本発明の一実施態様では、前記凸部は、前記凹部に、前記第1パッドと前記第2パッドとが対向する方向に垂直な方向に遊びをもって収容される。かかる実施態様では、第1及び第2係合構造が蟻溝に対して蟻溝の長手方向に垂直な方向に遊びをもって係合する場合にも、凸部を凹部に確実に収容させることができる。これは、ホルダに対して第1及び第2パッドを装着する作業を容易にするとともに、凸部が凹部の内面に衝突して欠損する等の事故が起こる可能性を低減するのに有利である。
本発明の一実施態様では、前記凸部は、前記蟻溝の幅方向と平行な方向に延びている。かかる実施態様は、蟻溝に第1係合構造及び第2係合構造のうちの一方のみが係合されたときに凸部が必ず凹部に収容されない構成を実現するのに有利である。このため、ホルダに対するパッドの誤装着を見落とす可能性が更に低減する。
本発明の一実施態様では、前記凸部の、前記蟻溝の幅方向と平行な方向に沿った寸法が25mm以上である。かかる実施態様は、蟻溝に第1係合構造及び第2係合構造のうちの一方のみが係合されたときに凸部が必ず凹部に収容されない構成を実現するのに有利である。このため、ホルダに対するパッドの誤装着を見落とす可能性が更に低減する。
本発明の一実施態様では、前記第1パッドの摩擦面に溝が設けられている。前記凸部は、前記溝の底より前記摩擦面から遠い位置に配置されている。かかる実施態様によれば、第1パッドの摩擦材が摩耗しても、凸部が摩耗する可能性を低減することができる。例えば凸部が摩擦材と異なる材料からなる場合は、制動特性を変化させる可能性がある凸部の摩耗粉の発生を防止することが可能になる。
本発明の一実施態様では、前記第1パッドは、摩擦材と、前記第1係合構造が設けられたアンカープレートとを備える。前記凸部は、前記摩擦材に設けられた孔に嵌入された部材の一部である。かかる実施態様によれば、従来のパッドの金型を用いて本発明のパッドを製造することができる。
前記第1パッドは、摩擦材と、前記第1係合構造が設けられたアンカープレートとを備える。前記凸部は、前記摩擦材と同じ材料からなり、前記摩擦材と一体的に成形されていてもよい。かかる実施態様によれば、凸部が摩耗して摩耗分が発生しても、制動特性が変化する可能性は低い。
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態を構成する主要部材を簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の各図に示されていない任意の部材を備え得る。また、本発明の範囲内において、以下の各図に示された各部材を変更または省略し得る。異なる図面において、同一又は対応する部材には同じ符号が付してある。そのような部材については、重複する説明が省略されており、先行する図面の説明を適宜参酌すべきである。
(実施形態1)
図1は、ホルダ90に装着された、本発明の実施形態1にかかる鉄道車両用ブレーキライニング(以下、単に「ブレーキライニング」という)1の斜視図である。図2はブレーキライニング1の分解斜視図、である。図3はブレーキライニング1の別の方向から見た分解斜視図である。図4は、図1の4−4線を含む面でのブレーキライニング1の断面図である。図5は、図1の5−5線を含む面でのブレーキライニング1の断面斜視図である。
以下の説明の便宜のため、Z軸方向を上下方向とするXYZ直交座標系を設定する。ブレーキライニング1は、鉄道車両のディスクブレーキに使用される。円板状のディスクローター(図示せず)の回転軸は、X軸と平行である。ディスクローターを挟んで、2つのブレーキライニング1がX軸方向に対向して配置される。ブレーキライニング1は、ホルダ90とともにX軸方向に移動可能である。2つのブレーキライニング1がディスクローターを挟圧して制動力を発揮する。Z軸方向において、矢印の側を「上」側、矢印とは反対側を「下」側という。XY面に平行な方向を「水平方向」という。X軸方向を「厚さ方向」といい、X軸方向において、矢印の側(ディスクローターに近い側)を「表(おもて)」側、矢印とは反対側を「裏」側という。
図2に示されているように、ホルダ90の表面に、上下方向に沿ってまっすぐに延びた蟻溝92が形成されている。蟻溝92の上端は停止壁94で封鎖され、下端は開放されている。蟻溝92の底面92aの下端近傍の位置に、ホルダ90を厚さ方向に貫通する貫通孔95が設けられている。係止ピン96が、ホルダ90の裏側から貫通孔95にX軸方向に挿抜可能に挿入されている。係止ピン96は、ホルダ90に保持されたZ軸に平行な軸97に貫通され、軸97周りに回動可能である。図2に示すように、底面92aから係止ピン96を突出させることが可能である。図3に示されているように、ホルダ90の裏面に、ホルダ90をキャリパ(図示せず)に保持させるための連結部98が設けられている。
図4に示されているように、蟻溝92の長手方向に垂直な面に沿った断面形状は、略台形(またはダブテイル形状)である。即ち、蟻溝92の幅(Y軸方向寸法)が底面92aからX軸方向に離れるにしたがって狭くなるように、蟻溝92の両側面が傾斜している。この結果、蟻溝92の幅方向の両端縁に、蟻溝92の幅方向の中央に向かって突出した、略楔形状断面を有する係止突起93a,93bが設けられている。係止突起93a,93bは、蟻溝92の全長にわたって延びている(図2参照)。
ブレーキライニング1は、第1パッド10と第2パッド20とを備える。第1パッド10と第2パッド20とは、後述する凸部15及び凹部25を除いて、両者が当接される第1端12a,22a(図3参照)を含む水平面(XY面)に対して鏡像対称である。
図3に示されているように、第1及び第2パッド10,20は、アンカープレート11,21と摩擦材17,27とが厚さ方向に積層されて一体化されたものである。アンカープレート11,21は、金属板をプレス成型等により所望する形状に成型したものである。アンカープレート11,21の材料は、制限はないが、鉄鋼材料、中でも一般構造用鉄鋼材料、特にSS材(例えばSS400)を用いうる。図2に示されているように、摩擦材17,27の表(おもて)面が、ディスクローターに圧接される摩擦面18,28である。摩擦面18,28には、水や摩耗粉の除去や制動時の振動及び音の低減等を目的とする所定深さの溝19,29が設けられている。摩擦材17,27は、合成樹脂をバインダー樹脂(結合材)とし、これに炭素粉、鉄粉等の摩擦成分材を混合した合成樹脂系摩擦材である。一例を挙げると、バインダー樹脂としてフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂20〜30体積%、摩擦成分材として黒鉛粒子20〜30体積%、ゴムダスト5〜10体積%、硫酸バリウム等の無機粒子20〜30体積%、有機繊維5〜10体積%、鉄粉3〜10体積%を混合した摩擦材材料を、金型内に、予め載置しておいたアンカープレート(11,21)上に投入し、圧縮成形させながら加熱硬化させて成形する。アンカープレート11,21と摩擦材17,27とが強固に一体化された第1及び第2パッド10,20が得られる。
図3に戻り、第1及び第2パッド10,20の裏面から嵌合突起12,22がホルダ90に向かって突出している。嵌合突起12,22は、アンカープレート11,21を所定形状に成形することにより形成されたものである。嵌合突起12は、第1端12aから第2端12bまで上下方向に沿って延び、嵌合突起22は、第1端22aから第2端22bまで上下方向に沿って延びている。
図4に示されているように、嵌合突起22の長手方向に垂直な面に沿った断面形状は、略台形(またはダブテイル形状)である。嵌合突起22は、ホルダ90の蟻溝92に嵌合可能な蟻ほぞとして機能する。即ち、嵌合突起22の幅(Y軸方向寸法)がX軸方向に沿ってホルダ90に近づくにしたがって大きくなるように、嵌合突起22の両側面が傾斜している。この結果、嵌合突起22の幅方向の両端縁に、嵌合突起22の幅方向の外側に向かって突出した、略楔形状断面を有する係合突起23a,23bが設けられている。係合突起23a,23bは、嵌合突起22のほぼ全長にわたって延びている。図4のように嵌合突起22が蟻溝92に正しく嵌合すると、係合突起23a,23bが係止突起93a,93bに係合する。これにより、第2パッド20は、ホルダ90に水平方向(X軸方向及びY軸方向)に位置規制される。図示を省略するが、第1パッド10の嵌合突起12も、嵌合突起22の係合突起23a,23bと同様に機能する係合突起13a,13bを備える(図3参照)。本発明では、第1パッド10の係合突起13a,13bを「第1係合構造」といい、第2パッド10の係合突起23a,23bを「第2係合構造」という。
図3に示されているように、第1パッド10は、第2パッド20に対向する端面14に、第1端12aよりも第2パッド20に向かって突出した凸部15を備える。凸部15は、Y軸方向に延びたリブ状の突起である。本実施形態1では、アンカープレート11に摩擦材17を一体的に成形した後、摩擦材17の端面14に長孔を形成し、当該長孔に、摩擦材17とは別個の部材である略矩形の薄板を、その一部が突出するように嵌入している。凸部15は、突出した薄板の一部である。薄板は、長孔から脱落しないように、強固に固定されている。薄板の材料は、制限されないが、樹脂材料又は金属材料を用いることができ、衝突等によって破損しない程度の耐衝撃性(または靭性)を有することが好ましい。具体的には、ナイロンを用いることができる。凸部15は、摩擦材17の摩擦面18からX軸方向に可能な限り離れていることが好ましく、具体的には、溝19の底(溝19の内面のうちアンカープレート11に最も近い部分)よりも摩擦面18から遠い位置に配置されていることが好ましい。これは、摩擦材17とともに凸部15が摩耗して、凸部15の摩耗粉が制動特性を変化させるのを回避するためである。本実施形態1では、凸部15は嵌合突起12の略台形の領域に配置されている。
図2に示されているように、第2パッド20は、第1パッド10に対向する端面24に設けられた凹部25を備える。凹部25は、Y軸方向に延びた長孔である。本実施形態1では、アンカープレート21に摩擦材27を一体的に成形した後、摩擦材27の端面24に凹部25を形成している。凸部15と同様に、凹部25は、摩擦材27の摩擦面28からX軸方向に可能な限り離れていることが好ましく、本実施形態1では嵌合突起22の略台形の領域に形成されている。
ホルダ90に対する第1及び第2パッド10,20の装着方法を説明する。
図2において、底面92aから係止ピン96が突出していない状態で、蟻溝92の下端から、蟻溝92に、第2パッド20の嵌合突起22(図3参照)を挿入し、続いて、第1パッド10の嵌合突起12(図3参照)を挿入する。その後、ホルダ90の裏側から、貫通孔95に係止ピン96を挿入する。第1及び第2パッド10,20は、上下方向に互いに隣接してホルダ90の蟻溝92に装着される(図1参照)。
図5に示されているように、第1パッド10の凸部15が、第2パッド20の凹部25に収容されている。係合突起13a,13b及び係合突起23a,23bが蟻溝92に係合した状態で上下方向に移動可能にするために、蟻溝92と係合突起13a,13b及び係合突起23a,23bとの間には水平方向にわずかな隙間(遊び)が設けられている。この隙間は、第1パッド10と第2パッド20との間で水平方向に相対的な位置ずれを生じさせうる。凸部15は、凹部25に、この水平方向の位置ずれを可能にする遊びをもって収容される。即ち、凹部25のX軸方向寸法及びY軸方向寸法は、第1パッド10に対して第2パッド20が水平方向に位置ずれしても凸部15が確実に凹部25に挿入されるように、凸部15のX軸方向寸法及びY軸方向寸法よりもわずかに大きい。また、凹部25の深さ(Z軸方向寸法)は、第1パッド10の嵌合突起12の第1端12a(図3参照)と第2パッド20の嵌合突起22の第1端22a(図3参照)とが上下方向に当接できるように、凸部15の上下方向の突出長より深い。
第1パッド10の嵌合突起12の第1端12aと第2パッド20の嵌合突起22の第1端22aとを上下方向に当接させ、且つ、第2パッド20の嵌合突起22の第2端22b(図3参照)を蟻溝92の停止壁94に上下方向に当接させたとき、係止ピン96を貫通孔95に挿入し底面92aから突出させることができる。第1パッド10の嵌合突起12の第2端12b(図3参照)は係止ピン95に上下方向に当接または対向する。第1及び第2パッド10,20は、ホルダ90に上下方向に位置規制されて装着される。
本実施形態1の作用を、従来のブレーキライニングと比較して説明する。
図6及び図7は、従来のブレーキライニング900の分解斜視図である。ブレーキライニング900は、実施形態1のブレーキライニング1と同様に、第1パッド910と第2パッド920とを備える。但し、第1パッド910は、実施形態1のパッド10に設けられた凸部15を備えず、第2パッド920は実施形態1のパッド20に設けられた凹部25を備えない。これらを除いてブレーキライニング900はブレーキライニング1と同じである。図示を省略するが、第1及び第2パッド910,920は、実施形態1(図1参照)と同様に、ホルダ90の蟻溝92に互いに隣接して装着される。
ホルダ90はディスクローターにX軸方向に対向し、且つ、ホルダ90とディスクローターとの間隔は狭い。第1及び第2パッド910,920をホルダ90に装着する際には、ホルダ90とディスクローターとの間に、第2パッド920及び第1パッド910を下から順に挿入することになる。このため、図8に示す第2パッド920の誤装着が起こる可能性がある。図9は、図8の9−9線を含む面での断面図である。図10は、図8の10−10線を含む面での断面斜視図である。
図9を図4と比較すれば容易に理解できるように、第2パッド920の係合突起23aが蟻溝92の係止突起93aに係合していない。このため、第2パッド920はホルダ90及び第1パッド910に対して傾斜している(図8参照)。但し、図10に示すように、第2パッド920の第1端22a(図7参照)と第1パッド910の第1端12a(図7参照)とは当接するので、実施形態1(図5参照)と同様に、ホルダ90の裏側から係止ピン96を挿入することは可能である。
第2パッド920の誤装着は、係合突起23bが蟻溝92の係止突起93bに係合していない場合や、係合突起23a,23bが蟻溝92の係止突起93a,93bにそれぞれ係合していない場合にも起こりうる。これらの場合も、図9と同様に、ホルダ90の裏側から係止ピン96を挿入することは可能である。
第2パッド920は、上下方向には第1パッド910によって支持され、X軸方向にはホルダ90とディスクローターとの間に挟まれているので、誤装着された第2パッド920がホルダ90から直ちに落下するとは限らない。また、第2パッド920は第1パッド910より上側にあるので、作業者が誤装着された第2パッド920の傾き(またはX軸方向の突出)に気づかない可能性がある。このように、従来のブレーキライニング900では、第2パッド920の誤装着を見落としてしまう可能性が高い。
図11は、第2パッド20がホルダ90に誤装着された本実施形態1にかかるブレーキライニング1の斜視図である。図12は、図11の12−12線を含む面でのブレーキライニング1の断面図である。図13は、図11の13−13線を含む面でのブレーキライニング1の断面斜視図である。図12に示されているように、図9と同様に、第2パッド20の係合突起23aが蟻溝92の係止突起93aに係合していない。第2パッド20はホルダ90及び第1パッド10に対して傾斜している(図11参照)。
第2パッド20が誤装着されることによって、第2パッド20の凹部25(図2参照)の水平方向の位置が変化する。このため、図13に示すように、第1パッド10の凸部15は、第2パッド20の凹部25に収容されず、第2パッド20の第1パッド10に対向する端面24(図2参照)に当接している。凸部15のZ軸方向の突出長だけ、第1パッド10の第1端12a(図3参照)と第2パッド20の第1端22a(図3参照)とが離間する。即ち、図5の状態に比べて、図13では第1パッド10は凸部15の突出長だけ(即ち、第1端12aと第2端22aとの間の距離だけ)下方に位置ずれしている。このため、ホルダ90の裏側から貫通孔95に挿入した係止ピン96の先端は第1パッド10の嵌合突起12(図3参照)に当接し、係止ピン96を底面93aから突出させることができない。第1パッド10を係止ピン96で係止することができない。第1パッド10から手を離すと、第1及び第2パッド10,20はホルダ90から落下してしまう。このため、作業者は、第1及び第2パッド10,20のいずれかが誤装着されていることに気づく。
第2パッド20の誤装着は、上記の例(図12参照)に限られず、係合突起23bが蟻溝92の係止突起93bに係合していない場合や、係合突起23a,23bが蟻溝92の係止突起93a,93bにそれぞれ係合していない場合にも起こりうる。このような場合であっても、第1パッド10の凸部15は、第2パッド20の凹部25に収容されないから、作業者は、誤装着に気づくことができる。
図示を省略するが、上記と異なり、ホルダ90に対して、第2パッド20が正常に装着され、第1パッド10が誤装着された場合にも、凸部15が凹部25に収容されない。従って、本実施形態1は、第1パッド10の誤装着の検知にも有効である。
このように、本実施形態1では、第1及び第2パッド10,20がホルダ90の蟻溝90に正常に装着されたとき凸部15が凹部25に収容され(図5参照)、第1及び第2パッド10,20のうちの一方のみがホルダ90の蟻溝90に誤装着されたとき凸部15が凹部25に収容されない(図13参照)。このため、ブレーキライニング1は、ホルダ90に対するパッド10,20の誤装着を容易に検知可能であり、安全性に優れる。
なお、第1パッド10については、下方から第1パッド10を視認可能であることが多いため、本発明によらずとも、第1パッド10の誤装着を見落とす可能性は相対的に低い。
凸部15が、摩擦材17とは別個に製造された部材からなる。また、凹部25は、摩擦材17を成形後、端面24に機械加工により形成可能である。このため、第1及び第2パッド10,20は、従来の第1及び第2パッド910,920と同じ金型を用いて製造できる。従って、本実施形態1のブレーキライニング1を、大幅な設計変更やコスト高を招くことなく製造することができる。
(実施形態2)
図14は本発明の実施形態2にかかるブレーキライニング2の分解斜視図である。図15はブレーキライニング2の別の方向から見た分解斜視図である。ブレーキライニング2は、実施形態1のブレーキライニング1と同様に、第1パッド210と第2パッド220とを備える。
図15に示されているように、第1パッド210は、実施形態1のパッド10に設けられた凸部15に代えて、凸部215を備える。凸部215は、第2パッド220に対向する端面14から、第1端12aよりも第2パッド220に向かって突出している。凸部215は、摩擦材17と同じ材料からなり、摩擦材17と一体的に成形されている。凸部215は、溝19の底(アンカープレート11に最も近い箇所)よりも摩擦面18から遠い位置にある。
図14に示されているように、第2パッド220は、第1パッド210に対向する端面24に凹部225を備える。凹部225は、第1パッド210の摩擦面18と第2パッド220の摩擦面28との間の溝の底を切り欠くように、Y軸方向に延びている。
上記を除いてブレーキライニング2はブレーキライニング1と同じである。図示を省略するが、第1及び第2パッド210,220は、実施形態1(図1参照)と同様に、ホルダ90の蟻溝92に互いに隣接して装着される。
図16は、第1及び第2パッド210,220が、上下方向に互いに隣接してホルダ90の蟻溝92に正しく装着された状態を、図5と同様に示した断面斜視図である。第1パッド210の凸部215が、第2パッド220の凹部25に収容されている。実施形態1と同様に、蟻溝92に装着された状態で第1及び第2パッド210,220間に水平方向の相対的な位置ずれが生じうる。凸部215は、凹部225に、この水平方向の位置ずれを可能にする遊びをもって収容される。また、凹部225の深さ(Z軸方向寸法)は、第1パッド210の第1端12a(図15参照)と第2パッド220の第1端22a(図15参照)とが上下方向に当接できるように、凸部215の上下方向の突出長より深い。
第1パッド210の嵌合突起12の第1端12aと第2パッド220の嵌合突起22の第1端22aとを上下方向に当接させ、且つ、第2パッド220の嵌合突起22の第2端22b(図15参照)を蟻溝92の停止壁94に上下方向に当接させたとき、係止ピン96を貫通孔95に挿入し底面92aから突出させることができる。第1パッド210の嵌合突起12の第2端12b(図15参照)は係止ピン95に上下方向に当接または対向する。第1及び第2パッド210,220は、ホルダ90に上下方向に位置規制されて装着される。
図17は、第2パッド220がホルダ90に誤装着されたブレーキライニング2を、図13と同様に示した断面斜視図である。図示を省略するが、図12と同様に、第2パッド220の係合突起23aが蟻溝92の係止突起93aに係合していない。このため、第2パッド220は、ホルダ90及び第1パッド210に対して傾斜している。
第2パッド220が誤装着されることによって、第2パッド220の凹部225の水平方向の位置が変化する。このため、図17に示すように、第1パッド210の凸部215は、第2パッド220の凹部225に収容されず、第2パッド220の第1パッド210に対向する端面24(図14参照)に当接している。凸部215のZ軸方向の突出長だけ、第1パッド210の第1端12a(図15参照)と第2パッド220の第1端22a(図15参照)とが離間する。このため、ホルダ90の裏側から貫通孔95に挿入した係止ピン96を底面93aから突出させることができない。第1パッド210を係止ピン96で係止することができない。第1パッド210から手を離すと、第1及び第2パッド210,220はホルダ90から落下してしまう。このため、作業者は、第1及び第2パッド210,220のいずれかか誤装着されていることに気づく。
図示を省略するが、ホルダ90に対して、第2パッド220が正常に装着され、第1パッド210が誤装着された場合にも、凸部15が凹部25に収容されない。従って、本実施形態2は、第1パッド210の誤装着の検知にも有効である。
実施形態1のブレーキライニング1と同様に、本実施形態2のブレーキライニング2も、ホルダ90に対するパッド210,220の誤装着を容易に検知可能であり、安全性に優れる。
凸部215は、摩擦材17と同じ材料を用いて金型内で摩擦材17と一体的に成形されている。このため、凸部215が摩耗したとしても、凸部215の摩耗粉によって制動特性が変化する可能性は低い。
本実施形態2は、上記を除いて実施形態1と同じである。実施形態1の説明が、本実施形態2にも同様に適用される。
上記の実施形態1,2は例示に過ぎない。本発明は、実施形態1,2に限定されず、適宜変更することができる。
凸部15,215及び凹部25,225は、蟻溝92に第1係合構造13a,13b及び第2係合構造23a,23bが係合されたとき凸部15,215が凹部25,225に収容され、蟻溝92に第1係合構造13a,13b及び第2係合構造23a,23bのうちの一方のみが係合されたとき凸部15,215は凹部25,225に収容されないように構成されていればよい。凸部15,215及び凹部25,225の形状や寸法は、この条件を満足する限りにおいて任意に選択しうる。
凸部がY軸方向(蟻溝92の幅方向)に延びていること、即ち、凸部がY軸方向に長軸を有する細長い形状を有することは、蟻溝92に第1係合構造13a,13b及び第2係合構造23a,23bのうちの一方のみが係合されたとき凸部が凹部に収容されない構成を実現するのに有利である。凸部のY軸方向寸法は、蟻溝92や係合構造13a,13b,23a,23bの寸法等にも依存するが、一般に25mm以上、更には30mm以上であることが好ましい。
凸部は、Y軸方向に連続している必要はなく、例えばY軸方向に離間した2つの突起で構成されていてもよい。この場合、凹部は、上記の実施形態1,2の凹部25,225と同様にY軸方向に延びた単一の凹みであってもよいし、2つの突起がそれぞれ収容されるようにY軸方向に離間した2つの凹みであってもよい。
凸部の上下方向の突出長は、凸部が凹部に収容されない場合にはどのようにしても係止ピン96で第1パッドを係止することができないように設定される。この観点から、凸部の突出長は、3mm以上、更には5mm以上、特に7mm以上が好ましい。一方、凸部の突出長が長すぎると、衝突等による凸部の破損が生じやすくなったり、製造が困難になったりする。従って、凸部の突出長は、15mm以下、更には12mm以下、特に10mm以下が好ましい。
凸部は摩擦材17の水平面に平行な端面14に設けられ、凹部は摩擦材27の水平面に平行な端面24に設けられる。上記の実施形態1,2では、端面14と嵌合突起12(即ちアンカープレート11)の第1端12aとは共通する一平面上にあり、端面24と嵌合突起22(即ちアンカープレート21)の第1端22aとは共通する一平面上にあったが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1端12aが端面14より第2パッド側に突出していてもよく、また、第2端22aが端面24より第1パッド側に突出していてもよい。
凸部を備えた第1パッドが上側に配され、凹部を備えた第2パッドが下側に配されてもよい。
本発明のブレーキライニングは、共通するホルダ90の蟻溝92に順次隣接して装着可能な3つ以上のパッドで構成されていてもよい。この場合、全てのパッドは、蟻溝に係合可能な係合構造を備える。また、上下方向に隣接する2つのパッドのうちの一方に凸部が設けられ、他方に当該凸部が収容される凹部が設けられる。
本発明のブレーキライニングが適用されるディスクブレーキのブレーキキャリパーの構成に制限はなく、例えばディスクローターに対してピストンが片側のみに配置される浮動型及び両側に配置される対向型など任意のブレーキキャリパーに本発明を適用可能である。