JP2021025096A - オーステナイト系耐熱合金溶接継手 - Google Patents

オーステナイト系耐熱合金溶接継手 Download PDF

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一真 伊藤
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友彰 浜口
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大地 赤星
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勇亮 小東
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Abstract

【課題】クリープ破断強度および耐再熱割れ性に優れたオーステナイト系耐熱合金溶接継手を提供する。【解決手段】母材の化学組成が、C≦0.009%、Si≦2.0%、Mn≦3.0%、P≦0.040%、S:0.0001-0.0100%、O≦0.010%、N≦0.020%、Cr:25.0-38.0%、Ni:40.0-60.0%、W:3.0-10.0%、Ti:0.01-1.20%、Al≦0.30%、B:0.0001-0.010%、Zr:0.0001-0.50%、Co:0-1.0%、Cu:0-1.0%、Mo:0-1.0%、V:0-0.5%、Nb:0-0.5%、残部:Feおよび不純物、母材中および熱影響部中の≦φ50nmのTi炭硫化物/硫化物の個数密度が50-500個/μm3、溶接金属の化学組成が、C≦0.18%、Si≦2.0%、Mn≦3.0%、P≦0.040%、S≦0.0100%、O≦0.020%、Cr:20.0-38.0%、Ni:40.0-60.0%、Mo+W:3.0-13.0%、Ti:0.01-1.50%、N≦0.20%、Al≦1.5%、B:0.0001-0.01%、Zr:0.0001-0.50%、Co:0-1.0%、Cu:0-1.0%、V:0-0.5%、Nb:0-0.5%、残部:Feおよび不純物である、オーステナイト系耐熱合金溶接継手。【選択図】 なし

Description

本発明は、オーステナイト系耐熱合金溶接継手に係り、特に、クリープ破断強度および耐再熱割れ性に優れるオーステナイト系耐熱合金溶接継手に関する。
近年、環境負荷軽減の観点から発電用ボイラなどでは運転条件の高温・高圧化が世界的規模で進められており、過熱器管および再熱器管の材料として使用されるオーステナイト系耐熱合金部材には、より優れたクリープ破断強度を有することが求められている。
このような技術的背景のもと、種々のオーステナイト系耐熱合金に関する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、表面加工を施して330HV以上となる塑性加工硬化層を表面に形成させた後、その硬化した表面部分に対して、十分な再結晶を生じさせるとともに再結晶粒内または粒界にCr炭化物を分散して析出させるための局部的な加熱処理を施して、耐粒界腐食性と耐応力腐食割れ性を高めた、オーステナイト系合金構造物とその製造法が開示されている。
また、特許文献2には、結晶粒の微細化を行うとともに、結晶粒界に析出するSを抑制することにより、熱間加工性を向上させた、高Ni、高Crステンレス鋼が開示されている。特許文献3には、Ni基合金製品が提案されている。このNi基合金製品は、Wを活用して高温強度を高めるとともに、有効B量を管理することにより、熱間加工性を改善するとともに溶接割れを防止した、特に大型製品として好適なオーステナイト系耐熱合金製品である。
さらに、特許文献4には、Cr、TiとZrの活用によりα−Cr相を強化相としてクリープ強度を高めた、オーステナイト系耐熱合金ならびに、その合金からなる耐熱耐圧部材およびその製造方法が提案されている。特許文献5には、多量のWを含有させるとともにAlとTiとを活用して、固溶強化とγ’相の析出強化によって強度を高めた、Ni基耐熱合金が提案されている。
そして、特許文献6および7には、熱間加工時の割れ性に優れ、厚肉、大型高温部材として好適に用いることのできる、オーステナイト系耐熱合金部材が提案されている。特許文献8には、HAZの液化割れおよびHAZの脆化割れをともに防止できるとともに、溶接施工中に発生する溶接作業性に起因した欠陥も防止でき、さらに、高温でのクリープ強度にも優れるオーステナイト系耐熱合金が提案されている。
また、これらのオーステナイト系耐熱合金を構造物として使用する場合、溶接により組み立てるのが一般的である。溶接により組み立てる際に使用するオーステナイト系耐熱合金用溶接材料として、AWS A5.14−2005 ER NiCrCoMo−1が知られている。
さらに、特許文献9〜11に、種々のオーステナイト系耐熱合金用溶接材料が提案されている。
特許文献9には、高強度を有する酸化物分散強化型合金と耐熱合金との溶接に使用される溶接材料であって、Mo、Nbなどの固溶強化元素を積極的に含有させることにより、強度向上を図った、酸化物分散強化型合金用溶接材料が提案されている。
特許文献10には、MoおよびWによる固溶強化ならびにAlおよびTiによる析出強化硬化を活用して高強度化を図った、オーステナイト系耐熱合金用溶接材料が提案されている。特許文献11には、NbとWを含有させて、溶接時の凝固割れとクリープ強度の両立を図った、オーステナイト系耐熱合金用溶接材料が提案されている。
特許文献12では、溶接時に優れた耐高温割れ性を有するNi基耐熱合金用溶接材料と、それを用いてなる溶接中の耐高温割れ性、高温での長時間使用中の耐応力緩和割れ性、および良好なクリープ強度を有する溶接金属、および高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材とからなる溶接継手を提供している。
特開2000−265249号公報 特開2002−80942号公報 特開2011−63838号公報 国際公開第2009/154161号 国際公開第2010/038826号 特開2014−34725号公報 特開2014−145109号公報 特開2010−150593号公報 特開平10−193174号公報 国際公開第2010/013565号 特開2008−207242号公報 特開2013−94827号公報
過熱器管および再熱器管の材料として使用されるオーステナイト系耐熱合金溶接継手には、より優れたクリープ破断強度を有するとともに、溶接後熱処理時または使用時に問題となる再熱割れを回避できる優れた耐再熱割れ性を有することも求められる。一般に、より優れたクリープ破断強度および耐再熱割れ性の両方を得ることは困難であり、特許文献1〜12のいずれにおいても、上述の課題解決には至っておらず、改善の余地が残されている。
本発明は上記の問題を解決し、クリープ破断強度および耐再熱割れ性の両方に優れたオーステナイト系耐熱合金溶接継手を提供することを目的とする。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のオーステナイト系耐熱合金溶接継手を要旨とする。
(1)母材と溶接金属とを含む溶接継手であって、前記母材と前記溶接金属との境界の前記母材側には、溶接熱影響部が形成されており、
前記母材の化学組成が、質量%で、
C:0.009%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:3.0%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0001〜0.0100%、
O:0.010%以下、
N:0.020%以下、
Cr:25.0〜38.0%、
Ni:40.0〜60.0%、
W:3.0〜10.0%、
Ti:0.01〜1.20%、
Al:0.30%以下、
B:0.0001〜0.010%、
Zr:0.0001〜0.50%、
Co:0〜1.0%、
Cu:0〜1.0%、
Mo:0〜1.0%、
V:0〜0.5%、
Nb:0〜0.5%、
残部:Feおよび不純物であり、
前記母材中および前記溶接熱影響部中に含まれる粒子径が50nm以下のTi炭硫化物およびTi硫化物の合計個数密度が50〜500個/μmであり、
前記溶接金属の化学組成が、質量%で、
C:0.18%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:3.0%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
O:0.020%以下、
Cr:20.0〜38.0%、
Ni:40.0〜60.0%、
MoおよびWから選択される1種以上の合計:3.0〜13.0%、
Ti:0.01〜1.50%、
N:0.20%以下、
Al:1.5%以下、
B:0.0001〜0.01%、
Zr:0.0001〜0.50%、
Co:0〜1.0%、
Cu:0〜1.0%、
V:0〜0.5%、
Nb:0〜0.5%、
残部:Feおよび不純物である、
オーステナイト系耐熱合金溶接継手。
(2)前記母材の化学組成が、質量%で、
Co:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜1.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
V:0.01〜0.5%、および
Nb:0.01〜0.5%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)に記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手。
(3)前記母材の化学組成が、質量%で、
C:0.0001〜0.009%、
を含有する、
上記(1)または(2)に記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手。
本発明のオーステナイト系耐熱合金溶接継手は、耐再熱割れ性と長時間クリープ破断強度との両方に優れる。
本発明者らは前記した課題を解決するために、オーステナイト系耐熱合金の耐再熱割れ性とクリープ破断特性とを詳細に調査した結果、以下の知見を得るに至った。
一般的に、優れたクリープ破断強度を得るためには、所定量以上のCを含有させることにより、粒界の析出強化を行う必要があると考えられている。しかしながら、多量のCを含有させると、炭化物による粒内析出強化に伴い粒界弱化が生じることとなり、再熱割れが生じる原因となる。すなわち、耐再熱割れ性とクリープ破断特性との間には、いわゆるトレードオフの関係が存在することとなる。
そこで、本発明者らが上記の問題を解決するために検討した結果、α−Cr相といった析出物を活用することにより、C含有量を低減したとしても優れたクリープ破断強度を確保することが可能になることを見出した。そして、C含有量を低減することにより、炭化物の粒内析出強化によって相対的に発生する粒界弱化が抑制され、耐再熱割れ性を向上させることが可能になる。
さらに、母材中に予め、極めて微細なTi炭硫化物および/またはTi硫化物を所定量以上析出させることによって、使用環境中において、α−Cr相を粒内に微細析出させることができることを見出した。粒内に微細析出したα−Cr相は、粒界に析出した場合に比べて、クリープ破断強度を向上させる効果が高い。
なお、溶接に伴い、溶接熱影響部では、Ti炭硫化物および/またはTi硫化物は溶解してしまう。しかしながら、Ti炭硫化物および/またはTi硫化物に含まれていた元素は完全には拡散せず、濃度に不均一が生じた状態となる。そのため、所定の条件で溶接後熱処理を行うことにより、微細なTi炭硫化物および/またはTi硫化物を再析出させることが可能となる。
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.母材の化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.009%以下
Cは、一般的には、オーステナイトを安定にするとともに粒界に微細な炭化物を形成し、高温でのクリープ破断強度を向上させる元素であることが知られている。しかしながら、本発明においては、C含有量が過剰になると耐再熱割れ性の低下を招く。このため、C含有量は0.009%以下とする。C含有量は0.008%以下であるのが好ましく、0.005%以下であるのがより好ましい。
なお、C含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は製造コストの上昇を招く。そのため、C含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましく、0.0008%以上であるのがさらに好ましい。
Si:2.0%以下
Siは、脱酸作用を有するとともに、高温での耐食性および耐酸化性の向上に有効な元素である。しかしながら、Siが過剰に含有された場合にはオーステナイトの安定性が低下して、靱性およびクリープ破断強度の低下を招く。そのため、Si含有量は2.0%以下とする。Si含有量は1.5%以下であるのが好ましく、1.0%以下であるのがより好ましく、0.5%以下であるのがさらに好ましい。
なお、Si含有量について特に下限を設ける必要はない。しかし、Si含有量を極端に低減すると、脱酸効果が十分に得られず合金の清浄度が大きくなって清浄性が劣化する。また、高温での耐食性および耐酸化性の向上効果も得難くなり、製造コストも大きく上昇する。そのため、Si含有量は0.02%以上とするのが好ましく、0.05%以上とするのがより好ましい。
Mn:3.0%以下
Mnは、Siと同様、脱酸作用を有するだけでなく、オーステナイトの安定化にも寄与する元素である。しかしながら、Mn含有量が過剰になると脆化を招き、さらに、靱性およびクリープ延性の低下も生じる。そのため、Mn含有量は3.0%以下とする。Mn含有量は2.8%以下であるのが好ましく、2.5%以下であるのがより好ましい。
なお、Mn含有量についても特に下限を設ける必要はない。しかし、Mn含有量を極端に低減すると、脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性を劣化させる。また、熱間加工性が劣化するだけでなく、オーステナイト安定化効果が得難くなり、製造コストも大きく上昇する。そのため、Mn含有量は0.005%以上とするのが好ましく、0.010%以上とするのがより好ましい。
P:0.040%以下
Pは、不純物として合金中に含有され、多量に含まれる場合には、熱間加工性および溶接性を著しく低下させ、さらに、長時間使用後のクリープ延性も低下させる。そのため、P含有量は0.040%以下とする。P含有量は0.030%以下であるのが好ましく、0.020%以下であるのがより好ましい。
なお、Pの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製造コストの増大を招く。そのため、P含有量は0.0005%以上とするのが好ましく、0.0008%以上とするのがより好ましい。
S:0.0001〜0.0100%
Sは、強化相であるα−Cr相の析出核となるTi炭硫化物および/またはTi硫化物を形成するために必要な元素である。この効果を十分に得るためには、S含有量を0.0001%以上とする必要がある。しかしながら、Sが多量に含まれる場合には、熱間加工性および溶接性が著しく低下し、さらに、長時間使用後のクリープ延性も低下する。したがって、S含有量は0.0001〜0.0100%とする。S含有量は0.0003%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。また、S含有量は0.0090%以下であるのが好ましく、0.0080%以下であるのがより好ましい。
O:0.010%以下
O(酸素)は、不純物として合金中に含まれ、その含有量が過剰になると熱間加工性が低下し、さらに靱性および延性の劣化を招く。このため、O含有量は0.010%以下とする。O含有量は0.008%以下であるのが好ましく、0.005%以下であるのがより好ましい。
なお、O含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は製造コストの上昇を招く。そのため、O含有量は0.0005%以上とするのが好ましく、0.0008%以上とするのがより好ましい。
N:0.020%以下
Nは、オーステナイトを安定にするのに有効な元素であるものの、過剰に含有されると、高温での使用中に多量の微細窒化物が粒内に析出してクリープ延性および靱性の低下を招く。そのため、N含有量は0.020%以下とする。N含有量は0.018%以下であるのが好ましく、0.015%以下であるのがより好ましい。
なお、N含有量について特に下限を設ける必要はない。しかし、N含有量を極端に低減すると、オーステナイトを安定にする効果が得難くなるだけでなく、製造コストも大きく増加する。そのため、N含有量は0.0005%以上とするのが好ましく、0.0008%以上とするのがより好ましい。
Cr:25.0〜38.0%
Crは、高温での耐酸化性および耐食性の確保のために必須の元素である。また、α−Cr相として析出し、クリープ破断強度の向上にも寄与する。上記の効果を得るためには、Cr含有量を25.0%以上とする必要がある。しかしながら、Cr含有量が38.0%を超えると、高温でのオーステナイトの安定性が劣化してクリープ破断強度の低下を招く。したがって、Cr含有量は25.0〜38.0%とする。Cr含有量は25.5%以上であるのが好ましく、26.0%以上であるのがより好ましい。また、Cr含有量は37.5%以下であるのが好ましく、37.0%以下であるのがより好ましい。
Ni:40.0〜60.0%
Niは、オーステナイトを得るために有効な元素であり、長時間使用時の組織安定性を確保するために必須の元素である。また、NiTiとして析出し、クリープ破断強度の向上にも寄与する。上述のCr含有量の範囲において、上記したNiの効果を十分に得るためには、Ni含有量を40.0%以上とする必要がある。しかしながら、Niは高価な元素であり、多量に含有させるとコストの増大を招く。したがって、Ni含有量は40.0〜60.0%とする。Ni含有量は41.0%以上であるのが好ましく、42.0%以上であるのがより好ましい。また、Ni含有量は58.0%以下であるのが好ましく、56.0%以下であるのがより好ましい。
W:3.0〜10.0%
Wは、マトリックスに固溶して高温でのクリープ破断強度の向上に大きく寄与する元素である。その効果を十分に発揮させるためには、W含有量を3.0%以上とする必要がある。しかしながら、Wを過剰に含有させても効果は飽和し、かえってクリープ破断強度を低下させる。さらに、Wは高価な元素であるため、過剰に含有させるとコストの増大を招く。したがって、W含有量は3.0〜10.0%とする。W含有量は3.5%以上であるのが好ましく、4.0%以上であるのがより好ましい。また、W含有量は9.5%以下であるのが好ましく、9.0%以下であるのがより好ましい。
Ti:0.01〜1.20%
Tiは、強化相であるα−Cr相の析出核となるTi炭硫化物および/またはTi硫化物を形成するために必要な元素であり、加えて、強化相であるNiTiの形成にも必要な元素でもある。それらの効果を得るためには、Ti含有量を0.01%以上とする必要がある。しかしながら、Ti含有量が過剰になると炭窒化物として多量に析出し、クリープ延性および靱性の低下を招く。したがって、Ti含有量は0.01〜1.20%とする。Ti含有量は0.05%以上であるのが好ましく、0.10%以上であるのがより好ましい。また、Ti含有量は1.10%以下であるのが好ましく、1.00%以下であるのがより好ましい。
Al:0.30%以下
Alは、脱酸作用を有する元素である。しかしながら、Al含有量が過剰になると合金の清浄性が著しく劣化して、熱間加工性および延性が低下する。そのため、Al含有量は0.30%以下とする。Al含有量は0.20%以下であるのが好ましく、0.10%以下であるのがより好ましい。
なお、Alの含有量について特に下限を設ける必要はない。しかし、Al含有量を極端に低減すると、脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性を逆に劣化させるとともに、製造コストの上昇を招く。そのため、Al含有量は0.0005%以上とするのが好ましい。Alの脱酸効果を安定して得るとともに、良好な清浄性を確保するためには、Al含有量は0.001%以上とするのがより好ましい。
B:0.0001〜0.010%
Bは、高温での使用中に粒界に偏析して粒界を強化するとともに粒界炭化物を微細分散させることにより、クリープ破断強度を向上させるのに必要な元素である。加えて、耐再熱割れ性の向上にも寄与する。これらの効果を得るためにはB含有量を0.0001%以上とする必要がある。しかしながら、B含有量が過剰になると、溶接性が劣化することに加えて、熱間加工性が劣化する。したがって、B含有量は0.0001〜0.010%とする。B含有量は0.0005%以上であるのが好ましく、0.001%以上であるのがより好ましい。また、B含有量は0.008%以下であるのが好ましく、0.006%以下であるのがより好ましい。
Zr:0.0001〜0.50%
Zrは、クリープ破断強度を向上させる作用を有する。すなわち、Zrは、粒界強化元素であり、高温でのクリープ破断強度向上に寄与し、さらに、クリープ延性の向上にも寄与する。この効果を得るためにはZr含有量を0.0001%以上とする必要がある。しかしながら、Zr含有量が0.50%を超えると熱間加工性が低下する。したがって、Zr含有量は0.0001〜0.50%とする。Zr含有量は0.30%以下であるのが好ましい。
本発明のオーステナイト系耐熱合金の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。Feは安価な原料であるため、0.1%〜20%含まれることが好ましい。また、ここで「不純物」とは、合金を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本発明のオーステナイト系耐熱合金には、さらに、Co、Cu、Mo、VおよびNbから選択される1種以上の元素を含有させてもよい。
Co:0〜1.0%
Coは、クリープ破断強度を向上させる作用を有する。すなわち、Coは、Niと同様オ−ステナイト生成元素であり、相安定性を高めてクリープ破断強度の向上に寄与する。そのため、Coを含有させてもよい。しかしながら、Coは極めて高価な元素であるため、Coを過剰に含有させると大幅なコスト増を招く。したがって、Co含有量は1.0%以下とする。Co含有量は0.8%以下であるのが好ましい。一方、上記の効果を得たい場合は、Co含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
Cu:0〜1.0%
Cuは、クリープ破断強度を向上させる作用を有する。すなわち、Cuは、NiおよびCoと同様オーステナイト生成元素であり、相安定性を高めてクリープ破断強度の向上に寄与する。そのため、Cuを含有させてもよい。しかしながら、Cuが過剰に含有された場合には熱間加工性の低下を招く。したがって、Cu含有量は1.0%以下とする。Cu含有量は0.8%以下であるのが好ましい。一方、上記の効果を得たい場合は、Cu含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
Mo:0〜1.0%
Moは、クリープ破断強度を向上させる作用を有する。すなわち、Moは、マトリックスに固溶して高温でのクリープ破断強度を向上させる作用を有する。そのため、Moを含有させてもよい。しかしながら、Moが過剰に含有された場合にはオーステナイトの安定性が低下して、かえってクリープ破断強度の低下を招く。したがって、Mo含有量は1.0%以下とする。Mo含有量は0.8%以下であるのが好ましい。一方、上記の効果を得たい場合は、Mo含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
V:0〜0.5%
Vは、クリープ破断強度を向上させる作用を有する。すなわち、Vは、CまたはNと結合して微細な炭化物または炭窒化物を形成し、クリープ破断強度を向上させる作用を有する。そのため、Vを含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有された場合、炭化物または炭窒化物として多量に析出し、クリープ延性の低下を招く。したがって、V含有量は0.5%以下とする。V含有量は0.4%以下であるのが好ましい。一方、上記の効果を得たい場合は、V含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
Nb:0〜0.5%
Nbは、Vと同様にCまたはNと結合して微細な炭化物または炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ破断強度向上に寄与する。そのため、Nbを含有させてもよい。しかしながら、Nbの含有量が過剰になると炭化物または炭窒化物として多量に析出し、クリープ延性および靱性の低下を招く。したがって、Nb含有量は0.5%以下とする。Nb含有量は0.4%以下であるのが好ましい。一方、上記の効果を得たい場合は、Nb含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
上記のCo、Cu、Mo、VおよびNbは、そのうちのいずれか1種のみ、または、2種以上の複合的に含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、4.0%であってもよい。
2.母材中および溶接熱影響部中のTi炭硫化物およびTi硫化物
本発明に係る溶接継手は、母材と溶接金属とを含み、母材と溶接金属との境界の母材側には、溶接熱影響部が形成されている。上述のように、本発明において、オーステナイト系耐熱合金溶接継手の長時間クリープ破断強度を得るためには、α−Cr相の析出核として作用する、微細なTi炭硫化物およびTi硫化物の個数密度の合計量を適切に制御する必要がある。具体的には、母材中および溶接熱影響部中に含まれる50nm以下のTi炭硫化物およびTi硫化物の合計個数密度を、50〜500個/μmの範囲に制御する必要がある。
母材中および溶接熱影響部中のTi炭硫化物およびTi硫化物の合計個数密度を50個/μm以上とすることにより、十分な量のα−Cr相が生成し、優れたクリープ破断強度を得ることができる。一方、母材中のTi炭硫化物およびTi硫化物の合計個数密度が500個/μmを超える場合、α−Cr相の粗大化が早まり、かえってクリープ破断強度が低下するばかりか、耐再熱割れ性だけでなく、クリープ延性および靭性も劣化する。クリープ破断強度向上の観点からは、母材中のTi炭硫化物およびTi硫化物の合計個数密度は100個/μm以上であることが好ましい。
本発明において、母材中および溶接熱影響部中に含まれる50nm以下のTi炭硫化物およびTi硫化物の合計個数密度は透過電子顕微鏡(TEM)によって測定する。具体的には、母材および溶接熱影響部のそれぞれから厚さ100nmの薄膜を作製し、TEMにより観察する。この時の倍率は100000倍とする。そして、Ti炭硫化物またはTi硫化物と特定されたものの面積を画像処理により測定し、円相当径が50nm以下であるTi炭硫化物およびTi硫化物の個数の合計を計測する。そして、計測された合計個数を視野の体積で除することにより、合計個数密度を求める。
なお、本発明において、「母材」とは、溶接熱影響部を除く部分を指すものとする。また、溶接熱影響部については、母材と溶接金属との境界である溶接溶融線から母材側に1mmの位置において測定用の薄膜を切り出すものとする。
3.溶接金属の化学組成
本発明の溶接継手において、溶接金属は、
質量%で、
C:0.18%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:3.0%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
O:0.020%以下、
Cr:20.0〜38.0%、
Ni:40.0〜60.0%、
MoおよびWから選択される1種以上の合計:3.0〜13.0%、
Ti:0.01〜1.50%、
N:0.20%以下、
Al:1.5%以下、
B:0.0001〜0.01%、
Zr:0.0001〜0.50%、
Co:0〜1.0%、
Cu:0〜1.0%、
V:0〜0.5%、
Nb:0〜0.5%、
残部:Feおよび不純物である化学組成を有する。
なお、本発明において、溶接金属の化学組成とは、溶接継手における初層部の化学組成を指すものとする。
上記のうちでも、C含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.15%以下であるのが好ましい。Si含有量は0.02%以上であるのが好ましく、1.0%以下であるのが好ましい。Mn含有量は0.02%以上であるのが好ましく、1.8%以下であるのが好ましい。P含有量は0.030%以下、S含有量は0.008%以下、O含有量は0.008%以下であるのが好ましい。
また、Cr含有量は20.5%以上であるのが好ましく、32.5%以下であるのが好ましい。Ni含有量は40.5%以上であるのが好ましく、59.5%以下であるのが好ましい。MoおよびWから選択される1種以上の合計含有量は6.5%以上であるのが好ましく、12.5%以下であるのが好ましい。Ti含有量は0.06%以上であるのが好ましく、1.30%以下であるのが好ましい。
さらに、N含有量は0.0005%以上であるのが好ましく、0.16%以下であるのが好ましい。Al含有量は0.0005%以上であるのが好ましく、1.4%以下であるのが好ましい。B含有量は0.0002%以上であるのが好ましく、0.009%以下であるのが好ましい。Zr含有量は0.001%以上であるのが好ましく、0.40%以下であるのが好ましい。
Co含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.8%以下であるのが好ましい。Cu含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.8%以下であるのが好ましい。V含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.4%以下であるのが好ましい。Nb含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.4%以下であるのが好ましい。
なお、上記の溶接金属の化学組成は、溶接時における母材と溶接材料との流入割合で決定される。以下に、本発明に係る溶接継手を製造するのに用いられる溶接材料の好適な化学組成について説明する。
4.溶接材料の化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.06〜0.18%
Cは、溶接後の溶接金属中のオーステナイトを安定化させる作用を有するとともに、微細な炭化物を形成し、高温使用中のクリープ強度を向上させる効果を有する元素である。さらには、溶接凝固中にCrと共晶炭化物を形成することで、凝固割れ感受性の低減にも寄与する。しかしながら、C含有量が過剰であると、炭化物が多量に析出するため、かえってクリープ強度および延性を低下させるおそれがある。したがって、C含有量は0.06〜0.18%であるのが好ましい。C含有量は0.07%以上であることがより好ましく、0.08%以上であることがさらに好ましい。また、C含有量は0.16%以下であることがより好ましく、0.14%以下であることがさらに好ましい。
Si:1.0%以下
Siは、溶接材料の製造時において脱酸に有効であるとともに、溶接後の溶接金属の高温での耐食性および耐酸化性の向上に有効な元素である。しかしながら、Siが過剰に含有された場合にはオーステナイトの安定性が低下して、靭性およびクリープ強度の低下を招くおそれがある。そのため、Siの含有量は1.0%以下であるのが好ましい。Si含有量は0.8%以下であることがより好ましく、0.6%以下であることがさらに好ましい。
なお、Siの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端に低減させると脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性が劣化するとともに、高温での耐食性および耐酸化性の向上効果が得難くなり、製造コストも大きく上昇する。そのため、Si含有量は0.02%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましい。
Mn:2.0%以下
Mnは、Siと同様、溶接材料の製造時において脱酸に有効な元素である。また、Mnは、溶接後の溶接金属中のオーステナイトの安定化にも寄与する。しかしながら、Mnの含有量が過剰になると脆化を招き、さらに、靭性およびクリープ延性の低下も生じるおそれがある。そのため、Mnの含有量は2.0%以下であるのが好ましい。Mnの含有量は1.8%以下であることがより好ましく、1.5%以下であることがさらに好ましい。
なお、Mnの含有量についても特に下限を設ける必要はないが、極端に低減させると脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性が劣化するとともに、オーステナイト安定化効果が得難くなり、さらに製造コストも大きく上昇する。そのため、Mn含有量は0.02%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましい。
P:0.040%以下
Pは、不純物として溶接材料中に含まれ、溶接中に凝固割れ感受性を高める元素である。さらに、高温で長時間使用した後の溶接金属のクリープ延性を低下させる。そのため、P含有量は0.040%以下であるのが好ましい。Pの含有量は0.030%以下であることがより好ましく、0.020%以下であることがさらに好ましい。
なお、Pの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製造コストの増大を招く。そのため、P含有量は0.0005%以上であることが好ましく、0.0008%以上であることがより好ましい。
S:0.0100%以下
Sは、Pと同様に不純物として溶接材料中に含まれ、溶接中に凝固割れ感受性を高める元素である。さらに、Sは、溶接金属において長時間使用中に柱状晶粒界に偏析して脆化を招き、再熱割れ感受性を高める。そのため、S含有量は0.0100%以下であるのが好ましい。S含有量は0.0080%以下であることがより好ましく、0.0050%以下であることがさらに好ましい。
なお、Sの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製造コストの増大を招く。そのため、S含有量は、0.0001%以上であることが好ましく、0.0002%以上であることがより好ましい。
O:0.010%以下
O(酸素)は、不純物として溶接材料中に含まれ、その含有量が過剰になると熱間加工性が低下し、製造性の劣化を招くおそれがある。そのため、O含有量は0.010%以下であるのが好ましい。O含有量は0.008%以下であることがより好ましく、0.005%以下であることがさらに好ましい。
なお、Oの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は製造コストの上昇を招く。そのため、Oの含有量は、0.0005%以上であることが好ましく、0.0008%以上であることがより好ましい。
Ni:40.0〜60.0%
Niは、溶接後の溶接金属中のオーステナイトを安定化させるのに有効な元素であり、長時間使用時のクリープ強度を確保する元素である。しかしながら、Niは高価な元素であり、小規模製造の溶接材料においても、多量に含有させるとコストの増大を招く。そのため、Ni含有量は40.0〜60.0%であるのが好ましい。Ni含有量は40.5%以上であることがより好ましく、41.0%以上であることがさらに好ましい。また、Ni含有量は59.5%以下であることがより好ましく、59.0%以下であることがさらに好ましい。
Cr:20.0〜33.0%
Crは、溶接後の溶接金属の高温での耐酸化性および耐食性の確保のために有効な元素である。また、Crは、微細な炭化物またはCrが富化したbcc相を形成してクリープ強度の確保にも寄与する。さらに、溶接中にCと共晶炭化物を形成することで、凝固割れ感受性の低減にも寄与する。しかしながら、Crの含有量が33.0%を超えると、上記のNi量範囲において高温でのオーステナイトの安定化が劣化してクリープ強度の低下を招くおそれがある。したがって、Cr含有量は20.0〜33.0%であるのが好ましい。Cr含有量は20.5%以上であることがより好ましく、21.0%以上であることがさらに好ましい。また、Cr含有量は32.5%以下であることがより好ましく、32.0%以下であることがさらに好ましい。
MoおよびWの1種以上の合計:6.0〜13.0%
MoおよびWは、溶接金属においてマトリクスに固溶し、または、微細な金属間化合物を形成して、高温でのクリープ強度および引張強さの向上に大きく寄与する元素である。しかしながら、これらの元素を過剰に含有させても効果は飽和し、かえってクリープ強度を低下させるおそれがある。さらに、MoおよびWは高価な元素であるため、過剰に含有させるとコストの増大を招く。そのため、MoおよびWから選択される1種以上の合計含有量は6.0〜13.0%であるのが好ましい。合計含有量は6.5%以上であることがより好ましく、7.0%以上であることがさらに好ましい。また、合計含有量は12.5%以下であることがより好ましく、12.0%以下であることがさらに好ましい。
Ti:0.05〜1.50%
Tiは、溶接金属中に微細な炭窒化物として、さらに、Niとの金属間化合物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度および引張強さの向上に寄与する元素である。しかしながら、Tiの含有量が過剰になると炭窒化物が多量に析出し、クリープ延性および靭性の低下を招くおそれがある。そのため、Ti含有量は0.05〜1.50%であるのが好ましい。Ti含有量は0.06%以上であることがより好ましく、0.07%以上であることがさらに好ましい。また、Ti含有量は1.30%以下であることがより好ましく、1.10%以下であることがさらに好ましい。
N:0.18%以下
Nは、溶接金属中のオーステナイトを安定化させ、クリープ強度を向上させるとともに、固溶して引張強さの確保に寄与する元素である。しかしながら、過剰に含有されると、高温での使用中に多量の微細窒化物が粒内に析出してクリープ延性および靭性の低下を招くおそれがある。そのため、N含有量は0.18%以下であるのが好ましい。N含有量は0.16%以下であることがより好ましく、0.14%以下であることがさらに好ましい。
なお、Nの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端に低減させるとオーステナイトを安定にする効果が得難くなり、製造コストも大きく上昇する。そのため、Nの含有量は、0.0005%以上であることが好ましく、0.0008%以上であることがより好ましい。
Al:1.5%以下
Alは、溶接材料の製造時において脱酸に有効な元素である。また、溶接金属において微細な金属間化合物相を形成して、クリープ強度の向上に寄与する。しかしながら、Alの含有量が過剰になると合金の清浄性が著しく劣化して、溶接材料の熱間加工性および延性が低下するため、製造性が低下するおそれがある。加えて、溶接金属中で多量の金属間化合物相を形成し、高温で長時間使用した際の再熱割れ感受性を著しく高めるおそれがある。そのため、Al含有量は1.5%以下であるのが好ましい。Al含有量は1.4%以下であることがより好ましく、1.3%以下であることがさらに好ましい。
なお、Alの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端に低減させると脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性がかえって劣化するとともに、製造コストも大きく上昇する。そのため、Al含有量は0.0005%以上であることが好ましく、0.001%以上であることがより好ましい。
B:0〜0.005%
Bは、溶接金属のクリープ強度の向上に有効な元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、Bの含有量が過剰になると、溶接中の凝固割れ感受性が著しく高くなる。そのため、B含有量は0.005%以下であるのが好ましい。B含有量は0.004%以下であることがより好ましく、0.003%以下であることがさらに好ましい。なお、上記の効果を得たい場合は、Bの含有量を0.0001%以上とすることが好ましく、0.0005%以上とすることがより好ましい。
Nb:0〜0.5%
Nbは、Tiと同様に、CまたはNと結合して微細な炭化物または炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度の向上に寄与するため、含有させてもよい。しかしながら、Nbの含有量が過剰になると、炭化物または炭窒化物として多量に析出し、クリープ延性および靭性の低下を招くおそれがある。そのため、Nb含有量は0.5%以下であるのが好ましい。Nb含有量は0.48%以下であることがより好ましく、0.45%以下であることがさらに好ましい。なお、上記の効果を得たい場合は、Nb含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.03%以上とすることがより好ましい。
上記溶接材料の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、合金を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
5.製造方法
本発明のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の作製に用いられる母材の製造方法については特に制限はないが、例えば、上述の化学組成を有する鋼塊または鋳片に、熱間加工を施すことによって製造することができる。また、当該熱間加工の後に、必要に応じて熱間押出等の異なる方法の熱間加工をさらに施してもよい。
さらに上記の工程の後、微細なTi炭硫化物および/またはTi硫化物を析出させるために、1100〜1250℃の温度範囲まで加熱して保持した後に、300℃までの平均冷却速度が0.1〜5.0℃/sとなる条件で室温まで冷却する。
または、微細なTi炭硫化物および/またはTi硫化物の析出量をより多くするためには、上記の工程の後、以下に説明する2段階での冷却を行うのが好ましい。
まず、1100〜1250℃の温度範囲から500〜1000℃の温度域まで0.01〜1.0℃/sの平均冷却速度で冷却する(第1冷却工程)。そして、当該温度域で1〜10h保持する(保持工程)。続いて、500〜1000℃の温度域から300℃までの平均冷却速度が0.01〜1.0℃/sとなる条件で室温まで冷却する(第2冷却工程)。
また、溶接継手の製造方法についても特に制限はない。上記の母材に対して溶接を施すことによって製造される。溶接方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ガスタングステンアーク溶接、ガスメタルアーク溶接、被覆アーク溶接などを用いることができる。
上述のように、溶接に伴い、溶接熱影響部では、Ti炭硫化物および/またはTi硫化物は溶解してしまう。そのため、Ti炭硫化物および/またはTi硫化物を再析出させることを目的として、溶接熱影響部を含む溶接部に対して溶接後熱処理を施す。
具体的には、下記(i)式および(ii)式を満足する条件で熱処理を行う。
850≦T≦1200 ・・・(i)
−0.1×T+140≦t≦−0.6×T+780 ・・・(ii)
但し、上記式中におけるTは保持温度(℃)、tは保持時間(min)を意味する。
溶接後熱処理における保持温度を850〜1200℃の範囲内とすることにより、溶接熱影響部においてTi炭硫化物および/またはTi硫化物を再析出させることが可能となる。加えて、保持温度を850℃以上とすることで、溶接残留応力が緩和され、長時間使用中の再熱割れ感受性を低減することが可能となる。また、保持温度が1200℃以下であれば、既存の設備を用いて種々の溶接部に後熱処理を実施することが可能である。保持温度は1100℃以上であるのが好ましく、1150℃以上であるのがより好ましい。
さらに、保持時間が保持温度との関係において、(ii)式を満足することで、溶接熱影響部においてTi炭硫化物および/またはTi硫化物を再析出させることができる。また、保持時間を[−0.1×T+140](min)以上とすることで、溶接残留応力が緩和され、長時間使用中の再熱割れ感受性を低減することが可能となる。加えて保持時間を[−0.6×T+780](min)以下とすることで、結晶粒の成長による靱性低下を防止することが可能となる。
Ti炭硫化物および/またはTi硫化物の再析出をより促進させる観点からは、溶接後熱処理を行った後は、300℃までの平均冷却速度が0.1〜5.0℃/sとなる条件で室温まで冷却することが好ましい。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有するオーステナイト系耐熱合金1〜16を実験室溶解してインゴットを作製した。そして、上記インゴットに対して熱間での鍛造および圧延による成形を行った後、表2に示す条件で最終熱処理を施し、オーステナイト系耐熱合金板を得た。
なお、最終熱処理での加熱温度は、表2に示す「第1冷却工程」における「冷却開始温度」と同じである。2段階での冷却(2段冷却)を行う場合においては、第1冷却工程における平均冷却速度は、冷却開始温度から保持温度までの間における平均冷却速度を意味し、第2冷却工程における平均冷却速度は、保持温度から300℃までの間における平均冷却速度を意味する。また、1段階での冷却(1段冷却)を行う場合においては、第1冷却工程における平均冷却速度は、冷却開始温度から300℃までの間における平均冷却速度を意味する。
Figure 2021025096
Figure 2021025096
その後、各合金板からTEM観察用試験片を切り出し、Ti炭硫化物およびTi硫化物の合計個数密度の測定を行った。具体的には、各試験材から厚さ100nmの薄膜を作製し、TEMにより観察した。この時の倍率は100000倍とした。そして、Ti炭硫化物またはTi硫化物と特定されたものの面積を画像処理により測定し、円相当径が50nm以下であるTi炭硫化物およびTi硫化物の個数の合計を計測した。そして、計測された合計個数を視野の体積で除することにより、合計個数密度を求めた。その結果を表2に併せて示す。
次に、各合金板からそれぞれ2つの試験材を得た。そのうちの1つは、厚さ15mm、幅50mm、長さ100mmであり、1つは厚さ32mm、幅150mm、長さ200mmとした。
さらに、表3に示す化学組成を有する合金(溶接材料XおよびY)を実験室溶解して鋳込んだインゴットから、熱間での鍛造、圧延および機械加工により、外径1.2mmの溶接材料(溶接ワイヤ)を作製した。
Figure 2021025096
上記厚さ15mmの試験材には、その長手方向に角度30°、ルート厚さ1mmのV開先を加工した後、上述した溶接材料を用いてTIG溶接により開先内に多層溶接を行い、溶接継手を作製した。
そして、上記の溶接継手において、溶接金属の初層部の化学組成の測定を行った。各溶接継手の溶接金属の化学組成を表4に示す。
Figure 2021025096
その後、溶接熱影響部を含む溶接部に対して、表5に示す条件で溶接後熱処理を施した。そして、溶接熱影響部の溶接溶融線から母材側に1mmの位置からTEM観察用試験片を切り出し、Ti炭硫化物およびTi硫化物の合計個数密度の測定を行った。測定方法は母材における場合と同じである。
Figure 2021025096
続いて、各溶接継手から溶接金属が平行部の中央となるようにJIS Z 2241(2011)に記載される直径6mm、標点距離30mmの丸棒クリープ破断試験片を採取して、700℃、170MPaの条件でクリープ破断試験を行った。試験は、JIS Z 2271(2010)に準拠して行った。なお、クリープ破断時間が、2000h以上となるものを合格(○)とし、2000h未満のものを不合格(×)とした。
一方、厚さ32mmの溶接母材用合金板には、複雑な溶接部形状における厳しい応力状態を再現するため、JIS Z 3158(1993)に記載のy型溶接割れ試験片に準拠した試験片を機械加工により作製し、TIG溶接により開先に単層溶接を行い、溶接継手を作製した。そして、上記と同様に、溶接熱影響部を含む溶接部に対して、表5に示す条件で溶接後熱処理を施した。
得られた溶接継手に700℃×500時間の時効熱処理を行い、次の試験に供した。上記溶接継手の各5か所から採取した試料の横断面を鏡面研磨、腐食した後、光学顕微鏡により検鏡し、溶接熱影響部における割れの有無を調査した。そして、5個の全ての試料で割れのない溶接継手を「○」とし、5個の試料のうち少なくとも1個の試料に割れが認められた場合「×」とした。
それらの結果を表6にまとめて示す。
Figure 2021025096
表6に示すように、母材中および溶接熱影響部中の双方に含まれる50nm以下のTi炭硫化物およびTi硫化物の合計個数密度が本発明の規定範囲内である試験No.1〜21は、クリープ破断強度および耐再熱割れ性ともに良好な結果を示した。
これに対して、溶接熱影響部中のTi炭硫化物およびTi硫化物の合計個数密度が本発明の規定値未満である試験No.22、23および25は、十分なクリープ破断強度が得られなかった。また、溶接熱影響部中のTi炭硫化物およびTi硫化物の合計個数密度が本発明の規定値を超える試験No.24は、十分なクリープ破断強度および耐再熱割れ性が得られなかった。
本発明のオーステナイト系耐熱合金溶接継手は、耐再熱割れ性と長時間クリープ破断強度との両方に優れる。このため、本発明のオーステナイト系耐熱合金溶接継手は、発電用ボイラの過熱器管、再熱器管等としてのみならず、主蒸気管、再熱蒸気管等の大径、厚肉の高温部材として使用されるのに好適である。

Claims (3)

  1. 母材と溶接金属とを含む溶接継手であって、前記母材と前記溶接金属との境界の前記母材側には、溶接熱影響部が形成されており、
    前記母材の化学組成が、質量%で、
    C:0.009%以下、
    Si:2.0%以下、
    Mn:3.0%以下、
    P:0.040%以下、
    S:0.0001〜0.0100%、
    O:0.010%以下、
    N:0.020%以下、
    Cr:25.0〜38.0%、
    Ni:40.0〜60.0%、
    W:3.0〜10.0%、
    Ti:0.01〜1.20%、
    Al:0.30%以下、
    B:0.0001〜0.010%、
    Zr:0.0001〜0.50%、
    Co:0〜1.0%、
    Cu:0〜1.0%、
    Mo:0〜1.0%、
    V:0〜0.5%、
    Nb:0〜0.5%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    前記母材中および前記溶接熱影響部中に含まれる粒子径が50nm以下のTi炭硫化物およびTi硫化物の合計個数密度が50〜500個/μmであり、
    前記溶接金属の化学組成が、質量%で、
    C:0.18%以下、
    Si:2.0%以下、
    Mn:3.0%以下、
    P:0.040%以下、
    S:0.0100%以下、
    O:0.020%以下、
    Cr:20.0〜38.0%、
    Ni:40.0〜60.0%、
    MoおよびWから選択される1種以上の合計:3.0〜13.0%、
    Ti:0.01〜1.50%、
    N:0.20%以下、
    Al:1.5%以下、
    B:0.0001〜0.01%、
    Zr:0.0001〜0.50%、
    Co:0〜1.0%、
    Cu:0〜1.0%、
    V:0〜0.5%、
    Nb:0〜0.5%、
    残部:Feおよび不純物である、
    オーステナイト系耐熱合金溶接継手。
  2. 前記母材の化学組成が、質量%で、
    Co:0.01〜1.0%、
    Cu:0.01〜1.0%、
    Mo:0.01〜1.0%、
    V:0.01〜0.5%、および
    Nb:0.01〜0.5%、
    から選択される1種以上を含有する、
    請求項1に記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手。
  3. 前記母材の化学組成が、質量%で、
    C:0.0001〜0.009%、
    を含有する、
    請求項1または請求項2に記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手。

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