JP2021125747A - 立体音像再生方法 - Google Patents

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直樹 小澤
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Abstract

【課題】音場におけるある位置での音圧の強度とさらに微小距離だけ離れた位置での音圧の強度の比を変えることによって、これに対応して音響工学から導かれる音源からの距離を制御することのできる立体音像再生方法を提供する。【解決手段】第1のラウドスピーカと聴取位置との間に第2のラウドスピーカを置いて、上記第1のラウドスピーカから上記第2のラウドスピーカの位置まで音響信号が伝搬する時間に等しい遅延を施し、第1のラウドスピーカから放出される音響信号とは逆の位相となる音響信号を第2のラウドスピーカから放出することで、第1のラウドスピーカのみあるいは第2のラウドスピーカのみで生成される音場の一部が相殺されて、単独のラウドスピーカで得られるものとは聴取位置の音圧と聴取位置から微小距離離れた位置の音圧の比が異なる音場を生成することができる。【選択図】図1

Description

本発明は、入力された音源信号を用いて3次元の空間に拡がる立体的な音像を再現する立体音像再生方法に係り、特に、聴取者が検知する音像までの距離感を制御できる立体音像再生方法に関する。
音楽などを楽しむ際に用いるオーディオシステムにおいて、空間に音圧変化としての音響信号を放出する装置は、スピーカを一つ用いるモノラル再生システムから、2つのスピーカを用いるステレオ再生システムへと発展し、現在は5つ以上のスピーカを用いて3次元の音場を再生する3次元立体音像再生システムが開発されている。
こうした3次元立体音像再生システムを3次元映像と組み合わせて用いる場合には、映像の対象が遠方にあるときには音像も遠方に、映像の対象が近くにあるときには音像も近くにあることが望ましい。これを実現するには、聴取者が検知する音像までの距離感を制御することが必要である。また、ヘッドフォンを用いて音響信号を聴取すると、音像は聴取者の頭内に定位することが知られており、こうしたヘッドフォンの分野でも音像と聴取者との間の距離感を制御することが課題である。
聴取者が検知する音像までの距離感を変化させるための従来技術の一例が公開特許公報の特開平6−269096に開示されている。これは、音響信号のうちの8kHz付近の周波数帯域の成分を増大すると音像までの距離感が近くなるという現象を利用するものである。
また、他の一例が公表特許公報の特表2013−529017に開示されている。これは、音像までの距離感を制御するために、音響信号の反響成分の大きさと遅延時間を調整する、音響信号の3000ないし4000Hzの低域成分の大きさを調整する、あるいは2つのスピーカを用いる場合において2つのスピーカに加える信号の位相差を調整するというものである。
また他の一例が公開特許公報の平3−159500に開示されている。これは、複数のスピーカを用いて、それぞれのスピーカに加える信号の遅延時間と大きさを調整して音響信号が空間上の任意の一点で位相が一致して信号が最大となる焦点を生成し、それを新たな仮想音源として音像の距離感の制御を実現しようとするものである。
そもそも、聴取者は音像までの距離感をどのように検知しているか、については、左右の耳で検知される音響信号のレベル差や到達時間差によるものとする説や、直接音と反響音のレベル差や到達時間差によるものとする説が有力とされている。
しかし、出願人の研究結果によると、片方の耳のみで音響信号を聴取する場合にも音像までの距離感は検知可能である。これは、簡単な方法で確認できる。以後、図2に示す人の聴覚器官の概略図を用いて確認の方法を説明する。なお、図2は日本音響学会編の「聴覚モデル」(ISBN978−4−339−01323−8)の20頁に掲載された「ヒトの聴器の略図」で示されたものである。
ラジオなどから放出される通常の音量の音響信号を聴取する際、両耳のそれぞれにおいて、図2における外耳道入口201を指先の腹で塞ぐことによって、完全に音響信号を遮蔽して無音とすることが可能である。これは、ラジオなどを聴取する際の通常の音量では、頭蓋骨などからの音響の伝搬は検知されず、外耳道202から中耳203ないし内耳204の蝸牛205以降の聴覚器官に入射した音響信号のみが検知されることを示す。
ここで、例えば右耳の遮蔽を外すと、右耳の外耳道202から右耳の聴覚器官に入射した音響信号のみが検知される。このとき、音源と右耳までの距離を変化させると、音像までの距離が変化するのを検知することができる。これは、片方の耳のみで音像との距離感を検知可能であることに他ならない。
このことから、音源から聴取者までの距離感が左右の耳で検知される音響信号のレベル差や到達時間差によるものとする説には出願者は懐疑的である。ただし、左右の耳で検知される音響信号のレベル差や到達時間差で音像の方向感を検知することをも否定するものではない。
また、反響音の成分が小さい屋外でも、片耳のみで音源までの距離感が検知可能であることから、音源までの距離感が直接音と反響音のレベル差や到達時間差によるものとする説も決定的なものではないと推察している。
一方、音源から一定の距離だけ離れた聴取者の位置での音場は、次の関係であることが音響工学の分野で広く知られている。
音源から音圧の変化である音響信号が球面波となって放出された場合、ある点における音圧Pは次の(1)式であらわされることが知られている。ここで、jは虚数、ωは角度周波数、ρ、kは定数、e(-jkr)は周波数に関連する位相の項であり、Aは音源における音響信号の大きさ、rは音源から観測点までの距離である。なお、(1)式は「電気音響工学」(コロナ社、標準電気工学講座12、29頁)など多くの文献に示されている。
Figure 2021125747
(1)式を用いれば、大きさAの音源から距離rだけ離れた音場での音圧P1と、さらに微小距離rdだけ離れた位置、すなわち、音源からr+drだけ離れた音場での音圧P2の比は次の(2)式に示すとおりである。
Figure 2021125747
(2)式は、ある音源によって生成された音場において、音源からrだけ離れた位置の音圧を1としたとき、音源からさらにdrだけ遠ざかった位置の音圧は1−dr/(r+dr)倍に減少することを示している。このとき、音源からの距離rが大きいほどP2/P1は1に近い値となり、音源に近づくほどP2/P1が小さな値になることがわかる。これは、音場の物理的状態を音圧の面から表わしたものである。
音場において、ある位置におけるP1あるいはP2を変えて両者の比を変えることができるならば、上記の音響工学上の関係から距離rに対して求められる値とは異なるものにできる。人の聴覚器官がこうした微小距離間での音圧の変化を検知しているのであれば、音場のある位置におけるP2/P1の関係を変えることで、人の聴覚器官が検知する音源からの距離感を実際の距離rとは異なるものにすることができる。この結果、聴取者から音源までの距離感を制御することが可能となる。
人の聴覚器官が音場の音響信号を検知する際に、音源からある距離だけ離れた位置の音圧と、さらに微小距離だけ離れた位置の音圧との比あるいは差を検知しているかどうかが示された例はない。しかし、以下の推論が成り立つならば、人の聴覚器官が音源からある距離だけ離れた位置において、微小距離間の音圧の変化を検知していることを否定できないものと考える。
人の聴覚器官は図2に示すとおりであるが、外耳道202に入射した音響信号は音圧に対応した力で鼓膜206を振動させる。鼓膜206の振動は耳小骨207、208で機械的な力に変換されて蝸牛の前庭窓209に伝搬し、前庭窓から蝸牛205の中のリンパ液を振動させて聴覚を励起する、というのが広く知られている聴覚器官の動作である。通常、気体から液体に加わる音響信号はほとんどが反射されるが、耳小骨によって機械的な振動に変換されるので効率よくリンパ液に振動が伝えられるとされている。蝸牛205には前庭窓209と蝸牛窓210があるが、耳小骨を経て前庭窓から加わった振動はリンパ液を介して蝸牛内部に伝わり、蝸牛窓は蝸牛内を伝搬した振動の出口であるとするのが一般的である。
しかし、The Journal of the Acoustical Society of America、Vol.22、No.460(1950)の「The Acoustic Pathways to the Cochlea」やAudiorogy Japan、Vol.40、No.5(1997)の「内耳窓刺激による振動聴覚閾値」に示されているように、蝸牛窓210は単なる振動の出口だけではなく、蝸牛窓からの入力でも音響信号を検知することが多くの研究者に認められている。
そこで、外耳道202に入力した音響信号は、鼓膜206によって鼓膜位置の音圧が耳小骨に加わり、これが耳小骨を介して前庭窓209から蝸牛205の内部に伝搬すると同時に、鼓膜位置の音圧が鼓膜206を介して内耳203に空気振動となって伝わり、これが蝸牛窓210から蝸牛内に伝搬すると考えることができるならば、鼓膜206の位置の音圧と鼓膜から微小距離だけ離れた蝸牛窓210の位置の音圧を検知しているとみることができる。この推論が成り立つならば、人の聴覚器官が音場において音源からある距離離れた位置の音圧と、さらに微小距離だけ離れた位置の音圧の変化を検知できることになる。なお、この時の微小距離は、鼓膜206から蝸牛窓210までの長さであるが、小林らの「断層撮影による内耳道の計測」、日本耳鼻咽喉科学会誌、Vol.90 No.7、pp1023-1029、1987、によれば、個人差が大きいが平均は8ないし9mm程度とされている。また、前庭窓からの音圧の検知と蝸牛窓からの音圧の検知には大きな感度差があることが推測されるが、生後の学習によって音圧差と距離感の関係を結び付けるテーブルが形成されるのではないかと推測している。
以上の推論によれば、音場におけるある位置での音圧の強度とさらに微小距離だけ離れた位置での音圧の強度の比を任意に変えることができれば、その比に対応した(2)式が示す距離rを聴覚器官に検知させることができる。しかし、上述した特表2013−529017あるいは公開特許公報の平3−159500などの従来技術では、音場においてある位置での音圧の強度とさらに微小距離だけ離れた位置での音圧の強度の比を変える方法を開示していない。
特表2013−529017 公開特許公報 平3−159500 公開特許公報 特開平6−269096
以上述べたように、従来技術による立体音像再生方法では、音場におけるある位置での音圧の強度とさらに微小距離だけ離れた位置での音圧の強度の比を変える方法を開示していない。この結果、ある位置での音圧の強度とさらに微小距離だけ離れた位置での音圧の強度の比から音響工学に基づいて求められる音源までの距離を自在に設定することができなかった。
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、音場におけるある位置での音圧の強度とさらに微小距離だけ離れた位置での音圧の強度の比を変える方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明の立体音像再生方法では、三次元の音響空間において、任意に定めた聴取位置から所定の距離だけ離れた第1の位置に第1のラウドスピーカを設置し、上記聴取位置と上記第1の位置を結ぶ直線上にある第2の位置に隣接し、かつ、上記聴取位置からの距離が上記聴取位置から上記第2の位置までの距離に等しい第3の位置に第2のラウドスピーカを設置し、任意に用意した音源信号を第1の増幅率で増幅して第1のラウドスピーカを駆動し、上記第1の位置から上記聴取位置まで音響信号が伝搬するのに要する時間と上記第3の位置から上記聴取位置まで音響信号が伝搬するのに要する時間との差に対応する時間だけ上記音源信号を遅延させた遅延信号を生成し、上記遅延信号を上記第1の増幅率とは異なる第2の増幅率で増幅させて極性を反転させた信号で上記第2のラウドスピーカを駆動する。
本発明の立体音像再生方法によれば、第1の増幅率の絶対値が第2の増幅率の絶対値よりも大きい時は、第1のラウドスピーカで生成される音場の一部が、第2のラウドスピーカで生成される音場で相殺される。この結果、第1のラウドスピーカ単独で得られるものとは聴取位置の音圧と聴取位置から微小距離離れた位置の音圧の比が異なる音場を生成することができる。
同様に、第2の増幅率の絶対値が第1の増幅率の絶対値よりも大きい時は、第2のラウドスピーカで生成される音場の一部が、第1のラウドスピーカで生成される音場で相殺される。この結果、第2のラウドスピーカ単独で得られるものとは聴取位置の音圧と聴取位置から微小距離離れた位置の音圧の比が異なる音場を生成することができる。
図1は本発明の立体音像再生方法の実施の形態を示す図である。 図2は人の聴覚器官を示す図である。 図3は本発明の立体音像再生方法におけるラウドスピーカの配置方法を示す図である。 図3は本発明の立体音像再生方法におけるラウドスピーカの配置の第1の実現方法を示す図である。 図4は本発明の立体音像再生方法におけるラウドスピーカの配置の第2の実現方法を示す図である。
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
図1は本発明による立体音像再生方法の第1の実施の形態を示す構成図である。図1に示す構成図において、入力信号である音源信号101はプロセッサ102に加えられる。ここで、音源信号101がアナログ信号であるものとすると、プロセッサ102の動作は次のとおりである。
>
プロセッサ102において、加えられた音源信号101はAD変換機103に加えられ、デジタル信号104に変換される。音源信号101がデジタル信号の場合は、AD変換機103を省くことができる。AD変換機103から出力されたデジタル信号104は、ゲインコントロール回路105とディレイ回路106に加えられる。
ゲインコントロール回路105に加えられたデジタル信号104は、別途設定されたたとえば定数A1のゲインで増幅されて出力される。ゲインコントロール回路105の出力信号はDA変換器107でアナログ出力信号108に変換されてプロセッサ102から出力される。
一方、ディレイ回路106に加えられたデジタル信号104は、後述する時間だけ遅延されて出力され、ゲインコントロール回路109に加えられる。ゲインコントロール回路109に加えられた信号は別途設定されたたとえば定数A2のゲインで増幅され、さらに正負が逆になるよう反転されて出力される。ゲインコントロール回路109の出力信号はDA変換器110に加えられ、アナログ出力信号111に変換されてプロセッサ102から出力される。
プロセッサ102から出力されたアナログ出力信号108はアンプ112に加えられ、増幅されてラウドスピーカ114を駆動する。一方、プロセッサ102から出力されたアナログ出力信号111はアンプ113に加えられ、増幅されてラウドスピーカ115を駆動する。
ここで、ラウドスピーカ114とラウドスピーカ115の空間的な位置関係を図3に示す。図3に示すとおり、ラウドスピーカ115はラウドスピーカ114と聴取位置として設定した位置116を結ぶ直線上の付近にあるものとする。
このとき、ラウドスピーカ114から放出された音響信号による音場では、ラウドスピーカ114から距離r1だけ離れた位置116における音圧P11は(1)式より次のようになる。
Figure 2021125747
また、位置116よりさらにdrだけ離れた位置117、すなわちラウドスピーカ114から距離r1+drだけ離れた位置における音圧P12は次のとおりである。
Figure 2021125747
この結果、ラウドスピーカ114から放出された音響信号による音場では、r1だけ離れた位置における音圧P11と(r1+dr)だけ離れた位置における音圧P12の比P12/P11は次の(5)式となる。
Figure 2021125747
ここで、r1を200cm、drを1cmとすると(5)式よりP12/P11は次のとおりである。
Figure 2021125747
さらに図3では、ラウドスピーカ114から位置116を結ぶ直線上の付近であって、ラウドスピーカ114よりr2だけ位置116に近い位置にラウドスピーカ115を設置する。このとき(1)式より、ラウドスピーカ115から放出された音響信号による音場では、ラウドスピーカ115から距離(r1―r2)だけ離れた位置である位置116における音圧P21は次のようになる。ここで、ゲインコントロール回路109は入力信号の極性を反転させて出力するので、(6)式においてP21には負号が付けられている。
Figure 2021125747
また、さらに位置116からdrだけ離れた位置117における音圧P22は次のとおりである。
Figure 2021125747
ここで、ラウドスピーカ114から放出された音響信号が空気中を伝搬して位置116に到達するまでの時間は、ラウドスピーカ115から放出された音響信号が位置116に到達するまでの時間より、ラウドスピーカ114とラウドスピーカ115の間の距離r2を音響信号が伝搬する時間dtだけ長い。そこで、ディレイ回路106の遅延時間をdtに設定すると、プロセッサ102に入力された音源信号101が音響信号となってラウドスピーカ114から放出されて位置116に到達するまでの時間と、ラウドスピーカ115から放出されて位置116に到達するまでの時間を等しくできる。
この結果、位置116で観測されるラウドスピーカ114から放出された音響信号とラウドスピーカ115から放出された音響信号は、同じ時刻に出力された音源信号101に対応したものとなるから、両者の重ね合わせによる音圧は音源信号101の線形結合であらわされる。このとき、ラウドスピーカ114から放出された音響信号とラウドスピーカ115から放出された音響信号は、上述のゲインコントロール回路109の動作により逆相の関係にあるので、両者の音圧は対応する割合で相殺される。なお、ラウドスピーカ114と位置116の延長線上にある位置117における音圧についても同様である。
以上の結果、ラウドスピーカ114からr1だけ離れた位置116における音圧(P12+P22)は次のようになる。
Figure 2021125747
同様に、ラウドスピーカ114から(r1+dr)だけ離れた位置117における音圧(P12+P22)は次のようになる。
Figure 2021125747
この結果、位置116における音圧(P11+P21)と位置117における音圧(P12+P22)の比は次のとおりである。
Figure 2021125747
ここで、極性の反転を含めたゲインコントロール回路109のゲイン(−A2)が、ゲインコントロール回路105のゲイン(A1)の−α倍になるように設定すると、(P11+P21)/(P12+P22)は次の関係となる。
Figure 2021125747
(11)式によれば、r1を200cm、r2を25cm、drを1cmとおき、さらに、αを0.5としてラウドスピーカ114から放出された音響信号が主体であってラウドスピーカ115から放出された音響信号で一部が相殺される関係としたとき、(P12+P22)/(P11+P21)は約0.996となる。すなわち、ラウドスピーカ114とラウドスピーカ115から放出された音響信号が合成された音場において、ラウドスピーカ114から201cm離れた位置における音圧のレベルは、ラウドスピーカ114から200cm離れた位置における音圧の0.996倍になる。これは1−1/250であるから、(5)式よりラウドスピーカから249cm離れた位置での音圧とさらに1cm離れた位置での音圧の比に一致する。この結果、ラウドスピーカ114とラウドスピーカ115から放出された音響信号が合成されたことによる位置116での音場は、ラウドスピーカ114が現在の位置よりも49cm遠い位置にある場合のものと一致する。
また、ゲインコントロール回路105のゲイン(A1)がゲインコントロール回路109のゲイン(−A2)の−0.5倍になるよう設定して、ラウドスピーカ115から放出される音響信号が主体であってラウドスピーカ114から放出される音響信号で一部が相殺される関係とするには、(11)式においてα=2とすればよい。ここで、r1を200cm、r2を25cm、drを1cmとすると、(11)式より(P12+P22)/(P11+P21)は約0.992となる。これは1−1/125であるから、(5)式よりラウドスピーカ115から124cm離れた位置での音圧とさらに1cm離れた位置での音圧の比に一致する。この結果、位置116におけるラウドスピーカ114とラウドスピーカ115から放出された音響信号が合成された音場は、ラウドスピーカ115の位置よりも51cm近い位置に音源がある場合のものと一致する。
以上のように、ラウドスピーカ114と聴取位置との間にラウドスピーカ115を設置して、ラウドスピーカ114から放出される音響信号とは逆の位相で、ラウドスピーカ114からラウドスピーカ115の位置まで音響信号が伝搬する時間に等しい遅延を施した音響信号をラウドスピーカ115から放出することで、ラウドスピーカ114のみあるいはラウドスピーカ115のみで生成される音場の一部が相殺されて、単独のラウドスピーカで得られるものとは聴取位置の音圧と聴取位置から微小距離離れた位置の音圧の比が異なる音場を生成することができる。
上述の効果が得られるには、ラウドスピーカ114による音場とラウドスピーカ115による音場が、聴取位置において(1)式であらわされるものであることが必要である。一方でラウドスピーカ115は、ラウドスピーカ114と聴取位置を結ぶ直線上に配置することが望まれるが、これを実現するときラウドスピーカ115の存在がラウドスピーカ114の音場に少なからず影響を与える。ラウドスピーカ115の存在がラウドスピーカ114の音場に与える影響を最小限にとどめるため、配置には配慮が必要である。
ラウドスピーカ114とラウドスピーカ115の配置の一例を図4に示す。図4に示す配置の例では、ラウドスピーカ115はラウドスピーカ114と聴取位置である位置116を結ぶ直線より垂直方向にずらした位置に配置されるものとする。図ではラウドスピーカ115はラウドスピーカ114より下方としたが、上方でも同様の効果が得られることは明らかである。
また、他の配置の一例を図5に示す。図5に示す配置の例では、ラウドスピーカ115はラウドスピーカ114と聴取位置である位置116を結ぶ直線より水平方向にずらした位置に配置されるものとする。図ではラウドスピーカ115はラウドスピーカ114の左方としたが、右方でも同様の効果が得られることは明らかである。
なお、上述の説明ではラウドスピーカが据え置き型であるものとして説明したが、ラウドスピーカを小型化し、配置の構成を縮小することでヘッドフォン内に収める構成とすることも可能である。これによって、ヘッドフォンの外部に音像を生成する効果が期待できる。
なお、上述の実施例の説明において、プロセッサ102がゲインコントロール回路などの各機能を組み合わせて構成されているものとして説明したが、ソフトウェアで制御するマイクロコンピュータなどで、同等の処理を一括して実施する方法をとることも可能である。また、上述の実施例の説明では、音源信号をデジタル信号に変換する場合を例にとったが、アナログ信号を遅延する遅延回路などを用いれば、デジタル信号に変換することなくアナログ信号のままでプロセッサの処理を実現することができる。
以上説明したように、本発明の立体音像再生方法によれば、第1のラウドスピーカと聴取位置との間に第2のラウドスピーカを設置して、上記第1のラウドスピーカから上記第2のラウドスピーカの位置まで音響信号が伝搬する時間に等しい遅延を施し、第1のラウドスピーカから放出される音響信号とは逆の位相とした音響信号を第2のラウドスピーカから放出することで、第1のラウドスピーカのみあるいは第2のラウドスピーカのみで生成される音場の一部が相殺されて、聴取位置の音圧と聴取位置から微小距離離れた位置の音圧の比が、第1あるいは第2のラウドスピーカ単独で得られるものとは異なる音場を生成することができる。このとき、人の聴覚器官が音源からある距離離れた位置の音圧と、さらに微小距離だけ離れた位置の音圧の変化を検知することによって距離感を検知しているのであれば、実際の第1のラウドスピーカより遠い位置、あるいは第2のラウドスピーカより近い位置に音源を知覚させることができる。この結果、音源の位置が広がった立体音像を再生することができる。
101 音源信号
102 プロセッサ
103 AD変換器
104 デジタル信号
105、109 ゲインコントロール回路
106 ディレイ回路
107、110 DA変換器
108、111 アナログ出力信号
112、113 アンプ
114、115 ラウドスピーカ
116、117 位置
201 外耳道入口
202 外耳道
203 中耳
204 内耳
205 蝸牛
206 鼓膜
207、208 耳小骨
209 前庭窓
210 蝸牛窓

Claims (3)

  1. 三次元の音響空間において、任意に定めた聴取位置から所定の距離だけ離れた第1の位置に第1のラウドスピーカを設置し、上記聴取位置と上記第1の位置を結ぶ直線上にある第2の位置に隣接し、かつ、上記聴取位置からの距離が上記聴取位置から上記第2の位置までの距離に等しい第3の位置に第2のラウドスピーカを設置し、
    任意の音源信号を第1の増幅率で増幅した信号で第1のラウドスピーカを駆動し、
    上記第1の位置から上記聴取位置まで音響信号が伝搬するのに要する時間と上記第3の位置から上記聴取位置まで音響信号が伝搬するのに要する時間との差に対応する時間で上記音源信号を遅延させた遅延信号を生成し、上記遅延信号を上記第1の増幅率とは異なる第2の増幅率で増幅させて極性を反転させた信号で上記第2のラウドスピーカを駆動することを特徴とした立体音像再生方法。
  2. 上記第1の位置と上記第3の位置は同一の垂直面上にあることを特徴とした請求項1記載の立体音像再生方法。
  3. 上記第1の位置と上記第3の位置は同一の水平面上にあることを特徴とした請求項1記載の立体音像再生方法。
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