JP2021162474A - 劣化診断装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】高圧タンクの劣化を検出することが可能な劣化診断装置を提供する。
【解決手段】劣化診断装置20は、ライナ51とライナ51の外面を覆う繊維強化樹脂層52とを含む高圧タンク50の劣化診断装置20であって、高圧タンク50の内部への気体の充填および放出を繰り返して使用される際に高圧タンク50の劣化を診断するものであり、劣化診断装置20は、気体の充填および放出を繰り返して使用される際に高圧タンク50でクラックが発生したときに生じるAE波の数を、累積して累積値を算出する算出部124と、累積値に基づいて、高圧タンク50の劣化の有無を判定する判定部125と、を有する演算装置を含む。
【選択図】図2

Description

本発明は、ライナとライナの外面を覆う繊維強化樹脂層とを備えた高圧タンクの劣化診断装置に関する。
従来、液体を収容するタンクの検査方法として、AE(アコースティックエミッション)法を用いた検査方法が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1には、タンク内に液体を貯蔵した状態でタンク内で発生する音を検出し、検出される音の原波形からノイズを除去することによって、高SN比でタンク内で発生する音を測定する検査方法が記載されている。この検査方法では、タンクの内面の腐食を検出することが可能である。
特開2003−66015号公報
ところで、ライナとライナの外面を覆う繊維強化樹脂層とを備えた高圧タンクは、内部への気体の充填および放出を繰り返すことにより使用される。このような高圧タンクは、気体の充填および放出が繰り返して使用されることにより繊維強化樹脂層にクラックが発生し、徐々に劣化する。
そこで、高圧タンクが劣化により破壊するのを防止するために、高圧タンクの劣化の有無を検出することが望まれるが、例えば特許文献1に記載の方法では、高圧タンクの劣化の有無を精度良く検出することはできない。
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、高圧タンクの劣化を検出することが可能な劣化診断装置を提供することを課題とする。
本発明に係る劣化診断装置は、ライナと前記ライナの外面を覆う繊維強化樹脂層とを含む高圧タンクの劣化診断装置であって、前記高圧タンクの内部への気体の充填および放出を繰り返して使用される際に前記高圧タンクの劣化を診断するものであり、前記劣化診断装置は、気体の充填および放出を繰り返して使用される際に前記高圧タンクでクラックが発生したときに生じるAE波の数またはAE波のエネルギを累積した累積値を算出する算出部と、前記累積値に基づいて、前記高圧タンクの劣化の有無を判定する判定部と、を有する演算装置を含む。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、AEとは、アコースティックエミッションの略であり、材料や構造物などが破壊や変形する際にエネルギを弾性波として放出する現象のことを言う。また、AE波とは、材料や構造物などが破壊や変形する際に放出される弾性波のことを言う。また、後述するAEセンサとは、AEの発生に伴い生じる弾性波(AE波)を検出するセンサのことを言う。
本発明の劣化診断装置によれば、気体の充填および放出を繰り返して使用される際に前記高圧タンクでクラックが発生したときに生じるAE波の数またはAE波のエネルギを累積した累積値を算出する算出部と、前記累積値に基づいて、前記高圧タンクの劣化の有無を判定する判定部と、を有する演算装置を含む。これにより、気体の充填および放出が繰り返して使用される高圧タンクは、充填および放出が繰り返して使用されることにより繊維強化樹脂層にクラックが発生し、徐々に劣化するが、本発明の劣化診断装置では、気体の充填および放出を繰り返して使用される際に高圧タンクでクラックが発生したときに生じるAE波の数またはAE波のエネルギを累積するので、その累積値から高圧タンクの劣化の有無を判定することができる。また、使用中(例えば車載された状態)の高圧タンクに対して継続して劣化診断を行うことができる。このため、高圧タンクの交換の必要の有無や寿命を精度良く検出することができるので、高圧タンクが劣化により破壊するのを防止することができる。
本発明によれば、高圧タンクの劣化を検出することが可能な劣化診断装置を提供することができる。
本発明の第1実施形態に係る劣化診断装置を備えた検査システムの全体構成を示す概略図である。 本発明の第1実施形態に係る劣化診断装置の構成を示すブロック図である。 図1の高圧タンクの構造を示す断面図である。 高圧タンクでAE波が生じた際におけるAEセンサの出力波形を示す図である。 高圧タンクの内部への気体の充填および放出を繰り返した際におけるAE波形の累積数を示す図である。 本発明の第1実施形態に係る劣化診断方法のフローを示す図である。 本発明の第2実施形態に係る劣化診断装置の構成を示すブロック図である。 本発明の第2実施形態に係る劣化診断装置の分類器を機械学習させる際に用いる教師データの一例を示す図である。 高圧タンクを加圧した際におけるマイクロクラックおよびマクロクラックの発生状況を概念的に示す図である。 高圧タンクの内部への気体の充填および放出を繰り返した際におけるマクロクラックに由来するAE波形の累積数を示す図である。 本発明の第2実施形態に係る劣化診断方法のフローを示す図である。 AE波のエネルギを説明するための図である。
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る劣化診断装置20を備えた検査システム1について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る劣化診断装置20を備えた検査システム1の全体構成を示す概略図である。
検査システム1は図1に示すように、高圧タンク50を検査するシステムである。高圧タンク50は、例えば、燃料電池車両に搭載される高圧の水素ガスが充填されるタンクである。なお、高圧タンク50に充填可能な気体としては、水素ガスに限定されない。検査システム1は、高圧タンク50が車両に搭載された後、車載された状態の高圧タンク50に対して継続して劣化を診断するものである。なお、高圧タンク50の劣化(後述する繊維強化樹脂層52におけるクラックの発生)は、その多くが、燃料ガスである水素ガスの充填時(すなわち、高圧タンク50の内部が増加する際)に進行するが、放出時の内圧の低下による繊維強化樹脂層52の変形や車両走行時の振動などにも起因して進行する。このため、本実施形態では、劣化診断装置20は、車載後の高圧タンク50に対して常時(エンジン停止の状態や高圧タンク50から燃料ガスである水素ガスが放出されている状態を含む)劣化診断を行う。
検査システム1は、高圧タンク50の外面に取り付けられる1つ以上のAEセンサ3と、高圧タンク50の劣化の有無を判定する劣化診断装置20とを備えている。なお、検査システム1は、高圧タンク50と同様、車両に設置されている。
AEセンサ3は、高圧タンク50の後述する繊維強化樹脂層52のクラックの発生に伴って生じるAE波を検出し、検出結果を出力波形として劣化診断装置20に出力する。AEセンサ3は、高圧タンク50で生じるAE波を検出することが可能であれば特に限定されるものではないが、例えば圧電センサ等を用いることができる。
また、AEセンサ3は、繊維強化樹脂層52の外面の所定位置に固定されている。AEセンサ3の数および固定位置は、特に限定されるものではないが、ここでは、高圧タンク50の軸方向(長手方向)の両端部および中央部の計3か所に固定されている。これにより、高圧タンク50のいずれの位置でAE波が生じても、そのAE波をAEセンサ3によって検出することができる。なお、1つのAE波が2つ以上のAEセンサ3によって検出された場合であっても、公知の技術を用いて、その波形から同一のAE波であると判別できるため、AEの発生数が重複してカウントされることはない。
高圧タンク50の内部には、気体(ここでは水素ガス)が充填されるため、高圧タンク50にAEが生じた際に発生するAE波(振動)は、繊維強化樹脂層52を伝搬してAEセンサ3に検出される。
劣化診断装置20は、高圧タンク50の繊維強化樹脂層52にクラックが発生したときに生じるAE波から高圧タンク50の劣化を診断する装置である。また、劣化診断装置20は、表示パネル等からなる表示部22を備えたカーナビゲーションシステムに電気的に接続されている。表示部22は、例えば、AEセンサ3の出力波形や、後述する抽出部121、算出部124および判定部125の出力等を表示可能に構成されている。なお、劣化診断装置20の詳細構造については後述する。
図3に示すように、高圧タンク50は、両端がドーム状に丸みを帯びた略円筒形状の高圧ガス貯蔵容器である。高圧タンク50は、ガスバリア性を有するライナ51と、ライナ51の外面を覆う繊維強化樹脂からなる繊維強化樹脂層52と、を備える。
ライナ51は、高圧の水素ガスが充填される収容空間を形成する樹脂製又は金属製の部材である。ライナ51の長手方向(軸方向)の両端には、開口部が形成されており、口金54およびエンドボス56がそれぞれ設けられている。口金54およびエンドボス56は、アルミニウム又はアルミニウム合金等の金属材料を所定形状に加工したものである。口金54には、収容空間に対して水素ガスを充填および排出するための供給管および排出管(共に図示せず)が接続される。
繊維強化樹脂層52は、ライナ51の外面を覆っているとともに、ライナ51を補強して高圧タンク50の剛性や耐圧性等の機械的強度を向上させる機能を有する。繊維強化樹脂層52は、熱硬化性樹脂及び強化繊維によって構成されている。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、特に、機械的強度等の観点からエポキシ樹脂を用いることが好ましい。強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、及び炭素繊維等を用いることができ、特に、軽量性や機械的強度等の観点から炭素繊維を用いることが好ましい。
次に、劣化診断装置20の詳細構造について説明する。
図2に示すように、劣化診断装置20は、CPUと、ROMおよびRAMからなる記憶部とを含んでいる。CPUは、記憶部に記憶されている動作プログラムを実行する。
また、劣化診断装置20は、ソフトウェアとして、抽出部121、算出部124および判定部125を含んでいる。なお、本実施形態では、抽出部121、算出部124および判定部125によって、本発明の「演算装置」が構成されている。
抽出部121には、AEセンサ3の出力波形が入力される。抽出部121は、AEセンサ3の出力波形から複数のAE波形を抽出する。具体的には、AEセンサ3の出力波形は、例えば図4に示すような波形を多数繋げたような波形である。図4に示す波形において、領域Aは、高圧タンク50にAEが生じた際に繊維強化樹脂層52を伝搬した振動を表している。
抽出部121は、高圧タンク50にAEが生じて振幅が所定の振幅(L)以上になると、そのタイミングを含む一定期間内の一塊の振動(領域A)を1つのAE波形として抽出する。閾値は、ノイズ除去のために設定されている。振幅が所定の振幅以上になった後、所定時間経過すると、振動が小さくなり振幅は所定の振幅未満になる。抽出部121は、AE波形を抽出した後、一定時間経過後、再度振幅が所定の振幅以上になると、次のAE波形を抽出する。このようにして、抽出部121は、AEセンサ3の出力波形から複数のAE波形を順次抽出し、算出部124に出力する。
なお、複数のAEに起因するAE波形が繋がって、1つの大きな(時間軸で長い)AE波形として出力される場合があるが、このようなAE波形は、全てのAE波形のうちの数%未満であるため、AE波形のカウント数、すなわち高圧タンク50の検査結果にはほとんど影響しない。
また、本実施形態では、車載後の高圧タンク50に対して常時劣化診断を行うため、抽出部121は、常時、AEセンサ3の出力波形からAE波形を抽出する。
算出部124は、抽出部121が抽出したAE波形の数を累積して累積値を算出するとともに、判定部125に出力する。
判定部125は、AE波形の累積数(累積値)に基づいて、高圧タンク50の劣化の有無を判定する。本実施形態では、判定部125は、AE波形の累積数が第1の閾値以上であるか否かを判断する。なお、第1の閾値の決定方法については、後述する。
AE波形の累積数が第1の閾値以上である場合、判定部125は、高圧タンク50が劣化していると判断し、その高圧タンク50を不合格と判定する。
一方、AE波形の累積数が第1の閾値未満である場合、判定部125は、高圧タンク50が劣化していないと判定する。
次に、上記第1の閾値の決定方法について説明する。
図5の実線L1に示すように、常用範囲の下限値から上限値まで、高圧タンク50の内部へ気体(ここでは水素ガス)の充填および放出を繰り返すと、高圧タンク50におけるAE発生数(AE波形の数)の累積値も増加する。AE波形の累積数は、高圧タンク50の破壊直前では、急激に増加する。
そして、複数の高圧タンク50に対して破壊するまで気体の充填および放出を繰り返し、AE波形の累積数(図5の実線L1)を計測する。これを複数の高圧タンク50に対して行うことによって、充填および放出の繰り返し回数と高圧タンク50の破壊との関係が判明するため、ばらつきを加味した上で上記第1の閾値が設定される。なお、通常の(異常のない)高圧タンク50に対して製品保証期間内で充填および放出を繰り返し行ったとしても、高圧タンク50に生じるクラックの累積数(すなわちAE波形の累積数)は、第1の閾値以上になることはない。
次に、劣化診断装置20を用いた高圧タンク50の劣化診断方法について説明する。この劣化診断方法は、高圧タンク50が車両に搭載された後、常時行われる。
図6に示すように、工程S1において、高圧タンク50への気体の充填時および放出時や走行時の振動等に起因して繊維強化樹脂層52にクラックが発生すると、AEセンサ3はAE波形を含む波形を抽出部121に出力する。抽出部121は、AEセンサ3の出力波形からAE波形を順次抽出し、算出部124に出力する。
工程S4において、算出部124は、抽出部121から順次入力されるAE波形の数をカウントする(Nに1を加える)。また、算出部124は、カウントしたAE波形の数を判定部125に出力する。
工程S5において、判定部125は、AE波形の累積数が第1の閾値以上であるか否かを判断する。
AE波形の累積数が第1の閾値以上である場合、判定部125は、高圧タンク50が劣化した状態になっていると判定する。そして、工程S6に進む。
工程S6において、表示部22は、高圧タンク50が不合格になった旨、すなわち高圧タンク50の交換が必要である旨の表示(報知)を行う。
その一方、工程S5において、AE波形の累積数が第1の閾値未満である場合、すなわち高圧タンク50が劣化した状態になっていない場合、工程S1に戻る。
本実施形態では、上記のように、気体の充填および放出を繰り返して使用される際に高圧タンク50でクラックが発生したときに生じるAE波の数を累積した累積値を算出する算出部124と、累積値に基づいて、高圧タンク50の劣化の有無を判定する判定部125と、を有する。気体の充填および放出が繰り返して使用される高圧タンク50は、充填および放出が繰り返して使用されることにより繊維強化樹脂層52にクラックが発生し、徐々に劣化するが、本実施形態の劣化診断装置20では、気体の充填および放出を繰り返して使用される際に高圧タンク50でクラックが発生したときに生じるAE波の数を累積するので、その累積値から高圧タンク50の劣化の有無を判定することができる。また、車載された状態の高圧タンク50に対して継続して劣化診断を行うことができる。このため、高圧タンク50の交換必要の有無や寿命を精度良く検出することができるので、高圧タンク50が劣化により破壊するのを防止することができる。
(第2実施形態)
この第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、抽出部121によって抽出された複数のAE波形を、マクロクラックに由来する第1波形と、マクロクラックよりも小さいマイクロクラックに由来する第2波形と、に分類する場合について説明する。
本実施形態では図7に示すように、劣化診断装置20は、ソフトウェアとして、抽出部121、算出部124および判定部125の他、変換部122および分類器123をさらに含んでいる。なお、本実施形態では、抽出部121、算出部124、判定部125、変換部122および分類器123によって、本発明の「演算装置」が構成されている。
抽出部121は、AEセンサ3の出力波形から複数のAE波形を順次抽出し、変換部122に出力する。
なお、複数のAEに起因するAE波形が繋がって、1つの大きな(時間軸で長い)AE波形として出力されると、その波形を後述する分類器123によって分類したとしても、精度良く分類することができない。このため、振幅が所定の振幅以上になった後、一定時間経過しても振幅が所定の振幅未満にはならない場合、そのAE波形は分類器123によって分類されない。
抽出部121が抽出した各AE波形は、高圧タンク50の破壊直前に増加するマクロクラックの発生に由来する第1波形、又は、マクロクラックよりも小さいマイクロクラックの発生に由来する第2波形である。上記第1実施形態のようにAE波形を第1波形および第2波形に分類せずに、AE波形の数を用いて高圧タンク50の劣化状態を判断することは可能であるが、本実施形態では、AE波形のうちマクロクラックの発生に由来する第1波形の数を用いることによって、高圧タンク50の劣化状態をより精度良く判断することが可能である。
また、AE波形を第1波形または第2波形に分類する場合、AE波形を周波数解析した後に分類することにより第1波形と第2波形とに精度良く分類することができるため、本実施形態では、抽出後のAE波形を変換部122によって周波数解析した後、第1画像(第1波形)または第2画像(第2波形)に分類する。
ここで、マクロクラックは高圧タンクの破壊直前に増加するクラックであり、マクロクラックが増加することによって高圧タンクは劣化した状態になり、いずれ破壊に至る。マイクロクラックは、マクロクラックよりも長さが短い。マクロクラックは、マイクロクラックが複数繋がることによって形成される。マイクロクラックは、クラックのない状態から生じるものである一方、マクロクラックは、マイクロクラックが複数繋がることによって形成されるものであるため、すなわち両者の形成過程が異なるため、両者の発生にともなって生じるAE波にも差異が生じると考えられる。なお、マクロクラックは、複数のマイクロクラックが繋がることにより、長さが0.1mm以上になることが多い。また、後述する教師データを取得する際には、0.1mm未満をマイクロクラックとし、0.1mm以上をマクロクラックとした。
変換部122は、抽出部121から入力されたAE波形に対して時間周波数解析を順次行う。本実施形態では、変換部122は、AE波形をウェーブレット変換して図8に示すような画像(スカログラム)を生成する。ここで、図8に示す画像(スカログラム)の横軸は時間を示し、縦軸は周波数を示し、色(濃度)は強度を示している。なお、ウェーブレット変換とは、基底関数としてウェーブレット関数を用いた周波数解析である。ウェーブレット変換では、フーリエ変換と異なり、時間的な情報を残したまま周波数特性を算出することができる。ウェーブレット変換は、以下の式(1)で定義される。
Figure 2021162474
式(1)において、aはスケールパラメータ、bはシフトパラメータ、Ψ(t)はマザーウェーブレットである。ウェーブレット変換自体は公知の手法であるため、その詳細な説明を省略する。
分類器123は、機械学習アルゴリズムとしてサポートベクターマシンを用いており、変換部122の出力(画像)を、高圧タンク50の破壊直前に増加するマクロクラックに由来する第1波形に対応する第1画像と、マイクロクラックに由来する第2波形に対応する第2画像とに分類するように予め機械学習されている。また、分類器123は、分類した第1画像および第2画像を算出部124に出力する。分類器123の機械学習方法については、後述する。
算出部124は、第1画像および第2画像の数をそれぞれカウントするとともに、判定部125に出力する。なお、算出部124は、必要に応じて、抽出部121で抽出されたAE波形の数もカウントできるようになっていてもよい。
判定部125は、第1画像の累積数(言い換えると、マクロクラックの発生数)に基づいて、高圧タンク50の劣化の有無を判定する。本実施形態では、判定部125は、第1画像の累積数(累積値)が所定の閾値以上であるか否かを判断する。所定の閾値の決定方法については、後述する。
第1画像の累積数が所定の閾値以上である場合、判定部125は、高圧タンク50が劣化していると判断し、その高圧タンク50を不合格と判定する。
第2実施形態の検査システム1および劣化診断装置20のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
次に、分類器123を機械学習させる方法について説明する。
本実施形態では、図8に示すように、各画像(スカログラム)とクラックの種類(マクロクラック、マイクロクラック)とを対応付けた教師データを用いて、分類器123を機械学習させる。ここで、クラック発生の瞬間を目視等で捉えることはできないので、第1画像がマクロクラックに対応し、第2画像がマイクロクラックに対応していることを確認する必要がある。
まず、機械学習を行う際の教師データを取得する方法について説明する。図9は、高圧タンクを加圧した際におけるマイクロクラックおよびマクロクラックの発生状況を概念的に示す図である。図9では、高圧タンクの内圧が所定圧力増加する毎に発生するクラックの数を示している。図9に示すように、高圧タンク50の内部の圧力を増加させると、繊維強化樹脂層52にマイクロクラックやマクロクラックが発生する。高圧タンク50の内圧が比較的低い範囲(例えば数十MPa)では、マイクロクラックが発生する一方、マクロクラックはほとんど発生しない。高圧タンク50の内圧を増加させると、マクロクラックの発生数が増加し、その後、高圧タンク50が破壊する。
そこで、学習用の高圧タンク50の内圧を所定圧力まで増加させ、そのとき得られる複数のAE波形をウェーブレット変換した画像(第1画像および第2画像)と、所定圧力まで加圧した後に減圧し、繊維強化樹脂層52の断面を観察して計測したクラック(マクロクラックおよびマイクロクラック)の数との関係を確認する。このことを、比較的低い内圧(例えば数〜数十MPa)から高圧タンク50が破壊するまでのいくつかの内圧に対して行う。なお、繊維強化樹脂層52の断面観察を行うことにより、その学習用の高圧タンク50は使用できなくなるので、学習用の高圧タンク50を複数準備する必要がある。
そして、各内圧に対して、第1画像および第2画像の数およびその割合と、繊維強化樹脂層52に発生したマクロクラックおよびマイクロクラックの数およびその割合とを比較することによって、例えば、マクロクラックと第1画像とが対応し、マイクロクラックと第2画像とが対応していることを確認することができる。なお、例えば、AE波形をウェーブレット変換して生成した複数の画像のうち、画像内で強度(色の濃度)差が大きいもの(以下、第1画像という)はマクロクラックに対応し、画像内で強度(色の濃度)差が小さいもの(以下、第2画像という)はマイクロクラックに対応する。
以上のようにして、図8に示すように、各画像を第1画像(マクロクラック)および第2画像(マイクロクラック)に対応させたデータを教師データとすることができる。
次に、教師データを用いて分類器123を機械学習させる。具体的には、数百個の教師データのうち70〜80%を訓練データとして用いて、画像をマクロクラックに由来する第1画像とマイクロクラックに由来する第2画像とに分類するように、分類器123を機械学習させる。そして、数百個の教師データのうち残りを評価データとして用いて、画像を第1画像と第2画像とに分類させると、分類器123の正答率は70%以上であり、分類の精度が十分高いことが判明する。以上のようにして、分類器123を機械学習させる。
次に、上記所定の閾値の決定方法について説明する。なお、所定の閾値の決定方法は、上記第1実施形態における第1の閾値の決定方法と同様である。
具体的には、図10の実線L11に示すように、常用範囲の下限値から上限値まで、高圧タンク50の内部へ気体(ここでは水素ガス)の充填および放出を繰り返すと、高圧タンク50におけるAE発生数(AE波形の数)の累積値も増加する。特に、マクロクラックに由来するAE波形の累積数は、高圧タンク50の破壊直前では、急激に増加する。
そして、複数の高圧タンク50に対して破壊するまで気体の充填および放出を繰り返し、AE波形の累積数(図10の実線L11)を計測する。これを複数の高圧タンク50に対して行うことによって、充填および放出の繰り返し回数と高圧タンク50の破壊との関係が判明するため、ばらつきを加味した上で上記所定の閾値が設定される。なお、通常の(異常のない)高圧タンク50に対して製品保証期間内で充填および放出を繰り返し行ったとしても、高圧タンク50に生じるマクロクラックの累積数(すなわち第1画像の累積数)は、所定の閾値以上になることはない。
なお、マクロクラックに由来するAE波形の累積数を計測する場合、抽出部121で抽出された全てのAE波形に対して、変換部122で画像に変換し、分類器123によって第1画像および第2画像に分類してもよい。しかし、全てのAE波形に対して変換および分類することは容易ではない。そこで、抽出部121で抽出されたAE波形から所定数(例えば100個)選択し、所定数(例えば100個)のAE波形に対して変換および分類し、第1画像および第2画像の割合を算出し、第1画像の割合と抽出部121で抽出されたAE波形の総数とによって、マクロクラックに由来するAE波形の累積数を算出してもよい。
次に、図11を参照して、本実施形態の劣化診断装置20を用いた高圧タンク50の劣化診断方法について説明する。
工程S1は、上記第1実施形態と同様である。
工程S2において、変換部122は、抽出部121から入力されたAE波形をウェーブレット変換して画像(スカログラム)を順次生成する。また、変換部122は、生成した画像を分類器123に出力する。
工程S3において、分類器123は、変換部122の出力(画像)を順次、第1波形に対応する第1画像と、第2波形に対応する第2画像とに分類する。また、分類器123は、分類した第1画像および第2画像を算出部124に出力する。
工程S4において、算出部124は、分類器123から順次入力される第1画像または第2画像の数をカウントする(Nに1を加える)。また、算出部124は、カウントした第1画像の数および第2画像の数を判定部125に出力する。
工程S5において、判定部125は、第1画像の累積数が所定の閾値以上であるか否かを判断する。
第1画像の累積数が所定の閾値以上である場合、判定部125は、高圧タンク50が劣化した状態になっていると判定する。そして、工程S6に進む。工程S6は、上記第1実施形態と同様である。
その一方、工程S5において、第1画像の累積数が所定の閾値未満である場合、すなわち高圧タンク50が劣化した状態になっていない場合、工程S1に戻る。
本実施形態のその他の劣化診断方法は、上記第1実施形態と同様である。
本実施形態では、上記のように、抽出した複数のAE波形(ここでは画像)を、高圧タンク50の破壊直前に増加するマクロクラックに由来する第1波形(ここでは第1画像)と、マクロクラックよりも小さいマイクロクラックに由来する第2波形(ここでは第2画像)と、に分類するように機械学習された分類器123を用いて、抽出した複数のAE波形を第1波形と第2波形とに分類し、分類した第1波形の累積数に基づいて、高圧タンク50の劣化の有無を判定する。これにより、高圧タンク50の破壊直前に増加するマクロクラックに由来する第1波形の累積数に基づいて、高圧タンク50が劣化した状態にあるか否かを判定することができるので、高圧タンク50の劣化の有無をより正確に判定することができる。
また、上記のように、抽出したAE波形をウェーブレット変換することにより、周波数成分の時間変化を示す画像(スカログラム)が生成される。そして、生成された複数の画像を分類器123で分類することによって、第1画像と第2画像とに容易に分類することができるので、高圧タンク50が劣化しているか否かを容易に判定することができる。
本実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
例えば、上記第1実施形態では、AE波の数の累積値に基づいて、高圧タンクの劣化の有無を判定する例について示したが、本発明はこれに限らず、AE波のエネルギの累積値に基づいて、高圧タンクの劣化の有無を判定してもよい。この場合、判定部は、AE波のエネルギの累積値が閾値以上であるか否かを判断するが、この際の閾値は、上記第1の閾値(又は所定の閾値)と同様の決定方法により決定することができる。すなわち、充填および放出を繰り返すことによりAE波のエネルギの累積値も増加するため、高圧タンクが破壊するまで充填および放出を繰り返し、高圧タンクが破壊するときのエネルギの累積値を計測する。そして、充填および放出の繰り返し回数と高圧タンクの破壊との関係に基づいて閾値を設定することができる。なお、AE波のエネルギとは、図12のハッチングで示すように、AE波形と振幅0mVの線とによって囲まれる面積である。また、言うまでもなく、第2実施形態において、マクロクラックに由来するAE波のエネルギの累積値に基づいて、高圧タンクの劣化の有無を判定してもよい。
また、上記実施形態では、車載後の高圧タンク50に対してエンジン停止の状態においても劣化診断を行う例について示したが、充填および放出時を除くエンジン停止状態では、劣化診断を行わなくてもよい。
また、上記第1実施形態では、AE波の累積数が第1の閾値以上であるか否かを判定し、第1の閾値以上である場合に高圧タンクの交換が必要である旨の表示を行う例について示したが、本発明はこれに限らない。例えば、複数の閾値とそれに対応する寿命とを設定し、AE波の累積数が到達した閾値に応じて高圧タンクの寿命を表示するようにしてもよい。
また、上記第2実施形態では、AE波形をウェーブレット変換する例について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば高速フーリエ変換、短時間フーリエ変換およびウィグナー分布などの手法を用いてAE波形を変換してもよい。
また、上記第2実施形態では、複数のAE波形を第1波形と第2波形とに分類する場合に、AE波形をウェーブレット変換して画像(スカログラム)を生成し、その画像を第1画像と第2画像とに分類する例について示したが、本発明はこれに限らず、AE波形をウェーブレット変換せずに第1波形と第2波形とに分類することもできる。これは以下の理由による。上記第2実施形態では、高圧タンクの内部に気体が充填されるため、高圧タンクにAEが生じた際に発生するAE波(振動)は、繊維強化樹脂層を伝搬してAEセンサに検出される。すなわち、高圧タンクの内部に液体が充填される場合のようにAE波(振動)が繊維強化樹脂層および液体の両方を伝搬することがないので、AE波が、液体中を伝搬する際に液体とライナとの界面で反射したり、繊維強化樹脂層を伝搬する波と液体を伝搬する波とが重畳したりすることがない。このため、AE波形をウェーブレット変換せずに第1波形と第2波形とに分類することも可能である。
また、上記実施形態では、分類器の機械学習アルゴリズムとしてサポートベクターマシンを用いる例について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、k−means法、VAE(Variational Auto Encoder)、CNN(Convolutional Neural Network)、GAN(Generative Adversarial Network)、ベイジアンフィルタ、またはアイソレーションフォレストなどの他の機械学習アルゴリズムを用いて分類してもよい。
20:劣化診断装置、50:高圧タンク、51:ライナ、52:繊維強化樹脂層、124:算出部、125:判定部

Claims (1)

  1. ライナと前記ライナの外面を覆う繊維強化樹脂層とを含む高圧タンクの劣化診断装置であって、前記高圧タンクの内部への気体の充填および放出を繰り返して使用される際に前記高圧タンクの劣化を診断するものであり、
    前記劣化診断装置は、
    気体の充填および放出を繰り返して使用される際に前記高圧タンクでクラックが発生したときに生じるAE波の数またはAE波のエネルギを累積した累積値を算出する算出部と、
    前記累積値に基づいて、前記高圧タンクの劣化の有無を判定する判定部と、
    を有する演算装置を含むことを特徴とする劣化診断装置。


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