本発明のシリコーンゴム組成物は、シリコーンゴム(A)と、9,9位にアリール基を有するフルオレン化合物(B1)が結合した修飾セルロースナノ繊維(B)とを含む。
[シリコーンゴム(A)]
シリコーンゴム(A)としては、慣用のシリコーンゴムを使用でき、本発明では、汎用のシリコーンゴムを単独で使用しても、加硫ゴム組成物の引裂き強度を向上できる。
シリコーンゴム(未硬化のシリコーンゴム)は、ポリオルガノシロキサンであってもよい。ポリオルガノシロキサンは、Si−O結合(シロキサン結合)を有する直鎖状、分岐鎖状または網目状の化合物であって、式:R4 aSiO(4−a)/2(式中、R4は置換基、aは0〜3の数である)で表される単位で構成されていてもよい。
前記式において、置換基R4としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのC1−10アルキル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などのハロゲン化C1−10アルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基などのC2−10アルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基などのC6−20アリール基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC3−10シクロアルキル基、ベンジル基、フェネチル基などのC6−12アリール−C1−4アルキル基などが挙げられる。これらの置換基は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、R4としては、メチル基、フェニル基、アルケニル基(ビニル基など)、フルオロC1−6アルキル基が好ましい。
ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、ポリジアルキルシロキサン(ポリジメチルシロキサンなどのポリジC1−10アルキルシロキサン)、ポリアルキルアルケニルシロキサン(ポリメチルビニルシロキサンなどのポリC1−10アルキルC2−10アルケニルシロキサン)、ポリアルキルアリールシロキサン(ポリメチルフェニルシロキサンなどのポリC1−10アルキルC6−20アリールシロキサン)、ポリジアリールシロキサン(ポリジフェニルシロキサンなどのポリジC6−20アリールシロキサン)、前記ポリオルガノシロキサン単位で構成された共重合体[ジメチルシロキサン−メチルビニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン−メチルフェニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン−メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン−メチルビニルシロキサン−メチルフェニルシロキサン共重合体;ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体など]などが例示できる。これらのポリオルガノシロキサンは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
ポリオルガノシロキサンは、分子末端や主鎖に、エポキシ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基または置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)、(メタ)アクリロイル基などの置換基を有するポリオルガノシロキサンであってもよい。また、ポリオルガノシロキサンの両末端は、例えば、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、シラノール基、トリC1−2アルコキシシリル基などであってもよい。
これらのポリオルガノシロキサンのうち、機械的特性や入手容易性などの点から、ポリジC1−10アルキルシロキサン、特にポリジメチルシロキサン(PDMS)を含むのが好ましい。
シリコーンゴムを形成しているポリオルガノシロキサン構造は、分岐状や網目状であってもよいが、機械的特性などの点から、直鎖状が好ましい。シリコーンゴムとしては、例えば、メチルシリコーンゴム、ビニルシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フェニルビニルシリコーンゴム、フッ化シリコーンゴムなどが例示できる。これらのうち、PDMSで構成されたメチルシリコーンゴムが好ましい。また、シリコーンゴムは、直鎖状ポリオルガノシロキサン(メチルシリコーンゴムなど)と、分岐状又は網目状ポリオルガノシロキサン(MQレジンなど)との組み合わせであってもよい。
シリコーンゴムは、室温硬化型、熱硬化型のいずれであってもよく、一液硬化型、二液硬化型のいずれであってもよい。これらのうち、取り扱い性や耐熱性などの点から、熱硬化型シリコーンゴムが好ましい。
シリコーンゴム(硬化シリコーンゴム)のガラス転移温度は、例えば−200〜0℃、好ましくは−180〜−50℃、さらに好ましくは−150〜−100℃(特に−130〜−120℃)程度である。なお、本明細書および特許請求の範囲において、ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いて慣用の方法で測定できる。
[修飾セルロースナノ繊維(B)]
(フルオレン化合物(B1))
9,9位にアリール基を有するフルオレン化合物(B1)は、修飾セルロースナノ繊維(B)を構成する官能基として、セルロースナノ繊維をシリコーンゴム中に均一に分散させるための相容化剤または分散剤として機能し、シリコーンゴム(A)中にセルロースナノ繊維を均一に分散させることにより、加硫シリコーンゴム組成物の機械的特性を大きく向上できる。
このようなフルオレン化合物は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物であればよく、例えば、前記式(1)で表されるフルオレン化合物であってもよい。
前記式(1)において、環Zで表されるアレーン環として、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられ、多環式アレーン環には、縮合多環式アレーン環(縮合多環式炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合芳香族炭化水素環)などが含まれる。
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン環(例えば、ナフタレン環などの縮合二環式C10−16アレーン環)、縮合三環式アレーン(例えば、アントラセン環、フェナントレン環など)などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられ、特に、ナフタレン環が好ましい。
環集合アレーン環としては、ビアレーン環[例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環(例えば、1−フェニルナフタレン環、2−フェニルナフタレン環など)などのビC6−12アレーン環など]、テルアレーン環(例えば、テルフェニレン環などのテルC6−12アレーン環など)が例示できる。好ましい環集合アレーン環としては、ビC6−10アレーン環、特にビフェニル環などが挙げられる。
フルオレンの9位に置換する2つの環Zは、異なっていてもよく、同一であってもよいが、通常、同一の環である場合が多い。環Zのうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環(特にベンゼン環)などが好ましい。
なお、フルオレンの9位に置換する環Zの置換位置は、特に限定されない。例えば、環Zがナフタレン環の場合、フルオレンの9位に置換する環Zに対応する基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
X1で表されるヘテロ原子含有官能基としては、ヘテロ原子として、酸素、イオウおよび窒素原子から選択された少なくとも一種を有する官能基などが例示できる。このような官能基に含まれるヘテロ原子の数は、特に制限されないが、通常、1〜3個、好ましくは1または2個であってもよい。
前記官能基としては、例えば、基−[(OA)m1−Y1](式中、Y1はヒドロキシル基、グリシジルオキシ基、アミノ基、N置換アミノ基またはメルカプト基であり、Aはアルキレン基、m1は0以上の整数である)、基−(CH2)m2−COOR3(式中、R3は水素原子またはアルキル基であり、m2は0以上の整数である)などが挙げられる。
基−[(OA)m1−Y1]において、Y1のN置換アミノ基としては、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ基などのN−モノアルキルアミノ基(N−モノC1−4アルキルアミノ基など)、ヒドロキシエチルアミノ基などのN−モノヒドロキシアルキルアミノ基(N−モノヒドロキシC1−4アルキルアミノ基など)などが挙げられる。
アルキレン基Aには、直鎖状または分岐鎖状アルキレン基が含まれ、直鎖状アルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのC2−6アルキレン基(好ましくは直鎖状C2−4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状C2−3アルキレン基、特にエチレン基)が例示でき、分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、プロピレン基、1,2−ブタンジイル基、1,3−ブタンジイル基などの分岐鎖状C3−6アルキレン基(好ましくは分岐鎖状C3−4アルキレン基、特にプロピレン基)などが挙げられる。
オキシアルキレン基(OA)の繰り返し数(平均付加モル数)を示すm1は、0または1以上の整数(例えば0〜15、好ましくは0〜10程度)の範囲から選択でき、例えば0〜8(例えば1〜8)、好ましくは0〜5(例えば1〜5)、さらに好ましくは0〜4(例えば1〜4)、特に0〜3(例えば1〜3)程度であってもよく、通常0〜2(例えば0または1)であってもよい。なお、m1が2以上である場合、アルキレン基Aの種類は、同一または異なっていてもよい。また、アルキレン基Aの種類は、同一のまたは異なる環Zにおいて、同一または異なっていてもよい。
基−(CH2)m2−COOR3において、R3で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1−6アルキル基が例示できる。好ましいアルキル基は、C1−4アルキル基、特にC1−2アルキル基である。メチレン基の繰り返し数(平均付加モル数)を示すm2は0または1以上の整数(例えば1〜6、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2程度)であってもよい。m2は、通常、0または1〜2であってもよい。
これらのうち、基X1は、基−[(OA)m1−Y1](式中、Aはアルキレン基、Y1はヒドロキシル基またはグリシジルオキシ基、m1は0以上の整数である)が好ましく、Y1がグリシジルオキシ基である基−[(OA)m1−Y1][式中、Aはエチレン基などのC2−6アルキレン基(例えばC2−4アルキレン基、特にC2−3アルキレン基)、m1は0〜5の整数(例えば0または1)である]が特に好ましい。
前記式(1)において、環Zに置換した基X1の個数を示すnは、1以上であり、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1または2(特に1)であってもよい。なお、置換数nは、それぞれの環Zにおいて、同一または異なっていてもよい。
基X1は、環Zの適当な位置に置換でき、例えば、環Zがベンゼン環である場合には、フェニル基の2,3,4位(特に、3位および/または4位)に置換している場合が多く、環Zがナフタレン環である場合には、ナフチル基の5〜8位のいずれかに置換している場合が多く、例えば、フルオレンの9位に対してナフタレン環の1位または2位が置換し(1−ナフチルまたは2−ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5位、2,6位などの関係(特にnが1である場合、2,6位の関係)で基X1が置換している場合が多い。また、nが2以上である場合、置換位置は、特に限定されない。また、環集合アレーン環Zにおいて、基X1の置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9位に結合したアレーン環および/またはこのアレーン環に隣接するアレーン環に置換していてもよい。例えば、ビフェニル環Zの3位または4位がフルオレンの9位に結合していてもよく、ビフェニル環Zの3位がフルオレンの9位に結合しているとき、基X1の置換位置は、2,4,5,6,2’,3’,4’位のいずれであってもよく、好ましくは6位に置換していてもよい。
前記式(1)において、置換基R2としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1−10アルキル基、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1−6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1−4アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基など)、アリール基[フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル(トリル)基、ジメチルフェニル(キシリル)基など)、ビフェニル基、ナフチル基などのC6−12アリール基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1−10アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基など)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC1−10アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(例えば、チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基など)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基など)、アシル基(例えば、アセチル基などのC1−6アシル基など)、ニトロ基、シアノ基などが例示できる。
これらの置換基R2のうち、代表的には、ハロゲン原子、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基)、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。好ましい置換基R2としては、アルコキシ基(メトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1−4アルコキシ基など)、特に、アルキル基(特に、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1−4アルキル基)が好ましい。なお、置換基R2がアリール基であるとき、置換基R2は、環Zとともに、前記環集合アレーン環を形成してもよい。置換基R2の種類は、同一のまたは異なる環Zにおいて、同一または異なっていてもよい。
置換基R2の数pは、環Zの種類などに応じて適宜選択でき、例えば0〜8程度の整数であってもよく、0〜4の整数、好ましくは0〜3(例えば0〜2)の整数、さらに好ましくは0または1であってもよい。特に、pが1である場合、環Zがベンゼン環、ナフタレン環またはビフェニル環、置換基R2がメチル基であってもよい。
置換基R1としては、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基)、アリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基)などが挙げられる。
これらの置換基R1のうち、直鎖状または分岐鎖状C1−4アルキル基(特に、メチル基などのC1−3アルキル基)、カルボキシル基またはC1−2アルコキシ−カルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子が好ましい。置換数kは0〜4(例えば0〜3)の整数、好ましくは0〜2の整数(例えば0または1)、特に0である。なお、置換数kは、互いに同一または異なっていてもよく、kが2以上である場合、置換基R1の種類は互いに同一または異なっていてもよく、フルオレン環の2つのベンゼン環に置換する置換基R1の種類は同一または異なっていてもよい。また、置換基R1の置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2位ないし7位(2位、3位および/または7位など)であってもよい。
これらのうち、好ましいフルオレン化合物としては、基X1が、基−[(OA)m1−Y1](式中、Y1がヒドロキシル基を示す)である場合、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(5−ヒドロキシ−1−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC6−12アリール)フルオレン;9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジまたはトリヒドロキシC6−12アリール)フルオレン;9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノまたはジC1−4アルキル−ヒドロキシC6−12アリール)フルオレン;9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−フェニル−3−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−12アリール−ヒドロキシC6−12アリール)フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[5−(2−ヒドロキシエトキシ)−1−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシ−C6−12アリール)フルオレン;9,9−ビス[3−メチル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシ−C6−12アリール)フルオレン;9,9−ビス[3−フェニル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−フェニル−3−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(C6−12アリール−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシ−C6−12アリール)フルオレンなどが挙げられる。
基X1が、基−[(OA)m1−Y1](式中、Y1がグリシジルオキシ基を示す)である場合の好ましいフルオレン化合物としては、9,9−ビス(グリシジルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(5−グリシジルオキシ−1−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(6−グリシジルオキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(4−(2−グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−グリシジルオキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(5−(2−グリシジルオキシエトキシ)−1−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(6−(2−グリシジルオキシエトキシ)−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(アルキル−グリシジルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−メチル−4−グリシジルオキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノまたはジC1−4アルキル−グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(アルキル−グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−メチル−4−(2−グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノまたはジC1−4アルキル−グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(アリール−グリシジルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−フェニル−4−グリシジルオキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−10アリール−グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(アリール−グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−フェニル−4−(2−グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−10アリール−グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ)アリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3,4−ジ(グリシジルオキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ)C6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシ)アリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3,4−ジ(2−グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシ)C6−10アリール)フルオレンなどが例示できる。
これらのフルオレン化合物(B1)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。なお、「(ポリ)アルコキシ」は、アルコキシ基およびポリアルコキシ基の双方を含む意味に用いる。
(セルロースナノ繊維)
修飾セルロースナノ繊維(B)を構成するセルロースナノ繊維(またはセルロースナノファイバー)は、セルロース(セルロース原料)をナノオーダーまで微細化(またはミクロフィブリル化)したセルロース繊維や、微生物由来のナノメータサイズのセルロース繊維である。前記セルロースナノ繊維としては、リグニン、ヘミセルロースなどの非セルロース成分の含有量が少ないパルプ、例えば、植物由来のセルロース原料{例えば、木材[例えば、針葉樹(マツ、モミ、トウヒ、ツガ、スギなど)、広葉樹(ブナ、カバ、ポプラ、カエデなど)など]、草本類[麻類(麻、亜麻、マニラ麻、ラミーなど)、ワラ、バガス、ミツマタなど]、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、竹、サトウキビなど}、動物由来のセルロース原料(ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース原料(ナタデココに含まれるセルロースなど)などから製造されたパルプなどが例示できる。これらのセルロースナノ繊維は単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのセルロースナノ繊維のうち、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなど)、種子毛繊維パルプ(例えば、コットンリンターパルプ)由来のセルロースナノ繊維などが好ましい。なお、パルプは、パルプ材を機械的に処理した機械パルプであってもよいが、非セルロース成分の含有量が少ないことからパルプ材を化学的に処理した化学パルプが好ましい。
セルロースナノ繊維(または原料セルロースナノ繊維)の平均繊維径および平均繊維長は、修飾セルロースナノ繊維の平均繊維径および平均繊維長が、後述する範囲となるように選択できる。セルロースナノ繊維の平均繊維径、平均繊維長および平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は、後述する修飾セルロースナノ繊維の範囲と同一であってもよく、通常、略同一である。
セルロースナノ繊維は、結晶性の高いセルロース(またはセルロース繊維)であってもよく、セルロースの結晶化度は、例えば40〜100%(例えば50〜100%)、好ましくは60〜100%、さらに好ましくは70〜100%(特に75〜100%)程度であってもよく、通常、結晶化度が60%以上(例えば60〜99%)であってもよい。また、セルロースの結晶構造としては、例えば、I型、II型、III型、IV型などが例示でき、線膨張特性や弾性率などに優れたI型結晶構造が好ましい。
(修飾セルロースナノ繊維(B)およびその製造方法)
修飾セルロースナノ繊維(または変性セルロースナノ繊維)(B)は、前記セルロースナノ繊維と前記フルオレン化合物(B1)とが結合したセルロース誘導体である。
修飾セルロースナノ繊維(B)の化学修飾(または結合)の形態は、特に限定されず、例えば、フルオレン化合物(B1)が前記式(1)で表されるフルオレン化合物の場合、フルオレン化合物(B1)の反応性基(ヘテロ原子含有官能基)の種類に応じて適宜選択できる。具体的には、前記式(1)において、Y1がヒドロキシル基である場合、セルロースナノ繊維のヒドロキシル基および/またはカルボキシル基と前記式(1)で表されるフルオレン化合物のヒドロキシル基とのエーテル結合および/またはエステル結合であってもよく、Y1がグリシジルオキシ基である場合、セルロースナノ繊維のヒドロキシル基および/またはカルボキシル基と前記式(1)で表されるフルオレン化合物のグリシジル基とのエーテル結合および/またはエステル結合であってもよい。なお、セルロースナノ繊維のカルボキシル基は、パルプなどの製造過程で形成される場合がある。
修飾セルロースナノ繊維(B)は、所定の触媒の存在下、原料セルロースナノ繊維と前記フルオレン化合物(B1)とを反応させて製造してもよく、シリコーンゴム(A)中において、原料セルロースナノ繊維と前記フルオレン化合物(B1)とを混練する過程で反応させて製造してもよい。
原料セルロースナノ繊維の割合は、フルオレン化合物(B1)の反応性基に応じて選択できるが、例えば、フルオレン化合物(B1)100質量部に対して、0.1〜500質量部(例えば1〜300質量部)程度の範囲から選択でき、例えば5〜200質量部(特に10〜150質量部)程度であってもよい。
触媒を使用する場合、触媒もフルオレン化合物の反応性基に応じて選択でき、反応性基がヒドロキシル基の場合、酸触媒を利用してもよい。酸触媒としては、ブレンステッド酸、例えば、硫酸、塩酸、リン酸などの無機酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸、固体酸[例えば、ヘテロポリ酸(タングステン系ヘテロポリ酸、モリブデン系ヘテロポリ酸など)、陽イオン交換樹脂(スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂、スルホン酸基を有する含フッ素陽イオン交換樹脂、カルボン酸基を有する弱酸性陽イオン交換樹脂など)]などが挙げられる。これらの酸触媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
反応性基がグリシジル基の場合、塩基触媒を利用してもよい。塩基触媒は、無機塩基および有機塩基のいずれであってもよい。無機塩基としては、例えば、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ金属炭酸塩などが例示できる。有機塩基としては、三級アミン類、例えば、トリアルキルアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミンなど)、アルカノールアミン(トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなど)、複素環式アミン(N−メチルモルホリンなど)、ヘキサメチレンテトラミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)などが挙げられる。これらの塩基触媒も単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
触媒の使用量は、触媒の種類に応じて選択できるが、原料セルロースナノ繊維100質量部に対して、例えば0.01〜100質量部程度の範囲から適当に選択でき、通常0.01〜20質量部(例えば0.1〜18質量部)、好ましくは0.5〜18質量部(例えば1〜17質量部)、さらに好ましくは3〜15質量部(特に5〜15質量部)程度であってもよい。
触媒を用いる場合、反応は有機溶媒の非存在下で行ってもよいが、通常、有機溶媒の存在下で行われる。この有機溶媒は原料セルロースナノ繊維に含浸していてもよいが、原料セルロースナノ繊維を有機溶媒に分散させた分散系で反応させる場合が多い。原料セルロースナノ繊維を有機溶媒に分散させた分散系で、原料セルロースナノ繊維と前記フルオレン化合物(B1)とを反応させると、均一に反応させることができる。このような方法で得られた修飾セルロースナノ繊維(B)は、取り扱い性および分散性が高い。
原料セルロースナノ繊維(特に、ミクロフィブリル化した繊維、平均繊維径がナノメーターサイズのナノ繊維)を乾燥すると、繊維が絡み合って再分散できなくなる場合がある。そのため、通常、原料セルロースナノ繊維は水含浸または水分散液として市販されている場合が多い。このような水分散液では、水分散液の水を有機溶媒に置換する慣用の溶媒置換法、例えば、原料セルロースナノ繊維の水分散液に水溶性溶媒を添加混合し、原料セルロースナノ繊維を分離(または溶媒を除去)した後、さらに有機溶媒を添加混合する操作を繰り返す方法などにより、原料セルロースナノ繊維が有機溶媒に分散した分散液を調製できる。なお、沸点が水よりも高い水溶性有機溶媒を用いる場合、水を蒸留(共沸蒸留を含む)して除去することにより溶媒置換できる。
水溶性有機溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのC1−4アルカノールなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、ケトン類(アセトンなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのC2−4アルカンジオール)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、カルビトール類(エチルカルビトールなど)、カーボネート類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせてもよい。
なお、水溶性有機溶媒を用いて溶媒置換したセルロース含有分散液において、水溶性有機溶媒は、前記と同様にして、非水溶性有機溶媒に溶媒置換することもできる。非水溶性有機溶媒としては、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテルなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、ニトリル類(ベンゾニトリルなど)、セロソルブアセテート類、カルビトールアセテート類、炭化水素類(ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、トルエンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエチレンなど)などが例示できる。これらの非水溶性有機溶媒も単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
これらの有機溶媒のうち、非プロトン性溶媒、特に非プロトン性極性溶媒(例えば、エーテル類、ケトン類、アミド類、スルホキシド類など)が好ましい。
有機溶媒(例えば、非プロトン性極性溶媒)の溶解度パラメーター(SP値、(cal/cm)2)は8〜15(例えば8.5〜15)程度であってもよく、通常9〜14.5(例えば10〜14.5)程度であってもよい。
分散液中の原料セルロースナノ繊維の固形分濃度は、例えば0.01〜30質量%(例えば0.1〜20質量%)、好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは3〜12質量%(例えば5〜10質量%)程度であってもよい。固形分濃度が低すぎると、反応効率が低下する虞がある。
触媒を用いる場合、反応は、減圧下で行ってもよいが、通常、加圧下または常圧下で行う場合が多い。反応温度は、溶媒の沸点などにより適宜選択でき、例えば50〜200℃(例えば70〜170℃)、好ましくは80〜150℃(例えば100〜130℃)程度であってもよい。なお、反応は溶媒の還流下で行ってもよい。また、反応時間は、特に限定されず、例えば10分〜48時間(例えば30分〜24時間)程度である。さらに、反応は、空気中または不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガスなどの希ガスなど)雰囲気下、攪拌しながら行うことができる。
なお、反応は、反応系を撹拌しながら行ってもよく、原料セルロース繊維として、ナノメータサイズではないセルロースまたは繊維(例えば、平均繊維径がミクロンメータサイズの繊維、パルプ繊維など)を使用し、セルロースまたは繊維に機械的剪断力を作用させながら行い、セルロースを微細化した修飾セルロースナノ繊維を得てもよい。さらに、反応終了後に解繊して修飾セルロース繊維を微細化してもよい。
触媒を用いた反応により生成した修飾セルロースナノ繊維(B)は、慣用の方法(例えば、遠心分離、濾過、濃縮、抽出など)により分離精製してもよい。例えば、少なくとも前記フルオレン化合物(B1)を溶解可能な溶媒を反応混合物に添加し、前記遠心分離、濾過、抽出などの分離法(慣用の方法)で未反応フルオレン化合物を除去し、分離精製してもよい。なお、前記分離操作は複数回(例えば2〜5回程度)行うことができる。さらに、分離精製した修飾セルロースを加熱下または減圧下あるいは常圧下で乾燥することにより、粉末状の形態を有する修飾セルロース繊維を得ることができる。
なお、未反応フルオレン化合物を前記分離方法などにより繰り返し除去して精製した修飾セルロースを、ラマン分析などの方法により分析すると、セルロースに由来するピークとフルオレン化合物に由来するピークとが存在し、セルロースにフルオレン化合物が結合していることが確認できる。
一方、未加硫ゴム成分中での混練によって修飾セルロースナノ繊維を製造する場合は、後述するように、ゴム組成物の製造過程で修飾セルロースナノ繊維が得られる。
(修飾セルロースナノ繊維(B)の特性)
触媒を用いて得られた修飾セルロースナノ繊維(B)は、通常、粉末状の形態を有しており、取り扱い性に優れる。また、前記フルオレン化合物(B1)の修飾割合(結合量)が、比較的少なくても、修飾セルロースナノ繊維(B)は粉末状の形態を有していてもよい。
セルロースナノ繊維に結合したフルオレン化合物(B1)の割合(修飾率)は、修飾セルロースナノ繊維(B)の総量に対して0.01〜33質量%(例えば1〜25質量%)程度の範囲から選択できる。特に、フルオレン化合物(B1)の基X1が基−[(OA)m1−Y1](式中、Y1がヒドロキシル基を示す)である場合、前記修飾率は、修飾セルロースナノ繊維(B)の総量に対して0.01〜30質量%程度の範囲から選択でき、例えば0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜25質量%(例えば1〜25質量%)、さらに好ましくは2〜20質量%(特に3〜20質量%)程度であってもよい。また、フルオレン化合物(B1)の基X1が基−[(OA)m1−Y1](式中、Y1がグリシジルオキシ基を示す)である場合、前記修飾率は0.01〜33質量%程度(例えば0.1〜30質量%)、好ましくは1〜25質量%(例えば2〜25質量%)、さらに好ましくは3〜20質量%(特に5〜20質量%)程度であってもよい。
修飾率が大きすぎると、水性溶媒に対する分散性、低線熱膨張係数などの特性が低下する虞があり、逆に小さすぎると、粉体状の形態を形成できなくなり、取り扱い性が低下し易くなったり、ゴム組成物中でのゴム成分との分散性(または混和性)が低下する虞がある。修飾率は、後述する実施例に記載の方法などにより測定できる。
修飾セルロースナノ繊維(B)の平均繊維径は、例えば1〜1000nm(例えば2〜800nm)、好ましくは3〜500nm(例えば5〜300nm)、さらに好ましくは10〜200nm(特に15〜100nm)程度であってもよい。平均繊維径が大きすぎると、加硫シリコーンゴム組成物の強度などの特性が低下する虞がある。なお、セルロースナノ繊維の最大繊維径は、例えば3〜1000nm(例えば4〜900nm)、好ましくは5〜700nm(例えば10〜500nm)、さらに好ましくは15〜400nm(特に20〜300nm)程度であってもよい。なお、セルロースナノ繊維は、繊維径がマイクロメータサイズのセルロース繊維を実質的に含んでいない場合が多い。
修飾セルロースナノ繊維(B)の平均繊維長は、例えば0.01〜500μm(例えば0.1〜400μm)程度の範囲から選択でき、通常1μm以上(例えば5〜300μm)、好ましくは10μm以上(例えば20〜200μm)、さらに好ましくは30μm以上(特に50〜150μm)であってもよい。平均繊維長が短すぎると、加硫シリコーンゴム組成物の機械的特性が低下する虞があり、逆に長すぎると、シリコーンゴム組成物中での分散性が低下する虞がある。
修飾セルロースナノ繊維(B)の平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は、例えば5以上(例えば5〜10000程度)、好ましくは10以上(例えば10〜5000程度)、さらに好ましくは20以上(例えば20〜3000程度)、特に50以上(例えば50〜2000程度)であってもよく、100以上(例えば100〜1000程度)、さらには200以上(例えば200〜800程度)であってもよい。また、アスペクト比が小さすぎると、シリコーンゴム(A)に対する補強効果が低下し、アスペクト比が大きすぎると、均一な分散が困難となり、繊維が分解(または損傷)し易くなる虞がある。
なお、本明細書および特許請求の範囲では、修飾セルロースナノ繊維(B)(または原料セルロースナノ繊維)の平均繊維径、平均繊維長およびアスペクト比は、走査型電子顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出してもよい。
修飾セルロースナノ繊維(B)は、前記フルオレン化合物(B1)の修飾により疎水性が向上するためか、水分含有量が少ない。すなわち、水分含有量は、温度25℃、湿度60%の条件下、1昼夜放置したとき、0〜7質量%(例えば0〜5質量%)、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.3〜3質量%程度であってもよい。なお、水分含有量は、近赤外線分析計などを用いて測定できる。
修飾セルロースナノ繊維(B)の嵩密度(見掛密度)は、温度25℃、湿度60%の条件下において、JIS K7365−1999に準拠して測定したとき、例えば0.01〜0.7g/ml、好ましくは0.05〜0.5g/ml、さらに好ましくは0.1〜0.3g/ml程度であってもよい。なお、嵩密度Pは、所定重量Wの修飾セルロースナノ繊維をメスシリンダーに入れて体積Vを測定し、式P=W/Vで算出できる。
修飾セルロースナノ繊維(B)は、流動性が高く、安息角が、温度25℃、湿度60%の条件下において、JIS R9301−2−2に準拠して測定したとき、例えば20〜45°、好ましくは25〜40°、さらに好ましくは30〜35°程度であってもよい。流動性が大きすぎると、取り扱い性が低下し、逆に小さすぎると、分散性が低下するおそれがある。
修飾セルロースナノ繊維(B)は、粘稠な液体を形成することなく、ナノファイバーの形態を維持している。そのため、比較的分子量(または重合度)が大きく、粘度平均重合度は、例えば100〜10000、好ましくは200〜5000、より好ましくは300〜2000程度であってもよい。
粘度平均重合度は、TAPPI T230に記載の粘度法により測定できる。すなわち、修飾セルロースナノ繊維(または原料セルロースナノ繊維)0.04gを精秤し、水10mLと1M銅エチレンジアミン水溶液10mLとを加え、5分間程度攪拌して修飾セルロースを溶解する。得られた溶液をウベローデ型粘度管に入れ、25℃下で流下速度を測定する。水10mLと1M銅エチレンジアミン水溶液10mLとの混合液をブランクとして測定する。これらの測定値に基づいて算出した固有粘度[η]を用い、木質科学実験マニュアル(日本木材学会編、文永堂出版)に記載の下記式に従って粘度平均重合度を算出できる。
粘度平均重合度=175×[η]
また、本発明のシリコーンゴム組成物において、修飾セルロースナノ繊維(B)の特性(例えば、低線熱膨張特性、強度、耐熱性など)を有効に発現させる場合、結晶性の高い修飾セルロースナノ繊維が好ましい。前記のように、修飾セルロースはセルロースナノ繊維の結晶性を維持できるため、修飾セルロースナノ繊維(B)の結晶化度は前記セルロースナノ繊維の数値をそのまま参照できる。例えば、修飾セルロースの結晶化度は、40〜100%(例えば50〜100%)、好ましくは60〜100%(例えば65〜100%)、さらに好ましくは70〜100%(特に75〜100%)程度であってもよく、通常、結晶化度が60%以上(例えば75〜99%程度)であってもよい。結晶化度が小さすぎると、線熱膨張特性や強度などの特性を低下させるおそれがある。セルロースの結晶構造としては、例えば、I型、II型、III型、IV型などが例示でき、低線膨張特性および弾性率などが高いI型結晶構造が好ましい。なお、結晶化度は、粉末X線回折装置((株)リガク製「Ultima IV」)などを用いて測定できる。
修飾セルロースナノ繊維(B)の割合は、シリコーンゴム(A)100質量部に対して0.1〜30質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.2〜25質量部、好ましくは0.3〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(特に1〜10質量部)程度である。特に、引き裂き強度を向上できる点から、修飾セルロースナノ繊維(B)の割合は、シリコーンゴム(A)100質量部に対して、例えば1〜12質量部、好ましくは2〜10質量部、さらに好ましくは3〜8質量部(特に4〜6質量部)程度である。修飾セルロースナノ繊維(B)の割合が少なすぎると、加硫シリコーンゴム組成物の機械的特性が低下する虞があり、逆に多すぎると、加硫シリコーンゴム組成物の成形性が低下する虞がある。
本発明では、シリコーンゴム(A)に対して、修飾セルロースナノ繊維(B)を前記割合で添加することにより、加硫シリコーンゴム組成物の機械的特性を向上できる。さらに、修飾セルロースナノ繊維(B)の原料である未修飾のセルロースナノ繊維も、シリコーンゴム(A)に添加することにより、加硫シリコーンゴム組成物の耐熱性を向上できる。セルロースナノ繊維の割合も、前記修飾セルロースナノ繊維(B)の添加量(組成物中の前記割合)と同一の範囲から選択できる。加硫シリコーンゴム組成物の機械的特性を大きく向上できる点からは、未修飾のセルロースナノ繊維よりも、修飾セルロースナノ繊維(B)の方が好ましい。
[補強剤(C)]
本発明のシリコーンゴム組成物は、硬度や強度などの機械的特性を向上させるために、シリコーンゴム(A)および修飾セルロースナノ繊維(B)に加えて、補強剤(C)をさらに含んでいてもよい。
補強剤(C)としては、慣用の補強剤を利用でき、例えば、粒状補強剤(カーボンブラックやグラファイトなどの炭素質材料;酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)などの金属酸化物;ケイ酸カルシウムやケイ酸アルミニウムなどの金属ケイ酸塩;炭化ケイ素や炭化タングステンなどの金属炭化物;窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの金属窒化物;炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウムや硫酸バリウムなどの金属硫酸塩;ゼオライト、ケイソウ土、焼成ケイソウ土、活性白土、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、クレーなどの鉱物質材料など)、繊維状補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、ウィスカー、ワラストナイトなどの無機繊維;ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、セルロース繊維などの有機繊維など)などが挙げられる。これらの補強剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
また、前記補強剤のうち、セルロース繊維は、セルロースナノ繊維であってもよい。さらに、セルロースナノ繊維は、原料セルロースナノ繊維とフルオレン化合物(B1)とを混練する過程で反応させて修飾セルロースナノ繊維を製造した場合において、フルオレン化合物(B1)と反応せずに残存したセルロースナノ繊維であってもよい。
これらの補強剤のうち、カーボンブラックや炭酸カルシウム、シリカなどの粒状補強剤(特に粒状無機補強剤)が汎用され、修飾セルロースナノ繊維(B)との組み合わせにより、加硫シリコーンゴム組成物の機械的特性(特に、伸び特性)を大きく向上できる点から、カーボンブラック、シリカ(表面改質したシリカを含む)が好ましく、シリコーンゴム(A)との相容性に優れる点から、表面改質シリカが特に好ましい。本発明では、修飾セルロースナノ繊維(B)は、シリコーンゴム(A)中における自身の分散性だけでなく、粒状補強剤(特にシリカなどの粒状無機補強剤)との相容性も高く、粒状補強剤の分散性も向上できる。
シリカとしては、例えば、乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、コロイダルシリカ、沈降シリカなどが挙げられる。これらのシリカは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。シリカの表面は、シランカップリング剤などの処理剤で表面処理されていてもよい。
粒状無機補強剤の形状は、特に制限されず、球状、楕円球状、多面体状[例えば、立方体状、直方体状、四面体状(ピラミッド状)など]、扁平状(板状、鱗片状または薄片状)、層状、ロッド状、針状、不定形状などであってもよい。また、粒状無機補強剤は多孔質形状であってもよい。これらのうち、略球状などの等方形状が好ましい。
粒状無機補強剤の平均粒径(個数平均一次粒径)は、例えば1〜1000nm、好ましくは3〜300nm、さらに好ましくは5〜100nm(特に10〜50nm)程度である。粒状無機補強剤の粒径が大きすぎると、加硫ゴム組成物の機械的特性が低下する虞があり、小さすぎると、均一に分散するのが困難となる虞がある。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、粒状無機補強剤の平均粒径は、慣用の方法、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)写真に基づいて測定できる。
補強剤(C)の割合は、シリコーンゴム(A)100質量部に対して3〜300質量部程度の範囲から選択でき、例えば5〜200質量部、好ましくは8〜150質量部、さらに好ましくは10〜100質量部(特に15〜80質量部)程度である。補強剤の割合が少なすぎると、加硫シリコーンゴム組成物の機械的特性を向上させる効果が低下する虞があり、逆に多すぎると、加硫シリコーンゴム組成物の伸びや強度などが低下する虞がある。
[架橋剤(D)]
本発明のシリコーンゴム組成物は、架橋剤(加硫剤)(D)を含んでいてもよい。架橋剤(D)は、シリコーンゴムの種類に応じて慣用の架橋剤を利用できる。
慣用の架橋剤としては、例えば、有機過酸化物[ジアシルパーオキシド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキシド(ジクミルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキシドなど)など]、スズ塩(スズ石けんなど)、白金族金属系化合物(例えば、白金微粉末、白金黒、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金とオレフィンとの錯体、白金とアルケニルシロキサンとの錯体、白金−リン錯体などの白金系触媒、これらの白金系触媒に対応するパラジウム系触媒、ロジウム系触媒など)などが挙げられる。これらの架橋剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ジラウロイルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシドなどのジアシルパーオキシドが汎用される。
架橋剤(D)の割合は、シリコーンゴム100質量部に対して、例えば0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部、さらに好ましくは0.5〜3質量部(特に1〜2質量部)程度である。
[硬化剤(E)]
本発明のシリコーンゴム組成物は、シリコーンゴムが二液硬化型シリコーンゴムである場合、硬化剤(E)を含んでいてもよい。
硬化剤(E)としては、慣用の硬化剤を利用できる。シリコーンゴムがアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン(特に、ビニル基を有するポリジメチルシロキサン)であり、ヒドロシリル化反応を利用した二液硬化型シリコーンゴムである場合、硬化剤は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン[特に、ケイ素原子に結合した複数の水素原子(ヒドリド基又は水素化ケイ素)を有するポリジメチルシロキサン]であってもよい。
硬化剤(E)の割合は、シリコーンゴム100質量部に対して、例えば1〜30質量部、好ましくは3〜20質量部、さらに好ましくは5〜15質量部程度である。
[軟化剤(F)]
本発明のシリコーンゴム組成物は、修飾セルロースナノ繊維(B)などの添加剤の組成物中における分散性を向上させるために、シリコーンゴム(A)および修飾セルロースナノ繊維(B)に加えて、軟化剤(F)をさらに含んでいてもよい。軟化剤(F)には、シリコーンゴム(A)に相容して未加硫シリコーンゴム組成物の粘度を低減できる軟化剤として、オイル類などが含まれる。オイル類としては、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、プロセスオイルなどが挙げられる。これらの軟化剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの軟化剤のうち、パラフィン系オイルやナフテン系オイルなどのオイル類が好ましい。
軟化剤(F)の割合は、シリコーンゴム(A)の種類に応じて適宜選択でき、シリコーンゴム(A)100質量部に対して0.1〜500質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.5〜400質量部(例えば1〜300質量部)、好ましくは1〜200質量部、さらに好ましくは3〜100質量部程度である。軟化剤(F)の割合が少なすぎると、修飾セルロースナノ繊維(B)などの添加剤の分散性を向上できない虞があり、逆に多すぎると、加硫シリコーンゴム組成物の機械的特性が低下する虞がある。
[可塑剤(G)]
本発明のシリコーンゴム組成物は、成形性などを向上させるために、シリコーンゴム(A)および修飾セルロースナノ繊維(B)に加えて、可塑剤(G)をさらに含んでいてもよい。可塑剤(G)としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなどが挙げられる。これらの可塑剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ステアリン酸などの高級脂肪酸が好ましい。可塑剤(G)の割合は、シリコーンゴム(A)100質量部に対して、例えば0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部、さらに好ましくは1〜3質量部程度である。可塑剤(G)の割合が少なすぎると、成形性を向上する効果が低下する虞があり、逆に多すぎると、加硫シリコーンゴム組成物の機械的特性が低下する虞がある。
[他の添加剤(H)]
本発明のシリコーンゴム組成物は、シリコーンゴム(A)の種類に応じて、加硫ゴムに添加される慣用の添加剤を含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、加硫助剤、樹脂成分(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など)、溶剤、加硫遅延剤、分散剤、老化または酸化防止剤(芳香族アミン系、ベンズイミダゾール系老化防止剤など)、着色剤(例えば、染顔料など)、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定剤など)、離型剤、潤滑剤、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、帯電防止剤、導電剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤、核剤、結晶化促進剤、抗菌剤、防腐剤などが挙げられる。
これら他の添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。他の添加剤の割合は、シリコーンゴム(A)100質量部に対して、例えば0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜30質量部、さらに好ましくは1〜10質量部程度であってもよい。
[シリコーンゴム組成物の製造方法]
本発明のシリコーンゴム組成物は、未架橋のシリコーンゴム(A)と、9,9位にアリール基を有するフルオレン化合物(B1)が結合した修飾セルロースナノ繊維(B)および/またはその原料とを混練する混練工程を経て得られる。さらに、本発明では、混練工程で得られた混練組成物を加硫して加硫シリコーンゴム組成物を得る加硫工程を経て加硫シリコーンゴム組成物が得られる。
混練工程において、修飾セルロースナノ繊維(B)は、その原料であるフルオレン化合物(B1)および未修飾セルロースナノ繊維であってもよく、これらの原料を添加することにより、混練工程および/または加硫工程によって修飾セルロースナノ繊維(B)が生成する。
混練工程において、シリコーンゴム(A)および修飾セルロースナノ繊維(B)を含む組成物の混練方法としては、慣用の方法を利用でき、例えば、ミキシングローラ、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機(一軸または二軸押出機など)などを用いた方法などを利用できる。これらのうち、加圧式ニーダーなどのニーダーが好ましい。
混練工程では、シリコーンゴム(A)および修飾セルロースナノ繊維(B)(またはその原料)を含む各成分を一括添加して混練してもよいが、修飾セルロースナノ繊維(B)などの成分を組成物中に均一に分散させるために、修飾セルロースナノ繊維(B)を間欠的に添加して混練してもよい。また、架橋剤(D)及び/又は硬化剤(E)は、架橋が進行するのを抑制する点からも、最後に添加して混練してもよい。
混練は、非加熱下、加熱下のいずれで行ってもよい。加熱する場合、混練温度は、例えば、例えば30〜250℃、好ましくは40〜225℃、さらに好ましくは50〜200℃程度である。
加硫工程において、加硫温度は、ゴム成分(A)の種類に応じて選択でき、例えば80〜250℃、好ましくは100〜200℃、さらに好ましくは110〜150℃程度である。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、用いた原料および評価方法は以下の通りである。
(使用原料)
BPFG:9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン
シリコーンゴムQ:富士高分子工業(株)製「Silicone rubber(Q)」、メチルシリコーンゴム、密度1.22g/cm−3、ガラス転移温度−125℃
シリコーンゴムC:富士高分子工業(株)製「Silicone rubber Type C」、ビニル変性メチルシリコーンゴム(変性量1モル%以下)ミラブルタイプシリカ(表面処理シリカ)含有(シリコーンゴム100質量部に対して25質量部含有)
結晶シリカ(C−SiO2):福島珪石、表面修飾なし。
(修飾セルロースナノ繊維に結合したフルオレン化合物の修飾率)
フルオレン化合物の修飾率(以下フルオレン修飾率)は、ラマン顕微鏡(HORIBA JOBIN YVON社製、XploRA)を使用してラマン分析を行い、芳香族環(1604cm−1)とセルロースの環内CH(1375cm−1)との吸収バンドの強度比(I1604/I1375)により算出した。なお、算出にあたっては、フルオレン化合物を所定量含有するジアセチルセルロース((株)ダイセル製)フィルムを、溶液キャスト法により作成し、これらの強度比(I1604/I1375)から作成した検量線を用いた。すべてのサンプルは3回測定し、その結果から算出される値の平均値をフルオレン修飾率とした。
(修飾セルロースナノ繊維の合成)
セルロースナノ繊維の水分散液(固形分濃度15質量%)100gをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)500gに分散して遠心分離した後、沈降した固形分をさらに500gのDMAcに分散して再び遠心分離することにより、溶媒置換し、セルロースナノ繊維とDMAcとの混合物(セルロース含量約10質量%)を得た。この混合物を1000mLの三口フラスコに移し、さらにDMAc350g、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン(BPFG)15g、ジアザビシクロウンデセン(DBU)10gを加え、120℃で3時間攪拌した。得られた混合液を遠心分離で回収し、1200mLのDMAcで洗浄する工程を3回繰り返し、乾燥状態の修飾セルロースナノ繊維(B−CNF)を得た。得られたB−CNFの平均繊維径は213nmであり、平均繊維長は30μmであった。フルオレン化合物の修飾率は12質量%であった。なお、使用した原料である植物由来のセルロースナノ繊維をSEM(日本電子(株)製「JSM−6510」)で観察したSEM写真を図1に示す。
(未修飾セルロースナノ繊維の調製)
セルロースナノ繊維の水分散液(ダイセルファインケム(株)製、「セリッシュKY110N」、セルロース:水(質量比)=15/85)100g(固形分15g)を用いた。
(貯蔵弾性率)
得られたフィルムを、動的粘弾測定装置の引張モード(周波数8Hz、昇温速度3℃/分、試験片のひずみ0.015%)にて−50℃〜100℃までの貯蔵弾性率(動的粘弾性)を測定した。
(引張試験)
JIS K6251に準拠し、得られたフィルムで試験片を作製し、引張試験機(ミネベア社製「LTS−1kN」)を用いて、以下の条件で引張応力(弾性率)および引張強さを測定した。
試験片:ダンベル8号、厚さ2mm
引っ張り速度:5mm/min
初期チャック間距離:30mm
ロードセル:1kN
測定回数:5回。
(引裂き試験)
得られたフィルムで試験片を作製し、小型卓上試験機((株)島津製作所製「EZ Test/CE」)を用いて、以下の条件で引張応力および引張強さを測定した。ダンベルとしては、図2に示すサイズのダンベルを使用し、1mmのノッチ(切れ込み)を入れる前のダンベルでの測定結果と、ノッチを入れたダンベルでの測定結果とを比較した。
引っ張り速度:20mm/min
歪み速度:2/min
初期チャック間距離:30mm
ロードセル:10N
測定回数:5回。
参考例1(ブランクQ)
卓上ホットプレス機((株)井本製作所製「MH−10」)を用いて、シリコーンゴムQを溶融温度120℃、ジャッキ油圧30MPa(4.8t)で2分加圧し、30秒間かけて圧抜きした後、さらに同条件で7.5分加圧した後、空冷し、フィルムを得た。
実施例1(B−CNF5質量%)
ラボプラストミル((株)東洋精機製「50M」)を用いて、シリコーンゴムQ100質量部および修飾セルロースナノ繊維(B−CNF)5質量部を、温度30℃、20rpmで2分間混練した後、50rpmでさらに6分間混錬し、シリコーンゴム組成物を調製した。シリコーンゴムQの代わりに得られたシリコーンゴム組成物を用いる以外は参考例1と同様の方法でフィルムを得た。
実施例2(B−CNF10質量%)
B−CNFの添加量を10質量部に変更する以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
参考例2(CNF5質量%)
B−CNFの代わりに未修飾セルロースナノ繊維(CNF)を固形分でシリコーンゴムQ100質量部に対して5質量部用いる以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
参考例3(CNF10質量%)
CNFの添加量を10質量部に変更する以外は参考例2と同様の方法でフィルムを得た。
比較例1(SiO2 5phr)
ラボプラストミル((株)東洋精機製「50M」)を用いて、シリコーンゴムQ400質量部およびシリコーンゴムC100質量部を、温度30℃、20rpmで2分間混練した後、50rpmでさらに6分間混錬し、シリコーンゴム組成物を調製した。シリコーンゴムQの代わりに得られたシリコーンゴム組成物を用いる以外は参考例1と同様の方法でフィルムを得た。
比較例2(SiO2 10phr)
シリコーンゴムQの添加量を150質量部に変更する以外は比較例1と同様の方法でフィルムを得た。
比較例3(SiO2 20phr)
シリコーンゴムQの添加量を25質量部に変更する以外は比較例1と同様の方法でフィルムを得た。
比較例4(SiO2 25phr)
シリコーンゴムQを添加せず、シリコーンゴムCを単独で用いる以外は比較例1と同様の方法でフィルムを得た。
比較例5(C−SiO2 5質量%)
B−CNFの代わりに結晶シリカ(C−SiO2)を用いる以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
比較例6(C−SiO2 10質量%)
C−SiO2の添加量を10質量部に変更する以外は比較例5と同様の方法でフィルムを得た。
参考例1〜3および実施例1〜2で得られたフィルムの貯蔵弾性率を測定した結果を図3に示し、参考例1および比較例1〜6で得られたフィルムの貯蔵弾性率を測定した結果を図4に示す。図3および4の結果から明らかなように、実施例のフィルムは、参考例および比較例のフィルムよりも、広い範囲で高い貯蔵弾性率を有していた。
参考例2、実施例1および比較例1で得られたフィルムの引張試験の結果と引裂試験の結果とを比較したグラフを図5〜7に示す。なお、図5において「参考例2」は引張強度を示し「参考例2(ノッチ)」は引裂強度を示す。図6及び7も同様である。
図5〜7の結果から明らかなように、実施例1で得られたフィルムは、フィラー成分の割合が同量であるにも拘わらず、参考例2で得られたフィルムよりも引張強度が向上し、引裂強度に関しては、参考例2および比較例1で得られたフィルムに比べて顕著に向上した。すなわち、参考例2および比較例1で得られたフィルムがノッチを入れることにより、破断強度が大きく低下したのに対して、実施例1で得られたフィルムはノッチを入れても破断強度が維持された。