JP2021123752A - 方向性電磁鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】低磁場領域での磁歪を改善した上で、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板を提供する。【解決手段】境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界が存在し、且つ境界条件BAを満足する境界数を境界条件BBを満足する境界数で割った値が1.3以上であり、表面粗さRaが0.5μm以下である、ことを特徴とする方向性電磁鋼板を採用する。【選択図】図3

Description

本発明は、方向性電磁鋼板に関する。
方向性電磁鋼板は、Siを7質量%以下含有し、{110}<001>方位(Goss方位)に集積した二次再結晶集合組織を有する。なお、{110}<001>方位とは、結晶の{110}面が圧延面と平行に配し、且つ結晶の<001>軸が圧延方向と平行に配することを意味する。
方向性電磁鋼板の磁気特性は、{110}<001>方位への集積度に大きく影響される。特に、鋼板の使用時に主たる磁化方向となる鋼板の圧延方向と、磁化容易方向である結晶の<001>方向との関係が重要と考えられている。そのため、近年の実用の方向性電磁鋼板では、結晶の<001>方向と圧延方向とがなす角が5゜程度の範囲内に入るように、制御されている。
方向性電磁鋼板の実際の結晶方位と理想的な{110}<001>方位とのずれは、圧延面法線方向Z周りにおけるずれ角α、圧延直角方向C周りにおけるずれ角β、および圧延方向L周りにおけるずれ角γの3成分により表すことができる。
図1は、ずれ角α、ずれ角β、及びずれ角γを例示する模式図である。図1に示すように、ずれ角αとは、圧延面法線方向Zから見たときに圧延面に射影した結晶の<001>方向と圧延方向Lとがなす角である。ずれ角βは、圧延直角方向C(板幅方向)から見たときにL断面(圧延直角方向を法線とする断面)に射影した結晶の<001>方向と圧延方向Lとがなす角である。ずれ角γは、圧延方向Lから見たときにC断面(圧延方向を法線とする断面)に射影した結晶の<110>方向と圧延面法線方向Zとがなす角である。
ずれ角α、β、γのうち、ずれ角βは、磁歪に影響を与えることが知られている。なお、磁歪とは、磁性体が磁場印加によって形状変化する現象である。変圧器のトランスなどに用いられる方向性電磁鋼板では、磁歪が振動・騒音の原因となるため、磁歪が小さいことが求められている。
例えば、特許文献1〜3には、ずれ角βを制御することが開示されている。また、ずれ角βに加えて、ずれ角αを制御することが、特許文献4および5に開示されている。さらに、ずれ角α、ずれ角β、およびずれ角γを指標として用い、結晶方位の集積度をさらに詳細に分類して鉄損特性を向上する技術が特許文献6に開示されている。
また、ずれ角α、β、γの絶対値の大きさ及び平均値を単に制御するだけでなく、変動(偏差)を含めて制御することが、例えば特許文献7〜9に開示されている。さらに、特許文献10〜12には、方向性電磁鋼板にNbやVなどを添加することが開示されている。
また、方向性電磁鋼板は、磁歪に加えて磁束密度にも優れることが求められている。これまで、二次再結晶における結晶粒の成長を制御して磁束密度の高い鋼板を得る方法などが提案されている。例えば、特許文献13および14には、仕上げ焼鈍工程にて、一次再結晶粒を蚕食しつつある二次再結晶粒の先端領域で、鋼板に温度勾配を与えながら二次再結晶を進行させる方法が開示されている。
ただ、温度勾配を用いて二次再結晶粒を成長させた場合、粒成長は安定するものの、結晶粒が過度に大きくなりすぎることがある。結晶粒が過度に大きくなれば、コイルによる曲率の影響で磁束密度の向上効果が阻まれてしまうことがある。例えば、特許文献15には、温度勾配を与えながら二次再結晶を進行させる際に、二次再結晶の初期に発生した二次再結晶の自由な成長を抑制する処理(例えば鋼板の幅方向の端部に機械的な歪みを加える処理)が開示されている。
また、方向性電磁鋼板は、鉄損特性にも優れることが求められている。例えば、母材である珪素鋼板の表面が平滑化されれば、方向性電磁鋼板が磁化される際の磁壁移動が容易となり、鉄損が低減することが知られている。特許文献16には、フォルステライト被膜を酸洗等の手段で除去し、鋼板表面を化学研磨又は電解研磨で平滑にする製造方法が開示されている。特許文献17には、仕上げ焼鈍時にアルミナ(Al)を含む焼鈍分離剤を用いて、フォルステライト被膜の形成自体を抑制して、鋼板表面を平滑化する製造方法が開示されている。
ただ、珪素鋼板の表面を平滑にした場合、鉄損は低減するものの、アンカー効果を有するグラス被膜(フォルステライト被膜)を形成させないため、被膜密着性が低下することが知られている。被膜密着性が低下すると、鋼板への張力付与が困難となり、方向性電磁鋼板として要求される鉄損特性を満足しにくくなる。例えば、特許文献18および19では、平滑となった鋼板表面と絶縁被膜との間にSiOを主体とした酸化膜(中間層)を形成することにより、絶縁被膜と珪素鋼板とが良好に密着されることが開示されている。
日本国特開2001−294996号公報 日本国特開2005−240102号公報 日本国特開2015−206114号公報 日本国特開2004−060026号公報 国際公開第2016/056501号 日本国特開2007−314826号公報 日本国特開2001−192785号公報 日本国特開2005−240079号公報 日本国特開2012−052229号公報 日本国特開昭52−024116号公報 日本国特開平02−200732号公報 日本国特許第4962516号公報 日本国特開昭57−002839号公報 日本国特開昭61−190017号公報 日本国特開平02−258923号公報 日本国特開昭49−096920号公報 国際公開第2002/088403号公報 日本国特開2002−322566号公報 国際公開第2020/012667号公報
本発明者らが検討した結果、特許文献1〜9により開示された従来の技術は、結晶方位を制御しているにも関わらず、特に、磁歪の低減が十分とは言えない。
また、特許文献10〜12により開示された従来の技術は、単にNb及びVを含有させただけであるため、磁歪の低減は十分とは言えない。さらに、特許文献13〜15により開示された従来の技術は、生産性の観点で問題があるばかりでなく、磁歪の低減が十分とは言えない。
また、特許文献16および17により開示された従来の技術は、鋼板表面の平滑化に起因する被膜密着性の低下について十分に検討していない。
また、特許文献18および19により開示された従来の技術では、中間層の形成熱処理にて精緻な雰囲気制御が必要となり、コスト増加が避けられない。このため、さらなる被膜密着性の改善手法が求められている。
また、鋼板表面を平滑にした方向性電磁鋼板では、グラス被膜が存在しないため応力感受性が高くなり、トランス鉄心として用いた際の外力の作用により、騒音が悪化する傾向がある。このため、騒音特性(磁歪)の改善要望も大きくなっている。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされた。本発明は、磁歪の低減が方向性電磁鋼板に求められている現状を踏まえ、磁歪を改善した方向性電磁鋼板を提供することを課題とする。特に、低磁場領域(1.5T程度の磁場)での磁歪を改善した方向性電磁鋼板を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、低磁場領域での磁歪を改善した上で、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板を提供することを課題とする。
本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)本発明の一態様に係る方向性電磁鋼板は、Goss方位に配向する集合組織を有する方向性電磁鋼板であって、
前記方向性電磁鋼板が、質量%で、
Si:2.0〜7.0%、
Nb:0〜0.030%、
V:0〜0.030%、
Mo:0〜0.030%、
Ta:0〜0.030%、
W:0〜0.030%、
C:0〜0.0050%、
Mn:0〜1.0%、
S:0〜0.0150%、
Se:0〜0.0150%、
Al:0〜0.0650%、
N:0〜0.0050%、
Cu:0〜0.40%、
Bi:0〜0.010%、
B:0〜0.080%、
P:0〜0.50%、
Ti:0〜0.0150%、
Sn:0〜0.10%、
Sb:0〜0.10%、
Cr:0〜0.30%、
Ni:0〜1.0%、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
圧延面法線方向Zを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をαと定義し、
圧延直角方向Cを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をβと定義し、
圧延方向Lを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をγと定義し、
板面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点で測定する結晶方位のずれ角を(α β γ)および(α β γ)と表し、
境界条件BAを|β−β|≧0.5°と定義し、
境界条件BBを[(α−α+(β−β+(γ−γ1/2≧2.0°と定義するとき、
前記境界条件BAを満足し且つ前記境界条件BBを満足しない粒界が存在し、且つ前記境界条件BAを満足する境界数を、前記境界条件BBを満足する境界数で割った値が、1.3以上であり、
前記方向性電磁鋼板の表面粗さRaが0.5μm以下である。
(2)上記(1)に記載の方向性電磁鋼板では、前記方向性電磁鋼板上に接して配された中間層と、前記中間層上に接して配された絶縁被膜とを有し、直径20mmの丸棒に巻き付けて曲げ戻した時の被膜残存面積率が90〜100%であってもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の方向性電磁鋼板では、前記中間層が平均厚さ2〜500nmの酸化膜であってもよい。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、前記中間層が平均厚さ2〜500nmのセラミック膜であってもよい。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、前記化学組成として、Nb、V、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.0030〜0.030質量%含有してもよい。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
前記粒径RAと前記粒径RBとが、1.30≦RB÷RAを満たしてもよい。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
前記粒径RAと前記粒径RBとが、1.30≦RB÷RAを満たしてもよい。
(8)上記(1)〜(7)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義するとき、
前記粒径RAと前記粒径RAとが、1.15≦RA÷RAを満たしてもよい。
(9)上記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、
前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
前記粒径RBと前記粒径RBとが、1.50≦RB÷RBを満たしてもよい。
(10)上記(1)〜(9)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、
前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
前記粒径RAと前記粒径RAと前記粒径RBと前記粒径RBとが、
(RB×RA)÷(RB×RA)<1.0を満たしてもよい。
本発明の上記態様によれば、低磁場領域(特に1.5T程度の磁場)での磁歪を改善した方向性電磁鋼板が提供される。
特に、本発明の上記態様によれば、低磁場領域での磁歪を改善した上で、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板が提供される。
ずれ角α、ずれ角β、およびずれ角γを例示する模式図である。 方向性電磁鋼板の結晶粒界を例示する模式図である。 本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の断面模式図である。 本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の流れ図である。
本発明の好ましい一実施形態を詳細に説明する。ただ、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、下記する数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。また、化学組成に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する。
一般的に、磁歪を小さくするには、ずれ角βが小さくなるように(具体的には、ずれ角βの絶対値|β|の最大値および平均値が小さくなるように)、結晶方位が制御される。実際に、これまで、磁化する際の磁界の強さが、一般的に磁気特性を測定する際の磁界の強さである1.7T近傍の磁場領域(以降、単に「中磁場領域」と記述することがある)では、ずれ角βと磁歪との相関は比較的高いことが確認されている。
一方、実用の方向性電磁鋼板での二次再結晶は、コイルに巻かれた状態で進行する。つまり、二次再結晶粒は、鋼板が曲率を有している状態で成長する。このため、二次再結晶の初期段階でずれ角βが小さい結晶粒でも、結晶粒が成長するに伴ってずれ角βが不可避的に大きくなる。
もちろん、二次再結晶粒の発生段階で、ずれ角βが小さい結晶粒のみを多数生成させておくことができれば、それら個々の結晶粒がそれほど大きく成長しなくとも、ほぼ理想的な{110}<001>方位の二次再結晶粒で鋼板の全領域を埋め尽くすことも可能である。しかし、実際には、そのように方位が揃った結晶粒だけを多数生成させることはできない。
本発明者らは、実用鉄心に使用されている素材鋼板の結晶方位と騒音との関係を調査するうち、一部の材料では、ずれ角βと騒音との相関が弱くなる場合があることを知見した。すなわち、ずれ角βを従来のように制御した磁歪の小さな方向性電磁鋼板を使用しても、実使用環境での騒音は十分に小さくならない状況が認められた。
本発明者らは、この原因を次のように推定した。まず、実使用環境では磁束は鋼板内を均一には流れず、局所的に磁束が集中する箇所が発生する。それに伴い磁束密度が弱まる領域も存在し、その面積は磁束が弱まる領域の方が広い。このため、実使用環境での騒音は、一般的な1.7T程度の励磁条件での磁歪だけでなく、より低い励磁領域での磁歪が強く影響を及ぼしていると考えられる。
この推定に従い、ずれ角βと騒音との相関性が低くなる状況を調査したところ、その挙動が1.5Tでの磁歪速度レベル(Lva)で評価できることを知見した(磁歪速度レベルについては詳しく後述する)。そして、この挙動を最適に制御できれば、変圧器の騒音のさらなる低減が可能であると考えた。
そこで、本発明者らは、二次再結晶粒の成長の段階で結晶方位を保ったまま成長させるのではなく、方位変化を伴いながら結晶を成長させることを検討した。その結果、二次再結晶粒の成長の途中で、従来は粒界と認識されなかったほどの局所的で小傾角な方位変化を多数発生させ、一つの二次再結晶粒をずれ角βがわずかに異なる小さな領域に分割した状態が、低磁場領域での磁歪低減に有利となることを知見した。
また、上記の方位変化の制御には、方位変化自体を発生し易くする要因と、方位変化が一つの結晶粒の中で継続的に発生するようにする要因との考慮が重要であることを知見した。そして、方位変化自体を発生し易くさせるためには、二次再結晶をより低温から開始させることが有効で、例えば、一次再結晶粒径を制御し、Nb等の元素を活用できることを確認した。さらに、従来から用いられるインヒビターであるAlNなどを適切な温度および雰囲気中で利用することによって、方位変化を二次再結晶中の一つの結晶粒の中で高温領域まで継続的に発生させることができることを確認した。
さらに、本発明者らは、上記した方位制御による低磁場磁歪の低減に加えて、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性を向上させることを検討した。従来知見によれば、鋼板表面を平滑にすれば鉄損が低減することが期待されるが、一方、鋼板表面を平滑にすれば被膜密着性が低下することが懸念される。
ただ、本発明者らは、上記した方位変化の制御を行った場合には、これまで粒界と認識されなかったほどの局所的で小傾角な方位変化が一つの二次再結晶粒内で多数発生した状態となるので(すなわち、従来とは異なる材料構造となるので)、表面平滑化に起因する被膜密着性の低下に対して、従来知見が当てはまらないと考えた。具体的には、鋼板に応力が作用しても、二次再結晶粒内の多数の小傾角粒界によって応力が集中することなく分散されて、被膜剥離が抑制されるのではないかと考えた。そこで、本発明者らは、上記した方位変化の制御を行った上で、鋼板表面を平滑にしたときの被膜密着性を詳細に検討した。
その結果、上記した方位変化の制御を行った場合には、従来知見とは異なって、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性に優れる場合があることを知見した。具体的には、上記した方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒をさらに小さな領域に分割すれば、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性を向上できることを知見した。
すなわち、本発明者らは、方位変化の制御を行うことで低磁場領域での磁歪を改善し、二次再結晶粒をさらに小さな領域に分割することで鋼板表面が平滑であっても被膜密着性を向上できることを知見した。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒が、ずれ角βがわずかに異なる複数の領域に分割されている。すなわち、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、二次再結晶粒の粒界に相当する比較的に角度差が大きい粒界に加えて、二次再結晶粒内を分割している局所的で小傾角な粒界を有する。
加えて、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒の粒界に相当する比較的に角度差が大きい粒界数と、二次再結晶粒内を分割している局所的で小傾角な粒界数とを、特定範囲内に制御する。また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、表面が平滑である。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、Goss方位に配向する集合組織を有する方向性電磁鋼板であって、
質量%で、Si:2.0〜7.0%、Nb:0〜0.030%、V:0〜0.030%、Mo:0〜0.030%、Ta:0〜0.030%、W:0〜0.030%、C:0〜0.0050%、Mn:0〜1.0%、S:0〜0.0150%、Se:0〜0.0150%、Al:0〜0.0650%、N:0〜0.0050%、Cu:0〜0.40%、Bi:0〜0.010%、B:0〜0.080%、P:0〜0.50%、Ti:0〜0.0150%、Sn:0〜0.10%、Sb:0〜0.10%、Cr:0〜0.30%、Ni:0〜1.0%、を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する。
また、圧延面法線方向Zを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をαと定義し、圧延直角方向(板幅方向)Cを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をβと定義し、圧延方向Lを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をγと定義し、並びに、
板面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点で測定する結晶方位のずれ角をそれぞれ(α β γ)および(α β γ)と表し、境界条件BAを|β−β|≧0.5°と定義し、境界条件BBを[(α−α+(β−β+(γ−γ1/2≧2.0°と定義するとき、
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、上記境界条件BBを満足する粒界(二次再結晶粒界に相当する粒界)に加えて、上記境界条件BAを満足し且つ上記境界条件BBを満足しない粒界(二次再結晶粒を分割する粒界)を有し、且つ境界条件BAを満足する境界数を、境界条件BBを満足する境界数で割った値が、1.3以上となる。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、表面粗さRaが0.5μm以下である。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板(珪素鋼板)は、珪素鋼板上に接して配された中間層と、中間層上に接して配された絶縁被膜とを有してもよい。
境界条件BBを満足する粒界は、従来の方向性電磁鋼板をマクロエッチングしたときに観察される二次再結晶粒界に実質的に対応する。本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、上記の境界条件BBを満足する粒界に加えて、境界条件BAを満足し且つ上記境界条件BBを満足しない粒界を比較的高い頻度で有する。この境界条件BAを満足し且つ上記境界条件BBを満足しない粒界は、二次再結晶粒内を分割している局所的で小傾角な粒界に対応する。すなわち、本実施形態では、二次再結晶粒が、ずれ角βがわずかに異なる小さな領域により細かく分割された状態となる。
従来の方向性電磁鋼板は、境界条件BBを満足する二次再結晶粒界を有するかもしれない。また、従来の方向性電磁鋼板は、二次再結晶粒の粒内でずれ角βの変位を有しているかもしれない。ただ、従来の方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒内でずれ角βが連続的に変位する傾向が強いため、従来の方向性電磁鋼板に存在するずれ角βの変位は、上記の境界条件BAを満足しにくい。
例えば、従来の方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒内の長範囲領域でずれ角βの変位を識別できるかもしれないが、二次再結晶粒内の短範囲領域ではずれ角βの変位が微小なために識別しにくい(境界条件BAを満足しにくい)。一方、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、ずれ角βが短範囲領域で局所的に変位して粒界として識別できる。具体的には、二次再結晶粒内で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点の間に、|β−β|の値が0.5°以上となる変位が比較的高い頻度で存在する。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、後述するように製造条件を緻密に制御することによって、境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界(二次再結晶粒を分割する粒界)を意図的に作り込む。本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒がずれ角βがわずかに異なる小さな領域に分割された状態となり、低磁場領域での磁歪が低減される。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BAを満足する境界数を、境界条件BBを満足する境界数で割った値が1.3以上となるように制御する。本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、上記したように材料構造が従来とは異なるので、表面平滑化に関する従来知見も当てはまらず、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性が向上する。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、鋼板表面が平滑である。具体的には、表面粗さRaが0.5μm以下である。
以下、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を詳しく説明する。
1.結晶方位
まず、本実施形態における結晶方位の記載を説明する。
本実施形態では、「実際の結晶の{110}<001>方位」と「理想的な{110}<001>方位」との2つの{110}<001>方位を区別する。この理由は、本実施形態では、実用鋼板の結晶方位を表示する際の{110}<001>方位と、学術的な結晶方位としての{110}<001>方位とを区別して扱う必要があるためである。
一般的に再結晶した実用鋼板の結晶方位の測定では、±2.5°程度の角度差は厳密に区別せずに結晶方位を規定する。従来の方向性電磁鋼板であれば、幾何学的に厳密な{110}<001>方位を中心とする±2.5°程度の角度範囲域を、「{110}<001>方位」とする。しかし、本実施形態では、±2.5°以下の角度差も明確に区別する必要がある。
このため、本実施形態では、実用的な意味で方向性電磁鋼板の方位を意味する場合には、従来通り、単に「{110}<001>方位(Goss方位)」と記載する。一方、幾何学的に厳密な結晶方位としての{110}<001>方位を意味する場合には、従来の公知文献などで用いられる{110}<001>方位との混同を回避するため、「理想{110}<001>方位(理想Goss方位)」と記載する。
したがって、本実施形態では、例えば、「本実施形態に係る方向性電磁鋼板の{110}<001>方位は、理想{110}<001>方位から2°ずれている」との記載が存在することがある。
また、本実施形態では、方向性電磁鋼板で観測される結晶方位に関連する以下の4つの角度α、β、γ、φを使用する。
ずれ角α:方向性電磁鋼板で観測される結晶方位の、圧延面法線方向Z周りにおける理想{110}<001>方位からのずれ角。
ずれ角β:方向性電磁鋼板で観測される結晶方位の、圧延直角方向C周りにおける理想{110}<001>方位からのずれ角。
ずれ角γ:方向性電磁鋼板で観測される結晶方位の、圧延方向L周りにおける理想{110}<001>方位からのずれ角。
上記のずれ角α、ずれ角β、及びずれ角γの模式図を、図1に示す。
角度φ:方向性電磁鋼板の圧延面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点で測定する結晶方位の上記ずれ角を、それぞれ(α、β、γ)および(α、β、γ)と表したとき、φ=[(α−α+(β−β+(γ−γ1/2により得られる角度。
この角度φを、「空間3次元的な方位差」と記述することがある。
2.方向性電磁鋼板の結晶粒界
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、ずれ角βを制御するために、特に、二次再結晶粒の成長中に起こる、従来では、粒界とは認識されなかった程度の局所的な結晶方位の変化を利用する。以降の説明では、一つの二次再結晶粒内をずれ角βがわずかに異なる小さな領域に分割するように生じる上記の方位変化を「切り替え」と記述することがある。
さらに、ずれ角βの角度差を考慮した結晶粒界(境界条件BAを満足する粒界)を「β粒界」、β粒界を境界として区別した結晶粒を「β結晶粒」と記述することがある。
また、本実施形態に関連する特性である1.5Tで励磁した際の磁歪速度レベル(Lva)に関して、以降の説明では、単に「低磁場(での)磁歪」と記述することがある。
上記の切り替えは、結晶方位の変化が1°程度(2°未満)であり、二次再結晶粒の成長が継続する過程で発生すると考えられる。詳細は、製造法との関連で後述するが、切り替えが発生し易い状況で二次再結晶粒を成長させることが重要である。例えば、一次再結晶粒径を制御することで二次再結晶を比較的低温で開始させ、インヒビターの種類と量とを制御することで二次再結晶を高温まで継続させることが重要である。
ずれ角βの制御が低磁場磁歪に影響を及ぼす理由は必ずしも明確ではないが、以下のように推定される。
一般的に低磁場での磁化挙動は、180°磁区の移動により起きる。この磁区移動は、特に粒界近傍にて隣接する結晶粒との磁区の連続性に影響を受け、隣接粒との方位差が磁化挙動の障害の大小に結びつくのではないかと考えられる。前述のように、実用の方向性電磁鋼板での二次再結晶は、コイルに巻かれた状態で進行するため、粒界における隣接結晶粒間のずれ角βの差異が大きくなる状況が考えられる。本実施形態にて制御する切り替えは、一つの二次再結晶粒内で切り替え(局所的な方位変化)が高い頻度で生じることで、隣接粒との相対的な方位差を小さくし、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性を高めるように作用していると考えられる。
本実施形態では、切り替えを含めた結晶方位の変化に関して、2種類の境界条件を規定する。本実施形態では、これらの境界条件に基づく「粒界」の定義が重要である。
現在、実用的に製造されている方向性電磁鋼板の結晶方位は、圧延方向と<001>方向とのずれ角が、概ね5°以下となるよう制御されている。この制御は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板でも同様である。このため、方向性電磁鋼板の「粒界」を定義するとき、一般的な粒界(大傾角粒界)の定義である「隣接する領域の方位差が15°以上となる境界」を適用することができない。例えば、従来の方向性電磁鋼板では、鋼板面のマクロエッチングにより粒界を顕出するが、この粒界の両側領域の結晶方位差は通常、2〜3°程度である。
本実施形態では、後述するように、結晶と結晶との境界を厳密に規定する必要がある。このため、粒界の特定法として、マクロエッチングのような目視をベースとする方法は採用しない。
本実施形態では、粒界を特定するために、圧延面上に1mm間隔で少なくとも500点の測定点を含む測定線を設定して結晶方位を測定する。例えば、結晶方位は、X線回折法(ラウエ法)により測定すればよい。ラウエ法とは、鋼板にX線ビームを照射して、透過または反射した回折斑点を解析する方法である。回折斑点を解析することによって、X線ビームを照射した場所の結晶方位を同定することができる。照射位置を変えて複数箇所で回折斑点の解析を行えば、各照射位置の結晶方位分布を測定することができる。ラウエ法は、粗大な結晶粒を有する金属組織の結晶方位を測定するのに適した手法である。
なお、結晶方位の測定点は少なくとも500点であればよいが、二次再結晶粒の大きさに応じて、測定点を適切に増やすことが好ましい。例えば、結晶方位を測定する測定点を500点としたときに測定線内に含まれる二次再結晶粒が10個未満となる場合、測定線内に二次再結晶粒が10個以上含まれるように1mm間隔の測定点を増やして上記の測定線を延長することが好ましい。
圧延面上にて1mm間隔で結晶方位を測定し、その上で、各測定点に関して、上記したずれ角α、ずれ角β、及びずれ角γを特定する。特定した各測定点でのずれ角に基づいて、隣接する2つの測定点間に粒界が存在するか否かを判断する。具体的には、隣接する2つの測定点が、上記の境界条件BAおよび/または境界条件BBを満足するか否かを判断する。
具体的には、隣接する2つの測定点で測定した結晶方位のずれ角をそれぞれ(α、β、γ)および(α、β、γ)と表したとき、境界条件BAを|β−β|≧0.5°と定義し、境界条件BBを[(α−α+(β−β+(γ−γ1/2≧2.0°と定義する。隣接する2つの測定点間に、境界条件BAおよび/または境界条件BBを満足する粒界が存在するか否かを判断する。
境界条件BBを満足する粒界は、粒界を挟む2点間の空間3次元的な方位差(角度φ)が2.0°以上であり、この粒界は、マクロエッチングで認識されていた従来の二次再結晶粒の粒界とほぼ同じであると言える。
上記の境界条件BBを満足する粒界とは別に、本実施形態に係る方向性電磁鋼板には、「切り替え」に強く関連する粒界、具体的には、境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界が比較的高い頻度で存在する。このように定義される粒界は、一つの二次再結晶粒内をずれ角βがわずかに異なる小さな領域に分割する粒界に対応する。
上記した2つの粒界は、別の測定データを使用して求めることも可能である。ただ、測定の手間及びデータが異なることによる実態とのずれを考慮すれば、同じ測定線(圧延面上にて1mm間隔で少なくとも500点の測定点)から得られた結晶方位のずれ角を用いて、上記2つの粒界を求めることが好ましい。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、境界条件BBを満足する粒界に加えて、境界条件BAを満足し且つ上記境界条件BBを満足しない粒界を比較的高い頻度で有するので、二次再結晶粒内がずれ角βがわずかに異なる小さな領域に分割された状態となり、その結果、低磁場領域での磁歪が低減される。具体的には、1.5Tで励磁した際の磁歪速度レベル(Lva)が低減される。
ここで、磁歪速度レベル(Lva)とは、交流励磁時の磁歪波形を時間微分し速度に変換して人の聴覚の周波数特性であるA特性聴感補正を適用した値のことである。人間が知覚できる音の特性は必ずしも全ての周波数で一定ではなく、A特性と呼ばれる聴感特性で表現できる。実際の磁歪波形は、正弦波ではなく、様々な周波数成分が重なった波形となる。このため、磁歪波形をフーリエ変換し、それぞれの周波数ごとの振幅を求め、且つA特性を乗じることによって、実際の人間の聴感特性に近い指標となる磁歪速度レベル(Lva)を得ることができる。この磁歪速度レベル(Lva)を低減すれば、変圧器騒音のうちで人間が知覚する周波数に起因する鉄心振動を抑制でき、その結果、変圧器騒音を有効的に低減できると考えられる。
上記したように、低磁場領域(1.5T程度の磁場)の磁歪を低減するために、本実施形態では、鋼板中に「境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界」が存在すればよい。ただ、実質的には、低磁場領域の磁歪を低減するために、境界条件BAを満足し且つ上記境界条件BBを満足しない粒界が比較的高い頻度で存在することが好ましい。
例えば、本実施形態では、二次再結晶粒内をずれ角βがわずかに異なる小さな領域に分割することを特徴とするので、β粒界が、従来の二次再結晶粒界よりも比較的高い頻度で存在することが好ましい。
具体的には、圧延面上にて1mm間隔で少なくとも500点の測定点で結晶方位を測定し、各測定点でずれ角を特定し、隣接する2つの測定点で境界条件を判定したとき、「境界条件BAを満足する粒界」が、「境界条件BBを満足する粒界」よりも1.1倍以上の割合で存在すればよい。すなわち、上記のように境界条件を判定したとき、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値が、1.1以上となればよい。本実施形態では、上記の値が1.1以上である場合、方向性電磁鋼板に「境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界」が存在すると判断する。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、「境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界」が存在するときに、例えば「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値が1.1以上であるときに、低磁場領域での磁歪が低減される。このように、低磁場領域での磁歪の低減を目的とする場合には、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値が1.1以上であればよい。
ただ、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、被膜密着性の向上を目的として、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値を1.3以上に制御する。この値が1.3以上であるとき、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性が向上する。
例えば、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、表面粗さRaが0.5μm以下であり、鋼板表面が平滑であるが、従来知見とは異なって、被膜密着性が向上する。
従来知見とは異なる上記の効果が得られるメカニズムの詳細は、現時点では明確ではない。ただ、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に作り込むので従来とは材料構造が異なり、そのため従来知見とは異なる効果が得られると考えられる。例えば、本発明者らは、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むことによって、たとえ鋼板に応力が作用しても、二次再結晶粒内の多数の小傾角な粒界によって応力が集中することなく分散され、被膜の剥離が抑制され、その結果、被膜密着性が向上すると考えている。
例えば、従来の方向性電磁鋼板にて珪素鋼板の表面を単に平滑にすれば、この方向性電磁鋼板を曲げ試験などに供した場合には、曲げ応力が鋼板表面の二次再結晶粒界に集中し、この部分から絶縁被膜に向かって亀裂が発生しやすくなる。一方、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒界に加えて、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界が数多く形成されるので、たとえ曲げ試験などに供されても、曲げ応力が鋼板表面の局所に集中することなく均一に分散されて、その結果、絶縁被膜に亀裂が発生しにくくなると考えられる。
具体的には、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値が1.3以上であるとき、応力が局所的に集中することなく均一に分散される。そのため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値を1.3以上とする。この値は、1.5以上であることが好ましい。
なお、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値の上限は、特に限定されない。例えば、この値は、80以下であればよく、40以下であればよく、30以下であればよい。
3.化学組成
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の化学組成は詳しく後述する。ただ、本実施形態に係る方向性電磁鋼板(珪素鋼板)は、必要に応じて、Nb等の元素を含有してもよい。Nb等の元素が含有されるとき、被膜密着性がさらに好ましく向上する。
具体的には、Nb、V、Mo、Ta、およびWからなる群(Nb群元素)から選択される少なくとも1種を合計で0.0030〜0.030質量%含有すれば、被膜密着性をさらに好ましく向上できる。以降の説明では、Nb、V、Mo、Ta、及びWのうちの一種または二種以上の元素をまとめて、「Nb群元素」と記述することがある。
例えば、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造時にスラブにNb群元素が含有されれば、二次再結晶の駆動力が大きくなり、二次再結晶が従来よりも低温で開始し、一つの二次再結晶粒内で切り替え(局所的な方位変化)が高い頻度で生じる。この際、Nb群元素が、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界の形成状態に影響を与えると考えられる。例えば、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界における、原子空孔や転位密度などの格子欠陥、またNb群元素の粒界偏析に影響を与えると考えられる。すなわち、Nb群元素が含有されれば、鋼板表面に表出する粒界のミクロな形態が複雑化して、鋼板のFeと被膜の酸化物との原子レベルでの結合力を向上させると考えられる。そのため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、Nb群元素から選択される少なくとも1種を合計で0.0030〜0.030質量%に制御することが好ましい。
4.平滑表面
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、鋼板表面が平滑である。鋼板表面が平滑でない場合、例えば、鋼板表面にフォルステライト被膜が配されれば、フォルステライト被膜が鋼板に嵌入してアンカー効果を発揮するので、そもそも被膜密着性の低下を懸念する必要がない。本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性に優れる。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、表面粗さRa(算術平均粗さRa)が0.5μm以下である。この表面粗さRaは、0.4μm以下であることが好ましく、0.3μm以下であることがさらに好ましい。表面粗さRaの下限は、特に制限されないが、例えば0.1μmとすればよい。
この表面粗さRaは、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)の板面にて測定すればよい。方向性電磁鋼板(珪素鋼板)が、表面に中間層や絶縁被膜を有している場合には、次の方法によってこれらの被膜を除去してから表面粗さRaを測定すればよい。
まず、48%苛性ソーダ(水酸化ナトリウム水溶液、比重1.5)と水とを体積比6対4で混合して、33%苛性ソーダ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)を作成する。この33%苛性ソーダ水溶液の温度を85℃以上とする。そして、この苛性ソーダ水溶液中に、絶縁被膜付の方向性電磁鋼板を20分浸漬させる。その後、方向性電磁鋼板を水洗、乾燥させることで、方向性電磁鋼板上の絶縁被膜が除去できる。また、絶縁被膜の厚さによってはこの浸漬、水洗、乾燥作業を繰り返して、絶縁被膜を除去する。このアルカリ洗浄後の鋼板表面にて表面粗さRaを測定すればよい。
なお、中間層や絶縁被膜を形成する前の方向性電磁鋼板(珪素鋼板)にて表面粗さRaを測定した場合と、中間層や絶縁被膜を形成した後に上記のアルカリ洗浄によって露出させた鋼板表面にて表面粗さRaを測定した場合とでは、同等の結果が得られる。
ただ、中間層や絶縁被膜の除去が容易でない場合には、方向性電磁鋼板の板厚方向に沿った切断面を観察して、この断面に現れる方向性電磁鋼板(珪素鋼板)の輪郭曲線に基づいて表面粗さRaを求めればよい。例えば、上記断面を反射電子組成像(COMP像)で観察すれば、珪素鋼板は淡色で観察されるので、当業者ならばコントラストから珪素鋼板の輪郭を十分に特定できる。
表面粗さRaは、JIS B 0660:1998に則して、公知の方法により測定すればよい。本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、鋼板表面の5箇所にて表面粗さRaの測定を圧延方向及び圧延直角方向それぞれに対して実施すればよい。これらの測定結果から平均値を求めればよい。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、鋼板表面が平滑であっても、十分な被膜密着性が得られる。具体的には、鋼板表面が平滑であっても、方向性電磁鋼板を直径20mmの丸棒に巻き付けて曲げ戻した時の被膜残存面積率が、好ましく90〜100%となる。この被膜残存面積率は、被膜密着性の良し悪しを表す指標となる。被膜残存面積率の下限は、95%であることが好ましい。
被膜残存面積率は、曲げ密着性試験を行って評価する。被膜付きの方向性電磁鋼板から採取した80mm×80mmの平板状の試験片を、直径20mmの丸棒に巻き付けた後、平らに伸ばし、この電磁鋼板から剥離していない被膜(絶縁被膜及び又は中間層)の面積を測定し、剥離していない面積を鋼板の面積で割った値を被膜残存面積率(%)と定義する。例えば、1mm方眼目盛付きの透明フィルムを試験片の上に載せて、被膜が剥離していない面積を測定すればよい。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、鋼板表面が平滑であればよく、中間層の種類は特に限定されない。
例えば、上記の中間層は、酸化物を主体とする層、炭化物を主体とする層、窒化物を主体とする層、硼化物を主体とする層、珪化物を主体とする層、りん化物を主体とする層、硫化物を主体とする層、金属間化合物を主体とする層などであればよい。これらの中間層は、酸化還元性を制御した雰囲気中での熱処理、化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)などによって形成できる。
上記の中間層は、平均厚さ2〜500nmの酸化膜であってもよい。なお、この酸化膜は、SiOを主体とする被膜である。
上記の中間層は、平均厚さ2〜500nmのセラミック膜であってもよい。なお、このセラミック膜は、TiNやTiCなどを主体とする被膜である。
なお、上記の中間層は、フォルステライト被膜でないことが好ましい。中間層がフォルステライト被膜である場合、平滑な鋼板表面が得られにくい。中間層がフォルステライト被膜でないことは、X線回折によって確認すればよい。例えば、方向性電磁鋼板から上記方法で絶縁被膜などを除去した表面に対してX線回折を行い、得られたX線回折スペクトルをPDF(Powder Diffraction File)と照合すればよい。例えば、フォルステライト(MgSiO)の同定には、JCPDS番号:34−189を用いればよい。本実施形態では、上記X線回折スペクトルの主な構成がフォルステライトでない場合に、中間層がフォルステライト被膜でないと判断する。なお、通常、絶縁被膜などはアルカリ溶液によって除去され、フォルステライト被膜などは塩酸によって除去される。そのため、上記のアルカリ洗浄を行っても、フォルステライト被膜が存在する場合には、上記のX線回折によってフォルステライト被膜が検出される。また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、上記方法でフォルステライト被膜が検出される場合には、鋼板表面が平滑ではないとみなす。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、絶縁被膜の種類は特に限定されない。例えば、絶縁被膜は、りん酸塩とコロイド状シリカとを主体とし平均厚さが0.1〜10μmの絶縁被膜や、アルミナゾルと硼酸とを主体とし平均厚さが0.5〜8μmの絶縁被膜であればよい。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、低磁場領域での磁歪が改善し、且つ鋼板表面が平滑であっても被膜密着性に優れる。
[第2実施形態]
続いて、本発明の第2実施形態に係る方向性電磁鋼板について以下に説明する。また、以下で説明する各実施形態では、上記第1実施形態との相違点を中心に説明し、その他の特徴については上記第1実施形態と同様であるとして重複する説明を省略する。
本発明の第2実施形態に係る方向性電磁鋼板では、β結晶粒の圧延方向の粒径が、二次再結晶粒の圧延方向の粒径よりも小さい。すなわち、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、圧延方向に対して粒径が制御されているβ結晶粒および二次再結晶粒を有する。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BAに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、境界条件BBに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
粒径RAと粒径RBとが、1.10≦RB÷RAを満たす。また、RB÷RA≦80であることが好ましい。
この規定は、圧延方向に対する、上述の「切り替え」の状況を表す。つまり、角度φが2°以上となる境界を結晶粒界とする二次再結晶粒の中に、|β−β|が0.5°以上で且つ角度φが2°未満となる境界を少なくとも一つ含む結晶粒が、圧延方向に対して相応の頻度で存在することを意味している。本実施形態では、この切り替えの状況を、圧延方向の粒径RA及び粒径RBにより評価し規定する。
図2は、方向性電磁鋼板の二次再結晶粒の粒界および二次再結晶粒内で生じる切り替えの状況を示す模式図である。図2中で、仕上げ焼鈍直後(二次再結晶直後)の鋼板はコイルに巻かれて曲率を有している状態を示し、平坦化後(使用時)の鋼板はコイルから巻き戻された状態を示している。
図2に示すように、鋼板がコイルに巻かれた状態の場合、鋼板の圧延方向(鋼板の長手方向)は、空間内で鋼板の曲率に応じて湾曲する。一方、一般的に、二次再結晶時に成長する結晶は空間内で方位を変えない。このため、一つの結晶粒内では、空間内での位置に応じて、圧延方向と結晶方向とがなす角が変化することになる。この変化は結晶粒の成長にともない大きくなる。すなわち、粒成長の最終段階で他の二次再結晶粒に到達するほど粗大化した二次再結晶粒の粒界近傍では、鋼板曲率に起因する方位変化が特に大きくなる。
そして、このような二次再結晶粒同士が隣接すると、隣接する結晶粒間の方位差(結晶粒界の方位差)は、それぞれの結晶粒が生成した時点で有していた方位差よりも大きくなる。つまり、それぞれの結晶粒自体(再結晶核)はGoss方位に近くて且つ方位差の比較的小さい結晶粒として生成していたとしても、粒成長して隣接した時点での結晶粒界における方位差はより大きなものとなってしまう。
例えば、鋼板が直径1000mm程度のコイルとして巻かれた状態で二次再結晶が進行する場合を考える。この鋼板を仕上げ焼鈍後にコイルから巻き戻して平坦化すると、鋼板が有していた曲率に起因して、圧延方向1mm当たり0.1°程度の方位変化が生じる。方向性電磁鋼板の二次再結晶粒は粗大であり、例えば圧延方向の結晶粒径が50mmであれば、圧延方向に隣接する結晶粒の結晶粒界における方位差は5°にもなる。
一般的な二次再結晶、すなわち従来の方向性電磁鋼板における二次再結晶では、二次再結晶粒の粒成長中には切り替え(局所的な結晶方位の変化)は起きない。このため、圧延方向の粒径が50mm程度であれば、二次再結晶時の鋼板曲率に起因して生じる圧延方向に隣接する結晶粒の結晶粒界における方位差は5°程度になる。
一方、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、二次再結晶の進行中に局所的な方位変化(切り替え)が生じる。この方位変化は、後述するように、結晶の粒界エネルギーや表面エネルギーの増加を抑制するように作用し、結晶の対称性が高い方位に近づくように生じる。本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、結晶方位はGoss方位の近傍に制御されており、上記の切り替えは、基本的には結晶の対称性が高い方位、すなわちGoss方位に近づくように生じる。すなわち、切り替えは、個々の二次再結晶粒について、鋼板曲率が原因となって生じている方位変化を解消してGoss方位に戻すように作用する。結果として、圧延方向に隣接する結晶粒の結晶粒界における方位差は、切り替えが起きない場合より小さくなる。
後述するように、上記の切り替えは、二次再結晶中に二次再結晶粒内に残存する転位の再配置により生じると考えられる。この再配置に際して、転位は局所的な配置をとり、切り替えに対応する方位変化は局所的な境界、すなわち上記した粒界として識別できる。本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒内で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点の間に、|β−β|≧0.5°となる方位変化が識別できる。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、上記した「切り替え」を制御することで、β結晶粒の圧延方向の粒径を、二次再結晶粒の圧延方向の粒径よりも小さくする。具体的には、β結晶粒の粒径RAと、二次再結晶粒の粒径RBとが、1.10≦RB÷RAを満たす。粒径RAと粒径RBとが、上記条件を満たすことによって、低磁場領域での磁歪が好ましく低減される。
粒径RBが小さいために、または粒径RBは大きくても切り替えが少なく粒径RAが大きいために、RB/RA値が1.10未満になると、切り替え頻度が十分でなくなり、低磁場磁歪が十分に改善できないことがある。RB/RA値は、好ましくは1.30以上、より好ましくは1.50以上、さらに好ましくは2.0以上、さらに好ましくは3.0以上、さらに好ましくは5.0以上である。
RB/RA値の上限については特に限定されない。切り替えの発生頻度が高くRB/RA値が大きくなれば、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性が高くなるため、磁歪の改善にとっては好ましい。一方で、切り替えは結晶粒内での格子欠陥の残存でもあるため、あまりに発生頻度が高いと、特に鉄損への改善効果が低下する可能性が懸念される。そのため、RB/RA値の実用的な最大値としては80が挙げられる。特に鉄損についての配慮が必要であれば、RB/RA値の最大値として好ましくは40、より好ましくは30が挙げられる。
なお、RB/RA値は、1.0未満になる場合がある。RBは角度φが2°以上となる粒界に基づいて規定された圧延方向の平均粒径である。一方で、RAは|β−β|が0.5°以上となる粒界に基づいて規定された圧延方向の平均粒径である。単純に考えると、角度差の下限が小さい粒界の方が検出される頻度が高いように思われる。つまり、RBは常にRAよりも大きくなり、RB/RA値は常に1.0以上になるように思われる。
しかしながら、RBは角度φに基づく粒界によって求められる粒径であり、RAはずれ角βに基づく粒界によって求められる粒径であって、RBおよびRAでは粒径を求めるための粒界の定義が異なる。そのため、RB/RA値が1.0未満になる場合がある。
例えば、|β−β|が0.5°未満(例えば、0°)であっても、ずれ角αおよび/またはずれ角γが大きければ、角度φは十分に大きくなる。すなわち、境界条件BAを満たさないが、境界条件BBを満たす粒界が存在することになる。このような粒界が増えれば、粒径RBの値が小さくなり、結果として、RB/RA値が1.0未満になりえる。本実施形態では、ずれ角βによる切り替えが起きる頻度が高くなるように各条件を制御する。切り替えの制御が十分でなく、本実施形態からのかい離が大きい場合には、ずれ角βの変化が起きなくなり、RB/RA値が1.0未満になる。なお、本実施形態ではβ粒界の発生頻度を十分に高め、RB/RA値が1.10以上であることが好ましいことは、既に説明した通りである。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板に関して、圧延面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点間の境界は、表1のケース1からケース4に分類される。上記の粒径RBは、表1のケース1および/またはケース2を満足する粒界に基づいて求め、粒径RAは、表1のケース1および/またはケース3を満足する粒界に基づいて求める。例えば、圧延方向に沿って少なくとも500測定点を含む測定線上で結晶方位のずれ角を測定し、この測定線上でケース1および/またはケース2の粒界に挟まれる線分長さの平均値を粒径RBとする。同様に、上記の測定線上で、ケース1および/またはケース3の粒界に挟まれる線分長さの平均値を粒径RAとする。
Figure 2021123752
RB/RA値の制御が低磁場磁歪に影響を及ぼす理由は必ずしも明確ではないが、図2で模式的に説明したように、一つの二次再結晶粒内で切り替え(局所的な方位変化)が生じることで、隣接粒との相対的な方位差を小さくし(結晶粒界近傍での結晶方位変化が緩やかになり)、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性を高めるように作用していると考えられる。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、低磁場領域での磁歪の低減を目的とする場合には、RB/RA値が1.10以上であればよい。
ただ、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、被膜密着性の向上を目的として、RB/RA値を1.30以上に制御してもよい。この値が1.30以上であるとき、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性が好ましく向上する。
RB/RA値が1.30以上であるとき、鋼板がたとえ曲げ試験などに供されても、曲げ応力が局所的に集中することなく均一に分散されて、その結果、絶縁被膜に亀裂が発生しにくくなる。そのため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、RB/RA値が1.30以上であることが好ましく、1.50以上であることがさらに好ましい。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、低磁場領域での磁歪が改善し、且つ鋼板表面が平滑であっても被膜密着性に優れる。
[第3実施形態]
続いて、本発明の第3実施形態に係る方向性電磁鋼板について以下に説明する。以下では、上記の実施形態との相違点を中心に説明し、重複する説明を省略する。
本発明の第3実施形態に係る方向性電磁鋼板では、β結晶粒の圧延直角方向の粒径が、二次再結晶粒の圧延直角方向の粒径よりも小さい。すなわち、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、圧延直角方向に対して粒径が制御されているβ結晶粒および二次再結晶粒を有する。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BAに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、境界条件BBに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
粒径RAと粒径RBとが、1.10≦RB÷RAを満たす。また、RB÷RA≦80であることが好ましい。
この規定は、圧延直角方向に対する、上述の「切り替え」の状況を表す。つまり、角度φが2°以上となる境界を結晶粒界とする二次再結晶粒の中に、|β−β|が0.5°以上で且つ角度φが2°未満となる境界を少なくとも一つ含む結晶粒が、圧延直角方向に対して相応の頻度で存在することを意味している。本実施形態では、この切り替えの状況を、圧延直角方向の粒径RA及び粒径RBにより評価し規定する。
粒径RBが小さいために、または粒径RBは大きくても切り替えが少なく粒径RAが大きいために、RB/RA値が1.10未満になると、切り替え頻度が十分でなくなり、低磁場磁歪が十分に改善できないことがある。RB/RA値は、好ましくは1.30以上、より好ましくは1.50以上、さらに好ましくは2.0以上、さらに好ましくは3.0以上、さらに好ましくは5.0以上である。
RB/RA値の上限については特に限定されない。切り替えの発生頻度が高くRB/RA値が大きくなれば、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性が高くなるため、磁歪の改善にとっては好ましい。一方で、切り替えは結晶粒内での格子欠陥の残存でもあるため、あまりに発生頻度が高いと、特に鉄損への改善効果が低下する可能性が懸念される。そのため、RB/RA値の実用的な最大値としては80が挙げられる。特に鉄損についての配慮が必要であれば、RB/RA値の最大値として、好ましくは40、より好ましくは30が挙げられる。
なお、RBは角度φに基づく粒界によって求められる粒径であり、RAはずれ角βに基づく粒界によって求められる粒径である。RBおよびRAでは粒径を求めるための粒界の定義が異なるため、RB/RA値が1.0未満になる場合がある。
上記の粒径RBは、表1のケース1および/またはケース2を満足する粒界に基づいて求め、粒径RAは、表1のケース1および/またはケース3を満足する粒界に基づいて求める。例えば、圧延直角方向に沿って少なくとも500測定点を含む測定線上で結晶方位のずれ角を測定し、この測定線上でケース1および/またはケース2の粒界に挟まれる線分長さの平均値を粒径RBとする。同様に、上記の測定線上で、ケース1および/またはケース3の粒界に挟まれる線分長さの平均値を粒径RAとする。
RB/RA値の制御が低磁場磁歪に影響を及ぼす理由は必ずしも明確ではないが、一つの二次再結晶粒内で切り替え(局所的な方位変化)が生じることで、隣接粒との相対的な方位差を小さくし、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性を高めるように作用していると考えられる。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、低磁場領域での磁歪の低減を目的とする場合には、RB/RA値が1.10以上であればよい。
ただ、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、被膜密着性の向上を目的として、RB/RA値を1.30以上に制御してもよい。この値が1.30以上であるとき、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性が好ましく向上する。
RB/RA値が1.30以上であるとき、鋼板がたとえ曲げ試験などに供されても、曲げ応力が局所的に集中することなく均一に分散されて、その結果、絶縁被膜に亀裂が発生しにくくなる。そのため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、RB/RA値が1.30以上であることが好ましく、1.50以上であることがさらに好ましい。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、低磁場領域での磁歪が改善し、且つ鋼板表面が平滑であっても被膜密着性に優れる。
[第4実施形態]
続いて、本発明の第4実施形態に係る方向性電磁鋼板について以下に説明する。以下では、上記の実施形態との相違点を中心に説明し、重複する説明を省略する。
本発明の第4実施形態に係る方向性電磁鋼板では、β結晶粒の圧延方向の粒径が、β結晶粒の圧延直角方向の粒径よりも小さい。すなわち、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、圧延方向および圧延直角方向に対して粒径が制御されているβ結晶粒を有する。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BAに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、境界条件BAに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義するとき、
粒径RAと粒径RAとが、1.15≦RA÷RAを満たす。また、RA÷RA≦10であることが好ましい。
以後の説明で、結晶粒の形状について「(面内)異方性」又は「扁平(形状)」と記述することがある。これらの結晶粒の形状は、鋼板の表面(圧延面)から観察した際の形状について記述している。つまり、結晶粒の形状は、板厚方向の大きさ(板厚断面での観察形状)について考慮していない。ちなみに、方向性電磁鋼板では、ほぼすべての結晶粒が板厚方向に鋼板板厚と同じサイズを有している。つまり方向性電磁鋼板では、結晶粒界近傍など特異な領域を除いて鋼板板厚がひとつの結晶粒で占められることが多い。
上記したRA/RA値の規定は、圧延方向および圧延直角方向に対する、上述の「切り替え」の状況を表す。つまり、切り替えと認識される程度の局所的な結晶方位の変化が起きる頻度が、鋼板の面内方向により異なることを意味している。本実施形態では、この切り替えの状況を、鋼板面内で直交する2つの方向の粒径RA及び粒径RAにより評価し規定する。
RA/RA値が1超であるということは、切り替えで規定されるβ結晶粒は平均的にみると、圧延直角方向に延伸し、圧延方向につぶれた扁平形態を有することを示している。つまり、β粒界により規定される結晶粒の形態が異方性を有することを示す。
β結晶粒の形状が面内異方性を持つことにより、低磁場磁歪が向上する理由は明確ではないが、以下のように考えられる。低磁場では、180°磁区が移動する際、隣接する結晶粒との「連続性」が重要であることは前述の通りである。例えば、一つの二次再結晶粒を切り替えによって小領域に分割した場合、この小領域の数が同じ(小領域の面積が同じ)であれば、小領域の形状は等方性であるよりも、異方性であるほうが、切り替えによる境界(β粒界)の存在比率は大きくなる。つまり、RA/RA値の制御によって局所的な方位変化である切り替えの存在頻度が増加することになり、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性を高めると考えられる。
このような切り替え発生の異方性は、二次再結晶前の鋼板に存在する何らかの異方性:例えば、一次再結晶粒の形状の異方性;熱延板結晶粒の形状の異方性を起因とする一次再結晶粒の結晶方位分布の異方性(コロニー的な分布);熱延で延伸した析出物及び破砕されて圧延方向に列状となった析出物の配置;コイル幅方向や長手方向の熱履歴の変動に起因する析出物分布;結晶粒径分布の異方性;などにより生ずると考えられる。しかしながら、発生メカニズムの詳細は不明である。ただし、二次再結晶中の鋼板が温度勾配を有すれば、結晶粒の成長(転位の消失および粒界の形成)に直接的な異方性を与える。すなわち、二次再結晶での温度勾配は、本実施形態で規定する上記異方性を制御する非常に有効な制御条件となる。詳細は製造法と関連して説明する。
また、上述の二次再結晶時の温度勾配により異方性を与えるプロセスとも関連するが、本実施形態でβ結晶粒を延伸させる方向は、圧延直角方向であることが現状の一般的な製造法も考慮すると好ましい。この場合、圧延方向の粒径RAが、圧延直角方向の粒径RAよりも小さな値となる。圧延方向および圧延直角方向の関係については、製造法と関連して説明する。なお、β結晶粒を延伸させる方向は、温度勾配ではなく、あくまでも、β粒界の発生頻度により決定される。
粒径RAが小さいために、または粒径RAは大きくても粒径RAが大きいために、RA/RA値が1.15未満になると、切り替え頻度が十分でなくなり、低磁場磁歪が十分に改善できないことがある。RA/RA値は、好ましくは1.50以上、より好ましくは1.80以上、さらに好ましくは2.10以上である。
RA/RA値の上限については特に限定されない。切り替えの発生頻度および延伸方向が特定の方向に制限され、RA/RA値が大きくなれば、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性が高くなるため、磁歪の改善にとっては好ましい。一方で切り替えは結晶粒内での格子欠陥の残存でもあるため、あまりに発生頻度が高いと、特に鉄損への改善効果が低下する可能性が懸念される。そのため、RA/RA値の実用的な最大値としては10が挙げられる。特に鉄損についての配慮が必要であれば、RA/RA値の最大値として、好ましくは6、より好ましくは4が挙げられる。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、上記したRA/RA値の制御に加えて、第2実施形態と同様に、粒径RAと粒径RBとが、1.10≦RB÷RAを満たすことが好ましい。
この規定は、「切り替え」が発生していることを明確にする。例えば、粒径RAおよびRAは、隣接する2つの測定点間で|β−β|が0.5°以上となる粒界に基づく粒径であるが、「切り替え」がまったく発生しておらず、すべての粒界の角度φが2.0°以上であったとしても、上記したRA/RA値が満足されることがある。たとえRA/RA値が満足されても、すべての粒界の角度φが2.0°以上であれば、一般的に認識されている二次再結晶粒が単に扁平形状になっただけであるので、本実施形態の上記効果は好ましく得られない。本実施形態では、境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界(二次再結晶粒を分割する粒界)を有することを前提とするため、すべての粒界の角度φが2.0°以上であるという状況は生じにくいが、上記したRA/RA値を満足することに加えて、RB/RA値を満足することが好ましい。
また、本実施形態では、圧延方向に関してRB/RA値を制御することに加えて、圧延直角方向についても、第3実施形態と同様に、粒径RAと粒径RBとが1.10≦RB/RAを満たすことは何ら問題とならず、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性を高める観点ではむしろ好ましい。
さらに、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒の圧延方向および圧延直角方向の粒径が制御されていることが好ましい。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BBに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、境界条件BBに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
粒径RBと粒径RBとが、1.50≦RB÷RBを満たすことが好ましい。また、RB÷RB≦20であることが好ましい。
この規定は、上述の「切り替え」とは無関係であり、二次再結晶粒が圧延直角方向に延伸していることを表す。従って、この特徴それ自体は特別ではない。ただし、本実施形態では、RA/RA値を制御した上で、RB/RB値が上記の数値範囲を満たすことが好ましい。
本実施形態では、上記の切り替えに関係して、β結晶粒のRA/RA値が制御される場合、二次再結晶粒の形態も面内異方性が大きくなる傾向がある。逆の見方をすると、本実施形態のようにずれ角βの切り替えを発生させる場合、二次再結晶粒の形状が面内異方性を持つように制御することで、β結晶粒の形状も面内異方性を持つ傾向がある。
RB/RB値は、好ましくは1.80以上、より好ましくは2.00以上、さらに好ましくは2.50以上である。RB/RB値の上限については特に限定されない。
RB/RB値を制御する実用的な方法として、例えば、仕上げ焼鈍時にコイル幅の端部からの優先的な加熱を行い、コイル幅方向(コイル軸方向)への温度勾配を付与して二次再結晶粒を成長させるプロセスが挙げられる。このとき、二次再結晶粒のコイル周方向(例えば圧延方向)の粒径を50mm程度に維持したまま、二次再結晶粒のコイル幅方向(例えば圧延直角方向)の粒径をコイル幅と同じに制御することも可能である。例えば、幅1000mmのコイルの全幅を一つの結晶粒で占めることができる。この場合、RB/RB値の上限値として、20が挙げられる。
なお、圧延直角方向ではなく圧延方向に温度勾配を持たせるように連続焼鈍プロセスによって二次再結晶を進行させれば、二次再結晶粒の粒径の最大値はコイル幅に制限されず、さらに大きな値とすることも可能である。この場合であっても、本実施形態によれば、切り替えによるβ粒界により結晶粒が適度に分割されることで、本実施形態の上記効果を得ることが可能である。
さらに、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、ずれ角βに関する切り替えの発生頻度が圧延方向および圧延直角方向に対して制御されていることが好ましい。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BAに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、境界条件BBに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、境界条件BAに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、境界条件BBに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
粒径RAと粒径RAと粒径RBと粒径RBとが、(RB×RA)÷(RB×RA)<1.0を満たすことが好ましい。また、下限は特に限定しないが、現状の技術を前提にすれば、0.2<(RB×RA)÷(RB×RA)であればよい。
この規定は、上述の「切り替え」の発生頻度の面内異方性を表す。つまり、上記の(RB・RA)/(RB・RA)は、「二次再結晶粒を圧延直角方向に分割する切り替えの発生程度:RB/RA」と、「二次再結晶粒を圧延方向に分割する切り替えの発生程度:RB/RA」との比になっている。この値が1未満であるということは、一つの二次再結晶粒が、切り替え(β粒界)により、圧延方向に数多く分割されていることを示している。
また、見方を変えると、上記の(RB・RA)/(RB・RA)は、「二次再結晶粒の扁平の程度:RB/RB」と、「β結晶粒の扁平の程度:RA/RA」との比になっている。この値が1未満であるということは、一つの二次再結晶粒を分割するβ結晶粒は、二次再結晶粒よりも扁平な形状になることを示している。
すなわち、β粒界は二次再結晶粒を圧延直角方向に分断するよりも圧延方向に分断する傾向がある。つまり、β粒界は二次再結晶粒が延伸する方向に延伸する傾向がある。β粒界のこの傾向は、二次再結晶粒が延伸する際に、切り替えが特定方位の結晶の占有面積を増大させるように作用していると考えられる。
(RB・RA)/(RB・RA)の値は、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下、より好ましくは0.5以下である。上記のように、(RB・RA)/(RB・RA)の下限は、特に制限されないが、工業的な実現性も考慮すると、0.2超であればよい。
上記の粒径RBおよび粒径RBは、表1のケース1および/またはケース2を満足する粒界に基づいて求める。上記の粒径RAおよび粒径RAは、表1のケース1および/またはケース3を満足する粒界に基づいて求める。例えば、圧延直角方向に沿って少なくとも500測定点を含む測定線上で結晶方位のずれ角を測定し、この測定線上でケース1および/またはケース3の粒界に挟まれる線分長さの平均値を粒径RAとする。粒径RA、粒径RB、粒径RBも同様に求めればよい。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、低磁場領域での磁歪が改善し、且つ鋼板表面が平滑であっても被膜密着性に優れる。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、RB/RA値を1.30以上に制御し、且つRB/RA値を1.30以上に制御してもよい。これらの値が共に1.30以上であるとき、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性がさらに好ましく向上する。
[各実施形態に共通する技術特徴]
続いて、上記した各実施形態に係る方向性電磁鋼板について、共通する技術特徴を以下に説明する。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BBに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、境界条件BBに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
粒径RBおよび粒径RBが、22mm以上であることが好ましい。
切り替えは、二次再結晶粒の成長の過程で蓄積する転位により生じると考えられる。すなわち、一度切り替えが起きた後、次の切り替えが起きるまでには、二次再結晶粒が相当程度にまで成長することが必要となる。このため、粒径RBおよび粒径RBが15mm未満であると、切り替えが発生しにくく、切り替えによる低磁場磁歪の十分な改善が困難になるおそれがある。粒径RBおよび粒径RBは、15mm以上であることが好ましい。粒径RBおよび粒径RBは、好ましくは22mm以上であり、より好ましくは30mm以上であり、さらに好ましくは40mm以上である。
粒径RBおよび粒径RBの上限は特に限定しない。一般的な方向性電磁鋼板の製造では、一次再結晶が完了した鋼板をコイルに巻き、圧延方向に曲率を有した状態で二次再結晶により{110}<001>方位の結晶粒を生成・成長させるので、一つの結晶粒内で圧延方向における位置によりずれ角βが連続的に変化する。そのため、粒径RBが増大すれば、ずれ角βが増加し、磁歪が増大することにもなりかねない。このため、粒径RBを無制限に大きくすることは避けることが好ましい。工業的な実現性も考慮すると、粒径RBについて、好ましい上限として400mm、さらに好ましい上限として200mm、さらに好ましい上限として100mmを挙げることができる。
また、一般的な方向性電磁鋼板の製造では、一次再結晶が完了した鋼板をコイルに巻いた状態で加熱し、二次再結晶により{110}<001>方位の結晶粒を生成・成長させるので、二次再結晶粒は温度上昇が先行するコイル端部側から温度上昇が遅延するコイル中心側に向かって成長する。このような製造法では、例えばコイル幅を1000mmとすれば、コイル幅の半分程度となる500mmを粒径RBの上限として挙げることができる。もちろん各実施形態では、コイルの全幅が粒径RBとなることを除外しない。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BAに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、境界条件BAに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義するとき、
粒径RAが30mm以下であり、粒径RAが400mm以下であることが好ましい。
粒径RAの値が小さいほど、圧延方向で切り替えの発生頻度が高いことを意味する。粒径RAは、40mm以下であればよいが、30mm以下であることがより好ましく、20mm以下であることがより好ましい。
また、十分な切り替えが起きない状況で粒径RAが増大すれば、ずれ角βが増加し、磁歪が増大することにもなりかねない。このため、粒径RAを無制限に大きくすることは避けることが好ましい。工業的な実現性も考慮すると、粒径RAについて、好ましい上限として400mm、さらに好ましい上限として200mm、さらに好ましい上限として100mm、さらに好ましい上限として40mm、さらに好ましい上限として30mmを挙げることができる。
粒径RAおよび粒径RAの下限は特に限定しない。各実施形態では、結晶方位の測定間隔を1mmとしていることから、粒径RAおよび粒径RAの最低値は1mmとなる。しかし、各実施形態では、例えば測定間隔を1mm未満とすることにより、粒径RAおよび粒径RAが1mm未満となるような鋼板を除外しない。ただし、切り替えは、僅かとはいえ結晶中の格子欠陥の存在を伴うので、切り替えの頻度があまりに高い場合には、磁気特性への悪影響も懸念される。また、工業的な実現性も考慮すると、粒径RAおよび粒径RAについて、好ましい下限として5mmを挙げることができる。
なお、各実施形態に係る方向性電磁鋼板における結晶粒径の測定では、結晶粒一つについて、粒径が最大で2mmの不明確さを含む。そのため、粒径測定(圧延面上にて1mm間隔で少なくとも500点の方位測定)は、粒径を規定する方向と鋼板面内で直交する方向に十分離れた位置、つまり異なる結晶粒の測定となるような位置について、計5箇所以上で実施することが好ましい。その上で、計5箇所以上の測定によって得られる全ての粒径を平均することにより、上記の不明確さを解消できる。例えば、粒径RAおよび粒径RBについては圧延方向に十分離れた5箇所以上で、粒径RAおよび粒径RBについては圧延直角方向に十分離れた5箇所以上で測定を実施し、計2500点以上の測定点で方位測定を行って平均粒径を求めればよい。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、ずれ角βの絶対値の標準偏差σ(|β|)が、0°以上1.70°以下であることが好ましい。
切り替えがあまり起きない場合、低磁場磁歪は十分に低減しない。このことは、低磁場磁歪の低減が、ずれ角が特定方向に揃うことを示していると考えられる。すなわち、低磁場磁歪の低減は、二次再結晶の核生成を含めた発生初期または成長段階での蚕食による方位選択に起因していないと考えられる。つまり、上記実施形態の効果を得るために、従来の方位制御のように結晶方位を特定の方向に近づける、例えば、ずれ角の絶対値及び標準偏差を小さくすることは、特に必要な条件ではない。ただ、上述のような切り替えが十分に起きている鋼板では、「ずれ角」についても特徴的な範囲に制御されやすい。例えば、ずれ角βに関する切り替えにより少しずつ結晶方位が変化する場合、ずれ角の絶対値がゼロに近づくことは上記実施形態の支障とはならない。また、例えば、ずれ角βに関する切り替えにより少しずつ結晶方位が変化する場合、結晶方位自体が特定の方位に収斂することで、結果として、ずれ角の標準偏差がゼロに近づくことは、上記実施形態の支障とはならない。
そのため、各実施形態では、ずれ角βの絶対値の標準偏差σ(|β|)が、0°以上1.70°以下であってもよい。
ずれ角βの絶対値の標準偏差σ(|β|)は、以下のように求める。
方向性電磁鋼板は、数cm程度の大きさに成長した結晶粒が形成される二次再結晶により{110}<001>方位への集積度を高めている。各実施形態では、このような方向性電磁鋼板にて結晶方位の変動を認識する必要がある。このため、少なくとも二次再結晶粒を20個含む領域について、500点以上の結晶方位を測定する。
なお、各実施形態では、「一つの二次再結晶粒を単結晶と捉え、二次再結晶粒内は厳密に同じ結晶方位を有する」と考えるべきではない。つまり、各実施形態では、一つの粗大な二次再結晶粒内に従来は粒界として認識しない程度の局所的な方位変化が存在し、この方位変化を検出することが必要になる。
このため、例えば、結晶方位の測定点を、結晶粒の境界(結晶粒界)とは無関係に設定した一定面積内に等間隔で分布させることが好ましい。具体的には、鋼板面にて、少なくとも20個以上の結晶粒を含むように、Lmm×Mmm(ただしL、M>100)の面積内に、縦横5mm間隔で等間隔に測定点を分布させ、各測定点での結晶方位を測定し、計500点以上のデータを得ることが好ましい。測定点が結晶粒界及び何らかの特異点である場合には、そのデータは用いない。また、対象となる鋼板の磁気特性を決定するために必要な領域(例えば、実機のコイルであれば、ミルシートに記載する磁気特性を測定する範囲)に応じて、上記の測定範囲を広げる必要がある。
そして、各測定点について、ずれ角βを決定し、さらにずれ角βの絶対値の標準偏差σ(|β|)を計算する。各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、σ(|β|)が、上記した数値範囲内であることが好ましい。
なお、σ(|β|)は、一般的に、1.7T程度の中磁場での磁気特性または磁歪を改善するために小さくすべきと考えられている因子である。ただ、σ(|β|)だけの制御では到達する特性に限界があった。上記した各実施形態では、上記の技術特徴に加えて、σ(|β|)を合わせて制御することで、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性に好ましく影響を及ぼす。
ずれ角βの絶対値の標準偏差σ(|β|)は、より好ましくは1.50以下であり、さらに好ましくは1.30以下であり、さらに好ましくは1.10以下である。σ(|β|)は、もちろん0であっても構わない。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、鋼板上に中間層や絶縁被膜などを有してもよいが、上記の結晶方位、粒界、平均結晶粒径などは、被膜等を有さない鋼板に基づいて特定してもよい。すなわち、測定試料となる方向性電磁鋼板が、表面に絶縁被膜等を有している場合は、被膜等を除去してから結晶方位などを測定してもよい。
例えば、絶縁被膜の除去方法として、被膜を有する方向性電磁鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬すればよい。具体的には、NaOH:30〜50質量%+HO:50〜70質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、80〜90℃で5〜20分間、浸漬した後に、水洗して乾燥することで、方向性電磁鋼板から絶縁被膜を除去できる。なお、絶縁被膜の厚さに応じて、上記の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する時間を変えればよい。
また、必要に応じて、次の方法によって中間層を除去してもよい。絶縁被膜を除去した電磁鋼板を、高温の塩酸に浸漬すればよい。具体的には、溶解したい中間層を除去するために好ましい塩酸の濃度を予め調べ、この濃度の塩酸に、例えば30〜40質量%塩酸に、80〜90℃で1〜5分間、浸漬した後に、水洗して乾燥させることで、中間層が除去できる。特に、フォルステライト被膜などは、この方法によって除去できる。
また、上記の方法で中間層および絶縁被膜を除去することが難しい場合には、方向性電磁鋼板を機械的に研磨すればよい。例えば、方向性電磁鋼板の板厚方向に沿った切断面から予め中間層および絶縁被膜の厚みを確認しておき、その上で、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)が露出するように方向性電磁鋼板の表面を機械的に平行研磨して減厚すればよい。
必要に応じて、上記の方法を組み合わせて、方向性電磁鋼板上の中間層や絶縁被膜などを除去すればよい。
次いで、各実施形態に係る方向性電磁鋼板の化学組成を説明する。各実施形態の方向性電磁鋼板は、化学組成として、基本元素を含み、必要に応じて選択元素を含み、残部がFe及び不純物からなる。
各実施形態に係る方向性電磁鋼板は、基本元素(主要な合金元素)として、質量分率で、Si(シリコン):2.0〜7.0%を含有する。
Siは、結晶方位を{110}<001>方位に集積させるために、含有量が2.0〜7.0%であることが好ましい。
各実施形態では、化学組成として、不純物を含有してもよい。なお、「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石やスクラップから、または製造環境等から混入する元素を指す。不純物の合計含有量の上限は、例えば、5%であればよい。
また、各実施形態では、上記した基本元素および不純物に加えて、選択元素を含有してもよい。例えば、上記した残部であるFeの一部に代えて、選択元素として、Nb、V、Mo、Ta、W、C、Mn、S、Se、Al、N、Cu、Bi、B、P、Ti、Sn、Sb、Cr、Niなどを含有してもよい。これらの選択元素は、その目的に応じて含有させればよい。よって、これらの選択元素の下限値を限定する必要がなく、下限値が0%でもよい。また、これらの選択元素が不純物として含有されても、上記効果は損なわれない。
Nb(ニオブ):0〜0.030%
V(バナジウム):0〜0.030%
Mo(モリブデン):0〜0.030%
Ta(タンタル):0〜0.030%
W(タングステン):0〜0.030%
Nb、V、Mo、Ta、及びWは、各実施形態で特徴的な効果を有する元素として活用することができる。
Nb群元素は、各実施形態に係る方向性電磁鋼板の特徴である切り替えの形成に好ましく作用する。ただし、Nb群元素が切り替え発生に作用するのは製造過程であるので、Nb群元素が各実施形態に係る方向性電磁鋼板に最終的に含有される必要はない。例えば、Nb群元素は、後述する仕上げ焼鈍における純化により系外に排出される傾向が少なからず存在している。そのため、スラブにNb群元素を含有させ、製造過程でNb群元素を活用して切り替えの頻度を高めた場合でも、その後の純化焼鈍によりNb群元素が系外に排出されることがある。そのため、最終製品の化学組成として、Nb群元素が検出できない場合がある。
そのため、各実施形態では、最終製品である方向性電磁鋼板の化学組成として、Nb群元素の含有量の上限についてのみ規定する。Nb群元素の上限は、それぞれ0.030%であればよい。一方、上述の通り、製造過程でNb群元素を活用したとしても、最終製品ではNb群元素の含有量がゼロになることがある。そのため、Nb群元素の含有量の下限は特に限定されず、下限がそれぞれ0%であってもよい。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、化学組成として、Nb、V、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.0030〜0.030質量%含有することが好ましい。
Nb群元素の含有量が製造途中で増加することは考えにくいので、最終製品の化学組成としてNb群元素が検出されれば、製造過程でNb群元素による切り替え制御が行われたことが示唆される。製造過程で切り替えを好ましく制御するには、最終製品のNb群元素の合計含有量が、0.0030%以上であることが好ましく、0.0050%以上であることがさらに好ましい。一方、最終製品のNb群元素の合計含有量が0.030%を超えると、切り替えの発生頻度を維持できるが磁気特性が低下することがある。そのため、最終製品のNb群元素の合計含有量が、0.030%以下であることが好ましい。なお、Nb群元素の作用は製造法と関連して後述する。
C(炭素):0〜0.0050%
Mn(マンガン):0〜1.0%
S(硫黄):0〜0.0150%
Se(セレン):0〜0.0150%
Al(酸可溶性アルミニウム):0〜0.0650%
N(窒素):0〜0.0050%
Cu(銅):0〜0.40%
Bi(ビスマス):0〜0.010%
B(ボロン):0〜0.080%
P(燐):0〜0.50%
Ti(チタン):0〜0.0150%
Sn(スズ):0〜0.10%
Sb(アンチモン):0〜0.10%
Cr(クロム):0〜0.30%
Ni(ニッケル):0〜1.0%
これらの選択元素は、公知の目的に応じて含有させればよい。これらの選択元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値が0%でもよい。なお、S及びSeの含有量が合計で0〜0.0150%であることが好ましい。S及びSeの合計とは、S及びSeの少なくとも一方を含み、その合計含有量であることを意味する。
なお、方向性電磁鋼板では、脱炭焼鈍および二次再結晶時の純化焼鈍を経ることで、比較的大きな化学組成の変化(含有量の低下)が起きる。元素によっては純化焼鈍によって、一般的な分析手法では検出できない程度(1ppm以下)にまで含有量が低減することもある。各実施形態に係る方向性電磁鋼板の上記化学組成は、最終製品における化学組成である。一般に、最終製品の化学組成と、出発素材であるスラブの化学組成とは異なる。
各実施形態に係る方向性電磁鋼板の化学組成は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、方向性電磁鋼板の化学組成は、ICP−AES(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。具体的には、方向性電磁鋼板から採取した35mm角の試験片を、島津製作所製ICPS−8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより、化学組成が特定される。なお、CおよびSは燃焼−赤外線吸収法を用いて測定し、Nは不活性ガス融解−熱伝導度法を用いて測定すればよい。
なお、上記の化学組成は、方向性電磁鋼板の成分である。測定試料となる方向性電磁鋼板が、表面に絶縁被膜等を有している場合は、被膜等を上記の方法で除去してから化学組成を測定する。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板は、二次再結晶粒がずれ角βがわずかに異なる小さな領域に分割されていることを特徴とし、この特徴によって低磁場領域での磁歪が低減される。そのため、各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、鋼板上の被膜構成や、磁区細分化処理の有無などは特に制限されない。各実施形態では、目的に応じて任意の被膜を鋼板上に形成し、必要に応じて磁区細分化処理を施せばよい。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、中間層上に接して配された絶縁被膜とを有してもよい。
図3は、本発明の好適な実施形態に係る方向性電磁鋼板の断面模式図である。図3に示すように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板10(珪素鋼板)は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板10(珪素鋼板)上に接して配された中間層20と、中間層20上に接して配された絶縁被膜30とを有してもよい。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、局所的な微小歪の付与または局所的な溝の形成の少なくとも1つによって磁区が細分化されていてもよい。なお、局所的な微小歪や局所的な溝は、レーザー、プラズマ、機械的方法、エッチング、その他の手法によって付与または形成すればよい。例えば、局所的な微小歪または局所的な溝は、鋼板の圧延面上で圧延方向と交差する方向に延伸するように線状または点状に、且つ圧延方向の間隔が2mm〜10mmになるように付与または形成すればよい。
[方向性電磁鋼板の製造方法]
次に、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法を説明する。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を製造する方法は、下記の方法に限定されない。下記の製造方法は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を製造するための一つの例である。
図4は、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法を例示する流れ図である。図4に示すように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板(珪素鋼板)の製造方法は、鋳造工程と、熱間圧延工程と、熱延板焼鈍工程と、冷間圧延工程と、脱炭焼鈍工程と、焼鈍分離剤塗布工程と、仕上げ焼鈍工程とを備える。また、必要に応じて、脱炭焼鈍工程から仕上げ焼鈍工程までの任意のタイミングで窒化処理を行ってもよく、仕上げ焼鈍工程後に絶縁被膜形成工程や磁区制御工程をさらに有してもよい。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板(珪素鋼板)の製造方法は、
鋳造工程で、化学組成として、質量%で、Si:2.0〜7.0%、Nb:0〜0.030%、V:0〜0.030%、Mo:0〜0.030%、Ta:0〜0.030%、W:0〜0.030%、C:0〜0.0850%、Mn:0〜1.0%、S:0〜0.0350%、Se:0〜0.0350%、Al:0〜0.0650%、N:0〜0.0120%、Cu:0〜0.40%、Bi:0〜0.010%、B:0〜0.080%、P:0〜0.50%、Ti:0〜0.0150%、Sn:0〜0.10%、Sb:0〜0.10%、Cr:0〜0.30%、Ni:0〜1.0%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブを鋳造し、
脱炭焼鈍工程で、一次再結晶粒径を24μm以下に制御し、
仕上げ焼鈍工程で、
上記スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030〜0.030%であるとき、加熱過程にて、700〜800℃でのPHO/PHを0.10〜1.0とするか、又は950〜1000℃でのPHO/PHを0.010〜0.070とするか、のうちの少なくとも一方を制御し、且つ850〜950℃での保持時間を120〜600分とし、
上記スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030〜0.030%でないとき、加熱過程にて、700〜800℃でのPHO/PHを0.10〜1.0とし、950〜1000℃でのPHO/PHを0.010〜0.070とし、且つ850〜950℃での保持時間を120〜600分とする。
上記のPHO/PHは、酸素ポテンシャルと呼ばれ、雰囲気ガスの水蒸気分圧PHOと水素分圧PHとの比である。
本実施形態の「切り替え」は、主として、方位変化(切り替え)自体を発生し易くする要因と、方位変化(切り替え)が一つの二次再結晶粒の中で継続的に発生するようにする要因との二つによって制御される。
切り替え自体を発生し易くさせるためには、二次再結晶をより低温から開始させることが有効である。例えば、一次再結晶粒径を制御し、Nb群元素を活用することによって、二次再結晶の開始をより低温に制御できる。
切り替えを一つの二次再結晶粒の中で継続的に発生させるためには、二次再結晶粒を低温から高温まで継続的に成長させることが有効である。例えば、従来から用いられるインヒビターであるAlNなどを適切な温度および雰囲気中で利用することによって、低温で二次再結晶粒を発生させ、インヒビター効果を高温まで継続して作用させ、切り替えを一つの二次再結晶粒の中で高温まで継続的に発生させることができる。
すなわち、切り替えを好ましく発生させるためには、高温での二次再結晶粒の発生を抑制したまま、低温で発生した二次再結晶粒を高温まで優先的に成長させることが有効となる。
また、本実施形態では、上記の二つの要因に加え、β結晶粒の形状に面内異方性を付与するため、最終的な二次再結晶過程で、二次再結晶粒の成長に異方性を持たせる方法を採用してもよい。
本実施形態の特徴である切り替えを制御するには、上記の要因が重要である。その他の製造条件は、従来の公知の方向性電磁鋼板の製造方法を適用することができる。例えば、高温スラブ加熱によって形成するMnSやAlNをインヒビターとして利用する製造方法や、低温スラブ加熱とその後の窒化処理によって形成するAlNをインヒビターとして利用する製造方法などがある。本実施形態の特徴である切り替えは、何れの製造方法でも適用が可能であり、特定の製造方法に限定されない。以下では、窒化処理を適用する製造方法にて切り替えを制御する方法を一例として説明する。
(鋳造工程)
鋳造工程では、スラブを準備する。スラブの製造方法の一例は次のとおりである。溶鋼を製造(溶製)する。溶鋼を用いてスラブを製造する。連続鋳造法によりスラブを製造してもよい。溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延してスラブを製造してもよい。スラブの厚さは、特に限定されない。スラブの厚さは、たとえば、150〜350mmである。スラブの厚さは、好ましくは、220〜280mmである。スラブとして、厚さが10〜70mmの、いわゆる薄スラブを用いてもよい。薄スラブを用いる場合、熱間圧延工程にて、仕上げ圧延前の粗圧延を省略できる。
スラブの化学組成は、一般的な方向性電磁鋼板の製造に用いられるスラブの化学組成を用いることができる。スラブの化学組成はたとえば、次の元素を含有する。
C:0〜0.0850%
炭素(C)は、製造過程では一次再結晶組織の制御に有効な元素であるものの、最終製品のC含有量が過剰であると磁気特性に悪影響を及ぼす。したがって、スラブのC含有量は0〜0.0850%であればよい。C含有量の好ましい上限は0.0750%である。Cは後述の脱炭焼鈍工程及び仕上げ焼鈍工程で純化され、仕上げ焼鈍工程後には0.0050%以下となる。Cを含む場合、工業生産における生産性を考慮すると、C含有量の下限は0%超であってもよく、0.0010%であってもよい。
Si:2.0〜7.0%
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。Si含有量が2.0%未満であれば、仕上げ焼鈍時にオーステナイト変態が生じて、方向性電磁鋼板の結晶方位が損なわれてしまう。一方、Si含有量が7.0%を超えれば、冷間加工性が低下して、冷間圧延時に割れが発生しやすくなる。Si含有量の好ましい下限は2.50%であり、さらに好ましくは3.0%である。Si含有量の好ましい上限は4.50%であり、さらに好ましくは4.0%である。
Mn:0〜1.0%
マンガン(Mn)は、S又はSeと結合して、MnS、又は、MnSeを生成し、インヒビターとして機能する。Mn含有量は0〜1.0%であればよい。Mnを含有させる場合、Mn含有量が0.05〜1.0%の範囲内にある場合に、二次再結晶が安定するので好ましい。本実施形態では、インヒビターの機能の一部をNb群元素の窒化物によって担うことが可能である。この場合は、一般的なインヒビターとしてのMnS、又は、MnSe強度は弱めに制御する。このため、Mn含有量の好ましい上限は0.50%であり、さらに好ましくは0.20%である。
S:0〜0.0350%
Se:0〜0.0350%
硫黄(S)及びセレン(Se)は、Mnと結合して、MnS又はMnSeを生成し、インヒビターとして機能する。S含有量は0〜0.0350%であればよく、Se含有量は0〜0.0350%であればよい。S及びSeの少なくとも一方を含有させる場合、S及びSeの含有量が合計で0.0030〜0.0350%であれば、二次再結晶が安定するので好ましい。本実施形態では、インヒビターの機能の一部をNb群元素の窒化物によって担うことが可能である。この場合は、一般的なインヒビターとしてのMnS、又は、MnSe強度は弱めに制御する。このため、S及びSe含有量の合計の好ましい上限は0.0250%であり、さらに好ましくは0.010%である。S及びSeは仕上げ焼鈍後に残留すると化合物を形成し、鉄損を劣化させる。そのため、仕上げ焼鈍中の純化により、S及びSeをできるだけ少なくすることが好ましい。
ここで、「S及びSeの含有量が合計で0.0030〜0.0350%」であるとは、スラブの化学組成がS又はSeのいずれか一方のみを含有し、S又はSeのいずれか一方の含有量が0.0030〜0.0350%であってもよいし、スラブがS及びSeの両方を含有し、S及びSeの含有量が合計で0.0030〜0.0350%であってもよい。
Al:0〜0.0650%
アルミニウム(Al)は、Nと結合して(Al、Si)Nとして析出し、インヒビターとして機能する。Al含有量は0〜0.0650%であればよい。Alを含有させる場合、Alの含有量が0.010〜0.065%の範囲内にある場合に、後述の窒化により形成されるインヒビターとしてのAlNは二次再結晶温度域を拡大し、特に高温域での二次再結晶が安定するので好ましい。Al含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.0250%である。二次再結晶の安定性の観点から、Al含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
N:0〜0.0120%
窒素(N)は、Alと結合してインヒビターとして機能する。N含有量は0〜0.0120%であればよい。Nは製造過程の途中で窒化により含有させることが可能であるため下限が0%でもよい。一方、Nを含有させる場合、N含有量が0.0120%を超えれば、鋼板中に欠陥の一種であるブリスタが発生しやすくなる。N含有量の好ましい上限は0.010%であり、さらに好ましくは0.0090%である。Nは仕上げ焼鈍工程で純化され、仕上げ焼鈍工程後には0.0050%以下となる。
Nb:0〜0.030%
V:0〜0.030%
Mo:0〜0.030%
Ta:0〜0.030%
W:0〜0.030%
Nb、V、Mo、Ta、及びWは、Nb群元素である。Nb含有量は0〜0.030%であればよく、V含有量は0〜0.030%であればよく、Mo含有量は0〜0.030%であればよく、Ta含有量は0〜0.030%であればよく、W含有量は0〜0.030%であればよい。
また、Nb群元素として、Nb、V、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.0030〜0.030質量%含有することが好ましい。
Nb群元素を切り替えの制御に活用する場合、スラブでのNb群元素の合計含有量が0.030%以下(好ましくは0.0030%以上0.030%以下)であると、適切なタイミングで二次再結晶を開始させる。また、発生する二次再結晶粒の方位が非常に好ましいものとなり、その後の成長過程で、本実施形態が特徴とする切り替えが起きやすくなり、最終的に磁気特性にとって好ましい組織に制御できる。
Nb群元素を含有することにより、脱炭焼鈍後の一次再結晶粒径は、Nb群元素を含有しない場合に比べて好ましく小径化する。この一次再結晶粒の微細化は、炭化物、炭窒化物、窒化物等の析出物によるピン止め効果、および固溶元素としてのドラッグ効果などにより得られると考えられる。特に、Nb及びTaはその効果が好ましく得られる。
Nb群元素による一次再結晶粒径の小径化によって、二次再結晶の駆動力が大きくなり、二次再結晶が従来よりも低温で開始する。また、Nb群元素の析出物は、AlNなどの従来インヒビターよりも比較的低温で分解するため、仕上げ焼鈍の昇温過程にて、二次再結晶が従来よりも低温で開始する。これらのメカニズムについては後述するが、低温で二次再結晶が開始することで、本実施形態の特徴である切り替えが起き易くなる。
なお、二次再結晶のインヒビターとしてNb群元素の析出物を活用する場合、Nb群元素の炭化物及び炭窒化物は、二次再結晶が可能な温度域よりも低い温度域で不安定となるため、二次再結晶開始温度を低温にシフトさせる効果が小さいと考えられる。このため、二次再結晶開始温度を好ましく低温にシフトさせるためには、二次再結晶が可能な温度域まで安定であるNb群元素の窒化物を活用することが好ましい。
二次再結晶開始温度を好ましく低温シフトさせるNb群元素の析出物(好ましくは窒化物)と、二次再結晶開始後も高温まで安定なAlN、(Al、Si)Nなどの従来インヒビターとを併用することにより、二次再結晶粒である{110}<001>方位粒の優先成長温度域を従来よりも拡大することができる。そのため、低温から高温までの幅広い温度域で切り替えが発生し、方位選択が広い温度域で継続する。その結果、最終的なβ粒界の存在頻度が高まるとともに、方向性電磁鋼板を構成する二次再結晶粒の{110}<001>方位集積度を効果的に高めることができる。
なお、Nb群元素の炭化物や炭窒化物などのピン止め効果により、一次再結晶粒の微細化を指向する場合は、鋳造時点でスラブのC含有量を50ppm以上としておくことが好ましい。ただし、二次再結晶におけるインヒビターとしては、炭化物もしくは炭窒化物よりも、窒化物が好ましいことから、一次再結晶完了後は、脱炭焼鈍によりC含有量を30ppm以下、好ましくは20ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下にして、鋼中のNb群元素の炭化物や炭窒化物を十分に分解しておくことが好ましい。脱炭焼鈍にて、Nb群元素の大部分を固溶状態にしておくことで、その後の窒化処理にて、Nb群元素の窒化物(インヒビター)を、本実施形態にとって好ましい形態(二次再結晶が進行しやすい形態)に調整することができる。
Nb群元素の合計含有量は、0.0040%以上であることが好ましく、0.0050%以上であることがより好ましい。また、Nb群元素の合計含有量は、0.020%以下であることが好ましく、0.010%であることがより好ましい。
スラブの化学組成の残部はFe及び不純物からなる。なお、ここでいう「不純物」は、スラブを工業的に製造する際に、原材料に含まれる成分、又は製造の過程で混入する成分から不可避的に混入し、本実施形態の効果に実質的に影響を与えない元素を意味する。
また、スラブは、製造上の課題解決のほか、化合物形成によるインヒビター機能の強化や磁気特性への影響を考慮して、上記Feの一部に代えて、公知の選択元素を含有してもよい。選択元素として、たとえば、次の元素が挙げられる。
Cu:0〜0.40%
Bi:0〜0.010%
B:0〜0.080%
P:0〜0.50%
Ti:0〜0.0150%
Sn:0〜0.10%
Sb:0〜0.10%
Cr:0〜0.30%
Ni:0〜1.0%
これらの選択元素は、公知の目的に応じて含有させればよい。これらの選択元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値が0%でもよい。
(熱間圧延工程)
熱間圧延工程は、所定の温度(例えば1100〜1400℃)に加熱されたスラブの熱間圧延を行い、熱間圧延鋼板を得る工程である。熱間圧延工程では、例えば、鋳造工程後に加熱された珪素鋼素材(スラブ)の粗圧延を行った後、仕上げ圧延を行って所定厚さ、例えば、1.8〜3.5mmの熱間圧延鋼板とする。仕上げ圧延終了後、熱間圧延鋼板を所定の温度で巻き取る。
インヒビターとしてのMnS強度はそれほど必要でないため、生産性を考慮すれば、スラブ加熱温度は1100℃〜1280℃とすることが好ましい。
なお、熱延工程にて、鋼帯の幅または長手方向に上記範囲内で温度勾配を設けることにより、結晶組織、結晶方位、及び析出物について、鋼板面内位置での不均一性を生じさせてもよい。これにより、最終的な二次再結晶過程での二次再結晶粒の成長に異方性を持たせ、本実施形態にとって必要なβ結晶粒の形状に面内異方性を好ましく付与することが可能である。例えば、スラブ加熱にて、板幅方向に温度勾配を設けて高温部の析出物を微細化し、高温部のインヒビター機能を高めることで、二次再結晶時に低温部から高温部に向けた優先的な粒成長を誘起することが可能である。
(熱延板焼鈍工程)
熱延板焼鈍工程は、熱間圧延工程で得た熱間圧延鋼板を所定の温度条件(例えば750〜1200℃で30秒間〜10分間)で焼鈍して、熱延焼鈍板を得る工程である。
なお、熱延板焼鈍工程にて、鋼帯の幅または長手方向に上記範囲内で温度勾配を設けることにより、結晶組織、結晶方位、及び析出物について、鋼板面内位置での不均一性を生じさせてもよい。これにより、最終的な二次再結晶過程での二次再結晶粒の成長に異方性を持たせ、本実施形態にとって必要なβ結晶粒の形状に面内異方性を好ましく付与することが可能である。例えば、熱延板焼鈍にて、板幅方向に温度勾配を設けて高温部の析出物を微細化し、高温部のインヒビター機能を高めることで、二次再結晶時に低温部から高温部に向けた優先的な粒成長を誘起することが可能である。
(冷間圧延工程)
冷間圧延工程は、熱延板焼鈍工程で得た熱延焼鈍板を、1回の冷間圧延、又は焼鈍(中間焼鈍)を介して複数回(2回以上)の冷間圧延(例えば総冷延率で80〜95%)により、例えば、0.10〜0.50mmの厚さを有する冷間圧延鋼板を得る工程である。
(脱炭焼鈍工程)
脱炭焼鈍工程は、冷間圧延工程で得た冷間圧延鋼板に脱炭焼鈍(例えば700〜900℃で1〜3分間)を行い、一次再結晶が生じた脱炭焼鈍鋼板を得る工程である。冷間圧延鋼板に脱炭焼鈍を行うことで、冷間圧延鋼板中に含まれるCが除去される。脱炭焼鈍は、冷間圧延鋼板中に含まれる「C」を除去するために、湿潤雰囲気中で行うことが好ましい。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、脱炭焼鈍鋼板の一次再結晶粒径を24μm以下に制御することが好ましい。一次再結晶粒径を微細化することによって、二次再結晶開始温度を好ましく低温にシフトさせることができる。
例えば、前述の熱間圧延および熱延板焼鈍の条件を制御したり、脱炭焼鈍温度を必要に応じて低温化したりすることによって、一次再結晶粒径を小さくすることができる。または、スラブにNb群元素を含有させ、Nb群元素の炭化物や炭窒化物などのピン止め効果によって、一次再結晶粒を小さくすることができる。
なお、脱炭焼鈍に起因する脱炭酸化量及び表面酸化層の状態は、中間層(グラス被膜)の形成に影響を及ぼすため、本実施形態の効果を発現するために従来の方法を使って適宜調整してもよい。
切り替えを起きやすくする元素として含有させてもよいNb群元素は、この時点では、炭化物や炭窒化物や固溶元素などとして存在し、一次再結晶粒径を微細化するように影響を及ぼす。一次再結晶粒径は、23μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、18μm以下であることがより好ましい。また、一次再結晶粒径は、8μm以上であればよく、12μm以上であってもよい。
なお、脱炭焼鈍工程にて、鋼帯の幅または長手方向に上記範囲内での温度勾配や脱炭挙動差を設けることにより、結晶組織、結晶方位、及び析出物について、鋼板面内位置での不均一性を生じさせてもよい。これにより、最終的な二次再結晶過程での二次再結晶粒の成長に異方性を持たせ、本実施形態にとって必要なβ結晶粒の形状に面内異方性を好ましく付与することが可能である。例えば、スラブ加熱にて、板幅方向に温度勾配を設けて低温部の一次再結晶粒径を微細化して二次再結晶開始の駆動力を高め、低温部での二次再結晶を早期に開始させることで、二次再結晶粒の成長時に低温部から高温部に向けた優先的な粒成長を誘起することが可能である。
(窒化処理)
窒化処理は、二次再結晶におけるインヒビターの強度を調整するために実施する。窒化処理では、上述の脱炭焼鈍の開始から、後述する仕上げ焼鈍における二次再結晶の開始までの間の任意のタイミングで、鋼板の窒素量を40〜300ppm程度に増加させればよい。窒化処理としては、例えば、アンモニア等の窒化能のあるガスを含有する雰囲気中で鋼板を焼鈍する処理や、MnN等の窒化能を有する粉末を含む焼鈍分離剤を塗布した脱炭焼鈍鋼板を仕上げ焼鈍する処理等が例示される。
スラブがNb群元素を上記の数値範囲で含有する場合は、窒化処理によって形成されるNb群元素の窒化物が比較的低温で粒成長抑止機能が消失するインヒビターとして機能するので、二次再結晶が従来よりも低温から開始する。この窒化物は、二次再結晶粒の核発生の選択性に関しても有利に作用し、高磁束密度化を実現している可能性も考えられる。また、窒化処理ではAlNも形成され、このAlNが比較的高温まで粒成長抑止機能が継続するインヒビターとして機能する。これらの効果を得るためには、窒化処理後の窒化量を130〜250ppmとすることが好ましく、さらには150〜200ppmとすることが好ましい。
なお、窒化処理にて、鋼帯の幅または長手方向に上記範囲内で窒化量に差を設けることにより、インヒビター強度について、鋼板面内位置での不均一性を生じさせてもよい。これにより、最終的な二次再結晶過程での二次再結晶粒の成長に異方性を持たせ、本実施形態にとって必要なβ結晶粒の形状に面内異方性を好ましく付与することが可能である。例えば、板幅方向に窒化量の差を設けて高窒化部のインヒビター機能を高めることで、二次再結晶時に低窒化部から高窒化部に向けた優先的な粒成長を誘起することが可能である。
(焼鈍分離剤塗布工程)
焼鈍分離剤塗布工程は、脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布する工程である。焼鈍分離剤としては、例えば、MgOを主成分とする焼鈍分離剤や、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を用いることができる。
なお、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を用いた場合には、仕上げ焼鈍によって中間層としてフォルステライト被膜(MgSiOを主体とする被膜)が形成されやすく、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を用いた場合には、仕上げ焼鈍によって中間層として酸化膜(SiOを主体とする被膜)が形成されやすい。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、鋼板表面を平滑に制御する。例えば、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を用いた場合には、仕上げ焼鈍によって形成されたフォルステライト被膜を、酸洗または研削によって除去すればよい。また、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を用いた場合には、仕上げ焼鈍時にフォルステライト被膜の形成が抑制されて鋼板表面が平滑になりやすい。MgOを主成分とする焼鈍分離剤を用いた場合、またはアルミナを主成分とする焼鈍分離剤を用いた場合の何れでも、仕上げ焼鈍後に、鋼板表面を化学研磨又は電解研磨して平滑にしてもよい。
焼鈍分離剤を塗布後の脱炭焼鈍鋼板は、コイル状に巻取った状態で、次の仕上げ焼鈍工程で仕上げ焼鈍される。
(仕上げ焼鈍工程)
仕上げ焼鈍工程は、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板に仕上げ焼鈍を施し、二次再結晶を生じさせる工程である。この工程は、一次再結晶粒の成長をインヒビターにより抑制した状態で二次再結晶を進行させることによって、{100}<001>方位粒を優先成長させ、磁束密度を飛躍的に向上させる。
仕上げ焼鈍は、本実施形態の特徴である切り替えを制御するために重要な工程である。本実施形態では、仕上げ焼鈍にて、以下の(A)、(B)、(D)の3つの条件を基本として、ずれ角βを制御する。
なお、仕上げ焼鈍工程の説明における「Nb群元素の合計含有量」は、仕上げ焼鈍直前の鋼板(脱炭焼鈍鋼板)のNb群元素の合計含有量を意味する。つまり、仕上げ焼鈍条件に影響するのは、仕上げ焼鈍直前の鋼板の化学組成であり、仕上げ焼鈍および純化が起きた後の化学組成(例えば方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の化学組成)とは無関係である。
(A)仕上げ焼鈍の加熱過程にて、700〜800℃の温度域での雰囲気についてのPHO/PHをPAとしたとき、
PA:0.10〜1.0
(B)仕上げ焼鈍の加熱過程にて、950〜1000℃の温度域での雰囲気についてのPHO/PHをPBとしたとき、
PB:0.010〜0.070
(D)仕上げ焼鈍の加熱過程にて、850〜950℃の温度域での保持時間をTDとしたとき、
TD:120〜600分
なお、Nb群元素の合計含有量が0.0030〜0.030%の場合は、条件(A)、(B)のうちの少なくとも一つ、かつ条件(D)を満足すればよい。
Nb群元素の合計含有量が0.0030〜0.030%でない場合は、条件(A)、(B)、(D)の3つを満足すればよい。
条件(A)および(B)に関して、Nb群元素を上記範囲で含有する場合、Nb群元素が持つ回復再結晶抑制効果のため、「低温域での二次再結晶の開始」と「高温域までの二次再結晶の継続」の二つ要因が強く作用する。その結果、本実施形態の効果を得るための制御条件が緩和する。
PAは、0.30以上であることが好ましく、0.60以下であることが好ましい。
PBは、0.020以上であることが好ましく、0.050以下であることが好ましい。
TDは、180分以上であることが好ましく、240分以上であることがより好ましく、480分以下であることが好ましく、360分以下であることがより好ましい。
切り替えが発生するメカニズムの詳細は、現時点では明確ではない。ただし、二次再結晶過程の観察結果および切り替えを好ましく制御できる製造条件を考慮し、「低温域での二次再結晶の開始」と「高温域までの二次再結晶の継続」との二つの要因が重要であると推察している。
この二つの要因を念頭に、上記(A)、(B)、(D)の限定理由について説明する。なお、以下の説明で、メカニズムについての記述は推測を含む。
条件(A)は、二次再結晶が起きる温度よりも十分に低い温度域での条件であり、この条件は二次再結晶と認識される現象に直接的には影響しない。ただし、この温度域は、鋼板表面に塗布された焼鈍分離剤が持ち込む水分等で鋼板表層が酸化する温度域であり、すなわち、一次被膜(中間層)の形成に影響を及ぼす温度域である。条件(A)は、この一次被膜の形成を制御することを介して、その後の「高温域までの二次再結晶の継続」を可能とするために重要となる。この温度域を上記雰囲気とすることで、一次被膜は緻密な構造となり、二次再結晶が生じる段階にてインヒビターの構成元素(例えば、Al、Nなど)が系外に排出されるのを阻害するバリアとして作用する。これにより二次再結晶が高温まで継続し、切り替えを十分に起こすことが可能になる。
条件(B)は、二次再結晶の粒成長の中期段階に相当する温度域での条件であり、この条件は二次再結晶粒が成長する過程でのインヒビター強度の調整に影響する。この温度領域を上記雰囲気とすることで、粒成長の中期段階にて、二次再結晶粒の成長がインヒビター分解に律速されて進行するようになる。詳細は後述するが、条件(B)によって、二次再結晶粒の成長方向前面の粒界に転位が効率的に蓄積するので、切り替えの発生頻度が高まり且つ切り替えが継続的に発生する。
条件(D)は、二次再結晶の核形成から粒成長の初期段階に相当する温度域での条件である。この温度域での保持は良好な二次再結晶を起こすために重要であるが、保持時間が長くなると、一次再結晶粒の成長も起きやすくなる。例えば、一次再結晶粒の粒径が大きくなると、切り替え発生の駆動力となる転位の蓄積(二次再結晶粒の成長方向前面の粒界への転位蓄積)が起きにくくなってしまう。この温度域での保持時間を600分以下とすれば、一次再結晶粒の粗大化を抑制した状態で二次再結晶粒の初期段階の成長を進行させることができるので、特定のずれ角の選択性を高めることとなる。本実施形態では、一次再結晶粒の微細化やNb群元素の活用などにより二次再結晶開始温度を低温にシフトさせることを背景とし、ずれ角βの切り替えを多く発生させ且つ継続させる。
本実施形態の製造方法では、Nb群元素を活用する場合、条件(A)および(B)の両方を満足しなくても一方を選択的に満足すれば、本実施形態の切り替え条件を満たす方向性電磁鋼板を得ることが可能である。すなわち、二次再結晶初期に特定のずれ角(本実施形態の場合はずれ角β)での切り替え頻度を高めるように制御すれば、切り替えによる方位差を保ったままで二次再結晶粒が成長し、その影響は後期まで継続して最終的な切り替え頻度も高くなる。さらにその影響は後期まで継続して新たな切り替えが発生するとしても、ずれ角βの変化が大きい切り替えが発生し、最終的なずれ角βの切り替え頻度も高くなる。もちろん、Nb群元素を活用したとしても、条件(A)および(B)の両方を満たすことが最適である。
上記した本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法を基本として、二次再結晶粒をずれ角βがわずかに異なる小さな領域に分割された状態に制御すればよい。具体的には、上記方法を基本として、第1実施形態として記述したように、方向性電磁鋼板中に、境界条件BBを満足する粒界に加えて、境界条件BAを満足し且つ上記境界条件BBを満足しない粒界を作り込めばよい。
次に、本実施形態に係る製造方法に関する好ましい製造条件を説明する。
本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍工程で、スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030〜0.030%でないとき、加熱過程にて、1000〜1050℃での保持時間を300〜1500分とすることが好ましい。
同様に、本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍工程で、スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030〜0.030%であるとき、加熱過程にて、1000〜1050℃での保持時間を150〜900分とすることが好ましい。
以下では、上記の製造条件を、条件(E−1)とする。
(E−1)仕上げ焼鈍の加熱過程にて、1000〜1050℃の温度域での保持時間(総滞留時間)をTE1としたとき、
Nb群元素の合計含有量が0.0030〜0.030%の場合、
TE1:150分以上
Nb群元素の合計含有量が上記範囲外の場合、
TE1:300分以上
Nb群元素の合計含有量が0.0030〜0.030%の場合、TE1は、200分以上であることが好ましく、300分以上であることがさらに好ましく、900分以下であることが好ましく、600分以下であることがさらに好ましい。
Nb群元素の合計含有量が上記範囲外の場合、TE1は、360分以上であることが好ましく、600分以上であることがより好ましく、1500分以下であることが好ましく、900分以下であることがより好ましい。
条件(E−1)は、切り替えが起きているβ粒界の鋼板面内の延伸方向を制御する因子となる。1000〜1050℃で、十分な保持を行うことで、圧延方向での切り替え頻度を高めることが可能となる。上記温度域での保持中に、インヒビターを含む鋼中析出物の形態(例えば、配列及び形状)が変化することに起因して、圧延方向での切り替え頻度が高まると考えられる。
仕上げ焼鈍に供される鋼板は、熱間圧延および冷間圧延を経ているので、鋼中の析出物(特にMnS)の配列及び形状は、鋼板面内で異方性を有し、圧延方向に偏向する傾向を有すると考えられる。詳細は不明であるが、上記の温度域での保持は、このような析出物の形態の圧延方向への偏向程度を変化させ、二次再結晶粒の成長時にβ粒界が鋼板面内のどの方向に延伸しやすいかに影響を及ぼしていると考えられる。具体的には、1000〜1050℃という比較的高温で鋼板を保持すると、鋼中で析出物の形態の圧延方向への偏向が消失し、このためβ粒界が圧延方向に延伸する割合が低下して圧延直角方向に延伸する傾向が強くなる。その結果として、圧延方向で計測するβ粒界の頻度が高くなると考えられる。
なお、Nb群元素の合計含有量が0.0030〜0.030%の場合は、β粒界の存在頻度自体が高いため、条件(E−1)の保持時間が短くても本実施形態の効果を得ることが可能である。
上記した条件(E−1)を含む製造方法によって、β結晶粒の圧延方向の粒径を、二次再結晶粒の圧延方向の粒径よりも小さく制御できる。具体的には、上記した条件(E−1)を合わせて制御することによって、第2実施形態として記述したように、方向性電磁鋼板にて、粒径RAと粒径RBとが、1.10≦RB÷RAを満たすように制御できる。
また、本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍工程で、スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030〜0.030%でないとき、加熱過程にて、950〜1000℃での保持時間を300〜1500分とすることが好ましい。
同様に、本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍工程で、スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030〜0.030%であるとき、加熱過程にて、950〜1000℃での保持時間を150〜900分とすることが好ましい。
以下では、上記の製造条件を、条件(E−2)とする。
(E−2)仕上げ焼鈍の加熱過程にて、950〜1000℃の温度域での保持時間(総滞留時間)をTE2としたとき、
Nb群元素の合計含有量が0.0030〜0.030%の場合、
TE2:150分以上
Nb群元素の合計含有量が上記範囲外の場合、
TE2:300分以上
Nb群元素の合計含有量が0.0030〜0.030%の場合、TE2は、200分以上であることが好ましく、300分以上であることがより好ましく、900分以下であることが好ましく、600分以下であることがより好ましい。
Nb群元素の合計含有量が上記範囲外の場合、TE2は、360分以上であることが好ましく、600分以上であることがより好ましく、1500分以下であることが好ましく、900分以下であることがより好ましい。
条件(E−2)は、切り替えが起きているβ粒界の鋼板面内の延伸方向を制御する因子となる。950〜1000℃で、十分な保持を行うことで、圧延直角方向での切り替え頻度を高めることが可能となる。上記温度域での保持中に、インヒビターを含む鋼中析出物の形態(例えば、配列及び形状)が変化することに起因して、圧延直角方向での切り替え頻度が高まると考えられる。
仕上げ焼鈍に供される鋼板は、熱間圧延および冷間圧延を経ているので、鋼中の析出物(特にMnS)の配列及び形状は、鋼板面内で異方性を有し、圧延方向に偏向する傾向を有すると考えられる。詳細は不明であるが、上記の温度域での保持は、このような析出物の形態の圧延方向への偏向程度を変化させ、二次再結晶粒の成長時にβ粒界が鋼板面内のどの方向に延伸しやすいかに影響を及ぼしていると考えられる。具体的には、950〜1000℃という比較的低温で鋼板を保持すると、鋼中で析出物の形態の圧延方向への偏向が増長し、このためβ粒界が圧延直角方向に延伸する割合が低下して圧延方向に延伸する傾向が強くなる。その結果として、圧延直角方向で計測するβ粒界の頻度が高くなるものと考えられる。
なお、Nb群元素の合計含有量が0.0030〜0.030%の場合は、β粒界の存在頻度自体が高いため、条件(E−2)の保持時間が短くても本実施形態の効果を得ることが可能である。
上記した条件(E−2)を含む製造方法によって、β結晶粒の圧延直角方向の粒径を、二次再結晶粒の圧延直角方向の粒径よりも小さく制御できる。具体的には、上記した条件(E−2)を合わせて制御することによって、第3実施形態として記述したように、方向性電磁鋼板にて、粒径RAと粒径RBとが、1.10≦RB÷RAを満たすように制御できる。
また、本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍の加熱過程にて、鋼板中の一次再結晶領域と二次再結晶領域との境界部位に0.5℃/cm超の温度勾配を与えながら二次再結晶を生じさせることが好ましい。例えば、仕上げ焼鈍の加熱過程の800℃から1150℃の温度範囲内で二次再結晶粒が成長中に上記の温度勾配を鋼板に与えることが好ましい。
また、上記温度勾配を与える方向が圧延直角方向Cであることが好ましい。
仕上げ焼鈍工程は、β結晶粒の形状に面内異方性を付与する工程として有効に活用できる。例えば、箱型の焼鈍炉を用い、コイル状の鋼板を炉内に設置して加熱する際に、コイルの外部と内部とに十分な温度差が生じるように、加熱装置の位置や配置、焼鈍炉内の温度分布を制御すればよい。または、誘導加熱、高周波加熱、通電加熱装置などを配置してコイルの一部のみを積極的に加熱することで、焼鈍されるコイル内に温度分布を形成してもよい。
温度勾配を付与する方法は、特に限定されず、公知の方法を適用すればよい。鋼板に温度勾配を付与すれば、早期に二次再結晶開始状態に到達したコイル内の部位から尖鋭な方位を持つ二次再結晶粒が生成し、この二次再結晶粒が温度勾配に起因して異方性を示して成長する。例えば、二次再結晶粒をコイルの全体にわたり成長させることもできる。そのため、β結晶粒の形状の面内異方性を好ましく制御することが可能となる。
コイル状の鋼板を加熱する場合、コイルエッジ部が加熱されやすいことから、幅方向(鋼板の板幅方向)の一端側から他端側に向けて温度勾配を付与して二次再結晶粒を成長させることが好ましい。
なお、Goss方位へ制御して目的の磁気特性を得ることを考慮すれば、さらには工業的な生産性も考慮すれば、0.5℃/cm超(好ましくは0.7℃/cm以上)の温度勾配を与えながら仕上げ焼鈍を施して二次再結晶粒を成長させればよい。温度勾配を与える方向は、圧延直角方向Cであることが好ましい。温度勾配の上限は特に限定されないが、温度勾配を維持した状態で二次再結晶粒を継続的に成長させることが好ましい。鋼板の熱伝導と二次再結晶粒の成長速度とを考慮すると、一般的な製造プロセスであれば、例えば温度勾配の上限は10℃/cmであればよい。
上記した条件の温度勾配を含む製造方法によって、β結晶粒の圧延方向の粒径を、β結晶粒の圧延直角方向の粒径よりも小さく制御できる。具体的には、上記した条件の温度勾配を合わせて制御することによって、第4実施形態として記述したように、方向性電磁鋼板にて、粒径RAと粒径RAとが、1.15≦RA÷RAを満たすように制御できる。
また、本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍の加熱過程にて、1050〜1100℃の保持時間を300〜1200分としてもよい。
以下では、上記の製造条件を、条件(F)とする。
(F)仕上げ焼鈍の加熱過程にて、1050〜1100℃の温度域での保持時間をTFとしたとき、
TF:300〜1200分
仕上げ焼鈍の加熱過程で1050℃までに二次再結晶が完了していない場合には、1050〜1100℃の加熱速度を低く(徐加熱)することで、具体的には、TFを300〜1200分とすることで、二次再結晶が高温まで継続して磁束密度が好ましく高まる。例えば、TFは、400分以上であることが好ましく、700分以下であることが好ましい。なお、仕上げ焼鈍の加熱過程で1050℃までに二次再結晶が完了している場合には、条件(F)を制御しなくてもよい。例えば、1050℃までに二次再結晶が完了している場合には、1050℃以上の温度域にて従来よりも昇温速度を速くして仕上げ焼鈍時間を短縮すれば、低コスト化が図れる。
本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍工程にて、上記のように条件(A)、条件(B)、および条件(D)の3つを基本として制御し、必要に応じて、条件(E−1)、条件(E−2)、および温度勾配の条件を組み合わせればよい。例えば、条件(E−1)、条件(E−2)、または/または温度勾配の条件のうちの複数の条件を組み合わせてもよい。また、必要に応じて条件(F)を組み合わせてもよい。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、上記した各工程を有する。
上記した各工程の各条件を制御することによって、方位変化の制御を行うことができる。その上で、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、方向性電磁鋼板としての被膜密着性を高めるために、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込む。例えば、鋳造工程でスラブがNb群元素を含有することで、または熱間圧延工程でスラブ加熱温度をより高温にすることで、または仕上げ焼鈍工程で温度勾配を与えながら二次再結晶を生じさせることで、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込めばよい。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、低磁場領域での磁歪が改善し、且つ鋼板表面が平滑であっても被膜密着性に優れる。
本実施形態に係る製造方法は、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程後に絶縁被膜形成工程をさらに有してもよい。
(絶縁被膜形成工程)
絶縁被膜形成工程は、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)に絶縁被膜を形成する工程である。仕上げ焼鈍後の鋼板に、りん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜や、アルミナゾルと硼酸とを主体とする絶縁被膜を形成すればよい。
例えば、仕上げ焼鈍後の鋼板に、りん酸あるいはりん酸塩、無水クロム酸あるいはクロム酸塩およびコロイド状シリカを含むコーティング溶液を塗布して焼き付けて(例えば、350℃〜1150℃で5〜300秒間)、絶縁被膜を形成すればよい。被膜形成時には、必要に応じて、雰囲気の酸化度や露点などを制御すればよい。
または、仕上げ焼鈍後の鋼板に、アルミナゾルおよびホウ酸を含むコーティング溶液を塗布して焼き付けて(例えば、750℃〜1350℃で10〜100秒間)、絶縁被膜を形成すればよい。被膜形成時には、必要に応じて、雰囲気の酸化度や露点などを制御すればよい。
上記のように、絶縁被膜は絶縁被膜形成工程で形成される。なお、中間層を形成するために中間層形成工程を行うことは必須ではない。例えば、中間層が酸化膜である場合、この酸化膜は、仕上げ焼鈍時に形成されることがあり、絶縁被膜形成のための焼鈍時に珪素鋼板上に形成されることもある。そのため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、形成する中間層に応じて、公知の中間層形成工程を行えばよい。
また、本実施形態に係る製造方法は、必要に応じて、磁区制御工程をさらに有してもよい。
(磁区制御工程)
磁区制御工程は、方向性電磁鋼板の磁区を細分化する処理を行う工程である。例えば、レーザー、プラズマ、機械的方法、エッチングなどの公知の手法により、方向性電磁鋼板に局所的な微小歪または局所的な溝を形成すればよい。このような磁区細分化処理は、本実施形態の効果を損ねない。
なお、上記の局所的な微小歪及び局所的な溝は、本実施形態で規定する結晶方位及び粒径の測定の際に異常点となる。このため、結晶方位の測定では、測定点が局所的な微小歪及び局所的な溝に重ならないようにする。また、粒径の測定では、局所的な微小歪及び局所的な溝を粒界とは認識しない。
(切り替え発生のメカニズムについて)
本実施形態で規定する切り替えは、二次再結晶粒が成長する過程で起きる。この現象は、素材(スラブ)の化学組成、二次再結晶粒の成長に至るまでのインヒビターの造り込み、一次再結晶粒の粒径の制御など、多岐の制御条件に影響される。このため、切り替えは、単に一つの条件を制御すればよいわけではなく、複数の制御条件を複合的に且つ不可分に制御する必要がある。
切り替えは、隣接する結晶粒の間の粒界エネルギーおよび表面エネルギーに起因して生じると考えられる。
上記の粒界エネルギーについては、角度差を有する2つの結晶粒が隣接していると、その粒界エネルギーが大きくなるため、二次再結晶粒が成長する過程で粒界エネルギーを低減するように、つまり特定の同一方位に近づくように切り替えが起きることが考えられる。
また、上記の表面エネルギーについては、対称性がそれなりに高い{110}面から方位がわずかにでもずれると、表面エネルギーを増大させることになるため、二次再結晶粒が成長する過程で表面エネルギーを低減するように、つまり{110}面方位に近づきずれ角が小さくなるように切り替えが起きることが考えられる。
ただし、これらのエネルギー差は、一般的な状況では二次再結晶粒が成長する過程で切り替えを起こしてまで方位変化を生じさせるようなエネルギー差ではない。このため、一般的な状況では角度差またはずれ角を有したままで二次再結晶粒が成長する。例えば、ずれ角βは、二次再結晶の初期では、二次再結晶粒の発生時点での方位ばらつきに起因した角度に対応する。このずれ角βを有する二次再結晶粒が成長すると、特に圧延方向に曲率を有する状態で二次再結晶粒が成長すると、ずれ角βの鋼板面に対する角度は変化していく。すなわち、二次再結晶粒は、発生時点でずれ角βが小さくなるように制御されているが、ある程度の大きさまで成長した二次再結晶粒の先端では、ずれ角βが不可避的に大きくなっていく。
一方、本実施形態に係る方向性電磁鋼板のように、二次再結晶をより低温から開始させ、かつ二次再結晶粒の成長を高温まで長時間に亘って継続させる場合、切り替えが顕著に起きるようになる。この理由は明確ではないが、二次再結晶粒が成長する過程で、その成長方向の前面部つまり一次再結晶粒に隣接する領域に、比較的高密度で幾何学的な方位のずれを解消するための転位が残存することが考えられる。この残存する転位が、本実施形態の切り替えおよびβ粒界に対応すると考えられる。
本実施形態では、二次再結晶が従来よりも低温で開始するため、転位の消滅が遅れ、成長する二次再結晶粒の成長方向前面の粒界に転位が掃き溜められるような形で蓄積して転位密度が増す。このため成長する二次再結晶粒の前面で原子の再配列が起き易くなり、その結果、隣接する二次再結晶粒との角度差を小さくするように、すなわち粒界エネルギーを小さくするように、または表面エネルギーを小さくするように切り替えを起こすものと考えられる。
この切り替えは、特別な方位関係を有する粒界(β粒界)を二次再結晶粒内に残すこととなる。なお、切り替えが起きる前に、別の二次再結晶粒が発生して、成長中の二次再結晶粒がこの生成した二次再結晶粒に到達すれば、粒成長が止まるため、切り替え自体が起きなくなる。このため、本実施形態では、二次再結晶粒の成長段階で、新たな二次再結晶粒の発生頻度を低くし、インヒビター律速で既存の二次再結晶のみが成長を継続する状態に制御することが有利となる。このため、本実施形態では、二次再結晶開始温度を好ましく低温シフトさせるインヒビターと、比較的高温まで安定なインヒビターとを併用することが好ましい。
なお、本実施形態にて、ずれ角βを主要な方位変化とする切り替えが起きる理由は明確ではないが、以下のように考えている。切り替えがどのような方位変化で起きるかは、切り替えの基本単位とも言える転位の種類(つまり、成長の過程で二次再結晶粒の前面に掃き溜められる転位におけるバーガースベクトルなど)に影響すると考えられる。本実施形態では、ずれ角βの制御に関して、二次再結晶過程の初期から中期段階でのインヒビター制御(上記条件(B))の影響が大きい。例えば、950℃以下または1000℃以上の温度域の雰囲気によりインヒビター強度が変化すると、切り替えにおけるずれ角βの寄与は小さくなる。すなわち、インヒビターの弱化時期が、一次再結晶組織の変化(方位および粒径変化)、掃き溜められる転位の消失、および二次再結晶粒の成長速度に影響し、その結果として、成長する二次再結晶粒内に形成される切り替えの方位(つまり、二次再結晶粒内に取り込まれる転位の種類と量)を変化させると考えている。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、低磁場領域での磁歪が改善し、且つ鋼板表面が平滑であっても被膜密着性に優れる。
次に、実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に詳細に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
表2に示す化学組成を有するスラブを素材として、表3に示す化学組成を有する方向性電磁鋼板(珪素鋼板)を製造した。なお、これらの化学組成は、上記の方法に基づいて測定した。表2および表3で、「−」は含有量を意識した制御および製造をしておらず、含有量の測定を実施していないことを示す。また、表2および表3で、「<」を付記する数値は、含有量を意識した制御および製造を実施して含有量の測定を実施したが、含有量として十分な信頼性を有する測定値が得られなかったこと(測定結果が検出限界以下であること)を示す。
Figure 2021123752
Figure 2021123752
方向性電磁鋼板は、表4に示す製造条件に基づいて製造した。具体的には、スラブを鋳造し、熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、脱炭焼鈍を実施し、必要に応じて脱炭焼鈍後の鋼板に、水素−窒素−アンモニアの混合雰囲気で窒化処理(窒化焼鈍)を施した。
さらに、焼鈍分離剤を鋼板に塗布し、仕上げ焼鈍を施した。仕上げ焼鈍の最終過程では、鋼板を水素雰囲気にて1200℃で20時間保持(純化焼鈍)して、冷却した。なお、No.9およびNo.10は、仕上げ焼鈍で純化を強化し、方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の時点でNb含有量が検出限界以下になった。
なお、No.11は、仕上げ焼鈍後に、仕上げ焼鈍鋼板の表面に形成されたフォルステライト被膜を酸洗除去し、その後に電解研磨して表面を平滑にした。また、No.12は、仕上げ焼鈍後に、仕上げ焼鈍後に、仕上げ焼鈍鋼板の表面に形成されたフォルステライト被膜を酸洗除去し、その後に電解研磨して表面を平滑にし、その後CVDによりTiNのセラミック膜を製膜した。
Figure 2021123752
その後、仕上げ焼鈍鋼板の表面に、りん酸塩とコロイド状シリカを主体としクロムを含有する絶縁被膜形成用のコーティング溶液を塗布し、水素:窒素が75体積%:25体積%の雰囲気で加熱して保持し、冷却して、絶縁被膜を形成した。
絶縁被膜を形成後に、レーザー照射によって、鋼板の圧延面上で圧延方向と交差する方向に延伸するように線状の微小歪を、圧延方向の間隔が4mmになるように付与した。
製造した方向性電磁鋼板は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、この中間層上に接して配された絶縁被膜とを有していた。
なお、No.1、No.3、No.5、No.7、No.9は、中間層が平均厚さ2μmのフォルステライト被膜であった。No.2、No.4、No.6、No.8、No.10、No.11は、中間層が平均厚さ20nmの酸化膜(SiOを主体とする被膜)であった。No.12は、中間層が平均厚さ20nmのTiNセラミック膜であった。また、いずれの方向性電磁鋼板も、絶縁被膜は平均厚さ1μmのりん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜であった。
得られた方向性電磁鋼板について、各種特性を評価した。評価結果を表5に示す。
(1)方向性電磁鋼板(珪素鋼板)の平滑度
方向性電磁鋼板(珪素鋼板)の平滑度を上記の方法で測定した。具体的には、方向性電磁鋼板の板厚方向に沿った切断面を観察して、この断面に現れる珪素鋼板の輪郭曲線に基づいて表面粗さRa(算術平均粗さRa)を求めた。なお、中間層がフォルステライト被膜である鋼板は、フォルステライト被膜が珪素鋼板に嵌入して凹凸な界面であるため、表面粗さRaを測定せずに、表中で「−」と示して不合格と判断した。
(2)方向性電磁鋼板の結晶方位
方向性電磁鋼板の結晶方位を上記の方法で測定した。この測定した各測定点の結晶方位からずれ角を特定し、このずれ角に基づいて隣接する2つの測定点間に存在する粒界を特定した。なお、表中で示す「BA/BB」とは、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値を意味する。「境界条件BAを満足する境界数」とは、上記した表1のケース1および/またはケース3の粒界に対応し、「境界条件BBを満足する境界数」とは、ケース1および/またはケース2の粒界に対応する。BA/BB値が1.1以上である場合、方向性電磁鋼板に「境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界」が存在すると判断した。また、必要に応じて、特定した粒界に基づいて平均結晶粒径を算出し、ずれ角βの絶対値の標準偏差σ(|β|)を上記の方法で測定した。
(3)方向性電磁鋼板の磁気特性
方向性電磁鋼板の磁気特性は、JIS C 2556:2015に規定された単板磁気特性試験法(SST:Single Sheet Tester)に基づいて測定した。
磁気特性として、交流周波数:50Hz、励磁磁束密度:1.7Tの条件で、鋼板の単位重量(1kg)あたりの電力損失として定義される鉄損W17/50(W/kg)を測定した。また、800A/mで励磁したときの鋼板の圧延方向の磁束密度B(T)を測定した。なお、W17/50が0.700W/kg以下であるとき、合格と判断した。
さらに、磁気特性として、交流周波数:50Hz、励磁磁束密度:1.5Tの条件下で鋼板に生じる磁歪λp−p@1.5Tを測定した。具体的には、上記の励磁条件下での試験片(鋼板)の最大長さLmaxおよび最小長さLmin、並び磁束密度0Tでの試験片の長さLを用いて、λp−p@1.5T=(Lmax−Lmin)÷Lにより算出した。
上記した磁気特性値に基づいて、1.5Tでの磁歪速度レベル(Lva@1.5T)を求めた。磁歪速度レベルLva(単位:dB)は、2周期以上の磁歪波形、6.4kHzのサンプリング周波数で取得した波形をフーリエ変換して、得られたそれぞれの周波数ごとの磁歪量λ(fi)(0Hz〜3.2kHz)を用いて、以下の式1で導出した。
Lva=20×log10[{ρc×{Σ(21/2π×fi×λ(fi)×α(fi))1/2}/P] ・・・(式1)
ここで、
ρ:空気の密度(kg/m
c:音速(m/s)
:1kHzの音を人間が聞き取ることのできる最小の圧力(Pa)、
fi:周波数(Hz)
λ(fi):フーリエ変換した周波数ごとの磁歪量
α(fi):周波数fiのA特性
π:円周率
なお、Lva@1.5Tをそれぞれ求めるにあたり、次の値を代入した。
ρ=1.185(kg/m
c=346.3(m/s)
=2×10−5(Pa)
(4)方向性電磁鋼板の被膜密着性
方向性電磁鋼板の被膜密着性(被膜残存面積率)を上記の方法で測定した。なお、被膜残存面積率が90%以上であるとき、合格と判断した。
Figure 2021123752
No.1〜12では、Lva@1.5Tが45.0dB以下であるとき、合格と判断した。
No.1〜12のうち、本発明例はいずれも、低磁場磁歪、鉄損、および被膜密着性に優れた。一方、比較例は、低磁場磁歪、鉄損、または被膜密着性が十分でなかった。
具体的には、
No.1は、中間層がフォルステライト被膜であるため被膜密着性を満たしたが、表面粗さRaが大きいためにW17/50を満たさず、またBA/BBが小さいためにLva@1.5Tを満たさなかった。
No.2は、表面粗さRaが小さいのでW17/50を満たしたが、BA/BBが小さいためにLva@1.5Tおよび被膜密着性を満たさなかった。
No.3、5、7、9は、中間層がフォルステライト被膜であるため被膜密着性を満たしたが、表面粗さRaが大きいためにW17/50を満たさなかった。
No.4は、表面粗さRaが小さいのでW17/50を満たしたが、BA/BBが小さいために被膜密着性を満たさなかった。
(実施例A)
表1Aに示す化学組成を有するスラブを素材として、表2Aに示す化学組成を有する方向性電磁鋼板(珪素鋼板)を製造した。なお、化学組成の測定方法や、表中での記述方法は上記の実施例1と同じである。
Figure 2021123752
Figure 2021123752
方向性電磁鋼板は、表3A〜表7Aに示す製造条件に基づいて製造した。焼鈍分離材は、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を使用した。表に示す以外の製造条件は上記の実施例1と同じである。
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
製造した方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の表面に、上記の実施例1と同じ絶縁被膜を形成した。
絶縁被膜を形成後に、レーザー照射によって、鋼板の圧延面上で圧延方向と交差する方向に延伸するように線状の微小歪を、圧延方向の間隔が4mmになるように付与した。
製造した方向性電磁鋼板は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、この中間層上に接して配された絶縁被膜とを有していた。なお、中間層は平均厚さ20nmの酸化膜(SiOを主体とする被膜)であり、絶縁被膜は平均厚さ1μmのりん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜であった。
得られた方向性電磁鋼板について、各種特性を評価した。なお、評価方法は上記の実施例1と同じである。評価結果を表8A〜表12Aに示す。
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
方向性電磁鋼板の特性は、化学組成及び製造法により大きく変化する。そのため、いくつかの特徴のある化学組成および製造法による方向性電磁鋼板ごとに、Lva@1.5Tを評価する。
No.1001〜1023では、Lva@1.5Tが41.0dB以下であるとき、合格と判断した。
No.1024〜1034では、Lva@1.5Tが42・0dB以下であるとき、合格と判断した。
No.1035〜1046では、Lva@1.5Tが40・0dB以下であるとき、合格と判断した。
No.1047〜1054では、Lva@1.5Tが40・0dB以下であるとき、合格と判断した。
No.1055〜1064では、Lva@1.5Tが41.5dB以下であるとき、合格と判断した。
No.1065〜1101では、Lva@1.5Tが39.7.5dB以下であるとき、合格と判断した。
No.1001〜1101のうち、本発明例はいずれも、低磁場磁歪、鉄損、および被膜密着性に優れた。一方、比較例は、低磁場磁歪、鉄損、または被膜密着性が十分でなかった。
(実施例B)
表1Bに示す化学組成を有するスラブを素材として、表2Bに示す化学組成を有する方向性電磁鋼板を製造した。なお、化学組成の測定方法や、表中での記述方法は上記の実施例1と同じである。
Figure 2021123752
Figure 2021123752
方向性電磁鋼板は、表3B〜表7Bに示す製造条件に基づいて製造した。焼鈍分離材は、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を使用した。表に示す以外の製造条件は上記の実施例1と同じである。
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
製造した方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の表面に、上記の実施例1と同じ絶縁被膜を形成した。
絶縁被膜を形成後に、レーザー照射によって、鋼板の圧延面上で圧延方向と交差する方向に延伸するように線状の微小歪を、圧延方向の間隔が4mmになるように付与した。
製造した方向性電磁鋼板は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、この中間層上に接して配された絶縁被膜とを有していた。なお、中間層は平均厚さ20nmの酸化膜(SiOを主体とする被膜)であり、絶縁被膜は平均厚さ2μmのりん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜であった。
得られた方向性電磁鋼板について、各種特性を評価した。なお、評価方法は上記の実施例1と同じである。評価結果を表8B〜表12Bに示す。
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
方向性電磁鋼板の特性は、化学組成及び製造法により大きく変化する。そのため、いくつかの特徴のある化学組成および製造法による方向性電磁鋼板ごとに、Lva@1.5Tを評価する。
No.2001〜2023では、Lva@1.5Tが40.5dB以下であるとき、合格と判断した。
No.2024〜2034では、Lva@1.5Tが42.0dB以下であるとき、合格と判断した。
No.2035〜2045では、Lva@1.5Tが40.0dB以下であるとき、合格と判断した。
No.2046〜2053では、Lva@1.5Tが40.0dB以下であるとき、合格と判断した。
No.2054〜2063では、Lva@1.5Tが41.0dB以下であるとき、合格と判断した。
No.2064〜2101では、Lva@1.5Tが36.7dB以下であるとき、合格と判断した。
No.2001〜2101のうち、本発明例はいずれも、低磁場磁歪、鉄損、および被膜密着性に優れた。一方、比較例は、低磁場磁歪、鉄損、または被膜密着性が十分でなかった。
(実施例C)
表1Cに示す化学組成を有するスラブを素材として、表2Cに示す化学組成を有する方向性電磁鋼板を製造した。なお、化学組成の測定方法や、表中での記述方法は上記の実施例1と同じである。
Figure 2021123752
Figure 2021123752
方向性電磁鋼板は、表3C〜表6Cに示す製造条件に基づいて製造した。焼鈍分離材は、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を使用した。なお、仕上げ焼鈍では、切り替えの発生方向の異方性を制御するため、鋼板の圧延直角方向に温度勾配をつけて熱処理を行った。この温度勾配および表に示す以外の製造条件は上記の実施例1と同じである。
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
製造した方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の表面に、上記の実施例1と同じ絶縁被膜を形成した。
絶縁被膜を形成後に、レーザー照射によって、鋼板の圧延面上で圧延方向と交差する方向に延伸するように線状の微小歪を、圧延方向の間隔が4mmになるように付与した。
製造した方向性電磁鋼板は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、この中間層上に接して配された絶縁被膜とを有していた。なお、中間層は平均厚さ20nmの酸化膜(SiOを主体とする被膜)であり、絶縁被膜は平均厚さ3μmのりん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜であった。
得られた方向性電磁鋼板について、各種特性を評価した。なお、評価方法は上記の実施例1と同じである。評価結果を表7C〜表10Cに示す。
ほとんどの方向性電磁鋼板は、温度勾配の方向に結晶粒が延伸し、β結晶粒の結晶粒径もこの方向が大きくなった。すなわち、圧延直角方向に結晶粒が延伸していた。ただし、温度勾配が小さかった一部の方向性電磁鋼板では、β結晶粒について圧延直角方向の粒径が圧延方向の粒径より小さくなっていた。圧延直角方向の粒径が圧延方向の粒径より小さい場合、表中の「温度勾配方向が不一致」の欄に「*」で示した。
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
Figure 2021123752
方向性電磁鋼板の特性は、化学組成及び製造法により大きく変化する。そのため、いくつかの特徴のある化学組成および製造法による方向性電磁鋼板ごとに、Lva@1.5Tを評価する。
No.3001〜3035では、Lva@1.5Tが40.5dB以下であるとき、合格と判断した。
No.3036〜3070では、Lva@1.5Tが40.0dB以下であるとき、合格と判断した。
No.3071では、Lva@1.5Tが40.0dB以下であるとき、合格と判断した。
No.3001〜3071のうち、本発明例はいずれも、低磁場磁歪、鉄損、および被膜密着性に優れた。一方、比較例は、低磁場磁歪、鉄損、または被膜密着性が十分でなかった。
(実施例D)
表1Dに示す化学組成を有するスラブを素材として、表2Dに示す化学組成を有する方向性電磁鋼板を製造した。なお、化学組成の測定方法や、表中での記述方法は上記の実施例1と同じである。
Figure 2021123752
Figure 2021123752
方向性電磁鋼板は、表3Dに示す製造条件に基づいて製造した。焼鈍分離材は、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を使用した。表に示す以外の製造条件は上記の実施例1と同じである。
Figure 2021123752
製造した方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の表面に、上記の実施例1と同じ絶縁被膜を形成した。
絶縁被膜を形成後に、レーザー照射によって、鋼板の圧延面上で圧延方向と交差する方向に延伸するように線状の微小歪を、圧延方向の間隔が4mmになるように付与した。
製造した方向性電磁鋼板は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、この中間層上に接して配された絶縁被膜とを有していた。なお、中間層は平均厚さ20nmの酸化膜(SiOを主体とする被膜)であり、絶縁被膜は平均厚さ1μmのりん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜であった。
得られた方向性電磁鋼板について、各種特性を評価した。なお、評価方法は上記の実施例1と同じである。評価結果を表4Dに示す。
Figure 2021123752
No.4001〜4012では、Lva@1.5Tが40.0dB以下であるとき、合格と判断した。
No.4001〜4012のうち、本発明例はいずれも、低磁場磁歪、鉄損、および被膜密着性に優れた。一方、比較例は、低磁場磁歪、鉄損、または被膜密着性が十分でなかった。
本発明の上記態様によれば、低磁場領域(特に1.5T程度の磁場)での磁歪を改善した上で、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板の提供が可能となるので、産業上の利用可能性が高い。
10 方向性電磁鋼板(珪素鋼板)
20 中間層
30 絶縁被膜

Claims (10)

  1. Goss方位に配向する集合組織を有する方向性電磁鋼板において、
    前記方向性電磁鋼板が、質量%で、
    Si:2.0〜7.0%、
    Nb:0〜0.030%、
    V:0〜0.030%、
    Mo:0〜0.030%、
    Ta:0〜0.030%、
    W:0〜0.030%、
    C:0〜0.0050%、
    Mn:0〜1.0%、
    S:0〜0.0150%、
    Se:0〜0.0150%、
    Al:0〜0.0650%、
    N:0〜0.0050%、
    Cu:0〜0.40%、
    Bi:0〜0.010%、
    B:0〜0.080%、
    P:0〜0.50%、
    Ti:0〜0.0150%、
    Sn:0〜0.10%、
    Sb:0〜0.10%、
    Cr:0〜0.30%、
    Ni:0〜1.0%、
    を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
    圧延面法線方向Zを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をαと定義し、
    圧延直角方向Cを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をβと定義し、
    圧延方向Lを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をγと定義し、
    板面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点で測定する結晶方位のずれ角を(α β γ)および(α β γ)と表し、
    境界条件BAを|β−β|≧0.5°と定義し、
    境界条件BBを[(α−α+(β−β+(γ−γ1/2≧2.0°と定義するとき、
    前記境界条件BAを満足し且つ前記境界条件BBを満足しない粒界が存在し、且つ前記境界条件BAを満足する境界数を、前記境界条件BBを満足する境界数で割った値が、1.3以上であり、
    前記方向性電磁鋼板の表面粗さRaが0.5μm以下である、
    ことを特徴とする方向性電磁鋼板。
  2. 前記方向性電磁鋼板上に接して配された中間層と、前記中間層上に接して配された絶縁被膜とを有し、直径20mmの丸棒に巻き付けて曲げ戻した時の被膜残存面積率が90〜100%である、
    ことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
  3. 前記中間層が平均厚さ2〜500nmの酸化膜である、ことを特徴とする請求項2に記載の方向性電磁鋼板。
  4. 前記中間層が平均厚さ2〜500nmのセラミック膜である、ことを特徴とする請求項2に記載の方向性電磁鋼板。
  5. 前記化学組成として、Nb、V、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.0030〜0.030質量%含有する、
    ことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  6. 前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
    前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
    前記粒径RAと前記粒径RBとが、1.30≦RB÷RAを満たす、
    ことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  7. 前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
    前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
    前記粒径RAと前記粒径RBとが、1.30≦RB÷RAを満たす、
    ことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  8. 前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
    前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義するとき、
    前記粒径RAと前記粒径RAとが、1.15≦RA÷RAを満たす、
    ことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  9. 前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、
    前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
    前記粒径RBと前記粒径RBとが、1.50≦RB÷RBを満たす、
    ことを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  10. 前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
    前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、
    前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
    前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
    前記粒径RAと前記粒径RAと前記粒径RBと前記粒径RBとが、
    (RB×RA)÷(RB×RA)<1.0を満たす、
    ことを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
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