(第1実施形態)
以下、本発明に係る過電流検出装置を、電力変換システム100に適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、電力変換システム100を例えば車両の電力変換システム100に適用した実施形態について説明する。
図1に示すように、電力変換システム100は、直流電源としてのバッテリ10と、インバータ20と、回転電機21と、制御装置22とを備えている。バッテリ10は、充放電可能な2次電池であり、具体的には、複数のリチウムイオン蓄電池が直列接続された組電池である。なお、バッテリ10は、他の種類の蓄電池であってもよい。バッテリ10には、コンデンサ11が並列接続されている。
回転電機21は、回生発電及び力行駆動の機能を有し、具体的には、MG(Motor Generator)である。回転電機21は、バッテリ10との間で電力の入出力を行うものであり、力行時には、バッテリ10から供給される電力により車両に推進力を付与し、回生時には、車両の減速エネルギーを用いて発電を行い、バッテリ10に電力を出力する。本実施形態では、回転電機21として、3相のものを用いている。
インバータ20は、バッテリ10から入力される直流電力を交流電力に変換して回転電機21に出力する。本実施形態において、インバータ20は、3相のものである。インバータ20は、スイッチング素子としての上アームスイッチ及び下アームスイッチの直列接続体を3相分備えている。インバータ20は、各相において、第1上アームスイッチSH1及び第1下アームスイッチSL1の第1直列接続体MS1と、第2上アームスイッチSH2及び第2下アームスイッチSL2の第2直列接続体MS2とを備えている。これらの直列接続体MS1,MS2は互いに並列接続されている。本実施形態において、各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2は、電圧制御型の半導体スイッチ素子であり、具体的にはNチャネルMOSFETである。このため、各スイッチにおいて、制御端子はゲートであり、高電位側端子はドレインであり、低電位側端子はソースである。
各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2には、NチャネルMOSFETの寄生ダイオードDAが並列にそれぞれ接続されている。また、各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2には、対応する各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2の温度TSを検出する温度センサDS(図2参照)が設けられている。温度センサDSは、具体的には感温ダイオードであり、電流源Isから供給される定電流により各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2の温度TSを検出する。各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2,寄生ダイオードDA及び温度センサDSは、半導体モジュールとして一体化されている。
各相において、第1,第2上アームスイッチSH1,SH2のドレインは、導電性の高圧接続部30pを介して高圧導電部材Bpに接続されている。高圧導電部材Bpは、バッテリ10の正極端子に接続されている。また、第1,第2下アームスイッチSL1,SL2のソースは、導電性の低圧接続部30nを介して低圧導電部材Bnに接続されている。低圧導電部材Bnは、バッテリ10の負極端子に接続されている。
また、各相において、第1直列接続体MS1における第1上アームスイッチSH1と第1下アームスイッチSL1との接続点と、第2直列接続体MS2における第2上アームスイッチSH2と第2下アームスイッチSL2との接続点とは、導電性の第1接続部Bm1によって接続されている。第1接続部Bm1には、導電性の第2接続部Bm2を介して回転電機21の巻線21Aの第1端が接続されている。各相の巻線21Aの第2端は、中性点で接続されている。なお、第1接続部Bm1及び第2接続部Bm2は、一体化されていてもよいし、別部材とされていてもよい。
インバータ20は、各相において、第1上アームスイッチSH1及び第2上アームスイッチSH2を駆動対象とする上アーム駆動回路DrHと、第1下アームスイッチSL1及び第2下アームスイッチSL2を駆動対象とする下アーム駆動回路DrLと、を備えている。なお、本実施形態において、上,下アーム駆動回路DrH,DrLが「スイッチング素子の過電流検出装置」に相当する。
制御装置22は、回転電機21の制御量をその指令値に制御すべく、インバータ20の各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2をオンオフ駆動する。制御量は、例えばトルクである。制御装置22は、各相において、第1,第2上アームスイッチSH1,SH2に対応する上アーム駆動信号GHを、上アーム駆動回路DrHに対して出力する。また、第1,第2下アームスイッチSL1,SL2に対応する下アーム駆動信号GLを、下アーム駆動回路DrLに対して出力する。制御装置22は、例えば、電気角で位相が120°ずれた3相指令電圧と三角波等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM処理により、各駆動回路DrH,DrLに対応する各駆動信号GH,GLを生成する。
各駆動信号GH,GLは、スイッチのオン状態への切り替えを指示するオン駆動指令と、オフ状態への切り替えを指示するオフ駆動指令とのいずれかをとる。各相において、上アーム駆動信号GHと下アーム駆動信号GLとは、互いに相補的な信号となっている。このため各相において、第1,第2上アームスイッチSH1,SH2と、第1,第2下アームスイッチSL1,SL2とは、デッドタイムを挟みつつ交互にオン状態とされる。
また、制御装置22には、車両の起動スイッチであるIGスイッチ23が接続されており、制御装置22は、このIGスイッチ23のオンオフ状態を監視する。なお、本実施形態において、IGスイッチ23が「起動スイッチ」に相当する。
続いて図2を用いて、上,下アーム駆動回路DrH,DrLについて説明する。以下では、上,下アーム駆動回路DrH,DrLのうち、下アーム駆動回路DrLの構成について説明し、上アーム駆動回路DrHの構成については、下アーム駆動回路DrLの構成と略同じであるため、説明を省略する。
下アーム駆動回路DrLは、第1,第2下アームスイッチSL1,SL2の駆動を制御する。以下では、第1,第2下アームスイッチSL1,SL2のうち、一方の下アームスイッチSLの制御について説明し、他方の下アームスイッチの制御については、一方の下アームスイッチSLの制御と略同じであるため、その制御に必要な構成の記載及び説明を省略する。
下アーム駆動回路DrLは、電流供給部としての定電流源50、コンデンサ51、ダイオード52及び駆動装置53を備えている。定電流源50は、コンデンサ51の第1電極に接続されている。コンデンサ51の第2電極には、下アーム駆動回路DrLのグランドGNDL(下アーム側グランド)が接続されている。グランドGNDLは、下アームスイッチSLのソースに接続されている。
コンデンサ51の第1電極には、ダイオード52のアノードが接続されている。ダイオード52のカソードは、下アームスイッチSLのドレインに接続されている。つまり、コンデンサ51から下アームスイッチSLに向かう方向が順方向となるように、ダイオード52が接続されている。そのため、コンデンサ51には、ダイオード52のアノードと下アームスイッチSLのソースとの間のVjdが印加される。具体的には、(式1)に示すように、下アームスイッチSLのドレイン及びソース間の電位差を示すドレイン電圧Vdsに、ダイオード52の順方向電圧Vfを加算した電圧である判定電圧Vjdが印加される。
Vjd=Vds+Vf・・・(式1)
駆動装置53は、下アームスイッチSLのゲートに接続されており、制御装置22から取得した下アーム駆動信号GL等に基づいて、下アームスイッチSLのオンオフ状態を切り替える。また、駆動装置53は、コンデンサ51の第1電極に接続されており、判定電圧Vjdを検出する。
駆動装置53は、コンパレータ54と、可変電圧源55と、制御部56とを備えている。コンデンサ51の第1電極は、コンパレータ54の非反転入力端子54Aに接続されている。コンパレータ54の反転入力端子54Bは、可変電圧源55の正極端子に接続されている。可変電圧源55の負極端子は、グランドGNDLに接続されている。可変電圧源55は、グランドGNDLに対して閾値電圧Vthだけ大きい電圧を、コンパレータ54の反転入力端子54Bに出力する。可変電圧源55の閾値電圧Vthは、可変に調整可能となっている。コンパレータ54は、一対の入力端子54A,54Bから入力される判定電圧Vjdと、閾値電圧Vthとの大小関係を示す信号を出力端子54Cから制御部56に出力する。
制御部56は、コンパレータ54の出力端子54Cから出力される信号に基づいて、下アームスイッチSLの過電流を検出する。ここで、図3は、下アームスイッチSLに過電流が流れていない場合における判定電圧Vjdの推移を示し、図4は、下アームスイッチSLに過電流が流れている場合における判定電圧Vjdの推移を示す。図3,4において、(a)は、下アームスイッチSLのゲート−ソース間の電位差を示すゲート電圧Vgの推移を示し、(b)は、下アームスイッチSLのゲート−ソース間に流れるドレイン電流Idsの推移を示し、(c)は、判定電圧Vjdの推移を示し、(d)は、ドレイン電圧Vdsの推移を示す。なお、本実施形態において、ドレイン電流Idsが「素子電流」に相当し、ドレイン電圧Vdsが「端子間電圧」に相当する。
図3に示すように、下アームスイッチSLに過電流が流れていない場合、時刻t1にゲート電圧Vgがゼロから増加し、下アームスイッチSLがオン状態に切り替えられると、時刻t2にドレイン電圧Vdsが所定の飽和電圧Vtgまで減少した状態で保持される。時刻t2にドレイン電圧Vdsが飽和電圧Vtgまで減少し、下アームスイッチSLがオン状態となると、定電流源50から、ダイオード52を介して下アームスイッチSLにドレイン電流Idsを流し、コンデンサ51の充電を開始する。下アームスイッチSLに過電流が流れていない場合、ドレイン電圧Vdsが飽和電圧Vtgまで減少した状態で保持されるため、判定電圧Vjdは閾値電圧Vthよりも小さい値に保持される。
一方、図4に示すように、上下アームの短絡等により下アームスイッチSLに閾値電流Itg以上の過電流が流れると、ドレイン電圧Vdsは、飽和電圧Vtgまで減少しない。そのため、判定電圧Vjdは増加し続け、時刻t3に閾値電圧Vthよりも大きくなる。判定電圧Vjdが閾値電圧Vthよりも大きくなると、コンパレータ54の出力端子54Cから出力される信号の正負が反転する。これにより、制御部56は、下アームスイッチSLの過電流を検出する。制御部56は、下アームスイッチSLの過電流を検出すると、下アームスイッチSLをオフ状態に切り替える。
ところで、判定電圧Vjdに含まれる順方向電圧Vfは、ダイオード52の温度TDにより変動する。そのため、閾値電圧Vthを用いて過電流を適切に検出するためには、ダイオード52の温度TDと順方向電圧Vfとが関連付けられた順方向電圧Vfの温度特性を特定し、この温度特性に基づいて閾値電圧Vthを補正する必要がある。
温度特性に含まれる順方向電圧Vfとダイオード52の温度TDとのうち、順方向電圧Vfは、例えば下アームスイッチSLの温度TSにより変動する下アームスイッチSLのオン抵抗を用いて算出される。そのため、順方向電圧Vfの温度特性を特定するためには、下アームスイッチSLの温度TSとダイオード52の温度TDとをそれぞれ検出する必要がある。一般に、電力変換システム100の起動中において、下アームスイッチSLの温度TSとダイオード52の温度TDとは異なる。そのため、順方向電圧Vfの温度特性を特定するためには、2つの温度センサを用いてこれらの素子の温度をそれぞれ検出する必要があり、電力変換システム100において、検出に必要な温度センサが増えてしまう。
これに対し、例えば下アームスイッチSLとダイオード52とを熱結合して実装し、これらの素子の温度TS,TDを等しくすることで、1つの温度センサでこれらの素子の温度TS,TDを検出できる。しかし、下アームスイッチSLとダイオード52とを熱結合して実装しなければならないため、これらの素子の実装の自由度が損なわれる。
そこで、本実実施形態では、下アームスイッチSLの温度TSとダイオード52の温度TDとが同じ温度となる特定タイミングYAにおいて、下アームスイッチSL及びダイオード52の温度TS,TDである特定温度TXを検出する。そのため、下アームスイッチSL及びダイオード52の実装の自由度を損なうことなく、検出に必要な温度センサの数を減らすことができる。そして、検出された特定温度TXと、特定タイミングYAにおける判定電圧Vjd及びドレイン電流Idsとに基づいて順方向電圧Vfを算出し、算出された順方向電圧Vfに基づいて閾値電圧Vthを補正する。算出された順方向電圧Vfは、特定温度TXに関連付けられており、順方向電圧Vfの温度特性を示す。そのため、順方向電圧Vfの温度特性に基づいて閾値電圧Vthを補正することで、過電流を適切に検出できる。
具体的には、制御部56は、コンデンサ51の第1電極に接続されており、判定電圧Vjdを検出する。また、制御部56は、温度センサDSに接続されており、下アームスイッチSLの温度TSを検出する。制御部56は、特定タイミングYAに検出された判定電圧Vjd及び温度TS(特定温度TX)に基づいて、閾値電圧Vthを補正する補正処理を実施する。
図5に、本実施形態の補正処理のフローチャートを示す。本実施形態では、電力変換システム100が搭載された車両の起動時に、つまり電力変換システム100の起動時に、下アーム駆動回路DrLの制御部56により実施される補正処理を説明する。具体的には、制御部56は、IGスイッチ23がオン状態に切り替えられると、所定期間毎に補正処理を繰り返し実施する。なお、本実施形態において、制御部56が「判定部」に相当する。
制御部56は、補正処理を開始すると、まずステップS10において、下アーム駆動信号GLがオン駆動指令であるかを判定する。ステップS10で否定判定すると、補正処理を終了する。
一方、ステップS10で肯定判定すると、つまりIGスイッチ23がオン状態に切り替えられた後に、初めて下アーム駆動信号GLがオン駆動指令となった場合、ステップS12において、下アームスイッチSLをオン状態に切り替える。続くステップS14において、経過期間Hfが所定の基準期間Hkよりも長いかを判定する。ここで、経過期間Hfは、IGスイッチ23が前回オフ状態に切り替えられてから、今回、下アームスイッチSLがオン状態に切り替えられるまでの期間である。また、基準期間Hkは、下アームスイッチSLの温度TSとダイオード52の温度TDとが同じ温度となるのに必要な期間である。
図6に、IGスイッチ23が前回オフ状態に切り替えられてからの温度TS,TDの推移を示す。IGスイッチ23がオフ状態に切り替えられる時刻t11において、下アームスイッチSLの温度TSは、ダイオード52の温度TDと異なっている。そして、時刻t11にIGスイッチ23がオフ状態に切り替えられると、これらの温度TS,TDはそれぞれの時定数で低下する。そして、時刻t12にこれらの温度TS,TDが等しくなる。基準期間Hkは、図6の時刻t11から時刻t12までの期間に相当する。
経過期間Hfが基準期間Hkよりも短い場合、下アームスイッチSLの温度TSとダイオード52の温度TDとが等しくないことがある。この場合、温度センサDSを用いてダイオード52の温度TDを検出できず、順方向電圧Vfの温度特性を特定できない。そのため、ステップS14で否定判定すると、判定電圧Vjdを検出することなく補正処理を終了する。
一方、ステップS14で肯定判定すると、ステップS12で下アームスイッチSLをオン状態に切り替えたタイミングを特定タイミングYAとして、ステップS16において、この特定タイミングYAにおける特定温度TXを検出して取得する。続くステップS18において、ステップS12で下アームスイッチSLをオン状態に切り替えてから閾値期間Htgが経過したかを判定する。ここで、閾値期間Htgは、下アームスイッチSLがオン状態に切り替えられてから、ドレイン電圧Vdsが飽和電圧Vtgまで減少するまでの期間であり、図3の時刻t1から時刻t2までの期間に相当する。なお、本実施形態において、ステップS16の処理が「温度取得部」に相当する。
ステップS18で否定判定すると、ステップS18の処理を繰り返す。一方、ステップS18で肯定判定すると、ステップS19において、定電流源50から、ダイオード52を介して下アームスイッチSLにドレイン電流Idsを供給する。
本実施形態では、特定タイミングYAが、IGスイッチ23がオン状態に切り替えられた後に、初めて下アームスイッチSLがオン状態に切り替えられたタイミングに設定されている。このタイミングでは、回転電機21の巻線21Aが有するインピーダンスにより、バッテリ10から下アームスイッチSLを介して回転電機21に流れる電流が抑制されている。そのため、特定タイミングYAにおいて、下アームスイッチSLには、定電流源50から供給されるドレイン電流Idsが流れる。
そして、本実施形態では、特定タイミングYAにおいて、定電流源50から供給されるドレイン電流Idsは、順方向電圧Vfが飽和する電流値に設定されている。図7に、順方向電圧Vfの電流特性を示す。順方向電圧Vfは、ドレイン電流Idsの増加に伴って増加し、所定の飽和値Vfaで飽和する。そのため、ドレイン電流Idsが、順方向電圧Vfが飽和する電流値に設定されていることで、順方向電圧Vfの変動が抑制される。
ステップS20において、判定電圧Vjdを検出する。つまり、特定タイミングYAにおいて、下アームスイッチSLがオン状態にされている場合における判定電圧Vjdを検出する。なお、本実施形態において、ステップS20の処理が「電圧検出部」に相当する。
ステップS22において、ステップS14で検出された特定温度TXと、ドレイン電流Idsとに基づいて、特定タイミングYAにおけるドレイン電圧Vdsを算出する。具体的には、制御部56の記憶部57には、下アームスイッチSLの温度TSとオン抵抗との相関関係を示す対応情報が記憶されている。制御部56は、この対応情報と特定温度TXとを用いて特定タイミングYAにおけるオン抵抗を特定し、特定されたオン抵抗とドレイン電流Idsとを積算することでドレイン電圧Vdsを算出する。
ステップS24において、ステップS20で検出された判定電圧Vjdから、ステップS22で算出されたドレイン電圧Vdsを減算することで順方向電圧Vfを算出する。続くステップS26において、ステップS24で算出された順方向電圧Vfを、ステップS14で検出された特定温度TXに関連付けて学習値Pとして記憶部57に記憶する。なお、本実施形態において、ステップS22,24の処理が「電圧算出部」に相当する。
ステップS28において、ステップS24で算出された順方向電圧Vfに基づいて閾値電圧Vthを補正し、補正処理を終了する。具体的には、ステップS26で記憶部57に記憶された学習値Pに基づいて順方向電圧Vfの温度特性を特定し、特定された温度特性に基づいて閾値電圧Vthを補正する。なお、本実施形態において、ステップS28の処理が「閾値補正部」に相当する。
図8に、順方向電圧Vfの温度特性を示す。図8に破線F1で示すように、一般に、ダイオード52等の素子では、例えば製造メーカにより標準の温度特性が示されている。そのため、この標準の温度特性を用いることで、順方向電圧Vfの温度特性を特定することなく閾値電圧Vthを補正できるように思える。
しかし、順方向電圧Vfの温度特性は、様々な理由により変動することがあり、例えばダイオード52が接続される下アームスイッチSLの種類により変動することがある。そのため、標準の温度特性を用いて閾値電圧Vthを補正しても、過電流を適切に検出できない。
本実施形態では、図8に実線F2で示すように、ダイオード52が各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2と接続された状態において算出された順方向電圧Vfを用いて、学習値Pを記憶し、この学習値Pに基づいて閾値電圧Vthを補正する。具体的には、互いに異なる特定温度TXにおいて記憶された複数の学習値PA〜PDを直線近似して、順方向電圧Vfの温度特性を特定する。そして、特定された温度特性に基づいて閾値電圧Vthを補正する。これにより、順方向電圧Vfの温度特性が、標準の温度特性から変動している場合でも、過電流を適切に検出できる。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
・過電流の検出に用いられる判定電圧Vjdには、ダイオード52の順方向電圧Vfが含まれ、この順方向電圧Vfはダイオード52の温度TDにより変動する。そのため、閾値電圧Vthを用いて過電流を適切に検出するためには、順方向電圧Vfの温度特性を予め特定し、この温度特性に基づいて閾値電圧Vthを補正する必要がある。順方向電圧Vfの温度特性を特定するためには、下アームスイッチSLとダイオード52との温度TS,TDをそれぞれ検出する必要があり、これらの温度TS,TDを別々の温度センサを用いて検出しようとすると、検出に必要な温度センサが増えてしまう。
この点、本実施形態では、下アームスイッチSLの温度TSとダイオード52の温度TDとが同じ温度となる特定タイミングYAにおいて、下アームスイッチSL及びダイオード52の温度である特定温度TXを検出する。そのため、下アームスイッチSLとダイオード52との温度を別々に検出する必要がなく、検出に必要な温度センサの数を減らすことができ、製品コストの増大を抑制できる。そして、検出された特定温度TXに基づいて順方向電圧Vfを算出し、算出された順方向電圧Vfに基づいて閾値電圧Vthを補正する。算出された順方向電圧Vfは特定温度TXに関連付けられているため、これらは順方向電圧Vfの温度特性を示す。そのため、順方向電圧Vfの温度特性に基づいて閾値電圧Vthを補正することで、過電流を適切に検出できる。
・特に、本実施形態では、下アームスイッチSL及びダイオード52の温度TS,TDが同じ温度となる特定タイミングYAに特定温度TXを検出する。そのため、下アームスイッチSL及びダイオード52の温度TS,TDが常に同じ温度となるように、下アームスイッチSLとダイオード52とを熱結合して実装する必要がない。そのため、これらの素子の実装の自由度を確保することができる。
・本実施形態では、判定電圧Vjdを用いて過電流を検出する。過電流を検出する方法として、この他にセンス電流を用いる方法が知られている。センス電流を用いる方法では、下アームスイッチSLに、ドレイン電流Idsと相関を有する微少電流を出力するセンス端子が設けられている。センス端子は抵抗体に接続されており、微少電流により生じる電圧降下を閾値電圧Vthと比較することで、過電流を検出する。そのため、センス電流を用いることで、閾値電圧Vthを補正することなく過電流を検出できるように思える。
しかし、本実施形態では、下アームスイッチSLとしてNチャネルMOSFETを用いている。NチャネルMOSFETでは、ゲート電圧Vgが一定であっても、ドレイン電圧Vdsの増加に伴って、ドレイン電流Idsの飽和電流が増加する。そのため、NチャネルMOSFETを用いる場合には、センス電流を用いても閾値電圧Vthを補正する必要がある。また、NチャネルMOSFETは、スイッチング速度が比較的早いため、ドレイン電圧Vdsの変化を早期に検出することができ、ドレイン電圧Vdsを含む判定電圧Vjdを用いて、過電流を検出することが好ましい。
そこで、本実施形態では、判定電圧Vjdを用いて過電流を検出するとともに、ドレイン電圧Vdsとともに判定電圧Vjdに含まれる順方向電圧Vfの温度特性に基づいて、閾値電圧Vthを補正する。これにより、過電流を早期に、かつ適切に検出できる。
・本実施形態では、算出された順方向電圧Vfを、特定温度TXに関連付けて学習値Pとして記憶する。順方向電圧Vfの温度特性は、ダイオード52の温度TDを示す特定温度TXを独立変数とし、順方向電圧Vfを従属変数とする1次式で表される。そのため、図8に示すように、互いに異なる特定温度TXにおける複数の学習値PA〜PDが記憶されていれば、それらの学習値PA〜PDを直線近似することにより、順方向電圧Vfの温度特性を特定でき、この温度特性に基づいて閾値電圧Vthを補正できる。
・本実施形態では、特定タイミングYAが、IGスイッチ23がオン状態に切り替えられた後に、電力変換動作のために初めて下アームスイッチSLがオン状態に切り替えられたタイミングに設定されている。そのため、電力変換システム100の起動中であっても、下アームスイッチSLとダイオード52との温度TS,TDとを同じ温度とすることができる。
また、電力変換システム100は、バッテリ10と回転電機21との間において電力を変換するシステムであるため、上記特定タイミングYAでは、回転電機21の巻線21Aのインピーダンスにより、バッテリ10から下アームスイッチSLを介して回転電機21に流れる電流が抑制されている。そのため、このタイミングであれば、下アームスイッチSLには、定電流源50から供給されるドレイン電流Idsが流れるため、このドレイン電流Idsに基づいて順方向電圧Vfを算出できる。
・一方、本実施形態では、IGスイッチ23がオン状態に切り替えられた後に、初めて下アームスイッチSLがオン状態に切り替えられたタイミングであっても、経過期間Hfが基準期間Hkよりも短い場合、閾値電圧Vthを補正しない。そのため、下アームスイッチSLとダイオード52との温度TS,TDの相違による過電流の検出精度の低下を抑制できる。
・本実施形態では、特定タイミングYAにダイオード52を介して下アームスイッチSLに供給されるドレイン電流Idsが、順方向電圧Vfが飽和する電流値に設定されている。そのため、特定タイミングYAにおける順方向電圧Vfは略一定の値に制御される。したがって、順方向電圧Vfが変動する場合に比べて閾値電圧Vthを精度よく補正できる。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図9,10を参照しつつ説明する。図9において、先の図5に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、特定タイミングYAが、IGスイッチ23がオン状態に切り替えられた後における電力変換システム100の初期設定時に設定されている点で、第1実施形態と異なる。また、本実施形態では、判定電圧Vjdを検出することなく補正処理を終了する条件が、第1実施形態と異なる。
図9に、本実施形態の補正処理のフローチャートを示す。本実施形態では、電力変換システム100が搭載された車両の起動時に、つまり電力変換システム100の起動時に、電力変換システム100が初期設定を実施する。電力変換システム100の初期設定は、電力変換システム100の起動後、電力変換動作を開始する前に実施され、例えば各素子の接続状態等を確認する。本実施形態では、この初期設定時に下アーム駆動回路DrLの制御部56により実施される補正処理を説明する。具体的には、制御部56は、電力変換システム100の初期設定期間に、所定期間毎に補正処理を繰り返し実施する。
制御部56は、補正処理を開始すると、まずステップS40において、上アームスイッチSHがオフ状態であるかを判定する。上アームスイッチSHがオン状態である場合、下アームスイッチSLをオン状態に切り替えると、上下アームが短絡するため、下アームスイッチSLをオン状態に切り替えられない。そのため、ステップS40で否定判定すると、補正処理を終了する。
一方、ステップS40で肯定判定すると、ステップS42において、経過期間Hfが所定の放電期間Heよりも長いかを判定する。ここで、放電期間Heは、回転電機21に残存している電荷Qeが放電するのに必要な期間である。
図10に、IGスイッチ23が前回オフ状態に切り替えられてからの電荷Qeの推移を示す。IGスイッチ23がオフ状態に切り替えられる時刻t11において、回転電機21には、回転電機21の容量成分により電荷Qeが蓄えられている。そして、時刻t11にIGスイッチ23がオフ状態に切り替えられると、電荷Qeは自然放電等により減少する。そして、時刻t13に回転電機21に残存している電荷Qeはゼロになる。放電期間Heは、図10の時刻t11から時刻t13までの期間に相当する。
経過期間Hfが放電期間Heよりも短い場合、回転電機21に電荷Qeが残存していることがある。この場合、下アームスイッチSLをオン状態に切り替えると、回転電機21に残存している電荷Qeが回転電機21から下アームスイッチSLに流れ込む。そのため、下アームスイッチSLに流れるドレイン電流Idsが、定電流源50から供給される電流と異なる値となり、定電流源50から供給される電流を用いてドレイン電圧Vdsを算出できない。そのため、ステップS42で否定判定すると、判定電圧Vjdを検出することなく補正処理を終了する。したがって、ステップS42の処理は、回転電機21の回転停止後に、回転電機21に電荷Qeが残存していることを判定する処理、ということができる。
一方、ステップS42で肯定判定すると、ステップS12において、下アームスイッチSLをオン状態に切り替え、ステップS16に進む。なお、本実施形態において、ステップS42の処理が「電荷判定部」に相当し、ステップS12の処理が「切り替え部」に相当する。
・以上説明した本実施形態によれば、特定タイミングYAが、IGスイッチ23がオン状態に切り替えられた後における電力変換システム100の初期設定時に設定されている。そのため、電力変換システム100の起動中であっても、初期設定時であれば、電力変換システム100がまだ電力変換動作を開始していないので、下アームスイッチSLとダイオード52との温度TS,TDとを同じ温度とすることができる。
また、初期設定時は、まだ電力変換システム100が電力変換動作を開始していないため、電力変換システム100の動作に影響を与えることなく順方向電圧Vfを算出できる。
さらに、電力変換システム100の初期設定時は、バッテリ10から上,下アームスイッチSH,SLを介して回転電機21に電流が流れないため、定電流源50を用いてドレイン電流Idsを制御できる。そのため、このドレイン電流Idsに基づいて順方向電圧Vfを算出できる。
・一方、本実施形態では、電力変換システム100の初期設定時であっても、経過期間Hfが放電期間Heよりも短い場合、閾値電圧Vthを補正しない。そのため、ドレイン電流Idsの変動による過電流の検出精度の低下を抑制できる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記実施形態において、下アーム駆動回路DrLの制御部56により実施される補正処理を説明したが、上アーム駆動回路DrHの制御部56により実施される補正処理も同様である。
・上記実施形態において、下アーム駆動回路DrLのコンデンサ51は、必ずしも設けられる必要がない。この場合、下アームスイッチSLの寄生容量がコンデンサ51の役割を果たす。
・上記実施形態において、上,下アームスイッチSH,SLの温度TSを検出する温度センサは、感温ダイオードに限られず、例えばサーミスタ等であってもよい。また、温度センサは、これらのスイッチと半導体モジュールとして一体化された温度センサ、つまり上,下アームスイッチSH,SLの温度TSを検出する専用の温度センサに限られず、車載の他の温度センサを用いることができる。
この場合、車両に搭載された温度センサの位置によっては、温度センサが検出した温度と、上,下アームスイッチSH,SLの温度TSとに温度差ΔTが生じることがある。この場合に、温度差ΔTが予めわかっている場合には、この温度センサを用いて上,下アームスイッチSH,SLの温度TSを検出でき、特定タイミングYAにおける特定温度TXを検出できる。
・上記実施形態において、学習値Pに基づいて閾値電圧Vthを補正する際に、互いに異なる特定温度TXにおいて記憶された複数の学習値PA〜PDを直線近似する例を示したが、これに限られない。例えば、学習値Pが1つしか記憶されていない場合には、学習値Pを直線近似することができない。この場合、学習値Pを用いて標準の温度特性を補正してもよい。例えば、標準の温度特性が示す1次式における傾きと切片のうち、傾きは補正せず、切片のみを学習値Pを用いて補正してもよい。
・上記実施形態において、上,下アーム駆動回路DrH,DrLは、上,下アームスイッチSH,SLのゲートを定電流で充電したり、ゲートから定電流で放電させたりしてもよい。
・上記実施形態において、上,下アーム駆動回路DrH,DrLは、過電流を検出した場合に、過電流を検出していない場合に比べて、各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2を緩やかにオフ状態に切り替えてもよい。以下、図11を用いて、各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2を緩やかにオフ状態に切り替える構成について説明する。以下では、上,下アーム駆動回路DrH,DrLのうち、下アーム駆動回路DrLの構成について説明し、上アーム駆動回路DrHの構成については、下アーム駆動回路DrLの構成と略同じであるため、説明を省略する。
図11に示すように、下アーム駆動回路DrLは、第1実施形態において説明した構成に加えて、定電圧源60、充電用スイッチ61、充電用抵抗体62、放電用抵抗体63、放電用スイッチ64、ソフト遮断用抵抗体65及びソフト遮断用スイッチ66を備えている。定電圧源60は、出力される電圧値が規定範囲内となるように調整するレギュレート機能を有しており、PチャネルMOSFETである充電用スイッチ61のドレインに接続されている。充電用スイッチ61のソースは、充電用抵抗体62を介して下アームスイッチSLのゲートに接続されている。
下アームスイッチSLのゲートは、放電用抵抗体63を介して、NチャネルMOSFETである放電用スイッチ64のドレインに接続されている。また、下アームスイッチSLのゲートは、ソフト遮断用抵抗体65を介して、NチャネルMOSFETであるソフト遮断用スイッチ66のドレインに接続されている。放電用スイッチ64及びソフト遮断用スイッチ66のソースは、グランドGNDLに接続されている。なお、本実施形態では、ソフト遮断用抵抗体65の抵抗値Raが、放電用抵抗体63の抵抗値Rbよりも大きく設定されている。
駆動装置53は、下アーム駆動信号GLに基づき、充電用スイッチ61及び放電用スイッチ64の操作による充電処理、及び放電処理を交互に行うことで、下アームスイッチSLのオンオフ状態を切り替える。具体的には、充電処理は、下アーム駆動信号GLがオン操作指令である場合に、放電用スイッチ64をオフ状態に切り替え、かつ充電用スイッチ61をオン状態に切り替える処理である。これにより、定電圧源60から下アームスイッチSLのゲートに電荷が供給され、下アームスイッチSLがオン状態に切り替えられる。
放電処理は、下アーム駆動信号GLがオフ操作指令である場合に、充電用スイッチ61をオフ状態に切り替え、かつ放電用スイッチ64をオン状態に切り替える処理である。これにより、下アームスイッチSLのゲートからグランドGNDLに電荷が放電され、下アームスイッチSLがオフ状態に切り替えられる。
また、駆動装置53は、充電処理中に下アームスイッチSLの過電流が検出された場合に、ソフト遮断処理を行うことで、下アームスイッチSLをオフ状態に切り替える。具体的には、ソフト遮断処理は、充電用スイッチ61及び放電用スイッチ64をオフ状態に切り替え、かつソフト遮断用スイッチ66をオン状態に切り替える処理である。これにより、放電用抵抗体63よりも抵抗値が大きいソフト遮断用抵抗体65を介して、下アームスイッチSLのゲートからグランドGNDLに電荷が緩やかに放電される。これにより、下アームスイッチSLがオフ状態に切り替えられる。
過電流が流れている場合に、下アームスイッチSLをオン状態からオフ状態へと切り替える速度を高くすると、サージ電圧が過大となるおそれがある。本実施形態では、過電流が流れている場合に、電荷の放電速度を低くし、下アームスイッチSLをオン状態からオフ状態へと切り替える速度を低くするため、サージ電圧が過大となることを抑制できる。
・本実施形態では、定電圧源60がレギュレート機能を有しており、定電圧源60から出力される電圧値が、規定範囲内となるように調整されている。そのため、ゲート電圧Vgを安定させることができ、ゲート電圧Vgが変動する場合に比べて閾値電圧Vthを精度よく補正できる。
・上記実施形態において、上,下アームスイッチSH,SLは、補正された閾値電圧Vthを用いて過電流を検出した場合には、その検出結果を制御装置22に通知してもよい。例えば、インバータ20を構成する3相の上,下アームスイッチSH,SLのうち、1相の上,下アームスイッチSH,SLにおいて過電流が発生している場合を想定する。この場合、制御装置22は、過電流が発生していない2相の上,下アームスイッチSH,SLを用いて、車両を退避走行させるように回転電機21を制御してもよい。
・上記実施形態において、上,下アーム駆動回路DrH,DrLは、上,下アームスイッチSH,SLがオン状態となり、ドレイン電圧Vdsが飽和電圧Vtgまで減少した後に、定電流源50から電流が流される。そのため、ドレイン電圧Vdsが飽和電圧Vtgまで減少する前に定電流源50から電流が流され、減少する前のドレイン電圧Vdsにより過電流が誤検出されることを抑制できる。
・上記実施形態において、上,下アームスイッチSH,SLを構成するスイッチとしては、NチャネルMOSFETに限らず、例えばIGBTであってもよい。この場合、各スイッチに、NチャネルMOSFETの寄生ダイオードDAの代わりに、フリーホイールダイオードが逆並列に接続されていてもよい。