JP2020161530A - 回路アレイ - Google Patents

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Abstract

【課題】2つの導体又は超伝導体の間に絶縁体を挟んだ構造を大規模に集積化可能な回路アレイを提供すること。【解決手段】本発明の回路アレイは、金属平板に対し、貫通孔3が、貫通孔3の最大径である1次最大径d1の径方向である第1方向に対し1次最大径d1よりも短い間隔で周期的に穿設されるとともに、1次最大径d1の方向と直交する方向における最大径である2次最大径d2の径方向である第2方向に対し2次最大径d2よりも短い間隔で周期的に穿設されて構成される周期構造部1’を有し、周期構造部1’が、反強磁性絶縁体の性質を示すブリッジ部6と、島状領域として形成され導体又は超伝導体の性質を示すアイランド部7,7’とを有するように形成される。【選択図】図1(e)

Description

本発明は、フォノニック材料から形成される回路アレイに関する。
2つの金属を絶縁体を介して接合されたトンネル接合において、前記トンネル接合の電気抵抗値が量子抵抗(25.8kΩ)よりも大きく、かつ、前記トンネル接合に蓄えられる静電エネルギーが動作環境温度とボルツマン定数との積で表される熱エネルギーよりも大きいとき、クーロンブロッケード現象が観測される。即ち、量子力学的に離散化された数の電荷を、前記トンネル接合を介して輸送することが可能になる。
前記クーロンブロッケード現象が観測される前記トンネル接合を用いて形成されるトランジスタは、電荷を1個ずつ制御して演算を行うことができる単一電子トランジスタとして活用することができ、現状よりも高性能でかつ低消費電力なコンピュータの実現等が期待されている。
しかしながら、前記トンネル接合を用いて形成される前記単一電子トランジスタは、前記トンネル接合及びクーロン島と呼ばれるゲート電極のサイズがともにナノメートル程度である必要があるため、微細加工の観点から形成が困難であり、高い歩留まりで大規模に集積化させることは、極めて困難である。
また、前記トンネル接合において、輸送される電荷数が1未満のものは、電荷数を量子状態としたときの、量子状態の重ね合わせで表現される電荷型量子ビットを与えることができ、その汎用的な形成技術は、量子コンピュータの実現に向けた重要な鍵となる。
しかしながら、近年盛んな前記量子コンピュータの開発において、マルチビット化された量子アレイとしては、超伝導ベースで72量子ビットのものが、実現されているに留まっている(例えば、非特許文献1参照)。ナノメートルスケールの精度での微細加工技術が要求されることから、高い歩留まりで大規模に集積化させることが、極めて困難なためである。
また、2つの超伝導体を絶縁体を介して接合することで、2つの前記超伝導体の巨視的量子位相をπだけ変化させたπジョセフソン接合を形成できることが報告されている(非特許文献2,3参照)。
前記πジョセフソン接合では、2つ以上の電子がペアを形成して生成される、超伝導体特有のクーパー対と呼ばれるキャリアのトンネル現象が観測され、量子メモリや量子位相生成器としての活用が期待されている(例えば、非特許文献2参照)。
しかしながら、前記πジョセフソン接合の形成には、微細なサイズのジョセフソン接合に磁性不純物を適量ドープする必要があることから、形成工程が複雑となるうえ、微細加工の観点からも形成が困難である。また、前記磁性不純物も複雑な構造の化合物が用いられるため、前記報告では、前記πジョセフソン接合の汎用的な形成技術を提示できていない。
以上の諸問題を解決するためには、2つの導体(金属)又は超伝導体の間に絶縁体を挟んだ構造を、複雑な微細加工技術に依存しない新たな手法で開発する必要がある。
ところで、物質中に任意の構造体を周期的に規則配列させることで、前記構成物質中を伝搬するフォノンを人為的に操作するフォノン工学の研究が進められている。
例えば、本発明者は、絶縁体に前記フォノン工学を適用し、前記絶縁体の熱伝導率を一桁程度低下させることに成功している(非特許文献4参照)。前記物質中の熱の伝搬は、フォノン(格子振動)の伝搬により説明される。一般に、フォノンの分散関係は、前記物質の種類により定まり、前記熱伝導率は、前記物質が本来的に有するフォノンの分散関係によって定まるが、前記絶縁体にフォノン工学を適用し、フォノンの分散関係を人為的に操作すると、前記絶縁体が本来的に持つ前記熱伝導率を低下させることができる。
このように前記フォノン工学には、研究途上であるものの、既存の物質に対し、その物質が本来有しない性質を人為的に制御して与える可能性が秘められている。
Google AI Blog, https://ai.googleblog.com/2018/03/a-preview-of-bristlecone-googles-new.html, March 5 (2018). L. Bulaevskii et al., Phys. Rev. B 95, 104513 (2017) L. N. Bulaevskii et al., JETP Lett. 25, 290-293 (1977) N. Zen et al., Nature Commun. 5:3435 (2014)
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、2つの導体又は超伝導体の間に絶縁体を挟んだ構造を大規模に集積化可能な回路アレイを提供することを課題とする。
本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意検討を行い、次の知見を得た。
即ち、本発明者は、前記フォノン工学の研究を進める中で、貫通孔が周期的に穿設された金属平板に対し、冷却処理と昇温処理とを繰返し実施すると、前記貫通孔を穿設した前記金属平板の残余の部分において、導体又は超伝導体としての性質を示す部分と反強磁性絶縁体としての性質を示す部分とが分れて発現することの知見を得た。
つまり、孔あきの前記金属平板に対し、冷却、昇温の熱処理を加えるだけで、2つの導体又は超伝導体の間に絶縁体を挟んだ構造を形成することができ、かつ、この構造は、前記貫通孔の数を増やすだけで多数形成することができる。
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 金属平板に対し、円、楕円、十字形及びnを2以上の整数とする2n角形のいずれかの開口形状とされる貫通孔が、前記貫通孔の最大径である1次最大径の径方向である第1方向に対し前記1次最大径よりも短い間隔で周期的に穿設されるとともに、前記1次最大径の方向と直交する方向における最大径である2次最大径の径方向である第2方向に対し前記2次最大径よりも短い間隔で周期的に穿設されて構成される周期構造部を有し、隣接する2つの前記貫通孔の間を結ぶ帯状領域をブリッジ部とし、4つの前記ブリッジ部とこれら4つの前記ブリッジ部で結ばれる4つの前記貫通孔とで囲まれる島状領域をアイランド部としたとき、前記ブリッジ部が反強磁性絶縁体の性質を示し、前記アイランド部が導体又は超伝導体の性質を示すことを特徴とする回路アレイ。
<2> 金属平板の形成材料が、遷移金属元素及びアルミニウムのいずれかを含む前記<1>に記載の回路アレイ。
<3> 金属平板の形成材料が、バルク状態で超伝導体の性質を示す超伝導物質から選択される前記<2>に記載の回路アレイ。
<4> 第1方向及び第2方向のそれぞれ方向で隣接する貫通孔の間の中間位置で、1つの前記貫通孔を矩形状に囲む矩形ブロック領域の面積をAとし、前記矩形ブロック領域に対して穿設される前記貫通孔の開口面積をBとしたとき、次式、0.4≦B/A≦0.9を満たす前記<1>から<3>のいずれかに記載の回路アレイ。
<5> 第1方向で隣接する2つの貫通孔の間及び第2方向で隣接する2つの前記貫通孔の間のそれぞれの間隔が、1nm〜0.1mmとされる前記<1>から<4>のいずれかに記載の回路アレイ。
<6> 貫通孔の開口形状が円、同じ長さの線を直交させた十字形及びnを2以上の整数とする正2n角形から選択される1次最大径と2次最大径とが等しい形状であり、かつ、第1方向で隣接する2つの貫通孔の間及び第2方向で隣接する2つの前記貫通孔の間のそれぞれの間隔が等しい前記<1>から<5>のいずれかに記載の回路アレイ。
<7> 金属平板の厚みが、0.1nm〜0.01mmとされる前記<1>から<6>のいずれかに記載の回路アレイ。
<8> アイランド部が導体の性質を示し、隣接する2つの前記アイランド部と、これら2つの前記アイランド部の間に挟まれる1つのブリッジ部とでトンネル接合が形成される前記<1>から<7>のいずれかに記載の回路アレイ。
<9> トンネル接合の量子状態で量子ビットが規定される電荷型量子ビットの動作特性を有する前記<8>に記載の回路アレイ。
<10> アイランド部が超伝導体の性質を示し、隣接する2つの前記アイランド部と、これら2つの前記アイランド部の間に挟まれる1つのブリッジ部とでπジョセフソン接合が形成される前記<1>から<7>のいずれかに記載の回路アレイ。
<11> πジョセフソン接合の量子状態で量子ビットが規定される位相型量子ビットの動作特性を有する前記<10>に記載の回路アレイ。
<12> アイランド部が導体の性質を示し、1つの前記アイランド部を中間アイランド部とし、前記中間アイランド部に隣接する2つの前記アイランド部を第1隣接アイランド部及び第2隣接アイランド部として前記中間アイランド部、前記第1隣接アイランド部及び前記第2隣接アイランド部で構成される3つの前記アイランド部と、前記中間アイランド部と前記第1隣接アイランド部との間及び前記中間アイランド部と前記第2隣接アイランド部との間に1つずつ挟まれる2つのブリッジ部とでトンネル接合が形成される前記<1>から<7>のいずれかに記載の回路アレイ。
<13> 中間アイランド部をゲート部とし、第1隣接アイランド部をソース部とし、第2隣接アイランド部をドレイン部とし、トンネル接合を介して前記ソース部と前記ドレイン部との間を移動する電荷の数が前記ゲート部に印加される電圧により制御される単一電子トランジスタの動作特性を有する前記<12>に記載の回路アレイ。
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、2つの導体又は超伝導体の間に絶縁体を挟んだ構造を大規模に集積化可能な回路アレイを提供することができる。
本発明の一実施形態に係る回路アレイの上面を示す説明図である。 図1(a)中のA−A’線断面を示す説明図である。 第1方向及び第2方向のそれぞれ方向で隣接する貫通孔の間の中間位置で、1つの前記貫通孔を矩形状に囲む矩形ブロック領域を示す図である。 1つのπジョセフソン接合に着目した部分拡大上面図である。 周期構造部の周期構造に着目した部分拡大上面図である。 第1の変形例における周期構造部の周期構造に着目した部分拡大上面図であり、 第2の変形例における周期構造部の周期構造に着目した部分拡大上面図である。 第3の変形例における周期構造部の周期構造に着目した部分拡大上面図である。 第4の変形例における周期構造部の周期構造に着目した部分拡大上面図である。 第5の変形例における周期構造部の周期構造に着目した部分拡大上面図である。 実施例1におけるニオブ層(金属平板)を上面から視たときの様子を示す説明図である。 実施例1に係る回路アレイの作製過程における前記冷却工程及び前記昇温工程の実施状況を示す図である。 二端子法による電流電圧特性の測定方法の概要を示す図である。 実施例1に係る回路アレイの電流電圧特性の測定結果を示す図である。 実施例2に係る回路アレイの作製過程における磁化率温度特性を示す図である。 図10(a)の2回目の冷却工程以降の磁化率温度特性において、磁化率の逆数を縦軸とし、温度が15K〜150Kの範囲を拡大表示したものを示す図である。 実施例3に係る回路アレイに対する電流電圧特性の測定系の概要を示す図である。 実施例3に係る回路アレイに対する電流電圧特性の測定結果を示す図である。
(回路アレイ)
本発明の回路アレイは、周期構造部を有する。
<周期構造部>
前記周期構造部は、第1に、金属平板に対し、貫通孔が周期的に穿設されて構成される。
こうした構成の前記周期構造部は、物質中に原子及び分子が周期的に規則配列された状態を示す通常の結晶との対比で、フォノニック結晶とも呼ばれる。
また、前記周期構造部(フォノニック結晶)では、前記貫通孔を持たないバルク状態に比べてフォノンの群速度及びエネルギー密度が小さくなる性質が現れる。
この性質は、前記貫通孔をどのように配列するかで程度が変わる。つまり、前記周期構造部では、適用されるフォノン工学によって、フォノンの群速度及びエネルギー密度を人為的に変更でき、新たな物性を発現させる基材となる。
−金属平板−
前記金属平板としては、特に制限はなく、公知のものから目的に応じて適宜選択することができる。なぜなら、どのような金属平板においても必ずフォノンが存在するからである。
したがって、前記金属平板の形成材料としては、特に制限はないが、遷移金属元素(第3族〜第12族)を含むことが好ましく、前記遷移金属元素の単一物質で構成されるものが特に好ましい。即ち、前記遷移金属は、d電子を持つため、フォノンとの相互作用を生じさせ易く、延いては、これらの相互作用を利用して新たな物性を発現させ易い。
また、πジョセフソン接合を形成する場合の前記金属平板の形成材料としては、バルク状態で超伝導体の性質を示す超伝導物質から選択されることが好ましい。即ち、前記超伝導物質、つまり、もともと超伝導体の性質を示し得る物質を用いると、後述する冷却工程及び昇温工程を通じたπジョセフソン接合としての諸物性を発現させ易い。特に、アルミニウムはd電子を持たないものの、電子とフォノンの相互作用によって超伝導体の性質を示す代表的な超伝導物質であることから、前記金属平板の形成材料として好ましい。
前記金属平板の厚みとしては、特に制限はないが、薄すぎると加工が難しく、厚すぎると後述のブリッジ部に反強磁性絶縁体としての性質を発現させにくいことから、0.1nm〜0.01mmとされることが好ましく、1nm〜0.001mmとされることがより好ましい。
−貫通孔−
前記貫通孔は、前記周期構造部に対し、後述する前記ブリッジ部及びアイランド部を形成するため、円、楕円、十字形及びnを2以上の整数とする2n角形のいずれかの開口形状とされる。つまり、このような開口形状で前記金属平板に前記貫通孔を周期的に穿設すると、前記金属平板の残余の部分に前記ブリッジ部及び前記アイランド部が形成される。
前記貫通孔の開口径としては、特に制限はなく、フォノンの波長スケール(例えば、ナノメートルオーダーからミリメートルオーダーのスケール(1nm〜10mm))であればよく、このような開口径であれば、前記周期構造部の構成物質におけるフォノンの群速度及びエネルギー密度を前記バルク状態の前記構成物質と比べて小さく制御でき、延いては、前記冷却工程及び前記昇温工程を通じて、前記ブリッジ部に前記反強磁性絶縁体としての性質を発現させることができる。
中でも、前記開口径としては、1nm〜10mmとされることが好ましく、10nm〜1mmとされることがより好ましい。
なお、前記開口径は、前記貫通孔の最大径が該当する。
前記貫通孔は、前記貫通孔の前記最大径である1次最大径の径方向である第1方向に対し前記1次最大径よりも短い間隔で周期的に穿設されるとともに、前記1次最大径の方向と直交する方向における最大径である2次最大径の径方向である第2方向に対し前記2次最大径よりも短い間隔で周期的に穿設される。つまり、前記金属平板に対し、このような周期配列で前記貫通孔を穿設すると、前記金属平板の残余の部分に前記ブリッジ部及び前記アイランド部を形成することができる。
前記貫通孔を穿設する間隔としては、このような条件を満たす限り特に制限はないが、前記第1方向で隣接する2つの前記貫通孔の間及び前記第2方向で隣接する2つの前記貫通孔の間のそれぞれの間隔が、1nm〜0.1mmとされることが好ましく、10nm〜0.01mmとされることがより好ましい。このような間隔で前記貫通孔を周期配列させると、前記冷却工程及び前記昇温工程を通じて、前記ブリッジ部に前記反強磁性絶縁体としての性質を発現させ易い。
なお、前記第1方向で隣接する2つの前記貫通孔の間の間隔と、前記第2方向で隣接する2つの前記貫通孔の間の間隔とは、独立して設定することができる。
前記金属平板に対する前記貫通孔の穿設方法としては、特に制限はなく、公知のリソグラフィ加工法を挙げることができ、安定技術である前記リソグラフィ加工法に基づき、前記貫通孔が周期的に穿設された前記周期構造部を簡便に得ることができる。
中でも、前記貫通孔により与えられる好適な周期配列としては、前記貫通孔の前記開口形状が円、同じ長さの線を直交させた十字形及びnを2以上の整数とする正2n角形から選択される前記1次最大径と前記2次最大径とが等しい形状であり、かつ、前記第1方向で隣接する2つの前記貫通孔の間及び前記第2方向で隣接する2つの前記貫通孔の間のそれぞれの間隔が等しいことを条件とする周期配列が挙げられる。
このような周期配列とすると、前記周期構造部における前記貫通孔の周期配列が正方格子状とされ、前記第1方向と前記第2方向とで共通の形状を持つことから、前記ブリッジ部及び前記アイランド部に対し、前記冷却工程及び前記昇温工程を通じて、前記第1方向と前記第2方向とのそれぞれの方向に形成される複数の前記ブリッジ部に前記反強磁性絶縁体としての性質を発現させる条件を緩和させることができる。
また、前記周期構造部における前記第1方向及び前記第2方向のそれぞれ方向で隣接する前記貫通孔の間の中間位置で、1つの前記貫通孔を矩形状に囲む矩形ブロック領域の面積をAとし、前記矩形ブロック領域に対して穿設される前記貫通孔の開口面積をBとしたとき、次式、0.4≦B/A≦0.9を満たすように、前記貫通孔が周期配列されることが好ましく、次式、0.5≦B/A≦0.8を満たすことが特に好ましい。
このような周期配列とすると、前記ブリッジ部と前記アイランド部との間に大きな形状差を与えることができ、延いては、前記冷却工程及び前記昇温工程を通じて、各部に導体又は前記超伝導体としての性質と、前記反強磁性絶縁体としての性質とを区別して与え易い。
前記周期構造部は、第2に、前記ブリッジ部が前記反強磁性絶縁体の性質を示し、前記アイランド部が前記導体又は前記超伝導体の性質を示すように構成される。
ここで前記ブリッジ部とは、隣接する2つの前記貫通孔の間を結ぶ帯状領域として形成される部を指す。
また前記アイランド部とは、4つの前記ブリッジ部とこれら4つの前記ブリッジ部で結ばれる4つの前記貫通孔とで囲まれる島状領域として形成される部を指す。
このような前記反強磁性絶縁体の性質を示す前記ブリッジ部と、前記導体又は前記超伝導体の性質を示す前記アイランド部とは、前記周期構造体にトンネル接合又は前記πジョセフソン接合を与える。
なお、本明細書において、「反強磁性絶縁体」とは、スピンが互いに逆向きである電子同士の相互作用が存在し、かつ有限の電気抵抗を示す固体であることを示し、「導体」とは、スピンが互いに逆向きである電子同士の相互作用が存在せず、かつ有限の電気抵抗を示す固体であることを示し、「超伝導体」とは、スピンが互いに逆向きである電子同士の相互作用が存在し、かつ電気抵抗がゼロを示す固体であることを示す。
−トンネル接合−
前記トンネル接合としては、第1に、前記アイランド部が前記導体の性質を示すときに、隣接する2つの前記アイランド部と、これら2つの前記アイランド部の間に挟まれる1つの前記ブリッジ部とで形成される。なお、前記アイランド部の前記導体としての性質は、前記超伝導体の性質を示す温度を超える温度とすることで得られる。
前記トンネル接合では、前記トンネル接合の電気抵抗値が量子抵抗(25.8kΩ)よりも大きく、かつ、前記トンネル接合に蓄えられる静電エネルギーが動作環境温度とボルツマン定数との積で表される熱エネルギーよりも大きいとき、クーロンブロッケード現象が観測される。即ち、量子力学的に離散化された数の電荷を、前記トンネル接合を介して輸送することが可能になる。
こうして輸送される離散化された電荷の数は、前記トンネル接合の電流電圧特性において、電流の一次電圧微分である微分コンダクタンスを、スピン縮退がないときの量子化コンダクタンス(38.7μS)で規格化することで得られる。
特に、前記トンネル接合を介して輸送される電荷の数が1未満の場合、前記アイランド部は、電荷数を量子状態としたときの、量子状態の重ね合わせで表現される電荷型量子ビットを与えることができる。つまり、輸送される電荷の数が1未満である状態では、本来、整数又は半整数であるべき前記アイランド部の電荷数が、その電荷数が観測されるまで確定しておらず、その一方で、観測される瞬間に確定することから、前記トンネル接合の量子状態で量子ビットが規定される電荷型量子ビットの動作特性が得られる。そのため、前記回路アレイとしては、量子アニーリング機械などへの応用が期待できる。
なお、前記アイランド部の電荷数は、市販の電位計により測定することができる。
前記トンネル接合としては、第2に、前記アイランド部が前記導体の性質を示すとき、1つの前記アイランド部を中間アイランド部とし、前記中間アイランド部に隣接する2つの前記アイランド部を第1隣接アイランド部及び第2隣接アイランド部として前記中間アイランド部、前記第1隣接アイランド部及び前記第2隣接アイランド部で構成される3つの前記アイランド部と、前記中間アイランド部と前記第1隣接アイランド部との間及び前記中間アイランド部と前記第2隣接アイランド部との間に1つずつ挟まれる2つの前記ブリッジ部とで形成される。なお、前記アイランド部の前記導体としての性質は、前記超伝導体の性質を示す温度を超える温度とすることで得られる。
この第2の前記トンネル接合の構成によれば、前記中間アイランド部をゲート部とし、前記第1隣接アイランド部をソース部とし、前記第2隣接アイランド部をドレイン部とし、前記トンネル接合を介して前記ソース部と前記ドレイン部との間を移動する電荷の数が前記ゲート部に印加される電圧により制御される単一電子トランジスタの動作特性が得られる。つまり、前記回路アレイでは、隣接する3つの前記アイランド部のうち、中間に配置される前記アイランド部(前記中間アイランド部)にゲート電極としての役割を与えることで、前記単一電子トランジスタとしての動作特性を持たせることができる。
なお、前記中間アイランド部を前記ゲート電極として作用させる方法としては、前記中間アイランド部に直接電圧源を接続して電荷を与えてもよく、前記金属平板にSiO等の誘電体を挟んで配置されるアルミ等の導電体に電圧を与えて、静電容量的に、前記中間アイランド部に電荷を与えてもよい。ここで、前記導電体としては、前記単一電子トランジスタを動作させる温度で導電性を示すものであればよい。例えば、前記回路アレイを前記単一電子トランジスタとして300Kで動作させる場合は、300Kで導電性を示すp型又はn型シリコン等が該当する。
−πジョセフソン接合−
前記πジョセフソン接合としては、前記アイランド部が前記超伝導体の性質を示すときに、隣接する2つの前記アイランド部と、これら2つの前記アイランド部の間に挟まれる1つの前記ブリッジ部とで形成される。
前記πジョセフソン接合では、1つの前記アイランド部における巨視的量子位相(0状態)に対して、他の1つの前記アイランド部における前記巨視的量子位相がπだけ変化している状態(π状態)が基底状態とされる。つまり、2つの前記アイランド部における前記巨視的量子位相がπだけねじれた状態とされる。
こうしたねじれは、ジョセフソン接合では、自発的に生成されず、外部から電流や磁場を加えて生成するが、前記πジョセフソン接合では、こうしたねじれが自発的に生成される。
そのため、前記πジョセフソン接合では、外部から電流や磁場を加えることなく、前記アイランド部が前記超伝導体の性質を示す温度以下に冷却することにより、2つの前記アイランド部における前記巨視的量子位相がπだけねじれた量子状態を与えることができる。
よって、前記回路アレイでは、前記アイランド部が前記超伝導体の性質を示す温度以下に冷却することにより、前記πジョセフソン接合の量子状態で量子ビットが規定される位相型量子ビットの動作特性を得ることができる。そのため、前記回路アレイとしては、量子メモリや量子位相生成器などへの応用が期待できる。
なお、本明細書において、「巨視的量子位相」とは、前記アイランド部における電子の巨視的波動関数の位相を意味し、前記巨視的量子位相のねじれは、既存のヘテロダイン干渉法により測定することができる。
前記ブリッジ部が示す前記反強磁性絶縁体の性質及び前記アイランド部が示す前記導体又は前記超伝導体の性質の選択的な発現は、前記貫通孔が周期的に穿設された前記周期構造部(孔あきの前記金属平板)に対し、前記冷却工程及び前記昇温工程を実施することで付与される。
つまり、前記フォノン工学が適用される前記周期構造部では、冷却する過程で体験させた秩序により、バルク状態にはない新たな物質秩序が形成される。
前記冷却工程としては、特に制限はないが、前記ブリッジ部に対し、選択的に前記反強磁性絶縁体としての性質を発現させ易くする観点から、前記周期構造部(孔あきの前記金属平板)を20K/min以下の冷却速度で250K以下の冷却温度まで冷却する工程であることが好ましい。
前記冷却速度を20K/min以下とする理由は、前記冷却速度が20K/minを超えると、前記周期構造部中のフォノンと電子との相互作用の進行による物質秩序の変化よりも、温度変化に伴う通常の物質変化が支配的となり、新たな物質秩序が得られにくいためである。
また、前記冷却温度を250K以下とする理由は、250K付近から前記新たな物質秩序が形成され易いためであり、前記冷却温度の具体的な設定方法としては、前記周期構造部の構成物質が前記バルク状態の前記構成物質と異なる物性を示す温度に設定する方法が挙げられる。
前記冷却工程としては、特に制限はないが、1×10−3Pa以下の真空雰囲気下及び100Pa〜100kPa程度のヘリウムガス雰囲気下のいずれかの雰囲気下で実施することが好ましい。前記各雰囲気下で実施すると、目的とする温度に前記周期構造部を冷却させ易い。
また、前記冷却工程の実施装置としては、特に制限はなく、公知の冷媒デュワーや冷凍機等を用いることができる。
前記昇温工程は、前記冷却工程後、前記周期構造部(孔あきの前記金属平板)を前記冷却温度を超える昇温温度まで昇温する工程である。
前記周期構造部では、前記冷却工程で体験させた秩序が前記冷却温度を超える温度に昇温させても維持される。
また、前記昇温工程における昇温速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記昇温工程の実施装置としては、特に制限はなく、前記冷却工程の実施装置に用いる装置をそのまま用いることができる。このような実施装置を用いると、前記冷却工程及び前記昇温工程を交互に繰り返し行う際、迅速に各工程を実施することができる。
また、前記昇温工程としては、前記周期構造部を前記冷却温度を超える昇温温度まで昇温させればよく、前記冷却工程の実施装置から外部に取出し、自然環境下(常温常圧下)で昇温させることも含まれる。
こうした前記冷却工程と前記昇温工程とを交互に繰返し実施すると、前記周期構造部に前記ブリッジ部に対し、選択的に前記反強磁性絶縁体としての性質を発現させることができる。
以下では、本発明の実施形態に係る回路アレイを図面を参照しつつ説明する。
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る回路アレイの上面を示す説明図である。図1(b)は、図1(a)中のA−A’線断面を示す説明図である。図1(c)は、第1方向及び第2方向のそれぞれ方向で隣接する貫通孔の間の中間位置で、1つの前記貫通孔を矩形状に囲む矩形ブロック領域を示す図である。図1(d)は、1つのπジョセフソン接合に着目した部分拡大上面図である。図1(e)は、周期構造部の周期構造に着目した部分拡大上面図である。
図1(a),(b)に示すように、回路アレイ1は、金属平板2に貫通孔3が周期的に穿設された構造部である周期構造部1’を有する。
金属平板2は、基板4上にスペーサ5を介して配される。スペーサ5は、周期構造部1’が形成される領域の外周位置で金属平板2を支持するように配される。基板4及びスペーサ5は、前記冷却工程及び前記昇温工程を通じた諸物性の発現及びその測定のために設けられる一構造例であり、周期構造部1’の底面(基板4側の面)側の領域を中空状態とすることで、この領域に存するフォノンの影響を受けずに諸物性の発現及びその測定を可能ならしめる。
このような観点から、基板4としては、一般的な微細加工に用いられるSi等の材料で構成され、また、スペーサ5としては、このような測定を行う観点から、SiO等の電気絶縁性の材料で構成される。
ここで、図1(c)に示す矩形ブロック領域3’の面積をAとし、矩形ブロック領域Aに対して穿設される貫通孔3の開口面積をBとしたとき、次式、0.4≦B/A≦0.9を満たすように貫通孔3を穿設すると、図1(d)に示すように、狭いブリッジ部6と幅広のアイランド部7,7’との間で大きな形状差を与えることができ、各部に前記導体又は前記超伝導体としての性質と前記反強磁性絶縁体としての性質とを区別して与え易い。
このように構成される回路アレイ1は、貫通孔3が周期的に穿設された状態の金属平板2に対し、前記冷却工程及び前記昇温工程を実施することで、ブリッジ部6とアイランド部7,7’の各部に前記導体又は前記超伝導体としての性質と前記反強磁性絶縁体としての性質とを区別して与えることで形成される。
ここで、図1(a),(b)に示す回路アレイ1を前記アイランド部が前記超伝導体の性質を示す温度以下に冷却し、前記位相型量子ビットとして動作させる場合、ブリッジ部6を介して対向配置されるアイランド部7,7’は、前記反強磁性絶縁体としての性質を示すブリッジ部6の作用により、アイランド部7が、クーパー対の前記巨視的量子位相が0状態であるアイランド部7’に対してクーパー対の前記巨視的量子位相がπだけ変化したπ状態をとり、この状態で基底状態をなす。
即ち、1つのブリッジ部6と2つのアイランド部7,7’とで、前記πジョセフソン接合が形成される(図1(d)参照)。
また、図1(a),(b)に示す回路アレイ1を前記アイランド部が前記超伝導体の性質を示す温度を超える温度とし、前記電荷型量子ビットとして動作させる場合、1つのブリッジ部6と2つのアイランド部7,7’とで、前記トンネル接合が形成され、前記反強磁性絶縁体としての性質を示すブリッジ部6の作用により、アイランド部7からアイランド部7’に輸送される電荷数を1未満とすることができ、延いては、アイランド部7及びアイランド部7’に存在する電荷数を、それらの電荷数を観測するまで確定できず、観測した瞬間に確定される状態として、前記トンネル接合の量子状態で量子ビットを規定することができる。
貫通孔3は、図1(e)に示すように、貫通孔3の最大径である1次最大径dの径方向である第1方向(図中、上下方向)に対し、1次最大径dよりも短い間隔の間隔sで周期配列され、また、1次最大径dの方向と直交する方向における最大径である2次最大径dの径方向である第2方向(図中、左右方向)に対し2次最大径dよりも短い間隔の間隔sで周期配列される。
ここで、周期構造部1’では、貫通孔3の開口形状が円形とされ、1次最大径dと2次最大径dとが等しい径を持ち、また、貫通孔3が正方格子状に周期配列されるように間隔sと間隔sとが等しい間隔とされる。
こうした周期構造部1’では、ブリッジ部6を介して対向配置されるアイランド部7,7’が、前記第1方向と前記第2方向とで共通の形状を持つことから、前記冷却工程及び前記昇温工程を通じて、前記第1方向と前記第2方向とのそれぞれの方向に形成される複数の前記ブリッジ部に前記反強磁性絶縁体としての性質を発現させる条件を緩和させることができる。
図1(a)〜(e)を用いて説明した周期構造部1’は、一例を示したものであり、円形の貫通孔3の開口形状を変更して、変形例を構成することができる。また、図示しないものの貫通孔3の形成数、配置等は、適宜変更することができる。
具体的な変形例を図2,3に示す。なお、図2は、第1の変形例における周期構造部の周期構造に着目した部分拡大上面図であり、図3は、第2の変形例における周期構造部の周期構造に着目した部分拡大上面図である。
第1の変形例では、図2に示すように、周期構造部11’を構成する貫通孔13の開口形状が同じ長さの線を直交させた十字形とされ、1次最大径dと2次最大径dとが等しい径を持つ。また、貫通孔13が正方格子状に周期配列されるように間隔sと間隔sとが等しい間隔とされる。
このように貫通孔13の開口形状を4回対称性を持つ形状とすると、間隔s及び間隔sの間隔設定により、周期構造部1’と同様の貫通孔13が正方格子状に周期配列された周期構造部11’を形成することができる。
したがって、周期構造部11’では、ブリッジ部16とアイランド部17,17’とで周期構造部1’と同様の前記トンネル接合又は前記πジョセフソン接合を形成することができる。
また、第2の変形例では、図3に示すように、周期構造部21’を構成する貫通孔23の開口形状が正方形(菱形)とされ、1次最大径dと2次最大径dとが等しい径を持つ。また、貫通孔23が正方格子状に周期配列されるように間隔sと間隔sとが等しい間隔とされる。
このように貫通孔23の開口形状を4回対称性を持つ形状とすると、間隔s及び間隔sの間隔設定により、周期構造部1’及び周期構造部11’と同様の貫通孔23が正方格子状に周期配列された周期構造部21’を形成することができる。
したがって、周期構造部21’では、ブリッジ部26とアイランド部27,27’とで周期構造部1’及び周期構造部11’と同様の前記トンネル接合又は前記πジョセフソン接合を形成することができる。
なお、貫通孔23の開口形状をnを2以上の整数とする正2n角形(正6角形、正8角形等)とする場合も、同様の変形例が与えられる。
本発明の前記回路アレイは、更なる変形例を許容する。具体的な変形例を図4〜6に示す。なお、図4は、第3の変形例における周期構造部の周期構造に着目した部分拡大上面図であり、図5は、第4の変形例における周期構造部の周期構造に着目した部分拡大上面図であり、図6は、第5の変形例における周期構造部の周期構造に着目した部分拡大上面図である。
第3の変形例では、図4に示すように、周期構造部31’を構成する貫通孔33の開口形状が楕円形とされ、1次最大径dと2次最大径dとが異なる径を持つ。また、間隔sと間隔sとが等しい間隔であってもよいが、ここでは異なる間隔とされる。
このように貫通孔33の開口形状を2回対称性を持つ形状とすると、貫通孔33が矩形格子状に周期配列された周期構造部31’が与えられる。
貫通孔33が矩形格子状に周期配列された周期構造部31’では、ブリッジ部36を介して対向配置されるアイランド部37,37’で形成される前記トンネル接合又は前記πジョセフソン接合が、前記第1の方向(図中、上下方向)に形成されるものと、前記第2の方向(図中、左右方向)に形成されるものとで、異なる形状とされるが、ブリッジ部36とアイランド部37,37’との間の形状差により、各部に前記導体又は前記超伝導体としての性質と前記反磁性絶縁体としての性質とを区別して与えることができ、1つのブリッジ部36を介して対向配置される2つのアイランド部37,37’により1つの前記トンネル接合又は前記πジョセフソン接合を形成することができる。また、複数の前記トンネル接合又は前記πジョセフソン接合を前記第1の方向及び前記第2の方向のそれぞれの方向に対し、共通の形状で形成できる。
第4の変形例では、図5に示されるように、周期構造部41’を構成する貫通孔43の開口形状が異なる長さの線を直交させた十字形とされ、1次最大径dと2次最大径dとが異なる径を持つ。また、間隔sと間隔sとが等しい間隔であってもよいが、ここでは異なる間隔とされる。
このように貫通孔43の開口形状を2回対称性を持つ形状とすると、貫通孔43が矩形格子状に周期配列され、かつ、ブリッジ部46とアイランド部47,47’とが形成された周期構造部41’が与えられる。
したがって、周期構造部41’では、ブリッジ部46とアイランド部47,47’とで周期構造部31’と同様の前記トンネル接合又は前記πジョセフソン接合を形成することができる。
第5の変形例では、図6に示されるように、周期構造部51’を構成する貫通孔53の開口形状が平行四辺形(四角形)とされ、1次最大径dと2次最大径dとが異なる径を持つ。また、間隔sと間隔sとが等しい間隔であってもよいが、ここでは異なる間隔とされる。
このように貫通孔53の開口形状を2回対称性を持つ形状とすると、貫通孔53が矩形格子状に周期配列され、かつ、ブリッジ部56とアイランド部57,57’とが形成された周期構造部51’が与えられる。
したがって、周期構造部51’では、ブリッジ部56とアイランド部57,57’とで周期構造部31’及び周期構造41’と同様の前記トンネル接合又は前記πジョセフソン接合を形成することができる。
(実施例1)
次のように、実施例1に係るサンプル体を製造した。
先ず、CVD装置(サムコ株式会社製、PD−270STL)を用いて、シリコンウエハ基板(ミヨシ有限会社製、直径76.0mm、方位(100)±1°、タイプP型、仕上げ表面ミラー、仕上げ裏面エッチング、パーティクル0.3μm以上10個以下)上に酸化シリコン層を厚み1μmで形成した。
次に、スパッタリング装置(サイエンスプラス株式会社製、M12−0130)を用いて、前記酸化シリコン層上に金属平板としてのニオブ層を厚み150nmで形成した。
次に、レジストコーター装置(大日本スクリーン製造株式会社製、SK−60BW−AVP)を用いて、ニオブ層上にi線リソグラフィ用のレジスト層を形成した後、i線リソグラフィ装置(株式会社ニコンテック社製、NSR−2205i12D)により、目的とする周期構造と同一構造の孔が穿設されたマスクパターンを持つマスクを用いたi線リソグラフィ加工を行い、前記レジスト層を前記マスクパターンが転写されたレジストパターンに加工した。
次に、反応ガスとしてSFを用いた反応性イオンエッチング装置(サムコ株式会社製、RIE−10NR)により、前記レジストパターンを通じた前記ニオブ層に対するエッチング加工を行い、前記周期構造部を持つサンプル体として、円形の開口形状を持つ貫通孔が周期的に穿設された周期構造部を形成した。
ここで、前記シリコンウエハ基板上の前記ニオブ層の様子を図7に示す。なお、図7は、実施例1におけるニオブ層(金属平板)を上面から視たときの様子を示す説明図である。
この図7に示すように、ニオブ層で形成される金属平板102は、厚み方向に貫通孔103(図中、黒丸で示す群)が周期的に穿設された構造を持つ。
また、金属平板102は、前記シリコンウエハ基板上に円形状で形成され、その直径Dは、2mmである。
より詳細に説明すると、金属平板102は、図1(c)に示す矩形状ブロック領域が7,180個で設定され、7,180個の貫通孔103が穿設された構造を持つ。また、通孔の開口径(d=d)は、20.35μmである。
また、前記第1方向及び前記第2方向のそれぞれの方向で隣接する貫通孔103の間を最短距離で結ぶ間隔s,sは、ともに300nmである。
また、金属平板102の貫通孔103が形成された部分(周期構造部101’)をフォノニック結晶としてみたときの結晶構造は、正方格子であり、その格子定数は、20.65μmである。なお、前記正方格子とは、貫通孔103が金属平板102に対し、上面視で正方格子状に配置されている構造を意味し、前記格子定数とは、前記矩形状ブロック領域を単位格子としたとき、一の前記単位格子の中心と、これに隣接する他の前記単位格子の中心との間の距離を意味する。
こうした図7に示す前記周期構造体の構造は、前記マスクの形状設定に基づき、形成され、実施例1に係るサンプル体は、金属平板102に対し、円形の開口形状とされる貫通103孔が、貫通孔103の最大径である1次最大径の径方向である第1方向に対し前記1次最大径よりも短い間隔で周期的に穿設されるとともに、前記1次最大径の方向と直交する方向における最大径である2次最大径の径方向である第2方向に対し前記2次最大径よりも短い間隔で周期的に穿設されて構成される前記周期構造部を持つ。
また、前記周期構造部は、前記隣接する2つの貫通孔103の間を結ぶ帯状領域であるブリッジ部と、4つの前記ブリッジ部とこれら4つの前記ブリッジ部で結ばれる4つの貫通孔103とで囲まれる島状領域であるアイランド部とを持つ。
次に、この状態の前記シリコンウエハ基板を金属平板102を中心に持つように裁断した。
次に、ドライエッチング装置(キャノン株式会社製、memsstar SVR−vHF)を用い、貫通孔103を介して金属平板102の下に存在する前記酸化シリコン層にHFガスを接触させ、前記酸化シリコン層を部分的に除去するドライエッチング加工を行った。
ここで、図7中における、貫通孔103が形成されていない部分の金属平板102の領域R,Rの下側に存在する前記酸化シリコン層は、前記ドライエッチング加工後に残留し、酸化シリコン犠牲層として、周期構造部101’下側の部分を中空状態とさせつつ、領域R,Rの各位置で金属平板102を支持する役割が与えられる。
以上により、実施例1に係るサンプル体を作製した。
次に、実施例1のサンプル体に対し、以下に述べる冷却工程及び昇温工程を実施して実施例1に係る回路アレイを作製した。
先ず、実施例1に係る回路アレイの作製過程における電気抵抗を測定するため、実施例1に係るサンプル体に対し、四端子抵抗測定装置(日本カンタム・デザイン株式会社製、P102 DC抵抗サンプルパック)を接続した。
具体的には、図7における領域R,Rの各領域に対し、二端子ずつ前記四端子抵抗測定装置の端子を接続し、10μAの印加電流により、領域R−領域R間に配される前記周期構造体の電気抵抗を測定可能とした。
次に、実施例1に係るサンプル体を物理特性測定装置(日本カンタム・デザイン株式会社製、PPMS)に入れ、約200Paのヘリウムガス雰囲気の下、前記冷却工程及び前記昇温工程を実施した。
具体的な前記冷却工程及び前記昇温工程の実施状況を図8を参照しつつ説明する。なお、図8は、実施例1に係る回路アレイの作製過程における前記冷却工程及び前記昇温工程の実施状況を示す図である。
先ず、図8に示すように、実施例1に係るサンプル体を室温(300K)から1K/minの冷却速度により2Kまで冷却させる条件で1回目の冷却工程を実施した。
次に、実施例1に係るサンプル体を2Kから1K/minの昇温速度により室温まで昇温させる条件で1回目の昇温工程を実施した。
次に、再び実施例1に係るサンプル体を室温から1K/minの冷却速度により2Kまで冷却させる条件で2回目の冷却工程を実施した。
次に、再び実施例1に係るサンプル体を2Kから1K/minの昇温速度により室温まで昇温させる条件で2回目の昇温工程を実施した。
次に、再び実施例1に係るサンプル体を室温から1K/minの冷却速度により2Kまで冷却させる条件で3回目の冷却工程を実施した。
最後に、再び実施例1に係るサンプル体を2Kから1K/minの昇温速度により室温まで昇温させる条件で3回目の昇温工程を実施した。
以上により、実施例1に係る回路アレイを作製した。
実施例1に係るサンプル体から回路アレイを作製する過程の特性について、引き続き、図8を参照しつつ説明する。
先ず、1回目の冷却工程実施前の実施例1に係るサンプル体では、通常のニオブと同様、常伝導体としての物性が確認される。
次に、1回目の冷却工程では、冷却開始当初、温度が低下するにつれて電気抵抗値が低下する傾向が確認されるが、43K付近で電気抵抗値が最も低くなった後、一転、上昇に転じる抵抗極小の現象が確認された。このような電気抵抗値の挙動は、通常のニオブでは観測されない。いわゆる近藤効果に由来する電子の局在モーメントが前記周期構造体を媒介として発生したものと考えられる。また、250K付近で電気抵抗−温度特性のカーブが屈曲しており、250K付近から通常のニオブに存在しない新たな秩序の形成が生じているといえる。
次に、1回目の昇温工程では、30K付近で電気抵抗値が下降した後、一転、上昇に転じる抵抗極小の現象が確認される。また、40K以降の高温側環境下で温度の上昇に伴う電気抵抗値の上昇が確認され、金属的な電気抵抗値の挙動を示したが、その電気抵抗−温度特性のカーブは、1回目の冷却工程における電気抵抗−温度特性のカーブと異なった軌跡を示している。
次に、2回目の冷却工程では、50K付近から電気抵抗値が急激に上昇し、通常のニオブからは観測し得ない電気抵抗値の挙動が確認される。
次に、2回目の昇温工程では、2Kから50K付近まで電気抵抗値の温度依存性をほぼ失った状態となり、50K以降の高温側環境下では金属的な電気抵抗値の挙動が確認されない。
次に、3回目の冷却工程では、温度が低下するにつれて、なだらかに電気抵抗値が上昇する傾向が確認される。
次に、3回目の昇温工程では、比較的、3回目の冷却工程における電気抵抗−温度特性のカーブと似通った電気抵抗−温度特性のカーブを辿る挙動が確認される。
2回目の昇温工程以降の実施例1に係るサンプル体では、金属的な挙動さえ失っており、加えて、2回目の冷却工程、昇温工程で測定された電気抵抗値は、1回目の冷却工程実施前における電気抵抗値の数百倍の値に達しており、電気抵抗値を測定するための前記四端子抵抗測定を実施するために必要な印加電流の通り道である前記ブリッジ部が、もはや通常のニオブや金属が持つ物質秩序と異なる新たな物質秩序が生じており、前記近藤効果の挙動を鑑みると、前記ブリッジ部が反強磁性絶縁体に転移しているとみるべきである。
製造した実施例1に係る回路アレイの電流電圧特性を測定した。
具体的には、実施例1に係る回路アレイを、無冷媒極低温プローブステーション(レイクショア社製、CRX−4K)に搭載し、先端3μm径のプローバ2本をそれぞれ、図9(a)に示した×印2点に押し当て、前記プローバ2本が電気的に接続されている前記無冷媒極低温プローブステーションのコネクタ端子を半導体特性評価システム(ケースレーインスツルメンツ社製、4200−SCS)にトライアキシャル同軸ケーブルを用いて電気的に接続し、図9(a)に示した×印2点間の電流電圧特性を、二端子法で測定した。図9(a)は、二端子法による電流電圧特性の測定方法の概要を示す図である。なお、測定は、地磁気環境下で行われ、サンプルステージの温度は、前記無冷媒極低温プローブステーションで7K〜300Kの温度範囲で任意に変化させることができる。
図9(b)に、実施例1に係る回路アレイの電流電圧特性の測定結果を示す。
図9(b)中、下側の図は、サンプルステージの温度が80K及び240Kにおける電流電圧特性を示している。
通常の金属の電流電圧特性は、線形な関係になるが、該図9(b)の下側の図に示すように、前記測定結果では、明らかに非線形な関係を示している。特に、バイアス電圧が小さいとき(80Kでは−0.4V〜+0.5V、240Kでは−0.2V〜+0.1Vのとき)に電流が抑制されている関係が見て取れるが、この関係は、クーロンブロッケード現象に特有の関係である。そのバイアス電圧が小さいときの電気抵抗値は、より低温の80Kの方(16.4MΩ)が240Kのもの(343.6kΩ)より大きいが、240Kの温度においても量子抵抗(25.8kΩ)を大きく上回っており、前記クーロンブロッケード現象が起きるための条件を満たしている。
前記測定結果は、実施例1に係る回路アレイが、図9(a)に示したように前記ブリッジ部が前記反強磁性絶縁体となっており、金属(導体)である前記アイランド部に挟まれる形でトンネル接合を形成していることの裏付けにもなっている。
また、図9(b)の上側の図は、得られた電流電圧特性から算出される、電流の一次電圧微分である微分コンダクタンスを、量子化コンダクタンス(38.7μS)で規格化したものである。
該図9(b)の上側の図に示すように、80K及び240Kのいずれの温度においても、規格化された値が1未満であるピークを確認することができる。これは前記トンネル接合を介して輸送される電荷数が1未満であることを示しており、確率により前記トンネル接合を介して輸送される電荷数が0又は1となる量子状態を取り得ることを意味する。
したがって、実施例1に係る回路アレイは、前記トンネル接合の量子状態で量子ビットが規定される電荷型量子ビットとして活用することができる。
(実施例2)
次に、実施例1に係るサンプル体と同じ材質で同じ構造を持つ別サンプル体(以降、「実施例2に係るサンプル」と称す)に対し、以下に述べる冷却工程及び昇温工程を実施して実施例2に係る回路アレイを作製した。
実施例2に係るサンプル体を磁気特性測定装置(日本カンタム・デザイン株式会社製、MPMS)に入れ、約10kPaのヘリウムガス雰囲気の下、冷却工程及び昇温工程を実施した。
先ず、実施例2に係るサンプル体を室温(300K)から10K/minの冷却速度により2Kまで冷却させる条件で1回目の冷却工程を実施した。
次に、2Kにおいて実施例2に係るサンプル体の面方向に平行な外部磁場を100Oe(エルステッド;1Oe=約79.577A/m)印加するとともに、実施例2に係るサンプル体の磁化測定を行う位置を正確に調整した。
次に、実施例2に係るサンプル体を2Kから10K/minの昇温速度により室温まで昇温させる条件で1回目の昇温工程を実施した。なお、外部磁場の100Oeは、印加したままである。
次に、再び実施例2に係るサンプル体を室温から1K/minの冷却速度により2Kまで冷却させる条件で2回目の冷却工程を実施した。なお、外部磁場の100Oeは、印加したままである。
次に、再び実施例2に係るサンプル体を2Kから1K/minの昇温速度により室温まで昇温させる条件で2回目の昇温工程を実施した。なお、外部磁場の100Oeは、印加したままである。
次に、再び実施例2に係るサンプル体を室温から1K/minの冷却速度により2Kまで冷却させる条件で3回目の冷却工程を実施した。なお、外部磁場の100Oeは、印加したままである。
次に、再び実施例2に係るサンプル体を2Kから1K/minの昇温速度により室温まで昇温させる条件で3回目の昇温工程を実施した。なお、外部磁場の100Oeは、印加したままである。
次に、再び実施例2に係るサンプル体を室温から1K/minの冷却速度により2Kまで冷却させる条件で4回目の冷却工程を実施した。なお、外部磁場の100Oeは、印加したままである。
次に、再び実施例2に係るサンプル体を2Kから1K/minの昇温速度により室温まで昇温させる条件で4回目の昇温工程を実施した。なお、外部磁場の100Oeは、印加したままである。
次に、再び実施例2に係るサンプル体を室温から1K/minの冷却速度により2Kまで冷却させる条件で5回目の冷却工程を実施した。なお、外部磁場の100Oeは、印加したままである。
次に、再び実施例2に係るサンプル体を2Kから1K/minの昇温速度により室温まで昇温させる条件で5回目の昇温工程を実施した。なお、外部磁場の100Oeは、印加したままである。
以上により、実施例2に係る回路アレイを作製した。
なお、実施例2に係る回路アレイの作製過程では、実施例1に係る回路アレイの作製過程と異なり、外部磁場を印加しているが、これは、作製される回路アレイの磁気特性を測定する目的で行うものであり、実施例1に係る回路アレイと実施例2に係る回路アレイとは、冷却工程及び昇温工程の実施回数以外は、実質的に同様の作製過程で作製されたものである。
図10(a)に、実施例2に係る回路アレイの作製過程における磁化率温度特性を示す。
該図10(a)に示すように、1回目の昇温工程では、2K〜9Kの間で磁化率が負の値を示し、通常のニオブと同様に、ニオブの超伝導転移温度以下ではマイスナー反磁性を示すことが確認される。なお、図10(a)における磁化率(縦軸)は、2Kにおける実施例2に係るサンプル体のマイスナー反磁性磁化率で規格化した値を示している。
2回目の冷却工程以降、ニオブが超伝導としての性質を示す9K以下の温度で、磁化率が正の値に反転していることが読み取れる。これは、パラマグネティックマイスナー効果と呼ばれる稀な現象で、クーパー対が微小な粒界を量子力学的にトンネルするときに観測される現象である。この現象は、前記ブリッジ部が前記反強磁性絶縁体となっており、金属(導体)である前記アイランド部に挟まれる形でトンネル接合を形成していることの裏付けとなる。
また、実施例2に係るサンプル体と同じ材質で同じ構造を持つ実施例1に係るサンプル体が、図9(a)に示したような前記反強磁性絶縁体の前記ブリッジ部と金属(導体)である前記アイランド部とで構成される前記トンネル接合を形成していることを鑑みると、前記アイランド部が超伝導体としての性質を示す温度において、前記アイランド部のクーパー対が、前記反強磁性絶縁体の前記ブリッジを介して量子力学的にトンネルしているとみるべきである。
最近の理論的研究(非特許文献2参照)では、反強磁性絶縁体を2つの超伝導体で挟んで形成されるトンネル接合は、πジョセフソン接合として機能することが確認されている。
したがって、実施例2に係る回路アレイは、前記πジョセフソン接合の量子状態で量子ビットが規定される位相型量子ビット(量子メモリや量子位相生成器などに応用される)として活用できる。
また、図10(b)に、図10(a)の2回目の冷却工程以降の磁化率温度特性において、磁化率の逆数を縦軸とし、温度が15K〜150Kの範囲を拡大表示したものを示す。
該図10(b)に示すように、いずれの曲線においても、温度が43Kのときに、下に凸の形状が見て取れる。これは、43Kのネール温度で電子が顕著に反強磁性的な相互作用をしていることを意味し、前記ブリッジ部が前記反強磁性絶縁体に成っていることを裏付ける。このネール温度が、実施例1に係る回路アレイに関する図8に示した前記近藤温度の発現温度である43Kと一致していることは注目に値するが、前記近藤効果も電子の反強磁性的な相互作用の結果であることを鑑みると、これらの異なる測定手段における特徴的な温度が見事に一致することは当然である。
即ち、実施例2に係る回路アレイでは、前記アイランド部が超伝導体としての性質を示す温度において、2つの隣接する前記アイランド部と、これらのアイランド部に挟まれる前記反強磁性絶縁体の前記ブリッジとで前記πジョセフソン接合が形成されており、このような前記πジョセフソン接合は、実施例1に係る回路アレイにおいても形成され得る。
(実施例3)
実施例1に係る回路アレイと同様の作製方法で、実施例3に係る回路アレイを作製した。
この実施例3に係る回路アレイに対し、実施例1に係る回路アレイと同様の電流電圧測定(図9(a)参照)を実施し、図9(b)に示す測定結果と同様の測定結果が得られた。
次に、実施例3に係る回路アレイを前記無冷媒極低温プローブステーション(レイクショア社製、CRX−4K)に搭載し、実施例1に係る回路アレイに対する二端子法による電流電圧特性の測定方法と同じく先端3μm径の前記プローバ2本をそれぞれ、図9(a)に示した×印2点に押し当て、前記プローバ2本が電気的に接続されている前記無冷媒極低温プローブステーションの前記コネクタ端子を前記半導体特性評価システムに前記トライアキシャル同軸ケーブルを用いて電気的に接続し、図9(a)に示した×印2点間の電流電圧特性を、二端子法で測定した。なお、測定環境は、実施例1での測定環境と同様に地磁気環境下で行ったが、前記サンプルステージ温度は、前記無冷媒極低温プローブステーションで300Kに固定して実施した。
二端子法による電流電圧特性の測定について、実施例1と実施例3との相違点は、前記サンプルステージの温度の他に、前記サンプルステージにゲート電圧を印加したかどうかであり、実施例3に係る回路アレイに対してのみゲート電圧の印加を行っている。前記無冷媒極低温プローブステーションは、前記サンプルステージに電圧を印加することのできるコネクタ端子が用意されており、当該コネクタを前記半導体特性評価システムに別途トライアキシャル同軸ケーブルを用いて電気的に接続し、様々なゲート電圧を実施例3に係る回路アレイに印加しつつ、実施例3に係る回路アレイの電流電圧特性を測定することができる。
図11(a)に、実施例3に係る回路アレイに対する電流電圧特性の測定系の概要を示す。
ドレイン−ソース電圧印加用のプローブとドレイン電流測定用のプローブとは、図9(a)に示したものと同じく、×印の箇所に押し当てた(即ち、アイランド部を一つ隔てている)。実施例3に係る回路アレイの支持基板であるシリコンチップ(実施例1に係るサンプル体におけるシリコンウエハ基板)は、前記無冷媒極低温プローブステーションの前記サンプルステージと接触しており、前記サンプルステージに電圧を与えることで、前記シリコンチップに電圧を与えることができる。前記シリコンチップは、実施例1に係るサンプル体と同様にp型シリコンであり、温度300Kにおいて導電性を有するからである。
なお、図11(a)に示したとおり、実施例3に係る回路アレイは、前記金属平板の前記アイランド部(厚み150nmニオブ)と、前記支持基板の前記シリコンチップとが真空で隔てられており、前記シリコンチップにゲート電圧を印加することで、静電容量的に前記金属平板の前記アイランド部に電荷を誘起することができる。
なお、実施例3に係る回路アレイでは、このように静電容量的に間接的に前記アイランド部に電荷を与えたが、図9(a)に示した2つの×印の間に挟まれた前記アイランド部にゲート電圧印加用のプローブを押し当て、直接的に電荷を与えてもよい。
図11(b)に、実施例3に係る回路アレイに対する電流電圧特性の測定結果を示す。
ここで、図11(b)では、実施例3に係る回路アレイでは、1つの前記アイランド部を中間アイランド部とし、前記中間アイランド部に隣接する2つの前記アイランド部を第1隣接アイランド部及び第2隣接アイランド部としたとき、前記中間アイランド部をゲート部とし、前記第1隣接アイランド部をソース部とし、前記第2隣接アイランド部をドレイン部とするトランジスタ構造を持つことから、電流電圧特性をドレイン電流−ドレイン−ソース電圧特性として表示している。また、ここでは、3つの前記アイランド部と2つの前記ブリッジ部とで形成されるトンネル接合を評価する。
また、図11(b)の下側の図は、ゲート電圧が0Vであるとき、及び、ゲート電圧を−0.44Vから−0.52Vまで−0.04V毎に変化させたときの各電流電圧特性を示している。
該図11(b)の下側の図に示すように、温度が300Kにおいて、ゲート電圧が0Vのときのトンネル接合の電気抵抗値は、7.1kΩであるが、ゲート電圧を印加することでトンネル接合の電気抵抗値は、74kΩに上昇し、その値は、量子抵抗(25.8kΩ)よりも大きく、前記クーロンブロッケード現象が起きるための条件を満たしている。
前記クーロンブロッケード現象を応用した最も単純な素子は単一電子トランジスタであるが、現に、ゲート電圧の有無で実施例3に係る回路アレイの電流輸送特性が変化しており、前記単一電子トランジスタとしての機能を備えている。
図11(b)の上側の図は、得られた電流電圧特性から算出される、電流の一次電圧微分である微分コンダクタンスを、量子化コンダクタンス(38.7μS)で規格化したものである。
該図11(b)の上側の図に示すように、300Kの温度において、ゲート電圧を加えると、トンネル接合を介して輸送される電荷数が3〜6程度であることが見て取れる。一方、ゲート電圧を印加しない場合、このような電荷の輸送は、確認されない。即ち、実施例3に係る回路アレイでは、トンネル接合を介して前記ソース部と前記ドレイン部との間を移動する電荷の数が前記ゲート部に印加される電圧により制御される。
したがって、実施例3に係る回路アレイは、単一電子トランジスタアレイとして活用することができる。
なお、ゲート動作を備えており、かつ輸送される電荷数が数個程度である実施例3に係る回路アレイは、同じく輸送される電荷数が数個程度の脳神経細胞であるニューロンを模擬することができ、実施例3に係る回路アレイで実現される単一電子トランジスタアレイは、脳を模擬したニューロモルフィックな演算処理機構を実現するものである。
1 回路アレイ
1’,11’,21’,31’,41’,51’,101’ 周期構造部
2,102 金属平板
3,13,23,33,43,53,103 貫通孔
3’ 矩形ブロック領域
5 スペーサ
6,16,26,36,46,56 ブリッジ部
7,7’,17,17’,27,27’,37,37’,47,47’,57,57’ アイランド部

Claims (13)

  1. 金属平板に対し、円、楕円、十字形及びnを2以上の整数とする2n角形のいずれかの開口形状とされる貫通孔が、前記貫通孔の最大径である1次最大径の径方向である第1方向に対し前記1次最大径よりも短い間隔で周期的に穿設されるとともに、前記1次最大径の方向と直交する方向における最大径である2次最大径の径方向である第2方向に対し前記2次最大径よりも短い間隔で周期的に穿設されて構成される周期構造部を有し、
    隣接する2つの前記貫通孔の間を結ぶ帯状領域をブリッジ部とし、4つの前記ブリッジ部とこれら4つの前記ブリッジ部で結ばれる4つの前記貫通孔とで囲まれる島状領域をアイランド部としたとき、前記ブリッジ部が反強磁性絶縁体の性質を示し、前記アイランド部が導体又は超伝導体の性質を示すことを特徴とする回路アレイ。
  2. 金属平板の形成材料が、遷移金属元素及びアルミニウムのいずれかを含む請求項1に記載の回路アレイ。
  3. 金属平板の形成材料が、バルク状態で超伝導体の性質を示す超伝導物質から選択される請求項2に記載の回路アレイ。
  4. 第1方向及び第2方向のそれぞれ方向で隣接する貫通孔の間の中間位置で、1つの前記貫通孔を矩形状に囲む矩形ブロック領域の面積をAとし、前記矩形ブロック領域に対して穿設される前記貫通孔の開口面積をBとしたとき、次式、0.4≦B/A≦0.9を満たす請求項1から3のいずれかに記載の回路アレイ。
  5. 第1方向で隣接する2つの貫通孔の間及び第2方向で隣接する2つの前記貫通孔の間のそれぞれの間隔が、1nm〜0.1mmとされる請求項1から4のいずれかに記載の回路アレイ。
  6. 貫通孔の開口形状が円、同じ長さの線を直交させた十字形及びnを2以上の整数とする正2n角形から選択される1次最大径と2次最大径とが等しい形状であり、かつ、第1方向で隣接する2つの貫通孔の間及び第2方向で隣接する2つの前記貫通孔の間のそれぞれの間隔が等しい請求項1から5のいずれかに記載の回路アレイ。
  7. 金属平板の厚みが、0.1nm〜0.01mmとされる請求項1から6のいずれかに記載の回路アレイ。
  8. アイランド部が導体の性質を示し、隣接する2つの前記アイランド部と、これら2つの前記アイランド部の間に挟まれる1つのブリッジ部とでトンネル接合が形成される請求項1から7のいずれかに記載の回路アレイ。
  9. トンネル接合の量子状態で量子ビットが規定される電荷型量子ビットの動作特性を有する請求項8に記載の回路アレイ。
  10. アイランド部が超伝導体の性質を示し、隣接する2つの前記アイランド部と、これら2つの前記アイランド部の間に挟まれる1つのブリッジ部とでπジョセフソン接合が形成される請求項1から7のいずれかに記載の回路アレイ。
  11. πジョセフソン接合の量子状態で量子ビットが規定される位相型量子ビットの動作特性を有する請求項10に記載の回路アレイ。
  12. アイランド部が導体の性質を示し、1つの前記アイランド部を中間アイランド部とし、前記中間アイランド部に隣接する2つの前記アイランド部を第1隣接アイランド部及び第2隣接アイランド部として前記中間アイランド部、前記第1隣接アイランド部及び前記第2隣接アイランド部で構成される3つの前記アイランド部と、前記中間アイランド部と前記第1隣接アイランド部との間及び前記中間アイランド部と前記第2隣接アイランド部との間に1つずつ挟まれる2つのブリッジ部とでトンネル接合が形成される請求項1から7のいずれかに記載の回路アレイ。
  13. 中間アイランド部をゲート部とし、第1隣接アイランド部をソース部とし、第2隣接アイランド部をドレイン部とし、トンネル接合を介して前記ソース部と前記ドレイン部との間を移動する電荷の数が前記ゲート部に印加される電圧により制御される単一電子トランジスタの動作特性を有する請求項12に記載の回路アレイ。
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