以下、本開示の実施形態を、図面に基づいて説明する。各図中、同一符号は、同一または同等の構成要素を示している。
〔成分回収機構〕
本開示の成分回収機構は、対象から被回収成分を回収する回収部と、対象から回収部への被回収成分の拡散速度を調節する拡散調節部と、を備える。拡散調節部は、少なくとも一つの環境パラメータの変化に応じて被回収成分の対象から回収部への拡散速度を変化させる。このように、対象から回収部への被回収成分の拡散速度を調節する拡散調節部を設けることにより、環境パラメータを適切に調節して対象から被回収成分を回収する量およびタイミングを適正に調節することができるため、該成分回収機構を例えば後述する成分回収容器に備えることにより、対象からの被回収成分の回収を所望の通りに制御することができる。
上述したような従来技術においては、被回収成分の回収を開始するタイミングで、対象中に磁気ビーズ等を入れる必要があり、また、被回収成分の回収を終了するタイミングで、磁気ビーズ等を対象中から回収する必要があった。このように、磁気ビーズ等を対象から出し入れすることにより、コンタミネーションが生じる虞があった。また、実験操作を人の手で行う場合、被回収成分の回収ができるタイミングに制限があった。これに対して、本開示の成分回収機構によれば、拡散現象を利用して被回収成分を回収することから、従来技術と異なり、回収を開始・終了するタイミングで成分回収機構を対象中から出し入れする必要がなく、密閉状態を保ったまま、被回収成分を回収することができる。よって、従来技術よりもコンタミネーションのリスクを低減して、被回収成分を回収することができる。また、本開示の成分回収機構によれば、拡散速度の調節により、被回収成分を所定のタイミングに回収することができる。さらに、拡散速度の調節により、被回収成分を回収することができるので、磁気ビーズ等を用いた方法を人の手で行う場合と比較して、簡便な操作で回収を行うことができる。
成分回収機構は、例えば、培地等の対象中から不要な成分を被回収成分として除くために用いることもできるし、対象中から有用な成分を被回収成分として回収するために用いることもできる。また、培地等の対象の状態を把握するためのサンプルとして被回収成分を回収するために、成分回収機構を用いることもできる。
図1(a)および(b)を用いて、成分回収機構の具体的な形態の一例について説明する。図1は、成分回収機構23の一例の断面を模式的に示した図である。図1(b)に示すように、回収部20は、外周全体を拡散調節部22によって囲まれていてもよいし、図1(a)に示すように、外周を、被回収成分を拡散または透過させない不透過部41と、拡散調節部22とによって囲まれていてもよい。
〔拡散調節部〕
図2に、拡散調節部の一例の動作を示す。図2に示すように、拡散調節部22は、少なくとも一つの環境パラメータの変化に応じて、回収部20外から回収部20内への被回収成分の拡散速度を調節する。これにより、被回収成分が後述する回収部20へと拡散される。拡散速度の調節としては、回収部20内への被回収成分の拡散が促進される状態/回収部20内への被回収成分の拡散が抑制された状態(拡散が実質的にゼロの場合を含む)の2状態を少なくとも切り替えられればよい。拡散調節部22は、例えば、電磁バルブなど物理的な障壁を利用する方法によって拡散速度を制御してもよいし刺激応答性材料など化学物質の状態変化を用いた方法によって拡散速度を制御してもよい。該構成によれば、環境パラメータを変化させることにより、例えば拡散調節部22に対する被回収成分の透過性、または電磁バルブ等のバルブの開閉を変化させて、被回収成分の拡散速度を変化させることができる。複雑な装置構成を採用することなく、簡便な構成で、被回収成分の回収を制御することができる。
好ましくは、拡散調節部22は、少なくとも一部に環境応答性材料を含む膜構造物またはバルブである。環境応答性材料としては、刺激応答性材料、形状記憶ポリマー、形状記憶合金、および弾性体などが挙げられる。環境パラメータを変化させることにより、これらの環境応答性材料が構造変化し、膜構造物に対する被回収成分の透過性が変化し、あるいはバルブを構成する部材が伸縮や屈曲などの変形を起こすこと等によりバルブが開閉して、被回収成分の拡散速度が変化する。
環境応答性材料が応答する環境パラメータは特に限定されないが、例えば環境応答性材料が刺激応答性材料である場合には、温度、光、pH、磁場、電場、音波、酸化還元、および分子濃度等の刺激;環境応答性材料が、形状記憶ポリマーの場合には光および温度;環境応答性材料が、形状記憶合金の場合には温度;または環境応答性材料が、弾性体である場合には、圧力が挙げられる。
拡散調節部22は、上述した環境応答性材料の中でも、特に、刺激応答性材料を含むことが好ましい。拡散調節部22が刺激応答性材料を含むことにより、拡散調節部22に対して与える刺激を制御することによって、例えば拡散調節部22に対する被回収成分の透過性、回収部20内の表面と被回収成分との親和性を変化させて、被回収成分の拡散速度を変化させることができる。よって、複雑な装置構成を採用することなく、簡便な構成で被回収成分の回収を制御することができる。
好ましくは、拡散調節部22は、少なくとも一部に刺激応答性材料を含む膜構造物またはバルブである。刺激応答性材料の種類は特に限定されず、上述したような特定の刺激に対し応答する材料を適宜使用することができる。これらの刺激応答性材料が刺激を受けて構造変化することにより、膜構造物に対する被回収成分の透過性が変化し、あるいはバルブを構成する部材が伸縮や屈曲などの変形を起こすこと等によりバルブが開閉する。よって、拡散調節部22を介した被回収成分の拡散速度を調節することができる。
一例において、刺激応答性材料は、刺激によって、凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料であり得る。このような刺激応答性材料としては、温度応答性材料、pH応答性材料、分子応答性材料、光応答性材料、酸化還元応答性材料、および音波応答性材料等を用いることができる。
刺激応答性材料としては、上述した各種刺激の中でも、刺激応答性材料の局所的な加熱および熱拡散により、対象の温度上昇を実質的に悪影響がない範囲に抑制することが可能であることから、温度応答性材料を用いることが好ましい。温度応答性材料としては、例えば、下限臨界溶液温度(LCST;Lower Critical Solution Temperature)型高分子、および上限臨界溶液温度(UCST;Upper Critical Solution Temperature)型高分子を用いることができる。水溶液中において、LCST型高分子は、LCST以下の温度では親水性(コイル状;膨潤状態)であり、LCSTより高い温度となると、疎水性(グロビュール状;凝集状態)へと相転移する。水溶液中において、UCST型高分子は、UCST未満の温度では疎水性(グロビュール状;凝集状態)であり、UCST以上の温度となると、親水性(コイル状;膨潤状態)へと相転移する。
上述したLCST型高分子としては、ポリアミド系LCST型高分子、ポリエーテル系LCST型高分子、ホスホエステル系LCST型高分子、およびタンパク質を組み込んだポリマーなどを用いることができる。より具体的には、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポロキサマー、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリメチルビニルエーテル、メチルセルロース、Conradらによって報告されているエラスチン含有ポリマー(Conrad et al., (2009));UCST型高分子としては、ポリ(アリルアミン−コ−アリルウレア)、ポリ(アクリルアミド−コ−アクリロニトリル)、ハイドロキシプロピルセルロース、ポロキサマー407等のポロキサマー、メタクリルアミドポリマー、およびスルホベタイン基を有するポリメタクリレートなどを用いることができる。これらの高分子は、単独で、または複数組み合わせて用いることができる。また、LCST型高分子またはUCST型高分子は、イソプロピルアクリルアミド、カプロラクタム、アリルアミン、アリルウレア、スルホベタイン、エチレングリコール、メタクリレート、スチレン、ノルボルネン、ホスファゼン、メチルビニルエーテル、アクリロニトリル、およびラクチドからなる群から選ばれる2以上のモノマーを用いて形成させたブロックコポリマーであってもよい。これらのブロックコポリマーの相転移温度は、用いるモノマーの種類および量比によって調整することができる。また、LCST型高分子と、UCST型高分子とを組み合わせて、刺激応答性材料として用いることもできる。これらの温度応答性材料の相転移温度は、導入する官能基の量等によって適宜調整することができる。例えば、導入する官能基としては、アルキル基、アミド基、ピペラジン基、ピロリジン基、アセタール基、ケタール基、オキサゾリン基、オキシエチレン基、スルホネート基、アルコール基、スルホベタイン基、ウラシル基、ウレイド基、およびグリシンアミド基などを用いることができる。被回収成分の拡散を好適に制御するため、温度応答性材料の相転移温度は、対象の温度とは異なった温度域にあることが好ましい。また、温度応答性材料の相転移温度は、対象および被回収成分に悪影響を与えない温度とすることが好ましい。一例においては、温度応答性材料の相転移温度は、20℃から60℃の範囲とすることが好ましい。対象が、ヒト等の動物細胞を含む培地である場合には、培養温度である37℃前後とは異なった温度域とするために、相転移温度は38℃以上50℃以下とすることが好ましい。
図3を用いて、凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料を含む膜構造物を介した被回収成分の拡散速度の変化について説明する。図3においては、LCST型高分子またはUCST型高分子を含む膜構造物を例に挙げて説明する。図3においては、回収部20と、被回収成分38を含む対象と接触する回収部20外(図3の例では、後述する成分回収容器に備えられた対象導入部11)との境に、拡散調節部22として、LCST型高分子またはUCST型高分子を含む膜構造物を設けた構成を、拡大して示している。図3に示すように、膜構造物に含まれるLCST型高分子はLCSTより高い温度において、UCST型高分子はUCST未満の温度において、凝集状態(状態X)である。LCST型高分子については、温度をLCST未満とすることにより、またUCST型高分子については、温度をUCST以上とすることにより、膨潤状態(状態Y)へと相転移する。親水性の膨潤状態において、対象中の被回収成分38が、拡散調節部22(膜構造物)を透過して回収部20へと移動することが可能となる。よって、回収部20内外の被回収成分38の濃度差に従って、被回収成分38が回収部20外(対象導入部11内)から回収部20内へと拡散する。以上より、温度制御によって、被回収成分38の拡散速度を変化(図3の例においては、拡散が実質的にゼロとみなされる状態/拡散が起きている状態の2段階)させて、被回収成分38の回収部20への回収を制御することができる。
なお、理論に束縛されることを望むものではないが、刺激応答性材料の膨潤状態(状態Y)において、被回収成分38が、拡散調節部22(膜構造物)を透過することが可能となる理由として、(i)膨潤状態においては拡散調節部22(膜構造物)を構成する刺激応答性材料のゲルが低密度化することで、被回収成分がゲルの隙間を透過することが可能になること、および(ii)膨潤状態においては刺激応答性材料が親水性になることで、拡散の駆動力となる水分子が拡散調節部22(膜構造物)を透過することが可能になること、等が想定される。
なお、図示しないが、図3に示すような膜構造物を拡散調節部22とする場合には、事前に刺激応答性材料の収縮量を想定して、膨潤状態において余裕をもたせて成分回収機構23を設計することが好ましい。
また、図4に示すように、凝集状態から膨潤状態へと可逆的に変化する刺激応答性材料49の末端を回収部20に結合させて、回収部20を被覆する膜構造物を形成し、拡散調節部22としてもよい。図4においては、被回収成分38を保持することになる回収部20に刺激応答性材料49の末端を結合させて、回収部20外(図4の例では、後述する成分回収容器に備えられた11)との境に膜構造物を設けた構成を、拡大して示している。凝集状態(状態X)の刺激応答性材料49は、刺激によって膨潤状態(状態Y)へと相転移する。膨潤状態において、回収部20外(図4の例においては対象導入部11内)の被回収成分38が、拡散調節部22(膜構造物)を透過して、回収部20内へと拡散する。よって、刺激によって、被回収成分38の拡散速度を変化させることができる。
また、凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料を含むバルブを介した被回収成分の拡散速度の変化について説明する。刺激によって、刺激応答性材料が凝集状態から膨潤状態へと変化することで、刺激応答性材料の体積が変化する。これにより、バルブを構成する部材が伸縮や屈曲などの変形を起こしてバルブが開閉し、被回収成分の拡散速度が変化する。
また、上述したpH応答性材料としては、例えば、ポリサイアミンを用いることができる。ポリサイアミンを含むゲルは、pHを低下させることによってアミノ基がプロトン化し、主鎖が剛直になることにより、凝集状態から膨潤状態へと変化する。よって、pH応答性材料を含む膜構造物またはバルブを拡散調節部22とし、拡散調節部22外部のpHを調節することによって、拡散調節部22を介した被回収成分の拡散速度を調節することができる。
上述した分子応答性材料としては、例えばレクチンなどの分子認識能を有する分子を固定化したゲル、または酵素を固定化したゲルを用いることができる。これらの分子応答性材料を含むゲルは、分子の結合の有無によって、凝集状態から膨潤状態へと変化する。よって、分子応答性材料を含む膜構造物またはバルブを拡散調節部22とし、拡散調節部22外部の分子濃度を調節することによって、拡散調節部22を介した被回収成分の拡散速度を調節することができる。
上述した光応答性材料としては、例えばアゾベンゼン基とシクロデキストリン基を含むポリマー、アゾベンゼン結合ポリアクリル酸、およびニトロ桂皮酸エステル化ポリエチレングリコールを用いることができる。これらの光応答性材料からなるゲルは、さまざまな波長の光の照射によって凝集状態から膨潤状態へと変化する。よって、光応答性材料を含む膜構造物またはバルブを拡散調節部22とし、拡散調節部22に対する光の照射を調節することによって、拡散調節部22を介した被回収成分の拡散速度を調節することができる。
刺激応答性材料は、酸化還元に対して応答する酸化還元応答性材料であってもよい。酸化還元応答性材料としては、例えばホスト分子シクロデキストリン(CD)および酸化還元応答性ゲスト分子フェロセン(Fc)を側鎖に導入したポリマーや高分子ゲルを用いることができる。これらの酸化還元応答性材料は、酸化還元に応じてゲル内部の架橋密度の変化に伴い、凝集状態から膨潤状態へと変化する。よって、酸化還元応答性材料を含む膜構造物またはバルブを拡散調節部22とし、拡散調節部22外部の酸化剤および/または還元剤の量を調節することにより;あるいは、電位等の刺激を与えることにより、酸化還元応答性材料の酸化還元状態を変化させ、拡散調節部22を介した被回収成分の拡散速度を調節することができる。
刺激応答性材料は、音波に対して応答する音波応答性材料であってもよい。音波応答性材料は、一例においては超音波応答性材料である。超音波応答性高分子材料としては、例えば、Isozakiらによって報告されているペンタメチレン鎖を有するアンチ型2核パラジウム錯体anti-1a(Isozaki et al., (2007))を用いることができる。これらの超音波応答性材料は、超音波の照射の有無によって、凝集状態から膨潤状態へと変化する。よって、音波応答性材料を含む膜構造物またはバルブを拡散調節部22とし、拡散調節部22に対する音波の照射を調節することによって、拡散調節部22を介した被回収成分の拡散速度を調節することができる。
この他、刺激応答性材料は、電場に対して応答する電場応答性高分子材料であってもよい。電場応答性高分子材料としては、例えば、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸−η−ブチルメタクリレート)を用いることができる。ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸−η−ブチルメタクリレート)は負電荷を有し、被回収成分と静電相互作用し、この静電相互作用は電場によって大きく影響される。よって、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸−η−ブチルメタクリレート)を含む膜構造物を拡散調節部22とすることにより、電場印可によって、膜構造物を介した被回収成分の透過性、ひいては拡散速度を調節することができる。
また、刺激応答性材料は、磁場に対して応答する磁場応答性高分子材料であってもよい。磁場応答性高分子材料としては、例えば、弾性を有する材料に、磁性粒子を混合または固定したものを用いることができる。これらの磁場応答性高分子材料を含むゲルによって拡散調節部22であるバルブの部材を構成することにより、磁場によって内部の弾性材料に固定された磁性粒子が誘引されることでバルブの部材が伸縮や屈曲などの変形を起こすこと等により、バルブが開閉する。よって、磁場印可によって、拡散調節部22を介した被回収成分の拡散速度を調節することができる。
刺激応答性材料が高分子材料である場合、刺激応答性材料は、例えば直鎖状のポリマー、または分岐状のポリマーであり得る。刺激応答性材料は、環状のポリマーであってもよい。刺激応答性材料の分子間は架橋されてもよい。刺激応答性材料はポリマーブラシ構造を形成していてもよい。なお、被回収成分の分子サイズが小さい場合は、被回収成分の不必要な拡散を防ぐために、架橋やポリマーブラシ構造等により刺激応答性材料を高密度とすることが好ましい。
環境応答性材料は、上述したような刺激応答性材料に加えて、特定の制御信号を刺激応答性材料が応答する刺激へと変換する制御信号受信材料を含んでいてもよい。環境応答性材料が制御信号受信材料を含むことにより、特定の制御信号を、刺激応答性材料が応答する刺激へと変換することができるため、特定の制御信号を与えることによって拡散速度を制御することができる。
好ましくは、拡散調節部22は、一部に刺激応答性材料と制御信号受信材料とを含む膜構造物またはバルブである。該膜構造物またはバルブ内で、刺激応答性材料と制御信号受信材料とは、制御信号受信材料が発する刺激を、刺激応答性材料が受け取れるように構成されていればよい。一例において、刺激応答性材料と制御信号受信材料とは架橋されている。また、刺激応答性材料と制御信号受信材料とは、刺激応答性材料を硬化させる前に制御信号受信材料を混合して混錬し、その後、刺激応答性材料を硬化させることによって、刺激応答性材料から制御信号受信材料が拡散できない形態としてもよい。
制御信号受信材料としては、刺激応答性材料と好適な組み合わせとなるように選択することができ、例えば、近赤外線を吸収して発熱する近赤外線吸収体、交流磁場の印荷により発熱する磁性ナノ粒子、および光を吸収し酸化還元能を示す酸化チタンに代表される光触媒等を用いることができる。
刺激応答性材料としては、上述した各種刺激応答性材料を用いることができる。上述した刺激応答性材料の中でも、刺激によって、凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料が好ましい。
刺激応答性材料としては、凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料の中でも、温度応答性材料が特に好ましい。一例においては、環境応答性材料は、刺激応答性材料として温度応答性材料を、かつ制御信号受信材料として近赤外線を吸収する近赤外線吸収体を含み、温度応答性材料は、近赤外線吸収体の温度変化に応じて被回収成分の拡散速度を変化させる。該構成においては、近赤外線を制御信号として用い、制御信号受信材料として近赤外線吸収体を用いる。近赤外線吸収体は、制御信号として照射された近赤外線を吸収して熱を放出する。該熱によって、近赤外線吸収体近傍の温度応答性材料の構造が変化し、例えば拡散調節部22に対する被回収成分の透過性やバルブの開閉を変化させて、被回収成分の拡散速度を変化させることができる。なお、温度応答性材料は温度に応じて可逆的に構造が変化することから、近赤外線の照射を止め、近赤外線吸収体が熱を放出しなくなると、温度低下によって温度応答性材料の構造が元の状態に戻り、被回収成分の拡散速度が元の状態に戻る。近赤外線は対象へ悪影響を及ぼさず、近赤外線吸収体近傍のみが加熱され対象は熱拡散により悪影響を及ぼさない範囲でしか加熱されない。よって、本構成によれば、対象および被回収成分への影響が低い形で被回収成分の回収を制御することができる。
近赤外線としては、水分子が吸収しにくい波長を用いることが好ましく、例えば、650nm以上、1000nm以上、1500nm以上;950nm以下、1350nm以下、1800nm以下の波長を用いることができる。
近赤外線吸収体としては、有機化合物、金属構造体、カーボン構造体などを用いることができる。なお、近赤外線吸収体としては、製造時に温度応答性材料と混合しても沈降しづらいものが好ましく、かつ近赤外線を効率よく吸収させるためには表面積が大きいものが好ましいことから、サイズの小さいものを用いることが好ましい。
近赤外線吸収体としては、金属構造体の中でも、アスペクト比を調整することにより吸収スペクトルを変化させることができるため、金属ナノロッドが好ましく、安定性の観点から金ナノロッドがより好ましい。金属ナノロッドとしては、短手方向の円相当直径が5〜100nm程度のものを用いることができる。
有機化合物としては有機色素が好ましく、有機色素としては、シアニン色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン化合物、ニッケルジチオレン錯体、スクアリウム色素、キノン系化合物、ジインモニウム化合物、アゾ化合物、ポルフィリン化合物、ジチオール金属錯体、ナフトキノン化合物、およびジインモニウム化合物等を好適に用いることができる。
また、有機化合物として、有機色素を含有させた樹脂製の粒子を用いてもよい。なお、有機色素を含有させた樹脂の形状は、粒子状に限定されない。有機色素を樹脂に含有させることで、対象中への有機色素の漏出を抑制することができるため、有機色素が対象に影響を及ぼすことを避ける上で有効である。
カーボン構造体としては、カーボンナノチューブ、フラーレン、およびカーボンナノワイヤー等を好適に用いることができる。カーボンナノチューブとしては、直径が0.4〜50nm程度のものを用いることができる。
これらの近赤外線吸収体は、単独で、または複数を組み合わせて用いることができる。
これらの近赤外線吸収体には、温度応答性材料と架橋するために、修飾によって適宜官能基を付加してもよい。特に、近赤外線吸収体として、金属構造体またはカーボン構造体を用いる場合、温度応答性材料と架橋するために、修飾によって表面に官能基を付加することが好ましい。金属構造体に付加する官能基は、例えば、メチル基、アミノ基、およびカルボキシル基等であり得る。また、カーボン構造体に付加する官能基は、例えば、メチロール基、ニトロ基、カルボキシル基、アシルクロリド基、およびボロン酸基等であり得る。
好ましくは、拡散調節部22は、少なくとも一部に温度応答性材料と近赤外線吸収体とを含む膜構造物またはバルブである。一例において、膜構造物またはバルブは、温度応答性材料と近赤外線吸収体とを、架橋剤によって架橋した架橋体を含み、近赤外線の照射による該架橋体の構造変化によって、被回収成分の拡散速度を変化させる。
図5を用いて、凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料と、制御信号受信材料とを含む膜構造物を介した被回収成分の拡散速度の変化について説明する。図5においては、温度応答性材料と、近赤外線吸収体とを含む膜構造物に近赤外線を送ることにより、膜構造物を介した被回収成分の拡散速度が変化する構成を例に挙げて説明する。図5の例においては、回収部20と、被回収成分38を保持する対象と接触する回収部20外(図5においては、後述する成分回収容器に備えられた対象導入部11)との境に、拡散調節部22として、UCST型高分子と、近赤外線吸収体39とを含む膜構造物を設けた構成を、拡大して示している。なお、図示しないが、近赤外線吸収体39とUCST型高分子とは架橋されている。図5に示すように、膜構造物に含まれるUCST型高分子はUCST未満の温度において、凝集状態(状態X)である。該膜構造体に、近赤外線(制御信号34)を照射すると、近赤外線吸収体39は、近赤外線を吸収して発熱し、近赤外線吸収体39の周囲が、局所的に温度上昇する。この温度上昇により、温度がUCST以上となることにより、UCST型高分子が膨潤状態(状態Y)へと相転移する。親水性の膨潤状態において、対象中の被回収成分38が、拡散調節部22(膜構造物)を透過することが可能となる。よって、回収部20内外の被回収成分38の濃度差に従って、被回収成分38が回収部20外(対象導入部11内)から回収部20内へと拡散する。以上より、近赤外線を照射することによって、被回収成分38の拡散速度を変化させることができる。
図示しないが、膜構造物がLCST型高分子を含む場合、上記とは反対に、近赤外線の照射によって、膜構造物に含まれるLCST型高分子が、膨潤状態(状態Y)から凝集状態(状態X)へと相転移することで、被回収成分38の拡散速度を変化させることができる。
また、図6に示すように、凝集状態から膨潤状態へと可逆的に変化する刺激応答性材料49の一端を回収部20に結合させ、かつ他端に制御信号受信材料(図6の例においては、近赤外線吸収体39)を結合させて、回収部20を被覆する膜構造物を形成し、拡散調節部22としてもよい。図6においては、被回収成分38を保持することになる回収部20に刺激応答性材料49の一端を結合させ、かつ他端に制御信号受信材料(図6の例においては、近赤外線吸収体39)を結合させて、回収部20外(図6の例では、後述する成分回収容器に備えられた11)との境に膜構造物を設けた構成を、拡大して示している。該膜構造体に、近赤外線等の制御信号34を照射すると、制御信号受信材料(図6の例では近赤外線吸収体39)は、制御信号34を受信して、制御信号34を刺激応答性材料49が応答する刺激へと変換する。凝集状態(状態X)の刺激応答性材料49は、制御信号受信材料によって変換された刺激を受け取って膨潤状態(状態Y)へと相転移する。膨潤状態において、回収部20外(図6の例においては対象導入部11内)の被回収成分38が、拡散調節部22(膜構造物)を透過して、回収部20へと拡散する。よって、刺激によって、被回収成分38の拡散速度を変化させることができる。
なお、回収部20と拡散調節部22とは、同一の材料を含んでいてもよい。一実施形態において、成分回収機構23は、図1(c)に示すように、刺激によって凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料を含む。これにより、刺激応答性材料に回収部20および拡散調節部22の働きを兼ねさせることができる。該成分回収機構23に対して刺激を与えることにより、刺激応答性材料が凝集状態から膨潤状態へと変化する。この変化に際して、凝集状態において刺激応答性材料の外部に存在していた被回収成分が、膨潤状態において刺激応答性材料の内部に移動することが可能となる。よって、刺激により、被回収成分の回収を制御することができる。このように、回収部20と拡散調節部22とを同一の材料によって構成することで、成分回収機構23を、より簡便に製造することができる。
この他、図1(c)の形態において、成分回収機構23は、刺激応答性材料として、電場に対して応答する電場応答性高分子材料を含み、該電場応答性高分子材料に被回収成分を内包させることにより、回収部20および拡散調節部22の働きを兼ねさせてもよい。電場応答性高分子材料としては、例えば、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸−η−ブチルメタクリレート)を用いることができる。ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸−η−ブチルメタクリレート)は負電荷を有し、被回収成分と静電相互作用し、この静電相互作用は電場によって大きく影響される。よって、回収部20が、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸−η−ブチルメタクリレート)等の電場応答性高分子材料を含むことにより、電場印可によって被回収成分と電場応答性高分子材料との静電相互作用を変化させ、被回収成分の拡散係数を変化させることができるので、成分回収機構23への被回収成分の拡散速度を調節することができる。
本形態において、刺激によって凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料としては、上述した温度応答性材料、pH応答性材料、分子応答性材料、光応答性材料、酸化還元応答性材料、および音波応答性材料等を好適に用いることができる。また、本形態において、成分回収機構23は、刺激応答性材料の他、制御信号受信材料を含んでいてもよい。なお、刺激応答性材料および制御信号受信材料の詳細については上述したため、ここでは記載を省略する。
〔回収部〕
回収部20は、上述した拡散調節部22を介して回収部20内に移動した被回収成分を保持する。回収部20の具体的な形態は特に限定されないが、被回収成分を内包することができる多孔質材料を少なくとも一部に含むことが好ましい。より好ましくは、回収部20は、全体が多孔質材料によって形成される。多孔質材料は、共有結合に基づく化学ゲルまたは非共有結合性の分子間力などに基づく物理ゲル等の高分子ゲルであり得、共有結合および非共有結合性の分子間力がゲル構造の形成に寄与した高分子ゲルであってもよい。具体的には、多孔質材料として、アガロース、デキストリン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガムなどの糖鎖から形成されるハイドロゲル;コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン、ゼラチンなどのタンパク質から形成されるハイドロゲル;ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、シリコーンなどの合成高分子から形成されるハイドロゲル;並びにメソポーラスカーボン、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスシリカ等の無機材料を用いることができる。各種被回収成分と同程度の微細孔を形成させやすいことから、回収部は、ハイドロゲルを一部に含むことがより好ましい。
多孔質材料の平均孔径は、被回収成分の分子量や分子サイズによって選択することができ特に限定されないが、例えば5nm以上1mm以下であり得る。多孔質材料の平均孔径は、好ましくは、50nm以上であり;好ましくは、20μm以下である。
回収部20は、成分回収機構23から取り外し可能に構成されていてもよい。これにより、拡散調節部22を介さずに回収部20内に移動した被回収成分を抽出することができるため、成分回収後の被回収成分の抽出をより容易に行うことができる。
一例において、回収部20は、被回収成分の回収部20から対象への再拡散を抑制する再拡散抑制機構を有する。再拡散抑制機構は、被回収成分と、吸着、結合、または親和等して、被回収成分の対象への再拡散を抑制する。また、再拡散抑制機構は、ポリ塩化アルミニウムやポリアクリルアミド等の凝集剤で、被回収成分を回収部20内で凝集させて、被回収成分のサイズを大きくして、被回収成分の再拡散を抑制してもよい。回収部20が、被回収成分の対象への再拡散を抑制する再拡散抑制機構を有することで、被回収成分の対象への再拡散を防いで、被回収成分をより効率よく回収することができる。再拡散抑制機構により、回収部20から対象への再拡散速度が低減される。回収部20から対象への平均再拡散速度は、好ましくは100nmol/h・mm2以下であり、より好ましくは1pmol/h・mm2以下である。回収部20から対象への平均再拡散速度は、親和部を有する回収部20に、平衡状態まで被回収成分を回収させる。被回収成分の回収後、回収部20を、洗浄液で洗浄する。なお、ここで、洗浄液としては、pH、イオン強度、および塩組成などが対象と類似した液体を用いることが好ましく、より好ましくは水溶液であり、さらに好ましくは生理食塩水である。洗浄後、200μLの生理食塩水に1mm2の回収部20を、1時間浸漬する。なお、図1(c)に示すように、回収部20と拡散調節部22とが同一の材料を含む場合、回収部20は最大限膨潤した状態にて浸潤を行う。回収部20を浸潤した後の溶媒を回収し、溶媒中の再拡散した被回収成分の物質量を、HPLCやELISAによって測定する。なお、被回収成分を蛍光や放射性同位体などで標識すれば、標識に応じて蛍光や放射線などを計測することにより、被回収成分の再拡散速度を測定することができる。
成分回収機構は、被回収成分の回収を目的としているものであるので、回収部20中の被回収成分の濃度は、通常、対象中の被回収成分の濃度よりも低い。対象から回収部20へ被回収成分を好適に拡散させるためには、回収部20は、被回収成分の回収を行う前において、被回収成分を含有しないことが好ましい。好ましくは、被回収成分の回収を行う前の回収部20は、体積100μLの回収部20を25℃において、被回収成分の含有量が0.5pmol/L以下である100ng/mL含まない1mLの生理食塩水に1hr浸潤させた後に、生理食塩水中に含まれる被回収成分の濃度が、1.0pmol/L以下となり、より好ましくは1%以下となる。また、回収部20は、薬学的有効成分を含まないことが好ましい。回収部20中に含まれる薬学的有効成分の量は、好ましくは有効量以下である。回収部20中に含まれる薬学的有効成分の量は、好ましくは、0.5mg以下である。
回収部20は、被回収成分と親和性を有する親和部を備えていてもよい。このように、回収部20が、被回収成分と親和性を有する親和部を備えることにより、特定の被回収成分をより効率よく回収することができる。また、回収部20が、被回収成分の回収部20から対象への再拡散を抑制する再拡散抑制機構を有することにより、被回収成分をより高濃度で回収することもできる。親和部は、一例においては、分子間力、静電相互作用、疎水性相互作用、水素結合、共有結合、および配位結合からなる群から選ばれる1または2以上の組み合わせによって、被回収成分と親和する。
親和部は、被回収成分と親和性を有する親和性物質を含み得る。例えば、タンパク質等の特定の被回収成分と特異的に結合する抗体、抗体断片やアプタマー;特定の塩基配列を有する核酸に特異的に結合する一本鎖DNA;および糖鎖に特異的に結合するレクチン等であり得る。また被回収成分が、ビオチンを含む場合、親和部はアビジン類のタンパクであり得;被回収成分がヒスチジンタグを含む場合、親和部はニッケルやコバルトといった金属イオンを含む材料であり得;被回収成分がグルタチオンSトランスフェラーゼタグを含む場合、親和部24はグルタチオンを含む材料であり得る。また、親和部は、被回収成分を特異的に認識する分子インプリント材料であってもよい。また、親和部は、一定以下のサイズの分子しか捕捉できないゼオライトであり得る。
また、親和部は、被回収成分と親和性を有する官能基を含み得る。このような官能基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、スルホン基、活性エステル基およびカルボキシル基等の親水基;ならびにアルキル基、フェニル基およびフルオロアルキル基等の疎水基が挙げられる。回収後の被回収成分を好適に回収部20から抽出する観点からは、官能基と被回収成分との結合は、非共有結合であることが好ましい。
回収部20は、上述した親和部24を、単独で、または複数組み合わせて備えることができる。被回収成分を特異的に回収したい場合には、回収部20に、被回収成分を高い特異性で認識する親和部24を備えることが好ましい。一方で、特定の物質に近い特性を持つ成分を広く回収したい等、用途によっては、特異性がそれほど高くない方が好ましい場合もある。回収部20が親和部24を複数組み合わせて備えることで、被回収成分の性質および回収の目的に応じて、回収部20と被回収成分との親和性を好適に調整することができる。
親和部24が回収部20内に備えられる形態は、特に限定されない。一例においては、図7に示すように、回収部20は多孔質材料を含み、親和部24は、多孔質材料に保持されている。このような回収部20において、環境パラメータの変化により、拡散調節部22を介して回収部20内に拡散された被回収成分38は、親和部24に好適に保持される。親和部24が親和性物質または官能基を含む場合、親和性物質または官能基は、例えば、多孔質材料に架橋されている。図7においては、親和部24が抗体である例を示しているが、抗体を多孔質材料に架橋させる場合、抗原抗体反応に影響がないよう、抗体の定常部を多孔質材料と架橋することが好ましい。また、一例においては、親和部24はビオチンまたはアビジンを含み、一方多孔質材料には、親和部24に対応して、ビオチンまたはアビジンが付加されており、ビオチン‐アビジン間の強固なアフィニティによって、親和部24が多孔質材料に保持される。
一例においては、図8に示すように、回収部20は多孔質材料を備え、親和部24が、担体25を介して前記多孔質材料に結合された親和性物質または官能基を含み、該担体25の外径が、膨潤した状態の前記多孔質材料の最大孔径よりも大きい。なお、ここで多孔質材料の最大孔径は、担体25を含まない状態の多孔質材料について測定した値である。回収部20内への被回収成分38の拡散が抑制された状態においては、担体25の流出は起こらないが、回収部20内への被回収成分の拡散が促進される状態においては、担体25が流出する虞がある。しかしながら、担体25の外径が膨潤した状態の多孔質材料の最大孔径よりも大きければ、親和性物質または官能基と結合した担体25が多孔質材料に保持される。このように、親和性物質または官能基を、担体を介して間接的に回収部20に保持させることで、様々な親和性物質または官能基を多孔質材料に結合させることができ、様々な種類の被回収成分を回収することができる。なお、多孔質材料が「膨潤した状態」とは、多孔質材料の体積が最大となった状態を意味する。担体と結合物質とは、直接結合していてもよく、プロテインA等の分子を介在して結合していてもよい。担体は、アガロース、デキストラン、ポリアクリルアミド、およびポリエチレングリコール等や、それらと架橋剤との架橋体によって構成され得る。このような回収部20は、多孔質材料を硬化させる前に親和性物質または官能基を含む担体25と混練し、その後、多孔質材料を硬化させることによって製造することができる。
また、図1(c)に示すように、成分回収機構23が、刺激によって凝集状態から膨潤状態へと変化する刺激応答性材料を含む場合、親和部24は、該刺激応答性材料に保持されていてもよい。一例においては、親和部24は親和性物質または官能基を含み、親和性物質または官能基は、刺激応答性材料に架橋されている。該成分回収機構23に対して刺激を与えることにより、刺激応答性材料が凝集状態から膨潤状態へと変化する。この変化に際して、凝集状態において刺激応答性材料の外部に存在していた被回収成分が、膨潤状態において刺激応答性材料の内部に移動し、刺激応答性材料に保持されている親和部24と親和する。このように、回収部20と拡散調節部22とを同一の材料によって構成することで、親和部24を備える成分回収機構23を、より簡便に製造することができる。
回収部20は、液体を吸収する余地がある状態であってもよい。回収部20が、液体を吸収する余地がある状態であることで、拡散のみで回収するよりも、素早く被回収成分を回収することができる。回収部20が液体を吸収する余地がある状態とする方法は、特に限定されないが、例えば、回収部20を乾燥させればよい。回収部20を乾燥させることで、素早く被回収成分を回収することができる他、対象中に回収部20内の成分が混入することを防ぐこともできる。また、回収部20を乾燥させることで、水分により劣化の虞がある物質等を上述した親和部等として回収部20にあらかじめ保持させておく場合であっても、安定的に保存することができる。また、回収部20に、吸水性材料が備えられていてもよい。回収部20が吸水性材料を備えることで、回収部20の吸水率をより高めることができ、より迅速な回収を実現することができる。好ましくは、回収部20の吸水率は10%以上500%以下である。より好ましくは、回収部20の吸水率は30%以上であり;200%以下である。なお、回収部20の吸水率は、ASTM D570に準拠して測定した値である。具体的には、まず、回収部から、2インチ径、厚み(0.125または0.250インチ)の試験片を切り出し、試験片の質量を測定する。その後、試験片を、23℃の水中に24時間浸漬して、浸漬後の試験片の質量を測定する。そして、浸漬前の試験片の質量に対する、浸漬によって増加した試験片の質量の割合を、吸水率(%)として算出する。
(不透過部)
不透過部41は、被回収成分を拡散または透過させない。不透過部41の具体的な形態は特に限定されないが、被回収成分に対する親和性を有さない材料によって構成することが好ましい。不透過部41は、例えば、疎水性高分子等の有機材料、または金属薄膜等の無機材料によって構成される。制御信号34によって拡散速度を調節する形態においては、制御信号34を遮断しないことから、不透過部41は疎水性高分子によって構成することが好ましい。また、回収部20として用いた多孔質材料の表面を架橋して、不透過部41としてもよい。
なお、図示しないが、回収部20外部側の表面は、回収部20を構成する材料とは異なる材料によって被覆されていてもよい。回収部20外部側の表面を回収部20を構成する材料とは異なる材料によって被覆することにより、例えば不透過部41へ被回収成分や培地中の成分が吸着することや、回収部20の成分が培地中に漏出すること等を防ぐことができる。また、回収部20外部側の表面が、回収部20を構成する材料とは異なる材料によって被覆されていることにより、回収部20を成分回収機構23から取り外す際に、コンタミネーションが起ることを好適に抑制することができる。
また、図1(a)〜(c)においては、成分回収機構23の全体形状を直方体とする例を図示したが、成分回収機構23の全体形状はこれに限定されない。例えば、成分回収機構23の全体形状は球体であり得る。成分回収機構23の全体形状を球体とすることにより、成分回収機構23の製造が特に容易となる。例えば、図1(b)または(c)に示す形態の球体の成分回収機構23は、例えば、型を用いずとも、液中に材料溶液を滴下する方法(液中滴下法)によって、全体形状を球体として製造することができる。
〔対象〕
被回収成分を回収する対象は、目的に応じて選択することができる。例えば、対象は、細胞や微生物等の培養対象を培養した培地であり得る。また、対象は、PCR(Polymerase Chain Reaction)や無細胞タンパク合成等の生化学反応の反応液であってもよい。また、対象は、化学反応の反応液であってもよい。対象は、液状に限られず、被回収成分が回収部20に拡散で移動できるものであれば、例えばゲル状であってもよい。後述するように、対象は、成分回収時に被回収成分を含んでいればよく、例えば対象中にて培養や生化学反応を行いつつ、培養対象によって分泌された分泌物や、生化学反応によって生じた反応生成物を、被回収成分として回収してもよい。
〔被回収成分〕
被回収成分は、目的に応じて選択することができる。被回収成分は、例えば、培養や生化学反応に関連するタンパク質、低分子化合物、糖、糖鎖、核酸、脂質、代謝物、および細胞であり得る。また、被回収成分は、化学反応の反応物、反応生成物、および副産物等であってもよい。タンパク質としては、生体信号として働くことが知られている、分化誘導因子、細胞増殖因子、抗体、ホルモン、およびケモカインなどを被回収成分とすることができる。低分子化合物としては、酵素やレセプターなどに結合しその活性を阻害する阻害剤や抗生物質などを被回収成分とすることができる。界面活性剤を被回収成分としてもよい。また被回収成分は、複数の成分を含むエクソソームやリポソームなどの小胞、生体材料抽出物や細胞分泌物でもよい。被回収成分は、化学物質に限られず、ウィルスでもよい。
一つの成分回収機構が回収する被回収成分は、一種類であってもよく、または複数種類であってもよい。成分回収機構が回収する被回収成分の種類は、親和部24の種類、回収部の多孔質材料の孔径によって調節することができる。
・回収した被回収成分の抽出
上述した成分回収機構23を用いて被回収成分を回収した後、被回収成分は例えば以下のようにして成分回収機構23から抽出することができる。一例においては、環境パラメータを変化させて、被回収成分が、拡散調節部22を介して拡散できる状態とした上で、成分回収機構23をバッファーに浸す。なお、成分回収機構23から回収部20を取り外して、回収部20のみをバッファーに浸してもよい。バッファーとしては、回収部20内よりも被回収成分の濃度が低いバッファーを用いる。好ましくはバッファーとして被回収成分を含まないバッファーを用いる。バッファーと回収部20内との被回収成分の濃度差により、被回収成分を回収部20からバッファー中に拡散させることができる。別の例においては、成分回収機構23から取り外した回収部20を、酵素、熱、酸、およびアルカリ等により溶解させて、被回収成分を回収する。
〔成分回収容器〕
本開示の成分回収容器は、少なくとも被回収成分の回収を行うための容器である。また、後述するように、一実施形態においては、被回収成分の回収のみならず、培養、生化学反応、化学反応を行いつつ、対象中から所定のタイミングで被回収成分の回収を行うことができる容器であり得る。図9に、成分回収容器の一例を、模式的に示す。図9に示すように、成分回収容器10は、上述した成分回収機構23と、対象13が導入される対象導入部11とを備える。成分回収時には、図9に示すように、拡散調節部22が対象13に接する。対象13が液状である場合には、対象13が対象導入部11から拡散調節部22に浸透して回収部20に接液し、対象から回収部20への被回収成分の拡散が可能になる。よって、拡散調節部22が回収部20外から回収部20内への被回収成分の拡散速度を調節することにより、対象13からの被回収成分の回収を効率的かつ簡便に制御することができる。なお、図示しないが、対象導入部11には、適宜蓋が設けられている。
成分回収容器10内における成分回収機構23の位置は特に限定されないが、成分回収時に拡散調節部22が対象13に接することを必要とする。また、成分回収機構23は、成分回収容器10と取り外しができないよう構成されてもよいが、成分回収機構23は成分回収容器10から取り外し可能な交換部材であってもよい。このように、成分回収機構23は成分回収容器10から取り外し可能な交換部材とすることにより、目的に応じて成分回収容器10を構成することが容易となる。また、回収部20が成分回収容器10から取り外し可能な交換部材であってもよい。好ましくは、成分回収機構23または回収部20は、対象導入部11の密閉状態を保ったまま成分回収容器10から取り外せるよう構成されている。このように、対象導入部11の密閉状態を保ったまま取り外せることにより、対象導入部11の密閉状態を保ったまま、回収した被回収成分を成分回収容器10から取り出すことができる。
なお、上述したように、回収部20が液体を吸収する余地がある状態である場合、被回収成分の回収に伴い、対象中の液体の量が減少しすぎないよう、回収部20が吸収する液体の量が対象中に含まれる液体の量に対して1%以下となるよう、成分回収容器10を設計することが好ましい。
対象導入部11の材質は特に限定されず、例えば、プラスチック、ガラス、セラミック、または金属等であり得る。対象導入部11には被回収成分の吸着を防ぐためのコーティングがされていてもよい。該構成によれば、被回収成分が対象導入部11に吸着されることによるロスを低減することができる。また、利便性を向上させる観点から、対象導入部11は、使い捨て可能であってもよい。
上述したように、対象13は液状の他、ゲル状であってもよい。対象13がゲル状である場合には、一例においては、拡散調節部22を事前に、対象13に悪影響を与えない液体に浸す。拡散調節部22を事前に液体に浸すことにより、該液体が拡散調節部22に浸透して回収部20に接液し、被回収成分が対象13から回収部20へと好適に拡散される。
以上が、成分回収容器10の基本的な構成であるが、成分回収容器10は、以下で説明するような構成としてもよい。
図10(a)に、成分回収容器の別の実施形態を、模式的に示す。なお、図10(a)は、本実施形態に係る成分回収容器10の一例を上面から見た概要図である。図10(a)に示すように、成分回収容器10は、対象導入部11を複数備えていてもよい。一つの成分回収容器10が対象導入部11を複数備えることにより、複数の対象導入部11に含まれる被回収成分を並行して回収することができるため、被回収成分を効率よく大量に回収することができる。
図10(a)に示すように、一例においては、複数の対象導入部11は、成分回収機構23を取り囲むように設けられている。成分回収機構23には、各対象導入部11から被回収成分を回収するために、複数の拡散調節部22が、各対象導入部11に導入される対象13に接するように設けられている。具体的には、図10(a)に示す成分回収容器10は、複数(図示例では4つ)の対象導入部11と、一つの回収部に対して複数(対象導入部11と同じ数)の拡散調節部が設けられた成分回収機構とを備えており、各回収部と各対象導入部11とが拡散調節部22を介して接している。
図10(b)は、成分回収容器10の別例の断面を示す模式図である。図10(b)に示すように、複数の対象導入部11は、成分回収機構23の一方側に複数設けられていてもよい。
図11に、成分回収容器10の別の実施形態を、模式的に示す。図11に示すように、成分回収容器10は、一つの対象導入部11に対して成分回収機構23を複数備えていてもよい。成分回収容器10が成分回収機構23を複数備えていることにより、複数の成分回収機構23による被回収成分の回収を互いに独立して制御することができるため、被回収成分の回収を、より自由に制御することができる。
図11のように、成分回収容器10が、成分回収機構23を複数備える場合、複数の成分回収機構23は、回収する被回収成分の種類が互いに異なっていてもよい。このように複数の成分回収機構23が、互いに異なる種類の被回収成分を回収することにより、複数種類の被回収成分の回収を互いに独立して制御することができ、独立したタイミングで複数種類の被回収成分を回収することを必要とする場合に役立つ。
図12に、成分回収容器10の別の実施形態の断面を、模式的に示す。図12に示すように、成分回収容器10は、複数の対象導入部11を備え、各対象導入部11に対してそれぞれ一つ以上(図示例では一つ)の成分回収機構23が備えられていてもよい。このように、各成分回収容器10に対し、一つ以上の成分回収機構23が備えられていることにより、複数種類の対象から並行して被回収成分を回収することが容易となる。
図13に、成分回収容器10の別の実施形態の断面を、模式的に示す。図13に示すように、成分回収機構23は、成分回収容器10に固定されておらず、対象導入部11内の所望の位置に配置される構成となっていてもよい。成分回収機構23は、例えば球状であり、対象導入部11中に載置され、或いは、浮遊させられる。成分回収機構23は、図1(a)〜(c)のいずれかに示した形態を、球状に構成した構造であり得る。成分回収機構23の個数、および内部に保持される被回収成分の種類は、目的に応じて適宜選択すればよい。このように、成分回収機構23を成分回収容器10に固定せず、必要に応じて対象導入部11内に配置することで、目的に応じて成分回収容器10を構成することが容易となる。
図14に、成分回収容器10の別の実施形態の断面を、模式的に示す。図14に示すように、成分回収機構23は、対象導入部11に設けられた蓋50の内側(対象導入部内側)に設けられていてもよい。培地13は、拡散調節部22に接するように導入される。このように、成分回収機構23を蓋50の内側に設けることにより、目的に応じて成分回収容器10を構成することが容易となる。また、本実施形態によれば、一般的な成分回収容器の蓋を、内側に成分回収機構23を設けた蓋50と交換することによって成分回収容器10を構成することができるため、成分回収容器10を容易に製造することができる。
成分回収容器10は、後述するように、細胞等の培養対象を培養しつつ、被回収成分を回収するための容器であり得る。また、尿や血液、唾液等の生体試料を導入する容器であり得る。また、一実施形態においては、成分回収容器10は、生化学反応または化学反応を行いつつ、対象中から所定のタイミングで被回収成分の回収を行うことができる容器であり得る。
一実施形態に係る成分回収容器10は、上述した成分回収機構23に加えて、対象へ添加する添加剤を保持する添加剤保持部と、該添加剤保持部内から添加剤保持部外への添加剤の拡散速度を調節する添加剤拡散調節部と、を備える添加剤拡散機構を、さらに備えていてもよい。対象導入部11と、添加剤拡散機構とは、添加剤拡散調節部を介して接続されている。このように、成分回収容器が、成分回収機構に加えて、添加剤拡散機構をさらに備え、対象導入部と、添加剤拡散機構とが、拡散調節部を介して接続されていることによって、対象への添加剤の添加、および対象からの被回収成分の回収を、いずれも効率的かつ簡便に制御することができる。
(添加剤拡散機構)
添加剤拡散機構としては、PCT/JP2019/001558に記載の培養用添加剤拡散機構を用いることができる。添加剤拡散機構は、対象へ添加する添加剤を保持する添加剤保持部と、添加剤保持部内から添加剤保持部外への添加剤の拡散速度を調節する拡散調節部と、を備える。このように、添加剤保持部内から添加剤保持部外への添加剤の拡散速度を調節する拡散調節部を設けることにより、拡散調節部を介して添加剤保持部外(対象導入部)へ拡散される添加剤の量および添加のタイミングを適正に調節することができるため、対象への添加剤の添加を制御することができる。
添加剤拡散機構の具体的な形態は、特に限定されないが、一例においては、上述した成分回収機構23と同様に、断面が図1(a)および(b)のような形態となっている。すなわち、図1(b)に示すように、添加剤保持部は、外周全体を添加剤拡散調節部によって囲まれていてもよいし、図1(a)に示すように、外周を、添加剤を拡散または透過させない不透過部41と、添加剤拡散調節部とによって囲まれていてもよい。
(添加剤保持部)
添加剤保持部は、添加剤拡散調節部を介さずに添加剤が添加剤保持部外へと拡散されないよう、添加剤を添加剤保持部内に保持する。なお、本明細書中において、添加剤が拡散されないとは、添加剤の拡散が実質的にゼロとみなされる状態を指すものとする。添加剤保持部の具体的な形態は特に限定されないが、添加剤拡散調節部を介して添加剤を徐々に添加剤保持部外へと拡散させるために、添加剤を内包することができる多孔質材料を少なくとも一部に含むことが好ましい。より好ましくは、添加剤保持部は、全体が多孔質材料によって形成される。多孔質材料は、共有結合に基づく化学ゲルまたは非共有結合性の分子間力などに基づく物理ゲル等の高分子ゲルであり得、共有結合および非共有結合性の分子間力がゲル構造の形成に寄与した高分子ゲルであってもよい。具体的には、多孔質材料として、アガロース、デキストリン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガムなどの糖鎖から形成されるハイドロゲル;コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン、ゼラチンなどのタンパク質から形成されるハイドロゲル;ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、シリコーンなどの合成高分子から形成されるハイドロゲル;並びにメソポーラスカーボン、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスシリカ等の無機材料を用いることができる。各種添加剤と同程度の微細孔を形成させやすいことから、添加剤保持部は、ハイドロゲルを一部に含むことがより好ましい。
上述した多孔質材料は、保持させる添加剤との親和性を高めるために、適宜官能基によって修飾されていてもよい。添加剤の不要な拡散を防ぐため、多孔質材料を官能基によって修飾し、該官能基と添加剤とを反応させて、共有結合または非共有結合を形成させ、添加剤を多孔質材料上に固定してもよい。なお、添加剤を好適に拡散させる観点から、官能基と添加剤との結合は、非共有結合であることが好ましい。多孔質材料に付加する官能基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、スルホン基、活性エステル基およびカルボキシル基等の親水基;ならびにアルキル基、フェニル基およびフルオロアルキル基等の疎水基が挙げられる。
また、上述した多孔質材料には、添加剤を特異的に認識して結合することができる分子が結合されていてもよい。例えば、多孔質材料には、タンパク質等特定の分子を特異的に結合する抗体やアプタマー;特定の塩基配列を有する核酸に特異的に結合する一本鎖DNA;および糖鎖に特異的に結合するレクチン等が結合されていてもよい。また、多孔質材料は、添加剤を特異的に認識する分子インプリント材料を含んでいてもよい。
(添加剤拡散調節部)
添加剤拡散調節部は、成分回収機構が備える拡散調節部と、同様の構成とすることができる。詳細について上述したため、ここでは説明を省略する。
(不透過部)
添加剤保持部は、図1(a)に示すように、外周を、添加剤を拡散または透過させない不透過部41と、添加剤拡散調節部22とによって囲まれていてもよい。不透過部41は、成分回収機構が備える不透過部と、同様の構成とすることができる。詳細について上述したため、ここでは説明を省略する。
なお、上述した回収部20と同様、添加剤保持部外部側の表面は、添加剤保持部を構成する材料とは異なる材料によって被覆されていてもよい。また、上述した成分回収機構23と同様、添加剤拡散機構の全体形状は球体であり得る。詳細については上述したため、ここでは説明を省略する。
(添加剤)
添加剤は、目的に応じて選択することができ、例えば、低分子化合物、核酸、脂質、タンパク質、糖、アミノ酸などであり得る。タンパク質としては、生体信号として働くことが知られている、分化誘導因子、細胞増殖因子、抗体、ホルモン、およびケモカインなどを添加剤とすることができる。低分子化合物として、酵素やレセプターなどに結合しその活性を阻害する阻害剤や抗生物質などを添加剤とすることができる添加剤は、人工的に化学合成された物質であってもよいし、天然に得られる物質であってもよい。界面活性剤を添加剤としてもよい。また添加剤は、複数の成分を含むエクソソームやリポソームなどの小胞、生体材料抽出物や細胞分泌物でもよい。添加剤は、化学物質に限られず、ウィルスでもよい。
なお、添加剤自体を添加剤保持部に保持させる他、添加剤保持部に無細胞タンパク質合成系を内包させ、該合成系により合成されたタンパク質を添加剤として添加する形態としてもよい。無細胞タンパク質合成系は、無細胞タンパク質合成系は、リボソーム、tRNA、アミノアシル化tRNA合成酵素、翻訳開始因子、翻訳伸長因子、および翻訳終結因子などの翻訳成分に加えて、アミノ酸、ATPやGTPなどエネルギー分子、マグネシウムイオンなど塩類、およびDNAまたはmRNAなどのテンプレートを含み得る。本形態によれば、タンパク質の安定性が低い場合、またはタンパク質を単離することが難しい場合であっても、添加剤として、好適に用いることができる。
また、添加剤保持部に、微生物または動物細胞を内包させ、微生物または動物細胞による分泌物を添加剤として添加する形態としてもよい。本形態によれば、分泌物の安定性が低い場合、または分泌物を単離することが難しい場合であっても、添加剤として、好適に用いることができる。さらには、添加する成分が未知であっても、該成分を分泌する微生物または動物細胞を添加剤保持部に内包させることにより、添加剤として、好適に添加することができる。
上記の添加剤は、単独で、または複数組み合わせて添加することができる。添加剤を複数組み合わせて添加する場合、1つの添加剤保持部に複数の添加剤を保持させてもよいし、1つの成分回収容器に対して、複数の添加剤拡散機構を設け、該複数の添加剤拡散機構の添加剤保持部に各種類の添加剤を保持させてもよい。
〔成分回収キット〕
また、本開示は、成分回収機構23を備える成分回収キットも提供する。当該成分回収キットを用いることにより、対象からの被回収成分の回収を、簡便に実施することができる。この他、成分回収キットは、キットの取り扱い説明書、対象および成分回収機構を収容するための容器、回収部20を溶解するための溶解液、および回収部20から被回収成分を抽出するためのバッファーからなる群から選ばれる少なくとも一つを含む。成分回収キットは、取り扱い説明書の代わりに、取り扱い説明書をサーバからダウンロードする方法を記載した書面を含んでいてもよい。
〔成分回収システム〕
次に、上述した成分回収容器を用いる成分回収システムについて説明する。本開示に係る成分回収システムは、少なくとも対象13からの被回収成分の添加を効率的かつ簡便に制御することを可能とするシステムである。また、後述するように、一実施形態においては、被回収成分の回収のみならず、培養、生化学反応、化学反応を行いつつ、対象中から所定のタイミングで被回収成分の回収を行うことができるシステムであり得る。
図15に成分回収システムの一例の概略構成を示す。図15に示すように、成分回収システム100は、上述した成分回収容器10と、回収管理装置30とを備える。なお、図15以降の図中、成分回収容器10については、断面を模式的に示している。成分回収容器10は、上述した成分回収機構23と、対象13を導入するための対象導入部11とを有している。成分回収機構23は、被回収成分を回収するための回収部20と、回収部20外から回収部20内への被回収成分の拡散速度を調節する拡散調節部22とを備える。回収管理装置30は、制御信号34を発信する発信部33を備える。
〔成分回収システムの構成〕
以下、成分回収システムの基本構成について、図16を参照して説明する。図16は、成分回収システムの基本構成の一例を示す機能ブロック図である。図16に示すように、回収管理装置30は、取得部35、制御部36、および発信部33を有する。
図16の概略構成、および図17のフローチャートを参照しつつ、成分回収システム100の動作の概要について説明する。取得部35は、記憶部37に記憶された回収プロトコルを取得し、該回収プロトコルを制御部36へと供給する(ステップS100)。制御部36は、回収プロトコルを参照して、発信部33からの制御信号34の発信を制御するための発信部制御情報を生成し、該発信部制御情報を発信部33へと供給する(ステップS102)。発信部33は、発信部制御情報に基づいて、被回収成分の拡散速度を調節するための制御信号34を、成分回収容器10の拡散調節部22に送る(ステップS106)。拡散調節部22は、制御信号34を受け取ることにより駆動(構造変化)し、拡散調節部22を介した回収部20外から回収部20内への被回収成分の拡散速度を変化させる(ステップS108)。発信部33は、発信部制御情報に基づいて、制御信号34の発信を停止する(ステップS110)。発信部33からの制御信号34の伝達が停止されることにより、拡散調節部22は、駆動を停止(制御信号34を受け取る前の状態へと変化)し、拡散調節部22を介した回収部20外から回収部20内への被回収成分の拡散速度が元の状態に戻る(ステップS112)。このように、回収部20外から回収部20内への被回収成分の拡散速度を調節することにより、回収部20内へ拡散流入される被回収成分の量および回収のタイミングを適正に制御することができる。
次に、上述した成分回収システム100の各構成要素について、具体的に説明する。
上記記憶部37は、例えばSSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)、光ディスクなどの随時書き込みおよび読み出しが可能な不揮発性メモリや記憶媒体であり得る。記憶部37は、回収管理装置30内に設けられていてもよい。また、記憶部37は、ネットワークを介して接続されたコンピュータ上に設けられていても構わない。
回収管理装置30は、コンピュータを構成するCPU(Central Processing Unit)およびプログラムメモリを有し、本実施形態を実施するために必要な制御を行う部位として、上述したように制御部36、および取得部35を備える。これらの部位はいずれも上記プログラムメモリに格納されたプログラムを上記CPUに実行させることにより実現される。
発信部33は、制御信号34として、光信号、電気信号、音響信号、および磁気信号などを発信する。制御信号34としては、無線的、非接触的、または遠隔的に作用させられる信号を用いることが、制御の自由度を高める上で好ましい。一例において、発信部33は、発信部制御情報に基づいて、特定の種類、強度、および発信時間の制御信号34を発信する。制御信号34として近赤外線などの光信号を用いる場合には、一例において発信部33は、発信部制御情報に基づいて、特定の波長の制御信号34を発信する。
発信部33は、図15に示すように、回収部20中を通過させる形で、制御信号34を拡散調節部22に対して送ってもよく、回収部20中を通過させないように、制御信号34を拡散調節部22に対して送ってもよい。
なお、回収管理装置30は、発信部33を成分回収システム100内で移動するための搬送装置を備えていてもよい。発信部33を成分回収システム100内で移動させることにより、後述するように拡散調節部22を複数備える場合であっても、発信部33が制御信号34を送るのに適した位置に適宜移動することができるため、好適に制御信号34を送ることができる。
本成分回収システムにおいては、上述した成分回収容器10のいずれを用いてもよい。例えば、図11に示すように、一つの対象導入部11に対して成分回収機構23を複数備えている成分回収容器10を用いる形態においては、制御部36は、回収プロトコルを参照して、複数の拡散調節部22のうち所定の拡散調節部22に対して制御信号34を送るための発信部制御情報を生成し、発信部33は、所定の拡散調節部22に対応する発信部制御情報に基づいて被回収成分の拡散速度を調節する制御信号34を、該所定の拡散調節部22に送り、所定の拡散調節部22は、制御信号34に基づいて、対象導入部11からの被回収成分の拡散速度を調節してもよい。該構成によれば、複数の成分回収機構23からの被回収成分の回収を互いに独立して制御することができるため、対象導入部11からの被回収成分の回収を、より自由に制御することができる。また、同じ種類の被回収成分を複数の拡散調節部22の回収部20へと拡散させる場合でも、複数の回収部20への被回収成分の拡散を独立して制御できることで、対象導入部11内における被回収成分の濃度勾配を好適に調節することができる。なお、複数の拡散調節部22のそれぞれに対する制御信号としては、互いに波長、照射時間、照射強度、照射位置(制御信号34を発信する際の発信部33の位置)、および照射範囲等が異なる制御信号を用いることができる。
また、図18に示すように、複数の対象導入部11と、該複数の対象導入部11に対して設けられた複数の成分回収機構23とを備える成分回収容器10を用いる形態においては、制御部36は、回収プロトコルを参照して、複数の成分回収機構23に備えられた複数の拡散調節部22に対して制御信号34を送るための発信部制御情報を生成し、発信部33は、発信部制御情報に基づいて被回収成分の拡散速度を調節する制御信号34を、複数の拡散調節部にそれぞれ伝達し、拡散調節部は、制御信号34に基づいて、複数の対象導入部11への被回収成分の拡散速度を調節してもよい。なお、図18においては、発信部33が一か所から拡散調節部22に対して制御信号34を送っている例を示しているが、発信部33は搬送装置を備え、移動しつつ各拡散調節部22に制御信号34を送ってもよい。このような成分回収システムによれば、複数の対象導入部11への培地13への被回収成分の回収を並列して効率的かつ簡便に制御することができる。
なお、図18に示す成分回収容器10を用いる形態において、制御部36は、回収プロトコルを参照して、複数の成分回収機構23に備えられた複数の拡散調節部22のうち、所定の拡散調節部22に対して制御信号34を送るための発信部制御情報を生成し、発信部33は、所定の拡散調節部22に対応する発信部制御情報に基づいて被回収成分の拡散速度を調節する制御信号34を、該所定の拡散調節部22にそれぞれ伝達し、拡散調節部22は、制御信号34に基づいて、所定の拡散調節部22からの対象導入部11への被回収成分の拡散速度を調節してもよい。該構成によれば、複数の対象導入部11への培地13への被回収成分の回収を互いに独立して制御することができるため、対象を複数種類の条件下において並行して回収を行うことで、回収を行うために好適な条件を、効率よく検討および選択することができる。
図19に示すように、発信部33には、制御信号34を拡散調節部22に送るための信号伝達路42が接続されていてもよい。このように、発信部33に、制御信号34を拡散調節部22に送るための信号伝達路42が接続されていることにより、制御信号34が外因により遮断されたり、乱れたりすることがないため、より正確に制御信号34を拡散調節部22に送ることができる。
図19の例においては、信号伝達路42の一端は発信部33に接続され、他端は、拡散調節部22に接続されているが、該他端は、拡散調節部22に接続されていなくてもよい。一例においては、発信部33に接続された信号伝達路42の他端は、拡散調節部22の付近まで敷設されている。このように、信号伝達路42の他端を拡散調節部22に接続せずとも、拡散調節部22の付近まで信号伝達路42が敷設されていることにより、信号伝達路42が存在しない場合と比較して、制御信号34の遮断、乱れ等を防ぐことができる。
一例において、信号伝達路42の他端は、拡散調節部22に接続されておらず、成分回収容器10の外側まで敷設されている。信号伝達路42の他端を拡散調節部22に接続せず、成分回収容器10の外側まで敷設することにより、信号伝達路42によって制御信号34の遮断、乱れ等を防ぎつつ、成分回収容器10と信号伝達路42とが分離されていることから、成分回収容器10を容易に交換することができる。よって、信号伝達路42を設けつつ成分回収容器10を使い捨て可能とする場合には、信号伝達路42の他端を拡散調節部22に接続せず、成分回収容器10の外側まで敷設することが好ましい。また、後述するように、成分回収容器10を搬送する形態においては、信号伝達路42の他端が拡散調節部22に接続されていると成分回収容器10の搬送の妨げになり得る。よって、成分回収容器10を搬送する形態において信号伝達路42を設ける場合には、信号伝達路42の他端を拡散調節部22に接続せず、成分回収容器10の外側まで敷設する形態とすることが好ましい。
信号伝達路42の種類は、制御信号34の種類によって適宜選択することができる。例えば、制御信号34として電気信号を用いる場合、信号伝達路42として導線を用いることができ、制御信号34が光信号である場合、光ファイバ等の光導波路を用いることができる。
回収プロトコルは、少なくとも被回収成分の回収手順を規定する。一例において、回収プロトコルは、被回収成分の回収量、回収時間(回収を行う期間)、およびタイミングからなる群から選ばれる少なくとも一つの情報(A)を規定する。なお、ここで回収のタイミングとは、被回収成分の回収を開始および終了するタイミングを意味する。取得部35は、上記情報(A)を取得して、制御部36に供給する。制御部36は、情報(A)を参照して、発信部33によって生成される制御信号34の強度、並びに発信部33の駆動時間(駆動を行う期間)、および駆動のタイミングからなる群から選ばれる少なくとも一つの情報(B)を含む発信部制御情報を生成し、発信部33に供給する。発信部33は、前記情報(B)を参照して、拡散調節部22に対し、制御信号34を、所定の強度、時間(期間)、またはタイミングで、拡散調節部22に送る。拡散調節部22は、制御信号34を受け取って、被回収成分を、所定の量、時間(期間)、およびタイミングで、対象13から回収する。このように、回収プロトコルが被回収成分の回収量、回収時間、およびタイミングからなる群から選ばれる少なくとも一つの情報を規定することにより、成分回収システムは、回収プロトコルを取得して、被回収成分の回収量、回収時間、およびタイミングからなる群から選ばれる少なくとも一つを調節することができる。
また、図11に示すように成分回収容器10が成分回収機構23を複数備え、かつ複数の成分回収機構23が回収する被回収成分の種類が互いに異なっている場合、回収プロトコルは回収する被回収成分の種類を規定し得る(情報(C))。この場合、取得部35は、回収する被回収成分の種類についての情報を取得して、制御部36に供給する。また、取得部35は、複数の成分回収機構23の位置と、各成分回収機構23が好適に回収する被回収成分の種類を対応づけた情報(情報(D))をさらに取得して、制御部36に供給する。なお、情報(D)は、一例においては、用いる成分回収容器10の種類に応じてあらかじめ規定され、記憶部37に保存されている。制御部36は、情報(C)および(D)を参照して、制御信号34を送る成分回収機構23についての情報を含む発信部制御情報を生成し、発信部33に供給する。発信部33は、前記発信部制御情報を参照して、所定の種類の被回収成分を保持する成分回収機構23の拡散調節部22に対し、制御信号34を送る。所定の拡散調節部22は、制御信号34を受け取って、所定の被回収成分を対象13から回収する。
なお、後述するように成分回収システムが対象状態計測部等によって対象の状態(対象中の反応生成物の量、対象が培地である場合は培地中の培養対象の分化ステージ、培養対象の成長段階等)を取得する場合、回収プロトコルは、被回収成分の回収のタイミングを、対象中の反応生成物の量、対象中の対象の分化ステージ、および成長段階によって規定してもよい。すなわち、回収プロトコルは、対象中の反応生成物の量、対象の特定の分化ステージ、および成長段階において、回収を開始および終了することを規定してもよい。一例においては、成分回収容器10が成分回収機構23を複数備え、かつ複数の成分回収機構23が回収する被回収成分の種類が互いに異なっており、回収プロトコルは、対象中の反応生成物の量、培養対象の分化ステージ、および成長段階に応じて、回収すべき被回収成分の種類、回収量、および回収時間を、対象中の反応生成物の量、対象の各分化ステージ、および成長段階に対応づけて規定する。
図20に、成分回収システムの別の実施形態を、模式的に示す。図20に示すように、成分回収容器10は、複数の成分回収機構23を備え、複数の該成分回収機構23の拡散調節部22のそれぞれに対して制御信号34を送るための信号伝達路42が、発信部33に接続されていてもよい。このように制御信号34を信号伝達路42を介して送ることにより、複数の拡散調節部22に対する制御信号34が混線することを防ぐことができる。したがって、拡散調節部22が図20に示すように近接して位置する場合でも、制御信号34が近接した拡散調節部22にまで送られることを防ぐことができるため、各拡散調節部22を互いに独立して制御することができる。なお、図20においては、各信号伝達路42に対し、異なる発信部33がそれぞれ接続されている形態を示しているが、一つの発信部33に対し複数の信号伝達路42を設け、シャッターやマスク等を用いて制御信号34を送らない拡散調節部22に対する信号伝達路42を遮断し、特定の拡散調節部22に対して発信部33が制御信号34を送る構成としてもよい。
図21に、成分回収システムの別の実施形態を、模式的に示す。図21に示すように、成分回収システムは、成分回収容器10を複数備え、複数の成分回収容器10のうち、少なくとも一つを、位置Aから所定の位置に移動させる搬送部40をさらに備えていてもよい。図21の例においては、搬送部40は、複数の成分回収容器10から一つの成分回収容器10Aを搬送し、所定の位置Aへと移動させる。説明のために、位置A'に移動された成分回収容器10Aを、成分回収容器10A'とする。制御部36は、複数の成分回収容器10A、10B、10C、10Dのそれぞれについて、発信部制御情報a、b、c、dを作成する。発信部33は、所定の位置に移動させられた成分回収容器10A'に対応する発信部制御情報aに基づき、成分回収容器10A'の拡散調節部22に対して制御信号34を送る。このように、成分回収容器10を所定の位置に移動し、所定の位置に移動した成分回収容器10に対して制御信号34を送ることにより、自動で効率よく大量に回収を行うことができる。なお、制御信号34を送られた後、成分回収容器10は、搬送部40で元の位置(A)に戻される。
搬送部40の具体的な態様は、特に限定されないが、例えば図21に示すような自動式ロボットハンド、およびベルトコンベアなどであり得る。
図22に示すように、成分回収システムは、対象13を対象導入部11に導入する対象供給部44をさらに備えていてもよい。対象供給部44は、対象13を貯蔵するための対象貯蔵部45と、対象13を好適に貯蔵するための対象保存部47と、対象13を対象導入部11へと供給するための対象移送経路48と、対象移送経路48を介して対象13を供給するために駆動する対象移送部46と、とを備える。図22の例においては、対象13をさらに備えている。このように、対象供給部44が、対象供給部制御情報に基づいて対象導入部11に対象13を供給することにより、対象13の供給も自動化することができるため、より効率よく被回収成分を回収することができる。特に、図10のように成分回収容器10が対象導入部11を複数備える場合や、成分回収容器10を複数用いる場合に、手動により対象13を供給すると、時間および手間がかかるが、本実施形態のように対象13の供給を自動化することにより、効率よく対象13を対象導入部11に導入することができる。
対象貯蔵部45の形態は特に限定されず、一般的に対象13を貯蔵するために用いられている容器等を用いることができる。
対象保存部47は、対象中の成分の劣化を防ぐために、冷蔵および冷凍のための機構を備えていてもよい。また、対象保存部47は、対象13を乾燥固形状態で保存し、必要時に該乾燥固形状態の対象13に適切な溶媒を添加してもよい。
対象移送部46は、対象13を必要な容量、対象導入部11に供給することができればよく、例えば、ディスペンサ、インクジェット、およびポンプなどであり得る。
対象移送経路48は、一般的なシリコンチューブ、パイプ等であり得る。
なお、図示しないが、成分回収システムは、不要となった対象13を対象導入部11から廃出する対象廃出部をさらに備えていてもよい。
成分回収システムが対象供給部44を備える形態において、図23に示すように、成分回収容器10の少なくとも一部が、半透膜によって構成される半透膜部43であってもよい。なお、図23においては、対象貯蔵部45、対象保存部47、および対象移送部46の図示は省略している。図23に示す例では、半透膜部43の上部に、対象移送経路48が設けられ、対象13aが対象移送経路48の中を矢印の向きに還流している。対象導入部11中に充填されている対象13bと、対象移送経路48の中を還流する対象13aとは、半透膜部43を介して流体連結されている。培養、化学反応、生化学反応等により、対象導入部11中の対象13bの各成分の濃度は、対象移送経路48の中を還流する対象13aとは異なったものとなる。この濃度差によって、半透膜部43を介して、対象供給部44から供給された対象と、成分回収容器10中の対象の成分とが交換される。なお、半透膜部43を透過することのできない高分子は、対象導入部11内に保持される。成分の交換によって、対象13b中の不要な成分は対象13aへと移動され、反対に、対象13aから必要な成分が対象13bへと移動される。
半透膜部43を構成する半透膜は、対象の種類に応じて選択できる。半透膜は、例えば、再生セルロース(セロファン)、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、テフロン(登録商標)、ポリエステル系ポリマーアロイ、およびポリスルホン等の多孔質膜であり得る。
成分回収システムは、対象導入部11中の対象の状態を測定する対象状態計測部をさらに備えていてもよい。取得部35は、対象状態計測部による対象の状態の測定結果を取得し、制御部36へと供給する。制御部36は、上述した回収プロトコルに加えて、対象の状態の計測結果をさらに参照して、対象の状態を判断し、対象の状態に応じて被回収成分の回収手順を算出して、発信部制御情報を生成する。このように、対象の状態の計測結果を参照して、発信部制御情報を生成することにより、対象の状態に応じて好適に被回収成分を回収することができる。
対象状態計測部としては、対象に合わせて適切な計測装置を選択すればよい。対象状態計測部としては、対象および被回収成分への影響が低く、かつ被回収成分の回収制御に悪影響を及ぼさない測定方法を利用するものが好ましい。対象状態計測部は、例えば、対象導入部11中に計測用の試薬を導入することで、対象の状態を計測してもよい。また、対象導入部11から対象13をサンプリングし、該サンプルを分析機器によって分析することで、対象の状態を計測してもよい。この他、対象状態計測部は、対象および回収の目的に合わせて、蛍光計測、ラマン分光、赤外分光、超音波検査など、様々な計測方法により、対象の状態を計測することができる。なお、これらの計測方法は、単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
なお、制御部36による対象の状態の判断のための分類及び学習処理の具体的構成は本実施形態を限定するものではないが、例えば、以下のような機械学習的手法を単独で、または組み合わせて用いることができる。
・サポートベクターマシン(SVM: Support Vector Machine)
・クラスタリング(Clustering)
・帰納論理プログラミング(ILP: Inductive Logic Programming)
・遺伝的アルゴリズム(GP: Genetic Programming)
・ベイジアンネットワーク(BN: Baysian Network)
・ニューラルネットワーク(NN: Neural Network)
ニューラルネットワークを用いる場合、データをニューラルネットワークへのインプット用に予め加工して用いるとよい。このような加工には、データの1次元的配列化、または多次元的配列化に加え、例えば、データアーギュメンテーション(Data Argumentation)等の手法を用いることができる。
また、ニューラルネットワークを用いる場合、畳み込み処理を含む畳み込みニューラルネットワーク(CNN: Convolutional Neural Network)を用いてもよい。より具体的には、ニューラルネットワークに含まれる1または複数の層(レイヤ)として、畳み込み演算を行う畳み込み層を設け、当該層に入力される入力データに対してフィルタ演算(積和演算)を行う構成としてもよい。またフィルタ演算を行う際には、パディング等の処理を併用したり、適宜設定されたストライド幅を採用したりしてもよい。
また、ニューラルネットワークとして、数十〜数千層に至る多層型又は超多層型のニューラルネットワークを用いてもよい。
また、制御部36による、対象の状態の判断処理に用いられる機械学習は、教師あり学習であってもよいし、教師なし学習であってもよい。
このように、一例において制御部36は機械学習機構を備え、当該機械学習機構による学習結果を参照して、対象の状態を判断することができる。該構成によれば、制御部36は対象の状態の判断処理を精度よく実行することができる。
成分回収システムは、対象導入部11中の対象13に含まれる被回収成分の濃度を計測する被回収成分計測部をさらに備えてもよい。なお、被回収成分計測部は、被回収成分の濃度として、対象導入部11中の被回収成分の平均濃度の他、対象導入部11中の局所的な被回収成分の濃度、および対象導入部11内における濃度分布等を計測することができる。取得部35は、被回収成分計測部による被回収成分の濃度の測定結果を取得し、制御部36へと供給する。制御部36は、上述した回収プロトコルに加えて、被回収成分の濃度の計測結果をさらに参照して、発信部制御情報を生成する。このように、被回収成分の濃度の計測結果を参照して発信部制御情報を生成することにより、被回収成分の濃度を監視しつつ回収を行うことができるため、確実に適正量の被回収成分を回収することができる。
被回収成分計測部の種類は、被回収成分の種類に合わせて適切に選択すればよい。例えば、被回収成分計測部は、サンプリング装置および高速液体クロマトグラフィーや質量分析などの計測機器を含み、サンプリング装置によってサンプリングした対象導入部11内の対象13を計測機器によって計測してもよい。また、被回収成分計測部は、サンプリングを必要としない分光分析などの方法により、被回収成分の濃度を計測してもよい。被回収成分として、蛍光分子等の標識を付したものを用いることで、被回収成分の計測を容易にしてもよい。
成分回収システムは、対象導入部11内の物理的パラメータを一定範囲内に維持するための対象環境維持部を備えていてもよい。対象導入部11内の物理的パラメータを一定範囲内に維持することにより、対象13中の環境を好適に維持することができるため、対象13が物理的パラメータの変化に対し敏感な場合であっても、効率よく回収を行うことができる。
対象環境維持部によって一定範囲内に維持する物理的パラメータとしては、温度、湿度、並びに酸素および二酸化炭素などのガス分圧、気圧が挙げられる。対象環境維持部は、対象とする物理的パラメータによって適宜に選択することができるが、例えば、恒温器、およびマルチガスインキュベータ等であり得る。
一実施形態において、成分回収システムは、上述した成分回収機構に加えて、対象に対して添加剤を添加する添加剤拡散機構をさらに有する成分回収容器を備えていてもよい。図24に示すように、成分回収システム100は、成分回収容器10と、回収管理装置30とを備える。成分回収容器10は、上述した成分回収機構23と、添加剤拡散機構と、対象13を導入するための対象導入部11とを有しており、対象導入部11と成分回収機構23とは、拡散調節部22を介して接続されている。また、対象導入部11と添加剤拡散機構とは、拡散調節部22を介して接続されている。成分回収機構23は、被回収成分を回収するための回収部20と、回収部20外から回収部20内への被回収成分の拡散速度を調節する拡散調節部22とを備える。添加剤拡散機構は、添加剤を保持するための添加剤保持部と、添加剤保持部外から添加剤保持部内への添加剤の拡散速度を調節する添加剤拡散調節部とを備える。回収管理装置30は、制御信号34を発信する発信部33を備える。
〔成分回収システムの構成〕
図24に、本実施形態に係る成分回収システムの基本構成の一例を示す。図24に示すように、成分回収容器10は、拡散調節部22に加えて、添加剤拡散調節部70を有しており、発信部33からは添加剤拡散調節部70に添加剤制御信号が送られるようになっている。また、図示しないが、記憶部37は、回収プロトコルに加えて、少なくとも添加剤の添加手順を規定した添加プトロコルを記憶する。
本実施形態に係る成分回収システム100は、回収部20外から回収部20内への被回収成分の拡散速度を調節することに加えて、添加剤保持部内から添加剤保持部外への添加剤の拡散速度を調節する。以下では、図24の概略構成、および図25のフローチャートを参照しつつ、成分回収システム100の動作の概要について説明する。取得部35は、記憶部37に記憶された添加プロトコルを取得し、該添加プロトコルを制御部36へと供給する(ステップS200)。制御部36は、添加プロトコルを参照して、発信部33からの制御信号34の発信を制御するための発信部制御情報を生成し、該発信部制御情報を発信部33へと供給する(ステップS202)。発信部33は、発信部制御情報に基づいて、添加剤の拡散速度を調節するための添加剤制御信号34を、成分回収容器10の添加剤拡散調節部70に送る(ステップS206)。添加剤拡散調節部70は、制御信号34を受け取ることにより駆動(構造変化)し、添加剤拡散調節部70を介した添加剤保持部内から添加剤保持部外への添加剤の拡散速度を変化させる(ステップS208)。発信部33は、発信部制御情報に基づいて、添加剤制御信号34の発信を停止する(ステップS210)。発信部33からの添加剤制御信号34の伝達が停止されることにより、添加剤拡散調節部70は、駆動を停止(添加剤制御信号34を受け取る前の状態へと変化)し、添加剤拡散調節部70を介した添加剤保持部内から添加剤保持部外への添加剤の拡散速度が元の状態に戻る(ステップS212)。このように、添加剤保持部内から添加剤保持部外への添加剤の拡散速度を調節することにより、添加剤保持部外へ拡散される添加剤の量およびタイミングを適正に制御することができる。
本実施形態に係る成分回収システム100の各構成要素については上述したため、ここでは説明を省略する。
上述した成分回収機構23、成分回収容器10、および成分回収システム100は、様々な用途に用いることができる。成分回収機構23、成分回収容器10、および成分回収システム100は、例えば、培養、生化学反応、化学反応に用いることができる。以下では、成分回収機構23、成分回収容器10、および成分回収システム100の特に好適な用途について説明する。
<培養用途>
成分回収機構23、成分回収容器10、および成分回収システム100は、培養用途に好適に用いることができる。培養用途において、成分回収機構23、成分回収容器10、および成分回収システム100は、培養中に培養対象から分泌された有用な被回収成分を回収するために用いることもでき、培養中に不要となった被回収成分を培地中から回収するために用いることもできる。
〔培養用成分回収機構〕
培養用の成分回収機構23、すなわち培養用成分回収機構は、対象から被回収成分を回収する回収部と、前記対象から前記回収部への前記被回収成分の拡散速度を調節する拡散調節部と、を備え、前記拡散調節部は、少なくとも一つの環境パラメータの変化に応じて前記被回収成分の前記対象から前記回収部への拡散速度を変化させ、前記対象は培地である。このような培養用成分回収機構を、例えば後述するように培養用容器に備えることにより、培養対象を培養しつつ、培地から被回収成分を回収することができる。
(培地)
対象とする培地13は特に限定されず、細胞の種類や培養の目的に応じて選択可能である。たとえばMEM培地、DMEM培地、およびRPMI−1640培地等、広く知られる培地を用いてもよいし、公知の論文に記載の特定のグループが開発使用している培地を用いてもよい。詳細な添加制御が要求されない添加剤を事前に培地に対し混ぜて用いてもよい。また、培地は、液体状でも、ゲル状でもよい。
(被回収成分)
被回収成分は、培養中に培養対象から分泌された分泌物であり得る。そのような分泌物は、タンパク質、低分子化合物、糖、糖鎖、核酸、脂質、代謝物、エクソソームなどであり得る。核酸としては、DNA,およびRNAが挙げられ、RNAとしては、mRNA,miRNAなどが挙げられる。このような分泌物の中には培地中での安定性が低く、経時的に分解されるものもあるが、培養用成分回収機構を用いて分泌がされたタイミングで回収を行うことにより、分泌物が分解される前に回収することができる。また、分泌物によっては、培養対象中においてフィードバック調整により分泌量が決定されるものもあるが、分泌物を回収しながら培養を行うことにより、このような分泌物の回収量を増やすことができる。
また、被回収成分は、培養中の特定のタイミングでのみ必要とされ、以後は培地中から取り除くことが好ましい添加剤であり得る。そのような添加剤は、生体信号として働くことが知られている、分化誘導因子、細胞増殖因子、抗体、ホルモン、およびケモカインなどであり得る。分化誘導因子を例にとると、生体内において分化誘導因子の分泌量および分泌のタイミングは精妙に制御されており、これにより複雑な組織への分化が達成される。よって、人工的に培養対象の分化を誘導するためには、分化誘導因子を添加した後、不要になった分化誘導因子を所定のタイミングで回収することが好ましい。このように、不要になった添加物を回収することにより、不要な添加剤が培地中に存在することによって分化が妨げられることを防ぐことができる。
なお、上述した被回収成分は、少なくとも成分回収時に培地中に含まれていればよく、培養開始前に培地中に含まれていなくてもよい。培養開始前の培地中には、例えば被回収成分の前駆体が含まれる。
(培養対象)
培養用成分回収機構23を用いて培養する培養対象は、特に限定されない。好適には、培養対象として細胞を培養することができる。細胞としては、接着性の細胞、および浮遊性の細胞のいずれでも培養することができる。また、細胞は、単細胞生物、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、腫瘍細胞のいずれでもよい。また、幹細胞や臓器由来の細胞であってもよい。幹細胞としては、iPS細胞、ES細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、およびMuse細胞などがあげられる。
なお、成分回収機構23は、単細胞だけでなく、複数の細胞が集まって形成された組織、および多細胞性の微生物の培養にも用いることができる。
〔培養用容器〕
培養用の成分回収容器10、すなわち培養用容器は、上述した培養用成分回収機構と、前記対象を導入する対象導入部とを備え、前記対象導入部と前記培養用成分回収機構とが、前記拡散調節部を介して接続されており、前記対象が培地であり、前記対象導入部が培養対象を該培地中で培養するための培養部である。このような培養用容器によれば、培養部内に導入した培地中で培養対象を培養しつつ、培地から被回収成分を回収することができる。
培養部には、培地および培養対象が導入される。培養部は、培養の目的に応じて、一般的な培養用容器と同様に構成することができる。
培養中に分泌された分泌物を被回収成分とする場合、被回収成分の回収部20への拡散を好適に起こさせるためには、培養開始前の培地中と、回収部20との間で、被回収成分の濃度差が小さいことが好ましい。好ましくは、培養開始前の時点における対象と、回収部20との間で、被回収成分の濃度差が100pmol/mL以下である。
〔培養システム〕
培養用の成分回収システム、すなわち培養システムは、上述した成分回収容器と、回収管理装置とを備え、前記回収管理装置は、取得部と、制御部と、発信部とを備え、前記取得部は、少なくとも前記被回収成分の回収手順を規定する回収プロトコルを取得し、前記制御部は、前記回収プロトコルを参照して発信部制御情報を生成し、前記発信部は、前記発信部制御情報に基づいて前記被回収成分の前記培地から前記回収部への拡散速度を調節する制御信号を前記拡散調節部に送り、前記拡散調節部は、前記制御信号に基づいて前記被回収成分の前記培地から前記回収部への拡散速度を調節する。このような培養システムによれば、培養部内に導入した培地中で培養対象を培養しつつ、培地から被回収成分を回収することができる。
一例においては、培養対象が細胞であり、上述した対象状態計測部は、細胞の分化の程度を測定する。制御部36は、細胞の分化の程度の測定結果を参照して、該分化の程度に応じた種類および量の被回収成分を回収するために、発信部制御情報を生成する。発信部33は、発信部制御情報を参照して、所定の種類の被回収成分が保持された成分回収機構23の拡散調節部22に対し、所定の長さの制御信号34を送る。制御信号34を受け取った拡散調節部22は、制御信号34の長さに応じて所定の時間駆動し、被回収成分を回収する。このように、細胞の分化の程度に応じて適切に被回収成分を添加することにより、細胞の分化をより好適に制御することができる。このような成分回収システム100によれば、例えば、分化の程度に応じて、回収する被回収成分の種類を切り替える操作も容易に行うことができる。
培養システムは、培養に用いられる添加剤を保持する添加剤保持部と、前記添加剤保持部内から前記添加剤保持部外への前記添加剤の拡散速度を調節する添加剤拡散調節部と、を備える、添加剤拡散機構をさらに備え、前記取得部は、前記添加剤の添加手順を規定する添加プロトコルをさらに取得し、前記制御部は、前記添加プロトコルをさらに参照して発信部制御情報を生成し、前記発信部は、前記発信部制御情報に基づいて前記発信部制御情報に基づいて前記添加剤の拡散速度を調節する添加剤制御信号を前記添加剤拡散調節部に送り、前記添加剤拡散調節部は、前記添加剤制御信号に基づいて前記添加剤の拡散速度を調節してもよい。このように、成分回収機構と、添加剤拡散機構とを併用する培養システムによれば、対象への添加剤の添加、および対象からの被回収成分の回収を、いずれも効率的かつ簡便に制御することができる。このような培養システムによれば、例えば、所定のタイミングで添加剤を培地に添加し、該添加剤を、所定のタイミングで培地から回収することができる。よって、培地中の添加剤および被回収成分を所望の通りに調節しつつ、培養を行なうことができる。
〔細胞の製造方法〕
次に、本開示に係る細胞の製造方法の一例について説明する。細胞の製造方法は、上述した培養システムを用いた、細胞の製造方法である。より具体的には、細胞の製造方法は、本開示に係る培養用容器と、回収管理装置とを備え、前記回収管理装置は、取得部と、制御部と、発信部とを備えた培養システムを用いた細胞の製造方法であって、前記取得部が、少なくとも被回収成分の回収手順を規定する回収プロトコルを取得する工程と、前記制御部が、前記回収プロトコルを参照して発信部制御情報を生成する工程と、前記発信部が、前記発信部制御情報に基づいて前記被回収成分の拡散速度を調節する制御信号を前記拡散調節部に送る工程と、前記拡散調節部が、前記制御信号に基づいて前記被回収成分の拡散速度を調節する工程と、を含んでもよい。このような細胞の製造方法によれば、培地からの被回収成分の回収を効率的かつ簡便に調節しつつ、細胞を製造することができる。
なお、本開示に係る培養システムは、細胞だけでなく、複数の細胞を含む組織の製造にも用いることができる。
<生化学反応用途・化学反応用途>
成分回収機構23、成分回収容器10、および成分回収システム100は、生化学反応用途、及び化学反応用途においても好適に用いることができる。生化学反応用途、及び化学反応用途において、成分回収機構23、成分回収容器10、および成分回収システム100を用いることで、生化学反応、および化学反応を起こさせつつ、反応液中から反応生成物を被回収成分として回収することができる。
(対象)
対象は、生化学反応または化学反応の反応液であり得る。対象は、反応開始前において、少なくとも生化学反応または化学反応の反応物を含む。生化学反応において、対象は、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)や無細胞タンパク合成等の生化学反応の反応液であり得る。また、対象は合成反応の反応液に限られず、アミラーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、およびリパーゼといった分解酵素を含む分解反応の反応液でありうる。
(被回収成分)
被回収成分は、生化学反応または化学反応の反応生成物、または副産物であり得る。例えば、対象がPCR(Polymerase Chain Reaction)の反応液である場合、被回収成分は、所定の配列を有するPCR産物であり得る。対象が無細胞タンパク合成系である場合、被回収成分は、無細胞タンパク合成系によって合成された所定のタンパク質であり得る。また、被回収成分は、アミラーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、およびリパーゼといった分解酵素による分解産物であり得る。一例においては、被回収成分は、セルラーゼでセルロースが分解されて得られた分解産物でありうる。用途の一例として、所定のタイミングで、反応によって生じたこれらの被回収成分を回収することで、反応の進行度合いをモニタリングすることもできる。また、所定のタイミングで、反応の副産物を回収することで、副産物により反応が阻害されることを防ぐことができる。