JP2021132508A - 円柱状工作物の補修部材、円柱状工作物及びその補修方法 - Google Patents

円柱状工作物の補修部材、円柱状工作物及びその補修方法 Download PDF

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Abstract

【課題】十分な環境遮断性能を有すると共に円柱状工作物を補強することが可能な円柱状工作物の補修部材、円柱状工作物及びその補修方法を提供する。【解決手段】コンクリート製電柱2の補修部材1は、繊維強化プラスチックからなるシートをロール状に丸めて形成され、負荷を掛けることで周方向に対向する一対の端部11、12の間に隙間を形成でき、負荷を解放することでコンクリート製電柱2の周りに巻き付けて装着できる程度に弾性変形可能である。コンクリート製電柱2の補修部材1は、負荷の掛けられていない状態でコンクリート製電柱2の直径よりも小さな直径を有してもよい。【選択図】図3

Description

本発明は、円柱状工作物の補修部材、円柱状工作物及びその補修方法に関する。
配電線、通信線等を架設するためにコンクリート製電柱が広く用いられている。コンクリート電柱は、低コストで強度があり、しかも耐久性にも優れているが、長期間にわたり風雨や直射日光に晒されることでコンクリート表面にひび割れが発生することがある。コンクリート製電柱に発生したひび割れを放置すると、ひび割れの範囲が徐々に拡大し、ひび割れから雨水が浸入して内部の鉄筋が腐食し、配電線、通信線等を支持するのに必要な強度が失われるおそれがある。
コンクリート製電柱にひび割れが発生した場合には、地面に埋設されたコンクリート製電柱を撤去し、新たなコンクリート製電柱に建て替えることがある。しかし、コンクリート製電柱の建て替えには、多くの時間やコストがかかるため、ひび割れが発生したコンクリート製電柱を補修し、その寿命を延ばすための試みがなされている。例えば、特許文献1には、コンクリート製電柱にドリル等で貫通孔を形成し、貫通孔から内部の空洞に樹脂コンクリートを注入して硬化させる補修方法が開示されている。
特開2002−209316号公報
特許文献1の補修方法では、コンクリート製電柱において十分な環境遮断が得られないため、雨水等に由来する塩化物イオンがコンクリートのひび割れから侵入し、内部の鉄筋を腐食させるおそれがある。また、特許文献1の補修方法では、ひび割れが生じたコンクリートの表面を補強していないため、コンクリート製電柱が破損、倒壊するおそれもある。そして、このような問題は、コンクリート製電柱に発生したコンクリートのひび割れを補修する場合のみならず、パンザーマスト等の他の円柱状工作物の損傷を補修する場合にも存在している。
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、十分な環境遮断性能を有すると共に円柱状工作物を補強することが可能な円柱状工作物の補修部材、円柱状工作物及びその補修方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る円柱状工作物の補修部材は、
繊維強化プラスチックからなるシートをロール状に丸めて形成され、負荷を掛けることで周方向に対向する一対の端部の間に隙間を形成でき、負荷を解放することで円柱状工作物の周りに巻き付けて装着できる程度に弾性変形可能である。
本発明によれば、十分な環境遮断性能を有すると共に円柱状工作物を補強することが可能な円柱状工作物の補修部材、円柱状工作物及びその補修方法を提供できる。
本発明の実施の形態に係る補修部材の構成を示す図である。 本発明の実施の形態に係る補修部材において周方向に対向する一対の端部を押し広げた図である。 本発明の実施の形態に係る補修部材をコンクリート製電柱に装着した様子を示す図である。 本発明の実施の形態に係る補修部材を長手方向に並べてコンクリート製電柱に装着した様子を示す図である。 実施例における補修部材を長手方向に並べてコンクリート製電柱に装着した例を示す図であり、(a)は、コンクリート製電柱に2つの補修部材を装着した場合を示し、(b)は、コンクリート製電柱に3つの補修部材を装着した場合を示し、(c)は、コンクリート製電柱に4つの補修部材を装着した場合を示す図である。 実施例におけるコンクリート製電柱の曲げ強度試験のための試験機の構成を示す図である。 (a)は、実施例における補修部材を装着したコンクリート製電柱の曲げ強度試験の様子を示す図であり、(b)は、実施例における補修部材を装着したコンクリート製電柱の破断性状を示す図である。 図5に示す条件で補修部材が装着されたコンクリート製電柱の限界モーメントを示すグラフである。
以下、本発明に係る円柱状工作物の補修部材、円柱状工作物及びその補修方法の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。以下、コンクリートにひび割れ等の欠損が発生したコンクリート製電柱を補修する場合を例に説明するが、補修部材による補修対象はコンクリート製電柱に限られない。
補修部材1は、コンクリートのひび割れ、鉄筋の腐食等の欠損が発生したコンクリート製電柱を補修する部材である。コンクリート製電柱は、内部に空洞を有する円環断面の柱状体であり、例えば、PC(Prestressed Concrete)鋼線等からなる鉄筋が全長にわたり配置されている。
補修部材1は、コンクリート製電柱の欠損が水分や塩化物イオン等の影響を受けないように被覆すると共に、コンクリート製電柱の欠損を補強する。図1に示すように、補修部材1は、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics:FRP)のシートを、繊維強化プラスチックの熱硬化性等を利用してロール状に丸めた形状を有している。補修部材1は、周方向に対向する一対の端部11、12を備える。ここで、周方向は、補修部材1をコンクリート製電柱に取り付けた際にコンクリート製電柱の周囲に沿った方向に対応する。また、長手方向は、周方向に交差する方向であり、補修部材1をコンクリート製電柱に取り付けた際にコンクリート製電柱が延在する方向に対応する。
図2に示すように、補修部材1は、一対の端部11、12を互いに引き離すことができる程度に弾性変形可能に形成されているため、一対の端部11、12を互いに引き離すように負荷を加えると、一対の端部11、12の間に隙間13を形成することができる。このため、作業者は、隙間13を用いてコンクリート製電柱2のひび割れ2aを覆うように補修部材1を配置できる。
他方、図3に示すように、作業者が一対の端部11、12を互いに引き離す負荷を解放すると、弾性変形していた補修部材1は元の形状に復元しようとし、コンクリート製電柱2の周りに巻き付くように装着される。補修部材1は、その装着前にコンクリート製電柱2の表面に予め塗布された接着剤によりコンクリート製電柱2に固定される。
繊維強化プラスチックのシートは、例えば、シート状の繊維に熱硬化性のマトリクス樹脂を含浸させて形成されている。繊維強化プラスチックは、炭素繊維の束を縦横に織ったシート状の織物材であり、例えば、6K平織りである。6Kは、束になっている繊維(フィラメント)の数が6000本であることを示す。補修部材1は、繊維強化プラスチックを構成する繊維の束が補修部材1の長手方向及び周方向に互いに交差するように構成されている。
繊維強化プラスチックは、例えば、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP)である。炭素繊維は、好ましくはポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維であるが、他の炭素繊維、例えば、ピッチ系炭素繊維であってもよい。炭素繊維の目付量は、例えば、430g/m〜490g/mの範囲内であり、好ましくは460g/mである。なお、炭素繊維の目付量は、炭素繊維強化プラスチックのシート1m当たりの炭素繊維の重量を示す。
マトリクス樹脂は、好ましくはエポキシ樹脂であるが、他の熱硬化性樹脂、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、フェノール、シアネートエステル、ポリイミド等であってもよい。炭素繊維強化プラスチックにおけるマトリクス樹脂の重量比は、例えば、30%〜50%の範囲内であり、好ましくは35%〜39%の範囲内であり、さらに好ましくは37%である。
補修部材1は、コンクリートのひび割れ、鉄筋の腐食等の欠損が生じた箇所に装着されることで、欠損を有するコンクリート製電柱2であってもJIS(Japanese Industrial Standards)規格に記されている強度基準を満たす程度にコンクリート製電柱2を補強する程度の強度を有する。補修部材1の引張強度は、規格値で3500N/25mm以上であり、実力値で6000N/25mm以上であることが好ましい。
補修部材1の長手方向の長さ(幅)は、例えば、30cm〜50cmの範囲内であり、好ましくは35cm〜45cmの範囲内であり、さらに好ましくは40cmである。補修部材1の長手方向の長さが40cm程度であれば、作業者一人でも補修部材1を容易に扱うことができる。
補修部材1の厚さは、補修部材1の強度、重量等を考慮して、2mm〜0.1mmの範囲内であり、好ましくは1mm〜0.1mmの範囲内であり、さらに好ましくは0.4mm又は0.5mmである。補修部材1は繊維強化プラスチックで形成されているため、補修部材1の厚さが0.4mm又は0.5mm程度であれば、コンクリート製電柱2の補強のための十分な強度を持たせることができる。
補修部材1の周方向の長さは、コンクリート製電柱2に装着された状態でコンクリート製電柱2の全周を完全に覆い、かつ、補修部材1の一対の端部11、12が互いに重なり合う程度に設定されている。炭素繊維の端部は紫外線の影響を受けて劣化しやすいため、補修部材1がコンクリート製電柱2に装着された状態で一対の端部11、12が互いに重なることで、端部11、12のいずれか露出しない方が紫外線の影響を受けて劣化することを防止できる。なお、補修部材1は、コンクリート製電柱2に対して接着剤で固定され、補修部材1がコンクリート製電柱2に巻き付けられることで重なる部分についても接着剤で互いに固定される。
補修部材1の周方向の長さは、一般的なコンクリート製電柱2の直径を考慮して、例えば、1000mm〜1400mmの範囲内であり、好ましくは1100mm〜1300mmの範囲内であり、さらに好ましくは1200mmである。コンクリート製電柱2は、下から上に向かって徐々に細くなるようにテーパーが付けられていることがある。この場合、補修部材1の周方向の長さは、コンクリート製電柱2の直径が最も太い最下部に合わせて設定すればよい。
補修部材1の直径は、コンクリート製電柱2の直径を考慮して、例えば、240mm〜300mmの範囲内であり、好ましくは270mmである。無負荷状態における補修部材1の直径は、装着されるコンクリート製電柱2の直径よりも小さくなるように設定されてもよい。これは、補修部材1をコンクリート製電柱2にしっかりと固定させるためである。
補修部材1の重量は、作業者一人でも補修部材1を容易に扱うことができるように設定され、例えば、200g〜240gの範囲内であり、好ましくは220gである。
コンクリート製電柱2のコンクリートのひび割れや鉄筋の腐食状態によっては、コンクリート製電柱2へのさらなる補強が必要な場合もある。コンクリート製電柱2の同一箇所に対して複数の補修部材1を厚さ方向(径方向)に重ねて装着してもよい。補修部材1に対して追加の補修部材1を重ねる場合には、重なり合う補修部材1の間に接着剤を塗布すればよい。
コンクリート製電柱2への複数の補修部材1の取り付けは、コンクリート製電柱2における劣化の進行の程度に応じて異なるタイミングで行ってもよい。例えば、1本目の補修部材1をコンクリート製電柱2に取り付けたとしても、その後にコンクリート製電柱2の劣化がさらに進行したならば、1本目の補修部材1と重なるように2本目の補修部材1を装着してもよい。2本目の補修部材1の装着の際には、1本目の補修部材1の表面を研磨し、研磨された1本目の補修部材1の表面に接着剤を塗布し、それから2本目の補修部材1を装着すればよい。
図4に示すように、複数の補修部材1を長手方向に並べてコンクリート製電柱2に装着してもよい。この手法は、例えば、コンクリート内の鉄筋が腐食等により欠損している場合やコンクリートのひび割れが広範囲にわたる場合に特に有用である。例えば、プレストレス構造のコンクリート製電柱2であれば、鉄筋が欠損することでコンクリートの耐力が低下するため、複数の補修部材1を長手方向に並べてコンクリート製電柱2に装着することが好ましい。図4では、3つの補修部材1a、1b、1cを長手方向に並べてコンクリート製電柱2に装着した例を示しているが、補修部材1の数は任意である。コンクリート製電柱2に装着される補修部材1の数は、例えば、2本〜4本の範囲内であることが好ましい。
複数の補修部材1を長手方向に並べてコンクリート製電柱2に装着する場合、隣り合う補修部材1の端部11、12同士が互いに重なり合うように複数の補修部材1を配置することが好ましい。なお、コンクリート製電柱2の各補修部材1が装着されたのと同一箇所に追加の補修部材1を重ねて装着することで、コンクリート製電柱2をさらに補強することができる。
以下、図1〜図3を参照して、補修部材1を用いて作業者が実行するコンクリート製電柱2の補修方法の流れを説明する。
まず、コンクリート製電柱2においてひび割れが存在する箇所を含むコンクリート表面の領域を研磨する。例えば、サンドペーパ♯60を用いてコンクリート製電柱2のコンクリート表面を研磨する。
次に、研磨されたコンクリート表面に接着剤を塗布する。接着剤は、例えば、二液性のエポキシ樹脂接着剤である。接着剤は、コンクリート表面において補修部材1が装着される領域の全体に塗布される。
次に、接着剤が塗布されたコンクリート表面を覆うように、コンクリート製電柱2に補修部材1を装着する。具体的には、図1に示す補修部材1の一対の端部11、12が互いに離れるように手で押し広げ、一対の端部11、12の間に隙間13を形成する。次に、図2に示すように、隙間13を用いてコンクリート製電柱2のひび割れ2aを覆うように補修部材1を配置する。次に、一対の端部11、12を押し広げていた手を離して解放することで、補修部材1が元の形状に戻ろうとし、コンクリート製電柱2に巻き付くように装着される。
次に、コンクリート製電柱2に装着された補修部材1をバンド等の締め付け手段で締め付け、コンクリート表面に塗布した接着剤が硬化するまで待機する。補修部材1による締め付け時間は、接着剤の種類や周囲環境の温度にもよるが、5分程度である。バンド等による補修部材1の締め付けは、接着剤による接着の初期段階において作業者や各種器具が補修部材1に接触し、補修部材1が剥がれたりずれたりすることを防止するために行われる。このため、バンド等による補修部材1の締め付けは任意である。
以上が、補修部材1を用いたコンクリート製電柱2の補修方法の流れである。
補修部材1は、繊維強化プラスチックのシートで構成されているため、接着剤を用いてコンクリート製電柱2に接着されることで、コンクリート製電柱2のひび割れ等に塩化物イオン等が侵入することを防止でき、コンクリート製電柱2に対する外部環境の影響を低減できる。また、補修部材1は、筒状に形成され、繊維強化プラスチックにおける繊維の束が長手方向及び周方向に延びるように配置されているため、コンクリート製電柱2に印加される縦荷重、横荷重のいずれにも対応でき、風圧荷重により生じるひび割れ幅の変動にも繊維の収縮により追従できるため、コンクリート製電柱2を効果的に補強できる。したがって、ひび割れ等が発生したコンクリート製電柱2であっても数十年程度延命させることができる。
また、補修部材1は、それ自体が磁気を帯びることがなく、コンクリート製電柱2に装着されたとしても磁気を用いたコンクリート製電柱2の非破壊検査を行うことができる。また、繊維強化プラスチックは燃えにくい素材であるため、何らかの原因で発火したとしても直ちに鎮火させることができ、安全である。
加えて、補修部材1は、一人で扱える程度の大きさであり、その重量も1本あたり200g程度と軽量であるため、へき地や山岳地等への運搬も容易であり、コンクリート製電柱2への装着も少人数で行うことができる。また、事前にコンクリート製電柱2の周囲を防護シート等で覆う必要もないため、補修部材1の施工に要する時間を短縮できる。
以上説明したように、実施の形態に係る円柱状工作物の補修部材1は、繊維強化プラスチックからなるシートをロール状に丸めて形成され、負荷を掛けることで周方向に対向する一対の端部11、12の間に隙間13を形成でき、負荷を解放することで円柱状工作物の周りに巻き付けて装着できる程度に弾性変形可能である。このため、簡便な構成でありながらも、コンクリート製電柱2に対する外部環境の影響を低減でき、コンクリート製電柱2を効果的に補強できる。
また、実施の形態に係る円柱状工作物の補修方法は、円柱状工作物の表面に接着剤を塗布する工程と、補修部材1の周方向に対向する一対の端部11、12を押し広げて隙間13を形成し、隙間13を用いて接着剤が塗布された円柱状工作物の周りに補修部材1を配置する工程と、補修部材1の周方向に対向する一対の端部11、12を解放することで円柱状工作物に対して補修部材1を巻き付ける工程と、を含む。このため、少人数の作業者であっても短時間で容易にコンクリート製電柱2を補修することができる。
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
(変形例)
上記実施の形態では、補修部材1をコンクリート製電柱2に装着していたが、本発明はこれに限られない。例えば、補修部材1を他の円柱状工作物、例えば、パンザーマスト等に装着してもよい。
上記実施の形態では、補修部材1が炭素繊維強化プラスチックで形成されていたが、本発明はこれに限られない。補修部材1を他の繊維強化プラスチック、例えば、アラミド繊維強化プラスチック(Aramid-Fiber-Reinforced Plastics:AFRP)で構成してもよい。アラミド繊維強化プラスチックは、炭素繊維強化プラスチックと同様に、磁気に影響されない非磁性体であるため、アラミド繊維強化プラスチックで形成された補修部材1をコンクリート製電柱2に装着しても、磁気を用いた非破壊検査を行うことができる。
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、人為的に一部を切断したコンクリート製電柱に補修部材を装着し、曲げ変形を加えることで、補修部材の強度性能評価試験(曲げ強度試験)を実施した。コンクリート製電柱には、先端側の架線を支持する支持点に水平方向の荷重が印加されるため、補修後のコンクリート製電柱がJIS規格の強度基準を満たすかどうかを曲げ強度試験により確認する。
まず、コンクリート製電柱の横断面をコンクリート製電柱内の鉄筋を含めて一部切断した。切断面の深さは、直径の半分程度である。コンクリート製電柱の切断箇所を含むようにコンクリート表面に接着剤を塗布してから補修部材を装着し、塗布された接着剤が硬化するまで待機した。補修部材は、炭素繊維強化プラスチック(PAN系炭素繊維、エポキシ樹脂、6K平織り)のシートから形成され、長手方向の長さが40cm、周方向の長さが1200mm、厚さが0.4mm、直径が270mmである。
曲げ強度試験では、図5(a)〜図5(c)に示す各条件でコンクリート製電柱に補修部材を装着した。コンクリート製電柱に2つの補修部材を装着した場合、補修部材が装着された部分の長手方向の長さは、0.75mである(2分割)。コンクリート製電柱に3つの補修部材を装着した場合、補修部材が装着された部分の長手方向の長さは、1.1mである(3分割)。コンクリート製電柱に4つの補修部材を装着した場合、補修部材が装着された部分の長手方向の長さは、1.45mである(4分割)。それぞれの場合において、コンクリート製電柱の同一箇所に補修部材を1巻きした場合、2重巻きした場合、3重巻きした場合の3通りについて曲げ強度試験を行った。なお、2分割2重巻きの条件では、作業者2名で約50分の施工時間で施工を行うことができた。
図6に示すように、曲げ強度試験用の試験機は、コンクリート製電柱の基端部を固定する固定台と、コンクリート製電柱の先端部を下から支持する支持台と、コンクリート製電柱の先端部を水平方向に牽引し、引張荷重を印加する牽引装置と、を備える。曲げ強度試験では、図7(a)に示すように、コンクリート製電柱の先端部を水平方向に牽引することで、コンクリート製電柱に引張荷重を印加した。
コンクリート製電柱に印加する引張荷重を徐々に増大させると、図7(b)に示すように、コンクリート製電柱の切断面からき裂が進展し、最終的にコンクリート製電柱が完全に破断した。次に、コンクリート製電柱が完全に破断した時点で印加していた引張荷重(破断荷重)にモーメント距離を乗算することで限界モーメントを算出した。モーメント距離は、コンクリート製電柱のうち固定台で固定された部分から牽引装置の金属チェーンにより接続された部分までの長さである。
次に、算出された限界モーメントに基づいて図5(a)〜図5(c)の各条件における補修部材の強度性能を評価した。図8に示すように、コンクリート製電柱の長手方向に並べて装着される補修部材の数が多いほど限界モーメントが増大した。また、コンクリート製電柱の同一箇所に補修部材を重ねて巻いた数が多いほど限界モーメントが増大した。また、図5(a)〜図5(c)に示すいずれの条件でも、JIS規格で規定されたコンクリート製電柱の強度基準を満たしていた。特に、補修部材を2重巻きした場合には、JIS規格の設計荷重の2.6倍以上の強度が得られた。厚さが0.5mmの補修部材を1巻きした場合について曲げ強度試験を行ったが、この場合にもJIS規格の設計荷重の2倍以上の強度が得られた。
(実施例2)
実施例2では、補修部材が装着されたコンクリート製電柱に対して塩水噴霧試験、促進耐候性試験、屋外暴露試験の各種耐候性試験を行った。その結果、塩害に対する耐久性能は55年以上、一般地区での耐久性能(紫外線系)は100年以上、屋外暴露試験では、20年以上であることが確認できた。したがって、実施の形態に係る補修部材は、コンクリート製電柱の延命化に好適であることが理解できる。
(実施例3)
実施例3は、内部鉄筋破断検出装置(株式会社電制製SBテスター)を用いた内部鉄筋の非破壊検査が可能かどうかを検証した。コンクリート製電柱の同一箇所に厚さ0.4mmの補修部材を5重に巻き付けたが、問題なく内部鉄筋の破断検査を行うことができた。したがって、実施の形態に係る補修部材は、内部鉄筋破断検出装置によるコンクリート製電柱の内部鉄筋の非破壊検査を妨げないことが理解できる。
1,1a,1b,1c 補修部材
11,12 端部
13 隙間
上記目的を達成するために、本発明に係る円柱状工作物の補修部材は、
繊維強化プラスチックからなるシートをロール状に丸めて形成され、負荷を掛けることで周方向に対向する一対の端部の間に隙間を形成でき、負荷を解放することで円柱状工作物の周りに巻き付けて装着できる程度に弾性変形可能であって、負荷の掛けられていない状態で円柱状工作物の直径よりも小さな直径を有する。

Claims (9)

  1. 繊維強化プラスチックからなるシートをロール状に丸めて形成され、負荷を掛けることで周方向に対向する一対の端部の間に隙間を形成でき、負荷を解放することで円柱状工作物の周りに巻き付けて装着できる程度に弾性変形可能な円柱状工作物の補修部材。
  2. 前記補修部材は、負荷の掛けられていない状態で円柱状工作物の直径よりも小さな直径を有する、
    請求項1に記載の円柱状工作物の補修部材。
  3. 前記補修部材の引張強度は、規格値で3500N/25mm以上である、
    請求項1又は2に記載の円柱状工作物の補修部材。
  4. 前記補修部材の長手方向の長さは、30cm〜50cmの範囲内であり、前記補修部材の厚さは、0.1mm〜2mmの範囲内である、
    請求項1から3のいずれか1項に記載の円柱状工作物の補修部材。
  5. 前記補修部材の周方向の長さは、前記補修部材を円柱状工作物に装着した場合に、前記円柱状工作物を周方向に覆い、周方向に対向する一対の端部が互いに重なり合う程度に設定されている、
    請求項1から4のいずれか1項に記載の円柱状工作物の補修部材。
  6. 請求項1から5のいずれか1項に記載の円柱状工作物の補修部材が周方向に巻き付けられ、接着剤により固定された円柱状工作物。
  7. 請求項1から5のいずれか1項に記載の円柱状工作物の補修部材を用いた円柱状工作物の補修方法であって、
    円柱状工作物の表面に接着剤を塗布する塗布工程と、
    前記補修部材の周方向に対向する一対の端部を押し広げて隙間を形成し、前記隙間を用いて接着剤が塗布された円柱状工作物の周りに前記補修部材を配置する配置工程と、
    前記補修部材の周方向に対向する一対の端部を解放することで円柱状工作物に対して前記補修部材を巻き付ける巻き付け工程と、
    を含む円柱状工作物の補修方法。
  8. 前記配置工程では、隣り合う前記補修部材の一部が互いに重なり合うように、長手方向に複数の補修部材を並べて配置する、
    請求項7に記載の円柱状工作物の補修方法。
  9. 前記配置工程では、円柱状工作物の同一箇所に複数の前記補修部材が径方向に重なり合うように配置する、
    請求項7又は8に記載の円柱状工作物の補修方法。
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