本願で開示する電磁ホーンアンテナは、ミリ波帯域以上の高周波帯域の電磁波の送受信に用いられる電磁ホーンアンテナであって、複数の板状成型体が、開口部側が径大で導波路側が径小となる中空の略円錐台形状を構成するように配置され、前記板状成型体それぞれの前記開口部側の端部を、径方向に移動可能とする駆動機構を有し、前記板状成型体が、前記電磁波を吸収する電磁波吸収部材で形成されている。
上記構成の本願で開示する電磁ホーンアンテナは、電磁波吸収体で形成されている板状成型体の開口部側の端部を、駆動機構によって径方向に動かすことで、開口部の径を変化させることができる。このため、ミリ波帯域以上の高周波数の電磁波の送受信を、指向性を変化させて行うことができる。
上記本願で開示する電磁ホーンアンテナにおいて、前記板状成型体が、ミリ波帯以上の周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄を含むことが好ましい。ミリ波帯域以上の周波数で磁気共鳴する磁性酸化鉄が板状成型体に入射する電磁波を良好に吸収することができるため、電磁ホーンアンテナ内での電磁波の反射を低減することができ、高い精度で指向性を制御して電磁波の送受信を行うことができる。
この場合において、前記板状成型体に含まれる前記磁性酸化鉄の割合が5〜50体積%であることが好ましい。このようにすることで、電磁波の吸収特性と、電磁ホーンアンテナの構造体として十分な脆性を有する板状成型体により電磁ホーンアンテナを構成することができる。
また、前記板状成型体の厚み方向における前記磁性酸化鉄の割合が異なり、前記板状成型体の内面側の割合よりも外面側の割合の方が大きいことが好ましい。このようにすることで、電磁ホーアンテナの内側面において、基部から出る電磁波の吸収が少なくなり指向性が高く強度の高い電磁波を出すことができるとともに、アンテナ外部からの電磁波ノイズを効果的に吸収でき、ノイズの影響を低減させることができる。
この場合において、前記板状成型体が、前記磁性酸化鉄が含まれる割合の異なる複数の成型体の積層体として構成されていることが好ましい。このようにすることで、厚み方向で磁性酸化鉄の含有割合が異なる板状成型体を、容易に形成することができる。
さらに、前記板状成型体は、前記開口部側が前記導波路側よりも幅広に形成され、厚みが1〜10mmであることが好ましい。このようにすることで、板状成型体の電磁波吸収特性と剛性とを確保するとともに、開口端部を径方向に動かした際の開口径の大きさの変化を大きくすることができる。
なお、前記板状成型体の前記電磁ホーンアンテナ内側表面の導電率が500S/m以上とすることが好ましい。
さらに、前記駆動機構が、前記板状成型体の前記導波路側の端部に配置され前記板状成型体をその主面に垂直な方向に回動可能とする回動部と、前記板状成型体の前記導波路側の端部近傍に固着されて前記板状成型体を回動させる駆動部とを有することが好ましい。このようにすることで、簡易な構成で板状成型体の開口部の位置を変化させることができる。
また、前記板状成型体それぞれの前記開口部側に、側面に形成された突起部と、隣り合う他の前記板状成型体の前記突起部が摺動可能に形成された溝部とを有することが好ましい。このようにすることで、複数の板状成型体の角度の変化を規制して、開口部や軸に垂直な断面を略円形の状態を維持したままその径を変化させることができる。
また、本願で開示する指向性制御システムは、ミリ波帯域以上の高周波数で発振する発振部、および/または、ミリ波帯域以上の高周波数の電磁波を受信する受信部と、前記発振部または前記受信部に接続された導波路と、前記導波路に接続された本願で開示する電磁ホーンアンテナとを備え、前記電磁ホーンアンテナの前記開口部側の径の大きさを変更することにより電磁波の指向性を変化させる。
このようにすることで、本願で開示する指向性制御システムでは、一つの電磁ホーンアンテナを用いて、送受信する電磁波の指向性を容易に、かつ、確実に制御することができる。
以下、本願で開示する電磁波ホーンアンテナと電磁波の指向性制御システムについて、図面を参照して説明する。
(実施の形態)
図1は、本実施形態にかかる指向性制御システムの全体構成を説明するための斜視図である。図1では、指向性を弱く設定している(絞られていない)状態の形状が示されている。
図1に示すように、本実施形態として示す指向性制御100システムは、本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10と、基部20とを有している。
図1に示す電磁ホーンアンテナ10は、8枚の板状成型体11〜18によって、全体として基部20側が径小で基部20とは反対側の開口部10a側が径大となる中空の略円錐台形状となっている。より詳細には、図1に示すように、それぞれの板状成型体(11〜18)において、中心(円錐台の中心)に向かう方向に向かって右側の側面(板状成型体11では右側側面11a)が、隣り合う他の板状成型体の内面12b(中心側の面)の端部、すなわち、板状成型体12の内面12bのうち、板状成型体11側の端部に接触するように配置されている。このように、本実施形態の電磁ホーンアンテナ10では、それぞれの板状成型体(11)の側面(11a)が、隣り合う他の板状成型体(12)の内面(12b)の板状成型体11側の端部と重なり合うことによって、開口部10aや、いわゆるコーン部に相当する略円錐台形状において中心軸に垂直な断面の形状が、いずれも略円形となるようになっている。
なお、本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10は、複数(図1に例示するものの場合8枚)の板状成型体(11〜18)によって構成されているため、略円錐台形状の中心軸に垂直な断面は厳密に言えば多角形、すなわち、図1に例示するものの場合は全体として8角形であり、さらに詳細には、板状成型体(11〜18)の重なり部分でその厚みによる段差が生じる形状となっている。このため、電磁ホーンアンテナの全体の形状を中空の「角錐台」形状と把握することも可能である。しかし、複数の板状成型体により形成された本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナのコーン部の形状は、本来的には中空の円錐台形状の電磁ホーンアンテナのコーン部を模して複数の板状成型体で実現された形状であるため、本明細書では電磁ホーンアンテナの全体形状を中空の「略円錐台形状」と称する。また、電磁ホーンアンテナの開口部10aの形状、コーン部の中心軸に垂直な断面の形状をいずれも「略円形」と称する。
図2は、本実施形態にかかる指向性制御システムの全体構成を説明するための斜視図である。図2では、指向性を強く設定している(絞られている)状態の形状が示されている。
図2に示す、指向性が強く設定されている場合、すなわち、高い指向性を有して電磁波の放射を行う場合、または、受信する電磁波の方向を狭く設定する場合には、電磁ホーンアンテナ10を形成する板状成型体(11〜18)同士の重なり具合が大きくなる。すなわち、図1と図2との比較から明らかなように、本実施形態にかかる指向性制御システム100では、電磁ホーンアンテナ10を構成する板状成型体(11〜18)の重なり具合を変化させることで、電磁ホーンアンテナの開口部10aの径を変化させて、電磁波の指向性の制御が行われる。
電磁波の指向性を強く絞っている場合には、図2に示すように、それぞれの板状成型体において中心(略円錐台形状の中心)に向かう方向に向かって右側の側面(板状成型体11では右側側面11a)が、隣り合う他の板状成型体の内面の略中央部分(板状成型体12の内面12bのうち、板状成型体12の幅方向の中央の位置)に接触するように配置されている。このように、本実施形態の電磁ホーンアンテナ10では、一つの板状成型体(11)の側面(11a)が、隣り合う他の板状成型体(12)の内面(12b)における中央部分に位置することにより、板状成型体同士が約半分ずつ重なり合うようになって、開口部10aの略円形の径、および、コーン部を形成する中心軸に対して垂直な断面である略円形の径が、いずれも、図1に示した指向性が弱く設定されている場合よりも小さくなるようになっている。
なお、本実施形態にかかる指向性制御システムにおいて、板状成型体同士の重なり具合を変化させて開口部の径の大きさを変化させる駆動機構については、後に詳述する。
図1、図2に示される、本実施形態にかかる指向性制御システム100における基部20は、一例として、外観が略直方体形状の部材として構成されていて、基部20の1つの主面、すなわち面積が大きな一対の面の内の一方の面20aに形成された開口21から、電磁ホーンアンテナ10が突出するように配置されている。なお、基部20としては、上述した略直方体形状以外にも、基部側の面積が狭く開口部側の面積が広い略扇形の形状のものを採用することができる。
電磁ホーンアンテナ10の基部20側の径小の開口は、径大の開口部10aや、中間部分の中心軸に垂直な断面と同様に略円形状となっており、基部20内で断面が円形の導波路(導波管)22のアンテナ側の端部と接続されている。なお、図示は省略するが、導波路22の電磁ホーンアンテナ10に接続されている側の端部とは反対側の端部には、本実施形態にかかる指向性制御システム100で送信されるミリ波帯域以上の高い周波数帯域の電磁波を発生させる発振部、または、本実施形態にかかる指向性制御システム100が、受信する電磁波の受信部のいずれか、または、発振部と受信部の両方が配置される。
このように、本実施形態にかかる電磁波の指向性制御システムでは、コーン部を形成する板状成型体の重なり具合を変化させて、指向性を変化させることができる本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナの特長を活かして、電磁ホーンアンテナの開口部の径を変化させる。例えば、指向性を強くして限られた方向にのみ電磁波を送信する場合には、図2に示すように板状成型体の重なり具合を大きくし、反対に、指向性を弱くしてより広い範囲に向かって電磁波を送信する場合には、図1に示すように、板状成型体の重なり具合を小さくする。同様に、広い範囲からの電磁波を受信する場合には、図1に示すように板状成型体の重なり具合を小さくして指向性を弱め、特定の方向からの電磁波を受信する場合には、図2に示すように板状成型体の重なり具合を大きくして強い指向性を持たせる。また、電磁ホーンアンテナのコーン部を形成する板状成型体が、ミリ波帯域以上の高周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収部材であるため、電磁ホーンアンテナ内面での電磁波の不所望な反射を抑制することができ、高い精度で電磁波の指向性の制御を行うことができる。
[板状成型体]
本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10を構成する板状成型体(11〜18)は、図1、および、図2に示すように、長手方向と幅方向とを有する略長方形の主面と、これら長手方向と幅方向との大きさに比べて小さな厚さを有する、細長い薄板状部材である。
本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10では、一例として、8枚の板状成型体(11〜18)で電磁ホーンアンテナ10が形成されていて、8枚の板状成型体(11〜18)はいずれも同じ形状となっている。また、図1、および、図2に示すように、それぞれの板状成型体(11〜18)は、電磁ホーンアンテナ10の開口部10a側が基部20側よりもわずかに幅広となっている。このようにすることで、隣り合う板状成型体(11〜18)同士の間に電磁波の漏洩につながる隙間が生じない状態で、図1に示す、指向性を絞っていない状態での電磁ホーンアンテナ10の開口部10aの径をより径大とすることができる。なお、本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10において、板状成型体(11〜18)の開口部10a側の幅をより幅広に形成することは必須ではなく、長手方向の全域にわたって同じ幅の板状成型体(11〜18)を用いることもできる。
板状成型体にわずかな曲面を付与し、電磁ホーンアンテナ10の内側が凹形状となるようにして複数の板状成型体によって電磁ホーンアンテナ10を形成した場合には、中心軸に垂直な断面の形状がいずれも略円形に近い形状の電磁ホーンアンテナ10を得ることができる。
板状成型体(11〜18)は、非導電性の有機材料のバインダー中に、ストロンチウムフェライト、六方晶フェライト、イプシロン酸化鉄などのフェライト系の磁性酸化鉄(粉)を分散して含有した磁性塗料を所定の形状に成型して構成されている。
磁性酸化鉄粉としては、ストロンチウムフェライト、六方晶フェライト、イプシロン酸化鉄などのフェライト系磁性酸化鉄の粉体が良好に使用でき、特に、イプシロン酸化鉄は保磁力が高く電磁波を吸収する特性に優れている。これらのフェライト系磁性酸化鉄は磁性体の種類によってジャイロ磁気定数が異なり、このジャイロ磁気定数によって吸収できる電磁波が異なる。一例として、10〜140GHzの範囲の電磁波を吸収する材料としては、ストロンチウムフェライトが好ましく、30〜300GHzの範囲の電磁波を吸収する材料としてはイプシロン酸化鉄を用いることが好ましい。このように、必要な吸収帯域に応じてフェライト系磁性酸化鉄を適宜選択することができる。さらに、これらの異なるフェライト系磁性酸化鉄を2種類以上混ぜることで、吸収する電磁波の周波数帯域を広げることも可能である。
板状成型体(11〜18)を構成するバインダーとしては、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂などの各種の樹脂材料を用いることができる。樹脂材料の選択に当たっては、板状成型体(11〜18)として、指向性の制御に伴う形状の変化(例えば、図1に示す状態と図2に示す状態の変化)に対して、十分に耐えうる剛性を備えている必要がある。このため、熱硬化性の樹脂材料を用いることが好ましく、使用範囲の温度条件では軟化しない熱可塑性の樹脂材料も使用可能である。一方で、弾性が大きく通常の使用状態で全体形状の変化が生じるゴム系の樹脂材料は好ましくない。
板状成型体(11〜18)に含まれる上述したフェライト系の磁性酸化鉄粉は、いずれもミリ波帯域以上の周波数で磁気共鳴し、板状成型体(11〜18)に入射した電磁波を熱に変換して吸収することができる。また、磁性酸化鉄が樹脂製のバインダーに含まれた磁性体塗料を成型して板状成型体(11〜18)を形成することで、板状成型体(11〜18)の形状、大きさを容易に所定のものとすることができる。
なお、本実施形態にかかるホーンアンテナに用いられる板状成型体(11〜18)として、その厚さ方向における磁性酸化鉄が含まれる量、すなわち、単位体積当たりの含有量を異ならせることができる。この場合、板状成型体(11〜18)の内面側の磁性酸化鉄の含有量を低くするとともに、外面側の磁性炭化鉄の含有量を大きくすることが好ましい。
図5は、厚さ方向における磁性酸化鉄の含有量を異ならせた板状成型体の状態を説明するための模式図である。なお、図5(a)、図5(b)、図5(c)それぞれにおいて、図中の色の濃淡が磁性酸化鉄の含有量の濃淡に対応するように示している。
図5(a)が、一枚の板状成型体110(板状成型体11〜18のそれぞれ)において、外面側に配置される部分の磁性酸化鉄の含有量が、内面側に配置される磁性酸化鉄の含有量よりも大きい状態のものを示している。また、図5(b)は、板状成型体120(板状成型体11〜18のそれぞれ)が磁性酸化物の含有量の大きな部材121と、磁性酸化鉄の含有量が小さな部材122との二層の積層体として構成されている状態を示している。さらに、図5(c)は、板状成型体130(板状成型体11〜18のそれぞれ)が磁性酸化物の含有量の大きな部材131と、磁性酸化鉄の含有量が中間的な部材132と、磁性酸化鉄の含有量が小さな部材133との三層の積層体として構成されている状態を示している。
図3に例示した構成例のように、板状成型体の内面側の磁性酸化鉄の含有量を少なくすることで、基部から出る電磁波の吸収が少なくなり、指向性が高く強度の高い電磁波を出すことができる。また、板状成型体の外面側の磁性酸化鉄の含有量を大きくすることによって、外部からの電磁波ノイズを、磁性酸化鉄の量が多い外面で吸収することができるため、ノイズの影響を低減させることができる。
なお、図3に示したような、板状成型体の厚さ方向における磁性酸化鉄含有量に分布を設ける場合は、電磁ホーンアンテナのコーン形状部分を構成する全ての板状成型体、すなわち、図1に示す例の場合は、板状成型体11から板状成型体18の8枚全てに適用することが好ましい。しかし、例えば、半数の4枚の板状成型体について、厚さ方向で磁性酸化鉄濃度の異なるものを採用することによっても、上述した、放射する電磁波の指向性の向上や外部の不要磁界を吸収する一定の効果が得られるため、必ずしも全ての板状成型体を図3に例示した板状成型体とする必要はない。
また、板状成型体(11〜18)が形成する電磁ホーンアンテナの導電率は500S/m以上であることが好ましく、5000S/m以上がより好ましい。この範囲とすることで導波路から出た電磁波が板状成型体で反射するため、電磁波の指向性をよりいっそう高めることができる。導電率の上限は1x105S/m以上に高くしても効果が飽和するため、上限としては、1x105S/m程度が好ましい。導電率が500S/mより小さくなると、板状成型体表面で電磁波を反射する効果が小さくなるため、電磁波の指向性が低下する。
なお、上述した好ましい範囲の導電率とするのは、板状成型体の厚さ方向全体であっても良いし、電磁ホーンアンテナの内側表面のみであっても良い。板状成型体の厚さ方向全体を好ましい範囲の導電率とする場合は、バインダーにカーボンブラックや金属粒子を混合し、この混合量によって所望の導電率の板状成型体を形成することができる。板状成型体の内側表面を所定の導電率とする場合は、バインダーにカーボンブラックや金属粒子を混合した組成物で板状成型体の表面に導電膜を形成しても良いし、蒸着、スパッタ、イオンプレーティングなどの真空方法で表面に導電膜を形成することも可能である。
ここで、板状成型体(11〜18)を作製する方法の一例を説明する。
上述したように板状成型体(11〜18)を作製するために、まず磁性塗料を作製する。
磁性塗料は、たとえば磁性酸化鉄粉としてイプシロン酸化鉄を用いた場合には、イプシロン酸化鉄粉と、分散剤であるリン酸化合物、樹脂製バインダーとしてのエポキシ樹脂の混練物を得て、これを希釈し、さらに分散した後に、フィルタで濾過することによって作製される。
混練物は、加圧式の回分式ニーダで混練すること、その他の方法により得られる。また、混練物の分散は、一例としてジルコニアなどのビーズを充填したサンドミルを用いて分散液として得ることができる。なお、このとき、必要に応じて架橋剤を配合することができる。
このようにして得られた磁性塗料を、剥離性を有する支持体、一例としてシリコンコートにより剥離処理された所定の厚さのポリエチレンテレフタレート(PET)のシート上に、テーブルコータやバーコータなどを用いて塗布する。
その後、wet状態の磁性塗料を80℃で乾燥し、さらにカレンダ装置を用いて所定温度でカレンダ処理を行って、支持体上に所定の形状と大きさを有する板状成型体(11〜18)を形成できる。
また、板状成型体(11〜18)を作製する別の方法として、押し出し成型法を用いることができる。
押し出し成型法を用いる場合は、たとえば、まず、磁性酸化鉄粉とバインダーと必要に応じて分散剤、酸化防止剤などを予めブレンドし、ブレンドされたこれら材料を押出成型機の樹脂供給口から可塑性シリンダ内に供給し、シリンダ内に配置されたスクリューにより可塑化溶融することができる。なお、押出成型機としては、可塑性シリンダと、可塑性シリンダの先端に設けられたダイと、可塑性シリンダ内に回転自在に配設されたスクリューと、スクリューを駆動させる駆動機構とを備えた通常の押出成型機を用いることができる。
押出成型機のバンドヒータによって可塑化された溶融材料が、スクリューの回転によって前方に送られて先端からシート状に押し出される。押し出された材料を、ペレタイザーで粉砕し、樹脂ペレットを作製する。このペレットは電磁波吸収材料として磁性酸化鉄粉が樹脂中に分散されたマスターバッチとなる。
続いて得られた樹脂ペレットを、射出成型機の投入口から可塑化シリンダ内に投入し、スクリューにより可塑化熔融した後、射出成型機の先端に接続された金型に射出を行い、任意の形状に成形する。この場合、樹脂ペレットに、さらに別の樹脂を混合して投入口から可塑化シリンダ内に投入してもよい。
板状成型体(11〜18)の成形に際しては、磁性塗料を塗布して厚さ方向に、単位体積中に含まれる磁性酸化鉄の含有量を変える場合、磁性酸化鉄の含有量が異なる磁性塗料を作製し、板状成型体の外面側の磁性酸化鉄の含有量が、内面側より大きくなるように各磁性塗料を含有量の大小の順に積層して形成することができる。この場合、各塗料を同時に積層しても良いし、各層を別々に形成した後接着剤や粘着テープで貼り付けて形成しても良い。同時に積層する場合、押出成型機を用いて、予め磁性酸化鉄の量が異なるペレットを作製し、二色成型により磁性酸化鉄の含有率が異なる板状成型体を作製することができる。
さらに、板状成型体(11〜18)を作製する方法として、磁性酸化鉄粉とバインダーとを含んだ磁性コンパウンドを作製して、これを所定の厚さで成型し、架橋させる方法を用いることもできる。
この場合は、先ず、磁性コンパウンドを作製する。磁性コンパウンドは、磁性酸化鉄粉とバインダー、必要に応じて分散剤を混練することによって得ることができる。混練物は、一例として、加圧式の回分式ニーダで混練することにより得られる。なお、このとき、必要に応じて架橋剤を配合することができる。
得られた磁性コンパウンドを、一例として油圧プレス機などを用いて150℃の温度で所定の形状に架橋・成型する。その後、恒温槽内において170℃の温度で2次架橋処理を施す。このようにして、所定の形状の板状成型体(11〜18)を作製することができる。
以上のようにして作製された所定形状の板状成型体(11〜18)を、支持体上から剥離し、複数の板状成型体(11〜18)に後述する駆動機構を取り付けることで、所定形状の板状成型体(11〜18)により構成された電磁ホーンアンテナを作製することができる。
このようにして形成される板状成型体の大きさは、一例として、長手方向が60mm、幅を20〜30mmとすることができる。なお、図1、図2に示すように板状成型体の幅を長手方向において可変する場合は、幅広となる開口部側の幅が、幅狭の基部側の幅に対して、10〜50%程度幅広となるようにすることが好ましい。一例として、基部側の幅が20mm、開口部側の幅が25mm(基部側の幅の125%、すなわち25%幅広)とすることができる。
板状成型体の厚さについては、板状成型体の電磁波吸収能力を勘案して定めることが好ましい。
下記の表1は、板状成型体に含まれる磁性酸化鉄粉として、ストロンチウムフェライト(SrFe12O19)を用いた場合を想定して、比透磁率(χsO)が0.08、ダンピング定数(a)が4.00E−02、誘電率の実部が7、虚部が0.5として、板状成型体の厚さと、磁性酸化鉄粉の含有率(体積%)とを変化させた場合の、板状成型体による電磁波の吸収特性のシミュレーション結果をdBで表したものである。
板状成型体としては、表面から入射する電磁波を10分の1程度以下(電磁波吸収量が約10dB)に減衰することができれば、電磁ホーンアンテナの内面での電磁波の反射を十分に低減して、電磁ホーンアンテナから放射する、または、電磁ホーンアンテナに入射する電磁波の指向性の精度を十分に高めることができると考えられる。上記表1のシミュレーション結果から、板状成型体の厚さが1mm以上、磁性酸化鉄粉の含有率が5体積%以上であれば、板状成型体による電磁波吸収特性が10dB以上となって、内面での電磁波の反射を低減して指向性の精度を高めるために十分であることがわかる。
なお、上記表1からも明らかなように、板状成型体の厚みが厚いほど、電磁波吸収特性が向上する。しかし、図1、図2に示したように、本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナでは、板状成型体の端部が隣り合う板状成型体に重なって配置されるため、板状成型体の厚さが厚いと重複部分の段差が大きくなって、板状成型体によって構成されるコーン部の理想とする円形の断面形状から乖離してしまい指向性の精度が低下する。また、板状成型体の厚みが厚いと、板状成型体の相互の重なり具合を変化させて電磁ホーンアンテナのコーン部分の径を変更するための機構がより大がかりなものとなって、コスト高になるともに、コーン部分の形状変化を正確に制御することが困難となる。したがって、板状成型体の厚さとしては、10mm以下とすることが好ましい。
また、表1から、板状成型体に含まれる磁性酸化鉄粉の含有量が高いほど、板状成型体の電磁波吸収特性が向上することがわかる。しかし、磁性酸化鉄粉の含有率が大きくなりすぎると、バインダーによる磁性酸化鉄粉の分散効果が低下して、板状成型体が脆くなってしまい、コーン部の形状変化時に加わる力や外部からの衝撃などによって、板状成型体の割れや欠けなどが生じやすくなる。このような観点から、板状成型体の脆性が低下しすぎない範囲として、磁性酸化鉄粉の含有率は50体積%以下とすることが好ましい。
発明者らは、本願で開示する板状成型体を用いて、シミュレーションにより電磁波の指向性の評価を行った。
図4に、シミュレーションを行った際の電磁ホーンアンテナの形状を示す。
シミュレーションでは、樹脂に磁性酸化鉄粉としてストロンチウムフェライトを13体積%含有し、内面の導電率が70000S/m、厚さ1.0mmの板状成型体を用いq場合を計算した。電磁ホーンアンテナの形状は、図4に示したように、開口部の長辺(W)が30.0mm、短辺(H)が22.8mm、長さ(L)が59.6mmとした。また、用いた板状成型体は、透磁率がμ’=1.06、μ’’=0.16、誘電率がεr’=0.83、εr’’=0.05であった。
これらの条件を用い、電磁界解析ソフトウエアであるANSYS HFSS(ANSYS JAPAN株式会社製)を用いて、導波路から電磁ホーンアンテナに出力される、周波数75GHzの電磁波の異方性のシミュレーションを行った。
図5に、シミュレーションの結果を示す。
図5(a)は、導波路の電磁波の出射口を中心とした球体において、図4に示したXZ平面断面の電磁波の強度を示した図である。また、図5(b)は、導波路の電磁波の出射口を中心とした球体において、図4に示すXY平面断面の電磁波の強度を示した図である。
図5(a)、図5(b)に示す結果から、本願の板状成型体を用いた電磁ホーンアンテナは、電磁波の出射方向(X方向)に強い異方性を有することが確認できた。
[駆動機構]
次に、本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10において、コーン部を構成する板状成型体の重なり具合を変化させて指向性を制御する駆動機構について説明する。
図6は、本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナの形状を変化させる駆動機構の構成例を示すイメージ図である。図6は、板状成型体を側面方向から見た状態を示している。
図6に示すように、本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10は、コーン部を形成する板状成型体(11〜18)それぞれの導波路22側の端部に、駆動機構としての回動部30と駆動部40とが形成されている。
回動部30は、それぞれの板状成型体(11〜18)をその主面(図1、図2における板状成型体12の内面12b)に垂直な方向に回動可能とする部材であり、開口部10a側の端部を開口部10aの径方向に移動させることができる状態で、それぞれの板状成型体(11〜18)を保持している。具体的に本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10の回動部30は、図6に示すように、板状成型体(図6では12を例示)の主面12bと平行に配置された回動軸31と、板状成型体12を回動軸31の周りを回動可能に保持する保持部32、回動軸31を支える支持部33とにより構成されたいわゆるヒンジ機構である。この回動部30を板状成型体(11〜18)の導波路22側端部に配置することで、板状成型体12は、内面12bの導波路22側の端部の位置12cをほとんど変化させずに、すなわち、導波路22と電磁ホーンアンテナ10とを実質的に接続した状態で、開口部10a側の端部の位置を開口部10aの径方向に変化させること、すなわち、導波路22の開放端の平面Aに対する板状成型体12の傾斜角度αを変化させることができる。
駆動部40は、それぞれの板状成型体(11〜18)の導波路22側端部の近傍に配置され、板状成型体(11〜18)の開口部10a側の端部を開口部10aの径方向に動かす部材である。駆動部40は、一例として図6に示すように、板状成型体12の外側面12dに接続される接続部41と、接続部41に接続されて板状成型体12を主面(12b、12d)に対して垂直な方向力を加えるロッド42により構成されて、図示しない動力機構によってロッド42が図6中の白矢印a方向、または、b方向に移動することで、板状成型体12を回動部40の回動軸42の周りに回動させて傾斜角度αを変化させる。
このようにして、本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10では、駆動部40によって加えられる力で板状成型体(11〜18)が回動軸32の周りを回動して、複数の板状成型体(11〜18)によって構成される開口部10aの径が変化して、図1に示した指向性が弱い状態と、図2に示した強い指向性を示す状態とを切り替えることができる。
なお、図6に示すとおり、回動部30と駆動部40とは、板状成型体(図6における12)の外側面(12d)側に配置されている。本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10では、板状成型体(11〜18)の内面(12b)が電磁ホーンアンテナ10のコーン部を形成するため、内面(12b)に突起物が存在すると電磁ホーンアンテナ10内部での電磁波が乱れ、正確な指向性の制御ができなくなってしまうことを回避するためである。
次に、本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10において、複数の板状成型体(11〜18)の傾斜角度(図6のα)の変化を全体としてよりスムーズに行うための機構について説明する。
図7は、本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナの板状成型体同士を繋いで形状の変化を規制する規制部の構成を示すイメージ図である。
本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10は、それぞれの板状成型体(11〜18)を開口部10aに近い位置で繋げて、板状成型体(11〜18)の動きによる開口部10aの径の変化をスムーズに行わせる規制部50を有している。より具体的に図7に示すように、本実施形態にかかる電磁ホーンアンテナ10は、規制部50として、一つの板状成型体(一例として板状成型体11)の中心軸に向かって右側の側面(11a)に、側方へと突出する突起部51が形成され、この板状成型体(11)の右側に隣り合って配置される他の板状成型体(12)の内面12b には、板状成型体11の突起部51がその内部を摺動することができるように形成された溝部52を備えている。
図7に示すように、それぞれの板状成型体(11〜18)の側面に形成された突起部51が、隣り合う他の板状成型体(11〜18)の内面に形成された溝部52内を摺動する規制部50を備えることで、板状成型体(11〜18)が上述した駆動機構の駆動部40によって中心軸側、またはその反対側への力を受けたときに、それぞれの板状成型体(11〜18)がばらばらに動くことを防止できる。また、板状成型体(11〜18)の開口部10a側に規制部50が形成されていることで、規制部50によってそれぞれの板状成型体(11〜18)の開口部側が繋がれて周方向に作用する力が働く。この結果、複数の板状成型体(11〜18)が、導波路22の開口部が形成する面Aに対して同じ角度αを維持した状態で移動して、板状成型体(11〜18)の開口部10aや中心軸に垂直な断面に形成される略円形状を保ったまま、その径の大小を変化させることができる。
なお、上記実施形態では、板状成型体全てに力を加える駆動部が8枚の板状成型体全てに取り付けられている例を示したが、規制部が設けられることで、全ての板状成型体の角度αが良好に連動する場合には、駆動部が全ての板状成型体に取り付けられている必要はない。板状成型体の半分(上記実施形態の場合は4つ)、または、それ以下の枚数の板状成型体に駆動機構が形成されていればよい。反対に、全ての板状成型体に駆動部が配置されている場合であって、それぞれの駆動部による板状成型体の角度の変化が統一されて制御できるのであれば規制部を設ける必要はなく、本実施形態に示す電磁ホーンアンテナにおいて、規制部は必須の構成要件ではない。
また、板状成型体の角度を変化させるために、駆動部のロッドに力を加える動力機構としては、モータなどの電気的手段、ダイヤルやハンドルを回すことによる機械的手段の、いずれを採用することもできる。
以上説明したように、本願で開示する電磁ホーンアンテナ、および、電磁波の指向性制御システムは、ミリ波帯域以上の高周波帯域の電磁波吸収部材によって形成された、複数の板状成型体により電磁ホーンアンテナが構成されていることで、電磁ホーンアンテナの内側表面における電磁波の不所望な反射を低減して、送受信する電磁波の指向性の制御を正確に行うことができる。また、電磁ホーンアンテナを構成する複数の板状成型体が、開口部側の端部を開口部の径方向に移動可能とする駆動機構を有しているため、開口部径を変化させて、容易に指向性の制御を行うことができる。
このため、指向性の強さを変化させることができる電磁ホーンアンテナを、簡単な構成で安価に実現することができる。このため、たとえば車載レーダの送信部、および/または、受信部に採用することで、送信する電磁波の広がりや、受信対象の電磁波の発生源の位置の変化に対応して指向性を変化させるなどの新しい用途に良好に使用することができる。
なお、上記実施形態において、電磁ホーンアンテナを構成する板状成型体の枚数が8枚のものを例示したが、電磁ホーンアンテナを構成する板状成型体の枚数に制限がないことは言うまでもない。全体が略円錐台形状であると把握できる電磁ホーンアンテナを形成できること、また、構成が複雑になりすぎないこととの観点から許容できる範囲で、板状成型体の枚数は適宜選択可能である。
また、上記実施形態では、電磁ホーンアンテナの板状成型体が、中心に向かって右側の端部が隣り合う他の板状成型体の内面に接するように重なり合う形態を示したが、各板状成型体の中心に向かって左側の端部が隣り合う他の板状成型体の内面に接するように重なり合う形態であっても問題ないことは言うまでもない。また、板状成型体同士の隙間がほとんどない状態で配置されて、この隙間からの電磁波の漏洩、電磁ホーンアンテナ内での電磁波の不所望な散乱や反射が生じないのであれば、隣り合う板状成型体が重なり合わない状態で配置されていても問題はない。
さらに、状成型体の厚さ、特に、電磁ホーンアンテナの開口部に向かう方向の厚さは一定でなくてもよく、電磁ホーンアンテナのコーン部の形状が確保でき、所望の電磁波吸収特性を維持できる範囲で、基部側から開口部側に向かって、薄くなるように設計することもできる。
また、上記実施形態では、板状成型体の外側面に、駆動機構を構成する回動部や駆動部の部材が直接設けられている例を示したが、例えば、板状成型体の基部側端部の少なくとも外面に装着される回動部や駆動部が設けられた金属プレートを使用するなど、板状成型体の角度を所望の状態で変化させることができる他の構成を採用することができる。
さらに、上記実施形態では、板状成型体が磁気共鳴する磁性酸化鉄を含む構成について説明したが、板状成型体は所定の形状に成型可能であって、かつ、ミリ波帯域以上の高周波数の電磁波を良好に吸収できる他の部材、例えば、カーボン、カーボンファイバーなどを用いて構成することができる。