JP2020158872A - 摺動システム - Google Patents

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Shigeru Hotta
滋 堀田
遠山 護
Mamoru Toyama
護 遠山
広行 森
Hiroyuki Mori
広行 森
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Abstract

【課題】摺動被膜と潤滑油の新たな組合わせにより、顕著な低摩擦化を図れる摺動システムを提供する。【解決手段】本発明の摺動システムは、相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、対向する摺動面間に介在する潤滑油とを備える。摺動面の少なくとも一方は低結晶性の湿式Crめっき膜で被覆されている。潤滑油は、油溶性のMo三核体化合物を含む。Crめっき膜は、膜全体に対してCを5〜15%含む。またCrめっき膜は、X線回折して求まる所定の結晶面におけるピーク強度比I(222)/I(110)が0.05未満、ピーク半値幅W(110)が1.1°以上である。さらに、Crめっき膜は、ピーク総面積が6×105cps以下である。このようなCrめっき膜とMo三核体含有潤滑油の組合わせにより、優れた低摩擦特性が発現される。【選択図】図3B

Description

本発明は、優れた摺動特性を発揮する摺動システムに関する。
環境意識の高揚により、内燃機関等の摺動機械(摺動システム)には、省エネルギー化に優れる摺動特性が要求される。そこで、摺動部における低摩擦化や高耐摩耗化等を図るため、摺動面の表面改質(被膜等)や潤滑油の改良(添加剤等)に関して、多くの提案がなされている。これらに関連する記載が、例えば下記の特許文献にある。
特開2014−98184号公報 特開2016−17174号公報 特開2017−160899号公報 特開2017−149881号公報 特開2018−150434号公報 欧州特許EP1462508B1号公報(特開2004−339486号公報) 特開2018−177839号公報
遠山護、大森俊英 R&Dレビュー 32,4(1997)35-43 低摩擦ガソリンエンジン油−低粘度化と摩擦調整剤の効果−
特許文献1〜3には、Crを含む非晶質炭素膜(DLC膜)に関する記載がある。特許文献4、5には、結晶質な炭化クロム膜(CrC膜)に関する記載がある。これらの被膜はいずれも、真空蒸着(スパッタリング)により製膜されている。このような乾式プロセスによる製膜は、付き回り性が劣るため、形状が複雑な部材(例えば歯車)や大型な部材等に対して、効率的または低コストで被膜形成することが難しい。
特許文献6には、DLC膜と油溶性有機モリブデン化合物(三核モリブデン化合物等)を含む潤滑油との組み合わせにより、低摩擦化が図られる旨の記載がある。非特許文献1には、油溶性有機モリブデン化合物(MoDTC等)を配合した低粘度なエンジン油により低摩擦化が図られる旨の記載がある。但し、非特許文献1には、被膜と潤滑油の関連については全く記載がなされていない。
特許文献7には、特定の結晶構造を有する結晶質のクロムめっき膜と、Mo三核体からなる油溶性モリブデン化合物を含む潤滑油との組み合わせにより、低摩擦化が図られる旨の記載がある。
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、被膜と潤滑油に関して、これまでなかった新たな組合わせにより、優れた摺動特性を図る摺動システム等を提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、特異的な低結晶性のクロムめっき膜が特定の潤滑油下で、優れた摺動特性を発現することを発見した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《摺動システム》
(1)本発明の摺動システムは、相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、該対向する摺動面間に介在する潤滑油と、を備えた摺動システムであって、前記潤滑油は、Moの三核体からなる化学構造を有する油溶性モリブデン化合物を含み、前記摺動面の少なくとも一方は、湿式クロムめっき膜で被覆された被覆面からなり、該湿式クロムめっき膜は、該膜全体を100原子%(単に「%」という。)としたときに炭素(C)を5〜15%含むと共に、X線回折により求まる結晶面(hkl)のピークの強度I(hkl)と該ピークの半値幅W(hkl)が下記を満たす摺動システムである。
I(222)/I(110)<0.05、 W(110)≧1.1°
(2)本発明の摺動システムは、C含有量が多く低結晶性な湿式クロムめっき膜(適宜「Crめっき膜」ともいう。)で被覆された摺動面と、特定の化学構造(Mo三核体)を有する油溶性モリブデン化合物(「Mo三核体化合物」または単に「Mo三核体」ともいう。)を含む潤滑油との新たな組合わせにより、優れた低摩擦特性を発揮し得る。また、そのCrめっき膜は十分な耐摩耗性も発揮し得る。こうして本発明の摺動システムによれば、高い摺動特性が実現される。
なお、本発明に係るCrめっき膜は、湿式処理により形成されるため、乾式処理により形成されるDLC膜等よりも付き回り性が良い。つまり、PVDやCVD等の乾式処理では被覆困難な形状(複雑形状、大型形状、深穴形状、アンダーカット形状等)の摺動面にも、Crめっき膜の形成は可能である。
(3)特定のCrめっき膜からなる摺動面とMo三核体を含む潤滑油との組合わせにより、優れた摺動特性が発現される機序は定かではない。但し、本発明のような組合わせがなされるときだけ、低摩擦化が特異的に発現することは確かである。
ちなみに、一般的に、金属クロムは体心立方格子からなり、X線回析プロフィル(パターン)では、ミラー指数の結晶面(222)に最強のピーク(最強線)が現れる。一方、本発明のCrめっき膜に係るX線回析プロフィル(一例)では、ピーク強度比:I(222)/I(110)で示すように、(222)面のピークが殆ど現れないか、非常に弱い。また、(110)面を除いて、他の結晶面にも顕著なピークはあまり観られない。(110)面にピークが出現し得るが、その半値(全)幅:W(110)は比較的大きく。これらのことから、本発明に係るCrめっき膜は、全体として低結晶性であるが、(110)に配向性を有し、結晶子サイズが相対的に小さい構造であると考えられる。いずれにしても、このようなCrめっき膜は、摺動被膜として一般的に利用されてきた従来のCrめっき膜とは、大きく異なるといえる。
《その他》
(1)本発明に係るMo三核体化合物は、末端に結合している官能基や分子量等は問わないが、MoまたはMoの少なくとも一方(特にMo)の分子構造骨格を有するものであるとよい。参考までに、Moからなる硫化モリブデン化合物の一例を図7に示した。図中のRはヒドロカルビル基である。
(2)本発明に係るCrめっき膜は、CrおよびC以外に、摺動特性を低下させない元素または摺動特性を向上させ得る元素を含有していてもよい。このような元素(例えばO、H、N等)は、例えば、合計で0.1〜20%、0.5〜15%さらには1〜4%程度である。なお、本明細書でいう膜組成(%)は、特に断らない限り、膜全体(100at%)に対する原子比率(at%)で示す。膜組成は、X線光電子分光分析(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy) 等により特定される。
(3)本発明の「摺動システム」は、特定のCrめっき膜で被覆された摺動面を有する摺動部材と、Mo三核体を含む潤滑油とを備えれば足る。つまり本発明の摺動システムは、機械としての完成体に限らず、その一部を構成する機械要素と潤滑油の組合わせだけでもよい。本発明の摺動システムは、適宜、摺動機械(例えばエンジン、変速機)、摺動構造等と換言される。
本発明に係るCrめっき膜は、相対移動する対向した摺動部材の少なくとも一方の摺動面にあればよい。勿論、対向する両摺動面が、Crめっき膜で被覆されていてもよい。
(4)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。また、特に断らない限り、本明細書でいう「x〜yppm」はxppm〜yppmを意味する。他の単位系についても同様である。
Crめっき膜のXRDプロフィルである。 Crめっき膜の炭素含有量を示す棒グラフである。 Mo三核体含有オイル下の各試料の摩擦係数を示す棒グラフである。 その摩擦係数におよぼすMo三核体の影響を示す棒グラフである。 Mo三核体含有オイル下の各試料の摩耗深さを示す棒グラフである。 Crめっき膜のピーク強度比(222)/(110)と摩擦係数の関係を示す散布図である。 Crめっき膜の半値幅(110)と摩擦係数の関係を示す散布図である。 Crめっき膜のピーク総面積と摩擦係数の関係を示す散布図である。 Crめっき膜の炭素含有量と摩擦係数の関係を示す散布図である。 摩擦試験後の摺動面上における元素強度比(S/Cr)と摩擦係数の関係を示す散布図である。 摩擦試験後の摺動面上における元素強度比(Ca/Cr)と摩擦係数の関係を示す散布図である。 Mo三核体の一例を示す分子構造図である。
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の摺動システム全体のみならず、それを構成する摺動部材や潤滑油にも適宜該当し得る。方法に関する構成要素も物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《Crめっき膜》
(1)構造
Crめっき膜の構造は、X線回折分析(XRD)に基づいて求まる次のような各指標により示される。
従来のCrめっき膜の場合、金属Crに由来する(222)面のピークが最強となり、(110)面にピークが観られないことが多い。本発明に係るCrめっき膜では、その傾向が逆転し、(222)面に強いピークは観られず、(110)面に半値幅が相対的に大きいがピークが観られ得る。
そこで本発明に係るCrめっき膜は、結晶面(110)のピーク強度I(110)に対する結晶面(222)のピーク強度I(222)の比率P=I(222)/I(110)が、0.05未満、0.04以下、0.03以下さらには0.01以下となり得る。
また半値幅W(110)は、2θでいうと、1.1°以上、1.2°以上さらには1.4°以上となり得る。なお、本明細書でいう半値幅は半値全幅である。また、本明細書では、特に断らない限り、XRDに関する角度(°)は回折角:2θ(θ:Bragg角)で示す。
Crめっき膜の構造は、XRDから求まるピーク面積の合計(総面積)でも指標される。本発明に係るCrめっき膜の場合、そのピーク総面積は6×10cps以下、5×10cps以下さらには4×10cps以下となり得る。これらは、一般的なCrめっき膜に対して、正に桁違いに小さい。なお、本明細書でいうピーク総面積は、30°≦2θ≦150°の範囲で観察されるピークに対して算出される。ピーク総面積は、XRDプロフィルに現れた各ピークの強度(縦軸)を、角度(横軸)に関して積分して合計することにより求まる。その単位は、CPS:counts per secondである。
なお、敢えていうと、ピーク強度比I(222)/I(110)は0.0001以上さらには0.001以上でもよい。半値幅W(110)は、3°以下さらには2°以下でもよい。ピーク総面積は、1×10cps以上さらには1×10cps以上でもよい。
(2)組成
本発明に係るCrめっき膜は、膜全体を100at%としたときにCを5〜15%、7〜13%さらには8〜12%含むとよい。一般的なCrめっき膜はCをあまり含まず、Cを含む場合でもその含有量は高々3at%程度である。
Cの含有量が過少では、摩擦係数の低減が不十分になると考えられる。Cの含有量が過多になると、相対的にCrの含有量が減少し、上述したXRDから求まる膜構造と異なるCrめっき膜になると考えられる。なお、Crめっき膜中のCは、めっき液中に含まれる有機物(有機酸等)から供給されると考えられる。Crめっき膜に対するCの作用は定かではないが、Crめっき膜の成膜速度を高めたときでも、Crめっき膜中における結晶粒の異常成長がCにより抑制されることが推測される。
(3)めっき
本発明に係るCrめっき膜は、乾式処理(PVDやCVD等)ではなく、湿式処理により形成される。上述したCrめっき膜が形成される限り、めっき浴の種類(成分)や処理条件(浴温度、電流密度、通電時間等)は適宜選択される。
めっき浴には、大別して、6価クロム浴と3価クロム浴がある。6価クロム浴は、Cr源としてCr(VI)を含む。Cr(VI)はクロム酸(CrO)等から供給される。6価クロム浴には、例えば、クロム酸と硫酸(塩)を主成分とするサージェント浴、サージェント浴にフッ化物(ケイフッ酸やその塩等)を加えた混合触媒浴(フッ化浴)、サージェント浴に有機添加剤(触媒等)を加えた高効率浴(HEEF浴)、サージェント浴に有機酸(ギ酸等)を加えた高硬度浴等がある。
3価クロム浴は、Cr源としてCr(III)を含む。Cr(III)は塩化クロム(CrCl)や硫酸クロム(Cr(SO)等から供給される。3価クロム浴は、さらに、錯化剤となる有機酸(ギ酸、酢酸、グリシン等)や塩化アンモニウム等を含む。各めっき浴は、さらに、緩衝剤、活性剤(有機スルホン酸等)、添加剤等を含んでもよい。
めっき条件は、例えば、浴温度:35〜65℃さらには40〜60℃、電流密度:15〜50A/dmさらには20〜40A/dmとするとよい。Crめっき膜は、例えば、膜厚:3〜30μmさらには5〜15μm、硬さ:Hv500〜1100さらには700〜900の硬質Crめっき膜であるとよい。
《潤滑油》
本発明に係る潤滑油は、低摩擦化が阻害されない限り、基油の種類等を問わない。また潤滑油は、Mo三核体以外の添加剤をさらに含んでもよい。エンジンオイル等の潤滑油には、通常、S、P、Zn、Ca、Mg、Na、BaまたはCu等を含む種々の添加剤が含まれる。なお、潤滑油は、Mo三核体以外のMo系化合物(例えばMoDTC、MoDTP等)を含んでもよいが、Moはレアメタルの一種であり、含有されるMoの合計量は少ないほどよい。
Mo三核体は多くても問題ないが、低摩擦化に必要なMo三核体は微量で足りる。Mo三核体は、潤滑油全体に対するMoの質量割合で、例えば、25〜900ppm、50〜800ppm、60〜500ppmさらには70〜200ppm含まれるとよい。
なお、潤滑油全体に対するMoの質量割合をppmで表すときは「ppmMo」と表記する。Mo三核体以外のMo系化合物等が潤滑油中に含まれる場合、そのMo総量の上限値は、潤滑油全体に対して、例えば、1000ppmMoさらには400ppmMoとするとよい。
《用途》
摺動システムは、具体的な機械名、装置名、用途等を問わない。摺動システムは、例えば、自動車等のエンジンユニット、駆動系ユニット(変速機等)等である。摺動システムを構成する摺動部材には、例えば、動弁系を構成するカム、バルブリフタ(例えば、摺動面がカムとの接触面)、フォロワ、シム、バルブ、バルブガイド、ピストン(例えば、摺動面がピストンスカート)、ピストンリング、ピストンピン、クランクシャフト、歯車、ロータ、ロータハウジング、バルブ、バルブガイド、ポンプ等がある。
Crめっき膜(A〜D)で基材表面を被覆した複数の試料(A〜D)を製造した。各Crめっき膜を摺動面として、潤滑油下の摩擦係数等を測定した。このような実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
《試験片》
(1)基材
ステンレス鋼(JIS SUS440C)からなるブロック状(6.3mm×15.7mm×10.1mm)の基材を複数用意した。鏡面仕上げした基材の表面(表面粗さ:Ra0.08μm)を被覆面とした。
(2)製膜
各基材の被覆面に、湿式電気めっきにより、異なるCrめっき膜(A〜D)を製膜した。各Crめっき膜の製膜に用いためっき浴とめっき条件(浴温と電流密度)を表1にまとめて示した。
表1に示したHEEF浴は、無水クロム酸をクロム源とする6価クロム浴である。そのめっき液の調製に用いた触媒(HEEF25MS、ユニクロム2700M)はいずれもアトテックジャパン株式会社製である。
表1に示したブルークロム浴は、アトテックジャパン株式会社製BLUCr(めっき液)からなる3価クロム浴である。
こうして、Crめっき膜(A〜D)で被覆された摺動面を有する試験片(供試材)を得た(試料A〜D)。いずれのCrめっき膜も熱処理を施さず、膜厚:約5μm、硬さ:約850HV(試験荷重:25gf)であった。なお、膜厚は、成膜前後の寸法変化をマイクロメーターで測定して求めた。硬さはJISに準拠してビッカース硬度計により測定した。
(3)比較試料
比較試料として、鋼材(JIS SCM420)の浸炭処理面を鏡面仕上げ(表面粗さ:Ra0.08μm、硬さHV600)した摺動面を有する試験片(試料S0)も用意した。
《潤滑油》
(1)摩擦試験に用いる潤滑油として、粘度グレード0W−20で、ILSAC GF−5規格に相当する基本的なエンジンオイル性能を有する標準オイルを用意した。このエンジンオイル(「標準オイル」という。)は、鋼材の摩擦低減に有効とされる添加剤であるモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)やモリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)を含んでいない。
標準オイルに、Infineum社の公開資料「Molybdenum Additive Technology for Engine Oil Applications」にて“Trinuclear”と記されたMo三核体化合物を、オイル全体に対するMo含有量が80ppmMo相当となるように添加した。このオイルを「Mo三核体含有オイル:80ppmMo」という。特に断らない限り、摩擦試験等は、そのオイルを用いて行った。
(2)解析を容易にするため、別途、組成を単純化したモデルエンジンオイル(単に「試作油」という。)も調製し、これを用いた摩擦試験も行った(図3B参照)。試作油の配合と、試作油に含まれる代表的な元素量を表3に併せて示した。
試作油は次のように調製(配合)した。炭化水素系のベースオイル(SK lubricants社製YUBASE 8)に、市販されている代表的なエンジン油の添加剤を加えた。添加剤には、セカンダリーアルキルタイプのZnDTP(摩耗防止剤・酸化防止剤/日本ルーブリゾール株式会社製1371)、塩基価:300mgKOH/gである過塩基性カルシウムスルホネート(金属清浄剤/日本ルーブリゾール株式会社製6477C)およびポリブテニルコハク酸イミド(無杯分散剤/日本ルーブリゾール株式会社製6412)を用いた。これら添加剤を表3に示すように配合した。
こうして得られた試作油(「Mo三核体非含有オイル」という。)と、その試作油に上述したMo三核体化合物を150ppmMo相当となるように追加添加したオイル(「Mo三核体含有オイル:150ppmMo」という。)とを用意した。
《Crめっき膜の測定》
(1)構造
各Crめっき膜の結晶構造をX線回折装置(株式会社リガク社製)により分析した。使用X線:Cu―Kα線、2θ:30〜150°とした。こうして得られた各プロフィルを図1にまとめて示した。図1に示す各プロフィルに基づいて、ピーク強度比P=I(222)/I(110)、ピーク半値幅W(110)およびピーク総面積(2θ:30〜150°)をそれぞれ求めた。それらの結果を表2にまとめて示した。なお、プロフィルの解析は、XRD解析ソフト(MDI株式会社製 JADE9)を用いて行った。
(2)組成
各Crめっき膜中のC量を、XPS(アルバック・ファイ株式会社製 走査型X線光電子分光分析装置 PHI 5000 VersaProbe II)により定量分析した。このとき、膜組成の測定前に、予め、測定域をスパッタリングした。スパッタ条件は、使用ガス:Ar、印加電圧:3kV、測定域:1mm×1mm、レート:シリカ換算で約20nm/minとした。XPSによる組成分析は、X線源:AlKα(単色X線源:1486.6eV)、分析領域:100μm角、パスエネルギー:93.9eVで行った。こうして得られた分析結果を図2に示した。
《摩擦試験》
(1)摩擦係数
上述した試験片とオイルを用いて、ブロックオンリング摩擦試験(単に「摩擦試験」という。)を行い、各摺動面の摩擦係数(μ)を測定した。摩擦試験は、各試料に係るブロック状の試験片(摺動面幅:6.3mm)と、浸炭鋼材(AISI4620)から成るリング状の標準試験片(FALEX社製S−10/硬さ:HV800、表面粗さRzjis:1.7〜2.0μm、外径φ35mm×幅8.8mm)とを、各オイルの存在下で摺動させて行った。
各試験片の摺動面は、試験前に予め#2000のエメリー紙で研磨し、表面粗さRa:0.01〜0.04μmにしておいた。試験条件は、試験荷重:133N(ヘルツ面圧:210MPa)、すべり速度:0.3m/s、油温:80℃(一定)、試験時間:30分間とした。
摩擦試験の終了直前の1分間に測定した摩擦係数(μ)の平均値を、本試験における摩擦係数として採用した。各Crめっき膜(摺動面)に係る摩擦係数を図3Aと図3Bに示した。図3AはMo三核体含有オイル:80ppmMoを用いたときであり、図3BはMo三核体非含有オイル(試作油)またはMo三核体含有オイル:150ppmMo(試作油+Mo三核体150ppmMo)を用いたときである。
また、摩擦係数とCrめっき膜のXRDプロフィル解析結果との関係を図4A〜図4C(これらを併せて「図4」ともいう。)に示した。さらに、摩擦係数とCrめっき膜のC含有量との関係を図5に示した。
(2)摩耗深さ
摩擦試験後の各摺動面に形成された摩耗痕(摩耗深さ)を、白色干渉法非接触表面形状測定機(Zygo社製NewView5022)により測定した。摩耗深さは、摩耗痕の最大深さにより特定した。こうして得られた各摩耗深さを対比して図3Cに示した。
《表面分析》
摩擦試験後の摺動面上を、EDX(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製 走査型顕微鏡付属EDAX エネルギー分散型X線分析装置TEAM EDS System)で分析した。各摺動面上に存在していた一部の元素について、ピーク強度比S/Cr、Ca/Crを算出した。ピーク強度比と摩擦係数の関係を図6Aと図6B(両者を併せて「図6」ともいう。)に示した。なお、図6中にプロットされた8点は、4種類ある各クロムめっき膜毎に、摩擦試験を2回ずつ行って得られた各回の摺動面を分析したことを示す。
《評価》
(1)摩擦係数
図3Aおよび図3Bから明らかなように、試料DのCrめっき膜は、Mo三核体含有オイル中において摩擦係数が顕著に減少した。逆に、摺動面がクロムめっきされていない試料S0では、Mo三核体含有オイル中において摩擦係数が増加した。
(2)摩耗深さ
図3Cから明らかなように、試料DのCrめっき膜は、Mo三核体含有オイル下において、十分な耐摩耗性を発揮することもわかった。なお、クロムめっきされていない試料S0とCrめっき膜を有する試料Cは、Mo三核体含有オイル下において、摩耗深さが顕著に大きくなった。
《考察》
試料DのCrめっき膜がMo三核体含有オイル下で、顕著な低摩擦特性を発現した要因は次のように推察される。
(1)図2から明らかなように、試料DのCrめっき膜は、他のCrめっき膜よりもCを多く含有していた。また、図4から明らかなように、試料DのCrめっき膜は、他のCrめっき膜よりも、ピーク強度比I(222)/I(110)とピーク総面積が桁違いに小さく、半値幅W(110)は相応に大きかった。
C含有量と膜構造の相関は明らかではないが、本発明で規定する特定の範囲にあるCrめっき膜のみが、Mo三核体含有オイル(潤滑油)の下で、優れた低摩擦特性を特異的に発揮するといえる。
(2)ちなみに、図6から明らかなように、摩擦試験後の摺動面に存在する元素の原子比率を示す強度比S/Cr、Ca/Crが大きいほど、摩擦係数は低下傾向にあるといえる。SおよびCaは、オイル中に含まれる摩擦調整剤や金属系清浄剤(例えば過塩基性Ca−スルホネート)等に由来すると考えられる。
試料DのCrめっき膜とオイル中のMo三核体は協働して、多くのS系化合物やCa系化合物を摺動面に生成するようになると考えられる。それら生成物が、厳しい潤滑条件下(境界潤滑条件〜混合潤滑条件)でも、金属同士の接触割合を低下させ、耐摩耗性を確保しつつ、優れた低摩擦特性を発現させていると推察される。
Figure 2020158872
Figure 2020158872
Figure 2020158872

Claims (4)

  1. 相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、
    該対向する摺動面間に介在する潤滑油と、
    を備えた摺動システムであって、
    前記潤滑油は、Moの三核体からなる化学構造を有する油溶性モリブデン化合物を含み、
    前記摺動面の少なくとも一方は、湿式クロムめっき膜で被覆された被覆面からなり、
    該湿式クロムめっき膜は、該膜全体を100原子%(単に「%」という。)としたときに炭素(C)を5〜15%含むと共に、X線回折により求まる結晶面(hkl)のピークの強度I(hkl)と該ピークの半値幅W(hkl)が下記を満たす摺動システム。
    I(222)/I(110)<0.05、
    W(110) ≧1.1°
  2. 前記湿式クロムめっき膜は、前記X線回折(30°≦2θ≦150°)により観察されるピークの総面積が6×10cps以下である請求項1に記載の摺動システム。
  3. 前記三核体は、MoまたはMoの少なくとも一方の分子構造骨格を有する請求項1または2に記載の摺動システム。
  4. 前記潤滑油は、前記油溶性モリブデン化合物を、該潤滑油全体に対するMoの質量割合で25〜900ppm含む請求項1〜3のいずれかに記載の摺動システム。
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