第1の発明は、電解質膜と電解質膜を挟んで一方の面に配置されるアノードと他方の面に配置されるカソードとで構成される電解質膜−電極接合体と、アノードとカソードの両外側に配置されるアノード側セパレータとカソード側セパレータと、を有し、アノードに水素含有ガスを供給するとともに、アノードとカソードとの間に所定方向の電流を流すことで、カソードにおいて水素を生成する電気化学デバイスと、水素含有ガスをアノードに供給するガス供給手段と、電気化学デバイスのアノードとカソードとの間に電流を流すための電源と、を備え、カソード側セパレータは、カソードに当接する面に設けられたカソードガス流路と、カソードガス流路に連通するカソードガス出口と、を有し、電気化学デバイスは、カソードガス流路に水を貯めた状態で水素を生成する水素生成システムであって、アノードは、少なくとも触媒を担持したカーボンからなるアノード触媒層と、少なくとも触媒を担持しない腐食用カーボンと、カーボンまたはカーボンでないガス拡散層と、を有し、腐食用カーボンは、アノードを構成する他のカーボンよりも酸化腐食され易いことを特徴とした水素生成システムである。
これにより、アノードに供給する水素(水素含有ガス)の欠乏時には、アノードにおいて、最も酸化腐食されや易いカーボンである腐食用カーボンが、水素の代わりに消費されるので、触媒担持カーボンが酸化腐食されることを抑制し、反応面積の低下からなる反応過電圧の上昇が抑制される。
また、カーボンの酸化腐食反応に必要な水については、カソードガス流路に貯めた水が電解質膜を浸透してアノードへ移動してカーボンの酸化腐食反応に必要な水を供給するので、酸化腐食反応が局所集中することがなく、触媒層の導電経路の減少からなる抵抗過電圧の上昇が抑制される。
これらの二つの作用により、アノードに供給する水素含有ガスが欠乏しても、電気化学デバイスの水素純化効率の低下を抑制することができる。
第2の発明は、特に、第1の発明のカソードガス出口がカソードガス流路の最下端より鉛直方向上側に配置されていることを特徴とする水素生成システムである。
これにより、カソードガス流路におけるカソードガス出口よりも鉛直方向下側の部分の水は、重力が作用して、カソードガス出口から流出し難いので、確実にカソードガス流路に水を貯めることができ、電解質膜を浸透してアノードに水を供給し易くなり、酸化腐食
反応が局所集中することなく、触媒層の導電経路の減少からなる抵抗過電圧の上昇を抑制できる。
第3の発明は、特に、第1の発明または第2の発明のカソード側セパレータの温度が、アノード側セパレータの温度よりも、低いことを特徴とする水素生成システムである。
これにより、カソード側セパレータの温度が、アノード側セパレータの温度以上の温度である場合と比べて、カソードにおける水の状態が気体よりも液体となり易く、生成ガスとともにカソードガス流路外へ流出するのを防いで、カソードガス流路に水をより貯めることができる。さらに、電解質膜を浸透してアノードに水を供給し易くなり、酸化腐食反応が局所集中することなく、触媒層の導電経路の減少が抑制できる。
一方で、アノード側セパレータでは、アノード側セパレータの温度が、カソード側セパレータの温度以下の温度である場合と比べて、水の状態が液体よりも気体になり易く、アノードガス流路やガス拡散層の水詰まりを防ぐことにより、(化1)に示す水素の酸化反応に必要な水素をアノードに欠乏させることなく供給することができる。
第4の発明は、特に、第1〜第3のいずれか1つの発明のカソードガス流路に注水するための水供給入口を有することを特徴とする水素生成システムである。
これにより、水供給入口からカソードガス流路に注水することで、より確実にカソードガス流路に水を貯めることができ、電解質膜を浸透してアノードに水を供給し易くなり、酸化腐食反応が局所集中することがなく、触媒層の導電経路の減少からなる抵抗過電圧の上昇が抑制できる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における水素生成システムの概略図を示すものである。
図1に示すように、本実施の形態の水素生成システム50に用いる電気化学デバイス10は、電解質膜4がアノード5Aとカソード5Cとによって挟まれた電解質膜−電極接合体9を、アノード側セパレータ1Aとカソード側セパレータ1Cとによって挟持した構成になっている。また、電解質膜−電極接合体9(電解質膜4)の両主面が鉛直方向に対して平行になる向きで、電気化学デバイス10を配置している。
アノード5Aは、アノード触媒層3A、腐食用カーボン層13A及びアノードガス拡散層2Aとで構成され、カソード5Cは、カソード触媒層3Cとカソードガス拡散層2Cとで構成される。電解質膜4は、アノード5Aとカソード5Cとの間に配置されている。
アノード触媒層3Aは電解質膜4の一方の主面に配置される。カソード触媒層3Cは電解質膜4の他方の主面に配置される。腐食用カーボン層13Aはアノード触媒層3Aにおける電解質膜4と対向しない主面に配置される。アノードガス拡散層2Aは腐食用カーボン層13Aにおけるアノード触媒層3Aと対向しない主面に配置される。カソードガス拡散層2Cはカソード触媒層3Cにおける電解質膜4と対向しない主面に配置される。
ここで、電解質膜4には、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子電解質膜を用いる。アノード触媒層3Aとカソード触媒層3Cとには、白金を担持したカーボン粒子とアイオノマーとを混合して、電解質膜4または電解質膜4に触媒層を
転写するための転写フィルムに塗布形成されたものを用いる。また、アノードガス拡散層2Aとカソードガス拡散層2Cとには、カーボン製フェルトを用いる。
腐食用カーボン層13Aは、カーボンとアイオノマーを有している。腐食用カーボン層13Aに用いられるカーボンは、アノード触媒層3Aに用いられる白金担持カーボンよりも腐食され易いカーボンで構成されている。
カーボンの腐食のし易さは、黒鉛化度と比表面積で判断できる。カーボンを高温で熱処理を行うと黒鉛化度が上がる。黒鉛化度が低いカーボンほど酸化腐食されるきっかけとなる官能基が多い。また、比表面積の大きいカーボンほど単位体積当たりの官能基が多いため酸化腐食され易い。したがって、具体的には、腐食用カーボンは、アノード触媒層3Aに用いられる白金担持カーボンよりも、黒鉛化度がより低いカーボンを用いる。
アノード側セパレータ1Aとカソード側セパレータ1Cは、ガス透過性のない導電性部材である圧縮カーボンによって構成されている。
アノード側セパレータ1Aには、アノードガス入口11Aと、アノードガス出口12Aと、アノードガス流路14Aと、が設けられている。
アノードガス流路14Aは、アノード側セパレータ1Aにおけるアノードガス拡散層2A(アノード5A)と当接する面に溝状に形成され、上流端がアノードガス入口11Aと連通し下流端がアノードガス出口12Aと連通している。
ガス供給手段16は、ガス供給配管15を介して、アノードガス入口11Aに水素含有ガスを供給する。アノードガス入口11Aは、アノードガス流路14Aを介して、水素含有ガスをアノード5Aに供給するための水素含有ガス供給用通路である。
アノードガス出口12Aは、カソード5Cに透過せずにアノード5Aに残った水素含有ガス(カソード5Cでの水素生成に利用されなかった水素含有ガス)をアノード5Aから排出するための水素含有ガス排出用通路である。
また、カソード側セパレータ1Cには、カソードガス出口12Cと、カソードガス流路14Cと、が設けられている。
カソードガス流路14Cは、カソード側セパレータ1Cにおけるカソードガス拡散層2C(カソード5C)と当接する面に溝状に、カソード5Cで生成された水素が重力に逆らって下から上へと流れるように形成され、カソードガス流路14Cの上端部(最下流部)よりも鉛直方向上側に配置されるカソードガス出口12Cと連通している。
カソードガス出口12Cは、カソード5Cに透過した水素をカソード5Cから排出するための水素排出用通路である。
電源17は、アノード5Aとカソード5Cとの間に所定方向の電流を流す直流電源である。ここで、所定方向の電流とは、電気化学デバイス10のアノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ流れる方向の電流である。電源17のプラス極端子はアノード側セパレータ1Aに接続され、電源17のマイナス極端子はカソード側セパレータ1Cに接続される。
ガス供給手段16は、アノードガス入口11Aから電気化学デバイス10に加湿された水素含有ガスを供給する。ガス供給手段16は、都市ガスから改質反応を利用して水素含
有ガスを生成する燃料改質器を用いる。
以上のように構成された本実施の形態の水素生成システム50について、以下、その動作、作用を説明する。
最初に、電気化学デバイス10に流す電流の大きさに対して水素含有ガスが十分な量で電気化学デバイス10のアノード5Aに供給されている場合について説明する。
まず、ガス供給手段16から加湿された水素含有ガスが、ガス供給配管15とアノードガス入口11Aを介してアノードガス流路14Aに供給される。ガス供給手段16がアノード5Aに供給する水素含有ガスは、ガス温度が70℃で、相対湿度が90%に加湿されている。
また、ガス供給手段16がアノード5Aに供給する水素含有ガスは、一酸化炭素の含有比率が0.00146%で、二酸化炭素の含有比率が14.6%で、水素の含有比率が58.4%である。
次に、電源17により、アノード5Aとカソード5Cとの間に、アノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ流れる方向の電流を90A流す。
そして、燃料利用率が90%になるように、ガス供給手段16から電気化学デバイス10への水素含有ガス供給量を調整する。すると(化1)の反応によりアノード5Aでは水素は水素イオンと電子に解離し、その水素イオンは電解質膜4を透過してカソード5C側へ移動し、電子は電源17を経由してカソード5Cに移動し、(化2)の反応により、カソード5Cで水素イオンと電子が結びついて水素となる。
水素イオンが電解質膜4を透過するときに、電解質膜4に含まれる水を同伴してカソード5C側へ移動すること、水素イオンが電解質膜4の中を移動するには電解質膜4が水を含んでいることが必須であるため、アノード5Aに供給する水素含有ガスは、前述のとおり加湿して供給する。
アノード5Aに供給された水素含有ガスのうち、カソード5Cに透過せずにアノード5Aに残った水素含有ガス(カソード5Cでの水素生成に利用されなかった水素含有ガス)は、水素含有オフガスとなって、アノードガス出口12Aから排出される。
電解質膜4は、特に、高分子で構成された電解質膜4は、わずかではあるが、一酸化炭素や二酸化炭素が透過するため、カソードガス出口12Cからは、一酸化炭素や二酸化炭素が微量含まれた、本実施の形態では、水素純度が99.97%の水素含有ガスが排出される。
ここで、カソード5Cにおいて生成された水素ガス流量、電源17に指示した電流値及び測定器により計測した電気化学デバイス10のアノード5Aとカソード5Cとの間の電圧値より、水素純化効率を算出する。
水素純化効率は、電源17に投入する電気エネルギーに対するカソード5Cから得られる水素のエネルギーの割合で表すものとする。
カソード5Cにおいて生成される水素ガス流量(NL/s)は、電流値(A)と、カソード5Cからアノード5Aへ電解質膜4を逆透過して戻る、戻り水素ガス流量と、を用いて下記の(数1)で表すことができる。
ここで、戻り水素ガス流量は、電解質膜4の種類、厚み、含水率、及びアノード5Aとカソード5Cの水素ガスの分圧に依存する。本実施の形態においては、戻り水素ガス流量は0.00035(NL/s)であり、アノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ流す電流の電流値は90(A)であるので、水素ガス流量は0.01010(NL/s)となる。
従って、カソード5Cから得られる水素エネルギーは、水素ガス流量(NL/s)、22.4(NL/mol)及び水素の高位発熱量285800(J/mol)を用いて下記の(数2)で表すことができる。
また、電源17に投入する電気エネルギーは、電流値(A)と電圧(V)から計算できる。本実施の形態では、アノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ電流値が90(A)の電流を流した時に、0.075(V)であった。水素純化効率は、下記の(数3)で計算することができ、本実施の形態では19.1となる。
次に、水素含有ガスが欠乏した時の水素生成システム50の挙動について、説明する。上記に述べたように、アノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ電流値が90(A)の電流を流し、ガス温度が70℃で、相対湿度が90%の水素含有ガスを燃料利用率が90%となるようにアノード5Aに供給している時に、水素含有ガスを10秒間に一度、2秒間遮断して、また流す、という電気化学デバイス10に水素含有ガスが一時的に流れない時間を設ける。これを1分間行って水素含有ガスが欠乏する状態を作る。
この水素含有ガスの欠乏時、電源17により流す電流90Aに対して、(化2)の反応に必要な水素が足りなくなり、アノード5Aでは(化3)及び(化4)に示すようなカーボンと水とから水素イオンを生成する酸化腐食反応が起こる。
アノード5Aに存在するカーボンは、白金担持カーボン、腐食用カーボン、ガス拡散層を構成するカーボンと、アノード側セパレータ1Aを構成するカーボンであり、このうちで、最も酸化腐食され易い腐食用カーボンが、反応に使われて腐食される。
また、(化3)及び(化4)の反応では、水も消費される。アノード5Aの加湿ガスと
して供給される水は、電解質膜4やアノード触媒層3A、カソード触媒層3Cを濡らして水素イオンの移動をし易くするために必要であるので、より多くの水を供給する必要がある。
本実施の形態では、カソード5Cで生成した水素が排出されるカソードガス出口12Cを、カソード5C(カソードガス流路14C)の上端部よりも鉛直方向上側に配置している。
これにより、アノード5Aから電解質膜4を透過してきた水を、カソードガス流路14Cのカソードガス出口12Cの高さまで貯めることができる。カソードガス流路14Cに貯まった水は、カソード5C側から電解質膜4を常に濡らし、電解質膜4を透過して、アノード5Aにも、水を供給することができる。
水素含有ガスが欠乏する運転の後、水素含有ガスが欠乏しない元の運転条件で運転させたところ、電気化学デバイス10のアノード5Aとカソード5Cとの間の電圧は0.076(V)であり、水素純化効率は18.8となり、水素含有ガスが欠乏する運転を行っても、水素純化効率の低下は、ほとんど見られなかった。
以上のように、本実施の形態の水素生成システム50においては、アノード触媒層3Aとアノードガス拡散層2Aとの間に、アノード触媒層3Aとアノードガス拡散層2Aを構成するカーボンよりも酸化腐食され易い腐食用カーボンからなる腐食用カーボン層13Aを設けたので、アノード5Aに供給する水素含有ガスの欠乏時のカーボンの酸化腐食反応では、アノード5Aにおいて、最も酸化腐食され易いカーボンである腐食用カーボン層13Aの腐食用カーボンが、水素の代わりに消費されるので、触媒担持カーボンが酸化腐食されて反応面積が低下し、反応過電圧が上昇することを抑制する。
さらに、本実施の形態の水素生成システム50は、カソード側セパレータ1Cに設けられ、カソード5Cと当接する面に溝状に形成されるカソードガス流路14Cと連通して、カソード5Cに透過した水素をカソード5Cから排出するカソードガス出口12Cが、カソード5C及びカソードガス流路14Cの上端部よりも鉛直方向上側に配置されたことにより、電気化学デバイス10は、カソードガス流路14Cに水を貯めた状態で水素を生成することになる。
そのため、カソードガス流路14Cに貯めた水が、電解質膜4を浸透してアノード5Aへ移動するので、カーボンの酸化腐食反応に必要な水を供給できる。
これにより、酸化腐食反応が局所集中することがなく、触媒層の導電経路の減少からなる抵抗過電圧の上昇を抑制できる。以上のことから、水素含有ガスの欠乏が起きても、電気化学デバイス10の水素純化効率の低下を抑制することができる。
なお、本実施の形態では、水素含有ガスの組成を、一酸化炭素、二酸化炭素、水素としているが、水素を含有していれば、これに限らない。
なお、本実施の形態では、水素含有ガスが欠乏した時の運転条件を、水素含有ガスを10秒間に一度、2秒間遮断しているが、遮断の時間間隔や遮断時間は、これに限らない。
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2における水素生成システムの概略図を示すものである。本発明の実施の形態2における水素生成システム60は、実施の形態1における水素生成システム50のカソードガス出口12Cの位置を、カソード5Cの鉛直方向の中央の位置
にまで低くしたものである。この構成以外は、実施の形態1における水素生成システム50と同じ構成であり、重複する説明は省略する。
以上のように構成された本実施の形態の水素生成システム60について、その動作、作用を説明する。
本実施の形態の水素生成システム60は、電気化学デバイス10のカソードガス出口12Cの位置を、図2に示すように、カソード5Cの鉛直方向の中央に配置することによって、カソードガス流路14Cの鉛直方向下からカソードガス出口12Cの高さまで、カソードガス流路14Cに水を貯めることができる。
カソードガス流路14Cに貯まった水が、電解質膜4を浸透してアノード5Aへ移動する。このようにして、カーボンの酸化腐食反応に必要な水を、カソードガス流路14Cから電解質膜4を介してアノード5Aに供給するので、酸化腐食反応が局所集中することを抑制し、アノード触媒層3Aの導電経路の減少を抑制することができる。
電解質膜4は、水をよく浸透させるので、カソードガス流路14Cの水が貯まっていない部分に対応するアノード5Aに対しても、水を供給する効果がある。
まず、電気化学デバイス10に流す電流の大きさに対して、水素含有ガスが十分な量で電気化学デバイス10のアノード5Aに供給されて、水素生成システム60が運転している時の水素純化効率を計算する。
ガス供給手段16がアノード5Aに供給する水素含有ガスは、ガス温度が70℃で、相対湿度が90%に加湿されている。
また、水素含有ガスは、一酸化炭素の含有比率が0.00146%で、二酸化炭素の含有比率が14.6%で、水素の含有比率が58.4%である。
次に、電源17にてアノード5Aとカソード5Cとの間に、アノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ流れる方向の電流を90(A)の電流値で流す。
そして、燃料利用率が90%になるように、ガス供給手段16から電気化学デバイス10への水素含有ガス供給量を調整する。
この時の電気化学デバイス10のアノード5Aとカソード5Cとの間の電圧は、0.73(V)となり、水素生成量(数3)より水素純化効率は、19.6となる。
次に、水素含有ガスが欠乏した時の水素生成システム60の挙動について、説明する。上記に述べたように、アノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ電流値が90(A)の電流を流し、ガス温度が70℃で、相対湿度が90%の水素含有ガスを、燃料利用率が90%となるようにアノード5Aに流している時に、水素含有ガスを10秒間に一度、2秒間遮断してまた流すという、電気化学デバイス10に水素含有ガスが一時的に流れない時間を設ける。これを1分間行って水素含有ガスが欠乏した状態を作る。
水素含有ガスが欠乏する運転の後、水素含有ガスが欠乏しない元の運転条件で運転させたところ、電気化学デバイス10のアノード5Aとカソード5Cとの間の電圧は0.074(V)であり、水素純化効率は19.3となり、水素含有ガスが欠乏する運転を行っても、水素純化効率の低下は、ほとんど見られなかった。
以上のように、本実施の形態の水素生成システム60においては、実施の形態1の水素生成システム50と、電気化学デバイス10のカソードガス出口12Cの、カソード5Cに対する鉛直方向の位置が異なっており、本実施の形態の水素生成システム60は、電気化学デバイス10のカソードガス出口12Cが、カソード5Cの鉛直方向の中央に配置されている。
これにより、カソードガス流路14Cにおいてカソードガス出口12Cの高さまで貯まった水は、電解質膜4を浸透してアノード5Aへ供給される。そして電解質膜4の中を水が浸透して、カソードガス流路14Cに水が貯まっていない部分に対向するアノード5Aの部分へも水を供給することができる。
一方、アノードガス流路14Aの上流に対応するアノード5Aは、加湿したアノードガスによる水蒸気により水が供給されるので、水が欠乏する確率は低く、アノード5Aの全面にわたり水が均一に供給される状態となる。
したがって、アノード5Aに供給する水素含有ガスの欠乏時に、カーボンの酸化腐食反応が起こっても、水の偏りがないために酸化腐食反応が局所集中することがなく、アノード触媒層3Aの導電経路の減少からなる抵抗過電圧の上昇を抑制できる。
また、アノード5Aを構成するカーボンにおいて、最も酸化腐食され易い腐食用カーボン層13Aの腐食用カーボンが、水素の代わりに消費されるので、触媒担持カーボンが酸化腐食して反応面積が減少し、反応過電圧が上昇することを抑制する。以上のことから、水素含有ガスの欠乏が起きても、電気化学デバイス10の水素純化効率の低下を抑制することができる。
なお、本実施の形態では、水素含有ガスの組成を、一酸化炭素、二酸化炭素、水素としているが、水素を含有していれば、これに限らない。
なお、本実施の形態では、カソードガス出口12Cの位置を鉛直方向の中央としたが、正確に中央でなくて、多少、中央から上下方向にずれる位置であっても、鉛直方向中央部よりも上側であっても良い。
(実施の形態3)
図3は、本発明の実施の形態3における水素生成システムの概略図を示すものである。
本発明の実施の形態3における水素生成システム70は、実施の形態2における水素生成システム60の電気化学デバイス10を、電解質膜4に対して、アノード5Aが鉛直方向下側になり、カソード5Cが鉛直方向上側になるように設置したものに相当する。
実施の形態1の水素生成システム50と実施の形態2の水素生成システム60は、電解質膜−電極接合体9(電解質膜4)の両主面が鉛直方向に対して平行になる向きで電気化学デバイス10を配置したが、実施の形態3の水素生成システム70は、電解質膜−電極接合体9(電解質膜4)の両主面が鉛直方向に対して垂直(両主面が水平)になるとともに、カソード5Cがアノード5Aの鉛直方向の上側に位置する向きで電気化学デバイス10を配置しており、カソードガス出口12Cはカソード5Cよりも鉛直方向上側にある。
それ以外の構成は、実施の形態2の水素生成システム60と同じ構成であり、重複する説明は省略する。
以上のように構成された本実施の形態の水素生成システム70について、その動作、作
用を説明する。
水素生成システム70は、カソードガス出口12Cはカソード5Cよりも鉛直方向上側にあるので、カソードガス流路14Cの全てに水を貯めることができる。カソードガス流路14Cに貯まった水は、カソード5C側から電解質膜4を常に濡らし、電解質膜4を透過してアノード5Aにも水を供給することができる。
まず、電気化学デバイス10に流す電流の大きさに対して、水素含有ガスが十分な量で電気化学デバイス10のアノード5Aに供給されて、水素生成システム70が運転している時の水素純化効率を計算する。
ガス供給手段16がアノード5Aに供給する水素含有ガスは、ガス温度が70℃で、相対湿度が90%に加湿されている。
また、水素含有ガスは、一酸化炭素の含有比率が0.00146%で、二酸化炭素の含有比率が14.6%で、水素の含有比率が58.4%である。
次に、電源17にてアノード5Aとカソード5Cとの間に、アノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ流れる方向の電流を90(A)の電流値で流す。
そして、燃料利用率が90%になるように、ガス供給手段16から電気化学デバイス10への水素含有ガス供給量を調整する。
この時、電気化学デバイス10のアノード5Aとカソード5Cとの間の電圧は、0.75(V)となり、(数3)より水素純化効率は、19.1となる。
次に、水素含有ガスが欠乏した時の水素生成システム60の挙動について、説明する。上記に述べたように、アノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ電流値が90(A)の電流を流し、ガス温度が70℃で、相対湿度が90%の水素含有ガスを燃料利用率が90%となるようにアノード5Aに供給している時に、水素含有ガスを10秒間に一度、2秒間遮断してまた流すという、電気化学デバイス10に水素含有ガスが一時的に流れない時間を設ける。これを1分間行って水素含有ガスが欠乏した状態を作る。
水素含有ガスが欠乏する運転の後、水素含有ガスが欠乏しない元の運転条件で運転させたところ、電気化学デバイス10のアノード5Aとカソード5Cとの間の電圧は0.076(V)であり、水素純化効率は18.8となり、水素含有ガスが欠乏する運転を行っても、水素純化効率の低下はほとんど見られなかった。
以上のように、本実施の形態の水素生成システム70においては、実施の形態2の水素生成システム60と、電気化学デバイス10の向きが違っており、本実施の形態の水素生成システム70では、電解質膜4に対して、アノード5Aが鉛直方向下側に、カソード5Cが鉛直方向上側にある構成であり、カソードガス流路14Cの全てに水を貯めることができる。
この構成により、カソードガス流路14Cに貯めた水を、電解質膜4に浸透させてアノード5Aへ供給することができ、アノード5A内における水の偏りや欠乏を減少させることができる。
したがって、アノード5Aに供給する水素含有ガスの欠乏時に、カーボンの酸化腐食反応が起こっても、水の偏りがないために酸化腐食反応が局所集中することがなく、アノー
ド触媒層3Aの導電経路の減少からなる抵抗過電圧の上昇を抑制できる。
また、アノード5Aにおいて、最も酸化腐食され易いカーボンである腐食用カーボン層13Aの腐食用カーボンが、水素の代わりに消費されるので、触媒担持カーボンが酸化腐食されて反応面積が低下し、反応過電圧が上昇することを抑制する。以上のことから、水素含有ガスの欠乏が起きても、電気化学デバイスの水素純化効率の低下を抑制することができる。
なお、本実施の形態では、水素含有ガスの組成を、一酸化炭素、二酸化炭素、水素としているが、水素を含有していれば、これに限らない。
なお、本実施の形態では、電気化学デバイス10を、電解質膜4に対してカソード5Cが鉛直方向上側になるように、電解質膜4の主面を水平に設置したが、これに限らず、電解質膜4の主面が正確に水平でなく、水平に対して、多少、傾斜していても、構わない。
(実施の形態4)
図4は、本発明の実施の形態4における水素生成システムの概略図を示すものである。
本発明の実施の形態4における水素生成システム80は、実施の形態1における水素生成システム50のアノード側セパレータ1Aの外側にアノードヒーター19Aを設けるとともに、カソード側セパレータ1Cの外側にカソードヒーター19Cを設けている。
さらにアノードヒーター19Aとカソードヒーター19Cを制御するための温度調節器18を設けた構成である。この構成以外は、実施の形態1と同じ構成であり、重複する説明を省略する。
まず、電気化学デバイス10に流す電流の大きさに対して、水素含有ガスが十分な量で電気化学デバイス10のアノード5Aに供給されて、水素生成システム80が運転している時の水素純化効率を計算する。
ガス供給手段16がアノード5Aに供給する水素含有ガスは、ガス温度が70℃で、相対湿度が90%に加湿されている。また、水素含有ガスは、一酸化炭素の含有比率が0.00146%で、二酸化炭素の含有比率が14.6%で、水素の含有比率が58.4%である。
アノードヒーター19Aの温度は73℃に設定し、カソードヒーター19Cの温度は65℃に設定した。
次に、電源17にてアノード5Aとカソード5Cとの間に、アノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ流れる方向の電流を90(A)の電流値で流す。
そして、燃料利用率が90%になるように、ガス供給手段16から電気化学デバイス10への水素含有ガス供給量を調整する。
この時、電気化学デバイス10のアノード5Aとカソード5Cとの間の電圧は、0.068(V)となったので、(数3)より水素純化効率は、21.1となった。
以上のように構成された本実施の形態の水素生成システム80について、その動作、作用を説明する。
電気化学デバイス10のカソードガス出口12Cは、カソード5C(カソードガス流路14C)よりも鉛直方向上側にあるので、カソードガス流路14Cの全てに水を貯めることができる。
さらに、アノードヒーター19Aの温度をカソードヒーター19Cよりも高温に(カソードヒーター19Cの温度をアノードヒーター19Aよりも低温に)設定する。
これにより、そのような温度条件にしない場合と比べて、カソード5C側では、カソード5Cに浸透した水蒸気を結露させて液水に状態変化させて、カソードガス流路14Cに水をより貯め易くなる。
また、そのような温度条件にしない場合と比べて、アノード5A側では、アノードガス流路14Aで加湿された水素含有ガスの結露を抑制することにより、アノード触媒層3Aへ燃料となる水素が到達し易くなり、水素含有ガスの拡散による拡散過電圧を下げる効果が得られる。
また、カソードガス流路14Cに貯まった水は、カソード5C側から電解質膜4を常に濡らし、電解質膜4を透過してアノード5Aにも、水を供給することができる。
次に、水素含有ガスが欠乏した時の水素生成システム80の挙動について、説明する。上記に述べたように、アノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ電流値が90(A)の電流を流し、ガス温度が70℃で、相対湿度が90%の水素含有ガスを燃料利用率が90%となるようにアノード5Aに供給している時に、水素含有ガスを10秒間に一度、2秒間遮断してまた流すという、電気化学デバイス10に水素含有ガスが一時的に流れない時間を設ける。これを1分間行って水素含有ガスが欠乏した状態を作る。
水素含有ガスが欠乏する運転の後、水素含有ガスが欠乏しない元の運転条件で運転させたところ、電気化学デバイス10のアノード5Aとカソード5Cとの間の電圧は、0.069(V)であり、水素純化効率は20.9となり、水素含有ガスが欠乏する運転を行っても、水素純化効率の低下はほとんど見られなかった。
以上のように、本実施の形態においては、電気化学デバイス10にヒーターを付けて、アノード5Aの温度をカソード5Cよりも高く(カソード5Cの温度をアノード5Aよりも低く)制御できる構成にしている。
これにより、アノード5Aとカソード5Cの温度の関係をそのようにしない場合と比べて、カソードガス流路14Cでは、水を貯め易くなるので、カソードガス流路14Cに貯めた水を電解質膜4に浸透させてアノード5Aへ確実に供給することができる。
しがって、アノード5Aに供給する水素含有ガスの欠乏時に、カーボンの酸化腐食反応が起こっても、アノード5Aに水の偏りや不足が起こりにくいので、カーボンの酸化腐食反応が局所集中することがなく、触媒層の導電経路の減少からなる抵抗過電圧の上昇を抑制できる。
また、アノード5Aにおいて、最も酸化腐食され易いカーボンである腐食用カーボン層13Aの腐食用カーボンが、水素の代わりに消費されるので、触媒担持カーボンが酸化腐食されて反応面積が低下し、反応過電圧が上昇することを抑制する。
以上のことから、水素含有ガスの欠乏が起きても、電気化学デバイスの水素純化効率の低下を抑制することができる。
なお、本実施の形態では、水素含有ガスの組成を、一酸化炭素、二酸化炭素、水素としているが、水素を含有していれば、これに限らない。
なお、本実施の形態では、ヒーターを各々のセパレータの外側に配置したが、セパレータ内部に設けてもよい。
(実施の形態5)
図5は、本発明の実施の形態5における水素生成システムの概略図を示すものである。
本発明の実施の形態5における水素生成システム90は、実施の形態1の水素生成システム50のカソードガス流路14Cの鉛直方向下側に、カソードガス流路14Cと連通するカソード水入口11Cを設けて、カソード水入口11Cと水供給手段20とを水供給配管21で接続した構成である。
水供給手段20には、水ポンプを用いる。この構成以外は、実施の形態1の水素生成システム50と同じ構成であり、重複する説明を省略する。
まず、実施の形態1と同様に、電気化学デバイス10に流す電流の大きさに対して、水素含有ガスが十分な量で電気化学デバイス10のアノード5Aに供給されて、水素生成システム90が運転している時の水素純化効率を計算する。
ガス供給手段16がアノード5Aに供給する水素含有ガスは、ガス温度が70℃で、相対湿度が90%に加湿されている。
また、水素含有ガスは、一酸化炭素の含有比率が0.00146%で、二酸化炭素の含有比率が14.6%で、水素の含有比率が58.4%である。
水供給手段20から、水供給配管21とカソード水入口11Cを介して、水をカソードガス流路14Cに供給し、カソードガス出口12Cから溢れたら水の供給を止める。
電源17にてアノード5Aとカソード5Cとの間に、アノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ流れる方向の電流を90(A)の電流値で流す。
そして、燃料利用率が90%になるように、ガス供給手段16から電気化学デバイス10への水素含有ガス供給量を調整する。
この時、電気化学デバイス10のアノード5Aとカソード5Cとの間の電圧は、0.079(V)となり、(数3)より水素純化効率は、18.1となる。
以上のように構成された本実施の形態の水素生成システム90について、その動作、作用を説明する。
この構成によって、カソードガス出口12Cは、カソード5C(カソードガス流路14C)よりも鉛直方向上側にあるので、カソードガス流路14Cの全てに水を貯めることができる。
さらに、水供給手段20とカソード水入口11Cにより、カソードガス流路14Cの鉛直下側から水を供給することにより、電気化学デバイス10の温度や周辺温度に依らず、カソードガス流路14Cに任意の量の水を確実に貯めることができる。
そして、カソードガス流路14Cに貯まった水は、カソード5C側から電解質膜4を常に濡らし、電解質膜4を透過してアノード5Aにも水を供給することができる。
次に、水素含有ガスが欠乏した時の水素生成システム60の挙動について、説明する。上記に述べたように、アノード5Aから電解質膜4を介してカソード5Cへ電流値が90(A)の電流を流し、ガス温度が70℃で、相対湿度が90%の水素含有ガスを燃料利用率が90%でアノード5Aに流している時に、水素含有ガスを10秒間に一度、2秒間遮断してまた流すという、電気化学デバイス10に水素含有ガスが一時的に流れない時間を設ける。これを1分間行って水素含有ガスが欠乏した状態を作る。
水素含有ガスが欠乏する運転の後、水素含有ガスが欠乏しない元の運転条件で運転させたところ、電気化学デバイス10のアノード5Aとカソード5Cとの間の電圧は0.080(V)であり、水素純化効率は17.9となり、水素含有ガスが欠乏する運転を行っても、水素純化効率の低下は、ほとんど見られなかった。
以上のように、本実施の形態においては、電気化学デバイス10のカソードガス流路14Cの鉛直方向下側に、カソードガス流路14Cと連通するカソード水入口11Cを設けて、カソード水入口11Cと水供給手段20とを水供給配管21で接続した構成により、カソードガス流路14Cに確実に水を貯めてアノード5Aの水の偏りや不足をなくすことができる。
これにより、アノード5Aに供給する水素含有ガスの欠乏時に、カーボンの酸化腐食反応が起こっても、酸化腐食反応が局所集中することなく、アノード触媒層3Aの導電経路の減少からなる抵抗過電圧の上昇を抑制することができる。
また、酸化腐食反応が起こる時には、アノード5Aにおいて、最も酸化腐食され易いカーボンである腐食用カーボン層13Aの腐食用カーボンが、水素の代わりに消費されるので、触媒担持カーボンが酸化腐食されて反応面積が低下し、反応過電圧が上昇することを抑制する。
以上のことから、アノード5Aに供給する水素含有ガスの欠乏が起きても、電気化学デバイス10の水素純化効率の低下を抑制することができる。
なお、本実施の形態では、水素含有ガスの組成を、一酸化炭素、二酸化炭素、水素としているが、水素を含有していれば、これに限らない。
なお、本実施の形態では、水供給手段20として、水ポンプを用いたが、水を供給できるものであれば、これに限らない。