JP2021004412A - 医療用Ir合金 - Google Patents
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Abstract
【課題】医療用材料として要求される生体適合性とX線視認性を有すると共に、加工性と機械的強度に優れた医療用合金を提供する。【解決手段】本発明は、Irを主成分とする合金であって、質量濃度基準で、50ppm以上200ppm以下のPt、20ppm以上80ppm以下のRh、10ppm以上60ppm以下のRu、200ppm以上600ppm以下のZrを含み、残部Ir及び不可避不純物からなる医療用Ir合金である。このIr合金は、直径150μm以下のIr合金線材に加工することができる。そして、このIr合金線材は、ステント、カテーテル、塞栓コイル、ガイドワイヤ等の医療用器具への応用が可能である。【選択図】なし
Description
本発明は、ステント、カテーテル、コイル等の各種医療器具の構成材料として好適な医療用Ir合金に関する。特に、Niフリー化による生体適合性を有すると共に加工性、X線視認性、強度に優れた医療用材料となるIr合金に関する。
ステント、カテーテル、コイル等の医療機器の構成材料として従来から各種の金属材料が知られている。例えば、ASTM規格F−90で規定される医療用の金属合金として、Co−Cr系合金(Co−20wt%Cr−15wt%W−10wt%Ni合金等)が知られている。また、同じくCo−Cr系合金であるが、金属アレルギーの要因となり得るNiを排除し、Niに変えてPtやPdを添加した合金も報告されている(特許文献1)。更に、これらと全く相違する医療用の材料として、貴金属であるIrを利用する例も報告されている(特許文献2)
医療器具を構成する金属材料には、その用途及び使用態様等を考慮して様々な特性が要求される。即ち、医療器具は、人体に直接的に接触し、又は、人体内に埋め込まれる器具であることから、生体適合性・化学的安定性(耐食性)が要求される。また、永久的に脈動・拍動する血管内に適用される、ステント等のような医療器具に対しては、高い機械的性質(強度、弾性)も要求される。
そして、カテーテルや塞栓コイル等の医療器具を用いた検査・治療においては、レントゲン撮像を行いつつ人体への挿入や器具の位置確認をして行われる。そのため、医療用材料は、X線視認性(レントゲン造影性)を備えていることが好ましい。
更に、カテーテル等の医療器具は、人体の血管に挿入するものであることから、極細線・極薄材に加工されて製造されている。そのため、医療用材料としては、高い加工性も要求される。
これまで知られている医療用の金属材料に関し、上記した各種の要求特性への対応をみると、従来技術は必ずしもそれらを満足するものではない。ASTM規格F−90による合金で代表される一般的なCo−Cr系合金は、Niを含んでいるので生体適合性に難点がある。また、Co−Cr系合金は、X線視認性が不十分であるという問題もある。
一方、特許文献1のCo−Cr系合金は、上記の一般的なCo−Cr系合金を改良した合金といえる。この合金では、Niに替えてPt等貴金属を添加しているので生体適合性も具備すると考えられる。また、Ptは、分子量の大きい重金属であるので、X線視認性を有する。よって、Co−Cr系合金にPtを添加することでX線視認性も改善されている。また、特許文献2で採用されるIrも、耐食性を有し機械的性質も良好であり、X線視認性を有する。
しかしながら、特許文献1、2の医療用材料は、加工性において大きな問題がある。上述のとおり、ステントや塞栓コイル等の医療用器具においては、極細線・極薄材への加工が必須となる。本発明者等の検討によれば、特許文献1のPt等を含むCo−Cr系合金は、線径50μm以下の線材加工ができない。また、特許文献2のIrに関していえば、Irは従来から加工性に難がある金属として知られており、熱間加工であっても線材加工中に断線等が生じることが確認されている。
本発明は、上記のような背景のもとにしてなされたものであり、医療用材料として要求される生体適合性とX線視認性を有すると共に、加工性と機械的強度に優れた医療用合金を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記課題を解決すべく、基本となる材料としてIrを選択した。上述のとおり、Irは加工性の問題を除けば、医療用材料として好適な特性を有する。Irは耐食性が高く生体適合性もクリアできる材料である。また、IrはPt等と同様、重い金属でありX線視認性を有し、高強度での機械的性質も良好である。
ここで問題となるのは加工性である。Irは展延性に乏しく室温での加工が困難である。熱間での加工であっても、Irの場合、加工中に容易に再結晶が発現して結晶粒粗大化するので伸線加工等は割れや破断が生じ加工困難である。
ここで、金属材料の加工性改善の手段の一つとして、当該金属にとって加工性向上作用を有する、1又は2以上の添加元素を合金化することが考えられる。Irに対しても、加工性改善作用を発揮する元素は存在すると考察される。但し、本発明においては、加工性改善作用のある添加元素があるとしても、他の特性、特に生体適合性に対する影響についての配慮が必要である。添加元素の種類や添加量によっては、当該元素の溶出が生じ、生体への悪影響が懸念されることになる。生体適合性は、医療用材料にとって絶対的に保守されるべき特性である。
そこで、本発明者等は、加工性改善と生体適合性等の他の特性維持とのバランスを崩すことなく、Irにとって最適な添加元素及びその添加量について鋭意検討を行った。その結果、Pt、Rh、Ruの3種の貴金属とZrを同時に微量添加したIr合金において、生体適合性等を維持しながら加工性良好となることを見出し、本発明に想到した。
即ち、本発明は、Irを主成分とする医療用Ir合金であって、質量濃度基準で、50ppm以上200ppm以下のPt、20ppm以上80ppm以下のRh、10ppm以上60ppm以下のRu、200ppm以上600ppm以下のZr、を含み、残部Ir及び不可避不純物からなる医療用Ir合金である。
上記のとおり、本発明は、Irを主成分としつつ、Pt、Rh、Ru、Zrの各添加元素を微量含むIr合金である。以下、本発明に係る医療用Ir合金について詳細に説明する。まず、合金を構成する各金属元素について説明する。
・Pt、Rh、Ru
Pt、Rh、Ruは、相互に作用効果を発揮して、Ir合金の酸化特性を調整して、生体適合性を確保するための添加元素である。この酸化特性の調整とは、IrにPt、Rh、Ruを適量添加すると、合金表面に薄い酸化皮膜が生じさせることである。そして、本発明者等は、この薄い酸化皮膜がバリア層となって、合金内部からのZrの溶出が抑制され、その結果、生体適合性が確保されると考察している。
Pt、Rh、Ruは、相互に作用効果を発揮して、Ir合金の酸化特性を調整して、生体適合性を確保するための添加元素である。この酸化特性の調整とは、IrにPt、Rh、Ruを適量添加すると、合金表面に薄い酸化皮膜が生じさせることである。そして、本発明者等は、この薄い酸化皮膜がバリア層となって、合金内部からのZrの溶出が抑制され、その結果、生体適合性が確保されると考察している。
また、Pt、Rh、Ruの添加は、Irの加工性を向上させる作用も有する。本発明に係るIr合金における加工性の向上には、Zrの添加も作用するが、それのみでは加工性は不十分であり、極細線への加工は困難である。Pt、Rh、Ruを添加することで、加工性の更なる向上が発現し、極細線への伸線加工が可能となる。これらの貴金属元素による加工性改善効果の機構としては、合金化によるIrの熱間加工性の改善作用にある。Irは、熱間での加工性にも乏しいが、その理由は、Irは熱間で再結晶し易く、結晶粒の粗大化が生じることによる。Pt等を添加することで、上記の熱間加工中の再結晶と結晶粗大化による加工性低下を抑制することができる。
以上の効果の他、Pt、Rh、Ruは、合金の機械的強度の向上にも好適な作用を有する。更に、これらの貴金属は、Irと同じく分子量が大きく重い金属であるので、X線視認性においても好影響を及ぼす。
Pt、Rh、Ruの添加量は、Ptは、50ppm以上200ppm以下であり、Rhは、20ppm以上80ppm以下であり、Ruは10ppm以上60ppm以下である。各添加元素の添加がない場合又は上記の下限値未満である場合、加工性の改善効果が不十分であり、ある程度の伸線加工は可能であるが、極細線(50μm以下)の加工はできない。一方、Pt、Rh、Ruの添加量の少なくともいずれかが上記範囲超えると、合金の生体適合性が悪化する。これは、貴金属元素を過剰添加すると、Ir合金の酸化が抑制されて上記した薄い酸化膜が生成しなくなるからである。そして、合金表面からZrが溶出するようになり、生体適合性の観点から好ましくないこととなる。好ましくは、Ptは、100ppm以上150ppm以下とし、Rhは、40ppm以上60ppm以下とし、Ruは25ppm以上45ppm以下とする。
上記作用を有するPt、Rh、Ruは、これら全てを添加することを要する。これら貴金属の1種のみ、或いは、2種の添加では、効果は発現しない。また、いずれの金属も、後述する含有量の範囲内で添加することを要する。
・Zr
Zrは、本発明のIr合金の加工性を向上させるための添加元素である。Zrは、200ppm以上600ppm以下とする。Zrの添加がない場合又はZr添加量200ppm未満では、加工性に乏しくなる。一方、Zr添加量が600ppmを超えても加工性に大きな影響はなく、過剰のZr添加となって溶出による生体適合性の影響が懸念される。Zr添加量は、好ましくは350ppm以上450ppm以下とする。
Zrは、本発明のIr合金の加工性を向上させるための添加元素である。Zrは、200ppm以上600ppm以下とする。Zrの添加がない場合又はZr添加量200ppm未満では、加工性に乏しくなる。一方、Zr添加量が600ppmを超えても加工性に大きな影響はなく、過剰のZr添加となって溶出による生体適合性の影響が懸念される。Zr添加量は、好ましくは350ppm以上450ppm以下とする。
・Ir及び不可避不純物
本発明に係るIr合金は、以上説明したPt、Rh、Ru、Zrを添加し、残部はIrと不可避不純物となる。不可避不純物としては、Fe、Si、Pd、W、Al等が含まれる可能性がある。これらの不純物は、それぞれ0ppm以上20ppm以下とすることが好ましく、0ppm以上8ppm以下とすることがより好ましい。
本発明に係るIr合金は、以上説明したPt、Rh、Ru、Zrを添加し、残部はIrと不可避不純物となる。不可避不純物としては、Fe、Si、Pd、W、Al等が含まれる可能性がある。これらの不純物は、それぞれ0ppm以上20ppm以下とすることが好ましく、0ppm以上8ppm以下とすることがより好ましい。
以上説明した組成を有する本発明のIr合金は、医療用材料として板材、棒材・角材・中空棒材、線材等の各種の形態で提供することができる。特に、医療器具は、ステント、塞栓コイル、ガイドワイヤ等のように、線材或いは線材を編み込んだ形態であるものが多い。本発明に係るIr合金は、その加工性改善効果によって、線材での供給・使用が可能である。
本発明の医療用Ir合金は、直径150μm以下の合金線材に加工することができ、各種用途に適用可能である。この医療用Ir合金線材の好ましい直径は、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、25μm以下が特に好ましい。尚、合金線材の直径の下限値は、できるだけ小さいことが好ましいが、その用途や加工性を考慮して15μm以上とするのが好ましい。
本発明のIr合金線材は、加工上がりの破断応力が3000MPa以上、ヤング率が350GPa以上であるものが好ましい。上記した各種の医療器具は、人体内に埋め込まれ、筋肉や血管等の運動や脈動・拍動による応力を長期間にわたって受けている。そのような使用環境下で、変形や破損なく機能し続けるためには、高強度の線材の適用が好ましい。本発明に係る医療用合金は、Irという高強度・高硬度の材料を主成分とし、更に、Pt、Rh、Ruの添加によって、高強度の線材とすることが可能である。線材の強度は、破断応力が3000MPa以上、ヤング率は350GPa以上がより好ましい。尚、それらの上限に関しては、破断応力が5000MPa以下、ヤング率が600GPa以下とするのが好ましい。
本発明に係る医療用のIr合金の製造は、一般的な溶解鋳造工程を経て製造することができる。溶解鋳造工程では、所望の組成の合金溶湯を調整し、鋳造して合金インゴット等を製造する。本発明では、ppmオーダーの微量範囲で各添加元素の組成調整が必要である。そこで、Pt、Rh、Ru、Zrのそれぞれ1種の金属を含むIr合金を母合金として用意し、所望の含有量となるように、各母合金を組み合わせて合金溶湯を調整しても良い。溶解鋳造工程後の合金インゴットは、適宜に鍛造加工、圧延加工等の加工処理を熱処理共に実施して、所望の形状にすることができる。
また、Ir合金線材の製造は、上記のようにして鋳造し加工したIr合金素材を伸線加工する。伸線加工は、スウェージング加工や引き抜き加工(ドローベンチ加工)適宜に組み合わせる。伸線加工1回(1パス)における加工率は4%以上10%以下とするのが好ましい。また、伸線加工は熱間で行うことができる。加工温度は、500℃以上1300℃以下とするのが好ましい。
以上説明した本発明に係る医療用のIr合金及びIr合金線材は、各種の医療器具に応用でき、医療用器具の少なくとも一部を構成することができる。本発明が特に有用な医療器具として、例えば、フローダイバーターステントやステントリトリーバー等のステント、バルーンカテーテル等のカテーテル、塞栓コイル等のコイル、ガイドワイヤ、デリバリーワイヤ、歯列矯正具、クラスプ、人工歯根、クリップ、ステープル、ボーンプレート、神経刺激電極、ペースメーカー用リード、放射線マーカー等が挙げられる。これらの例において、フローダイバーターステント等のステント類は脳動脈瘤の血流を改善のための医療器具であり、線材を編機で編込んで作製される。塞栓コイルは、脳動脈瘤内に充填して動脈瘤孔を塞栓する器具であり、線材を巻線機で加工してコイル形状に作製される。ステントリトリーバーは、パイプ材・チューブ材と作製した後にレーザー加工で成形して作製される。
以上説明したように、本発明に係る医療用合金は、Irを主成分としつつPt等の貴金属とZrを微量添加したIr合金である。本発明のIr合金は、医療用材料として要求される生体適合性とX線視認性を有する。そして、Irを主成分しつつも加工性に優れ、Irが有する機械的強度を発揮する医療用合金である。
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、Pt、Rh、Ru、Zrの添加量を調整した複数のIr合金を製造してIr合金線材に加工した。そして、線材の製造の可否に基づき加工性を評価すると共に、線材に加工できた合金について、生体適合性、X線視認性、機械的強度、耐久性を検討した。
[Ir合金の製造と線材加工]
ここでは、予め、Pt、Rh、Ru、Zrの1種の金属がIr中に1.0質量%含有するよう秤量混合して溶解した母合金を用いた。この母合金を使用し、所定組成となるように秤量混合し、アーク溶解して棒状のIr合金のインゴットを製造した。そして、棒状のIr合金インゴットを、1400℃で熱間鍛造し、8mm角の棒材に成形した。更に、この角材について、溝付き圧延ロールによる熱間圧延を行い、5mm角の線材に加工した。
ここでは、予め、Pt、Rh、Ru、Zrの1種の金属がIr中に1.0質量%含有するよう秤量混合して溶解した母合金を用いた。この母合金を使用し、所定組成となるように秤量混合し、アーク溶解して棒状のIr合金のインゴットを製造した。そして、棒状のIr合金インゴットを、1400℃で熱間鍛造し、8mm角の棒材に成形した。更に、この角材について、溝付き圧延ロールによる熱間圧延を行い、5mm角の線材に加工した。
次に、線材(5mm角)に、窒素雰囲気下で1200℃×30分間の焼鈍処理を施した後、熱間スウェージング加工及びドローベンチ加工を行った。これらの熱間加工では、加工温度800℃以上1300℃以下となるようにバーナー加熱しつつ実施し、線径1.9mmとなるまで加工した。その後、再度の焼鈍を行い、ドローベンチ加工で線径約500μmの線材に加工した。
[合金組成の確認]
そして、製造した線材(線径約500μm)について、通電加熱伸線装置により線径約100μmの線材に加工した。通電加熱伸線加工の条件は、電流10mA、送り速度3mm/分とし、加工中で焼鈍しつつ加工した。更に、加工した線材(線径約100μm)に、窒素雰囲気下で1100℃×30分の熱処理を行い、連続熱間伸線加工を行って、最終径として25μmのIr合金線材を製造した。
そして、製造した線材(線径約500μm)について、通電加熱伸線装置により線径約100μmの線材に加工した。通電加熱伸線加工の条件は、電流10mA、送り速度3mm/分とし、加工中で焼鈍しつつ加工した。更に、加工した線材(線径約100μm)に、窒素雰囲気下で1100℃×30分の熱処理を行い、連続熱間伸線加工を行って、最終径として25μmのIr合金線材を製造した。
[加工性評価]
以上説明した線材加工工程において、Ir合金の合金組成を確認するための定量分析を行った。この分析は、加工途中の線径約500μmの合金線材から長さ1mmの試料を採取し、スパークICP(装置商品名:RIGAKU SPECTRO−SASSY/CIROS−MarkII)により定量分析した。
以上説明した線材加工工程において、Ir合金の合金組成を確認するための定量分析を行った。この分析は、加工途中の線径約500μmの合金線材から長さ1mmの試料を採取し、スパークICP(装置商品名:RIGAKU SPECTRO−SASSY/CIROS−MarkII)により定量分析した。
また、組成調整して製造した各種Ir合金の加工性の評価は、線材への加工の可否によって行った。このとき、最終の直径25μmの線材にまで加工可能であった合金を加工性「良(○)」と評価した。また、直径50μmまで加工可能であった合金は加工性「可(△)」とし、50μmまでの加工過程で断線が生じた合金を加工性「不可(×)」と評価した。
更に、本実施形態で製造した各種Ir合金に関し、生体適合性、X線視認性、機械的強度(破断応力、ヤング率)、拍動耐久性の各特性を評価・測定した。この評価試験は、生体適合性とX線視認性の評価試験では、合金インゴットの一部から板材を製造し、これを試料として用いた。また、機械的強度と拍動耐久性は、上記の線材加工において、加工性良の合金線材(直径25μm)と加工性可の合金線材(直径50μm)を試料とした。これらの評価方法の詳細は下記のとおりである。
[生体適合性評価]
生体適合性の評価は、基本的にJIS T 0304:2002「金属系生体材料の溶出試験方法」に従った。Ir合金を圧延加工して板材(20mm×20mm×1mm)を製造して試料を製造した。この試料について、エタノールで洗浄乾燥し、121℃×5分間高圧蒸気滅菌を行って前処理を実施した。
生体適合性の評価は、基本的にJIS T 0304:2002「金属系生体材料の溶出試験方法」に従った。Ir合金を圧延加工して板材(20mm×20mm×1mm)を製造して試料を製造した。この試料について、エタノールで洗浄乾燥し、121℃×5分間高圧蒸気滅菌を行って前処理を実施した。
次に、試料を溶出容器に取り、試料表面6cm2当り30mLの細胞培養を加え、炭酸ガス培養器(Co2濃度5%)中で37℃×7日間溶出し、得られた液を試験溶液とした。また、試料を入れずに同様の操作をおこない、得られた液を空試験溶液とした。尚、これらの溶媒を加える操作は無菌的で行われている。
そして、試験溶液をICP質量分析装置で分析し、溶出元素の定量を以下の手順で実施した。50mL容PP製定容容器に試験溶液および空試験溶液5.0mLを各々正確に量り、硝酸2mLを加え、ヒートブロック上で乾固した。これらに希王水1mLを加え、ヒートブロック上で約15分間加熱溶解した。放冷後、内標準溶液を500μL加えて正確に50mLとした液を試験溶液および空試験溶液とした。また、これらとは別に、各溶出元素の標準原液を水で段階的に希釈し、希王水1mLおよび内標準溶液を500μLずつ加えて50mLに定量し、標準液とした。
以上の準備後に、試験溶液、空試験溶液及び標準溶液をICP質量分析装置に導入し、内標準溶液に対する各元素のイオンカウント数比をY軸に、各元素濃度をX軸にとり、得られた検量線から試験溶液および空試験溶液の濃度を求め、試験溶液及び空試験溶液における溶出元素の濃度を算出した。濃度と試料の表面積から、合金試料の表面積1cm2当りの溶出元素の溶出量に換算した。この評価では、溶出元素が全く検出されなかった合金に対して生体適合性「良(○)」と判定し、何らかの溶出元素が検出されたときに生体適合性「不良(×)」と判定した。
[X線視認性評価]
Ir合金を圧延加工して板材(10mm×10mm×0.5mm)を製造して試料を製造した。この試料に対し、移動式CアームX線システム(シーメンスジャパン GEN2)を用いて、63kv×2.4mAの条件でX線透過試験を行った。このX線透過試験で得られた画像を試料の面積の2倍に切出し、画像解析を行った。画像解析では、230/256階調の上下で画像を2値化し、平均暗度を算出した。そして、平均暗度が40%〜60%である合金をX線視認性「良(○)」と判定し、40%未満である合金をX線視認性「不良(×)」と判定した。
Ir合金を圧延加工して板材(10mm×10mm×0.5mm)を製造して試料を製造した。この試料に対し、移動式CアームX線システム(シーメンスジャパン GEN2)を用いて、63kv×2.4mAの条件でX線透過試験を行った。このX線透過試験で得られた画像を試料の面積の2倍に切出し、画像解析を行った。画像解析では、230/256階調の上下で画像を2値化し、平均暗度を算出した。そして、平均暗度が40%〜60%である合金をX線視認性「良(○)」と判定し、40%未満である合金をX線視認性「不良(×)」と判定した。
[機械的強度測定]
上記で製造した合金線材(直径25μm又は直径50μm)について、極細線用引張試験機(東洋精機製作所 ストログラフE3-S)を用いて引張試験を行った。試験条件は、ゲージ長100mm、クロスヘッド速度10mm/分として、破断応力とヤング率を測定した。
上記で製造した合金線材(直径25μm又は直径50μm)について、極細線用引張試験機(東洋精機製作所 ストログラフE3-S)を用いて引張試験を行った。試験条件は、ゲージ長100mm、クロスヘッド速度10mm/分として、破断応力とヤング率を測定した。
[拍動耐久試験]
上記で製造した合金線材(直径25μm又は直径50μm)を用いて、Steager製HS80−48/IMCにより外径5.0mm×長さ35mmのステントを作製した。そして、このステントに対し、ASTM F2477「血管内ステントの拍動耐久性評価法」に準じて、120mmHg±40mmHgの圧力下で4億回の拍動を繰り返し、耐久性評価をおこなった。試験後にステントを取り出し顕微鏡観察をおこない、破損や傷のない合金を耐久性「良(○)」と判定し、破損や傷が認められた合金を耐久性「不良(×)」と判定した。
上記で製造した合金線材(直径25μm又は直径50μm)を用いて、Steager製HS80−48/IMCにより外径5.0mm×長さ35mmのステントを作製した。そして、このステントに対し、ASTM F2477「血管内ステントの拍動耐久性評価法」に準じて、120mmHg±40mmHgの圧力下で4億回の拍動を繰り返し、耐久性評価をおこなった。試験後にステントを取り出し顕微鏡観察をおこない、破損や傷のない合金を耐久性「良(○)」と判定し、破損や傷が認められた合金を耐久性「不良(×)」と判定した。
本実施形態で製造した各種のIr合金について、加工性、生体適合性、X線視認性、機械的強度(破断応力、ヤング率)、拍動耐久性の評価・測定結果を表1に示す。
表1から、各構成元素の含有量が本願発明の範囲内である実施例1〜実施例11のIr合金は、加工性に優れ線径25μmまでの極細線の加工が可能である。そして、これらの実施例のIr合金線材は、生体適合性及びX線視認性も良好であった。更に、これらのIr合金線材は、いずれも破断応力3000MPa、ヤング率350GPaを超え、4億回の拍動に対する耐久性も良好であった。一方、比較例1〜8のIr合金、Irは、以下のとおり、いずれかの特性において問題があった。
比較例1のIr(純Ir)は、加工性において明確に劣っていた。純Irの場合、約300μmの伸線加工の段階で断線が生じ、細線加工ができなかった。また、比較例2は、IrにZrのみを添加したIr合金である。この合金の場合、加工性にやや劣る面があり、線径50μmまでの加工が限界であり、25μmの細線加工の際には断線が生じた。また、この合金は、線材としたときの機械的強度も劣っており、破断応力3000MPa、ヤング率350GPaを下回っていた。そして、拍動耐久性も不良であった。
各実施例と比較例1、2との結果から、Irへ添加元素の添加は有用であると考察できるが、Zrのみでは不十分であるといえる。そして、Pt、Rh、Ruの貴金属元素の添加が必要と考えられるが、それらの添加量にも留意する必要がある。
また、比較例3〜8の結果から、Pt、Rh、Ruはそれら3つの元素全てを添加しなければ加工性改善効果は発現しない。また、Pt、Rh、Ruを全て添加するとしても、それら量が少ない場合も加工性の改善効果は不十分である。これらの比較例のIr合金は、線径50μmまでの加工ができた比較例2のZrのみ添加の合金よりも加工性が劣っている。
そして、比較例9、10のように、Pt、Rh、Ru、Zrを過剰に添加したIr合金においては、生体適合性が大きく低下することになる。これらのIr合金の場合、加工性と機械的強度(拍動耐久性)は良好である。これは、Pt、Rh、Ruの添加によるものと考えられるが、Pt、Rh、Ruの添加は合金の強度や加工性を向上させるが、それらの過剰な添加は合金表面の酸化を抑制することになる。その結果、Ir合金の素地からZrが溶出したと考えられる。
尚、本実施形態では、上述した従来技術であるCo−Cr系合金に属する合金(Co−20wt%Cr−35wt%Ni−10wt%Mo合金)について、X線視認性の評価のみ行った(比較例8)。上記したとおり、Co−Cr系合金は、本実施形態の評価条件でもX線視認性に劣ることが確認された。
本発明に係る医療用のIr合金は、Irが有する生体適合性とX線視認性を維持しつつ、Irの問題点である加工性が改善された合金である。本発明は、フローダイバーターステントやステントリトリーバー等のステント、バルーンカテーテル等のカテーテル、塞栓コイル等のコイル、ガイドワイヤ、歯列矯正具、クラスプ、人工歯根、クリップ、ステープル、ボーンプレート、神経刺激電極、ペースメーカー用リード、放射線マーカー等の各種の医療器具への応用が期待できる。
Claims (4)
- Irを主成分とする医療用Ir合金であって、質量濃度基準で、
50ppm以上200ppm以下のPt、
20ppm以上80ppm以下のRh、
10ppm以上60ppm以下のRu、
200ppm以上600ppm以下のZr、
を含み、残部Ir及び不可避不純物からなる医療用Ir合金。 - 請求項1記載の医療用Ir合金からなる線材であって、直径150μm以下のIr合金線材。
- 加工上がりの破断応力が3000MPa以上、ヤング率が350GPa以上である請求項2記載のIr合金線材。
- 少なくとも一部が請求項1〜請求項3のいずれかに記載の医療用Ir合金からなる、ステント、カテーテル、コイル、ガイドワイヤ、デリバリーワイヤ、歯列矯正具、クラスプ、人工歯根、クリップ、ステープル、ボーンプレート、神経刺激電極、ペースメーカー用リード、放射線マーカー。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2019120362A JP2021004412A (ja) | 2019-06-27 | 2019-06-27 | 医療用Ir合金 |
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