児童虐待や家庭内暴力(DV)による虐待は、近年増加傾向にあり社会問題化している。これら虐待の多くは暴力による打撲傷であるが、打撲傷自体は時間的経過により自然治癒されその程度や状況は時間が経過する程わかり難いものとなっている。多くの児童、被虐待者は虐待やDVを受けても速やかに自ら訴えるケースはまれであり、繰り返される暴力や耐えられない事態に陥ってから止む無く、又は知り得た関係者などの通報により児童相談所や警察へ相談することがほとんどである。このような状況下では、暴力を受けた時点からかなりの時間経過しており、打撲傷による皮膚変色は、自然治癒により回復し、打撲傷の状況や程度が当初どの程度であったかの見極めが困難となっている。
また、皮膚変色は、ある程度時間が経過すると、被虐待者の転倒、やけど(熱傷)、虫刺されなどによるものか、あるいは暴力によるものかの区別がつきにくくなる。警察、児童相談所、家庭裁判所などにおいては、虐待や暴力の事実関係と併せ、その程度を客観的に示すデータ、証拠が求められている。
現在打撲傷など皮膚の断層診断には、表皮・皮層部分についてはOCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層計)が用いられ、皮下・内部(深層部分)についてはCTスキャナが多く用いられている。また、皮下出血などについては、超音波診断装置が多く用いられている。これらの診断分析装置は、いずれも比較的大型設備で高額の検査装置である。そのため、手軽に検査できるものでなく、利便性に欠ける。
より簡便に表皮層を観察する医療器具としてダーモスコープが利用されている。このダーモスコープは、ダーモスコピー検査手法として皮膚表面の病変部分にジェルを塗布しダーモスコ―プの先端の透明板を圧接させて皮膚表面の乱反射を少なくして皮膚面及び表皮下の構造を観察する。このようなダーモスコープでは偏光波と非偏光波の特性の相違を利用して偏向波像と非偏向波像とを比較し、表皮組織構造を観察する技術が開示されている(特許文献1など)。
このダーモスコープは基本的に表皮表層部分のみの観察であり、メラノーマといわれる悪性腫瘍と、色素細胞母斑といわれる良性色腫とを見分けるにはより深層まで観察する必要がある。そのための技術として特許文献2では、赤外光像を観察することにより、より深層部分まで観察することも行われている。しかし、これらのダーモスコピー検査法では観測時点での皮膚疾患状態を観察することは可能であるが、DVや虐待などによる陳旧打撲状態までを判断することは困難である。
いくつかの学術論文では、紫外線側の波長を利用することで、より詳細に虐待やDVなどの陳旧打撲傷を観察できることが研究成果として報告されている(非特許文献1)。これらの報告においては、紫外線波長を照射することで児童虐待やDVによる打撲傷及び陳旧打撲傷を比較的長期に亘って観察できたことが報告されている。
また、児童虐待、DVなどによる打撲傷、あざなどの検証にあたっては、陳旧打撲の状況、虫刺され、火傷・熱傷、刺し傷、裂傷、皮膚疾患、などの区別ができるだけ観察できること、及び虐待や暴行による受傷後しばらく経過した後にでもその痕跡や状態を観察でき、データ化することが求められている。
上述したように虐待や暴力による打撲傷、あざなどの痕跡や状態を数ヶ月の時間経過後であっても観察し、データとして取得する観察、測定機器が必要とされており、また、このような打撲傷やあざが、刺し傷、虫刺され、火傷などに起因しているか、又は皮膚疾患であるかなどを分析しうるデータを取得し、その症状や程度がより多角的に観察、分析できる簡易で利便性の高い、安価な医療観察機器が望まれている。
そのために本発明が解決しようとする課題は、虐待や暴力による打撲傷やあざの痕跡をある程度時間経過後の打撲痕(陳旧打撲)であってもより鮮明に検知、観察しうる利便性の高い光学機器を提供することを目的とする。また、このような打撲傷やあざなどの観察において患者の心理的負担を軽減するために短時間での観察分析及びデータ取得を可能とすることを目的とする。
さらに本発明では、打撲傷やあざに限らず、各種皮膚疾患における表皮、表層、疾患の内部状態を観測できるようにすることで皮膚疾患の多角的分析を行う機器を提供することを目的とする。
さらに本発明では、打撲傷、あざ、各種皮膚疾患の状態をCTスキャナやOCTなどの大型医療機器でなく、小型で可搬性のある簡素で安価な構成の観察装置とすることを目的とする。
さらに本発明では、打撲傷、あざ、各種皮膚疾患の状態を映像及びデジタル情報として映像記録し、病院内、警察、児童相談所、裁判所などにおけるデジタルカルテ、ネットワーク化、証拠資料などのために保存しうる撮像機器の提供を目的とする。
かかる課題を解決し上記目的を達成するために、本発明に係る一実施形態は、打撲傷疾患及び皮膚疾患観察用光学機器において、415nm近傍を含む波長帯域を取り出す青紫フィルターと、前記青紫フィルターを介して取り出した青紫色像を光電変換する撮像素子とを備えていることを特徴とする。
また、本発明に係る光学機器において、前記青紫フィルターは、415nm近傍の波長を含む略500nm以下の短波長帯域を取り出し、略500nm以上の長波長帯域を減衰させる波長特性を有するフィルターであり、前記撮像素子は、前記青紫フィルターを介して取り出した紫外光を含む青紫色像を光電変換する撮像素子であることを特徴とする。
また、本発明に係る光学機器において、前記光学機器は、白色光源及び波長略500nm以下で波長415nm近傍の青紫色光源を含む照明部を備えていることを特徴とする。
また、本発明に係る光学機器において、前記照明部は、略400nm以下の短波長帯域の紫外線領域が減衰していることを特徴とする。
また、本発明に係る光学機器において、前記照明部は、ストロボ光源に対応しており、前記白色光源によりフォーカス調整が行われ、前記青紫光源がシャッター速度に同期して発光することを特徴とする。
また、本発明に係る光学機器において、前記光学機器は、前記青紫フィルター以外の透過波長特性を有するフィルターを備え、前記青紫フィルターと切り替えて使用しうることを特徴とする。
また、本発明に係る光学機器において、前記光学機器は、略800nm以上の長波長帯域の赤外光像、略500nmから略800nmの波長帯域のP偏光波像及び・又はS偏光波像のいずれか、又はそれらの組合せを分離し、取得する分離光学系と、分離された画像を光電変換する撮像素子とを追加的に備えていることを特徴とする
また、本発明に係る光学機器において、前記光学機器は、前記撮像素子の出力画像信号を記録する手段を備えていることを特徴とする。
本発明の光学機器によれば、打撲傷などによる皮下出血の経時変化により皮膚表面で観察できなくなった隠れた陳旧打撲の状態、程度をより明確に把握することが可能となり、児童虐待や暴力による打撲傷やあざなどが、ある程度の時間経過後であっても把握することが可能となる。
また、本発明の光学機器によれば、青紫色像又は紫外光を含む青紫色像に加えて赤外光像、P偏光波像及び又はS偏光波像のいずれか又はそれらの組合せを分離する分離光学系と、分離された画像を光電変換する撮像素子とを追加的に備えているため、陳旧打撲傷の観察のみならず多種多様な皮膚疾患を多角的に観察、分析、比較することができる。
血液の成分は、水分が多くを占めているが、それ以外ではヘモグロビン、総蛋白質、総脂質、リン脂質、カリウムなどで構成され、これらの成分が打撲などの損傷により出血しその後の酸化により色調が変化する。一般的に虐待や暴力による打撲傷、あざなどの痕跡調査には皮膚表面の色調変化観察が行われており、「養護教諭のための自動虐待対応の手引」(平成19年10月に文部科学省)においては、時間経過に伴う挫傷の色調変化として、受傷直後は赤みがかった青色、受傷後5日〜7日後は緑色、同7日〜10日後は緑がかった黄色、同10日以上では黄色っぽい茶色、同2〜4週間で消退する、と記されている。
皮膚表面での色調変化観察では、受傷後2〜4週間以降は、傷跡が退色し観察し難い状況となっている。しかし、暴力や虐待による打撲により皮膚内部の真皮、皮下脂肪層まで受傷している場合、それらの層に存在する毛細血管が破壊されているため、血管内の成分(脱酸素ヘモグロビン等)が残存し、受傷後2週間以上経過しても真皮、皮下脂肪層に破壊状態が残存することが判明し、これらの皮下残渣血液状態を観察できれば皮膚表面で消退した打撲痕(陳旧打撲)を観察し、確認することが可能となる。
皮下の状態を観察するのにダーモスコープなどでは赤外光による観察が行われており、赤外光での陳旧打撲痕観察を試行したが、良好な観察は出来なかった。そこで種々の血液成分に対応した色成分のフィルターによる取り出しを試行したところ、脱酸素ヘモグロビンの吸収波長(略415nm)帯域での取り出しにより皮下残渣血液の状態がより鮮明に把握することが判明した。これは、打撲傷などの損傷により時間経過した皮下残渣血液の中で主たる成分は、ヘモグロビンであり、特に脱酸素ヘモグロビンが色調変化に大きく作用しており、脱酸素ヘモグロビンの波長(略415nm)を含む帯域の画像を取り出すことでより鮮明に皮下残渣出血状態が観察しうる。
以下、本発明を実施するための形態につき図面を用いて説明する。実施例に記載されているいずれの図面も本発明の説明用に概略的な模式図として描かれており、寸法や形状は厳密なものではない。また、構成要素の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限り発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
図1は、本発明の実施例1に係る光学機器の概略説明図である。デジタルカメラ10は、レンズ部11及び撮像素子12を備えている。レンズ部11の前面には、フィルター13,照明部14が取り付けられている。デジタルカメラ10は、市販の汎用カメラで規格化されたフィルター・マウントによりフィルター13及び照明部14を取り付けることができる。撮像素子12は取得した画像を光電変換し、デジタル信号として信号処理し、カメラのモニター・ディスプレイ部に表示すると共に画像をメモリーに記録する。取得した画像は、カメラ内のブルートゥースやWiFiなどの通信手段により外部へ送信され、カメラ外部のPC、サーバー及びクラウドなどとネットワークを形成し、外部記録部で記録、保管、分析、観察することが出来る構成となっている。ここで、信号処理、ディスプレイ・モニター部、メモリー、通信手段などは多くの市販デジタルカメラに具備されたものであり、ここでは図示されていない。
カメラ10の前面に装着されたフィルター13は、415nm近傍の波長帯域をピークとして透過させるような図3グラフAに示すようなフィルター透過特性が理想的であるが、略500nm以下の短波長帯域を透過させる図3グラフB(点線)のような紫外線領域を含む波長特性でも良い。
フィルター13の前面に装着された照明部14は、複数のLEDやその他の発光体で構成される白色光源15及び青紫色光源16を含んでおり、それぞれを切り替えて発光することができる。また、白色光源及び青紫色光源の混合割合は、目的により変えることができる。照明部14は、カメラのフィルター・マウントに装着されて着脱自由であり、光源なしの自然光による撮影の場合は取り外して撮影する。また、この照明部14自体はカメラ装着のリングライトであれば一体型として簡易に撮影が可能である。照明部14は、リングライト・カメラ装着型に限らず、ストロボであっても、別体のカメラ用照明装置でも良いが、白色光源15と青紫光源16との混合光線を有している必要がある。青紫光源16は、脱酸素ヘモグロビンの吸収波長である415nmを含む光源である。
白色光源15は、常時点灯として目視による皮下出血の有無や打撲傷や皮膚疾患を制限なく観察するのに用いることもできるが、白色光源15は、オートフォーカスの補助光線やホワイトバランスの調整用としても用いられる。これはホワイトバランス調整においては白色光源を必要とし、カメラのオートフォーカスではフォーカスセンサーが青紫色側の感度が低く、青紫色光線のみではオートフォーカスが不安定な動作をすること生じるためこれらの不都合を防止する目的である。白色光源15は、皮膚疾患観察用の照明として用いる場合は通常の白色光源として特に波長帯域に制限はなく、通常の可視光帯域で十分であるが、紫外線照射による皮膚への影響を軽減するために紫外線領域の波長を含まない方が好ましい。しかし、後述するように特定の目的で紫外光像、赤外光像を取得する場合は、これらの波長帯域を含む光源が必要となる。
第1図においては、受傷部(陳旧打撲)20、20’が皮膚の表皮21,真皮22及び皮下脂肪層23に亘っており、皮膚表面は打撲痕がほぼ退色し消失している様子を示している。このような状態を観察するにあたって、まず白色光源15又は青紫色光源16の照明下において、青紫色フィルター13を介して皮下出血痕をカメラのモニター上で確認する。カメラモニターを介さなくても波長415nmの帯域を含む青紫色光源16の照射により目視であってもある程度の皮下出血痕を判別することができる場合もある。この確認方法によれば、室内光下での観察に比べある程度の損傷部位が的確に判別できるため、従来のように室内光下での目視や撮影写真から損傷部位を探索する場合に比べ短時間での撮影が可能となり、被害者の心理的負担が大幅に軽減される。
また、この撮影用照明部14をストロボ式発光とすることで白色光源15及び青紫色光源16をストロボ発光させ、シャッター同期を取ることでフィルター13を介して選択的に脱酸素ヘモグロビン吸収波長である415nmの青紫帯域を取り出して撮影し、比較、観察することができる。ストロボ発光は、白色光源15のみ、又は青紫色光源16のみを発光させてそれぞれ撮影し、比較することもできるが、一般的にはカメラのシャッターボタンが押され、ハーフシャッター時点で白色光源15が点灯し、シャッター開始時点で白色光源15を同期して消灯させ、青紫色光源16のみを同期させて照射し、撮影する。このようにすることで、損傷部位の的確な撮影が短時間で行うことができると共に、照明部14をストロボ発光方式にすることで消費電力を少なくし、消費エネルギー効率を良好にすることができる。
陳旧打撲傷の観察においては、皮下出血の主成分である脱酸素ヘモグロビンの出血痕を取得し、皮膚表面での損傷状態、色調変化状態などと併せ総合的に判断することとなる。また、皮下出血であっても皮膚疾患や打撲以外の原因に基づくヘモグロビン以外の総蛋白質、総脂質、リン脂質、カリウムなどの成分が含まれる場合も考えられる。また、陳旧打撲であっても前述のような色調変化が皮膚表面に残存している場合もある。このような色調変化をより鮮明に観察するには、フィルター13を黄色又は橙色フィルターなど他の色調変化に相当するフィルターを用いて撮影する。これらの波長特性の異なるフィルターによる撮影画像と青紫色フィルターによる画像とを比較することで、打撲傷による挫傷の経時変化状態がより確実に観察、データ取得することができる。
図2は、市販のデジタルカメラ10のフィルター・マウントにフィルター13及び照明部14を取り付けた状態を示す一例である。光源は、カメラのストロボ端子に結合され、シャッターボタンが押されると半シャッター状態でまず照明部14内の白色光源15が点灯し、シャッター同期時点で白色光源15が青紫色光源16に切り替わり青紫色ストロボ発光となる。フィルター13は、陳旧打撲を撮影する場合は、青紫色フィルターを使用し撮影する。このような構成により可搬性のある光学機器となり、短時間に陳旧打撲の撮影、観察が可能となるため、患者(特に児童など)への心理的負担が軽減される。
図4において、写真Aは、自然光下における皮膚表面の打撲痕を撮影した画像であり、写真Bは、本発明による光学機器を用いて陳旧打撲痕を撮影したデータ写真である。この写真の比較から明らかな通り、自然光下での通常撮影(フィルターなし)写真Aでは判別できなかった陳旧打撲も本発明による光学機器により撮影した写真Bではより鮮明に撮影することができた。
以上のようにして取得した陳旧打撲に関する撮影データは、デジタル映像データとしてカメラ内のメモリーに保存され、モニター上で医師や専門家の観察用、比較・分析資料に供されると共に、カメラ内の通信手段により外部のネットワークを介してサーバー、クラウドなどへ保存、記録され、デジタル情報として病院内でデジタルカルテとして利用され、警察、児童相談所、裁判所などにおけるDVや児童虐待の証拠又は参考資料などとして利用することができる。
皮膚疾患としては、DVや虐待による打撲傷だけでなく虫刺され、火傷・熱傷、刺し傷、裂傷、それらに伴う腫瘍や水ぶくれなど多岐にわたる症状が見られる。そのため、陳旧打撲の症状観察と併せ、皮膚疾患の多角的観察ができれば皮膚疾患の諸症状を比較、観察、分析し、適切な診断や治療対応が可能となる。図5乃至図7は、各種波長特性に応じて必要な光束を分離して取り出すための光束分離光学系のバリエーションを示すもので、皮膚疾患の多角的観察を行う光学機器に利用することができる。
図5においてレンズ部11により集光された光束は、最初の分離プリズム52へ入射し、第1分離面(又は分離膜)53において脱酸素ヘモグロビンの吸収波長415nm近傍の帯域を含む略500nm以下の短波長帯域(青紫及び紫外光)が反射され、それ以外の波長TVは透過する。この第1分離面53は、誘電体の多層膜又は金属薄膜により構成され、図2のグラフB(点線)に示すような透過特性を有している。
反射光RUVは、プリズム52の側面54において全反射され出射面55より出射し、フィルター56を介して紫外光領域を含む青紫色用撮像素子57へ入射する。撮像素子57は、反射光RUVを光電変換し青紫色及び紫外光像を電子信号として取り出す。フィルター56は、反射(AR)防止フィルター、約500nm以上の長波長領域を減衰させるフィルター又は不要紫外線(UV−B、UV−C、X線成分など)をカットするフィルターなどを必要に応じて挿入しても良い。また、青紫色及び紫外光用撮像素子57は、青紫色を含む紫外線領域(主としてUV−A領域)をカバーしていれば十分であり、シリコンタイプの半導体素子が紫外線による影響、劣化を受け易いため、それらの損傷を少しでも回避するためマイクロレンズを無くしたタイプであっても良い。
一方、第1分離面53を透過した略500nm以上の長波長帯域を有する透過光TVは、プリズム2の後段に配置されたプリズム58を介して出射面59より出射する。出射面59には必要に応じて反射防止(AR)フィルター、赤外光カットフィルターなどのフィルター60を設けても良い。出射面59より出射した透過光TVは、撮像素子61へ入射する。撮像素子61は、波長略500nm以上の長波長帯域の透過光TVを光電変換し電子信号として取り出す。
前述した通り、打撲傷などは、受傷直後の赤みがかった青から紫色へ変色し、最終的に黄色又は黄色と茶色などの混濁色の変化を経て約2週間ぐらいで消退する。そのため、500nm以上の長波長帯域の可視光像を取得することで経時変化に伴う色調変化を認識できるようになる。更に、可視光像側に設けられたフィルター60を、黄色、橙色等のフィルターを挿入して観察することで消退していない打撲傷などの表皮色調変化観察をより鮮明に取り出し、観察することができる。
図6は、本発明の実施例3に係る打撲傷疾患及び皮膚疾患観察用光学機器の光束分離光学系の概略説明図である。図5で示す実施例2との相違は、第一分離面53を透過した透過光を第二分離面64により赤外光成分を反射させ、赤外光像を取得する構成とした点であり、図5と同じ機能部材については同様の番号が付されている。
実施例3において、実施例2と同様にレンズ部11により集光された光束は、最初の分離プリズム52へ入射し、第1分離面(又は分離膜)53において略500nm以下の短波長帯域の青紫色及び紫外線光RUVが反射され、それ以外の波長は透過する。かかる透過光は、プリズム62を介して赤外光分離プリズム63に入射し、第2分離面64において赤外光成分は反射光RIRとして反射し、それ以外の波長TVは透過させる。第2分離面64は、誘電体多層膜又は金属薄膜により形成され、その波長が略800nm以上の長波長帯域を反射し、それ以下の短波長帯域を透過させる。
第2分離面64により反射された反射光(赤外光)RIRは、プリズム65の出射面66より出射し、赤外光撮像素子68に入射する。出射面66には反射防止(AR)フィルターや赤外光以外の波長帯域カットフィルターなどのフィルター67を設けても良い。赤外光撮像素子68に入射した赤外光は、光電変換され赤外光像電子信号として取り出される。
一方、第2分離面64を透過した略500nmから略800nmの帯域の透過光TVは、出射面59に設けられたフィルター60を介して撮像素子61へ入射し、帯域が略500nmから800nmの可視光像として取り出される。このような構成により、実施例1の構成により取得した青紫・紫外光像、可視光像に加え、実施例2の構成では、赤外光像が三板撮像素子によりそれぞれ取得することができる。
実施例3においては、青紫・紫外光像、略500nm以上の可視光像及び赤外光像が同時に取得できることにより、略500nm以上の可視光像(カラー像)により皮膚表面状態を観察し、可視光像で判別困難な皮下における打撲痕、陳旧打撲などを観察できることに加え、赤外光像による皮膚下層における皮膚病理状態を観察し、分析することができる。
赤外光による旋光性により赤外光像は、皮膚下層における状態を把握できるため、皮膚表面における打撲や破壊が先天性(母斑)なのか内出血に伴う後天性紫斑なのか、また、皮膚病などの場合、表面の単なる色素細胞母斑といわれる良性色腫なのかメラノーマなどの悪性腫瘍なのかを容易に観察することができる。つまり、皮膚下層の状態が観察・分析可能となることで打撲の程度、皮膚疾患と打撲との区別、皮膚疾患の程度などにつき観察が容易となる。
図7は、本発明の実施例4に係る打撲傷疾患及び皮膚疾患観察用光学機器の光束分離光学系の概略説明図である。図6で示す実施例3との相違は、第2分離面64を透過した略500nmから800nmの透過光成分を偏光ビームスプリッター71によりS偏光波成分RS及びP偏光波成分TPに分離し、それぞれの偏光波像を取り出す構造とした点であり、図6と同じ機能部材については同様の番号が付されている。
実施例3における第2分離面64を透過した略500nmから800nmの帯域を有する透過光(ほぼ可視光)TVは、第3分離面72を有する偏光ビームスプリッター71により、S偏光波とP偏光波とに分離される。偏光ビームスプリッター71は、可視光域のキューブ型で、S偏光波をRSとして反射し、P偏光波をTPとして透過させる。S偏光波RS及びP偏光波TPは、ビームスプリッター71より出射し、ほぼ可視光カラーのS波撮像素子74及びP波撮像素子76にそれぞれ入射し、S偏光波像及びP偏光波像を取得する。なお、S偏光波撮像素子74及びP偏光波撮像素子76の入射側に、偏光角を調整する位相板又は透過光帯域を調整するフィルター73及び75をそれぞれ設けても良い。
実施例4においては、青紫・紫外光像、赤外光像に加えてほぼ可視光カラーによるS偏光波像及びP偏光波像に分離して同時に取得することができる。略500nmから800nm帯域の可視光がS波とP波とに分離されて同時に取得できることにより、S偏光波像により表面状態を目視に近い状態で皮膚表面状態を観察し、P偏光波像により皮膚直下の状態を観察することができる。特に、ダーモスコープとして使用する場合、皮膚表面の疾患部にジェルを塗って観察したり、皮膚疾患が水疱などによる場合、表面の表面反射や乱反射などの影響を低減したP偏光波像を取得して比較、観察するのに好都合である。また、S偏光波とP偏光波とは皮膚病変部分の表面反射波の除去が異なるため、S波とP波とを比較し、いずれか良好な画像を標準画像として観察することもできる。また、偏向ビームスプリッター71、フィルター73及び75の偏向板を用いて偏向波と非偏向波とを取り出すようにしても良い。
図8は、本発明の光束分離光学系を具備する光学機器80の概略説明図である。図8においては、実施例4における光束分離光学系(光学モジュール)を組み込んだ光学機器を例示的に示しているが、実施例2又は実施例3に示す光束分離光学系でも基本的には同様に適応しうる。このような光学機器は、フランジバックの短いレンズ(例えばCマウントレンズなど)により、小型化されたプリズム、撮像素子、映像処理回路基板などにより小型化が可能であり、可搬型のダーモスコープとほぼ同様な構成として、片手で皮膚患部を観察する形状であったり、また、カメラや内視鏡に組み込んで観察結果を撮影画像として記録することも可能である。
光学機器80は、光束分離光学系カメラ部81,レンズ部11,照明部83、映像信号処理部84,映像データ送信部85、モニター部86を備えている。その他、図示していないが光学機器として必要な、電源バッテリー部、光学機器操作部、信号又は照明切替部などが当然に組み込まれるがこれらは図示されていない。
照明部83は、白色光源部90及び青紫色光源部91により構成されており、白色光源部90は、紫外線、紫色、青色、黄色、肌色、可視光、赤外線(近・中赤外線)などをそれぞれ切替えて照射できることが望ましいが、少なくともこれらの波長帯域をカバーする数個のLEDを備えていれば良い。また、これらの照明光源はなくても自然光が得られる場合は、自然光により観察することもできるため、必ずしも必要ではないが、これらの波長照射でより鮮明に皮膚疾患状態を観察することができる。
照明部83は、照明光源として使用しうるが、省電力とするために実施例1と同様ストロボ光源として使用しても良い。皮下出血の残痕を観察するにはシャッターボタンを押すと同時に半シャッター状態で白色光源部90を発光させ、フォーカス調整を行い、青紫色光源部91の発光と同時に白色光源部90を遮断し、青紫色の発光にシャッター同期させる。
このような光学機器を使用して皮膚受傷部25、25’などを観察するにあたっては、光学機器80の先端フード部92を受傷皮膚表面近傍21に当接する。皮膚疾患の例として擦過傷や水ぶくれなどの受傷部25が皮膚の表皮21,真皮22及び皮下脂肪層23に亘っている様子を観察する。
まず、皮膚疾患の表面状態を観察するには、S波像とP波像、もしくは偏向波像と非偏向波像とを比較、観察する。皮膚疾患の表面が液状である場合、表面の乱反射による影響を避けるためS波像及びP波像を切替えていずれか観察に良好な画像を取得する。偏光波が取得できることで従来のダーモスコープのように皮膚疾患の表面にジェルを塗布して観察する必要がない。そのため、ジェル塗布の手間や衛生上の問題も生じない。
打撲傷(打ち身)やあざの場合、皮膚表面状態を変色により経過を観察する。前述の通り、受傷直後から赤みがかった青色から紫色、黄色、茶色混濁色へ変色する状態を観察するには、主としてカラー可視光帯域のS波像、P波像又は非偏向波像で観察する。また、LED照明の波長(色)を黄色、橙色、茶色などへ切替て照射することでより変色状態が強調されて容易に観察することができる。さらに、受傷後2週間以上経過した打撲の場合、皮膚表面が退色していても青紫・紫外線画像に切り替えて観察することで真皮及び皮下脂肪に亘っている陳旧打撲を観察することができる。この場合、光源としては波長415nmを含む青紫・紫外線帯域の波長を照射することが望ましい。
また、このような皮膚疾患が、虫刺され、火傷(熱傷)、刺し傷、裂傷、良性・悪性腫瘍、かぶれなどの打撲によるものでない症状も見分ける必要がある。多くの皮膚疾患は、目視や外観状態の観察で判断可能であるが、本発明による光学機器では前述の青紫・紫外線像、S偏光波像、P偏光波像に加えて、赤外光像も取得できるため、赤外光像による皮膚内部の患部状態を観察することができる。そのため、皮膚疾患の程度(傷の深さ)や広がり状態、悪性・良性腫瘍の判断材料を提供することができる。
このような光学機器80により取得した青紫・紫外光像、赤外光像、S偏光波像、P偏光波像は、それぞれの撮像素子により映像信号として出力され、各種映像データは、映像信号処理部84を介して光学機器80のモニター86上で観察することができる。一方、各種映像データは映像データ送信部85より無線通信により外部のデータ受信・演算処理部87に送信される。この無線通信手段は、WiFi,ジグビー、ブルートゥースなどいずれの無線通信方式であっても映像データを処理できるものであれば構わない。取得した映像信号は、無線通信によりデータ受信・演算処理部87へ送信される。観察機器の本体はワイヤレスで、可搬性のある小型光学機器として構成することができる。
演算処理部87においては、光学機器80より送信された映像データを受信する受信部及び画像データを編集、比較、合成するとともにハードディスク・ドライブ等の記録部88を備えており、すべてのデータを時間経過に沿って記録する。演算処理部87の出力は、モニター89により比較、観察することができる。このモニター89では、光学機器80により取得された、青紫・紫外光像、赤外光像、P波像、S波像を同時に表示したり、それぞれを切り替えて表示したりすることで、皮膚疾患や傷の程度を観察、分析する。また、観察データがすべて記録部88において記録されているため、時間経過に伴う打撲傷、皮膚疾患の変色状態を比較したり、陳旧打撲の状態を把握したりすることができる。