<処理設備の概略な構成>初めに、図1を参照して、本実施形態のバブリング型流動床式反応炉1を含む処理設備100の構成について説明する。図1は、本発明のバブリング型流動床式反応炉1を含む処理設備100の構成を示す概略図である。なお、以下の説明において「上流」及び「下流」とは、処理対処物、燃焼ガス、排ガス、流動用気体等が流れる方向の上流及び下流を意味する。
処理設備100は、石炭、バイオマス、破棄物固形燃料(RDF:Refuse Derived Fuel)等の処理対象物に対して、乾燥、熱分解、及び燃焼のうち少なくとも何れかの熱処理を行うために用いられる。図1に示すように、処理設備100は、バブリング型流動床式反応炉1、気体供給部4、気体加温装置5、下流処理設備6、及び制御装置9等を備える。バブリング型流動床式反応炉1の詳細な構成は後述する。
気体供給部4は、流動用気体供給装置41と、二次燃焼用気体供給装置42と、を備える。流動用気体供給装置41は、バブリング型流動床式反応炉1の炉内に流動用気体を供給する。二次燃焼用気体供給装置42は、炉内で発生する二次燃焼に用いられる二次燃焼用気体を供給する。流動用気体供給装置41及び二次燃焼用気体供給装置42は、例えば、送風機、ブロワ等から構成することができる。
気体加温装置5は、流動用気体供給装置41により外部から吸い込んだ流動用気体を、バブリング型流動床式反応炉1に供給する前に加温することができる。流動用気体の加温には、例えば、バブリング型流動床式反応炉1から排出された排ガスの熱が利用される。
下流処理設備6は、バブリング型流動床式反応炉1から排出された排ガスを処理することができる。下流処理設備6は、例えば、燃焼脱臭設備、二次燃焼設備、排熱回収設備、排ガス処理設備等から構成される。
制御装置9は、例えば公知のコンピュータとして構成される。制御装置9は、図示しないCPU、RAM、ROM、HDD等を備え、種々の演算を行うとともに、処理設備100の全体を制御する。制御装置9が備える記憶部は、処理設備100を制御するための様々なデータを記憶する。この記憶部は、上記のROM及びHDD等から構成されている。
<バブリング型流動床式反応炉1の構成>バブリング型流動床式反応炉1は、図1に示すように、炉本体と、赤外線カメラ3と、を備える。炉本体は、主として、フリーボード部10、流動床部11、流動用気体供給部12、及び流動用気体供給母管部13から構成される。
以下では、バブリング型流動床式反応炉1を、処理対象物の焼却のために用いる例を説明する。フリーボード部10と流動床部11とから、処理対象物を焼却するための燃焼室が構成される。
フリーボード部10は、バブリング型流動床式反応炉1の炉内空間であって、流動床部11を除いた炉内の上方の部分である。フリーボード部10の上部には排出口10aが設けられている。バブリング型流動床式反応炉1は、炉内で生成された後述の排ガス、燃焼後微粒子等を、排出口10aから排出することができる。フリーボード部10の側壁には、投入口10bと、二次燃焼用空気供給口10cと、が設けられている。処理対象物は、投入口10bを介して炉内に投入される。二次燃焼用空気供給口10cは、二次燃焼用気体供給装置42から送られてきた二次燃焼用気体を炉内に供給することができる。
流動床部11は、フリーボード部10より下方に位置する炉内空間である。流動床部11には、例えば珪砂等の流動媒体が充填されている。流動床部11内の流動媒体に流動用気体を通気することで、流動媒体を液体のようにバブリングさせる。この結果、バブリング状態の流動床が形成される。なお、以下の説明においては、流動床内においてバブリングにより流動状態となっている流動媒体の全体を、流動媒体層11aと称することがある。この意味で、バブリング型流動床式反応炉1の高さ方向における流動媒体の全体の高さが、流動媒体層11aの厚みとなる。
流動床部11(流動媒体層11a)内の流動媒体の充填量は、例えば、バブリング型流動床式反応炉1の近傍又は離れた位置に設けられた図略の流動媒体貯留部から流動媒体を炉内に充填することで増やすことができる。一方、流動床部11内の流動媒体を流動媒体貯留部へ排出することで、流動床部11(流動媒体層11a)内の流動媒体の充填量を減らすことができる。この流動媒体の充填量の増加及び減少は、例えば、制御装置9が関連装置を稼動させることで自動的に行われる。流動媒体の量の変更は、オペレータが手動で関連装置を操作することによって行われても良い。
流動用気体供給部12は、流動床部11の下側に設けられている。流動用気体供給部12は、流動用気体供給母管部13に送られてきた流動用気体を、流動媒体層11aに供給する。
流動用気体供給部12は、図略のダンパ(又はバルブ)等の流量調整装置及び流量計を備える。これにより、流動用気体供給部12は、流動媒体層11aの底部の複数箇所の全部、又は一部に流動用気体を供給することができる。言い換えれば、流動用気体供給部12を介することで、流動媒体層11aの底部に対して部分的に流動用気体を供給したり、流動媒体層11aの底部の各部に互いに異なる流量の流動用気体を供給したりすることができる。流動用気体供給部12が備える流量調整装置及び流量計は、制御装置9と通信可能に構成される。流量調整装置は、制御装置9により制御される。
流動用気体供給部12は、気体分散ノズルを使用しない「散気管方式」や、気体分散ノズルを使用する「分散板方式」等、多様な型式に構成することができる。流動用気体供給部12の形式は、処理対象物の種類、熱処理(炉内の熱反応)の種類等を考慮して、バブリング型流動床式反応炉1の特性を考慮して定めることができる。本発明は、流動用気体供給部12の型式を問わず適用することができる。
流動用気体供給母管部13は、流動用気体供給部12の下側に設けられている。流動用気体供給母管部13には、流動用気体が、気体加温装置5を介して流動用気体供給装置41から供給される。
バブリング型流動床式反応炉1は、図1に示すように、流動媒体炉外排出管14を介して流動媒体炉外排出装置21と接続されている。流動媒体炉外排出管14は、炉内(流動媒体層11a)の底部に接続された通路である。流動媒体炉外排出管14は、炉内の流動媒体、及び、流動媒体に混入している不燃物等の夾雑物を、炉外へ排出することができる。流動媒体炉外排出管14は、バブリング型流動床式反応炉1に対して1つだけ設けることに限定されず、複数設けても良い。
流動媒体炉外排出装置21の稼動によって、バブリング型流動床式反応炉1から排出された流動媒体及び夾雑物は、夾雑物分級装置22に送られる。夾雑物分級装置22は、バブリング型流動床式反応炉1から排出された流動媒体から夾雑物を分離するために用いられる。流動媒体炉外排出装置21の稼動は、制御装置9により制御される。
夾雑物分級装置22の流動媒体回収口22aと、バブリング型流動床式反応炉1と、を接続するように、流動媒体返送装置23が配置されている。夾雑物分級装置22により夾雑物が分離された流動媒体は、流動媒体返送装置23を介して、バブリング型流動床式反応炉1に返送される。
赤外線カメラ3は、物体から放射される赤外線を可視化するためのカメラから構成される。赤外線カメラ3は、静止画を撮像することを主目的とする機器であっても良いし、動画を撮像することを主目的とする機器であっても良い。動画は連続する複数の静止画であるため、何れの機器であっても、熱画像を取得するという機能は同じである。
<異なる2種類の流動状態を同時に実現する構造について>本実施形態のバブリング型流動床式反応炉1において、図1に示すように、流動床部11は、バブリング型流動床式反応炉1の高さ方向において、異なる断面積を有する上下2つの部分から構成される。
具体的に説明すると、流動床部11内の流動媒体層11aには、図1に示すように、上部流動媒体層部(上層部流動床)11bと、下部流動媒体層部(下層部流動床)11cと、が形成される。上部流動媒体層部11bと下部流動媒体層部11cとで、水平な平面で切ったときの断面積が互いに異なっている。本実施形態では、上部流動媒体層部11bの断面積が、例えば、下部流動媒体層部11cの断面積の1.4倍以上となっている。
流体の流量が一定である場合、断面積が増加すると流速が低下する。従って、通常どおりの供給量の流動用気体を炉底から流動媒体層11a(即ち、下部流動媒体層部11c)に供給する場合、流動用気体の流速は、下部流動媒体層部11cを通過するときよりも、上部流動媒体層部11bを通過するときの方が低くなる。この結果、上部流動媒体層部11b内の流動媒体の流動状態が、下部流動媒体層部11c内の流動媒体の流動状態より穏やかになる。即ち、上部流動媒体層部11b及び下部流動媒体層部11cにおいて、異なる激しさを有する2種類の流動状態が形成される。
このように、流動媒体層11aに、厚み方向における2種類の流動状態の層を持たせることで、流動床界面の全面において概ね同一の流動状態を有するように促すことができる。この結果、流動床界面全面の流動状態を穏やかにすることができるとともに、局所的に異なる流動状態の形成を回避できる。
ところで、処理対象物に対する熱処理の初期段階においては、処理対象物内における水分量の割合が高い場合が多い。このため、熱処理の初期段階で強い熱反応が起きると、処理対象物内の水分が一気に蒸発して、大量の水蒸気(ガス状物質)が発生してしまう。これにより、温度が急上昇して、熱反応が必要以上に亢進されてしまう。
この点、本実施形態のバブリング型流動床式反応炉1では、流動媒体層11aが2種類の流動状態を有するように構成され、特に、処理対象物と先に接触する上部流動媒体層部11bの流動状態が穏やかになっている。従って、処理対象物に対する熱処理の初期段階において、猛烈な熱反応が起きるのを防止できる。即ち、処理対象物に対する熱処理の当初において、反応性(反応の速さ)を抑えながら熱反応を進行させることで、温度の急上昇、及び発生する水蒸気等のガス状物質の量の急増を回避することができる。
これにより、炉内の圧力の変動を穏やかにすることができ、フリーボード部10で発生する二次燃焼の燃焼完結性を良好に維持することができる。また、排ガスの急増を抑えることができるので、下流処理設備6の冗長性を削減した設計が可能になる。
<気体の挙動>流動用気体は、流動用気体供給装置41により外部から吸い込まれ、適宜の圧力に加圧されて、流動用気体供給母管部13に供給される。流動用気体供給母管部13に供給された流動用気体は、流動用気体供給部12を介して流動媒体層11aに供給される。
流動用気体供給装置41から流動用気体供給母管部13に送られる途中で、流動用気体は、気体加温装置5により適宜の温度に加温される。ただし、加温の必要がない場合、気体加温装置5を経由せずに流動用気体を流動用気体供給母管部13に供給することもできる。
流動用気体を加温するために、気体加温装置5に加えて、バブリング型流動床式反応炉1内のフリーボード部10等の付近に設けられた加温装置が用いられても良い。この加温装置は、例えば、外部からの燃料等を使用して加熱する装置から構成される。なお、この加温装置として、フリーボード部10を加温する加温装置を用いることができる。
流動媒体層11aに供給された流動用気体は、流動媒体層11a内を通過して上昇する間に、流動媒体との間で熱交換を行いながら、流動媒体層11a内に取り込まれた(沈んできた)処理対象物との接触により、乾燥、熱分解、燃焼のうち少なくとも何れかの熱反応を進行させる。
流動用気体は、上記の熱反応を進めながら、流動媒体層11a内の各流動媒体粒子を様々な方向に大きく移動させることで、流動媒体層11aを流動させる。流動媒体層11aの全体に対して、その内部に適量の流動用気体を継続的に通過させることで、流動媒体層11a全体を適正な流動状態に維持することができる。
流動媒体層11aの下部流動媒体層部11cを通過した流動用気体は、流動媒体層11a部分の断面積の増加によって、より遅い速度で上部流動媒体層部11bを通過する。これにより、流動用気体の流動による流動媒体粒子の動きの激しさが抑えられ、流動用気体及び流動媒体粒子との接触による処理対象物の熱反応の速度が抑制される。即ち、上部流動媒体層部11bにおいて、下部流動媒体層部11cより穏やかな熱反応が行われている。
流動媒体層11aを通過した流動用気体(及び/又は流動後気体)が上部流動媒体層部11bの上側界面をフリーボード部10側に抜ける過程で、流動媒体がブクブクと沸騰するような現象が現れる。以下の説明においては、流動媒体層11aにおいて流動用気体が表面に孔を形成しながら上方に通過している上側界面を、流動床界面と称することがある。
流動後気体とは、流動媒体層11aの内部で上記の熱反応が終わって、内部成分が変化した流動用気体のことである。流動後気体は、発生した熱反応の種類に応じて成分がそれぞれ異なるが、例えば乾燥排ガス、熱分解ガス、一次燃焼ガス等から構成される。
流動媒体層11aを通過した流動後気体は、上方のフリーボード部10まで上昇する。この流動後気体には、二次燃焼用気体供給装置42から二次燃焼用空気供給口10cを介して供給された二次燃焼用気体が混入される。
フリーボード部10において、二次燃焼用気体が混入されることにより、流動後気体の二次燃焼反応が進む。流動後気体内に含有する未燃成分(及び/又は不完全燃焼成分)を燃焼させることにより、当該未燃成分を無害化することができる。なお、流動後気体内の未燃成分(及び/又は不完全燃焼成分)を燃焼して無害化させる処理は、バブリング型流動床式反応炉1とは別途に設けられた反応装置で行っても良い。
流動後気体が二次燃焼することで生成された排ガスは、下流処理設備6へ排出される。排ガスは、下流処理設備6により、排熱回収、冷却、除塵等の処理が適宜行われた後、煙突等により大気へ排出される。
<固体の挙動>給じん装置24によって送られた処理対象物は、投入口10bを介して炉内に投入される。投入口10bは流動媒体層11aより上方に位置しているため、投入された処理対象物は流動媒体層11aの流動床界面へ自然落下する。なお、処理対象物は、それぞれの性状の供給装置、及び粉砕等の処理装置を介して、外部から給じん装置24に供給することができる。
給じん装置24は、外部から処理対象物をバブリング型流動床式反応炉1の炉内に投入する。給じん装置24は、例えば、供給コンベア等から構成することができる。
流動床界面に落下した処理対象物は、流動用気体により上方(フリーボード部10内)に噴出された流動媒体により埋められながら、流動媒体の流動によって、流動媒体層11aの内部に沈んでいく。流動媒体層11a内に沈没した処理対象物は、流動媒体層11a内で様々な方向へ大きく移動する(激しく動いている)個々の流動媒体粒子、及び流動媒体層11a内を通過し上昇する流動用気体と接触することで、分解(微細化)されながら燃焼反応を進行させる。
上部流動媒体層部11bでは、通過する流動用気体の速度が相対的に低いため、流動媒体の動きは、下部流動媒体層部11cと比較して穏やかである。これにより、上部流動媒体層部11b内に沈没した処理対象物の熱反応は、相対的遅い速度で進行する。この結果、燃焼反応等の熱反応で大量のガス状物質(特に、水蒸気等)が一気に生成されることを回避できる。
上部流動媒体層部11bにおいて乾燥等の熱処理がされた処理対象物は、下部流動媒体層部11cに沈降する。下部流動媒体層部11cにおいて処理対象物は、流動媒体粒子及び流動用気体との間で相対的に激しく接触することで、素早く細分化される。
このように、本実施形態では、上部流動媒体層部11bを相対的に穏やかな流動状態とし、下部流動媒体層部11cを相対的に激しい流動状態としている。これにより、未乾燥状態の処理対象物に対しては、上部流動媒体層部11bでは熱反応を穏やかに進行させることで、水蒸気の大量発生を回避できるので、温度の急上昇を防止でき、穏やかな熱反応を好適に維持することができる。一方、乾燥済の処理対象物に対しては、下部流動媒体層部11cにおいて、相対的に激しい(反応速度が速い)熱反応を進行させることで、処理対象物を素早く微細化することができる。この結果、未燃状態の処理対象物による流動阻害及び炉の閉塞等を防止して、円滑かつ安定した処理を行うことができる。
処理対象物の燃焼反応の進行に伴い、燃焼後微粒子が生成される。処理対象物に瓦礫、金属等の不燃物が含まれている場合、処理対象物の燃焼反応の進行に伴い、不燃物等からなる夾雑物が流動媒体層11a内に残される。夾雑物は、真比重が重いので、流動媒体層11a内に沈降していく。流動媒体層11aの底部まで沈降した夾雑物は、周辺の流動媒体とともに、流動媒体炉外排出装置21の動作によって、流動媒体炉外排出管14を介して炉外へ排出される。
炉外に排出された夾雑物と流動媒体は、夾雑物分級装置22に送られる。夾雑物分級装置22により夾雑物を分離した流動媒体は、流動媒体回収口22aから排出されて、流動媒体返送装置23によって搬送される。流動媒体は、バブリング型流動床式反応炉1の流動媒体層11aより上方のフリーボード部10等の位置から炉内に戻される。
分離された夾雑物は、夾雑物分級装置22から外部に排出される。排出後の夾雑物は、例えば、別途に設けられた選別機(磁選機等)を介して、それぞれの材質に応じて分類され、適宜の処理が行われる。
一方、処理対象物(夾雑物を除く)の熱処理によって生成された燃焼後微粒子は、流動媒体層11aを通過して上昇する流動用気体(及び/又は流動後気体、排ガス)に乗って上昇する。燃焼後微粒子は、バブリングしている流動床界面を通過して、フリーボード部10へ流れる。燃焼後微粒子に含まれている未燃成分は、フリーボード部10内に供給された二次燃焼用気体との混合により二次燃焼される。フリーボード部10において燃焼後微粒子は排ガスに乗って搬送され、排出口10aを介して、バブリング型流動床式反応炉1から排出される。バブリング型流動床式反応炉1から排出された燃焼後微粒子は、下流処理設備6へ供給される。
<熱画像の取得について>本実施形態において、バブリング型流動床式反応炉1には、図1に示すように赤外線カメラ3が設けられている。
赤外線カメラ3は、炉内の物体から放射される赤外線を検出することで、炉内の熱画像を取得する。赤外線カメラ3により取得された熱画像は、赤外線カメラ3の視点から見た炉内の温度分布を示す画像である。視点とは、計測器である赤外線カメラ3が配置されている位置を示す。
また、本実施形態の赤外線カメラ3は、選択透過フィルタ3aを介して、炉内の熱画像を取得している。選択透過フィルタ3aは、火炎が放射しない波長(例えば3.9μm帯)の光を選択的に透過させるフィルタである。
ここで、「火炎が放射しない」とは、火炎が放射する他の波長の光と比較して大幅に光度が低い(殆ど照射しない)という意味であり、当該波長の光を火炎が全く放射しないことを示すものではない。
選択透過フィルタ3aを用いることにより、火炎の向こう側にある物体の熱画像を透視的に取得できる。なお、本実施形態において、選択透過フィルタ3aは、赤外線カメラ3と一体的に構成されているが、別体であっても良い。つまり、炉内の光が通る経路上に選択透過フィルタ3aを配置し、この選択透過フィルタ3aを透過した透過光を通常の赤外線カメラで処理しても良い。
上記のように、赤外線カメラ3及び選択透過フィルタ3aを介して炉内の温度分布を示す熱画像を取得することで、発光する火炎を伴わない反応である場合、また、炉内が真っ暗で有用な可視光学画像を取得できない熱処理を行う反応炉の場合においても、暗闇の奥にある物体の熱画像を取得することができる。
赤外線カメラ3は、3次元熱画像(温度分布を3次元的に示す画像)を作成することを目的として、複数(例えば2つ以上)設けられている。当該複数の赤外線カメラ3の相対位置は、制御装置9により予め記憶されている。
それぞれの赤外線カメラ3は、バブリングしている流動床界面全面を見下ろす位置に設置することが望ましい。赤外線カメラ3は、例えば、バブリング型流動床式反応炉1の天井面、フリーボード部10の側壁面等の位置に設置することができる。この赤外線カメラ3は、バブリングしている流動床界面全面を取得画像範囲に含むことが必要である。ただし、赤外線カメラ3の設置上の制約等によって、取得画像範囲内に流動床界面全面を含むことが困難な場合は、その限りではない。
本実施形態では、制御装置9は、公知の画像合成処理を行い、複数の赤外線カメラ3により取得された熱画像に基づいて3次元熱画像を作成する(3次元熱画像作成工程)。制御装置9は、作成した流動床界面の3次元熱画像を、当該熱画像に対応する流動床内のバブリング状態に影響を与える1又は複数の操作変数と関連付けて記憶する。この操作変数は、例えば、流動用気体の通気量、通気箇所、流動用気体温度、処理対象物の処理量、流動媒体の充填量等を含む。
ここで、2つの赤外線カメラ3からの熱画像に基づいて3次元熱画像を作成する画像合成処理を簡単に説明する。先ず、バブリングしている流動床界面のある特定箇所が、2つの赤外線カメラ3が同時点で取得した2つの熱画像のそれぞれにおいて表示された位置を特定する。そして、予め記憶されている2つの赤外線カメラ3のそれぞれの配置位置及び視点を用いて、三角法等に基づいて、それぞれの赤外線カメラ3から、バブリングしている流動床界面の特定箇所までの距離を算出する。各赤外線カメラ3から特定箇所までの距離のそれぞれに基づいて、特定箇所の3次元座標を得ることができる。このように処理することで、制御装置9は、バブリングしている流動床界面の各部分の3次元座標をそれぞれ特定しながら、3次元熱画像を作成する。
<制御装置が行う制御>本実施形態の制御装置9は、赤外線カメラ3により取得された熱画像を用いて作成された3次元熱画像に基づいて、バブリング型流動床式反応炉1内の流動床界面の平均高さを監視し、必要に応じて、流動床界面の平均高さを適正範囲内に維持するように流動媒体層11a内の流動媒体の充填量を増加又は減少させる。この流動媒体層11a内の流動媒体の充填量の増減は、上記で説明したように、手動又は自動的に行うことができる。
初めに、制御装置9は、2つの赤外線カメラ3により取得された熱画像から3次元熱画像を作成して記憶する。作成された3次元熱画像は、流動床内のバブリング状態に影響を与える操作変数と関連付けた状態で記憶される。具体的には、本実施形態では図3に示すように、流動床界面を平面視でメッシュ状となるように分割することで、複数の分割単位M1が定義されている。3次元熱画像は、複数の分割単位M1に対応する流動床部分のバブリング状態に影響を与える操作変数と関連付けた状態で記憶される。
そして、制御装置9は、前記3次元熱画像に基づいて、流動床界面のそれぞれの分割単位M1における流動床界面の表面平均高さをそれぞれ算出する(単位流動床界面高さ算出工程)。ここでの平均高さとは、1つのメッシュに注目したときに、流動床界面の高さに関する、当該メッシュにおける場所的な平均値を意味する。制御装置9は、算出した各分割単位M1の表面平均高さのそれぞれと、各分割単位に対応する流動床内のバブリング状態に影響を与える操作変数と、を関連付けて記憶する(単位流動床界面高さ記憶工程)。
次に、制御装置9は、算出された各分割単位M1の表面平均高さに基づいて、流動床界面の平均高さを適正範囲内に維持するように、流動媒体の充填量を増減するように制御する。流動媒体の充填量の増減が手動で行われる場合、制御装置9は、例えば、流動媒体の充填量を増減すべき変化量を図略の表示装置に表示することで、オペレータに知らせる。また、流動媒体の充填量の増減が自動で行われる場合、制御装置9は、例えば、図略の流動媒体搬送装置、又は流動媒体炉外排出装置21等の関連装置を稼動させることで、炉外に設けられた図略の流動媒体貯留部から流動媒体を炉内に供給させたり、又は流動媒体貯留装置に貯留するように炉内の流動媒体の一部を炉内から排出させたりする。
この流動媒体の充填量の増減によって、図1に示すように、上部流動媒体層部11bの厚みが変化する。流動用気体の通気量及び流速が同一であっても、上部流動媒体層部11bの厚みが厚くなることで、上部流動媒体層部11b内の流動媒体の動きが遅くなる。一方、上部流動媒体層部11bの厚みが薄くなることで、上部流動媒体層部11b内の流動媒体の動きが相対的に速くなる。
言い換えれば、流動媒体の充填量(即ち上部流動媒体層部11bの厚み)を変更することで、上部流動媒体層部11b内の流動状態を調整することができる。これを利用して、上部流動媒体層部11b内において発生する熱反応の速度(反応度)を調整することができる。
これにより、様々な性状の処理対象物がバブリング型流動床式反応炉1に投入される場合でも、猛烈な熱反応が短時間で起きることを回避できる。即ち、処理対象物の性状による流動床のバブリング状態への影響を適切に平滑化することができ、流動床のバブリング状態を良好に安定させることができる。
本実施形態の制御装置9は、更に、流動床内のバブリング状態を安定させるための流動床バブリング状態安定化方法を実行する。これにより、流動床内のバブリング状態を監視しながら、流動媒体の充填量を調整する指示を必要に応じて行って、流動床内のバブリング状態を安定させることができる。
具体的には、制御装置9は、上記のように作成された3次元熱画像に基づいて、図3に示す上記の複数の分割単位M1毎の表面平均温度をそれぞれ算出する(単位流動床界面平均温度算出工程)。制御装置9は、算出した各分割単位M1の表面平均温度のそれぞれと、各分割単位に対応する流動床内のバブリング状態に影響を与える操作変数と、を関連付けて記憶する(単位流動床界面平均温度記憶工程)。
そして、制御装置9は、ある判定対象の分割単位M1に対して、前述のように記憶された当該分割単位M1の表面平均温度と、同一の操作変数が与えられた周辺の分割単位である周辺分割単位の表面平均温度と、を比較し、周辺分割単位との乖離である位置基準温度乖離を算出して記憶する(温度乖離算出工程)。
ところで、上記で説明したように、流動用気体供給部12から炉内に供給された流動用気体は、流動状態の流動媒体と、処理対象物と、に接触しながら流動床内を上昇し、流動床界面を通過してフリーボード部10へと流れる。流動床内を上昇する過程で、流動用気体は、流動媒体及び処理対象物との接触により、主に接触伝熱にて流動媒体及び処理対象物を加熱する。ここで、炉内の熱反応の形態によっては、流動用気体が流動床内を上昇する途中で、前記の物理的な熱交換が行われる以外に、各種発熱を伴う化学反応(熱反応)が進行し、流動床内の流動媒体、処理対象物、流動用気体がそれぞれ加熱される場合もある。分割単位M1毎の流動媒体層11aの表面温度の数値は、当該分割単位において流動媒体が表層の下の流動媒体層11aの中で加熱されてきた結果を示すものである。
その意味で、流動媒体層11aの表面全体で見た場合の局所的な温度乖離を示す指標である上記位置基準温度乖離は、分割単位M1に対応する流動媒体層11a部分の表層の下の流動媒体層11aの中で加熱されてきた状態が、他の分割単位における加熱された状態とどれだけ乖離しているかを表している。従って、位置基準温度乖離は、当該分割単位M1の表層の下の流動媒体層11aの中での「流動状態」に関して、周囲の分割単位M1と比較して何らかの乖離乃至特異的な状況が生じているか否かを示している。
また、制御装置9は、温度乖離算出工程において、周辺分割単位の表面平均温度との乖離である位置基準温度乖離に加えて、判定対象の分割単位M1の表面平均温度と、同一の操作変数が与えられていて、かつ、バブリング状態に乖離及び特異な状況が発生していない平常時での当該分割単位M1自身の表面平均温度の履歴値と、を比較し、履歴値との乖離である時間基準温度乖離を算出している。
ところで、同一の分割単位M1で見た場合の過去の温度履歴との乖離を示す指標である時間基準温度乖離は、分割単位M1に対応する流動媒体層11a部分の表層の下の流動媒体層11aの中で、「流動状態」に関して、以前とは異なる何らかの乖離乃至特異的な状況が生じているか否かを示している。
更に、制御装置9は、上記のように、各分割単位M1に対して算出した平均高さと、その周辺分割単位の平均高さと、の乖離である位置基準高さ乖離、及び/又は、各分割単位M1に対して算出した平均高さと、当該分割単位M1自身の過去の平均高さ(平均高さ履歴)と、の乖離である時間基準高さ乖離のそれぞれを算出する(高さ乖離算出工程)。
ところで、分割単位M1の平均高さは、当該分割単位M1において、流動用気体が表層下の流動媒体層11aの中で、流動媒体を押しのける効果で流動媒体を持ち上げ、流動媒体層11aのこの部分全体としてのかさ比重を下げた結果(例えば、かさ比重1.5t/m3→1.0t/m3)を示す高さである。
この意味で、位置基準高さ乖離は、対応の分割単位M1の表層下の流動媒体層11aの中で流動媒体がかさ比重を下げる程度が、周辺分割単位において流動媒体がかさ比重を下げる程度に対して乖離する度合いを表している。即ち、位置基準高さ乖離は、対応の分割単位M1の表層下の流動媒体層11a内のバブリング状態(流動状態)に関して、周辺の分割単位M1と比較して何らかの乖離乃至特異的な状況が生じているか否かを示している。
時間基準高さ乖離は、同一の分割単位M1で見た場合、当該分割単位M1の表層下の流動媒体層11a内のバブリング状態(流動状態)に関して、以前とは異なる何らかの乖離乃至特異的な状況が生じているか否かを示している。
制御装置9は、乖離分割単位特定工程において、判定対象の分割単位M1に対して、上記のように算出して記憶していた分割単位M1の位置基準温度乖離及び時間基準温度乖離と、位置基準高さ乖離及び時間基準高さ乖離と、を評価する。以下では、ここで挙げた乖離を、単に「4つの乖離指標」と呼ぶことがある。4つの乖離指標を総合的に評価した結果、乖離が大きい場合は、制御装置9は、対応する流動床内のバブリング状態が不安定であると判定し、当該分割単位M1を乖離分割単位として特定する。
制御装置9は、特定した乖離分割単位に対して、当該分割単位M1に関連する操作変数の履歴に基づいて、当該分割単位M1の総合的な乖離を縮小させるための操作変数の変更の要否について判定する。更に、制御装置9は、操作変数の変更が必要と判定した場合、乖離分割単位の乖離を起因する乖離又は特異的な状況の発生位置(即ち上部流動媒体層部11b又は下部流動媒体層部11c)、乖離の特性(温度乖離度合い、高さ乖離度合い等)、及び複数の乖離分割単位が存在する場合の当該乖離分割単位の分布等に基づいて、変更する操作変数及びその変更量(即ち、対策方法)を決定する。
この対策方法は、例えば、(1)特定された分割単位M1に対応する流動床部分へ流動用気体の通気量を一時的に変更すること、(2)流動用気体の加温温度の変更、外部加熱量の変更等によって、特定された分割単位M1に対応する流動床部分の流動媒体層11aの温度を一時的に変更すること、(3)処理対象物の処理量(投入量)を変更すること、(4)流動媒体層11a内の流動媒体の充填量を変更すること等を挙げることができる。
制御装置9は、上記のように決定した対策方法に基づいて操作変数を変更し、バブリング型流動床式反応炉1の運転を制御する(バブリング状態安定化工程)。これにより、制御装置9は、赤外線カメラ3等を介して取得された熱画像に基づいて作成された3次元熱画像を用いて、炉内の流動床内のバブリング状態を一層正確に把握し、流動床内のバブリング状態が不安定と判定した場合、適切な対策方法を実施することで、流動床内のバブリング状態を安定化させる。
更に、制御装置9は、上記のように特定した乖離分割単位に対して、この乖離分割単位における乖離が、上部流動媒体層部11b内で発生している乖離又は特異的な状況によるものか、又は下部流動媒体層部11c内で発生している乖離又は特異的な状況によるものか(即ち、乖離の原因事象の発生部位)を判定する。
乖離の原因事象の発生部位は、当該乖離分割単位における4つの乖離指標、あるいは、その周辺の分割単位における4つの乖離指標を総合的に考慮することで、推定することができる。
一般的に、例えば、乖離の原因が表層から深い位置に存在する場合、その乖離の影響が界面に到達するまで時間が掛かり、また、界面の広範囲にわたって影響が生じる。一方、乖離の原因が表層から浅い位置に存在する場合、乖離の影響は短時間で界面に到達し、また、界面が影響を与える範囲は狭くなる。従って、それぞれの分割単位に関する4つの乖離指標を解析することによって、乖離の原因事象の発生部位を推定することができる。
流動媒体層11aの内部で生じた乖離によって界面に生じる現象の程度の強さは、バブリング型流動床式反応炉1の運転経験、炉形状、流動媒体量、流動媒体性状(例えば、流動媒体となる物質同士の差や、時間経過による性状の変化等)、処理対象物の性状、流動用気体温度、流動層内温度等様々な関連因子に応じて変化し得る。また、これらの現象(若しくは現象の変化)により、上記様々な関連因子に影響を与えることもある。従って、バブリング型流動床式反応炉1においては、乖離の原因事象の発生部位を判定する場合の基準は、設計・施工された反応炉の特有な性質に合致するように予め設定されており、また、反応炉の実際の運転状況に応じて調整され得る。
特定された乖離分割単位の乖離が、上部流動媒体層部11b内で発生している乖離又は特異的な状況によるものであると判定された場合、制御装置9は、上記のバブリング状態安定化工程において、流動媒体層11aの厚みを変更する指示を出力する。制御装置9の指示に基づいて、炉底に充填される流動媒体の充填量が調整(増量又は減量)される。流動媒体層11aの厚みの変更は、上部流動媒体層部11bの厚みの変更を意味するので、これにより原因事象を確実に解消することが期待できる。
このように、本実施形態の制御装置9は、流動床界面の一部に何らかの原因による上記温度乖離及び/又は高さ乖離が発生した場合、流動床界面の実際の状況に応じて、乖離が発生した部分に関連する操作変数の履歴に基づく対策を実施することで、乖離を素早く抑えることができる。更に、制御装置9は、当該乖離の原因事象の発生部位が上部流動媒体層部11bであると判定した場合、上部流動媒体層部11bの厚みを調整することで、乖離の原因事象が再び発生しないように予防することができる。
上記流動床内バブリング状態安定化方法は、例えば下記のように変更することができる。具体的には、制御装置9は、位置基準温度乖離及び時間基準温度乖離と、位置基準高さ乖離及び時間基準高さ乖離と、に加えて、判定対象の分割単位M1に対して、前述の3次元熱画像に基づいて、当該分割単位M1に対応する流動床界面の動態の激しさを解析する。
制御装置9は、3次元熱画像を解析して得られた判定対象の分割単位M1に対応する流動床界面の動態の激しさと、流動床界面全体の動態の(平均的な)激しさと、を比較し、その乖離である単位動態乖離を取得して記憶する(動態乖離取得工程)。
また、制御装置9は、動態乖離取得工程において、3次元熱画像を解析して得られた判定対象の分割単位M1に対応する流動床界面の動態の激しさと、当該分割単位M1に対応する流動床面部分の過去の動態の激しさと、を比較し、その乖離である時間基準動態乖離を取得して記憶する。
制御装置9は、乖離分割単位特定工程において、判定対象の分割単位M1に対して、上記の4つの指標に加えて単位動態乖離及び時間基準動態乖離を加えた6つの指標を用いて、バブリング状態の乖離を評価する。以下では、ここで挙げた乖離を、単に「6つの乖離指標」と呼ぶことがある。6つの乖離指標を総合的に評価した結果、乖離が大きい場合、当該分割単位M1を乖離分割単位として特定する。
制御装置9は、当該分割単位M1に関連する操作変数の履歴に基づいて、当該分割単位M1におけるバブリング状態の乖離を小さくするための操作変数の変更の要否について判定する。操作変数の変更が必要であると判定した場合、制御装置9は、乖離分割単位の乖離を起因する乖離又は特異的な状況の発生位置(即ち上部流動媒体層部11b又は下部流動媒体層部11c)、乖離の特性(温度乖離度合い、高さ乖離度合い、動態乖離度合い等)、及び複数の乖離分割単位が存在する場合の当該乖離分割単位の分布等に基づいて、変更する操作変数及びその変更量(即ち、対策方法)を決定する。
制御装置9は、対応する流動床内のバブリング状態を安定化させるように、対策方法決定工程で決定された対策方法に基づいて、変更が必要となる操作変数のそれぞれを変更し、バブリング型流動床式反応炉1の運転を制御する。
更に、制御装置9は、上記のように特定した乖離分割単位に対して、当該乖離分割単位における乖離が上部流動媒体層部11b内で発生している乖離又は特異的な状況によるものか、又は下部流動媒体層部11c内で発生している乖離又は特異的な状況によるものかを判定する。この判定も、6つの乖離指標を用いて行われる。
特定された乖離分割単位の乖離が、上部流動媒体層部11b内で発生している乖離又は特異的な状況によるものであると判定された場合、制御装置9は、流動媒体層11a(ひいては、上部流動媒体層部11b)の厚みを変更する指示を出力する。
上述のように、本実施形態の流動床内バブリング状態安定化方法を用いて、流動床内のバブリング状態を好適に把握することができるとともに、流動床内の流動状態の乖離が発生した場合、適切な対策方法を実施することにより当該乖離を収束させて、流動床内のバブリング状態を安定化させることができる。
また、本実施形態の制御装置9は、乖離の原因事象の発生部位が上部流動媒体層部11bであると判定した場合、上部流動媒体層部11bの厚みを調整することで、乖離の原因事象が再び発生しないように予防することができる。
以上に説明したように、本実施形態のバブリング型流動床式反応炉1は、炉内下部に充填された流動媒体に炉底から流動用気体を吹き出すことで、前記流動媒体を流動させて流動床を形成し、処理対象物に対して、乾燥、熱分解、燃焼のうち少なくとも何れかの熱処理を行う。バブリング型流動床式反応炉1は、複数の赤外線カメラ3と、制御装置9と、を備える。複数の赤外線カメラ3は、流動床の上側界面である流動床界面の上方部又は横上方部から見下ろす位置に設けられ、火炎が放射しない波長の光を選択的に透過させる選択透過フィルタ3aを介して、流動床界面に対して異なる視点から熱画像を取得する。制御装置9は、複数の赤外線カメラ3で取得した熱画像に基づいて、流動床界面に対する3次元熱画像を作成する。流動床は、厚み方向において並べられた上部流動媒体層部11bと下部流動媒体層部11cとから構成され、上部流動媒体層部11bの断面積が下部流動媒体層部11cの断面積の1.4倍以上となっている。制御装置9は、作成した3次元熱画像に基づいて、炉内の流動床(流動媒体層11a)の厚みを増減する。
これにより、流動媒体層11aに、厚み方向における2種類の流動状態の層を持たせることで、流動床界面の全面において、概ね同一の流動状態を有するように促すことができる。従って、流動床界面全面の流動状態を穏やかにすることができるとともに、局所的に異なる流動状態の形成を回避できる。また、流動床界面側の流動状態を穏やかにすることで、処理対象物に対する熱処理の初期段階において、反応性(反応の速さ)を抑えながら熱反応を進行させることができる。この結果、温度の急上昇、及びガス状物質の発生量の急増を回避することができる。
また、本実施形態のバブリング型流動床式反応炉1において、制御装置9は、作成した3次元熱画像を、流動床界面を予めメッシュ状に分割することで形成された複数の分割単位M1に対応する流動床界面のバブリング状態に影響を与える操作変数と関連付けて記憶する。制御装置9は、作成した3次元熱画像に基づいて、複数の分割単位M1毎に、当該分割単位M1における流動床界面の平均高さである単位流動床界面高さを算出して記憶する。制御装置9は、算出された単位流動床界面高さに基づいて、流動床界面の高さを適正範囲に維持するように、炉内の上部流動媒体層部11bの厚みを増減させる。
これにより、上部流動媒体層部11bの流動状態を適切に調整することで、流動床界面の高さを適正範囲に維持し、処理対象物に対する熱処理の初期段階において、反応性(反応の速さ)を適切に維持することができる。
また、本実施形態のバブリング型流動床式反応炉1に用いられる流動床バブリング状態安定化方法は、単位流動床界面平均温度算出工程と、単位流動床界面平均温度記憶工程と、温度乖離算出工程と、単位流動床界面高さ算出工程と、単位流動床界面高さ記憶工程と、高さ乖離算出工程と、乖離分割単位特定工程と、バブリング状態安定化工程と、を含む。単位流動床界面平均温度算出工程では、制御装置9が、作成された3次元熱画像に基づいて、前記流動床界面を予めメッシュ状に分割することで形成された複数の分割単位M1毎に、当該分割単位M1における前記流動床界面の平均温度である単位流動床界面平均温度を算出する。単位流動床界面平均温度記憶工程では、制御装置9が、単位流動床界面平均温度算出工程で算出された平均温度を、当該分割単位M1に対応する流動床界面のバブリング状態に影響を与える操作変数と関連付けて記憶する。温度乖離算出工程では、制御装置9が、複数の分割単位M1のそれぞれに対して、各分割単位M1の平均温度と、各分割単位M1の周辺の分割単位M1である周辺分割単位における平均温度と、の乖離である位置基準温度乖離、及び/又は、分割単位M1の平均温度と、同一の当該分割単位M1における過去の平均温度と、の乖離である時間基準温度乖離を算出する。単位流動床界面高さ算出工程では、制御装置9が、複数の分割単位M1毎に、当該分割単位M1における前記流動床界面の平均高さである単位流動床界面高さを算出する。単位流動床界面高さ記憶工程では、制御装置9が、単位流動床界面高さ算出工程で算出された平均高さを、当該分割単位に対応する流動床界面のバブリング状態に影響を与える操作変数と関連付けて記憶する。高さ乖離算出工程では、制御装置9が、複数の分割単位M1のそれぞれに対して、各分割単位M1の平均高さと、各分割単位M1の周辺の分割単位M1である周辺分割単位における平均高さと、の乖離である位置基準高さ乖離、及び/又は、分割単位M1の平均面高さと、同一の当該分割単位M1における過去の平均高さと、の乖離である時間基準高さ乖離を算出する。乖離分割単位特定工程では、制御装置9が、各前記分割単位に対して、温度乖離算出工程で算出された位置基準温度乖離及び/又は時間基準温度乖離と、高さ乖離算出工程で算出された位置基準高さ乖離及び/又は前記時間基準高さ乖離と、を評価して、総合的に乖離が大きい分割単位M1を乖離分割単位として特定する。バブリング状態安定化工程では、制御装置9が、当該乖離分割単位に対応する流動床界面の部分に影響を与える操作変数の操作履歴に基づいて、当該乖離分割単位における乖離を収束させるために調整が必要となる前記操作変数を判定し、判定した操作変数を調整する。バブリング状態安定化工程では、制御装置9が、乖離分割単位の位置基準温度乖離、時間基準温度乖離、位置基準高さ乖離、及び時間基準高さ乖離、並びに、当該乖離分割単位の周辺にある分割単位の位置基準温度乖離、時間基準温度乖離、位置基準高さ乖離、及び時間基準高さ乖離に基づいて、乖離分割単位における乖離が、上部流動媒体層部11b及び下部流動媒体層部11cのうち何れの内部事象によるものかを判定する。バブリング状態安定化工程では、乖離分割単位における乖離が、上部流動媒体層部11bの内部事象によるものと判定した場合、制御装置9が、流動床の厚みを変更する指示を出す。
これにより、流動床界面の分割単位M1毎の温度及び高さを分析することで、流動床のバブリング状態を正確に把握することができ、バブリング状態を安定化させる対策をより正しく決定することができる。この結果、適切な対策により乖離を素早く収束させることができるとともに、上部流動媒体層部11bの厚みを調整することにより、上部流動媒体層部11bの内部事象による乖離が再び発生しないように予防することができる。
また、流動床バブリング状態安定化方法は、動態乖離取得工程を含む。動態乖離取得工程では、制御装置9が、作成された3次元熱画像及び履歴の3次元熱画像に基づいて、前記流動床界面を予めメッシュ状に分割することで形成された複数の分割単位M1毎に、当該分割単位M1における流動状態の動態である流動床動態を取得して解析することで、各分割単位M1の流動床動態と、流動床界面全体の流動床動態と、の乖離である単位動態乖離、及び/又は、分割単位M1の流動床動態と、同一の当該分割単位M1における過去の流動床動態と、の乖離である時間基準動態乖離を取得する。乖離分割単位特定工程では、制御装置9が、温度乖離算出工程で算出された位置基準温度乖離及び/又は時間基準温度乖離と、高さ乖離算出工程で算出された位置基準高さ乖離及び/又は時間基準高さ乖離と、動態乖離取得工程で取得された単位動態乖離及び/又は時間基準動態乖離と、を総合的に評価して、総合的に乖離が大きい分割単位M1を乖離分割単位として特定する。バブリング状態安定化工程では、制御装置9は、当該乖離分割単位に対応する流動床界面の部分に影響を与える操作変数の操作履歴に基づいて、当該乖離分割単位における乖離を収束させるために調整が必要となる操作変数を判定し、判定した操作変数を調整する。バブリング状態安定化工程では、制御装置9は、乖離分割単位特定工程で特定された乖離分割単位の位置基準温度乖離、時間基準温度乖離、位置基準高さ乖離、時間基準高さ乖離、単位動態乖離、及び時間基準動態乖離、並びに、当該乖離分割単位の周辺分割単位の位置基準温度乖離、時間基準温度乖離、位置基準高さ乖離、時間基準高さ乖離、単位動態乖離、及び時間基準動態乖離に基づいて、乖離分割単位における乖離が、上部流動媒体層部11b及び下部流動媒体層部11cの何れの内部事象によるものかを判定する。バブリング状態安定化工程では、乖離分割単位における乖離が上部流動媒体層部11bの内部事象によるものと判定した場合、制御装置9が、流動床の厚みを変更する指示を出す。
これにより、流動床界面の温度、高さ、及び流動状態の激しさに基づいて、流動床のバブリング状態を総合的に判定することができ、局所的に流動状態が激しい場所をより正確に判別することができるので、乖離を収束させる対策を一層正確に判定することができる。
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
流動動態としては、例えば、分割単位M1において流動床界面の単位時間の変化量を用いることができる。しかし、これに限定されない。
赤外線カメラ3をそれぞれ異なる高さに設けても良い。即ち、一部の赤外線カメラ3をバブリング型流動床式反応炉1の頂部に設け、一部の赤外線カメラ3をフリーボード部10の側壁の近傍に設けても良い。
赤外線カメラ3を流動床部11の側面に別途に設けても良い。この場合、流動床部11の側面に対する熱画像を取得できるので、流動床内の温度乖離を推定できる余地がある。
流動媒体層11aが、流動状態の激しさが異なる3層の流動媒体層部から構成されても良い。この場合、流動媒体層11aの厚み方法において、上から下に向かって、流動状態の激しさが漸減することが好ましい。
バブリング型流動床式反応炉1で発生する排ガスの熱で、処理対象物をある程度乾燥又は加温した状態で、炉内に投入しても良い。
流動床界面の平均高さは、炉底等予め決められた位置に対する絶対高さでも良いし、流動床界面全体の平均高さに対する相対高さでも良い。
分割単位M1は、四角形に限定されず、他の形状でも良い。分割単位M1同士の形状及びサイズが互いに異なっても良い。
本発明の観点によれば、以下の構成のバブリング型流動床式反応炉が提供される。即ち、このバブリング型流動床式反応炉は、炉内下部に充填された流動媒体に炉底から流動用気体を吹き出すことで、前記流動媒体を流動させて流動床を形成し、処理対象物に対して、乾燥、熱分解、燃焼のうち少なくとも何れかの熱処理を行う。前記バブリング型流動床式反応炉は、複数の赤外線カメラと、制御装置と、を備える。複数の前記赤外線カメラは、前記流動床の上側界面である流動床界面の上方部又は横上方部から見下ろす位置に設けられ、火炎が放射しない波長の光を選択的に透過させる選択透過フィルタを介して、前記流動床界面に対して異なる視点から熱画像を取得する。前記制御装置は、複数の前記赤外線カメラで取得した前記熱画像に基づいて、前記流動床界面に対する3次元熱画像を作成する。前記流動床は、厚み方向において並べられた上層部流動床と下層部流動床とから構成され、前記上層部流動床を水平な平面で切ったときの断面積が前記下層部流動床を水平な平面で切ったときの断面積の1.4倍以上となっている。前記流動用気体が前記下層部流動床に供給されている。前記制御装置は、作成した前記3次元熱画像に基づいて、炉内の前記流動床の厚みを増減する。