JP2021114968A - 温室内環境推定方法、温室内環境推定装置及びコンピュータプログラム - Google Patents

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Abstract

【課題】 温室内の二酸化炭素発生量をより正確に予測する。【解決手段】 本発明は、二酸化炭素発生量を、状態空間モデル、特にカルマンフィルタを適用したトレーサーガス法により求める構成である。このため、ノイズを含むデータであっても、現在の状態をより精度良く推定することができる。温室内の二酸化炭素発生量を精度良く推定できることから、温室の換気回数、植物の生理状態、特に呼吸量も、植物にストレスを与えることなく高い精度で求めることができる。【選択図】 図3

Description

本発明は、温室内環境を推定する技術に関する。
温室外の風向や風速の変化、日射や外気温などの温室の外的要因の他、暖房機や二酸化炭素施用機等の稼働状況、換気窓の操作、また栽培植物の呼吸や光合成などの温室の内的要因により、温室内の環境に影響がでる。これらの要因の影響を受けた換気回数や二酸化炭素の濃度、温度、湿度などの温室内の環境情報、さらには植物の呼吸や光合成などの植物の生理状態、これら温室に関連する様々な情報を知ることは、植物の生育をより良好にするために必要な情報である。
従来、植物の生理状態を測定する場合、同化箱を用いることが一般的である。例えば、特許文献1では、完全には気密でない透明な同化箱を用い、植物を入れない状態において換気率を測定し、その後植物を入れて所定時間経過後に二酸化炭素濃度を測定し、それらのデータから光合成速度を求める手段が提案されている。
特開平8−172913号公報
温室内で特許文献1のように対象空間のトレーサーガス濃度変化を利用して植物の呼吸量のような微細な量を知るためには、換気窓の開閉を制限し、二酸化炭素の発生源である燃焼系の暖房機や二酸化炭素施用機は他のトレーサーガスとしてノイズとなるので停止した条件で実施する必要がある。同様にトレーサーガス濃度変化を利用して温室内の換気回数を知るためには、換気窓の開閉を制限してトレーサーガス濃度を一旦上昇させてから濃度の減衰を見るか、またはトレーサーガス発生量が正確に既知の状態で連続的な施用を行うなどの必要がある。ただし、ここでは以下の問題がある。
まず、温室は本来、植物に最適な環境を提供するための設備であり、これらの温室に関連した種々の情報(温室関連情報)を知るために、一時的とはいえ、植物にストレスを与える環境下におくことは適切ではない。また、測定のための制限をかけない状況下では、トレーサーガスとしての二酸化炭素の発生源である燃焼系の暖房機や二酸化炭素施用器の発生量は、平均的な発生量に機器の稼働時間を乗じた値で得る場合が多く、すなわち実際の稼働状況を考慮した正確な値を得ることは難しい。さらに、トレーサーガスの濃度変化で得た換気回数は測定時間における平均的な値であり、換気窓の開閉を行うことに伴う換気回数が途中で変化する状況を捉えることが難しい。
本発明は上記に鑑みなされたものであり、温室内環境を栽培に適した条件に調整した状態において、温室内の二酸化炭素発生量や換気回数を従来よりも正確に求めることができ、それにより植物の生理状態、中でも呼吸量も正確に求めることができる温室内環境推定方法、温室内環境推定装置及びコンピュータプログラムを提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明の温室内環境推定方法は、
トレーサーガス濃度を求める次式:
Figure 2021114968
(但し、Cin,Coutは温室の内部及び外部のトレーサーガスの濃度、tは時間、Nは換気回数、Mはトレーサーガス発生量、Vは温室の容積、Pは温室内植物の光合成量である)
に、状態空間モデルを適用し、
前記トレーサーガスを温室内の二酸化炭素とし、前記温室内の二酸化炭素発生量及び換気回数のいずれか少なくとも一方を推定することを特徴とする。
前記状態空間モデルとして、カルマンフィルタを適用し、
前回の二酸化炭素発生量の最終推定値からプロセスノイズを加味した状態方程式により得られる今回の二酸化炭素発生量の状態推定値と、
前記温室に付設される環境測定装置の観測値に観測ノイズを加味した観測方程式より得られる今回の二酸化炭素発生量の観測推定値と
に、カルマンゲインを適用し、前記温室内の二酸化炭素発生量に関する今回の最終推定値を求めることが好ましい。
さらに、前記温室内の二酸化炭素発生量の推定値から、植物の呼吸量を推定することができる。
前記状態空間モデルとして、カルマンフィルタを適用し、
前回の換気回数の最終推定値からプロセスノイズを加味した状態方程式により得られる今回の換気回数の状態推定値と、
前記温室に付設される環境測定装置の観測値に観測ノイズを加味した観測方程式より得られる今回の換気回数の観測推定値と
に、カルマンゲインを適用し、前記温室内の換気回数に関する今回の最終推定値を求めることが好ましい。
また、本発明の温室内環境推定装置は、温室内の二酸化炭素発生量を推定する温室内環境推定装置であって、
トレーサーガス濃度を求める次式:
Figure 2021114968
(但し、Cin,Coutは温室の内部及び外部のトレーサーガスの濃度、tは時間、Nは換気回数、Mはトレーサーガス発生量、Vは温室の容積、Pは温室内植物の光合成量である)
に、状態空間モデルを適用し、
前記トレーサーガスを温室内の二酸化炭素とし、前記温室内の二酸化炭素発生量及び換気回数のいずれか少なくとも一方を推定する推定部を有することを特徴とする。
前記推定部は、
前記状態空間モデルとして、カルマンフィルタを適用し、
前回の二酸化炭素発生量の最終推定値からプロセスノイズを加味した状態方程式により得られる今回の二酸化炭素発生量の状態推定値と、
前記温室に付設される環境測定装置の観測値に観測ノイズを加味した観測方程式より得られる今回の二酸化炭素発生量の観測推定値と
に、カルマンゲインを適用し、前記温室内の二酸化炭素発生量に関する今回の最終推定値を求めることが好ましい。
さらに、前記温室内の二酸化炭素発生量の推定値から、植物の呼吸量を推定することができる。
前記推定部は、
前記状態空間モデルとして、カルマンフィルタを適用し、
前回の換気回数の最終推定値からプロセスノイズを加味した状態方程式により得られる今回の換気回数の状態推定値と、
前記温室に付設される環境測定装置の観測値に観測ノイズを加味した観測方程式より得られる今回の換気回数の観測推定値と
に、カルマンゲインを適用し、前記温室内の換気回数に関する今回の最終推定値を求める構成であることが好ましい。
また、本発明のコンピュータプログラムは、コンピュータを、温室内の二酸化炭素発生量を推定する温室内環境推定装置として機能させるコンピュータプログラムであって、
トレーサーガス濃度を求める次式:
Figure 2021114968
(但し、Cin,Coutは温室の内部及び外部のトレーサーガスの濃度、tは時間、Nは換気回数、Mはトレーサーガス発生量、Vは温室の容積、Pは温室内植物の光合成量である)
に、状態空間モデルを適用し、
前記トレーサーガスを温室内の二酸化炭素とし、前記温室内の二酸化炭素発生量及び換気回数のいずれか少なくとも一方を推定する手順を前記コンピュータに実行させることを特徴とする。
前記手順は、
前記状態空間モデルとして、カルマンフィルタを適用し、
前回の二酸化炭素発生量の最終推定値からプロセスノイズを加味した状態方程式により得られる今回の二酸化炭素発生量の状態推定値と、
前記温室に付設される環境測定装置の観測値に観測ノイズを加味した観測方程式より得られる今回の二酸化炭素発生量の観測推定値と
に、カルマンゲインを適用し、前記温室内の二酸化炭素発生量に関する今回の最終推定値を求めることが好ましい。
さらに、前記温室内の二酸化炭素発生量の推定値から、植物の呼吸量を推定することができる。
前記手順は、
前記状態空間モデルとして、カルマンフィルタを適用し、
前回の換気回数の最終推定値からプロセスノイズを加味した状態方程式により得られる今回の換気回数の状態推定値と、
前記温室に付設される環境測定装置の観測値に観測ノイズを加味した観測方程式より得られる今回の換気回数の観測推定値と
に、カルマンゲインを適用し、前記温室内の換気回数に関する今回の最終推定値を求めることが好ましい。
温室を植物の栽培に適した環境で維持するには、外気温、湿度などの自然条件等の変化に合わせ、暖房機や二酸化炭素施用機の出力の調整、換気窓の開閉調整などを行わなければならない。しかし、そのような調整を行うことは、二酸化炭素発生量や換気回数の測定にはノイズとなる。これに対し、本発明は、二酸化炭素発生量及び換気回数のいずれか少なくとも一方を、状態空間モデル、特にカルマンフィルタを適用したトレーサーガス法により求める構成である。このため、ノイズを含むデータであっても、現在の状態をより精度良く推定することができる。温室内の二酸化炭素発生量及び換気回数のいずれか少なくとも一方を精度良く推定できることから、呼吸量に代表される植物の生理状態を、植物にストレスを与えることなく高い精度で求めることができる。
図1は、本発明の一の実施形態に係る温室内環境推定装置を用いた全体システムを示した図である。 図2は、上記実施形態に係る温室内環境推定装置の概略構成を示した図である。 図3は、上記実施形態に係る温室内環境推定装置による推定過程を説明するためのフローチャートである。 図4は、温室内環境推定装置を構成するコンピュータの記憶部に記憶されるデータの一例を示した図である。 図5は、実施例における温室内外の二酸化炭素(CO)濃度差の観測値と推定値を示したグラフである。 図6は、実施例における二酸化炭素(CO)発生量の変化を示したグラフである。 図7は、実施例における換気回数Nの推定値を示したグラフである。 図8は、実施例における推定値を用いて夜間の純光合成速度Pnを確認した結果を示したグラフである。 図9は、環境測定装置を温室内のみに配設した態様を示した図である。
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、さらに詳細に説明する。本実施形態に係る温室内環境推定装置1は、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレットやスマートフォンなどの携帯端末等を含むコンピュータ(なお、本明細書の「コンピュータ」には、後述のコンピュータプログラムが設定されたマイクロコンピュータによって制御される専用の制御装置等も含む)から構成され、温室外部に配置された環境測定装置2、温室内部に配置された環境測定装置3からの情報を通信機能を介して受信可能となっている。なお、温室外部に配置された環境測定装置2は、温室外部の温度、湿度、二酸化炭素濃度等を所定の定められた時間に測定する機能を有する。温室内部に配置された環境測定装置3は、温室内部の温度、湿度、二酸化炭素濃度のほか、換気窓を開閉する窓開閉装置4、暖房機5、二酸化炭素(CO)施用機6からの制御情報(ON/OFF信号、稼動時間など)を取得可能となっている。
温室内環境推定装置1は、図2に示したように、その記憶部(当該コンピュータ(温室内環境推定装置1)の内蔵のハードディスク等の記録媒体のほか、リムーバブルの各種記録媒体、通信手段で接続された他のコンピュータの記録媒体等も含む)1aに、推定部11として機能する手順を実行させるコンピュータプログラムが記憶されている。
なお、コンピュータプログラムは、記録媒体に記憶させて提供することができる。コンピュータプログラムを記憶した記録媒体は、非一過性の記録媒体であっても良い。非一過性の記録媒体は特に限定されないが、例えば フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO(光磁気ディスク)、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体が挙げられる。また、通信回線を通じてコンピュータプログラムをコンピュータに伝送してインストールすることも可能である。
次に、推定部11として機能させるコンピュータプログラムについて詳細に説明する。このコンピュータプログラムは、トレーサーガス濃度を求める次式:
Figure 2021114968
(但し、Cin,Coutは温室の内部及び外部のトレーサーガスの濃度、tは時間、Nは換気回数、Mはトレーサーガス発生量、Vは温室の容積、Pは温室内植物の光合成量である)
に、状態空間モデルを適用して、温室内の二酸化炭素発生量を推定する。
上記のうち、Cin、Mは温室内部に設置された環境測定装置3から取得でき、Coutは温室外部に設置された環境測定装置2から取得できる。また、換気回数とは、換気窓の開閉や換気ファン等による換気量が温室内の容積と同じ量生じる毎に1回とカウントした場合の1時間当たりの回数である。
換気回数Nは式(1)で光合成量P=0となる光合成のない時間帯を利用して、トレーサーガス発生量Mの値が分かっている場合にCinとCoutの濃度変化から調べることが出来る。
植物の呼吸量を知ることは、光合成量などの植物生理の解明に重要である。式(1)において光合成量P=0となる光合成のない時間帯で温室の換気回数Nが分かっている場合に、植物の呼吸から出る二酸化炭素発生量をトレーサーガス発生量Mとみなす事で植物の呼吸量を求めることが出来る。以上のようなNやMを求める方法が一般的なトレーサーガス法である。ただし、一般的なトレーサーガス法では測定時間中にNもしくはMが変化しないことを仮定していたり、dc/dtが0であること仮定していたりしていることを注意しなくてはならない。
温室内の二酸化炭素の発生源は植物だけではない。燃焼系の暖房機、二酸化炭素施用機等から温室内に二酸化炭素が供給される。植物へのストレス防止のため、通常の栽培環境を維持した温室内環境、すなわち、暖房機5や二酸化炭素施用機(CO施用機)6等の稼動、窓開閉装置4による換気窓の開閉等を通常の栽培条件に従って制御を実施しつつ植物の呼吸量を推定するには、二酸化炭素濃度に大きな影響を及ぼす暖房機5等の稼動時間の変化、換気回数の変化等がノイズとなり、従来の一般的なトレーサーガス法による呼吸量の推定は困難となる。
そこで、本実施形態では、上記式(1)に状態空間モデルを適用し、植物にとって適する環境下を維持するための暖房機5等の稼動時間の調整や換気回数等の調整により、それらが変化する環境下であっても、温室内の二酸化炭素発生量や換気回数の推定を正確にでき、それにより、植物の呼吸量の推定も高い精度で行うことを可能としたものである。
推定部11として機能させるコンピュータプログラムは、状態空間モデルとして、次の式(2a),(2b)の状態方程式及び観測方程式で示されるカルマンフィルタを実行する。
Figure 2021114968
Figure 2021114968
ΔCは、環境測定装置2,3から取得される温室の内部及び外部のトレーサーガスの濃度差である。ωはプロセスノイズ、νは観測ノイズである。ω,νはいずれもゼロを平均とするホワイトノイズを仮定している。各ノイズの上付き文字は関連する値を表している。
大まかなトレーサーガス発生量(二酸化炭素発生量)Mの変化は、暖房機5及び二酸化炭素施用機6からの温室内への平均的な推定放出量と稼働状況から次式(3)により求められる。
Figure 2021114968
Sは植物の呼吸量である。pは単位時間中に暖房機5若しくは二酸化炭素施用機6が稼動していた時間の割合である。平均的な推定発生量は、カタログ値を調べて用いることができるが、一般的なトレーサーガス法を利用して事前に実測して調べておくこともできる。暖房機5及び二酸化炭素施用機6が稼動していない時間帯のMは植物の呼吸量Sとなる。なお、呼吸量Sも事前に一般的なトレーサーガス法から大凡の量を調べておくこともできる。
トレーサーガス発生量(二酸化炭素発生量)Mの値が変化する様子は式(3)のように大まかにしか分からないとしても、換気回数Nの推定に大きな影響があるので重要な情報である。そこで、トレーサーガス濃度(二酸化炭素濃度)C、トレーサーガス発生量(二酸化炭素発生量)M及び換気回数Nが相互に関連した動態モデルを考える。
式(2)をトレーサーガス発生量(二酸化炭素発生量)Mの変化を考慮してマトリックス表示すると、次の式(4a),(4b)となる。
Figure 2021114968
Figure 2021114968
さらに換気回数Nの変化も考え、離散的な表記にすると以下のようになる。
Figure 2021114968
Figure 2021114968
ここで、
Figure 2021114968
である。
δtは測定時間間隔である。
以上を踏まえ、式(5a)、(5b)をベクトルを使って簡単化すると、
Figure 2021114968
Figure 2021114968
となる。ここでxは時点kにおける状態ベクトル、zは時点kにおける観測ベクトルであり、状態ベクトルが真の状態を表し、観測ベクトルがノイズを含んだ実際に観測した値を表す。
状態ベクトルxは前の時点(前回)の状態ベクトルxk−1を引数とした関数Fにプロセスノイズが足されることで生成される。状態ベクトルのすべて観測できるとは限らないため、観測行列Hをかけて観測できるもののみを表現し、そこに観測ノイズが追加されることで観測ベクトルになる。プロセスノイズωと観測ノイズνはそれぞれ共分散行列R,Vで書き直すことができ、ノイズが平均0でガウス分布に従うとならば、
Figure 2021114968
と表現される。
カルマンフィルタのアルゴリズムは主に2つのステージに分かれている。 xの予測部分と、zの観測後のxの更新部分である。予測部分はまず、前の時点(前回)の状態ベクトルの最終推定値から今回の状態ベクトルの推定値を推定する。
この推定値はk−1の時点(前回)からkの時点(今回)を推定しており、式(7a)のノイズがない状態で考えると、次式で表せる。
Figure 2021114968
次に状態ベクトルの推定値から観測ベクトルの今回の推定値を推定すると、式(7b)のノイズがない状態で考えると、次式で表せる。
Figure 2021114968
上記の式(8)、(9)が予測部分である。
次に、観測ベクトルzを得られたことにより更新されるxについて説明する。
観測ベクトルの推定値とzの差を観測推定値の誤差εとする。
Figure 2021114968
良い推定をするにはこの誤差はできる限り小さくする必要がある。前回の値より得られた状態ベクトルの推測値には、誤差に重みKをかけた値を足して補正する形で更新される。
Figure 2021114968
これがzを観測後のxである。重みKがカルマンゲインである。
Figure 2021114968
は観測推定値の誤差の共分散であり、
Figure 2021114968
である。
状態ベクトルの事前推定値の予測誤差の共分散は次式で表せる。
Figure 2021114968
状態ベクトルの事前推定値の予測誤差は、
Figure 2021114968
である。
ここで、上の式を取り扱うには式(7a)の微分表示を考える必要がある。状態遷移行列の微分を下記のように表記する。
Figure 2021114968
これを用いてxを線形近似すると、次のとおりである。
Figure 2021114968
式(16)と(8)を式(15)へと代入すると、
Figure 2021114968
となる。
よって、式(14)は、
Figure 2021114968
となり、前の時点の共分散
Figure 2021114968
を更新することで得られる。
式(9)、(11)及び(17)を用いてP表記すると、
Figure 2021114968
となる。Iは単位行列である。
これら一連の処理をカルマンフィルタという。
次に、上記のカルマンフィルタを適用した推定手順を図3に示したフローチャートに基づいて説明する。温室内環境推定装置1の推定部11は、予め記憶部1aに記憶させたハウスパラメータを読み込む(S1000)。ハウスパラメータは、図4に示したように、温室(ハウス)の容量V、換気回数に換算するための換気用ファンの能力(FAN能力)、暖房機5の連続稼働時の平均二酸化炭素(CO)発生量、燃焼型二酸化炭素(CO)施用機6の連続稼働時の平均二酸化炭素(CO)発生量、植物の平均二酸化炭素(CO)発生量などである。
次に、初期値を読み込む(S1001)。二酸化炭素発生量の初期値は手動で設定しておく必要があるが、あまりにも現実的な値から離れてしまうと計算に悪影響があるため、あらかじめ一般的なトレーサーガス法で求めた二酸化炭素発生量と使うか、暖房機5や二酸化炭素施用機の平均CO2発生量とそれぞれの稼働状況からおおよその二酸化炭素発生量を出して使う。換気回数Nの初期値も同じようにあらかじめ一般的なトレーサーガス法で求めた値を使う。ただし、FAN稼動時はFAN能力により決める。2回目以降の計算は前回の最終推定値をそれぞれ用いればよい。最終推定値は図4の予測データのデータ群に記憶されている。前回のデータを用い、式(8)による状態ベクトルの推定値と、式(9)による観測ベクトルの推定値を求める(S1002)。環境測定装置2,3から観測データを読み込み、図4に示したように記憶部1aに記憶させると共に、観測データを用いて、温度補正、誤差補正等を行う(S1003)。
次に、暖房機5及び二酸化炭素施用機6の連続稼働時における平均二酸化炭素(CO)発生量、植物の平均二酸化炭素(CO)発生量、暖房機5の稼動時間(ON・OFF時間)を用いて、式(3)より、不確かな平均二酸化炭素(CO)発生量を求める(S1004)。次に、環境測定装置2,3から得られる現時点(今回)の観測データの温室内外のCO濃度差ΔCと、不確かな平均二酸化炭素(CO)発生量Mを用いて、式(10)により予測誤差を求める(S1005)。以降、カルマンゲインを求め、式(11)から(18)により予測データを修正し、現時点(今回)の最終推定値を求める(S1006)。これにより、温室内の現時点(今回)のトレーサーガス発生量(二酸化炭素発生量)と換気回数が求められ、図4に示した予測データのデータ群が更新される。暖房機5や二酸化炭素施用機6の稼動していない時間の二酸化炭素の発生量の推定値より植物の呼吸量の推定値も得られる。
(実施例)
次に、本実施形態の温室内環境推定装置1を用いて行った温室内環境推定の事例を説明する。
データを取得したハウス(温室)の体積Vは382[m]、データ取得の最小時間間隔tは1/60[h]である。カルマンフィルタのパラメーターはプロセスノイズ{ω,ω,ωは、それぞれ、{0.1[ppm],0.01[m/h],10[1/h]とし、観測ノイズ{ν,ν,νは、それぞれ
Figure 2021114968
とした。換気回数の初期値N=7[1/h]、暖房機5による平均のCO発生量0.075[m/h](カタログ値)とし、植物の暗呼吸量S=0.08[m/h](過去のデータに基づいた仮の値)とした。
処理した結果、以下のようになった。なお、昼間(7時30分から17時30分)は、植物による光合成のため測定対象外である。図5は、温室の内部と外部の二酸化炭素(CO)濃度差の観測値と推定値を示したグラフである。図5より、環境測定装置2,3の観測値と、推定部11の出力結果である推定値とはよく近似し、推定精度が高いことがわかる。
図6は、二酸化炭素(CO)発生量の変化を示したグラフである。式(3)で求めた不確かなCO発生量Mに対し、推定部11の出力結果である推定値を示している。また、暖房機5の稼働状況(上昇時ON、下降時OFF)も合わせて示している。暖房は11月30日、0時から7時30分頃まで断続的にON/OFFを繰り返している。朝方に暖房のONの頻度が増えるが、式(3)により得られるMでは瞬間的に値の増減を繰り返すため、増加している様子は分かりづらいが、推定部11で推定されるMは増加の様子が良く分かる。11月30日、17時30分頃から23時30分頃は暖房機5はOFFになっており、その間は、植物による呼吸が主となり、推測値はほぼ植物の呼吸量に一致していると考えられる。これにより、植物の呼吸量も推定できる。
図7は、推定部11により推定された換気回数Nの推定値である。図7より、18時以降、換気回数が徐々に増えているのが確認できる。
比較のため、暖房がOFFになっている11月30日、21時から24時までのデータを一般的なトレーサーガス法を使用して解析した。その結果、トレーサーガス発生量(二酸化炭素発生量)はM=0.071[m/h]であった、換気回数は、N=1.67[1/h]であった。それぞれ、比較値として図6及び図7に示すが、一般的なトレーサーガス法を利用した場合には、測定時間内で平均した推定値1つしか得られない。本実施形態の推定部11におけるカルマンフィルタは逐次推定を行えるので実際の変化をよく表していると言える。
得られたトレーサーガス発生量(二酸化炭素発生量)Mと、換気回数Nに不整合がないか確認するため、得られた値を使って式(1)から夜間の純光合成速度Pnを確認し、その結果を図8に示した。不整合がなければ光合成の値はおよそゼロ付近になるはずであるが、計算の結果、純光合成速度Pnがほぼゼロ付近になっていることがわかる。
以上より、カルマンフィルタによる解析は逐次変化するトレーサーガス発生量(二酸化炭素発生量)を推定でき、それに伴って同じく逐次変化する換気回数も推定できる。また、光合成のない夜間においては、暖房機5等の稼動が止まっている時間を利用して植物の呼吸量も推定できる。よって、燃焼式の暖房機5や二酸化炭素施用機6のような不確かなCO発生量しかわからない状況でもそれらの推定を高い精度で行うことができることがわかる。
なお、上記実施形態では、温室の外部と温室の内部に、それぞれ環境測定装置2,3を設けているが、例えば、図9に示したように、ポンプ及び切り替え装置7を設け、切り替えることによって、外部の気体を取り込んで、内部に設置した環境測定装置3に送ることができる構成とし、内部に設置した環境測定装置3のみによって、温室内外の温度、湿度などの観測を行うことができる構成とすることもできる。
また、本発明の状態空間モデルは、上記したカルマンフィルタが取り扱い上便利であるが、これに限定されるものではない。例えば、上記説明における式(4)から(18)で記載した非線形を扱う方法は、拡張カルマンフィルタと呼ばれる方式のものであるが、非線形を扱う他の方法、例えばアンセンテッドカルマンフィルタを用いることも可能である。さらに、カルマンフィルタではなく、粒子フィルタなどの同じく状態空間モデルを適用することも可能である。
また、例えば式(1)で求める推定値を複数のセンサからのデータを用いて求め、その推定値にカルマンフィルタを相補的に適用することで推定値の精度を上げることができる。例えば、差圧センサのデータを用いて式(1)のNを求めることができ、トレーサーガス発生量を利用して求めたNと補完し合うことで精度を上げることができる。
また、本発明では上記のように、トレーサーガス発生量(二酸化炭素発生量)や換気回数の時系列変化を正確に推定できるため、例えば、天窓の開閉量を二酸化炭素量にあわせて変化させたり、換気量が多いため二酸化炭素の施用を停止したりといった制御につなげることももちろん可能である。
1 温室内環境推定装置
1a 記憶部
11 推定部
2,3 環境測定装置
4 窓開閉装置
5 暖房機
6 二酸化炭素施用機(CO施用機)
7 ポンプおよび切替え装置

Claims (12)

  1. トレーサーガス濃度を求める次式:
    Figure 2021114968
    (但し、Cin,Coutは温室の内部及び外部のトレーサーガスの濃度、tは時間、Nは換気回数、Mはトレーサーガス発生量、Vは温室の容積、Pは温室内植物の光合成量である)
    に、状態空間モデルを適用し、
    前記トレーサーガスを温室内の二酸化炭素とし、前記温室内の二酸化炭素発生量及び換気回数のいずれか少なくとも一方を推定することを特徴とする温室内環境推定方法。
  2. 前記状態空間モデルとして、カルマンフィルタを適用し、
    前回の二酸化炭素発生量の最終推定値からプロセスノイズを加味した状態方程式により得られる今回の二酸化炭素発生量の状態推定値と、
    前記温室に付設される環境測定装置の観測値に観測ノイズを加味した観測方程式より得られる今回の二酸化炭素発生量の観測推定値と
    に、カルマンゲインを適用し、前記温室内の二酸化炭素発生量に関する今回の最終推定値を求める請求項1記載の温室内環境推定方法。
  3. さらに、前記温室内の二酸化炭素発生量の推定値から、植物の呼吸量を推定する請求項1又は2記載の温室内環境推定方法。
  4. 前記状態空間モデルとして、カルマンフィルタを適用し、
    前回の換気回数の最終推定値からプロセスノイズを加味した状態方程式により得られる今回の換気回数の状態推定値と、
    前記温室に付設される環境測定装置の観測値に観測ノイズを加味した観測方程式より得られる今回の換気回数の観測推定値と
    に、カルマンゲインを適用し、前記温室内の換気回数に関する今回の最終推定値を求める請求項1記載の温室内環境推定方法。
  5. 温室内の二酸化炭素発生量を推定する温室内環境推定装置であって、
    トレーサーガス濃度を求める次式:
    Figure 2021114968
    (但し、Cin,Coutは温室の内部及び外部のトレーサーガスの濃度、tは時間、Nは換気回数、Mはトレーサーガス発生量、Vは温室の容積、Pは温室内植物の光合成量である)
    に、状態空間モデルを適用し、
    前記トレーサーガスを温室内の二酸化炭素とし、前記温室内の二酸化炭素発生量及び換気回数のいずれか少なくとも一方を推定する推定部を有することを特徴とする温室内環境推定装置。
  6. 前記推定部は、
    前記状態空間モデルとして、カルマンフィルタを適用し、
    前回の二酸化炭素発生量の最終推定値からプロセスノイズを加味した状態方程式により得られる今回の二酸化炭素発生量の状態推定値と、
    前記温室に付設される環境測定装置の観測値に観測ノイズを加味した観測方程式より得られる今回の二酸化炭素発生量の観測推定値と
    に、カルマンゲインを適用し、前記温室内の二酸化炭素発生量に関する今回の最終推定値を求める請求項5記載の温室内環境推定装置。
  7. さらに、前記温室内の二酸化炭素発生量の推定値から、植物の呼吸量を推定する請求項5又は6記載の温室内環境推定装置。
  8. 前記推定部は、
    前記状態空間モデルとして、カルマンフィルタを適用し、
    前回の換気回数の最終推定値からプロセスノイズを加味した状態方程式により得られる今回の換気回数の状態推定値と、
    前記温室に付設される環境測定装置の観測値に観測ノイズを加味した観測方程式より得られる今回の換気回数の観測推定値と
    に、カルマンゲインを適用し、前記温室内の換気回数に関する今回の最終推定値を求める請求項5記載の温室内環境推定装置。
  9. コンピュータを、温室内の二酸化炭素発生量を推定する温室内環境推定装置として機能させるコンピュータプログラムであって、
    トレーサーガス濃度を求める次式:
    Figure 2021114968
    (但し、Cin,Coutは温室の内部及び外部のトレーサーガスの濃度、tは時間、Nは換気回数、Mはトレーサーガス発生量、Vは温室の容積、Pは温室内植物の光合成量である)
    に、状態空間モデルを適用し、
    前記トレーサーガスを温室内の二酸化炭素とし、前記温室内の二酸化炭素発生量及び換気回数のいずれか少なくとも一方を推定する手順を前記コンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
  10. 前記手順は、
    前記状態空間モデルとして、カルマンフィルタを適用し、
    前回の二酸化炭素発生量の最終推定値からプロセスノイズを加味した状態方程式により得られる今回の二酸化炭素発生量の状態推定値と、
    前記温室に付設される環境測定装置の観測値に観測ノイズを加味した観測方程式より得られる今回の二酸化炭素発生量の観測推定値と
    に、カルマンゲインを適用し、前記温室内の二酸化炭素発生量に関する今回の最終推定値を求める請求項9記載のコンピュータプログラム。
  11. さらに、前記温室内の二酸化炭素発生量の推定値から、植物の呼吸量を推定する請求項9又は10記載のコンピュータプログラム。
  12. 前記手順は、
    前記状態空間モデルとして、カルマンフィルタを適用し、
    前回の換気回数の最終推定値からプロセスノイズを加味した状態方程式により得られる今回の換気回数の状態推定値と、
    前記温室に付設される環境測定装置の観測値に観測ノイズを加味した観測方程式より得られる今回の換気回数の観測推定値と
    に、カルマンゲインを適用し、前記温室内の換気回数に関する今回の最終推定値を求める請求項9記載のコンピュータプログラム。
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