JP2020178957A - 心臓インプラント用の医療材料 - Google Patents

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雅規 藤田
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Abstract

【課題】抗血栓処理による医療材料の強度の損失を軽減しつつ、心臓又はその周辺の動脈のような血流速度の大きい部位に適用した場合の、留置早期の血栓形成を防止できる。【解決手段】ポリエステルからなる基材と、アルキレンイミンをモノマーとして含む窒素含有ポリマーと、重量平均分子量が2000〜7000の低分子量ヘパリンと、を備え、上記基材は、上記窒素含有ポリマーと共有結合し、上記窒素含有ポリマーは、上記低分子量ヘパリンとイオン結合し、表面におけるX線電子分光法(XPS)で測定した全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率が、1.0原子数%以上3.0原子数%未満である心臓インプラント用の医療材料を提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、心臓インプラント用の医療材料に関する。
脳卒中はガン、心臓病に次いで本邦における死因の第3位である。脳卒中の患者数は現在約170万人といわれており、毎年25万人以上が新たに発症していると推察されている。一旦脳卒中に罹患すると寝たきり状態となることが多く、寝たきりの原因の約3割近くが脳卒中等の脳血管疾患というデータもある。さらには、今後の高齢者の増加や糖尿病、高脂血症等の生活習慣病の増加により脳卒中の患者は増加の一途をたどっている状況であり、その対策は急務となっている。
脳卒中の一種である「心原性脳塞栓症」は、脳梗塞の中の20〜25%を占めており、心房細動等により心臓の拍動のリズムが乱れ、血液が鬱滞して血栓を形成し、それが脳へと飛散することで発症する。この時の血栓形成の大部分は、心臓の左心耳と呼ばれる、左肺静脈の根元と僧帽弁の間の左心房の前外側壁に連結された小さい親指又は吹き流し様の閉鎖した空洞で発生するか又はそこを原発とする。
心房細動患者に対する経皮的左心耳閉鎖治療では、左心耳閉塞デバイスの留置後、その表面が生体由来の組織又は新生内膜により被覆されるまでは、血栓形成を阻害するため、一定期間の抗凝固剤や抗血小板薬の投与が必須である。
一方、血栓の種類は白色血栓、赤色血栓及び混合血栓の大きく3つに分類される。白色血栓は血小板を主成分とし、血流の速い部分に形成される。また、白色血栓は人工材料が血液と接触した早期に形成されることが知られている。心臓又はその周辺の動脈は血流速度が大きいことから、この部位に左心耳閉塞デバイスを留置する場合、留置後の比較的早い時期に左心耳閉塞デバイスの表面に白色血栓が形成されることが予想される。
留置後、左心耳閉塞デバイスの表面上で血栓が形成する原因は、左心耳閉塞デバイスが生体側に異物として認識され、その表面で血液凝固反応が進行することである。一定期間の抗凝固剤や抗血小板薬の投与以外で血栓の形成を阻害する方法としては、基材表面を少なくとも一つの第1又は第2級アミノ基を有するポリアミンにより処理してアミノ化し、得られたアミノ化表面を4級塩化し、4級塩化した表面と未分画ヘパリンとを反応させる方法が報告されている(特許文献1)。また、別の方法としては、第4級アンモニウム塩等の有機カチオン混合物や第4級ホスホニウム化合物とヘパリン又はヘパリン誘導体との間でイオン複合体を形成させ、有機溶媒に溶かして基材の表面に塗布することで抗血栓性材料を得る方法(特許文献2及び3)や、第3級アミノ基を含むポリマーを基材の表面に塗布して、アミノ基を第4級アンモニウム化してヘパリンをイオン結合させて抗血栓性材料を得る方法(特許文献4)が報告されている。
他に、カチオン性ポリマーを基材に固定し、そのカチオン性ポリマーを介して抗凝固剤であるヘパリン又はヘパリン誘導体を基材の表面上に固定化する方法が報告されている(特許文献5及び6)。また、カチオン性ポリマーを介して固定化するヘパリンとして、ヘパリンの中でも未分画ヘパリン、平均分子量が4000〜6000である低分子量ヘパリンやアンチトロンビンIIIに高親和性のヘパリン等のヘパリンを用いてもよいことが報告されている(特許文献7)。ヘパリンの中でも未分画ヘパリンは弱い血小板凝集亢進作用を有することが知られている。これに対し、低分子量ヘパリンは未分画ヘパリンに比べて血小板凝集亢進作用が弱いとされている。
特許公報昭60−41947 特許第4273965号公報 特開平10−151192号公報 特許第3341503号公報 WO2015/080177 WO2016/190407 WO2014/168198
西部俊哉ら、日血外会誌 4 643−649、1995 東レ・ニューハウス プロテクト添付文書、第9版、東レ株式会社 WATCHMAN左心耳閉鎖システム添付文書、第1版、ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社 Srinivas RDら、Circulation 138(9)、874−885、2018
しかしながら、特許文献1は基材に適用する未分画ヘパリンの最適な量が示されていないため、当該技術を心臓インプラント用の医療材料に用いた場合、血流速度の大きい部位であるため、未分画ヘパリンの持つ血小板凝集亢進作用により基材表面に白色血栓が形成される可能性がある。
特許文献6及び7で開示された方法では、ヘパリン等を含むイオン複合体を有機溶媒に溶かして基材に塗布しているが、使用する有機溶媒は、イオン複合体は溶解するが基材は溶解しないものである必要があり、塗布後の乾燥工程においても、イオン複合体中の親水性の高い部分が有機溶媒を避けて凝集して相分離を引き起こすため、基材の表面に均一に塗布できないのが現状である。当該技術を心臓インプラント用の医療材料に用いた場合、基材表面のヘパリン等を含むイオン複合体が塗布されていない部分を起点に血栓が形成される可能性がある。
一方、特許文献4に記載されるように、3級アミノ基を含むポリマーを塗布して、該アミノ基を第4級アンモニウム化してヘパリンをイオン結合させる方法では、必要量のヘパリンを担持させるためには分厚いコーティングが必要となり、当該技術を左心耳閉塞デバイスのような心臓インプラント用の医療材料に用いた場合、血液が通過するフィルター膜部分の微細な目開きが破壊されることで、血液の通過が阻害され、また血流に影響を与えることで、血栓形成を促進してしまうおそれがある。
特許文献2〜4には抗血栓性を発揮するためのヘパリン又はヘパリン誘導体の最適量について記載されているが、低分子量ヘパリンについての記載はない。特許文献2には血小板付着抑制作用を発揮するためのヘパリン又はヘパリン誘導体の最適量についても記載されているが、血流速度の大きい部位に留置した場合の最適量についての記載がないため、血流速度の大きい部位に適用した場合、基材表面に白色血栓が形成される可能性がある。
心拍の影響を受ける心臓又はその周辺の動脈の中に留置して使用される心臓インプラントは、心拍の影響を受けないように機械的な強度を有していることが必須である。特許文献1〜4に記載の抗血栓処理方法は、ヘパリン又はヘパリン誘導体の基材表面量を多くするために反応条件が過酷になり、基材が劣化し、心室、心房又は動脈に留置するための強度を保持できなくなる可能性がある。
このように、従来技術では、抗血栓処理による医療材料の強度の損失を軽減しつつ、心臓又はその周辺の動脈のような血流速度の大きい部位に適用した場合の、留置早期の抗血栓性を達成することができなかった。
そこで本発明は、抗血栓処理による医療材料の強度の損失を軽減しつつ、心臓又はその周辺の動脈のような血流速度の大きい部位に適用した場合の、留置早期の血栓形成を防止できる心臓インプラント用の医療材料を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、(1)〜(5)の発明を見出した。
(1) ポリエステルからなる基材と、アルキレンイミンをモノマーとして含む窒素含有ポリマーと、重量平均分子量が2000〜7000の低分子量ヘパリンと、を備え、上記基材は、上記窒素含有ポリマーと共有結合し、上記窒素含有ポリマーは、上記低分子量ヘパリンとイオン結合し、表面におけるX線電子分光法(XPS)で測定した全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率が、1.0原子数%以上3.0原子数%未満である、心臓インプラント用の医療材料。
(2) 上記存在比率は、1.1〜1.5原子数%である、(1)記載の医療材料。
(3) 面積あたりの抗ファクターXa活性が、5mIU/cm以上20mIU/cm未満である、(1)又は(2)記載の医療材料。
(4) 左心耳閉塞デバイス用である、(1)〜(3)のいずれか記載の医療材料。
(5) (1)〜(4)のいずれか記載の医療材料を備えた、心臓インプラント。
本発明の医療材料によれば、硫黄原子の存在比率を特定の範囲に制御することで、留置初期の血栓形成、特に血小板血栓形成を防ぐことができ、また抗血栓処理による医療材料の強度の損失が軽減できるため、左心耳閉塞デバイス等の心臓インプラント用の医療器材に好適に利用することができる。
本発明の心臓インプラント用の医療材料は、ポリエステルからなる基材と、アルキレンイミンをモノマーとして含む窒素含有ポリマーと、重量平均分子量が2000〜7000の低分子量ヘパリンと、を備え、上記基材は、上記窒素含有ポリマーと共有結合し、上記窒素含有ポリマーは、上記低分子量ヘパリンとイオン結合し、表面におけるX線電子分光法(XPS)で測定した全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率が、1.0原子数%以上3.0原子数%未満であることを特徴とする。
医療器材とは、医療機器及び医療器具を示す。本発明の医療材料は、抗血栓処理による医療材料の強度の損失が小さいという特性を有することから、医療機器及び医療器具の中でも、血流速度が大きく、また心拍の影響を受ける、心臓又はその周辺の動脈に適用する、左心耳閉塞デバイス等の心臓インプラント用の医療器材に利用することができる。
上記の医療材料とは、医療器材を構成する材料として用いることができる材料である。本発明の心臓インプラント用の医療材料は、低分子量ヘパリンを有しており、本発明の医療材料を用いて医療器材を形成することができる。
低分子量ヘパリンとは、重量平均分子量が2000〜7000の範囲の低分子量であるヘパリンを意味している(以下、低分子量ヘパリンは通常、重量平均分子量が2000〜7000の範囲のヘパリンを指す)。上記医療材料において、低分子量ヘパリンは、重量平均分子量が2000〜7000の範囲の低分子量ヘパリンを用いることが好ましく、重量平均分子量が4000〜7000の範囲の低分子量ヘパリンを用いることがより好ましく、重量平均分子量が4400〜5000の範囲の低分子量ヘパリンを用いることがさらにより好ましい。また、低分子量ヘパリンの重量平均分子量は、液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
上記基材は、ポリエステルからなる。また、基材の材料は、ポリエステルであれば特に限定されないが、コストの観点から、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)、ポリブチレンテレフタレート又はナイロンであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレートであることがより好ましい。
上記基材は、例えば、不織布、織物、編物又は組みひも等の繊維構造体を構成していることが好ましい。上記基材を心臓インプラント用の医療材料に用いる場合、心臓の拍動に追従するため伸縮性及び柔軟性が要求され、また血圧に耐える耐圧性が要求され、心拍の影響を受けないように機械的な強度が要求されることから、編物の繊維構造体を構成していることがより好ましい。
上記編物の種類としては特に限定されず、平編(天竺)、1×1天竺、鹿子編、リブ編、両面編、パール編、ブリスター編、シングルデンビ編、シングルコード編、シングルアトラス編、トリコット編、ハーフトリコット編、ダブルデンビ編及びサテン編等が用いられるが、高繊維密度構造が可能なトリコット編又はハーフトリコット編が好ましい。
上記医療材料が使用される医療機器及び医療器具には、心拍の影響を受ける心室、心房又は動脈の中に留置して使用される医療機器及び医療器具が含まれるため、医療材料は心拍の影響を受けないように機械的な強度を有していることが必須である。また、上記医療材料は、留置初期の血栓形成を防ぐための抗血栓処理が施されるが、抗血栓処理の条件によっては基材が劣化し、引っ張り試験における伸び等の力学特性が低下しやすくなる。医療材料の力学特性の低下は、抗血栓処理前の基材と抗血栓処理により得られた医療材料を用いて引っ張り試験を行い、それぞれの伸びの差から、抗血栓処理による伸びの変動を調べることで判定できる。
伸びとは引っ張り力を加えたときの変形量であり、具体的には引っ張り試験機を用いて、抗血栓処理前の基材と抗血栓処理により得られた医療材料をそれぞれ一定速度で引っ張り、試料が破断したときの基材あるいは医療材料の長さを測定する。伸びは破断時の基材あるいは医療材料の長さから、試験前の基材あるいは医療材料の長さを除すことにより求めることができる。
医療材料の抗血栓処理による伸びの変動は、抗血栓処理後の医療材料の伸びを、抗血栓処理前の基材の伸びで除した比で示される。ここで、心房や心室等の血流速度が速く、心拍の影響を受ける場所での強度の損失を最低限に留めるため、抗血栓処理による伸びの変動が1に近いものを、好ましい医療材料とする。
上記アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーの構成モノマーであるアルキレンイミンは、カチオン性の窒素原子を有するため、窒素含有ポリマーはカチオン性を示し、一方、低分子量ヘパリンはアニオン性を示すため、イオン結合することが可能である。ここで、構成モノマーとは、ポリマーを構成する繰り返し単位の由来となるモノマーを指し、アルキレンイミンを構成モノマーとして含むポリマーの場合であれば、アルキレンイミンが由来の繰り返し単位を有する。
アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーは、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。ポリマーが共重合体である場合には、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体又は交互共重合体のいずれであってもよいが、低分子量ヘパリンと多点的にイオン結合できるため、窒素原子を含んだ繰り返し単位が連続するブロック重合体であることがより好ましい。
単独重合体とは、1種類の構成モノマーを重合して得られる高分子化合物をいい、共重合体とは、2種類以上のモノマーを共重合して得られる高分子化合物をいう。中でもブロック共重合体とは、繰り返し単位の異なる少なくとも2種類以上のポリマーが共有結合でつながり、長い連鎖になったような分子構造の共重合体をいい、ブロックとは、ブロック共重合体を構成する「繰り返し単位の異なる少なくとも2種類以上のポリマー」のそれぞれを指す。
アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーは直鎖状でもよいし、分岐状でもよいが、低分子量ヘパリンと多点的にイオン結合を形成しやすくなるため、分岐状であることがより好ましい。
低分子量ヘパリンとイオン相互作用に基づく吸着量が多いことから、アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーとしてポリアルキレンイミンを用いることが好ましい。ポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリブチレンイミン又はアルコキシル化されたポリアルキレンイミン等が挙げられるが、カチオン性の窒素原子が最も高密度で存在するため、アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーは、ポリエチレンイミンがより好ましい。
ポリエチレンイミンの具体例としては、“LUPASOL”(登録商標)(BASF社製)や“EPOMIN”(登録商標)(株式会社日本触媒製)等が挙げられるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーとの共重合体であってもよく変性体であってもよい。ここでいう変性体とは、ポリマーを構成するモノマーの繰り返し単位は同じであるが、例えば、後述する放射線の照射により、その一部がラジカル分解や再結合等を起こしているものを指す。
アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーは、特に限定されるものではないが、性能に影響を与えない範囲で他のモノマーを含んでいてもよく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、ビニルカプロラクタム、酢酸ビニル、スチレン、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート又はシロキサン等のモノマーを含んでいてもよい。
上記のアルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーの重量平均分子量は、600以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらにより好ましい。また、アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーの重量平均分子量は、2,000,000以下であることが好ましく、1,500,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることがさらに好ましい。アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーの重量平均分子量は、例えば、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法や、光散乱法等により測定することができる。
上記医療材料において、上記低分子量ヘパリンは、アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーと、低分子量ヘパリンとをイオン結合させてから基材の表面と共有結合させてもよいし、アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーを基材の表面と共有結合させてから、アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーと、低分子量ヘパリンとをイオン結合させてもよい。
本発明に用いた低分子量ヘパリンの重量平均分子量は、日本薬局方「パルナパリンナトリウム」の「分子量」の項記載の方法により、液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
上記低分子量ヘパリンは、酸性溶媒中のヘパリンに亜硝酸ナトリウムを添加しヘパリンを分解する方法、ヘパリンが持つエステル結合をアルカリ処理してヘパリンを分解する方法、過酸化水素水の存在下で発生するフリーラジカルによりヘパリンを分解する方法、非水性溶媒中で強塩基を用いることでヘパリンの四級アンモニウム塩部位でβ脱離反応を起こしヘパリンを分解する方法及びヘパリナーゼを用いて酵素特異的にヘパリンを分解する方法等の化学的手法によるヘパリンの解重合により得ることができる。
上記低分子量ヘパリンのうち、臨床で一般的に用いられている例としては、レビパリン、エノキサパリン、パルナパリン、セルトパリン、ダルテパリン又はチンザパリン等を挙げることができる。
低分子量ヘパリンが医療材料の表面に存在している場合、X線電子分光法(XPS)によって、医療材料の表面における低分子量ヘパリンの存在量を定量することができる。ここで、医療材料の表面における低分子量ヘパリンの存在量は、医療材料の表面における硫黄原子の存在比率を指標とすることができる。X線電子分光法(XPS)で測定した際の全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率が低すぎると、医療材料における低分子量ヘパリンの表面量が少なく、長期間の使用を可能にするために重要な、心臓インプラントの留置初期における血栓形成を防ぐための抗血栓性を持たせることが出来ない。一方で、X線電子分光法(XPS)で測定した際の全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率が高すぎると、低分子量ヘパリンの表面量が多くなり、血小板を刺激して血小板血栓の形成が促進されることがある。同時に、低分子量ヘパリンの表面量を多くするためには、基材に低分子量ヘパリンを固定するために必要な表面加工の反応条件が過酷になり、抗血栓処理による医療材料の伸びの変動が発生する。この時、伸びの変動が大きいと、心室、心房の中に留置した場合、速い血流速度や心拍の影響を受けて著しく変形し、強度を保持できなくなったり、変形部分で血流の乱れが起こり、血栓が形成されることがある。
上記の問題を解決するため、心臓インプラント用の医療材料の表面をX線電子分光法(XPS)で測定した際の全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、1.0原子数%以上3.0原子数%未満が好ましいことを見出した。
加えて、医療材料の面積あたりの抗ファクターXa活性(mIU/cm)を測定した。ここで、抗ファクターXa活性とは、プロトロンビンからトロンビンへの変換を促進する第Xa因子の活性を阻害する程度を表す指標であり、これにより、医療材料の表面における低分子量ヘパリンの活性単位での量を知ることができる。測定方法としては、“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”(積水メディカル株式会社製)を用いて測定することにより、医療材料の面積あたりの抗ファクターXa活性を測定することができる。
抗ファクターXa活性が低すぎると、医療材料の表面における低分子量ヘパリンの量が少なく、目的の抗血栓性は得られにくくなる。一方で、抗ファクターXa活性が高すぎると、医療材料の表面における低分子量ヘパリンの量が多くなり、血小板を刺激して血小板血栓の形成が促進されることがある。そのため、面積あたりの抗ファクターXa活性は、5mIU/cm以上20mIU/cm未満であることが好ましい。ここでいう抗ファクターXa活性は、生理食塩水に30分浸漬した後に測定した数値を指す。
また、医療材料の面積あたりの抗ファクターXa活性は、重量あたりの抗ファクターXa活性で示すことも出来る。この方法は、医療材料の面積あたりの重量を測定するとともに、以下の式1により、医療材料の重量あたりの抗ファクターXa活性を算出できる。

Aw=Aa/W ・・・式1
Aa:医療材料の面積あたりの抗ファクターXa活性(IU/cm
Aw:医療材料の重量あたりの抗ファクターXa活性(IU/mg)
W:医療材料の面積あたりの重量(mg/cm
アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーが血液等の体液中に溶出すると、低分子量ヘパリンを窒素含有ポリマーを介して基材に結合できなくなるため、アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーは、ポリエステルからなる基材の表面と共有結合している。
上記アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーと基材の表面が有する原子(具体的には炭素、窒素、酸素、硫黄等)の共有結合は、単結合であっても多重結合であってもよい。アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーが基材と共有結合していることは、アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーの良溶媒で洗浄した際の洗浄液中にアルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーが溶出しないことから判定することができる。ここで、アルキレンイミンを構成モノマーとして含む窒素含有ポリマーの良溶媒としては、ポリエステルからなる基材を溶解せず、共有結合を化学的に切断しない溶媒を選択する。
以下、実施例及び比較例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
PETメッシュ(繊維径:27μm、繊維間距離:100μm)に抗血栓処理を行った。PETメッシュを、ポリエチレンイミン(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製、重量平均分子量:750,000)を5.0重量%含む水溶液に浸漬し、80℃で2時間加熱し、PETメッシュにポリエチレンイミンをアミノリシス反応により共有結合させた。反応後の水溶液を除去し、蒸留水で洗浄した。
さらにPETメッシュを、臭化エチルを1.0容量%、メタノールを30容量%含む水溶液に浸漬し、35℃で1時間反応させた後、50℃に加温して4時間反応させ、PETメッシュの表面に共有結合されたポリエチレンイミンを第4級アンモニウム化した。ポリエチレンイミンを第4級アンモニウム化した後に水溶液を除去し、メタノールを30容量%含む水溶液及び蒸留水で洗浄した。
ダルテパリンナトリウム(ダルテパリンNa静注5000単位/5mL「サワイ」、沢井製薬株式会社製)を54国際単位/mL、塩化ナトリウムを0.1mol/L含む水溶液を調製し、pH4に調整した。PETメッシュをこの水溶液に浸漬し、70℃で6時間反応させて、ポリエチレンイミンとイオン結合させた。水溶液を除去し、蒸留水で洗浄後、真空乾燥し、これを医療材料1とした。
(実施例2)
実施例1のダルテパリンナトリウムの代わりに、レビパリンナトリウム(クリバリン透析用1000単位/mL バイアル5mL、マイランEPD合同会社)を54国際単位/mL、塩化ナトリウムを0.1mol/L含み、pH4に調整した水溶液を用いた以外は、実施例1に記載と同様の抗血栓処理を行い、これを医療材料2とした。
(実施例3)
下記の(a)〜(e)の工程を連続的に行なうことで、生成物1を得た。
(a)過ヨウ素酸によるヘパリン鎖の切断工程
ヘパリンナトリウム(Organon API社製)を4重量%含む、40℃の水溶液を調製し、塩酸を6mol/L含む水溶液を用いて溶液のpHを5.0に調節した。この溶液に、メタ過ヨウ素酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を4重量%含む、4℃の水溶液を攪拌しながら添加した。塩酸を6mol/L含む水溶液を用いて、溶液のpHを5.0に調節した。溶液を4℃で24時間保存した。
(b)残留過ヨウ素酸塩の除去工程
過ヨウ素酸によるヘパリン鎖の切断工程で得た溶液を、再生セルロース製の透析チューブ(多孔率3〜2000Da)内に分散させ、蒸留水に対して15時間透析を行った。
(c)塩基性溶媒中での解重合工程
水酸化ナトリウムを10mol/L含む水溶液を、残留過ヨウ素酸塩の除去工程で得た溶液に対して2容量%となるよう添加し、20℃で3時間攪拌した。
(d)還元工程
塩基性溶媒中での解重合工程で得た溶液に、水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を0.0625重量%となるよう添加し、20℃で4時間攪拌した。塩酸を6mol/L含む水溶液を用いて溶液のpHを4.0に調節した。15分間攪拌した後、水酸化ナトリウムを10mol/L含む水溶液を用いてpH7.0に調整した。この溶液に、塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を2重量%となるよう添加し、さらに1.5倍容のエタノールを添加し、混合した。溶液を3時間静置した後、2500回転で20分間、遠心分離した。沈殿物を回収し、99.5容量%エタノール(和光純薬工業株式会社製)200mL中に懸濁させ、ホモジナイザーを用いて破砕し、ブフナーロートを用いて減圧濾過により回収した。回収物を40℃で真空乾燥させた。
(e)アルコール分画工程
還元工程で得た回収物8.9gを蒸留水120mLに溶解させた。回収物の20倍重量の塩化ナトリウムを添加し、塩酸を6mol/L含む水溶液を用いて溶液のpHを3.5に調節した。溶液中の塩化ナトリウム濃度が1g/mLとなるよう蒸留水を添加した。溶液量の50%容の99.5容量%エタノールを攪拌しながら添加した。さらに15分間攪拌し、その後、溶液を室温で10時間静置した。溶液を2500回転で20分間、遠心分離した。沈殿物を回収し、99.5容量%エタノール150mL中に懸濁させ、ホモジナイザーを用いて破砕し、ブフナーロートを用いて減圧濾過により回収した。回収物を99.5容量%エタノール300mLで洗浄し、40℃で24時間、真空乾燥させ、生成物1を得た。
生成物1の重量平均分子量を、日本薬局方「パルナパリンナトリウム」の「分子量」の項記載の方法により測定したところ、生成物1の重量平均分子量は、2500であった。
実施例1のダルテパリンナトリウムの代わりに、生成物1を54国際単位/mL、塩化ナトリウムを0.1mol/L含み、pH4に調整した水溶液を用いた以外は、実施例1に記載と同様の抗血栓処理を行い、これを医療材料3とした。
(実施例4)
繊維径30μmのPET製マルチフィラメントを使用し、トリコット編み機を使用して平編物を作製し、これを編物1とした。
上記編物の目開きは、マルチフィラメントからなる編物の編み目にできた間隙の直径として表されるが、編み方によって隙間の形状が異なるため、基準となる測定方法は無い。そこで便宜的に、編物の編み目に対し垂直上方向から撮影した画像中の糸が存在しない部分として検出される編み目の間隙に内接する最大円に基づき、上記編物の目開きを規定した。具体的には、得られた画像内の編み目の間隙をランダムで選定し、編み目の間隙を円近似して、編み目の間隙に内接する最大円を得た。間隙に内接する最大円の直径を測定し、これを編物の目開きとした。
編み目の間隙の測定は10箇所行い、この平均値を目開きの平均値とした。すなわち、上記編物の目開きの平均値は、編物の間隙に内接する最大円の直径の平均値で示される。
編物1の目開きの平均値を上記の方法により測定したところ、編物1の目開きの平均値は、100μmであった。
実施例1のPETメッシュの代わりに、編物1を用いた以外は、実施例1に記載の抗血栓処理と同様の抗血栓処理を行い、これを医療材料4とした。
(比較例1)
実施例1に記載の抗血栓処理を行わないことで、抗血栓処理をされていない状態の実施例1のPETメッシュを得たこととし、医療材料5とした。
(比較例2)
実施例1のダルテパリンナトリウムの代わりに、ヘパリンナトリウム(Organon API社製)を0.75重量%、0.1mol/L塩化ナトリウム水溶液(pH4に調整)を用いた以外は、実施例1に記載と同様の抗血栓処理を行い、これを医療材料6とした。
(比較例3)
実施例1の抗血栓処理の代わりに、以下の工程(a)〜(d)からなる抗血栓処理を行い、これを医療材料7とした。
(a)加水分解及び酸化工程
硫酸を0.6mol/L、過マンガン酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)を5.0重量%含む水溶液に実施例1のPETメッシュを浸漬し、60℃で3時間反応させてPETメッシュの表面を加水分解及び酸化した。反応後に水溶液を除去し、塩酸及び蒸留水で洗浄した。
(b)ポリエチレンイミン縮合反応工程
続いて、DMT−MM(和光純薬工業株式会社製)を0.5重量%、ポリエチレンイミン(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製、重量平均分子量:750,000)を5.0重量%含む水溶液にPETメッシュを浸漬し、30℃で2時間反応させてPETメッシュにポリエチレンイミンを縮合反応により共有結合させた。反応後に水溶液を除去し、蒸留水等で洗浄した。
(c)第4級アンモニウム化工程
続いて、臭化エチルを1重量%、メタノールを30重量%含む水溶液にPETメッシュを浸漬し、35℃で1時間反応させた後、50℃に加温して4時間反応させ、ポリエチレンイミンを第4級アンモニウム化した。反応後の水溶液を除去し、メタノールや蒸留水で洗浄した。
(d)ヘパリンイオン結合工程
最後に、ヘパリンナトリウム(Organon API社製)を0.75重量%、塩化ナトリウムを0.1mol/L含む水溶液(pH4に調整)に浸漬し、70℃で6時間反応させて、アルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンとイオン結合させた。水溶液を除去し、蒸留水で洗浄後、真空乾燥した。
(比較例4)
実施例1のPETメッシュを用い、PETメッシュにポリエチレンイミンを共有結合させる工程が以下の工程1であることと、その後のPETメッシュの表面に共有結合されたポリエチレンイミンを第4級アンモニウム化する反応における、臭化エチルを1.0容量%、メタノールを30容量%含む水溶液にPETメッシュを浸漬した場合の反応条件が、35〜50℃で5時間であること以外は、実施例1に記載と同様の抗血栓処理を行い、これを医療材料8とした。
(工程1)
硫酸を0.6mol/L、過マンガン酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)を3.0重量%含む水溶液にPETメッシュを浸漬し、60℃で3時間反応させてPETメッシュの表面を加水分解及び酸化した(加水分解及び酸化する工程)。反応後に水溶液を除去し、塩酸を6mol/L含む水溶液で3回、蒸留水で1回洗浄した。
4(−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルフォリニウムクロリドn水和物(以下、「DMT−MM」)(和光純薬工業株式会社製)を2.0重量%、ポリエチレンイミン((LUPASOL(登録商標) SK;BASF社製、重量平均分子量:2,000,000)を5.0重量%含む水溶液にPETメッシュを浸漬し、50℃で2時間反応させてPETメッシュにポリエチレンイミンを縮合反応により共有結合させた。反応後に水溶液を除去し、50℃の蒸留水及びPBS(−)(日水製薬株式会社製)で洗浄した。
(比較例5)
実施例1のポリエチレンイミン(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製、重量平均分子量:750,000)の代わりに、ポリエチレンイミン(平均分子量約600;和光純薬工業株式会社製)を用いたこと、ならびにPETメッシュにポリエチレンイミンをアミノリシス反応により共有結合させた後に、PETメッシュを、臭化エチルを1.0容量%、メタノールを30容量%含む水溶液に浸漬し、35℃で1時間反応させた後、50℃に加温して4時間反応させ、PETメッシュの表面に共有結合されたポリエチレンイミンを第4級アンモニウム化する工程を実施しなかったこと以外は、実施例1に記載と同様の抗血栓処理を行い、これを医療材料9とした。
(比較例6)
実施例1のPETメッシュの代わりに、ポリウレタン製メッシュ(繊維間距離:100μm)を用いた以外は、実施例1に記載と同様の抗血栓処理を行い、これを医療材料10とした。
(比較例7)
実施例1の、PETメッシュにポリエチレンイミン(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製、重量平均分子量:750,000)をアミノリシス反応により共有結合させた反応の代わりに、PETメッシュをポリエチレンイミン(平均分子量約600;和光純薬工業株式会社製)を5.0重量%含む水溶液に浸漬し、5kGyのγ線を照射(JS−8500型コバルト60γ線照射装置;ノーディオン・インターナショナル社製)し共有結合させたことと、ダルテパリンナトリウムの代わりに、レビパリンナトリウム(クリバリン透析用1000単位/mL バイアル5mL、マイランEPD合同会社)を54国際単位/mL、塩化ナトリウムを0.1mol/L含む水溶液(pH4に調整)を用いたこと以外は、実施例1に記載と同様の抗血栓処理を行い、これを医療材料11とした。
(比較例8)
下記の(a)〜(c)の工程を連続的に行なうことで、生成物2を得た。
(a)ヘパリンの解重合工程
ヘパリンナトリウム(Organon API社製)を、酢酸ナトリウムを0.15mol/L、塩化ナトリウムを0.15mol/L、塩化カルシウムを0.005mol/L含み、pH6.9に調整した水溶液に2重量%となるよう溶解させ、30℃で24時間静置した。ヘパリナーゼII(デクストララボラトリーズ社製)を0.4mg添加し、8時間後にさらに0.2mg、24時間後に0.2mg、36時間後に0.2mg添加した。10倍量の99.5容量%エタノールにて沈殿させた後、得られた解重合生成物を乾燥した。
(b)クロマトグラフィーによる選択工程
アンチトロンビンを固定化したセファロース(登録商標)を充填したカラムを、塩化ナトリウムを0.1mol/L含む水溶液と0.05mol/Lのトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化した。ヘパリンの解重合工程で得た解重合生成物をカラム頂部に乗せた。平衡化に用いた溶液でカラムを洗浄して非固定化成分を除去したのち、塩化カルシウムを1mol/L含み、pH7.2に調整した水溶液で溶出した。ピークを示す画分を含む溶出液に5倍容の99.5容量%エタノールを添加し、形成された沈殿物を遠心分離により回収し、99.5容量%エタノールで洗浄し、減圧下で60度で乾燥させた。
(c)ゲル濾過工程
クロマトグラフィーによる選択工程で得た生成物25gをセファデックス(登録商標)G50スーパーファイン(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)に乗せ、塩化カルシウムを0.2mol/L含む水溶液で溶出される画分を回収した。これをセファデックスG25を用いて脱塩し、凍結乾燥させて生成物2を得た。
生成物2の重量平均分子量を、日本薬局方「パルナパリンナトリウム」の「分子量」の項記載の方法により測定したところ、生成物2の重量平均分子量は、1200であった。
実施例1のダルテパリンナトリウムの代わりに、生成物2を54国際単位/mL、塩化ナトリウムを0.1mol/L含み、pH4に調整した水溶液を用いた以外は、実施例1に記載と同様の抗血栓処理を行い、これを医療材料12とした。
(実験例)
医療材料1〜12について、以下の(1)〜(4)に示した項目を測定し、その測定結果を表1に示した。
(1)医療材料の表面におけるXPSを用いた原子分析
医療材料1〜12の表面における全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、XPSによって求めることができる。
[測定条件]
装置 :ESCALAB220iXL(VG Scientific社製)
励起X線 :monochromaticAlKα1,2線(1486.6eV)
X線径 :1mm
X電子脱出角度:90°(医療材料の表面に対する検出器の傾き)
ここでいう医療材料の表面とは、XPSの測定条件におけるX電子脱出角度、すなわち医療材料の表面に対する検出器の傾きを90°として測定した場合に検出される、測定表面からの深さ10nmまでのことを指す。医療材料の表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで得られる物質中の束縛電子の結合エネルギー値から、医療材料の表面の原子情報が得られ、また各結合エネルギー値のピークのエネルギーシフトから価数や結合状態に関する情報が得られる。さらに、各ピークの面積比を用いて定量、すなわち各原子や価数、結合状態の存在比率を算出することができる。
具体的には、硫黄原子の存在を示すS2pピークは結合エネルギー値が161eV〜170eV付近に見られ、本発明においては、全ピークに対するS2pピークの面積比が1.0〜3.0原子数%であることが好ましいことを見出した。医療材料の表面をX線電子分光法(XPS)で測定した際の全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、小数点第2位を四捨五入して算出した。
(2)面積あたりの抗ファクターXa活性
“テストチーム(登録商標)ヘパリンS”(積水メディカル株式会社製)のキットの操作手順を参考にして検量線を作成した。具体的には、栄研チューブにヘパリン標準液200μLを添加し、37℃で6分間インキュベートした。ファクターXa液200μLを添加し、混和後に37℃で30秒間インキュベートした。37℃に加温しておいた基質液(S−2222溶液)200μLを添加し、混和後に37℃で3分間インキュベートした。反応停止液300μLを添加し、混和した。マイクロプレートに反応停止後の溶液を300μL分注し、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダ(MTP−300;コロナ電気株式会社製)で測定して、テストチーム(登録商標)ヘパリンSのキットの操作手順に従って検量線を作成した。次に、医療材料1〜3、5〜12を横幅0.5cm、縦幅0.5cmのサイズにカットし、これをサンプルとした。サンプルを500μLの生理食塩水に浸漬し、37℃で30分間洗浄した。“テストチーム(登録商標)ヘパリンS”(積水メディカル株式会社製)の操作手順を参考にして生理食塩水洗浄後のサンプルを反応させた。具体的には、生理食塩水洗浄後のサンプルを栄研チューブに入れ、ヒト正常血漿20μL、緩衝液160μL、アンチトロンビンIII液20μL添加し、混和後に37℃で6分間インキュベートした。ファクターXa液200μL添加し、混和後に37℃で30秒間インキュベートした。37℃に加温しておいた基質液200μL添加し、混和後に37℃で3分間インキュベートした。反応停止液300μL添加し、混和した。反応停止後の溶液をエッペンチューブに分注した。この際に、サンプルは取り除いた。エッペンチューブに分注した反応停止後の溶液をマイクロプレートに300μL添加し、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダ(MTP−300;コロナ電気株式会社製)で測定して、テストチーム(登録商標)ヘパリンSの操作手順に従って面積あたりの抗ファクターXa活性を算出した。
(3)抗血栓処理による伸びの変動の測定
医療材料1〜12及び編物1について、横幅0.7cm、縦幅1cmのサイズに5枚ずつカットし、医療材料の伸びを下記条件による引っ張り試験を実施して評価した。
[測定条件]
装置 :引っ張り試験機テンシロンRTE−1210(オリエンテック社製)
ロードセル :500N
試料初期長さ :10mm
引っ張り速度 :5mm/分
5回の引っ張り試験から求めた伸びの値を平均し、伸びの平均値を計算した。さらに、式2を用いて、抗血栓処理による伸びの変動を計算した。抗血栓処理後の医療材料としては、医療材料1〜12を用いた。このうち、医療材料1〜3、6〜12については基材にPETメッシュを用いているため、抗血栓処理前の基材として医療材料5を用いて抗血栓処理前の基材の伸びの平均値(MLpre)を算出し、医療材料4については基材に編物を用いているため、抗血栓処理前の基材として編物1を用いて抗血栓処理前の基材の伸びの平均値(MLpre)を算出した。

P=MLpost/MLpre ・・・式2
P:抗血栓処理による伸びの変動
MLpost:抗血栓処理後の医療材料の伸びの平均値(N)
MLpre:抗血栓処理前の基材の伸びの平均値(N)
実施例及び比較例における伸びの変動の結果を表1に示した。実施例1〜4では、抗血栓処理による伸びの変動が1となり、心拍の影響を受ける場所での基材の強度の損失を最低限に留めつつ、抗血栓処理ができたことが示せている。一方、比較例3及び4のように、抗血栓処理の際にヘパリンの結合量を増やしたものについては、基材表面のヘパリン量を多くするため抗血栓処理の条件が過酷となり、抗血栓処理による伸びの変動が高くなっていることが示された。
(4)遊離血栓捕獲器具を用いた動物実験
医療材料1〜12を用いて遊離血栓捕捉器具を作製し、エチレンオキシドガス滅菌を行い、動物実験にて抗血栓性を評価した。ヒトにおける遊離血栓捕捉器具を用いた頸動脈ステント留置術での施行条件を参考にして、ヘパリンナトリウム注射液(味の素製薬株式会社)を静脈内に投与し、活性化全血凝固時間を200秒以上300秒以下に維持した条件下で、HBD(交雑種)イヌ(雄、体重12〜16kg)の総頚動脈に遊離血栓捕捉器具を留置し、エコー及び造影剤にて血流を確認した。遊離血栓捕捉器具を留置してから、PETメッシュに血栓が形成され、閉塞によって遊離血栓捕捉器具よりも末梢側の血流が完全に確認できなくなるまでの時間を測定し、これを留置時間(分)とした。
また、留置時間が60分を越えるか、閉塞を確認した時点で、医療材料1〜12を用いた遊離血栓捕捉器具について体内から抜去し、生理食塩水で洗浄したのち、PETメッシュ部分を切開し、マイクロスコープ(KH−1300、株式会社ハイロックス製)を用いて倍率50倍にてPETメッシュ外側の画像を撮影した。画像解析ソフトImageJ(アメリカ国立衛生研究所製)を用いて、PETメッシュ外側の面積及びPETメッシュ外側に付着した血栓の面積を計測した。その結果から、以下の式3を用いて血栓付着率(%)を計算した。留置時間及び血栓付着率の結果を表1に示した。

R=Ac/At×100 ・・・式3
R :血栓付着率(%)
Ac:PETメッシュ外側に付着した血栓の面積(cm
At:PETメッシュ外側の面積(cm
ここで、長期間留置する心血管系の器具の一例として、人工血管が挙げられるが、長期間にわたり開存するためには移植初期の血栓形成を防止することが重要であるとの報告がなされている(西部俊哉ら、日血外会誌 4 643−649、1995)。この報告から、本実験において留置時間が60分を越えるものについては、長期間の使用可能性が担保されており、心臓インプラント用の医療材料として好ましく、特にヒト総頸動脈における平均血流速度はヒト左心耳における血流速度とほぼ等しいことから、左心耳閉塞デバイスに用いる医療材料として好ましいと判断した。
また、遊離血栓捕捉器具の捕捉部分に血栓が付着し、血流が減弱又は遮断されると虚血性合併症のリスクが増加することから、臨床で使用されている遊離血栓捕捉器具の添付文書の中には、使用中の造影検査において捕捉部分の25%以上に血栓を確認した場合は、血栓溶解等の処置を行い、可能な限り血栓を溶解してから抜去する旨が記載されている(東レ・ニューハウス プロテクト添付文書、第9版、東レ株式会社)。この添付文書について、捕捉部分の血栓としては、フィルター内に捕捉された血栓と、フィルター捕捉部分を構成する医療材料に付着した血栓とが考えられるが、本実験においては正常動物を使用しているため、捕捉部分の血栓は全てフィルター捕捉部分に付着した血栓として換算した。
ここで、捕捉部分を構成する医療材料に付着した血栓は、末梢側へ飛散し、脳梗塞の原因になる可能性があるが、左心耳閉塞デバイスにおいても、左心耳閉塞デバイスの左心室内腔側と接する部分に血栓が付着すると、末梢側である脳に血栓が飛散する可能性があり、遊離血栓捕捉器具と同様の問題が発生すると考えられる。このことから、本実験においても、遊離血栓捕捉器具の留置時間が60分を超えた場合でも、捕捉部分の25%以上に血栓を確認した場合、すなわち、血栓付着率が25%以上となる場合、心臓インプラント用の医療材料として不適切であると判断した。このように、血栓付着率が25%以下であることが好ましいが、血栓付着率が10%以下である場合、より塞栓が発生しにくくなることからさらに好ましいと考えた。
WO2016/190407の実施例では、抗血栓性被覆材料を被覆したPETメッシュを遊離血栓捕捉器具に組み立て、イヌ頸動脈に留置して留置時間を計測しているが、この実験条件は遊離血栓捕捉器具の留置中にヘパリンを投与せず、血中にヘパリンが存在しない条件であるのに対し、本実験では、心臓インプラントを留置する際により近い条件として、留置の際にヘパリンを投与しており、血中にヘパリンが存在する条件としている。
ここで、本明細書中において、WO2016/190407に記載の実施例3のサンプル8と同様の方法で作成された比較例3は、本実験のように血中にヘパリンの存在する条件下では、過剰量のヘパリンによる血小板凝集亢進作用により血小板を主体とする血栓が形成され、留置60分までに閉塞し、また血栓付着率も25%以上の高値であったことが確認できた。
比較例4は、比較例3の未分画ヘパリンの代わりに低分子量ヘパリンを用いたものであるが、血中のヘパリンの血小板凝集亢進作用により血小板を主体とする血栓が形成され、留置60分までに閉塞し、また血栓付着率も25%以上の高値であった。また、表面のヘパリンの量を多くするため抗血栓処理の条件が過酷となり、抗血栓処理による伸びの変動が高値であった。
ヒト臨床での施行条件において、ヘパリンによる血小板凝集亢進作用を軽減するためには、基材表面のヘパリン量を少なくする方針が考えられる。比較例2は、比較例3に比べて全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率及び面積あたりの抗ファクターXa活性が小さい。抗血栓処理の条件は穏やかであり、抗血栓処理による伸びの変動は認められなかったが、未分画ヘパリンを使用しているため、未分画ヘパリンの有する血小板凝集亢進作用により血小板を主体とする血栓が形成され、留置60分までに閉塞し、また血栓付着率も25%以上の高値であった。
これらに対し、実施例1〜4は、比較例2〜4に比べて、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率又は面積あたりの抗ファクターXa活性が小さく、かつ、血小板凝集亢進作用の小さい低分子量ヘパリンを使用しているため、留置60分まで閉塞せず開存し続け、血栓付着率は10%以下であった。また、抗血栓処理による伸びの変動は認められなかったことから、抗血栓処理による基材強度損失を防止できた。
左心耳閉塞デバイスの使用にあたってのガイドラインは現時点では存在しないが、現在、日本国内で承認されているWATCHMAN(登録商標)左心耳閉鎖システムの添付文書に明示されているように、心臓インプラントの留置時において、ヘパリン使用は必須であり、少なくとも200〜300秒の活性化全血凝固時間が得られるように調整するとされている(WATCHMAN左心耳閉鎖システム添付文書、第1版、ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社)。しかし、血中にヘパリンが存在する条件下で左心耳閉塞デバイスを留置された患者の3.7%に左心耳閉塞デバイス由来の血栓がみられたとの報告がある(Srinivas RDら、Circulation 138(9)、874−885、2018)。これは、血中にヘパリンが存在する条件下であっても左心耳閉塞デバイス上で血栓形成反応が起きるためと考えられる。一方、実施例1〜4は、血中にヘパリンが存在するだけでなく、抗血栓処理によって医療材料そのものへの血栓形成反応が抑制されるため、血中にヘパリンが存在する条件下での血栓付着率を特に低減させていることが分かる。このため本発明の医療材料は、デバイス由来の血栓の発生率を低減させることで、左心耳閉塞デバイスの材料として好適に用いることが示された。
Figure 2020178957
本発明のインプラント用の医療材料は、医療器材に好適に用いることができ、特に、左心耳閉塞デバイス等の心臓インプラント用の医療器材に用いることができる。

Claims (5)

  1. ポリエステルからなる基材と、
    アルキレンイミンをモノマーとして含む窒素含有ポリマーと、
    重量平均分子量が2000〜7000の低分子量ヘパリンと、
    を備え、
    前記基材は、前記窒素含有ポリマーと共有結合し、
    前記窒素含有ポリマーは、前記低分子量ヘパリンとイオン結合し、
    表面におけるX線電子分光法(XPS)で測定した全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率が、1.0原子数%以上3.0原子数%未満である、心臓インプラント用の医療材料。
  2. 前記存在比率は、1.1〜1.5原子数%である、請求項1記載の医療材料。
  3. 面積あたりの抗ファクターXa活性が、5mIU/cm以上20mIU/cm未満である、請求項1又は2記載の医療材料。
  4. 左心耳閉塞デバイス用である、請求項1〜3のいずれか一項記載の医療材料。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項記載の医療材料を備えた、心臓インプラント。
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