JP2021130830A - ベント鋼管 - Google Patents

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Nobunori Nomura
宣徳 野村
伸彰 高橋
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伸彰 高橋
修一 中村
Shuichi Nakamura
修一 中村
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Abstract

【課題】高強度、高靭性を有するベント鋼管を提供する。【解決手段】母材部が所定の化学組成を有し、引張強さ:520-760MPa、降伏応力:415-600MPaであり、溶接金属部の化学組成が、質量%で、C:0.03-0.08%、Si:0.05-0.50%、Mn:1.20-1.80%、P:0.015%以下、S:0.0050%以下、Cr:0.04-0.50%、Mo:0.01-0.25%、Ti:0.010-0.030%、Al:0.005-0.020%、N:0.0030-0.0060%、B:0.0010-0.0040%、O:0.015-0.035%、任意元素、残部:Feおよび不純物であり、Ceqが0.34以上であり、[0.30≦{6(B-0.7B)}×102+2(Mo-0.2Mo)≦0.90]、および[0.60≦{0.8(Cr-0.2Cr)×1.8(Mo-0.2Mo)}×102≦5.90]を満足する。【選択図】図1

Description

本発明は、ベント鋼管に関する。
石油、天然ガス等の燃料資源は、ラインパイプと呼ばれる鋼管を用いて輸送される。ラインパイプは、燃料資源を効率よく輸送するため、一般的には直線的な形状を有している。しかしながら、例えば、河川を横断する必要がある場所では、直線的な輸送経路を設定できない。そこで、ラインパイプに曲げ加工を行い、形状を変化させたベント鋼管が用いられる。
ベント鋼管は、通常、以下の手順で製造される。最初に、厚鋼板を円筒状に成形し、内外面から溶接を行って、直線状の溶接鋼管を製造する。その後、曲げを加える箇所を部分的に加熱して曲げ加工が行われる。例えば、特許文献1には、ベント鋼管の製造方法について、曲げ加工を行う箇所の温度条件ならびに、鋼管母材部の冷却速度および焼戻し条件を制御することが記載されている。
特開平7−90375号公報
このように、ベント鋼管は、曲げ加工に伴い加熱を行うために、しばしば加熱部の材料特性の低下が問題となる。この問題に加え、ベント鋼管では溶接を行う必要もあるため、溶接による材料特性の低下も問題となる。近年では、寒冷地等、ベント鋼管が使用される環境は、より過酷になっており、大径、肉厚のベント鋼管が求められる。その一方、上述した特性の低下に対し、特許文献1に記載された製造方法では、所望する強度と靭性とを有するベント鋼管を得られないという課題があった。
本発明は、上記課題を解決し、高強度、高靭性を有するベント鋼管を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、下記のベント鋼管を要旨とする。
(1)母材部と、溶接金属部とを有するベンド鋼管であって、
前記母材部の化学組成が、質量%で、
C:0.03〜0.08%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:1.00〜1.60%、
P:0.015%以下、
S:0.0020%以下、
Cr:0.10〜0.30%、
Mo:0.01〜0.30%、
Ti:0.005〜0.030%、
Al:0.060%以下、
N:0.0070%以下、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式で表されるCeqが0.30以上であり、
前記母材部の引張強さが、520〜760MPaであり、
前記母材部の降伏応力が、415〜600MPaであり、
前記溶接金属部の化学組成が、質量%で、
C:0.03〜0.08%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:1.20〜1.80%、
P:0.015%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:0.04〜0.50%、
Mo:0.01〜0.25%、
Ti:0.010〜0.030%、
Al:0.005〜0.020%、
N:0.0030〜0.0060%、
B:0.0005〜0.0040%、
O:0.015〜0.035%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式で表されるCeqが0.34以上であり、
下記(ii)および(iii)式を満足する、ベンド鋼管。
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15 ・・・(i)
0.30≦{6(B−0.7B)}×10+2(Mo−0.2Mo)≦0.90 ・・・(ii)
0.60≦{0.8(Cr−0.2Cr)×1.8(Mo−0.2Mo)}×10≦5.90 ・・・(iii)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
(2)前記母材部の化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Nb:0.10%以下、
V:0.10%以下、および
Ca:0.0040%以下、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)に記載のベント鋼管。
(3)前記溶接金属部の化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、
Cu:0.40%以下、
Ni:0.50%以下、
Nb:0.050%以下、および
V:0.50%以下、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)または(2)に記載のベンド鋼管。
本発明によれば、高強度、高靭性を有するベント鋼管を得ることができる。
図1は、硬度の測定位置を模式的に示した図である。 図2は、硬さ試験の測定結果を示したグラフである。
本発明者は、高強度、高靭性を有するベント鋼管について検討を行い、以下の(a)〜(d)の知見を得た。
(a)ベント鋼管は、局部的に曲げ加工を行うため、加工を行った部位と行っていない部位との間に硬度の差が生じる。この硬さの差が、特性の低下、具体的には、靭性の低下をもたらす一因となる。そこで、特性を維持するため、硬度差が生じないように材料設計を行う検討がされる。しかし、加工による硬度差だけに着目し、材料設計を行うと、今度は、溶接した部分の硬度が上昇し、鋼管内で硬度差が生じることを、本発明者らは知見した。この要因として、以下のものが考えられる。
(b)ベンド鋼管を製造する際、溶接後に、曲げ加工のため、通常鋼管外面から誘導加熱を行う。誘導加熱を行い、一定温度で保持する均熱時間は短時間であるので、外面側は内面側に比べて温度が高くなる傾向にある。
(c)温度が異なると鋼中に含まれる添加元素の固溶量も変化する。言い換えれば、溶接金属中に含まれる添加元素によっては、内面側と比較し、外面側の固溶量が上昇する。上述の添加元素としては、B、Mo、Crといった元素が考えられる。これらの元素は焼入れ性を高める元素である。
この点に加え、外面側は熱がこもることがなく、放熱されやすい。このため、加熱後の冷却速度は、外面側の方が内面側よりも大きくなる傾向になる。この結果、外面側では、硬度の高いマルテンサイト主体の金属組織が形成し、外面側と内面側とで硬度差が生じると考えられる。
(d)したがって、これらの元素の含有量および製造条件を適切に制御することが望ましい。特に、Bは、鋼中の固溶量に関し、Moとの間で相互作用を生じることから、これらを鑑み、含有量を制御することが望ましい。
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、各要件について詳しく説明する。なお、以下の説明において、含有量についての「%」は、特に言及がない場合は、「質量%」を意味する。
1.ベント鋼管の構成
本発明に係るベント鋼管は、母材部と、溶接金属部とを有するベント鋼管である。なお、本発明において、母材部とは、溶接後においても、母材鋼板の特性を維持する領域のことをいい、溶接後に、組織、特性が変化する溶接熱影響部は含まないこととする。また、溶接金属部とは、溶接により、溶融、凝固した領域のことをいう。
2.母材部の化学組成
母材部の化学組成において、各元素の限定理由は下記のとおりである。
C:0.03〜0.08%
Cは、強度の向上に有効な元素であり、本発明で規定する引張強さおよび降伏応力を得るために、C含有量は、0.03%以上とする。C含有量は、0.04%以上とするのが好ましい。しかしながら、C含有量が過剰であると、母材の機械的特性に悪影響を及ぼすとともに、スラブにおいて表面疵が発生しやすくなる。このため、C含有量は0.08%以下とする。C含有量は、0.07%以下とするのが好ましい。
Si:0.05〜0.50%
Siは、脱酸効果を有する元素である。また、強度を向上させる効果を有する。Si含有量が0.05%未満では、十分な脱酸効果が得られないことから、Si含有量は、0.05%以上とする。しかしながら、Si含有量が過剰であると、溶接した際に、溶接熱影響部に島状マルテンサイトが多量に生成して靭性が極度に低下する。このため、Si含有量は、0.50%以下とする。Si含有量は、0.35%以下とするのが好ましい。
Mn:1.00〜1.60%
Mnは、強度および靭性を向上させる効果を有する。このため、Mn含有量は、1.00%以上とする。Mn含有量は、1.20%以上とするのが好ましい。しかしながら、Mn含有量が過剰であると、曲げ加工後の母材および溶接熱影響部の靭性が低下する。このため、Mn含有量は1.60%以下とする。Mn含有量は、1.50%以下とするのが好ましい。
P:0.015%以下
Pは、不純物として鋼中に存在し、中心偏析部に共偏析して硬化組織を形成し、水素誘起割れ(HIC)の発生を容易にする。さらにPが延伸化した硬化組織の旧オーステナイト粒界に偏析すると、粒界脆化を引き起こし、著しく耐HIC性を劣化させる。このため、P含有量は、0.015%以下とする。Pは可能な限り低減することが好ましいが、製造性の観点から、通常、P含有量は、0.0050%以上となる。
S:0.0020%以下
Sは、不純物として鋼中に存在し、割れの起点となるMnSを形成する。MnSは熱間圧延工程で容易に延伸化し、中心偏析部だけでなく正常部も含めてもっとも有害なHIC発生起点となる。このため、S含有量は0.0020%以下とする。Sは、極力低減するのが好ましいが、製造性の観点から、通常、S含有量は、0.0003%以上となる。
Cr:0.10〜0.30%
Crは、固溶強化および焼入性増大による組織改善により、靭性を大きく損なうことなく、母材の強度を高めることができる。このため、Cr含有量は、0.10%以上とする。しかしながら、Cr含有量が過剰であると、溶接熱影響部の靭性が低下する。このため、Cr含有量は0.30%以下とする。
Mo:0.01〜0.30%
Moは、母材の強度向上に有効であるとともに、曲げ加工後の母材の靭性劣化を抑制する。このため、Mo含有量は0.01%以上とする。しかしながら、Moを、0.30%を超えて含有させると、鋼管を突合せ溶接する際、周溶接が困難になるだけでなく、溶接熱影響部の靭性も劣化する。このため、Mo含有量は、0.30%以下とする。
Ti:0.005〜0.030%
Tiは、析出強化および焼入れ性を上昇によることにより、母材強度を向上させる効果を有する。また、不純物として鋼中に存在するNとTiNを生成して、溶接熱影響部の粒成長を抑制し、靭性を向上させることもできる。このため、Ti含有量は、0.005%以上とする。しかしながら、Ti含有量が0.030%を超えると、粗大な酸化物および窒化物が形成され、靭性と延性とが低下する。このため、Ti含有量は、0.030%以下とする。
Al:0.060%以下
Alは、Si同様に脱酸効果を有する元素である。しかしながら、Al含有量が過剰であると、脱酸材としての効果が飽和し、コストがかさむ。このため、Al含有量は0.060%以下とする。Al含有量は0.055%以下であることが好ましい。一方、上述した脱酸材としての効果を得るためには、Al含有量は、0.010%以上とするのが好ましい。なお、Siが十分に添加されていれば、Alは添加しなくてもよい。
N:0.0070%以下
Nは、不純物として鋼中に存在する。また、Nb、V、およびTiと炭窒化物を形成して、母材および溶接熱影響部の靭性の低下を引き起こす。このため、N含有量を0.0070%以下とする。Nは、可能な限り低減することが好ましいが、製造性の観点から、通常、N含有量は、0.0020%以上とするのが好ましい。
さらに強度などを高めることを目的として、さらに、Cu、Ni、Nb、VおよびCaのうち1種以上を含有させてもよい。
Cu:0.50%以下
Cuは、固溶強化および焼入れ性を増大させるによることにより、靭性を大きく損なうことなく、母材の強度を高めることができる。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cu含有量が0.50%を超えると、スラブの表面疵に有害なCuチェッキングが発生しやすくなる。この場合、スラブを低温で加熱しなければならなくなり、製造条件が大幅に低下する。このため、Cu含有量は、0.50%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.02%以上とするのが好ましく、0.10%以上とするのがより好ましい。
Ni:0.50%以下
Niは、Cuと同様に、固溶強化および焼入れ性を増大させるによることにより、靭性を大きく損なうことなく、母材の強度を高めることができる。また、Niは、曲げ加工後の母材および溶接熱影響部の靭性低下を抑制する効果も有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ni含有量が0.50%を超えると効果が飽和するだけでなく、コストが嵩み、実用的でなくなる。このため、Ni含有量は、0.50%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ni含有量は、0.02%以上とするのが好ましく、0.10%以上とするのがより好ましい。
Nb:0.10%以下
Nbは、析出強化および焼入れ性を増大にさせることにより、母材の強度を向上させる効果を有する。また、Nbは、結晶粒微細化に伴い、靭性を改善に向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、Nbを含有させてもよい。しかしながら、Nb含有量が0.10%を超えると、溶接した際、溶接金属に混入し溶接金属の靭性を低下させる。このため、Nb含有量は、0.10%以下とする。Nb含有量は、0.06%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
V:0.10%以下
Vは、Nbと同様に、析出強化および焼入れ性を向上させることにより、母材の強度を向上させる効果を有する。また、Vは、結晶粒微細化に伴い、靭性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、Vを含有させてもよい。しかしながら、V含有量が0.10%を超えると、溶接した際、溶接金属に混入し、溶接金属の靭性を低下させる。このため、V含有量は、0.10%以下とする。V含有量は、0.06%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.001%以上とするのが好ましく、0.01%以上とするのがより好ましい。
Ca:0.0040%以下
Caは、介在物の形態を制御する効果を有する。具体的には介在物を球状化する効果があり、水素誘起割れ(HIC)およびラメラーティアーの発生を防止する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Caを過剰に含有させると、硫黄と結合し、水素誘起割れを誘発する。このため、Ca含有量は、0.0040%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量を0.0005%以上とするのが好ましい。
母材部の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
Ceq:0.30以上
本発明に係るベント鋼管では、焼入れ性の指標であり、下記(i)式で表される炭素等量Ceqを規定する。母材部のCeqが0.30未満であると、所望する引張強さおよび降伏応力を得ることができない。このため、Ceqは0.30以上とする。Ceqは、0.34以上とするのが好ましい。ここで、Ceqの上限については、限定しないが、Ceqの値が大きすぎると、焼入れの際に焼割れが生じることがある。また溶接性も低下する。このため、Ceqは、0.45以下とするのが好ましい。
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
3.母材部強度
本発明に係るベント鋼管では、所望する特性として、母材部の引張強さおよび降伏応力を規定する。具体的には、母材部の引張強さを、520〜760MPaとする。また、母材部の降伏応力を、415〜600MPaとする。
4.溶接金属部の化学組成
溶接金属部の化学組成において、各元素の限定理由は下記のとおりである。
C:0.03〜0.08%
Cは、溶接金属部の強度を確保する上で重要な元素である。このため、C含有量は、0.03%以上とする。しかしながら、C含有量が過剰であると、耐溶接割れ性の低下が大きくなり、構造用鋼としての安全性が損なわれる、また、母材からの希釈により溶接金属部のC含有量が過剰になると、靭性も低下する。このため、C含有量は、0.08%以下とする。
Si:0.05〜0.50%
Siは母材と同様に、脱酸効果を有する元素である。また、強度を向上させる効果を有する。このため、Si含有量は、0.05%以上とする。しかしながら、Si含有量が0.50%を超えると、溶接金属部の靭性の低下を誘発させる。このため、Si含有量は0.50%以下とする。
Mn:1.20〜1.80%
Mnは、溶接金属部の焼入れ性を高めて、強度および靭性を向上される効果を有する。このため、Mn含有量は、1.20%以上とする。しかしながら、Mn含有量が1.80%を超えると、溶接金属部の靭性が低下する。このため、Mn含有量は、1.80%以下とする。
P:0.015%以下
Pは、不純物として溶接材料に含有される元素である。Pが溶接金属部に存在することで、靭性低下を招く。このため、P含有量は、0.015%以下にする。Pは可能な限り低減することが好ましいが、製造性の観点から、通常、P含有量は、0.0100%以上となる。
S:0.0050%以下
Sも、不純物として溶接材料中に含有される。溶接金属部にSが存在すれば、溶接金属部の延性および靭性の低下を招く。このため、S含有量は、0.0050%以下にする。Sは可能な限り低減することが好ましいが、製造性の観点から、通常、S含有量は、0.0010%以上となる。
Cr:0.04〜0.50%
Crは、焼入れ性向上に有効な元素であり、溶接金属部の強度を向上させる効果を有する。このため、Cr含有量は、0.04%以上とする。Cr含有量は、0.10%以上とするのが好ましい。しかしながら、Cr含有量が0.50%を超えると、溶接金属部の靭性劣化が顕著になる。このため、Cr含有量は0.50%以下とする。Cr含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。
Mo:0.01〜0.25%
Moは、焼入れ性向上と析出強化とによって、溶接金属部の強度を向上させる効果を有する。また、Moが溶接金属部の焼入れ性を高めることから、粒界フェライトの形成が抑制され、アシキュラーフェライトを主体とする微細な組織が形成される。この結果、溶接金属部の靭性が向上する。このため、Mo含有量は、0.01%以上とする。Mo含有量は、0.05%以上とするのがより好ましい。
しかしながら、Moを、0.25%を超えて含有させると、溶接金属部において、Mo−B複合効果によって焼入れ性が増加する。この結果、ベンド加工後に、溶接金属部外面側の強度が過度に高くなり、溶接金属部の靭性を低下させる。このため、Mo含有量は、0.25%以下とする。Mo含有量は、0.20%以下とするのが好ましい。
Ti:0.010〜0.030%
Tiは、溶接金属部において、Ti酸化物を形成し、微細なアシキュラーフェライトの生成核として作用する。この結果、組織を微細化し、靭性を向上させる効果を有する。このため、Ti含有量は、0.010%以上とする。しかしながら、Ti含有量が、0.030%を超えると、溶接金属部中に脆性破壊の起点となるような粗大なTiを含む酸化物または窒化物を形成する。この結果、溶接金属部の靭性が劣化する。このため、Ti含有量は、0.030%以下とする。
Al:0.005〜0.020%
Alは、脱酸元素として働き、溶接金属部中の酸素量制御に有効な元素である。このため、Al含有量は、0.005%以上とする。しかしながら、溶接金属部中のAl含有量が0.020%を超えると、微細なアシキュラーフェライトの生成が抑制され、溶接金属部の組織が粗大化し、靭性が低下する。このため、Al含有量は0.020%以下とする。
N:0.0030〜0.0060%
Nは、溶接金属部中でTi、および/またはBと窒化物を形成して、オーステナイトおよびアシキュラーフェライトを微細化する効果を有する。このため、N含有量は、0.0030%以上とする。
しかしながら、N含有量が0.0060%を超えると、溶接金属部におけるN含有量が増加する。この結果、溶接金属部中において、固溶Nが増加し、フェライトマトリクスの靭性を低下させる。また、Bを窒化物として固定してしまうことに加え、固溶Bが粒界に偏析し、粒界周辺でオーステナイトから初析フェライト(粒界フェライト)に変態するのを抑止する。この結果、靭性を向上させにくくなる。このため、N含有量は、0.0060%以下とする。
B:0.0005〜0.0040%
Bは、溶接金属部中で、固溶Bとしてオーステナイト結晶粒界に偏析し、粗大な粒界フェライトの生成を抑制する。また、Ti酸化物と同時に、BNなどのB化合物として析出する。このようなTi酸化物との相互作用により、微細アシキュラーフェライトの生成を促進させる効果を有する。このため、B含有量は、0.0005%以上とする。B含有量は、0.0015%以上とするのが好ましい。
しかしながら、B含有量が過剰であると、焼入性が向上し、ベンド後の靭性が劣化してしまう。すなわち、溶接金属部中の固溶Bも増加することから、溶接金属部中のトータルのB含有量は一定量以下に抑える必要がある。このため、B含有量は、0.0040%以下とする。B含有量は、0.0030%以下とするのが好ましい。
O:0.015〜0.035%
Oは、溶接金属部において、Tiおよび/またはAlと結合し、酸化物を形成する。この酸化物により、溶接金属組織を微細化し、靭性を向上させる効果を有する。このため、O含有量は、0.015%以上とする。
しかしながら、O含有量が0.035%を超えると、溶接金属部中に脆性破壊の起点となるような粗大なTiおよび/またはAlを含む酸化物を形成し、溶接金属部の靭性を劣化させる。このため、O含有量は0.035%以下とする。
さらに強度および靭性を高めることを目的として、さらに、Cu、Ni、Nb、およびVのうち1種以上を含有させてもよい。
Cu:0.40%以下
Cuは、オーステナイト安定化元素である。また、溶接金属部の焼入れ性を高めることにより、粗大な粒界フェライトの生成を抑制し、溶接金属部の組織を微細化する。この結果、強度と靭性とを向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cu含有量が0.40%を超えると、高温割れを生じやすくなり、溶接材料の製造性が低下する。このため、Cu含有量は、0.40%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
Ni:0.50%以下
Niは、溶接金属部の靭性向上に寄与する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Ni含有量が0.50%を超えると効果が飽和するだけでなく、製造コストも嵩む。このため、Ni含有量は、0.50%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ni含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
Nb:0.050%以下
Nbは、溶接金属部の焼入れ性を向上させる効果を有する。そして、析出強化により、溶接金属部の強度を向上させる効果も有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Nb含有量が0.050%を超えると、溶接金属部の強度が過剰となる。また、粗大なNb析出物が形成され、溶接金属部の靭性劣化が著しくなる。このため、Nb含有量は、0.050%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は、0.005%以上とするのが好ましい。
V:0.50%以下
Vは、溶接金属部の析出強化により、溶接金属部の強度向上に有効な元素である。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、V含有量が0.50%を超えると、溶接金属部の強度が過剰となり、溶接金属部の靭性劣化が著しくなる。このため、V含有量は、0.50%以下とする。一方、上記効果を得るためには、V含有量は0.002%以上とするのが好ましい。
溶接金属部の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、上述したように、溶接等の製造に際し、鉱石、スクラップ等の溶接材料の原料、製造工程といった種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
Ceq:0.34以上
本発明に係るベント鋼管においては、母材部だけでなく、溶接金属部の炭素等量Ceqについても規定する。Ceqは、上述したように(i)式で表される。母材部の引張強さが520〜760MPa、降伏応力が415〜600MPaであるベンド管を製造するためには、溶接金属部が破壊の起点とならないよう、制御する必要がある。溶接金属部の強度は、母材部の強度よりも、高くする必要があり、具体的には、母材部強度よりも、1.1倍程度にする必要がある。
溶接金属部の炭素当量Ceqが0.34未満であると、溶接金属部において十分な強度を確保することができない。このため、Ceqは0.34以上とする。Ceqは0.36以上とするのが好ましく、0.38以上とするのがより好ましい。Ceqは大きいほど強度向上を期待できるため、その上限については限定しないが、Ceqが大きすぎると、母材の強度に比べて溶接金属の強度が過剰に大きくなる。この結果、ベント鋼管として強度バランスが悪くなる。また、高価な元素を添加することにもなるため製造コストも増加する。よって、Ceqは、0.49以下とするのが好ましい。
B、Mo含有量について
本発明に係るベント鋼管では、ベント加工時の加熱により、焼入れ性に影響を与えるB、Mo含有量について、制限する。具体的には、本発明に係るベント鋼管は、下記(ii)式を満足する。
0.30≦{6(B−0.7B)}×10+2(Mo−0.2Mo)≦0.90 ・・・(ii)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
焼入れ性に関し、Bは、粒界および粒内の変形帯などの全てのフェライト核生成サイトに偏析し、変態の駆動力を低下させる。この結果、オーステナイトからフェライトへの変態温度を低下させる効果を有する。同様に、Moは変態の駆動力を低下させ、オーステナイトからフェライトへの変態温度を低下させる効果を有する。
したがって、これら元素は焼入れ性に影響を与える。ベント鋼管を製造する際に、曲げ加工の加熱を行うと、これらの元素の固溶量が溶接金属部において増加し、焼入れ性が過度に上昇する。この結果、溶接金属部の硬度は上昇し、靭性低下を引き起こす。
Bは、NおよびCと結合し、析出物を生成する一方、鋼中にMoが含有すると、Bの析出物は減少し、Bの固溶量は増加する。BおよびMoの加熱時の固溶量は、溶接金属部のBおよびMoの含有量およびそれぞれの元素の相互作用に影響を受ける。このため、ベント加工時の加熱をも考慮した、上記(ii)式を満足する必要がある。
なお、溶接金属部中において、Bは70%程度析出する。また、溶接金属部中においてMoは20%程度析出する。溶接金属部中のBおよびMoの含有量に対し、BおよびMo固溶量を考える場合、これらの析出するBおよびMoを差し引いて考える必要がある。以上を踏まえ、実験値の結果も考慮して、BおよびMoの固溶量について、(ii)式を上記の通りに規定した。
(ii)式中辺値が、0.30未満であると、曲げ加工前に十分な量の微細アシキュラーフェライトを生成することができなくなり、曲げ加工後、焼戻しを行っても、溶接金属の靭性および強度が不足となる。このため、(ii)式中辺値は、0.30以上とする。(ii)式中辺値は、0.40以上とするのが好ましく、0.50以上とするのがより好ましい。
一方、(ii)式中辺値が0.90を超えると、焼入性が過剰に向上し、曲げ加工に伴う熱処理および冷却によって、多量のマルテンサイトが生成する。この結果、溶接金属部の硬度が過剰に高くなり、靭性が低下する。よって、(ii)式中辺値は、0.90以下とする。(ii)式中辺値は、0.85以下とするのが好ましく、0.80以下とするのがより好ましい。
Cr、Mo含有量について
本発明に係るベント鋼管では、ベント加工時の加熱により、焼入れ性に影響を与えるCrおよびMo含有量について制限する。具体的には、具体的には、本発明に係るベント鋼管は、下記(iii)式を満足する。
0.60≦{0.8(Cr−0.2Cr)×1.8(Mo−0.2Mo)}×10≦5.90 ・・・(iii)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
Crは、上述したMoと同様、変態の駆動力を低下させ、オーステナイトからフェライトへの変態温度を低下させる効果を有する。したがって、Crは焼入れ性に影響を与える元素である。この効果は、Crの固溶量に依存する。Crは、MoのようにBとの複合効果を有しないものの、その固溶量が多くなれば、焼入れ性が向上し、溶接金属の硬度が上昇し、靭性低下を招く。
そこで、溶接金属部中において、同様の効果を有するMoとの間で、固溶量に影響を与える各元素の含有量に基づき、上記(iii)式を満足する必要がある。なお、溶接金属部中において、Crも20%程度析出する。溶接金属部中のCr含有量に対し、Cr固溶量を考える場合には、析出Cr量を差し引いて考える必要がある。このため、これら元素の含有量に基づき、実験の結果も考慮して、(iii)式を上記の通りに規定した。
(iii)式中辺値が、0.60未満であると、曲げ加工前に十分な微細アシキュラーフェライトを生成することができなくなり、曲げ加工後、焼戻しを行っても、溶接金属の靭性および強度を満足できない。このため、(iii)式中辺値は、0.60以上とする。(iii)式中辺値は、0.65以上とするのが好ましく、0.80以上とするのがより好ましい。
一方、(iii)式中辺値が5.90を超えると、焼入れ性が過剰に向上し、曲げ加工に伴う熱処理および冷却によって、多量のマルテンサイトが生成する。局所的に冷却が進行すると、その箇所は高強度となり、靭性が低下する。このため、(iii)式中辺値は、5.90以下とする。(iii)式中辺値は、5.00以下とするのが好ましく、3.00以下とするのがより好ましい。
5.溶接金属部の金属組織
本発明に係るベント鋼管は、上述した(ii)および(iii)式を満足することで、マルテンサイトの生成を抑制するが、溶接金属中に含まれるマルテンサイトは、面積率で、10%以下であるのが好ましい。
なお、本発明において、溶接金属部の化学組成とは、最終パスを行った溶接金属部の中央位置について、組成分析を行った際に測定される含有量のことをいう。
6.溶接材料
本発明に係るベント鋼管では、母材となる鋼板を、溶接材料を用いて、溶接することで製造される。上述したように、主に、溶接材料が溶接金属部の化学組成を決定することから、以下に、好適な溶接材料の化学組成について説明する。
本発明に係るベント鋼管を製造する際に用いる溶接材料の化学組成は、例えば、以下の通りとするのが好ましい。すなわち、
C:0.03〜0.08%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:1.20〜1.80%、
P:0.015%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:0.10〜0.30%、
Mo:0.05〜0.25%、
Ti:0.010〜0.030%、
Al:0.005〜0.020%、
N:0.0030〜0.0060%、
B:0.0010〜0.0030%、
O:0.015〜0.035%、
残部:Feおよび不純物であるのが好ましい。なお、必要に応じて、上記Feの一部に代えて、Cu:0.40%以下、Ni:0.50%以下、Nb:0.050%以下、およびV:0.50%以下から選択される一種以上を含有させてもよい。
7.ベント鋼管の内径
ベント鋼管の内径は特に限定しないが、25.0mm以上であるのが好ましい。なお、製造上の問題から、内径は、1450mm以下であるのが好ましい。母材部の肉厚についても特に限定しないが、肉厚が薄いと曲げ加工により破断が生じるため、実質的には2.0mm以上になる。また、肉厚が大きいと曲げ加工が困難になることから、130.0mm以下であるのが好ましい。
8.製造方法
ベント鋼管は、上述の化学組成(母材部)のスラブから、厚鋼板(鋼管では、「母材部」に対応する。)を製造し、製管し、ベンド加工することで製造できる。本発明に係るベント鋼管の好ましい製造方法について説明する。本発明に係るベント鋼管は、製造方法によらず、上述の構成を有していれば、その効果を得られるが、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。
8−1.母材鋼板の製造
最初に、ベント鋼管の母材部となる母材鋼板を製造するのが好ましい。なお、母材鋼板の化学組成と、その後に製造されるベント鋼管の母材部の化学組成は、同一となる。母材鋼板は、上述した母材部の化学組成を有するスラブを1100〜1240℃に加熱し、240〜300分間均熱するのが好ましい。その後、スラブ表面に形成されたスケールをデスケーラーにて除去し、熱間圧延を行うのが好ましい。
上記圧延は粗圧延機と仕上圧延機とで2段階で行い、粗圧延機にて予め仕上圧延厚tの3〜5倍の厚さまで圧延し、その後、仕上圧延機にて所定厚まで圧延を行うのが好ましい。仕上圧延機による仕上圧延では、780〜880℃の温度域で圧延を行うのが好ましい。
続いて、仕上圧延を行った直後の鋼板について、約20℃/秒の冷却速度で460〜570℃の温度域まで水冷を行い、その後放冷して厚鋼板とするのが好ましい。
8−2.製管
以上のように製造した厚鋼板を母材鋼板とし、UOEプロセスまたはRB(ロールベンド)プロセスを用い、UOE鋼管またはRB鋼管を製管する。UOEプロセスでは、母材鋼板の幅方向端部をCプレスで曲げ加工(以下、Cプレスしたものを「C成形体」と記載する。)するのが好ましい。得られたC成形体を、Uプレスにより、母材鋼板の幅方向断面が略U字形状になるように曲げ加工(以下、U字形状になったものをU成形体」と記載する。)を行うのが好ましい。得られたU成形体を、Oプレスにより、成形後において、母材鋼板の幅方向断面が略O字形状となるようにO成形するのが好ましい。
RBプロセスでは、端曲げプレスおよびロールベンダーにより、母材鋼板円形断面とし、大きく開いている突合せ部を90°位置に設置し、0°位置から180°位置方向にプレス成形を施すことで、溶接可能な幅まで絞り込むのが好ましい。
その後、UOE鋼管、RB鋼管の製管ともに、成形して得られた突合せ部を仮付溶接し、内面溶接および外面溶接を実施するのが好ましい。溶接を行うにあたっては、溶接棒および溶接材料の化学組成を調節することで溶接金属の組成を調整するのが好ましい。なお、好ましい溶接材料の化学組成は、上述した通りである。
また、溶接は、サブマージアーク溶接により管状母材の内外面から溶接を施すのが好ましい。次いで、拡管を施すことにより、UOE鋼管およびRB鋼管を製造するのが好ましい。
8−3.ベント加工
以上のように、製造した鋼管を加熱炉に装入し、950〜1050℃の温度域に昇温後、曲げ角度を90度とする曲げ加工を行い、その後、直ちに5〜35℃/秒の冷却速度で常温まで冷却するのが好ましい。鋼管の外面側および内面側の冷却速度が上記範囲を満足するのが好ましい。上記冷却速度とすることで、マルテンサイトの生成を抑制する、すなわち、マルテンサイトを、面積率で、10%以下とすることができるからである。
続いて、500〜600℃の温度域まで昇温して、50〜100分間ほど保持する焼戻し処理を行うのが好ましい。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す組成、引張強さ、降伏応力を有する母材鋼板(板厚21.0mm)を用い、鋼管を製造した。上記の母材鋼板は、UOEプロセスを用いて、外径914.0mmのUOE鋼管を製造した。このUOE鋼管に対し、加熱し、曲げ加工を施した。加熱の際、誘導加熱法を用いて、1000℃まで昇温し、UOE鋼管の内面は約10℃/秒、外面は約25℃/秒の冷却速度で冷却されるように調整し、常温まで冷却を行った。
その後、外面溶接時の最終パスを行った溶接金属部の中央位置の組成分析を行った。組成分析は、C、S、N、Oについては赤外線吸収法にて測定し、その他の元素についてはスパーク放電発光分光分析法にて測定を行った。なお、溶接後の溶接金属部の組成分析を行うのは、母材からの溶け込みがあるため、溶接材料の化学組成がそのまま溶接金属の化学組成とはならないためである。表1に溶接金属部の組成を母材組成と合わせて示す。
Figure 2021130830
また、溶接金属の一部を切り出し、硬度測定を行った。図1にその測定位置の概要を示す。測定は溶接金属部の中心を外面より1mm位置から内面に向かって1mm間隔で実施した。同様に、溶接熱影響部から十分に離れた位置にて、母材部の硬度測定も行った。なお、硬度測定については、JIS Z 2244:2009に基づき、試験力10.0KgNとして実施する。硬さ試験は、ビッカース試験機を用いた。
図2に測定した硬度の変化を示す。溶接金属部における硬度は、ベンド鋼管の外面から内面にかけて主に245HVを超えていることが分かる。特に外面から4mm位置までが最も高い硬度を示している。一方で、母材部における硬度は溶接金属部より低い値を示し、200〜220HV程度であった。溶接金属部の一部が高い高度となったのは溶接金属中のMo含有量が多いためと推測される。
上記の図2の結果に基づき、硬度測定および組織観察を行った。具体的には、ベント鋼管の外面に近い位置が最も、高い硬度を示したことから、曲げ加工に伴う熱処理を模擬し、表2に示すような化学組成と強度を有する母材鋼板(板厚21.0mm)を溶接し、溶接継手を作製した。最外面と同様の条件になるような熱処理を行った。
具体的な熱処理条件は、約3℃/秒にて980〜1000℃まで昇温し、15秒間保持、約25℃/秒の冷却速度で20℃まで冷却を行った。得られた試験片に対しては、実施例1と同様に、外面溶接時の最終パスを行った溶接金属部の中央位置の組成分析を行うとともに、ビッカース硬度試験を試験片の溶接外面から4mm位置に相当する部位に対して実施した。また表面を鏡面まで研磨し、ナイタールでエッチングを施した後に、光学顕微鏡を用いて組織観察を行った。
硬度測定の結果、最大硬度が245HV以下である場合を、良好な特性(良好な靭性)を有すると評価した。組織観察の結果に関しては、マルテンサイトの面積率が10%以下の場合は、良好な組織であるとし、○と記載した。一方、マルテンサイトの面積率が10%を超える場合は、マルテンサイトが過剰に生成しているとし、×で記載した。以下、結果を示す。
Figure 2021130830
Figure 2021130830
本発明例である溶接継手のNo.1〜6は、良好な硬度を示した。また、金属組織についても、マルテンサイトの生成が抑制されていた。その一方、比較例のNo.7〜16は、硬度が高くなり、良好な特性を示さなかった。また、マルテンサイトが過剰に生成した例があった。
No.7および9は、溶接金属部のMo含有量が過剰であったため、(ii)式中辺値が高い値を示した。そして、B−Mo複合効果による焼入れ性が過剰に上昇し、硬度が大きくなった。No.8は、B含有量が過剰であったため、(ii)式中辺値が高い値を示し、焼きが入りすぎて、硬度が大きくなった。
No.10は、B含有量およびMo含有量が過剰であったため、B−Mo複合効果により、焼入性が向上に上昇し、硬度が大きくなった。特に、No.9および10は(ii)式中辺値に加え、(iii)式中辺値も高い値を示し、微細なマルテンサイトを形成したため、硬度が大きくなったと考えられる。
No.11および12は(iii)式中辺値が高い値となり、焼きが入りやすく、マルテンサイトが形成されたため、硬度が大きくなった。No.13は本発明が規定する母材組成および溶接金属組成の範囲を満足するものの、(ii)式中辺値の値が規定を満足しなかった。このため、多量のマルテンサイトは形成されなかったものの、溶接金属の硬度が大きくなった。
No.14は、本発明が規定する母材組成および溶接金属組成の範囲を満足するものの、(iii)式中辺値の値が低くなった。このため、多量のマルテンサイトは形成されなかったものの、溶接金属の硬度が大きくなり靭性が低下した。No.15は、本発明が規定する母材組成および溶接金属組成の範囲を満足するものの、(ii)式中辺値が高い値となり、焼きが入りすぎて、硬度が大きくなった。No.16は、本発明が規定する母材組成および溶接金属組成の範囲を満足するものの、(iii)式中辺値が高い値となった。このため、焼きが入りやすく、マルテンサイトが形成され、硬度が大きくなった。
実施例2の結果に基づいて、母材部および溶接金属部の化学組成を調整したベンド鋼管を製造した。ベンド鋼管は、以下の手順で作製した。具体的には、上述した手順で、まずUOE鋼管を製造し、その後、ベント加工を行った。ベンド加工は鋼管を1000℃に加熱後、90°の角度で曲げる曲げ加工を行い、加工後すぐ鋼管外面が25℃/秒となるように冷却した。その後550℃まで昇温し、60分保持、放冷してベンド鋼管を得た。
表4にベンド鋼管の母材部の化学組成を、表5に溶接金属部の化学組成および硬度を示す。なお、母材組成はスラブの組成値(製鋼段階での成分調整した組成値)、溶接金属の組成は(実施例1)で示した測定方法と同様の方法で測定したもの、硬度は(実施例2)で示した測定と同様に測定したものである。
Figure 2021130830
Figure 2021130830
表5より、いずれのベンド鋼管も溶接金属の硬度は低値を取ることから、本発明の組成を満足すれば、溶接金属の硬度も高くなることはなく、溶接金属部において靭性の問題は生じないことがわかる。
本発明によれば、鋼板を溶接し、曲げ加工してベンド鋼管を製造しても、溶接金属の硬度が高くならず、靭性の高いベンド鋼管を提供できる。

Claims (3)

  1. 母材部と、溶接金属部とを有するベンド鋼管であって、
    前記母材部の化学組成が、質量%で、
    C:0.03〜0.08%、
    Si:0.05〜0.50%、
    Mn:1.00〜1.60%、
    P:0.015%以下、
    S:0.0020%以下、
    Cr:0.10〜0.30%、
    Mo:0.01〜0.30%、
    Ti:0.005〜0.030%、
    Al:0.060%以下、
    N:0.0070%以下、
    残部:Feおよび不純物であり、
    下記(i)式で表されるCeqが0.30以上であり、
    前記母材部の引張強さは、520〜760MPaであり、
    前記母材部の降伏応力は、415〜600MPaであり、
    前記溶接金属部の化学組成は、質量%で、
    C:0.03〜0.08%、
    Si:0.05〜0.50%、
    Mn:1.20〜1.80%、
    P:0.015%以下、
    S:0.0050%以下、
    Cr:0.04〜0.50%、
    Mo:0.01〜0.25%、
    Ti:0.010〜0.030%、
    Al:0.005〜0.020%、
    N:0.0030〜0.0060%、
    B:0.0005〜0.0040%、
    O:0.015〜0.035%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    下記(i)式で表されるCeqが0.34以上であり、
    下記(ii)および(iii)式を満足する、ベンド鋼管。
    Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15 ・・・(i)
    0.30≦{6(B−0.7B)}×10+2(Mo−0.2Mo)≦0.90 ・・・(ii)
    0.60≦{0.8(Cr−0.2Cr)×1.8(Mo−0.2Mo)}×10≦5.90 ・・・(iii)
    但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
  2. 前記母材部の化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、
    Cu:0.50%以下、
    Ni:0.50%以下、
    Nb:0.10%以下、
    V:0.10%以下、および
    Ca:0.0040%以下、
    から選択される一種以上を含有する、請求項1に記載のベント鋼管。
  3. 前記溶接金属部の化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、
    Cu:0.40%以下、
    Ni:0.50%以下、
    Nb:0.050%以下、および
    V:0.50%以下、
    から選択される一種以上を含有する、請求項1または2に記載のベンド鋼管。
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