JP2021123265A - 錨泊支援方法及び錨泊支援システム - Google Patents
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Abstract
Description
走錨を検知するための主な研究例としては、強風下における船舶の振れ回り運動などをGPSやレーダー等によって監視して、その異常を発見することによって走錨をいち早く検知しようとする方法がある(研究例a)。また、研究例aに関連する方法として、GPS等で錨と船舶の位置を比較し、これらの距離と錨鎖の長さから走錨を検知しようとする方法がある(研究例b)。また、何らかの方法で計測又は評価した錨鎖に働く張力を、別途推定した錨と錨鎖の形状から決まる静的最大把駐力と比較して、前者が後者を超えたら走錨が発生するとしてこれを検知しようとする方法がある(研究例c)。研究例cの方法は、力の理論値と計測値等の比較による方法なので、走錨に至るまでの余裕の程度(危険余裕)を知ることができる点で有用と考えられる。
また、特許文献2には、自船から錨に至る水平距離を、錨鎖張力と水深とを用いて錨鎖カテナリ理論式で求めた錨鎖カテナリと繰出し錨鎖長とから演算し、投錨位置から現在の自船位置に至る水平距離を、自船の船速若しくは加速度を投錨から現在に亙って時間積分することにより演算し、自船から錨に至る水平距離と投錨位置から現在の自船位置に至る水平距離とを比較することにより走錨を検知する走錨検知方法が開示されている。
また、特許文献3には、チェーンの張力を計測する張力測定装置と、測定値を送信する送信器と、船体側に備えられ送信器からの信号を受信する受信器とを有する錨の把駐力測定装置が開示されている。
研究例cの方法に関するこれまでの研究は、海底土質や錨と錨鎖の性能を考慮しているものの、錨と錨鎖の形状から決まる静的最大把駐力は外力の大きさによって変化するので比較すべき値としては必ずしも適当とはいえない。また、研究例cの方法では、錨鎖の一部が海底にある場合を主に対象としてきており、錨鎖のすべてが懸垂曲線を描くような状況を対象とした研究は少ない。錨鎖のすべてが懸垂曲線を描くような状況では錨鎖が錨を斜め上方に引くことになるため錨の把駐力が減少することが知られているが、この効果を考慮した研究も少ない。また、これらを考慮した研究においては、海底から錨鎖が立ち上がる角度と錨の把駐力の関係を用いるため繰り返し計算を必要としており、限界把駐力が陽に求められないほか、どういう条件で錨鎖のすべてが懸垂曲線を描くかの検討も十分とはいえない。
また、特許文献2は、船舶の現在位置と投錨位置とのなす距離を錨鎖張力等から推定した錨までの距離と比較して走錨を検知しようとするものであるから、走錨が発生したことを早期に検知することはできても、走錨の危険性を事前に評価することは困難である。
また、特許文献3は、実際の把駐力を計測することを主眼においており、理論把駐力については、形状や重量等に基づいて計算により求めることができる程度の記載しかない。よって、理論把駐力(限界把駐力)を精度よく把握できているとはいい難い。
請求項1に記載の本発明によれば、錨鎖の伸出錨鎖長さを考慮した精度の高い限界把駐力と、錨鎖水平張力とを用いて走錨の危険性を的確に評価することができる。
請求項2に記載の本発明によれば、限界把駐力を精度よく導出することができる。なお、さらに錨鎖張力の上向き成分が錨の把駐力におよぼす影響を考慮してもよい。
kc:状態分岐錨鎖長さ(m)
h :水底の錨から錨鎖口までの高さ(m)
ra:錨の把駐力係数
wa:錨の水中重量(N)
wc:錨鎖の単位長さ当たり水中重量(N/m)
請求項3に記載の本発明によれば、第一から第三の状態の内どの状態で限界把駐力が現れるかを判断してその状態における限界把駐力を導出するため、限界把駐力をさらに精度よく導出することができる。
ra:錨の把駐力係数
wa:錨の水中重量(N)
rc:錨鎖の把駐力係数
wc:錨鎖の単位長さ当たり水中重量(N/m)
k :伸出錨鎖長さ(m)
α :錨鎖張力の上向き成分が錨の把駐力におよぼす影響を表す係数
請求項4に記載の本発明によれば、各状態における限界把駐力を精度よく導出することができる。
請求項5に記載の本発明によれば、張力の計測結果に基づいて錨鎖水平張力を精度よく求めることができる。
請求項6に記載の本発明によれば、錨鎖の状態から錨鎖水平張力を精度よく推定することができる。
請求項7に記載の本発明によれば、走錨の危険性を、限界把駐力時と現在の錨鎖鉛直(上下)角度、錨鎖の空中長さ、又は錨鎖の空中部分の水平長さを用いて評価することができる。
請求項8に記載の本発明によれば、船長等は、錨鎖水平張力が刻々変化することによる限界把駐力と錨鎖水平張力との差分の増減傾向を把握しやすくなるため、走錨の危険性を把握して走錨を防ぐための対応をより的確に行うことができる。
請求項9に記載の本発明によれば、差分を表示することで船長等に走錨の危険性をより正確に知らせることができる。また差分に基づいて警報することで船長等に走錨を防ぐための対応を促すことができる。
請求項10に記載の本発明によれば、錨鎖の伸出錨鎖長さを考慮した精度の高い限界把駐力と、錨鎖水平張力とを用いて走錨の危険性を的確に評価することができる。
請求項11に記載の本発明によれば、限界把駐力を精度よく導出することができる。
請求項12に記載の本発明によれば、張力の計測結果に基づいて錨鎖水平張力を精度よく導出することができる。
請求項13に記載の本発明によれば、錨鎖の状態から錨鎖水平張力を精度よく導出することができる。
請求項14に記載の本発明によれば、船長等に走錨の危険性の推定結果を提供することができる。
請求項15に記載の本発明によれば、船長等は、錨鎖水平張力が刻々変化することによる限界把駐力と錨鎖水平張力との差分の増減傾向を時系列的に表示された限界把駐力と錨鎖水平張力から把握しやすくなり、また表示された差分により走錨の危険性を正確に把握しやすくなるため、走錨を防ぐための対応をより的確に行うことができる。
請求項16に記載の本発明によれば、警報により船長等に走錨を防ぐための対応を的確に促すことができる。特に、差分の閾値に近づく速度を判断して警報する場合は、走錨の危険性の状況変化に対応して緊急に報知することができる。
船舶1は、水底2におろされる錨10と、先端が錨10と接続し後端が船舶1と接続した錨鎖20を有する。錨鎖20は、船舶1の船首部に設けられた錨鎖口30から繰り出される。
錨10が水底2におりると、錨鎖20は船舶1と錨10との間で懸垂曲線を描く。本実施形態では、懸垂曲線を描く錨10と錨鎖20の状況を、第一の状態、第二の状態、及び第三の状態の3つの状態に分ける。
錨10と船舶1との水平距離は、第一の状態が最も近く、第三の状態が最も離れている。図1中の▼は、錨鎖20の立ち上がり位置Aを示している。
図1(b)に示す第二の状態は、錨鎖20が水底2に横たわっておらず、錨鎖20が水底2から角度0(ゼロ)で立ち上がった状態である。第二の状態では、錨鎖20の立ち上がり位置Aは錨10との接続部となる。錨鎖20は、立ち上がり位置Aにおいて水平(水底2と平行)である。
図1(c)に示す第三の状態は、錨鎖20が水底2に横たわっておらず、錨鎖20が水底2から0度よりも大きい角度θで立ち上がった状態である。第三の状態では、錨鎖20の立ち上がり位置Aは錨10との接続部となる。錨鎖20は、立ち上がり位置Aにおいて水底2に対して傾いている。
第一から第三の状態の内どの状態で走錨が発生するかの判断と、限界把駐力Th *の導出には、錨10と錨鎖20の性能、水底土質、水深、及び伸出錨鎖長さkを用いる。錨10と錨鎖20の性能、水底土質、及び水深は、船舶1(錨10、錨鎖20)と錨泊地から決まり、伸出錨鎖長さk[m]は、船長等の判断によって決まる。
式(1)に示すように、伸出錨鎖長さkが状態分岐錨鎖長さkcよりも長い場合は第一の状態で限界把駐力Th *が現れ、伸出錨鎖長さkが状態分岐錨鎖長さkcと等しい場合は第二の状態で限界把駐力Th *が現れ、伸出錨鎖長さkが状態分岐錨鎖長さkcよりも短い場合は第三の状態で限界把駐力Th *が現れる。このように、伸出錨鎖長さkを状態分岐錨鎖長さkcと比較することで、走錨が第一から第三の状態のいずれの状態で発生するかを判断することができる。
第一の状態の限界把駐力Th *は、次式(3)に基づいて導出する。
計測により求める場合は、錨鎖20にかかる張力を張力計等で計測し、計測結果に基づいてその水平成分である錨鎖水平張力Thを求める。錨鎖20にかかる張力を計測することで、張力の計測結果に基づいて錨鎖水平張力Thを精度よく求めることができる。
また、推定する場合は、錨鎖口30における錨鎖鉛直(上下)角度θH、錨鎖20の空中長さs1、及び錨鎖20の空中部分の水平距離bの少なくともいずれか一つを計測し、計測結果から錨鎖水平張力Thを推定する。これにより、錨鎖20の状態から錨鎖水平張力Thを精度よく推定することができる。
船舶1が備える錨10及び錨鎖20の仕様・性能と錨泊地の水底土質によって、錨10の水中重量wa、錨鎖20の単位長さ当たり水中重量wc、錨10の把駐力係数ra、及び錨鎖20の把駐力係数rcが決まるので、図2に示す限界把駐力Th *と伸出錨鎖長さkの関係が求まる。船長等は、錨泊中の最大風速の予想値等を考慮して図2をもとに必要な限界把駐力Th *を推定し、推定した限界把駐力Th *を確保する伸出錨鎖長さkを決めることができる。
図2中の長破線は第一の状態の計算式(式(3))を用いて導出した限界把駐力Th *を示し、●は第二の状態の計算式(式(4))を用いて導出した限界把駐力Th *を示し、短破線は第三の状態の計算式(式(5))を用いて導出した限界把駐力Th *を示している。また、実線は採用する限界把駐力Th *を示している。
上述した通り、3つの状態のうちどの状態で限界把駐力Th *が現れるかは、式(1)に示す伸出錨鎖長さkと状態分岐錨鎖長さkcとの関係から判断できる。図2においては、状態分岐錨鎖長さkcは約190[m]である。伸出錨鎖長さkが状態分岐錨鎖長さkcよりも大きい場合は第一の状態で限界把駐力Th *が現れ、伸出錨鎖長さkが状態分岐錨鎖長さkcよりも短い場合は第三の状態で限界把駐力Th *が現れるため、伸出錨鎖長さkと状態分岐錨鎖長さkcが等しい第二の状態を境として、それよりも右側では式(3)を用いて導出した限界把駐力Th *を採用し、左側では式(5)を用いて導出した限界把駐力Th *を採用する。また、第二の状態では式(4)を用いて導出した限界把駐力Th *を採用する。
例えば伸出錨鎖長さkが約120[m]の場合は、k<kcであるから、第三の状態で限界把駐力Th *が現れ、このときの限界把駐力Th *は200[kN]となる(図2に示す▲の位置)。このように、図2の▲に対応する伸出錨鎖長さkを選択したとき、自動的にこれに対応した限界把駐力Th *が決まる。
図3中の実線は式(A2)、式(A3)、及び式(A4)で表される公称把駐力f(Th)を示し、破線は(錨泊に必要な)把駐力[kN](又は(錨泊に必要な)錨鎖水平張力Th[kN])を示す。
走錨が発生するまでは(錨泊に必要な)把駐力は水平外力に等しく釣り合い状態にあるはずなので、縦軸と横軸のスケールを合わせれば破線は傾き45度の線になる。一方、水平外力が大きくなると錨鎖20は水底2に横たわっている部分が少なくなり、さらに錨鎖20の水底2に横たわっている部分がなくなって以降は錨10に上向きの力が働くので、公称把駐力f(Th)は水平外力の増加に伴って減少する。
図3中の★は限界把駐力Th *を表し、◆は現在の(錨泊に必要な)把駐力(又は(錨泊に必要な)錨鎖水平張力Th)を表す。破線で示す(錨泊に必要な)把駐力が実線で示す公称把駐力f(Th)を超えたときにと走錨が発生すると考えられる。錨鎖水平張力Thはこの公称把駐力f(Th)を超えることはできない。したがって実線と破線の交点★が限界把駐力Th *に対応する。また、図3中の⇔は把駐力の危険余裕ΔTh *を表している。把駐力の危険余裕ΔTh *は、現在の(錨泊に必要な)把駐力(又は(錨泊に必要な)錨鎖水平張力Th)と限界把駐力Th *との差である。
図3では、水平外力が約120[kN]のときに錨鎖20が水底2に横たわらず角度0で立ち上がる第二の状態となる。
水平外力が更に増加して第三の状態となった場合でも、錨鎖20が錨10を上方に引く影響を考慮しなければ、公称把駐力f(Th)は第二の状態のときと変わらず一定となる。また、仮に錨鎖20が錨10を上方に引く影響を考慮したとしても、従来のように水底2から錨鎖20が立ち上がる角度と錨10の把駐力の関係を用いると繰り返し計算が必要となり限界把駐力Th *を陽に求められず効率が悪い。また、どのような条件で錨鎖20のすべてが懸垂曲線を描くかの検討も困難である。
これに対して本実施形態では、第三の状態では錨鎖20が錨10を上方に引くことを錨10の見掛けの重量が減少したと見なし、錨鎖張力の上向き成分が錨10の把駐力におよぼす影響を表す係数αを導入することによって、第三の状態でも陽に限界把駐力Th *の推定を可能としている。
θH *は、限界把駐力Th *時における錨鎖鉛直(上下)角度である。錨鎖鉛直(上下)角度θHが限界把駐力Th *時における錨鎖鉛直(上下)角度θH *に達することは、水平外力(錨鎖水平張力Th)が限界把駐力Th *に達することと同値である。
水平外力が大きくなると船舶1と錨10との距離が離れて錨鎖鉛直(上下)角度θHは小さくなる。図4では錨鎖鉛直(上下)角度θHが約20度を下回ったときに走錨が発生する(図4中の★)。図4中の◆は現在の錨鎖鉛直(上下)角度θHを表し、縦向きの⇔は錨鎖鉛直(上下)角度の危険余裕ΔθH *を表し、横向きの⇔は把駐力の危険余裕ΔTh *を表している。
錨鎖鉛直(上下)角度の危険余裕ΔθH *は、現在の錨鎖鉛直(上下)角度θHと限界把駐力Th *時における錨鎖鉛直(上下)角度θH *との差分である。把駐力の危険余裕ΔTh *は、現在の把駐力と限界把駐力Th *との差分である。
図4に示すように、走錨の危険度又は走錨までの余裕を、錨鎖鉛直(上下)角度θHを用いて評価することができる。このことは、伸出錨鎖長さkにより異なる限界把駐力Th *と、錨鎖20にかかる錨鎖水平張力Thとを比較して走錨の危険性を評価することと等価となる。
s1 *は、限界把駐力Th *時における錨鎖20の空中長さである。錨鎖20の空中長さs1が限界把駐力Th *時における錨鎖20の空中長さs1 *に達することは、水平外力(錨鎖水平張力Th)が限界把駐力Th *に達することと同値である。
水平外力が大きくなると錨鎖鉛直(上下)角度θHが小さくなるため錨鎖20の空中長さs1が長くなる。図5では、錨鎖20の空中長さs1が約17mを上回ったときに走錨が発生する(図5中の★)。図5中の◆は現在の錨鎖20の空中長さs1を表し、縦向きの⇔は錨鎖20の空中長さの危険余裕Δs1 *を表し、横向きの⇔は把駐力の危険余裕ΔTh *を表している。
錨鎖20の空中長さの危険余裕Δs1 *は、現在の錨鎖20の空中長さs1と限界把駐力Th *時における錨鎖20の空中長さs1 *との差分である。
図5に示すように、走錨の危険度又は走錨までの余裕を、錨鎖20の空中長さs1を用いて評価することができる。このことは、伸出錨鎖長さkにより異なる限界把駐力Th *と、錨鎖20にかかる錨鎖水平張力Thとを比較して走錨の危険性を評価することと等価となる。
b*は、限界把駐力Th *時における錨鎖20の空中部分の水平長さである。錨鎖20の空中部分の水平長さbが限界把駐力Th *時における錨鎖20の空中部分の水平長さb*に達することは、水平外力(錨鎖水平張力Th)が限界把駐力Th *に達することと同値である。
水平外力が大きくなると錨鎖鉛直(上下)角度θHが小さくなるため錨鎖20の空中部分の水平長さbが長くなる。図6では、錨鎖20の空中部分の水平長さbが約16mを上回ったときに走錨が発生する(図6中の★)。図6中の◆は現在の錨鎖20の空中部分の水平長さbを表し、縦向きの⇔は錨鎖20の空中部分の水平長さの危険余裕Δb*を表し、横向きの⇔は把駐力の危険余裕ΔTh *を表している。
錨鎖20の空中部分の水平長さの危険余裕Δb*は、現在の錨鎖20の空中部分の水平長さbと限界把駐力Th *時における錨鎖20の空中部分の水平長さb*との差分である。
図6に示すように、走錨の危険度又は走錨までの余裕を、錨鎖20の空中部分の水平長さbを用いて評価することができる。このことは、伸出錨鎖長さkにより異なる限界把駐力Th *と、錨鎖20にかかる錨鎖水平張力Thとを比較して走錨の危険性を評価することと等価となる。
図7中の点線は限界把駐力Th *を表し、曲線は錨鎖水平張力Thを表している。錨鎖水平張力Thは風や波の状態によって刻々と変動するが、図7に示すように、限界把駐力Th *と錨鎖水平張力Thを時系列的に表示することで、船長等は、錨鎖水平張力Thが刻々変化することによる限界把駐力Th *と錨鎖水平張力Thとの差分ΔTh *の増減傾向を把握しやすくなるため、走錨の危険性を把握して走錨を防ぐための対応をより的確に行うことができる。また、現時点における限界把駐力Th *と錨鎖水平張力Thとの差である把駐力の危険余裕ΔTh *を併せて表示することで、船長等に走錨の危険性をより正確に知らせることができる。また、把駐力の危険余裕(差分)ΔTh *に所定の閾値を設け、把駐力の危険余裕(差分)ΔTh *が閾値以下となった場合に警報を発することで、船長等に走錨を防ぐための対応を促すことができる。なお、把駐力の危険余裕ΔTh *の表示、走錨の危険性の報知、把駐力の危険余裕(差分)ΔTh *に所定の閾値を設け、把駐力の危険余裕(差分)ΔTh *が閾値以下となった場合に警報を発すること等は、図3から図6の図等を利用して行うこともできる。
錨泊支援システムは、錨鎖20の伸出錨鎖長さkにより異なる限界把駐力Th *を導出する限界把駐力導出手段40と、錨鎖20にかかる錨鎖水平張力Thを導出する錨鎖水平張力導出手段50と、走錨の危険性を推定する走錨危険性推定手段60と、錨鎖20の張力を計測する張力計測手段70と、報知手段80を備え、錨10と錨鎖20を有した船舶1の錨泊を支援する。
なお、錨鎖水平張力Thの算出に当たっては、張力計測手段70の計測結果に加え、伸出錨鎖長さk、錨鎖20の角度等を考慮してもよい。
また、張力計測手段70に代えて、図8に点線で示すように、錨鎖口30における錨鎖20の錨鎖鉛直(上下)角度θHを計測する錨鎖角度計測手段90、錨鎖20の空中長さs1を計測する空中長計測手段100、及び錨鎖20の空中部分の水平長さbを計測する水平長計測手段110の少なくとも一つを設け、錨鎖水平張力導出手段50が、錨鎖角度計測手段90の計測結果、空中長計測手段100の計測結果、及び水平長計測手段110の計測結果の少なくとも一つに基づいて、予め定めた関係式を用いて錨鎖水平張力Thを導出することもできる。これにより、錨鎖20の状態から錨鎖水平張力Thを精度よく導出することができる。
また、走錨危険性推定手段60は、限界把駐力Th *と錨鎖水平張力Thとの差分(把駐力の危険余裕)ΔTh *を導出すると共に、導出した差分(把駐力の危険余裕)ΔTh *が所定の閾値以下か否かを判断する。
報知手段80は、表示手段81と警報器82を有する。表示手段81は、例えば船橋等に設置されたモニタであり、図7のように、限界把駐力導出手段40で導出された限界把駐力Th *と、錨鎖水平張力導出手段50で導出された錨鎖水平張力Thを時系列的に表示すると共に、走錨の危険性を限界把駐力Th *と錨鎖水平張力Thの差分ΔTh *として表示する。これにより船長等は、錨鎖水平張力Thが刻々変化することによる限界把駐力Th *と錨鎖水平張力Thとの差分ΔTh *の増減傾向を時系列的に表示された限界把駐力と錨鎖水平張力Thから把握しやすくなり、また表示された差分ΔTh *により走錨の危険性を正確に把握しやすくなるため、走錨を防ぐための対応をより的確に行うことができる。
また、錨泊支援システムは、走錨危険性推定手段60において差分(把駐力の危険余裕)ΔTh *が所定の閾値以下であると判断された場合は、警報器82から警報を発する。警報を発することにより、船長等に走錨を防ぐための対応を的確に促すことができる。
なお、走錨の危険性の評価に当たっては、船体の受ける風向や風速の変化、波高や波向の変化、潮流や海流の変化等を検出して、あるいは予測して評価することもできる。また、評価結果を守錨や危険回避等のための制御や操船等に反映することもできる。
2 水底
10 錨
20 錨鎖
30 錨鎖口
40 限界把駐力導出手段
50 錨鎖水平張力導出手段
60 走錨危険性推定手段
70 張力計測手段
80 報知手段
81 表示手段
90 錨鎖角度計測手段
100 空中長計測手段
110 水平長計測手段
h 水底の錨から錨鎖口までの高さ
k 伸出錨鎖長さ
kc 状態分岐錨鎖長さ
ra 錨の把駐力係数
rc 錨鎖の把駐力係数
Th 錨鎖水平張力
wa 錨の水中重量
wc 錨鎖の単位長さ当たり水中重量
Th * 限界把駐力
θH * 限界把駐力時における錨鎖鉛直(上下)角度
s1 * 限界把駐力時における錨鎖の空中長さ
b* 限界把駐力時における錨鎖の空中部分の水平長さ
α 錨鎖張力の上向き成分が錨の把駐力におよぼす影響を表す係数
θH 錨鎖鉛直(上下)角度
s1 錨鎖の空中長さ
b 錨鎖の空中部分の水平長さ
ΔTh * 限界把駐力と錨鎖水平張力の差分(把駐力の危険余裕)
Claims (16)
- 錨と錨鎖を有した船舶の錨泊を支援する方法であって、前記錨鎖の伸出錨鎖長さにより異なる限界把駐力と、前記錨鎖にかかる錨鎖水平張力とを比較して、走錨の危険性を評価することを特徴とする錨泊支援方法。
- 前記限界把駐力は、少なくとも前記錨の水中重量と、前記錨の性能と水底土質により決められる前記錨の把駐力係数を考慮して導出することを特徴とする請求項1に記載の錨泊支援方法。
- 前記錨鎖水平張力を、前記錨鎖にかかる張力を計測した結果に基づいて求めることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の錨泊支援方法。
- 前記錨鎖水平張力を、錨鎖口における前記錨鎖の錨鎖鉛直(上下)角度、前記錨鎖の空中長さ、及び前記錨鎖の空中部分の水平長さの少なくともいずれか1つを用いて推定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の錨泊支援方法。
- 前記限界把駐力と前記錨鎖水平張力との比較を、前記限界把駐力時における前記錨鎖鉛直(上下)角度と現在の前記錨鎖鉛直(上下)角度、前記限界把駐力時における前記空中長さと現在の前記空中長さ、及び前記限界把駐力時における前記空中部分の水平長さと現在の前記空中部分の水平長さの少なくともいずれか1つを比較して行うことを特徴とする請求項6に記載の錨泊支援方法。
- 前記限界把駐力と前記錨鎖水平張力を時系列的に表示することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の錨泊支援方法。
- 前記限界把駐力と前記錨鎖水平張力の差分を表示又は前記差分に基づいて警報することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の錨泊支援方法。
- 錨と錨鎖を有した船舶の錨泊を支援するシステムであって、前記錨鎖の伸出錨鎖長さにより異なる限界把駐力を導出する限界把駐力導出手段と、前記錨鎖にかかる錨鎖水平張力を導出する錨鎖水平張力導出手段と、前記限界把駐力と前記錨鎖水平張力とを比較して走錨の危険性を推定する走錨危険性推定手段とを備えたことを特徴とする錨泊支援システム。
- 前記限界把駐力導出手段が、前記限界把駐力を、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の錨泊支援方法に基づいて導出することを特徴とする請求項10に記載の錨泊支援システム。
- 前記錨鎖水平張力導出手段が、前記錨鎖の張力を検出する張力計測手段の計測結果に基づいて前記錨鎖水平張力を導出することを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の錨泊支援システム。
- 前記錨鎖水平張力導出手段が、錨鎖口における前記錨鎖の錨鎖鉛直[上下)角度を計測する錨鎖角度計測手段、前記錨鎖の空中長さを計測する空中長計測手段、及び前記錨鎖の空中部分の水平長さを計測する水平長計測手段の少なくともいずれか1つの計測結果に基づいて前記錨鎖水平張力を導出することを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の錨泊支援システム。
- 錨泊支援を行う報知手段をさらに備え、前記走錨危険性推定手段の推定結果を前記報知手段を用いて報知することを特徴とする請求項10から請求項13のいずれか1項に記載の錨泊支援システム。
- 前記報知手段として表示手段を用い、前記限界把駐力導出手段で導出された前記限界把駐力と、前記錨鎖水平張力導出手段で導出された前記錨鎖水平張力を時系列的に表示し、前記走錨の危険性を前記限界把駐力と前記錨鎖水平張力の差分として表示することを特徴とする請求項14に記載の錨泊支援システム。
- 前記差分に閾値を設け、前記走錨の危険性が所定の前記閾値以下になった場合、または前記差分の前記閾値に近づく速度を判断して、警報をして報知することを特徴とする請求項15に記載の錨泊支援システム。
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