JP2021155771A - 鉱石スラリーの処理方法、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法 - Google Patents

鉱石スラリーの処理方法、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ニッケル酸化鉱石の湿式洗練プロセスにおいて、酸浸出処理に供給する鉱石スラリーの品質を安定化させることができる方法を提供する。【解決手段】本発明は、酸浸出処理に供する鉱石スラリーの処理方法であって、ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーに対し、第1の装置として、複数本のハイドロサイクロンが並列に構成される装置を使用して分級処理を施す分級工程を有し、その第1の装置は、処理対象の鉱石スラリーを貯留し、ハイドロサイクロンへ供給するスラリー供給槽を備え、スラリー供給槽内の鉱石スラリーの量が増加した場合には、ハイドロサイクロンの使用本数を増加させるとともに、そのスラリー供給槽からの鉱石スラリーの合計供給流量を増加させるようにし、スラリー供給槽内の鉱石スラリーの量が減少した場合には、ハイドロサイクロンの使用本数を減少させるとともに、スラリー供給槽からの鉱石スラリーの合計供給流量を減少させるようにする。【選択図】図2

Description

本発明は、酸浸出によりニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させて回収する湿式製錬方法において、浸出処理に供給する鉱石スラリーの処理方法及びその処理工程を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関する。
近年、鉄、銅、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン等の鉱物資源において、採掘権の寡占化がますます進んでいることにより、金属製錬での原料コストが大幅に上昇している。このコストの大幅な上昇に対処するため、従来、製錬の対象にならなかった低品位鉱石を使用するための技術開発が行われている。
例えば、ニッケル製錬では、高温高圧下において耐食性に優れた材料が開発されたこともあり、ニッケル酸化鉱石を硫酸により加圧下に浸出する高圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leach)法に基づく湿式製錬方法が注目されている。
このHPAL法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法である乾式製錬法と異なり、還元工程、乾燥工程等の乾式工程を有さない。そのため、エネルギーコスト的に有利であり、今後も低品位ニッケル酸化鉱石(以下、単に「鉱石」ともいう)の製錬方法として有力な技術となる。また、HPAL法に基づく湿式製錬プロセスとしての完成度を上げるため、高温加圧下での浸出処理の工程を中心として、ニッケル及びコバルトの浸出率の向上、浸出液の浄液、操業資材使用量の低減等に関して様々な技術が提案されている。
ところで、高温加圧下での浸出処理を行うプロセスとして、例えば特許文献1には、ニッケル、コバルト、マンガン等の有価金属を含有する鉱石から、下記工程(a)〜(c)からなる方法により、その有価金属を回収する方法が開示されている。
工程(a):スラリー化した鉱石を、工程(b)で得られた加圧酸浸出液により、硫酸酸性下で常圧浸出し、常圧浸出液と常圧浸出残留物を得る。
工程(b):工程(a)で得られた常圧浸出残留物を、高温高圧下の酸化性雰囲気で硫酸と反応させて加圧酸浸出液を得る。
工程(c):工程(a)で得られた常圧浸出液に中和剤を加えて中和し、次いで硫化アルカリ化合物を添加して、浸出液中のニッケル及びコバルトを硫化物として回収する。
すなわち、特許文献1に開示の方法は、鉱石スラリーを工程(a)で常圧浸出し、次いで常圧浸出残渣を工程(b)で加圧酸浸出する2段浸出を行うというものである。このような方法によれば、鉱石からのニッケル浸出率を向上させ、同時に加圧酸浸出の浸出液中に含まれる過剰な酸を、常圧浸出残渣に含有されるアルカリ成分によって中和し、中和工程(工程(c))の負荷を低減させることができる。
しかしながら、この方法は、2段浸出を行うプロセスであるため、設備点数が増えてコストと手間が増加するといった問題がある。また、浸出残渣を洗浄する際に発生する多量の薄液の処理にコストを要するといった問題もある。
これらの問題点を解決するため、特許文献2には、高温加圧下での浸出を利用する他のプロセスとして、下記(i)〜(iv)からなる工程を含む方法が開示されている。
工程(i)浸出工程:鉱石をスラリー化して硫酸を添加し、220℃〜280℃の温度で撹拌処理し、浸出スラリーを形成する。
工程(ii)固液分離工程:浸出スラリーを、多段階のシックナーを用いて洗浄し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣とに分離する。
工程(iii)中和工程:浸出液の酸化を抑制しながら、炭酸カルシウムを用いてpHが4以下となるよう調整し、3価の鉄を含有する中和澱物を生成し、中和澱物スラリーとニッケル回収用母液とに分離する。
工程(iv)硫化工程:ニッケル回収用母液に硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケル及びコバルトを含む硫化物を生成し、ニッケル及びコバルトを含む硫化物と貧液とに分離する。
ここで、特許文献2に開示される技術に基づく実用プラントの概要について、図1の工程図を用いて具体的に説明する。なお、図1は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に基づく実用プラントの一例における製錬工程図である。
図1に示すように、まず、[1]鉱石処理工程において、原料とするニッケル酸化鉱石と水とを混合され、得られた混合液から異物を除去し、また鉱石粒度の調整を行って、ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーを形成する。
次に、[2]浸出工程において、鉱石スラリーに対して硫酸を用いた高温加圧浸出に付し、れ、浸出液と浸出残渣とを含む浸出スラリーを形成する。
次に、[3]固液分離工程において、浸出スラリーを多段洗浄した後、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と、浸出残渣スラリーとに分離する。
次に、[4]中和工程において、浸出液に対する中和処理を施し、3価の鉄水酸化物を含む中和澱物スラリーと、中和後液とに分離する。
次に、[5]亜鉛除去工程において、中和後液に対して硫化剤を添加することで、その溶液中に含まれる亜鉛を硫化物とし、硫化亜鉛を含む硫化亜鉛澱物と、亜鉛を除去したニッケル回収用の母液とに分離する。
次に、[6]硫化工程において、ニッケル回収用の母液に対して硫化剤を添加することで、その母液中に含まれるニッケル及びコバルトを硫化物とし、ニッケル及びコバルトの混合硫化物と、ニッケル等が除去された貧液とに分離する。なお、貧液は、固液分離工程[3]における浸出残渣の洗浄水として使用することができる。
最後に、[7]最終中和工程において、余剰の貧液と、固液分離工程[3]で分離した浸出残渣スラリーとに対して中和処理を施し、中和処理により生成した最終中和残渣をテーリングダムに貯留する。
このような製錬プロセスの特徴としては、例えば、[3]固液分離工程において浸出スラリーを多段階で洗浄することで、次工程の[4]中和工程での中和剤消費量と澱物量を削減でき、また浸出残渣の真密度を高めることができるため、固液分離特性を改善できることが挙げられる。また、[2]浸出工程における浸出処理を高温加圧浸出のみで行うことにより、プロセスを簡素化することができるという特徴も挙げられる。なお、この点において、特許文献1に開示されている方法よりも利点があるとされている。
さらに、[3]固液分離工程での処理で用いる洗浄液として、[6]硫化工程での処理で生じた貧液を使用することで、その貧液中に残留する硫酸を利用して浸出残渣に付着したニッケルを浸出させて回収でき、効果的かつ効率的な水の繰り返し使用が可能になる。またさらに、[4]中和工程での処理にて生成した中和澱物のスラリーを[3]固液分離工程に戻すことで、ニッケルの回収ロスを低減でき、より有利であるとされている。
しかしながら、この製錬プロセスにおいては、以下のような問題がある。
第1に、設備の磨耗の抑制が挙げられる。すなわち、ニッケル酸化鉱石は、鉱石スラリーとして各工程における設備間を搬送されるが、その搬送に際して鉱石スラリーによる設備材料の磨耗が著しく、とりわけ浸出工程での処理に使用する処理設備の配管、ポンプ等では補修頻度が高くなる。これにより、メンテナンスコストの上昇や、プラント稼働率の低下の大きな原因となっている。
また、第2に、最終中和残渣の量の低減が挙げられる。[3]固液分離工程で生じる浸出残渣は、[6]硫化工程から産出される余剰の貧液と合一され、[7]最終中和工程において石灰石スラリー又は消石灰スラリーを用いた中和処理が施され、無害化される。[7]最終中和工程から産出される最終中和残渣は、テーリングダムで貯留されることになるが、最終中和残渣には浸出残渣中のヘマタイト、クロマイト等の不純物成分のほか、中和処理により形成される石膏が含有されている。そのため、有効に資源化できず、テーリングダムの建設及び維持管理のための大きなコスト負担が生じている。
このように、従来の高圧酸浸出法に基づく湿式製錬方法を用いた実用プラントでは、上述した問題点に対する解決策が求められている。さらに、それら問題点を、効果的にかつ経済的に解決するためには、鉱石又は浸出残渣に含まれる不純物成分を効率的に分離回収することが有効な手段となる。そしてこれにより、これら不純物成分を資源化して有効活用することも求められている。
特許文献3には、[1]鉱石処理工程で得られる鉱石スラリーを、ハイドロサイクロン等を使用した物理的な操作でクロマイトを分離する技術が開示されている。これによって、クロマイトを除去した鉱石スラリーを[2]浸出工程へ送液することができ、その[2]浸出工程の処理負荷を低くすることができるとも考えられる。
しかしながら、ハイドロサイクロンにおいては、処理するスラリー流量が増えると、オーバーフロー側に分配する細粒が減少し、アンダーフロー側の細粒がその分だけ増えるという性質がある。このようになると、クロマイトを除去した鉱石スラリーの品質や、除去回収するクロマイとの品質を悪化させる可能性もがある。そのため、これらの品質の一定に保つためには、ハイドロサイクロンにおけるスラリーの流量を一定に保つことが必要となる。
ところが、鉱石の時間当たり採掘量や輸送量は、天候等の作業環境の影響を受けやすく、鉱石スラリーの生産量には時間的変動が不可避的に生じる。そしてこのように時間的な変動が生じると、上述したように、クロマイトを除去した鉱石スラリーの品質も大きく変動する傾向にある。
特開平6−116660号公報 特開2005−350766号公報 特開2017−52992号公報
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石の湿式洗練プロセスにおいて、酸浸出処理に供給する鉱石スラリーの品質を安定化させることができる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、鉱石スラリーに対してクロマイトを除去する処理を行うにあたり、複数本のハイドロサイクロンが並列に構成される装置を使用した分級処理を行うようにし、このとき、供給される鉱石スラリーの流量に応じて、ハイドロサイクロンの使用本数をコントロールすることで、鉱石スラリーの供給流量が多くなった場合でも、得られる鉱石スラリーの品質を安定化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける酸浸出処理に供する鉱石スラリーの連続的な処理方法であって、少なくとも、前記ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーに対して、複数本のハイドロサイクロンが並列に構成される装置を使用して分級処理を施し、オーバーフローとしてゲーサイトを含む混合物を分離し、アンダーフローとしてクロマイトを含む混合物を分離する分級工程を含み、前記分級工程にて分離した前記ゲーサイトを含む混合物を、前記酸浸出処理に供する鉱石スラリーとし、さらに、前記装置は、処理対象の前記鉱石スラリーを貯留し、前記ハイドロサイクロンへ供給するスラリー供給槽を備え、前記スラリー供給槽内の鉱石スラリーの量が増加した場合には、前記ハイドロサイクロンの使用本数を増加させるとともに、該スラリー供給槽からの鉱石スラリーの合計供給流量を増加させるようにし、前記スラリー供給槽内の鉱石スラリーの量が減少した場合には、前記ハイドロサイクロンの使用本数を減少させるとともに、該スラリー供給槽からの鉱石スラリーの合計供給流量を減少させるようにする、鉱石スラリーの処理方である。
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記分級工程にて使用する装置を第1の装置としたとき、第2の装置として、少なくともスパイラルコンセントレーター1段で構成される装置を使用して、前記ハイドロサイクロンのアンダーフローとして分離したクロマイトを含む混合物に対して比重分離処理を行い、該クロマイトを含む混合物に含まれるゲーサイトを分離してクロマイトを濃縮させた混合物を得る比重分離工程をさらに有し、前記分級工程及び前記比重分離工程にて分離した前記ゲーサイトを含む混合物を、前記酸浸出処理に供する鉱石スラリーとする、鉱石スラリーの処理方法である。
(3)本発明の第2の発明は、第1又は2の発明において、前記分級工程では、前記装置において、前記スラリー供給槽内に貯留されている鉱石スラリーの、槽底面からスラリー液面までの高さ貯留レベルの測定値に基づいて、前記ハイドロサイクロンの使用本数を増減させる、鉱石スラリーの処理方法である。
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記分級工程では、前記装置において、前記スラリー供給槽の前記高さ貯留レベルの最も高いレベルを100%としたとき、前記スラリー供給槽内に貯留されている鉱石スラリーの高さ貯留レベルが20%〜80%の範囲の場合、前記ハイドロサイクロン1本あたりへの流量を基準一定範囲に保持しながら、該ハイドロサイクロンの使用本数を増減させる、鉱石スラリーの処理方法である。
(5)本発明の第5の発明は、第4の発明において、前記分級工程では、前記装置において、前記鉱石スラリーの高さ貯留レベルが80%を超える場合には、前記ハイドロサイクロンの使用本数を増加させるとともに、該ハイドロサイクロン1本あたりへの流量を前記基準一定範囲よりも増加させ、前記鉱石スラリーの高さ貯留レベルが20%未満の場合には、前記ハイドロサイクロンへの該鉱石スラリーの供給を停止する、鉱石スラリーの処理方法である。
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式洗練プロセスにおいて、酸浸出処理に供給する鉱石スラリーの品質を安定化させることができる方法を提供できる。
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの一例を示す工程図である。 鉱石スラリーの処理方法の一例を示す工程図である。 鉱石スラリーの処理方法を適用したニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの一例を示す工程図である。
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
≪1.鉱石スラリーの処理方法≫
本実施の形態に係る鉱石スラリーの処理方法は、ニッケル酸化鉱石を原料とした湿式製錬プロセスにおける、例えば高温高圧下での酸浸出処理に供する鉱石スラリーを連続的に処理する方法であり、鉱石スラリーに対する酸浸出処理に先立つ前処理方法である。
具体的に、図2は、鉱石スラリーの処理方法の流れの一例を示す工程図である。鉱石スラリーの処理方法は、少なくとも、ニッケル酸化鉱石のスラリーに対して、複数本のハイドロサイクロンが並列に構成される装置(以下、「第1の装置」ともいう)を使用して分級処理を施し、オーバーフローとしてゲーサイトを含む混合物を分離し、アンダーフローとしてクロマイトを含む混合物を分離する分級工程S21を有する。なお、後述するが、分級工程S21は、「第1の分級工程S21」ともいう。
また、鉱石スラリーの処理方法は、図2の工程図に示すように、さらに、第2の装置として所定の比重分離装置を使用して、分級工程S21にてアンダーフローとして分離したクロマイトを含む混合物に対して比重分離処理を行い、そのクロマイトを含む混合物に含まれるゲーサイトを分離してクロマイトを濃縮させた混合物を得る比重分離工程S22を有する。
また、この鉱石スラリーの処理方法では、比重分離工程S22に続いて、第3の装置としてハイドロサイクロンを使用して、比重分離処理で得られたクロマイトを含む混合物に対して分級処理を施し、オーバーフローとしてゲーサイトを含む混合物を分離し、アンダーフローとしてクロマイトを含む混合物を分離する第2の分級工程S23を、さらに有するようにすることができる。
湿式製錬プロセスにおいて処理される原料となるニッケル酸化鉱石は、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8質量%〜2.5質量%であり、ニッケルは水酸化物、又は含水ケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有されている。また、鉄の含有量は、10質量%〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄が含水ケイ苦土鉱物等に含有される。
さらに、ラテライト鉱においてはクロムが含まれており、そのクロム分の多くは、鉄又はマグネシウムを含むクロマイト鉱物として、例えば1質量%〜5重量%程度含有されている。また、マグネシア分は、含水ケイ苦土鉱物のほか、未風化で硬度が高いニッケルをほとんど含有しないケイ苦土鉱物に含有される。珪酸分は、石英、クリストバライト(無定形シリカ)等のシリカ鉱物及び含水ケイ苦土鉱物に含有されている。
このように、ラテライト鉱において含有される、クロマイト鉱物、ケイ苦土鉱物、及びシリカ鉱物は、ニッケルをほとんど含有していない、いわゆる脈石成分である。
さて、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、主としてラテライト鉱である原料のニッケル酸化鉱石は、鉱石粒度の調整が行われた後に水と混合されて鉱石スラリーとして調製される(鉱石処理工程)。ところが、ニッケル酸化鉱石には、上述のようにクロマイトが含まれている。このようなクロマイトを含有する鉱石スラリーを、酸浸出処理に供するために配管やポンプ等の設備を用いて移送すると、それら設備を著しく磨耗させることが知られており、設備のメンテナンスや操業効率に大きな影響を及ぼす。
このことから、酸浸出処理に供する鉱石スラリーとしては、その酸浸出処理に先立ってクロマイト分を分離除去したものを用いることが望ましい。
ここで、鉱石スラリーを構成する鉱石粒子中の各成分分布状態について説明する。ニッケル酸化鉱石をEPMA観察すると、クロム含有量の高い部分は、鉄含有量の高い部分とは独立した単独相として存在する比率が高く、かつ20μm〜1000μmの粒径の鉱石に含まれることが多い。このことは、クロムを含む鉱物は、約20μm以上の粒子に多く含まれており、一方で、ニッケル及び鉄を含む鉱物は、約20μm未満の粒子に多く含まれていることを示している。
したがって、鉱石スラリーからクロマイトを効果的に分離回収するためには、原料とするニッケル酸化鉱石から粗大な粒子を除いた後の鉱石をスラリー化し、この鉱石スラリー中のニッケル酸化鉱石を適切な粒度になるように解砕し、適切な分級粒度を設定することが肝要である。なお、このときの解砕粒度としては、鉱石スラリーを形成する際の本来の目的を考慮して決められるが、約2mm以下程度が好ましい。
下記表1に、原料のニッケル酸化鉱石を約2mm以下の粒度に破砕して得られる鉱石スラリーの鉱石粒度分布と、各粒度区分での金属元素成分の品位の一例を示す。
Figure 2021155771
表1に示すように、鉱石スラリー中の鉱石のうち、75μm以上の粗粒部には、クロム、珪素、マグネシウム等が濃縮されることが分かる。一方で、75μm以下の細粒部には、鉄が濃縮されることが分かる。
このことから、先ず、原料のニッケル酸化鉱石の粒度調整を行って得られた、例えば2mm以下の鉱石スラリーに対して、第1の装置としてのハイドロサイクロンを用いて所定の分級粒度(分級点)で分級処理を施し、粗粒部と細粒部とに分級する。すると、ハイドロサイクロンのアンダーフローとして分離される粗粒部にクロマイトを含む混合物が得られる。他方、オーバーフローとして分離される細粒部に鉄を含有するゲーサイト等を含む混合物が得られる。このようにして、第1段階として、鉱石スラリーからクロマイトを分離することができる。
以下、より具体的に、このような分級処理を行う分級工程から詳細に説明する。
<1−1.分級工程(第1の分級工程)>
分級工程(第1の分級工程)S21では、ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーに対し、第1の装置として、複数本のハイドロサイクロンが並列に構成される装置を使用して分級処理を施し、オーバーフロー(O/F)としてゲーサイトを含む混合物を分離し、アンダーフロー(U/F)としてクロマイトを含む混合物を分離する。
ここで、オーバーフローとして分級されたゲーサイトを含む混合物は、クロマイトが分離除去された鉱石スラリーであり、そのまま、湿式製錬プロセスのオートクレーブ等の加圧反応容器にて行われる酸浸出処理に供給する鉱石スラリーとなる。
分級工程S21では、分級装置であるハイドロサイクロンの運転条件を決定することによって、ゲーサイトを含む混合物と、クロマイトを含む混合物とを、効率的に分級分離することができる。具体的に、この分級処理では、所定の分級粒度に基づいて、ハイドロサイクロンのオーバーフローである細粒部がゲーサイトを含む混合物となり、アンダーフローである粗粒部がクロマイトを含む混合物となって分離される。なお、粗粒部に分級されるクロマイトを含む混合物には、主としてクロマイトが含有されているが、一部のゲーサイトも混入して含まれている。
分級工程S21における分級処理では、特に限定されないが、クロマイトを含む混合物中のクロマイト濃度が41重量%以上程度にまで濃縮させるようにすることが好ましい。
ハイドロサイクロンの運転条件に関して、処理対象とする鉱石スラリーの分級粒度(分級点)としては、ニッケルが含有されるゲーサイトを細粒部として効率よく分級分離できればよく、好ましくは20μm〜150μmの範囲、より好ましくは45μm〜75μmの範囲から選択することが好ましい。すなわち、工業的に実施可能な分級粒度の下限としては、おおむね20μmである。このことから、分級粒度が20μm未満であると、粗粒部へのクロマイトの濃縮が不十分になるとともに、酸浸出処理に供給される鉱石スラリー中のニッケルがロスすることになる。一方で、分級粒度が150μmを超えると、細粒部においてクロマイト、ケイ苦土鉱、及びシリカ鉱物の除去が不十分となる可能性がある。
一般的に、クロマイトの比重は、ゲーサイト等の水酸化鉄の比重よりも大きい。そのため、分級装置としてハイドロサイクロンを使用することで、その鉱石スラリーの粒度に基づき、アンダーフローとしてクロマイトを含む混合物を、オーバーフローとしてゲーサイトを含む混合物を、精度良く分離することができる。また、ハイドロサイクロンは、大量の鉱石スラリーの処理に適しており、また、オーバーフローへの分配が多い場合の処理に適している。
ハイドロサイクロンの運転圧力、すなわちハイドロサイクロンに供給する鉱石スラリーの圧力としては、特に限定されないが、分級性能や処理速度等を考慮すると、0.1MPa〜0.3MPa程度とすることが好ましい。
また、ハイドロサイクロンとしては、アンダーフローのパルプ濃度が50質量%以上となるように、その形状等を調整することが好ましい。
また、ハイドロサイクロンに供給する鉱石スラリーのパルプ濃度としては、特に限定されないが、10質量%〜30質量%程度であることが好ましく、15質量%〜20質量%であることがより好ましい。ハイドロサイクロンによる分級分離では、パルプ濃度が10質量%未満でも処理は可能であるものの、水を大量に必要とし、さらに後工程の沈降濃縮にも不利となってしまう。また、パルプ濃度が30質量%を超えると、鉱石スラリーの流動性が低下し、分級分離が困難になることがある。これらのことから、パルプ濃度としては10質量%〜30質量%程度の範囲に設定することが好ましく、これにより新たに水を供給する必要がなく、また希釈のためのタンクも不要になる。
また、分級処理を行うにあたっては、上述したようにハイドロサイクロンの分級性能や処理速度等を考慮して運転圧力等を調整することが好ましい。その中でも、得られる粗粒部の粒子のうち、粒子サイズ−45μm(45μm未満)のものの存在比率が30%以下となるように、ハイドロサイクロンに供給する鉱石スラリー圧力と分級処理の対象とする鉱石スラリー濃度を調整することが好ましい。
なお、粗粒部に分級される粒子において、粒子サイズが45μm未満の粒子の存在比率としては0%に近いほど望ましいが、その45μm未満の粒子の割合を下げていくと、分離させた細粒部に粗粒の低ニッケル含有粒子が混じってしまうことがあり、湿式製錬プロセスにおけるニッケルの回収ロスの要因となる可能性がある。
このように、パルプ濃度、ハイドロサイクロンの運転圧力、ハイドロサイクロンの形状等を最適化することにより、オーバーフローとして分級される細粒部へのクロマイトの分配をほとんど無くすことが可能となり、クロマイトを効果的に分離することができる。
さて、上述したように、ハイドロサイクロンは、大量の鉱石スラリーの分級処理に適した装置である。しかしながら一方で、ハイドロサイクロンへの鉱石スラリーの流量が増えると、オーバーフロー側に分配される細粒が減少し、アンダーフロー側に分配される細粒がその分だけ増えるという性質がある。すなわち、鉱石スラリーの供給流量が増えると、オーバーフロー側に分配されるべきゲーサイトを含む細粒が、アンダーフロー側に分配されてしまう量が増え、結果として、湿式製錬プロセスの酸浸出処理に供される鉱石スラリー中のゲーサイトを含む混合物の量が減ることになる。
このように、ハイドロサイクロンへの鉱石スラリーの流量が増えると、酸浸出処理に供される鉱石スラリーの品質が低下する。また一方で、ハイドロサイクロンにより分級処理を経てオーバーフロー側に分配されるクロマイトを含む混合物中における、ゲーサイトを含む細粒の含有割合が多くなるため、クロマイトの分離処理を経て回収されるクロマイトの品質も低下することになる。
そこで、本実施の形態に係る鉱石スラリーの処理方法においては、第1の分級工程S21での処理に使用する第1の装置として、複数本(複数段)のハイドロサイクロンが並列に構成される装置を使用して分級処理を施すようにする。そして、ハイドロサイクロンへの鉱石スラリーの供給量、つまり、ハイドロサイクロンによる分級処理を行う処理対象の鉱石スラリーの量に応じて、その第1の装置おいて用いるハイドロサイクロンの使用本数を増減させるコントロールを行うことを特徴とする。
より具体的には、例えば、鉱石スラリーの供給量が増加した場合には、ハイドロサイクロンの使用本数を増加させるとともに、鉱石スラリーの合計供給流量を増加させるようにする。また、鉱石スラリーの供給量が減少した場合には、ハイドロサイクロンの使用本数を減少させるとともに、鉱石スラリーの合計供給流量を減少させるようにする。
なお、「合計供給流量」とは、使用する1本ずつのハイドロサイクロンへの供給流量を合計した、使用するすべてのハイドロサイクロンへの供給流量をいう。
このように、第1の装置として複数本のハイドロサイクロンが並列に構成された装置を用いて分級処理を行い、鉱石スラリーの供給流量に応じて、使用するハイドロサイクロンの使用本数をコントロールする。すなわち、鉱石スラリーの供給流量が増加した場合においても、その増加した供給流量に応じて、使用するハイドロサイクロンの使用本数を増加させることで、ハイドロサイクロン1本あたりの供給流量を基準とする一定範囲に保持したまま、合計供給流量を増加させることができる。つまり、鉱石スラリーの処理量を増加させることができる。
これにより、第1の装置に供給される鉱石スラリーの供給流量が増えた場合でも、複数本のハイドロサイクロンを使用して分級処理を行い、1本あたりの供給流量を基準一定範囲に保持するようにしているため、オーバーフロー側に分配される細粒が減少してアンダーフロー側に分配される細粒が増えるという不具合を防ぐことができる。そして、酸浸出処理に供する鉱石スラリーの品質、あるいは分離回収するクロマイトの品質の低下を抑えることができ、品質を安定化させることができる。
一般的に、鉱石の時間当たり採掘量や輸送量は、天候等の作業環境の影響を受けやすく、鉱石スラリーの生産量には時間的変動が不可避的に生じる。そしてこのように時間的な変動が生じると、上述したように、クロマイトを除去した鉱石スラリーの品質も大きく変動する傾向にある。この点、本実施の形態に係る処理方法によれば、不可避的に鉱石スラリーの生産量が変動した場合でも、安定的に良好な品質の鉱石スラリーを酸浸出処理に供給することができる。
ここで、第1の装置においては、分級処理の処理対象である鉱石スラリーを貯留し、貯留した鉱石スラリーをハイドロサイクロンへ供給するスラリー供給槽を、ハイドロサイクロンよりも上流側に備える構成とすることができる。
また、ハイドロサイクロンへの鉱石スラリー供給量の増減の判断は、そのスラリー供給槽内に貯留されている鉱石スラリーの量(貯留量)に基づいて行うことができる。このように、スラリー供給槽の貯留量に基づいて鉱石スラリーの供給量の増減を判断することで、より正確にスラリー供給流量の増減の判断を行うことができる。また、ハイドロサイクロン1本あたりへの供給コントロールもより適切に、かつ簡易に行うことができる。
スラリー供給槽の貯留量の測定は、特に限定されないが、スラリー供給槽内に貯留されている鉱石スラリーの、槽底部からスラリー液面までの高さ方向の貯留レベル(以下、「高さ貯留レベル」ともいう)の測定値に基づいて、ハイドロサイクロンへの供給量の増減の判断を行うことが好ましい。高さ貯留レベルについては、例えば、スラリー供給槽の上方から作業者が所定の長さの棒状メジャーを挿入し、槽底部からスラリー液面までの距離(レベル)を測定することによって把握することができる。
スラリー供給槽内の貯留レベルとしては、スラリー供給槽の高さ貯留レベルの最も高いレベルを100%としたとき、どの程度の割合範囲であるかに基づいて、ハイドロサイクロンへのスラリー供給量の増減を判断することができる。
具体的に、スラリー供給槽の高さ貯留レベルの最も高いレベルを100%としたとき、スラリー供給槽内に貯留されている鉱石スラリーの高さ貯留レベルが20%〜80%の範囲の場合には、ハイドロサイクロン1本あたりへの流量を基準一定範囲に保持しながら、ハイドロサイクロンの使用本数を増減させる調整を行う。
ハイドロサイクロン1本あたりへの流量の「基準一定範囲」については、ハイドロサイクロン1本あたりへの鉱石スラリーの圧力(運転圧力)や、分級性能、処理速度等に基づいて、適宜設定することができる。
例えば、あくまでも一例ではあるが、スラリー供給槽内に貯留されている鉱石スラリーの高さ貯留レベルが20%〜30%の場合には、ハイドロサイクロンの使用本数を10本とする。また、高さ貯留レベルが30%〜40%の場合には、ハイドロサイクロンの使用本数を11本とする。また、高さ貯留レベルが40%〜50%の場合には、ハイドロサイクロンの使用本数を12本とする。また、高さ貯留レベルが50%〜60%の場合には、ハイドロサイクロンの使用本数を13本とする。また、高さ貯留レベルが60%〜80%の場合には、ハイドロサイクロンの使用本数を14本とする。
このように、スラリー供給槽内の鉱石スラリーの高さ貯留レベルに応じ、その高さ貯留レベルが高くなる、つまり鉱石スラリーの供給流量が増加しているような場合には、ハイドロサイクロンの使用本数を増加させていくことで、ハイドロサイクロン1本あたりの流量は保持したまま、ハイドロサイクロン全体への合計供給流量を増やすことができる。これにより、ハイドロサイクロン1本あたりへの負荷を抑えたまま、より多くの鉱石スラリーに対して分級処理を施すことができる。
なお、スラリー供給槽の高さ貯留レベルの最も高いレベルを100%としたとき、スラリー供給槽内に貯留されている鉱石スラリーの高さ貯留レベルが80%を超えるような場合には、ハイドロサイクロン1本あたりへの流量を、設定した「基準一定範囲」よりも増加させるようにすることが好ましい。なおこのとき、ハイドロサイクロンの分級性能を超える流量を供給しないように留意することが好ましい。
また、スラリー供給槽内に貯留されている鉱石スラリーの高さ貯留レベルが20%未満の場合には、ハイドロサイクロンへの鉱石スラリーの供給を停止することが好ましい。このように、高さ貯留レベルが20%未満の場合には、鉱石スラリーの供給がないか、あるいは少なく過ぎると判断して、鉱石スラリーの供給を停止させて処理を中止することが、効率的な処理を行う観点から好ましい。
<1−2.比重分離工程>
比重分離工程S22では、第1の分級工程S21にてアンダーフローとして分離したクロマイトを含む混合物に対して、第2の装置として所定の比重分離装置を使用して比重分離処理を行い、そのクロマイトを含む混合物に含まれるゲーサイトを分離してクロマイトを濃縮させた混合物を得る。
上述したように、第1の分級工程S21にてアンダーフローとして分級分離したクロマイトを含む混合物には、主としてクロマイトが含まれているが、一部ゲーサイトも含まれている。比重分離工程S22では、このようなクロマイトを含む混合物に対して比重分離処理を施すことで、さらにゲーサイトとクロマイトとを効果的に分離でき、言い換えるとクロマイトをさらに濃縮することができる。
一方、比重分離により得られるゲーサイトを含む混合物は、湿式製錬プロセスの酸浸出処理に供給する鉱石スラリーとすることができる。
比重分離工程S22における比重分離処理では、少なくともスパイラルコンセントレーターを1段使用する。また、この比重分離処理では、少なくともスパイラルコンセントレーターを1段と、さらに、シェーキングテーブル、デンシティーセパレーター、及びスパイラルコンセントレーターから選択される1段以上を使用して処理することが好ましい。その中でも特に、スパイラルコンセントレーターを1段と、大量処理に適したデンシティーセパレーターでの処理を組み合わせることが好ましい。
(スパイラルコンセントレーター)
スパイラルコンセントレーターによる比重分離処理では、特に限定されないが、これに供給するスラリーのパルプコンテントを、15質量%を超えて35質量%未満とすることが好ましく、20質量%を超えて30質量%未満とすることがより好ましい。パルプコンテントが15質量%以下であると、分離性能が悪化する可能性がある。一方で、パルプコンテントが35質量%以上であると、比重分離処理中にクロマイト濃縮側、すなわちスパイラルコンセントレーターの内側で粒子の流れが滞留してビルドアップが起こり、分離が十分に行われなくなる可能性がある。
また、スパイラルコンセントレーターによる比重分離処理では、当該スパイラルコンセントレーターを複数段備えるようにして、処理対象のスラリーに対して複数回の処理を施すことが好ましい。具体的には、クロマイトを分離したスパイラルコンセントレーターの内側のスラリーに対して、複数回のスパイラル処理を施す。これにより、そのスラリーに含まれるクロマイト成分を効果的に分離させることができ、より一層にクロマイトを濃縮させてクロマイト回収率を高めることができる。
(デンシティーセパレーター)
デンシティーセパレーターによる比重分離処理では、特に限定されないが、Teeter Water量を0.5〜7.0m・h−1/mとすることが好ましい。Teeter Water量が0.5m・h−1/m未満であると、干渉落下の効果が小さくなり、比重分離が効率よく行われない可能性がある。一方で、Teeter Water量が7.0m・h−1/mより大きいと、クロマイト粒子まで上昇させ、オーバーフロー側に移行してしまう可能性がある。なお、この場合には、酸浸出処理に供給されるスラリー中のクロマイト量が多くなり、クロマイトの回収のみならず、ヘマタイト中に含まれるようなるCr量、すなわちヘマタイト中のCr品位を効果的に低減させることができなくなる。
また、デンシティーセパレーターによる比重分離処理では、当該デンシティーセパレーターを複数段備えるようにして、処理対象のスラリーに対して複数回の処理を施すようにすることが好ましい。このことにより、アンダーフロー側に比重分離させることができるCrの品位を上昇させることができ、より効果的にクロマイトを分離できる。
(シェーキングテーブル)
シェーキングテーブルによる比重分離処理では、特に限定されないが、これに供給するスラリーのパルプコンテントを、15質量%を超えて35質量%未満とすることが好ましく、20質量%を超えて30質量%未満とすることがより好ましい。
以上のように、湿式製錬プロセスにおける酸浸出処理に先立ち、ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーに対して、第1の装置として複数本のハイドロサイクロンが並列に構成される装置を使用して分級処理を施し(第1の分級工程S21)、次に、第2の装置として所定の比重分離装置を使用してクロマイトを含む混合物に対して比重分離処理を行う(比重分離工程S22)。このことによって、クロマイトを有効に除去することができ、酸浸出処理に供給する鉱石スラリーによる配管やポンプ等の設備の磨耗を抑制することができる。また、湿式製錬プロセスにおける最終中和工程から産出される最終中和残渣中のCr品位を有効に低下させ、その残渣量も効果的に低減させることができる。
また、特に、本実施の形態に係る鉱石スラリーの処理方法では、第1の分級工程S21において、複数本のハイドロサイクロンが並列に構成される装置を用い、処理対象の鉱石スラリーの供給流量が増加した場合にはその使用本数を増加させて、合計供給流量も増加させるようにしている。このことから、1本あたりのハイドロサイクロンの供給流量の増加を抑えながら、多くの鉱石スラリーを適切に分級処理することができる。
<1−3.第2の分級工程>
さて、ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーに対して、上述した第1の分級工程S21における分級処理と、続く比重分離工程S22における比重分離処理とを行うことで、ゲーサイトを含む混合物と、クロマイトを含む混合物とに効果的に分離させることができる。例えば、そのクロマイトとしては、Cr品位で41質量%〜50質量%程度までの濃縮が可能である。
ところが、さらにクロマイトを濃縮する観点からすると、分離されたクロマイトを含む混合物に微量に含まれる微細なゲーサイトを除去することが望ましい。
そこで、第2の分級工程S23として、比重分離工程S22における比重分離処理で分離されたクロマイトを含む混合物に対して、第3の装置であるハイドロサイクロンを使用して分級処理を施すようにすることができる。これにより、そのクロマイトを含む混合物に微量に存在する微細なゲーサイトを除去する。
第1の分級工程S21において第1の装置として使用するハイドロサイクロンと、当該第2の分級工程S23にて第3の装置として使用するハイドロサイクロンとは、いずれも鉱石スラリーに含まれるゲーサイトの除去のために使用できるが、その役割が異なる。すなわち、第1の装置としてのハイドロサイクロンは、鉱石スラリー中に多く含まれるゲーサイトを除去して、次工程の比重分離工程S22での処理の負荷を軽減する目的で行う。これに対して、第2の分級工程S23にて使用するハイドロサイクロンは、微量に残存したゲーサイトを除去してクロマイトを濃縮のために行うことを目的とする。
ハイドロサイクロンの装置としては、第1の分級工程S21における処理、第2の分級工程S23における処理で、それぞれ同じものを用いることができる。なお、そのハイドロサイクロンの本数(段数)は、1本であってもよく、第1の装置と同様に複数本が並列に構成されてもよい。
また、分級処理を行うにあたっては、ハイドロサイクロンの分級性能や処理速度等を考慮して運転圧力等を調整することが好ましい。その中でも、得られるアンダーフローの粒子のうち、粒子サイズ−45μm(45μm未満)のものの存在比率が30%以下となるように、ハイドロサイクロンに供給するスラリー圧力と分級処理の対象とするスラリーの濃度を調整することが好ましい。
なお、アンダーフローに分級される粒子において、粒子サイズが45μm未満の粒子の存在比率としては0%に近いほど望ましい。ただし、その45μm未満の粒子の割合を下げていくと、分離させたオーバーフローに粗粒の低ニッケル含有粒子が混じってしまうことがあり、湿式製錬プロセスにおけるニッケルの回収ロスの要因となる可能性がある。
このように、第2の分級工程S23として、比重分離処理を経て得られたクロマイトを含む混合物に対してハイドロサイクロンを使用して分級処理を施す。これにより、オーバーフロー(O/F)としてゲーサイトを含む混合物を分離し、アンダーフロー(U/F)としてクロマイトを含む混合物を分離できる。オーバーフローとして分級されたゲーサイトを含む混合物は、クロマイトが分離除去された鉱石スラリーであり、そのまま、湿式製錬プロセスのオートクレーブ等の加圧反応容器にて行われる酸浸出処理に供給する鉱石スラリーとなる。
<1−4.第3の分級工程>
さらに、第3の分級工程S24として、第2の分級工程S23により分級分離されたアンダーフローのクロマイトを含む混合物に対して、第4の装置であるハイドロサイクロンを使用して分級処理を施すようにすることができる。これにより、そのクロマイトを含む混合物に微量に存在する微細なゲーサイトをさらに除去できる。
ハイドロサイクロンの装置としては、第1の分級工程S21における処理、第2の分級工程S23における処理で使用するものと同じものを用いることができる。なお、そのハイドロサイクロンの本数(段数)は、1本であってもよく、第1の装置と同様に複数本が並列に構成されてもよい。
また、分級処理を行うにあたっては、ハイドロサイクロンの分級性能や処理速度等を考慮して運転圧力等を調整することが好ましい。その中でも、得られるアンダーフローの粒子のうち、粒子サイズ−45μm(45μm未満)のものの存在比率が30%以下となるように、ハイドロサイクロンに供給するスラリー圧力と分級処理の対象とするスラリーの濃度を調整することが好ましい。
このように、第3の分級工程S24として、第2の分級工程S23での分級処理を経て得られたクロマイトを含む混合物に対してハイドロサイクロンを使用して分級処理をさらに施す。これにより、オーバーフロー(O/F)としてゲーサイトを含む混合物を分離し、アンダーフロー(U/F)としてクロマイトを含む混合物を分離することができる。オーバーフローとして分級されたゲーサイトを含む混合物は、クロマイトが分離除去された鉱石スラリーであり、そのまま、湿式製錬プロセスのオートクレーブ等の加圧反応容器にて行われる酸浸出処理に供給する鉱石スラリーとなる。
以上のように、本実施の形態に係る鉱石スラリーの処理方法では、より好ましくは、第2の分級工程S23、第3の分級工程S24として、クロマイト含む混合物に対してハイドロサイクロンを用いた分級処理をさらに施すようにすることができる。これにより、酸浸出処理に供する鉱石スラリー中のクロマイトをより効果的に除去することができ、ニッケルの実収率の低下を抑えながら、酸浸出処理において使用する配管やポンプ等の設備の摩耗を防ぐことができる。
また、鉱石スラリー中のクロマイトを効果的に除去することができるため、湿式製錬プロセスにて生じる残渣、特に、最終中和工程を経て得られる最終中和残渣の量を低減させることができる。
<1−5.分離回収されるクロマイトについて>
本実施の形態に係る鉱石スラリーの処理方法によれば、ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーからクロマイトを濃縮分離することができる。ところが、ここで濃縮分離されて得られるクロマイトは、その水分含有率が40%程度と高い。
一般的に、固体物質の運送においては、水分の含有量が多いと船舶輸送中に液状化現象を生じさせ、船舶の転覆を引き起こす可能性があると言われている。日本海事検定協会の調査結果では、クロマイトの運送許容水分値(Transportable Moisture Limit:TML)としては7%以下となっている。そのため、分離回収したクロマイトを船舶搬送する場合には、その得られたクロマイトの水分含有率を下げる必要がある。
そこで、得られたクロマイトに対して脱水処理等を行って水分含有率の調整を行うことが好ましい。ところが、例えば水分含有率40%程度のクロマイトから水分を除去する脱水処理を行うに際しては、以下の問題点がある。
一般に、例えば浸出残渣の脱水方法としては、天日干し、加熱・焙焼法、フィルタープレス法、遠心分離法等の方法が挙げられ、水分除去効率の高さや経済性の観点からフィルタープレスによる方法が有望となる。ところが、特に効率性の高い高圧フィルタープレス(高温加圧濾過装置)を使用した脱水処理であっても、複数回の処理を繰り返し行わなければ水分率7%以下を達成することは困難となる。また、例えば天日干し方法の場合には、天候により操業に要する時間、脱水時間の推測が難しく正確性に欠け、好ましい水分含有量に調整することが作業上困難である。さらに、加熱・焙焼の方法の場合には、エネルギー消費量が高くなり、経済性に悪影響を及ぼす。またさらに、遠心分離法の場合には、水分率として8%程度まで低下させることが限界である。
そこで、クロマイトに対する脱水処理の方法として、過熱蒸気方式を用いた脱水処理を行うようにする。
過熱蒸気方式による脱水処理は、被脱水物と過熱蒸気とを接触させて、過熱蒸気により被脱水物を加熱し、同時に被脱水物中の水分を過熱蒸気中に取り込んで脱水乾燥させるというものである。このような過熱蒸気方式による脱水処理により、クロマイトを含む残渣の水分含有率を、1回の脱水処理操作によって7%以下にまですることができる。
具体的に、過熱蒸気方式による脱水処理の条件としては、特に限定されないが、脱水に供するクロマイトを含む残渣の水分率を40%程度とし、過熱蒸気の圧力を0.5〜0.7MPa(6bar)、過熱蒸気の温度を150℃〜180℃として行うことができる。
また、被脱水物としてのクロマイトを含む残渣(水分含有率が約40%)と、過熱蒸気との接触方法としては、特に限定されず、例えばドラム乾燥機方式でもよく、向流式熱交換器方式であってもよい。なお、ドラム乾燥方式とは、濾布で形成された円筒形のドラムにクロマイトを含む残渣を付着させ、過熱蒸気を吹き付ける方式である。向流式熱交換器方式とは、乾燥機本体の上部からクロマイトを含む残渣を供給し、下部から過熱蒸気を供給して向流接触させ、必要に応じ残渣の落下途上に邪魔板を設置して接触効率を向上させる方式である。
なお、過熱蒸気を被脱水物に接触させる際には、脱水条件としての圧力や温度を適切に設定することが重要であり、例えば上述のように、過熱蒸気の圧力を0.5〜0.7MPa(6bar)とし、過熱蒸気の温度を150℃〜180℃として行うことができる。
過熱蒸気の圧力が低すぎると、乾燥が不十分となり得られるクロマイトケーキの水分含有率は7%を超えてしまう可能性がある。一方で、過熱蒸気の圧力が高すぎると、乾燥過剰となる可能性があり、また耐圧のための装置コストが割高になる。また、過熱蒸気の温度が低すぎる場合であっても、乾燥が不十分となり得られるクロマイトケーキの水分含有率は7%を超えてしまう可能性があり、一方で過熱蒸気の温度が高すぎる場合であっても、乾燥過剰となる可能性があり、エネルギー消費が多くなって経済的に好ましくない。
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスについて≫
次に、上述した鉱石スラリーの処理方法を適用した、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスについて具体的に説明する。ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、例えば高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケルを浸出させて回収する製錬プロセスである。
図3は、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。図3の工程図に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、ニッケル酸化鉱石をスラリー化する鉱石処理工程S1と、鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で酸浸出処理を施す浸出工程S3と、得られた浸出スラリーを多段洗浄しながら残渣を分離してニッケルと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程S4と、浸出液のpHを調整して不純物元素を含む中和澱物を分離しニッケルを含む中和終液を得る中和工程S5と、中和終液に硫化剤を添加することで亜鉛を含む硫化物(硫化亜鉛澱物)とニッケル回収用の母液を生成する亜鉛除去工程S6と、ニッケル回収用の母液に硫化剤を添加することでニッケルを含む硫化物(ニッケル硫化物)を生成させる硫化工程S7と、を有する。さらに、この湿式製錬プロセスは、固液分離工程S4にて分離された浸出残渣スラリーや硫化工程S7にて排出された貧液を回収し、それらを無害化して最終中和残渣を生成する最終中和工程S8を有する。
また、本実施の形態においては、鉱石スラリーを硫酸によって酸浸出処理するに先立ち、鉱石処理工程S1にてスラリー化した鉱石スラリーに対し、クロマイトを除去する鉱石スラリー処理工程S2を有する。
(1)鉱石処理工程
鉱石処理工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に対して、所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石粒子に水を添加して粗鉱石スラリーとする。
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石は、ニッケルやコバルトを含有する鉱石であり、上述したように、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、0.8質量%〜2.5質量%程度であり、ニッケルは水酸化物、又は含水ケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10質量%〜50質量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄が含水ケイ苦土鉱物等に含有される。
さらに、ラテライト鉱においてはクロムが含まれており、そのクロム分の多くは、鉄又はマグネシウムを含むクロマイト鉱物として、例えば1質量%〜5重量%程度含有されている。また、マグネシア分は、含水ケイ苦土鉱物のほか、未風化で硬度が高いニッケルをほとんど含有しないケイ苦土鉱物に含有される。また、珪酸分は、石英、クリストバライト(無定形シリカ)等のシリカ鉱物及び含水ケイ苦土鉱物に含有されている。
ニッケル酸化鉱石の分級方法については、所望とする粒径に基づいて鉱石を分級できるものであれば特に限定されず、例えば、グリズリーや振動篩等を用いた篩分けによって行うことができる。また、その分級点についても、特に限定されず、所望とする粒径値以下の鉱石粒子からなる鉱石スラリーを得るための分級点を適宜設定することができる。
(2)鉱石スラリー処理工程
本実施の形態においては、鉱石スラリーに対して浸出工程S3にて酸浸出処理を施すに先立ち、鉱石処理工程S1を経て得られた鉱石スラリーに対し、クロマイトを分離除去する処理を施す。
鉱石スラリー処理工程S2は、鉱石スラリーに対して、第1の装置として複数本のハイドロサイクロンが並列に構成される装置を使用して分級処理を施し、オーバーフローとしてゲーサイトを含む混合物を分離し、アンダーフローとしてクロマイトを含む混合物を分離する分級工程(第1の分級工程)S21と、第2の装置として所定の比重分離装置を使用して、分級工程S21にてアンダーフローとして分離したクロマイトを含む混合物に対して比重分離処理を行い、そのクロマイトを含む混合物に含まれるゲーサイトを分離してクロマイトを濃縮させた混合物を得る比重分離工程S22と、を有する。
また、鉱石スラリー処理工程S2は、比重分離工程S22に続いて、比重分離されたクロマイト含む混合物に対し、第3の装置としてハイドロサイクロンを使用して分級処理し、オーバーフローとしてゲーサイトを含む混合物を分離して、アンダーフローとしてクロマイトを含む混合物を分離する第2の分級工程S23を有するようにすることができる。
さらに、鉱石スラリー処理工程S2は、第2の分級工程S23に続いて、分級分離されたアンダーフローのクロマイトを含む混合物に対し、第4の装置としてハイドロサイクロンを使用してさらに分級処理し、オーバーフローとしてゲーサイトを含む混合物を分離して、アンダーフローとしてクロマイトを含む混合物を分離する第3の分級工程S24をさらに有するようにすることができる。
鉱石スラリー処理工程S2におけるクロマイトの除去処理の詳細な説明は、上述したものと同様であるためここでは省略する。このように鉱石スラリーに対して処理を施すことによって、鉱石スラリーからクロマイトを効率的にかつ効果的に分離除去でき、ニッケル実収率の低下を抑えながら、鉱石スラリーに対して酸浸出処理を施す際における配管やポイプ等の設備の摩耗を防ぐことができる。また、湿式製錬プロセスにおいて最終的に得られる最終中和残渣の量を低減させることもできる。
さらに、分級工程S21においては、第1の装置として複数本のハイドロサイクロンが並列に構成された装置を用いて分級処理を行い、鉱石スラリーの供給流量に応じて、使用するハイドロサイクロンの使用本数をコントロールしている。このことから、鉱石スラリーの供給流量が増加した場合においても、その増加した供給流量に応じて、使用するハイドロサイクロンの使用本数を増加させることで、ハイドロサイクロン1本あたりの供給流量を基準とする一定範囲に保持したまま、合計供給流量を増加させることができる。これにより、オーバーフロー側に分配される細粒が減少してアンダーフロー側に分配される細粒が増えるという不具合を防ぐことができる。そして、酸浸出処理に供する鉱石スラリーの品質、あるいは分離回収するクロマイトの品質の低下を抑えることができ、品質を安定化させることができる。
なお、分級工程S21にて分級分離したゲーサイトを含む混合物と、比重分離工程S22にて分離したゲーサイトを含む混合物とが、後述する浸出工程S3における酸浸出処理に供される鉱石スラリーとなる。また、第2の分級工程S23、第3の分級工程S24にて分級処理を施した場合には、それぞれの処理により得られたゲーサイトを含む混合物が、酸浸出処理に供される鉱石スラリーとなる。なお、これらの鉱石スラリーは、ポンプによる圧力で配管を通って酸浸出処理を行うオートクレーブ等の加圧反応容器に装入される。
(3)浸出工程
浸出工程S3では、鉱石スラリー処理工程S2を経てクロマイトが分離除去された後の鉱石スラリーに対し、例えば高圧酸浸出法を用いた酸浸出処理を施す。具体的には、オートクレーブ等の加圧反応容器内で、原料となる鉱石スラリーに硫酸を添加し、220℃〜280℃、好ましくは240℃〜270℃の高温の温度条件下で加圧しながら鉱石スラリーを攪拌し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成させる。
酸浸出処理では、下記式(i)〜(iii)で表される浸出反応と下記式(iv)及び(v)で表される高温熱加水分解反応が生じ、ニッケルやコバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。
・浸出反応
MO+HSO ⇒ MSO+HO ・・・(i)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)+3HSO ⇒ Fe(SO+6HO ・・・(ii)
FeO+HSO → FeSO+HO ・・・(iii)
・高温熱加水分解反応
2FeSO+HSO+1/2O ⇒ Fe(SO+H
・・・(iv)
Fe(SO+3HO ⇒ Fe+3HSO ・・・(v)
酸浸出処理で用いる硫酸の使用量としては、特に限定されず、鉱石中の鉄が浸出され、へマタイトに変化するのに必要な化学当量よりもやや過剰量、例えば、鉱石1トン当り300kg〜400kgが用いられる。特に、鉱石1トン当りの硫酸添加量が400kgを超えると、硫酸コスト及び後工程での中和剤コストが増加して好ましくない。また、生成物からみた硫酸使用量としては、浸出終了時の遊離硫酸の濃度が25g/L〜50g/Lとなることを目標とし、好ましくは35g/L〜45g/Lとなるような硫酸使用量とする。このような条件を満足することで、浸出残渣の真密度を高めて高密度の浸出残渣を安定的に産出し、スラリーの固液分離性を向上させることができ、次工程の固液分離工程S4における処理設備を簡素化できる。
ここで、酸浸出処理においては、鉱石スラリー処理工程S2を経て得られた鉱石スラリーが、配管等の設備を通じてオートクレーブ等に移送される。このとき、鉱石スラリー中にクロマイトが含まれていると、その配管やポンプ等の設備を著しく摩耗させ、補修頻度を高めてメンテナンスコストを上昇させてしまう。また、補修時にはプラントの稼働を停止させる必要も生じ、操業効率を悪化させる大きな要因となる。
この点、本実施の形態では、鉱石スラリー処理工程S2において、鉱石スラリーからクロマイトを効率的にかつ効果的に分離除去しているので、浸出処理に供される鉱石スラリー中のクロマイトが低減されている。しかも、ハイドロサイクロンが並列に構成された装置を用いて分級処理を行い、鉱石スラリーの供給流量に応じてハイドロサイクロンの使用本数をコントロールしていることから、鉱石スラリーの供給流量が増加した場合でも、酸浸出処理に供する鉱石スラリーの品質を効果的に安定化させることができる。これらの結果、鉱石スラリーを配管等の設備を介して移送するに際し、その配管等の設備の摩耗を抑制することができ、操業効率の低下を防ぐことが可能となる。
(4)固液分離工程
固液分離工程S4では、浸出工程S3を経て得られた浸出スラリーを多段で洗浄しながら、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素を含む浸出液と、浸出残渣とを分離する。
例えば、浸出スラリーと洗浄液とを混合した後、シックナー等の固液分離設備により固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合いに応じて減少させることができる。なお、固液分離処理においては、例えばアニオン系の凝集剤を添加して行うようにしてもよい。
より好ましくは、浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離をすることが好ましい。多段洗浄方法としては、例えば、浸出スラリーに対して洗浄液を向流に接触させる連続向流洗浄法を用いることができる。これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を95%以上に向上させることができる。また、洗浄液(洗浄水)としては、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることが好ましい。例えば、洗浄液として、好ましくは、後工程の硫化工程S7で得られる貧液を繰り返して利用できる。
(5)中和工程
中和工程S5では、固液分離工程S4にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケルやコバルトを含む中和終液を得る。
具体的には、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4以下、好ましくは3.0〜3.5、より好ましくは3.1〜3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加する。これにより、中和終液と不純物元素として3価の鉄やアルミニウム等を含む中和澱物スラリーとを生成させる。このようにして不純物を中和澱物として除去し、ニッケル回収用の母液となる中和終液を生成させる。
(6)亜鉛除去工程
亜鉛除去工程S6では、ニッケル及びコバルトを硫化物として分離するに先立ち、中和工程S5で得られた中和終液に対し、硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化反応を生じさせる。これにより、亜鉛を含む硫化物(硫化亜鉛澱物)と、ニッケル回収用の母液とを生成する。
亜鉛除去工程S6における処理では、硫化反応の際に弱い条件を作り出すことで硫化反応の速度を抑制し、亜鉛と比較して濃度の高い共存するニッケルの共沈を抑制する。これにより、中和終液から亜鉛を選択的に除去する。亜鉛除去処理により得られた硫化亜鉛澱物のスラリーは、中和工程S5で得られる中和澱物スラリーと同様に、最終中和工程S8に移送させて処理することができる。
(7)硫化工程
硫化工程S7では、亜鉛除去工程S6を経て得られたニッケル回収用の母液に対し、硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化反応を生じさせ、ニッケル及びコバルトを含む硫化物(以下、「ニッケルコバルト混合硫化物」ともいう)と貧液とを生成させる。
ニッケル回収用の母液は、浸出液から中和工程S5を経て不純物成分が低減され、また亜鉛除去工程S6を経て亜鉛が除去された硫酸酸性溶液である。なお、ニッケル回収用の母液には、不純物成分として鉄、マグネシウム、マンガン等が数g/L程度含まれている可能性があるが、これら不純物成分は、回収するニッケル及びコバルトに対して硫化物としての安定性が低く、したがって生成するニッケルコバルト混合硫化物に含有されることはない。
硫化処理は、ニッケル及びコバルトの回収設備にて実行される。回収設備は、例えば、母液に対して硫化水素ガス等を吹き込んで硫化反応を行う硫化反応槽と、硫化反応後液からニッケルコバルト混合硫化物を分離回収する固液分離槽と、を備える。固液分離槽は、例えばシックナー等によって構成され、生成した硫化物を含んだ硫化反応後のスラリーに対して沈降分離処理を施すことで、沈殿物であるニッケルコバルト混合硫化物をシックナーの底部より分離回収する。一方で、水溶液成分はオーバーフローさせて貧液として回収する。なお、回収した貧液は、ニッケル等の有価金属濃度が極めて低い溶液であり、硫化されずに残留した鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む。貧液は、後述する最終中和工程S8に移送されて無害化処理される。
(8)最終中和工程
最終中和工程S8では、上述した硫化工程S7にて排出された鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む貧液に対し、排出基準を満たす所定のpH範囲に調整する中和処理(無害化処理)を施す。最終中和工程S8では、固液分離工程S4における固液分離処理から排出された浸出残渣のスラリーも併せて処理できる。また、必要に応じて、亜鉛除去工程S6にて得られる硫化亜鉛澱物のスラリーを併せて処理できる。
無害化処理の方法としては、特に限定されないが、例えば炭酸カルシウム(石灰石)スラリーや水酸化カルシウム(消石灰)スラリー等の中和剤を添加することで所定のpH範囲に調整する方法が挙げられる。具体的には、pHを8〜9程度に調整する。
このような中和剤を用いた中和処理により、最終中和残渣が生成され、テーリングダムに貯留される。一方で、中和処理後の溶液は、排出基準を満たすものとなり、系外に排出される。
ここで、最終中和工程S8にて生成される最終中和残渣には、浸出残渣中のヘマタイトやクロマイト等の不純物成分のほか、中和工程S5等にて発生した石膏等を含有する。そして、当然に、これらの不純物成分等の量が多ければ、最終中和残渣の量も多くなり、テーリングダムの建設や維持管理のコスト負担も大きくなる。
この点に、本実施の形態では、鉱石スラリー処理工程S2において、鉱石スラリーからクロマイトを効率的にかつ効果的に分離除去しているので、浸出工程S3における酸浸出処理に供される鉱石スラリー中のクロマイトが低減されている。このことにより、その酸浸出処理により生成する浸出残渣中のクロマイトの量も抑制させることができ、したがって、最終中和工程S8にて生成される最終中和残渣の量も有効に低減できる。これにより、テーリングダムの建設や維持管理のコスト上昇も抑えることができ、効率的な操業を行うことが可能となる。
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例、及び参考例における金属の分析は、蛍光X線分析法又はICP分析法を用いて行った。
[実施例]
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス(図3の工程図を参照)において、オートクレーブを使用下硫酸による酸浸出処理(浸出工程S3)を行うにあたって、ニッケル酸化鉱石から調製した鉱石スラリーのうち、酸浸出処理に供する鉱石スラリーからクロマイトを分離除去する鉱石スラリーの処理(図3の工程図の鉱石スラリー処理工程S2。図2の工程図を参照。)を行った。
具体的には、鉱石スラリー処理工程S2のうちの第1の分級工程S21における処理を以下のようにして行った。すなわち、ニッケル酸化鉱石から調製した鉱石スラリーに対し、第1の装置として、複数本(複数段)のハイドロサイクロン(アタカ大機株式会社製,MD−9型)を並列に構成した装置を使用して分級処理を行った。
このとき、第1の装置に連続的に供給される鉱石スラリーの供給流量に応じて、ハイドロサイクロンの使用本数をコントロールするようにした。より具体的には、複数本のハイドロサイクロンを並列に構成した第1の装置において、ハイドロサイクロン1本あたりの鉱石スラリーの供給流量を100m/h、入口圧力を0.21MPaに保持できるように、第1の装置への鉱石スラリーの供給流量に応じてハイドロサイクロンの使用本数をコントロールした。
なお、第1の装置おいては、ハイドロサイクロンの上流側に、処理対象の鉱石スラリーを貯留し、ハイドロサイクロンにスラリーを供給するスラリー供給槽を備えるようにし、鉱石スラリーの供給量の目安について、そのスラリー供給槽内のスラリーの高さ貯留レベルに基づいて判断できるようにした。また、その第1の装置を用いた分級処理では、鉱石スラリーの濃度は15質量%とし、スラリー温度を常温とした。このような分級処理により、細粒の鉱石粒子を含むオーバーフローと、粗粒の鉱石粒子を含むアンダーフローとに分離した。
[比較例]
比較例では、鉱石スラリーの供給流量にかかわらずハイドロサイクロンの使用本数を12本に固定して分級処理を行った。このこと以外は、実施例と同様にして処理した。
[参考例]
参考例として、ハイドロサイクロンの使用本数を3本とし、ハイドロサイクロン1本あたりの鉱石スラリーの供給流量が100m/h、入口圧力が0.21MPaの条件で処理できる流量の鉱石スラリーを供給して、分級処理を行った。このこと以外は、実施例と同様にして処理した。
[結果]
下記表1に、上述した実施例、比較例、及び参考例の処理条件と、その分級処理により得られたアンダーフロー(粗粒部)における鉱石粒子の平均粒径(D50)、45μm以下の鉱石粒子の含有割合(質量%)の測定結果を示す。
なお、アンダーフローとして得られた鉱石スラリーの品質について「良い」又は「悪い」で評価した結果も併せて示す。具体的には、当該分級処理前の鉱石スラリーに含まれる45μm以下の鉱石粒子割合である86質量%に対して、アンダーフローに含まれる45μm以下の鉱石粒子割合が55質量%まで下がった場合を「良い」とし、55質量%を超える場合を「悪い」と評価した。
Figure 2021155771
表2に示されるように、実施例では、鉱石スラリーの供給流量に応じてハイドロサイクロンの使用本数をコントロールしたことにより、ハイドロサイクロン1本あたりの供給流量や入口圧力を一定に保持でき、その結果、処理前の鉱石スラリーと比べて、得られたアンダーフローに含まれる45μm以下の細粒の割合も55質量%まで効果的に低減できた。つまり、ハイドロサイクロンを用いて有効な分級処理を行うことができた。
このことは、上記の実施例の結果が、参考例の結果と同等の結果であったことからも、正常にかつ効果的に分級処理を行うことができたと判断できる。
これに対して、比較例では、鉱石スラリーの供給流量にかかわらず、ハイドロサイクロンの使用本数を12本に固定したことから、ハイドロサイクロン1本あたりの供給流量や入口圧力にはばらつきが生じた。その結果、得られたアンダーフローには、45μm以下の細粒の割合が55質量%を超えるものもあり、鉱石スラリーの品質としてもばらつきが大きいものであった。

Claims (5)

  1. ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける酸浸出処理に供する鉱石スラリーの連続的な処理方法であって、
    少なくとも、
    前記ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーに対して、複数本のハイドロサイクロンが並列に構成される装置を使用して分級処理を施し、オーバーフローとしてゲーサイトを含む混合物を分離し、アンダーフローとしてクロマイトを含む混合物を分離する分級工程を含み、
    前記分級工程にて分離した前記ゲーサイトを含む混合物を、前記酸浸出処理に供する鉱石スラリーとし、
    さらに、
    前記装置は、処理対象の前記鉱石スラリーを貯留し、前記ハイドロサイクロンへ供給するスラリー供給槽を備え、
    前記スラリー供給槽内の鉱石スラリーの量が増加した場合には、前記ハイドロサイクロンの使用本数を増加させるとともに、該スラリー供給槽からの鉱石スラリーの合計供給流量を増加させるようにし、
    前記スラリー供給槽内の鉱石スラリーの量が減少した場合には、前記ハイドロサイクロンの使用本数を減少させるとともに、該スラリー供給槽からの鉱石スラリーの合計供給流量を減少させるようにする、
    鉱石スラリーの処理方法。
  2. 前記分級工程にて使用する前記装置を第1の装置としたとき、
    第2の装置として、少なくともスパイラルコンセントレーター1段で構成される装置を使用して、前記ハイドロサイクロンのアンダーフローとして分離したクロマイトを含む混合物に対して比重分離処理を行い、該クロマイトを含む混合物に含まれるゲーサイトを分離してクロマイトを濃縮させた混合物を得る比重分離工程をさらに有し、
    前記分級工程及び前記比重分離工程にて分離した前記ゲーサイトを含む混合物を、前記酸浸出処理に供する鉱石スラリーとする、
    請求項1に記載の鉱石スラリーの処理方法。
  3. 前記分級工程では、
    前記装置において、前記スラリー供給槽内に貯留されている鉱石スラリーの、槽底面からスラリー液面までの高さ貯留レベルの測定値に基づいて、前記ハイドロサイクロンの使用本数を増減させる、
    請求項1又は2に記載の鉱石スラリーの処理方法。
  4. 前記分級工程では、前記装置において、
    前記スラリー供給槽の前記高さ貯留レベルの最も高いレベルを100%としたとき、
    前記スラリー供給槽内に貯留されている鉱石スラリーの高さ貯留レベルが20%〜80%の範囲の場合、前記ハイドロサイクロン1本あたりへの流量を基準一定範囲に保持しながら、該ハイドロサイクロンの使用本数を増減させる、
    請求項3に記載の鉱石スラリーの処理方法。
  5. 前記分級工程では、前記装置において、
    前記鉱石スラリーの高さ貯留レベルが80%を超える場合には、前記ハイドロサイクロンの使用本数を増加させるとともに、該ハイドロサイクロン1本あたりへの流量を前記基準一定範囲よりも増加させ、
    前記鉱石スラリーの高さ貯留レベルが20%未満の場合には、前記ハイドロサイクロンへの該鉱石スラリーの供給を停止する、
    請求項4に記載の鉱石スラリーの処理方法。
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