JP2021097217A - 磁気抵抗効果素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】磁歪を低減できる磁気抵抗効果素子を提供する。【解決手段】この磁気抵抗効果素子は、第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間にある非磁性層と、を備え、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とのうち少なくとも一方は、結晶領域とアモルファス領域とを有するホイスラー合金層を有する。【選択図】図1
Description
本発明は、磁気抵抗効果素子に関する。
磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果により積層方向の抵抗値が変化する素子である。磁気抵抗効果素子は、2つの強磁性層とこれらに挟まれた非磁性層とを備える。非磁性層に導体が用いられた磁気抵抗効果素子は、巨大磁気抵抗(GMR)素子と言われ、非磁性層に絶縁層(トンネルバリア層、バリア層)が用いられた磁気抵抗効果素子は、トンネル磁気抵抗(TMR)素子と言われる。磁気抵抗効果素子は、磁気センサ、高周波部品、磁気ヘッド及び不揮発性ランダムアクセスメモリ(MRAM)等の様々な用途への応用が可能である。
特許文献1には、ホイスラー合金層とCo系アモルファス金属層とを有する磁気リード・ヘッドが記載されている。特許文献1には、Co系アモルファス金属層が磁気抵抗効果素子に生じる磁歪を低減することが記載され、ホイスラー合金層とCo系アモルファス金属層とが磁気的に結合することで高いMR比を実現できることが記載されている。磁歪は、磁気リード・ヘッドのノイズの原因である。
しかしながら、特許文献1に記載の磁気リード・ヘッドは、磁化自由層がホイスラー合金層とCo系アモルファス金属層という異なる2層の積層体からなる。異なる層が積層されると、これらの層の界面において原子拡散等が生じる。例えば、他の層からホイスラー合金にボロン等が拡散すると、ホイスラー合金のスピン分極率が低下し、磁気抵抗効果素子のMR比が低下する。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、磁歪を低減できる磁気抵抗効果素子を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
(1)第1の態様にかかる磁気抵抗効果素子は、第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間にある非磁性層と、を備え、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とのうち少なくとも一方は、結晶領域とアモルファス領域とを有するホイスラー合金層を有する。
(2)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記ホイスラー合金層は、前記結晶領域と前記アモルファス領域とが混在していてもよい。
(3)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記ホイスラー合金層のうち前記非磁性層に接する第1界面は、前記結晶領域の割合が前記アモルファス領域の割合より多くてもよい。
(4)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記ホイスラー合金層のうち前記非磁性層に接する第1界面は、前記結晶領域からなってもよい。
(5)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記第1強磁性層が磁化固定層であり、前記第2強磁性層が磁化自由層であり、前記第2強磁性層が前記ホイスラー合金層を有してもよい。
(6)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記第1強磁性層が磁化固定層であり、前記第2強磁性層が磁化自由層であり、前記第1強磁性層及び前記第2強磁性層がいずれも前記ホイスラー合金層を有し、前記第1強磁性層における前記ホイスラー合金層は、前記第2強磁性層における前記ホイスラー合金層より前記結晶領域の割合が多くてもよい。
(7)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、基板をさらに有し、前記第1強磁性層は、前記第2強磁性層より前記基板の近くにあってもよい。
(8)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記結晶領域は複数の結晶粒からなり、前記複数の結晶粒のうち少なくとも一つの結晶粒の結晶軸の方向は、他の結晶粒の結晶軸の方向と異なってもよい。
(9)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記ホイスラー合金層のうち前記非磁性層に接する第1界面は、前記第1界面と反対側の第2界面より前記結晶領域の割合が多くてもよい。
(10)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記第1界面から前記第2界面に向かうにつれて、前記結晶領域の割合が減少してもよい。
(11)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記ホイスラー合金層を構成するホイスラー合金は、Co2YαZβで表記され、前記Yは、Fe、Mn、Crからなる群から選択された1種以上の元素であり、前記Zは、Si、Al、Ga、Geからなる群から選択された1種以上の元素であり、α+β>2を満たしてもよい。
(12)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子は、第3強磁性層をさらに備え、前記第3強磁性層は、前記ホイスラー合金層の前記非磁性層と対向する面と反対側の面に接し、前記第3強磁性層は、Co−Fe−B−A合金を含み、前記第3強磁性層に含まれるA元素は、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Auからなる群から選択されるいずれか1つ以上の元素であってもよい。
(13)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記第3強磁性層は、少なくとも一部が結晶化しており、前記第3強磁性層の結晶領域の少なくとも一部は、前記ホイスラー合金層の結晶領域と格子整合していてもよい。
(14)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子は、第4強磁性層をさらに備え、前記第4強磁性層は、前記ホイスラー合金層と前記非磁性層との間にあり、前記第4強磁性層は、Co−Fe−B−A合金を含み、前記第4強磁性層に含まれるA元素は、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Auからなる群から選択されるいずれか1つ以上の元素であってもよい。
(15)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記第4強磁性層の膜厚は、前記第4強磁性層を構成する材料のスピン拡散長以下であってもよい。
(16)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子は、第2非磁性層をさらに備え、前記第2非磁性層は、前記第3強磁性層の前記非磁性層と対向する面と反対側の面に接し、前記第2非磁性層は、Bと、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Auからなる群から選択されるいずれかの元素と、を含んでもよい。
本発明に係る磁気抵抗効果素子は、磁歪が低減されている。
以下、本実施形態について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本実施形態の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
「第1実施形態」
図1は、第1実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面図である。まず方向について定義する。各層が積層されている方向を、積層方向という場合がある。また積層方向と交差し、各層が広がる方向を面内方向という場合がある。
図1は、第1実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面図である。まず方向について定義する。各層が積層されている方向を、積層方向という場合がある。また積層方向と交差し、各層が広がる方向を面内方向という場合がある。
図1に示す磁気抵抗効果素子10は、第1強磁性層1と第2強磁性層2と非磁性層3とを備える。非磁性層3は、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間にある。以下、第1強磁性層1及び第2強磁性層2のそれぞれを区別しない場合に、単に強磁性層という場合がある。
磁気抵抗効果素子10は、第1強磁性層1の磁化と第2強磁性層2の磁化の相対角の変化を抵抗値変化として出力する。第2強磁性層2の磁化は、例えば、第1強磁性層1の磁化より動きやすい。所定の外力を加えた場合に、第1強磁性層1の磁化の向きは変化せず(固定され)、第2強磁性層2の磁化の向きは変化する。第1強磁性層1の磁化の向きに対して第2強磁性層2の磁化の向きが変化することで、磁気抵抗効果素子10の抵抗値は変化する。この場合、第1強磁性層1は磁化固定層と言われ、第2強磁性層2は磁化自由層と言われる場合がある。第1強磁性層1は、磁化の安定性を高めるために、第2強磁性層2より下地となる基板側にあることが好ましい。
以下、第1強磁性層1が磁化固定層、第2強磁性層2が磁化自由層として説明するが、この関係は逆でもよい。また磁気抵抗効果素子10は、第1強磁性層1の磁化と第2強磁性層2の磁化の相対角の変化を抵抗値変化として出力するため、第1強磁性層1の磁化と第2強磁性層2の磁化がいずれも動く構成(すなわち、第1強磁性層1と第2強磁性層2がいずれも磁化自由層)でもよい。
所定の外力を印加した際の第1強磁性層1の磁化と第2強磁性層2の磁化との動きやすさの差は、第1強磁性層1と第2強磁性層2との保磁力の違いにより生じる。例えば、第2強磁性層2の厚みを第1強磁性層1の厚みより薄くすると、第2強磁性層2の保磁力が第1強磁性層1の保磁力より小さくなる。また例えば、第1強磁性層1の非磁性層3と反対側の面に、スペーサ層を介して、反強磁性層を設けてもよい。第1強磁性層1、スペーサ層、反強磁性層は、シンセティック反強磁性構造(SAF構造)となる。シンセティック反強磁性構造は、スペーサ層を挟む2つの磁性層からなる。第1強磁性層1と反強磁性層とが反強磁性カップリングすることで、反強磁性層を有さない場合より第1強磁性層1の保磁力が大きくなる。反強磁性層は、例えば、IrMn,PtMn等である。スペーサ層は、例えば、Ru、Ir、Rhからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む。
第1強磁性層1及び第2強磁性層2は、強磁性体を含む。図1に示す磁気抵抗効果素子10の第1強磁性層1は、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群より選ばれる金属、これらの金属を一以上の含む合金、これらの金属とB、C及びNのうち少なくとも一種の元素とが含まれる合金を含む。例えば、第1強磁性層1は、Co−Fe、Co−Fe−Bである。第1強磁性層1は、ホイスラー合金からなってもよい。
図1に示す磁気抵抗効果素子10は、第2強磁性層2(磁化自由層)がホイスラー合金を含むホイスラー合金層を含む。ホイスラー合金層は、例えばホイスラー合金からなる。また第2強磁性層2は、例えば、ホイスラー合金層からなる。
ホイスラー合金は、XYZまたはX2YZの化学組成をもつ金属間化合物である。X2YZで表記される強磁性のホイスラー合金は、フルホイスラー合金と言われ、XYZで表記される強磁性のホイスラー合金は、ハーフホイスラー合金と言われる。ハーフホイスラー合金は、フルホイスラー合金のXサイトの原子の一部が空格子となったものである。いずれも、典型的には、bcc構造を基本とした金属間化合物である。
図2は、ホイスラー合金の結晶構造の一例である。図2(a)〜(c)は、フルホイスラー合金の結晶構造の一例であり、図2(d)〜(f)は、ハーフホイスラー合金の結晶構造の一例である。
図2(a)は、L21構造と言われる。L21構造は、Xサイトに入る元素、Yサイトに入る元素、及び、Zサイトに入る元素が固定されている。図2(b)は、L21構造由来のB2構造と言われる。B2構造は、Yサイトに入る元素とZサイトに入る元素とが混在し、Xサイトに入る元素が固定されている。図2(c)は、L21構造由来のA2構造と言われる。A2構造は、Xサイトに入る元素とYサイトに入る元素とZサイトに入る元素とが混在している。
図2(d)は、C1b構造と言われる。C1b構造は、Xサイトに入る元素、Yサイトに入る元素、及び、Zサイトに入る元素が固定されている。図2(e)は、C1b構造由来のB2構造と言われる。B2構造は、Yサイトに入る元素とZサイトに入る元素とが混在し、Xサイトに入る元素が固定されている。図2(f)は、C1b構造由来のA2構造と言われる。A2構造は、Xサイトに入る元素とYサイトに入る元素とZサイトに入る元素とが混在している。
フルホイスラー合金においてはL21構造>B2構造>A2構造の順に結晶性が高く、ハーフホイスラー合金においてはC1b構造>B2構造>A2構造の順に、結晶性が高い。これらの結晶構造は結晶性の良さに違いはあるが、いずれも結晶である。アモルファスのホイスラー合金は、上記のいずれの結晶構造も確認されないが、化学量論組成式がXYZまたはX2YZを満たす。
ここでXは周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、YはMn、V、CrあるいはTi族の遷移金属又はXの元素種であり、ZはIII族からV族の典型元素である。フルホイスラー合金は、例えば、Co2FeSi、Co2FeGe、Co2FeGa、Co2FeAl、Co2FeGexGa1−x、Co2MnGexGa1−x、Co2MnSi、Co2MnGe、Co2MnGa、Co2MnSn、Co2MnAl、Co2CrAl、Co2VAl、Co2Mn1−aFeaAlbSi1−b等である。ハーフホイスラー合金は、例えば、NiMnSe、NiMnTe、NiMnSb、PtMnSb、PdMnSb、CoFeSb、NiFeSb、RhMnSb、CoMnSb、IrMnSb、NiCrSbである。
ホイスラー合金層に含まれるホイスラー合金は、例えば、Co2YαZβで表記される。Yは、例えば、Fe、Mn、Crからなる群から選択された1種以上の元素であり、Zは、例えば、Si、Al、Ga、Geからなる群から選択された1種以上の元素であり、α+β>2を満たす。Yは、Feが特に好ましい。αは、例えば、0.5<α<1.9であり、好ましくは0.8<α<1.33であり、より好ましくは0.9<α<1.2である。βは、例えば、α<β<2αであり、α<β<1.5αである。
化学量論組成のフルホイスラー合金は、Co2YZで表記される。α+β>2を満たすと、Co組成比がYサイトの元素より相対的に少なくなる。Co組成比がYサイトの元素より相対的に少ないと、Yサイトの元素がXサイト(Coが入るサイト)の元素と置換されるアンチサイトを避けることができる。アンチサイトは、ホイスラー合金のフェルミレベルを変動させる。フェルミレベルが変動すると、ホイスラー合金のハーフメタル性が低下し、スピン分極率が低下する。スピン分極率の低下は、磁気抵抗効果素子10のMR比の低下の原因となる。
また、α+β>2.3を満たすことが更に好ましい。α+β>2.3を満たすことで、Co組成比がYサイトの元素より更に相対的に少なくなる。Co組成比がYサイトの元素より更に相対的に少ないと、Yサイトの元素がXサイト(Coが入るサイト)の元素と置換されるアンチサイトを更に避けることができる。アンチサイトは、ホイスラー合金のフェルミレベルを変動させる。フェルミレベルが変動すると、ホイスラー合金のハーフメタル性が低下し、スピン分極率が低下する。スピン分極率の低下は、磁気抵抗効果素子10のMR比の低下の原因となる。
ホイスラー合金層は、結晶領域とアモルファス領域とを有する。ホイスラー合金層は、例えば、結晶領域とアモルファス領域とが混在している。結晶領域及びアモルファス領域は、一部が層状に存在してもよい。ホイスラー合金層は、結晶領域がアモルファス領域内に点在していてもよいし、アモルファス領域が結晶領域内に点在していてもよい。
結晶領域は、原子が規則的に配列された結晶構造を有する領域である。アモルファス領域は、原子の規則的な配列が確認されない領域である。結晶領域は、例えば、複数の結晶粒からなってもよい。複数の結晶粒のうち少なくとも一つの結晶粒の結晶軸の方向は、例えば、他の結晶粒の結晶軸の方向と異なる。また例えば、複数の結晶粒のそれぞれの結晶軸の方向が異なってもよい。結晶粒界では粒界抵抗が生じるため、結晶領域が複数の結晶粒からなるとホイスラー合金層全体の抵抗値が増加する。強磁性層の抵抗が増加すると、磁気抵抗効果素子のMR比が大きくなる。
ホイスラー合金が結晶化しているか否かは、透過型電子顕微鏡(TEM)像(例えば高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡像:HAADF−STEM像)又は透過型電子線を用いた電子線回折像により判断できる。ホイスラー合金が結晶化していると、例えばTEMで撮影したHAADF−STEM像で原子が規則的に配列している状態が確認できる。より詳細には、HAADF−STEM像のフーリエ変換像に、ホイスラー合金の結晶構造に由来するスポットが現れる。またホイスラー合金が結晶化していると、電子線回折像において(001)面、(002)面、(110)面、(111)面のうち少なくとも一つの面からの回折スポットが確認できる。少なくともいずれかの手段で結晶化が確認できた場合、ホイスラー合金の少なくとも一部が結晶化していると言える。
また、ホイスラー合金の結晶構造は、XRD(X線回折法)、RHEED(反射高速電子回折法)等により測定可能である。例えば、XRDの場合、ホイスラー合金がL21構造の場合、(200)及び(111)ピークを示すが、B2構造の場合、(200)ピークは示すが、(111)ピークは示さない。例えば、RHEEDの場合、ホイスラー合金がL21構造の場合、(200)ストリーク及び(111)ストリークを示すが、B2構造の場合、(200)ストリークは示すが、(111)ストリークは示さない。
磁気抵抗効果素子を構成する各層の組成分析は、エネルギー分散型X線分析(EDS)を用いて行うことができる。また、EDS線分析を行えば、例えば、各材料の膜厚方向の組成分布を確認することができる。
また、ホイスラー合金の組成は、XRF(蛍光X線法)、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法、SIMS(二次イオン質量分析法)、AES(オージェ電子分光法)等により測定可能である。
ホイスラー合金層がアモルファス領域を有すると、強磁性層に生じる磁歪が低減される。磁歪は、強磁性体の磁化の変化により形状に歪みが生じる現象である。磁歪は、磁化の向きの変化によりスピン間の相互作用が変化し、それに伴い、弾性エネルギーが変化することで生じる。磁歪は、一般に結晶性が高いほど大きくなる。アモルファス領域が磁歪を緩和することで、ホイスラー合金層全体の磁歪が低減される。
ホイスラー合金層は、非磁性層3に接する。以下、ホイスラー合金層のうち非磁性層3に接する面を第1界面、第1界面と反対側の面を第2界面と称する。第2強磁性層2がホイスラー合金層からなる場合、第2強磁性層2の第1面2aが第1界面であり、第2面2bが第2界面である。
第1界面は、例えば、結晶領域の割合がアモルファス領域の割合より多く、結晶領域からなってもよい。第1界面における結晶領域とアモルファス領域との割合は、磁気抵抗効果素子10を積層方向に沿って切断した断面のTEM画像から判断する。具体的には、以下の手順で判断する。まず磁気抵抗効果素子10を任意の10か所で切断し、それぞれの第1界面におけるTEM画像をえる。それぞれのTEM画像において、上記の判断基準に従い、結晶領域とアモルファス領域の割合を求める。10枚のTEM画像のうち6枚以上において結晶領域の割合がアモルファス領域の割合より多い場合、第1界面における結晶領域の割合がアモルファス領域の割合より多いとみなす。また10枚のTEM画像全ての第1界面において結晶領域しか確認されない場合は、第1界面が結晶領域からなるとみなす。
第1界面における結晶領域の割合が高まると、磁気抵抗効果素子10のMR比が向上する。磁気抵抗効果素子10のMR比は、第1強磁性層1及び第2強磁性層2のスピン分極率が高いと向上する。ホイスラー合金は、高いスピン分極率を有するという特徴を有する。ホイスラー合金の結晶性が高いほど、ホイスラー合金は理論値に近い高いスピン分極率を示す。非磁性層3に隣接する第1界面の結晶性が高いと、ホイスラー合金の高いスピン分極率が第1界面において維持され、磁気抵抗効果素子10のMR比が向上する。
また結晶領域の抵抗値は、アモルファス領域の抵抗値より低い。磁気抵抗効果素子10のMR比を測定するための読み出し電流は、磁気抵抗効果素子10の積層方向に流れる。結晶領域の割合がアモルファス領域の割合より多い場合、第1界面のうちスピン分極率の高い結晶領域に読み出し電流が集中することで、出力される磁気抵抗効果素子10のMR比が大きくなる。
また第1界面は、例えば、第2界面より結晶領域の割合が高い。例えば、第1界面から第2界面に向かうにつれて結晶領域の割合が減少する。磁気抵抗効果素子10は、非磁性層3を挟む2つの強磁性層の磁化の相対角の違いを抵抗値として出力する。非磁性層3に接する第1界面における磁化の変化が、磁気抵抗効果素子のMR比に与える影響は、非磁性層3から遠い第2界面における磁化の変化より大きい。非磁性層に接する第1界面の結晶性が高い磁気抵抗効果素子10は、フェルミ面近傍におけるスピン分極率が高く、大きなMR比を示す。
第1界面における結晶領域の割合は、上述の10枚のTEM画像のそれぞれの第1界面における結晶領域の割合の平均値であり、第2界面における結晶領域の割合は、上述の10枚のTEM画像のそれぞれの第2界面における結晶領域の割合の平均値である。
非磁性層3は、例えば、非磁性の金属からなる。非磁性層3は、例えば、Cu、Au、Ag、Al、Crからなる群から選択されるいずれかの元素を含む金属又は合金である。非磁性層3は、例えば、主の構成元素としてCu、Au、Ag、Al、Crからなる群より選ばれるいずれかの元素を含む。主の構成元素とは、組成式において、Cu、Au、Ag、Al、Crが占める割合が50%以上となることを意味する。非磁性層3は、Agを含むことが好ましく、主の構成元素としてAgを含むことが好ましい。Agはスピン拡散長が長いため、Agを用いた磁気抵抗効果素子10は、大きなMR比を示す。
非磁性層3は、例えば、厚みが1nm以上10nm以下の範囲内である。非磁性層3は、第1強磁性層1と第2強磁性層2との磁気的な結合を阻害する。
非磁性層3は、絶縁体又は半導体でもよい。非磁性の絶縁体は、例えば、Al2O3、SiO2、MgO、MgAl2O4、およびこれらのAl、Si、Mgの一部がZn、Be等に置換された材料である。これらの材料は、バンドギャップが大きく、絶縁性に優れる。非磁性層3が非磁性の絶縁体からなる場合、非磁性層3はトンネルバリア層である。非磁性の半導体は、例えば、Si、Ge、CuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2等である。
次いで、磁気抵抗効果素子10の製造方法について説明する。図3は、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の製造方法を説明するための模式図である。まず成膜の下地となる基板を準備する。基板は、結晶性を有しても、アモルファスでもよい。結晶性を有する基板としては、例えば、金属酸化物単結晶、シリコン単結晶、サファイア単結晶、セラミックがある。アモルファスの基板としては、例えば、熱酸化膜付シリコン単結晶、ガラス、石英がある。
次いで、基板上に、強磁性層11を成膜する。強磁性層11は、例えば、例えば、スパッタリング法で成膜される。強磁性層11は、第1強磁性層1と同様の材料からなる。強磁性層11は、成膜後にアニールされる。以下、強磁性層11のアニールを第1アニールと称する。第1アニールにより強磁性層11は結晶化し、第1強磁性層1となる。第1アニールの温度は、例えば、300℃より高い温度である。
次いで、強磁性層11の上に、非磁性層13及び強磁性層12Aを成膜する。強磁性層12Aは、成膜後にアニールされる。以下、強磁性層12Aのアニールを第2アニールと称する。第2アニールの温度は、第1アニールの温度より低い。第2アニールの温度は、例えば、300℃である。第2アニールにより強磁性層12Aの一部が結晶化する。第2アニールの温度は第1アニールの温度より低く、強磁性層12Aの中には結晶化しないアモルファスの領域が残る。
次いで、強磁性層12Aの上に、強磁性層12Bを成膜する。強磁性層12Bは、成膜後にアニールされる。以下、強磁性層12Bのアニールを第3アニールと称する。第3アニールの温度は、第2アニールの温度より低い。第3アニールの温度は、例えば、200℃以上300℃未満であり、例えば250℃である。第3アニールにより強磁性層12Bの一部が結晶化する。第3アニールの温度は第2アニールの温度より低く、強磁性層12Bの結晶性は強磁性層12Aの結晶性より低くなる。
上記の手順により、強磁性層11は第1強磁性層1に、非磁性層13は非磁性層3に、強磁性層12A及び強磁性層12Bは第2強磁性層2となり、磁気抵抗効果素子10が作製される。強磁性層12Aの結晶性は強磁性層12Bの結晶性より高く、第1界面における結晶領域の割合は第2界面より高くなる。また第1界面における結晶領域の割合は、第2アニールの温度によって自由に制御できる。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子10は、第2強磁性層2がアモルファス領域を含むホイスラー合金層を有することで、磁歪を低減できる。磁歪は、磁気センサのノイズの原因となるため、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子10によれば、感度の高い磁気センサを得ることができる。また第2強磁性層2は、ホイスラー合金層の中にアモルファス領域が含まれるため、製造時のアニール等により他の層の原子が拡散により侵入してこない。他の層からの原子拡散は、ホイスラー合金のスピン分極率の低下の原因となる。本実施形態に係る磁気抵抗効果素子10は、ホイスラー合金層が高いスピン分極率が示し、大きなMR比を示す。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
上記の磁気抵抗効果素子は、第2強磁性層2のみがホイスラー合金層を有する場合を例示したが、第1強磁性層1がホイスラー合金層を有してもよい。第1強磁性層1がホイスラー合金層からなる場合、第1強磁性層1の第1面1aが第1界面であり、第2面1bが第2界面である。第1面1aは、第1強磁性層1の非磁性層3側の面であり、第2面1bは、第1強磁性層1の第1面1aと反対側の面である。
磁化方向が変化する磁化自由層(第2強磁性層2)は、磁歪が生じやすい。これに対し、磁化方向が変化しにくい磁化固定層(第1強磁性層1)は、磁歪が生じにくい。しかしながら、磁化固定層であっても、まったく磁歪が生じないというわけではない。したがって、第1強磁性層1がホイスラー合金層を有することで、磁気抵抗効果素子10の磁歪は低減する。
また第1強磁性層1及び第2強磁性層2が、いずれもホイスラー合金層を有してもよい。この場合、第1強磁性層1(本実施形態では磁化固定層)におけるホイスラー合金層は、例えば、第2強磁性層(本実施形態では磁化自由層)におけるホイスラー合金層より結晶領域の割合が多いことが好ましい。磁化固定層は、磁化の方向が変化しないため、磁歪が生じにくい。これに対し、磁化自由層は、磁化の方向が変化するため、磁歪が生じやすい。磁歪が生じやすい磁化自由層におけるホイスラー合金層のアモルファス領域の割合を増やすことで、磁歪をアモルファス領域で効率的に緩和し、磁気抵抗効果素子10全体としての磁歪を低減できる。
第1強磁性層1がホイスラー合金層を有する場合は、第1アニールの温度を低く設定することで、第1強磁性層1内にアモルファス領域を形成できる。また強磁性層11を成膜した後に、表面にレーザー等を照射することで、第1強磁性層1の第1界面における結晶領域の割合を増やすことができる。
図4は、第1変形例に係る磁気抵抗効果素子15の断面図である。磁気抵抗効果素子15は、第3強磁性層4をさらに有する点が、磁気抵抗効果素子10と異なる。第3強磁性層4は、ホイスラー合金層の非磁性層3と対向する面と反対側の面に接する。図4は、第2強磁性層2がホイスラー合金層である場合の例であり、第2強磁性層2の非磁性層3と対向する面と反対側の面に、第3強磁性層4がある。また第1強磁性層1がホイスラー合金層の場合は、第1強磁性層1の非磁性層3と対向する面と反対側に第3強磁性層4がある。
第3強磁性層4は、Co−Fe−B−A合金である。Co−Fe−B−Aとは、コバルト、鉄、ボロン、及びA元素を含む合金であればよく、それぞれの組成比は問わない。A元素は、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Auからなる群から選択されるいずれか1つ以上の元素である。A元素は、CoFeBの結晶構造内に侵入していていても、CoFeBの結晶のいずれかの元素と置換されていてもよい。A元素は、Ti、Ru、Taからなる群から選択されるいずれかの元素であることが好ましく、Taであることが特に好ましい。
Co−Fe−B−A合金は、成膜時にアモルファスである。Co−Fe−B−A合金は、成膜後のアニールによって一部結晶化するが、アモルファスの領域を含む。アモルファスの領域を含む第3強磁性層4がホイスラー合金層と接することで、磁気抵抗効果素子15全体での磁歪がより抑制される。
第3強磁性層4のうち結晶化している領域(以下、結晶領域と称する)の少なくとも一部は、例えば、ホイスラー合金層の結晶領域と格子整合している。格子整合するとは、異なる層の界面において、原子が積層方向に連続的に配列していることを意味する。異なる層の界面における格子整合度は、例えば、5%以内である。格子整合度は、一方の層の格子定数を基準とした際の他方の層の格子定数のずれの程度である。第3強磁性層4とホイスラー合金層とが格子整合すると、界面における電子散乱が減少し、磁気抵抗効果素子15の寄生抵抗を下げることができる。
またA元素は、ボロンを引き寄せる性質を有する。A元素のうちTi、Ru、Taは、特にこの性質が強い。第3強磁性層4がA元素を含むと、アニール時に第3強磁性層4中に含まれるボロンが、ホイスラー合金層へ拡散することが抑制される。
図5は、第2変形例に係る磁気抵抗効果素子16の断面図である。磁気抵抗効果素子16は、第4強磁性層5をさらに有する点が、磁気抵抗効果素子15と異なる。第4強磁性層5は、ホイスラー合金層の非磁性層3と対向する面に接する。図5は、第2強磁性層2がホイスラー合金層である場合の例であり、第2強磁性層2と非磁性層3との間に、第4強磁性層5がある。また第1強磁性層1がホイスラー合金層の場合は、第1強磁性層1と非磁性層3との間に第4強磁性層5がある。
第4強磁性層5は、Co−Fe−B−A合金を含み、第3強磁性層4と同様の材料からなる。第4強磁性層5は、ホイスラー合金層と非磁性層3との間の界面抵抗を大きくし、磁気抵抗効果素子16のMR比を大きくする。第4強磁性層5の膜厚は、例えば、第4強磁性層5を構成する材料のスピン拡散長以下である。磁気抵抗効果素子15のMR比は、非磁性層3を挟む2つの強磁性層の磁化の相対角によって決まる。第4強磁性層5の膜厚が厚いと、第4強磁性層5が磁気抵抗効果素子15のMR比に寄与する割合が高まるが、第4強磁性層5が十分薄いことで、スピン分極率が高い第2強磁性層2(ホイスラー合金層)の寄与を高めることができる。
図6は、第3変形例に係る磁気抵抗効果素子17の断面図である。磁気抵抗効果素子17は、第2非磁性層6をさらに有する点が、磁気抵抗効果素子15と異なる。第2非磁性層6は、第3強磁性層4のホイスラー合金層と対向する面と反対側の面に接する。図6は、第2強磁性層2がホイスラー合金層である場合の例であり、第3強磁性層4の第2強磁性層2と反対側の面に第2非磁性層6がある。
第2非磁性層6は、ボロンと、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Auからなる群から選択されるいずれかの元素と、を含む。
Ti、V、Cr、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Auは、上述のA元素と同じである。ただし、第2非磁性層6に含まれるA元素と、第3強磁性層4に含まれるA元素は同じである必要はない。
Ti、V、Cr、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Auは、上述のA元素と同じである。ただし、第2非磁性層6に含まれるA元素と、第3強磁性層4に含まれるA元素は同じである必要はない。
第2非磁性層6は、例えば、非磁性の金属である。第2非磁性層6は、例えば、A元素により構成された金属又は合金に、ボロンが添加されたものである。第2非磁性層6は、好ましくは、A元素のうちTi、Ru、Taからなる群から選択されるいずれかの元素を含む。第2非磁性層6は、例えば、Ti、Ru、Taからなる群から選択されるいずれかの元素を含む金属又は合金に、ボロン又はカーボンが添加されたものである。
第2非磁性層6は、例えば、成膜工程時にはボロンを含まない。つまりアニール工程前の第2非磁性層6は、例えば、A元素の金属又は合金である。上述のようにA元素は、ボロンを引き寄せる性質を有する。第2非磁性層6は、アニール時にA元素がボロンを引き寄せ、ボロンを含有する。
第2非磁性層6は、アニール時にボロンがホイスラー合金層(例えば、第2強磁性層2)及び非磁性層3に拡散することを抑制する。ホイスラー合金層がボロンを含むと、ホイスラー合金層の結晶性が低下し、磁気抵抗効果素子17のMR比が低下する。また非磁性層3がボロンを含むと、非磁性層3の結晶性が低下し、磁気抵抗効果素子17のMR比が低下する。すなわち、第2非磁性層6は、第3強磁性層4に含まれるボロンが、ホイスラー合金層及び非磁性層3に拡散することを防ぎ、磁気抵抗効果素子17のMR比の低下を抑制する。
第1変形例から第3変形例のそれぞれの構成(第3強磁性層4、第4強磁性層5、第2非磁性層6)は、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。また第1強磁性層1及び第2強磁性層2がそれぞれホイスラー合金層を含む場合は、それぞれ2層以上であってもよい。
上記の磁気抵抗効果素子10、15、16、17は、様々な用途に用いることができる。磁気抵抗効果素子10、15,16,17は、例えば、磁気ヘッド、磁気センサ、磁気メモリ、高周波フィルタなどに適用できる。
次に、本実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の適用例について説明する。なお、以下の適用例では、磁気抵抗効果素子として、磁気抵抗効果素子10を用いているが、磁気抵抗効果素子はこれに限定されるものではない。
図7は、適用例1にかかる磁気記録素子100の断面図である。図7は、積層方向に沿って磁気抵抗効果素子10を切断した断面図である。
図7に示すように、磁気記録素子100は、磁気ヘッドMHと磁気記録媒体Wとを有する。図7において、磁気記録媒体Wが延在する一方向をX方向とし、X方向と垂直な方向をY方向とする。XY面は、磁気記録媒体Wの主面と平行である。磁気記録媒体Wと磁気ヘッドMHとを結ぶ方向であって、XY平面に対して垂直な方向をZ方向とする。
磁気ヘッドMHは、エアベアリング面(Air Bearing Surface:媒体対向面)Sが磁気記録媒体Wの表面と対向している。磁気ヘッドMHは、磁気記録媒体Wから一定の距離で離れた位置にて、磁気記録媒体Wの表面に沿って、矢印+Xと矢印−Xの方向に移動する。磁気ヘッドMHは、磁気センサとして作用する磁気抵抗効果素子10と磁気記録部(不図示)とを有する。抵抗測定器21は、磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値を測定する。
磁気記録部は、磁気記録媒体Wの記録層W1に磁場を印加し、記録層W1の磁化の向きを決定する。すなわち、磁気記録部は、磁気記録媒体Wの磁気記録を行う。磁気抵抗効果素子10は、磁気記録部によって書き込まれた記録層W1の磁化の情報を読み取る。
磁気記録媒体Wは、記録層W1と裏打ち層W2とを有する。記録層W1は磁気記録を行う部分であり、裏打ち層W2は書込み用の磁束を再び磁気ヘッドMHに還流させる磁路(磁束の通路)である。記録層W1は、磁気情報を磁化の向きとして記録している。
磁気抵抗効果素子10の第2強磁性層2は、例えば、磁化自由層である。このため、エアベアリング面Sに露出した第2強磁性層2は、対向する磁気記録媒体Wの記録層W1に記録された磁化の影響を受ける。例えば、図7においては、記録層W1の+Z方向に向いた磁化の影響を受けて、第2強磁性層2の磁化の向きが+Z方向を向く。この場合、磁化固定層である第1強磁性層1と第2強磁性層2の磁化の向きが平行となる。
ここで、第1強磁性層1と第2強磁性層2の磁化の向きが平行の場合の抵抗と、第1強磁性層1と第2強磁性層2の磁化の向きが反平行の場合の抵抗とは異なる。平行の場合の抵抗値と反平行の場合の抵抗値の差が大きいほど、磁気抵抗効果素子10のMR比は大きくなる。本実施形態に係る磁気抵抗効果素子10は、結晶化したホイスラー合金を含み、MR比が大きい。したがって、抵抗測定器21によって、記録層W1の磁化の情報を抵抗値変化として正確に読み出すことができる。
磁気ヘッドMHの磁気抵抗効果素子10の形状は特に制限はない。例えば、磁気抵抗効果素子10の第1強磁性層1に対する磁気記録媒体Wの漏れ磁場の影響を避けるために、第1強磁性層1を磁気記録媒体Wから離れた位置に設置してもよい。
図8は、適用例2にかかる磁気記録素子101の断面図である。図8は、積層方向に沿って磁気記録素子101を切断した断面図である。
図8に示すように、磁気記録素子101は、磁気抵抗効果素子10と電源22と測定部23とを有する。電源22は、磁気抵抗効果素子10の積層方向に電位差を与える。電源22は、例えば、直流電源である。測定部23は、磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値を測定する。
電源22により第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に電位差が生じると、磁気抵抗効果素子10の積層方向に電流が流れる。電流は、第1強磁性層1を通過する際にスピン偏極し、スピン偏極電流となる。スピン偏極電流は、非磁性層3を介して、第2強磁性層2に至る。第2強磁性層2の磁化は、スピン偏極電流によるスピントランスファートルク(STT)を受けて磁化反転する。第1強磁性層1の磁化の向きと第2強磁性層2の磁化の向きとの相対角が変化することで、磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値が変化する。磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値は、測定部23で読み出される。すなわち、図8に示す磁気記録素子101は、スピントランスファートルク(STT)型の磁気記録素子である。
図8に示す磁気記録素子101は、第2強磁性層2がアモルファスのホイスラー合金を含み、磁歪が低減されているため、データの安定性に優れる。
図9は、適用例3にかかる磁気記録素子102の断面図である。図9は、積層方向に沿って磁気記録素子102を切断した断面図である。
図9に示すように、磁気記録素子102は、磁気抵抗効果素子10とスピン軌道トルク配線8と電源22と測定部23とを有する。スピン軌道トルク配線8は、例えば、第2強磁性層2に接する。スピン軌道トルク配線8は、面内方向の一方向に延びる。電源22は、スピン軌道トルク配線8の第1端と第2端とに接続されている。第1端と第2端とは、平面視で磁気抵抗効果素子10を挟む。電源22は、スピン軌道トルク配線8に沿って書き込み電流を流す。測定部23は、磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値を測定する。
電源22によりスピン軌道トルク配線8の第1端と第2端との間に電位差を生み出すと、スピン軌道トルク配線8の面内方向に電流が流れる。スピン軌道トルク配線8は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる機能を有する。スピン軌道トルク配線8は、例えば、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる機能を有する金属、合金、金属間化合物、金属硼化物、金属炭化物、金属珪化物、金属燐化物のいずれかを含む。例えば、配線は、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号を有する非磁性金属を含む。
スピン軌道トルク配線8の面内方向に電流が流れると、スピン軌道相互作用によりスピンホール効果が生じる。スピンホール効果は、移動するスピンが電流の流れ方向と直交する方向に曲げられる現象である。スピンホール効果は、スピン軌道トルク配線8内にスピンの偏在を生み出し、スピン軌道トルク配線8の厚み方向にスピン流を誘起する。スピンは、スピン流によってスピン軌道トルク配線8から第2強磁性層2に注入される。
第2強磁性層2に注入されたスピンは、第2強磁性層2の磁化にスピン軌道トルク(SOT)を与える。第2強磁性層2は、スピン軌道トルク(SOT)を受けて、磁化反転する。第1強磁性層1の磁化の向きと第2強磁性層2の磁化の向きとの相対角が変化することで、磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値が変化する。磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値は、測定部23で読み出される。すなわち、図9に示す磁気記録素子102は、スピン軌道トルク(SOT)型の磁気記録素子である。
図9に示す磁気記録素子102は、第2強磁性層2がアモルファスのホイスラー合金を含み、磁歪が低減されているため、データの安定性に優れる。
図10は、適用例4にかかる磁壁移動素子(磁壁移動型磁気記録素子)の断面図である。磁壁移動素子103は、磁気抵抗効果素子10と第1磁化固定層24と第2磁化固定層25とを有する。磁気抵抗効果素子10は、第1強磁性層1と第2強磁性層2と非磁性層3からなる。図10において、第2強磁性層2が延びる方向をX方向とし、X方向と垂直な方向をY方向とし、XY平面に対して垂直な方向をZ方向とする。
第1磁化固定層24及び第2磁化固定層25は、第2強磁性層2の第1端と第2端に接続されている。第1端と第2端は、X方向に第1強磁性層1及び非磁性層3を挟む。
第2強磁性層2は、内部の磁気的な状態の変化により情報を磁気記録可能な層である。第2強磁性層2は、内部に第1磁区MD1と第2磁区MD2とを有する。第2強磁性層2のうち第1磁化固定層24又は第2磁化固定層25とZ方向に重なる位置の磁化は、一方向に固定される。第1磁化固定層24とZ方向に重なる位置の磁化は例えば+Z方向に固定され、第2磁化固定層25とZ方向に重なる位置の磁化は例えば−Z方向に固定される。その結果、第1磁区MD1と第2磁区MD2との境界に磁壁DWが形成される。第2強磁性層2は、磁壁DWを内部に有するができる。図10に示す第2強磁性層2は、第1磁区MD1の磁化MMD1が+Z方向に配向し、第2磁区MD2の磁化MMD2が−Z方向に配向している。
磁壁移動素子103は、第2強磁性層2の磁壁DWの位置によって、データを多値又は連続的に記録できる。第2強磁性層2に記録されたデータは、読み出し電流を印加した際に、磁壁移動素子103の抵抗値変化として読み出される。
第2強磁性層2における第1磁区MD1と第2磁区MD2との比率は、磁壁DWが移動すると変化する。第1強磁性層1の磁化M1は、例えば、第1磁区MD1の磁化MMD1と同じ方向(平行)であり、第2磁区MD2の磁化MMD2と反対方向(反平行)である。磁壁DWが+X方向に移動し、Z方向からの平面視で第1強磁性層1と重畳する部分における第1磁区MD1の面積が広くなると、磁壁移動素子103の抵抗値は低くなる。反対に、磁壁DWが−X方向に移動し、Z方向からの平面視で第1強磁性層1と重畳する部分における第2磁区MD2の面積が広くなると、磁壁移動素子103の抵抗値は高くなる。
磁壁DWは、第2強磁性層2のX方向に書込み電流を流す、又は、外部磁場を印加することによって移動する。例えば、第2強磁性層2の+X方向に書込み電流(例えば、電流パルス)を印加すると、電子は電流と逆の−X方向に流れるため、磁壁DWは−X方向に移動する。第1磁区MD1から第2磁区MD2に向って電流が流れる場合、第2磁区MD2でスピン偏極した電子は、第1磁区MD1の磁化MMD1を磁化反転させる。第1磁区MD1の磁化MMD1が磁化反転することで、磁壁DWが−X方向に移動する。
図10に示す磁壁移動素子103は、第2強磁性層2がアモルファスのホイスラー合金を含み、磁歪が低減されているため、データの安定性に優れる。
図11は、適用例5にかかる高周波デバイス104の模式図である。図11に示すように、高周波デバイス104は、磁気抵抗効果素子10と直流電源26とインダクタ27とコンデンサ28と出力ポート29と配線30,31を有する。
配線30は、磁気抵抗効果素子10と出力ポート29とを繋ぐ。配線31は、配線30から分岐し、インダクタ27及び直流電源26を介し、グラウンドGへ至る。直流電源26、インダクタ27、コンデンサ28は、公知のものを用いることができる。インダクタ27は、電流の高周波成分をカットし、電流の不変成分を通す。コンデンサ28は、電流の高周波成分を通し、電流の不変成分をカットする。インダクタ27は高周波電流の流れを抑制したい部分に配設し、コンデンサ28は直流電流の流れを抑制したい部分に配設する。
磁気抵抗効果素子10に含まれる強磁性層に交流電流または交流磁場を印加すると、第2強磁性層2の磁化は歳差運動する。第2強磁性層2の磁化は、第2強磁性層2に印加される高周波電流又は高周波磁場の周波数が、第2強磁性層2の強磁性共鳴周波数の近傍の場合に強く振動し、第2強磁性層2の強磁性共鳴周波数から離れた周波数ではあまり振動しない。この現象を強磁性共鳴現象という。
磁気抵抗効果素子10の抵抗値は、第2強磁性層2の磁化の振動により変化する。直流電源26は、磁気抵抗効果素子10に直流電流を印加する。直流電流は、磁気抵抗効果素子10の積層方向に流れる。直流電流は、配線30,31、磁気抵抗効果素子10を通りグラウンドGへ流れる。磁気抵抗効果素子10の電位は、オームの法則に従い変化する。磁気抵抗効果素子10の電位の変化(抵抗値の変化)に応じて高周波信号が出力ポート29から出力される。
図11に示す高周波デバイス104は、第2強磁性層2がアモルファスのホイスラー合金を含み、磁歪が低減されているため、ノイズが少なく特定の周波数の高周波信号を発信できる。
1…第1強磁性層、1a,2a…第1面、1b,2b…第2面、2…第2強磁性層、3,13…非磁性層、4…第3強磁性層、5…第4強磁性層、6…第2非磁性層、8…スピン軌道トルク配線、10,15,16,17…磁気抵抗効果素子、11,12A,12B…強磁性層、21…抵抗測定器、22…電源、23…測定部、24…第1磁化固定層、25…第2磁化固定層、26…直流電源、27…インダクタ、28…コンデンサ、29…出力ポート、30,31…配線、100,101,102…磁気記録素子、103…磁壁移動素子、104…高周波デバイス、DW…磁壁、MD1…第1磁区、MD2…第2磁区、Sub…基板
Claims (16)
- 第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間にある非磁性層と、を備え、
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とのうち少なくとも一方は、結晶領域とアモルファス領域とを有するホイスラー合金層を有する、磁気抵抗効果素子。 - 前記ホイスラー合金層は、前記結晶領域と前記アモルファス領域とが混在している、請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記ホイスラー合金層のうち前記非磁性層に接する第1界面は、前記結晶領域の割合が前記アモルファス領域の割合より多い、請求項1又は2に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記ホイスラー合金層のうち前記非磁性層に接する第1界面は、前記結晶領域からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記第1強磁性層が磁化固定層であり、前記第2強磁性層が磁化自由層であり、
前記第2強磁性層が前記ホイスラー合金層を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。 - 前記第1強磁性層が磁化固定層であり、前記第2強磁性層が磁化自由層であり、
前記第1強磁性層及び前記第2強磁性層がいずれも前記ホイスラー合金層を有し、
前記第1強磁性層における前記ホイスラー合金層は、前記第2強磁性層における前記ホイスラー合金層より前記結晶領域の割合が多い、請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。 - 基板をさらに有し、
前記第1強磁性層は、前記第2強磁性層より前記基板の近くにある、請求項5又は6に記載の磁気抵抗効果素子。 - 前記結晶領域は複数の結晶粒からなり、
前記複数の結晶粒のうち少なくとも一つの結晶粒の結晶軸の方向は、他の結晶粒の結晶軸の方向と異なる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。 - 前記ホイスラー合金層のうち前記非磁性層に接する第1界面は、前記第1界面と反対側の第2界面より前記結晶領域の割合が多い、請求項1〜8のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記第1界面から前記第2界面に向かうにつれて、前記結晶領域の割合が減少する、請求項9に記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記ホイスラー合金層を構成するホイスラー合金は、Co2YαZβで表記され、
前記Yは、Fe、Mn、Crからなる群から選択された1種以上の元素であり、
前記Zは、Si、Al、Ga、Geからなる群から選択された1種以上の元素であり、
α+β>2を満たす、請求項1〜10のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。 - 第3強磁性層をさらに備え、
前記第3強磁性層は、前記ホイスラー合金層の前記非磁性層と対向する面と反対側の面に接し、
前記第3強磁性層は、Co−Fe−B−A合金を含み、
前記第3強磁性層に含まれるA元素は、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Auからなる群から選択されるいずれか1つ以上の元素である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。 - 前記第3強磁性層は、少なくとも一部が結晶化しており、
前記第3強磁性層の結晶領域の少なくとも一部は、前記ホイスラー合金層の結晶領域と格子整合している、請求項12に記載の磁気抵抗効果素子。 - 第4強磁性層をさらに備え、
前記第4強磁性層は、前記ホイスラー合金層と前記非磁性層との間にあり、
前記第4強磁性層は、Co−Fe−B−A合金を含み、
前記第4強磁性層に含まれるA元素は、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Auからなる群から選択されるいずれか1つ以上の元素である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。 - 前記第4強磁性層の膜厚は、前記第4強磁性層を構成する材料のスピン拡散長以下である、請求項14に記載の磁気抵抗効果素子。
- 第2非磁性層をさらに備え、
前記第2非磁性層は、前記第3強磁性層の前記非磁性層と対向する面と反対側の面に接し、
前記第2非磁性層は、Bと、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Auからなる群から選択されるいずれかの元素と、を含む、請求項12又は13に記載の磁気抵抗効果素子。
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