JP2021080487A - 金属材の表面処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】浸窒焼入れまたは浸炭窒化により、金属材の表面処理を行う際に、表面処理にかかる条件が変化しても、金属材の表層部におけるN原子の濃度を正確に制御することができる金属材の表面処理方法を提供する。【解決手段】NH3、H2、COを含む雰囲気中で、金属材に対して、表面処理として、浸窒焼入れ処理または浸炭窒化処理を行うに際し、前記雰囲気において、NH3の分圧P(NH3)およびH2の分圧P(H2)をそれぞれ計測するとともに、該計測値に基づいて、Kn=P(NH3)/P(H2)3/2として、窒化ポテンシャルKnを見積もり、前記金属材の表層部のN濃度と前記窒化ポテンシャルKnとの関係に基づいて、所望のN濃度に対応付けられる前記窒化ポテンシャルKnを目標値として、前記雰囲気中のNH3およびH2の少なくとも一方の分圧を制御することにより、前記窒化ポテンシャルKnを制御する。【選択図】図2

Description

本発明は、金属材の表面処理方法に関し、さらに詳しくは、鋼材等の金属材に対して、浸窒焼入れまたは浸炭窒化によって表面処理を行う方法に関する。
鋼材等の金属材において、表面の硬化等、特性の向上を図る表面処理として、アンモニアを含む雰囲気中で金属材を熱処理し、金属材の表層部にN原子を導入する浸窒焼入れ処理が行われている。また、炭素と窒素を両方含む雰囲気中で金属材を熱処理して、金属材表層部にN原子とC原子とを導入し、その後焼入れを行う浸炭窒化処理も行われている。浸炭窒化処理により、金属材の疲労強度や耐摩耗性を向上させることができる。
金属材の浸窒焼入れ処理や浸炭窒化処理においては、所望の特性を得るために、金属材表層部のN濃度を制御することが重要となる。浸窒(窒化)処理における雰囲気制御の例が、特許文献1,2に開示されている。さらに、浸炭窒化処理における雰囲気制御の例が、特許文献3,4に開示されている。
上記特許文献1〜4は、いずれも、アンモニアを含む雰囲気中で、鋼材に対して、浸窒処理または浸炭窒化処理を行っている。アンモニアは、鋼材表面において、下記式(1)のように分解して、金属材の表層部にN原子を導入するものとなる。ここで、[N]は、金属材に取り込まれたN原子を意味する。
Figure 2021080487
式(1)に表れているように、雰囲気中のNHおよびHの分圧が、金属材の表面におけるN原子の濃度に影響することになる。上記特許文献1〜4では、それぞれ、NHまたはHの分圧を計測し、その測定値に基づいて、熱処理炉内の雰囲気の制御を図っている。具体的には、熱処理炉内の雰囲気の制御において、特許文献1では、雰囲気中のアンモニアガス分圧を計測している。特許文献3でも、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度を制御している。一方、特許文献2では、処理炉内の水素濃度またはアンモニア濃度を検出している。特許文献4では、炉内ガスの水素濃度を検出している。
特開2007−131933号公報 特開2019−14956号公報 特開2007−169723号公報 特開2014−1459号公報
上記式(1)のように、NHの分解を経て金属材の表面にN原子が導入される場合に、金属材表層部におけるN濃度は、NHとHの両方の分圧に影響を受けるはずである。しかし、上記のように、特許文献1〜4はいずれも、炉内雰囲気を制御する際の指標として、NHとHのいずれか一方の分圧しか監視していない。雰囲気の構成成分やそれらの分圧、熱処理温度、処理対象の金属材の成分組成、使用する熱処理炉の形態等、表面処理にかかる条件が狭い範囲に限られている場合には、NHとHのいずれか一方の分圧のみに基づいて雰囲気制御を行う形態でも、十分な精度で、金属材表面のN濃度の制御を行える可能性がある。
しかし、表面処理にかかる条件が、広い範囲にわたって変化する場合には、NHとHのいずれか一方の分圧のみに基づく制御では、金属材表層部のN濃度を十分に制御できない可能性がある。まず、Hの分圧のみを測定し、制御に用いる場合には、NH→1/2N+3/2Hとのガス分解反応に基づいて、NHの分圧を推定することになるが、このガス分解反応と並行して、式(1)のような反応が、処理対象の金属材の表面、また炉壁や治具の表面で起こるため、NH濃度を正確に推定することが難しい。特に、700℃以上のような高温で熱処理が行われる場合には、浸炭窒化や浸窒焼入れで用いられるNH濃度は、典型的には全体の1%以下であるうえ、炉壁や治具の表面におけるNHの分解も起こりやすいため、H濃度に基づくNH濃度の推定の精度が低くなり、得られる金属材の表面におけるN濃度のばらつきとして、大きく影響しやすい。このように、雰囲気中のHの分圧に基づいて、金属材表層部のN濃度を高精度に制御することは、かなり難しい。
また、NHの分圧に基づいて制御を行う場合にも、Hの分圧を考慮しなければ、金属材表層部のN濃度を、正確に制御できない可能性がある。例えば、図1に、Feに対して浸窒焼入れ処理を行うに際し、炉内のH濃度が異なる条件で、NH分圧(残留NH濃度)を変化させながら、平衡状態における表層部のN濃度を調べた結果を示す。この図によると、NH分圧が同じでも、H濃度が異なる2つの場合で、N濃度に2倍以上の差が生じている。このように、炉内のH濃度等、浸窒焼入れ処理や浸炭窒化処理にかかる条件が広い範囲で変化しうる場合には、NHとHのうち、NHのみの分圧に基づいて雰囲気制御を行ったのでは、金属材表層部のN濃度を、所望の値に正確に制御することは、難しい。
さらに、1種のガスの分圧にのみ着目して、金属材表層部のN濃度の制御を行う場合には、表面処理にかかる条件が変化した際に、正確な制御を行えなく可能性がある。例えば、少量の金属材に対してテスト処理を行い、表面処理にかかる条件検討したうえで、量産工程において、多量、また多数の金属材に対して表面処理を行う場合に、テスト処理においては、量産工程よりも、H濃度が低くなりやすく、テスト処理において採用した制御条件を、そのまま量産工程に適用すると、得られる金属材のN濃度に、ずれが生じる場合がある。
本発明が解決しようとする課題は、浸窒焼入れまたは浸炭窒化により、金属材の表面処理を行う際に、表面処理にかかる条件が変化しても、金属材の表層部におけるN原子の濃度を正確に制御することができる金属材の表面処理方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明にかかる金属材の表面処理方法は、NH、H、COを含む雰囲気中で、金属材に対して、表面処理として、浸窒焼入れ処理または浸炭窒化処理を行うに際し、前記雰囲気において、NHの分圧P(NH)およびHの分圧P(H)をそれぞれ計測するとともに、該計測値に基づいて、Kn=P(NH)/P(H3/2として、窒化ポテンシャルKnを見積もり、前記金属材の表層部のN濃度と前記窒化ポテンシャルKnとの関係に基づいて、所望のN濃度に対応付けられる前記窒化ポテンシャルKnを目標値として、前記雰囲気中のNHおよびHの少なくとも一方の分圧を制御することにより、前記窒化ポテンシャルKnを制御するものである。
ここで、前記表面処理は、700℃以上の温度で行うことが、想定される。温度の上限は、特に定められないが、1000℃程度である。
前記雰囲気のカーボンポテンシャルCPによる前記N濃度への影響を、前記窒化ポテンシャルKnに取り込んだ、操業窒化ポテンシャルKnを、前記窒化ポテンシャルKnとして用いるとよい。
この場合に、前記カーボンポテンシャルCPによる前記N濃度への影響が存在しない場合の前記窒化ポテンシャルKnを、無影響窒化ポテンシャルKnとして、前記操業窒化ポテンシャルKnは、窒素操業係数Aを用いて、Kn=A・Knと表され、前記窒素操業係数Aは、A0、A1、A2を定数として、前記カーボンポテンシャルCPを用いて、A=A0+A1・CP+A2・CPと表されるとよい。前記係数A0、A1、A2は、前記カーボンポテンシャルCPの異なる雰囲気で、前記窒化ポテンシャルKnを変化させながら、前記N濃度を計測した予備試験によって定められるとよい。さらに、前記金属材は、Fe基合金よりなり、前記Fe基合金がオーステナイト相をとる領域において、A0=0.997、A1=0.324、A2=−0.0164であるとよい。
また、前記雰囲気において、前記COの分圧、およびCOまたはOの分圧をそれぞれ計測し、前記金属材の表層部のC濃度と前記雰囲気のカーボンポテンシャルCPとの関係に基づいて、所望のC濃度に対応付けられるカーボンポテンシャルCPを目標値として、前記雰囲気中のCOの分圧、および前記COまたはOの分圧の少なくとも一方を制御することにより、前記カーボンポテンシャルCPを制御するとよい。
この場合に、前記窒化ポテンシャルKnによる前記C濃度への影響を、前記カーボンポテンシャルCPに取り込んだ、操業カーボンポテンシャルCPを、前記カーボンポテンシャルCPとして用いるとよい。前記窒化ポテンシャルKnによる前記C濃度への影響が存在しない場合の前記カーボンポテンシャルCPを、無影響カーボンポテンシャルCPとして、前記操業カーボンポテンシャルCPは、炭素操業係数Bを用いて、CP=B・CPと表され、前記炭素操業係数Bは、B0、B1、B2を定数として、前記窒化ポテンシャルKnを用いて、B=B0+B1・Kn+B2・Knと表されるとよい。前記係数B0、B1、B2は、前記窒化ポテンシャルKnの異なる雰囲気で、前記カーボンポテンシャルCPを変化させながら、前記C濃度を計測した予備試験によって定められるとよい。さらに、前記金属材は、Fe基合金よりなり、前記Fe基合金がオーステナイト相をとる領域において、B0=0.997、B1=35.8、B2=−742であるとよい。
上記発明にかかる金属材の表面処理方法においては、浸窒焼入れ処理または浸窒焼入れ処理を行う際に、NHおよびHの分圧を、両方測定したうえで、それらNHとHの両方の分圧を含むパラメータである窒化ポテンシャルKnを見積もる。そして、その窒化ポテンシャルKnを、所望のN濃度に対応付けられる目標値に一致させるべく、雰囲気制御を行う。そのため、上記式(1)のように、Hの放出を伴うNHの分解を経て進行する金属材表層部へのN原子の導入過程において、金属材表層部におけるN原子の平衡濃度を、正確に雰囲気の組成と対応付け、制御することができる。また、NHやHの分圧等、表面処理にかかる条件が変化することがあっても、さらに、処理する金属材の規模等、表面処理の条件が大幅に変更されることがあっても、同様にして、N原子の濃度の制御を、実行することができる。
ここで、表面処理を、700℃以上の温度で行う場合には、高温により、NHが、気相中等、金属材の表面以外の箇所でも多量に分解するようになる。すると、雰囲気の組成の変化に伴い、金属材表層部へのN原子の導入にかかる条件が、大きく変化する場合があるが、そのような場合でも、NHおよびHの分圧を両方監視しながら、窒化ポテンシャルKnに基づく雰囲気制御を行うことで、金属材表面におけるN原子の濃度を、高い精度で制御することができる。
雰囲気のカーボンポテンシャルCPによるN濃度への影響を、窒化ポテンシャルKnに取り込んだ、操業窒化ポテンシャルKnを、窒化ポテンシャルKnとして用いる場合には、金属材表層部のN濃度は、窒化ポテンシャルKnのみならず、金属材表層部に存在するC原子の影響によっても変化しうるが、その場合でも、C原子の影響を、窒化ポテンシャルKnの値の変化として取り込むことで、窒化ポテンシャルKnに基づく雰囲気制御をそのまま利用して、金属材表面のN濃度を、精度良く制御することが可能となる。
この場合に、カーボンポテンシャルCPによるN濃度への影響が存在しない場合の窒化ポテンシャルKnを、無影響窒化ポテンシャルKnとして、操業窒化ポテンシャルKnが、窒素操業係数Aを用いて、Kn=A・Knと表され、窒素操業係数Aが、A0、A1、A2を定数として、カーボンポテンシャルCPを用いて、A=A0+A1・CP+A2・CPと表される形態によれば、簡素な演算により、雰囲気の組成や加熱温度等の表面処理条件が変化した際にも適用可能な、操業窒化ポテンシャルKnを得ることができる。
係数A0、A1、A2が、カーボンポテンシャルCPの異なる雰囲気で、窒化ポテンシャルKnを変化させながら、N濃度を計測した予備試験によって定められる場合、またさらに、金属材が、Fe基合金よりなり、Fe基合金がオーステナイト相をとる領域において、A0=0.997、A1=0.324、A2=−0.0164である場合には、実際の表面処理の条件に即して、精度の高い操業窒化ポテンシャルKnを求めることができる。
また、雰囲気において、COの分圧、およびCOまたはOの分圧をそれぞれ計測し、金属材の表層部のC濃度と雰囲気のカーボンポテンシャルCPとの関係に基づいて、所望のC濃度に対応付けられるカーボンポテンシャルCPを目標値として、雰囲気中のCOの分圧、およびCOまたはOの分圧の少なくとも一方を制御することにより、カーボンポテンシャルCPを制御する場合には、浸窒焼入れ工程や浸炭窒化工程において、金属材の表層部のN濃度と合わせて、C濃度についても、制御することができる。金属材の表層部のC濃度は、COの分圧と、COまたはOの分圧によって定まるカーボンポテンシャルCPに依存するので、COの分圧と、COまたはOの分圧を両方測定したうえで、カーボンポテンシャルCPに基づく雰囲気の制御を行うことで、それら各ガスの分圧等、表面処理にかかる条件が変化することがあっても、金属材表層部におけるC濃度の制御を、実行することができる。
この場合に、窒化ポテンシャルKnによるC濃度への影響を、カーボンポテンシャルCPに取り込んだ、操業カーボンポテンシャルCPを、カーボンポテンシャルCPとして用いる形態によれば、金属材表層部のC濃度は、カーボンポテンシャルCPのみならず、金属材表層部に存在するN原子の影響によっても変化しうるが、その場合でも、N原子の影響を、カーボンポテンシャルCPの値の変化として取り込むことで、カーボンポテンシャルCPに基づく雰囲気制御をそのまま利用して、金属材表面のC濃度を、精度良く制御することが可能となる。
窒化ポテンシャルKnによるC濃度への影響が存在しない場合のカーボンポテンシャルCPを、無影響カーボンポテンシャルCPとして、操業カーボンポテンシャルCPが、炭素操業係数Bを用いて、CP=B・CPと表され、炭素操業係数Bが、B0、B1、B2を定数として、窒化ポテンシャルKnを用いて、B=B0+B1・Kn+B2・Knと表される場合には、簡素な演算により、雰囲気の組成や加熱温度等の表面処理条件が変化した際にも適用可能な、操業カーボンポテンシャルCPを得ることができる。なお、無影響カーボンポテンシャルCPは、浸炭を伴わない通常の浸炭処理を行う場合のカーボンポテンシャルに相当する。
係数B0、B1、B2が、窒化ポテンシャルKnの異なる雰囲気で、カーボンポテンシャルCPを変化させながら、C濃度を計測した予備試験によって定められる場合、またさらに、金属材が、Fe基合金よりなり、Fe基合金がオーステナイト相をとる領域において、B0=0.997、B1=35.8、B2=−742である場合には、実際の表面処理の条件に即して、精度の高い操業カーボンポテンシャルCPを求めることができる。
Fe材に対する浸炭窒化処理(CP=0.6%)について、雰囲気中のNH分圧と表層N濃度の関係を、2とおりのH濃度について示す実験結果である。 Fe材に対する浸炭窒化工程について、窒化ポテンシャルKnと表層N濃度の関係を示すシミュレーション結果である。(a)〜(d)においては、図中に表示するように、温度を異ならせている。いずれにおいても、カーボンポテンシャルは0.6%としている。 種々の条件における浸炭窒化処理について、窒化ポテンシャルと表層N濃度の関係を示す実験結果である。(a)はFeに対して850℃で処理を行った場合、(b)はFe材に対して900℃で処理を行った場合、(c)はSCr420材に対して850℃で処理を行った場合について、それぞれ3とおりのカーボンポテンシャルCPにおいて得られた結果を示している。各図では、左側に、実際の分圧値から算出された窒化ポテンシャルKn(操業窒化ポテンシャルKn)と表層N濃度の関係を示し、右側に、カーボンポテンシャルCPの影響を除いた窒化ポテンシャルKn(無影響窒化ポテンシャルKn)と表層N濃度の関係を示している。 種々の条件における浸炭窒化処理について、カーボンポテンシャルと表層C濃度の関係を示す実験結果である。(a)はFeに対して850℃で処理を行った場合、(b)はFe材に対して900℃で処理を行った場合、(c)はSCr420材に対して850℃で処理を行った場合について、それぞれ3とおりの窒化ポテンシャルKnにおいて得られた結果を示している。各図では、左側に、実際の分圧値から算出されたカーボンポテンシャルCP(操業カーボンポテンシャルCP)と表層C濃度の関係を示し、右側に、窒化ポテンシャルKnの影響を除いたカーボンポテンシャルCP(無影響カーボンポテンシャルCP)と表層C濃度の関係を示している。
以下に、本発明の一実施形態にかかる金属材料の表面処理方法について、詳細に説明する。
[表面処理方法の概略]
本実施形態にかかる表面処理方法においては、金属材に対して、表面処理として、浸窒焼入れ処理または浸炭窒化処理を実行する。表面処理の対象とする金属材は、浸窒焼入れまたは浸炭窒化を行いうるものであれば、特に限定されるものではないが、鋼に代表されるFe基合金(Feを含む)を、好適な対象とすることができる。以下でも、Fe基合金を主に想定して説明を行う。金属材は、棒状、板状等、加工素材の状態にあっても、所定の部材形状に加工された機械部品の状態にあってもよい。
表面処理として、浸窒焼入れ処理または浸炭窒化処理を行うに際し、金属材を、アンモニア(NH)と水素ガス(H)、一酸化炭素(CO)を含む雰囲気中で加熱する。雰囲気中には、さらに、二酸化炭素(CO)および酸素ガス(O)も含まれる。表面処理を行う間、金属材の表層部において、N原子およびC原子の濃度が、所望の濃度となるように、雰囲気ガスの組成を制御する。
具体的には、処理対象の金属材を熱処理炉に収容し、加熱しながら、熱処理炉に、NHガスとともに、変成炉で調製した変成ガス(COガス、Nガス、Hガスを含み、さらに微量のCOやOを含む)を導入する。例えば、プロパン等のエンリッチガスを熱処理炉内に導入し、分解によってCOの分圧を調整することで、炉内雰囲気のカーボンポテンシャル(CP)を調整することができる。熱処理炉には、NHと、NHの分解によって生じたNおよびHに加え、CO、さらにCOおよびOを含む雰囲気が満たされることになる。熱処理炉には、分圧計測手段を設けておき、熱処理炉内の雰囲気に対して、NHおよびHの分圧に加えて、COの分圧、さらにCOまたはOの分圧をそれぞれ計測する。
表面処理中、後に詳しく説明するように、NHおよびHの分圧の計測値に基づいて、窒化ポテンシャルKnを見積もる。そして、金属材表層部において所望されるN濃度に対応付けられる窒化ポテンシャルKnを、目標値として設定したうえで、その目標値に窒化ポテンシャルKnを一致させるべく、雰囲気中のNHおよびHの少なくとも一方の分圧を制御することにより、窒化ポテンシャルKnを制御する。さらに、COの分圧と、COまたはOの分圧に基づいて、カーボンポテンシャルCPを見積もることが好ましい。そして、金属材表層部において所望されるC濃度に対応付けられるカーボンポテンシャルCPを、目標値として設定したうえで、その目標値にカーボンポテンシャルCPを一致させるべく、雰囲気中のCOの分圧、およびCOまたはOの分圧の少なくとも一方を制御することにより、カーボンポテンシャルCPを制御することが好ましい。熱処理として浸窒焼入れを行う場合も、浸炭窒化を行う場合も、そのようにして、所定の雰囲気中での加熱を完了した後、適宜、焼入れを行う。なお、本明細書において、金属材の表層部とは、おおむね、金属材の最表面から、深さ50μm程度までの領域を指す。
本実施形態においては、上記のように、表面処理として、浸窒焼入れと浸炭窒化のいずれを行ってもよい。浸窒焼入れは、処理前の状態から、金属材におけるC濃度を実質的に変化させることなく、金属材表層部のN濃度を増大させるのに対し、浸炭窒化は、金属材表層部において、C濃度およびN濃度の両方を増大させる点において、浸窒焼入れと浸炭窒化は異なる。しかし、浸窒焼入れを行う場合にも、処理前のC濃度を維持するために、COを含有する雰囲気を用いる。また、所定のC濃度を維持すべく、雰囲気中のカーボンポテンシャルCPを制御することが好ましい。浸窒焼入れ工程においても、加熱中の脱炭反応によるC濃度の低下や、炉内の煤(すす)等に由来するC濃度の上昇が、意図せずに起こる場合があるが、カーボンポテンシャルCPを制御することで、それらの事態を抑制し、金属材において、処理前から規定された所定のC濃度を、維持しやすくなる。例えば、後の実施例でも用いているSCr420材は、0.2質量%のCを含有するが、カーボンポテンシャルCPを0.2%に制御することで、そのC濃度を維持しやすくなる。金属材の表層部におけるN濃度とC濃度を、相互の干渉も考慮しながら、同時に、多様な組み合わせで制御することができる点では、表面処理として浸炭窒化を行う形態の方が好ましい。以下では、浸炭窒化を行う形態を中心として、説明を行う。
[窒化ポテンシャルKnに基づくN濃度制御]
上記のように、表面処理として、浸窒焼入れを行う場合にも、浸炭窒化を行う場合にも、雰囲気中のNHおよびHの分圧をそれぞれ測定しながら、それらの分圧にから見積もられる窒化ポテンシャルKnに基づいて、雰囲気制御を行い、金属材の表層部におけるN濃度(表層N濃度)として、所望の値が得られるようにする。以下、この窒化ポテンシャルKnに基づく雰囲気制御について説明する。
NHを用いた金属材の表層部における浸窒は、下の式(1)の平衡反応を経て進行する。[N]は、金属材の表層部に取り込まれたN原子を表す。
Figure 2021080487
そして、この反応の右辺側への進行しやすさを示す指標として、窒化ポテンシャルKnを利用することができる。窒化ポテンシャルKnは、雰囲気中のNHの分圧P(NH)およびHの分圧P(H)を用いて、式(2)のように表現される。
Figure 2021080487
雰囲気中において、NH分圧が上昇し、あるいはH分圧が低下し、窒化ポテンシャルKnが大きくなると、式(1)の反応が右辺側に進行しやすくなり、金属材の表層N濃度が上昇する。一方、雰囲気中において、NH分圧が低下し、あるいはH分圧が上昇し、窒化ポテンシャルKnが小さくなると、式(1)の反応が右辺側に進行しにくくなり、金属材の表層N濃度が低下する。後に、実施例について、図2を参照しながら説明するように、表層N濃度と窒化ポテンシャルKnとの間には、良い正の相関が存在する。
そこで、金属材の特性等の観点から所望される表層N濃度に対して、対応する窒化ポテンシャルKnの値、つまりその所望の表層N濃度を与える窒化ポテンシャルKnの値を、窒化ポテンシャルKnの目標値として設定する。そして、その目標値を達成すべく、つまり、実際の窒化ポテンシャルKnの値をその目標値に可及的に近づけるべく、窒化ポテンシャルKnの制御を行う。この窒化ポテンシャルKnの制御は、雰囲気中のNHおよびHの少なくとも一方の分圧を制御することにより、行う。ここで、NHの分圧の制御により、窒化ポテンシャルKnの制御を行う形態が、特に好ましい。具体的には、熱処理炉に導入するNHの流量を制御すればよい。
実際の窒化ポテンシャルKnが目標値より小さい場合には、NHの分圧を上昇させることにより、あるいはHの分圧を低下させることにより、窒化ポテンシャルKnを増大させて目標値に近づける制御を行えばよい。一方、実際の窒化ポテンシャルKnが目標値より大きい場合には、NHの分圧を低下させることにより、あるいはHの分圧を上昇させることにより、窒化ポテンシャルKnを減少させて目標値に近づける制御を行えばよい。このようにして、許容される誤差範囲内で、窒化ポテンシャルKnを目標値に維持した状態を、平衡に達するのに十分な時間にわたって保持することで、設定した所望の表層N濃度を達成することができる。
表層N濃度の所望値と窒化ポテンシャルKnの目標値との対応付けは、予備試験のデータを用いて行うことができる。つまり、適宜NHの分圧を変化させることで、窒化ポテンシャルKnを変化させながら、表層N濃度を計測し、両者の関係性に関するデータを取得しておけばよい。この際、加熱温度等、予備試験にかかる条件は、できるだけ、実際の表面処理工程に合わせておくことが好ましい。あるいは、実験の代わりに、後に図2について説明するように、コンピュータシミュレーションによって、表層N濃度と窒化ポテンシャルKnとの関係を見積もっておいてもよい。
表層N濃度の制御は、窒化ポテンシャルKnの代わりに、金属材の表層部におけるN原子の活量aに基づいて、行うこともできる。活量aを用いて、上記式(1)の反応の平衡定数Keqを、以下の式(3)のように表記することができる。そして、活量aは、式(4)のようになる。平衡定数Keqは、データベース等より既知である。
Figure 2021080487
以上のように、雰囲気中のNHとHの両方の分圧をそれぞれ計測し、それらの計測値に基づいて窒化ポテンシャルKnを見積もったうえで、窒化ポテンシャルKnの目標値を達成すべく、雰囲気制御を行うことで、金属材において、所望される表層N濃度を得ることができる。NHやHの濃度、また加熱温度等、金属材の表層部へのN原子の導入にかかる条件が、大きく変化しなければ、NHまたはHのいずれか一方のみの分圧を測定し、その分圧に基づいて雰囲気制御を行う方法でも、ある程度の正確性をもって、表層N濃度を制御することも可能ではあるが、反応にかかる条件が大きく変化する場合には、正確な表層N濃度の制御を行うことは、難しくなる。しかし、NHとHの分圧をともに監視し、窒化ポテンシャルKnに基づいて雰囲気制御を行うことにより、反応にかかる条件が大きく変化する場合でも、表層N濃度を、高い正確性をもって、制御することができる。用いる熱処理炉や、熱処理を行う被処理材の規模の変更のような、大幅な熱処理条件の変更にも、対応することができる。
例えば、後の実施例において、図1に基づいて説明するように、雰囲気中のH分圧が大きく変化すると、NH分圧を同じにしていても、表層N濃度が大きく変化しうる。このような場合に、NHのみの分圧を監視するのではなく、Hの分圧もともに監視し、窒化ポテンシャルKnによって両者の分圧を関連付けて制御することにより、Hの分圧が大きく変化することがあっても、表層N濃度を高精度に制御することが可能となる。H分圧は、用いる熱処理炉の形式が変わると、大きく変化しうるパラメータである。例えば、メタノール滴注式の炉においては、H濃度が60%程度となり、プロパン変性炉においては、H濃度が30%程度となる。このように、本実施形態にかかる表面処理方法によれば、異なる形態の熱処理炉を用いる場合や、テスト処理から量産処理へと被処理材の規模が変更される場合等、表面処理にかかる条件が大きく変化しても、同一の方式により、表層N濃度の制御を実行することができる。
別の例として、700℃以上のような高温では、金属材の表面だけでなく、気相中等、他の箇所でもNHの分解が起こりやすくなり、それらの分解反応も、金属材の表層N濃度に影響を与えるようになる。しかし、NHとHの両方の分圧を監視し、しかも、窒化ポテンシャルKnによって、両者の分圧を相互に関連付けて制御に用いることで、そのように高温の環境でも、表層N濃度を、高い正確性をもって、制御することができる。なお、金属材がFe基合金である場合には、700℃以上では、合金はオーステナイト相をとりやすい。
[カーボンポテンシャルCPに基づくC濃度制御]
表面処理として、浸窒焼入れを行う場合にも、浸炭窒化を行う場合にも、上記のように、NHおよびHの分圧の計測値と、それらから見積もられる窒化ポテンシャルKnに基づいて、表層N濃度の制御を行うのに加え、カーボンポテンシャルCPに基づいて、表層C濃度の制御を行うことが好ましい。つまり、COの分圧、およびCOまたはOの分圧をそれぞれ測定しながら、それらの分圧から見積もられるカーボンポテンシャルCPに基づいて、雰囲気制御を行い、金属材の表層部におけるC濃度(表層C濃度)として、所望の値が得られるようにする。以下、このカーボンポテンシャルCPに基づく雰囲気制御について説明する。
COを用いた金属材の表層部における浸炭は、下の式(5)の平衡反応(ブードア反応)によって制御することができる。[C]は、金属材の表層部に取り込まれたC原子を表す。
Figure 2021080487
ここで、上記式(5)の反応にかかるプロセスパラメータK1および金属材の表層部におけるCの活量aを、COの分圧P(CO)およびCOの分圧P(CO)を用いて、式(6)のように表すことができる。そして、それらを用いて、カーボンポテンシャルCPは、式(7)のように表される。ここで、Acmとは、純鉄のAcm変態点を示す。
Figure 2021080487
雰囲気中において、CO分圧が上昇し、あるいはCO分圧が低下し、カーボンポテンシャルCPが大きくなると、式(5)の反応が右辺側に進行しやすくなり、金属材の表層C濃度が上昇する。一方、雰囲気中において、CO分圧が低下し、あるいはCO分圧が上昇し、カーボンポテンシャルCPが小さくなると、式(5)の反応が右辺側に進行しにくくなり、金属材の表層C濃度が低下する。そこで、金属材の特性等の観点から所望される表層C濃度に対して、対応するカーボンポテンシャルCPの値、つまりその表層C濃度を与えるカーボンポテンシャルCPの値を、カーボンポテンシャルCPの目標値として設定する。そして、その目標値を達成すべく、つまり、実際のカーボンポテンシャルCPの値をその目標値に可及的に近づけるべく、カーボンポテンシャルCPの制御を行う。このカーボンポテンシャルCPの制御は、雰囲気中のCOおよびCOの少なくとも一方の分圧を制御することにより、行う。具体的には、例えば、プロパン等のエンリッチガスを添加してCO濃度を低下させたり、空気を導入してCO濃度を上昇させたりして、COの分圧を変化させればよい。
実際のカーボンポテンシャルCPが目標値より小さい場合には、COの分圧を低下させることにより、カーボンポテンシャルCPを増大させて目標値に近づける制御を行えばよい。一方、実際のカーボンポテンシャルCPが目標値より大きい場合には、COの分圧を上昇させることにより、カーボンポテンシャルCPを減少させて目標値に近づける制御を行えばよい。なお、カーボンポテンシャルCPの制御は、通常は、COの分圧の制御によって行われるが、COの分圧によって、カーボンポテンシャルCPを制御する形態としてもよい。
このようにして、許容される誤差範囲内で、カーボンポテンシャルCPを目標値に維持した状態を、平衡に達するのに十分な時間にわたって保持することで、設定した目標値の表層C濃度を達成することができる。表層C濃度の所望値とカーボンポテンシャルCPの目標値の対応付けは、上記で表層Nと窒化ポテンシャルKnの間の対応付けについて説明したのと同様の方法で、実験に基づく予備試験、あるいはコンピュータシミュレーションによって得られたデータを用いて、行うことができる。
COを用いた金属材の表層部における浸炭の制御は、上記式(5)の反応の代わりに、あるいは式(5)の反応に加えて、下の式(8)の平衡反応によっても、制御することができる。
Figure 2021080487
ここで、上記式(8)の反応のプロセスパラメータK2および金属材表面におけるCの活量aを、COの分圧P(CO)およびOの分圧P(O)を用いて、式(9)のように表すことができる。そして、それらを用いて、カーボンポテンシャルCPは、式(10)のように表される。
Figure 2021080487
詳細な説明は省略するが、この場合にも、上記式(5)の反応を利用する場合と同様に、所望される表層C濃度に対して、対応するカーボンポテンシャルCPの値を、カーボンポテンシャルCPの目標値として設定し、その目標値を達成すべくカーボンポテンシャルCPの制御を行う。このカーボンポテンシャルCPの制御は、雰囲気中のCOおよびOの少なくとも一方の分圧を制御することにより、行う。ここでも、表層C濃度の所望値とカーボンポテンシャルCPの目標値との対応付けは、実験に基づく予備試験、あるいはコンピュータシミュレーションによって得られたデータを用いて、行うことができる。
カーボンポテンシャルCPに基づく表層C濃度の制御として、上記式(5)の反応を利用した、CO分圧とCO分圧に基づく制御と、上記式(8)の反応を利用した、CO分圧とO分圧に基づく制御のいずれを用いてもよく、両者を併用してもよい。以下では、式(8)の反応を利用した、CO分圧とO分圧に基づく制御を主に想定して、説明を行う。
以上のように、雰囲気中のCOとO(またはCO;以下においても同じ)の両方の分圧をそれぞれ計測し、それらの計測値に基づいてカーボンポテンシャルCPを見積もったうえで、カーボンポテンシャルCPの目標値を達成すべく、雰囲気制御を行うことで、金属材において、所望される表層C濃度を得ることができる。COとOの分圧をともに監視し、カーボンポテンシャルCPに基づいて雰囲気制御を行うことにより、COやOの濃度、また加熱温度等、金属材の表層部における浸炭反応にかかる条件が大きく変化する場合でも、表層C濃度を、高い正確性をもって、制御することができる。
金属材に対して、浸炭処理のみを行うとすれば、炉内のCOの分圧は、大きくは変化しないため、例えば、キャリアガスとしてCOをほぼ一定速度で供給しながら、O分圧のみを計測し、そのO濃度を所定の目標値に保持すべく、エンリッチガスの供給量の制御を行う程度で、表層C濃度を、十分正確に制御することができる。しかし、本実施形態のように、表面処理として、単なる浸炭ではなく、NHによる窒化を伴う浸炭窒化処理または浸窒焼入れ処理を行う場合には、雰囲気中へのNHの添加により、COの濃度が大幅に低下し、さらに、NHの濃度の変化に伴って、CO濃度も大きく変化する可能性がある。そこで、O分圧だけでなく、CO分圧も直接監視し、両者の分圧を、カーボンポテンシャルCPによって関連付けて制御することにより、そのように、炉内の雰囲気の組成が大きく変化しうる場合であっても、高い正確性をもって、金属材の表層C濃度を制御することが可能となる。
[CとNの相互作用]
ここまでは、窒化ポテンシャルKnに基づく表層N濃度の評価および制御と、カーボンポテンシャルCPに基づく表層C濃度の評価および制御とを、独立に行う形態について説明した。しかし、CとNの間の相互作用(干渉)を考慮することにより、表層N濃度および表層C濃度の評価および制御を、さらに正確に行うことが可能となる。特に、雰囲気中の各成分ガスの分圧が広い範囲で変化しうる場合等、浸窒反応や浸炭窒化反応にかかる条件が大きく変化する場合には、CとNの相互作用を考慮することが好ましい。
金属材の表面におけるCの活量aおよびNの活量aは、それぞれ下記の式(11)よび式(12)によって表される。ここで、γおよびγは、それぞれ、金属材表面におけるCおよびNの活量係数である。CおよびCは、それぞれ、金属材表面におけるCおよびNの濃度(単位:質量%)を表す。
Figure 2021080487
活量aおよびaは、金属材の表面における組成によらず、つまり、CやN等、金属材の表面に存在する原子の種類や量によらず、一定である。一方、活量係数γおよびγは、金属材の表面における組成に依存する量であり、共存する原子の種類や状態による影響を受ける。つまり、Nの活量係数γは、金属材表面におけるCの影響を受け、Cの活量係数γは、金属材表面におけるNの影響を受ける。よって、金属材表面における濃度CおよびCは、金属材の表面における組成に依存して、変化しうる。例えば、共存する原子の種類や状態に依存して、変化しうる。つまり、金属材表面におけるNの濃度Cは、金属材表面におけるCの濃度Cによって変化する可能性があり、金属材表面におけるCの濃度Cは、金属材表面におけるNの濃度Cによって変化する可能性がある。換言すると、金属材表面におけるN濃度Cは、金属材表面にCが共存する場合に、共存しない場合の濃度から変化する可能性があり、金属材表面におけるC濃度Cは、金属材表面にNが共存する場合に、共存しない場合の濃度から変化する可能性がある。すると、NとCのそれぞれについて、そのような共存元素の影響による変化を考慮せずに、気相と固相の間の平衡のみを考慮して導出された、式(2)の窒化ポテンシャルKnや式(10)(または式(7))のカーボンポテンシャルCPを用いたのでは、表層N濃度(C)や表層N濃度(C)を、正しく評価できないことになる。
そこで、上記のようなCとNの間の相互作用を、窒化ポテンシャルKnおよびカーボンポテンシャルCPに取り込むことにより、浸炭窒化における表層N濃度および表層C濃度の評価や制御を、より正確に行うことが可能となる。つまり、カーボンポテンシャルCPによるN濃度への影響を窒化ポテンシャルKnに取り込んだものを、操業窒化ポテンシャルKnとして求め、上記で説明した「窒化ポテンシャルKnに基づくN濃度制御」において、その操業窒化ポテンシャルKnを窒化ポテンシャルKnの代わりに用いればよい。具体的には、所望の表層N濃度に対応付けて、操業窒化ポテンシャルKnの目標値を設定したうえで、その目標値を達成すべく、雰囲気中のNHおよびHの少なくとも一方の分圧を制御することにより、操業窒化ポテンシャルKnを制御すればよい。また、窒化ポテンシャルKnによるC濃度への影響をカーボンポテンシャルCPに取り込んだものを、操業カーボンポテンシャルCPとして求め、上記で説明した「カーボンポテンシャルCPに基づくC濃度制御」において、その操業カーボンポテンシャルCPをカーボンポテンシャルCPの代わりに用いればよい。具体的には、所望の表層C濃度に対応付けて、操業カーボンポテンシャルCPの目標値を設定したうえで、その目標値を達成すべく、雰囲気中のCOの分圧、およびCOまたはOの分圧の少なくとも一方を制御することにより、操業カーボンポテンシャルCPを制御すればよい。
具体的に、操業窒化ポテンシャルKnおよび操業カーボンポテンシャルCPを求める方法として、係数を使用して、窒化ポテンシャルKnおよびカーボンポテンシャルCPの値に変更を加える方法を、例示することができる。上記のようなカーボンポテンシャルCPによるN濃度への影響を排除した場合の窒化ポテンシャルKn、つまり、カーボンポテンシャルCPによるN濃度への影響が存在しない場合、あるいは無視できる程度に小さい場合に、式(2)に従って、雰囲気中のNHの分圧とHの分圧から算出される窒化ポテンシャルKnを、無影響窒化ポテンシャルKnとする。この場合に、実際の操業において生じるカーボンポテンシャルCPの影響を取り込んだ操業窒化ポテンシャルKnを、下の式(13)のように表記することができる。
Figure 2021080487
式(13)において、Aは、無次元の係数であり、窒素操業係数と称するものとする。窒素操業係数Aは、A>1であり、下記の式(14)のように表現することができる。式(14)において、A0、A1、A2は、定数である。
Figure 2021080487
ここで、A0、A1、A2は無次元の量であり、カーボンポテンシャルCPとしては%を単位とする数値から、単位の「%」を外した無次元の量を用いる。
このように、カーボンポテンシャルCPの関数として定まる窒素操業係数Aを無影響窒化ポテンシャルKnに乗じることにより、操業窒化ポテンシャルKnを簡便に求めることができる。換言すると、実際の操業において計測された分圧を式(2)に当てはめて得られる操業窒化ポテンシャルKnを、窒素操業係数Aで除すことで、カーボンポテンシャルCPの影響を排除した無影響窒化ポテンシャルKnを得ることができる(Kn0=Kn*/A)。後の実施例において、図3を参照しながら説明するように、このようにして実際の操業窒化ポテンシャルKnから算出した無影響窒化ポテンシャルKnは、表層N濃度との間に高い相関性を示すことが、実験によって確認されている。また、カーボンポテンシャルCPの値や加熱温度等、熱処理にかかる条件が変化した場合でも、共通の窒素操業係数Aを用いて算出した無影響窒化ポテンシャルKnと、表層N濃度との間に、高い相関性が見られる。このことは、カーボンポテンシャルCPの値や加熱温度等、熱処理にかかる条件が変化することがあっても、カーボンポテンシャルCPの関数として表現される窒素操業係数Aを共通に用いて、無影響窒化ポテンシャルKnから操業窒化ポテンシャルKnを求めたうえで、その操業窒化ポテンシャルKnを目標とした雰囲気制御を行うことで、表層N濃度の制御を高精度に行いうることを、意味している。
窒素操業係数Aを与える3つの定数A0、A1、A2は、実験に基づいて定めることができる。例えば、カーボンポテンシャルCPの値や加熱温度が異なる複数の条件において、NHとHの分圧比を変化させながら、表層N濃度を評価すればよい。この際、分圧比の実測値に基づいて、式(2)から得られる窒化ポテンシャルKnが、操業窒化ポテンシャルKnとなる。そして、複数の条件における測定結果に対して重回帰解析を行い、カーボンポテンシャルCPの差を超えて、Kn/Aとして算出される無影響窒化ポテンシャルKnを、表層N濃度に一対一に対応づけることができる、共通の定数A0、A1、A2を見出せばよい。後の実施例に示すように、金属材がFe基合金であり、炭化物が析出しない場合に、少なくとも、カーボンポテンシャルCPが0.2%以上1.0%以下、また加熱温度が850℃以上900℃以下の条件において、A0=0.997、A1=0.324、A2=−0.0164とすれば、無影響窒化ポテンシャルKnと表層N濃度の間に、カーボンポテンシャルCPによらず、高い相関性が得られる。
一旦、このように、予備試験によって、無影響窒化ポテンシャルKnと表面N濃度との対応関係を得るとともに、定数A0、A1、A2を定めることができれば、実際の操業において、任意の条件で熱処理を行う際に、式(14)によって求められる窒素操業係数Aを、所望の表面N濃度に対応する無影響窒化ポテンシャルKnの値に乗じることで、制御の目標となる操業窒化ポテンシャルKnを得ることができる。なお、式(14)では、カーボンポテンシャルCPの2次の項まで考慮しているが、窒化ポテンシャルKnへのカーボンポテンシャルCPの影響の程度等によっては、1次の項までとしても、逆に3次以上の項を設定してもよい。また、式(14)において、カーボンポテンシャルCPとしては、操業カーボンポテンシャルCPの実測値または目標値を用いれば十分である。
操業カーボンポテンシャルCPについても、同様に、係数を使用して、窒化ポテンシャルKnによる影響を取り込むことができる。窒化ポテンシャルKnによるC濃度への影響を排除した場合のカーボンポテンシャルCP、つまり、窒化ポテンシャルKnによるC濃度への影響が存在しない場合、あるいは無視できる程度に小さい場合に、式(10)(または式(7))に従って、雰囲気中のCOの分圧とO(またはCO)の分圧から算出されるカーボンポテンシャルCPを、無影響カーボンポテンシャルCPとする。この場合に、実際の操業において生じる窒化ポテンシャルKnの影響を取り込んだ操業カーボンポテンシャルCPを、下の式(15)のように表記することができる。なお、無影響カーボンポテンシャルCPは、浸炭を伴わない通常の浸炭処理を行う場合のカーボンポテンシャルに相当する。
Figure 2021080487
式(15)において、Bは、無次元の係数であり、炭素操業係数と称するものとする。炭素操業係数Bは、B>1であり、下記の式(16)のように表現することができる。式(16)において、B0、B1、B2は、定数である。
Figure 2021080487
ここで、B0、B1、B2は無次元の量であり、窒化ポテンシャルKnとしては、atm−1/2を単位とする数値から、単位の「atm−1/2」を外した無次元の量を用いる。
このように、窒化ポテンシャルKnの関数として定まる炭素操業係数Bを無影響カーボンポテンシャルCPに乗じることにより、操業カーボンポテンシャルCPを簡便に求めることができる。換言すると、実際の操業において計測された分圧を式(10)(または式(7))に当てはめて得られる操業カーボンポテンシャルCPを、炭素操業係数Bで除すことで、窒化ポテンシャルKnの影響を排除した無影響カーボンポテンシャルCPを得ることができる(CP0=CP*/B)。後の実施例において、図4を参照しながら説明するように、このようにして実際の操業カーボンポテンシャルCPから算出した無影響カーボンポテンシャルCPは、表層C濃度との間に高い相関性を示すことが、実験によって確認されている。また、窒化ポテンシャルKnの値や加熱温度等、熱処理にかかる条件が変化した場合でも、共通の炭素操業係数Bを用いて算出した無影響カーボンポテンシャルCPと、表層C濃度との間に、高い相関性が見られる。このことは、窒化ポテンシャルKnの値や加熱温度等、熱処理にかかる条件が変化することがあっても、窒化ポテンシャルKnの関数として表現される炭素操業係数Bを共通に用いて、無影響カーボンポテンシャルCPから操業カーボンポテンシャルCPを求めたうえで、その操業カーボンポテンシャルCPを目標とした雰囲気制御を行うことで、表層C濃度の制御を高精度に行いうることを、意味している。
炭素操業係数Bを与える3つの定数B0、B1、B2は、実験に基づいて定めることができる。例えば、窒化ポテンシャルKnの値や加熱温度が異なる複数の条件において、COとO(またはCO)の分圧比を変化させながら、表層C濃度を評価すればよい。この際、分圧比の実測値に基づいて、式(10)(または式(7))から得られるカーボンポテンシャルCPが、操業カーボンポテンシャルCPとなる。そして、複数の条件における測定結果に対して重回帰解析を行い、窒化ポテンシャルKnの差を超えて、CP/Bとして算出される無影響カーボンポテンシャルCPを、表層C濃度に一対一に対応づけることができる共通の定数B0、B1、B2を見出せばよい。後の実施例に示すように、金属材がFe基合金であり、炭化物が析出しない場合に、少なくとも、窒化ポテンシャルKnが0.0001以上0.011以下、また加熱温度が850℃以上900℃以下の条件において、B0=0.997、B1=35.8、B2=−742とすれば、無影響カーボンポテンシャルCPと表層C濃度の間に、窒化ポテンシャルKnによらず、高い相関性が得られる。
一旦、このように、予備試験によって、無影響カーボンポテンシャルCPと表面C濃度との対応関係を得るとともに、定数B0、B1、B2を定めることができれば、実際の操業において、任意の条件で熱処理を行う際に、式(16)によって求められる炭素操業係数Bを、所望の表面C濃度に対応する無影響カーボンポテンシャルCPの値に乗じることで、制御の目標となる操業カーボンポテンシャルCPを得ることができる。なお、式(16)では、窒化ポテンシャルKnの2次の項まで考慮しているが、カーボンポテンシャルCPへの窒化ポテンシャルKnの影響の程度等によっては、1次の項までとしても、逆に3次以上の項を設定してもよい。また、式(16)において、窒化ポテンシャルKnとしては、操業窒化ポテンシャルKnの実測値または目標値を用いれば十分である。
浸炭窒化工程や浸窒焼入れ工程において、操業窒化ポテンシャルKnと操業カーボンポテンシャルCPの両方に基づいて、雰囲気制御を行うことで、金属材表層部において、表層N濃度と表層C濃度の両方を、相互作用も加味したうえで、所望の値に近づけることができる。所望の表層N濃度に対応する操業窒化ポテンシャルKnの目標値を定めるとともに、所望の表層C濃度に対応する操業カーボンポテンシャルCPの目標値を定めたうえで、それらKnおよびCPの目標値を達成すべく、雰囲気制御を行う。具体的な雰囲気制御の手順としては、例えば、ある時点での炉内の雰囲気に対して見積もられる操業窒化ポテンシャルKnを、設定した目標値に近づけるべく、NHとHの少なくとも一方の分圧を調整するKn調整工程を実施する。次に、そのKn調整工程を実施した後の雰囲気に対して見積もられる操業カーボンポテンシャルCPを、設定した目標値に近づけるべく、COとO(またはCO)の少なくとも一方の分圧を調整するCP調整工程を実施する。さらに、そのCP調整工程を実施した後の雰囲気に対して見積もられる操業窒化ポテンシャルKnを、設定した目標値に近づけるべく、Kn調整工程を再度実施する。このように、Kn調整工程およびCP調整工程を実施すると、炉内の雰囲気が変化し、それぞれ、操業カーボンポテンシャルCPおよび操業窒化ポテンシャルKnの値を変化させることになるが、それらの変化を反映させながら、Kn調整工程とCP調整工程を交互に実施するサイクルを、操業窒化ポテンシャルKnおよび操業カーボンポテンシャルCPの両方が、それぞれの目標値に、許容される誤差の範囲内で一致するまで、繰り返せばよい。
[表面処理における他の条件]
本実施形態にかかる表面処理方法においては、窒化ポテンシャルKnに基づいて金属材の表層N濃度を制御することにより、さらに、適宜NとCの間の相互作用を取り込んで、カーボンポテンシャルCPに基づく表層C濃度の制御も併用することにより、加熱温度や炉内の雰囲気の具体的な組成等、詳細な反応条件に依存することなく、表層N濃度、また表層C濃度を、高い正確性をもって制御することができる。よって、本実施形態にかかる表面処理方法を実行するに際し、表面処理にかかる各種反応条件は、特に限定されるものではない。
しかし、表面処理時の加熱温度は、700℃以上のように、高温であることが好ましい。上記でも説明したとおり、高温で表面処理を行う場合ほど、表層N濃度や表層C濃度の制御が難しくなるが、窒化ポテンシャルKnやカーボンポテンシャルCPに基づく本実施形態の制御を適用することで、それら濃度の制御における精度および簡便性が、効果的に向上するからである。加熱温度の上限は、特に定められないが、1000℃程度が想定される。また、炉内の雰囲気の圧力(全圧)は、特に限定されるものではないが、大気圧程度としておくことが好ましい。
窒化ポテンシャルKnは、0.0001以上、また0.02以下であることが好ましい。また、カーボンポテンシャルCPは、0.1以上、また1.4以下であることが好ましい。上記のとおり、表面処理の対象とする金属材の具体的な成分組成も特に限定されるものではないが、鋼材を表面処理の対象とする場合に、表面処理を行う前の鋼中のC濃度は、0.6質量%以下であることが好ましい。
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
[1]雰囲気中のH濃度と表層N濃度の関係
まず、浸炭窒化工程において、金属材表層部のN濃度が、雰囲気中のH濃度にどのように影響されるのかについて、確認した。
[試験方法]
Fe材(C:0質量%)を熱処理炉内に収容し、浸炭窒化処理を行った。この際、炉内の雰囲気は、NHとH、CO、Oを含むものとした。炉内の温度は、850℃とし、雰囲気の全圧は、1気圧とした。カーボンポテンシャル(CP)は、0.6%とした。
の濃度を、体積%で、30%と60%の2通りとなる条件とし、それぞれの場合について、炉内へのNHの導入量を制御することで、分解されていないNH(残留NH)の濃度を変化させた。この間、残留NHの濃度(分圧)を、熱処理炉に取り付けた分圧計で計測するとともに、表層N濃度(平衡N濃度)を見積もった。表層N濃度の見積もりは、純Feに近い組成を有する鋼箔を熱処理炉内に配置して、浸炭窒化処理を実施し、その鋼箔を化学分析することによって行った。鋼箔としては、厚さ50μmのものを用いており、試料全域を表層とみなすことができるので、鋼箔全体に対して分析したN濃度を、表層N濃度として用いることができる。
[試験結果]
図1に、それぞれのH濃度について計測された、残留NH濃度と、平衡N濃度の関係を示す。
図1によると、いずれのH濃度についても、NH濃度の増大に伴って、平衡N濃度が単調増加している。つまり、NH濃度が増大するほど、式(1)の反応が右辺側に進行し、Fe表面において浸窒が進行する。ここで、H濃度が異なっている場合に、NH濃度と平衡N濃度の関係は、同一ではなく、H濃度が高いほど、各NH濃度における平衡N濃度が低くなっている。具体的には、H濃度が60%の場合に、各NH濃度における平衡N濃度は、H濃度が30%の場合に対して、1/2以下となっている。さらに、NH濃度が高い領域ほど、H濃度による平衡N濃度の差が大きくなっており、NH濃度が2000ppmの場合には、H濃度が60%の時に、30%の時と比較して、平衡N濃度が、1/2.5以下となっている。
このように、金属材表層部のN濃度は、雰囲気中のNH濃度だけでなく、H濃度にも大きく依存する。よって、N濃度を制御するにあたり、NH濃度だけを計測し、制御するのでは不十分であり、H濃度についても、計測と制御を行うことが、N濃度の正確な制御に必要であると言える。
[2]窒化ポテンシャルKnと表層N濃度の関係
次に、浸炭窒化工程における窒化ポテンシャルKnと金属材表層部のN濃度の関係について、調べた。
[試験方法]
ここでは、コンピュータシミュレーションを用いて、所定のカーボンポテンシャルCPを想定した際に、窒化ポテンシャルKnと表層N濃度がどのような相関性を示すかを調べた。具体的には、Feに対する浸炭窒化工程における平衡状態を、CALPHAD法により再現し(使用ソフトウェア:Thermo−Calc)、雰囲気の組成を変化させながら、Fe材の表層部における平衡N濃度を見積もった。
[試験結果]
図2に、カーボンポテンシャルCPが0.6%である場合について、シミュレーションによって得られた窒化ポテンシャルKn(単位:atm−1/2)と表層N濃度(単位:質量%)との関係を示す。温度は、(a)で750℃、(b)で800℃、(c)で850℃、(d)で900℃とした。
(c)の850℃および(d)の900℃の場合については、対応する実験結果が、それぞれ図3(a),(b)の左図に存在している。図2(c),(d)のシミュレーション結果と、図3(a),(b)の白抜きの丸印(○)で示す実験結果は、よく一致している。このことから、シミュレーションの妥当性が確認される。
図2(a)〜(d)によると、いずれの温度においても、表層N濃度が、窒化ポテンシャルKnに対して、単調増加の傾向を示している。また、同一の窒化ポテンシャルKnに対して、異なる温度での結果を比較すると、温度の上昇に伴い、表層N濃度が高くなっている。結果の掲載は省略するが、カーボンポテンシャルCPとして別の値を採用した場合にも、同様の傾向が確認された。
以上の結果より、窒化ポテンシャルKnと、表層N濃度との間には、高い相関性が存在することが示される。つまり、窒化ポテンシャルKnを制御することで、所望の表層N濃度を安定して得ることができると言える。
[3]NとCの相互作用
最後に、浸炭窒化工程におけるNとCの間の相互作用について、検討した。
[試験方法]
ここでは、実験により、浸炭窒化工程において、表層N濃度がいかにカーボンポテンシャルCPに影響されるか、また表層C濃度がいかに窒化ポテンシャルKnに影響されるかについて調べた。具体的には、Fe材およびSCr420材について、熱処理炉内にNHおよびCO、Oを導入し、NH、H、CO、Oの分圧をそれぞれ計測しながら、850℃または900℃で浸炭窒化処理を行った。その間、各分圧値から、それぞれ式(2)および式(10)によって算出される窒化ポテンシャルKnおよびカーボンポテンシャルCPと、上記試験[1]と同様に、Feの鋼箔およびSCr420の鋼箔を用いた化学分析によって計測される表層N濃度および表層C濃度との関係を記録した。雰囲気の全圧は、1気圧とした。
[試験結果]
図3に、窒化ポテンシャルKnと表層N濃度との関係を示す。(a)が850℃でのFe、(b)が900℃でのFe、(c)が850℃でのSCr420についての結果である。それぞれ、カーボンポテンシャルCPが異なる場合についての結果を、同一のグラフ上に表示している。
図3(a)〜(c)のそれぞれにおいて、左側の図が、実測された分圧値から計算された窒化ポテンシャルKnの値(つまり操業窒化ポテンシャルKn;単位 atm−1/2)と、表層N濃度(単位 質量%)との関係を示している。(a)〜(c)のいずれにおいても、図2のシミュレーションで確認されたのと同様に、窒化ポテンシャルKnに対して、表層N濃度が単調増加する傾向が見られている。しかし、カーボンポテンシャルCPの値が異なっていると、窒化ポテンシャルKnが同じでも、異なるN濃度が観測されている。具体的には、カーボンポテンシャルCPが大きいほど、N濃度が小さくなっている。このことは、表層N濃度が、窒化ポテンシャルKnだけに依存するのではなく、カーボンポテンシャルCPにも依存すること、つまり浸炭窒化工程において、NとCの間に相互作用が存在することを示している。
そこで、カーボンポテンシャルCPによる表層N濃度への影響を、窒化ポテンシャルKnから排除することを考える。実測された分圧値から計算された窒化ポテンシャルKnの値を操業窒化ポテンシャルKnとし、窒素操業係数Aを用いて、無影響窒化ポテンシャルKnを、Kn=Kn/Aと表現する。A=A0+A1・CP+A2・CPとして、図3(a)〜(c)のそれぞれにおいて、カーボンポテンシャルCPの値によらず、無影響窒化ポテンシャルKnと表層N濃度を一対一に対応づけられるように、つまり、共通の曲線上に全CP値のデータ点が乗るように、係数A0、A1、A2を求める。図3(a)〜(c)の全てに共通して適用しうる係数A0、A1、A2を、重回帰によって求めると、以下の値が得られる。
A0=0.997、A1=0.324、A2=−0.0164
図3(a)〜(c)のそれぞれの右側に、上記係数A0〜A2とCP値から算出される窒素操業係数Aで除すことで、カーボンポテンシャルCPの影響を排除した窒化ポテンシャルKn(つまり無影響窒化ポテンシャルKn)を横軸として、表層N濃度との関係を示す。それによると、(a)〜(c)のいずれにおいても、カーボンポテンシャルCPによらず、無影響窒化ポテンシャルKnに対して、表層N濃度が、共通の単調増加曲線に乗っている。つまり、上記のように、カーボンポテンシャルCPを二次まで考慮した係数Aで、窒化ポテンシャルKnの値を除すことにより、表層N濃度に対するCの影響を排除することができている。しかも、その係数Aを定めるのに、熱処理時の温度や、金属材の種類によらず、共通の係数A0、A1、A2を用いることができる。換言すると、得られた無影響窒化ポテンシャルKnに、係数Aを乗じて得られる操業窒化ポテンシャルKnを用いることで、CとNの相互作用を、適切に、また簡便に取り込んで、表層N濃度を制御することができると言える。
さらに、図4に、カーボンポテンシャルCPと表層C濃度との関係を示す。(a)が850℃でのFe、(b)が900℃でのFe、(c)が850℃でのSCr420についての結果である。それぞれ、窒化ポテンシャルKnが異なる場合についての結果を、同一のグラフ上に表示している。
図4(a)〜(c)のそれぞれにおいて、左側の図が、実測された分圧値から計算されたカーボンポテンシャルCPの値(つまり操業カーボンポテンシャルCP;単位 %)と、表層C濃度(単位 質量%)との関係を示している。図中、炭化物の析出が起こる境界を、右上部に実線にて表示しており、それよりもC濃度が大きい領域が、炭化物析出域となるが、以下では、その境界よりもC濃度が小さい領域、つまり炭化物の析出が起こらない領域について取り扱う。
図4(a)〜(c)のいずれにおいても、カーボンポテンシャルCPに対して、表層C濃度が単調増加する傾向が見られている。しかし、窒化ポテンシャルKnの値が異なっていると、カーボンポテンシャルCPが同じでも、異なるC濃度が観測されている。具体的には、窒化ポテンシャルKnが大きいほど、C濃度が小さくなっている。このことは、表層C濃度は、カーボンポテンシャルCPだけに依存するのではなく、窒化ポテンシャルKnにも依存すること、つまり、NとCの間に相互作用が存在することを示している。図3の表層N濃度と窒化ポテンシャルKnとの関係から、NとCとの相互作用が、表層N濃度に対して影響を与えることが示されているが、その相互作用は、表層C濃度に対しても影響を与える。
そこで、窒化ポテンシャルKnによる表層C濃度への影響を、カーボンポテンシャルCPから排除することを考える。実測された分圧値から計算されたカーボンポテンシャルCPの値を操業カーボンポテンシャルCPとし、炭素操業係数Bで除すことで、窒化ポテンシャルKnの影響を排除したカーボンポテンシャルCP(つまり無影響カーボンポテンシャルCP)を、CP=1/B・CPと表現する。B=B0+B1・Kn+B2・Knとして、図4(a)〜(c)のそれぞれのデータにおいて、窒化ポテンシャルKnの値によらず、無影響カーボンポテンシャルCPと表層C濃度を一対一に対応づけられるように、つまり、共通の曲線上に全Knのデータ点が乗るように、係数B0、B1、B2を求める。図4(a)〜(c)の全てに共通して適用しうる係数B0、B1、B2を、重回帰によって求めると、以下の値が得られる。
B0=0.997、B1=35.8、B2=−742
図4(a)〜(c)のそれぞれの右側に、上記係数B0〜B2とKn値から算出される炭素操業係数Bで除すことで、窒化ポテンシャルKnの影響を排除したカーボンポテンシャルCP(つまり無影響カーボンポテンシャルCP)を横軸として、表層C濃度との関係を示す。それによると、(a)〜(c)のいずれにおいても、窒化ポテンシャルKnの値によらず、無影響カーボンポテンシャルCPに対して、表層C濃度が、共通の単調増加曲線に乗っている。つまり、上記のように、窒化ポテンシャルKnを二次まで考慮した係数Bで、カーボンポテンシャルCPの値を除すことにより、表層C濃度に対するNの影響を排除することができている。しかも、その係数Bを定めるのに、熱処理時の温度によらず、共通の係数B0、B1、B2を用いることができる。換言すると、得られた無影響カーボンポテンシャルCPに、係数Bを乗じて得られる操業カーボンポテンシャルCPを用いることで、CとNの相互作用を、適切に、また簡便に取り込んで、表層C濃度を制御することができると言える。
以上に示されるように、表層N濃度については、カーボンポテンシャルCPの関数として求められる窒素操業係数Aを無影響窒化ポテンシャルKnに乗じて、操業窒化ポテンシャルKnを求めることにより、また、表層C濃度については、窒化ポテンシャルKnの関数として求められる炭素操業係数Bを無影響窒化ポテンシャルCPに乗じて、操業カーボンポテンシャルCPを求めることにより、CとNとの相互作用を取り込んで、窒化ポテンシャルKnと表層N濃度の関係、またカーボンポテンシャルCPと表層C濃度の関係を、正確に評価することができる。また、そのようにCとNの相互作用を取り込んだ操業窒化ポテンシャルKnおよび操業カーボンポテンシャルCPを用いて、雰囲気を制御することにより、熱処理にかかる条件が変化することがあっても、表層N濃度および表層C濃度を、正確に、また簡便に制御することができると言える。
以上、本発明の実施形態および実施例について説明した。本発明は、これらの実施形態および実施例に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。

Claims (11)

  1. NH、H、COを含む雰囲気中で、金属材に対して、表面処理として、浸窒焼入れ処理または浸炭窒化処理を行うに際し、
    前記雰囲気において、NHの分圧P(NH)およびHの分圧P(H)をそれぞれ計測するとともに、該計測値に基づいて、Kn=P(NH)/P(H3/2として、窒化ポテンシャルKnを見積もり、
    前記金属材の表層部のN濃度と前記窒化ポテンシャルKnとの関係に基づいて、所望のN濃度に対応付けられる前記窒化ポテンシャルKnを目標値として、前記雰囲気中のNHおよびHの少なくとも一方の分圧を制御することにより、前記窒化ポテンシャルKnを制御する、金属材の表面処理方法。
  2. 前記表面処理は、700℃以上の温度で行う、請求項1に記載の金属材の表面処理方法。
  3. 前記雰囲気のカーボンポテンシャルCPによる前記N濃度への影響を、前記窒化ポテンシャルKnに取り込んだ、操業窒化ポテンシャルKnを、前記窒化ポテンシャルKnとして用いる、請求項1または請求項2に記載の金属材の表面処理方法。
  4. 前記カーボンポテンシャルCPによる前記N濃度への影響が存在しない場合の前記窒化ポテンシャルKnを、無影響窒化ポテンシャルKnとして、
    前記操業窒化ポテンシャルKnは、窒素操業係数Aを用いて、Kn=A・Knと表され、
    前記窒素操業係数Aは、A0、A1、A2を定数として、前記カーボンポテンシャルCPを用いて、A=A0+A1・CP+A2・CPと表される、請求項3に記載の金属材の表面処理方法。
  5. 前記係数A0、A1、A2は、前記カーボンポテンシャルCPの異なる雰囲気で、前記窒化ポテンシャルKnを変化させながら、前記N濃度を計測した予備試験によって定められる、請求項4に記載の金属材の表面処理方法。
  6. 前記金属材は、Fe基合金よりなり、
    前記Fe基合金がオーステナイト相をとる領域において、A0=0.997、A1=0.324、A2=−0.0164である、請求項4または請求項5に記載の金属材の表面処理方法。
  7. 前記雰囲気において、前記COの分圧、およびCOまたはOの分圧をそれぞれ計測し、
    前記金属材の表層部のC濃度と前記雰囲気のカーボンポテンシャルCPとの関係に基づいて、所望のC濃度に対応付けられるカーボンポテンシャルCPを目標値として、前記雰囲気中のCOの分圧、および前記COまたはOの分圧の少なくとも一方を制御することにより、前記カーボンポテンシャルCPを制御する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の金属材の表面処理方法。
  8. 前記窒化ポテンシャルKnによる前記C濃度への影響を、前記カーボンポテンシャルCPに取り込んだ、操業カーボンポテンシャルCPを、前記カーボンポテンシャルCPとして用いる、請求項7に記載の金属材の表面処理方法。
  9. 前記窒化ポテンシャルKnによる前記C濃度への影響が存在しない場合の前記カーボンポテンシャルCPを、無影響カーボンポテンシャルCPとして、
    前記操業カーボンポテンシャルCPは、炭素操業係数Bを用いて、CP=B・CPと表され、
    前記炭素操業係数Bは、B0、B1、B2を定数として、前記窒化ポテンシャルKnを用いて、B=B0+B1・Kn+B2・Knと表される、請求項8に記載の表面処理方法。
  10. 前記係数B0、B1、B2は、前記窒化ポテンシャルKnの異なる雰囲気で、前記カーボンポテンシャルCPを変化させながら、前記C濃度を計測した予備試験によって定められる、請求項9に記載の金属材の表面処理方法。
  11. 前記金属材は、Fe基合金よりなり、
    前記Fe基合金がオーステナイト相をとる領域において、B0=0.997、B1=35.8、B2=−742である、請求項9または請求項10に記載の金属材の表面処理方法。
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