JP2021036810A - 組換え牛白血病ウイルス及びその利用 - Google Patents

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Abstract

【課題】外来遺伝子が挿入された組換え牛白血病ウイルス及びその利用を提供する。【解決手段】牛白血病ウイルスの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域に、外来遺伝子が発現可能に組み込まれた、組換え牛白血病ウイルス。【選択図】図1

Description

本発明は、組換え牛白血病ウイルス及びその利用に関する。
牛白血病ウイルス(BLV)は、感染した牛に地方病性牛白血病(EBL)と呼ばれる腫瘍性疾患を引き起こす病原体である。一度BLVに感染した個体は生涯にわたりウイルスを保有する。また、現時点において、EBLには有効な治療法が存在しない。そのため、BLVの感染予防法の開発、EBLの発症メカニズムの解明、BLV感染牛の摘発淘汰基準を設定するための診断法の開発等、BLVに関連する研究が盛んに行なわれている。これらの研究には、非特許文献1に示されるようなBLVの感染性クローンを作出する技術が活用されている。
ウイルス学分野、特にヒト医学の医薬品研究分野においては、抗ウイルス薬を用いたウイルス病の治療・予防技術が注目されている。そして、抗ウイルス薬の開発時のスクリーニングを効率的に行なうために用いられる、レポーター遺伝子を搭載した遺伝子組換えウイルスを開発する研究も、多くのウイルス種で盛んに行なわれている(非特許文献2)。
Inabe et al. 1998, Virology, Vol.245, 53-64 Tamura et. al. 2018,Journal of Virology, Vol.92, No.2, e01582-17
抗ウイルス薬の開発に用いられる遺伝子組換えウイルスには、野生型ウイルスと同様の構造を有しており、かつ、同様の挙動及び機能を示すことが求められる。しかしながら、ウイルスのゲノムサイズや必須遺伝子等の制限から、外来遺伝子の挿入が難しいウイルス種も存在する。また、ウイルスによっては、外来遺伝子の挿入のためにウイルス遺伝子の一部を欠損させる必要がある。したがって、野生型ウイルス本来の構造、挙動及び機能を保持したまま外来遺伝子を挿入することが困難な場合も多い。
BLVは、ゲノムサイズが8600bp程度で比較的小さいうえに、そのゲノム内にgag−pro−pol、env、tax、rex、R3、G4、ロングターミナルリピート(LTR)等の各遺伝子が座上している。したがって、BLVの野生型ウイルス本来の構造、挙動及び機能を損なうことなく、レポーター遺伝子等の外来遺伝子を導入し、発現させることは困難であった。そのため、レポーター遺伝子が挿入されたBLV遺伝子組換体に関しては、これまで報告されていない。
このような理由から、BLVに対する抗ウイルス薬の研究はほとんど行われていないのが現状である。しかしながら、現在、日本国内の30〜40%の牛がすでにBLVに感染している状況を考慮すると、BLVに対する抗ウイルス薬の開発は急務である。そのため、BLVに対する抗ウイルス薬の開発に不可欠な、レポーター遺伝子が挿入されたBLV遺伝子組換え体の作製が求められている。
すなわち、本発明の一態様は、外来遺伝子が挿入された組換え牛白血病ウイルス(組換えBLV)、およびその利用を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の一態様を含む。
1) 牛白血病ウイルスの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域に、外来遺伝子が発現可能に組み込まれた、組換え牛白血病ウイルス。
2) 牛白血病ウイルスの前記遺伝子配列は、(a)配列番号1に示す塩基配列;(b)配列番号1に示す塩基配列における、少なくとも1つの塩基が置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列;及び(c)配列番号1に示す塩基配列との同一性が90%以上の塩基配列;からなる群より選択されるいずれかの塩基配列で示される、1)に記載の組換え牛白血病ウイルス。
3) 前記外来遺伝子挿入領域は、配列番号1に示す塩基配列の第8178番目から第8189番目の塩基又は当該塩基に対応する塩基の領域である、1)又は2)に記載の組換え牛白血病ウイルス。
4) 前記tax遺伝子配列と前記外来遺伝子との間に、IRES配列が組み込まれた、1)から3)のいずれかに記載の組換え牛白血病ウイルス。
5) 前記外来遺伝子と前記3’末端側のLTR配列との間に、ポリA配列に相補的な配列又はポリA付加シグナル配列が組み込まれた、1)から4)のいずれかに記載の組換え牛白血病ウイルス。
6) 前記外来遺伝子は、レポーター遺伝子である、4)又は5)に記載の組換え牛白血病ウイルス。
7) 前記レポーター遺伝子は、蛍光タンパク質又は発光タンパク質をコードする遺伝子である、6)に記載の組換え牛白血病ウイルス。
8) 前記外来遺伝子挿入領域は、配列番号1に示す塩基配列の第8184番目から第8185番目の塩基又は当該塩基に対応する塩基の領域である、1)から7)のいずれかに記載の組換え牛白血病ウイルス。
9) 1)から8)のいずれかに記載の組換え牛白血病ウイルスが発現可能に導入されている、細胞。
10) 牛白血病ウイルスの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域に、外来遺伝子を発現可能に組み込む工程を含む、組換え牛白血病ウイルスの製造方法。
11) 1)牛白血病ウイルスを含む環状の核酸構築物と、当該牛白血病ウイルスの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域において線状化するための試薬との組合せ、又は、2)牛白血病ウイルスを含む環状の核酸構築物において、当該牛白血病ウイルスの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域において線状化された核酸構築物、を含む、組換え牛白血病ウイルス製造キット。
12) 1)〜8)の何れか一項に記載の組換え牛白血病ウイルス、又は、9)に記載の細胞を使用する方法であって、外来遺伝子の発現を検出する工程を含む、方法。
13) 前記外来遺伝子は、牛白血病ウイルス以外のウイルス由来の遺伝子である、12)に記載の方法。
本発明の一態様によれば、外来遺伝子が挿入された組換えBLV、及びその利用を提供することができる。
本発明のBLVゲノムの概略を示す模式図である。 本発明の実施例の結果を示す図である。 本発明の他の実施例の結果を示す図である。 本発明のさらに他の実施例の結果を示す図である。
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」又は「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。ここで、遺伝子は、DNAの形態(例えば、cDNA若しくはゲノムDNA)、又は、RNA(例えば、mRNA)の形態にて存在し得る。DNA又はRNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNA又はRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。また、遺伝子は化学的に合成してもよく、コードするタンパク質の発現が向上するように、コドンユーセージ(Codon usage)を変更してもよい。同じアミノ酸をコードするコドン同士であれば置換することも可能である。また、用語「ポリペプチド」は、「タンパク質」と交換可能に使用される。本明細書において使用される場合、塩基の表記は、適宜IUPAC及びIUBの定める1文字表記を使用する。
本明細書中において、「発現」は、遺伝子の転写、及び、転写されたRNAのポリペプチドへの翻訳の両方又は一方を指すものとする。また、本明細書において、「3’末端」とは、遺伝子配列の下流における端部領域又は位置を意味し、「5’末端」とは、遺伝子配列の上流における端部領域又は位置を意味している。
〔組換え牛白血病ウイルス〕
本発明の一実施形態に係る組換え牛白血病ウイルス(以下、組換えBLVとも言う)は、BLVの遺伝子配列における、tax遺伝子と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域に、外来遺伝子が発現可能に組み込まれた遺伝子構築物である。組換えBLVは、宿主細胞内又は無細胞タンパク質合成系内において発現させた場合に、BLVの遺伝子配列がコードするタンパク質と、外来遺伝子がコードするタンパク質とを発現する。
BLVの遺伝子配列は、図1に示すBLVゲノムの全領域が実質的に含まれている遺伝子を意味する。図1は、本発明のBLVゲノムの概略を示す模式図である。図1に示すように、BLVゲノムは、両末端のLTR配列間に、gag−pro−pol遺伝子配列、env遺伝子配列、rex遺伝子配列、及びtax遺伝子配列を、5’末端側からこの順で有している。
BLVの遺伝子配列は、公知のBLVゲノムの塩基配列と同一であることは要さず、BLVの感染性ウイルス粒子を構成可能なものである限り、公知のBLVゲノムの塩基配列において、一部の塩基が置換、欠失または付加されたものであってもよい。BLVの遺伝子配列は、宿主細胞内又は無細胞タンパク質合成系内において発現させることで、野生型のBLVが本来備えている構成、挙動及び機能を保持したBLVのウイルス粒子を製造することができることがより好ましい。野生型のBLVが本来備えている構成、挙動及び機能には、ウイルスの粒子構造、宿主細胞に対する感染能力、宿主細胞内における感染メカニズム等が含まれ得る。
ここで、「BLVの感染性ウイルス粒子」は、野生型のBLVが備える宿主細胞に対する感染能力を備え、粒子構造をとるBLVタンパク質であることが意図される。BLVの感染性ウイルス粒子は、牛白血病を引き起こす病原性が低下した弱毒株又は病原性が欠失した無毒株であってもよい。BLVの感染性ウイルス粒子を製造するために、BLVの遺伝子配列は、BLVの機能配列を全て含んでいることが好ましい。
BLVの遺伝子配列の好ましい一例は、
(a)配列番号1に示す塩基配列;
(b)配列番号1に示す塩基配列における、少なくとも1つの塩基が置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列;及び
(c)配列番号1に示す塩基配列との同一性が90%以上の塩基配列;
からなる群より選択されるいずれかの塩基配列からなる。
前記(a)の塩基配列に関して、配列番号1は、GenBank Accession No.LC164083に登録されているBLV全長塩基配列を示しており、この塩基配列からなる。
前記(b)の塩基配列に関して、配列番号1に示す塩基配列で示される遺伝子の、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント部分ヌクレオチド、他のヌクレオチドとの融合遺伝子等の塩基配列を意図しており、BLVの感染性ウイルス粒子を構成可能である限り、その塩基配列については限定されない。
ここで、欠失、置換又は付加されてもよい塩基の数は、上記機能を失わせない限り、限定されていないが、部位特異的突然変異誘発法等の公知の導入法によって、欠失、置換、又は付加できる程度の数をいい、100〜800塩基であってもよく、通常は50塩基以内であるが、好ましくは30塩基以内であり、より好ましくは20塩基以内であり、さらに好ましくは10塩基以内であり、最も好ましくは5塩基以内(例えば、5、4、3、2又は1塩基)である。前記(b)の塩基配列に関して、配列番号1において欠失、置換又は付加される塩基は、Open Reading Frame(ORF)外の塩基、又は、後述する外来遺伝子挿入領域外の塩基であることが好ましい。
本明細書中において「変異体」とは、部位特異的突然変異誘発法等によって人為的に導入された変異体を主に意味するが、天然に存在する同様の変異体(バリアント)であってもよい。本明細書において「機能的に同等」とは、対象となる塩基配列で示される遺伝子が、目的とする塩基配列で示される遺伝子と同等(同一および/または類似)の生物学的機能や生化学的機能を有することを意図する。生物学的な性質には当該遺伝子が発現する部位の特異性や、発現量等も含まれ得る。変異を導入した遺伝子が所望の機能を有するかどうかは、その変異した遺伝子がBLVの感染性ウイルス粒子を構成するタンパク質を発現させるかどうかを調べることにより判断できる。
前記(c)の塩基配列に関して、配列番号1に示す塩基配列で示される遺伝子の、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ヌクレオチド、他のヌクレオチドとの融合遺伝子等の塩基配列を意図しており、BLVの感染性ウイルス粒子を構成可能である限り、その塩基配列については限定されない。前記(c)の塩基配列に関して、配列番号1において変異する塩基は、ORF外の塩基、又は、後述する外来遺伝子挿入領域外の塩基であることが好ましい。
塩基配列の同一性とは、塩基配列全体(または機能発現に必要な領域)で、少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有することを意味する。配列番号1に示す塩基配列と91%程度の同一性を有する配列が、GenBankにBLVとして登録されている。
塩基配列の同一性は、BLASTNのプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993)に基づいている。この解析方法の具体的な手法は公知である。比較対象の塩基配列を最適な状態にアラインメントするために、付加または欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。
上述した配列番号1に示す塩基配列で示される遺伝子の変異体を得る方法としては、通常行われるポリヌクレオチド改変方法を用いてもよい。すなわち、配列番号1に示す塩基配列で示されるポリヌクレオチドの特定の塩基を置換、欠失、挿入および/または付加することで、所望の変異体を作製することができる。ポリヌクレオチドの塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(KOD-Plus Site-Directed Mutagenesis Kit;東洋紡製,Transformer Site-Directed Mutagenesis Kit; Clontech製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit; Stratagene製など)の使用、またはポリメラーゼ連鎖反応法(polymerase chain reaction:PCR)の利用が挙げられる。これらの方法は当業者に公知である。
(tax遺伝子配列)
tax遺伝子配列は、BLVのプロウイルス(DNA)において、env遺伝子配列と3’末端側LTR配列との間に位置しており、例えば、配列番号1に示す塩基配列における第7252番目から第8177番目までの塩基配列が意図される。tax遺伝子は、BLVのようなレトロウイルスにおいて、ウイルス遺伝子の転写を活性化する転写活性化因子である。
(LTR配列)
LTR配列は、BLVゲノムの5’末端側及び3’末端側のそれぞれに位置しており、例えば、配列番号1に示す塩基配列における第1番目から第531番目までの5’末端側塩基配列、及び、配列番号1に示す塩基配列における第8190番目から第8720番目までの3’末端側塩基配列が意図される。LTR配列は、BLVのようなレトロウイルスにおいて、遺伝子の発現に必要なプロモーター、エンハンサー、ポリAシグナル等のエレメントを含む配列である。
(外来遺伝子挿入領域)
組換えBLVにおける外来遺伝子挿入領域は、tax遺伝子配列と3’末端側のLTR配列との間に位置している。外来遺伝子挿入領域は、発現させたい所望のタンパク質をコードする外来遺伝子を挿入するための領域である。外来遺伝子挿入領域は、野生型のBLVが本来備えている構成、挙動及び機能を損なうことなく、BLVのタンパク質と、当該領域に挿入した外来遺伝子がコードするタンパク質とを発現させることが可能な領域である。
従来、BLVゲノムの何れの位置に外来遺伝子を挿入すれば、野生型BLVの本来の構成、挙動及び機能を保持したまま、外来遺伝子がコードするタンパク質とBLVのタンパク質とを発現させることができるのかは知られていなかった。BLVはゲノムサイズが比較的小さい上に、そのゲノム上に多くの機能配列が座上しているので、外来遺伝子の挿入による悪影響を受けやすい。したがって、BLVの野生型ウイルス本来の構成、挙動及び機能を損なうことなく、ウイルスタンパク質及び外来タンパク質を発現させることは容易ではない。
本発明者らは、野生型BLVの本来の構成、挙動及び機能を保持したまま、ウイルスタンパク質及び外来タンパク質を発現させることを目的として鋭意検討を重ねた。その結果、BLVゲノムのtax遺伝子直下に外来遺伝子を挿入することで、BLVのウイルス粒子を構成するタンパク質と共に、外来遺伝子がコードするタンパク質を発現可能な組換えウイルスが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明者らは、まず、図1に示すBLVゲノムにおいて、ORF等の機能配列を含まない領域X及び領域Yを、外来遺伝子挿入領域の候補として見出した。領域Xはenv遺伝子直下であり、領域Yはtax遺伝子直下である。実施例に示すように、本願発明者らが、これらの候補領域に外来遺伝子を組み込んだBLVの感染性クローンを作製し、培養細胞に導入したところ、領域Yに外来遺伝子を挿入した感染性クローンについてのみ、シンシチウムの形成と外来遺伝子の発現とが認められた。すなわち、領域Yであるtax遺伝子直下が有効な外来遺伝子挿入領域であることが、本発明者らによる検討により初めて見出された。
組換えBLVは、BLVゲノムにおけるtax遺伝子直下、すなわち、tax遺伝子配列と3’末端側のLTR配列との間に、外来遺伝子挿入領域を有していることによって、当該外来遺伝子挿入領域に発現可能に組み込まれた外来遺伝子がコードするタンパク質と、BLVを構成するタンパク質との両方を発現することができる。
組換えBLVでは、tax遺伝子直下に外来遺伝子が挿入されていることで、tax遺伝子の制御配列の制御下に、tax遺伝子とその下流の外来遺伝子とが、同一のmRNAとして転写される。野生型のBLVは、感染細胞内において潜伏感染状態になるとtax遺伝子発現が抑制されることが知られている。組換えBLVは、tax遺伝子の制御配列依存的に外来遺伝子を発現させるため、感染細胞内において潜伏感染状態になると、tax遺伝子発現と連動して、外来遺伝子の発現も低下又は消失し得る。したがって、組換えBLVは、BLVの活性化−潜伏化を切り替える分子メカニズムを研究及び評価するためのツールとしても有用である。
外来遺伝子挿入領域は、野生型BLVゲノムにおける当該領域内の塩基を全て含んでいてもよいが、組換えBLVがBLVの感染性ウイルス粒子を構成するタンパク質及び外来遺伝子がコードするタンパク質を発現させることができる限り、当該領域内の塩基の一部又は全部が欠失又は置換されていてもよいし、外来遺伝子の塩基以外の塩基が付加されていてもよい。
外来遺伝子挿入領域は、配列番号1に示す塩基配列の第8178番目から第8189番目の塩基又は当該塩基に対応する塩基の領域であることが好ましい。配列番号1に示す塩基配列の第8178番目から第8189番目の塩基又は当該塩基に対応する塩基の領域は、BLVゲノムにおけるtax遺伝子配列と3’末端側のLTR配列との間であって、Open Reading Frame(ORF)等の機能配列を含まない領域である。
配列番号1に示す塩基配列の第8178番目から第8189番目の塩基の領域は、第8178番目の塩基から第8189番目の塩基までの12塩基からなる領域であってもよいし、組換えBLVがBLVの感染性ウイルス粒子を構成するタンパク質及び外来遺伝子がコードするタンパク質を発現させることができる限り、当該領域内の塩基の一部又は全部が欠失又は置換されていてもよいし、外来遺伝子の塩基以外の塩基が付加されていてもよい。
ここで、「対応する塩基」とは、配列番号1に記載の塩基配列とは異なる塩基配列における当該位置に該当する塩基を意味し、BLVのバリアントなども範疇に包含されることを意味している。より具体的には、例えば、「配列番号Xに記載の塩基配列のY番目の塩基に対応する塩基」とは、ホモロジー解析により、配列番号Xに記載の塩基配列のY番目に相当すると特定される塩基を指す。ホモロジー解析の方法としては、例えば、Needleman-Wunsch法やSmith-Waterman法等のPairwise Sequence Alignmentによる方法や、ClustalW法等のMultiple Sequence Alignmentによる方法が挙げられ、当業者であれば、これら方法に基づき、配列番号Xに記載の塩基配列を基準配列として用いて、解析対象の塩基配列中における「対応する塩基」を理解することができる。解析は、デフォルトの設定で行ってもよく、適宜、必要に応じてパラメーターをデフォルトから変更して行ってもよい。
配列番号1に示す塩基配列の第8178番目から第8189番目の塩基又は当該塩基に対応する塩基の領域に外来遺伝子が発現可能に組み込まれていることで、組換えBLVは、BLVの感染性ウイルス粒子を構成するタンパク質と共に、外来遺伝子がコードするタンパク質を発現することができる。
外来遺伝子挿入領域は、配列番号1に示す塩基配列の第8184番目から第8185番目の塩基又は当該塩基に対応する塩基の領域であることが好ましい。
配列番号1に示す塩基配列の第8184番目から第8185番目の塩基又は当該塩基に対応する塩基の領域に外来遺伝子が発現可能に組み込まれていることで、組換えBLVは、BLVの感染性ウイルス粒子を構成するタンパク質と共に、外来遺伝子がコードするタンパク質を発現することができる。
組換えBLVにおける外来遺伝子挿入領域は、BLVゲノムのクローンを鋳型として、外来遺伝子挿入領域を形成するためのプライマーを用いて、DNAを増幅させることで、形成することができるが、外来遺伝子挿入領域を形成する方法はこれに限定されない。外来遺伝子挿入領域を形成するためのプライマーは、BLVの遺伝子配列において、外来遺伝子挿入領域の両側の数塩基に相補的な配列を付加したプライマーが意図され、例えば、実施例4に記載された、配列番号13及び14に示すプライマーが挙げられる。
また、組換えBLVにおける外来遺伝子挿入領域は、BLVの遺伝子配列を適切な制限酵素により切断することで形成することもできる。
<外来遺伝子>
外来遺伝子挿入領域に発現可能に組み込まれる外来遺伝子は、BLVのウイルスタンパク質と共に発現させるタンパク質をコードする遺伝子であり、BLV由来の遺伝子以外の遺伝子を意図している。外来遺伝子の遺伝子サイズは、600bp以上1200bp以下であることが好ましく、より好ましくは800bp以上1000bp以下である。外来遺伝子の遺伝子サイズが、600bp以上1200bp以下であることによって、BLVのウイルスタンパク質と共に外来遺伝子がコードする外来タンパク質を好適に発現させることができる。
外来遺伝子は、特に限定されないが、レポーター遺伝子であることが好ましい。レポーター遺伝子がコードするタンパク質をBLVのウイルスタンパク質と共に発現させることで、BLVの抗ウイルス薬のスクリーニング等のBLVに関する種々の実験に活用することができる。
外来遺伝子挿入領域に組み込むレポーター遺伝子としては、蛍光タンパク質又は発光タンパク質をコードする遺伝子であることが好ましく、例えば、GFP遺伝子、DsRed遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等の公知のレポーター遺伝子を好適に使用可能である。
外来遺伝子は、抗原ペプチドをコードするBLV以外の遺伝子や、抗原性を有する核酸配列であってもよく、BLV以外のウイルス遺伝子の少なくとも一部であることが好ましい。これにより、組換えBLVを、例えば、BLV及び他のウイルスに対する多価ワクチンの開発に使用することもできる。
<IRES配列>
外来遺伝子は、IRES配列と共に外来遺伝子挿入領域に組み込まれていることが好ましい。すなわち、組換えBLVは、tax遺伝子配列と外来遺伝子との間に、IRES配列が組み込まれていることが好ましい。また、より好ましい一態様では、IRES配列と外来遺伝子とは、同一のRNAとして転写される。
IRES(Internal Ribosome Entry Site)配列は、RNAのCap構造に依存しない翻訳開始を可能とする配列が意図される。tax遺伝子配列と外来遺伝子との間にIRES配列を有することで、IRES配列の下流に位置する外来遺伝子がコードする外来タンパク質が効率よく翻訳される。本明細書において、用語「IRES配列」は、DNAについて用いる場合には、IRES配列に相補的な配列であることを意味している。
IRES配列としては、公知のものを使用することが可能であり、例えば、脳心筋炎ウイルス(ECMV)、ポリオウイルス、口蹄疫ウイルスのようなピコルナウイルス科のウイルス由来のIRES配列、フラビウイルス科のウイルス由来のIRES配列等を好適に使用可能である。IRES配列は、外来遺伝子の直前(5’末端側)に配置させることが好ましい。
組換えBLVは、tax遺伝子の制御配列下にIRES配列と共に外来遺伝子が組み込まれているため、tax遺伝子の制御配列の制御下に、tax遺伝子とその下流の外来遺伝子とが、同一のmRNAとして転写されると共に、外来遺伝子がコードする外来タンパク質がtax遺伝子とは独立して翻訳される。このように、外来遺伝子がIRES配列と共に組み込まれていることによって、組換えBLVは、BLV由来の遺伝子発現に影響を与えることなく、外来遺伝子を発現させることができる。
<ポリA配列>
外来遺伝子は、ポリA配列に相補的な配列又はポリA付加シグナル配列と共に外来遺伝子挿入領域に組み込まれていることが好ましい。すなわち、組換えBLVは、外来遺伝子と3’末端側のLTR配列との間に、ポリA配列に相補的な配列又はポリA付加シグナル配列が組み込まれていることが好ましい。外来遺伝子と3’末端側のLTR配列との間に、ポリA配列に相補的な配列又はポリA付加シグナル配列を有することで、外来遺伝子がコードする外来タンパク質が効率よく翻訳される。
ポリA配列は、外来遺伝子がコードする外来タンパク質の翻訳を促進するとともに、外来遺伝子の安定性に寄与し得るRNA配列が意図される。ポリA配列に相補的な配列は、ポリA配列に転写される配列であり、ポリT配列とも称される。また、ポリA付加シグナル配列は、転写されるRNAの3’末端にポリA配列を付加する配列である。
ポリA配列は、少なくとも2個以上のA(アデニン)が連続する配列であり、連続するAの数は特に限定されないが、好ましくは、3個以上30個以下のAが連続しており、より好ましくは、5個以上25個以下のAが連続しており、さらに好ましくは、10個以上20個以下のAが連続している。また、ポリA配列には、A以外にG、T及びCを1又は数個介在させた状態で備えていてもよい。
外来遺伝子挿入領域には、5’末端側から順に、IRES配列、外来遺伝子、並びに、ポリA配列に相補的な配列又はポリA付加シグナル配列が組み込まれていることがより好ましい。すなわち、組換えBLVは、tax遺伝子直下に、IRES配列、外来遺伝子、並びにポリA配列に相補的な配列又はポリA付加シグナル配列を、5’末端側からこの順に含む遺伝子カセットが組み込まれていることが好ましい。これにより、BLV由来の遺伝子発現に影響を与えることなく、外来遺伝子を好適に発現させることができる。
より好ましい一態様では、外来遺伝子とポリA配列とは、同一のRNAとして転写され、さらに好ましい一態様では、IRES配列、外来遺伝子、及びポリA配列が、同一のRNAとして転写される。また、tax遺伝子配列、IRES配列、外来遺伝子、及びポリA配列がtax遺伝子の制御配列の制御下に、同一のRNAとして転写されることが好ましい。
〔細胞〕
本発明の一実施形態に係る細胞は、上述した組換えBLVが発現可能に導入されている。すなわち、細胞は、組換えBLVを宿主細胞に導入することによって作製された形質転換細胞、並びに、組換えBLVに感染した宿主細胞である。細胞は、作製された形質転換細胞、感染した宿主細胞、又は、これらの培養後代であってもよい。
組換えBLVを導入する宿主細胞としては、組換えBLVを導入して転写及び翻訳が可能な限り特に限定されないが、動物細胞であることが好ましい。動物細胞としては、昆虫細胞、両生類細胞、爬虫類細胞、鳥類細胞、魚類細胞、哺乳動物細胞等が挙げられ、哺乳動物細胞であることが好ましい。哺乳動物細胞として、非特許文献1に例示された細胞を好適に使用可能であり、例えば、HeLa細胞、NIH3T3細胞、FLK細胞、COS−1細胞、23CLN細胞等が挙げられる。
宿主細胞の形質転換方法については、宿主細胞の種類等に応じて適宜選択すればよく、例えば、エレクトロポレーション法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、パーティクルガン法等が挙げられる。また、BLV本来の感染力により、組換えBLVを上述した細胞に感染させて形質導入してもよい。
組換えBLVを導入した形質転換細胞及び組換えBLVに感染した宿主細胞は、組換えBLVの発現可能な条件下で培養することで、BLVのウイルスタンパク質と、外来遺伝子がコードする外来タンパク質とを発現する。組換えBLVに感染した宿主細胞を用いれば、より野生型BLVに近似した環境でタンパク質を発現させることができる。
〔組換え牛白血病ウイルスの製造方法〕
本発明の一実施形態に係る組換えBLVの製造方法は、BLVの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のLTR配列との間の外来遺伝子挿入領域に、外来遺伝子を発現可能に組み込む工程を含んでいる。
組換えBLVの製造方法は、BLVの遺伝子配列におけるtax遺伝子配列と3’末端側のLTR配列との間の外来遺伝子挿入領域に、外来遺伝子を発現可能に組み込むことによって、BLVのウイルスタンパク質と外来遺伝子がコードする外来タンパク質とを発現することが可能な組換えBLVを製造することができる。
組換えBLVの製造方法においては、BLVの遺伝子配列において、tax遺伝子配列と3’末端側のLTR配列との間の外来遺伝子挿入領域が開裂したクローンを作製し、この開裂した部分に外来遺伝子のDNA断片を融合させてもよい。外来遺伝子挿入領域が開裂したBLVのクローンは、例えば、BLVゲノムのクローンを鋳型として、外来遺伝子挿入領域を形成するためのプライマーを用いて、DNAを増幅させることで作製することができるが、この方法に限定されない。外来遺伝子挿入領域を形成するためのプライマーは、例えば、実施例4に記載された、tax遺伝子直下で開裂した感染性クローン全長を増幅するための配列番号13及び14に示すプライマーが挙げられる。
組換えBLVの製造方法においては、IRES配列、レポーター遺伝子等の外来遺伝子、及びポリA配列を5’末端側からこの順で含む遺伝子カセットを、外来遺伝子挿入領域に組み込んでもよい。
〔キット〕
本発明の一実施形態に係る組換えBLV製造キットは、1)BLVを含む環状の核酸構築物と、当該BLVの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域において線状化するための試薬との組合せ、又は、2)BLVを含む環状の核酸構築物において、当該BLVの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域において線状化された核酸構築物、を含んでいる。組換えBLV製造キットを用いることにより、組換えBLVを簡便に製造することができる。
BLVを含む環状の核酸構築物は、環状のプラスミドにBLVの遺伝子配列が組み込まれたものが意図される。BLVの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域において線状化するための試薬は、BLVの遺伝子配列を含むプラスミドにおける外来遺伝子挿入領域を切断する制限酵素や、BLVの遺伝子配列を含むプラスミドを鋳型として外来遺伝子挿入領域を形成するためのプライマーが意図される。また、このようなプライマーとして、BLVの遺伝子配列において、外来遺伝子挿入領域の両側の数塩基に相補的な配列を付加したプライマーが挙げられる。
BLVを含む環状の核酸構築物における外来遺伝子挿入領域において線状化された核酸構築物は、BLVの遺伝子配列が組み込まれた環状のプラスミドに対して、上述した外来遺伝子挿入領域において線状化するための試薬を用いて外来遺伝子挿入領域を形成し、線状化された核酸構築物が意図される。
組換えBLV製造キットは、外来遺伝子挿入領域に組み込む外来遺伝子を含んでいてもよい。組換えBLV製造キットに含まれる外来遺伝子は、IRES配列、レポーター遺伝子等の外来遺伝子、及びポリA配列を5’末端側からこの順で含む遺伝子カセットであってもよい。また、組換えBLV製造キットは、外来遺伝子の外来遺伝子挿入領域への相同組換えを行うための試薬を含んでいてもよい。相同組換えを行うための試薬には、PCRタグが含まれる。
組換えBLV製造キットは、キットに含まれる材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュ等)を備えた包装品が意図される。また、組換えBLV製造キットは、組換えBLVを製造するための説明書を備えていることが好ましい。さらに、組換えBLV製造キットに、組換えBLVを導入する又は感染させる宿主細胞と、当該細胞を培養するための培養容器とを加えた組換えBLV発現キットも、本発明の範疇に含まれる。組換えBLV発現キットを用いれば、組換えBLVを発現させることで、BLVのウイルスタンパク質と外来遺伝子がコードする外来タンパク質を製造することができる。
また、組換えBLV製造キットに含まれる、BLVの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のLTR配列との間の外来遺伝子挿入領域が開裂している組換えBLVに替えて、BLVゲノムのクローンと、これを鋳型として外来遺伝子挿入領域を形成するためのプライマーとを含む組換えBLV製造キットについても、本発明の範疇に含まれる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔組換えBLV又は細胞を使用する方法〕
本発明の一実施形態に係る組換えBLV又は細胞を使用する方法は、上述した本発明の一実施形態に係る組換えBLVの何れか、又は、上述した本発明の一実施形態に係る細胞のいずれかを使用する方法であって、外来遺伝子の発現を検出する工程を含む。また、当該方法において、外来遺伝子は、牛白血病ウイルス以外のウイルス遺伝子の少なくとも一部であってもよい。
組換えBLV又は細胞を使用する方法において、例えば外来遺伝子としてレポーター遺伝子を用いれば、レポーター遺伝子の発現の程度を観察することでウイルスの活動状況を監視することができる。組換えBLVをウシ等の感受性動物に投与することで、レポーター遺伝子の発現を指標として感染生体内でのウイルスの挙動のリアルタイムイメージングを行うこともできる。
また、外来遺伝子の発現を検出する工程を候補物質の存在下で行うことで、例えば、候補物質の非存在下と比較して発現が抑制される場合には、当該候補物質がBLVのウイルスの活動を抑制する物質(治療薬候補等)であると予測することができる。抗原ペプチドをコードするBLV以外の遺伝子や、抗原性を有する核酸配列、BLV以外のウイルス遺伝子の少なくとも一部を外来遺伝子として組み込んだ組換えBLVを用いれば、例えば、BLV及び他のウイルスに対する多価ワクチンの開発に使用することもできる。
本発明の一実施例について以下に説明する。
〔実施例1:BLV感染性クローンの構築〕
培養容器より回収したFLK−BLV細胞をDNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN)で処理し、BLVゲノムを含むtotal DNAを抽出した。抽出したDNAを鋳型として、BLV遺伝子(配列番号1)の断片を配列番号2及び3、並びに、配列番号4及び5に示すプライマーセットを用いて、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ)で増幅した。プラスミドpUC19(タカラバイオ)を、制限酵素BamHIで切断処理し、Alkaline Phosphataseを用いて切断端を脱リン酸化処理した。
上記増幅DNA断片及びプラスミドを、In−Fusion HD Cloning Kit (Clontech)を用いて結合し、大腸菌stbl3(Thermo Fisher Scientific)へ導入して、配列番号1に示すBLVゲノムをクローニングした感染性クローンpUC19/FLK−BLVを得た(配列番号6)。
〔実施例2:BLV由来の機能遺伝子を発現しない領域の探索〕
既知の論文報告等の情報をもとに、配列番号1において、BLV由来の機能遺伝子がコードされていない領域を探索した。その結果、env遺伝子およびtax遺伝子の直下に、機能遺伝子をコードしていない領域が存在することを見出した(図1の領域X及びY)。
ここで、「env遺伝子直下」とは、GenBank Accession No.LC164083に登録されているBLV全長ゲノム配列の第6374番から第6396番の塩基の範囲のいずれかの領域を指す。また、「tax遺伝子直下」とは、GenBank Accession No.LC164083に登録されているBLV全長ゲノム配列の第8178番から第8189番の塩基の範囲のいずれかの領域を指す。
〔実施例3:BLVゲノムのenv遺伝子直下へのGFP遺伝子の挿入〕
実施例1で構築した感染性クローンpUC19/FLK−BLVを鋳型として、実施例2で見出したenv遺伝子直下で開裂した感染性クローンの全長を、配列番号7及び8に示すプライマーセットを用いてKOD FX(TOYOBO)により増幅した。プラスミドpIRES2−AcGFP1(Clontech)を鋳型として、配列番号9及び10に示すプライマーを用いて、IRES配列、GFP遺伝子及びポリA付加シグナル配列を含むDNA断片を増幅した(配列番号11)。
これらの増幅DNA断片を、In−Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いて結合し、大腸菌stbl3(Thermo Fisher Scientific)へ導入して、IRES−GFP−ポリAに相補的な配列をenv遺伝子の直下に挿入した感染性クローンpUC19/FLK−BLV/env−IRES−GFPを得た(配列番号12)。
〔実施例4:BLVゲノムのtax遺伝子直下へのGFP遺伝子の挿入〕
実施例1で構築した感染性クローンpUC19/FLK−BLVを鋳型として、実施例2で見出したtax遺伝子直下で開裂した感染性クローンの全長を、配列番号13及び14に示すプライマーを用いて、KOD FX(TOYOBO)により増幅した。プラスミドpIRES2−AcGFP1(Clontech)を鋳型として、配列番号15及び16に示すプライマーを用いて、IRES配列、GFP遺伝子及びポリAに相補的な配列を含むDNA断片を増幅した(配列番号17)。
これらの増幅DNA断片を、In−Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いて結合し、大腸菌stbl3(Thermo Fisher Scientific)へ導入して、IRES−GFP−ポリAに相補的な配列をtax遺伝子の直下に挿入した感染性クローンpUC19/FLK−BLV/tax−IRES−GFPを得た(配列番号18)。
〔実施例5:培養細胞への感染性クローン導入及びGFP遺伝子組換えBLVの確認〕
培養容器に播種した293T細胞に、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、実施例1、3及び4で得られた感染性クローンを導入した。感染性クローンを導入した293T細胞を数日間培養し、必要に応じて継代を行った。感染性クローンの導入数日後に、実体顕微鏡及び蛍光顕微鏡を用いて多核融合細胞(シンシチウム)の形成と蛍光タンパク質(GFP)の発現とを観察した。
結果を図2及び3に示す。図2において、画像1010は、pUC19/FLK−BLVを導入した293T細胞の実体顕微鏡画像であり、画像1020は、pUC19/FLK−BLVを導入した293T細胞の蛍光顕微鏡画像である。図3において、画像1030は、pUC19/FLK−BLV/tax−IRES−GFPを導入した293T細胞の実体顕微鏡画像であり、画像1040は、pUC19/FLK−BLV/tax−IRES−GFPを導入した293T細胞の蛍光顕微鏡画像である。
pUC19/FLK−BLVを導入した293T細胞は、画像1010に示すようにシンシチウムを形成したが(矢印箇所)、画像1020に示すようにGFPによる緑色蛍光は認められなかった。一方、pUC19/FLK−BLV/tax−IRES−GFPを導入した293T細胞は、画像1030に示すようにシンシチウムを形成すると共に(矢印箇所)、画像1040に示すようにシンシチウムと一致してGFPによる緑色蛍光が認められた。なお、図示していないが、pUC19/FLK−BLV/env−IRES−GFPを導入した293T細胞は、シンシチウムを形成せず、また、GFPによる蛍光も認められなかった。
以上の結果から、外来遺伝子をenv遺伝子の直下に挿入した場合は組換えBLVは得られないこと、並びに、BLVのゲノム中に外来遺伝子を挿入する場合には、tax遺伝子直下への挿入が適していることが明らかとなった。
〔実施例6:BLVゲノムのtax遺伝子直下へのDsRed遺伝子の挿入〕
実施例1で構築した感染性クローンpUC19/FLK−BLVを鋳型として、実施例2で見出したtax遺伝子直下で開裂した感染性クローンの全長を、配列番号13及び14に示すプライマーを用いて、KOD FX(TOYOBO)により増幅した。プラスミドpIRES2 DsRed−Express2(Clontech)を鋳型として、配列番号15及び16に示すプライマーを用いて、IRES配列、DsRed遺伝子及びポリAに相補的な配列を含むDNA断片を増幅した(配列番号19)。
これらの増幅DNA断片を、In−Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いて結合し、大腸菌stbl3(Thermo Fisher Scientific)へ導入して、IRES−DsRed−ポリAに相補的な配列をtax遺伝子の直下に挿入した感染性クローンpUC19/FLK−BLV/tax−IRES−DsRedを得た(配列番号20)。
〔実施例7:培養細胞への感染性クローン導入及びDsRed遺伝子組換えBLVの確認〕
培養容器に播種した293T細胞に、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、実施例6で得られた感染性クローンを導入した。感染性クローンを導入した293T細胞を数日間培養し、必要に応じて継代を行った。感染性クローンの導入数日後、実体顕微鏡又は蛍光顕微鏡を用いて多核融合細胞(シンシチウム)の形成と蛍光タンパク質(DsRed)の発現とを観察した。
結果を図4に示す。図4において、画像1050は、pUC19/FLK−BLV/tax−IRES−DsRedを導入した293T細胞の実体顕微鏡画像であり、画像1060は、pUC19/FLK−BLV/tax−IRES−DsRedを導入した293T細胞の蛍光顕微鏡画像である。
pUC19/FLK−BLV/tax−IRES−DsRedを導入した293T細胞は、画像1050に示すようにシンシチウムを形成し(矢印箇所)、シンシチウムと一致してDsRedによる赤色蛍光が認められた。
実施例5及び7の結果から、BLVゲノムにおいて、tax遺伝子直下には様々な外来遺伝子を挿入可能であることが示された。
本発明は、医療分野、製薬分野等に利用することができる。

Claims (13)

  1. 牛白血病ウイルスの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域に、外来遺伝子が発現可能に組み込まれた、組換え牛白血病ウイルス。
  2. 牛白血病ウイルスの前記遺伝子配列は、
    (a)配列番号1に示す塩基配列;
    (b)配列番号1に示す塩基配列における、少なくとも1つの塩基が置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列;及び
    (c)配列番号1に示す塩基配列との同一性が90%以上の塩基配列;
    からなる群より選択されるいずれかの塩基配列で示される、請求項1に記載の組換え牛白血病ウイルス。
  3. 前記外来遺伝子挿入領域は、配列番号1に示す塩基配列の第8178番目から第8189番目の塩基又は当該塩基に対応する塩基の領域である、請求項1又は2に記載の組換え牛白血病ウイルス。
  4. 前記tax遺伝子配列と前記外来遺伝子との間に、IRES配列が組み込まれた、請求項1から3のいずれか1項に記載の組換え牛白血病ウイルス。
  5. 前記外来遺伝子と前記3’末端側のLTR配列との間に、ポリA配列に相補的な配列又はポリA付加シグナル配列が組み込まれた、請求項1から4のいずれか1項に記載の組換え牛白血病ウイルス。
  6. 前記外来遺伝子は、レポーター遺伝子である、請求項4又は5に記載の組換え牛白血病ウイルス。
  7. 前記レポーター遺伝子は、蛍光タンパク質又は発光タンパク質をコードする遺伝子である、請求項6に記載の組換え牛白血病ウイルス。
  8. 前記外来遺伝子挿入領域は、配列番号1に示す塩基配列の第8184番目から第8185番目の塩基又は当該塩基に対応する塩基の領域である、請求項1から7のいずれか1項に記載の組換え牛白血病ウイルス。
  9. 請求項1から8のいずれか1項に記載の組換え牛白血病ウイルスが発現可能に導入されている、細胞。
  10. 牛白血病ウイルスの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域に、外来遺伝子を発現可能に組み込む工程
    を含む、組換え牛白血病ウイルスの製造方法。
  11. 1)牛白血病ウイルスを含む環状の核酸構築物と、当該牛白血病ウイルスの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域において線状化するための試薬との組合せ、又は、
    2)牛白血病ウイルスを含む環状の核酸構築物において、当該牛白血病ウイルスの遺伝子配列における、tax遺伝子配列と3’末端側のロングターミナルリピート(LTR)配列との間の外来遺伝子挿入領域において線状化された核酸構築物、を含む、組換え牛白血病ウイルス製造キット。
  12. 請求項1〜8の何れか一項に記載の組換え牛白血病ウイルス、又は、請求項9に記載の細胞を使用する方法であって、
    外来遺伝子の発現を検出する工程を含む、方法。
  13. 前記外来遺伝子は、牛白血病ウイルス以外のウイルス遺伝子の少なくとも一部である、請求項12に記載の方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2023204252A1 (ja) * 2022-04-20 2023-10-26 国立大学法人 東京大学 非複製型牛伝染性リンパ腫ウイルス(blv)およびその産生細胞

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