JP2021001381A - 焼結部材用合金鋼粉、焼結部材用鉄基混合粉末、および焼結部材 - Google Patents
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Abstract
【課題】強度に優れた焼結部材を製造することができる焼結部材用合金鋼粉を提供する。【解決手段】Cu:0.5〜5.0質量%およびV:0.05〜0.5質量%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる焼結部材用合金鋼粉であって、Cu含有量:Cu%(質量%)とV含有量:V%(質量%)とが、下記(1)式の関係を満たす焼結部材用合金鋼粉。3×Cu%+21×V%≦22…(1)【選択図】なし
Description
本発明は、焼結部材用合金鋼粉に関し、特に、強度に優れた焼結部材を製造することができる焼結部材用合金鋼粉に関する。また、本発明は、前記焼結部材用合金鋼粉を含む焼結部材用鉄基混合粉末に関する。さらに本発明は、前記焼結部材用合金鋼粉および焼結部材用鉄基混合粉末の少なくとも一方を原料として含む焼結部材に関する。
粉末冶金法は、金属粉を金型内で加圧して成形体としたのち、焼結して機械部品等を製造する技術である。例えば、金属粉として鉄粉を用いる場合には、該鉄粉にCu粉、黒鉛粉等を混合し、成形、焼結を行い、焼結体とする。このような粉末冶金法を利用すれば、複雑な形状の機械部品を寸法精度良く製造することができる。そのため、粉末冶金法を用いて製造される焼結体は、ギヤ等の自動車用部品として広く用いられている。
近年では、部材の軽量化や小型化といった目的を達成するため、粉末冶金焼結体の高強度化が望まれており、高強度化を目的として様々な手法が提案されている。その1つとして、Vの析出強化を利用した強度向上技術が挙げられる。
例えば、特許文献1では、Nb、V、およびTiのうちから選んだ一種または二種以上を合金化した鋼粉の表面に、Niおよび/またはCu粉末を拡散付着させた粉末冶金用混合粉末が提案されている。
特許文献2では、Vを合金化した鋼粉と、Cu粉および/またはNi粉とを含む粉末冶金用混合粉末が提案されている。
特許文献3では、Wおよび/またはVを合金化した鋼粉と、Cu粉および/またはNi粉とを含む粉末冶金用混合粉末が提案されている。
特許文献4では、MoおよびVを合金化した鋼粉に対して、Mo粉、Cu粉、Ni粉、Co粉およびW粉のうちの1種以上の金属粉末を配合または部分的に拡散付着した粉末冶金用粉末が提案されている。
特許文献5では、Cuを合金化させた鋼粉の表面に、Cu粉を拡散付着させた粉末冶金用合金粉末が提案されている。
特許文献1〜4で提案されている粉末冶金用粉末は、V等の元素を合金化させた鋼粉(合金鋼粉)を用いるものであり、V等の析出強化によって焼結体の強度を向上させることができる。また、Vの析出強化のみでは強度向上効果が限定的であるため、強度向上効果を有するCu粉等をさらに併用している。
しかし、特許文献1〜4で提案されている方法では、Cu粉等を併用しているにもかかわらず、強度向上効果は限定的であり、さらなる焼結体強度の向上が求められている。
さらに、特許文献4で提案されている粉末には、Moの使用が粉末の圧縮性を低下させ、また、焼結時にはマルテンサイトなどの硬い組織を形成するため被削性が低下するという問題があった。
特許文献5で提案されている粉末は、Cuのみを利用したものであるが、Cu単独の使用では強度向上が限定的であり、やはり、さらなる焼結体強度の向上が求められる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、上記従来の粉末に比べて、さらに強度に優れた焼結部材を製造することができる焼結部材用合金鋼粉と、該焼結部材用合金鋼粉を原料として用いた焼結部材を提供することを目的とする。
本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.Cu:0.5〜5.0質量%およびV:0.05〜0.5質量%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる焼結部材用合金鋼粉であって、
Cu含有量:Cu%(質量%)とV含有量:V%(質量%)とが、下記(1)式の関係を満たす焼結部材用合金鋼粉。
3×Cu%+21×V%≦22…(1)
Cu含有量:Cu%(質量%)とV含有量:V%(質量%)とが、下記(1)式の関係を満たす焼結部材用合金鋼粉。
3×Cu%+21×V%≦22…(1)
2.焼結部材用鉄基混合粉末であって、
請求項1に記載の焼結部材用合金鋼粉と、
前記焼結部材用鉄基混合粉末の全質量に対する割合で、
Cu粉:4質量%以下、Mo粉:4質量%以下、およびNi粉:10質量%以下からなる群より選択される1または2以上の金属粉とからなる、焼結部材用鉄基混合粉末。
請求項1に記載の焼結部材用合金鋼粉と、
前記焼結部材用鉄基混合粉末の全質量に対する割合で、
Cu粉:4質量%以下、Mo粉:4質量%以下、およびNi粉:10質量%以下からなる群より選択される1または2以上の金属粉とからなる、焼結部材用鉄基混合粉末。
3.上記1に記載の焼結部材用合金鋼粉および上記2に記載の焼結部材用鉄基混合粉末の少なくとも一方を原料として含む焼結部材。
本発明によれば、従来の粉末冶金用鉄基混合粉末に比べてCu分布を均一化できるため、低い焼結温度でも焼結体中のCu分布を均一化することができ、その結果、焼結部材の強度を向上させることができる。また、CuとVの相互作用により、析出物がより微細に析出し、組織も微細化する。その結果、さらに強度に優れる焼結部材を、低コストで製造することができる。
以下、本発明を実施する方法を具体的に説明する。
[焼結部材用合金鋼粉]
本発明の一実施形態における焼結部材用合金鋼粉(以下、単に「合金鋼粉」という場合がある)は、Cu:0.5〜5質量%およびV:0.05〜0.5質量%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる焼結部材用合金鋼粉である。CuとVの含有量を前記範囲に限定する理由は次のとおりである。なお、成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
本発明の一実施形態における焼結部材用合金鋼粉(以下、単に「合金鋼粉」という場合がある)は、Cu:0.5〜5質量%およびV:0.05〜0.5質量%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる焼結部材用合金鋼粉である。CuとVの含有量を前記範囲に限定する理由は次のとおりである。なお、成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
Cu:0.5〜5.0%
上述したように、Cuは焼結体の強度を向上させる作用を有する元素である。合金鋼粉中のCuが0.5%未満であると、Cuの添加による強度向上効果が不十分となる。そのため、Cuは0.5%以上とする。一方、合金鋼粉中のCuが5.0%を超えると、粉末の圧縮性が低下し、成型体の密度が低下する結果、十分な焼結体の強度が得られなくなる。そのため、Cuは5.0%以下とする。なお、より高い強度を効果的に得るためには、Cuは1.0〜4.0%とすることが好ましい。
上述したように、Cuは焼結体の強度を向上させる作用を有する元素である。合金鋼粉中のCuが0.5%未満であると、Cuの添加による強度向上効果が不十分となる。そのため、Cuは0.5%以上とする。一方、合金鋼粉中のCuが5.0%を超えると、粉末の圧縮性が低下し、成型体の密度が低下する結果、十分な焼結体の強度が得られなくなる。そのため、Cuは5.0%以下とする。なお、より高い強度を効果的に得るためには、Cuは1.0〜4.0%とすることが好ましい。
V:0.05〜0.5%
Vは析出強化により焼結体の強度を向上させる作用を有する元素である。合金鋼粉中のVが0.05%未満であると、Vの添加による強度向上効果が不十分となる。そのため、Vを0.05%以上とする。一方、合金鋼粉中のVが0.5%を超えると、炭化物の粗大化に起因する強度向上効果の低下や、粉末の圧縮性の低下に起因する成型体密度の低下のため、十分な焼結体の強度が得られなくなる。そのため、Vは0.5%以下とする。なお、より高い強度を効果的に得るためには、Vを0.1〜0.4%とすることが好ましい。
Vは析出強化により焼結体の強度を向上させる作用を有する元素である。合金鋼粉中のVが0.05%未満であると、Vの添加による強度向上効果が不十分となる。そのため、Vを0.05%以上とする。一方、合金鋼粉中のVが0.5%を超えると、炭化物の粗大化に起因する強度向上効果の低下や、粉末の圧縮性の低下に起因する成型体密度の低下のため、十分な焼結体の強度が得られなくなる。そのため、Vは0.5%以下とする。なお、より高い強度を効果的に得るためには、Vを0.1〜0.4%とすることが好ましい。
3×Cu%+21×V%≦22
本発明の粉末冶金用合金鋼粉は、さらに、Cu含有量:Cu%(質量%)とV含有量:V%(質量%)とが、下記(1)式の関係を満たす必要がある。
3×Cu%+21×V%≦22…(1)
本発明の粉末冶金用合金鋼粉は、さらに、Cu含有量:Cu%(質量%)とV含有量:V%(質量%)とが、下記(1)式の関係を満たす必要がある。
3×Cu%+21×V%≦22…(1)
上述したように、CuとVは、いずれも過剰に添加した場合に粉末の圧縮性を低下させる作用を有している。そのため、CuとVの含有量が上記(1)式の関係を満足しない場合、粉末を成形して得られる成型体の密度が低下し、該成型体を焼結して得られる焼結体の密度も低下する。その結果、十分な強度を有する焼結体を得ることができなくなる。
上記合金鋼粉の成分組成は、CuおよびVと、残部のFeおよび不可避的不純物からなる。前記不可避的不純物の量は特に限定されず、任意の量であってよい。しかし、C:0.01%以下、O:0.15質量%以下、Si:0.05質量%以下、Mn:0.15質量%以下、P:0.025質量%以下、S:0.025質量%以下、Cr:0.1質量%以下、N:0.01質量%以下、およびその他の元素:0.01質量%以下に抑制されることが好ましい。
上記合金鋼粉は、特に限定されることなく任意の方法で製造することができる。例えば、前記合金鋼粉は、アトマイズ法によって製造されるアトマイズ粉であってよく、中でも水アトマイズ法によって製造される水アトマイズ粉であることが好ましい。アトマイズ法で合金鋼粉を製造する場合は、例えば、上記成分組成に調製された溶鋼をアトマイズ処理で微粒化と凝固を行い粉末とし、さらに必要に応じて分級することで合金鋼粉(予合金鋼粉)を得ることができる。
得られた予合金鋼粉に含まれる酸素や炭素を除去する目的で、還元雰囲気中、800〜1000℃の温度範囲で0.5〜2時間程度保持する熱処理を行い、破砕し、合金鋼粉とする。
上記合金鋼粉の粒径は特に限定されず任意の粒径とすることができる。しかし、製造の容易さの観点からは、平均粒径を30〜150μmとすることが好ましい。特に、合金鋼粉が水アトマイズ粉である場合、平均粒径が前記範囲である合金鋼粉を工業的に低コストで製造できるため、好ましい。なお、ここで平均粒径とは、質量基準におけるメジアン径(D50)を指すものとする。前記平均粒径は、JIS Z 2510に記載の乾式ふるい分け法で測定した粒度分布から質量基準の積算粒度分布を算出し、前記積算粒度分布における積算値が50%となる粒径を内挿することにより求めることができる。
[焼結部材用鉄基混合粉末]
上記合金鋼粉は、そのままで焼結部材に用いることもできるが、さらにCu粉、Mo粉およびNi粉からなる群より選択される1以上と組み合わせた焼結部材用鉄基混合粉末として用いることが好ましい。前記焼結部材用鉄基混合粉末は、具体的には、以下に述べる実施形態とすることが好ましい。
上記合金鋼粉は、そのままで焼結部材に用いることもできるが、さらにCu粉、Mo粉およびNi粉からなる群より選択される1以上と組み合わせた焼結部材用鉄基混合粉末として用いることが好ましい。前記焼結部材用鉄基混合粉末は、具体的には、以下に述べる実施形態とすることが好ましい。
本発明の一実施形態における焼結部材用鉄基混合粉末は、上記焼結部材用合金鋼粉と、該焼結部材用鉄基混合粉末の全体の質量に対する割合で、Cu粉:4%以下、Mo粉:4%以下、およびNi粉:10%以下からなる群より選択される1種以上の金属粉とからなる、焼結部材用鉄基混合粉末である。言い換えると、本実施形態の焼結部材用鉄基混合粉末は、前記合金鋼粉と前記金属粉とからなる混合粉である。
Cu粉およびMo粉の配合は、焼結を促進させるとともに、局所的にベイナイト相とマルテンサイト相を有する複合組織を形成して焼結体の強度を向上させる効果を有する。また、Ni粉の配合は、残留オーステナイト相を形成することにより焼結体の靭性を向上させる効果を有する。しかし、それぞれCu粉:4%、Mo粉:4%、Ni粉:10%である上限を超えて配合されると、成型体の密度が著しく低下し、さらに、焼結体の残留オーステナイトが過剰に発生し、焼結体の強度が低下する。そのため、Cu粉、Mo粉、およびNi粉の添加量を上記範囲とする。
上記焼結部材用鉄基混合粉末は、任意の方法で製造することができる。例えば、上記合金鋼粉に対して、Cu粉、Mo粉およびNi粉からなる群より選択される1種以上の金属粉を、上記含有量となるように混合することによって製造すればよい。合金鋼粉と金属粉の混合は、任意の方法で行うことができる。例えば、V型混合機、ダブルコーン型混合機、へンシェルミキサ、またはナウターミキサを用いて混合する方法が挙げられる。なお、粉末混合時には、金属粉末の偏析防止のために、マシン油などの結合剤を添加しても良い。
[焼結部材]
本発明の一実施形態における焼結部材は、上記焼結部材用合金鋼粉および焼結部材用鉄基混合粉末の少なくとも一方を原料として含む焼結部材である。
本発明の一実施形態における焼結部材は、上記焼結部材用合金鋼粉および焼結部材用鉄基混合粉末の少なくとも一方を原料として含む焼結部材である。
(副原料)
前記原料としては、上記焼結部材用合金鋼粉および上記焼結部材用鉄基混合粉末から選択される少なくとも一方を、そのまま用いることができるが、さらに副原料を併用することもできる。
前記原料としては、上記焼結部材用合金鋼粉および上記焼結部材用鉄基混合粉末から選択される少なくとも一方を、そのまま用いることができるが、さらに副原料を併用することもできる。
前記副原料としては、例えば、炭素粉および金属粉からなる群より選択される1または2以上を用いることができる。前記炭素粉としては、特に限定されることなく任意のものを用いることができるが、例えば、黒鉛粉およびカーボンブラックの一方または両方を用いることが好ましい。前記黒鉛粉としては、天然黒鉛粉および人造黒鉛粉のいずれも用いることができる。炭素粉を副原料として添加することにより、焼結体の強度をさらに向上させることができる。また、前記金属粉としては、任意の金属粉を用いることができる。例えば、Cu粉、Mo粉およびNi粉からなる群より選択される1種以上を副原料として添加することにより、焼結部材の最終的な金属成分を調整することも可能である。
(潤滑剤)
また、成形に先立って、上記原料にさらに潤滑剤を添加することもできる。前記潤滑剤としては、粉末状の潤滑剤を用いることが好ましい。また、金型に潤滑剤を塗布あるいは付着させて上記成形を行うこともできる。いずれの場合であっても、前記潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸リチウムなどの金属石鹸、エチレンビスステアリン酸アミドなどのアミド系ワックスなど、任意の潤滑剤を用いることができる。前記潤滑剤の量は、前記原料100質量部に対し、0.3〜1.0質量部とすることが好ましい。すなわち、前記原料として上記焼結部材用合金鋼粉を用いる場合は、潤滑剤の量を、前記焼結部材用合金鋼粉100質量部に対し、0.3〜1.0質量部とすることが好ましい。また、前記原料として上記焼結部材用鉄基混合粉末を用いる場合は、潤滑剤の量を、前記焼結部材用鉄基混合粉末100質量部に対し、0.3〜1.0質量部とすることが好ましい。
また、成形に先立って、上記原料にさらに潤滑剤を添加することもできる。前記潤滑剤としては、粉末状の潤滑剤を用いることが好ましい。また、金型に潤滑剤を塗布あるいは付着させて上記成形を行うこともできる。いずれの場合であっても、前記潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸リチウムなどの金属石鹸、エチレンビスステアリン酸アミドなどのアミド系ワックスなど、任意の潤滑剤を用いることができる。前記潤滑剤の量は、前記原料100質量部に対し、0.3〜1.0質量部とすることが好ましい。すなわち、前記原料として上記焼結部材用合金鋼粉を用いる場合は、潤滑剤の量を、前記焼結部材用合金鋼粉100質量部に対し、0.3〜1.0質量部とすることが好ましい。また、前記原料として上記焼結部材用鉄基混合粉末を用いる場合は、潤滑剤の量を、前記焼結部材用鉄基混合粉末100質量部に対し、0.3〜1.0質量部とすることが好ましい。
なお、成形に先立って、上記原料に対し、切削性改善用粉末を混合することができる。前記切削性改善用粉末としては、例えば、MnSなどを用いることができる。前記切削性改善用粉末の量は、前記原料100質量部に対し0.1〜0.7質量部とすることが好ましい。
上記原料に対し、必要に応じて(任意に)上記副原料、潤滑剤、および切削性改善用粉末からなる群より選択される1または2以上を添加混合した後、さらに所望の形状に圧縮成形して成形体とする。前記圧縮成形は、特に限定されることなく、焼結部材用鉄基混合粉末を成形できる方法であれば任意の方法で行うことができる。一般的な成形方法としては、焼結部材用鉄基混合粉末を金型内に充填し、圧縮成形する方法が挙げられる。
次いで、得られた成型体を焼結する。前記焼結は、特に限定されることなく、一般的な焼結部材における焼結方法に準じ、任意の条件で行うことができる。しかし、焼結温度が1100℃に満たないと焼結が十分に進行しない場合がある。そのため、焼結温度を1100℃以上とすることが好ましく、1120℃以上とすることがより好ましい。一方、焼結温度が高いほど焼結体中におけるCu分布が均一となるため、焼結温度の上限は特に限定されない。しかし、過度に焼結温度を高くすると製造コストが増大する。そのため、焼結温度は1250℃以下とすることが好ましく、1180℃以下とすることがより好ましい。本発明の焼結部材用合金鋼粉では、従来の粉末と異なり、CuとVの両者を合金化しているため、上記焼結温度でもCu分布を均一とすることができ、その結果、焼結体の強度を効果的に向上させることができる。
なお、上記焼結前に、潤滑剤を分解除去するために、400〜700℃の温度範囲で一定時間保持する脱脂工程を追加してもよい。
上記した以外の焼結部材の製造条件や設備、その方法等は、特に限定されず、例えば、公知のものを適用することができる。ただし、焼結後に鍛造処理を行う焼結鍛造部材は除く。
(実施例1)
・焼結部材用合金鋼粉の製造
以下の手順で焼結部材用合金鋼粉を製造した。まず、表1に示す含有量でCuおよびVのいずれか一方または両方を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の溶鋼を調整した。前記溶鋼を水アトマイズで微粒化と凝固を行い、予合金鋼粉を作製した。前記予合金鋼粉に不純物として含まれるSi、Mn、P、S、およびCrの量は、いずれの条件においてもSi:0.05質量%未満、Mn:0.15質量%未満、P:0.025質量%未満、S:0.025質量%未満、およびCr:0.03質量%未満であった。
・焼結部材用合金鋼粉の製造
以下の手順で焼結部材用合金鋼粉を製造した。まず、表1に示す含有量でCuおよびVのいずれか一方または両方を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の溶鋼を調整した。前記溶鋼を水アトマイズで微粒化と凝固を行い、予合金鋼粉を作製した。前記予合金鋼粉に不純物として含まれるSi、Mn、P、S、およびCrの量は、いずれの条件においてもSi:0.05質量%未満、Mn:0.15質量%未満、P:0.025質量%未満、S:0.025質量%未満、およびCr:0.03質量%未満であった。
次に、得られた水アトマイズ粉に還元熱処理を施した。前記還元熱処理は、水素雰囲気中、920℃で、30分間保持して行った。前記還元熱処理を施された粉末はケーキ状に固化した熱処理体となっているため、該熱処理体を、ハンマーミルを用いて粉砕し、次いで分級した。前記分級では、目開きが180μmの篩を使用し、篩下を焼結部材用合金鋼粉とした。前記粉砕後の焼結部材用合金鋼粉に不純物として含まれるC、O、およびNの量は、いずれの条件においても、C:0.01質量%未満、O:0.15質量%未満、N:0.01質量%未満であった。なお、最終的に得られた焼結部材用合金鋼粉におけるCuおよびV含有量は、上記溶鋼における含有量に等しかった。
・焼結部材の製造
得られた合金鋼粉:100質量部に対して、黒鉛粉:0.8質量部、潤滑剤(ステアリン酸亜鉛):0.6質量部、さらに必要に応じて所定量のCu粉(平均粒径(D50):50μm以下)を添加し、ダブルコーン型混合機を用いて混合して原料粉末を得た。前記原料粉末を、10mm×10mm×55mmの直方体形状に、所定の圧力で圧縮成形して成型体とした。前記成型体の密度を表1に併記する。
得られた合金鋼粉:100質量部に対して、黒鉛粉:0.8質量部、潤滑剤(ステアリン酸亜鉛):0.6質量部、さらに必要に応じて所定量のCu粉(平均粒径(D50):50μm以下)を添加し、ダブルコーン型混合機を用いて混合して原料粉末を得た。前記原料粉末を、10mm×10mm×55mmの直方体形状に、所定の圧力で圧縮成形して成型体とした。前記成型体の密度を表1に併記する。
次いで、前記成型体を、10%H2−90%N2雰囲気で、1130℃で20分間保持し、焼結体とした。得られた焼結体から、長さ:50mm×直径:3mmの引張試験片を切り出して、引張強さを測定した。測定結果は表1に示す。
なお、比較のために、Cuを合金元素として含まない合金鋼粉を用いて同様の試験を行った(No.16、17)。
No.16では、Vのみを合金元素として含む合金鋼粉の表面に、Cu粉(平均粒径(D50):50μm以下)を拡散付着させた合金鋼粉を使用した。具体的には、まず、Vを0.20%含みCuを含まない予合金鋼粉に前記Cu粉を添加し、V型混合機で15分間混合して混合粉とした。次いで、得られた混合粉に還元熱処理を施した。前記還元熱処理は水素雰囲気中、920℃で、30分間保持して行った。前記還元熱処理を施された粉末は粒子同士が焼結した塊状体となっているため、ハンマーミルを用いて該塊状体を粉砕し、次いで分級した。前記分級では、目開きが180μmの篩より落ちた粉を採取し、Cuを拡散付着させた合金鋼粉とした。得られた拡散付着合金鋼粉におけるCuおよびV含有量を表1に示す。また、前記拡散付着合金鋼粉に不純物として含まれるC、O、Nの量はC:0.01質量%未満、O:0.20質量%未満、N:0.05質量%未満であった。
また、No.17では、Vのみを合金元素として含む合金鋼粉に、Cu粉を添加した混合粉末を使用した。前記混合粉末のCuおよびV含有量は表1に示す。
表1より、本発明の条件を満たす合金鋼粉を用いたNo.10〜No.15の焼結体は、Cu量が同じでVを含まないNo.1〜4に比べて引張強さに優れていた。また、V量が同じでCuを含まないNo.5〜8に比べても引張強さに優れていた。
なお、No.9はCuおよびVのそれぞれの量は本発明の範囲内であるが、3Cu%+21V%の値が22を超え、成型体の密度が低い。これに伴い、焼結体の密度が低下するため、添加したCuおよびVの量に見合った引張強さが得られていない。
さらに、No.16、17はCuとVの量がNo.13と同じであるにもかかわらず、焼結体の引張強さは劣っていた。
(実施例2)
・焼結部材用鉄基混合粉末の製造
実施例1で作製したNo.13の合金鋼粉に、Cu粉、Mo粉、およびNi粉からなる群より選択される1以上の金属粉を混合することにより、焼結部材用鉄基混合粉末を製造した。前記合金鋼粉および金属粉の質量の合計に対する前記金属粉の質量の割合を表2に示す。使用した金属粉の平均粒径(D50)は、Cu粉:45μm以下、Mo粉:25μm以下、Ni粉:25μm以下とした。さらに合金鋼粉および金属粉の質量の合計100質量部に対し、黒鉛粉:0.8質量部、潤滑剤(ステアリン酸亜鉛):0.8質量部、およびMnS粉末:0.5質量部を添加し、ダブルコーン型混合機を用いて混合して焼結部材用鉄基混合粉末を得た。
・焼結部材用鉄基混合粉末の製造
実施例1で作製したNo.13の合金鋼粉に、Cu粉、Mo粉、およびNi粉からなる群より選択される1以上の金属粉を混合することにより、焼結部材用鉄基混合粉末を製造した。前記合金鋼粉および金属粉の質量の合計に対する前記金属粉の質量の割合を表2に示す。使用した金属粉の平均粒径(D50)は、Cu粉:45μm以下、Mo粉:25μm以下、Ni粉:25μm以下とした。さらに合金鋼粉および金属粉の質量の合計100質量部に対し、黒鉛粉:0.8質量部、潤滑剤(ステアリン酸亜鉛):0.8質量部、およびMnS粉末:0.5質量部を添加し、ダブルコーン型混合機を用いて混合して焼結部材用鉄基混合粉末を得た。
・焼結部材の製造
得られた前記混合粉を、10mm×10mm×55mmの直方体形状に、所定の圧力で、圧縮成形して成形体とした。前記成形体の密度を表2に併記する。
得られた前記混合粉を、10mm×10mm×55mmの直方体形状に、所定の圧力で、圧縮成形して成形体とした。前記成形体の密度を表2に併記する。
次いで、前記成型体を、10%H2−90%N2雰囲気で、焼結温度:1130℃で20分間焼結し、焼結体とした。得られた焼結体から、長さ:50mm×直径:3mmの引張試験片を切り出して、引張強さを測定した。測定結果は表2に併記する。
表2より、本発明の条件を満たす焼結部材用鉄基混合粉末を用いたNo.18、No.20、No.21、No.23、No.24、No.26は、いずれも、No.13よりも成型体の密度がさらに高く、焼結部材の引張強さもNo.13と比べて一段と高かった。
Claims (3)
- Cu:0.5〜5.0質量%およびV:0.05〜0.5質量%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる焼結部材用合金鋼粉であって、
Cu含有量:Cu%(質量%)とV含有量:V%(質量%)とが、下記(1)式の関係を満たす焼結部材用合金鋼粉。
3×Cu%+21×V%≦22…(1) - 焼結部材用鉄基混合粉末であって、
請求項1に記載の焼結部材用合金鋼粉と、
前記焼結部材用鉄基混合粉末の全質量に対する割合で、
Cu粉:4質量%以下、Mo粉:4質量%以下、およびNi粉:10質量%以下からなる群より選択される1または2以上の金属粉とからなる、焼結部材用鉄基混合粉末。 - 請求項1に記載の焼結部材用合金鋼粉および請求項2に記載の焼結部材用鉄基混合粉末の少なくとも一方を原料として含む焼結部材。
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