JP2021005538A - 誘電体膜および誘電体素子 - Google Patents

誘電体膜および誘電体素子 Download PDF

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Abstract

【課題】比誘電率が高く、高温における絶縁抵抗が高い誘電体膜を提供すること。【解決手段】主成分金属元素と副成分金属元素とを含み立方晶系の結晶構造を有する複合酸化物を有する誘電体膜であって、主成分金属元素は、Baと、Tiと、CaおよびZrから選ばれる少なくとも1つと、であり、副成分金属元素は、第3族元素、Hf、第5から第11族元素および第13族元素から選ばれる少なくとも1つであり、主成分金属元素のモル比を(Ba1−xCax)z(Ti1−yZry)で表した場合、0.000≦x≦0.750、0.000≦y≦0.500、1.040≦z≦1.100かつx+y≠0である関係を満足し、複合酸化物の(100)面の回折ピークの積分強度が、(110)面の回折ピークの積分強度と(111)面の回折ピークの積分強度との和よりも大きい。【選択図】図1

Description

本発明は、誘電体膜および誘電体素子に関する。
電子機器の多機能化に伴い、電子機器に搭載される電子回路基板には様々な機能の追加が望まれている。そのため、電子回路基板に実装される電子部品の個数は多くなる傾向にある。その結果、電子機器のサイズを維持したままで、実装する電子部品の個数を増やすためには、電子回路基板における電子部品の実装密度をより高める必要がある。
電子回路基板に多く実装されている電子部品の一つとして、誘電特性を利用する積層セラミックコンデンサが例示される。積層セラミックコンデンサの小型化は進んでおり、たとえば、特許文献1は、誘電体層の厚みが1μm以下である積層セラミックコンデンサを開示している。
一方、実装密度を高めるため、電子回路基板内に電子部品を埋め込むことが提案されている。しかしながら、積層セラミックコンデンサを電子回路基板内に埋め込む場合、積層セラミックコンデンサの厚みと、セラミックスが有する脆性と、に起因して、コンデンサを埋め込む工程において応力が発生し、積層セラミックコンデンサにクラックが発生したり、埋め込んだ部分の電子回路基板が変形したりする等の問題があった。
これらの問題は、極めて小さいサイズの積層セラミックコンデンサを用いた場合であっても解消することは困難であった。そのため、電子回路基板内への埋め込み用のコンデンサとして、積層セラミックコンデンサよりも低背であり、比誘電率の高いコンデンサが望まれている。低背なコンデンサとしては、誘電体素子の一例である薄膜コンデンサが知られている。
薄膜コンデンサは、小型、高性能の誘電体素子としてデカップリングコンデンサなどの用途で広く利用されている。特許文献2は、主成分が一般式(Ba1−xCa(Ti1−yZr)Oで表され、柱状の結晶粒子と球状の結晶粒子とを有する層を備え、副成分として2価金属元素および/または3価金属元素を含む誘電体膜を開示している。
特開2018−133501号公報 特開2016−213297号公報
電子回路基板における電子部品の実装密度が高くなると、電子部品から発生する熱が多くなり電子部品が高温に曝される。そのため、電子部品は高温においても所定の性能を発揮する必要がある。誘電特性を発揮する誘電体素子に関しては、比誘電率等の誘電特性を維持するために、高温において誘電体素子の絶縁抵抗が高い必要がある。
しかしながら、特許文献2に開示された誘電体素子では、高温における誘電体素子の絶縁抵抗が不十分であるという問題があった。
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、比誘電率が高く、高温における絶縁抵抗が高い誘電体膜を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の態様は、
[1]主成分金属元素と副成分金属元素とを含み立方晶系の結晶構造を有する複合酸化物を有する誘電体膜であって、
主成分金属元素は、バリウムと、チタンと、カルシウムおよびジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つと、であり、
副成分金属元素は、第3族元素、ハフニウム、第5から第11族元素および第13族元素からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
主成分金属元素のモル比を、(Ba1−xCa(Ti1−yZr)で表した場合、0.000≦x≦0.750、0.000≦y≦0.500、1.040≦z≦1.100かつx+y≠0である関係を満足し、
誘電体膜の膜厚方向に関して、複合酸化物の(100)面の回折ピークの積分強度が、複合酸化物の(110)面の回折ピークの積分強度と複合酸化物の(111)面の回折ピークの積分強度との和よりも大きい誘電体膜である。
[2]副成分金属元素が、マンガン、銅、クロム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、バナジウムおよび希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つである[1]に記載の誘電体膜である。
[3]チタンおよびジルコニウムの合計を100mol%としたときに、副成分金属元素の含有割合が、0.01mol%以上10.00mol%以下である[1]または[2]に記載の誘電体膜である。
[4][1]から[3]のいずれかに記載の誘電体膜を備える誘電体素子である。
本発明によれば、比誘電率が高く、高温における絶縁抵抗が高い誘電体膜を提供することができる。
図1は、本実施形態に係る誘電体素子の一例としての薄膜コンデンサの模式的な断面図である。
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.薄膜コンデンサ
1.1.薄膜コンデンサの全体構成
1.2.誘電体膜
1.2.1.複合酸化物
1.3.第1の電極
1.4.第2の電極
2.薄膜コンデンサの製造方法
3.本実施形態のまとめ
4.変形例
(1.薄膜コンデンサ)
まず、本実施形態に係る誘電体素子として、薄膜状の誘電体膜を有する薄膜コンデンサについて説明する。
(1.1.薄膜コンデンサの全体構成)
図1に示すように、本実施形態に係る誘電体素子の一例としての薄膜コンデンサ10は、第1の電極1と、誘電体膜2と、第2の電極3とがこの順序で積層された構成を有している。第1の電極1および第2の電極3が外部回路に接続されて電圧が印加されると、誘電体膜2が所定の静電容量を示し、コンデンサとしての機能を発揮することができる。各構成要素についての詳細な説明は後述する。
なお、薄膜コンデンサの形状に特に制限はないが、通常、直方体形状とされる。またその寸法にも特に制限はなく、厚みおよび長さは用途に応じて適当な寸法とすればよい。
(1.2.誘電体膜)
誘電体膜2は、後述する複合酸化物を主成分として含んでいる。本実施形態では、当該複合酸化物は、誘電体膜100mol%中90mol%以上を占める成分であり、95mol%以上を占める成分であることが好ましい。
また、本実施形態では、誘電体膜2は、公知の成膜法により形成された薄膜である。このような薄膜は、通常、基板上に原子が堆積して形成されるので、誘電体膜は、誘電体堆積膜であることが好ましい。したがって、本実施形態に係る誘電体膜は、誘電体の原料粉末を成形した成形体を焼成して得られる(固相反応により得られる)焼結体は含まない。
誘電体膜2の厚みは、好ましくは30nm〜1000nm、より好ましくは50nm〜600nmである。誘電体膜2の厚みが薄すぎると、誘電体膜2の絶縁破壊が生じやすい傾向にある。絶縁破壊が生じると、コンデンサとしての機能を発揮できない。一方、誘電体膜2の厚みが厚すぎると、誘電体膜2を構成する材料の脆性に起因して、誘電体膜作製時、または、誘電体素子を基板内に埋め込む工程において、誘電体膜中にクラックが発生する可能性がある。
なお、誘電体膜2の厚みは、誘電体膜2を含む薄膜コンデンサを、FIB(集束イオンビーム)加工装置で掘削し、得られた断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して測定することができる。
(1.2.1.複合酸化物)
上記の複合酸化物は、主成分金属元素および副成分金属元素を含み立方晶系の結晶構造を有している。本実施形態では、上記の複合酸化物は立方晶系のペロブスカイト構造を有している。
また、主成分金属元素は、バリウム(Ba)と、チタン(Ti)と、カルシウム(Ca)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選ばれる少なくとも1つと、である。バリウムおよびカルシウムは、ペロブスカイト構造のAサイトを占めるAサイト元素であり、チタンおよびジルコニウムは、ペロブスカイト構造のBサイトを占めるBサイト元素である。
本実施形態では、バリウムおよびカルシウムの合計モル数を1.000としたときのカルシウムのモル比を「x」とし、チタンおよびジルコニウムの合計モル数を1.000としたときのジルコニウムのモル比を「y」とし、チタンおよびジルコニウムの合計モル数に対するバリウムおよびカルシウムの合計モル数の比を「z」としている。すなわち、上記の関係は、組成式(Ba1−xCa(Ti1−yZr)により表すことができる。
「x」、「y」および「z」は、0.000≦x≦0.750、0.000≦y≦0.500、1.040≦z≦1.100、x+y≠0である関係を満足する。すなわち、バリウムおよびチタンは必須元素である。一方、カルシウムおよびジルコニウムは任意元素であるが、カルシウムおよびジルコニウムの少なくとも1つは必須である。
カルシウムおよびジルコニウムの両方が含まれない場合、上記の複合酸化物の組成が安定な範囲が狭い傾向にある。特に、「z」が1よりも大きい場合、すなわち、Aサイト元素(Ba)がBサイト元素(Ti)よりも多い場合(Aサイト元素が過剰な場合)、Aサイト元素が上記の複合酸化物とは異なる化合物(2次相)として出現しやすい傾向にある。このような2次相が偏析すると、均一な誘電体膜が得られないため、高温における絶縁抵抗が低下する傾向にある。
しかしながら、カルシウムおよびジルコニウムの少なくとも1つが上記の複合酸化物に含まれると、複合酸化物の組成が安定な範囲が広がる。その結果、「z」が上記の範囲であっても、2次相の出現が抑制される。したがって、誘電体膜の高温における絶縁抵抗が向上する。
また、「z」を上記の範囲とすることにより、複合酸化物において、Bサイト元素が不足することになる。本実施形態では、後述する副成分金属元素が複合酸化物に固溶し、Bサイトを占める。複合酸化物において、主成分金属元素とは異なる副成分金属元素がBサイトの一部を占めることにより、誘電体膜の高温における絶縁抵抗が向上する。
なお、本実施形態では、主成分金属元素は実質的にペロブスカイト構造中に含まれていることが好ましい。
副成分金属元素は、長周期型周期表における第3族元素、ハフニウム、第5から第11族元素および第13族元素からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
上述したように、副成分金属元素がペロブスカイト構造を有する複合酸化物のBサイトを占めることにより、誘電体膜の高温における絶縁抵抗が向上する。「z」を上記の範囲とすることにより、副成分金属元素が複合酸化物のBサイトを占有しやすくなるが、副成分金属元素の全量が複合酸化物中に含まれていなくてもよい。
すなわち、副成分金属元素は、複合酸化物から構成される結晶粒子間に形成されている界面(粒界)に存在していてもよい。本実施形態では、副成分金属元素は、主成分金属元素と共に複合酸化物を形成し、さらに、粒界において当該複合酸化物とは異なる構造を有する化合物を形成している。
本実施形態では、副成分金属元素は、マンガン(Mn)、銅(Cu)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、バナジウム(V)および希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)およびランタノイドである。ランタノイドは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)である。副成分金属元素が上記の元素である場合には、高温における絶縁抵抗がさらに向上する傾向にある。
また、誘電体膜に含まれるチタンおよびジルコニウムの合計を100mol%としたときに、副成分金属元素の含有割合は0.01mol%以上10.00mol%以下であることが好ましい。副成分金属元素の含有割合を上記の範囲とすることにより、誘電体膜の高温における絶縁抵抗が向上する傾向にある。
副成分金属元素の含有割合は0.1mol%以上であることがより好ましく、1.0mol%以上であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る誘電体膜は多結晶膜であり、主に、柱状結晶から構成されている。本実施形態では、柱状結晶は、誘電体膜の厚み方向の長さaと、誘電体膜の厚み方向に垂直な方向の長さbとの関係が、a/b≧1.1である関係を満足する結晶である。
また、本実施形態に係る誘電体膜は結晶配向性を有している。このような結晶配向性は、公知の成膜法を用いて誘電体膜を形成することにより得られる。一方、誘電体の原料粉末を成形した成形体を焼成して得られる、すなわち、固相反応により得られる焼結体においては、通常、結晶粒子の結晶配向性はランダムなので、当該焼結体は結晶配向性を有していない。
また、「z」が上記の範囲内である場合、固相反応により得られる焼結体においては、Aサイト元素が2次相として析出しやすい。さらに、難焼結性であるため、特性が確保できない傾向にある。
また、本実施形態に係る誘電体膜に含まれる結晶は、立方晶系のペロブスカイト構造を有する上記の複合酸化物の(100)面に優先配向している。換言すれば、本実施形態に係る誘電体膜に含まれる結晶は、<100>方向に優先的に結晶成長している。
本実施形態では、誘電体膜のX線回折測定により得られるX線回折チャートにおいて、複合酸化物の(100)面の回折ピークの積分強度は、複合酸化物の(110)面の回折ピークの積分強度と(111)面の回折ピークの積分強度との和よりも大きい。
上記の複合酸化物においては、通常、(110)面の回折ピークの積分強度または(111)面の回折ピークの積分強度が、(100)面の回折ピークの積分強度よりも大きい。しかしながら、本実施形態では、(100)面の回折ピークの積分強度が、(110)面の回折ピークの積分強度と(111)面の回折ピークの積分強度との和よりも大きくなるよう誘電体膜の結晶配向性を制御している。
このような結晶配向性の制御により、「z」が上記の範囲内であっても、誘電体膜中に2次相が形成されにくい。したがって、均一な誘電体膜が得られやすくなり、高温における絶縁抵抗が向上する。
なお、X線源として、Cu−Kα線を用いる場合、(100)面の回折ピークは回折角2θ=22°近傍にあらわれ、(110)面の回折ピークは回折角2θ=31°近傍にあらわれ、(111)面の回折ピークは回折角2θ=38°近傍にあらわれる。
誘電体膜の結晶配向性の制御は公知の方法で行えばよい。たとえば、成膜法の種類、成膜時の基板温度、成膜時に与えるエネルギー、成膜時の雰囲気が例示される。
また、本実施形態に係る誘電体組成物は、本発明の効果を奏する範囲内において、微量な不純物等を含んでいてもよい。
(1.3.第1の電極)
図1に示すように、第1の電極1は、後述する第2の電極3とともに誘電体膜2を挟み、薄膜コンデンサを構成する電極である。第1の電極1を構成する材料は、導電性を有する材料であれば特に制限されない。たとえば、卑金属、貴金属、それらの合金が例示される。
薄膜コンデンサの厚みを調整するために、第1の電極1の厚みは容易に変更可能であることが好ましい。本実施形態では、金属板であってもよいし、ガラス、セラミックス等からなる基板上に形成された薄膜であってもよい。
第1の電極1が金属板である場合、第1の電極1を構成する材料としては、銅(Cu)およびニッケル(Ni)が好ましく、ニッケルがより好ましい。ニッケルの純度は高いほど好ましく、たとえば、99.99質量%以上であることがより好ましい。また、第1の電極1の厚さは、5μm以上100μm以下であることが好ましく、20μm以上70μm以下であることがより好ましい。第1の電極1の厚さが小さすぎる場合、薄膜コンデンサ10の製造時に第1の電極1をハンドリングし難くなる傾向がある。
第1の電極1が基板上に形成された薄膜である場合、第1の電極1を構成する材料としては、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)等の金属またはそれらの合金であることが好ましい。コストおよび誘電損失を考慮すると、銅(Cu)およびニッケル(Ni)が好ましい。また、第1の電極1の厚さは、薄膜コンデンサの一方の電極として機能する程度の厚みであれば特に限定されない。本実施形態では、第1の電極1の厚さは50nm以上であることが好ましい。基板の厚さは5μm以上100μm以下であることが好ましい。
なお、基板と薄膜との密着性を向上させるために、薄膜を基板上に形成する前に、基板上に密着層を形成してもよい。密着層を形成するための材料は、基板と薄膜との密着性が向上する材料であれば、特に限定されない。本実施形態では、たとえば、チタン酸化物、クロム酸化物が例示される。
(1.4.第2の電極)
図1に示すように、第2の電極3は、誘電体膜2を挟んで、第1の電極1と対向するように形成されている。第2の電極3は、薄膜コンデンサを構成する電極であり、第1の電極1とは異なる極性を有している。
第2の電極3を構成する材料は、第1の電極1と同様に、導電性を有する材料であれば特に制限されない。たとえば、卑金属、貴金属、それらの合金が例示される。第2の電極3は室温で形成可能であるため、たとえば、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)等の卑金属や、珪化タングステン(WSi)、珪化モリブデン(MoSi)等の合金を用いることができる。
また、第2の電極3の厚さは、薄膜コンデンサの他方の電極として機能する程度の厚みであれば特に限定されない。本実施形態では、第2の電極3の厚さは10nm以上10000nm以下であることが好ましい。
(2.薄膜コンデンサの製造方法)
次に、図1に示す薄膜コンデンサ10の製造方法の一例について以下に説明する。
まず、第1の電極を準備する。本実施形態では、第1の電極として、ニッケル箔を準備する。
続いて、第1の電極1上に誘電体膜2を形成する。本実施形態では、公知の成膜法により、誘電体膜2を構成する材料を第1の電極1上に薄膜状に堆積させて誘電体膜2の前駆体を形成する。
公知の成膜法としては、たとえば、真空蒸着法、スパッタリング法、PLD(パルスレーザー蒸着法)、MO−CVD(有機金属化学気相成長法)、MOD(有機金属分解法)、ゾルゲル法、CSD(化学溶液堆積法)が例示される。本実施形態では、結晶配向性の制御、コスト等の観点から、スパッタリング法が好ましい。
なお、成膜時に使用する原料(蒸着材料、各種ターゲット材料、有機金属材料等)には微量の不純物等が含まれている場合があるが、所望の誘電特性が得られれば、特に問題はない。
スパッタリング法を用いる場合、所望の組成のターゲットを用いて、第1の電極上に誘電体膜を形成する。
上述したように、本実施形態に係る誘電体膜において、「z」は1よりも大きい所定の範囲である。したがって、バリウムおよびカルシウムが、チタンおよびジルコニウムよりも多く含まれるように誘電体膜を形成する必要がある。
しかしながら、ターゲットからスパッタされたバリウムは、スパッタリング装置のチャンバー内に拡散しやすい傾向にある。また、チャンバー内に導入されるガスは投入口からターゲットと基板との間を通過して排気口に向かって流れる。チャンバー内のガスを一定にするために、スパッタリング装置において、通常、ガスの投入口および排気口はチャンバー内で対角線上に設けられる。したがって、バリウムがチャンバー内に拡散すると、第1の電極に向かわずに、ガスと共に排気口に向かう傾向にある。その結果、スパッタされたバリウムは、第1の電極上に堆積しにくくなる。そうすると、誘電体膜におけるバリウム量が減り、「z」が小さくなってしまう傾向にある。
なお、ターゲットの組成を予め上述した「z」よりも大きくすることが考えられるが、ターゲットは固相法により作製するため、ターゲットが難焼結となり、ターゲットの品質が低下してしまう。
そこで、本実施形態では、誘電体膜において「z」を上述した範囲とするために、以下のようなスパッタリング装置を用いて、誘電体膜を形成することが好ましい。
バリウムの拡散を抑制し、スパッタされたバリウムのほとんどが、第1の電極に向かうようにするためには、たとえば、スパッタされたバリウムをターゲットと第1の電極との間から飛び出さないように閉じ込めればよい。このような閉じ込めは、複数のガスの投入口をターゲットと第1の電極との間を取り囲むように配置して、ガスを流すことにより実現される。各投入口から導入されたガスの流れはターゲットと第1の電極との間に向かって流れる。その結果、ターゲットからスパッタされたバリウムは、ターゲットと第1の電極との間から飛び出さないので、チャンバー内に拡散することなく、第1の電極に向かう。
バリウムの閉じ込めを実現する具体的な構成としては、たとえば、以下のような構成が考えられる。ターゲットおよび第1の電極に平行な面のうち、ターゲットと第1の電極との間の距離の中点を通る面と、当該中点からターゲット側に所定の距離離れた点を通る面と、当該中点から第1の電極側に所定の距離離れた点を通る面と、を選択する。
各面において、ターゲットおよび第1の電極の重心を中心とする円を設定し、当該円の円周上に、所定の角度ごとに(たとえば、45°ごとに)ガスの投入口を配置する。
なお、各ガス投入口は、上記の中点と上記の重心とが一致する点にガスが向かうように配置される。すなわち、中点からターゲット側に所定の距離離れた点を通る面上に配置されるガス投入口は、第1の電極側に傾いて配置され、中点から第1の電極側に所定の距離離れた点を通る面上に配置されるガス投入口は、ターゲット側に傾いて配置される。
このような構成とすることにより、誘電体膜において「z」を上述した範囲とすることが容易となる。
さらに、スパッタリング条件は、本実施形態では、以下のような条件とすることが好ましい。高周波電力が好ましくは100〜350Wであり、雰囲気ガスにおけるアルゴン(Ar)/酸素(O)比が、好ましくは1/0〜4/1である。基板温度は高い方が好ましく、たとえば、700〜250℃である。成膜時の圧力は高い方が好ましく、たとえば、0.1〜10Paである。成膜レートは低い方が好ましく、たとえば、30〜150nm/時間である。上述したスパッタリング装置の構成に加えて、このような成膜条件を適宜組み合わせることにより、「z」を上述した範囲とすることが容易となる。
次に、第1の電極上に形成された誘電体膜2の前駆体に対してアニールを行う。アニールでは、昇温速度は好ましくは50℃/時間〜8000℃/時間、より好ましくは200℃/時間〜8000℃/時間である。アニール時の保持温度は、好ましくは1000℃以下、より好ましくは800℃〜950℃である。その保持時間は、好ましくは0.05時間〜2.0時間であり、より好ましくは0.1時間〜2.0時間であり、特に好ましくは0.5時間〜2.0時間である。保持温度と保持時間とをこのような範囲とすることで高い比誘電率を有していながら、高温における絶縁抵抗が高い誘電体膜を得ることができる。また、誘電体膜にクラック、剥離等が発生することを防ぐことができる。
アニール雰囲気は、強い還元雰囲気(酸素分圧10−14MPa〜10−10MPa)とすることが好ましい。強い還元雰囲気により、複合酸化物から酸素元素が抜け、副成分金属元素が複合酸化物に拡散しやすい環境にすることができる。
次に、アニール処理後の誘電体膜2上に、公知の成膜法を用いて第2の電極を構成する材料の薄膜を形成して第2の電極3を形成する。たとえば、第2の電極3として、Pt薄膜を形成する。
以上の工程を経て、図1に示すように、第1の電極1、誘電体膜2および第2の電極3がこの順で形成された薄膜コンデンサ10が得られる。
(3.本実施形態のまとめ)
本実施形態では、高い比誘電率を有し、かつ高温における絶縁抵抗が高い誘電体を得るために、立方晶系のペロブスカイト構造を有するチタン酸バリウム系材料に、特定の金属元素(副成分金属元素)を固溶させた複合酸化物に着目している。
チタン酸バリウム系材料において、ペロブスカイト構造のAサイト元素のモル数を、ペロブスカイト構造のBサイト元素のモル数より多くすることにより、副成分金属元素がペロブスカイト構造のBサイトに固溶しやすくなる。
しかしながら、チタン酸バリウム系材料として代表的なチタン酸バリウム(BaTiO)において、バリウムが過剰である場合、ペロブスカイト構造が安定な組成範囲が狭く、バリウムを含む2次相が析出しやすい。2次相が析出すると、均一な誘電体が得られないため、高温における絶縁抵抗が低下し、好ましくない。
そこで、チタン酸バリウムを、カルシウムおよびジルコニウムの少なくとも1つにより置換している。このようにすることにより、Aサイト元素が過剰な場合であっても、ペロブスカイト構造が安定な組成範囲が広がる。さらに、バリウム、カルシウム、チタンおよびジルコニウムのモル比を上記の範囲とすることにより、主成分金属元素において、Aサイト元素が過剰であっても、複合酸化物以外の2次相の析出が抑制される。
なお、上記の主成分金属元素において、Aサイト元素が過剰な組成を有しつつ、高温における絶縁抵抗が高い焼結体を固相法により作製することは困難である。Aサイト元素が過剰な組成を有する粉末は難焼結性であり、十分な誘電特性が得られる程度の密度に達しないからである。また、Aサイト元素が過剰なので、Aサイト元素が析出して、2次相が出現しやすいからである。
そこで、本実施形態では、成膜法により堆積膜としての誘電体膜を得ている。さらに、誘電体膜の結晶を特定の面に配向させることにより、2次相の析出がさらに抑制される。その結果、高い比誘電率を有し、かつ高温における絶縁抵抗が高い誘電体膜が得られる。
さらに、副成分金属元素の元素種を限定することにより、特に、高温における絶縁抵抗がさらに向上する。また、副成分金属元素の含有割合を限定することにより、特に、高温における絶縁抵抗がさらに向上する。
(4.変形例)
上述した実施形態では、誘電体膜が上述した複合酸化物から構成される場合を説明したが、本実施形態に係る誘電体素子は、本実施形態に係る誘電体膜と別の誘電体膜とを組み合わせた積層構造を有していてもよい。たとえば、既存のSi、SiO、Al、ZrO、Ta等のアモルファス誘電体膜や結晶膜との積層構造とすることで、誘電体膜のインピーダンスや比誘電率の温度変化を調整することが可能となる。
また、本実施形態に係る誘電体膜を複数有する積層キャパシタであってもよい。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実験1)
まず、第1の電極として、厚みが50μmのニッケル箔を準備した。ニッケル箔の寸法は、縦10mm×横10mmであった。
続いて、誘電体膜の形成に必要なターゲットを以下のようにして作製した。
ターゲットの原料粉末として、主成分金属元素に関して、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化チタン(TiO)および酸化ジルコニウム(ZrO)の各粉末を準備した。また、ターゲットの原料粉末として、副成分金属元素に関して、酸化ニッケル(NiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ホルミウム(Ho)、酸化コバルト(CoO)および酸化ニオブ(Nb)の各粉末を準備した。これらの粉末を所定の組成となるように秤量した。
ボールミル中で水を溶媒として、秤量したターゲットの原料粉末の湿式混合を20時間行った。得られた混合粉末スラリーを100℃で乾燥させ、混合粉末を得た。得られた混合粉末を、プレス機によるプレス成形して成形体を得た。成形条件は、圧力を100Pa、温度を25℃、プレス時間を3分とした。
その後、得られた成形体を焼成して焼結体を得た。焼成条件は、保持温度を1300℃、温度保持時間を10時間、雰囲気を空気中とした。
得られた焼結体を、平面研削盤と円筒研磨機により直径200mm、厚さ6mmに加工して、誘電体膜を形成するためのターゲットを得た。
続いて、第1の電極上に誘電体膜を形成した。比較例1を除く実施例1から10および比較例2から6では、ターゲットと第1の電極との間を取り囲むように複数のガス投入口を配置したスパッタリング装置により、上記で作製した各ターゲットを用いて、第1の電極上に300nmの厚さとなるように誘電体膜を形成した。
実施例1から10および比較例2、3、5および6では、成膜条件は、基板温度を500℃、雰囲気ガスをアルゴン(Ar)/酸素(O)=3/1、圧力を2Pa、高周波電力を100W、成膜レートを50nm/時間とした。また、第1の電極の一部を露出させるために、メタルマスクを使用して、誘電体膜が成膜されない領域を形成した。
一方、比較例4では、成膜条件は、基板温度を500℃、雰囲気ガスをアルゴン(Ar)/酸素(O)=3/1、圧力を0.1Pa、高周波電力を500W、成膜レートを500nm/時間とした。また、第1の電極の一部を露出させるために、メタルマスクを使用して、誘電体膜が成膜されない領域を形成した。
また、比較例1では、ガス投入口とガス排気口とがターゲットと第1の電極とを挟むようにチャンバーの対角線上に配置されたスパッタリング装置により、上記で作製したターゲットを用いて、第1の電極上に300nmの厚さとなるように誘電体膜を形成した。成膜条件は、実施例1から10および比較例2、3、5および6と同じ条件とした。
続いて、実施例1から10および比較例1から6では、成膜された誘電体膜に対して、下記の条件でアニール処理を行った。アニール条件は、雰囲気:湿潤N+H混合ガス(酸素分圧:3×10−11MPa)、昇温速度:600℃/時間、保持温度:850℃〜950℃で1時間保持した。
アニール処理後の誘電体膜上に、スパッタリング法により第2の電極としてのPt薄膜を形成した。第2の電極の形状を、メタルマスクを使用して直径5mmの円形状、厚さ50nmとなるように形成することで、図1に示す構成を有する薄膜コンデンサの試料を得た。
全ての試料について、XRF(蛍光X線元素分析)を用いて作製後の誘電体膜の組成分析を行った結果、表1に記載の組成であった。
得られた全ての薄膜コンデンサ試料について、誘電体膜のX線回折(XRD)測定を下記に示す方法により行い、立方晶系のペロブスカイト構造を有する複合酸化物の(100)面の回折ピークの積分強度、(110)面の回折ピークの積分強度および(111)面の回折ピークの積分強度を算出した。また、比誘電率および125℃における絶縁抵抗(高温における絶縁抵抗)を下記に示す方法により測定した。
(XRD測定)
誘電体膜に対して平行法によるXRD測定を行い、X線回折チャートを得た。得られたX線回折チャートにおいて、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物の(100)面の回折ピークと、(110)面の回折ピークと、(111)面の回折ピークとを同定した。統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL(株式会社リガク製)を用いて、各ピークの積分強度を算出して、表1に示す関係を算出した。
XRD測定では、X線源としてCu−Kα線を用い、その測定条件は、電圧が45kV、2θ=20°〜70°の範囲とした。
(比誘電率)
比誘電率は、薄膜コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(KEYSIGHT社製E4980A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)300mVrmsの条件下で測定された静電容量と、誘電体膜の厚みと、から算出した。本実施例では、比誘電率は高い方が好ましく、比誘電率が500以上である試料を良好であると判断した。結果を表1に示す。
(125℃における絶縁抵抗)
125℃における絶縁抵抗は、薄膜コンデンサ試料に対し、125℃において、超高抵抗計(ADC社製ADC5451)を用いて測定した。なお、有効電極面積は15.7mmであり、誘電体膜の厚みは300nmであった。125℃における絶縁抵抗は高い方が好ましく、本実施例では、125℃における絶縁抵抗が1.0×10Ω、すなわち1.0GΩ以上である試料を良好であると判断した。結果を表1に示す。
なお、表1では、比誘電率が500以上、かつ125℃における絶縁抵抗が1.0GΩ以上10GΩ未満である試料を「B」として評価し、比誘電率および125℃における絶縁抵抗の少なくとも一方が上記の基準よりも低い試料を「F」として評価した。
Figure 2021005538
表1より、「x」、「y」および「z」の関係が上述した範囲内であり、かつ所定の回折ピークの積分強度が上述した関係を満足する試料は、比誘電率が高く、125℃における絶縁抵抗が高いことが確認できた。
一方、「x」、「y」および「z」の関係が上述した範囲外である試料は、比誘電率および125℃における絶縁抵抗の少なくとも1つが低下することが確認できた。また、「x」、「y」および「z」の関係が上述した範囲内であっても、所定の回折ピークの積分強度が上述した関係を満足していない場合、125℃における絶縁抵抗が低いことが確認できた。
(実験2)
副成分金属元素に関して、ターゲットの原料粉末として、酸化マンガン(MnO)、酸化銅(CuO)、酸化クロム(Cr)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ガリウム(Ga)、酸化インジウム(In)、酸化バナジウム(V)、酸化イットリウム(Y)および酸化ジスプロシウム(Dy)を準備し、実施例1と同じ条件によりターゲットを作製し、実施例1と同じスパッタリング装置を用いて、実施例1と同じスパッタリング条件により、薄膜コンデンサ試料を作製した。また、作製した薄膜コンデンサ試料に対して、実験1と同じ評価を行った。結果を表2に示す。
なお、表2では、表1での評価に加えて、比誘電率が500以上、かつ125℃における絶縁抵抗が10GΩ以上である試料を「A」として評価した。
Figure 2021005538
表2より、特定の副成分金属元素を有する試料は、125℃における絶縁抵抗が非常に高くなることが確認できた。
(実験3)
実施例1と同じ条件によりターゲットを作製し、実施例1と同じ条件でターゲットを作製した。実施例20、22から26の試料については、実施例1と同じスパッタリング装置を用いて、実施例1と同じスパッタリング条件により、薄膜コンデンサ試料を作製した。また、作製した薄膜コンデンサ試料に対して、実験1と同じ評価を行った。結果を表3に示す。
実施例21については、実施例1と同じ条件で作製したターゲットを用いて、第1の電極上に300nmの厚さとなるようにPLD法で誘電体膜を形成した。成膜条件は、成膜圧力を1Paとし、基板温度を500℃とした。また、作製した薄膜コンデンサ試料に対して、実験1と同じ評価を行った。結果を表3に示す。
Figure 2021005538
表3より、PLD法を用いて作製した誘電体膜も、スパッタリング法を用いて作製した誘電体膜と同等の特性を有していることが確認できた。また、副成分金属元素の含有割合が大きくなると、125℃における絶縁抵抗が低下する傾向にあることが確認できた。
本発明によれば、高温において抵抗が高い誘電体膜が得られる。このような薄膜の誘電体膜を有する誘電体素子は、小型かつ高性能なので、基板埋め込み用コンデンサ等に好適である。
10… 薄膜コンデンサ
1… 第1の電極
2… 誘電体膜
3… 第2の電極

Claims (4)

  1. 主成分金属元素と副成分金属元素とを含み立方晶系の結晶構造を有する複合酸化物を有する誘電体膜であって、
    前記主成分金属元素は、バリウムと、チタンと、カルシウムおよびジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つと、であり、
    前記副成分金属元素は、第3族元素、ハフニウム、第5から第11族元素および第13族元素からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
    前記主成分金属元素のモル比を、(Ba1−xCa(Ti1−yZr)で表した場合、0.000≦x≦0.750、0.000≦y≦0.500、1.040≦z≦1.100かつx+y≠0である関係を満足し、
    前記誘電体膜の膜厚方向に関して、前記複合酸化物の(100)面の回折ピークの積分強度が、前記複合酸化物の(110)面の回折ピークの積分強度と前記複合酸化物の(111)面の回折ピークの積分強度との和よりも大きい誘電体膜。
  2. 前記副成分金属元素が、マンガン、銅、クロム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、バナジウムおよび希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載の誘電体膜。
  3. 前記チタンおよび前記ジルコニウムの合計を100mol%としたときに、前記副成分金属元素の含有割合が、0.01mol%以上10.00mol%以下である請求項1または2に記載の誘電体膜。
  4. 請求項1から3のいずれかに記載の誘電体膜を備える誘電体素子。
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