JP2021064598A - リチウムイオン二次電池用正極活物質およびその製造方法 - Google Patents

リチウムイオン二次電池用正極活物質およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】リチウムイオン二次電池に用いたときに正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いリチウムイオン二次電池用正極活物質およびその製造方法、ならびに前記リチウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極を有するリチウムイオン二次電池を提供する。【解決手段】リチウム、ニッケルおよびコバルトを有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子を含有する母材粉末が原料として用いられてなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、前記二次粒子の表面にホウ酸リチウム塩を含有する被覆層が形成され、前記被覆層の平均厚さが5〜160nmであり、前記被覆層の厚さのばらつきを示す変動指数(CV%)が15%以下であることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、リチウムイオン二次電池に用いたときに正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いリチウムイオン二次電池用正極活物質およびその製造方法、ならびに前記リチウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極を有するリチウムイオン二次電池に関する。
近年、地球環境保護の観点から二酸化炭素の排出量が少ないハイブリット自動車、プラグインハイブリッド自動車などの地球環境にやさしい環境自動車が普及しつつある。環境自動車に用いられる電池のなかでは、出力特性および充放電サイクル特性に優れていることからリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。
リチウムイオン二次電池には、一般に有機溶媒電解質(電解液)が用いられた非水系電解質二次電池および不燃性の固体電解質が用いられた全固体電池が知られている。しかし、有機溶媒電解質(電解液)が用いられた非水系電解質二次電池は、可燃性を有することから安全対策を必要とする。これに対して、不燃性の固体電解質が用いられた全固体電池は、固体電解質が不燃性であることから、有機溶媒電解質(電解液)のような安全対策を必要としないという利点を有する。
不燃性の固体電解質が用いられた全固体電池は、正極、負極およびリチウムイオン伝導性固体電解質などで構成されている。正極および負極の活物質には、一般にリチウムの脱離および挿入が可能な材料が用いられている。当該材料が用いられている全固体電池のなかでは、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物が正極活物質に用いられている全固体電池は、4.5V以上の起電力が得られることから高いエネルギー密度を有する電池として期待されている。しかし、前記全固体電池には、リチウムイオン伝導性固体電解質と正極活物質とが両者の界面で反応して異種界面が形成され、当該異種界面でリチウムイオンの拡散が妨げられることから電気抵抗が上昇するため、電池の出力特性が低下するという欠点がある。
活物質と固体電解質材料との界面抵抗の増加を抑制することができる被覆活物質として、活物質と当該活物質を被覆する被覆層とを有し、当該被覆層がタングステン元素を含有する物質から構成されている被覆活物質が提案されている(例えば、特許文献1参照)。前記被覆活物質には母材粉末としてLiNi1/3Co1/3Mn1/32が用いられており、当該母材粉末の表面に抵抗低減層を形成する手段として、被覆原料としてタングステン単体およびタングステン化合物を用いた転動流動コーティング法が採用されている。
また、正極合材ペーストのゲル化を抑制し、二次電池に用いたときに電池容量を維持することができ、高出力特性を有し、充放電サイクル特性に優れている非水系電解質二次電池用正極活物質として、層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物粉末からなり、前記リチウム金属複合酸化物粉末が式:LisNi1-x-y-zCoxMnyz2+α(式中、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、1.00<s<1.30、0≦α≦0.2、MはV、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す)で表され、一次粒子が凝集して形成された二次粒子とリチウムを含む第2の化合物とを含有し、前記第2の化合物が前記一次粒子表面に存在し、リチウムを含まない酸化物、前記酸化物の水和物およびリチウムを含まない無機酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の第1の化合物が水の存在下でリチウムイオンと反応して生成した化合物であり、前記正極活物質5gを純水100mLに分散させ、10分間静置させた後の上澄み液のpHが25℃の温度で11.0〜11.9である非水系電解質二次電池用の正極活物質が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、非水系電解質二次電池を製造する際の正極合材ペーストのゲル化を抑制し、安定性を向上させることができる非水系電解質二次電池用正極活物質として、一般式:LisNi1-x-y-zCoxMny2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、0.95<s<1.30、0≦α≦0.2、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、一次粒子表面の少なくとも一部がリチウムホウ素化合物で被覆され、中和滴定法によって測定された正極活物質の余剰水酸化リチウム量が正極活物質全量に対して0.003質量%以上0.5質量%以下である正極活物質が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
また、全固体電池において、硫化物系固体電解質とLiCoO2との反応を抑制し、界面抵抗を低減させる手段として、母材粉末のLiCoO2粒子の表面に金属アルコキシドを被覆原料とし、ゾルゲル法を用いてLi2SiO3、LiNbO3、LiTaO3などの化合物を被覆する方法が提案されている(例えば、非特許文献1〜3参照)。
しかし、特許文献1〜3および非特許文献1〜3に記載の発明では、母材粉末を構成するリチウム金属複合酸化物の粒子表面などに水酸化リチウムなどの余剰のリチウム化合物が含まれているため、当該リチウム金属複合酸化物を用いて正極合材ペーストを作製したときに当該リチウム化合物が正極合材ペーストに含まれている溶媒に溶出し、正極合材ペーストがゲル化するおそれがある。
また、特許文献1および非特許文献1〜3に記載のように、母材粉末の粒子表面に抵抗低減層を形成する方法として、タングステン単体またはタングステン化合物が被覆原料として用いられた転動流動コーティング法または金属アルコキシドが被覆原料として用いられたゾルゲル法を採用した場合、原料コストおよび被覆プロセスに要するコストが高いことから、工業的にリチウムイオン二次電池を製造することができない。
特許文献1〜3に記載の発明では、余剰のリチウム化合物を被覆化合物のリチウム供給源として用いた場合、タングステン化合物、モリブデン化合物、ホウ素化合物などの被覆原料の添加量が当該リチウム化合物の量に対して相対的に少ないとき、得られる正極合材ペーストがゲル化し、被覆原料の添加量が当該リチウム化合物の量に対して相対的に多いとき、ニッケル、コバルトなどとともに複合酸化物を構成している母材粉末自体に必要なリチウムまでが奪われるため、正極活物質としての性能が十分に発現されなくなるおそれがある。
また、特許文献2に記載の発明では、被覆原料であるタングステン化合物、モリブデン化合物などの化合物の添加量を決定する際には、あらかじめ少量の母材粉末および被覆原料を用いて試験的に正極活物質を作製し、当該正極活物質のスラリーのpHが所定範囲内となるようにするために必要な前記化合物の量を確認するという煩雑な予備実験が必要であることから、リチウムイオン二次電池を工業的に効率よく生産することができない。
国際公開第2012/105048号 国際公開第2017/073238号 国際公開第2017/199891号
ケミストリー・オブ・マテリアルズ(Chemistry of Materials)、22巻、2010年、949−956頁 エレクトロケミストリー・コミュニケーションズ(Electrochemistry Communications)、9巻、2007年、1486−1490頁 ソリッド・ステート・イオニックス(Solid State Ionics)、179巻、2008年、1333−1337頁
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池に用いたときに正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いリチウムイオン二次電池用正極活物質およびその製造方法、ならびに前記リチウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極を有するリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
本発明は、
(1)リチウム、ニッケルおよびコバルトを有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子を含有する母材粉末が原料として用いられてなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、前記二次粒子の表面にホウ酸リチウム塩を含有する被覆層が形成され、前記被覆層の平均厚さが5〜160nmであり、前記被覆層の厚さのばらつきを示す変動指数(CV%)が15%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質、
(2)正極活物質における水酸化リチウムの含有率が0.003質量%未満であり、炭酸リチウムの含有率が0.003質量%未満である前記(1)に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質、
(3)リチウム金属複合酸化物が式(I):
LisNi1-x-yCox2+α (I)
(式中、s、x、yおよびαは、それぞれ1.00≦s≦1.30、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.45および−0.1≦α≦0.2を満たす数、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素を示す)
で表されるリチウム金属複合酸化物である前記(1)または(2)に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質、
(4)リチウムイオン二次電池用正極活物質が非水系電解質リチウムイオン二次電池用正極活物質または全固体電池用リチウムイオン二次電池用正極活物質である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質、
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池、および
(6)原料としてリチウム、ニッケルおよびコバルトを有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子を含有する母材粉末を用いてリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造する方法であって、前記母材粉末と水との混合物における水の含有率が4〜7質量%となるように母材粉末と水とを混合することによって第1混合物を調製し、前記で得られた第1混合物の温度を25〜50℃に調節し、当該第1混合物と被覆原料とを混合することによって第2混合物を調製し、前記で得られた第2混合物を150〜250℃の温度で乾燥させて母材粉末に含まれている二次粒子の表面上に被覆層を形成させることによって正極活物質を製造する工程を含み、前記被覆原料としてホウ素化合物を含有する被覆原料を用い、前記母材粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対する被覆原料に含まれているホウ素の量を0.8〜1.2当量に調整し、前記母材粉末100質量部あたりのホウ素の量を0.01〜2.1質量部に調整することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
本発明によれば、リチウムイオン二次電池に用いたときに正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いリチウムイオン二次電池用正極活物質およびその製造方法、ならびに前記リチウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極を有するリチウムイオン二次電池が提供される。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の一実施態様を示す概略説明図である。
以下に、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質およびその製造方法、ならびに前記リチウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極を有するリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。本発明は、以下に記載する実施態様のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者の知識に基づいて当該実施態様を変更することができる。
1.リチウムイオン二次電池用正極活物質
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、前記したように、リチウム、ニッケルおよびコバルトを有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子を含有する母材粉末が原料として用いられているリチウムイオン二次電池用正極活物質である。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、前記二次粒子の表面にホウ素およびリチウムを有するリチウム塩を含有する被覆層が形成され、前記被覆層の平均厚さが5〜160μmであり、前記被覆層の厚さのばらつきを示す変動指数(CV%)が15%以下である点に本発明の特徴の1つを有する。本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、前記構成要件を有することから、リチウムイオン二次電池に用いたときに正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いという優れた効果を奏する。
リチウムイオン二次電池用正極活物質の原料として、リチウム、ニッケルおよびコバルトを有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子を含有する母材粉末が用いられる。
(1)母材粉末
以下に母材粉末の調製方法を説明するが、本発明は、当該調製方法のみに限定されるものではない。なお、母材粉末は、リチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子を含有する。当該母材粉末には、リチウム金属複合酸化物の一次粒子が不可避的に若干量で含まれることがある。
母材粉末を構成するリチウム金属複合酸化物の二次粒子の原料として、リチウム化合物粒子、ニッケル化合物粒子、コバルト化合物粒子および必要により添加金属M粒子を用いることができる。
(a)金属複合水酸化物(前駆体)粒子の調製
[晶析]
まず、原料溶液として、ニッケル、コバルトおよび必要によりマンガン、アルミニウムなどの添加金属Mを含有する金属化合物の水溶液を調製する。金属化合物の水溶液は、例えば、金属化合物を水温が30℃程度の水中に溶解させることによって容易に調製することができる。前記水としては、イオン交換水などの純水が好ましい。
前記金属化合物としては、例えば、金属硫酸塩、金属アルミン酸塩、金属水和物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの金属化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの化合物は、いずれも本発明で好適に使用することができる。
金属化合物の水溶液における金属化合物の濃度は、特に限定されないが、通常、1.0〜2.6mol/Lである。
次に、前記金属化合物の水溶液を40〜60℃の水中に添加し、後述するようにpHおよびアンモニウムイオン(NH4 +)濃度を調整することにより、粒子を晶析させる。粒子を晶析させる際には、一次粒子の凝集による二次粒子の生成が併行して進行する。
前記水の温度は、金属複合水酸化物粒子の粗大化を抑制する観点から40℃以上であることが好ましく、金属複合水酸化物粒子の微小化を抑制する観点から60℃以下であることが好ましい。前記水としては、イオン交換水などの純水が好ましい。
なお、前記金属化合物の水溶液を40〜60℃の水中に添加する際には、反応槽を用いることが好ましい。反応槽を用いる場合、反応槽に注入された40〜60℃の水中に前記金属化合物の水溶液を添加する。以下においては、前記反応槽を用いた場合について説明する。
前記金属化合物の水溶液を40〜60℃の水中に添加する際には、粒子を効率よく晶析させる観点から当該水を攪拌することが好ましい。
粒子を晶析させる際、当該粒子が「中実」の粒子構造を有するようにする場合には、例えば、前記反応槽の上部から窒素ガスなどの不活性ガスを導入し、前記反応槽内の雰囲気が、酸素濃度が1容積%以下である非酸化性雰囲気となるように調整することが好ましい。
また、前記粒子が「中空」または「多孔」の粒子構造を有するようにする場合には、例えば、前記反応槽内の雰囲気を空気などの酸化性雰囲気に調整し、水酸化ナトリウム水溶液などのpH調整剤で反応槽内の水のpHを11.0〜12.5に調整しながら、前記金属化合物の水溶液およびアンモニウムイオン(NH4 +)濃度を調整するためのアンモニア水を前記反応槽内に添加することが好ましい。前記水のpHは、正極活物質に残存する硫酸塩の濃度を低下させ、電池の出力特性を向上させる観点から11.0以上であることが好ましく、金属複合水酸化物粒子が小さくなり過ぎることを抑制する観点から12.5以下であることが好ましい。前記反応槽内の内容物におけるアンモニウムイオン(NH +)の濃度は、晶析処理を安定化させる観点から、好ましくは5〜30g/L、より好ましくは10〜20g/Lである。
粒子の晶析後、当該粒子が「中実」、「中空」および「多孔」のうちのいずれかの粒子構造を有するようにするために、以下の条件下で引き続いて処理を行なう。
前記粒子が「中実」の粒子構造を有するようにする場合には、例えば、前記反応槽内を非酸化性雰囲気に維持した状態で粒子を成長させるための晶析処理を継続することが好ましい。前記粒子が「中空」の粒子構造を有するようにする場合には、前記金属化合物の水溶液およびアンモニア水の添加を停止し、前記反応槽内の雰囲気を酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気に変更した後、前記金属化合物の水溶液およびアンモニア水の添加を再開し、粒子を成長させるための晶析処理を継続することが好ましい。前記粒子が「多孔」の粒子構造を有するようにする場合には、例えば、前記金属化合物の水溶液およびアンモニア水の添加を停止し、前記反応槽内の雰囲気を酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気に変更し、前記金属化合物の水溶液およびアンモニア水の添加を再開し、非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気に変更し、酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気に変更する一連の操作を複数回行なうことにより、粒子を成長させるための晶析処理を継続することが好ましい。
以上説明したように、前記反応槽内の雰囲気を非酸化性雰囲気または酸化性雰囲気に制御することにより、金属複合水酸化物が所定の粒子構造を有するように調整することができる。
ここで、前記反応槽内の温度を40〜60℃に制御することにより、金属複合水酸化物の粒径を好ましい大きさに調整することができる。また、前記水のpHを11.0〜12.5に制御することにより、後工程における硫酸塩の低減および粒径の調整を図ることができる。また、アンモニウムイオン(NH4 +)濃度を好ましくは5〜30g/L、より好ましくは10〜20g/Lに制御することにより、晶析処理を安定させることができる。
前記操作を行なうことによって金属複合水酸化物(前駆体)粒子が得られる。当該金属複合水酸化物粒子の空隙率は、粒子強度を向上させるとともに、電解液との接触面積を向上させる観点から、金属複合水酸化物粒子の粒子構造が「中実」である場合には、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下であり、金属複合水酸化物粒子の粒子構造が「中空」である場合には、好ましくは10〜90%、より好ましくは20〜50%であり、金属複合水酸化物粒子の粒子構造が「多孔」である場合には、好ましくは40〜90%、より好ましくは50〜80%である。
[濾過・乾燥]
前記で得られた金属複合水酸化物粒子の晶析物を、例えば、フィルタープレス濾過機などの濾過装置で固液分離し、回収された固体の金属複合水酸化物粒子を洗浄水で洗浄することにより、当該金属複合水酸化物粒子から不純物を除去することができる。
水洗された金属複合水酸化物粒子の表面に水分が付着していることから、当該金属複合水酸化物粒子を乾燥機で乾燥させることが好ましい。乾燥機としては、例えば、静置式乾燥機、流動式乾燥機、気流式乾燥機などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記乾燥機として加熱式乾燥機を用いる場合、当該加熱式乾燥機は、乾燥雰囲気中で炭素ガスを発生しない電気加熱式乾燥機であることが好ましい。
金属複合水酸化物粒子の乾燥温度は、乾燥効率を高める観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上であり、金属複合水酸化物粒子の劣化を抑制する観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。金属複合水酸化物粒子の乾燥時間は、当該金属複合水酸化物粒子の乾燥温度などによって異なるので一概には決定することができないことから、当該金属複合水酸化物粒子の乾燥温度などに応じて適宜決定することが好ましいが、通常、1〜5時間程度である。
金属複合水酸化物粒子の平均粒子径は、金属複合水酸化物粒子の充填密度を高めることによって電池容量を高める観点から、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、正極活物質の比表面積を高め、電池の出力特性を向上させる観点から、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。金属複合水酸化物粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置〔マイクロトラック・ベル(株)製、商品名:マイクロトラックMT3300EXII〕を用いて測定された体積基準分布から求められる。
なお、金属複合水酸化物粒子の組成は、例えば、酸分解−ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法などの化学的分析法によって分析することができる。
(b)金属複合酸化物(中間物)粒子の調製
[酸化焙焼]
前記で得られた金属複合水酸化物粒子を空気などの酸素含有雰囲気中で酸化焙焼させることにより、酸化焙焼物である金属複合酸化物粒子を得ることができる。
金属複合水酸化物粒子を酸化焙焼させる際には、例えば、高温加熱炉などの加熱炉を用いることができる。加熱炉は、バッチ式加熱炉および連続式加熱炉のいずれであってもよい。加熱炉のなかでは、燃焼ガスが発生するおそれがないことから、電気炉が好ましい。
金属複合水酸化物粒子を酸化焙焼させる際の温度は、金属複合酸化物粒子の機械的強度を向上させるとともに金属複合酸化物粒子の焼結を防止する観点から、好ましくは800〜1000℃、より好ましくは800〜900℃である。金属複合水酸化物粒子を酸化焙焼させるのに要する時間は、金属複合水酸化物粒子を酸化焙焼させる際の温度などによって異なるので一概には決定することができないことから、当該金属複合水酸化物粒子を酸化焙焼させる際の温度などに応じて適宜決定することが好ましいが、通常、1〜5時間程度である。
金属複合水酸化物粒子を酸化焙焼させる前には、金属複合水酸化物粒子から水分を十分に除去し、当該金属複合水酸化物粒子の機械的強度を向上させる観点から、当該金属複合水酸化物粒子を仮焼してもよい。前記金属複合水酸化物粒子の仮焼は、例えば、金属複合水酸化物粒子を400〜550℃、好ましくは450〜500℃の温度で1〜3時間程度加熱することによって行なうことができる。
金属複合酸化物粒子の平均粒子径は、金属複合酸化物粒子の充填密度を高めることによって電池容量を高める観点から、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、正極活物質の比表面積を高め、電池の出力特性を向上させる観点から、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。金属複合酸化物粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置〔マイクロトラック・ベル(株)製、商品名:マイクロトラックMT3300EXII〕を用いて測定された体積基準分布から求められる。
なお、金属複合酸化物粒子の組成は、例えば、酸分解−ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法などの化学的分析法によって分析することができる。
(c)母材粉末の調製
母材粉末の原料として、前記金属複合酸化物粒子およびリチウム化合物粒子が用いられる。
[リチウム化合物粒子]
リチウム化合物粒子を構成するリチウム化合物としては、例えば、炭酸リチウム(Li2CO3、融点:723℃)、水酸化リチウム(LiOH、融点:462℃)、硝酸リチウム(LiNO3、融点:261℃)、塩化リチウム(LiCl、融点:613℃)、硫酸リチウム(Li2SO4、融点:859℃)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのリチウム化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのリチウム化合物のなかでは、取り扱いが容易であり、品質が安定していることから、水酸化リチウムおよび炭酸リチウムが好ましい。
リチウム化合物粒子の最大粒子径は、10μm以下であることが好ましく、リチウム化合物粒子の平均粒子径は、5μm以下であることが好ましい。リチウム化合物粒子の最大粒子径は、平均粒子径は、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置〔マイクロトラック・ベル(株)製、商品名:マイクロトラックMT3300EXII〕を用いて測定され、リチウム化合物粒子の平均粒子径は、当該測定装置を用いて測定された体積基準分布から求められる。
[リチウム混合物の調製]
前記金属複合酸化物粒子とリチウム化合物粒子とを混合することにより、リチウム混合物が得られる。
前記金属複合酸化物粒子とリチウム化合物粒子とは、リチウム金属複合酸化物に含まれている金属元素の原子数の合計量とリチウムの原子数との比の値(以下、単に「比の値」という)が1.0〜1.2となるように混合することが好ましい。前記比の値の上限値は、粒子径および結晶子径の粗大化を抑制し、サイクル特性を向上させる観点から、好ましくは1.2以下である。前記比の値で金属複合酸化物とリチウム化合物とを混合した場合、リチウムサイトである3aサイトにリチウム原子が取り込まれることから、電池特性を向上させることができる。前記サイトは、結晶学的に等価な格子位置を意味する。格子位置に原子が存在することを「サイトが占有される」といい、占有されたサイトは「占有サイト」と称される。LiCoO2を例に挙げると、当該LiCoO2には3つの占有サイトが存在する。3つの占有サイトは、それぞれリチウムサイト、コバルトサイトおよび酸素サイトと称されたり、3aサイト、3bサイトおよび6cサイトと称されたりする。
[母材粉末の調製]
前記リチウム混合物を空気などの酸化性雰囲気中で焼成することにより、リチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子を含有する母材粉末が得られる。酸化性雰囲気における酸素濃度は、18〜100容量%であることが好ましい。
リチウム混合物の焼成温度は、未反応のリチウム化合物の量を低減させ、結晶性を向上させる観点から、好ましくは800℃以上、より好ましくは900℃以上であり、リチウム金属複合酸化物の粒子間で焼結が過度に進行することを抑制する観点から、1000℃以下であることが好ましい。リチウム混合物の焼成時間は、リチウム混合物の焼成温度などによって異なることから一概には決定することができないため、当該リチウム混合物の焼成温度などに応じて適宜決定することが好ましいが、通常、好ましくは1〜20時間程度、より好ましくは10〜15時間程度である。
前記リチウム混合物を焼成させる前には、当該リチウム混合物の焼成時の反応を穏やかに進行させて焼成物の機械的強度を向上させ、未反応のリチウム化合物の量を低減させて結晶性を向上させる観点から、当該リチウム混合物を空気などの酸素含有雰囲気中で仮焼してもよい。前記リチウム混合物の仮焼は、例えば、リチウム混合物を400〜550℃、好ましくは450〜500℃の温度で1〜3時間程度加熱することによって行なうことができる。酸素含有雰囲気における酸素濃度は、18〜100容量%であることが好ましい。
以上のようにして、前記リチウム混合物を焼成することにより、前記金属複合酸化物粒子とリチウム化合物粒子とからリチウム、ニッケルおよびコバルトを有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が形成され、当該リチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子を含有する母材粉末が得られる。前記二次粒子は、通常、球状ないし楕円球状を有するが、不定形状の粒子が含まれていてもよい。
前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子の粒子径は、特に限定されないが、通常、0.2〜1μm程度である。また、前記二次粒子の粒子径は、通常、3〜30μm程度である。前記一次粒子および前記二次粒子の粒子径は、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置〔マイクロトラック・ベル(株)製、商品名:マイクロトラックMT3300EXII〕を用いて測定された体積基準分布から求められる。
前記母材粉末は、本質的には前記二次粒子で構成されるが、当該二次粒子以外に前記一次粒子が不可避的に微量で含まれることがある。
本発明では、リチウムイオン二次電池用正極活物質の原料として、前記で得られた母材粉末を用いることができるが、商業的に入手することができる母材粉末を用いてもよい。商業的に入手することができる母材粉末のなかで、当該母材粉末を用いて調製されたスラリーが所定のpHを呈するものは、前記母材粉末として用いることができる。母材粉末のスラリーのpHは後述する。
ところで、本発明の正極活物質の表面に形成されている被覆層の平均厚さは、後述するように5〜160nmと非常に薄いことから、本発明の正極活物質は、母材粉末の平均粒子径MV、粒度分布、タップ密度(嵩密度)などの粉体特性および粒子構造を継承する。したがって、母材粉末の粉体特性および粒子構造を選択することにより、当該母材粉末が有する性質を正極活物質に付与することができる。
〔リチウム金属複合酸化物の組成〕
母材粉末は、前記したように、実質的に前記二次粒子で構成されるが、前記二次粒子以外に前記一次粒子が不可避的に微量で含まれることがある。前記一次粒子および前記二次粒子は、いずれも、リチウム金属複合酸化物で構成される。
リチウム金属複合酸化物は、リチウムイオン二次電池に用いたときに正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いリチウムイオン二次電池用正極活物質を得る観点から、式(I):
LisNi1-x-yCox2+α (I)
(式中、s、x、yおよびαは、それぞれ、1.00≦s≦1.30、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.45および−0.1≦α≦0.2を満たす数、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素を示す)
で表されるリチウム金属複合酸化物であることが好ましい。
なお、母材粉末の組成は、例えば、母材粉末と無機酸(35%塩酸)とをそれぞれ適量で用いて混合し、得られた混合物を加熱分解させ、得られた分解液に適量の純水を添加することによって分析検体液を調製し、当該分析検体液をマルチ型ICP発光分光分析装置〔(株)島津製作所製、品番:ICPE−9000〕で分光分析を行なうことにより、特定することができる。
〔母材粉末のスラリーのpH〕
母材粉末に含まれている余剰のリチウム化合物は、主として水酸化リチウムによって構成されていることから、母材粉末における余剰のリチウム化合物の含有率と母材粉末のスラリーのpHとの間には強い相関性がある。したがって、母材粉末のスラリーのpHを測定することにより、母材粉末における余剰のリチウム化合物の含有率を従来の滴定法よりも迅速かつ簡便に特定することができる。
母材粉末のスラリーは、母材粉末5gに対して純水95mLの割合で母材粉末と純水とを混合し、母材粉末を純水に分散させることによって調製することができる。母材粉末のスラリーのpHは、母材粉末に含まれている余剰のリチウム化合物の含有率を最適含有率である0.045〜1.6質量%に制御する観点から、好ましくは10.5〜12.5、より好ましくは11.0〜12.5、さらに好ましくは11.0〜12.2、さらに一層好ましくは11.6〜12.2である。
母材粉末のスラリーのpHは、母材粉末のスラリーを10分間静置した後、その上澄み液のpHをpHメーター〔サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製、商品名:Orion−star−A214(卓上型)または商品名:Orion−star−A221(ハンディ型)〕で測定したときの値である。
〔母材粉末の平均粒子径MVおよび粒度分布〕
母材粉末の粒度分布の広がりを示す指標である粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径MV〕は、正極活物質の充填性および電池容積あたりの電池容量を高め、正極活物質を構成している二次粒子間における印加電圧を均一化させ、当該二次粒子間での負荷を均一化させてサイクル特性を高める観点から、1.0以下であることが好ましい。
前記粒度分布の広がりを示す指標である粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径MV〕において、d10は、各粒子径を有する粒子の粒子数を粒子径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%であるときの粒子径を意味する。d90は、d10と同様に、各粒子径を有する粒子の粒子数を粒子径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%であるときの粒子径を意味する。
母材粉末の平均粒子径MVおよび粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径MV〕は、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置〔マイクロトラック・ベル(株)製、商品名:マイクロトラックMT3300EXII〕を用いて測定された母材粉末の体積基準分布から求められる。
なお、d10およびd90と同様に、累積体積が全粒子体積の50%となる粒子径、換言すればメジアン径となるd50を平均粒子径MVの代わりに用いることがある。
〔母材粉末のタップ密度(嵩密度)〕
母材粉末のタップ密度は、リチウムイオン二次電池の電極を作製したときの空隙を減少させて電池性能を高める観点から、好ましくは1.0/cm3以上、より好ましくは1.8/cm3以上、さらに好ましくは2.0/cm3以上である。また、母材粉末のタップ密度は、正極活物質を非水系電解質リチウムイオン二次電池に用いたときに正極活物質と電解液との接触面積を向上させ、正極活物質を全固体リチウムイオン二次電池に用いたときに正極活物質の粒子間に固体電解質を導入させてリチウムイオン二次電池の電気抵抗を低減させ、電池容量を高める観点から、好ましくは3.0/cm3以下、より好ましくは2.4/cm3以下、さらに好ましくは2.2/cm3以下である。
母材粉末のタップ密度は、母材粉末12gを20mL容のメスシリンダーに充填し、当該メスシリンダーを振盪比重測定器〔(株)蔵持科学器械製作所製、品番:KRS−409〕に装着し、当該メスシリンダーを高さ2cmの位置から自由落下させる操作を500回繰り返すことによって母材粉末を密に充填させた後に測定したときの母材粉末の密度である。
(2)第1混合物
第1混合物は、母材粉末と水との混合物における水の含有率が4〜7質量%となるように母材粉末と水とを混合することによって得ることができる。
母材粉末と水との混合物における水の含有率は、母材粉末に含まれている二次粒子を構成している一次粒子間の空隙および粒界に水を十分に浸透させる観点から、4質量%以上、好ましくは5質量%以上であり、後工程である乾燥工程における乾燥効率を高め、母材粉末から溶出するリチウムの量を低減させ、正極活物質が正極に用いられた電池の電池特性を向上させる観点から、7質量%以下、好ましくは6質量%以下である。
母材粉末と水とを混合する際の雰囲気および温度は、特に限定されない。母材粉末と水とを混合する際の雰囲気は、空気であってもよく、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよい。また、母材粉末と水とを混合する際の温度は、通常、5〜95℃の温度範囲、好ましくは10〜80℃の温度範囲から適宜決定することができるが、エネルギー効率を高める観点から、通常、室温であることが好ましい。
母材粉末と水との混合は、例えば、シェーカーミキサー、攪拌混合機、ロッキングミキサーなどの混合機を用いて行なうことができる。母材粉末と水との混合は、両者が均一に分散され、均一な組成を有する混合物が得られるまで行なうことが好ましい。
(3)第2混合物
第2混合物は、前記で得られた第1混合物の温度を25〜50℃に調節し、当該第1混合物と被覆原料とを混合することによって調製することができる。
本発明においては、前記第1混合物と被覆原料とを混合する際に、被覆原料としてホウ素化合物を含有する被覆原料を用い、前記母材粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対する被覆原料に含まれているホウ素の量を0.8〜1.2当量に調整し、前記母材粉末100質量部あたりのホウ素量を0.1〜6質量部に調整する。
本発明では、前記操作が採られていることから、母材粉末の表面などに残存するリチウム化合物を溶解させ、添加する被覆原料の水への溶解度を向上させることができ、ひいてはリチウムイオン二次電池に用いたときに正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いリチウムイオン二次電池用正極活物質を得ることができる。
被覆原料として、ホウ素化合物を含有する被覆原料が用いられる。ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸(H3BO3)、三酸化二ホウ素(B23)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのホウ素化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。ホウ素化合物のなかでは、リチウムイオン二次電池の出力特性を向上させ、電池容量を増大させる観点からホウ酸および三酸化二ホウ素が好ましく、取り扱いが容易であり、被覆化合物のリチウムイオン伝導性を向上させ、リチウムイオンの移動を促進させる観点からホウ酸が好ましい。
被覆原料には本発明の目的を阻害しない範囲内でホウ素化合物以外の被覆原料が含まれていてもよい。ホウ素化合物以外の被覆原料としては、例えば、五酸化バナジウム、酸化ニオブ、二酸化スズ、酸化マンガン、酸化ルテニウム、酸化レニウム、酸化タンタル、酸化リン、酸化タングステン、酸化モリブデンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのホウ素化合物以外の被覆原料は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
被覆原料にはホウ素化合物が含まれていることから、当該被覆原料は、水の存在下でオキソアニオンを形成する。形成されたオキソアニオンは、余剰のリチウム化合物と反応し、オキソアニオンのリチウム塩として、例えば、メタホウ酸リチウム(LiBO2)、四ホウ酸リチウム(Li247)、三ホウ酸リチウム(LiB35)、それらの混合物などのホウ酸リチウム塩が生成する。当該被覆原料が用いられている正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合には、当該リチウムイオン二次電池の正極抵抗を低下させ、放電容量の維持率を高めることができる。
また、本発明では、前記母材粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対する被覆原料に含まれているホウ素の量が0.8〜1.2当量であることから、当該被覆原料が用いられている正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いることにより、当該リチウムイオン二次電池の正極抵抗を低下させ、放電容量の維持率を高めることができる。
被覆原料に含まれているホウ素の量は、前記母材粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムの量に対して少ない場合には、第1混合物と被覆原料との混合物がゲル化する傾向があり、前記母材粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムの量に対して多い場合には、ニッケルおよびコバルトなどとともに複合酸化物を構成している母材粉末の結晶格子からインターカレーションおよびディインターカレーションに必要なリチウムまでが奪われ、正極活物質としての性能を十分に発揮させることができなくなる傾向がある。したがって、前記母材粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対する被覆原料に含まれているホウ素の量は、第1混合物と被覆原料との混合物のゲル化を抑制し、正極活物質としての性能を十分に発揮させる観点から、0.8〜1.2当量、好ましくは0.9〜1.1当量、より好ましくは0.95〜1.05当量である。
なお、前記母材粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対する被覆原料に含まれているホウ素の量が1当量であることは、例えば、被覆化合物がメタホウ酸リチウム(LiBO2)である場合にはリチウム原子(原子量:6.941)1モルに対してホウ素原子(原子量:10.811)1モルが反応する量を意味し、被覆化合物が四ホウ酸リチウム(Li247)である場合にはリチウム原子(原子量:6.941)2モルに対してホウ素原子(原子量:10.811)4モルが反応する量を意味する。例えば、純粋なメタホウ酸リチウム(LiBO2)ではリチウムとホウ素との組成比(Li/B)は1であり、純粋な四ホウ酸リチウム(Li247)ではリチウムとホウ素との組成比(Li/B)は0.5である。
例えば、被覆化合物がメタホウ酸リチウム(LiBO2)である場合、被覆化合物の当量は、式(II):
[被覆化合物の当量]
=[ホウ素の含有率(%)/ホウ素の原子量]/[リチウムの含有率(%)/リチウムの原子量] (II)
に基づいて求められる。
なお、被覆化合物が例えば三ホウ酸リチウム(LiB35)などのホウ酸リチウム塩である場合には、当該ホウ酸リチウム塩に含まれているリチウム原子およびホウ素原子のモル数を加味し、式(II)を改変することにより、被覆化合物の当量が求められる。
母材粉末100質量部あたりの被覆原料に含まれているホウ素の量は、リチウムイオン二次電池に用いたときに正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いリチウムイオン二次電池用正極活物質を得る観点から、0.01〜2.1質量部である。
第1混合物と被覆原料とを混合する際の第1混合物の温度は、リチウムイオン二次電池に用いたときに正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いリチウムイオン二次電池用正極活物質を得る観点から、25℃以上、好ましくは30℃以上、さらに好ましくは33℃以上であり、リチウムイオン二次電池に用いたときに正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いリチウムイオン二次電池用正極活物質を得る観点から、50℃以下、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは37℃以下である。
第1混合物と被覆原料とを混合する際の雰囲気および温度は、特に限定されない。第1混合物と被覆原料とを混合する際の雰囲気は、空気であってもよく、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよい。第1混合物と被覆原料とを混合する際の温度は、好ましくは5〜95℃の範囲、より好ましくは10〜80℃の範囲から適宜決定することができるが、通常、室温であることが好ましい。
第1混合物と被覆原料との混合は、例えば、シェーカーミキサー、攪拌混合機、ロッキングミキサーなどの混合機を用いて行なうことができる。第1混合物と被覆原料との混合は、両者が均一に分散され、均一な組成となるまで行なうことが好ましい。
(4)正極活物質
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、リチウム、ニッケルおよびコバルトを有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子を含有する母材粉末が原料として用いられており、前記二次粒子の表面にホウ酸リチウム塩を含有する被覆層が形成されており、前記被覆層の平均厚さが5〜160μmであり、前記被覆層の厚さのばらつきを示す変動指数(CV%)が15%以下であることを特徴とする。本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、前記構成を有することから、当該正極活物質を用いることにより、正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いリチウムイオン二次電池を得ることができる。
前記正極活物質は、前記で得られた第2混合物を150〜250℃の温度で乾燥させて母材粉末に含まれている二次粒子の表面上に被覆層を形成させることにより、調製することができる。
第2混合物の乾燥温度は、第2混合物を効率よく乾燥させるとともに、厚さのばらつきが小さい均一な厚さを有する被覆層を形成させる観点から、150〜250℃、好ましくは160〜240℃、より好ましくは170〜230℃である。
第2混合物の乾燥は、空気中に含まれている二酸化炭素と被覆層とが反応することを回避する観点から、例えば、二酸化炭素が除去された空気、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスなどの雰囲気中で行なうことが好ましい。第2混合物を乾燥させる際の雰囲気の圧力は、第2混合物の乾燥効率を高める観点から、大気圧よりも減圧であることが好ましい。第2混合物の乾燥は、第2混合物の減量がほとんど認められなくなるまで行なうことが好ましい。第2混合物の乾燥時間は、第2混合物の量、乾燥温度などによって異なるので一概には決定することができないことから、当該第2混合物の量、乾燥温度などに応じて適宜決定することが好ましいが、通常、1〜24時間程度である。
第2混合物を乾燥させる際には、例えば、定置乾燥機、振動乾燥機、ドラムドライヤー、スプレードライヤーなどの乾燥機を用いることができる。
本発明においては、前記操作が採られていることから、母材粉末の表面に好ましい厚さを有し、厚さのばらつきが小さく、ホウ酸リチウム塩が高含有率で含有する被覆層を有する二次粒子を含有する正極活物質が得られる。また、ホウ酸リチウム塩を含有する被覆層を二次粒子の表面に有することから、正極活物質の比表面積の低下が抑制され、電解液および固体電解質との界面におけるリチウムイオンの伝導通路を確保することができるので、リチウムイオン二次電池の電池容量を高め、正極抵抗を低減させることができる。
以上のようにしてホウ酸リチウム塩を含有する被覆層を表面に有する二次粒子を含有する正極活物質を得ることができる。
前記被覆層を構成する被覆化合物に水酸化リチウムなどの余剰のリチウム化合物が不純物として混入している場合、溶媒を用いて非水系電解質リチウムイオン二次電池用の正極合材ペーストを作製するとき、当該リチウム化合物が当該溶媒に溶出し、当該溶媒のpHが高くなるとともに溶媒中でリチウム塩の濃度が上昇することによってゲル化が生じやすくなったり、全固体リチウムイオン二次電池では異種界面が形成されたりするおそれがある。また、当該リチウム化合物が混入した正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極に用いた場合には、電池容量および出力特性が低下する。これらのことから、前記被覆化合物には、優れた抵抗低減機能を有するホウ酸リチウム塩が用いられる。
正極活物質の平均粒子径MVは、正極活物質の充填性およびリチウムイオン二次電池の電池容積あたりの電池容量を高め、正極活物質を構成している二次粒子間における印加電圧を均一化させ、当該二次粒子間での負荷を均一化させてサイクル特性を高める観点から、5〜15μmであることが好ましい。正極活物質の平均粒子径MVは、レーザー回折・散乱法によって測定された体積基準分布から求められる。
正極活物質のタップ密度(嵩密度)は、リチウムイオン二次電池の電極を作製したときの空隙を減少させ、正極活物質と電解液および固体電解質との接触点を増大させることによって電池性能を高める観点から1.0g/cm3以上であることが好ましく、正極活物質を非水系電解質リチウムイオン二次電池に用いたときに正極活物質と電解液との接触面積を向上させ、正極活物質を全固体リチウムイオン二次電池に用いたときに正極活物質の粒子間に固体電解質を十分に導入し、リチウムイオン二次電池の電気抵抗を低減させて電池容量を高める観点から3.0g/cm3以下であることが好ましい。
本発明の正極活物質を非水系電解質リチウムイオン二次電池の正極活物質に用いた場合には、電解液と正極活物質におけるリチウムイオンのインターカレーションおよびディインターカレーションが活発となり、全固体リチウムイオン二次電池では、固体電解質と正極活物質との界面でリチウムイオンが滞ることなく拡散するので、リチウムイオン二次電池の耐久性を維持しながら、正極抵抗を低減させて出力特性を向上させることができる。
なお、前記二次粒子が凝集している場合には、必要により、例えば、ピンミル、ハンマーミル、パルベライザーなどの解凝機で当該二次粒子を解凝してもよい。また、第2混合物の乾燥と凝集している二次粒子の解凝とを同時に行なうことができるドラムドライヤーを用いて当該二次粒子を解凝してもよい。
二次粒子の表面上に形成されている被覆層がホウ酸リチウムである場合、当該ホウ酸リチウムとして、例えば、メタホウ酸リチウム(LiBO2)、四ホウ酸リチウム(Li247)、三ホウ酸リチウム(LiB35)またはこれらの混合物などが挙げられる。
なお、被覆層には、本発明の目的が阻害されない範囲内でホウ酸リチウム以外のリチウム塩が含まれていてもよい。ホウ酸リチウム以外のリチウム塩としては、例えば、バナジン酸リチウム、ニオブ酸リチウム、スズ酸リチウム、マンガン酸リチウム、ルテニウム酸リチウム、レニウム酸リチウム、タンタル酸リチウム、リン酸リチウム、タングステン酸リチウム、モリブデン酸リチウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのリチウム塩は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
[正極活物質の分析]
正極活物質は、以下の方法によって分析することができる。
(a)正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率
正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率は、前記正極活物質を用いることにより、正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いリチウムイオン二次電池を得る観点から、それぞれ0.003質量%未満であることが好ましい。なお、正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率は、それぞれ以下の方法に基づいて測定したときの値である。
〔正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率の測定方法〕
正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率は、それぞれ中和滴定法によって求めることができる。
より具体的には、正極活物質粒子の表面部などに存在している水酸化リチウムおよび炭酸リチウムは、水に溶解することにより、それぞれ水酸化物イオンおよび炭酸イオンとなってリチウムイオンから電離する。電離したこれらのイオンを無機酸などで滴定することにより、水酸化リチウムおよび炭酸リチウムをそれぞれ定量することができる。前記中和滴定法は、いわゆるR.B.Warder法による逐次滴定法である。前記中和滴定法において、第1終点(pH:約8.3)は水酸化リチウムの全量と炭酸リチウムの半量とが反応したときのpHの変曲点であり、第2終点(pH:約3.8)は残りの炭酸リチウムの半量が反応したときのpHの変曲点である。pHの変曲点(終点)は、フェノールフタレイン、メチルオレンジなどの指示薬を用い、当該指示薬の変色を目視で観察することによって確認することができるほか、pH複合電極による電位差の変化を機器的に読み取るによって確認することができる。
より具体的には、例えば、正極活物質2〜20gを採取し、当該正極活物質と純水120mLとを混合し、得られた混合物を攪拌しながら当該混合物に1mol/Lの塩酸を徐々に添加し、出現した2つのpHの変曲点に基づいて水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率をそれぞれ求めることができる。また、pH複合電極を用いて正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率を求める場合には、これらの含有率は、例えば、自動滴定装置〔平沼産業(株)製、品番:COM−1750〕を用い、pH複合電極による終点(電位差)に基づいて求めることができる。
なお、正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれも低いほど、被覆原料に含まれているホウ素と母材粉末に含まれているリチウム化合物のリチウムとが1当量に近い値で反応したことの裏付けとなる。
(b)正極活物質のスラリーのpH
正極活物質のスラリーは、正極活物質5gに対して純水95mLの割合で正極活物質と純水とを混合し、正極活物質を純水に分散させることによって調製することができる。当該スラリーのpHを測定したときに当該pHが10以下であることにより、余剰のリチウム化合物が過剰に残存していないことを確認することができる。正極活物質のスラリーのpHは、以下の方法に基づいて測定したときの値である。
〔正極活物質のスラリーのpHの測定方法〕
正極活物質のスラリーのpHは、前記正極活物質のスラリーを10分間静置させた後、その上澄み液のpHをpHメーター〔サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製、商品名:Orion−star−A214(卓上型)〕で測定することによって求められる。
(c)被覆化合物の同定
正極活物質に用いられている二次粒子の表面に存在している被覆層を構成している被覆化合物は、後述する放射光粉末X線回折法(SXRD)によって同定することができるが、放射光科学研究センター(国立研究開発法人理化学研究所)の「Spring−8」を用いた放射光粉末X線回折法(SXRD)によって同定することが好ましい。前記放射光粉末X線回折法(SXRD)の原理および現象は、一般的なX線回折法(XRD)とほぼ同様であり、ブラッグの法則(Bragg’s law)に基づいてX線の波長、結晶面の間隔、結晶面とX線がなす角度との関係などの情報から原子配列および構造解析を行なうことができる。
放射光粉末X線回折法(SXRD)を用いることにより、X線回折法(XRD)よりも高いX線強度および短パルス性を活かして微量物質の種類、構造および性質を詳細かつ正確に解析することができる。このことから、放射光粉末X線回折法(SXRD)を利用することにより、X線回折法(XRD)ではバックグラウンドノイズが高く、目的化合物の同定が困難である試料の詳細な構造解析をすることができる。したがって、放射光粉末X線回折法(SXRD)は、本発明の正極活物質に用いられている二次粒子の表面に存在するナノメートル単位の厚さを有する被覆層が、純粋なリチウム塩で構成されていることを確認するのに好適に利用することができる。
(d)被覆層の平均厚さおよび変動係数CV%
二次粒子の表面上に形成されている被覆層の平均厚さは、リチウムイオン二次電池に用いたときに正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いリチウムイオン二次電池用正極活物質を得る観点から、5〜160nm、好ましくは10〜120nmである。なお、被覆層の平均厚さは、以下の方法に基づいて測定したときの値である。
変動係数CV%は、前記被覆層の厚さのばらつきを示す。変動係数CV%は、リチウムイオンのインターカレーションおよびディインターカレーションが安定し、リチウムイオン伝導性を向上させる観点から、15%以下である。変動係数CV%は、例えば、被覆層の厚さを所定値に制御することによって15%以下に調整することができる。なお、変動係数CV%は、以下の方法に基づいて測定したときの値である。
〔被覆層の平均厚さおよび変動係数CV%の測定方法〕
透過電子顕微鏡(TEM)は、当該透過電子顕微鏡を用いて正極活物質を観察したとき、一次粒子間の界面などの回折コントラスト(散乱コントラスト)の像が得られることから、主として正極活物質の結晶性に関する解析に適している。これに対して、走査型透過電子顕微鏡(STEM)は、当該走査型透過電子顕微鏡を用いて化合物および半導体における積層構造の確認などのZ(原子番号)コントラストによるHAADF−STEM(High−angle−Annular−Dark−Field−Scanning−TEM)像が得られることから、化合物および半導体における積層構造の組成に関する解析に適している。走査型透過電子顕微鏡(STEM)によれば、組成情報を反映した像が得られることから、本発明の正極活物質のようにニッケルおよびコバルトを含有する母材粉末の表面上に形成されているナノメートル単位の被覆層の厚さを正確に確認することができる。
正極活物質を乾燥させた後、クロスセクションポリッシャ(CP)〔日本電子(株)製、品番:SM−09010〕を用いて当該正極活物質に含まれている二次粒子に加工を施すことにより、当該二次粒子の断面試料を作製し、当該断面試料の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)〔日本電子(株)製、品番:ARM200F〕で観察する。前記断面試料の断面の観察画像の略中心で直交する2本の直線を引き、この2本の直線と交差する4箇所の被覆層の厚さを測定し、二次粒子10個の数値(n=40)から被覆層の平均厚さおよび被覆層の厚さのばらつきを示す変動係数CV%を求める。
(e)被覆化合物の構成元素(当量および組成比)
放射光粉末X線回折法(SXRD)によって同定された被覆化合物の構成元素およびその形態を正確に特定するためには、当該被覆化合物の物性の分析とともに化学的分析を併せて行なうことが好ましい。
被覆化合物には、ホウ酸リチウム塩などの水溶性化合物が含まれている。前記被覆化合物が有する水溶性を利用して被覆化合物の構成元素を分析し、式(II)に基づいてホウ素量(当量)を求めることができる。また、放射光粉末X線回折法(SXRD)によって同定された被覆化合物における各構成元素の種類および形態が妥当であるかどうかを以下の被覆化合物の構成元素の分析方法によって確認することができる。
〔被覆化合物の構成元素の分析方法〕
正極活物質5gを25℃の純水95mLに分散させることによってスラリーを調製し、当該スラリーを10分間攪拌した後、濾過し、全量が200mLとなるように濾液に純水を添加することにより、分析検体液を調製し、当該分析検体液を適宜希釈し、当該分析検体液に含まれているリチウム、ホウ素の含有率をマルチ型ICP発光分光分析装置〔(株)島津製作所製、品番:ICPE−9000〕で測定する。
前記で測定された各元素の含有率および式(II)に基づいて求められたホウ素量(当量)からリチウムおよびホウ素の組成比を求め、当該組成比が放射光粉末X線回折法(SXRD)によって同定された被覆化合物と合致するかどうかを確認することができる。
例えば、後述する実施例1に記載されているように、母材粉末100gに対するホウ酸(H3BO3)の量を0.11gに調整し〔ホウ素(B)相当量:0.02g〕、ホウ酸を被覆原料として母材粉末に添加した場合、得られる正極活物質(乾燥物)の表面に存在している被覆化合物(被覆層)に含まれているリチウムの正極活物質(乾燥物)全体における含有率が0.014質量%であり、当該被覆化合物(被覆層)に含まれているホウ素の正極活物質(乾燥物)における含有率が0.022質量%であるとき、正極活物質5gあたりリチウム0.1mmol(0.7mg)およびホウ素0.1mmol(1.1mg)が含まれており、リチウムとホウ素の組成比(リチウム/ホウ素)が1となる。
また、例えば、後述する実施例1に記載されているように、放射光粉末X線回折法(SXRD)によって同定された被覆化合物がメタホウ酸リチウム(LiBO2)のみである場合、当該メタホウ酸リチウム(LiBO2)は、リチウム1モル、ホウ素1モルおよび酸素2モルで構成されていることから、リチウムとホウ素の組成比(リチウム/ホウ素)が1となり、マルチ型ICP発光分光分析装置〔(株)島津製作所製、品番:ICPE−9000〕を用いて化学的分析法によって求められたリチウムとタングステンの組成比(リチウム/ボウ素)の1と合致する。
このように、放射光粉末X線回折法(SXRD)によって同定された被覆化合物が母材粉末の粒子表面に被覆されていることは、物性的分析法による分析結果と化学的分析法による分析結果とが合致することを確認することによって評価することができる。分析結果の信頼性は、物性的分析法および化学的分析法のうちいずれか一方の分析法のみを行なうよりも物性的分析法および化学的分析法の双方の分析法を行なうほうが高めることができる。
なお、以下の比較例4に示すように、母材粉末100gと被覆化合物としてメタホウ酸リチウム(LiBO2)0.41g(ホウ素相当量:0.09g)とを混合した場合、正極活物質(乾燥物)におけるリチウムの含有率が0.11質量%であり、ホウ素の含有率が0.087質量%であるとき、正極活物質5gあたりのリチウムの量は0.8mmol(5.5mg)であり、ホウ素の量は0.4mmol(4.4mg)であり、リチウムとホウ素の組成比(リチウム/ホウ素)が2となる。
しかし、放射光粉末X線回折法(SXRD)によって同定された被覆化合物がメタホウ酸リチウム(LiBO2)のみである場合、前記したように、リチウムとホウ素の組成比(リチウム/ホウ素)が1となるはずであるところ、比較例4では、化学的分析法であるICP法によって求められたリチウムとホウ素の組成比が1であることと合致していない。このことから、被覆化合物には、メタホウ酸リチウム(LiBO2)以外に水酸化リチウム(LiOH)および炭酸リチウム(Li2CO3)が含まれていることが認められる。
(f)正極活物質の作製後の母材粉末におけるリチウムの含有率
正極活物質を調製する際に、被覆原料の量が母材粉末の二次粒子の表面などに存在している余剰のリチウム化合物の量よりも多い場合(リチウムが不足している場合)、前記したように、母材粉末にリチウムが奪われることから、得られる正極活物質は、正極活物質としての性能が十分に発揮されなくなるおそれがある。
正極活物質の被覆層を構成しているリチウム塩は、有機溶媒に不溶であって、水に易溶である。したがって、正極活物質を水中に浸漬し、被覆層を溶解させて母材粉末を単離し、当該母材粉末を無機酸などで完全に溶解させることにより、母材粉末に含まれているリチウムの含有率を測定するための分析検体液を調製することができる。より具体的には、以下の方法により、母材粉末におけるリチウムの含有率を測定することができる。
〔正極活物質作製後の母材粉末におけるリチウムの含有率の測定方法〕
室温下で正極活物質5gと純水95mLとを混合することによってスラリーを調製し、当該スラリーを10分間攪拌することによって母材粉末の表面に存在している被覆層を水中に溶解させた後、当該スラリーを濾過し、得られたケーキ状の固形分を回収する。
回収された固形分を35%塩酸などの無機酸中に添加し、100〜200℃程度の温度に加熱することによって加熱分解させ、得られた分解液の全量が200mLとなるように当該分解液に純水を添加することにより、分析検体液を調製する。
前記で得られた分析検体液を適宜希釈し、マルチ型ICP発光分光分析装置〔(株)島津製作所製、品番:ICPE−9000〕を用いて当該分析検体液中のリチウム量を測定することにより、正極活物質の作製後の母材粉末におけるリチウムの含有率を特定することができる。
以上説明したように、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法によれば、抵抗低減機能を有する被覆層を構成している被覆化合物が母材粉末の粒子表面に被覆され、被覆層の厚さが最適化され、被覆層の厚さのばらつき(変動係数CV%)が抑制されたリチウムイオン二次電池用正極活物質を効率よく得ることができる。
したがって、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、当該正極活物質を非水系電解質リチウムイオン二次電池に用いた場合には、正極合材ペーストの作製時のゲル化を抑制することができることから、当該二次電池の品質および安全性を向上させることができ、当該正極活物質を全固体リチウムイオン二次電池に用いた場合には、異種界面の形成が抑制され、被覆層の厚さが均一かつ均質となることから、リチウムイオン二次電池の作製後の電池特性を改善することができる。
(g)リチウムイオン二次電池用正極活物質の概略説明図
以下に、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質を図1に基づいて説明する。図1は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の一実施態様を示す概略説明図である。
図1(a)には、母材粉末の一次粒子1が凝集して二次粒子2が形成されている状態が示されている。当該母材粉末の二次粒子2では、ホウ酸リチウムなどの高いリチウムイオン伝導性を有する被覆層が形成されていないため、矢印Aで示される結晶格子へのリチウムイオンのインターカレーションおよび矢印Bで示される結晶格子へのディインターカレーションが活発に行なわれないことから、二次粒子2をリチウムイオン二次電池に用いたとき、正極抵抗が高くなり、放電容量の維持率が低くなるものと考えられる。
これに対して、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質では、図1(b)に示されるように、一次粒子1が凝集して二次粒子2が形成されており、さらに二次粒子2の表面に被覆層3が形成されていることから、被覆層3が有する高いリチウムイオン伝導性により、矢印Cで示される結晶格子へのリチウムイオンのインターカレーションおよび矢印Dで示される結晶格子へのディインターカレーションが活発に行なわれることから、二次粒子2をリチウムイオン二次電池に用いたとき、正極抵抗が低減され、放電容量の維持率が向上するものと考えられる。
2.リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極を有することを特徴とする。
本発明のリチウムイオン二次電池の構成要素は、一般に用いられているリチウムイオン二次電池の構成要素と同様であればよく、特に限定されるものではない。例えば、本発明のリチウムイオン二次電池が非水系電解質リチウムイオン二次電池である場合、正極、負極、セパレータおよび非水系電解液を備えている。また、本発明のリチウムイオン二次電池が全固体リチウムイオン二次電池である場合、正極、負極および固体電解質を備えている。
以下で説明する本発明のリチウムイオン二次電池の実施態様は例示であり、当該実施態様に当業者の知識に基づいて種々の変更または改良を施した実施態様は、本発明の範囲内に包含される。
(1)非水系電解質リチウムイオン二次電池
〔正極〕
まず、本発明の正極活物質、導電材および結着剤を混合することによって正極合材を調製する。当該正極合材に必要に応じて活性炭、粘度などを調整するために使用される有機溶媒などの成分を添加し、得られた混合物をさらに混練することにより、正極合材ペーストが得られる。
正極合材における各成分の比率は、リチウムイオン二次電池の性能を決定するうえで重要な要素となる。正極合材における各成分の比率は特に限定されない。有機溶媒が除かれた正極合材の固形分には、一般的なリチウム二次電池の正極と同様に、正極活物質60〜95質量%、導電材1〜20質量%および結着剤(バインダー)1〜20質量%が含有されていることが好ましい。
次に、正極合材ペーストを例えばアルミニウム箔などからなる集電体の表面に塗布し、乾燥させて有機溶媒を揮散除去することにより、正極を得ることができる。必要により、電極密度を高めるためにロールプレスなどを用いて正極を加圧してもよい。
以上のようにして正極が得られるが、当該正極は、通常、シート状を有する。正極は、必要に応じて適当な大きさに裁断した後、電池を製造する際に用いられる。
なお、本発明は、前記正極の作製方法によって限定されるものではなく、他の正極の作製方法によって正極が作製されていてもよい。
導電材には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックなどを用いることができる。結着剤には、正極活物質の粒子を繋ぎ止める役割を果たすものとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、フッ素ゴムなどの含フッ素樹脂、スチレン−ブタジエンゴム、セルロース系樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂などを用いることができる。
なお、正極活物質、導電材および結着剤を混合することによって正極合材を調製した後、結着剤を溶解させるために有機溶媒を正極合材に添加し、混練することにより、正極合材ペーストを作製してもよい。前記有機溶媒には、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などを用いることができる。正極合材には、電気二重層の容量を増加させるために、必要により、活性炭を添加してもよい。
〔負極〕
負極は、金属リチウム、リチウム合金またはリチウムイオンを吸蔵して脱離する負極活物質と結着剤とを混合し、得られた混合物に有機溶媒を添加することにより、負極合材ペーストを調製し、当該負極合材ペーストを例えば銅箔などの金属箔からなる集電体の表面上に塗布し、乾燥させて有機溶媒を揮散除去することによって作製することができる。必要により、電極密度を高めるためにロールプレスなどを用いて負極を加圧してもよい。
負極活物質には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物の焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体などを用いることができる。負極結着剤には、正極と同様に、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの含フッ素樹脂系結着剤、スチレン−ブタンジエンゴムなどの水系結着剤などの結着剤をはじめ、負極活物質、結着剤を分散させるために用いられるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶媒などを用いることができる。なお、負極活物質には、結着力を向上させるためにカルボキシメチルセルロース(CMC)などの粘度調整剤が適量で用いられていてもよい。
〔セパレータ〕
正極と負極との間にはセパレータが配置される。セパレータは、正極と負極を分離し、電解質を保持するために用いられる。セパレータには、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂からなるフィムルに微細な貫通孔を多数形成させた膜などを用いることができる。
〔非水系電解液〕
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解させた溶液である。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、トリフルオロプロピレンカーボネート(TFPC)などの環状カーボネート;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)などの鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2−MeTHF)、ジメトキシエタン(DME)などのエーテル化合物;エチルメチルスルホン、1,4−ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン酸エステル化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
支持塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸化リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド〔LiN(CF3SO22〕、それらの複合塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの支持塩は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
非水系電解液には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤などの添加剤が含まれていてもよい。
〔リチウムイオン二次電池の形状および構成〕
正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成されるリチウムイオン二次電池は、円筒型、積層型などの種々の形状を有していてもよい。リチウムイオン二次電池がいずれの形状を有する場合であっても、正極と負極とをセパレータを介して積層させて電極体とし、この電極体に非水系電解液を含浸させる。正極と外部に通ずる正極端子との間および負極と外部に通ずる負極端子との間には、それぞれ集電用リードなどが接続される。
以上の構成を有する電極体を電池ケースに収納して密閉することにより、リチウムイオン二次電池を完成させることができる。
〔特性〕
A.正極抵抗
2032型コイン電池CBAを作製し、当該コイン電池CBAを充電電位4.1Vで充電し、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタットを用いて交流インピーダンス法で測定することにより、ナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量および正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表されていることから、当該ナイキストプロットに基づき、等価回路を用いてフィッティング計算を行なうことにより、正極抵抗を算出することができる。
B.初期放電容量および放電容量の維持率
初期放電容量は、2032型コイン電池CBAの製作時から24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open−Circuit−Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの放電容量である。
放電容量の維持率は、コイン電池CBAの温度を60℃に保持して1サイクル目の放電容量(初期放電容量)を測定した後、10分間休止し、前記初期放電容量の測定と同様に、充放電サイクルを初期放電容量の測定も含めて500サイクル(充放電)繰り返し、500サイクル目の放電容量を測定し、式:
[放電容量の維持率(%)]
=[(500サイクル目の放電容量)÷(初期放電容量)]×100
に基づいて求められた値である。
(2)全固体リチウムイオン二次電池
〔正極〕
正極には、正極活物質粉末とLi2S−P25系ガラス、Li10GeP212などの硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質粉末とを適切な比(例えば、質量比で7:3)で混合することによって得られた混合物を用いることができる。
〔負極〕
負極には、金属リチウム、リチウム−インジウム合金またはリチウムイオンを吸蔵および脱離することができる負極活物質と硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質粉末とを適切な比(例えば、質量比で7:3)で混合することによって得られた混合物を用いることができる。負極活物質には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物の焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体などを用いることができる。
〔固体電解質〕
固体電解質は、例えば、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質などのイオン伝導度が10-4S/cm以上であるリチウムイオン伝導体であることが好ましい。硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質としては、例えば、Li2S−P25系ガラス、Li10GeP212系ガラス、Li3PO4−Li2S−SiS2系ガラスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
〔全固体リチウムイオン二次電池の形状および構成〕
全固体リチウムイオン二次電池は、前記したように、正極、負極および固体電解質を有する。全固体リチウムイオン二次電池の形状としては、例えば、円形型、シート型などが挙げられる。全固体リチウムイオン二次電池がいずれの形状を有する場合であっても、正極および負極を電極体とし、正極と負極との間に固体電解質が存在し、正極に設けられている正極集電体と外部に通ずる正極端子との間および負極に設けられている負極集電体と外部に通ずる負極端子との間をそれぞれ集電用リードなどで接続し、これらを電池ケースに収納して密閉することにより、全固体リチウムイオン二次電池を得ることができる。
〔特性〕
A.正極抵抗
正極抵抗は、全固体電池を充電電位4.0Vまで充電し、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタットを用いて交流インピーダンスを測定し、得られたインピーダンススペクトルから等価回路を用いて正極抵抗を算出したときの値である。
B.初期放電容量および放電容量の維持率
初期放電容量は、全固体電池を製作した後、一定の電流密度で充電電位4.2Vまで充電し、3.0Vまで放電したときの容量である。また、放電容量の維持率は、全固体電池を25℃に保持して初期放電容量を測定した後、初期放電容量の測定と同様に、充放電サイクルを初期放電容量の測定も含めて50サイクル(充放電)繰り返し、50サイクル目の放電容量を測定し、式:
[放電容量の維持率(%)]
=[(50サイクル目の放電容量)÷(初期放電容量)]×100
に基づいて求められた値である。
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
なお、各実施例において、母材粉末、正極活物質およびリチウムイオン二次電池を製造する際に用いられた各試薬は、いずれも富士フィルム和光純薬(株)製の試薬特級品である。また、母材粉末および正極活物質を分析し、同定した結果を表1に示す。
[実施例1]
母材粉末として、粒子構造が中実構造であり、組成がLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.032であり、平均粒子径MVが11.8μmであり、粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径〕が0.81であり、タップ密度が2.6g/cm3であり、母材粉末のスラリーのpHが11.0であるリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水4gとを混合することにより、第1混合物を得た。また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ素の当量が1当量となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を30℃に調節した状態で第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を170℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであり、その組成がメタホウ酸リチウム(LiBO2)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは5nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が14%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが8.6であり、前記正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれもそれぞれ0.003質量%未満であることが確認された。
なお、正極活物質の作製後の母材粉末におけるリチウム含有率(表1の「作製後の母材粉末Li」の欄に記載)は、7.1質量%であった。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.32であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は88%であった。
前記リチウムイオン二次電池の正極抵抗値および放電容量の維持率は、以下の方法に基づいて測定した。
〔正極抵抗値および放電容量の維持率の測定方法〕
正極に正極活物質と75Li2S−25P25ガラスとを質量比7:3で混合することによって得られた混合物15mgを用いた。また、負極に人造黒鉛と75Li2S−25P25ガラスとを質量比7:3で混合することによって得られた混合物6mgを用いた。固体電解質に75Li2S−25P25ガラス150mgを用いた。
前記正極、前記固体電解質および前記負極を重ね合わせて3層の積層体を作製し、得られた積層体に300MPaの圧力で直径10mmに加圧成形し、得られた成形体の両面にステンレス鋼板を圧接して集電体とし、円形状の全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
(1)正極抵抗値
前記で得られた全固体リチウムイオン二次電池を充電電位4.0Vで充電し、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット1255B(英国ソーラトロン社製、商品名)を用い、交流インピーダンス法で測定してインピーダンススペクトルを得た。前記で得られたインピーダンススペクトルには、高周波領域と中間周波領域とに2つの半円が観測され、当該中間周波領域の半円を等価回路で解析することにより、正極抵抗値を算出した。
(2)放電容量の維持率
前記で得られた全固体リチウムイオン二次電池を用い、25℃の空気中で一定の電流密度で電位が4.2Vとなるまで充電した後、電位が3.0Vとなるまで放電したときの初期放電容量を測定する。
初期放電容量を測定した後、初期放電容量の測定と同様にして初期放電容量の測定を含めて充放電を50サイクル繰り返し行なった後、50サイクル目の放電容量を測定し、式(III):
[放電容量の維持率(%)]
={[所定の時点での放電容量(mAhまたはAh)]
÷[初期放電容量(mAhまたはAh)]}×100 (III)
に基づいて放電容量の維持率を求めた。
[実施例2]
母材粉末として、粒子構造が中実構造であり、組成がLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.032であり、平均粒子径MVが11.8μmであり、粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径〕が0.82であり、タップ密度が2.6g/cm3であり、母材粉末のスラリーのpHが11.3であるリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水5gとを混合することにより、第1混合物を得た。また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ素の当量が1当量となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を35℃に調節した状態で第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を190℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであり、その組成がメタホウ酸リチウム(LiBO2)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは8nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が11%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが8.6であり、前記正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれもそれぞれ0.003質量%未満であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.30であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は89%であった。
[実施例3]
母材粉末として、粒子構造が中実構造であり、組成がLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.032であり、平均粒子径MVが11.7μmであり、粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径〕が0.82であり、タップ密度が2.7g/cm3であり、母材粉末のスラリーのpHが11.6であるリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水6gとを混合することにより、第1混合物を得た。また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ素の当量が1当量となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を40℃に調節した状態で第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を210℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであり、その組成がメタホウ酸リチウム(LiBO2)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは15nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が8.6%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが8.6であり、前記正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれもそれぞれ0.003質量%未満であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.25であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は92%であった。
[実施例4]
母材粉末として、粒子構造が中実構造であり、組成がLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.032であり、平均粒子径MVが11.8μmであり、粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径〕が0.81であり、タップ密度が2.6g/cm3であり、母材粉末のスラリーのpHが11.9であるリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水7gとを混合することにより、第1混合物を得た。
また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ酸の当量が1当量となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を45℃に調節した状態で第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を230℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであり、その組成がメタホウ酸リチウム(LiBO2)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは27nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が4.5%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが8.6であり、前記正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれもそれぞれ0.003質量%未満であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.23であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は93%であった。
[実施例5]
母材粉末として、粒子構造が中実構造であり、組成がLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.032であり、平均粒子径MVが11.8μmであり、粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径〕が0.81であり、タップ密度が2.6g/cm3であり、母材粉末のスラリーのpHが11.9であるリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水7gとを混合することにより、第1混合物を得た。
また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムの量に対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ酸の当量が1当量となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を40℃に調節した状態で第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を230℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであり、その組成が四ホウ酸リチウム(Li247)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは31nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が5.1%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが8.6であり、前記正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれもそれぞれ0.003質量%未満であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.27であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は91%であった。
[実施例6]
母材粉末として、粒子構造が中実構造であり、組成がLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.03であり、平均粒子径MVが11.8μmであり、粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径〕が0.80であり、タップ密度が2.6g/cm3であり、母材粉末のスラリーのpHが12.2であるリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水7gとを混合することにより、第1混合物を得た。
また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ酸の当量が1当量となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を40℃に調節した状態で第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を230℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであり、その組成が四ホウ酸リチウム(Li247)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは59nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が6.3%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが8.7であり、前記正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれもそれぞれ0.003質量%未満であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.29であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は90%であった。
[実施例7]
母材粉末として、粒子構造が中実構造であり、組成がLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.032であり、平均粒子径MVが11.7μmであり、粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径〕が0.82であり、タップ密度が2.7g/cm3であり、母材粉末のスラリーのpHが12.5であるリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水7gとを混合することにより、第1混合物を得た。
また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ酸の当量が1当量となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を40℃に調節した状態で第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を230℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであり、その組成が四ホウ酸リチウム(Li247)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは114nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が9.2%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが8.7であり、前記正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれもそれぞれ0.003質量%未満であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.33であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は88%であった。
[実施例8]
母材粉末として、粒子構造が中実構造であり、組成がLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.032であり、平均粒子径MVが11.7μmであり、粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径〕が0.82であり、タップ密度が2.7g/cm3であり、母材粉末のスラリーのpHが12.5であるリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水7gとを混合することにより、第1混合物を得た。
また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ酸の当量が1当量となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を40℃に調節した状態で第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を230℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであり、その組成が三ホウ酸リチウム(LiB35)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは160nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が12%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが8.7であり、前記正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれもそれぞれ0.003質量%未満であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.36であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は87%であった。
[比較例1]
母材粉末として、粒子構造が中実構造であり、組成がLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.032であり、平均粒子径MVが11.8μmであり、粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径〕が0.80であり、タップ密度が2.6g/cm3であり、母材粉末のスラリーのpHが10.5であるリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水7gとを混合することにより、第1混合物を得た。
また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ酸の当量が1当量となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を30℃に調節した状態で第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を170℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであり、その組成がメタホウ酸リチウム(LiBO2)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは1nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が68%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが8.5であり、前記正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれもそれぞれどちらも0.003質量%未満であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.71であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は78%であった。
[比較例2]
母材粉末として、粒子構造が中実構造であり、組成がLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.032であり、平均粒子径MVが11.7μmであり、粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径〕が0.82であり、タップ密度が2.6g/cm3であり、母材粉末のスラリーのpHが12.8であるリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水7gとを混合することにより、第1混合物を得た。
また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ酸の当量が1当量となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を40℃に調節した状態で、第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を230℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであり、その組成が三ホウ酸リチウム(LiB35)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは316nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が29%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが8.7であり、前記正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれもそれぞれ0.003質量%未満であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.45であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は84%であった。
[比較例3]
母材粉末として、粒子構造が中実構造であり、組成がLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.032であり、平均粒子径MVが11.8μmであり、粒度分布〔(d90−d10)/平均粒子径〕が0.82であり、タップ密度が2.6g/cm3であり、母材粉末のスラリーのpHが12.1であるリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ素の当量が1当量となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるタングステンの量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを室温で混合することにより、混合物Aを得た。
次に、前記で得られた混合物A100gと水7gとを混合することにより、混合物Bを得た。得られた混合物Bを230℃で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであり、その組成がメタホウ酸リチウム(LiBO2)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは46nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が27%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが8.6であり、前記正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれもそれぞれ0.003質量%未満であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.59であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は80%であった。
[比較例4]
母材粉末として、実施例3で用いられたのと同じリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水6gとを混合することにより、第1混合物を得た。
また、被覆原料としてメタホウ酸リチウム(LiBO2)を用いた。前記リチウム金属合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ酸の当量が1当量となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記メタホウ酸リチウム(LiBO2)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を25℃に調節した状態で第1混合物とメタホウ酸リチウム(LiBO2)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を210℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであったこと以外に、不純物として水酸化リチウムおよび炭酸リチウム(Li2CO3)が検出され、ホウ酸リチウムの組成がメタホウ酸リチウム(LiBO2)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは23nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が41%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが11.2であり、前記正極活物質における水酸化リチウムの含有率が0.16質量%、炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率が0.011質量%であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.84であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は75%であった。
[比較例5]
母材粉末として、実施例7および8で用いられたのと同じリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水7gとを混合することにより、第1混合物を得た。
また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ素量の当量が1当量よりも大幅に不足するようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を40℃に調節した状態で第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を230℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであったこと以外に、不純物として水酸化リチウムおよび炭酸リチウム(Li2CO3)が検出され、ホウ酸リチウムの組成がメタホウ酸リチウム(LiBO2)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは58nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が33%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが12.2であり、前記正極活物質における水酸化リチウムの含有率が0.88質量%、炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率が0.042質量%であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.98であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は71%であった。
[比較例6]
母材粉末として、実施例1で用いられたのと同じリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gと水7gとを混合することにより、第1混合物を得た。また、被覆原料としてホウ酸(H3BO3)を用いた。前記リチウム金属複合酸化物の粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ素量の当量が1当量よりも大幅に過剰となるようにするべく、前記リチウム金属複合酸化物の粉末100gあたりの前記ホウ酸(H3BO3)に含まれるホウ素量を表1の「B添加量」の欄に記載の量となるように調整し、前記で得られた第1混合物の温度を40℃に調節した状態で第1混合物とホウ酸(H3BO3)とを混合することにより、第2混合物を得た。
次に、前記で得られた第2混合物を230℃の温度で12時間乾燥させた後、一部の凝集体を解凝機で解凝することにより、正極活物質を得た。
前記で得られた正極活物質の粒子表面における被覆化合物を同定したところ、当該被覆化合物はホウ酸リチウムであり、その組成が四ホウ酸リチウム(Li247)であることが確認された。
前記正極活物質の被覆層の平均厚さは122nmであり、厚さのばらつきを示す変動係数CV%が18%であった。また、前記正極活物質のスラリーのpHが8.7であり、前記正極活物質における水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率がいずれもそれぞれ0.003質量%未満であることが確認された。
後述する比較例7(被覆なし)で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値を1.00としたとき、前記で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値は0.92であった。また、前記で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量の維持率は73%であった。
[比較例7]
母材粉末として、粒子構造が中実構造であり、組成がLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.032であり、平均粒子径MVが11.9μmであり、粒度分布である〔(d90−d10)/平均粒子径〕が0.82であり、タップ密度が2.5g/cm3であり、スラリーのpHが12.1であるリチウム金属複合酸化物の粉末を用いた。
前記リチウム金属複合酸化物に被覆処理を行なわずに、当該リチウム金属複合酸化物を正極活物質として用いてリチウムイオン二次電池の特性を評価した。その結果、リチウムイオン二次電池の正極抵抗値は1.00であり、放電容量の維持率は69%であった。
Figure 2021064598
[総合評価]
表1に示された結果から、各実施例で得られた正極活物質は、被覆層の平均厚さが5〜160nmの範囲内にあり、厚さのばらつきを示す変動係数(CV%)が15%以下であることがわかる。また、各実施例で得られた正極活物質では、水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率が、いずれもそれぞれ検出限界である0.003質量%未満であることがわかる。さらに、各実施例で得られた正極活物質では、いずれも、リチウム金属複合酸化物に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、生成する被覆化合物に含まれるホウ素量が0.8〜1.2当量であることがわかる。
また、物性的分析法である放射光粉末X線回折法(SXRD)により、被覆化合物としてホウ酸リチウム塩である、メタホウ酸リチウム(LiBO2)、四ホウ酸リチウム(Li)、三ホウ酸リチウム(LiB35)またはそれらの混合物が同定された。この放射光粉末X線回折法(SXRD)の同定結果に基づいて求められたリチウムとホウ素の組成比(リチウム/ホウ素)と、これと併行して行なった化学的分析法によってリチウムおよびホウ素の各含有率に基づいて求められたリチウムとホウ素の組成比(リチウム/ホウ素)とが合致していることから、生成した被覆化合物が、放射光粉末X線回折法(SXRD)の同定結果どおりのものであることがわかる。
以上の結果から、各実施例によれば、抵抗低減機能を有する被覆化合物が母材粉末の粒子表面をほぼ当量の状態で被覆し、被覆層の厚さが最適化され、被覆層の厚さのばらつきが最小限に抑えられたリチウムイオン二次電池用正極活物質が得られていることがわかる。
したがって、各実施例で得られた正極活物質を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の正極抵抗値がいずれも0.40未満であり、放電容量の維持率がいずれも85%以上であるという非常に優れた結果が得られたことがわかる。
これに対して、比較例7で得られた被覆層が存在しない正極活物質および被覆層の平均厚さおよび厚さのばらつきを示す変動係数(CV%)が最適範囲から外れている比較例1〜6で得られた正極活物質は、いずれも電池特性に劣っていることがわかる。
また、比較例4では、ホウ酸(H3BO3)ではなく、被覆化合物であるメタホウ酸リチウム(LiBO2)がそのままの状態で用いられていることから、母材粉末に含まれる余剰のリチウム化合物が未反応の状態で不純物として被覆層に混入しているため、被覆化合物とともに水酸化リチウム(LiOH)および炭酸リチウム(Li2CO3)が同定され、正極活物質のスラリーのpHが11を超えていることがわかる。このことから、水酸化リチウムの含有率が高く、リチウム金属複合酸化物に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対し、被覆化合物に含まれるホウ素量が当量ではなかった。この傾向は、比較例5で得られた正極活物質と同様に、母材粉末に含まれている余剰のリチウム化合物に対する被覆原料の量が不足している場合にも認められる。
一方、比較例6で得られた正極活物質では、被覆原料であるホウ酸(H3BO3)の添加量が過剰であることから、被覆化合物にホウ酸(H3BO3)が残存する可能性が考えられるが、四ホウ酸リチウム(Li247)のみが純粋に同定されたほか、水酸化リチウム(LiOH)の含有率および炭酸リチウム(Li2CO3)の含有率が、いずれもそれぞれ0.003質量%未満であり、被覆化合物が0.8〜1.2当量の範囲内である。
しかし、比較例6で得られた正極活物質の母材粉末におけるリチウム含有率が6.8質量%であるのに対し、実施例1で得られた正極活物質では、当該リチウム含有率が7.1質量%であることから、比較例6で得られた正極活物質では、ニッケルおよびコバルトのみならず複合酸化物を構成している母材粉末自体からリチウムが奪われていることがわかる。また、リチウムイオン二次電池の正極抵抗値および放電容量の維持率は、実施例1で得られた正極活物質よりも比較例6で得られた正極活物質のほうが劣っていることから、比較例6で得られた正極活物質では、過剰量の被覆原料によって母材粉末自体からリチウムが奪われたことにより、電池特性が低下したものと考えられる。
以上説明したように、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、リチウムイオン二次電池に用いたときに正極抵抗が低く、放電容量の維持率が高いことから、リチウムイオン二次電池に好適に用いることができる。
1 一次粒子
2 二次粒子
3 被覆層

Claims (6)

  1. リチウム、ニッケルおよびコバルトを有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子を含有する母材粉末が原料として用いられてなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
    前記二次粒子の表面にホウ酸リチウム塩を含有する被覆層が形成され、
    前記被覆層の平均厚さが5〜160nmであり、
    前記被覆層の厚さのばらつきを示す変動指数(CV%)が15%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  2. 正極活物質における水酸化リチウムの含有率が0.003質量%未満であり、炭酸リチウムの含有率が0.003質量%未満である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  3. リチウム金属複合酸化物が式(I):
    LiNi1-x-yCo2+α (I)
    (式中、s、x、yおよびαは、それぞれ1.00≦s≦1.30、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.45および−0.1≦α≦0.2を満たす数、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素を示す)
    で表されるリチウム金属複合酸化物である請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  4. リチウムイオン二次電池用正極活物質が非水系電解質リチウムイオン二次電池用正極活物質または全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質である請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
  6. 原料としてリチウム、ニッケルおよびコバルトを有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子を含有する母材粉末を用いてリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造する方法であって、
    前記母材粉末と水との混合物における水の含有率が4〜7質量%となるように母材粉末と水とを混合することによって第1混合物を調製し、
    前記で得られた第1混合物の温度を25〜50℃に調節し、当該第1混合物と被覆原料とを混合することによって第2混合物を調製し、
    前記で得られた第2混合物を150〜250℃の温度で乾燥させて母材粉末に含まれている二次粒子の表面上に被覆層を形成させることによって正極活物質を製造する工程を含み、
    前記被覆原料としてホウ素化合物を含有する被覆原料を用い、
    前記母材粉末に含まれている余剰のリチウム化合物のリチウムに対する被覆原料に含まれているホウ素の量を0.8〜1.2当量に調整し、
    前記母材粉末100質量部あたりのホウ素量を0.01〜2.1質量部に調整することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。

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