JP2021066732A - 脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団を含む医薬組成物 - Google Patents

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浩太郎 吉村
Kotaro Yoshimura
浩太郎 吉村
夏美 齋藤
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夏美 齋藤
正徳 森
Masanori Mori
正徳 森
章伍 三木
Shogo Miki
章伍 三木
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Abstract

【課題】幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物を提供する。【解決手段】培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団を含む医薬組成物に関する。
血管内皮(前駆)細胞(Endothelial progenitor cell;EPC)は、脂肪組織、臍帯静脈、大血管など人体の全身組織に存在することが報告されており、細胞治療ツールの候補となり得ると期待されている。血管に由来する血管内皮(前駆)細胞は、人体の血管を原料として使用することが非現実的であったため、これまで細胞治療ツールとして社会実装されてこなかった。一方、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞(Adipose−derived endothelial progenitor cell;AEPC)は、比較的低侵襲的に採取可能な脂肪組織から豊富に取得することができるため、細胞治療ツールの候補として有望視されている。
従来、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を生体外にて純化することは困難であるとされてきた。脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、脂肪由来幹細胞(Adipose−derived stem/stromal cell;ASC)、脂肪由来線維芽細胞、脂肪由来周皮細胞等の他の細胞との混合物(間質血管画分(Stromal vascular fraction;SVF))として、脂肪組織から分離、回収される。この間質血管画分に含まれる脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を、一般的な培養技術により純化しようと試みると、増殖性がはるかに高い脂肪由来幹細胞によって脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が駆逐されてしまう傾向があった。
本発明者らは、ヒト脂肪組織に豊富に存在する血管内皮(前駆)細胞を生体外で純化する方法を世界で初めて開発した。本発明者らによる特許文献1には、血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団の製造方法が記載されている。特許文献1に記載の製造方法は、(1)脂肪組織を酵素処理して、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪幹細胞とを含む細胞集団を取得する工程;(2)前記(1)の工程で取得した細胞集団からCD31陽性の細胞を選別することによりCD31陽性の細胞を含む細胞集団を取得する工程;(3)前記(2)の工程で得たCD31陽性の細胞を含む細胞集団を1時間〜7.0日間培養する工程;及び(4)前記(3)の工程で得た細胞集団からCD31陽性の細胞を選別することによりCD31陽性の細胞を含む細胞集団を取得する工程;を含む、血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団の製造方法である。また、特許文献1には、血管内皮(前駆)細胞と脂肪幹細胞とを含む細胞集団であって、前記細胞集団におけるCD45陰性かつCD31陽性の血管内皮(前駆)細胞の割合が92%以上であり、前記細胞集団における脂肪幹細胞の割合が8%以下である細胞集団、並びに前記細胞集団を含む医薬組成物が記載されている。
特許文献2には、脂肪組織から内皮細胞を調製する方法が記載されている。特許文献2に記載の方法は、脂肪吸引処置患者から得られた脂肪組織を洗浄する工程;洗浄された脂肪組織から細胞を回収する工程;精製されたコラゲナーゼ調製物で細胞を酵素的に処理する工程であって、該調製物はペプシン、トリプシン、およびサーモリシンを欠失している工程;CD31、CD34、CD144、およびCD146からなる第一の群より選択される抗原、またはCD14、CD45、およびF19からなる第二の群より選択される抗原に特異的な第一の抗体を含む磁気ビーズと接触させることにより、処理された細胞を選別する工程;もし抗体が第一の群の抗原に特異的であれば、該磁気ビーズに結合している細胞を回収し、もし抗体が第二の群に特異的であれば、該磁気ビーズに結合していない細胞を回収する工程を含む方法である。
特開2019−088279号公報 特表2009−528841号公報
本発明は、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞(AEPC)を用いた新たな医療用途を提供することを目的とする。具体的には、本発明は、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む、幹細胞消耗性疾患の予防及び/又は治療のための医薬組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、驚くべきことに、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞(AEPC)が、幹細胞性と管腔形成能とを併せ持ち、幹細胞消耗性疾患モデルを用いた試験において顕著な治癒効果を示すことを発見した。さらに本発明者らは、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を、培養された脂肪由来幹細胞と共に幹細胞消耗性疾患モデルに投与することによって、さらに顕著な治癒効果を示すことを発見した。本発明はこれらの研究結果に基づいて完成に至ったものである。
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
[1] 培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
[2] 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、少なくとも2回接着培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である、[1]に記載の医薬組成物。
[3] 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、以下の工程(1)〜(6)を含む製造方法により製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である、[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
(1)脂肪組織を酵素処理することにより、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団を取得する工程;
(2)前記(1)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(3)前記(2)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(4)前記(3)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(5)前記(4)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;及び
(6)前記(5)の工程で得られた細胞集団を、接着培養することにより、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を取得する工程:
[4] 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、以下の工程(1)〜(5)を含む製造方法により製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である、[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
(1)脂肪組織を酵素処理することにより、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団を取得する工程;
(2)前記(1)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(3)前記(2)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(4)前記(3)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(5)前記(4)の工程で得られた細胞集団を、接着培養することにより、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を取得する工程:
[5] 前記細胞集団が、前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を50%以上含む、[1]〜[4]に記載の医薬組成物。
[6] 前記細胞集団が、培養された脂肪由来幹細胞をさらに含む、[1]〜[5]のいずれか一に記載の医薬組成物。
[7] 前記細胞集団が、前記脂肪由来幹細胞を12.5%以上、50%以下含む、[6]に記載の医薬組成物。
[8] 前記幹細胞消耗性疾患が、1型糖尿病性潰瘍、2型糖尿病性潰瘍、難治性潰瘍、皮膚潰瘍、放射線潰瘍、肝硬変及び血管病変からなる群より少なくとも一つ選択される、[1]〜[7]のいずれか一に記載の医薬組成物。
[9] ヒトへの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の1回の投与量が10個/kg体重以下である、[1]〜[8]のいずれか一に記載の医薬組成物。
[10] 前記医薬組成物が、注射用製剤である、[1]〜[9]のいずれか一に記載の医薬組成物。
[11] 幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物の製造のための、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団の使用。
[12] 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、少なくとも2回接着培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である、[11]に記載の使用。
[13] 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、以下の工程(1)〜(6)を含む製造方法により製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である、[11]又は[12]に記載の使用。
(1)脂肪組織を酵素処理することにより、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団を取得する工程;
(2)前記(1)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(3)前記(2)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(4)前記(3)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(5)前記(4)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;及び
(6)前記(5)の工程で得られた細胞集団を、接着培養することにより、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を取得する工程:
[14] 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、以下の工程(1)〜(5)を含む製造方法により製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である、[11]又は[12]に記載の使用。
(1)脂肪組織を酵素処理することにより、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団を取得する工程;
(2)前記(1)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(3)前記(2)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(4)前記(3)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(5)前記(4)の工程で得られた細胞集団を、接着培養することにより、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を取得する工程:
[15] 前記細胞集団が、前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を50%以上含む、[11]〜[14]のいずれか一に記載の使用。
[16] 前記細胞集団が、培養された脂肪由来幹細胞をさらに含む、[11]〜[15]のいずれか一に記載の使用。
[17] 前記細胞集団が、前記脂肪由来幹細胞を12.5%以上、50%以下含む、[16]に記載の使用。
[18] 前記幹細胞消耗性疾患が、1型糖尿病性潰瘍、2型糖尿病性潰瘍、難治性潰瘍、皮膚潰瘍、放射線潰瘍、肝硬変及び血管病変からなる群より少なくとも一つ選択される、[11]〜[17]のいずれか一に記載の使用。
[19] ヒトへの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の1回の投与量が10個/kg体重以下である、[11]〜[18]のいずれか一に記載の使用。
[20] 前記医薬組成物が、注射用製剤である、[11]〜[19]のいずれか一に記載の使用。
[21] 幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療において使用するための、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団。
[22] 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、少なくとも2回接着培養された脂肪由来血管内皮前駆細胞である、[21]に記載の細胞集団。
[23] 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、以下の工程(1)〜(6)を含む製造方法により製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である、[21]又は[22]に記載の細胞集団。
(1)脂肪組織を酵素処理することにより、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団を取得する工程;
(2)前記(1)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(3)前記(2)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(4)前記(3)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(5)前記(4)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;及び
(6)前記(5)の工程で得られた細胞集団を、接着培養することにより、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を取得する工程:
[24] 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、以下の工程(1)〜(5)を含む製造方法により製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である、[21]又は[22]に記載の細胞集団。
(1)脂肪組織を酵素処理することにより、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団を取得する工程;
(2)前記(1)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(3)前記(2)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(4)前記(3)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(5)前記(4)の工程で得られた細胞集団を、接着培養することにより、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を取得する工程:
[25] 前記細胞集団が、前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を50%以上含む、[21]〜[24]のいずれか一に記載の細胞集団。
[26] 前記細胞集団が、培養された脂肪由来幹細胞をさらに含む、[21]〜[25]のいずれか一に記載の細胞集団。
[27] 前記細胞集団が、前記脂肪由来幹細胞を12.5%以上、50%以下含む、[26]に記載の細胞集団。
[28] 前記幹細胞消耗性疾患が、1型糖尿病性潰瘍、2型糖尿病性潰瘍、難治性潰瘍、皮膚潰瘍、放射線潰瘍、肝硬変及び血管病変からなる群より少なくとも一つ選択される、[21]〜[27]のいずれか一に記載の細胞集団。
[29] ヒトへの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の1回の投与量が10個/kg体重以下である、[21]〜[28]のいずれか一に記載の細胞集団。
[30] 前記医薬組成物が、注射用製剤である、[21]〜[29]のいずれか一に記載の細胞集団。
[31] 培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団を、幹細胞消耗性疾患の予防及び/又は治療を必要とする患者に投与することを含む、幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療する方法。
[32] 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、少なくとも2回接着培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である、[31]に記載の方法。
[33] 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、以下の工程(1)〜(6)を含む製造方法により製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である、[31]又は[32]に記載の方法。
(1)脂肪組織を酵素処理することにより、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団を取得する工程;
(2)前記(1)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(3)前記(2)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(4)前記(3)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(5)前記(4)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;及び
(6)前記(5)の工程で得られた細胞集団を、接着培養することにより、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を取得する工程:
[34] 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、以下の工程(1)〜(5)を含む製造方法により製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である、[31]又は[32]に記載の方法。
(1)脂肪組織を酵素処理することにより、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団を取得する工程;
(2)前記(1)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(3)前記(2)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(4)前記(3)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(5)前記(4)の工程で得られた細胞集団を、接着培養することにより、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を取得する工程:
[35] 前記細胞集団が、前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を50%以上含む、[31]〜[34]のいずれか一に記載の方法。
[36] 前記細胞集団が、培養された脂肪由来幹細胞をさらに含む、[31]〜[35]のいずれか一に記載の方法。
[37] 前記細胞集団が、前記脂肪由来幹細胞を12.5%以上、50%以下含む、[36]に記載の方法。
[38] 前記幹細胞消耗性疾患が、1型糖尿病性潰瘍、2型糖尿病性潰瘍、難治性潰瘍、皮膚潰瘍、放射線潰瘍、肝硬変及び血管病変からなる群より少なくとも一つ選択される、[31]〜[37]のいずれか一に記載の方法。
[39] ヒトへの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の1回の投与量が10個/kg体重以下である、[31]〜[38]のいずれか一に記載の方法。
[40] 前記医薬組成物が、注射用製剤である、[31]〜[39]のいずれか一に記載の方法。
本発明によれば、幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物を提供することができる。
図1は、低容量(1.0×10個/マウス)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を投与した場合の1型糖尿病難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。 図2は、高容量(4.0×10個/マウス)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を投与した場合の1型糖尿病難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。 図3は、ヒト特異的ゴルジ体抗体を用いた免疫染色により、ヒト細胞の1型糖尿病SCIDマウスへの生着の有無を調べた結果を示す。 図4は、低用量(1.0×10個/マウス)の脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を投与した場合の、2型糖尿病難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。 図5は、高用量(4.0×10個/マウス)の脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を投与した場合の、2型糖尿病難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。 図6は、低容量(1.0×10個/マウス)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を投与した場合の2型糖尿病難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。 図7は、高容量(4.0×10個/マウス)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を投与した場合の2型糖尿病難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。 図8は、ヒト特異的ゴルジ体抗体を用いた免疫染色により、ヒト細胞の2型糖尿病マウスへの生着の有無を調べた結果を示す。 図9は、放射線障害性難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、下記の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が下記の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も本発明の範囲に含まれる。
1.用語の説明
本明細書で頻用する以下の用語について定義し、その構成について具体的に説明をする。なお、特に断りのない限り、本項に記載の以下の定義は、本発明の他の態様においても共通する。
本明細書において「脂肪組織」とは、生物の生体を構成する結合組織の一種であり、主に皮下に存在する。脂肪組織は、主に成熟脂肪細胞を含有し、エネルギーを貯蔵し、外界からの物理的衝撃や温度変化に対して身体を保護し、ホルモン、サイトカイン等を分泌する機能を有する。本明細書において、「脂肪組織」は「脂肪」と記載されることがある。
本明細書において「血管内皮(前駆)細胞(Endothelial progenitor cell;EPC)」とは、血管の内表面を構成する細胞であり、血液が循環する内腔と接している細胞である。本明細書における「血管内皮(前駆)細胞(Endothelial progenitor cell;EPC)」は、血管内皮細胞及び血管内皮前駆細胞を包含する概念を意味する。
本明細書において「脂肪由来血管内皮(前駆)細胞(Adipose−derived endothelial progenitor cell;AEPC)」とは、脂肪組織に由来する血管内皮(前駆)細胞を意味する。すなわち、本明細書において「脂肪由来血管内皮(前駆)細胞」とは、脂肪由来血管内皮細胞及び脂肪由来血管内皮前駆細胞を包含する概念を意味する。
本明細書において「脂肪由来血管内皮細胞」とは、下記の定義(1)〜(5)を満たす細胞を指す。
脂肪由来血管内皮細胞の定義
(1)脂肪組織に由来する。
(2)標準培地での培養条件でプラスチックに接着性を示す。
(3)フローサイトメトリーにおいてCD31、CD146及びCD105が陽性を呈する。
(4)フローサイトメトリーにおいてCD45が陰性を呈する。
(5)ネットワーク形成試験(Network formation assay)においてチューブ状のネットワーク構造を形成する能力(管腔形成能)を有する。
脂肪由来血管内皮細胞は、細胞免疫染色試験においてisolectin及び/又はフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor;VWF)が陽性を呈してもよい。
本明細書において「脂肪由来血管内皮前駆細胞」とは、下記の定義(1)〜(6)を満たす細胞を指す。
脂肪由来血管内皮前駆細胞の定義
(1)脂肪組織に由来する。
(2)標準培地での培養条件でプラスチックに接着性を示す。
(3)フローサイトメトリーにおいてCD31、CD146及びCD105が陽性を呈する。
(4)フローサイトメトリーにおいてCD45が陰性を呈する。
(5)ネットワーク形成試験(Network formation assay)においてチューブ状のネットワーク構造を形成する能力(管腔形成能)を有する。
(6)コロニー形成試験においてコロニーを形成する能力(コロニー形成能)を有する。
脂肪由来血管内皮前駆細胞は、細胞免疫染色試験においてisolectin及び/又はフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor;VWF)が陽性を呈してもよい。
本明細書において「幹細胞(Stem cell)」とは、様々な細胞への分化能及び自己複製能を持つ細胞をいう。本明細書において「成体幹細胞(Adult stem cell)」とは、成体の各組織中に存在し、最終分化が未完了で、ある程度の多分化能を有する幹細胞であって、体性幹細胞(Somatic stem cell)又は組織性幹細胞(Tissue stem cell)とも呼ばれる。
本明細書において「脂肪由来幹細胞(Adipose−derived stem/stromal cell;ASC)」とは、脂肪組織に由来する体性幹細胞であり、下記の定義(1)〜(4)を満たす細胞を指す。
脂肪由来幹細胞の定義
(1)脂肪組織に由来する。
(2)標準培地での培養条件でプラスチックに接着性を示す。
(3)フローサイトメトリーにおいてCD90、CD73及びCD105が陽性を呈する。
(4)フローサイトメトリーにおいてCD31及びCD45が陰性を呈する。
脂肪由来幹細胞は、脂肪細胞、骨母細胞、軟骨母細胞、筋線維母細胞、骨母細胞、筋肉細胞又は神経細胞などへの分化能を有してもよい。
本明細書において「接着性細胞」とは、標準培地での培養条件でプラスチックに接着性を示す細胞をいう。本明細書における「接着性細胞」には、例えば、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞、脂肪由来幹細胞等が含まれる。
本明細書において「細胞集団」とは、少なくとも前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を包含する複数の細胞からなる集団をいう。細胞集団は、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞のみで構成されていてもよいし、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞以外の細胞を含んでいてもよい。脂肪由来血管内皮(前駆)細胞以外の細胞は、好ましくは、培養された脂肪由来幹細胞である。細胞集団を構成する脂肪由来血管内皮(前駆)細胞及び/又は脂肪由来血管内皮(前駆)細胞以外の細胞は、細胞集団中において、培養液等の液体中で互いに分離して存在することができる。この場合の細胞集団を含む液体を、本明細書ではしばしば「細胞懸濁液」と表記する。
本明細書における「CD31」とは、表面抗原の一種である分化クラスター31を意味し、PECAM−1(Platelet endothelial adhesion molecule−1)としても知られているタンパク質である。
本明細書における「CD146」とは、表面抗原の一種である分化クラスター146を意味し、MCAM(Melanoma cell adhesion molecule)としても知られているタンパク質である。
本明細書における「CD105」とは、表面抗原の一種である分化クラスター105を意味し、Endoglinとしても知られているタンパク質である。
本明細書における「CD45」とは、表面抗原の一種である分化クラスター45を意味し、PTPRC(Protein tyrosine phosphatase,receptor type,C)、或いはLCA(Leukocyte common antigen)としても知られているタンパク質である。
本明細書における「CD90」とは、表面抗原の一種である分化クラスター90を意味し、Thy−1としても知られているタンパク質である。
本明細書における「CD73」とは、表面抗原の一種である分化クラスター73を意味し、5−Nucleotidase、或いはEcto−5’−nucleotidaseとしても知られているタンパク質である。
本明細書における「CD34」とは、表面抗原の一種である分化クラスター34を意味し、Hematopoietic progenitor cell antigen CD34としても知られているタンパク質である。
本明細書における「isolectin」とは、糖鎖に結合活性を示すタンパク質の一種である。
本明細書における「フォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor;VWF)」は、血漿糖タンパク質の一種である。
本明細書における「表面抗原が陽性を呈する細胞の比率」とは、フローサイトメトリーによって解析した表面抗原について陽性である細胞の比率を示す。本明細書において、「表面抗原が陽性を呈する細胞の比率」は「陽性率」と記載されることがある。本明細書における「表面抗原が陰性を呈する細胞の比率」とは、フローサイトメトリーによって解析した表面抗原について陰性である細胞の比率を示す。本明細書において、「表面抗原が陰性を呈する細胞の比率」は「陰性率」と記載されることがある。なお、陰性率は、「陰性率(%)=100−陽性率」の式により算出することができる。
上記陽性率の測定は、蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーにより行うことができる。ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較して、より強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該表面抗原について「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書における「細胞生存率」とは、生存している細胞の比率を示す。細胞生存率は、例えば、Acridine orange/Propidium iodide蛍光染色、トリパンブルー染色、MTT(3−(4,5−Dimethyl−2−thiazolyl)−2,5−diphenyltetrazolium Bromide)アッセイ等により測定することができるが、これらに限定されない。
本明細書において「接着培養」とは、細胞培養方法の一つで、培地中において細胞をプラスチック培養容器に接着した状態で増殖させることをいう。本明細書における「増殖」とは、培養によって細胞が細胞分裂を行い、細胞数が増加することをいう。本明細書において「播種」とは、細胞を培養するためにプラスチック培養容器に細胞を播くことをいう。
本明細書において「培地」とは、細胞を培養するために調製された液状、半固形状又は固形状の物質をいう。原則として、細胞の増殖及び/又は維持に不可欠の成分を必要最小限以上包含する。本明細書で使用する培地は、特に断りがない限り、動物由来細胞の培養に使用する動物細胞用液体培地が該当する。
本明細書において「患者又は被験者」とは、典型的にはヒトであるが、ヒト以外の動物であってもよい。ヒト以外の動物としては、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、サル(カニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセット、ニホンザル)、フェレット、ウサギ、げっ歯類(マウス、ラット、スナネズミ、モルモット、ハムスター)等の哺乳動物、ニワトリ、ウズラ等の鳥類が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書における「製薬上許容し得る媒体」とは、患者又は被験者に対して投与し得る液体をいう。
本明細書における「幹細胞消耗性疾患」としては、例えば、1型糖尿病性潰瘍、2型糖尿病性潰瘍、難治性潰瘍、皮膚潰瘍、放射線潰瘍、肝硬変、血管病変等を挙げることができるが、これらに限定されない。
本明細書において「治療」とは、患者又は被験者の病気を治癒することをいう。本明細書における「治療」としては、例えば、患者又は被験者の生命予後、機能予後、生存率、体重減少、発熱、食欲低下、栄養失調、嘔吐、疲労、炎症、湿疹、発疹、潰瘍、びらん、水疱、痛み、痺れ、痙攣、麻痺、疼痛、掻痒、乾燥、貧血、出血、肝機能低下、又は血液検査項目の悪化のうち、少なくとも1つを有意に改善することが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において「予防」とは、患者又は被験者の病気の発症を前もって防ぐことをいう。本明細書における「予防」としては、例えば、患者又は被験者の生命予後、機能予後、生存率、体重減少、発熱、食欲低下、栄養失調、嘔吐、疲労、炎症、湿疹、発疹、潰瘍、びらん、水疱、痛み、痺れ、痙攣、麻痺、疼痛、掻痒、乾燥、貧血、出血、肝機能低下又は血液検査項目の悪化のうち、少なくとも1つの発症を予め有意に抑制することが挙げられるが、これらに限定されない。
2.医薬組成物
2−1.概要
本発明により提供される幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物は、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、ことを特徴とする。即ち、本発明によれば、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物が提供される。
本発明の医薬組成物は、幹細胞消耗性疾患の治療剤として使用することができる。本発明の医薬組成物を治療部位に効果が計測できる量投与することで、上記の幹細胞消耗性疾患を治療することができる。
本発明によれば、幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物の製造のための、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
本発明によれば、幹細胞消耗性疾患の治療剤の製造のための、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
本発明によれば、幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物のために使用される、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団が提供される。
本発明によれば、患者又は被験者に投与して、幹細胞消耗性疾患の予防及び/又は治療のために使用される、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団が提供される。
本発明によれば、幹細胞消耗性疾患の患者又は被験者に、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団の治療有効量を投与する工程を含む、患者又は被験者に培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団を投与する方法、並びに患者又は被験者の幹細胞消耗性疾患の治療方法が提供される。
2−2.細胞
本発明の医薬組成物は、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む。培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、幹細胞性と管腔形成能とを併せ持ち、幹細胞消耗性疾患に対する顕著な治癒効果を有するため、幹細胞消耗性疾患の予防及び/又は治療のために使用することができる。
本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、脂肪由来血管内皮細胞及び脂肪由来血管内皮前駆細胞を包含する概念を意味する。本明細書における脂肪由来血管内皮細胞は、(1)脂肪組織に由来し、(2)標準培地での培養条件でプラスチックに接着性を示し、(3)フローサイトメトリーにおいてCD31、CD146及びCD105が陽性を呈し、(4)フローサイトメトリーにおいてCD45が陰性を呈し、(5)ネットワーク形成試験(Network formation assay)においてチューブ状のネットワーク構造を形成する能力(管腔形成能)を有する。また、本明細書における脂肪由来血管内皮前駆細胞は、(1)脂肪組織に由来し、(2)標準培地での培養条件でプラスチックに接着性を示し、(3)フローサイトメトリーにおいてCD31、CD146及びCD105が陽性を呈し、(4)フローサイトメトリーにおいてCD45が陰性を呈し、(5)ネットワーク形成試験(Network formation assay)においてチューブ状のネットワーク構造を形成する能力(管腔形成能)を有し、(6)コロニー形成試験においてコロニーを形成する能力(コロニー形成能)を有する。
本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、細胞免疫染色試験においてisolectin及び/又はフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor;VWF)が陽性を呈してもよい。
本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、CD34及び/又はCD90が陽性を呈してもよいし、CD34及び/又はCD90が陰性を呈してもよい。脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、継代された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞であってもよい。脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、自己、同種異系又は異種の細胞であってよいが、好ましくは、自己の細胞である。脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、好ましくは、遺伝子組み換えされていない脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である。本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、市販の細胞又は分譲を受けた細胞であってもよいし、新たに作製した細胞であってもよい。本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、単離された脂肪由来血管内皮細胞及び/又は単離された脂肪由来血管内皮前駆細胞であってもよい。
本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の由来生物種は、典型的にはヒトであるが、ヒト以外の動物であってもよい。ヒト以外の動物としては、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、サル(カニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセット、ニホンザル)、フェレット、ウサギ、げっ歯類(マウス、ラット、スナネズミ、モルモット、ハムスター)等の哺乳動物、ニワトリ、ウズラ等の鳥類が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、少なくとも2回接着培養された脂肪由来血管内皮前駆細胞であることが好ましい。脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の接着培養の回数の下限は、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上、さらに好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上、さらに好ましくは6回以上である。また、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の接着培養の回数の上限は、特に限定されないが、例えば、25回以下、20回以下、15回以下又は10回以下であってもよい。
本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、少なくとも1回選別された脂肪由来血管内皮前駆細胞であることが好ましい。脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の選別の回数の下限は、好ましくは1回以上、より好ましくは2回以上である。また、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の選別の回数の上限は、特に限定されないが、例えば、6回以下、5回以下、4回以下又は3回以下であってもよい。細胞を選別する方法としては、例えば、蛍光細胞分離法(Fluorescence activated cell sorting:FACS)、磁気細胞分離法(Magnetic activated cell sorting:MACS)等が挙げられ、上記の中でもMACSが好ましい。
本発明の医薬組成物は、好ましくは、培養された脂肪由来幹細胞を含む。培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を、培養された脂肪由来幹細胞と共に使用することによって、幹細胞消耗性疾患に対する治癒効果を顕著に高めることができる。
本明細書における脂肪由来幹細胞は、好ましくは、本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞とは異なる培養容器内で個別に培養された細胞である。脂肪由来幹細胞と脂肪由来血管内皮(前駆)細胞とを同一の培養容器内に播種して培養すると、増殖性の違いによって脂肪由来幹細胞が脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を駆逐してしまうことがあるため、好ましくない。
本明細書における脂肪由来幹細胞は、好ましくは、継代された脂肪由来幹細胞である。脂肪由来幹細胞は、自己、同種異系又は異種の細胞であってよいが、好ましくは、自己の細胞である。脂肪由来幹細胞は、好ましくは、遺伝子組み換えされていない脂肪由来幹細胞である。本明細書における脂肪由来幹細胞は、市販の細胞又は分譲を受けた細胞であってもよいし、新たに作製した細胞であってもよい。本明細書における脂肪由来幹細胞は、単離された脂肪由来幹細胞であってもよい。本明細書における脂肪由来幹細胞は、選別された脂肪由来幹細胞であってもよい。
本明細書における脂肪由来幹細胞の由来生物種は、典型的にはヒトであるが、他の動物であってもよい。他の動物としては、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、サル(カニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセット、ニホンザル)、フェレット、ウサギ、げっ歯類(マウス、ラット、スナネズミ、モルモット、ハムスター)等の哺乳動物、ニワトリ、ウズラ等の鳥類が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書における脂肪由来幹細胞の由来生物種は、本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の由来生物種と同じにすることが好ましい。
本明細書における脂肪由来幹細胞は、少なくとも1回接着培養された脂肪由来幹細胞とすることができる。脂肪由来幹細胞の接着培養の回数の下限は、1回以上、2回以上、3回以上、4回以上、5回以上又は6回以上であってもよい。また、脂肪由来幹細胞の接着培養の回数の上限は、特に限定されないが、例えば、25回以下、20回以下、15回以下又は10回以下であってもよい。
2−3.細胞の製造方法
本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、好ましくは、以下に示す製造方法A又は製造方法Bにより製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞である。
2−3−1.製造方法A
本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、以下の工程(1)〜(6)を含む製造方法Aにより製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞とすることができる。
(1)脂肪組織を酵素処理することにより、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団を取得する工程;
(2)前記(1)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(3)前記(2)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(4)前記(3)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(5)前記(4)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;及び
(6)前記(5)の工程で得られた細胞集団を、接着培養することにより、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を取得する工程:
上記製造方法により、幹細胞消耗性疾患の予防及び/又は治療に有用な脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を高効率に取得できることができる。また、上記製造方法により製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、幹細胞消耗性疾患に対して顕著な治癒効果を有し、幹細胞消耗性疾患の予防及び/又は治療に使用することができる。
2−3−1−1.製造方法Aにおける工程(1)
製造方法Aにおける工程(1)は、脂肪組織を酵素処理することにより、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団(すなわち、間質血管画分(SVF))を取得する工程である。
脂肪組織は、例えばヒト又はヒト以外の哺乳類又は鳥類などから外科的切除又は吸引により得ることができる。ヒト以外の哺乳類としては、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、サル(カニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセット、ニホンザル)、フェレット、ウサギ、げっ歯類(マウス、ラット、スナネズミ、モルモット、ハムスター)等を挙げることができる。鳥類としては、例えば、ニワトリ、ウズラ等を挙げることができる。脂肪組織を外科的に切除する際には、局所麻酔をしてもよい。また、吸引脂肪組織は、カニューレを腹部、大腿部、臀部又は全身の皮下脂肪組織に挿管することによって得ることができる。得られる脂肪組織の量は、例えば1g〜1000gであり、好ましくは1g〜500g、1g〜100g、2g〜50g又は2g〜40gであるが、これらに限定されない。
得られた脂肪組織は、肉眼で、腫瘍性病変や汚染がないことを確認することが好ましい。脂肪組織は、HBV、HCV、HIV、HTLV−1及びTPHA/RPRがいずれも陰性であることを確認してもよい。脂肪組織は、マイコプラズマが128倍未満(PA法)、単純ヘルペスが320倍未満(CF法)であることを確認してもよい。
吸引脂肪組織を使用する場合には、吸引脂肪組織を静置しておき、脂肪層と水層を分離させることが好ましい。また、吸引脂肪組織を遠心分離器により分離して、脂肪層、水層を分離することもできる。脂肪層と水層とが分離した後に、水層を回収除去することにより脂肪層のみを分離することができる。得られた脂肪組織は、例えば生理食塩水などで洗浄してから酵素処理に供してもよい。
酵素処理に供する前の脂肪組織は、酵素処理の前に室温又は37℃ウォーターバスで1分〜15分間温めておいてもよい。
酵素処理は、チューブ中の脂肪組織に適量の酵素反応液を加え、恒温振盪機にチューブを固定して、振盪させることによって行うことができる。酵素処理の温度は、酵素反応が進行する限り特に限定されないが、一般的には25℃〜50℃であり、好ましくは30〜45℃であり、例えば、37℃である。振盪は、往復振盪でも旋回振盪でもよい。往復振盪の場合、往復振盪速度は特に限定されないが、一般的には10rpm〜300rpmであり、好ましくは50rpm〜200rpmであり、例えば、120rpmである。反応時間は特に限定されないが、一般的には10分間〜3時間であり、好ましくは15分間から1時間であり、例えば、30分間である。
酵素としては、少なくともコラゲナーゼを使用することが好ましい。コラゲナーゼとは、動物組織細胞、炎症細胞、腫瘍細胞又はClostridium histolyticum等のバクテリアなどが産生する、又は、遺伝子組換え技術により人工的に産生される組換え蛋白質であり、I型、II型、III型コラーゲンを分解する酵素をいう。
酵素処理液におけるコラゲナーゼ濃度は、好ましくは0.02%〜0.5%であり、より好ましくは0.1%〜0.5%であり、さらに好ましくは0.1%〜0.4%であり、さらに好ましくは0.1%〜0.3%であり、最も好ましくは0.2%である。
酵素処理に使用する酵素処理液は、コラゲナーゼに加えてDNaseIをさらに含むことも好ましい。DNaseIを使用する場合、酵素処理液におけるDNaseIの濃度は、好ましくは100〜10000U/mLであり、より好ましくは200〜5000U/mLであり、さらに好ましくは500〜2000U/mLである。
酵素処理に使用する酵素処理液はさらにCaClを含むことが好ましい。酵素処理液におけるCaClの濃度は、好ましくは1mM〜10mMであり、より好ましくは2mM〜5mMであり、さらに好ましくは2mM〜4mMであり、例えば、3mMである。
酵素処理に使用する酵素処理液は、緩衝液であることが好ましく、HBSS(Hanks’ balanced salt solution)又はDPBS(Dulbecco‘s Phosphate Buffer Saline)であることがより好ましい。
酵素処理に使用する酵素処理液の組成の好ましい具体例は、0.2%コラゲナーゼ、HBSS、3mM CaCl、1000U/ml DNaseIである。
2−3−1−2.製造方法Aにおける工程(2)
製造方法Aにおける工程(2)は、工程(1)で得られた細胞集団(すなわち、間質血管画分(SVF))を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程である。工程(2)により、脂肪由来幹細胞の増殖による脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の駆逐を有意に防止しつつ、上清に含まれる血球系細胞を除去することができ、これにより、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団を取得することができる。
工程(2)における接着培養する期間の下限は、好ましくは、1時間以上、2時間以上、4時間以上、6時間以上、12時間以上、18時間以上又は1日以上である。工程(2)における接着培養する期間の上限は、7日以下、6日以下、5日以下、4日以下、3日以下、2日以下、42時間以下、36時間以下又は30時間以下とすることができる。
工程(2)における培養条件は、通常の動物細胞(好ましくは血管内皮(前駆)細胞)の培養に適した条件に準じて設定することができる。
培地は、血管内皮(前駆)細胞を培養できる培地であれば特に限定されず、EGM−2培地(Lonza)、EGM−2MV培地(Lonza)、αMEM、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ダルベッコ改変イーグル培地/ハムF−12混合培地(DMEM/F12)、RPMI1640などを挙げることができる。これらの培養液に対しては、通常、血清、各種ビタミン、各種抗生物質、各種ホルモン、各種増殖因子等、通常の細胞培養に適用可能な各種添加剤を添加してもよい。培地としては特に好ましくは、EGM−2培地(Lonza)又はEGM−2MV培地(Lonza)などを使用することができる。
培養は、フラスコ等のプラスチック培養容器を用いて、37℃、5%COの条件で行うことが好ましい。培地交換は、例えば、毎日又は1日おきに行えばよい。
2−3−1−3.製造方法Aにおける工程(3)
製造方法Aにおける工程(3)は、工程(2)で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程である。これにより、細胞集団における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の含有率を飛躍的に高めることができる。
また、工程(3)は、工程(2)で得られた細胞集団から、CD45が陰性を呈し、かつCD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD45が陰性を呈し、かつCD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程であってもよい。
CD31が陽性を呈する細胞、或いはCD45が陰性を呈し、かつCD31が陽性を呈する細胞を選別する方法は特に限定されず、抗体を用いてマーカータンパク質を発現する細胞又はマーカータンパク質を発現しない細胞を選別する方法を使用すればよい。
細胞の選別は、CD31に対して特異的に結合し得る抗体、更に所望によりCD45に対して特異的に結合し得る抗体を用いて行うことができる。抗体は、上記のマーカータンパク質と特異的に結合可能なものであれば特に限定されず、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよい。また抗体は、上記のマーカータンパク質に特異的に結合し得る限り断片であってもよい。抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab’)2断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
抗体を用いてマーカータンパク質を発現する細胞又はマーカータンパク質を発現しない細胞を選別する方法としては、例えば、蛍光細胞分離法(Fluorescence activated cell sorting:FACS)、磁気細胞分離法(Magnetic activated cell sorting:MACS)等が挙げられ、上記の中でもMACSが好ましい。
磁気細胞分離法(MACS)は、磁気を利用して標的細胞を分離する技術である。具体的には、マーカータンパク質に対する抗体を磁気ビーズに固定化し、強力な磁石を利用して円筒形容器(カラム)又はチューブ内にて標的細胞を分離することができる。固定化する磁気ビーズ試薬としては、一般的なものを用いることができる。磁気細胞分離法(MACS)としては、例えば、MACS(Miltenyi Biotec社製)、IMag(日本BD社製)等が挙げられるが、これらに限定されない。
工程(3)においては、抗CD31抗体で標識した磁気ビーズと、所望により抗CD45抗体で標識した磁気ビーズとを用いて、CD31が陽性を呈する細胞、或いはCD45が陰性を呈し、かつCD31が陽性を呈する細胞をMACSにより選別することができる。
蛍光細胞分離法(FACS)においては、セルソーター機能を有するフローサイトメーターを用いれば、指定した蛍光を発する特定の細胞のみを分取することが可能である。このような機器として、例えばFACSAriaII(日本BD社製)、JSAN(ベイバイオサイエンス社製)、MoFlo XDP(ベックマン・コールター社製)等が挙げられる。
2−3−1−4.製造方法Aにおける工程(4)
製造方法Aにおける工程(4)は、工程(3)で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程である。これにより、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が駆逐されることを有意に防止しつつ、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を選択的に増殖させることができる。
工程(4)における接着培養する期間の下限は、好ましくは、1時間以上、2時間以上、4時間以上、6時間以上、12時間以上、18時間以上又は1日以上である。工程(4)における接着培養する期間の上限は、7日以下、6日以下、5日以下、4日以下、3日以下、2日以下、42時間以下、36時間以下又は30時間以下とすることができる。
工程(4)における培養条件は、通常の動物細胞(好ましくは血管内皮(前駆)細胞)の培養に適した条件に準じて設定することができる。
培地は、血管内皮(前駆)細胞を培養できる培地であれば特に限定されず、EGM−2培地(Lonza)、EGM−2MV培地(Lonza)、αMEM、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ダルベッコ改変イーグル培地/ハムF−12混合培地(DMEM/F12)、RPMI1640などを挙げることができる。これらの培養液に対しては、通常、血清、各種ビタミン、各種抗生物質、各種ホルモン、各種増殖因子等、通常の細胞培養に適用可能な各種添加剤を添加してもよい。培地としては特に好ましくは、EGM−2培地(Lonza)又はEGM−2MV培地(Lonza)などを使用することができる。
培養は、フラスコ等のプラスチック培養容器を用いて、37℃、5%COの条件で行うことが好ましい。培地交換は、例えば、毎日又は1日おきに行えばよい。
2−3−1−5.製造方法Aにおける工程(5)
製造方法Aにおける工程(5)は、工程(4)で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程である。これにより、細胞集団における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の含有率をさらに飛躍的に高めることができる。
また、工程(5)は、工程(4)で得られた細胞集団から、CD45が陰性を呈し、かつCD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD45が陰性を呈し、かつCD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程であってもよい。
CD31が陽性を呈する細胞、或いはCD45が陰性を呈し、かつCD31が陽性を呈する細胞を選別する方法は特に限定されず、抗体を用いてマーカータンパク質を発現する細胞又はマーカータンパク質を発現しない細胞を選別する方法を使用すればよい。細胞選別の効率性及び/又は品質管理の観点から、工程(5)における細胞を選別する方法は、工程(3)における細胞を選別する方法と同様にすることが好ましい。
細胞の選別は、CD31に対して特異的に結合し得る抗体、更に所望によりCD45に対して特異的に結合し得る抗体を用いて行うことができる。抗体は、上記のマーカータンパク質と特異的に結合可能なものであれば特に限定されず、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよい。また抗体は、上記のマーカータンパク質に特異的に結合し得る限り断片であってもよい。抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab’)2断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
抗体を用いてマーカータンパク質を発現する細胞又はマーカータンパク質を発現しない細胞を選別する方法としては、例えば、蛍光細胞分離法(FACS)、磁気細胞分離法(MACS)等が挙げられ、上記の中でもMACSが好ましい。
磁気細胞分離法(MACS)は、磁気を利用して標的細胞を分離する技術である。具体的には、マーカータンパク質に対する抗体を磁気ビーズに固定化し、強力な磁石を利用して円筒形容器(カラム)又はチューブ内にて標的細胞を分離することができる。固定化する磁気ビーズ試薬としては、一般的なものを用いることができる。磁気細胞分離法(MACS)としては、例えば、MACS(Miltenyi Biotec社製)、IMag(日本BD社製)等が挙げられるが、これらに限定されない。
工程(5)においては、抗CD31抗体で標識した磁気ビーズと、所望により抗CD45抗体で標識した磁気ビーズとを用いて、CD31が陽性を呈する細胞、或いはCD45が陰性を呈し、かつCD31が陽性を呈する細胞をMACSにより選別することができる。
FACSにおいては、セルソーター機能を有するフローサイトメーターを用いれば、指定した蛍光を発する特定の細胞のみを分取することが可能である。このような機器として、例えばFACSAriaII(日本BD社製)、JSAN(ベイバイオサイエンス社製)、MoFlo XDP(ベックマン・コールター社製)等が挙げられる。
2−3−1−6.製造方法Aにおける工程(6)
製造方法Aにおける工程(6)は、工程(5)で得られた細胞集団を、接着培養することにより、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を取得する工程である。これにより、幹細胞消耗性疾患の予防及び/又は治療に有用な脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を選択的かつ高効率に増殖させることができる。
工程(6)における接着培養する期間の下限は、特に限定されないが、例えば、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上又は6日以上とすることができる。また、工程(6)における接着培養する期間の上限は、特に限定されないが、14日以下、13日以下、12日以下、11日以下、10日以下、9日以下、8日以下又は7日以下、とすることができる。
工程(6)における培養条件は、通常の動物細胞(好ましくは血管内皮(前駆)細胞)の培養に適した条件に準じて設定することができる。
培地は、血管内皮(前駆)細胞を培養できる培地であれば特に限定されず、EGM−2培地(Lonza)、EGM−2MV培地(Lonza)、αMEM、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ダルベッコ改変イーグル培地/ハムF−12混合培地(DMEM/F12)、RPMI1640などを挙げることができる。これらの培養液に対しては、通常、血清、各種ビタミン、各種抗生物質、各種ホルモン、各種増殖因子等、通常の細胞培養に適用可能な各種添加剤を添加してもよい。培地としては特に好ましくは、EGM−2培地(Lonza)又はEGM−2MV培地(Lonza)などを使用することができる。
培養は、フラスコ等のプラスチック培養容器を用いて、37℃、5%COの条件で行うことが好ましい。培地交換は、例えば、毎日、1日おき、2日おき又は3日おきに行えばよい。
2−3−2.製造方法B
本明細書における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、以下の工程(1)〜(5)を含む製造方法Bにより製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞とすることができる。
(1)脂肪組織を酵素処理することにより、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団を取得する工程;
(2)前記(1)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(3)前記(2)の工程で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(4)前記(3)の工程で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程;
(5)前記(4)の工程で得られた細胞集団を、接着培養することにより、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を取得する工程:
上記製造方法により、幹細胞消耗性疾患の予防及び/又は治療に有用な脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を高効率に取得できることができる。また、上記製造方法により製造された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞は、幹細胞消耗性疾患に対して顕著な治癒効果を有し、幹細胞消耗性疾患の予防及び/又は治療に使用することができる。
2−3−2−1.製造方法Bにおける工程(1)
製造方法Bにおける工程(1)は、脂肪組織を酵素処理することにより、少なくとも血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団(すなわち、間質血管画分(SVF))を取得する工程である。
製造方法Bにおける工程(1)は、上述の「2−3−1−1.製造方法Aにおける工程(1)」と同様に実施することができる。
2−3−2−2.製造方法Bにおける工程(2)
製造方法Bにおける工程(2)は、工程(1)で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程である。これにより、細胞集団における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の含有率を飛躍的に高めることができる。
製造方法Bにおける工程(2)は、上述の「2−3−1−3.製造方法Aにおける工程(3)」と同様に実施することができる。
2−3−2−3.製造方法Bにおける工程(3)
製造方法Bにおける工程(3)は、工程(2)で得られた細胞集団を、1時間以上、7日以下接着培養することにより、接着性細胞を含む細胞集団を取得する工程である。これにより、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が駆逐されることを有意に防止しつつ、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を選択的に増殖させることができる。
製造方法Bにおける工程(3)は、上述の「2−3−1−4.製造方法Aにおける工程(4)」と同様に実施することができる。
2−3−2−4.製造方法Bにおける工程(4)
製造方法Bにおける工程(4)は、工程(3)で得られた細胞集団から、CD31が陽性を呈する細胞を選別することにより、CD31が陽性を呈する細胞を含む細胞集団を取得する工程である。これにより、細胞集団における脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の含有率をさらに飛躍的に高めることができる。
製造方法Bにおける工程(4)は、上述の「2−3−1−5.製造方法Aにおける工程(5)」と同様に実施することができる。
2−3−2−5.製造方法Bにおける工程(5)
製造方法Bにおける工程(5)は、工程(4)で得られた細胞集団を、接着培養することにより、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を取得する工程である。これにより、幹細胞消耗性疾患の予防及び/又は治療に有用な脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を選択的かつ高効率に増殖させることができる。
製造方法Bにおける工程(5)は、上述の「2−3−1−6.製造方法Aにおける工程(6)」と同様に実施することができる。
2−4.細胞集団
本発明の医薬組成物は、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団を含む。前記細胞集団は、好ましくは、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を50%以上含む。前記細胞集団における培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の比率は、好ましくは、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上又は80%以上である。
本明細書における細胞集団は、好ましくは、培養された脂肪由来幹細胞をさらに含む。前記細胞集団は、培養された脂肪由来幹細胞を12.5%以上、15%以上、17.5%以上、20%以上、22.5%以上、25%以上含むことができる。また、前記細胞集団は、培養された脂肪由来幹細胞を50%以下、45%以下、40%以下、35%以下又は30%以下含むことができる。前記細胞集団が培養された脂肪由来幹細胞をさらに含むことによって、幹細胞消耗性疾患に対する治癒効果を顕著に高めることができる。
本明細書における細胞集団において、CD31が陽性を呈する細胞の比率は、好ましくは、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上又は80%以上である。
本明細書における細胞集団において、CD146が陽性を呈する細胞の比率は、好ましくは、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上又は100%である。
本明細書における細胞集団において、CD105が陽性を呈する細胞の比率は、好ましくは、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上又は100%である。
本明細書における細胞集団において、CD45が陽性を呈する細胞の比率は、好ましくは、5%未満、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下又は0%である。また、本明細書における細胞集団において、CD45が陰性を呈する細胞の比率は、好ましくは、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上又は100%である。
本発明の一態様によれば、細胞集団において、CD90が陽性を呈する細胞の比率は、50%以下、40%以下、30%以下、25%以下、22.5%以下、20%以下、17.5%以下、15%以下、12.5%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下又は0%でもよい。
本発明の一態様によれば、細胞集団において、CD73が陽性を呈する細胞の比率は、50%以下、40%以下、30%以下、25%以下、22.5%以下、20%以下、17.5%以下、15%以下、12.5%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下又は0%でもよい。
本発明の一態様によれば、細胞集団において、CD34が陽性を呈する細胞の比率は、50%以下、40%以下、30%以下、25%以下、22.5%以下、20%以下、17.5%以下、15%以下、12.5%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下又は0%でもよい。
本発明の一態様によれば、本明細書における細胞集団の細胞生存率は、好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上又は100%である。
2−5.医薬組成物
本発明によれば、培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物が提供される。前記幹細胞消耗性疾患は、1型糖尿病性潰瘍、2型糖尿病性潰瘍、難治性潰瘍、皮膚潰瘍、放射線潰瘍、肝硬変及び血管病変からなる群より少なくとも一つ選択される幹細胞消耗性疾患であってもよい。即ち、本発明の医薬組成物は、1型糖尿病性潰瘍、2型糖尿病性潰瘍、難治性潰瘍、皮膚潰瘍、放射線潰瘍、肝硬変及び/又は血管病変を予防及び/又は治療するための医薬組成物であってもよい。
本明細書における製薬上許容し得る媒体は、患者又は被験者に対して投与し得る液体であれば、特に限定されない。製薬上許容し得る媒体は、例えば、注射用水、生理食塩液、培地、5%ブドウ糖液、ヒアルロン酸液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、ビカネイト(登録商標)輸液、アミノ酸液、開始液(1号液)、脱水補給液(2号液)、維持輸液(3号液)、術後回復液(4号液)、Plasma−Lyte A(登録商標)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
本発明の医薬組成物は、患者又は被験者に投与し得る添加剤であって、前記医薬組成物の保存安定性、等張性、吸収性及び/又は粘性等を調整し得る添加剤を含んでもよい。上記添加剤としては、例えば、乳化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、湿潤剤、抗酸化剤、キレート剤、増粘剤、ゲル化剤、pH調整剤等が挙げられるが、これらに限定されない。前記増粘剤としては、例えば、HES、デキストラン、メチルセルロース、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。前記添加剤の濃度は、患者又は被験者に投与した場合に安全である限り、任意に設定することができる。
本発明の医薬組成物は、患者又は被験者に投与し得る任意の成分を含んでもよい。上記成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、ヒドロキシルエチルデンプン(HES)、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アミノ酸、培地成分等を挙げることができるが、これらに限定されない。
本発明の医薬組成物のpHは、中性付近のpH、例えば、pH5.5以上、pH6.0以上、pH6.5以上又はpH7.0以上とすることができ、またpH10.5以下、pH9.5以下、pH8.5以下又はpH8.0以下とすることができるが、これらに限定されない。
本発明の医薬組成物の細胞濃度は、投与形態、投与方法、使用目的、並びに患者又は被験者の年齢、体重、症状等によって異なるが、患者又は被験者に投与し得る任意の細胞濃度とすることができる。前記細胞濃度の下限は、特に限定されないが、例えば、1.0×10個/mL以上、2.0×10個/mL以上、4.0×10個/mL以上、6.0×10個/mL以上、8.0×10個/mL以上、1.0×10個/mL以上、2.0×10個/mL以上、4.0×10個/mL以上、6.0×10個/mL以上、8.0×10個/mL以上又は1.0×10個/mL以上である。前記細胞濃度の上限は、特に限定されないが、例えば、1.0×1010個/mL以下、1.0×10個/mL以下、8.0×10個/mL以下、6.0×10個/mL以下、4.0×10個/mL以下、2.0×10個/mL以下又は1.0×10個/mL以下である。
本発明の医薬組成物は、好ましくは液剤であり、より好ましくは注射用液剤である。注射用液剤としては、例えば、国際公開WO2011/043136号公報、特開2013−256510号公報などにおいて、注射に適した液体調製物が知られている。本発明の医薬組成物も、上記文献に記載されている注射用液剤とすることができる。
また、上記液剤は細胞の懸濁液でもよく、細胞が液剤中に分散した液体調製物でもよい。さらに前記液剤に含まれる細胞の形態は、例えばシングルセルでもよいし、細胞凝集塊でもよい。
本発明の医薬組成物の投与方法は、特に限定されないが、例えば、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、リンパ節内注射、静脈内注射、動脈内注射、点滴静脈注射、腹腔内注射、胸腔内注射、局所への直接注射、局所への塗布などが挙げられる。本発明の一態様によれば、注射用液剤を注射器に充填して、注射針やカテーテルを通じて静脈内、動脈内、心筋内、間節腔内、肝動脈内、筋肉内、硬膜外、歯肉、脳室内、皮下、皮内、腹腔内、門脈内等に投与することができる。医薬組成物の投与方法については、例えば、特開2015−61520号公報、Onken JE,t al.American College of Gastroenterology Conference 2006Las Vegas,NV, Abstract 121.,Garcia−Olmo D,et al.Dis Colon Rectum 2005;48:1416−23.などにおいて、静脈内注射、点滴静脈注射、局所への直接注射などが知られている。本発明の医薬組成物も、上記文献に記載されている各種方法により投与することができる。
本発明の医薬組成物の投与量としては、患者又は被験者に投与した場合に、幹細胞消耗性疾患に対して治癒効果を得ることができる脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の量である。具体的な投与量は、投与形態、投与方法、使用目的、並びに患者又は被験者の年齢、体重、症状等によって適宜決定することができる。ヒトへの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の1回の投与量の下限は、特に限定されないが、例えば、1×10個/kg体重以上、5×10個/kg体重以上、1×10個/kg体重以上、5×10個/kg体重以上、1×10個/kg体重以上、2×10個/kg体重以上、3×10個/kg体重以上、4×10個/kg体重以上又は5×10個/kg体重以上である。また、ヒトへの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の1回の投与量の上限は、特に限定されないが、例えば、1×10個/kg体重以下、5×10個/kg体重以下、1×10個/kg体重以下、9×10個/kg体重以下、8×10個/kg体重以下、7×10個/kg体重以下、6×10個/kg体重以下、5×10個/kg体重以下、4×10個/kg体重以下、3×10個/kg体重以下又は2×10個/kg体重以下である。
本発明の医薬組成物の投与頻度は、患者又は被験者に投与した場合に、幹細胞消耗性疾患に対して治癒効果を得ることができる頻度である。具体的な投与頻度は、投与形態、投与方法、使用目的、並びに患者又は被験者の年齢、体重、症状等によって適宜決定することができるが、例えば、4週間に1回、3週間に1回、2週間に1回、1週間に1回、1週間に2回、1週間に3回、1週間に4回、1週間に5回、1週間に6回又は1週間に7回である。
本発明の医薬組成物の投与期間は、患者又は被験者に投与した場合に、幹細胞消耗性疾患に対して治癒効果を得ることができる期間である。具体的な投与期間は、投与形態、投与方法、使用目的、並びに患者又は被験者の年齢、体重、症状等によって適宜決定することができるが、例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間又は8週間である。
本発明の医薬組成物を患者又は被験者に投与するタイミングは、特に限定されないが、例えば、発症直後、発症からn日以内(nは1以上の整数を示す)、診断直後、診断からn日以内(nは1以上の整数を示す)などが挙げられる。
本発明の医薬組成物は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。本発明の医薬組成物を患者又は被験者に投与する際には、37℃で急速に解凍して使用することができる。また、本発明の医薬組成物は、凍結保存することなく、製造された直後に使用することもできる。
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
<方法>
1.試薬、使用機器など
HBSS without Ca++,without Mg++(Gibco,#14175−095)
コラナゲーゼ粗精製、Clostridium histolyticum由来(和光純薬,#032−22364)
遠沈管(500mL,Corning,#431123;250mL,Corning #430776;50mL,Falcon,#352070,15mL,FALCON #352096)
卓上遠心機(Kubota,本体#S700T,支柱#RS−7504M,バケット#053−0100)
恒温振盪機(Yamato,#100)
電子秤
スポイトシリコンゴム10mL用(アズワン,#6−356−04)
Cell culture dish(Falcon,#353025,150mm dish,growth area 156.36cm
セルストレーナーφ100μm,FALCON #352360
セルストレーナーφ40μm,FALCON #352340
DNaseI粗精製(Worthington,#LS002138)
Blood cell lysis kit(ミルテニー,#130−094−183)
BSA fatty acid free,low endotoxin,lyophilized powder,BioReagent,suitable for cell culture,≧96%(agarose gel electrophoresis)(Sigma,#A8806)
EDTA−2Na(Dojindo,#N001)
MS column(ミルテニー,#120−000−472)
MACS separator(ミルテニー)
CD45 Microbeads(ミルテニー,#130−045−801)
CD31 Microbeads kit(human)(ミルテニー,#130−091−935)
Culture sure CaCl(和光純薬,#037−24031,MW110.98)
0.22μmφシリンジフィルター(ミリポア、Millex−GV,#2LGV−33RS)
血管内皮(前駆)細胞用培地(EGM−2,Lonza #CC−3162、EGM−2MV,Lonza #CC−3202)
脂肪由来幹細胞用培地(DMEM/F12,和光純薬 #048−29785)
TrypLE express(Gibco,#12604−021)
ジメチルスルホキシド分子生物学用(DMSO)(和光純薬,#047−29353)
Fetal Bovine Serum(FBS)
Penicillin−Streptomycin(和光純薬,#168−23191)
凍結保存ユニット(Thermo Fisher Scientific,#5100−0001)
−80℃ディープフリーザー、気相式液体窒素極低温フリーザー
ソニケーター(ブランソン,#M2800J)
ディスポーザブルピペット(コーニング、コースター、5mL #4487,10mL #4488,25mL #4489,50mL #4490)
マトリゲル基底膜マトリックス フェノールレッドフリー(Corning,#356237)
96wellプレート、SpectraPlate−96 TC(パーキンエルマー,#6005650)
4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(和光純薬,#163−20145)
グリシン(和光純薬,#077−00735)
Triton−X100(和光純薬,#591−12191)
Human CD31抗体(R&D,#BBA7)
Normal mouse IgG抗体(Santa cruz,#sc−2025)
Alexa−488 Goat anti−mouse IgG1抗体(Invitrogen,#A21121)
DAPI(Dojindo,#340−07971)
4ウェルチャンバースライド(Iwaki,#5722−004)
VECTA shield mounting medium(VECTOR Laboratories,#H−1000)
共焦点顕微鏡(OLYMPUS,FV1000)
カバーグラス(Matsunami,24×50mm,No.1,0.12−0.17)
2.試薬の調製
(酵素反応液の調製)
0.4%Collagenase/HBSSと2000U/mL DNase/HBSSとを1:1で混和し、酵素反応液(0.2%Collagenase/1000U/ml DNase/HBSS)を調製した。
3.実施例1
実施例1は、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が幹細胞消耗性疾患モデル動物において治癒効果を示すかどうかを検討するための実施例(AEPC投与群)である。
3−1.細胞調製
以下に示す工程(1)〜(8)により、動物実験に供するための脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を調製した。
(1)脂肪の採取、酵素処理及びSVFの取得
インフォームドコンセントを得たドナーから皮下脂肪を無菌的に吸引採取した。得られた脂肪を静置又は遠心分離し、脂肪層、水層及びオイル層を分離させた。ディスポーザブルピペットを用いて静かに水層及びオイル層を除去した。回収した脂肪層をコニカルチューブに分注し、脂肪層の重量を秤量した。
酵素反応液(0.2%Collagenase/1000U/mL DNase/HBSS)を事前に室温以上37℃以下で10分間温めた。上述の(1)で得られた脂肪層に、等量の酵素反応液を加え、37℃、120rpmの条件で30分間振盪した。得られた酵素反応物を、800×gの条件で10分間遠心分離した。遠心分離後の酵素反応物は、遠沈管上部から、オイル層、残存脂肪層、エマルジョン層、水層、細胞ペレットに分離した状態になった。沈殿した細胞塊が崩れないように注意しつつ、オイル層、脂肪層、エマルジョン層及び水層を除去した。得られた細胞ペレットを45mLのHBSS(4℃)で穏やかに懸濁し、脂肪由来の様々な細胞を含む細胞懸濁液を得た。
新品の50mLコニカルチューブにφ100μmセルストレーナーを置き、乳白色の繊維質の塊と共に上記細胞懸濁液(約10mL)をセルストレーナー上に移動させて、細胞懸濁液をセルストレーナーに通した。セルストレーナー上にトラップされた繊維質の塊を、5mLディスポーザブルピペットの先端でしごいて、繊維質に付着している細胞を回収した。残りの細胞懸濁液(約35mL)をセルストレーナーに通した。
新品の50mLコニカルチューブにφ40μmセルストレーナーを置き、100μmφのセルストレーナーに通した細胞懸濁液をさらにφ40μmセルストレーナーに通した。
得られた細胞懸濁液を、4℃、800×gの条件で5分間遠心分離した。上清を吸引除去し、予め4℃に冷やしたHBSS(45mL)で得られた細胞ペレットを再懸濁した。さらに、得られた細胞懸濁液を、4℃、800×gの条件で5分間遠心分離した。上清を吸引除去した。以上の操作により、間質血管画分(SVF)を取得した。なお、この間質血管画分には、少なくとも脂肪由来血管内皮(前駆)細胞、脂肪由来幹細胞及び血球系細胞が含まれる。
(2)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の接着培養(1回目)
上述の(1)で得られた間質血管画分(SVF)を培地(EGM−2培地又はEGM−2MV培地)にて懸濁し、Luna−stemで有核細胞数及び細胞生存率をカウントした。1×10個生存有核細胞/0.25mL 培地/cmの細胞密度条件で培養容器に播種し、37℃、5%COの条件で2日間接着培養した。培地交換は毎日行った。培地交換によって、非接着性細胞である血球系細胞は除去される。この接着培養により得られた接着性細胞に含まれる脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を、「1回接着培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞」又は「0回継代培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞(P0)」と称する。
細胞剥離は以下の手順により実施した。まず、接着培養にて得られた接着性細胞を、HBSS(37℃)で洗浄した。次に、1× TrypLE express(37℃)を適量(3mL TrypLE express/25cm)添加し、37℃、5%COの条件で5分間反応させた。さらに、培地(EGM−2培地又はEGM−2MV培地)で反応を停止し、遠心分離(4℃、300×g、5分間)により細胞ペレット(細胞集団)を得た。有核細胞数をLuna stemでカウントした。
(3)MACSによるCD31陽性細胞の選別(1回目)
CD31が陽性を呈する細胞の選別は、ミルテニー社のMACSのプロトコールに準じて以下の通り実施した。
上述の(2)で得られた細胞ペレット(1×10個以下の細胞を含む細胞集団)に対して60μLのMACS bufferを添加し、穏やかに再懸濁した。細胞懸濁液に20μLのFc receptor(FcR)block reagentを添加し、ボルテックスにより2〜3秒攪拌した。20μLのCD31マイクロビーズを添加して、穏やかにピペッティングした後、4℃で15分間CD31抗体反応を行った。1mLのMACS bufferを添加し、タッピングによって混和した後、4℃、300×gの条件で3分間遠心分離した。得られた細胞ペレットを0.5mLのMACS bufferに再懸濁し、4℃で一時的に保管した。ミルテニー社のMSカラムをセパレーターにセットし、カラムを0.5mL MACS bufferで1回洗浄した。カラム洗浄後直ちに、CD31マイクロビーズ処理した細胞懸濁液をカラムに添加した。0.5mLのMACS bufferを3回カラムに通した。フロースルーを、CD31陰性細胞(CD31が陰性を呈する細胞)を含む細胞集団として回収した。なお、このCD31陰性細胞を含む細胞集団には、多くの脂肪由来幹細胞が含まれる。磁気カラムに補足され、セパレーターからのカラム離脱後にフラッシュで溶出される分画を、CD31陽性細胞(CD31が陽性を呈する細胞)を含む細胞集団(細胞懸濁液)として回収した。得られたCD31陽性細胞を含む細胞集団を、新品のMSカラムに添加し、磁気カラムに補足されフラッシュにて溶出される分画を、CD31陽性細胞を含む細胞集団(細胞懸濁液)として回収した。このCD31陽性細胞を含む細胞集団には、多くの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が含まれる。この細胞選別により得られたCD31陽性細胞に含まれる脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を、「1回選別された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞」と称する。
(4)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の接着培養(2回目)
上述の(3)で得られたCD31陽性細胞を含む細胞集団を、培地(EGM−2培地又はEGM−2MV培地)にて再懸濁し、Luna−stemで有核細胞数及び細胞生存率をカウントした。1×10個生存有核細胞/0.25mL 培地/cmの細胞密度条件で培養容器に播種し、37℃、5%COの条件で3日間接着培養した。培地交換は1日おきに行った。この接着培養により得られた接着性細胞に含まれる脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を、「2回接着培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞」又は「1回継代培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞(P1)」と称する。
細胞剥離は上述の(2)と同様に実施した。
(5)MACSによるCD31陽性細胞の選別(2回目)
上述の(4)で得られた細胞集団から、上述の(3)と同様にして、MACSによりCD31陽性細胞を含む細胞集団を選別した。この細胞選別により得られたCD31陽性細胞に含まれる脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を、「2回選別された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞」と称する。
(6)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の接着培養(3回目)
上述の(5)で得られたCD31陽性細胞を含む細胞集団を、培地(EGM−2培地又はEGM−2MV培地)にて再懸濁し、Luna−stemで有核細胞数及び細胞生存率をカウントした。2.5×10個生存有核細胞/0.2mL 培地/cmの細胞密度条件で培養容器に播種し、37℃、5%COの条件でコンフルエンシーが80〜90%となるまで(3〜7日間)接着培養した。培地交換は2日おきに行った。この接着培養により得られた接着性細胞に含まれる脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を、「3回接着培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞」又は「2回継代培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞(P2)」と称する。なお、得られた細胞集団には、大量かつ高純度の脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が含まれる。
細胞剥離は上述の(2)と同様に実施した。
(7)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の接着培養(4回目)
上述の(6)で得られた細胞集団を、上述の(6)と同様に接着培養した。この接着培養により得られた接着性細胞に含まれる脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を、「4回接着培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞」又は「3回継代培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞(P3)」と称する。
細胞剥離は上述の(2)と同様に実施した。
(8)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の接着培養(5回目)
上述の(7)で得られた細胞集団を、上述の(6)と同様に接着培養した。この接着培養により得られた接着性細胞に含まれる脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を、「5回接着培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞」又は「4回継代培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞(P4)」と称する。
細胞剥離は上述の(2)と同様に実施した。
得られた細胞集団に対して、フローサイトメーターを用いて、各表面抗原(CD45、CD34、CD31、CD146、CD105及びCD90)の陽性率を測定した。その結果、CD31、CD146及びCD105の陽性率はいずれも70%以上であり、CD45の陽性率は5%未満であった。また、得られた細胞集団は、ネットワーク形成試験においてチューブ状のネットワーク構造を形成した。また、得られた細胞集団は、コロニー形成試験においてコロニーを形成する細胞を含有していた。以上の結果から、得られた細胞集団は、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団であることが確認された。
なお、得られた細胞集団におけるCD34及びCD90の陽性率はいずれも5%未満であった。また、細胞免疫染色試験においてisolectin及びフォン・ヴィレブランド因子が陽性を呈した。
3−2.幹細胞消耗性疾患モデルマウスを用いた治癒効果の検討
以下3種類の疾患モデルマウスを用いた実験では、実施例1にて得られた「5回接着培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞」が幹細胞消耗性疾患モデル動物において治癒効果を示すかどうかを検討した。
3種類の疾患モデルマウス
(A) 1型糖尿病難治性皮膚潰瘍
(B) 2型糖尿病難治性皮膚潰瘍
(C) 放射線障害性難治性皮膚潰瘍
なお、「(B) 2型糖尿病難治性皮膚潰瘍」への治療効果については、詳細に検討するため、2回実施したため、2回分を記載する。
(1)2型糖尿病モデルマウスを用いた創傷治癒モデルの作製
8週齢のオスの2型糖尿病マウス(db/dbマウス、日本クレア、系統名:BKS.Cg−+Leprdb/+ Leprdb/Jcl)を使用し、以下の手順により創傷治癒モデル(2型糖尿病難治性潰瘍モデル)を作製した。
9週齢のdbマウスに対して、イソフルラン吸入により麻酔を施した。麻酔したdbマウスの背部をバリカンで剃毛した。滅菌バイオプシーパンチ(6.0mm直径、Kai #BP−60F)を用いて、dbマウスの背部の皮膚全層を剥離し、略円形の創傷部を形成した。創面収縮を防ぐために、dbマウスの創傷部にドーナツ型のシリコンスプリント(ドーナツ穴直径:9mm)を配置し、糸号数6−0のナイロン製縫合糸(ベアーメディック、#BP11A06N−45)を用いて固定した。
(2)投与
2型糖尿病モデルマウスを用いた創傷治癒モデル(2型糖尿病難治性潰瘍モデル)への脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の投与は、以下のように実施した。
実施例1にて得られた「5回接着培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞」を、EGM−2MV培地を用いて懸濁し、1.0×10個/mLの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞懸濁液a1、並びに4.0×10個/mLの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞懸濁液a2を各々調製した。次いで、上記細胞懸濁液a1又はa2と、0.4%ヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬、#089−10343)とを1:1で混合し、5.0×10個/mLの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む投与液A1、並びに2.0×10個/mLの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む投与液A2を調製した。上述の(1)にて作製した創傷治癒モデルの創傷部周辺の4〜8箇所の皮下に、投与量0.2mL/マウスの投与液A1及びA2を投与した。すなわち、投与液A1を使用した実験系における投与細胞数は、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が1.0×10個/マウスであり、投与液A2を使用した実験系における投与細胞数は、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が4.0×10個/マウスであった。
4.実施例2
実施例2は、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を脂肪由来幹細胞と共に使用した場合に、幹細胞消耗性疾患モデル動物において治癒効果が高まるかどうかを検討するための実施例(AEPC+ASC併用投与群)である。
4−1.細胞調製
以下に示す工程(1)〜(4)により、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞と共に動物実験に供するための脂肪由来幹細胞を調製した。
(1)脂肪の採取、酵素処理及びSVFの取得
実施例1の「(1)脂肪の採取、酵素処理及びSVFの取得」と同様にSVFを取得した。
(2)脂肪由来幹細胞の接着培養(1回目)
上述の(1)で得られた間質血管画分(SVF)を、10%FBS及びPenicillin−Streptomycinを含むDMEM/F12培地(脂肪由来幹細胞用培地)にて懸濁し、Luna−stemで有核細胞数及び細胞生存率をカウントした。4000個/cmの細胞密度条件で培養容器に播種し、37℃、5%COの条件でコンフルエンシーが80〜90%となるまで接着培養した。なお、間質血管画分(SVF)を播種した1日後又は2日後に、事前に37℃に温めたHBSS又はDPBSを用いて3回洗浄し、非接着性細胞である血球系細胞を除去した。また、培地交換は3日おきに行った。培地交換によって、非接着性細胞である血球系細胞はさらに除去される。この接着培養により得られた接着性細胞に含まれる脂肪由来幹細胞を、「1回接着培養された脂肪由来幹細胞」又は「0回継代培養された脂肪由来幹細胞(P0)」と称する。
細胞剥離は以下の手順により実施した。まず、接着培養にて得られた接着性細胞を、HBSS(37℃)で洗浄した。次に、1× TrypLE express(37℃)を適量(3mL TrypLE express/25cm)添加し、37℃、5%COの条件で5分間反応させた。さらに、脂肪由来幹細胞用培地で反応を停止し、遠心分離(4℃、300×g、5分間)により細胞ペレット(細胞集団)を得た。有核細胞数をLuna stemでカウントした。
(3)脂肪由来幹細胞の接着培養(2回目)
上述の(2)で得られた細胞集団を、上述の(2)と同様にして、脂肪由来幹細胞用培地にて接着培養した。この接着培養により得られた接着性細胞に含まれる脂肪由来幹細胞を、「2回接着培養された脂肪由来幹細胞」又は「1回継代培養された脂肪由来幹細胞(P1)」と称する。
細胞剥離は上述の(2)と同様に実施した。
(4)脂肪由来幹細胞の接着培養(3回目)
上述の(3)で得られた細胞集団を、上述の(2)と同様にして、脂肪由来幹細胞用培地にて接着培養した。この接着培養により得られた接着性細胞に含まれる脂肪由来幹細胞を、「3回接着培養された脂肪由来幹細胞」又は「2回継代培養された脂肪由来幹細胞(P2)」と称する。
細胞剥離は上述の(2)と同様に実施した。
得られた細胞集団に対して、フローサイトメーターを用いて、各表面抗原(CD90、CD73、CD105、CD31及びCD45)の陽性率を測定した。その結果、CD90、CD73及びCD105の陽性率はいずれも80%以上であり、CD31及びCD45の陽性率はいずれも5%未満であった。以上の結果から、得られた細胞集団は、脂肪由来幹細胞を含む細胞集団であることが確認された。
4−2.幹細胞消耗性疾患モデルマウスを用いた治癒効果の検討
以下に示す実験では、実施例1にて得られた「5回接着培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞」と、実施例2にて得られた「3回接着培養された脂肪由来幹細胞」とを、幹細胞消耗性疾患モデルマウスに投与することにより、治癒効果を示すかどうかを検討した。
(A)1型糖尿病難治性皮膚潰瘍に対する創治癒効果
(1)1型糖尿病の誘導
5週齢のオスの免疫不全SCIDマウス(日本クレア、系統名:C.B−17/Icr−scid/scidJcl)、及びそのコントロール野生型マウス(日本クレア、系統名:C.B17/Icr−+/+Jcl)を馴化後、体重測定を行った。実験終了までの期間は、マウスの全身状態の評価のために毎週体重測定を行い、その経過を記録した。試験は、全てイソフルラン(ファイザー)吸入麻酔下で実施した。24時間の絶食後、グルコース濃度測定のために少量(1μL)の鮮血を尾静脈より採取し、血中グルコース濃度測定した。血糖値測定は、機器(テルモ、メディセーフフィットプロII、#MS−FKP02、及び岩井化学薬品、グルコースパイロット、#GP−01)により行った。ストレプトゾトシン(STZ; シグマアルドリッチ カタログ#S0130)をクエン酸バッファー(pH = 4.5)(Citrate buffer)に溶解し0.22μmのシリンジフィルターで滅菌処理して、滅菌STZ液を調製した。滅菌STZ液を腹腔内投与(投与量150mg/kg)して1型糖尿病を誘導した。また、陰性コントロールとして、滅菌Citrate bufferを腹腔内投与する群も作製した。1回目のSTZ投与から24時間後、滅菌STZ液を再び腹腔内投与(投与量150mg/kg)した。陰性コントロール群は、1回目の滅菌Citrate buffer投与から24時間後、滅菌Citrate bufferを再び腹腔内投与した。STZ投与3日後に血中グルコース濃度測定を行なった。血中グルコース濃度が300mg/dl以上の場合は、1型糖尿病マウスモデルの作製が完了する。血中グルコース濃度が300 mg/dl以下の場合は、さらに150 mg/kg STZを腹腔内投与し、さらに3日後に糖尿病の発症を血糖値測定機器で計測した。
(2)1型糖尿病モデルマウスを用いた創傷治癒モデルの作製
血中グルコース濃度300mg/dl以上の1型糖尿病誘導免疫不全SCIDマウスが9週齢のところで、創傷治癒モデルを作製した。創傷治癒試験は、全てイソフルラン吸入麻酔下で実施した。背部をバリカンで剃毛した。創面収縮を防ぐ目的で、ドーナツ型のシリコンスプリント(共和工業、ドーナツ穴の内径の直径9mm、外径15mm、厚さ1mm)を糸号数6−0のナイロン製縫合糸(ベアーメディック、#BP11A06N−45)で固定した。滅菌バイオプシーパンチ(Kai生検トレパン6mm #BP−60F、6.0mm直径)により、略円形に皮膚全層を剥離した。
(3)投与
1型糖尿病SCIDマウスを用いた1型糖尿病難治性潰瘍モデルへの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞の投与は、以下のように実施した。
実施例1にて得られた「5回接着培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞」を、EGM−2MV培地を用いて懸濁し、1.0×10個/mLの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞懸濁液a1、並びに4.0×10個/mLの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞懸濁液a2を各々調製した。次いで、上記細胞懸濁液a1又はa2と、微小血管内皮細胞用の完全培地(Lonza, EGM−2MV、#CC−3202)に溶解した滅菌0.4%(v/w)ヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬、#089−10343)とを1:1で混合し、5.0×10個/mLの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む投与液A1、並びに2.0×10個/mLの脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む投与液A2を調製した。上述の(1)にて作製した創傷治癒モデルの創傷部周辺の4〜8箇所の皮下に、投与量0.2mL/マウスの投与液A1及びA2を注射投与した。すなわち、投与液A1を使用した実験系における投与細胞数は、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が1.0×10個/マウスであり、投与液A2を使用した実験系における投与細胞数は、脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が4.0×10個/マウスであった。動物実験は、実験群、コントロール群ともに、各群5匹で開始した。
なお、マウスへの細胞投与試験が終了するまで、ヒト細胞−0.2%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウム−EGM−2MV培地溶液は氷冷で保管し、投与後に、投与した細胞の生存率を確認した。細胞数計測機器(Logos biosystems、LUNA−STEM)を用いて、細胞生存率(%)をPropidium iodide/ Acridine orangeにより計測した。
比較例1
比較例1は、幹細胞消耗性疾患モデル動物において、細胞を含まない投与液(Vehicle)を投与した対照実験(Vehicle投与群)である。
Vehicleの調製
EGM−2MV培地と0.4%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウム−EGM−2MV培地とを1:1で混合し、細胞を含まない投与液(Vehicle)である0.2%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウム−EGM−2MV培地溶液を調製した。
(4)創傷治癒効果の経時観察と画像解析
投与日を0日目として、0、3、7、10、14、17、21日目の創傷部の経過を一眼レフカメラでマクロ撮影した。写真撮影後は、ドレッシング剤でシリコンスプリントの脱落、創部乾燥、及び痂皮形成を防いだ。マクロ写真は、Adobe Photoshop 2020 (Adobe creative cloud)で解析した。解像度を300 pixel/inchに変換後、計測スケール設定を1pixel=1pixelと定義し、ドーナツ型スプリントの内部面積、及び創面積を範囲選択し、計測ツールを用いて選択範囲の面積のピクセル数を計測した。創傷治癒面積率は、以下の式で算出した。
Wound healing(%) = X日目(創面積のピクセル÷スプリント内部のピクセル)÷0日目(創面積のピクセルス÷プリント内部のピクセル)×100
Excelソフト(Microsoft、Excel for mac 2016)を用いて各マウスの創傷治癒面積率の値から、各群の平均値、標準偏差値(SD)を計算した。有意差検定は、統計解析ソフト(Graphpad、 Prism 6 for MAC OS X、 version 6.0d)を用いて、One−way ANOVA with Tukey’s testを実施した。
(5)創傷治癒部の組織学標本の回収
投与から21日目のマクロ写真撮影後に、ドーナツ型シリコンスプリント(直径9 mm)の内部を直径8mmのバイオプシーパンチ(Kai 生検トレパン8.0 mm、#BP−80F)で皮膚全層を略円形に剥離して回収した。回収した皮膚片は、創傷治癒部の皮膚とその周囲の正常皮膚を含んでいる。皮膚片を固定液(BD Pharmingen IHC Zinc Fixative #550523)で24時間、4℃で固定処理した。略円形の皮膚片は、中心を通るようにメスで切断し、メスでの皮膚切断面が面だしされる方向でパラフィン包埋した。また、コントロールとして使用するヒト皮膚組織も同様の手順で、固定処理、パラフィン包埋を行った。
(6)投与ヒト細胞の生着の確認
投与したAEPC、及びASCが1型糖尿病SCIDマウスへ生着したかは、ヒト特異的ゴルジ体抗体を用いた免疫染色により確認した。ヒト特異的ゴルジ体抗体は、Anti−TGOLN2 antibody produced in rabbit (Sigma−Aldrich、#HPA012723)を選定した。Trans−Golgi Network Protein 2 (TGOLN2)は、ヒトゴルジ体で発現するタンパク質の1つである。本抗体は、抗原に使用したペプチド配列が販売元のSigma−Aldrich社で公開されており、抗原配列をブラウザソフトStandard Protein BLAST(NIH National Institutes of Health、https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE=Proteins)で検索したところ、相補性をもち検出される動物種は、チンパンジー(Pan troglodytes)、ボノボ(Pan paniscus)、ニシローランドゴリラ(Gorilla gorilla gorilla)等の霊長目やサル目に限られており、マウスで発現するタンパク質配列とは相補性がないことを確認した。従って、ヒト細胞のゴルジ体を特異的に検出する抗体であると言え、マウス組織に投与したヒト細胞の生着の有無を検出することができると考えて選定した。
免疫染色の手順
標本パラフィンブロックは、ミクロトームを用いて厚み4μmに薄切し、脱パラフィン処理、及び浸水処理を行なった。抗原賦活化(VECTOR、Antigen unmasking solution #H−3300)処理をキットのプロトコールに従い行った。PBS(Wako、FUJIFILM、#162−18547)で洗浄後、0.025%(w/v)Triton−X100/PBSで5分、室温により透過処理を行った。PBSで洗浄後、3% (v/v) H/ HOで30分、室温により内在性ペルオキシターゼのブロッキングを行った。PBSで洗浄後、免疫染色キット(VECTOR、ImmPRESS(登録商標)Horse Anti−Rabbit IgG Polymer Kit #MP−7401−50)同封の2.5%Normal horse serumで20分、室温によりブロッキングを行った。さらに5%(w/v)スキムミルク(ナカライテスク、# 31149−75)/PBSで、15分、室温によりブロッキングを行った。抗体反応は、ヒトゴルジ体抗体(Sigma−Aldrich、Anti−TGOLN2 antibody produced in rabbit、#HPA012723)を0.8μg/mL濃度になるように抗体希釈液(Agilent、Dako antibody diluent #S0809−83)で調製して、16時間、4℃で反応させた。陰性コントロールの1つとして、同種由来のNormal IgG(Thermo、Rabbit IgG Isotype Control,#02−6102)を0.8μg/mL濃度になるように抗体希釈液で調製して16時間、4℃で反応させた。
発色は、ペルオキシダーゼ/DAB反応(VECTOR、 ImmPACT(R) DAB #SK−4105)で行った。対比染色としてメチルグリーン核染色(VECTOR, #H−3402)を行った。脱水、透徹、封入を行った。撮像は、倒立顕微鏡(キーエンス、オールインワン顕微鏡、#BZX−710、レンズx20 PlanApoλ NA0.75)を用いて、露光を1/400秒に固定して明視野撮影した。免疫染色像の視野は、治癒瘢痕を中心として瘢痕と正常皮膚部を一部含む境界位置を選択した。
以下の表1に免疫染色条件を示した。a〜iは、図3の各条件の染色像と対応している。
Figure 2021066732
<結果>
マウスへの細胞投与試験後に実施したヒト細胞−0.2%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウム−EGM−2MV培地溶液の細胞生存率は、全ての投与条件で94%以上の細胞生存率だった。
動物実験は、以下の表2の通りで実施し、試験0日目(D0)では、各群5匹ずつ用意して試験開始した。試験終了日の21日目(D21)では、一部条件でマウスが死亡して、各群は、4〜5匹となった。創傷治癒試験の創傷治癒面積率の計測結果、及び投与ヒト細胞のマウスへの生着を確認する免疫染色結果には、死亡したマウスは含めないため、表2のとおりに、n=4−5で結果を出した。
Figure 2021066732
図1に、低容量(1.0×10個/マウス)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を投与した場合の1型糖尿病難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。
図1に示すように、Day7、及びDay10における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対して脂肪由来血管内皮(前駆)細胞(AEPC)単独群、及びAEPC+脂肪由来幹細胞(ASC)併用投与群は改善傾向を示した。さらに、Day14、Day17、及びDay21における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してAEPC単独群は改善傾向を示し、AEPC+ASC併用投与群は有意に改善した。また、Day14、及びDay17、における創傷治癒面積率について、AEPC+ASC併用投与群は、1型糖尿病非誘導(正常)SCIDマウス群(図1−1.SCID/citrate buffer−None群。1型糖尿病に起因する難治性潰瘍を発症しないで創治癒する群)を上回る改善傾向を示した。
図2に、高容量(4.0×10個/マウス)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を投与した場合の1型糖尿病難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。
図2に示すように、Day7、及びDay10における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してAEPC投与群、及びAEPC+ASC併用投与群は改善傾向を示した。さらに、Day14、Day17、及びDay21における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してAEPC投与群、及びAEPC+ASC併用投与群で有意に改善した。また、Day14、及びDay17における創傷治癒面積率について、AEPC投与群、及びAEPC+ASC併用投与群は、1型糖尿病非誘導(正常)SCIDマウス群(図1−1.SCID/citrate buffer−None群。1型糖尿病に起因する難治性潰瘍を発症しないで創治癒する群)を上回る改善傾向を示した。したがって、AEPCを含む細胞集団(AEPC投与群)は、1型糖尿病難治性潰瘍モデルにおいて治癒効果を示すことが明らかになった。さらに、AEPCとASCを含む細胞集団(AEPC+ASC併用投与群)は、さらに高い治癒効果を示すことが明らかになった。また、低容量(1.0×10個/マウス)AEPCでも、十分な治癒効果を発揮することが示唆された。創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してASC投与群は、改善傾向を示さなかった。これまでに文献で、創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してASC単独群は、より治療効果が高いことが数多く報告されているが、本試験でのVehicle投与群に使用したVehicleの組成は、ヒアルロン酸ナトリウムを微小血管内皮細胞用の完全培地(Lonza,EGM−2MV)に溶解したものを使用しており、EGM−2MVに含まれる複数の組織リモデリングを加速させる増殖因子(human fibroblast growth factor basic、epidermal growth factor、insulin −like growth factor、Ascorbic acid、hydrocortisone、fetal bovine serum)が徐放される形をとっており、Vehicle投与群自体がすでに創傷治癒を加速させる条件であるため、ASC単独群での効果が見えにくい結果となったことが示唆された。逆にいうと、創傷治癒を加速させる条件である本試験でのVehicle投与群、及びASC単独群よりも、AEPC単独群、及びAEPC+ASC併用投与群は、治療効果が高いことが示唆された。
ヒト特異的ゴルジ体抗体を用いた免疫染色により、ヒト細胞の1型糖尿病SCIDマウスへの生着の有無に関して、結果を表3、及び図3に示した。
Figure 2021066732
図3のBarsは100μmを示す。矢印は、ヒト特異的ゴルジ体抗体陽性細胞の代表例を示している。
免疫染色像は、治癒瘢痕を中心として瘢痕と正常皮膚部を一部含む境界位置を選んで撮像しており、つまり創傷治癒瘢痕領域におけるヒト細胞の生着をここでは議論している。図3のa、及び図3のbは、normal rabbit IgGを反応させた陰性コントロール群であり、結果は陰性を示し、免疫染色の非特異的反応は無かった。図3のcは、ヒト皮膚組織へヒト特異的TGOLN2抗体を反応させた陽性コントロール群で、結果は陽性を示し、ヒト細胞のTGOLN2が検出された。図3のdは、ヒト細胞を投与していないVehicle群であるためマウス組織に対するヒト特異的TGOLN2抗体の非特異的な免疫反応の程度を検証しており、図3のdの矢印で示すような陽性細胞よりも不明瞭で薄いDAB染色の発色が確認された。以上の図3のa、b、c、及びdより、本試験系がヒトゴルジ体で特異的に発現するTGOLN2を検出し、且つマウス組織への非特異的な検出が低い組織免疫染色法を用いて、細胞生着の有無の検証をしていると言えた。図3のdで矢印で示した薄いDABの非特異的な発色をバックグラウンドとした。図3のeのASC単独投与群では、真皮、及び皮下脂肪組織にASC由来細胞が生着していることを示した。図3のf、gのAEPC単独投与群では、真皮、及び皮下脂肪組織にAEPC由来細胞が主に管腔構造を持ちながら生着していることを示した。図3のh、iのAEPCとASC併用投与群では、真皮、及び皮下脂肪組織にAEPC由来細胞とASC由来細胞が生着していることが確認できた。以上より、1型糖尿病が誘導された免疫不全SCIDマウスに全層皮膚欠損を作製し、ヒト細胞を皮下移植した場合、21日後の検証で、移植したヒトASC由来細胞、及びヒトAEPC由来細胞は生着していることが示唆された。
(B)2型糖尿病難治性皮膚潰瘍に対する創治癒効果
(1)2型糖尿病モデルマウスを用いた創傷治癒モデルの作製
8週齢のオスの2型糖尿病マウス(db/dbマウス、日本クレア、系統名:BKS.Cg−+Leprdb/+ Leprdb/Jcl)、及びそのヘテロ接合体マウス(+/dbマウス、日本クレア、系統名:BKS.Cg−m +/+ Leprdb/Jcl)を馴化後、体重測定を行った。実験終了までの期間は、マウスの全身状態の評価のために毎週体重測定をおこない、その経過を記録した。24時間の絶食後、グルコース濃度測定のために少量(1μL)の鮮血を尾静脈より採取し、血中グルコース濃度を機器(岩井化学薬品、グルコースパイロット、#GP−01)により測定した。2型糖尿病マウスの血中グルコース濃度が300mg/dl以上(糖尿病)であること、及びそのヘテロ接合体マウスの血中グルコース濃度が200mg/dl以下(正常)であることを確認し、9週齢で創傷治癒モデルを作製した。マウス実験は、全てイソフルラン吸入麻酔下で実施した。背部をバリカンで剃毛した。創面収縮を防ぐ目的で、ドーナツ型のシリコンスプリント(共和工業、ドーナツ穴の内径の直径9mm、外径15mm、厚さ1mm)を糸号数6−0のナイロン製縫合糸(ベアーメディック、#BP11A06N−45)で固定した。滅菌バイオプシーパンチ(Kai 生検トレパン6mm #BP−60F、6.0 mm直径)により、略円形に皮膚全層を剥離した。
2型糖尿病難治性潰瘍モデルへの「投与」、「創傷治癒効果の経時観察と画像解析」、「創傷治癒部の組織学標本の回収」、及び「投与ヒト細胞の生着の確認」の方法については、1型糖尿病難治性潰瘍モデルと同様の方法で実施した。本試験の結果は、2試験実施したため、列挙した。
<結果>
マウスへの細胞投与試験後に実施したヒト細胞−0.2%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウム−EGM−2MV培地溶液の細胞生存率は、全ての投与条件で94%以上の細胞生存率だった。
以下の表4の通りに1回目の試験を実施し、試験0日目(D0)で、各群5匹ずつ用意して試験開始し、試験終了日の21日目(D21)まで、死亡等は無く、各群は5匹での創傷治癒試験の創傷治癒面積率の計測結果を出した。
Figure 2021066732
図4に、低用量(1.0×10個/マウス)の脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を投与した場合の、2型糖尿病難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。図4に示すように、Day10及びDay14における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してAEPC投与群及びAEPC+ASC併用投与群は改善傾向を示した。さらに、Day17における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してAEPC投与群は改善傾向を示し、AEPC+ASC併用投与群は有意に改善した。
図5に、高用量(4.0×10個/マウス)の脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を投与した場合の、2型糖尿病難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。図5に示すように、Day10における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してAEPC+ASC併用投与群は改善傾向を示した。また、Day14における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してAEPC投与群は改善傾向を示し、AEPC+ASC併用投与群は有意に改善した。さらに、Day17における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してAEPC投与群は改善傾向を示し、AEPC+ASC併用投与群は有意に改善した。
以下の表5の通りに2回目の試験を実施し、試験0日目(D0)で、各群5匹ずつ用意して試験開始し、試験終了日の21日目(D21)まで、死亡等は無く、各群は5匹での創傷治癒試験の創傷治癒面積率の計測結果、及び投与ヒト細胞のマウスへの生着を確認する免疫染色結果を出した。
Figure 2021066732
図6は、低容量(1.0×10個/マウス)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を投与した場合の2型糖尿病難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。
図6に示すように、Day7、Day10における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してAEPC+ASC併用投与群で有意に改善した。
図7は、高容量(4.0×10個/マウス)脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を投与した場合の2型糖尿病難治性潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。
図7に示すように、Day10、Day14、及びDay17における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してAEPC+ASC併用投与群で改善傾向にあった。
ヒト特異的ゴルジ体抗体を用いた免疫染色により、ヒト細胞の2型糖尿病マウスへの生着の有無に関して、結果を表6、及び図8に示した。図8において、Barsは100μmを示す。矢印は、ヒト特異的ゴルジ体抗体陽性細胞の代表例を示している。
Figure 2021066732
免疫染色像は、治癒瘢痕を中心として瘢痕と正常皮膚部を一部含む境界位置を選んで撮像しており、つまり創傷治癒瘢痕領域におけるヒト細胞の生着をここでは議論している。図8のa、及び図8のbは、normal rabbit IgGを反応させた陰性コントロール群であり、結果は陰性を示し、免疫染色の非特異的反応は無かった。図8のcは、ヒト皮膚組織へヒト特異的TGOLN2抗体を反応させた陽性コントロール群で、結果は陽性を示し、ヒト細胞のTGOLN2が検出された。図8のdは、ヒト細胞を投与していないVehicle群であるためマウス組織に対するヒト特異的TGOLN2抗体の非特異的な免疫反応の程度を検証しており、結果は陽性細胞よりも不明瞭で薄いDAB染色の発色が確認された。以上の図8のa、b、c、及びdより、本試験系がヒトゴルジ体に特異的に発現するTGOLN2を検出し、且つマウス組織への非特異的な検出が低い組織免疫染色法を用いて、ヒト細胞生着の有無の検証をしていると言えた。図8のdで見られる薄いDABの非特異的な発色をバックグラウンドとした。図8のeのASC単独投与群、及び図8のfの高容量AEPC単独投与群では、真皮、及び皮下脂肪組織にASC由来細胞、及びAEPC由来細胞が生着していることを示した。図8のfの低容量AEPC単独投与群では、真皮、及び皮下脂肪組織にAEPC由来細胞が主に管腔構造を持ちながら生着していることを示した。図8のh,iのAEPCとASC併用投与群では、真皮、及び皮下脂肪組織にAEPC由来細胞とASC由来細胞が生着していることが確認できた。しかし1型糖尿病SCIDマウスへヒト細胞を投与した場合よりも、全ての投与条件で生着細胞数は少なかった。この理由として、1型糖尿病と2型糖尿病の疾患の違いもあるものの、免疫が関係していることが考えられた。1型糖尿病モデルでは、T細胞とB細胞を欠失した免疫不全SCIDマウスへヒト細胞を投与する試験系であり、免疫反応によるヒト細胞の排除が起きにくいのに対し、2型糖尿病モデルでは正常な免疫反応を持つdb/dbマウスを使用しているため、投与ヒト細胞は免疫反応で排除されるため、免疫で排除しきれなかったヒト細胞のみが生着し、免疫染色により検出されたため、生着細胞数が少ないことが示唆された。創傷治癒試験においても、1型糖尿病モデルでは創傷治癒面積率について、Vehicle群に対してヒト細胞投与群では有意に改善されたのに対し、2型糖尿病モデルでは創傷治癒面積率について、Vehicle群に対してヒト細胞投与群で改善傾向があるに留まった。
以上より、2型糖尿病に由来する難治性皮膚潰瘍に対する脂肪由来血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団で、治癒効果の改善傾向を示すことが明らかになった。
(C)放射線障害性難治性皮膚潰瘍に対する創治癒効果
(1)放射線障害性nudeマウスの作製
7週齢、オスのnudeマウス(日本クレア、系統名:BALB/cAJcl−nu/nu)を24時間馴化後、イソフルラン吸入麻酔下で放射線を局所照射した。横臥位のマウス全身をドーム状に成型した鉛板で遮蔽し、背部皮膚を鉛板遮蔽から引き出して、引き出した部位の皮膚を毎週5Gy×1回を8週間照射した。皮膚は、毎回同じ場所を引き出し、放射線照射した。放射線非照射群は、麻酔のみを施した。実験終了までの期間は、マウスの全身状態の評価のために毎週体重測定を行い、その経過を記録した。
(2)放射線障害性モデルマウスを用いた創傷治癒モデルの作製
創傷治癒試験は、照射終了12週後に実施した。方法は、「1型糖尿病モデルを用いた創傷治癒モデルの作製」と同様の方法で実施した。
放射線障害性難治性潰瘍モデルへの「投与」、及び「創傷治癒効果の経時観察と画像解析」の方法については、1型糖尿病難治性潰瘍モデルと同様の方法で実施した。
細胞投与条件は以下の表7に示した。
Figure 2021066732
<結果>
図9に放射線障害性難治性皮膚潰瘍モデルにおける創傷治癒の経過を示す。
図9に示すように、Day7における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群(C2)に対してAEPC単独群(E2)、及びAEPC+ASC併用投与群(E6)で有意に改善した。Day7における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群(C2)に対してAEPC単独群(E3、E4)、及びAEPC+ASC併用投与群(E5)で改善傾向があった。Day11における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群(C2)に対して、ASC単独投与群(E1)、AEPC単独群(E3、E4)、及びAEPC+ASC併用投与群(E5、E6)で有意に改善した。Day14における創傷治癒面積率について、Vehicle投与群に対してすべての実験群で有意に改善した。AEPC+ASC併用投与群(E5、E6)では、それぞれ単独で投与した群と比較して有意に創傷面積が小さかった。
以上より、放射線障害に由来する難治性皮膚潰瘍に対する脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団は、創傷治癒効果を示すことが明らかになった。脂肪由来血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団は、さらに高い治癒効果を示すことが明らかになった。
<結論>
1型糖尿病SCIDマウス、2型糖尿病db/dbマウス、及び放射線障害性nudeマウスの難治性皮膚潰瘍モデルに対する脂肪由来血管内皮(前駆)細胞(AEPC)を含む細胞集団は、創傷治癒効果を示すことが明らかになった。脂肪由来血管内皮(前駆)細胞と脂肪由来幹細胞とを含む細胞集団(AEPC+ASC)は、さらに高い治癒効果を示すことが明らかになった。
<医薬組成物の製造>
実施例1及び2の細胞集団の一部を医薬組成物の調製に供する。4×10個の脂肪由来血管内皮(前駆)細胞、1×10個の脂肪由来幹細胞、並びに2mLの0.2%ヒアルロン酸ナトリウム−EGM−2MV培地溶液を含有する医薬組成物を調製する。患者又は被験者の皮下に上記医薬組成物を投与することができる。

Claims (6)

  1. 培養された脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を含む細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、幹細胞消耗性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
  2. 前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞が、少なくとも2回接着培養された脂肪由来血管内皮前駆細胞である、請求項1に記載の医薬組成物。
  3. 前記細胞集団が、前記脂肪由来血管内皮(前駆)細胞を50%以上含む、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
  4. 前記細胞集団が、培養された脂肪由来幹細胞をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
  5. 前記細胞集団が、前記脂肪由来幹細胞を12.5%以上、50%以下含む、請求項4に記載の医薬組成物。
  6. 前記幹細胞消耗性疾患が、1型糖尿病性潰瘍、2型糖尿病性潰瘍、難治性潰瘍、皮膚潰瘍、放射線潰瘍、肝硬変及び血管病変からなる群より少なくとも一つ選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
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