JP2021159966A - アルミニウムブレージングシート - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明はろう付け用に用いて好適なブレージングシートの提供を目的とする。【解決手段】本発明は、質量%で、Siを1.5〜14.0%含有し、熱力学計算において、以下の式(1)を満たす0.01質量%以上0.5質量%以下の添加元素を1種類以上含有し、1種類以上の添加元素の合計含有量がその他不可避不純物元素を含めて0.05質量%以上1.5質量%以下の範囲で含まれるAl−Si系ろう材が、ブレージングシート最表面に位置し、ろう材に含まれ、表層面(RD−TD)方向の観察による長辺の長さが50μm以上である粗大Si粒子が、1000000μm2あたり10個以下である。γx<γ0、かつ、γ3x<γx…式(1) ただし、式(1)において、γxは狙い濃度の添加元素を加えた際のPの活量係数を示し、γ0は元素添加なしの場合のPの活量係数を示し、γ3xは各添加元素を狙い濃度の3倍とした際のPの活量係数を示す。【選択図】図1

Description

本発明は、ろう付用などとして好適なアルミニウムブレージングシートに関する。
ラジエータなどのアルミニウム製自動車用熱交換器にあっては、小型軽量化とともにアルミニウム材料の薄肉高強度化が進められている。アルミニウム製熱交換器の製造では、継手を接合するろう付が行われる。
アルミニウムブレージングシート用ろう材の製造方法の先行例として、Al−Si系ろう材にNaやSr、Sbを含有させることで粗大Si粒の生成を抑制する方法が知られている(特許文献1参照)。
アルミニウムブレージングシートにおいて、粗大に残存したSi晶出物の粒子は、ろう付時にAl中に拡散し、Si濃度を上昇させるので、Alの融点を低下させ、ろう付時に局所的に溶融するエロージョンが発生する原因となる。そのため、ろう材においては粗大なSiが晶出しないようにすることが望ましい。
特許第4636520号公報 特開2014−50861号公報
そこで本発明者らがAl−Si系ろう材における粗大Si晶出物について研究したところ、Al−Si系で亜共晶組成であってもあたかも初晶Siのような粗大なSiが晶出する場合があり、この粗大Si晶出物はAlP化合物を核として成長していることを知見した。Pはアルミニウムブレージングシートを製造する場合に用いるアルミニウム合金溶湯中に微量ながら不可避不純物として含まれていると思量される。そこで、本発明者らが、アルミニウム合金溶湯中に含まれているPの影響を除外するために、アルミニウム合金溶湯におけるPの活量を低下させる元素の添加を試み、本願発明に到達した。
本願発明は、以上説明の背景に鑑みなされたもので、ろう付において良好な接合性が得られるろう付用アルミニウムブレージングシートを提供することを目的とする。
(1)本形態に係るアルミニウムブレージングシートは、少なくとも二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、質量%で、Siを1.5〜14.0%含有し、さらに熱力学計算において、以下の式(1)を満たす0.01〜0.5%の添加元素を少なくとも1種類以上含有し、前記1種類以上の添加元素の合計含有量がその他不可避不純物元素を含めて0.05〜1.5%の範囲で含まれるAl−Si系ろう材が、心材の片面または両面かつ前記ブレージングシート最表面に位置し、前記Al−Si系ろう材に含まれ、表層面(RD−TD)方向の観察による長辺の長さが50μm以上である粗大Si粒子が、1000000μmあたり10個以下であることを特徴とする。
γ<γ、かつ、γ3x<γ …式(1)
ただし、式(1)において、γは、狙い濃度(0.01〜0.5質量%)の添加元素を加えた際のPの活量係数を示し、γは、元素添加なしの場合のPの活量係数を示し、γ3xは、各添加元素を狙い濃度の3倍とした際のPの活量係数を示す。
(2)本形態に係るアルミニウムブレージングシートにおいて、前記添加元素が、Cr、Ni、Cu、Moのいずれか1種または2種以上であることが好ましい。
本発明によれば、エロージョンの原因となる粗大析出Si粒子の析出数が少なく、良好で安定したろう付接合を行うことが可能になる。
本発明の一実施形態におけるろう付用のブレージングシートを示す図である。 本発明の一実施形態におけるアルミニウム製自動車用熱交換器を示す斜視図である。 本発明の実施例におけるろう付評価モデルを示す図である。
以下、実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
第一実施形態のブレージングシートは、少なくとも二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、心材と心材の片面または両面にクラッドされて最表面に位置するAl−Si系ろう材を具備する。あるいは、心材の片面にAl−Si系ろう材をクラッドし、心材の他面に犠牲材をクラッドした三層構造のブレージングシートであっても良い。
前記Al−Si系ろう材は、質量%で、Siを1.5〜14.0%含有し、さらに熱力学計算において、以下の式(1)を満たす0.01〜0.5%の添加元素を少なくとも1種類以上含有する。後述する不可避不純物を含有していても良い。
γ<γ、かつ、γ3x<γ …式(1)
ただし、式(1)において、γは、狙い濃度(0.01〜0.5質量%)の添加元素を加えた際のPの活量係数を示し、γは、元素添加なしの場合のPの活量係数を示し、γ3xは、各添加元素を狙い濃度の3倍とした際のPの活量係数を示す。
また、前記Al−Si系ろう材に含まれる前記1種類以上の添加元素の合計含有量は、その他不可避不純物元素を含めて0.05〜1.5%の範囲であり、前記Al−Si系ろう材の表層面(RD−TD)方向の観察による長辺の長さが50μm以上である粗大Si粒子が、1000000μmあたり10個以下である。
以下に、本実施形態のブレージングシートにおいて規定される組成等について説明する。なお、含有量の記載はいずれも質量比で示され、質量比の範囲について「〜」を用いて表記する場合、特に指定しない限り、下限と上限を含む表記とする。よって、一例として0.01〜2.0%は、0.01%以上2.0%以下の含有量を意味する。
「ろう材」
Si:1.5〜14.0%
Siは、ろう付時に溶融ろうを形成し、接合部のフィレットを形成する。但し、Si含有量が過小であると、フィレットを形成するための溶融ろうが不足する。一方、Siを過剰に含有すると、効果が飽和するだけでなく、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。このため、本実施形態のろう材において、Siの含有量を前記範囲に定める。
なお、同様の理由でSi含有量を、下限で3.0%、上限で12.0%とするのが望ましい。
Ca:100質量ppm以下
Caは、不可避不純物としては、通常数百質量ppm程度以下で含有するが、他の元素と高融点化合物を形成し、ろう付性を低下させることがあるので100質量ppmを上限とするのが望ましい。なお、同様の理由で本形態のろう材におけるCa含有量を10質量ppm以下とするのが一層望ましい。
Zn:0.1〜9.0%
Znは、材料の電位を卑にすることで犠牲防食効果が得られるので、所望によりろう材に含有させる。ただし、Znを含有させる場合、含有量が過小であると 犠牲防食効果が不十分となり、一方、過大であると効果が飽和する。このため、本形態のろう材においてZnを含有する場合は、含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由でZn含有量を、下限で0.5%、上限で7.0%とするのが望ましい。また、Znを積極添加しない場合でも、Znを不純物とし て0.1%未満で含有するものであってもよい。
「Pの活量を低下させる元素」
本実施形態のろう材には、アルミニウム合金溶湯中のPの活量を低下させる元素として、Cr、Ni、Cu、Moのいずれか1種または2種以上が含有されている。
例えば、質量%で、Al:87.959%、Si:12%、P:0.001%、残部0.004%のねらい組成のアルミニウム合金溶湯において、上述の添加元素がない場合のPの活量係数は1.37×10-3である。
これに対し、Cr、Ni、Cu、Moにおいて、CrがPの活量係数を小さくする効果が大きく、Crから順にNi、Cu、Moの並びとなる順にPの活量係数を小さくする効果が徐々に小さくなる。
よって、ろう材を構成する上述の添加元素を含むアルミニウム合金の溶湯を作製し、該アルミニウム合金溶湯に対しこれらの元素を添加することで、アルミニウム合金の溶湯に微量のPを含んでいた場合、鋳造時にAlP化合物が析出し難くなる。鋳造時にAlP化合物が多く析出すると、AlP化合物を核として初晶Siが多く析出する。
従って、前述の元素を含有させたアルミニウム合金溶湯からの鋳造により、ろう材の基となる鋳片を製造した場合、鋳片におけるAlP化合物の析出を抑制できる。
従って、鋳片を必要な厚さまで圧延してクラッド材とするろう材シートを形成し、心材とろう材シートをクラッド圧延してブレージングシートを製造した場合、ろう材には粗大な初晶Siの析出が生じないか析出したとしてもその個数は少ない。
「活量係数の計算例」
Al:87.959%、Si:12%、P:0.001%の組成を有するアルミニウム合金に対し0.04%の元素を添加した場合の900℃におけるPの活量と活量係数を計算した。計算には、熱力学計算ソフトウエアのFact Stage 7,X(データベース SGTEb:(株)計算力学研究センター)を用いた。
結果を以下の表1に記載する。
Figure 2021159966
表1に示す計算例は、Al:87.959%、Si:12%、P:0.001%の組成を有するアルミニウム合金に対しねらい組成の0.04%の元素を添加した場合と、3倍の0.12%の元素を添加した場合の活量係数を比較し、両者の差分を計算した結果を示す表である。
表1に示すように、計算結果によれば、CrとNiとCuとMoがPの活量を抑制する場合に抗力の大きな元素と推定できる。
この結果に基づき、Al−Si系合金に対し、Cr、Ni、Cu、Moのいずれか1種または2種以上を採用し、残部Alと不可避不純物の組成のアルミニウム合金ろう材を用いることで、長辺長さ50μm以上の粗大Si粒子の析出数の少ないろう材を備えたブレージングシートを提供できる。
「ろう材表層面におけるSi粒子の分布」
粗大Si粒子:長辺の長さが50μm以上の粗大Si粒子が1000000μmあたり10個以下
鋳造起因の粗大Si粒子は塊状、あるいは板状で熱間圧延でも破砕されずにブレージングシートにそのまま残存することが多い。この粗大Si粒子はろう付時にエロージョンと呼ばれる局所溶融を引きおこし、ろう付け時の穴あきの原因となる。
また、この粗大Si粒子は鋳造時に生じるものであり、例えば、DC鋳造時の表面側と中心側とで凝固条件が異なることから、分布状態に差が出る可能性がある。また、ブレージングシートは、通常はコイルから幅方向および長さ方向ともに分割して切り出されて供される。そのため、異なる鋳造条件でも生じていないことを確認するため、鋳造時の幅方向に3分割した場合にそれぞれが含まれるように、さらに長さ方向でも鋳造時の高さ方向(横型連鋳の場合は長さ方向)に3分割した場合にそれぞれが含まれるように観察し、観察視野として1000000μm視野(1000μm角)を構成することが好ましい。
「心材」
本形態における心材の組成は特定のものに限定されるものではないが、 以下の成分が好適に示される。
心材は、一例として、質量%で、Si:0.05〜1.2%、Mg:0.01〜2.0%、Mn:0.1〜2.5%、Cu:0.01〜2.5%、Fe:0.05〜1.5%、Zr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.5%、Bi:0.005〜 1.5%およびZn:0.1〜9.0%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成できる。
また、心材は、他の例として、質量%で、Si:0.05〜1.2%、Mg:0.01〜2.0%を含有し、さらにMn:0.1〜2.5%、Cu:0.01〜2.5%、Fe:0.05〜1.5%、Zr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.5%、Bi:0.005〜1.5%およびZn:0.1〜9.0%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成できる。
Si:0.05〜1.2%
Siは、固溶により材料強度を向上させる他、MgSiやAl−Mn−S i化合物として析出し材料強度を向上させる効果がある。但し、含有量が過小であると、効果が不十分となる。一方、含有量が過大であると、心材の固相線温度が低下し、ろう付時に溶融する。これらのため、心材にSiを含有させる場合、Si含有量は前記範囲とする。なお、同様の理由で、Si含有量を下限で0.1%、上限で1.0%とするのが望ましい。なお、Siを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.05%以下含有する心材であってもよい。
Mg:0.01〜2.0%
Mgは、Siなどとの化合物が析出することで材料強度を向上する。
ただし、含有量が過小であると効果が不十分であり、一方、過大に含有すると、効果が飽和するだけでなく、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。これらのため、心材にMgを含有させる場合、Mg含有量は前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Mg含有量を下限で0.05%、上限で1.0%とするのが望ましい。なお、Mgを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
Mn:0.1〜2.5%
Mnは、金属間化合物として析出して材料強度を向上させる。さらに固溶により材料の電位を貴にして耐食性を向上させる。ただし、含有量が過小であると効果が不十分であり、一方、過大に含有すると、材料が硬くなり素材圧延性が低下する。これらのため、心材にMnを含有させる場合、Mn含有量は前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Mn含有量を下限で0.3%、上限で 1.8%とするのが望ましい。なお、Mnを積極的に含有しない場合でも、 不可避不純物として、例えば0.1%以下含有する心材であってもよい。
Cu:0.01〜2.5%
Cuは、固溶して材料強度を向上させる。ただし、含有量が過小であると効果が不十分であり、一方、過大に含有すると、心材の固相線温度が低下し、ろう付時に溶融する。これらのため、心材にCuを含有させる場合、Cu含有量は前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Cu含有量を下限で0.02%、上限で1.2%とするのが望ましい。なお、Cuを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
Fe:0.05〜1.5%
Feは、金属間化合物として析出して材料強度を向上させる。さらに、ろう付時の再結晶を促進させ、ろう侵食を抑制する。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、ろう付後の腐食速度が速くなる。これらのため、心材にFeを含有させる場合、Fe含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Fe含有量を下限で0.1%、上限で0.6%とするのが望ましい。なお、Feを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.05%以下含有する心材であってもよい。
Zr:0.01〜0.3%
Zrは、微細な金属間化合物を形成し材料強度を向上させる。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、材料が硬くなり加工性が低下する。これらのため、心材にZrを含有させる場合、Zr含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Zr含有量を下限で0.05%、上限で0.2%とするのが望ましい。なお、Zrを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
Ti:0.01〜0.3%
Tiは、微細な金属間化合物を形成し材料強度を向上させる。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、材料が硬くなり加工性が低下する。これらのため、心材にTiを含有させる場合、Ti含有量を前記範囲とする。なお、同様の理由で、Ti含有量を下限で0.05%、上限で0.2%とするのが望ましい。なお、Tiを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
Cr:0.01〜0.5%
Crは、微細な金属間化合物を形成し、材料強度を向上させる。ただし、 含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、材料が硬くなり加工性が低下する。これらのため、心材にCrを含有させる場合、Cr含有量を前記範囲とする。なお、同様の理由で、Cr含有量を下限で0.05%、上限で0.3%とするのが望ましい。なお、Crを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
Bi:0.005〜1.5%
Biは、一部がろう材層に拡散することで溶融ろうの表面張力を低下させる。また、材料表面の緻密な酸化皮膜成長を抑制する。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると効果が飽和するとともに、材料表面でBiの酸化物が生成し易くなり接合が阻害される。これらのため、心材にBiを含有させる場合、Bi含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Bi含有量を下限で0.05%、上限で0.5%とするのが望ましい。なお、Biを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.005%以下含有する心材であってもよい。
Zn:0.1〜9.0%
Znは、材料の孔食電位を他部材よりも卑にし、犠牲防食効果を発揮する。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると効果が飽和する。これらのため、心材にZnを含有させる場合、Zn含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Zn含有量を下限で0.5%、上限で7.0%とするのが望ましい。なお、Znを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.1%以下含有する心材であってもよい。
「犠牲材」
本形態では、心材に犠牲材をクラッドしたアルミニウムブレージングシートとすることができる。
本形態における犠牲材の組成は特定のものに限定されるものではないが、以下の成分が好適に示される。
Zn:0.1〜9.0%
Znは、材料の自然電位を他部材よりも卑にし、犠牲防食効果を発揮させ、クラッド材の耐孔食性を向上させるために犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると電位が卑となりすぎて犠牲材の腐食消耗速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるZn量を下限で1.0%、上限で8.0%とするのが望ましい。
Si:0.05〜1.2%
Siは、Al−Mn−Si、Al−Mn−Si−Feなどの金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると腐食速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるSi量を下限で0.3%、上限で1.0%とするのが望ましい。
Mg:0.01〜2.0%
Mgは、酸化皮膜を強固にすることで耐食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると材料が硬くなりすぎて圧延製造性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるMg量を下限で0.05%、上限で1.5%とするのが望ましい。
Mn:0.1〜2.5%
Mnは、Al−Mn、Al−Mn−Si、Al−Mn−Fe、Al−Mn−Si−Feなどの金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると腐食速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるMn量を下限で0.4%、上限で1.8%とするのが望ましい。
Fe:0.05〜1.5%
Feは、Al−Mn−Fe、Al−Mn−Si−Feなどの金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると腐食速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるFe量を下限で0.1%、上限で0.7%とするのが望ましい。
Zr:0.01〜0.3%
Zrは、Al−Zr系金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることや、固溶Zrの濃淡部を形成させることで腐食形態を層状とすることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物を形成し圧延性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるZr量を下限で0.05%、上限で0.25%とするのが望ましい。
Ti:0.01〜0.3%
Tiは、Al−Ti系金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることや、固溶Tiの濃淡部を形成させることで腐食形態を層状とすることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物を形成し圧延性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるTi量を下限で0.05%、上限で0.25%とするのが望ましい。
Cr:0.01〜0.5%
Crは、Al−Cr系金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることや固溶Crの濃淡部を形成させることで腐食形態を層状とすることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物を形成し圧延性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるCr量を下限で0.1%、上限で0.4%とするのが望ましい。
Bi:0.005〜1.5%
Biは、溶融ろうが犠牲材表面に接触した際に溶融ろうに拡散することで溶融ろうの表面張力を低下させ、また、材料表面の緻密な酸化皮膜成長を抑制するので、所望により犠牲材に添加される。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると効果が飽和するとともに、材料表面でBiの酸化物が生成し易くなり接合が阻害される。これらのため、犠牲材に含まれるBi含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Bi含有量を下限で0.05%、上限で0.5%とするのが望ましい。ただし、Biを積極的に添加しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.005%以下含有する犠牲材であってもよい。
本実施形態に係るアルミニウムブレージングシートにおいて、前記心材に犠牲材がクラッドされ、前記犠牲材が質量%で、Zn:0.1〜9.0%を含有し、さらに、Si:0.05〜1.2%、M g:0.01〜2.0%、Mn:0.1〜2.5%、Fe:0.05〜1.5%、Zr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.5%、Bi:0.005〜1.5%の内1種または2種以上を含有することが好ましい。
「ブレージングシートの製造方法」
本形態の組成に調製してアルミニウム合金を溶製する。該溶製は半連続鋳造法によって行うことができる。
得られたアルミニウム合金鋳塊に対しては、所定条件で均質化処理を行う。均質化処理温度が低いと粗大な金属間化合物が析出する可能性があるので、処理温度400℃以上で1〜10時間行うことができる。
アルミニウム合金鋳塊に対し、熱間圧延と冷間圧延を行うことでシート状のろう材を得ることができる。
アルミニウム合金鋳塊において、通常の共晶Siは針状に晶出するため、熱間圧延等で破砕されやすいが、初晶のように晶出する粗大Si粒子は塊状や板状になる形状の違いがあるため、破砕されにくい。そのため、針状ではない粗大Si粒子は、圧下率を高めてもろう材からクラッド材にめり込む形で残存してしまうことが多い。その為、粗大Si粒子の晶出は防がなければならないが、後記するように、Pの活量を低下させる元素を添加することで粗大Si粒子の晶出を抑制することができる。
次に、前記ろう材を心材などと組み付けて熱間でクラッド圧延するが、このとき、本形態では、熱延時の所定温度での圧延時間、熱延開始から終了までの相当ひずみ、熱延仕上げ温度、熱延後の冷却速度を制御することが望ましい。
具体的には、熱延時の材料温度が400〜500℃の間の圧延時間を10min以上とする条件を例示することができる。
また、熱延開始から終了までの相当ひずみを制御することができる。具体的には、以下の式(2)で示す相当ひずみεが、ε>5.0となるようにスラブ厚みや仕上げ厚みを調整することができる。
ε=(2/√3)ln(t0/t) …式(2)
式(2)において、t0:熱延開始厚み(スラブ厚み)、t:熱延仕上げ厚み。
さらに、熱延の仕上げ温度が高く、動的ひずみがない状態が維持されることや、熱延後の冷却速度が遅くなると、結晶粒界などに粗大な化合物が析出するため、熱延仕上げ温度を所定温度まで低くし、一定以上の冷却速度を確保することが望ましい。
具体的には、一例として、熱延仕上げ温度を250〜350℃とし、仕上げ温度から200℃までの冷却速度を20℃/hrよりも早く制御することができる。
その後、冷間圧延などを経て、本形態のブレージングシートが得られる。
冷間圧延では、例えば、75%以上の総圧下率で冷間圧延を行い、温度300〜400℃にて中間焼鈍を行い、その後圧延率40%の最終圧延を行うことができるが、特に条件が限定されるものではない。また、中間焼鈍は行わないものとしてもよい。
熱間圧延、冷間圧延を行って心材の一方または両方の面にろう材が重ね合わされて接合されたクラッド材を得ることができる。
前記工程を経ることにより、図1に示すように、アルミニウム合金心材2の一方の面にアルミニウム合金ろう材3がクラッドされた熱交換器用のアルミニウムブレージングシート1が得られる。なお、図1では、心材の片面にろう材がクラッドされているアルミニウムブレージングシート1が記載されているが、心材の両面にろう材がクラッドされているアルミニウムブレージングシートであってもよい。また、心材の他の面に犠牲材などがクラッドされているアルミニウムブレージングシートであってもよい。
ろう付対象部材4として、例えば、質量%で、Mg:0.1〜0.8%、Si:0.1〜1.2%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成などのアルミニウム合金を調製し、フィン材などの適宜形状に加工される。なお、本形態としては、ろう付対象部材の組成が特に限定されるものではない。
前記冷間圧延などによって熱交換機用のフィン材を得た場合には、その後、必要に応じてコルゲート加工などを施す。コルゲート加工は、回転する2つの金型の間を通すことによって行うことができ、良好に加工を行うことを可能とし、優れた成形性を示す。
前記工程で得られたフィン材は、熱交換器の構成部材として、他の構成部材(チューブやヘッダーなど)と組み合わされた組み付け体として、ろう付に供される。
前記組み付け体を、例えば、昇温速度10〜200℃/minで加熱して、組み付け体の到達温度が559〜630℃となる熱処理条件にてろう付接合を行う。
ろう付条件において、昇温速度が速くなるほどろう付時間が短くなるため、材料表面の酸化皮膜成長が抑制されてろう付性が向上する。到達温度は少なくともろう材の固相線温度以上とすればろう付可能であるが、液相線温度に近づけることで流動ろう材が増加し、開放部を有する継手で良好な接合状態が得られ易くなる。ただし、あまり高温にするとろう浸食が進み易く、ろう付後の組付け体の構造寸法精度が低下するため好ましくない。
このとき、Al−Si系の共晶温度は577℃であり、前記ろう付条件では共晶部が溶融する。この際に、粗大Si粒子が存在すると、特に板厚が薄い場合には局所溶融が発生するため好ましくなく、前記したようにろう材にPの活量係数を低下させる元素を添加することが好ましい。
図2は、前記アルミニウムブレージングシート1を用いてフィン6を形成し、ろう付対象材としてアルミニウム合金製のチューブ7を用いたアルミニウム製熱交換器5を示している。フィン6、チューブ7を、補強材8、ヘッダプレート9と組み込んで、ろう付によって自動車用などのアルミニウム製熱交換器5を得ることができる。
図3は、フィン6の湾曲部とチューブ7との間に形成されたフィレットからなる接合部10の幅W(フィン6の湾曲部頂点とチューブ7の接点部分を挟むようにチューブ7の長さ方向に沿って存在するフィレットの全幅)を示す。
図3は接合部10の幅Wが大きく形成された例と小さく形成された例を左右に対比して示す。
図3に示すように接合部10の幅Wが大きいならば、良好なろう付け接合ができたこととなる。
本実施形態に係るブレージングシート1からなるフィン6を用いてろう付け接合し、製造された熱交換器5であるならば、ろう付け接合部分に十分に大きなフレットを形成できるので、良好なろう付け接合部分を有する熱交換器5を提供できる。
また、ろう材に生成している粗大Si粒子の数を10個以下に抑制できるので、ろう付け時にエロージョンを生じる可能性の低いろう付け接合ができる。
なお、粗大Si粒子が100000μmあたり、10個以下存在しているろう材を備えたブレージングシートの場合、厳密には粗大Si粒子が存在する位置でエロージョンを引き起こす可能性を有する。しかし、ブレージングシートの全面積に対し図3に示すフィレットからなる接合部10が存在する割合は極めて低くなる。このため、粗大Si粒子が100000μmあたり、10個以下であれば、実質的に接合部10に問題を生じる可能性は低く、十分に優れたろう付け性が得られると判断できる。
表2、表3に示す組成(残部:Alと不可避不純物)のろう材を用いた各種ブレージングシートを表4に示す鋳造条件、および熱間圧延条件にて得た熱間圧延板から作製した。なお、クラッド率は心材に対しろう材10%とした。
その後、中間焼鈍を含む冷間圧延によって、H14相当調質の0.30mm厚の冷間圧延板を作製した。
<ろう材層表面の長辺長さ50μm以上の粗大なSi粒子の個数>
作製したアルミニウムクラッド材について、ろう材最表面を0.1μm程度の砥粒で研磨し、表面方向からEPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いた全自動粒子解析を各サンプル10000μm(100μm角相当)の観察視野で実施した。上記砥粒で研磨しているのは圧延目(表面凹凸)を除去し、ろう材表面をより平滑にすることで、粒子解析の精度を向上させることを目的とする。
該測定では、長辺長さ50μm以上のSi粒子の個数を算出し、測定結果を表2、表3に示す。
Figure 2021159966
Figure 2021159966
Figure 2021159966
表2、表3に示すように、実施例1〜34は、質量%で、Siを1.5〜14.0%含有し、さらに熱力学計算において、前述の式(1)を満たす0.01〜0.5質量%の添加元素を少なくとも1種類以上含有し、前記添加元素の合計含有量をその他不可避不純物を含めて0.05〜1.5質量%としたAl−Si系ろう材が、心材の片面にクラッドされて最表面に位置しているブレージングシートである。
これら実施例のブレージングシートは、Al−Si系ろう材に含まれ、表層面(RD−TD)方向の観察による長辺の長さが50μm以上である粗大Si粒子が、1000000μmあたり10個以下である。
このため、上述のブレージングシートを用いてろう付けした場合、エロージョンの生じ難い、耐食性に優れ、ろう付け接合性に優れた熱交換器などのろう付け対象物を得ることができる。
表3に示す比較例35のようにSi含有量が少ない場合、ろう付時に溶融ろうが不足してしまい、比較例36のようにSi含有量が多い場合、ろう材層が硬く脆くなるため、圧延時に割れが生じて製作不可となった。
表3に示す比較例37〜44は、Pの活量係数を低下させる元素を含んでいないか、または、含有量が不十分なため、50μm以上の粗大Si単体粒子数が多くなり、耐エロージョン性に問題を生じた。
表3に示す比較例45〜47は、Pの活量係数を低下させる元素の含有量が多すぎるため、粗大な化合物が生じ圧延時の破断原因となり、製作不可となった。
本発明のブレージングシートは、空調設備の室内機、室外機などの熱交換器あるいは自動車用熱交換器などに広く用いることができる。
1…アルミニウムブレージングシート、2…アルミニウム合金心材、3…アルミニウム合金ろう材、4…対象部材、5…アルミニウム製熱交換器、6…フィン、7…チューブ、10…接合部。

Claims (2)

  1. 少なくとも二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、
    質量%で、Siを1.5〜14.0%含有し、
    さらに熱力学計算において、以下の式(1)を満たす0.01〜0.5%の添加元素を少なくとも1種類以上含有し、前記1種類以上の添加元素の合計含有量がその他不可避不純物元素を含めて0.05〜1.5%の範囲で含まれるAl−Si系ろう材が、心材の片面または両面かつ前記ブレージングシート最表面に位置し、
    前記Al−Si系ろう材に含まれ、表層面(RD−TD)方向の観察による長辺の長さが50μm以上である粗大Si粒子が、1000000μmあたり10個以下であることを特徴とするアルミニウムブレージングシート。
    γ<γ、かつ、γ3x<γ …式(1)
    ただし、式(1)において、γは、狙い濃度0.01〜0.5質量%の添加元素を加えた際のPの活量係数を示し、γは、元素添加なしの場合のPの活量係数を示し、γ3xは、各添加元素を狙い濃度の3倍とした際のPの活量係数を示す。
  2. 前記添加元素が、Cr、Ni、Cu、Moのいずれか1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムブレージングシート。
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