以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
[燃料噴射システムの構成例及び動作例]
以下、図1〜図6を用いて、本発明に係る燃料噴射装置と制御装置で構成される燃料噴射システムの基本構成例及び動作例について説明する。
最初に、図1を用いて、燃料噴射システムの構成について説明する。
図1は、燃料噴射システム1の構成例を示す図である。燃料噴射システム1は本発明を筒内直接噴射式エンジン(内燃機関の一例)に適用した例であるが、本発明はこの例に限らない。本明細書において、筒内直接噴射式エンジンを単に「エンジン」と称することがある。
燃料噴射システム1は、図1に示すように、4つの燃料噴射装置101A〜101D、及び制御装置150とで構成される。本実施形態に係る筒内直接噴射式エンジンは、4つの気筒108(エンジンシリンダ)を備える。制御装置150は、例えば燃料噴射装置101を制御する車両用の制御装置である。この制御装置(制御装置150)は、1燃焼サイクルで複数回、燃料を噴射する燃料噴射装置(燃料噴射装置101)を制御する。以下の説明において、燃料噴射装置101A乃至101Dを区別しない場合には、「燃料噴射装置101」と称する。
燃料噴射システム1の各気筒108には、燃料噴射装置101A〜101Dが、その噴射孔219(後述する図2参照)から霧状の燃料が燃焼室107に直接噴射されるように設置されている。燃料は、燃料ポンプ106によって昇圧されて燃料配管105に送出され、燃料配管105を通じて燃料噴射装置101A乃至101Dに配送される。燃料配管105の一端部には、燃料配管105内の燃料圧力を測定する圧力センサ102が設置されている。燃料圧力は、燃料ポンプ106によって吐出された燃料の流量と、燃料噴射装置101によって各燃焼室107内に噴射された燃料の噴射量とのバランスによって変動する。圧力センサ102の測定結果(燃料圧力)に基づいて、所定の圧力を目標値として燃料ポンプ106から吐出される燃料の吐出量が制御される。
また、燃料配管105と、燃料噴射装置101A〜101Dとの間には、それぞれ圧力センサ109が設置される。圧力センサ109は、エンジンの各気筒108に供えられた燃料噴射装置101の燃料圧力を検出し、エンジンコントロールユニット(以下、「ECU」と呼ぶ)104に燃料圧力の情報を出力する。
燃料噴射装置101A〜101Dの燃料の噴射は、ECU104から送出される噴射パルスのパルス幅(以下「噴射パルス幅」と称する。)によって制御されている。すなわち、燃料噴射装置101から噴射される燃料の噴射量は、燃料噴射装置101に供給される噴射パルス幅に基づいて決定される。この噴射パルス幅の指令が、燃料噴射装置101ごとに設けられた駆動回路103に入力される。駆動回路103は、ECU104からの指令に基づいて駆動電流(「電流」と略称することがある。)の波形(「駆動電流波形」と呼ぶ)を決定し、噴射パルスに基づく時間だけ燃料噴射装置101A〜101Dに駆動電流波形を供給する。なお、駆動回路103は、ECU104と一体の部品や基板として実装されている場合もある。駆動回路103とECU104が一体となった装置を制御装置150と称する。
次に、燃料噴射装置101及びその制御装置150の構成と基本的な動作を説明する。
図2は、燃料噴射装置101の縦断面図と、その燃料噴射装置101を駆動するために接続される駆動回路103及びECU104の構成例を示す図である。なお、図2において、図1と同等の部品には同じ記号を用いる。
ECU104は、エンジンの状態を示す信号を各種センサ(図示略)から取り込み、内燃機関の運転条件に応じて燃料噴射装置101から噴射する噴射量を制御するための噴射パルスの幅や噴射タイミングの演算を行う。
また、ECU104には、各種センサからの信号を取り込むためのA/D変換器とI/Oポート(いずれも不図示)が備えられている。ECU104より出力された噴射パルスは、信号線110を通して燃料噴射装置101の駆動回路103に入力される。駆動回路103は、ソレノイド205(コイルの一例)に印加する電圧を制御し、電流を供給する。ECU104は、通信ライン111を通して、駆動回路103と通信を行っており、燃料噴射装置101に供給する燃料の圧力や運転条件によって駆動回路103によって生成する駆動電流を切替えることや、電流及び時間の設定値を変更することが可能である。
次に、図2の燃料噴射装置101の縦断面と、図3の可動子202及び弁体214の近傍を拡大した断面図とを用いて、燃料噴射装置101の構成と動作について説明する。図3は、燃料噴射装置101の駆動部構造の例を示した拡大断面図である。特に、可動子202、弁体214、及び固定子207の関係について説明する。
図2及び図3に示した燃料噴射装置101は、通常時閉型の電磁弁を備える電磁式燃料噴射装置である。燃料噴射装置101は、内部に略棒状の弁体214を有し、弁体214の先端部と対向する位置には、弁座218が形成されたオリフィスカップ216が設けられている。弁座218には、燃料を噴射する噴射孔219が形成されている。弁体214の上方には、弁体214を閉弁方向(下方向)に付勢するスプリング(以下「第1のばね」と称する。)210が設けられている。
ソレノイド(ソレノイド205)は、駆動回路103から駆動電流が供給されると弁座(弁座218)と弁体(弁体214)との間に燃料を導入する空間を形成するように可動子(可動子202)を吸引する磁気吸引力を固定子(固定子207)に生じさせる。固定子(固定子207)は、磁気吸引力により可動子(可動子202)を吸引する。磁気吸引力が作用した可動子(可動子202)は移動し、可動子202と連動して弁体(弁体214)が移動する。ソレノイド205が通電されていないときには、弁体214は第1のばね210によって閉弁方向に付勢され、弁体(弁体214)は弁座(弁座218)に接した状態で燃料をシールする構造(閉弁状態)となっている。
可動子202の上端面202Aには、下端面202B側に向けて凹部202Cが形成されている。この凹部202Cの内側に、中間部材220が設けられている。中間部材220は、可動子202と固定子207の中間に位置する部材である。中間部材220の下面側には、上方に向けて凹部220Aが形成されている。この凹部220Aは、頭部214Aの外周面に環状に形成された段付き部329(鍔部)が収まる直径(内径)と深さを有している。すなわち、凹部220Aの直径(内径)は、段付き部329の直径(外径)よりも大きく、凹部220Aの深さ寸法は、段付き部329の上端面と下端面との間の寸法よりも大きい。凹部220Aの底部(底面220E)には、頭部214Aの突起部331が貫通する貫通孔220Bが形成されている。
中間部材220とキャップ232との間には、スプリング(以下「第3のばね」と称する。)234が保持されている。中間部材220の上端面220Cは、第3のばね234の一端部が当接するばね座を構成する。第3のばね234は、可動子202を固定子207側から閉弁方向に付勢する。
中間部材220の上方には、蓋状のキャップ232が配置されている。キャップ232の上端部には、径方向に張り出した鍔部232Aが形成されており、その鍔部232Aの下端面に、第3のばね234の他端部が当接するばね座が構成されている。キャップ232の鍔部232Aの下端面には、下方に向かって筒状部232Bが形成されており、筒状部232B内に、弁体214の上部(頭部214A)が圧入固定されている。
このように、キャップ232と中間部材220とがそれぞれ、第3のばね234のばね座を構成する。そのため、中間部材220の貫通孔220Bの直径(内径)は、キャップ232の鍔部232Aの直径(外径)よりも小さい。また、キャップ232の筒状部232Bの直径(外径)は、第3のばね234の内径よりも小さい。
キャップ232は、上方から第1のばね210の付勢力を受け、下方から第3のばね234の付勢力(セット荷重)を受ける。第1のばね210の付勢力は、第3のばね234の付勢力よりも大きく、結果的にキャップ232は、第1のばね210の付勢力と第3のばね234の付勢力との差分の付勢力によって弁体214の上部の突起部331に押し付けられている。キャップ232には、弁体214の突起部331から弁体214が抜ける方向(図中下方向)の力が加わらない。したがって、キャップ232は、突起部331に圧入固定するだけで十分であり、溶接する必要はない。
また、第3のばね234を配置するために、キャップ232の鍔部232Aの下端面と中間部材220の上端面220Cとの間には、ある程度の間隔を設ける必要がある。このため、キャップ232の筒状部232Bの長さを確保することが容易である。
再び、中間部材220について説明する。図2に示した燃料噴射装置101の状態は、弁体214が第1のばね210による付勢力を受け、且つ可動子202に磁気吸引力が作用していない状態である。この状態では、弁体214の先端部214B(シート部)が弁座218に当接し、燃料噴射装置101が閉弁して安定した状態にある。
この閉弁状態では、中間部材220は、第3のばね234の付勢力を受けて、中間部材220に形成された凹部220Aの底面220Eが、弁体214の段付き部329の上端面に当接している。すなわち、凹部220Aの底面220Eと、弁体214の段付き部329の上端面との間隙G3の大きさ(寸法)がゼロである。中間部材220に形成された凹部220Aの底面220Eと弁体214の段付き部329の上端面とはそれぞれ、中間部材220と弁体214の段付き部329とが当接する当接面を構成する。
可動子202の下端面202Bとノズルホルダ201(大径筒状部240)の内部に形成された当接面303との間には、ゼロスプリング(以下「第2のばね」と称す。)212が配置されている。可動子202は、第2のばね212の付勢力を受けて固定子207側に向けて付勢されるため、可動子202に形成された凹部202Cの底面202Dが、中間部材220の下端面220Dに当接する。第2のばね212の付勢力は第3のばね234の付勢力より小さい。そのため、可動子202は、第3のばね234により下方向へ付勢された中間部材220を押し返すことはできず、中間部材220と第3のばね234とにより上方(開弁方向)への動きが止められる。
中間部材220の凹部220Aの深さ寸法は、弁体214の段付き部329の高さ(上端面と下端面との間の寸法)よりも大きい。このため、図3に示す状態(閉弁状態)では、可動子202に形成された凹部202Cの底面202Dと、弁体214の段付き部329の下端面とは当接しておらず、凹部202Cの底面202Dと段付き部329の下端面との間に、大きさ(寸法)がD2の間隙G2が形成されている。この間隙G2の大きさD2は、可動子202の上端面202A(固定子207との対向面)と固定子207の下端面207B(可動子202との対向面)との間隙G1の大きさ(寸法)D1よりも小さい(D2<D1)。ここで説明したように、中間部材220は、可動子202と弁体214の段付き部329の下端面との間に、D2の大きさの間隙G2を形成する部材であり、間隙形成部材と呼んでもよい。
第3のばね234は、中間部材(間隙形成部材)220を閉弁方向(下方向)に付勢しており、図3の閉弁状態において中間部材220は、弁体214の段付き部329の上端面(基準位置)に位置づけられている。その状態で、中間部材220の下端面220Dが可動子202と当接することにより、弁体214の係合部である段付き部329の下端面と、可動子202の係合部である凹部202Cの底面202Dとの間に、大きさD2の間隙G2を形成する。中間部材220は、その凹部220Aの底面220Eが弁体214の段付き部329の上端面(基準位置)と当接することにより、段付き部329の上端面(基準位置)に位置づけられる。
ここで、以上説明した3つのばねの付勢力について改めて説明しておく。第1のばね210と第2のばね212と第3のばね234のうち、第1のばね210のスプリング力(付勢力)が最も大きい。次に第3のばね234のスプリング力(付勢力)が大きく、第2のばね212のスプリング力(付勢力)が最も小さい。
本実施形態では、弁体214の段付き部329の直径よりも可動子202に形成された貫通孔の直径の方が小さい。そのため、弁体214が閉弁状態から開弁状態に移行する開弁動作時、或いは開弁状態から閉弁状態に移行する閉弁動作時においては、弁体214の段付き部329の下端面が可動子202に形成された凹部202Cの底面202Dと係合し、可動子202と弁体214とが協働して動く。しかし、弁体214を上方へ動かす力、或いは可動子202を下方へ動かす力が独立して作用した場合、弁体214と可動子202とは別々の方向に動くことができる。可動子202及び弁体214の動作については、後で詳細に説明する。
本実施形態では、可動子202は、その外周面がノズルホルダ201(ハウジング部材)の内周面と接することによって、上下方向(開弁方向及び閉弁方向)の動きを案内されている。さらに、弁体214は、その外周面が可動子202の貫通孔の内周面に接することによって、上下方向(開弁方向及び閉弁方向)の動きを案内されている。つまり、ノズルホルダ201の内周面は、可動子202が軸方向に移動するときのガイドとして機能する。また、可動子202の貫通孔の内周面は、弁体214が軸方向に移動するときのガイドとして機能する。弁体214の先端部214Bは、円環状のガイド部材215のガイド孔によってガイドされている。このように弁体214は、ノズルホルダ201の内周面と可動子202の貫通孔、並びにガイド部材215によって、軸方向に真っ直ぐに往復動するようガイドされている。
なお、本実施形態では、可動子202の上端面202Aと、固定子207の下端面207Bとが当接するものとして説明しているが、この例に限られない。可動子202の上端面202A又は固定子207の下端面207Bのいずれか一方、或いは両方に突起部が設けられ、突起部と端面とが、或いは突起部同士が当接するように構成される場合もある。この場合、上述した間隙G1は、可動子202側の当接部と、固定子207側の当接部との間の間隙になる。
再び図2に戻って説明する。ノズルホルダ201の大径筒状部240の内周部には固定子207が圧入され、圧入接触位置で両部材が溶接接合されている。固定子207は、可動子202に対して磁気吸引力を作用させて、可動子202を開弁方向に吸引し、引きつける部品である。固定子207の溶接接合によりノズルホルダ201の大径筒状部240の内部と外気との間に形成される間隙が密閉される。固定子207は、その中心に中間部材220の直径よりわずかに大きい直径の貫通孔(中心孔)が燃料通路として設けられている。固定子207の貫通孔の下端部内周には、弁体214の頭部214A及びキャップ232が非接触状態で挿通されている。
弁体214の頭部214A付近に設けられた、キャップ232の上端面に形成されたスプリング受け面には、初期荷重設定用の第1のばね210の下端が当接している。第1のばね210の上端が固定子207の貫通孔の内部に圧入される調整ピン224(図2を参照)で受け止められることで、第1のばね210がキャップ232と調整ピン224の間に保持されている。調整ピン224の固定位置を調整することで、第1のばね210が弁体214を弁座218に押し付ける初期荷重を調整することができる。
第1のばね210の初期荷重が調整された状態で、固定子207の下端面207Bが可動子202の上端面202Aに対して約40〜100μm程度の磁気吸引ギャップ(間隙G1)を隔てて対面するように構成されている。なお、図2では寸法の比率を無視して拡大して表示している。
また、ノズルホルダ201の大径筒状部240の外周には、カップ状のハウジング203が固定されている。ハウジング203の底部の中央には貫通孔213が設けられており、その貫通孔213にはノズルホルダ201の大径筒状部240が挿通されている。ハウジング203の外周壁の部分は、ノズルホルダ201の大径筒状部240の外周面に対面する外周ヨーク部を形成している。ハウジング203と大径筒状部240の間に形成される環状空間内には、環状若しくは筒状のソレノイド205が配置されている。
ソレノイド205は、半径方向外側に向かって開口する、断面がU字状の溝を持つ環状のボビン204と、この溝の中に巻きつけられた銅線206とにより形成される。ソレノイド205の巻始め端部及び巻終わり端部には剛性のある導体209が固定されている。この導体209と固定子207、ノズルホルダ201の大径筒状部240の外周は、ハウジング203の上端開口部の内周側から絶縁樹脂を注入してモールド成形され、樹脂成形体で覆われる。ソレノイド205を囲むようにして、固定子207、可動子202、ノズルホルダ201の大径筒状部240及びハウジング(外周ヨーク部)203の部分に、環状の磁気通路が形成される。
燃料噴射装置101に供給される燃料は、燃料噴射装置101の上流に設けられた燃料配管105から供給され、第1の燃料通路孔231を通って弁体214の先端まで流れる。弁体214の弁座218側の端部に形成された先端部214B(シート部)と弁座218とで、燃料をシールしている。閉弁状態では、燃料圧力によって弁体214の上部と下部で差圧が生じ、燃料圧力と弁座位置におけるシート部内径(先端部214Bの内径)の受圧面に応じた力とによって、弁体214が閉弁方向に押されている。また、閉弁状態においては、弁体214と可動子202の互いの当接面(段付き部329の下端面と凹部202Cの底面202D)の間には、中間部材220を介して間隙G2を有している。このように、弁体214が弁座218に着座している状態において、可動子202が弁体214と軸方向に間隙G2を介して配置されることになる。
上記のように構成された燃料噴射装置101の動作について説明する。ソレノイド205に電流が供給されると、磁気回路によって発生する磁界により、固定子207と可動子202との間に磁束が通過し、可動子202に対して磁気吸引力が作用する。可動子202に作用する磁気吸引力が、第3のばね234による荷重を超えるタイミングで、可動子202が、固定子207の方向に変位を開始する。このとき、弁体214と弁座218が接触しているため、可動子202の運動は、燃料の流れが無い状態で行われる。この可動子202の運動は、燃料圧力による差圧力を受けている弁体214とは分離して行われる空走運動であるため、可動子202は、燃料の圧力などの影響を受けることがなく、高速に移動することが可能である。
また、気筒108内の燃焼圧が増加した場合であっても燃料の噴射を抑制するため、第1のばね210による荷重を強く設定する必要がある。すなわち閉弁状態において、第1のばね210による荷重が弁体214に作用しないように構成することで、弁体214は高速に移動することが可能となる。
そして、可動子202の変位量が間隙G2の大きさに達すると、可動子202が凹部202Cの底面202D、及び中間部材220の下端面220Dを通じて弁体214に力を伝達し、弁体214を開弁方向に引き上げる。このとき、可動子202は、空走運動を行って運動エネルギーを有した状態で弁体214と衝突する。これにより、弁体214は、可動子202の運動エネルギーを受け取り、高速に開弁方向に変位を開始する。
弁体214には、燃料の圧力に伴って生じる差圧力が作用している。弁体214に作用する差圧力は、弁体214の先端部214B(シート部)近傍の流路断面積が小さい範囲において、燃料の流速が増加し、ベルヌーイ効果による静圧低下に伴って生じる圧力降下によって弁体214の先端部214B付近の燃料の圧力が低下することで生じる。
弁体214に作用する差圧力は、先端部214B(シート部)近傍の流路断面積の影響を大きく受ける。そのため、弁体214の変位量が小さい条件では、差圧力が大きくなり、変位量が大きい条件では、差圧力が小さくなる。したがって、弁体214が閉弁状態から開弁開始されて変位が小さく、差圧力が大きくなる開弁動作がし難くなるタイミングで、弁体214の開弁が可動子202の空走運動によって衝撃的に行われる。それにより、燃料噴射装置101は、より高い燃料圧力が作用している状態でも開弁動作を行うことができる。また、開弁動作することが必要な燃料圧力範囲に対して、第1のばね210の付勢力をより強い力に設定することができる。第1のばね210をより強い力に設定することで、後述する閉弁動作に要する時間を短縮することができ、微小噴射量の制御に有効である。
弁体214が開弁動作を開始した後、可動子202は固定子207に衝突する。可動子202が固定子207に衝突した時には、可動子202は跳ね返る動作をするが、可動子202に作用する磁気吸引力によって可動子202が固定子207に吸引され、やがて停止する。このとき、可動子202には第2のばね212によって固定子207の方向に力が作用しているため、跳ね返りの変位量を小さくでき、また、跳ね返りが収束するまでの時間を短縮することができる。跳ね返り動作が小さいことで、可動子202と固定子207の間にギャップが生じる時間が短くなり、より小さい噴射パルス幅に対しても安定した動作が行えるようになる。
このようにして開弁動作を終えた可動子202及び弁体214は、開弁状態で静止する。開弁状態では、弁体214と弁座218との間には間隙(空間の一例)が生じており、燃料が噴射孔219から燃焼室107に噴射される。燃料は、固定子207に設けられた中心孔(貫通孔)と、可動子202に設けられた燃料通路孔と、ガイド部材215に設けられた燃料通路孔とを通過して、下流方向(噴射孔219)へ流れてゆくようになっている。
その後、ソレノイド205への通電が断たれると、磁気回路中に生じていた磁束が消滅し、可動子202に対する磁気吸引力も消滅する。可動子202に作用する磁気吸引力が消滅することによって、弁体214は、第1のばね210による荷重と燃料圧力による力によって、弁座218に接触する閉位置に押し戻される。
[制御装置の駆動回路]
次に、図5を用いて、燃料噴射装置101の制御装置150の構成について説明する。図5は、燃料噴射装置101の駆動回路103及びECU104の詳細な構成例を示す図である。
制御装置150は、駆動回路103及びECU104を備える。例えばECU104には、駆動IC(Integrated Circuit)502と、演算処理装置としてCPU(Central Processing Unit)501が内蔵されている。CPU501は、圧力センサ102,109に加え、図示しないA/Fセンサ、酸素センサ、及びクランク角センサ等の各種センサが出力するエンジンの状態を示す信号を取り込む。
CPU501には、燃料噴射装置101内の動作を検出し、又は燃料の噴射量を算出する検出部541が設けられる。また、駆動IC502には、ソレノイド205に供給する駆動電流を制御する電流制御部542が設けられる。駆動電流の制御は、例えば、ソレノイド205に供給する噴射パルス、駆動電圧、及び駆動電流を組み合わせて行われる。なお、CPU501と駆動IC502を含めて、制御部500と呼ぶ。また、ECU104が駆動回路103を内包してもよい。また、CPU501に、検出部541及び電流制御部542が構成され、駆動IC502は、電流制御部542の制御により駆動回路103を駆動して、燃料噴射装置101に駆動電流を供給してもよい。
図1に示したように、圧力センサ102は、燃料噴射装置101の上流の燃料配管105に取り付けられており、圧力センサ109は、燃料配管105と燃料噴射装置101との間に取り付けられている。A/Fセンサは、気筒108(エンジンシリンダ)への流入空気量を測定する。酸素センサは、気筒108から排出された排気ガスの酸素濃度を検出する。CPU501は、各種センサから取り込んだ信号に基づいて、内燃機関の運転条件に応じて燃料噴射装置101から噴射する燃料の噴射量を制御するための噴射パルスのパルス幅(図4に示す噴射パルス幅Ti)や噴射タイミングの演算を行う。
また、CPU501は、通信ライン504を通して燃料噴射装置101の駆動IC502に噴射パルス幅Tiを出力する。その後、駆動IC502は、スイッチング素子505,506,507の通電/非通電を切替えて燃料噴射装置101(すなわちソレノイド205)へ駆動電流を供給する。スイッチング素子505,506,507は、例えばFETやトランジスタ等によって構成され、燃料噴射装置101への通電/非通電を切り替えることができる。
ECU104には、噴射パルス幅の演算等のエンジンの制御に必要な数値データを記憶するレジスタ及びメモリ501M(記憶媒体の一例)が搭載されている。レジスタ及びメモリ501Mは、制御装置150もしくは制御装置150内のCPU501に内包されている。図5の例では、CPU501の外部にメモリ501Mが配置されている。メモリ501Mには、CPU501が燃料噴射装置101の駆動を制御するためのコンピュータープログラムが格納されていてもよい。この場合、CPU501が、メモリ501Mに記録されたコンピュータープログラムを読み出して実行することにより、燃料噴射装置101の駆動を制御する機能の全部又は一部が実現される。なお、CPU501に代えてMPU(Micro Processing Unit)等の他の演算処理装置を用いてもよい。
そして、制御装置(制御装置150)は、制御部(制御部500)を備える。制御部(制御部500)は、1燃焼サイクルで行われる噴射の各回での燃料の噴射量を算出し、1燃焼サイクルにおける最後の噴射の噴射量より、最後の噴射よりも前に行われた噴射の噴射量が多いほど、最後の噴射よりも前に行われた噴射で燃料噴射装置(燃料噴射装置101)に供給した噴射パルスの噴射パルス幅Ti(図4を参照)より、最後の噴射で燃料噴射装置(燃料噴射装置101)に供給する噴射パルスの噴射パルス幅Tiを小さくするように制御する。
スイッチング素子505は、昇圧電圧VHを供給する昇圧回路514(高電圧源)と、燃料噴射装置101のソレノイド205の高電圧側の端子(電源側端子590)との間に接続されている。昇圧回路514が出力する昇圧電圧VHは、バッテリ電圧源520(低電圧源)が駆動回路103に供給するバッテリ電圧VBよりも高い。例えば、昇圧回路514が出力する初期電圧である昇圧電圧VHは60Vであり、バッテリ電圧VBを昇圧回路514によって昇圧することで生成する。
昇圧回路514を実現する方法には、例えばDC/DCコンバータ等により構成する方法と、図5に示すようにソレノイド530、トランジスタ531、ダイオード532及びコンデンサ533で構成する方法がある。後者の昇圧回路514の場合、トランジスタ531をONにすると、バッテリ電圧VBによる電流はソレノイド530を介して接地電位534側へ流れる。一方、トランジスタ531をOFFにすると、ソレノイド530に発生する高い電圧がダイオード532を通して整流され、コンデンサ533に電荷が蓄積される。昇圧回路514は、トランジスタ531のON/OFFを繰り返すことで、コンデンサ533の電圧を昇圧電圧VHまで増加させることができる。トランジスタ531は、駆動IC502もしくはCPU501と接続され、昇圧回路514から出力される昇圧電圧VHが、駆動IC502もしくはCPU501で検出できるように構成されている。
また、ソレノイド205の電源側端子590とスイッチング素子505との間には、昇圧回路514(高電圧源)から、ソレノイド205及び接地電位515の方向へ電流が流れるようにダイオード535が設けられている。また、ソレノイド205の電源側端子590とスイッチング素子507との間にも、バッテリ電圧源520(低電圧源)から、ソレノイド205及び接地電位515の方向へ電流が流れるようにダイオード511が設けられている。スイッチング素子507が通電している間は、接地電位515から、ソレノイド205、バッテリ電圧源520及び昇圧回路514へ向けては電流が流れない構成となっている。
また、スイッチング素子507は、低電圧源であるバッテリ電圧源520と燃料噴射装置101の電源側端子590との間に接続されている。バッテリ電圧源520が出力するバッテリ電圧VBの値は、例えば12Vから14V程度である。スイッチング素子506は、燃料噴射装置101の低電圧側の端子と接地電位515との間に接続されている。駆動IC502は、電流検出用の抵抗508,512,513の各々により、燃料噴射装置101(駆動回路103の各部)に流れている電流値を検出する。駆動回路103は、駆動IC502が検出した電流値によってスイッチング素子505,506,507の通電/非通電を切替え、所望の駆動電流を生成している。
ダイオード509,510は、燃料噴射装置101のソレノイド205に逆電圧を印加し、ソレノイド205に供給されている電流を急速に低減するために備え付けられている。CPU501は、通信ライン503を通して、駆動IC502と通信を行っており、燃料噴射装置101に供給する燃料の圧力や運転条件によって駆動IC502によって生成する駆動電流を切替えることが可能である。また、抵抗508,512,513の両端は、駆動IC502のA/D変換ポートに接続されており、抵抗508,512,513の両端にかかる電圧を駆動IC502で検出できるように構成されている。
[一般的なタイミングチャート]
次に、図4を参照して、ECU104から出力される噴射パルスと、燃料噴射装置101のソレノイド205の端子両端の駆動電圧と駆動電流(励磁電流)、燃料噴射装置101の弁体214の変位量(弁体挙動)との関係について説明する。図4は、燃料噴射装置101を駆動する一般的な噴射パルス、燃料噴射装置101に供給する駆動電圧及び駆動電流、弁体214及び可動子202の変位量、並びに時間の関係を示したタイミングチャートである。
駆動回路103に噴射パルス405が入力されると、駆動回路103は、入力された噴射パルス幅Tiに応じてスイッチング素子505,506を通電する。これにより、駆動回路103は、バッテリ電圧VBよりも高い電圧に昇圧された昇圧電圧VHによりソレノイド205に高電圧401を印加し、ソレノイド205に駆動電流の供給を開始する。ここで、駆動回路103がソレノイド205に供給する駆動電流は、可動子(可動子202)を駆動させるピーク電流と、可動子(可動子202)をソレノイド(ソレノイド205)に吸引した状態で保持するためにピーク電流の最大値より低い範囲でスイッチングする保持電流とからなる。
駆動回路103は、ソレノイド205に供給する電流の電流値が予めECU104に定められた最大駆動電流Ipeak(以降「最大電流」と称する。)に到達すると、高電圧401の印加を停止する。
駆動回路103は、最大電流Ipeakから保持電流403への移行期間にスイッチング素子506をONにし、スイッチング素子505,507を非通電にすると、ソレノイド205にはほぼ電圧0Vが印加される。ソレノイド205に供給される電流が燃料噴射装置101、スイッチング素子506、抵抗508、接地電位515、及び燃料噴射装置101の経路を流れることで、ソレノイド205に流れる電流は緩やかに減少する。ソレノイド205に流れる電流が緩やかに減少することで、ソレノイド205へ供給する電流を確保することができる。そのため、燃料噴射装置101に供給される燃料圧力が増加した場合であっても、燃料噴射装置101は、可動子202及び弁体214が最大高さ位置になるまで安定的に開弁動作できる。
保持電流403は、可動子202を最大高さ位置に保持するための保持電流である。最大高さ位置は、可動子202が固定子207と接触する位置(G1=0)である。
逆に、最大電流Ipeakから保持電流403への移行期間にスイッチング素子505,506,507をOFFにすると、燃料噴射装置101のインダクタンスによる逆起電力によって、ダイオード509とダイオード510が通電する。ダイオード509とダイオード510が通電すると、ソレノイド205の電流が昇圧回路514側へ帰還され、燃料噴射装置101に供給されていた電流は、電流402のように最大電流Ipeakから急速に低下する。その結果、ソレノイド205に流れる電流が保持電流403のレベルに到達するまでの時間が早くなる。したがって、スイッチング素子505,506,507をOFFにすると、ソレノイド205に流れる電流が保持電流403に到達してから一定の遅れ時間の後、磁気吸引力が一定となるまでの時間を早める効果がある。
そして、ソレノイド205に流れる電流が、弁体214を最大高さ位置に保持するために必要な電流値404(保持電流403とほぼ同じレベル)より小さくなると、駆動回路103は、スイッチング素子506を通電するとともに、スイッチング素子507の通電/非通電の切り替えを行う。それにより、ソレノイド205にバッテリ電圧VBが印加され保持電流403のレベルが保たれる。このような所定の保持電流403が保たれるように制御するスイッチング期間が設けられる。
なお、図4では、最大電流Ipeakから保持電流403に移行するまでの移行期間に、タイミングt46で駆動電流が保持電流403より大きい保持電流410のレベルに低下した後、保持電流410が保たれるように制御装置150が制御するスイッチング期間があることが示される。しかし、この保持電流410を維持するスイッチング期間はなくてもよい。
燃料噴射装置101に供給される燃料圧力が大きくなると、弁体214に作用する流体力が増加し、流体抵抗により弁体214が目標開度に到達するまでの時間が長くなる。この結果、設定された最大電流Ipeakの到達時間に対して目標開度への到達タイミングが遅れる場合がある。しかし、ソレノイド205の電流を急速に低減すると、可動子202に働く磁気吸引力も急速に低下するため、弁体214の挙動が不安定となり、場合によっては通電中にも関わらず閉弁を開始してしまうことがある。最大電流Ipeakから保持電流403の移行中にスイッチング素子506を通電状態にして電流を緩やかに減少させる場合、磁気吸引力の低下を抑制でき、高燃料圧力での弁体214の安定性を確保できる効果がある。
このようなソレノイド205に供給する駆動電流のプロファイルにより、燃料噴射装置101は駆動される。高電圧401の印加を開始してからソレノイド205の電流が最大電流Ipeakに達するまでの間に、可動子202がタイミングt41で変位を開始し、弁体214がタイミングt42で変位を開始する(G2=0)。その後、可動子202及び弁体214が最大高さ位置に到達する。可動子202が固定子207と接触する変位量を最大高さ位置とする。このように可動子202及び弁体214が最大高さ位置に到達する制御を「フルリフト」と呼ぶ。なお、可動子202が弁体214に接触し、弁体214が変位を開始したタイミングt42で噴射パルス406が、一点鎖線で示すようにOFFされると、可動子202の勢いが落ちる。この場合、可動子202及び弁体214が減速するので、可動子202及び弁体214は最大高さ位置に到達しない。このように可動子202及び弁体214が最大高さ位置に到達しない制御を「ハーフリフト」と呼ぶ。
そして、制御部(制御部500)は、最後の噴射でソレノイド(ソレノイド205)に供給するピーク電流を、最後の噴射よりも前に行われた噴射でソレノイド(ソレノイド205)に供給するピーク電流よりも多くして、最後の噴射で弁体(弁体214)をフルリフトで動作させる。
可動子202が最大高さ位置に到達したタイミングt43で、可動子202が固定子207に衝突すると、可動子202が固定子207との間でバウンド動作を行う。弁体214は可動子202に対して相対変位が可能に構成されている。そのため、弁体214は可動子202から離間し、弁体214の変位は、最大高さ位置を越えてオーバーシュートする。すなわち、弁体214の段付き部329の下端面が、可動子202に形成された凹部202Cの底面202Dから離れる。
その後、タイミングt44で、再び可動子202が弁体214と共に固定子207に吸引される。そして、保持電流403によって生成される磁気吸引力と第2のばね212の開弁方向の力によって、可動子202は所定の最大高さ位置に静止する。また、弁体214は可動子202に着座して最大高さ位置に対応する位置で静止し、開弁状態となる(タイミングt45)。
なお、弁体214と可動子202が一体となっている可動弁を持つ燃料噴射装置の場合、弁体214の変位量は最大高さ位置よりも大きくならず、最大高さ位置に到達後の可動子202と弁体214の変位量は同等となる。
[第1の実施の形態]
ここまで、本発明の各実施の形態に共通する構成及び動作例について説明した。ここからは、第1の実施の形態に係る制御装置及び制御方法について、図6〜図9を参照して説明する。
図6は、ECU104から気筒108ごとの燃料噴射装置101に1燃焼サイクルで供給される噴射パルスと駆動電流、及び噴射率を示した図である。ここで、噴射率は、燃料噴射装置101から燃焼室107内に噴射される燃料の単位時間あたりの流量を表す値である。図6では、3気筒の構成を記載するが、本発明を用いることで、気筒数が変わっても同様の効果が得られる。また、噴射率と時間とに基づいて燃料の噴射量を算出できるので、以下の説明では噴射率のグラフを参照して噴射量に言及することがある。
図6では、3気筒のうち、第1気筒に設けられた燃料噴射装置101の噴射パルス、駆動電流及び噴射率を一点鎖線で表し、第2気筒に設けられた燃料噴射装置101の噴射パルス、駆動電流及び噴射率を実線で表す。また、第3気筒に設けられた燃料噴射装置101の噴射パルス、駆動電流及び噴射率を破線で表す。
第1の実施の形態に係る制御装置150は、1燃焼サイクルで複数回、燃料を噴射する燃料噴射装置101の噴射量を制御する。ここで、制御装置150は、1燃焼サイクル中で、最後の噴射よりも前に行われた噴射において、各気筒の燃料噴射装置101ごとに同一の噴射パルス幅とした駆動電流を供給し、燃料噴射装置101が噴射601を行ったと想定する。この場合、第1気筒の噴射率603、第2気筒の噴射率604、第3気筒の噴射率605に示すように、気筒108ごとに噴射率が変動している。このため、単位時間当たりの噴射率を時間積分した噴射量についても気筒108ごとにばらつく。この結果、1燃焼サイクル中の噴射量のばらつきが大きくなり、燃焼変動が大きくなってしまう。
そこで、制御装置150は、1燃焼サイクル中の燃料噴射による各噴射の噴射量を算出し、1燃焼サイクルの最後の噴射よりも前に行われた噴射の噴射量が多いほど最後の噴射のパルス幅を小さくするように制御する制御部500を備える構成とした。このとき、電流制御部(電流制御部542)は、最後の噴射よりも前に行われた噴射の噴射量が適正な噴射量より多いほど、最後の噴射で燃料噴射装置(燃料噴射装置101)に供給する噴射パルス幅Tiを小さくする。また、電流制御部(電流制御部542)は、最後の噴射よりも前に行われた噴射の噴射量が適正な噴射量より少ないほど、最後の噴射で燃料噴射装置(燃料噴射装置101)に供給する噴射パルス幅Tiを大きくする。
具体的には、ECU104が、噴射601で示す噴射パルス幅の噴射パルスを各気筒108の燃料噴射装置101に供給した後、検出部541が各気筒108の燃料噴射装置101ごとに噴射量を算出する。そして、電流制御部542は、1燃焼サイクル中の最後の噴射において、噴射量が少ない第1気筒の燃料噴射装置101に対しては、噴射パルスを噴射パルス幅608のように大きくし、噴射量が多い第3気筒の燃料噴射装置101に対しては、噴射パルス幅606のように小さく補正する。ただし、電流制御部542は、噴射量が適正である第2気筒の燃料噴射装置101に対しては、噴射量を補正しない。このように電流制御部542は、1燃焼サイクル中の最後の噴射において、気筒108ごとに燃料噴射装置101の噴射量を補正することで、1燃焼サイクル中の燃焼変動を抑制することができる。
このような制御により、各気筒108における1燃焼サイクル中の最後の噴射602では、噴射量のショットばらつきが生じる。そこで、電流制御部542は、1燃焼サイクル中の最後の噴射602の噴射パルス幅を、最後の噴射602よりも前に行われた噴射601の噴射パルス幅よりも小さくする。このような制御により、最後の噴射602で噴射量のショットばらつきが生じたとしても、電流制御部542は、1燃焼サイクル中の噴射量に与える影響を低減するので、燃焼変動を抑制できる。
第1の実施の形態に係る制御装置150では、1燃焼サイクル中の噴射量のショットばらつきを抑制できるため、エンジンの回転数や負荷が変化する過渡の条件であっても各気筒108の燃焼変動のばらつきを抑制する効果を得られる。また、噴射量のショットばらつきを抑制することで、噴射量が多い気筒108で生じる燃料の壁面付着量の増加を抑制できるため、エンジンから排出されるHCやCOを低減できる。
<第1の噴射量の検出方法>
次に、第1の実施の形態に係る制御方法及び制御装置150における噴射量の検出方法について説明する。始めに、第1の噴射量の検出方法について、図7を用いて説明する。
図7は、ある気筒108の噴射パルス幅、弁体214の変位量、燃料噴射装置101に取り付けた圧力センサ109から出力される燃料の圧力の時系列を示した図である。
ここで、周知のオリフィスの数式Q=cA√(2/ρ・ΔP)より、燃料の噴射量Qは、圧力降下ΔPの平方根に比例することが示される。式中のcは流量係数、Aはオリフィスの面積、ρは燃料の密度、ΔPは差圧である。このため、検出部541は、圧力センサ109が検出した燃料噴射装置(燃料噴射装置101)の燃料圧力の変化ΔPを検出することで、噴射量を推定(算出)することができる。
図7には、弁体が開弁開始するタイミングt71から弁体214が閉弁するタイミングt74までの様子が示される。噴射701に伴う、弁体変位量と、燃料噴射装置101内の燃料の圧力変化について説明する。
噴射701にて、噴射パルスがOFFからONされて所定時間が経過後には、弁体214が移動開始し、弁体変位量が増加する。そして、図2に示した噴射孔219から燃料が噴射されるので、燃料噴射装置101内の燃料の圧力が低下する。弁体変位量が最大開度に達すると、低下した燃料の圧力はほぼ一定となる。所定の噴射量で燃料が噴射された後、弁体214が閉弁開始するため、弁体変位量が減少する。弁体変位量の減少に合わせて、燃料噴射装置101内の燃料の圧力が上昇する。弁体変位量がゼロになると、燃料噴射装置101内の燃料の圧力はほぼ元に戻る。ただし、後述するように燃料噴射装置101が噴射した燃料の分だけ圧力低下703が生じる。
ここで、検出部541は、弁体が開弁開始するタイミングt71から弁体214が閉弁するタイミングt74までの圧力702を連続的に検出し、オリフィスの数式により計算した弁体214の各変位量での噴射量を積分することで、噴射量を正確に算出できる。
また、検出部541は、圧力センサ109が検出した圧力を用いて噴射量を検出することで、弁体214の開弁開始のタイミングや閉弁完了のタイミングのばらつきに加えて、弁体214が偏心した場合に生じる噴射量のばらつきも検出することができる。このため、電流制御部542は、噴射量の補正精度を高めることができる。
なお、制御装置150は、弁体214が開弁開始してから弁体214が閉弁完了するまでの間に燃料ポンプ106からの燃料供給をしない制御を行うことで、燃料噴射装置101が噴射した燃料の分だけ圧力低下703が生じる。ただし、圧力低下703と各気筒108の燃料噴射装置101の噴射量には相関がある。例えば、圧力低下703が大きくなるほど、燃料噴射装置101の噴射量が少なくなる。そこで、検出部541が圧力低下703を検出すると、電流制御部542は、圧力低下703が大きくなるほど最後の噴射602の噴射パルス幅を小さく制御する。このように電流制御部542が最後の噴射602の噴射パルス幅を制御することで、1燃焼サイクル中の噴射量のばらつきを抑制できる。
<第2の噴射量の検出方法>
次に、第2の噴射量の検出方法について、図8を用いて説明する。
図8は、噴射パルス幅Ti、端子間電圧Vinj、駆動電流、電圧VL1の2階微分値、電流すなわち電圧VL2の2階微分値、及び弁体214の変位量と、時間との関係を示した図である。
検出部(検出部541)は、固定子(固定子207)に可動子(可動子202)が衝突して生じる電気的な変化により、燃料噴射装置(燃料噴射装置101)の弁体(弁体214)の開弁開始タイミングと、閉弁完了タイミングから求められる燃料の噴射期間を推定し、噴射期間に基づいて噴射量を算出する。例えば、電流制御部542は、弁体214が最大高さ位置に到達する前に、固定子207にバッテリ電圧VBを印加する。ここで、噴射パルスがONされてから弁体214が変位開始して移動中の期間を期間Tm801とし、弁体変位量が最大高さ位置になった瞬間を含む期間を期間Tm802とする。検出部541は、可動子202が固定子207に衝突することで生じる電気的な変化、具体的にはインダクタンスの変化を、期間Tm802における電流の変曲点で検出できる。このため、検出部541は、電流の2階微分値が最大となるタイミングを期間Tm802で検出することで、弁体214が開弁完了する開弁完了タイミングt81を検出できる。
また、電流制御部542が噴射パルスをOFFにして弁体214が先端部214B(シート部)に接触すると、可動子202は弁体214から離間し、閉弁方向に放物運動する。このとき、可動子202には弁体214を通して作用していた第1のばね210の荷重と流体力が作用しなくなるため、可動子202の加速度が変化し、端子間電圧に変曲点801が生じる。ここで、噴射パルスがOFFされてから弁体変位量が0になる直前までの期間を期間Tm803とし、弁体変位量が0になった瞬間を含む期間を期間Tm804とする。検出部541は、端子間の電圧VL1の2階微分値の最小値を期間Tm804で検出することで、弁体214の閉弁完了タイミングt82を検出できる。
また、弁体214が開弁開始してから閉弁完了するまでを燃料の噴射期間とすると、噴射期間と噴射量には正の相関がある。そして、噴射期間が長くなるほど、燃料の噴射量が増加する。
ここで、開弁開始タイミングt80の検出方法について説明する。開弁完了タイミングt81と開弁開始タイミングt80は相関が高い。このため、検出部541は、検出した開弁完了タイミングt81に予めECU104で設定した補正定数を乗じることで、開弁開始タイミングt80を検出できる。そして、電流制御部(電流制御部542)は、噴射パルス幅Tiを変更した噴射パルスを燃料噴射装置(燃料噴射装置101)に供給する。
本発明の第1の実施の形態に係る制御装置150で行われる制御方法によれば、電流制御部542が、開弁開始タイミングから閉弁完了タイミングまでの噴射期間が長い燃料噴射装置101ほど、最後の噴射602の噴射パルス幅を小さく補正し、噴射期間が短い燃料噴射装置101ほど最後の噴射602の噴射パルス幅を大きく補正する。このように電流制御部542が噴射パルス幅を補正することで、1燃焼サイクル中の噴射量のばらつきを抑制し、当量比のばらつきを低減するため、燃焼変動を抑制できる。
<最後の噴射をフルリフト噴射とする制御方法>
次に、1燃焼サイクルにおける最後の噴射602をフルリフト噴射とする制御方法について、図8と図9を用いて説明する。
図9は、ある気筒108の燃料噴射装置101の噴射パルス幅Tiと、噴射量、及び噴射量のショットばらつきとの関係を示した図である。
ECU104は、図6に示した最後の噴射602の噴射パルス幅を、最後よりも前に行われた噴射の噴射パルス幅よりも短く設定する。さらに、最後の噴射602では、図8に示すように、弁体214が固定子207に接触する、すなわち弁体214が最大高さ位置に到達する駆動(「フルリフト」と呼ぶ)を行うとよい。
図9に示すように、電流制御部542が燃料噴射装置101に供給する噴射パルス幅が、ある一定の噴射パルス幅91を超えると弁体214が変位を開始し、燃料噴射装置101から燃料の噴射が開始される。さらに電流制御部542が噴射パルス幅を大きくすると、噴射パルス幅93以降で可動子202が固定子207と接触し、以降は噴射パルス幅の長さに応じて噴射量が増加する。
ただし、可動子202が固定子207に衝突すると、可動子202がバウンドする。このため、噴射パルス幅92〜93の区間902では、噴射量のショットばらつきが大きくなる。このため、電流制御部542が噴射パルスを停止してから弁体214が閉弁するまでの時間が噴射パルスごとに変化すると、噴射量のショットばらつきが大きくなる区間902が生じてしまう。なお、可動子202と固定子207のバウンドが収束する噴射パルス幅93以降の区間903では、噴射量のショットばらつきが小さくなる。
噴射パルス幅92〜93の区間902で噴射量のショットばらつきが大きくなるのは以下のように説明できる。例えば、噴射パルス幅92以降の区間902,903では、弁体214が最大高さ位置に到達するフルリフトで駆動される。一方、噴射パルス幅91〜92の区間901は、弁体214が最大高さ位置に到達しないハーフリフトで駆動される。
ハーフリフトで制御される弁体214の変位量は、幾何学的に規制されない。しかし、弁体214が燃料の流体力などの外力の影響を受けると、弁体214の変位量ないし、弁体214の偏心量が大きくなるので、噴射量のショットばらつきが大きくなる。また、フルリフトであっても、上述したように噴射パルス幅92〜93の区間902では、可動子202と固定子207のバウンドが生じているので、噴射量のショットばらつきが大きくなる。
したがって、本発明の第1の実施の形態に係る制御装置150が行う制御手法では、噴射パルス幅を補正する1燃焼サイクル中の最後の噴射602を、噴射パルス幅92以降のフルリフトの条件で噴射するように制御する。このような制御により、制御装置150は、噴射量のショットばらつきを抑制し、1燃焼サイクル中の噴射量のばらつきを低減できる。
また、区間903よりも区間902の方が噴射量のショットばらつきが大きくなる。そこで、電流制御部542は、噴射パルス幅93より大きい噴射パルスを燃料噴射装置101に供給することで、燃料噴射装置101の最後の噴射602を制御してもよい。電流制御部542が噴射パルス幅93よりも大きい噴射パルス幅を用いることで、噴射量のショットばらつきをより抑制し、燃焼変動の抑制効果を高めることができる。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る燃料噴射装置の制御方法の例について、図5、図10、図11及び図12を用いて、説明する。
図10は、本発明の第2の実施の形態に係る噴射パルス、燃料噴射装置101に供給される駆動電流、燃料噴射装置101のスイッチング素子505、506、507、ソレノイド205の端子間電圧Vinj、弁体214及び可動子202の変位量と、時間との関係を示した図である。
図10では、電流制御部542が3種類の駆動電流1001,1002,1003を用いて燃料噴射装置101を駆動する様子について説明する。そして、駆動電流1001を用いた場合の駆動電流、スイッチング素子の挙動、端子間電圧、弁体変位量を太い実線で表し、駆動電流1002を用いた場合の駆動電流、スイッチング素子の挙動、端子間電圧、弁体変位量を太い破線で表す。また、駆動電流1003を用いた場合の駆動電流、スイッチング素子の挙動、端子間電圧、弁体変位量を細い破線で表す。
図11は、制御装置150が、図10の駆動電流波形で燃料噴射装置101を制御した場合の噴射パルス幅Tiと噴射量及び噴射量のショットばらつきの標準偏差(σ)の関係を示した図である。なお、図11には、ECU104が、燃料噴射装置101を駆動電流1001(図10を参照)で制御した場合の噴射量特性(Q1101)を太線で表し、駆動電流1002で制御した場合の噴射量特性(Q1102)を細線で表す。
燃料噴射装置101の噴射量のショットばらつきは、燃料噴射装置101の個体差や環境条件(温度等)で変化する。例えば、駆動電流1001が用いられると、噴射パルス幅Tiが、噴射パルス幅1103になるまでは噴射量が急増し、噴射パルス幅Tiが噴射パルス幅1103〜1104の区間では、一点鎖線で示す基準線に対して噴射量が増減する。このため、噴射パルス幅Tiが噴射パルス幅1103〜1104の区間における噴射量のショットばらつきが大きくなる。しかし、噴射パルス幅Tiが噴射パルス幅1104以上になると、基準線に対する噴射量の増減が少なくなり、噴射量のショットばらつきも小さくなって一定値となる。このように噴射パルス幅Tiが大きい条件では、電流制御部542が、ソレノイド205に逆電圧を印加することで、駆動電流1001の電流波形を急速に低減して弁体214を減速させる。ここで、図11に示す噴射量特性(Q1101)で表される波形をファストフォール波形と呼ぶ。
一方、駆動電流1002が用いられると、噴射パルス幅Tiが噴射パルス幅1103になるまでは噴射量が急増する点は、駆動電流1001が用いられた場合と同じである。しかし、噴射パルス幅Tiが噴射パルス幅1103〜1104の区間では、一点鎖線で示す基準線に対して噴射量が増減するものの、駆動電流1001が用いられた場合より増減が少ない。このため、噴射パルス幅Tiが噴射パルス幅1103〜1104の区間における噴射量のショットばらつきは、駆動電流1001が用いられた場合より小さくなる。しかし、噴射パルス幅Tiが噴射パルス幅1104以上になると、基準線に対する噴射量の増減が多くなるので、駆動電流1001が用いられた場合より噴射量のショットばらつきが大きくなる。このように噴射パルス幅Tiが小さい条件では、電流制御部542が、弁体214が開弁するまでに大きい駆動電流1002をソレノイド205に供給することで、弁体214の開弁ばらつきを抑制する。ここで、図11に示す噴射量特性(Q1102)で表される波形をピークホールド波形と呼ぶ。
また、駆動電流1003は、図10に示される最大駆動電流値Ipeak2の付近で所定期間だけ保持される。このような電流波形とした駆動電流1003を用いても、弁体214が開弁するまでソレノイド205に所定の電流値を与えることができるので、駆動電流1002を用いた場合と同様の効果を得られる。その後、駆動電流1003は、駆動電流1002と同様に、急速に減少し、電流値1012の付近で保持されるが、駆動電流1001が用いられた場合より噴射量のショットばらつきが大きくなる。
このように駆動電流の大きさによって、噴射量と、噴射量のショットばらつきが変わる。このため、制御装置150は、1燃焼サイクル中で噴射量を補正する技術を必要とする。
最初に、制御装置150が、駆動電流1002で燃料噴射装置101の噴射量を制御した場合の動作例について、図10を参照して説明する。図10に示すタイミングt101において、CPU501より噴射パルス幅Tiの噴射パルスが通信ライン504を通して駆動IC502に入力されると、スイッチング素子505とスイッチング素子506がONとなる。そして、バッテリ電圧VBよりも高い昇圧電圧VHがソレノイド205に印加されることで、燃料噴射装置101に供給される駆動電流1002が電流1010に示すように0Aから急速に立ち上がる。
ソレノイド205に電流が供給されると、可動子202と固定子207との間に磁気吸引力が作用する。開弁方向の力である磁気吸引力と、第2のばね212の荷重との合力が、閉弁方向の力である第3のばね234の荷重を超えたタイミングで可動子202が変位を開始する。その後、可動子202が間隙G2を滑走した後、タイミングt106の手前で可動子202が弁体214に衝突することで、弁体214の変位が開始され、燃料噴射装置101から燃料が噴射される。
駆動電流1002がタイミングt102で最大電流Ipeak1に達すると、スイッチング素子506が通電される。このとき、スイッチング素子505とスイッチング素子507が非通電となる。そして、接地電位515、スイッチング素子506、燃料噴射装置101、接地電位517の間で電流が回生するいわゆるフリーホイールによって、燃料噴射装置101の両端にはほぼ0Vの電圧が印加され、駆動電流1002が電流1011に示すように緩やかに減少する。
その後、タイミングt103に到達すると、制御装置150は、スイッチング素子507の通電/非通電の切替えを行い、電流値1004或いはその近傍で電流値1012を保持するように駆動電流1002を制御する。なお、制御装置150が駆動電流1002を制御する期間を、第1の電流保持期間1055と称する。
ここで、制御装置150は、弁体214が最大高さ位置に到達するタイミングt104までは、弁体214を最大高さ位置で保持可能な電流値(電流値1004よりも高い電流値)をソレノイド205に供給するとよい。弁体214が最大高さ位置よりも低い高さ位置の条件では、可動子202と固定子207との間の磁気ギャップがあるため、磁気抵抗が大きくなり、可動子202と固定子207が接触している場合と比べて、磁気吸引力が低下する。
したがって、制御装置150は、可動子202と弁体214が最大高さ位置に到達するまで、電流値1004よりも高い電流値を供給することで、弁体214が安定して最大高さ位置まで到達可能となり、さらに弁体214が最大高さ位置に到達するタイミングが早くなる。そして、制御装置150が駆動電流1002を用いると、最大高さ位置に到達する前の弁体214の挙動が安定化して、ショットごとの弁体214の変位量のばらつきが抑制される。このため、弁体214が最大高さ位置に到達した噴射パルス幅1103以降の噴射量のショットばらつきを小さくできる。
一方で、可動子202が固定子207に大きな速度で衝突するため、弁体214及び可動子202の変位期間1060に示すように可動子202が固定子207又は弁体214との間でバウンドする期間がある。その結果、図11に示した噴射パルス幅1103以降においても噴射量のショットばらつきが小さくならないという課題があった。この課題は、図4に示した駆動電流の電流波形でも同様であり、制御装置150が、弁体214が最大高さ位置に到達するまでに高い電流波形の駆動電流をソレノイド205に供給する条件で同様の課題が生じることがあった。
上記の課題を解決する本発明の第2の実施の形態に係る駆動電流1001の駆動方法及び噴射パルス幅と、噴射量及び噴射量のショットばらつきの関係について説明する。
まず、制御装置150により行われる、可動子202が固定子207に衝突する速度を抑制する制御について説明する。電流制御部542は、ソレノイド205に所定の噴射パルス幅からなる駆動電流1001を供給する。電流制御部(電流制御部542)は、可動子(可動子202)が、固定子(固定子207)に向けて変位を開始し、可動子(可動子202)が所定値まで加速したタイミングでソレノイド(ソレノイド205)への通電をオフして、可動子(可動子202)が固定子(固定子207)に衝突する速度を減速させる。例えば、電流制御部542は、可動子202が固定子207の方向に変位を開始し、可動子202が十分に加速したタイミングt106(図10)でスイッチング素子505、506、507をOFFにする。
この結果、燃料噴射装置101のインダクタンスによる逆起電力によって、ダイオード509とダイオード510が通電し、電流が昇圧回路514(高電圧源)側へ帰還される。そして、燃料噴射装置101に供給されていた電流は、図10の電流1051に示すように最大駆動電流値Ipeak2から急速に低下する。制御装置150がソレノイド205に逆電圧を印加して電流を急速に低減すると、渦電流による一定の遅れの後、磁気回路に生じていた磁束が減少し、可動子202に作用していた磁気吸引力が小さくなる。
その後、弁体214及び可動子202の変位量に示すタイミングt107(図10を参照)で可動子202及び弁体214が減速し、可動子202が固定子207に衝突するときの速度が小さくなる。このため、固定子207に対して生じる、可動子202及び弁体214のバウンドが小さくなり、弁体214のバウンドが収束するタイミングが、タイミングt108まで早くなる。その結果、弁体214が最大高さ位置に到達して一定の時間が経過した噴射パルス幅1104(図11を参照)以降の噴射量のショットばらつきを、駆動電流1002を用いた場合よりも小さくすることができる。
また、電流制御部542が駆動電流1001を燃料噴射装置101に供給すれば、可動子202が固定子207に衝突するときの速度が小さくなる。このため、電流制御部542が駆動電流1002を燃料噴射装置101に供給する場合に比べて、燃料噴射装置101から生じる駆動音を低減できる効果もある。
このように制御装置150が駆動電流1001を用いると、弁体214が最大高さ位置に到達する前に、可動子202及び弁体214が減速する。このため、弁体214が最大高さ位置に到達するまでにおける、弁体214の挙動が不安定になる場合がある。また、噴射パルス幅1104よりも噴射パルス幅Tiが小さい条件では、噴射量のショットばらつきが、駆動電流1002を用いた場合に比べて大きくなる場合がある。
そこで、本発明の第2の実施の形態に係る制御方法の一例について、図12を用いて説明する。
図12は、ECU104から気筒108ごとの燃料噴射装置101に1燃焼サイクルで供給される噴射パルスと駆動電流、噴射率を示した図である。図12においても、図6と同様に、第1〜第3気筒に設けられた各燃料噴射装置101の噴射パルス、駆動電流及び噴射率を一点鎖線、実線、破線で表す。
1燃焼サイクル中で、最後の噴射よりも前に行われた噴射において、ECU104が各気筒108の燃料噴射装置101ごとに同一の噴射パルス幅とした噴射1201を行ったと想定する。この場合、第1気筒の噴射率1203、第2気筒の噴射率1204、第3気筒の噴射率1205に示すように、気筒108ごとに噴射率が変動している。
そこで、本発明の第2の実施の形態に係る制御装置150は、1燃焼サイクル中の燃料噴射による各噴射の噴射量を算出する検出部541と、1燃焼サイクルの最後の噴射よりも前に行われた噴射の噴射量が多いほど最後の噴射の噴射パルス幅Tiを小さくするように制御する電流制御部542を備える。この電流制御部542は、1燃焼サイクルにおける最後の噴射において、ECU104が各気筒108の燃料噴射装置101ごとに異なる噴射パルス幅とした噴射1202を行う。
例えば、電流制御部542は、1燃焼サイクルの最後よりも前に行われた噴射1201における噴射パルス幅を燃料噴射装置101に供給する際に、噴射量が多い噴射率1205に対応する第3気筒に取り付けられた燃料噴射装置101に供給する最後の噴射1202の噴射パルスを噴射パルス幅1206のように小さく補正する。一方、電流制御部542は、噴射量が少ない噴射率1203に対応する第1気筒に取り付けられた燃料噴射装置101に供給する最後の噴射1202の噴射パルスを噴射パルス幅1208のように大きく補正する。なお、電流制御部542は、噴射量が適正な噴射率1204に対応する第2気筒に取り付けられた燃料噴射装置101に供給する最後の噴射を補正無の噴射パルス幅1207とする。
また、図10に示したように、電流制御部(電流制御部542)は、1燃焼サイクルの最後の噴射よりも前に行われた噴射でソレノイド(ソレノイド205)に供給する駆動電流が最大値に達した後で、ソレノイド(ソレノイド205)に逆電圧を印加するように制御する。そして、電流制御部(電流制御部542)は、最後の噴射では、1燃焼サイクルで行われる最初の噴射よりも保持電流に至るまでに大きな駆動電流をソレノイド(ソレノイド205)に供給するとよい。
この際、図12に示したように、電流制御部542は、最後の噴射1202よりも前に行われた噴射1201(最初の噴射)では、噴射パルス幅Tiが長い条件でショットばらつきの小さいファストフォール波形の駆動電流1001を用いて制御する。その後、電流制御部542は、最後の噴射1202にて、噴射パルス幅Tiが短い条件で噴射量のショットばらつきが小さいピークホールド波形の駆動電流1002を用いて制御する。このように電流制御部542は、噴射のタイミングに応じて、1燃焼サイクル中で駆動電流1001,1002を切り替える。このように電流制御部542が駆動電流1001,1002を切り替えることで、1燃焼サイクルの噴射量のショットばらつきを抑制する効果が得られる。
また、電流制御部542は、最後の噴射1202よりも前に行われた噴射1201にて、ピーク電流値Ipeakが小さい駆動電流1001を用いることで、昇圧電圧VHの低下を抑制できる。このため、最後の噴射1202で昇圧電圧VHが、図10に示す初期値1070に復帰しやすくなるので、最後の噴射1202における噴射量の精度を高め、1燃焼サイクル中の噴射量ばらつきを抑制できる。
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態に係る燃料噴射装置の制御方法の一例について、図5、図13及び図14を用いて説明する。上述した第1及び第2の実施の形態では、1燃焼サイクル中に2回の噴射を行う場合における制御方法の例を示したが、第3の実施の形態では、1燃焼サイクル中に3回以上の噴射を行う場合の制御方法の例について説明する。
図13は、ECU104から気筒108ごとの燃料噴射装置101に1燃焼サイクルで供給される噴射パルスと駆動電流、噴射率を示した図である。図13においても、図6と同様に、第1〜第3気筒に設けられた各燃料噴射装置101の噴射パルス、駆動電流及び噴射率を一点鎖線、実線、破線で表す。
第3の実施の形態に係る燃料噴射装置101は、1燃焼サイクル中で2回よりも多い噴射回数で燃料を噴射する。この場合、第1気筒の噴射率1310、第2気筒の噴射率1311、第3気筒の噴射率1312に示すように、気筒108ごとに噴射率が変動している。
そこで、本発明の第3の実施の形態に係る制御装置150は、最後よりも前に行われた噴射1301(「噴射1回目」と呼ぶ),噴射1302(「噴射2回目」と呼ぶ)による各噴射パルスを燃料噴射装置101に供給した場合の各気筒108の燃料噴射装置101の噴射量を算出する。例えば、検出部541は、弁体214が開弁開始してから閉弁完了するまでの燃料の噴射期間と、燃料噴射装置101に取り付けた圧力センサ109が検出した圧力とから噴射量を算出する。
そして、電流制御部(電流制御部542)は、1燃焼サイクルで3回以上の噴射を燃料噴射装置(燃料噴射装置101)に行わせ、最後の噴射よりも前に行われた複数回の噴射における噴射量の和に基づいて、最後の噴射の噴射量を補正する。ここで、電流制御部(電流制御部542)は、最後の噴射よりも前に行われた複数回の噴射における噴射量の和が多いほど、最後の噴射における噴射量が少なくなるように噴射パルス幅Tiを小さくする。例えば、電流制御部542は、噴射1回目の噴射率1301と、噴射2回目の噴射率1302から算出した和が大きい第3気筒の燃料噴射装置101に対して、小さく補正した噴射パルス幅1306を供給し、最後の噴射1303を行わせる。一方、電流制御部542は、噴射1回目の噴射率1301と、噴射2回目の噴射率1302から算出した和が小さい第1気筒の燃料噴射装置101に対して、大きく補正した噴射パルス幅1308を供給し、最後の噴射1303を行わせる。
なお、電流制御部542は、噴射1回目の噴射率1301と、噴射2回目の噴射率1302から算出した和が適正な第2気筒に取り付けられた燃料噴射装置101に対して、補正なしの噴射パルス幅1307を供給し、最後の噴射1303を行わせる。
このように電流制御部542は、1燃焼サイクル中の噴射回数を2回よりも多くした場合における噴射量のショットばらつきを抑制し、各気筒108の燃料噴射装置の噴射量ばらつきを抑制する。この結果、燃焼変動を抑制する効果が高まる。
図14は、第3の実施の形態に係る制御方法の他の一例を示す図である。図14は、ECU104から気筒108ごとの燃料噴射装置101に1燃焼サイクルで供給される噴射パルスと駆動電流、噴射率を示した図である。図14においても、図6と同様に、第1〜第3気筒に設けられた各燃料噴射装置101の噴射パルス、駆動電流及び噴射率を一点鎖線、実線、破線で表す。
図14では、1燃焼サイクルにおける吸気工程1420における2回の噴射1401,1402と、圧縮工程1421における1回の噴射1403の様子が示される。図14においても、燃料噴射装置101は、1燃焼サイクル中で2回よりも多い噴射回数の噴射を行う。この場合、第1気筒の噴射率1410、第2気筒の噴射率1411、第3気筒の噴射率1412に示すように、気筒108ごとに噴射率が変動している。そして、電流制御部(電流制御部542)は、1燃焼サイクルのうち、吸気工程1420で燃料噴射装置(燃料噴射装置101)に最後の噴射よりも前の噴射を行わせ、圧縮工程1421で燃料噴射装置(燃料噴射装置101)に最後の噴射を行わせる。
図14を用いて説明する制御方法と、図13を用いて説明した制御方法との違いは、最後の噴射1403よりも前に行われた噴射1402における噴射パルス幅Tiを、最後の噴射1403における噴射パルス幅Tiよりも小さくする点である。このため、電流制御部(電流制御部542)は、最後の噴射よりも前に行われた複数回の噴射のうち、最後の噴射の直前で行われた噴射で燃料噴射装置(燃料噴射装置101)に供給する噴射パルス幅Tiを、最後の噴射で燃料噴射装置(燃料噴射装置101)に供給する噴射パルス幅Tiより小さくする。なお、吸気工程1420における最初の噴射1401の噴射パルス幅Tiによる燃料噴射は、気筒108内の空気流動が強いタイミングで行われるため、制御装置150は、噴射量が多くなるように制御する。
そして、最初の噴射1401より後(吸気工程1420の後半)の噴射1402は、気筒108内の空気流動が弱くなるタイミングで行われる。そこで、電流制御部542は、燃料噴射装置101が噴霧した燃料を弱い空気流動に適切に乗せられるようにするため、噴射1402を、最初の噴射1401における噴射パルス幅Tiよりも短い噴射パルス幅Tiとした小さな噴射量で燃料を噴射する。このような制御により、吸気工程1420における気筒108内の燃料の均質性を向上することが可能となる。
なお、図14を用いて説明した制御に際して、制御装置150は、最後の噴射よりも前、すなわち1回目の噴射1401の噴射パルス幅と、2回目の噴射1402の噴射パルス幅の和よりも、最後の噴射1403の噴射パルス幅が小さくなるように設定するとよい。制御装置150が、最後の噴射1403の噴射量よりも前に行われる噴射1402の噴射量を少なく制御することで、最後の噴射1403の噴射量がばらついても1燃焼サイクル中の噴射量への寄与度を小さくすることができる。このため、1燃焼サイクル中の噴射量のショットばらつきを低減して、燃焼変動を抑止できる。
また、第3の実施の形態に係る制御装置150では、電流制御部(電流制御部542)は、最後の噴射でソレノイド(ソレノイド205)に供給するピーク電流を、最後より前に行われた複数回の噴射でソレノイド(ソレノイド205)に供給するピーク電流よりも多くする。図14に示すように、電流制御部542は、3回目の噴射1403でソレノイド205に供給するピーク電流を、1回目の噴射1401、2回目の噴射1402でソレノイド205に供給するピーク電流より多くする。ここで、電流制御部542は、逆に言えば、電流制御部542は、2回目の噴射1402における噴射パルス幅に対応する電流波形のピーク電流値を、1回目の噴射1401、及び3回目の噴射1403における噴射パルス幅に対応する電流波形のピーク電流値よりも低く設定している。
そして、電流制御部(電流制御部542)は、最後の噴射よりも前に行われた複数回の噴射のうち、最後の噴射の直前で行われた噴射で弁体(弁体214)をハーフリフトで動作させ、最後の噴射で弁体(弁体214)をフルリフトで動作させる。例えば、電流制御部542は、2回目の噴射1402において、弁体214が最大高さ位置に到達しないハーフリフトで動作させる。このように電流制御部542が2回目の噴射1402における噴射パルス幅を小さくしてピーク電流を小さくすることで、可動子202に作用する磁気吸引力を抑制する。そして、電流制御部542は、弁体214をハーフリフトで動作させたときの噴射期間を安定的に制御する。
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態に係る燃料噴射装置の制御方法の一例について、図15を用いて説明する。第4の実施の形態では、制御部が点火時期を遅角する制御方法の例について説明する。
図15は、ECU104から気筒108ごとの燃料噴射装置101に1燃焼サイクルで供給される噴射パルス、噴射率及び点火時期を示した図である。図12と同様に、図15においても、第1〜第3気筒に設けられた各燃料噴射装置101の噴射パルス及び噴射率を一点鎖線、実線、破線で表す。また、第4の実施の形態係る制御を行う前の点火時期を点線で表し、第4の実施の形態に係る制御を行った後の点火時期を実線で表す。
図15では、1燃焼サイクルにおける吸気工程1520における2回の噴射1501,1502と、圧縮工程1521における1回の噴射1503の様子が示される。図15においても、燃料噴射装置101は、1燃焼サイクル中で2回よりも多い噴射回数の噴射を行う。この場合、第1気筒の噴射率1510、第2気筒の噴射率1511、第3気筒の噴射率1512に示すように、気筒108ごとに噴射率が変動している。
そこで、制御部(制御部500)は、1燃焼サイクルの吸気工程及び圧縮工程で3回以上の噴射を燃料噴射装置(燃料噴射装置101)に行わせ、燃焼工程1522で点火時期を上死点(TDC)よりリタードさせる。例えば、エンジンの始動時において、3元触媒等の温度を暖機する条件では、点火時期1530,1531に示すように、制御部500が点火時期を上死点よりもリタードさせる。このように点火時期をリタードすることで、意図的に排気損失を大きくして、3元触媒に供給する熱量を増加させ、3元触媒の温度を向上させる制御を行うことが可能となる。3元触媒の温度を上げることで、3元触媒の浄化効率が向上するため、車両から排出される排気ガス量を抑制することができる。
ただし、点火リタードを行う条件では、最適点火時期よりも点火時期が遅角するため、燃焼速度が遅くなり、燃焼サイクルごとの燃焼変動が大きくなる課題がある。点火時期を遅角するほど、3元触媒が活性化するまでの時間が短くなるため、点火時期を遅角する条件で燃焼変動を抑制することが求められる。
第4の実施の形態に係る制御方法及び制御装置150では、最後の噴射1503よりも前に行われた噴射1501,1502にて、それぞれ所定の噴射パルス幅の噴射パルスを供給した各気筒の燃料噴射装置101の噴射量を、第1の実施の形態で説明した噴射期間ないし、圧力降下から算出する。そして、制御装置150は、噴射量が少ない第1気筒では、最後の噴射の噴射パルス幅を1508のように大きく補正し、噴射量が多い第3気筒では最後の噴射の噴射パルス幅を1506のように小さく補正する電流制御部542を備える。
また、エンジンの始動から電流制御部542が噴射パルス幅を補正した後に、制御部は、噴射パルス幅を補正する前に比べて点火時期1530を点火時期1531のように遅角化する制御を行う。1燃焼サイクル中の噴射量のショットばらつきを低減することで、点火時期を遅角しても燃焼変動を抑制でき、3元触媒の温度を向上できる。
なお、本発明は上述した各実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
例えば、上述した各実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、ここで説明した実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることは可能であり、さらにはある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。