.1%となった。換言すると、P含有潤滑油に対する基油の摩耗増加率は51.8%となった。
基油を用いたときの摺動試験後の摺動面を観察したSEM像を図4Aに示した。図4Aから明らかなように、摺接中央域においてテクスチャーが摩滅していた。また、その摺動面をEDS分析した元素マッピングを図4Bに示した。図4Bから明らかなように、摺動面面にPやCの濃化は観られず、潤滑皮膜となるような化合物の生成はなかった。なお、図4Aと図4Bを併せて単に「図4」という。
試料2について、図4を図2と比較すると明らかなように、テクスチャーが同じでも、潤滑油(P含有の有無)により、摺動試験後の摺動面が大きく相違した。これらの結果から、摺動面に摺動方向に交差する凹部からなるテクスチャーがあると共に、潤滑油中にPが含まれることにより、過酷な摺動環境下でも摺動面の摩耗が低減されることが明らかとなった。
Claims (10)
- 相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、
該対向する摺動面間に介在する潤滑油と、
を備えた摺動機械であって、
前記摺動面の少なくとも一方は、摺動方向に交差する凹部が形成されたテクスチャーを有し、
前記潤滑油は、リン(P)を含有している摺動機械。 - 前記凹部は、開口縁間の最小幅が5〜40μmであり、該開口縁からの最大深さが1〜15μmである請求項1に記載の摺動機械。
- 前記凹部は、前記テクスチャー全体に対する面積率が5〜40%である請求項1または2に記載の摺動機械。
- 前記凹部は、特定方向に延在する溝であり、
該特定方向と前記摺動方向の交角は、45°〜90°である請求項1〜3のいずれかに記載の摺動機械。 - 前記溝は、前記摺動方向に30〜200μmのピッチで形成されている請求項4に記載の摺動機械。
- 前記テクスチャーは、前記凹部の外周囲にある表面を前記摺動方向に測定した算術平均粗さ(Ra)が2μm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の摺動機械。
- 前記潤滑油は、その全体に対する質量割合でPを150〜1500ppm含む請求項1〜6のいずれかに記載の摺動機械。
- 下式から定まる規格化ストライベックパラメーター(P/Ps)が0.1〜1000である請求項1〜7のいずれかに記載の摺動機械。
P =ηV/F、
Ps=(3.94mm2/s)・(0.3m/s)/(1335N)
η:潤滑油の粘度(mm2/s)
V:滑り速度(m/s)、
F:荷重(N) - 前記摺動面間は、境界潤滑状態または混合潤滑状態となる請求項1〜8のいずれかに記載の摺動機械。
- 前記摺動部材は、歯車であり、
前記摺動面は、歯面である請求項1〜9のいずれかに記載の摺動機械。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2020080878A JP2021175898A (ja) | 2020-05-01 | 2020-05-01 | 摺動機械 |
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ID=78300365
Family Applications (1)
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JP2020080878A Pending JP2021175898A (ja) | 2020-05-01 | 2020-05-01 | 摺動機械 |
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Country | Link |
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JP (1) | JP2021175898A (ja) |
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2020
- 2020-05-01 JP JP2020080878A patent/JP2021175898A/ja active Pending
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