JP2021139041A - 熱間工具鋼および熱間工具 - Google Patents

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Abstract

【課題】靭性および耐焼割れ性に優れた熱間工具鋼と、熱間工具とを提供する。【解決手段】質量%で、C:0.35〜0.39%、Si:0.25〜0.35%、Mn:0.55〜0.65%、Ni:0〜0.15%、Cr:5.20〜5.50%、MoおよびWは単独または複合で(Mo+1/2W):1.25〜1.50%、V:0.70〜0.85%、残部Feおよび不純物で、下記の式1および式2で算出されるA値:6.40〜7.00およびB値:0.90〜1.00を満たす熱間工具鋼または熱間工具である。式1:A値=−0.7[%Si]+1.5[%Mn]+1.3[%Ni]+0.9[%Cr]+0.6[%(Mo+1/2W)]+0.3[%V]、式2:B値=1.9[%C]+0.043[%Si]+0.12[%Mn]+0.09[%Ni]+0.042[%Cr]+0.03[%(Mo+1/2W)]−0.12[%V]【選択図】図2

Description

本発明は、プレス金型や鍛造金型、ダイカスト金型、押出工具といった多種の熱間工具に最適な熱間工具鋼と、その熱間工具に関するものである。
熱間工具は、高温の被加工材や硬質な被加工材と接触しながら使用されるため、衝撃に耐え得る靭性を備えている必要がある。そして、従来、熱間工具鋼には、例えばJIS鋼種であるSKD61系の合金工具鋼が用いられていた。また、最近の更なる靱性向上の要求に応えて、前記SKD61系の合金工具鋼の成分組成を改良した合金工具鋼が提案されている(特許文献1〜6)。
熱間工具鋼は、通常、鋼塊または鋼塊を分塊加工した鋼片でなる素材を出発材料として、これに様々な熱間加工や熱処理を行って所定の鋼材とし、この鋼材に焼鈍処理を行って製造される。そして、この製造された熱間工具鋼は、通常、硬さの低い焼鈍状態で、熱間工具の作製メーカー側に供給されて、熱間工具の形状に機械加工された後、焼入れ焼戻しによって所定の使用硬さに調整される。また、この使用硬さに調整された後に、仕上げ加工を行うことが一般的である。そして、熱間工具鋼の靭性は、この焼入れ焼戻しされた状態(つまり、熱間工具に相当する状態)で評価される。
特開2006−104519号公報 欧州特許出願公開第2194155号明細書 特開平6−322483号公報 特開昭63−203744号公報 特開平11−90611号公報 特開2018−131654号公報
ところで、熱間工具鋼に焼入れ焼戻しを行なう際、機械加工された熱間工具鋼の工具形状が複雑であると、焼入れ冷却中に、その凹部等を起点とした“焼割れ”が生じることが問題となる。そして、焼割れが顕著であると、その後の仕上げ加工でもこの“割れ”を除去し難く、熱間工具の不良の要因となる。この点において、特許文献1、2には、優れた靭性および耐焼割れ性を達成する上で、検討の余地があった。
本発明の目的は、靭性および耐焼割れ性に優れた熱間工具鋼および熱間工具を提供することである。
以上の課題に鑑みて、本発明者が鋭意研究を行ったところ、焼入れ冷却中の変態挙動を精細に解析することで、熱間工具鋼には、焼割れの発生を抑えながら、高い靭性を得ることができる好適な成分範囲があることをつきとめた。
すなわち、本発明は、質量%で、C:0.35〜0.39%、Si:0.25〜0.35%、Mn:0.55〜0.65%、Ni:0〜0.15%、Cr:5.20〜5.50%、MoおよびWは単独または複合で(Mo+1/2W):1.25〜1.50%、V:0.70〜0.85%、残部Feおよび不純物でなり、下記の式1および式2で算出される各元素の含有量の関係が、A値:6.40〜7.00およびB値:0.90〜1.00を満たす熱間工具鋼である。式1、2の[]括弧内は各元素の含有量(質量%)を示す。
式1:A値=−0.7[%Si]+1.5[%Mn]+1.3[%Ni]+0.9[%Cr]+0.6[%(Mo+1/2W)]+0.3[%V]
式2:B値=1.9[%C]+0.043[%Si]+0.12[%Mn]+0.09[%Ni]+0.042[%Cr]+0.03[%(Mo+1/2W)]−0.12[%V]
そして、本発明は、質量%で、C:0.35〜0.39%、Si:0.25〜0.35%、Mn:0.55〜0.65%、Ni:0〜0.15%、Cr:5.20〜5.50%、MoおよびWは単独または複合で(Mo+1/2W):1.25〜1.50%、V:0.70〜0.85%、残部Feおよび不純物でなり、下記の式1および式2で算出される各元素の含有量の関係が、A値:6.40〜7.00およびB値:0.90〜1.00を満たす熱間工具である。式1、2の[]括弧内は各元素の含有量(質量%)を示す。
式1:A値=−0.7[%Si]+1.5[%Mn]+1.3[%Ni]+0.9[%Cr]+0.6[%(Mo+1/2W)]+0.3[%V]
式2:B値=1.9[%C]+0.043[%Si]+0.12[%Mn]+0.09[%Ni]+0.042[%Cr]+0.03[%(Mo+1/2W)]−0.12[%V]
本発明の熱間工具鋼または熱間工具は、上記の不純物のうち、質量%で、P:0.05%以下、S:0.01%以下であることが好ましい。
また、本発明の熱間工具鋼または熱間工具は、上記の不純物のうち、質量%で、O:0.003%以下、N:0.03%以下であることが好ましい。
本発明によれば、焼入れ時の焼割れを抑制でき、焼入れ焼戻し後の靭性に優れた熱間工具鋼と、その熱間工具とを提供することができる。
実施例の焼割れ試験で用いた試験片の形状を示す図である。 実施例の焼割れ試験を行った後の、本発明例の試験片の溝底のコーナーを示す図面代用写真である。 実施例の焼割れ試験を行った後の、比較例の試験片の溝底のコーナーを示す図面代用写真である。
本発明の特徴は、熱間工具鋼(または熱間工具)の成分組成について、それを構成する各元素の含有量を最適かつ限定された範囲に調整したことで、靭性および耐焼割れ性に優れた熱間工具鋼を達成できたところにある。つまり、熱間工具鋼を上記の成分組成とすることで、その熱間工具鋼の製造方法は従来のままとし、焼入れ焼戻し条件も従来のままとしても、焼入れ冷却中の焼割れを抑制できて、かつ、焼入れ焼戻し後の高い靭性を付与できる。
焼入れとは、熱間工具鋼をオーステナイト温度域にまで加熱し、これを冷却(急冷)することで、組織をマルテンサイトやベイナイトに変態させる工程である。そして、熱間工具鋼に焼入れを行うと、その表面に比べて、内部での変態が起きるタイミングが遅く、このことによって、熱間工具鋼の各位置で膨張差が生じる。そして、各種金型の形状面といったように、熱間工具鋼の工具形状が複雑であると、その凹部(コーナー部)に応力が集中して、焼割れが発生しやすい。
そして、熱間工具鋼では、焼入れ焼戻し後の優れた靭性を付与するために、焼入れ性を向上させるCr、Mn、Mo、W、Ni等の元素が添加され得るところ、そうすると、焼入れ冷却中の変態時の膨張量が増加して、焼割れが更に顕著になる要因となる。
そこで、本発明では、上記の焼入れ冷却中の変態挙動を精細に解析することで、熱間工具鋼には、焼割れの発生を抑えながら、高い靭性を得ることができる好適な成分範囲が存在することを見いだした。以下、本発明の熱間工具鋼(または熱間工具)の成分組成の詳細を述べる。
・C:0.35〜0.39質量%(以下、単に「%」と表記)
Cは、一部が基地中に固溶して強度を付与し、一部は炭化物を形成することで耐摩耗性や耐焼付き性を高める、熱間工具鋼の基本元素である。但し、Cの過度の添加は、熱間強度の低下に作用する。そして、焼入れ冷却中の焼割れを助長する。よって、Cは、0.35〜0.39%とする。好ましくは0.36%以上である。また、好ましくは0.38%以下である。
・Si:0.25〜0.35%
Siは、製鋼時の脱酸剤であるとともに被削性を高める元素である。しかし、Siが多過ぎると、焼入れ焼戻し組織中に針状のベイナイトが生成して工具の靭性が低下する。また、焼入れ冷却時のベイナイト組織中において、セメンタイト系の炭化物の析出を抑制することで、間接的に焼戻し時の合金炭化物の析出・凝集・粗大化を促進して、高温強度を低下させる。そして、焼入れ冷却中の焼割れを助長する。よって、Siは、0.25〜0.35%とする。好ましくは0.27%以上である。より好ましくは0.29%以上である。また、好ましくは0.33%以下である。より好ましくは0.31%以下である。
・Mn:0.55〜0.65%
Mnは、焼入性を高めてフェライトの生成を抑制し、焼入れ焼戻し後の靭性の向上に寄与する元素である。また、適度の焼入れ焼戻し硬さを得るのに効果的な元素である。さらに、非金属介在物のMnSとして組織中に存在すれば、被削性の向上に大きな効果を示す元素である。しかし、Mnが多過ぎると、基地の粘さを上げて被削性を低下させる。そして、焼入れ冷却中の焼割れを助長する。よって、Mnは、0.55〜0.65%とする。好ましくは0.57%以上である。より好ましくは0.59%以上である。さらに好ましくは0.60%以上である。また、好ましくは0.63%以下である。
・Ni:0〜0.15%
Niは、フェライトの生成を抑制する元素である。また、Cr、Mn、Mo、Wなどとともに熱間工具鋼に優れた焼入性を付与し、緩やかな焼入冷却速度の場合にも、マルテンサイト主体の組織を形成させ、靭性の低下を防ぐのに効果的な元素である。また、基地の本質的な靭性改善効果を与える元素でもある。
但し、Niが多過ぎると、熱間工具の高温強度が低下する。また、基地の粘さを上げて被削性が低下する。そして、焼入れ冷却中の焼割れを助長する。したがって、本発明においては、熱間工具鋼の耐焼割れ性を確保するために、Niの上限を厳しく管理することが重要である。そして、後述の式1、2によるA値およびB値を満たすことで、Niは含有しなくても、熱間工具に優れた靭性を付与することが可能である。よって、Niは、0.15%以下に規制する。好ましくは0.14%以下である。より好ましくは0.12%以下である。さらに好ましくは0.10%未満である。そして、Niが不純物であるときは、その下限を0%とすることができる。
・Cr:5.20〜5.50%
Crは、焼入れ性を高めて、靭性の向上に効果的な元素である。また、組織中に炭化物を形成して基地の強化や耐摩耗性を向上させる効果を有し、焼戻し軟化抵抗や高温強度の向上にも寄与する、熱間工具鋼の基本元素である。しかし、Crの過度の添加は、高温強度の低下の要因になる。そして、焼入れ冷却中の焼割れを助長する。よって、Crは、5.20〜5.50%とする。好ましくは5.25%以上である。より好ましくは5.30%以上である。また、好ましくは5.45%以下である。より好ましくは5.40%未満である。
・MoおよびWは単独または複合で(Mo+1/2W):1.25〜1.50%
MoおよびWは、焼入性を高めて靭性を向上させるとともに、焼戻しにより微細炭化物を析出させて強度を付与し、軟化抵抗を向上させるために単独または複合で添加できる元素である。WはMoの約2倍の原子量であることから(Mo+1/2W)で規定することができる(当然、いずれか一方のみの添加としてもよいし、両方を添加することもできる)。但し、MoやWが多過ぎると、被削性が低下する。そして、焼入れ冷却中の焼割れを助長する。よって、MoおよびWは、(Mo+1/2W)のMo当量の関係式で1.25〜1.50%とする。好ましくは1.30%以上である。より好ましくは1.35%以上である。また、好ましくは1.45%以下である。より好ましくは1.43%以下である。さらに好ましくは1.41%以下である。
なお、本発明の場合、Wは高価な元素であることから、Wの全てをMoに替えることができる。このとき、Mo:1.25〜1.50%となる(好ましい範囲についても同じである)。但し、Wは不純物として含まれ得る。
上記したCrまたはMo当量の範囲において、特に、耐焼割れ性のさらなる向上を重視する場合は、CrまたはMo当量を、低値側に調整することが好ましい。CrまたはMo当量を低値側に調整することで、好ましくはCrおよびMo当量の両値を低値側に調整することで、後述する式2で算出されるB値を低めることに作用する。
・V:0.70〜0.85%
Vは、炭化物を形成して、基地の強化や耐摩耗性を向上する効果を有する。また、焼戻し軟化抵抗を高めるとともに、結晶粒の粗大化を抑制して、靭性の向上に寄与する。そして、焼入れ冷却中の焼割れの抑制に効果的な元素である。しかし、Vが多過ぎると、被削性の低下を招く。よって、Vは、0.70〜0.85%とする。好ましくは0.72%以上である。また、好ましくは0.80%以下である。より好ましくは0.78%以下である。
本発明の熱間工具鋼(または熱間工具)には、不純物として、P、S、O、Nが含まれ得る。
・P:0.05%以下
Pは、不可避的に含まれ得る元素である。そして、焼戻しなどの熱処理時に旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化し、熱間工具の靭性を劣化させる元素である。したがって、熱間工具の靭性を維持するために、0.05%以下に規制することが好ましい。より好ましくは0.03%以下である。さらに好ましくは0.015%以下である。よりさらに好ましくは0.01%以下である。
一方、本発明の場合、熱間工具鋼の成分組成が上記を満たして、特に、後述の式1、2の関係を満たしていることで、優れた靭性が確保されている。よって、ある程度のP含有量を許容できる。例えば、0.006%以上(好ましくは0.007%以上、より好ましくは0.008%以上)であっても、優れた特性を維持することができる。
・S:0.01%以下
Sは、不可避的に含まれ得る元素である。そして、熱間加工前の素材時において熱間加工性を劣化させ、熱間加工中の素材に割れを生じさせる元素である。したがって、上記の熱間加工性を向上するために、0.01%以下に規制することが好ましい。より好ましくは0.005%以下である。さらに好ましくは0.002%以下である。よりさらに好ましくは0.001%以下である。
・O:0.003%以下
O(酸素)は、不純物として鋼中に残留し得る元素である。Oは、粗大な介在物を形成するなどして、熱間工具の靭性を劣化させることから、一般的には低い方が好ましいとされる。したがって、熱間工具の靭性を維持するために、0.003%以下に規制することが好ましい。より好ましくは0.0025%以下、さらに好ましくは0.002%以下、よりさらに好ましくは0.0015%以下である。特に好ましくは0.001%以下である。
一方、本発明の場合、熱間工具鋼の成分組成が上記を満たして、特に、後述の式1、2の関係を満たしていることで、優れた特性が確保されている。よって、ある程度のO含有量を許容できる。例えば、0.0003%以上(好ましくは0.0004%以上、より好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.0007%以上)であっても、優れた特性を維持することができる。
・N:0.03%以下
N(窒素)もまた、不純物として鋼中に残留し得る元素であり、熱間工具の諸特性を劣化させることから、一般的には低い方が好ましいとされる。したがって、熱間工具の諸特性を維持するために、0.03%以下に規制することが好ましい。より好ましくは0.025%以下、さらに好ましくは0.02%以下、よりさらに好ましくは0.015%以下である。
一方、本発明の場合、熱間工具鋼の成分組成が上記を満たして、特に、後述の式1、2の関係を満たしていることで、優れた諸特性が確保されている。よって、ある程度のN含有量を許容できる。例えば、0.005%以上(好ましくは0.007%以上、より好ましくは0.008%以上、さらに好ましくは0.01%以上、よりさらに好ましくは0.012%以上)であっても、優れた諸特性を維持することができる。
上記のO、N含有量を許容できるということは、素材の溶製工程で、真空溶解を省略できて、大気溶解による溶製を可能にするものであることから、製造効率の向上に効果的である。そして、この結果、鋼塊を大型化できて、大型の熱間工具(鋼)にも対応することができる。
その他、Co、Cu、Tiも、不純物として鋼中に残留し得る元素である。そして、本発明において、これら元素は低い方が好ましい。なお、この場合、Co:1%以下、Cu:0.25%以下(好ましくは0.15%以下)、Ti:0.05%以下(好ましくは0.01%以下)の範囲であれば十分に許容でき、本発明の好ましい規制上限である(0%である場合を含む)。
・式1で算出されるA値:6.40〜7.00
式1:A値=−0.7[%Si]+1.5[%Mn]+1.3[%Ni]+0.9[%Cr]+0.6[%(Mo+1/2W)]+0.3[%V]([]括弧内は各元素の含有量(質量%)を示す。)
そして、本発明では、上述した熱間工具鋼(または熱間工具)の成分組成において、上記の式1で算出されるA値を「6.40以上」に管理することが重要となる。つまり、式1は、熱間工具鋼の専ら“靭性”に及ぼす、各元素の影響度を数値化したものである。そして、この式1で求められた「A値」が、ある成分組成の熱間工具鋼が有する“靭性”の程度を示す指標値である。
本発明の熱間工具鋼の場合、焼入れ焼戻し後の靭性に影響を及ぼす元素種として、「Si、Mn、Ni、Cr、Mo、W、V」を挙げることができる。そして、これら元素種のうち、Siは靭性の低下に作用し、Mn、Ni、Cr、Mo、W、Vは靭性の向上に作用することを、本発明者は知見した。そして、本発明者は、靭性の向上に作用するMn、Ni、Cr、Mo、W、Vに「プラス」の係数を付し、靭性の低下に作用するSiに「マイナス」の係数を付したとともに、それぞれの係数について、靭性の向上または低下に作用する程度に応じて、係数の値(絶対値)を定めたことで、相互的に変化する各元素の含有量と靭性とのバランスを熱間工具鋼の成分組成で評価できる上記の式を完成させた。
以上の係数の取り決めによって、上記の式1で算出されるA値を“大きくする”ということは、下記の耐焼割れ性を含めて、熱間工具鋼に求められるその他の特性への影響を少なく抑えて、熱間工具鋼の靭性を向上させるということである。そして、本発明においては、上記のA値を「6.40以上」とする。これによって、焼入れ冷却時に係る焼入れ性が向上する等して、焼入れ焼戻し後の靭性を高いレベルで維持することができる。好ましくは「6.45以上」である。より好ましくは「6.50以上」である。さらに好ましくは「6.55以上」である。
なお、熱間工具鋼の靭性を向上させることを考えれば、このA値の上限は、式1を構成するSi、Mn、Ni、Cr、Mo、W、Vの元素が、その個々の成分範囲を満たしている限りにおいて、特に要しない。しかし、A値が大きいと、特にCr、Mo、Wの含有量が多くなることが影響して、熱間工具鋼の耐焼割れ性が劣化する。よって、A値は、後述のB値との関係等にも応じて、「7.00以下」とする。好ましくは「6.90以下」である。より好ましくは「6.80以下」である。さらに好ましくは「6.70以下」である。
・式2で算出されるB値:0.90〜1.00
式2:B値=1.9[%C]+0.043[%Si]+0.12[%Mn]+0.09[%Ni]+0.042[%Cr]+0.03[%(Mo+1/2W)]−0.12[%V]([]括弧内は各元素の含有量(質量%)を示す。)
そして、本発明では、上述した熱間工具鋼(または熱間工具)の成分組成において、上記の式2で算出されるB値を「1.00以下」に管理することが重要となる。つまり、式2は、熱間工具鋼の専ら“耐焼割れ性”に及ぼす、各元素の影響度を数値化したものである。そして、この式2で求められた「B値」が、ある成分組成の熱間工具鋼が有する“耐焼割れ性”の程度を示す指標値である。
本発明の熱間工具鋼の場合、焼入れ冷却中の焼割れに影響を及ぼす元素種として、「C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、W、V」を挙げることができる。そして、これら元素種のうち、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Wは耐焼割れ性の低下に作用し、Vは耐焼割れ性の向上に作用することを、本発明者は知見した。そして、本発明者は、耐焼割れ性の向上に作用するVに「マイナス」の係数を付し、耐焼割れ性の低下に作用するC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Wに「プラス」の係数を付したとともに、それぞれの係数について、耐焼割れ性の向上または低下に作用する程度に応じて、係数の値(絶対値)を定めたことで、相互的に変化する各元素の含有量と耐焼割れ性とのバランスを熱間工具鋼の成分組成で評価できる上記の式を完成させた。
以上の係数の取り決めによって、上記の式2で算出されるB値を“小さくする”ということは、上記の靭性を含めて、熱間工具鋼に求められるその他の特性への影響を少なく抑えて、熱間工具鋼の耐焼割れ性を向上させるということである。そして、本発明においては、上記のB値を「1.00以下」とする。特に、このB値は、厳格に管理する必要がある。これによって、焼入れ冷却中の熱間工具鋼に生じる膨張差に対応できて、焼入れ冷却中の焼割れを抑制することができる。
なお、熱間工具鋼の耐焼割れ性を向上させることを考えれば、このB値の下限は、式2を構成するC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、W、Vの元素が、その個々の成分範囲を満たしている限りにおいて、特に要しない。しかし、B値が小さいと、特にCr、Mo、Wの含有量が少なくなることが影響して、熱間工具鋼の靭性が劣化する。よって、B値は、上述のA値との関係等にも応じて、「0.90以上」とする。好ましくは「0.92以上」である。より好ましくは「0.95以上」である。
本発明の「焼入れ冷却中の焼割れ抑制」および「焼入れ焼戻し後の靭性向上」の効果に係る、上記の焼入れおよび焼戻しの温度は、素材の成分組成や狙い硬さ等によって異なるが、焼入れ温度は概ね1000〜1100℃程度、焼戻し温度は概ね500〜650℃程度であることが好ましい。
そして、焼入れ焼戻し硬さは50HRC以下とすることが好ましい。好ましくは40〜50HRCである。そして、より好ましくは41HRC以上である。さらに好ましくは42HRC以上である。また、より好ましくは48HRC以下である。さらに好ましくは46HRC以下である。
10tアーク溶解炉を用いて、表1の成分組成を有する鋼塊(大きさ約1.3m)を溶製した。この鋼塊に1200℃以上の温度に保持する均熱処理(ソーキング)を行った後、1000〜1250℃の間で熱間鍛造を行って、寸法が凡そ厚さ300mm×幅400mmを超える鋼材に仕上げた。そして、この鋼材に850〜900℃の焼鈍処理を行って、試料1〜5(本発明例)および11、12、13(比較例)の熱間工具鋼を作製した。表1には、本発明に係る式1および式2によって求めたA値およびB値も示す。なお、このA値およびB値は、小数第3位を四捨五入した値である。そして、本発明のA値およびB値の効果は、この小数第3位を四捨五入した値で評価することができる。
Figure 2021139041
<焼割れ試験>
試料から縦300mm×横300mm×高さ300mmのブロックを採取し、その一面に幅50mm、深さ100mmの溝を加工して、凹形状の試験片を作成した(図1)。凹部(溝底)のコーナー形状は2.0Rの曲率半径に仕上げてある。なお、試料1〜5については、より焼割れの発生しやすい条件として、上記の曲率半径が1.5Rのものを準備した。この試験片に、焼入れ温度が1020〜1030℃の焼入れを行った。焼入れ冷却は油冷にて行い、試験片の中心部の温度が200〜250℃に到達する時間で油から引き上げた。そして、そのまま焼戻し温度(500〜650℃)への加熱に移行し、狙い硬さを43HRCとする焼戻しを行った後に、その熱間工具に相当する試験片の表面に浸透探傷試験(カラーチェック)を行って、溝底のコーナーにおける焼割れの発生の有無を確認した。
<シャルピー衝撃試験>
試料からシャルピー衝撃試験片(S−T方向、2mmUノッチ)を採取して、これに焼入れ焼戻しを行った。焼入れは、焼入れ温度を1030℃とし、焼入れ冷却は加圧ガスにて行った。このとき、サイズが大きい実際の熱間工具鋼の中心部を想定して、焼入れ温度(1030℃)から、[焼入温度+室温(20℃)]/2までの温度(525℃)に冷却するのに要する時間(半冷時間と言う。)が90分程度の遅い冷却速度で冷却した。そして、焼入れの後に、500〜650℃のうちの種々の温度で焼戻しを行って、熱間工具に相当する43HRCの狙い硬さに調整し、仕上げ加工を行ってから、シャルピー衝撃試験を実施した。
<耐焼割れ性および靭性の評価>
焼割れ試験およびシャルピー衝撃試験の結果を、表2に示す。本発明例の試料1〜5では、30J/cm以上のシャルピー衝撃値が得られた。また、本発明例の試料1〜5では、その溝底のコーナーに焼割れが確認されなかった(図2)。そして、凹部の曲率半径が1.5Rの試験片でも、焼割れが確認されなかった。
これに対して、比較例の試料11は、A値が小さく、30J/cm以上のシャルピー衝撃値を達成しなかった。また、比較例の試料13は、B値が大きく、溝底のコーナーに焼割れが発生した。これについては、比較例の試料12も同様である。試料12は、試料13からSiおよびMoの含有量を減じて、Vの含有量を増やして、かつ、凹部の曲率半径が2.0Rであったにも関わらず、溝底のコーナーに焼割れが発生した(図3;筋状のものが浸透液である)。
Figure 2021139041
10tアーク溶解炉を用いて、表3の成分組成を有する鋼塊(大きさ約1.3m)を溶製した。この鋼塊に1200℃以上の温度に保持する均熱処理(ソーキング)を行った後、1000〜1250℃の間で熱間鍛造を行って、寸法が凡そ厚さ300mm×幅400mmを超える鋼材に仕上げた。そして、この鋼材に850〜900℃の焼鈍処理を行って、試料6、7(本発明例)の熱間工具鋼を作製した。表3には、本発明に係る式1および式2によって求めたA値およびB値も示す。なお、このA値およびB値は、小数第3位を四捨五入した値である。そして、本発明のA値およびB値の効果は、この小数第3位を四捨五入した値で評価することができる。
Figure 2021139041
<シャルピー衝撃試験>
試料からシャルピー衝撃試験片(S−T方向、2mmUノッチ)を採取して、これに焼入れ焼戻しを行った。焼入れは、焼入れ温度を1030℃とし、焼入れ冷却は加圧ガスにて行った。このとき、サイズが大きい実際の熱間工具鋼の中心部を想定して、焼入れ温度(1030℃)から、[焼入温度+室温(20℃)]/2までの温度(525℃)に冷却するのに要する時間(半冷時間と言う。)が90分程度の遅い冷却速度で冷却した。そして、焼入れの後に、500〜650℃のうちの種々の温度で焼戻しを行って、熱間工具に相当する43HRCの狙い硬さに調整し、仕上げ加工を行ってから、シャルピー衝撃試験を実施した。
<靭性の評価>
シャルピー衝撃試験の結果を、表4に示す。本発明例の試料6、7では、30J/cm以上のシャルピー衝撃値が得られた。
Figure 2021139041
そして、本発明例の試料6、7は、B値が1.00以下に管理されていることから、本発明例の試料1〜5と同様の優れた耐焼割れ性が期待できる。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.35〜0.39%、Si:0.25〜0.35%、Mn:0.55〜0.65%、Ni:0〜0.15%、Cr:5.20〜5.50%、MoおよびWは単独または複合で(Mo+1/2W):1.25〜1.50%、V:0.70〜0.85%、残部Feおよび不純物でなり、
    下記の式1および式2で算出される各元素の含有量の関係が、A値:6.40〜7.00およびB値:0.90〜1.00を満たすことを特徴とする熱間工具鋼。
    式1:A値=−0.7[%Si]+1.5[%Mn]+1.3[%Ni]+0.9[%Cr]+0.6[%(Mo+1/2W)]+0.3[%V]
    式2:B値=1.9[%C]+0.043[%Si]+0.12[%Mn]+0.09[%Ni]+0.042[%Cr]+0.03[%(Mo+1/2W)]−0.12[%V]
    []括弧内は各元素の含有量(質量%)を示す。
  2. 前記不純物のうち、質量%で、P:0.05%以下、S:0.01%以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱間工具鋼。
  3. 前記不純物のうち、質量%で、O:0.003%以下、N:0.03%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱間工具鋼。
  4. 質量%で、C:0.35〜0.39%、Si:0.25〜0.35%、Mn:0.55〜0.65%、Ni:0〜0.15%、Cr:5.20〜5.50%、MoおよびWは単独または複合で(Mo+1/2W):1.25〜1.50%、V:0.70〜0.85%、残部Feおよび不純物でなり、
    下記の式1および式2で算出される各元素の含有量の関係が、A値:6.40〜7.00およびB値:0.90〜1.00を満たすことを特徴とする熱間工具。
    式1:A値=−0.7[%Si]+1.5[%Mn]+1.3[%Ni]+0.9[%Cr]+0.6[%(Mo+1/2W)]+0.3[%V]
    式2:B値=1.9[%C]+0.043[%Si]+0.12[%Mn]+0.09[%Ni]+0.042[%Cr]+0.03[%(Mo+1/2W)]−0.12[%V]
    []括弧内は各元素の含有量(質量%)を示す。
  5. 前記不純物のうち、質量%で、P:0.05%以下、S:0.01%以下であることを特徴とする請求項4に記載の熱間工具。
  6. 前記不純物のうち、質量%で、O:0.003%以下、N:0.03%以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の熱間工具。
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