JP2021063711A - 二重ソレノイド磁性流体磁界センサおよび二重ソレノイド磁性流体電流センサ - Google Patents

二重ソレノイド磁性流体磁界センサおよび二重ソレノイド磁性流体電流センサ Download PDF

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Abstract

【課題】磁気ヒステリシスが存在せず原点の信頼性が高く,且つ広いダイナミックレンジを有し、不確かさが小さく汎用性の高い磁界センサ、および同電流センサを提供する。【解決手段】非磁性材から成る真っ直ぐあるいは湾曲した棒状中空の磁性流体容器4を有し、磁性流体容器内に二重ソレノイドコイルを磁性流体容器の軸方向と揃えて配置し、磁性流体容器の内面と二重ソレノイドコイルの外周面とを隙間が無いように密着固定させ、二重ソレノイドコイルの外側のコイルの内面と内側のコイルの外面との間には隙間を有し、二重ソレノイドコイルの引出し線を磁性流体容器の外側に引出し、磁性流体容器内に配置した二重ソレノイドコイルが完全に浸るように磁性流体容器に磁性流体を満たし、二重ソレノイドコイルの内側のコイルに交流成分を含む電流を流して励磁磁束を発生させ、二重ソレノイドコイルの外側のコイルに生じる起電力を検出信号とする。【選択図】図1

Description

本発明は,磁気ヒステリシスを持たず,これによるオフセットが無く,よって信頼性が高く,かつ広いダイナミックレンジをカバーすることができる磁界センサ,および,これを利用した非接触電流センサに関する.
省エネや環境対策などに端を発した直流電力の利用は,様々な分野で実用化が進み社会に浸透してきた.それとともに装置は大電力化傾向になり高い電圧と大きな電流を使う様になってきた.ところがこれらの装置の制御に欠かせない部品の一つである直流電流センサにおいて,磁気ヒステリシスによるオフセットの変動やダイナミックレンジの狭さが,装置の性能,安全性,効率などの向上を妨げ,ひいては直流電力活用の足かせになっている.
磁気ヒステリシスによるオフセットの変動を抑える電流センサとしては,軟磁性材で構成された磁気コアを正負交互に周期的に着磁する提案がある(特許文献1).しかしこの方法は同出願の明細書にも「完全な脱磁は行なえず不完全な脱磁状態であっても,(一部省略)実質的にヒステリシスを消去すると同様な効果が得られる.」と記されているように,完全では無い.また,この提案は大電流には不向きであることやトロイダル巻きが必要であることから,社会のニーズ,すなわち本発明の目的を解決できるものでは無い.因みに,本発明はトロイダル巻きを必要としない.
また,直流電力分野の大電流用途として「強磁性体」の磁界に対する透磁率の変化を利用した提案もされている(特許文献2).この提案では,電流センサの精度を上げる手段としてよく使われている磁気平衡式と呼ばれる負帰還方式を否定している.しかしこの提案では,被計測電流等の着磁によるヒステリシスが生じること,透磁率が温度により変化してセンサの温度特性が劣ること,磁気コアに使われている磁性材が数十A(アンペア)で飽和して,社会のニーズである数百Aは計測できないこと,など欠点が多い.
この他に,ホール素子や磁気抵抗素子等の磁気検出素子を集磁コアのギャップに挟み,磁気平衡式にした電流センサは例を挙げるまでもなく一般的であり,多く使われている.しかしこの方式では二種類のヒステリシスが課題になる.一つは磁気検出素子のヒステリシスであり,これは磁気平衡式にしても解決できない.もう一つは集磁コアの磁気ヒステリシスであるが,これは磁気平衡式の負帰還が有効に機能している範囲では原理的にヒステリシスは生じない.ところが,負帰還能力を超える被計測電流が流れた場合には,磁気コアに相応の磁化が生じて着磁する.つまり磁気ヒステリシスが生じる.このような電流センサを使用する環境において,被計測電流が負帰還能力の範囲内である保証はない.磁性材は千分の一秒程度の短い時間でも容易に磁化するため,被計測電路の何らかの事情でセンサの定格電流値をはるかに超える電流が流れることは容易に予測できる.これは,例えば電路の開閉によるスパイク電流であり,その値は通常電流の100倍を超えることも珍しくない.
従来の非接触電流センサにおいて,直線性や温度特性およびダイナミックレンジを向上しようとすれば磁気平衡式を採用することが一般的で,その効果が大きいことはよく知られている.ところが,大電流用電流センサでは負帰還磁界も大きくする必要があり,そのためには負帰還電流を流す負帰還コイルの巻数とそこに流す電流との積を大きくしなければならない.
そして,高性能な非接触大電流センサの形状は,通常は丸型や角形の環状になっている.従って,負帰還コイルはトロイダル巻きをしなければならない.そしてその巻き数は,被計測電流値を負帰還電流で除した値になる.例えば被計測電流が最大500Aのセンサの場合には,負帰還電流を最大100mA流すとすると負帰還コイルの巻き数は5000回必要になる.つまり,トロイダル巻きを5000回する必要があり,汎用電流センサとしてのトロイダル巻きの実用的な巻き数の限度を超える.負帰還電流を大きくすれば巻き数は少なくて良いが,そうするとコイルの線径を太くする必要が生じコイルが巻きにくくなるとともに,負帰還電流を流す電子回路の負担が増す.つまり,実用的な汎用電流センサとしては著しく不利になる.
このほかに磁気コアを用いない非接触電流センサもあるが,その場合はセンサと被計測電流との距離や背景磁界の影響により,精度が極端に下がるなどの欠点があり,前記の社会のニーズに応えるものでは無い.
特開2000ー055940号広報 特開2017ー058288号広報 特開2002ー151165号広報 特開2004ー226154号広報 特開2007ー3452号広報
忠津 孝,笹田一郎 著 「磁気ブリッジを用いた非接触μA電流センサの開発」日本応用磁気学会誌 31(5), 421-426, 2007 忠津 孝,笹田一郎 著 「磁性流体磁気ブリッジを用いた電流センサの開発」日本応用磁気学会誌 35(3), 268-272, 2011
本発明が解決しようとする課題は,磁気コアが着磁されて磁気ヒステリシスを生じるために計測値にオフセットが生じる,という従来技術の問題点であり,稼働中は勿論のこと,休止中や実装前の製造,運送,保管等のあらゆる状況において,現実的範囲のいかなる強力な磁界に曝されても全く着磁されることなく,よって磁気ヒステリシスによるオフセットが絶対に生じない磁界センサおよび電流センサを提供すること.さらに従来の高性能な非接触電流センサでは避けられなかった,トロイダル巻きに起因する性能のばらつきや,製造費用が高くつくという問題点を解決するために,製造過程ではソレノイド巻きであるにも関わらず,完成品ではトロイダル巻きの機能を発揮する磁界センサおよび電流センサを提供すること,の二点を目的とする.
本発明では,磁気ヒステリシスによるオフセットの課題に対して,磁性流体で磁気コアを形成すること,で解決した.
磁性流体に磁気ヒステリシスが全くないことは公知である.言い方を変えれば,磁気ヒステリシスがあるものは磁性流体とは呼ばない.磁性流体の B-H 特性(磁束密度 対 磁界の特性)は,ランジュバン関数で表現することができ,磁性流体を特定すればその磁性流体においては磁束密度と磁界の強さの関係は一意的に定まり,暴露された磁界の履歴に影響を受けない.つまり磁気ヒステリシスが全くない.
ところが磁性流体は他の磁性材に比べて透磁率が極めて小さく,そのためか,これを高性能な磁界センサや電流センサのセンシング材料として用いる提案は非常に少ない.ちなみに,軟磁性材であるパーマロイの比透磁率は数千であり,焼きなましされた純鉄では十万を超える.これに対して磁性流体の比透磁率は精々10から20程度である.
磁性流体には磁気ヒステリシスが全くないという大きな長所があるものの,上記のように透磁率が極めて小さいという短所がある.このような透磁率の小さな磁性材をセンシング材料として使うためには,僅かな磁気的変化を敏感に検出する手段が必要である.その候補として磁気ブリッジ方式(非特許文献1/非特許文献2)がある.
磁気ブリッジは,電気回路におけるホイートストンブリッジと考え方が同じで,不要な信号を相殺して必要な信号だけを取り出すことができる.本発明ではこの磁気ブリッジ方式の原理を採用することにより,磁性流体の短所である透磁率の小ささを克服して,長所であるヒステリシスを持たない磁気特性を十分に活かすことができた.
本発明のうちの電流センサにおいて環状の磁路を使う場合には,従来の同様の電流センサと同じく,環状の閉磁路にコイルを巻く必要がある.すなわち完成時にはトロイダル巻きの状態になる.しかし,本発明では製造時にトロイダル巻きの作業をする必要がない.
その手段は次のとおりである.予め長さの短い空芯のソレノイド巻きのコイルを準備しておき,それを容器の中に環状に配列して接続し,その後この容器を磁性流体で満たすことにより,結果的にはトロイダルコイルと同じ機能を有するようにした(図13を参照).
次に,上記の解決手段を図に基づき詳細に述べる.
本発明の電流センサは,本発明の磁界センサを被計測電流 Ix を取巻くように配置して,被計測電流 Ix が発生する磁界を感知することにより電流を計測する.すなわち,本発明の電流センサは本発明の磁界センサの応用である.そこで,まずは磁界センサとしての機能を説明する.
図1に本発明の磁界センサの説明図を示す.この磁界センサには図示したコイル間を接続する接続線 7 や,磁性流体容器 4 の内部のコイルと外部の回路をつなぐ引出し線 8 が必要であるが,図では省略する.他の図においても,特に必要でない限り省略する.そしてこれらの接続については他の段落で述べる.
図2に本発明で磁界や電流を検知する要素となるコイルの組み合わせを示す.以下これを「感知エレメント」と呼ぶ.
図3と図4に感知エレメントを側面から見た断面図を示し,感知機能の原理を説明する.さらに,図5に感知エレメントをコイルの軸方向に二つ並べて,磁気ブリッジの機能が発現するようにした構成の,側面から見た断面図を示す.以下図5の構成を「計測ユニット」と呼ぶ.図6から図8にはこれらの機能を説明するために模式化した B-H 特性を示す.
まず,本発明の特徴の一つである感知エレメントについて説明する.感知エレメントは図2に示すように,大小二つのソレノイドコイルで構成されていて,二重構造になるように配置する.内側のコイルは励磁コイル 2 であり,計測したい被計測磁界 Hx (または被計測電流 Ix )の最高周波数よりも高い周波数の交流電流で励磁する.外側のコイルは検出コイル 3 であり,このコイルに生じる起電力が計測情報を含んでいる.励磁コイル 2 と検出コイル 3 との間には隙間を設ける.この隙間の間隔は,コイルの軸に直角な面の断面で測定した場合,励磁コイル 2 の内側の断面積と上記隙間の断面積が同じ程度になるようにする.理想的には同じがよいが実用的には厳密に合わせる必要はない.図2の場合,内部の励磁コイルを支持する必要がありその一つの方法としては,励磁コイル 2 と検出コイル 3 の隙間に支柱を入れて固定する方法がある.またこれらのコイルは同心円である必要はなく,別の形態にすれば上記の固定用の支柱がなくても良い場合がある.その例を図16,図17,図18に示す.図16は励磁コイル 2 を検出コイル 3 の中心からずらして,励磁コイル 2 の外周を検出コイル 3 内周に接触させて相互を固定する.図17は励磁コイルを三角形にして,その頂点が円形の検出コイル 3 の内側に接するようにして固定する.また,図18は励磁コイル 2 も検出コイル 3 も正方形にして,励磁コイルを45度傾けてその四つの頂点が,検出コイル 3 の内側に接するようにして固定する.また励磁コイル 2 と検出コイル 3 の長さは同じである必要はなく,完成品(センサ)の要求仕様に合わせて,長さの他,線径や巻数も設計時に調整する.なお,以下の動作原理の説明においては,論理を単純化して解りやすくするために,励磁コイル 2 の内側の磁気コアの断面積と,励磁コイル 2 と検出コイル 3 との隙間の磁気コアの断面積とが同じであるみなす.
この感知エレメントをコイルの軸に沿った断面で示したのが図3である.図3において,符号4は図1でも示しているように感知エレメントを納めた磁性流体の容器であり,これを磁性流体容器 4 と呼ぶことにする.符号1は磁性流体容器 4 の中に満たされた磁性流体であり,これを磁性流体磁気コア 1 と呼ぶ.
感知エレメント(図3参照)において,励磁コイル 2 による励磁磁束は励磁コイル 2 の内側を通り,その外側を通って元に戻る.この際,「励磁磁束 Φe が磁性流体磁気コア 1 の中だけに存在するとすれば」,励磁コイル 2 の内側を通る「内側の励磁磁束」 Φe-i と励磁コイル 2 の外側を通る「外側の励磁磁束」 Φe-o とは同じ大きさになる.ここで検出コイル 3 の外面は磁性流体容器 4 の内面に密着していて,そこに隙間はなく磁性流体は侵入していない.従って,内側の励磁磁束 Φe-i も外側の励磁磁束 Φe-o も,検出コイル 3 の内側に存在し, Φe-i = Φe-o で且つ方向が反対向きであるために,これらを合成した磁束は 0 になる.つまり検出コイル 3 と鎖交する励磁磁束は存在しない.従って,励磁コイル 2 の磁束によって検出コイル 3 に起電力を起こすことはない.なお,外側の励磁磁束 Φe-o とは励磁コイル 2 と検出コイル 3 との隙間を通る磁束と定義する.
以上の説明を,図6の B-H 特性グラフで説明する.磁性流体の B-H 特性は,すでに述べた様にどのような磁性流体であっても全てランジュバン関数になる.ランジュバン関数を一般的な X-Y 座標で描くと,X = 0 では Y = 0 であるが, X が増加すると Y は急に立ち上がり,やがて 1 を漸近線とする緩やかな増加に徐々に転ずる.磁界センサや電流センサに印加される磁界 H は,正負の両方向があるため,図6および図7の B-H 特性のグラフでは正負両方向にランジュバン関数のグラフを描いている.
図6の B-H in のグラフは励磁コイル 2 の内側の磁性流体の特性である.一方 B-H out は励磁コイル 2 の外側の,検出コイル 3 との隙間の磁性流体の特性である.そして B-H out は B-H in とは反対向きになる.
検出コイル 3 の内側の磁気特性は B-H in と B-H out の合成になるが,大きさが同じで正負が反対であるために,合成(ベクトル加算)の B-H 特性は全領域において 0 になる.その合成特性が B-H comp. である.この合成特性においては磁界 H がどのような値を取っても,磁束密度は 0 (磁束も 0 )であり変化しない,したがって検出コイル 3 に起電力が起こることはない.
次に,被計測磁界 Hx が存在する場合について図7で説明する.被計測磁界 Hx は直流から所定の周波数までの範囲を持つが,本発明のセンサの計測可能な最大周波数は,励磁周波数 fe よりも十分に小さいため,ここでは被計測磁界 Hx は直流であるとみなして説明する.そこで,磁性流体磁気コア 1 には被計測磁界 Hx によって被計測磁束 Φx が生じる.被計測磁界 Hx (被計測磁束 Φx )は励磁コイル 2 の内側にも外側にも同じ向きに生じる.そして交流の励磁磁界 He (励磁磁束 Φe )と合成されて,交流と直流が重畳した状態になり,その合成磁界 Hc (合成磁束 Φc )の符号が反転する時の励磁磁界 He (励磁磁束 Φe )の振幅方向位置が被計測磁界 Hx (被計測磁束 Φx )の大きさ分だけずれる.この際,励磁コイル 2 の内側と外側では励磁磁界 He が反対向きであるために, B-H in の特性と B-H out の特性とが互いに反対向きにずれる.この状態を示したのが図7である.図7では, B-H in が磁界の負の方向(図では左の方向)にずれ, B-H out が磁界の正の方向(図では右の方向)にずれる.被計測磁界 Hx の方向が逆であれば,これらのずれはそれぞれ反対の方向になる.
B-H in と B-H out が相互にずれた結果,合成特性 B-H comp. は磁界が 0 の付近で少し盛り上がる.もし被計測磁界 Hx の方向が逆であれば合成特性 B-H comp. は垂れ下がる.この B-H comp. だけを取出して示したのが図8である.このように B-H comp. が 0 ではなくなると,励磁磁界 He によって検出コイル 3 の内側の合成磁束 Φc に変化が生じる.そして,検出コイル 3 に起電力が生じる.この合成磁束 Φc の盛り上がり,または垂れ下がり大きいほど検出コイル 3 の起電力は大きくなるが,合成磁束 Φc の変化量はB-H in と B-H out のずれ幅に比例する.このB-H in と B-H outのずれ幅は被計測磁界 Hx が大きいほど大きくなるため,結局,検出コイル 3 の起電力は被計測磁界 Hx の大きさに比例する.そして, B-H comp. が盛り上がった場合と,垂れ下がった場合とでは,合成磁束 Φc の極性が反対になる(位相が180度ずれる)ために,感知エレメントと磁性流体磁気コア 1 とで磁界の強さと方向を感知できる.
以上の説明において,基本原理を単純に説明するために現実とは異なる仮定があった.それは前記(段落 0026)の「励磁磁束 Φe が磁性流体磁気コア 1 の中だけに存在するとすれば」というところである.この仮定は,「励磁磁束 Φe が検出コイルの中だけに存在すれば」と言い換えても本発明の構造上同じである.しかし実際には検出コイル 3 の外側を通って励磁コイルの反対側に戻る磁束が僅かではあるが存在する.検出コイル 3 の外側を通る磁路は二つあり,一つは磁性流体磁気コア 1 の外に出る磁路であり,もう一つは,環状の磁性流体磁気コア 1 を通って一回りする磁路である.これらの磁路を通る励磁磁束を漏れ励磁磁束 Φe-leak と呼ぶことにする.漏れ励磁磁束 Φe-leak の二つの磁路を一つにまとめて模式的に描いた感知エレメントの側面の断面図が図4である.
図4において磁束の大きさは Φe-i = Φe-o + Φe-leak である.
検出コイル 3 に誘起される起電力は,励磁コイル 2 の磁束以外の磁束が存在しない場合においては,すでに述べたように,内側の励磁磁束 Φe-i と外側の励磁磁束 Φe-o の合成磁束に比例する.つまり,漏れ励磁磁束 Φe-leak があると, Φe-i が Φe-o よりも Φe-leak 分だけ大きくなり,結局 Φe-leak と同じ量の磁束が検出コイル 3 と鎖交していることになる.そしてこの鎖交している磁束によって検出コイル 3 に起電力が生じる.この起電力は図8で説明した検出作用によるものではなく,感知エレメント 11 の本来の目的に不要なものである.
ちなみに,感知エレメント 11 の本来の目的機能によって検出される起電力の周波数は,合成磁束 Φc の周波数であるが,この周波数は図8でも判るように,励磁周波数 fe の2倍の周波数である.一方で,漏れ励磁磁束 Φe-leak に起因して生じる起電力の周波数は,励磁周波数 fe と同じである.従って,検出コイル 3 から出力される信号は,励磁周波数 fe と,その「2倍の周波数」(以下 2fe と呼ぶ)が重畳した信号である.
この信号から必要な信号,すなわち 2fe だけの大きさを取り出す場合には,例えばロックインアンプ のような同期検波手段で 2fe に同期した成分を取り出せば良い.そしてこれによって不要な励磁周波数 fe 成分は排除できる.しかし必要な信号(2fe )が微弱な場合には,不要な励磁周波数 fe 成分の方が相対的に大きくなり,検波前の増幅(前置増幅)で fe 成分が飽和するところが増幅の限界になり,それよりも小さな 2fe 成分を十分に増幅することができない.従って検出コイル 3 の出力信号に fe が重畳していると,本来のセンサの性能が発揮できない.
しかし,漏れ励磁磁束 Φe-leak をなくすことは不可能である.そこで,その解決方法として磁気ブリッジ方式を採用した.磁気ブリッジ方式を使うと 2fe 成分だけが検出コイルから出力される.そこで磁気ブリッジ方式の原理を本発明にどのように取り入れたかを,図5によって説明する.
図5には感知エレメント 11 が二つ,コイルの軸方向に並べてある.この図において左側の感知エレメントを「感知エレメントA」 11-a とし,右側を「感知エレメントB」 11-b とする.また磁束の名称も同様に,磁束の符号に添字に a または b を添えて区別する.そしてこの図5の構成を,「計測ユニット」 12 と呼ぶことにする.また,この計測ユニット 12 の外観図を図9に示す.さらに図10には計測ユニット 12 の拡張形態も示す.
計測ユニットの感知エレメントA 11-a と感知エレメントB 11-b との関係は次のとおりである.双方の励磁コイル 2 は巻数と寸法が同じである.また検出コイル 3 も同様である.双方の励磁コイル 2 は直列に接続するが,互いに反対向きの励磁磁界 He を発生するように接続する.検出コイル 3 は発生した起電力が同位相で加算されるように接続する.この際,出力を電圧として取り出す場合には直列接続をする.あるいは電流として取り出す場合には並列接続する.しかし,コイルのインピーダンスと前置増幅器の入力部の性能を考慮すると,一般的には直列接続して電圧として取り出すことが多い.
このように構成された計測ユニットにおいて,磁性流体磁気コア 1 が均一であれば,感知エレメントA 11-a と感知エレメントB 11-b とが発生する励磁磁束は,対象である.ちなみに,磁性流体は実用的には均一であり上記のような条件付けは省くことが多い.
従って,図5の磁束の大きさは,
Φe-a-i =Φe-b-i ,
Φe-a-o =Φe-b-o ,
Φe-leak-a = Φe-leak-b ,
となる.そして,感知エレメントA 11-a と感知エレメントB 11-b との励磁磁束は反対向きであるために,合成すると全て 0 になる.従って検出コイル 3 には起電力が一切発生せず,感知エレメントが一つであるときの課題であった漏れ励磁磁束 Φe-leak により生じる励磁周波数 fe の信号は, 漏れ励磁磁束 Φe-leak の大きさにかかわりなく,計測ユニットからは全く出力されない.
次に,被計測磁束 Φx があるときに計測ユニットに検出機能があるのか検証する.感知エレメントが単体であるときにはすでに説明したとおりである.その説明で用いた図4は,図5においては感知エレメントA 11-a である.そこで,感知エレメントB 11-b も図4と同じ動作をすることが判れば良い.
計測ユニット(図5)の感知エレメントA 11-a と感知エレメントB 11-b では,励磁磁束の向きが反対であるが,励磁磁束すなわち励磁磁界 He は正弦波交流であるため「向きが反対」とは極性を反転したということである.極性を反転した正弦波の波形は,位相を180度ずらした場合と同じである.この状況を感知エレメントB 11-b だけで考えると,観測の「時刻」が励磁周期の180度分だけずれたということであり,前記図7で説明した感知エレメントの特性に,観測の時刻の因子は無関係である.つまり,感知エレメントB 11-b を単独に捉えて考えれば,感知エレメントA 11-a と全く同じで,B-H comp. は中央で盛り上がった特性になる.さらに図8で,励磁磁界 He と,検出コイル 3 に起電力を起こす磁束である合成磁束 Φc との関係を見ると,励磁磁界 He の極性を反転しても合成磁束 Φc の極性は反転しない.
このように,二つの感知エレメントを反対方向に励磁しても,被計測磁束 Φx がある場合に検出コイルに誘起する起電力は同位相であり,双方の検出コイルを起電力が加算されるように接続すると,大きさが2倍の検出信号を得ることができる.一方で漏れ励磁磁束 Φe-leak に起因する不要な信号は検出されない.従って微弱な信号も検出し易くなり,ダイナミックレンジも広くなる.
さらに,被計測磁束 Φx の向きを検出可能かという課題もある.これは電流センサの場合においては電流の向きの検出が可能かという問題である.これを理解するために,ここまでの複雑な理論的解釈を必要とせず容易に理解する考え方がある.
被計測磁束 Φx が反対向きということは,図5において被計測磁束 Φx が右側から入るということであるが,この状態は被計測磁束Φx を動かさず左側に置いたままで,計測ユニットを左右反転させても同じことである.計測ユニットを反転させると検出コイル 3 に接続されている二本の引出し線 8 は捩れて,元の状態に対して接続を反対にしたのと同じことになる.接続を反対にすれば検出電圧 Vde の極性が反対になるのは当然である.つまり被計測磁束 Φx (被計測磁界 Hx )の方向や,被計測電流 Ix の向きも検出できる.なお,被計測磁束 Φx が反対向きの場合の特性を図8で現せば, B-H comp. の特性は上下反転して,中央が垂れ下がった状態になる.そうすると, Φc は極性が反転する.以上が磁気ブリッジ方式の原理を本発明に採用した成果である.
ところで計測ユニットの検出コイルは,図9のように別々に製造して直列接続することなく,図10のように連続したコイルにしても良い.図9か図10かのどちらを選ぶかは,最終製品の仕様によって決めることができる.例えば図1のように真っ直ぐな磁界センサであれば図10が良いかもしれない.一方,図13のように磁路が曲がっている場合には図9が良いかもしれない.ちなみに,図13のように感知エレメントを等間隔で一周並べる場合には,感知エレメントの数を偶数にして,隣接する感知エレメントの励磁方向がどの場所でも反対向きになるようにする.そうすることによって,任意の感知エレメントに対して隣接するどちらの感知エレメントとでも計測ユニットが成立して,高性能が実現できる.
このように連続して配置した励磁コイルで,隣接する励磁コイルが反対向きの励磁になるように接続する方法の二例を図11と図12に示す.図11の例はコイルの巻方向が全てZ巻で,このZ巻の励磁コイルを 2a と表記した.図12の例はコイルの巻方向が一つおきに反対になっていて,符号 2b はS巻である.図11の例は全て同じコイルで良いため,製造時の管理は楽であるが,接続線 7 が複雑になる.一方図12の例は製造時の管理は面倒であるが,接続線 7 が単純になり,完成する製品としてはこちらの方が良い.この二つの例以外に励磁コイルを全てS巻にすることもできる.その場合の接続は図11と同じである.なお,図10,図11,図12以外の図では接続線 7 と引出し線 8 を省略している.
以上説明したとおり,本発明は磁気コアに磁性流体を用いることによって,実用的範囲において,いかなる強力な磁界に曝されても全く着磁されることなく,よって磁気ヒステリシスによるオフセットが絶対に生じない磁界センサと電流センサを提供することができた.さらに,トロイダル巻きに起因する性能のばらつきや,製造費用が高くつくという問題点も解決した.
本発明の効果の一つ目は, 直流領域も計測する従来の磁界センサや電流センサでは,磁気コアの磁気ヒステリシス,あるいは磁気検知素子のヒステリシスによって,保管状況や使用状況により,特定の値に定まることのないオフセットが生じ且つ変動して計測の信頼性を欠いていた.本発明ではヒステリシスを生じる要因が一切ないために,オフセットが生じず,計測値の信頼性を向上する効果がある.
例えば,オフセットが生じる従来の電流センサを電気自動車の蓄電池の充放電管理に使用する場合には,充放電状況を別のセンサ等で感知してコンピュータのプログラムによってオフセットを補正し,真値を推測している(特許文献3,特許文献4,特許文献5).しかし,本発明を使用すれば,前記のような補正が不要で,推測ではなく実測することができる.これにより信頼性の向上と装置の開発費用や製品の製造費用を下げる効果がある.
もう一つの例として,太陽光発電や車両用急速充電器など,直流大電流回路における漏電検出がある.通常は地面に漏電して電源に帰還する電流を抵抗器に流して,発生した電圧を計測する方法が採用されている.しかしこの方法では,対象機器が接近して多数設置された場合には,地面が検出回路の一部になって電気回路的には共用することになるために,相互干渉が起こり誤動作する可能性がある.特に検出しない誤動作の場合には危険である.このような問題を回避するには非接触検出が好ましい,そこで近年は,交流回路でよく使われている所謂 ZCT の原理の直流漏電検出用電流センサが市販されている.しかしこれに使用されている電流センサは,様々な対策が講じられてはいるものの,本質はヒステリシスによるオフセットがあるもので,被計測電流の開閉などで漏電がなくても生じる不平衡な大電流が,上記の対策範囲を超えた場合には着磁が起こるため信頼に欠ける.本発明の場合は貫通している電線の発熱でセンサが焼損する様な異常事態が起こらない限り,どのような大電流に曝されても着磁することはなく,確実な漏電検出ができる効果がある.
本発明の二つ目の効果は,環状の電流センサや湾曲した磁界センサなどの製造におけるコイルの巻回を容易にすることである.
特に環状の電流センサの場合には,磁気検出素子を使う場合であっても性能を上げる目的で磁気平衡式にするため,負帰還電流を流すコイルをトロイダル巻きにしなければならない.またフラックスゲート方式の場合でも検出コイルや負帰還コイルをトロイダル巻きにしなければならない.
よく知られているように,トロイダル巻きの作業は複雑で,環状の電流センサの導体を通す貫通孔が小さいセンサに巻くことや,巻数を増やしたり,整然と巻くこと,が極めて困難である.特に大電流用では課題が顕著になる.勿論センサを設計するときには巻けるように設計するが,そのためにセンサの性能が低下することもある.それでも巻回作業の費用は高くなる.また設計にも製造の制約がかかる.
本発明は,完成品ではトロイダル巻きの機能を有するコイルになるが,製造時にはソレノイド巻きでよくて,上記のトロイダル巻き製造の短所が全く無いという効果がある.
図1は二重ソレノイド磁性流体磁界センサであって,磁性流体容器 4 の一部と,検出コイル 3 の一部をそれぞれ取り除いて内部構造がわかるようにした説明のための斜視図である.(実施例1) 図2は励磁コイル 2 と検出コイル 3 とで構成された感知エレメント 11 の 説明のための斜視図である. 図3は感知エレメント 11 をコイルの軸に沿う面で切断した,感知エレメントの基本動作を説明するための断面図である. 図4は感知エレメント 11 をコイルの軸に沿う面で切断した,感知エレメントにおける漏れ励磁磁束 Φe-leak の影響を説明するための断面図である. 図5は計測ユニット 12 をコイルの軸に沿う面で切断した,計測ユニットの動作原理を説明するための断面図である. 図6は感知エレメントに関わる磁性流体磁気コアの各部の基本的な B-H 特性を示した,被計測磁束(磁界)が無い場合の特性の模式図である. 図7は感知エレメントに関わる磁性流体磁気コアの各部の基本的な B-H 特性を示した,被計測磁束(磁界)が有る場合の特性の模式図である. 図8は図7の合成 B-H 特性 B-H comp. を抜き出して,励磁磁界によって感知エレメント内に生じる合成磁束 Φc を説明するための模式図である. 図9は図5に示した計測ユニットの説明のための外観斜視図である. 図10は図9に示した計測ユニットの検出コイルを連続的に巻いた拡張形態であって,検出コイルの一部を取り除いた外観斜視図である. 図11は巻線方向が全てZ巻きの同じ向きの励磁コイルを用いて,隣接する励磁コイルの磁束が反対向きになるようにする接続の例の説明図である. 図12は巻線方向が反対向きの励磁コイルを用いて隣接する励磁コイルの磁束が反対向きになるようにする接続の例の説明図である. 図13は二重ソレノイド磁性流体電流センサの磁性流体容器 4 を一部を取り除き内部構造がわかるようにした説明のための斜視図である.(実施例2) 図14は本発明をクランプ型電流センサにした一例で,磁性流体容器 4 を一部を取り除き内部構造がわかるようにした斜視図である. 図15は図14のクランプ型の電流センサで導体 6 をクランプして電流を計測する状態の例で,磁性流体容器 4 の一部を取り除き内部構造がわかるようにした斜視図である. 図16は励磁コイル 2 を検出コイル 3 の中心からずらし,励磁コイル 2 外面を検出コイル 3 内面に接触させて,相互を固定できるようにした感知エレメントの斜視図である. 図17は励磁コイルを三角形にして,その頂点を円形の検出コイル 3 の内面に接触させて,相互を固定できるようにした感知エレメントの斜視図である. 図18は励磁コイル 2 も検出コイル 3 も正方形にして,励磁コイル 2 を検出コイル3に対して45度傾け,励磁コイル 2 の四つの頂点を検出コイル 3 の内面に接触させて,相互に固定できるようにした感知エレメントの斜視図である. 図19は図18の感知エレメントを用いて環状の電流センサにした場合で,磁性流体容器 4 の一部を取り除いた斜視図である. 図20は本発明の二重ソレノイド磁性流体磁界センサおよび二重ソレノイド磁性流体電流センサを駆動する電子回路ブロック図の一例である. 図21は実施例2のヒステリシス特性を確認した実験結果である. 図22は実施例2の出力電圧 Vout 対 被計測電流 Ix のグラフである. 図23は実施例2の計測誤差と,ホール素子を用いた代表的な電流センサの計測誤差とを比較したグラフである.
本発明を動作原理に沿って単純な形で実施して,これを駆動する電子回路は一般的によく使われている公知の技術のみで構成した.
下記の実施例1(二重ソレノイド磁性流体磁界センサ)でも,実施例2(二重ソレノイド磁性流体電流センサ)でも,これらを駆動する電子回路は同じものでよく,図20に示すブロック図に従って製作した.電子回路は公知の技術であるのでここには示さないが,センサの接続について一つの留意点を次に述べる.
本実施例では,磁気平衡式を実現するために負帰還電流を流す必要がある.負帰還電流は被計測磁界 Hx を打ち消す方向に流す.従って検出コイルと同じ位置に同じ様にコイルを巻く必要がある.しかし,負帰還専用のコイルを新たに巻くことはせずに,検出コイルを兼用する方法を選択した.
具体的には,計測する周波数帯を 0Hz から100 Hz として,励磁周波数 fe はその100倍の 10kHz にした.従って検出コイルから出力される検出電圧 Vde の周波数は 20kHz である.この条件の場合,負帰還電流 If の最高周波数は 1kHz 程度で良い.そこで,検出電圧 Vde はカップリングコンデンサ Cc を通して図20の前置増幅器に入力する.一方負帰還電流 If は負帰還用増幅器を電流出力型にしてセンサの検出コイルに直接接続する.
この様にすると,負帰還電流の周波数は検出電圧 Vde の周波数よりも十分に低いためカップリングコンデンサ Cc で減衰して前置増幅器にはあまり影響しない.一方,負帰還用増幅器は電流出力であるために出力インピーダンスが非常に高く,直接に接続しても検出電圧 Vde を吸収して減衰させる様なことはない.この様にして,検出コイルと負帰還用コイルを兼用することができる.なお,この技術は新規性のあるものではなく,一般的に使用されている方法である.
本実施例は本発明の二重ソレノイド磁性流体磁界センサであって,磁性流体容器 4 の一部と検出コイル 3 の一部をそれぞれ取り除いた説明のための斜視図を図1に示す.本実施例では図10に示した計測ユニット 12 が三つ入っている.内部の励磁コイルは,検出コイルの長さに切断したプラスチックの丸棒を,励磁コイルと検出コイルの隙間に3本挿入して接着することによって検出コイル 3 に固定した.また,磁性流体容器 4 は片方を密閉したプラスチック製パイプで,その内径を検出コイル 3 の外径よりもわずかに大きくして,計測ユニット 12 を挿入して両者の隙間ができない様に接着した.さらに上記プラスチック製パイプの解放部に蓋をした.なお,この蓋には直径 1.5 mm 程度の穴を開けておき,この穴から磁性流体を注入した.注入方法は,上記の穴に上戸を取り付け,上戸が上になるように立てて,これを小型の真空チャンバーに入れ,さらに上戸に磁性流体を溜めて,真空引きした.真空引きで磁性流体容器内の空気が上戸の底から磁性流体を通って排気される.十分に排気した後チャンバーを大気圧に戻す.この時に磁性流体が大気圧で磁性流体容器に押し込まれる.磁性流体が十分に入ってない場合は,この操作は何度でも繰り返すことができる.最後に上戸を外してその穴に非磁性体のビスをねじ込んで封止し密閉した.なお,二重ソレノイド磁性流体磁界センサを立てて使い,倒す危険性がないような使い方の場合には,封止や密閉の必要はなく,解放したままで使っても良い.この際は真空チャンバーなど使わなくて,磁性流体を流し込むだけで良い.
この実施例1を三重の磁気シールドケースに入れて実験した結果,地磁気の1万分の1程度(5 nT )の磁界を検出できることが確認できた.
次の実施例は,本発明の二重ソレノイド磁性流体電流センサである.この電流センサは図13に示す形態である.この実施例では感知エレメントを12個用いて,隣接する感知エレメントの励磁方向が反対向きになるように等間隔で配置した.これを計測ユニットとして捉える場合は任意の感知エレメントに対して,隣接するどちらの感知エレメントであってもどちらかを一方を 対 として捉えて良い.製造方法は,基本的には前記磁界センサの場合と同じである.
本実施例を用いてヒステリシスの有無と入出力特性を確認した.その実測値を図21に示す.この試験では被計測電流 Ix を 0 A から 100 A まで 10 A ステップで増やし,さらに, 100 A から 10 A ステップで 0 A まで減らした.そしてそれぞれの時の駆動回路の出力電圧 Vout を記録した.
この実測値をグラフにしたのが図22である.このグラフは被計測電流 Ix の増加と減少の二つのグラフが重なっている.このグラフからは概ね直線であるという程度の判断しかできないが,直線性の改善は負帰還のゲインを上げることで改善できるためこの試験では重視していない.しかし,オフセットは負帰還(磁気平衡式)では全く改善できないため,それが改善できているかどうかということは本発明の最も重要な点でありこの試験でも重視した.
図21に示した実測値でゼロ点のずれを確認すると,計測番号(Measurement order)1のIx = 0 の時の Vout と,計測番号22のIx = 0 の時の Vout との差は 0.000345 V である.このセンサの100 A の時の出力を,計測番号11と計測番号12の平均値だとすると,それは約 4.224 V である.この 4.224 V に対する 0.000345 V の比率は,約 0.000082 である.つまり, 約 82 ppm (0.0082 %)である.
この実測値を,市販されている比較的高性能なホールセンサ方式の電流センサと比較したグラフを図23に示す.同図の上段のグラフが本実施例(Embodiment 2)で,下段が比較したセンサ(Comparison product)のグラフである.従来のセンサではオフセットがあるために被計測電流 Ix が小さくなるほど誤差は大きくなるが,本実施例ではそのような特性になっていない.また計測の始めと終わりの開きが全く異なり,本実施例では十分に小さい.なお,被計測電流 Ix が 0A の時は, 0 で除算することになるので誤差(比率)は計算できない.
このように,本発明は目的とした課題解決をしていることが論理的にも実測値でも確認できた.前記でも述べていており繰り返しになるが,直線性や温度特性は磁気平衡式の性能を向上させれば改善できるが,ヒステリシスやオフセットはセンサ自体の性能で改善しない限り,磁気平衡式などの回路方式では改善できない.その点で,本発明は画期的提案である.
本発明は直流電力利用において,安全性や効率向上などの障害になっている直流電流計測の信頼性を飛躍的に向上させ,蓄電池の充電量をより確実に管理できて,蓄電池の安全な利用効率を向上させることができることから,電気自動車の走行距離を伸ばすことや,太陽光発電の平準化に使用される大容量蓄電施設の電池の数を削減できることによる施設のコストダウンや安全性向上に寄与する.さらに「不確かさ」をもう少し下げて 50 ppm 以下にできる可能性もあり,そうすれば直流大電流の「特定副標準器」として使用することも可能になる.そうすると直流大電流計測トレーサビリティー確立の課題を解決できるセンサにもなりうる.
1 磁性流体磁気コア
2 励磁コイル
2a Z巻の励磁コイル
2b S巻の励磁コイル
3 検出コイル
4 磁性流体容器
5 磁気ギャップ
6 導体
7 接続線
8 引出し線
11 感知エレメント
11_a 感知エレメントA
11_b 感知エレメントB
12 計測ユニット
B 磁束密度
B-H in 励磁コイルの内側にある磁性流体のB-H 特性グラフ
B-H out 励磁コイルの外側にある磁性流体のB-H 特性グラフ
B-H comp. B-H in と B-H out を合成した磁性流体のB-H 特性グラフ
Cc センサ駆動回路入力のカップリングコンデンサー
fe 励磁周波数
2fe 励磁周波数の2倍の周波数
H 磁界
He 励磁磁界
Hx 被計測磁界
Hc 合成磁界
Ie 励磁電流
If 負帰還電流
Ix 被計測電流
Vde 検出コイルから出力される検出電圧
Vout センサ駆動回路の計測値出力端子から出力される出力電圧
Φ 磁束
Φc 合成磁束
Φx 被計測磁束
Φe-leak 漏れ励磁磁束
Φe-leak-a 感知エレメントAの漏れ励磁磁束
Φe-leak-b 感知エレメントBの漏れ励磁磁束
Φe 励磁磁束
Φe-i 内側の励磁磁束
Φe-o 外側の励磁磁束
Φe-a-i 感知エレメントAの内側の励磁磁束
Φe-a-o 感知エレメントAの外側の励磁磁束
Φe-b-i 感知エレメントBの内側の励磁磁束
Φe-b-o 感知エレメントBの外側の励磁磁束

Claims (8)

  1. 非磁性材から成る真っ直ぐあるいは湾曲した棒状中空の容器を有し,該容器内に二重ソレノイドコイルを該容器の軸方向と揃えて配置し,該容器の内面と該二重ソレノイドコイルの外周面とを隙間が無いように密着固定させ,該二重ソレノイドコイルの外側のコイルの内面と内側のコイルの外面との間には隙間を有し,該二重ソレノイドコイルの引出し線を該容器の外側に引出し,該容器内に配置した二重ソレノイドコイルが完全に浸るように該容器に磁性流体を満たし,該二重ソレノイドコイルの内側のコイルに交流成分を含む電流を流して励磁磁束を発生させ,該二重ソレノイドコイルの外側のコイルに生じる起電力を検出信号とすることを特徴とする,二重ソレノイド磁性流体磁界センサ.
  2. 二重ソレノイドコイルを複数有したことを特徴とする,請求項1に記載の,二重ソレノイド磁性流体磁界センサ.
  3. 棒状中空の容器の軸方向に配列した二つの二重ソレノイドコイルを一対として有し,該一対の二重ソレノイドコイルの内側のコイルが発生する励磁磁束を互いに対向するように発生させ,該一対の二重ソレノイドコイルの外側のコイルを直列または並列に接続してその起電力を検出信号とすることを特徴とする,請求項1に記載の二重ソレノイド磁性流体磁界センサ.
  4. 上記一対の二重ソレノイドコイルを容器の軸方向に複数対配列したことを特徴とする,請求項3に記載の二重ソレノイド磁性流体磁界センサ
  5. 非磁性材から成る環状中空の容器有し,該容器内に二重ソレノイドコイルを該容器の環状の軸方向と揃えて配置し,該容器の内面と該二重ソレノイドコイルの外周面とを隙間が無いように密着固定させ,該二重ソレノイドコイルの外側のコイルの内面と内側のコイルの外面との間には隙間を有し,該二重ソレノイドコイルの引出し線を該容器の外側に引出し,該容器内に配置した二重ソレノイドコイルが完全に浸るように該容器に磁性流体を満たし,該二重ソレノイドコイルの内側のコイルに交流成分を含む電流を流して励磁磁束を発生させ,該二重ソレノイドコイルの外側のコイルに生じる起電力を検出信号とすることを特徴とする,二重ソレノイド磁性流体電流センサ.
  6. 二重ソレノイドコイルを複数有したことを特徴とする,請求項5に記載の二重ソレノイド磁性流体電流センサ.
  7. 環状中空の容器の環状の軸方向に配列した二つの二重ソレノイドコイルを一対として有し,該一対の二重ソレノイドコイルの内側のコイルが発生する励磁磁束を互いに対向するように発生させ,該一対の二重ソレノイドコイルの外側のコイルを直列または並列に接続してその起電力を検出信号とすることを特徴とする,請求項5に記載の二重ソレノイド磁性流体電流センサ.
  8. 上記一対の二重ソレノイドコイルを容器の環状の軸方向に複数対配列したことを特徴とする,請求項7に記載の二重ソレノイド磁性流体電流センサ.
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