JP2020200521A - 水素供給方法および水素供給装置 - Google Patents

水素供給方法および水素供給装置 Download PDF

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Abstract

【課題】プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層を備えた電気化学セルにおいて、電解質層におけるプロトンの逆流に起因する水素供給効率の低下を抑制することができる水素供給方法、およびそのような水素供給装置を提供する。【解決手段】プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層11と、電解質層11に相互に対向して接合されたアノード12およびカソード13とを有し、アノード12において、含水素分子よりなるアノード反応分子(H2O)からプロトンを分離し、電解質層11を移動した該プロトンからカソード13にて水素分子を生成することができる電気化学セル10を用いて、アノード12に水蒸気のみを供給してカソード13にて水素分子を生成させる場合よりも、アノード12が接する雰囲気G2を還元性の高い状態に維持しながら、アノード反応分子をアノード12に供給し、カソード13側から水素分子を取り出す。【選択図】図1

Description

本発明は、水素供給方法および水素供給装置に関し、さらに詳しくは、プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層を備えた電気化学セルにより、含水素分子を用いた水素の供給を行う水素供給方法および水素供給装置に関する。
水素分子の利用や貯蔵を目的として、水分子等、水素分子以外の含水素分子に対する電気分解や、水素分子の分離または圧縮を経て、水素分子の供給を行う水素供給装置が、利用されている。その中で、水蒸気の電気分解によって水素分子を生成させる水素発生装置等として、固体電解質材料よりなる電解質層に、相互に対向させてアノードとカソードを接合した電気化学セルが用いられる場合がある。
水素供給装置の電気化学セルを構成する固体電解質材料としては、酸化物イオン伝導性の固体酸化物が、一般的に用いられている。酸化物イオン伝導性固体酸化物を電解質として用いた電気化学セルを備えた水素供給装置は、例えば、特許文献1に開示されている。
特開2015−21149号公報
電気化学セルを用いて水の電気分解を行うと、カソードから水素ガスが発生する。特許文献1に示されるもののように、酸化物イオン伝導性の固体電解質を備えた電気化学セルにおいて、水分子の電気分解を行う場合には、カソードに水蒸気を導入し、カソード上で、水分子の分解によって、水素分子を生成させる。つまり、カソードにおいて、水蒸気を導入しながら、水素ガスを回収することになり、カソード側の雰囲気は、水素ガスと水蒸気が混合されたものとなる。このように、水蒸気の導入と水素ガスの回収を同一の電極において行う場合には、純度の高い水素ガスを得るために、水蒸気との分離を行う必要が生じる。
水蒸気と、発生した水素ガスとの混合を避ける方法として、電気化学セルを構成する固体電解質に、酸化物イオン伝導性のものではなく、プロトン伝導性のものを用いることが考えられる。この場合には、図1(b)に示すように、電気化学セル10において、カソード13ではなくアノード12に、水蒸気を導入して電気分解を行うことになる。アノードにおいて水分子が分解されてプロトンが発生し、そのプロトンが、アノード12からカソード13に向かって電解質層11中を移動する(図中矢印A1)。そして、カソード13においてプロトンが再結合し、水素分子が発生する。この場合には、水蒸気を導入する電極と水素ガスが発生する電極が別になるので、発生した水素ガスを、水蒸気との分離を経ることなく、高濃度で回収することが可能となる。
しかし、この種のプロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層11を備えた電気化学セル10においては、図1(b)中に矢印A2で示すように、カソード13側からアノード12側へのプロトンの逆流が問題となる。プロトンの逆流は、ホール・電子リークが起こっていることを意味し、電気化学セル10における水素生成効率を低下させるものとなる。
本発明が解決しようとする課題は、プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層を備えた電気化学セルにおいて、電解質層におけるプロトンの逆流に起因する水素供給効率の低下を抑制することができる水素供給方法、およびそのような水素供給装置を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明にかかる水素供給方法は、プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層と、前記電解質層に相互に対向して接合されたアノードおよびカソードとを有し、前記アノードにおいて、含水素分子よりなるアノード反応分子からプロトンを分離し、前記電解質層を移動した該プロトンから前記カソードにて水素分子を生成することができる電気化学セルを用いて、前記アノードに水蒸気のみを供給して前記カソードにて水素分子を生成させる場合よりも、前記アノードが接する雰囲気を還元性の高い状態に維持しながら、前記アノード反応分子を前記アノードに供給し、前記カソード側から水素分子を取り出すものである。
ここで、水素分子以外の含水素分子を前記アノード反応分子として用いる電気分解による水素発生、あるいは、水素分子を前記アノード反応分子として用いる水素分離または水素圧縮、の少なくとも1つの工程によって、前記カソード側から水素分子を取り出すとよい。
前記アノードが接する雰囲気は、水分子よりも高い還元性を有する還元性分子が、前記アノード反応分子としての水蒸気に添加された混合アノードガスであり、前記混合アノードガス中の水分子の電気分解による水素発生によって、前記カソード側から水素分子を取り出すとよい。
前記混合アノードガスに含有される前記還元性分子は、水素分子であるとよい。
前記還元性分子としての水素分子の、前記混合アノードガスへの添加は、含水素分子よりなる添加源物質から水素分子を生成することができる水素生成触媒に、前記添加源物質を含有する原料ガスを接触させること、および、前記カソード側から取り出した水素分子の一部を、前記アノード側に還流させること、の少なくとも一方によって行うとよい。
前記還元性分子としての水素分子の前記混合アノードガスへの添加は、前記水素生成触媒を用いて行い、前記水素生成触媒は、前記アノードの構成材料と共通の材料として構成される形態、前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成され、前記アノードが接する雰囲気と共通の雰囲気中に配置される形態、前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成され、前記アノードが接する雰囲気と独立に雰囲気および温度を制御可能であり、前記原料ガスを通過させて前記アノードに供給する前処理室に配置される形態、の少なくとも1つの形態で備えられるとよい。
前記水素生成触媒は、水分子と炭化水素分子から水素分子を生成する改質反応を行う改質触媒よりなり、前記原料ガスとして、水蒸気と炭化水素分子を含有するガスを、前記水素生成触媒に接触させて、前記還元性分子としての水素分子を生成するとよい。
前記原料ガスに、前記水素生成触媒による前記改質反応を経て余剰の水分子が残存する量で、水蒸気を含有させておき、前記改質反応を経て、前記原料ガスから生成される前記混合アノードガス中の前記余剰の水分子を、前記アノード反応分子として、前記アノードでのプロトンの分離に供するとよい。
前記水素生成触媒は、Ruを含有し、前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成されるとよい。あるいは、前記水素生成触媒は、Niを含有し、前記アノードの構成材料と共通の材料として構成されるか、前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成されるとよい。また、前記炭化水素分子は、メタンであるとよい。
本発明にかかる水素供給装置は、プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層と、前記電解質層に相互に対向して接合されたアノードおよびカソードとを有し、前記アノードにおいて、含水素分子よりなるアノード反応分子からプロトンを分離し、前記電解質層を移動した該プロトンから前記カソードにて水素分子を生成することができる電気化学セルと、前記アノードが接する雰囲気に、前記アノード反応分子に加えて、前記アノード反応分子よりも高い還元性を有する還元性分子を添加することができる還元性分子添加手段と、を有する。
ここで、前記アノード反応分子は水分子であり、前記還元性分子は、水素分子であるとよい。
前記還元性分子添加手段は、前記アノードに供給される原料ガスが接触する箇所に設けられ、含水素分子よりなる添加源物質から水素分子を生成することができる水素生成触媒、および、前記カソード側から取り出した水素分子の一部を、前記アノード側に還流させる水素リサイクル路、の少なくとも一方よりなるとよい。
前記還元性分子添加手段は、前記水素生成触媒を含み、前記水素生成触媒は、前記アノードの構成材料と共通の材料として構成される形態、前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成され、前記アノードが接する雰囲気と共通の雰囲気中に配置される形態、前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成され、前記アノードが接する雰囲気と独立に雰囲気および温度を制御可能であり、前記原料ガスを通過させて前記アノードに供給する前処理室に配置される形態、の少なくとも1つの形態で備えられるとよい。
前記水素生成触媒は、水分子と炭化水素分子から水素分子を生成する改質反応を行う改質触媒よりなるとよい。
前記水素生成触媒は、Ruを含有し、前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成されるとよい。あるいは、前記水素生成触媒は、Niを含有し、前記アノードの構成材料と共通の材料として構成されるか、前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成されるとよい。
上記発明にかかる水素発生方法においては、プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層を備えた電気化学セルを用いて、アノードに供給したアノード反応分子からプロトンを分離し、カソードから水素分子として取り出す。この電気化学反応を行う間、アノードが接する雰囲気を、還元性の高い状態に維持しておくことにより、プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層において、プロトン輸率が高く維持され、プロトンが、カソード側からアノード側へと移動する逆流を起こしにくくなる。これは、ホール・電子リークが抑制されることを意味しており、カソードからの水素分子の供給の効率を高めることができる。
ここで、水素分子以外の含水素分子をアノード反応分子として用いる電気分解による水素発生、あるいは、水素分子をアノード反応分子として用いる水素分離または水素圧縮、の少なくとも1つの工程によって、前記カソード側から水素分子を取り出す場合には、それらいずれの工程においても、アノードが接する雰囲気を還元性の高い状態に維持しておくことにより、カソードからの水素分子の供給の効率を高める効果が得られる。
アノードが接する雰囲気が、水分子よりも高い還元性を有する還元性分子が、アノード反応分子としての水蒸気に添加された混合アノードガスであり、混合アノードガス中の水分子の電気分解による水素発生によって、カソード側から水素分子を取り出す場合には、電気化学セルとして、電解質層がプロトン伝導性固体電解質よりなるものを用いていることにより、原料としての水蒸気との分離を経ることなく、カソードから効率的に水素分子を生成させることができるうえ、アノードが接する雰囲気を還元性の高い状態に保っておくことにより、水蒸気のみをアノードに供給して電気分解を行う場合に比べて、プロトンの逆流を抑制し、水素生成効率を高めることができる。
混合アノードガスに含有される還元性分子が、水素分子である場合には、ホール・電子リークが特に小さくなるので、電解質層におけるプロトンの逆流を、効果的に抑制することができる。
還元性分子としての水素分子の混合アノードガスへの添加を、含水素分子よりなる添加源物質から水素分子を生成することができる水素生成触媒に、添加源物質を含有する原料ガスを接触させること、および、カソード側から取り出した水素分子の一部を、アノード側に還流させること、の少なくとも一方によって行う場合には、混合アノードガスへの水素分子の添加によるアノード側雰囲気の還元性の保持を、簡便に、また効率的に行うことができる。
還元性分子としての水素分子の混合アノードガスへの添加を、水素生成触媒を用いて行い、水素生成触媒が、アノードの構成材料と共通の材料として構成される形態、アノードの構成材料とは独立した材料として構成され、アノードが接する雰囲気と共通の雰囲気中に配置される形態、アノードの構成材料とは独立した材料として構成され、アノードが接する雰囲気と独立に雰囲気および温度を制御可能であり、原料ガスを通過させてアノードに供給する前処理室に配置される形態、の少なくとも1つの形態で備えられる場合には、水素生成触媒がそれらの形態のいずれをとる場合についても、添加源物質からの水素分子の生成と、混合アノードガスへの添加を、簡便に行うことができる。特に、水素生成触媒が、アノードの構成材料と共通の材料として構成される形態においては、アノード部およびその近傍の構成を簡素にすることができる。一方、水素生成触媒が、アノードの構成材料とは独立した材料として構成される場合には、アノードでの電極反応と水素生成触媒での水素分子の生成の両方を、それぞれに好適な材料を用いて進めることができる。さらに、そのような水素生成触媒を前処理室に配置すれば、アノードでの電極反応と水素生成触媒での水素分子の生成の両方を、好適な温度・圧力条件において、進めることができる。
水素生成触媒が、水分子と炭化水素分子から水素分子を生成する改質反応を行う改質触媒よりなり、原料ガスとして、水蒸気と炭化水素分子を含有するガスを、水素生成触媒に接触させて、還元性分子としての水素分子を生成する場合には、高い還元性を有する混合アノードガスを、簡便に生成させることができる。
原料ガスに、水素生成触媒による改質反応を経て余剰の水分子が残存する量で、水蒸気を含有させておき、改質反応を経て、原料ガスから生成される混合アノードガス中の余剰の水分子を、アノード反応分子として、アノードでのプロトンの分離に供する場合には、水素生成触媒での改質反応を経て、アノード反応分子としての水蒸気と、還元性分子としての水素分子の両方を含み、還元性が高められた混合アノードガスを生成させることができる。その結果、アノードが接する雰囲気を還元性の高い状態に保ったまま、水蒸気の電気分解による水素分子の生成を行うことができ、高い水素生成効率を達成しやすくなる。特に、原料ガスとして、天然ガス等の炭化水素と水蒸気を混合したものを用いて、水素発生を効率的に行うことができる。
水素生成触媒が、Ruを含有し、アノードの構成材料とは独立した材料として構成される場合には、Ruは、種々の金属触媒の中でも、優れた改質触媒として機能するため、炭化水素分子と水分子からの水素分子の生成を効率的に進め、アノード側の雰囲気の還元性を高めることがきる。
あるいは、水素生成触媒が、Niを含有し、アノードの構成材料と共通の材料として構成されるか、アノードの構成材料とは独立した材料として構成される場合には、Niも、Ruには劣るものの、優れた改質触媒として機能する金属であり、水素分子の生成によるアノード側雰囲気の還元性を高めるのに、高い効果を示す。同時に、Niは、水分子等のアノード反応分子からプロトンを分離させる電極反応にも高い活性を示すため、アノード材と水素生成触媒を共通の材料より構成する場合に、Niを特に好適に用いることができる。
また、炭化水素分子が、メタンである場合には、メタンは、天然ガス等として利用しやすい炭化水素であるとともに、水分子との改質反応による水素分子生成の効率に優れているため、アノード側の雰囲気の還元性を高めることによる水素供給効率の向上に、好適に用いることがきる。
上記発明にかかる水素供給装置には、プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層を備えた電気化学セルに加えて、電気化学セルのアノードが接する雰囲気に、水素分子等、アノード反応分子よりも高い還元性を有する還元性分子を供給することができる還元性分子添加手段が備えられている。電気化学セルにおいて、アノード反応分子からプロトンを分離し、カソード側から水素分子として取り出す電気化学反応を行う間、アノードが接する雰囲気に、アノード反応分子に加えて、還元性分子を添加しておくことで、アノード側を還元性雰囲気に保つことができる。それによって、電解質層において、プロトンがカソード側からアノード側に移動する逆流を抑制し、ホール・電子リークを制限することができる。その結果、水素供給装置において、水素供給の効率を高めることができる。
電気化学セルの構成と、電気化学反応中の状態を示す模式図である。(a)は、本発明の第一の実施形態にかかる水素供給装置および水素供給方法に用いられる、水素発生触媒によってアノード側雰囲気の還元性を高める形態の電気化学セルを示している。(b)は、アノード側雰囲気の還元性を高める手段を有さない形態の電気化学セルを示している。 水素供給装置の種々の実施形態を示す図である。(a)は、図1(a)と同様に、アノード上に水素生成触媒が保持されている第一の実施形態を示している。(b)は、アノードが水素生成触媒を兼ねる第二の実施形態を示している。(c)は、水素生成触媒が前処理室に設けられる第三の実施形態を示している。(d)は、水素生成触媒の代わりに、水素リサイクル路が設けられる第四の実施形態を示している。 種々の条件における電気化学セルの特性評価の結果を示す図であり、(a)は電圧−電流特性、(b)は水素発生速度の計測結果を示している。
以下に、本発明の実施形態にかかる水素供給装置および水素供給方法について説明する。本発明の実施形態にかかる水素供給装置および水素供給方法においては、電気化学セルを用いて、含水素分子の電気分解による水素分子の生成、水素分子の分離、水素分子の圧縮のいずれか少なくとも1つの工程を経て、水素分子を、利用や貯蔵等のために供給するものである。
本発明の実施形態にかかる水素供給装置は、電気化学セルと、還元性分子添加手段とを有している。電気化学セルは、電気化学反応によって、アノードに導入されたアノード反応分子に含有される水素原子を、水素分子の形で、カソードから取り出すものである。アノード反応分子は、含水素分子(水素原子を含む分子)であれば、特に限定されるものではないが、以下では、水蒸気の形態にある水分子をアノード反応分子とし、その水分子の電気分解による水素分子の生成を行う形態を中心として、説明を行う。還元性分子添加手段は、電気化学セルのアノードが接する雰囲気に、アノード反応分子よりも高い還元性を有する還元性分子を添加するための機構であり、還元性分子および還元性分子添加手段の具体的な種類については、特に限定されるものではないが、以下では、還元性分子が水素分子である場合を中心として、説明を行う。還元性分子添加手段については、複数の実施形態を挙げて具体的に説明する。
[第一の実施形態]
(水素供給装置の構成)
まず、本発明の水素供給装置の代表的な実施形態として、第一の実施形態にかかる水素供給装置1の構成について説明する。本実施形態にかかる水素供給装置1は、図1(a)に示すように、電気化学セル10と、還元性分子添加手段としての水素生成触媒20を有している。
電気化学セル10は、プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層11と、アノード(陽極)12と、カソード(陰極)13とを備えている。アノード12とカソード13は、相互に対向して、電解質層11に接合されている。電気化学セル10の形状は、特に限定されるものではなく、平板型、円筒型等、任意の形状をとることができる。また、電解質層11をもって支持体とするものの他、厚く形成したアノード12またはカソード13を支持体として、電気化学セル10を構成することもできる。
電気化学セル10にはさらに、アノード12に接する雰囲気を収容するアノード側空間30、およびカソード13に接する雰囲気を収容するカソード側空間40が設けられている。アノード側空間30には、水素供給装置1における水素供給の原料となる原料ガスG1を導入する経路である原料導入路31と、アノード12での電極反応によって生じたアノード生成ガスG3を回収するアノード生成ガス流路32が接続されている。また、カソード側空間40には、カソード13での電極反応によって生じたカソード生成ガスG4を回収するカソード生成ガス流路41が接続されている。さらに、電気化学セル10のアノード12とカソード13の間には、外部電気回路が接続されており、電源装置50により、アノード12とカソード13の間に電圧を印加することができる。
後に詳しく説明するが、電源装置50により、アノード12側が高電位となるように、アノード12−カソード13間に電圧を印加することで、電気化学セル10における電気化学反応を進行させることができる。具体的には、アノード側空間30に存在する含水素分子よりなるアノード反応分子からプロトンを分離する。そして、アノード12で生成したプロトンを、電解質層11の中をアノード12側からカソード13側へと移動させて、カソード13において水素分子の形で取り出す。
電気化学セル10において、アノード12およびカソード13の各電極は、電解質層11に直接接合されていてもよいし、電極12,13と電解質層11との間に任意に中間層が介在されていてもよい。また、電気化学セル10は、適宜セパレータを介して複数集積されて、水素供給装置1を構成してもよい。セパレータと各電極12,13の間には、適宜集電材が配置されてもよい。
電解質層11を構成する具体的な材料は、プロトン伝導性を有する固体電解質材料であれば、特に限定されるものではないが、プロトン伝導性セラミックス材料を用いることが好ましい。プロトン伝導性セラミックス材料としては、BaZrO系やBaCeO系等の材料を用いることができる。本発明者らの研究による特開2018−073757号公報に開示されるように、LaYbO系材料を用いることも好ましい。
以下に、電解質層11として使用可能なプロトン伝導性セラミックス材料の例を、列挙する。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
BaCe1−xSm3−δ,BaCe1−x3−δ,BaZr1−x−yCe3−δ,BaCe1−xGd3−δ,SrCe1−x3−δ,Ba(Ce1−x−yTa)O3−δ,BaCe1−x3−δ,La1−xCaNbO,BaCe1−x−yNd3−δ,BaZr1−x3−δ,BaZr1−x−yCeYb3−δ,La1−xSrScO3−δ,BaZr1−xYb3−δ,La1−xSrYb1−yIn3−δ,SrZr1−x3−δ,CaZr1−xIn3−δ
アノード12を構成する材料は、導電性を有し、水分子等、含水素分子よりなるアノード反応分子を、酸化反応によって分解し、その含水素分子からプロトンを分離できるものであれば、特に限定されるものではない。アノード12を構成する材料としては、以下のようなものを挙げることができる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
Pt,Ni,Ru,BaCe1−x−yPr3−δ,La1−xSrCoO3−δ,La1−xSrFeO3−δ,Sr1−xSmCoO3−δ,(La1−xSr1−yMn3−δ,BaZr1−x−yCeYb3−δ,BaZr1−x3−δ,Ni−BCZY,Ni−BCZYYb,La1−xBaCoO3−δ,Ba1−xSrCO1−yFe3−δ
カソード13を構成する材料は、導電性を有し、還元反応によって、プロトンから水素分子を生成できるものであれば、特に限定されるものではない。具体的な材料としては、Ni,Co,Pt,Pd,Ru等の金属を挙げることができる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。カソード13は、それら金属材料のみよりなっても、金属材料とセラミックス材料のサーメットよりなってもよい。
あるいは、カソード13は、導電性セラミックス材料よりなるセラミック電極としても構成してもよい。セラミック電極を構成するセラミックス材料としては、ペロブスカイト型酸化物を基本構造とするものを好適に用いることができる。ペロブスカイト型酸化物は、電子−酸化物イオン混合伝導性を有するものであることが好ましい。具体的な材料としては、以下のようなものを挙げることができる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
La1−xSrFeO3−δ,La1−xCaFeO3−δ,La1−xSrCr1−yMn3−δ,La1−xSrCr1−yFe3−δ,La1−xSrCr1−yAl3−δ,La1−xSrSc1−yMn3−δ,La1−xSrCo1−yFe3−δ,Pr1−xCaCr1−yMn3−δ,La1−xCaCrO3−δ,LaNiO,SrFe1−xMo3−δ,LaNi1−xFe3−δ,PrNi1−xFe3−δ
上で列挙した金属材料、およびここに列挙したセラミックス材料は、特に、プロトンからの水素分子の生成に、高い活性を示す。
本実施形態にかかる水素供給装置1は、ここまで説明した電気化学セル10に加え、還元性分子添加手段として、水素生成触媒20を備えている。還元性分子添加手段は、還元性分子、つまりアノード12に供給される水分子等のアノード反応分子よりも高い還元性を有する分子を、アノード側空間30内の雰囲気に添加する機構であり、本実施形態で例示する形態においては、還元性元素として、水素を生成させ、アノード側空間30内の雰囲気に添加するものとなっている。
水素生成触媒20は、いかなる物質を、原料、つまり添加源物質として用いて、水素分子を生成するものであってもよい。本実施形態においては、メタン等の炭化水素分子と水分子を添加源物質として、改質反応によって水素分子を生成する、改質触媒を用いることが好ましい。メタンを原料とする改質反応は、下の式(1)で表される。
CH+HO→CO+3H (1)
さらに、上記改質反応とともに、下の式(2)で表される水性ガスシフト反応も進行する場合が多い。
CO+HO→CO+H (2)
本実施形態においては、水素生成触媒20は、アノード12の構成材料とは独立した材料として構成され、アノード12の近傍に配置されている。水素生成触媒20は、アノード側空間30に収容されており、アノード12と共通の雰囲気および温度条件に置かれることになる。水素生成触媒20は、アノード12の構成材料との混合、アノード12の表面への載置等により、アノード12に直接接触して保持されても、例えばアノード12に接触させて配置される集電材等に支持されて、アノード12とは直接接触せずに、アノード12の近傍に保持されていてもよい。
水素生成触媒20として用いる改質触媒の具体的な種類は、特に限定されるものではないが、Ni,Pt,Re,Ru,Rh等の金属を含む触媒を、好適に用いることができる。それらの金属は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中で、NiおよびRu、特にRuは、改質反応に対して高い活性を示し、改質触媒として好適に用いることができる。改質触媒は、金属のみよりなってもよいが、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等に代表される金属酸化物等よりなる担体に金属が担持された担持触媒の形態をとることが好ましい。担体の効果により、触媒活性の向上や、表面積の増大が達成されるからである。あるいは、金属よりなる多孔体として改質触媒を形成することによっても、触媒の表面積を増大させることができる。
(水素供給方法)
次に、上記水素供給装置1を用いた、本発明の一実施形態にかかる水素供給方法について、図1(a)および図2(a)を参照しながら、説明する。
(1)還元性雰囲気でのアノード反応分子の電気分解による水素生成
水素供給装置1を用いた水素供給においては、水素供給装置1の電気化学セル10のアノード12とカソード13の間に、電源装置50によって電圧を印加しながら、アノード12に、所定の温度で、含水素分子よりなるアノード反応分子を供給することによって、電気化学反応を進行させ、カソード13から水素分子を取り出す。この際、アノード12において、アノード反応分子からプロトン(H)が分離され、そのプロトンが、電極12,13間に印加された電圧によって、電解質層11中をアノード12側からカソード13側へと移動する。そして、カソード13において、そのプロトンから水素分子(H)が生成する。
水素供給装置1においては、アノード側空間30に、原料導入路31を介して、原料ガスG1が導入され、アノード側空間30内に配置された水素生成触媒(改質触媒)20による反応を経て、アノード側空間30に、混合アノードガスG2が満たされる。混合アノードガスG2には、アノード12でプロトンの分離を受けるアノード反応分子に加え、アノード12が接する雰囲気の還元性を高める還元性分子が含まれている。アノード反応分子および/または還元性分子は、原料ガスG1にそのままの形で含有されていても、水素生成触媒20での反応を経て、添加源物質等、原料ガスG1中に含まれる物質から生成されるものであってもよい。
本実施形態にかかる水素供給方法においては、具体的には、原料ガスG1として、メタン等の炭化水素と、水蒸気とを含む混合ガスが、例えば600℃以上の高温に加熱された状態で、原料導入路31からアノード側空間30に導入され、水素生成触媒20に接触する。原料ガスG1に含まれる炭化水素分子と水分子は、添加源物質として、水素生成触媒20で反応を受け、式(1),(2)に示したような改質反応および水性ガスシフト反応を経て、還元性分子としての水素分子を、一酸化炭素分子および/または二酸化炭素分子とともに生成する。なお、原料ガスG1中には、水蒸気が、改質反応(および水性ガスシフト反応;以下においても同様)を経て余剰が生じる量で含有されており、改質反応を経てアノード側空間30に満たされる混合アノードガスG2は、改質反応によって生成した水素分子、一酸化炭素分子および/または二酸化炭素分子に加え、余剰の水分子(水蒸気)を含んでいる。混合アノードガスG2は、さらに、未反応の炭化水素分子を含んでいてもよい。
混合アノードガスG2中の水分子は、アノード反応分子として、600℃以上等の高温の状態で、アノード12において、酸化反応による分解を受け、プロトンを分離される。水分子から分離されたプロトンは、電源装置50によって印加された電圧によって、電解質層11中を、アノード12側からカソード13側へと移動する(図1(a)中矢印A1)。カソード13側に到達したプロトンは、カソード13において還元反応を受け、水素分子となる。カソード側空間40に発生した水素分子は、カソード生成ガスG4として、カソード生成ガス流路41から、取り出され、利用、貯蔵等に供給される。水素生成触媒20によって混合アノードガスG2中に添加された水素分子も、同様に、アノード12においてプロトンとなり、電解質層11中を移動して、カソード13にて水素分子となる。なお、アノード12において、水分子の酸化によって生じた酸素分子は、水素生成触媒20における改質反応によって生じた二酸化炭素等とともに、アノード生成ガスG3として、アノード生成ガス流路32から排出される。
本実施形態で用いている電気化学セル10においては、電解質層11は、プロトン伝導性を有している。プロトン伝導性固体電解質においては、プロトン伝導特性が、雰囲気に依存することが知られている。具体的には、プロトン生成側(アノード12側)の雰囲気が酸化性のものであるほど、プロトンの輸率が低くなり、プロトンの逆流が起こることが知られている。つまり、図1(b)に示すように、電気化学セル10において、カソード13側からアノード12側へのプロトンの逆流が起こることになる(矢印A2)。プロトンの逆流は、ホール・電子リークに対応し、アノード12からのプロトンの移動を介したカソード13での水素生成の効率を、低下させるものとなる。
図1(b)に示すように、水素生成触媒等、還元性分子添加手段をアノード12側に設けず、単に、アノード反応分子(ここでは水分子)の電気分解による水素発生を行う水素供給装置1’においては、アノード側空間30に、アノード反応分子のみが導入されることになる。すると、アノード12での電極反応を経て、アノード12から、アノード反応分子よりも高い酸化性を有する酸化性分子(ここでは酸素分子)が発生し、アノード側空間30における雰囲気は、未反応のアノード反応分子に加え、酸化性分子を含有するものとなる。酸化性分子の含有により、アノード側空間30には、酸化性の雰囲気が満たされ、アノード12に接することになる。アノード12側の雰囲気の酸化性が高くなることにより、上記のように、電解質層11におけるプロトンの輸率が低くなり、水素生成の効率が低下してしまう。
これに対し、本実施形態にかかる水素供給方法においては、上記のように、アノード側空間30に、還元性分子添加手段(ここでは水素生成触媒20)を設けておき、アノード側空間30に満たされる混合アノードガスG2を、アノード反応分子(ここでは水分子)に加えて、還元性分子(ここでは水素分子)が添加されたものとしている。還元性分子の添加によって、アノード側空間30に満たされ、アノード12に接する雰囲気の還元性が、高められる。アノード12が接する雰囲気の還元性が上がることで、つまり酸化性が下がることで、電解質層11におけるプロトン輸率が向上し、プロトンの逆流が起こりにくくなる。すると、アノード12からのプロトンの移動を介したカソード13での水素生成の効率が、高く維持されるようになる。その結果、電解質層11がプロトン伝導性固体電解質よりなり、水素生成がアノード12側ではなくカソード13側で起こり、アノード反応分子との分離を経なくても高濃度の水素ガスが得られることの効果と合わせて、水素供給装置1において、高い水素供給効率を達成することができる。
アノード側空間30の雰囲気に、還元性分子を添加することで、アノード12にアノード反応分子のみ(ここでは水蒸気のみ)を供給して、カソード13にて水素分子を生成させる場合(以下、非添加条件と称する場合がある)よりも、アノード12が接する雰囲気を還元性の高い状態に保つことができれば、アノード側空間30の雰囲気に添加する還元性分子の種類や量、また還元性分子添加手段の構成は、特に限定されるものではない。なお、非添加条件よりもアノード12が接する雰囲気の還元性が高い状態とは、想定している運転条件(アノード反応分子の導入量および温度等に関する条件)において、還元性分子を添加せず、アノード反応分子のみをアノード側空間30に導入して、電気化学セル10の運転を行ったとして、その場合にアノード側空間30に満たされる雰囲気よりも、還元性の高い分子の分圧が高くなった状態、または酸化性の高い分子の分圧が低くなった状態、あるいはそれら両方を充足する状態を指す。アノード反応分子が水分子(水蒸気)であり、アノード12での電極反応を経て酸素分子がアノード12側に生成する場合に、還元性分子として、水素分子をはじめとして、水分子よりも高い還元性を有する分子を添加することで、アノード12に水蒸気のみを供給する非添加条件で電気化学セル10の運転を行った場合と比べて、アノード側空間30の雰囲気を、還元性の高い分子(つまり水素分子)の分圧が高くなり、かつ、酸化性の高い分子(つまり酸素分子)の分圧が低くなった状態とすることができる。
アノード反応分子として、水分子(水蒸気)を用いる場合に、アノード側空間30の雰囲気に添加する還元性分子として、水分子よりも還元性の高い他種の分子ではなく、水素分子を用いることが、特に好ましい。この場合には、電解質11におけるプロトン輸率の向上が顕著となり、その結果、ホール・電子リークの低減およびプロトン逆流の抑制が、特に効果的に達成されるからである。なお、還元性分子としてアノード側空間30に添加した水素分子も、アノード12でプロトンとなり、電解質層11を移動して、カソード13において、水分子の電気分解によって生じたプロトンとともに、水素分子の形で、カソード生成ガスG4として回収される。よって、アノード側空間30に還元性分子として添加した水素分子も、最終的に、利用や貯蔵に有効に供給することができる。アノード側空間30に添加した還元性分子に由来する副生成物が、水素供給装置1に残存して、水素供給装置1の運転に影響を与えることもない。
本実施形態においては、添加源物質としての炭化水素分子と水分子を含む原料ガスG1を、改質触媒よりなる水素生成触媒20に接触させることで、アノード側空間30の雰囲気に添加する還元性分子としての水素分子を生成させている。この場合には、改質反応を経て、還元性分子としての水素分子と、アノード反応分子としての水分子(水蒸気)をともに含む混合アノードガスG2を、簡便に製造することができる。また、アノード側空間30に満たされる混合アノードガスG2には、水素分子および水分子に加え、改質反応を経て生成する一酸化炭素分子や二酸化炭素分子、また未反応の炭化水素分子も含有されるが、一酸化炭素分子やメタンをはじめとする炭化水素分子は、水分子よりも高い還元性を有するものであり、それらの分子も、水素分子とともに、アノード側空間30の雰囲気の還元性を高めるのに寄与する。一般に、アノード12での酸化反応による水分子からのプロトンの分離と、改質触媒による改質反応は、ともに600℃以上の高温で効率的に進行するものであり、改質触媒よりなる水素生成触媒20を、アノード側空間30において、アノード12と共通の雰囲気および温度に保持しておけば、水素生成触媒20での改質反応とアノード12での電極反応を、ともに高効率で進め、水素供給装置1における水素供給を、高効率で進めることができる。炭化水素分子と水分子を含む原料ガスG1としては、例えば、天然ガスに高温の水蒸気を添加したものを用いることが好ましい。
なお、上記で説明した形態においては、改質反応を経て余剰の水分子が残存するように、原料ガスG1中に過剰量の水蒸気を含有させており、その余剰の水分子をアノード反応分子として、アノード12でのプロトンの分離に供している。これにより、豊富に供給可能な水蒸気を原料として、効率的に、水素供給装置1での水素供給を行うことができる。しかし、原料ガスG1中に含有させる水蒸気の量を、ほぼ余剰なく化学量論的に改質反応が進行する量としておき、アノード側空間30の混合アノードガスG2中の水蒸気分圧を低く抑え、水分子からの直接のアノード電極反応がほぼ起こらない形態とすることもできる。この場合には、改質反応によって生じた水素分子が、アノード側空間30の雰囲気を還元性に維持するための還元性分子としての役割に加え、アノード12での反応によってプロトンを生成するアノード反応分子としての役割を果たすことになる。
(2)他の工程による水素供給
以上のように、本実施形態にかかる水素供給装置1においては、水分子に代表される水素分子以外の含水素分子をアノード反応分子として用い、そのアノード反応分子に還元性分子を添加して、アノード12が接する雰囲気の還元性を高めることにより、アノード反応分子の電気分解による水素分子の生成効率を高め、利用や貯蔵等に効率的に水素分子を供給することができる。しかし、本水素供給装置1は、そのような、還元性雰囲気での電気分解による水素生成以外の工程に利用し、水素供給を行うこともできる。
例えば、水素供給装置1のアノード側空間30に、水蒸気等、水素分子以外の含水素分子のみを供給し、還元性分子を添加することなく、電気分解による酸素生成を行うことができる。この場合には、電解質層11でプロトンの逆流が起こるため、還元性分子を添加する場合に比べると、水素生成の効率は低下するものの、アノード反応分子の電気分解による水素の生成を進めることができる。
水素供給装置1は、水素分子以外の含水素分子の電気分解による水素分子の生成のみならず、水素分子の分離や圧縮に利用することもできる。水素分子の分離とは、水素分子と不純物を含有するガスを、アノード側空間30に供給し、カソード側空間40から、不純物を実質的に含まない水素分子ガスを取り出す工程である。一方、水素分子の圧縮とは、水素分子を含有するガスをアノード側空間30に供給し、カソード側空間40に、アノード側空間30よりも高圧の水素分子ガスを取り出す工程である。分離と圧縮のいずれにおいても、アノード側空間30に導入された水素分子は、アノード反応分子として、アノード12における電極反応で、プロトンに分解される。そのようにアノード12で発生したプロトンは、電解質層11を移動してカソード13側に達し、再結合して、水素分子として、カソード13から取り出される。
このように、水素分子自体をアノード反応分子として、水素分子の分離または圧縮を行うことで、水素分子の供給を行う場合についても、アノード12に供給するガスに水素分子が含まれているため、アノード12が接する雰囲気は、水蒸気のみを供給する場合よりも、還元性が高い状態となる。つまり、上記のように、水素分子等の還元性分子を水蒸気に添加して、水蒸気の電気分解を行う場合と同様に、水蒸気のみをアノード12に供給して電気化学セル10を運転する場合(非添加条件)よりも、アノード12が接する雰囲気が、還元性の高い状態となる。よって、水素分子の分離や圧縮を行う場合にも、還元性分子を添加して水蒸気の電気分解を行う場合と同様に、非添加条件で水蒸気の電気分解を行う場合と比較して、電解質層11におけるプロトンの逆流、およびそれに起因するカソード13からの水素供給の効率の低下を、抑制することができる。
このように、還元性分子添加手段としての水素生成触媒20を電気化学セル10のアノード12側に備えた水素供給装置1を用いれば、以下の4つの工程を、共通の水素供給装置1を用いて、実行することができる。
(i)アノード12側を還元性雰囲気に維持して、水素分子以外の含水素分子よりなるアノード反応分子の電気分解により、水素発生を行う工程(ハイブリッド電解)。
(ii)アノード12側を還元性雰囲気に維持することなく、水素分子以外の含水素分子よりなるアノード反応分子の電気分解により、水素発生を行う工程(水蒸気電解)。
(iii)水素分子自体をアノード反応分子として、水素分離を行う工程。
(iv)水素分子自体をアノード反応分子として、水素圧縮を行う工程。
上記4つの工程は、目的や条件に応じて選択して、実施することができる。共通の水素供給装置1を使用して、アノード側空間30に供給する原料ガスG1の組成を変更すること等により、複数の工程を、連続的(シームレス)に切り替えて実施することもできる。複数の工程の連続実施は、例えば、再生可能エネルギーを用いた発電を行う場合等、時間によって電力が変動する条件において、余剰の電気エネルギーを化学エネルギーに変換し、水素分子の形で効率的に貯蔵するのに、好適に利用することができる。
一例として、発電量が多く、電力が安価な時間帯には、上記(ii)のように、水蒸気のみをアノード側空間30に供給する水蒸気電解を行う一方、発電量が少なく、電力が高価な時間帯には、上記(i)のように、原料ガスG1として、天然ガスと水蒸気を混合して導入し、改質反応によって水素分子をアノード側空間30に生成させながら、ハイブリッド電解を行えばよい。このようにすることで、発電量が多い時間帯には、天然ガスを消費することなく、水素生成を安価に行うことができる一方、発電量が少ない時間帯には、アノード12側の雰囲気の還元性を高めることで、ホール・電子リークによる電力のロスを抑制して、少ない電力で、効率的に水素生成を行うことができる。このように、発電量に応じて、高効率で、また安価に水素生成を行える運転方法を選択することで、全時間帯を通じて、効率よく水素貯蔵を行うことができる。
なお、上記(iii),(iv)の水素分子の分離および圧縮のみを行う装置として、水素供給装置1を構築する場合には、水素生成触媒20等の還元性分子添加手段は、必ずしも設けなくてもよい。また、本実施形態にかかる水素供給装置1は、上記(i)〜(iv)の各形態による水素供給を行う水素供給装置としての運転に加え、適宜、電源装置50を負荷装置に置換すること等により、発電を行う燃料電池として、可逆的に運転できるように構成することも可能である。ただし、水素供給装置1を燃料電池として用いる場合には、上記で説明したように水素供給装置1を水素供給に用いる場合とは、電極12,13の極性が逆になる。つまり、水素供給を行う際にアノード(陽極)として用いていた方の電極12が、カソード(空気極)となり、カソード(陰極)として用いていた方の電極13が、アノード(燃料極)となる。この場合に、アノードとなる電極13に、水素分子や炭化水素分子等の燃料ガスを供給するとともに、カソードとなる電極12に、空気等、酸素分子を含有するガスを供給しながら、発電を行うことができ、電極13側から電極12側へと電解質11中をプロトンが移動することになる。
[第二の実施形態]
以上で説明した本発明の第一の実施形態にかかる水素供給装置1および水素供給方法においては、電気化学セル10のアノード12が接する雰囲気に、水素分子等の還元性分子を添加する還元性分子添加手段として、アノード側空間30の中に設けた水素生成触媒20を用いていた。しかし、還元性分子添加手段の形態は、これに限られるものではない。以下、他の形態の還元性分子添加手段を備えた実施形態について、具体的に説明する。以下では、上記の第一の実施形態と共通する構成については説明を省略し、第一の実施形態と相違する点を中心に説明を行う。
図2(b)に概略を示す第二の実施形態にかかる水素供給装置1Bにおいては、電気化学セル10Bのアノード材料と独立した物質としては、水素生成触媒を有さず、アノード12Bの構成材料と共通の材料として、水素生成触媒が構成されている。つまり、共通の材料12Bが、電極としてのアノードと水素生成触媒を兼ねており、アノード反応分子の酸化によるプロトンの分離を行うアノードとしての役割と、改質反応等によって、添加源物質から、還元性分子としての水素分子を生成する水素生成触媒としての役割を、ともに果たす。
電気化学セルにおいて水の電気分解を行うアノードとして利用可能な金属種には、炭化水素分子と水分子から水素分子を生成する改質反応に活性を有する改質触媒としての機能を果たしうるものも多い。また、電極反応としての酸化反応も、改質反応も、ともに600℃以上の高温で進行しやすい反応であり、共通の温度条件において、両方の反応を並行して進めやすい。
アノードとしての機能と改質触媒としての機能をともに果たしうる具体的な金属種として、Ni,Pt,Ru等を挙げることができる。それらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。特に、Niは、アノードとしても、改質触媒としても、ある程度高い活性を示すとともに、比較的安価な金属であり、上記第一の実施形態のように、アノード12の構成材料とは独立した材料として水素生成触媒(改質触媒)20を構成する場合のみならず、本第二の実施形態のように、改質触媒を兼ねるアノード12Bの構成材料としても、好適に利用することができる。
このように、アノード12Bを、水素生成触媒を兼ねるものとして構成しておくことで、水素供給装置1Bを簡素な構成としながら、アノード12Bが接する雰囲気の還元性を高めることによる水素供給効率の向上を、達成することができる。なお、本第二の実施形態にかかる水素供給装置1Bは、アノード12Bおよびその近傍部の構成の簡素性においては、上記第一の実施形態のように、アノード12とは独立した材料として水素生成触媒20を設ける形態よりも優れるが、材料選択の自由度は低くなってしまうので、アノード12Bにおける酸化反応の活性と、水素生成触媒における水素生成の活性の両方を効果的に高めたい場合等、アノードと水素生成触媒の材料を独立に選択することが好ましい場合には、上記第一の形態の方を採用すればよい。
[第三の実施形態]
上記第一の実施形態および第二の実施形態においては、還元性分子添加手段としての水素生成触媒が、アノード側空間30の中に配置され、アノード12が接する雰囲気と共通の雰囲気の中に配置されていたが、アノード側空間30と独立に雰囲気および温度を制御できる空間に、水素生成触媒20を設けることもできる。第三の実施形態として、そのような形態について説明する。
図2(c)に概略を示す第三の実施形態にかかる水素供給装置1Cにおいては、水素生成触媒20は、第一の実施形態と同様に、アノード12の構成材料と独立した材料として構成されるが、第一の実施形態とは異なり、アノード12の近傍、つまりアノード側空間30の中には設けらず、前処理室60に設けられている。前処理室60は、気体の流れに関してアノード12の上流に相当する前段部に設けられ、原料ガスG1を通過させて、改質反応等、水素生成触媒20による反応を経た前処理ガスG1’を、アノード12に供給する。前処理室60は、雰囲気および温度を、アノード側空間30と独立して制御可能となっている。
本実施形態においては、アノード側空間30とは独立して、前処理室60の雰囲気および温度を、水素生成触媒20による水素生成反応に適した条件に制御することができるので、アノード12における電極反応と、水素生成触媒20による改質反応等の水素生成反応の両方を、それぞれに適した条件で効率的に進めることができる。本実施形態にかかる水素供給装置1Cは、アノード側空間30に水素生成触媒20(12B)が配置される第一の実施形態および第二の実施形態と比較して、水素供給装置の構成や運転時の制御の簡素性においては劣るものの、制御の自由度において優れており、運転条件の制御により、水素供給の効率の向上を図りやすい。水素生成触媒20を改質触媒として構成する場合に、水素生成触媒20を構成する具体的な材料としては、上記で、第一の実施形態において列挙したのと同様に、Ni,Pt,Re,Ru,Rh等を利用することができる。
[第四の実施形態]
以上で説明した各実施形態においては、アノード側空間30の雰囲気に還元性分子としての水素分子を添加するための還元性分子添加手段が、添加源物質を化学的に変換して水素分子を生成させる水素生成触媒20(12B)よりなっていた。しかし、水素分子をアノード側空間30の雰囲気に添加することができるものであれば、還元性分子添加手段は、そのような水素生成触媒20(12B)に限られず、例えば、水素分子を、アノード側空間30の外部から、アノード側空間30へと導入するものであってもよい。そのような形態の例として、本発明の第四の実施形態にかかる水素供給装置1Dについて説明する。
図2(d)に概略を示す第四の実施形態にかかる水素供給装置1Dにおいては、水素生成触媒が設けられず、代わりに、還元性分子添加手段として、水素リサイクル路20Dが設けられている。水素リサイクル路20Dは、アノード側空間30とカソード側空間40の間をつなぐ流路として設けられており、電気化学セル10での電気化学反応によってカソード側空間40から取り出された水素分子の一部を、アノード側空間30へと還流することができる。
水蒸気等を含む雰囲気が満たされたアノード側空間30に、水素リサイクル路20Dを介して、還元性分子としての水素分子を添加することで、アノード側空間30の雰囲気の還元性を高めることができる。このように、水素リサイクル路20Dを用いてアノード側空間30への水素分子の添加を行うことで、水素供給装置1Dにおけるガス流路の構成およびその制御は複雑化するものの、水素生成触媒を省略することができ、炭化水素分子等、添加源物質を利用する必要もなくなる。
[その他の形態]
上記で説明した第一、第二、第三の実施形態においては、添加源物質として炭化水素と水分子を用いて、水素生成触媒20(12B)によって、還元性分子としての水素分子を生成させ、アノード側空間30の雰囲気に添加している。しかし、還元性分子としての水素分子の原料となる添加源物質は、炭化水素分子と水分子の組み合わせに限られるものではなく、水素生成触媒20(12B)を適宜用いて水素分子を発生させられる物質であれば、どのようなものであってもよい。水素分子を発生させられる添加源物質としては、炭化水素以外に、アルコール、アンモニア等の分子を例示することができる。それらの分子は、単独で添加源物質として機能するものであっても、水分子との組み合わせで、添加源物質として機能するものであってもよい。添加源物質の種類に応じて、水素分子を発生させられるように、適した水素生成触媒20(12B)を用いればよい。PtやRuに代表される白金族元素等の遷移金属には、炭化水素やアルコール、アンモニア、あるいはそれらと水分子との組み合わせから、水素分子を生成させる水素生成触媒として作用するものが多い。
上記のように、還元性分子として、水素分子を、アノード側空間30の雰囲気に添加することで、アノード12(12B)が接する雰囲気の還元性を高め、水素供給装置1(または1A〜1D)における水素供給効率を高める効果を、特に顕著に得ることができるが、水蒸気等のアノード反応分子よりも還元性の高い分子であれば、水素分子以外でも、還元性分子としてアノード側空間30の雰囲気に添加することによって、水素供給の効率を高めるのに、ある程度の効果を発揮することができる。例えば、アノード反応分子として水分子(水蒸気)を導入する場合に、上記で添加源物質として例示した炭化水素やアルコール、アンモニア等、水分子よりも高い還元性を有する分子を、水素生成触媒によって水素分子に変換することなく、そのままの形でアノード側空間30の雰囲気に添加しても、アノード12(12B)が接する雰囲気の還元性を高め、水素供給の効率を向上させる効果を得ることができる。
また、ここまでは、アノード反応分子が、水分子または水素分子である場合を中心に説明を行ったが、アノード反応分子が、水分子および水素分子以外の含水素分子である場合にも、適宜、触媒等の還元性分子添加手段を用いて、そのアノード反応分子よりも高い還元性を有する分子を、還元性分子としてアノード側空間30の雰囲気に添加することで、アノード12(12B)が接する雰囲気の還元性を高め、水素供給の効率を向上させる効果を得ることができる。水分子および水素分子以外のアノード反応分子として、アルコールを例示することができる。この場合に、アルコール自体を添加源物質として、水素分子を生成させ、アルコールをアノード反応分子とするアノード側空間30の雰囲気に、その水素分子を、還元性分子として含有させるとよい。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。ここでは、プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層を有する電気化学セルにおいて、アノード側の雰囲気や材料構成を変化させながら、水素生成にかかる特性を評価した。
[試験方法]
(電気化学セルの作製)
最初に、電気化学セルを構成する電解質層を準備した。まず、プロトン伝導性固体電解質材料であるBaCe0.6Zr0.20.23−δを固相反応法にて合成した。そして、か焼と粉砕を経て得られた粉末を、ディスク状に成形し、か焼を行った。
次に、得られたディスク状の電解質層の両面に、Pt電極を形成し、アノードおよびカソードとした。両Pt電極は、電解質層にPtペーストを塗布し、900℃にて1時間焼成することで、多孔質電極として形成した。両Pt電極には、電圧印加用に、Pt線を接合した。
さらに、アノード側に配置する水素生成触媒(改質触媒)として、Ru触媒とNi触媒の2種を準備した。Ru触媒は、ゼオライト担体に金属Ruを担持したものである。Ni触媒は、金属Niとスターチを重量比100:1で混合、成型し、1%H中で、900℃にて1時間焼成して、金属Niを多孔体としたものである。これら水素生成触媒は、それぞれ、アノードのPt電極の表面に載置することで、電気化学セルに配置した。
(特性の評価)
上記のようにして作製した電気化学セルに対して、特性の評価を行った。最初に、電気化学セルのアノード側の空間、およびカソード側の空間を、それぞれ、アルミナ管によって、気密に閉塞した。
そして、アノード側空間とカソード側空間に、それぞれ所定の雰囲気ガスを流通しながら、アノードとカソードの間に電圧を印加した。アノード側空間およびカソード側空間の雰囲気、および電気化学セルの温度は、800℃とした。
アノード側空間に流通させる雰囲気ガスの組成は、以下の3通りとした。成分含有量の単位は分圧比である。
・酸素含有ガス:20%HO−10%O−Ar
・メタン含有ガス:20%HO−10%CH−Ar
・水素含有ガス:20%HO−10%H−Ar
カソード側空間に流通させる雰囲気ガスの組成は、1.9%HO−0.1%H−Arとした。ここで、カソード側空間に流通させる雰囲気ガスにも少量のHとHOを含有させているのは、電気化学セルの挙動を安定させるためである。
雰囲気ガスの流通と電圧印加を行っている間、電流−電圧特性を測定するとともに、カソードにおける水素発生速度を評価した。水素発生速度の評価は、カソード側空間に生成したガスをガスクロマトグラフィによって分析することで、行った。
[試験結果]
図3(a)に、複数の条件における試験で得られた、電流−電圧特性の測定結果を示す。横軸に電流密度i(単位:mA・cm−2)を、縦軸に電圧E(単位:V)を表示している。また、図3(b)に、カソードにおける水素発生速度JH2(単位:μmol・min−1・cm−2)を、電流密度i(単位:mA・cm−2)の関数として表示する。両図に結果を示した各試験の条件は、以下のとおりである。「アノード側空間に流通する雰囲気ガスの種類−アノードに配置する水素生成触媒の種類」として、反応条件を表示する。「触媒なし」とは、Ptよりなるアノードに触媒を載置していないことを示す。
・白抜き三角印:メタン含有ガス−Ru触媒
・グレー塗り三角印:メタン含有ガス−Ni触媒
・黒塗り三角印:メタン含有ガス−触媒なし
・黒塗り丸印:水素含有ガス−触媒なし
・黒塗り四角印:酸素含有ガス−触媒なし
なお、「メタン含有ガス−Ni触媒」の条件については、他の条件の場合よりも、評価を行った電流密度の範囲が小さくなっている。
図3(a),(b)を見ると、いずれの条件で電気化学セルを運転した場合にも、電流密度を増大させるほど、電圧値および水素発生速度が上昇する挙動が見られており、電気化学反応によって、カソードに水素分子が発生していることが確認される。しかし、具体的な挙動は、反応条件によって相違している。
図3(a)に示す電流−電圧特性の計測結果においては、各電流密度における電圧値が低いほど、電解質層におけるホール・電子リークが少なく、電解質層中のプロトン移動を介したカソードでの水素発生に要する電圧が低くて済むことを示す。一方、図3(b)に示す水素発生速度の計測結果においては、正の水素発生速度が、アノードからカソードへのプロトン移動を介したカソードでの水素発生の効率が高いことを示すのに対し、負の水素発生速度は、カソードからアノードに向かってプロトンが逆流し、水素発生効率が低下していることに対応する。つまり、各電流密度における水素発生速度が正の方向に大きいほど、プロトンの逆流が起こりにくくなっていることを示す。
まず、水素生成触媒を用いずに、アノード側空間に酸素含有ガスを流通させた場合(黒塗り四角印)と、水素含有ガスを流通させた場合(黒塗り丸印)について、試験結果を比較する。アノード側空間に酸素含有ガスを流通させた場合には、図3(a)の電流−電圧特性における電圧値が高くなっており、また図3(b)の水素発生速度が小さくなっている。これに対し、水素含有ガスを流通させた場合には、大幅に、電流−電圧特性における電圧値が低くなるとともに、水素発生速度が大きくなっている。これらの現象は、水素含有ガスを用いた場合の方が、酸素含有ガスを用いた場合よりも、電解質層におけるプロトンのカソードからアノードへの逆流、およびホール・電子リークが、低減されていることを示している。水素含有ガスを用いる場合の方が、アノード側の雰囲気が還元性となっていることにより、プロトンの逆流が抑制されているものと解釈される。なお、図3(b)中の直線は、水素含有ガスを用いた場合について、理論的に得られる最大水素発生速度を示している。
次に、3種の三角印で表示する、アノード側空間にメタン含有ガスを流通させた場合に着目すると、いずれの場合にも、図3(b)において、アノード側空間に酸素含有ガスを流通させた場合(黒塗り四角印)に比べて、水素発生速度の増大が起こっている。つまり、電解質層におけるプロトンの逆流が、抑制されている。このことは、メタン含有ガスを用いた場合の方が、酸素含有ガスを用いた場合よりも、アノード側空間の雰囲気が還元性の高い状態となっていることによると解釈される。
アノード側空間の雰囲気における還元性の上昇は、雰囲気中へのメタン分子の含有そのものに加え、メタンと水分子からの改質反応によって水素分子が生成したことの結果によると考えられる。黒塗り三角印で示すように、アノード上に、アノード材とは別の水素化触媒を配置していない場合でも、図3(b)の水素生成速度に向上が見られている。これは、アノードを構成するPtが、改質触媒としてもある程度の活性を示すため、改質反応によって水素分子が生成され、プロトンの逆流を抑制する効果が発揮されるものと考えられる。
さらに、Ptアノード上に、RuまたはNiを含む改質触媒を配置した場合には、白抜き三角印およびグレー塗り三角印で示すように、電圧の低減および水素発生速度の増大が顕著となっている。これは、それらの触媒が改質反応に高い活性を示すことにより、メタンを原料とする改質反応を経て、アノード側雰囲気に水素分子が高濃度で生成され、プロトンの逆流、およびホール・電子リークを、効果的に抑制できるようになったものと解釈される。図3(b)によると、電流密度のほぼ全域において、水素発生速度が正値をとっており、プロトンの逆流が、ほぼ起こらない水準にまで低減されていると言える。
改質触媒がRu触媒である場合(白抜き三角印)とNi触媒である場合(グレー塗り三角印)を比較すると、Ru触媒である場合に、電圧値の低減および水素発生速度の上昇が、特に顕著に起こっている。Ru触媒を用いた場合の水素発生速度は、水素含有ガスを用いた場合(黒塗り丸印)を上回る水準にまで、上昇している。このことは、Ru触媒が、改質反応による水素生成に特に高い活性を示し、アノード側空間への水素分子の添加によるプロトンの逆流の抑制、およびその結果としての水素生成効率の向上に、非常に高い効果を有することを示している。
本発明は上記実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
1,1B,1C,1D 水素供給装置
10 電気化学セル
11 電解質層
12,12B アノード
13 カソード
20 水素生成触媒(還元性分子添加手段)
20D 水素リサイクル路(還元性分子添加手段)
30 アノード側空間
40 カソード側空間
50 電源装置
60 前処理室
G1 原料ガス
G1’ 前処理ガス
G2 混合アノードガス
G3 アノード生成ガス
G4 カソード生成ガス

Claims (18)

  1. プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層と、前記電解質層に相互に対向して接合されたアノードおよびカソードとを有し、前記アノードにおいて、含水素分子よりなるアノード反応分子からプロトンを分離し、前記電解質層を移動した該プロトンから前記カソードにて水素分子を生成することができる電気化学セルを用いて、
    前記アノードに水蒸気のみを供給して前記カソードにて水素分子を生成させる場合よりも、前記アノードが接する雰囲気を還元性の高い状態に維持しながら、前記アノード反応分子を前記アノードに供給し、前記カソード側から水素分子を取り出すことを特徴とする水素供給方法。
  2. 水素分子以外の含水素分子を前記アノード反応分子として用いる電気分解による水素発生、あるいは、
    水素分子を前記アノード反応分子として用いる水素分離または水素圧縮、
    の少なくとも1つの工程によって、前記カソード側から水素分子を取り出すことを特徴とする請求項1に記載の水素供給方法。
  3. 前記アノードが接する雰囲気は、水分子よりも高い還元性を有する還元性分子が、前記アノード反応分子としての水蒸気に添加された混合アノードガスであり、
    前記混合アノードガス中の水分子の電気分解による水素発生によって、前記カソード側から水素分子を取り出すことを特徴とする請求項2に記載の水素供給方法。
  4. 前記混合アノードガスに含有される前記還元性分子は、水素分子であることを特徴とする請求項3に記載の水素供給方法。
  5. 前記還元性分子としての水素分子の、前記混合アノードガスへの添加は、
    含水素分子よりなる添加源物質から水素分子を生成することができる水素生成触媒に、前記添加源物質を含有する原料ガスを接触させること、および、
    前記カソード側から取り出した水素分子の一部を、前記アノード側に還流させること、の少なくとも一方によって行うことを特徴とする請求項4に記載の水素供給方法。
  6. 前記還元性分子としての水素分子の前記混合アノードガスへの添加は、前記水素生成触媒を用いて行い、
    前記水素生成触媒は、
    前記アノードの構成材料と共通の材料として構成される形態、
    前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成され、前記アノードが接する雰囲気と共通の雰囲気中に配置される形態、
    前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成され、前記アノードが接する雰囲気と独立に雰囲気および温度を制御可能であり、前記原料ガスを通過させて前記アノードに供給する前処理室に配置される形態、の少なくとも1つの形態で備えられることを特徴とする請求項5に記載の水素供給方法。
  7. 前記水素生成触媒は、水分子と炭化水素分子から水素分子を生成する改質反応を行う改質触媒よりなり、
    前記原料ガスとして、水蒸気と炭化水素分子を含有するガスを、前記水素生成触媒に接触させて、前記還元性分子としての水素分子を生成することを特徴とする請求項6に記載の水素供給方法。
  8. 前記原料ガスに、前記水素生成触媒による前記改質反応を経て余剰の水分子が残存する量で、水蒸気を含有させておき、
    前記改質反応を経て、前記原料ガスから生成される前記混合アノードガス中の前記余剰の水分子を、前記アノード反応分子として、前記アノードでのプロトンの分離に供することを特徴とする請求項7に記載の水素供給方法。
  9. 前記水素生成触媒は、Ruを含有し、前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成されることを特徴とする請求項7または8に記載の水素供給方法。
  10. 前記水素生成触媒は、Niを含有し、前記アノードの構成材料と共通の材料として構成されるか、前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成されることを特徴とする請求項7または8に記載の水素供給方法。
  11. 前記炭化水素分子は、メタンであることを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の水素供給方法。
  12. プロトン伝導性固体電解質よりなる電解質層と、前記電解質層に相互に対向して接合されたアノードおよびカソードとを有し、前記アノードにおいて、含水素分子よりなるアノード反応分子からプロトンを分離し、前記電解質層を移動した該プロトンから前記カソードにて水素分子を生成することができる電気化学セルと、
    前記アノードが接する雰囲気に、前記アノード反応分子に加えて、前記アノード反応分子よりも高い還元性を有する還元性分子を添加することができる還元性分子添加手段と、を有することを特徴とする水素供給装置。
  13. 前記アノード反応分子は水分子であり、
    前記還元性分子は、水素分子であることを特徴とする請求項12に記載の水素供給装置。
  14. 前記還元性分子添加手段は、
    前記アノードに供給される原料ガスが接触する箇所に設けられ、含水素分子よりなる添加源物質から水素分子を生成することができる水素生成触媒、および、
    前記カソード側から取り出した水素分子の一部を、前記アノード側に還流させる水素リサイクル路、の少なくとも一方よりなることを特徴とする請求項13に記載の水素供給装置。
  15. 前記還元性分子添加手段は、前記水素生成触媒を含み、
    前記水素生成触媒は、
    前記アノードの構成材料と共通の材料として構成される形態、
    前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成され、前記アノードが接する雰囲気と共通の雰囲気中に配置される形態、
    前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成され、前記アノードが接する雰囲気と独立に雰囲気および温度を制御可能であり、前記原料ガスを通過させて前記アノードに供給する前処理室に配置される形態、の少なくとも1つの形態で備えられることを特徴とする請求項14に記載の水素供給装置。
  16. 前記水素生成触媒は、水分子と炭化水素分子から水素分子を生成する改質反応を行う改質触媒よりなることを特徴とする請求項15に記載の水素供給装置。
  17. 前記水素生成触媒は、Ruを含有し、前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成されることを特徴とする請求項16に記載の水素供給装置。
  18. 前記水素生成触媒は、Niを含有し、前記アノードの構成材料と共通の材料として構成されるか、前記アノードの構成材料とは独立した材料として構成されることを特徴とする請求項16に記載の水素供給装置。
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