本発明はレナラーゼ阻害剤を用いたレナラーゼの阻害に関する。様々な態様では、本発明は、レナラーゼ阻害剤の投与が必要な対象にレナラーゼ阻害剤を投与することによって、個体のレナラーゼに関連する症状または状態を処置するための組成物および方法に関する。様々な態様では、本発明の組成物および方法によって診断、予防、治療が可能な疾患および障害としては、急性腎不全(すなわち腎臓の虚血性状態である急性尿細管壊死(acute tubular necrosis; ATN))、心血管系疾患、およびがんが挙げられる。
一態様では、本発明は、がんの治療、予防、および診断に広く関する。一態様では、本発明はがんの診断、治療、阻害、予防、または軽減のための方法および組成物に関する。一態様では、本発明はレナラーゼの量、産生、活性のうち1つ以上を調節するための組成物および方法を提供する。がんならびに関連疾患および障害に関して、本発明はレナラーゼの量、産生、活性のうち1つ以上を低減するための組成物および方法を提供する。本発明の一部の側面では、がん転移の治療、予防、診断、または予後のための方法および組成物を提供する。
(定義)
別に定義しない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。本発明の実施または試験には本明細書に記載したものと類似または同等の任意の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法および材料を記載する。
一般的に、本明細書で用いる用語、ならびに細胞培養、分子遺伝学、有機化学、核酸化学の実験手順およびハイブリダイゼーションの実験手順は、当技術分野で一般に使用される周知のものである。
核酸およびペプチドの合成には標準の技術を用いる。このような技術や手順は一般に、当技術分野の従来の方法と、本明細書全体に記載する様々な一般参照文献(たとえばSambrook and Russell, 2012, Molecular Cloning, A Laboratory Approach(分子クローニング、実験手法), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NYおよびAusubelら、2012, Current Protocols in Molecular Biology(分子生物学の最新プロトコール), John Wiley & Sons, NY)に従い実施される。
本明細書で用いる用語ならびに以下に記載する分析化学および有機合成に用いる実験手順は当技術分野で一般に使用される周知のものである。化学合成および化学分析には標準の技術またはその改良技術を用いる。
本明細書では、冠詞「a」および「an」を、冠詞の文法上の対象が1つまたは2つ以上(すなわち少なくとも1つ)あることを指すために用いる。例として、「要素(an element)」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
量、持続時間などの測定可能な値を指す場合に本明細書で用いる「約」は、指定の値から±20%、±10%、±5%、±1%、または±0.1%の変動を包含するものとする、というのもこのような変動は開示した方法を実施するのに適切であるためである。
「異常な」という用語は、生物、組織、細胞、またはそれらの構成成分に関して用いる場合、少なくとも1つの観察可能または検出可能な特性(たとえば年齢、処置、時間帯など)が「正常な」(期待される/恒常的な)各特性を示す生物、組織、細胞、またはそれらの構成成分と異なる生物、組織、細胞、またはそれらの構成成分を指す。ある細胞または組織の種類にとって正常である、ないしは期待される特性が別の細胞または組織の種類にとって異常である場合がある。
本明細書で使用する場合、「類似体」という用語は一般に、類似体の元の化合物、すなわち「親」化合物と全体的に構造が似ている化合物を指す。一般に、類似体は親化合物の特定の特性(たとえば生物学的活性または薬理学的活性)を保持するが、さほど望ましくない他の特性(たとえば抗原性、タンパク質分解不安定性、毒性など)は有さなくてよい。類似体には、親の特定の生物学的活性は低下し、1つ以上の特徴的な生物学的活性はその「類似体」では影響を受けていない化合物が含まれる。ポリペプチドに用いる場合、「類似体」という用語は、親化合物に対し様々な範囲のアミノ酸配列同一性(たとえば親化合物の所定のアミノ酸配列あるいは親化合物の選択された部分またはドメインのアミノ酸のうち少なくとも約70%であり、少なくとも約80%〜85%または約86%〜89%がより好ましく、少なくとも約90%、約92%、約94%、約96%、約98%、または約99%がさらに好ましい)を有してよい。ポリペプチドに用いる場合、「類似体」という用語は一般に、少なくともアミノ酸約3個からなり結合ドメイン融合タンパク質の少なくとも一部分と実質的に同一なセグメントで構成されるポリペプチドを指す。類似体は一般的には少なくとも5アミノ酸長、少なくとも20アミノ酸長、少なくとも50アミノ酸長、少なくとも100アミノ酸長、少なくとも150アミノ酸長、少なくとも200アミノ酸長であり、より一般的には少なくとも250アミノ酸長である。一部の類似体は実質的な生物学的活性を有さない場合があるが、様々な用途(たとえば所定のエピトープに対する抗体を産生させるため;親和性クロマトグラフィーで反応性抗体を検出かつ//または精製するための免疫学的試薬として;あるいは結合ドメイン融合タンパク質機能の競合的または非競合的な作用薬、拮抗薬、または部分的作用薬として)に使用できる。
本明細書で用いる場合、「抗体」という用語は、結合パートナー分子の特定のエピトープに特異的に結合できる免疫グロブリン分子を指す。抗体は、天然供給源または組換え供給源に由来する完全型免疫グロブリンであってもよいし、完全型免疫グロブリンの免疫反応部分であってもよい。本発明における抗体は、たとえば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、細胞内抗体、Fv、Fab、Fab’、F(ab)2、およびF(ab’)2、ならびに単鎖抗体(scFv)、ラクダ科動物抗体などの重鎖抗体、ヒト化抗体などの多様な形態で存在してよい(Harlowら、1999, Using Antibodies: A Laboratory Manual(抗体の使用:実験の手引き), Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY; Harlowら、1989, Antibodies: A Laboratory Manual(抗体の使用:実験の手引き), Cold Spring Harbor, New York; Houstonら、1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883; Birdら、1988, Science 242:423-426)。
「抗体断片」という用語は完全型抗体の少なくとも一部分を指し、完全型抗体の抗原決定可変領域を指す。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、直鎖状抗体、sdAb(VLまたはVH)、ラクダ科動物のVHHドメイン、scFv抗体、抗体断片で形成された多重特異性抗体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。「scFv」という用語は、軽鎖可変領域を含む少なくとも1つの抗体断片と重鎖可変領域を含む少なくとも1つの抗体断片とを含む融合タンパク質である。ここで、軽鎖可変領域と重鎖可変領域は短い柔軟なポリペプチドリンカーを介して隣接して連結され、一本鎖ポリペプチドとして発現でき、scFvは、元の完全型抗体の特異性を保持する。特定しない限り、本明細書で使用する場合、scFvはVL可変領域とVH可変領域を含む(いずれの順序でもよい)。たとえば、ポリペプチドのN末端およびC末端に対し、scFvはVL−リンカー−VHを含んでもよいし、VH−リンカー−VLを含んでもよい。
本明細書で用いる場合、「抗体重鎖」は、抗体分子がその天然の立体構造のときに有する2種類のポリペプチド鎖のうち大きい方を指す。通常、抗体重鎖によって抗体の属するクラスが決まる。
本明細書で用いる場合、「抗体軽鎖」は、抗体分子がその天然の立体構造のときに有する2種類のポリペプチド鎖のうち小さい方を指す。カッパ(κ)軽鎖およびラムダ(λ)軽鎖は、抗体軽鎖の2つの主なアイソタイプを指す。
本明細書で用いる場合、「合成抗体」という用語は、たとえば本明細書に記載のバクテリオファージが発現する抗体など、組換えDNA技術を用いて生成される抗体を意味する。この用語は、抗体をコードし抗体タンパク質を発現するDNA分子の合成、あるいはその抗体を特定するアミノ酸配列の合成によって生成された抗体を意味するとも解釈すべきである。ここで、DNAまたはアミノ酸配列は当技術分野で利用可能な周知のDNA合成技術またはアミノ酸配列合成技術によって得たものである。
「キメラ抗体」は、ドナー抗体由来の天然の可変領域(軽鎖および重鎖)がアクセプター抗体由来の軽鎖定常領域および重鎖定常領域と結合した改変抗体の型を指す。
「ヒト化抗体」は、CDRはヒト以外のドナーの免疫グロブリンに由来し、分子のうちCDR以外の免疫グロブリン由来部分は1種(またはそれ以上)のヒト免疫グロブリンに由来する改変抗体の型を指す。また、結合親和性を保持するようにフレームワークの支持残基を変更してもよい(たとえば、1989, Queenら、Proc. Natl. Acad Sci USA, 86:10029-10032;1991, Hodgsonら、Bio/Technology, 9:421を参照)。適切なヒトアクセプター抗体は、ドナー抗体のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列との相同性によって従来のデータベース(たとえばKABATデータベース、Los AlamosデータベースおよびSwiss Proteinデータベース)から選択した1つの抗体であってよい。ドナー抗体のフレームワーク領域との相同性(アミノ酸基準)を特徴とするヒト抗体は、ドナーCDRを挿入するための重鎖定常領域および/または重鎖可変フレームワーク領域を得るのに適切な場合がある。軽鎖の定常領域または可変フレームワーク領域を提供できる適切なアクセプター抗体を似た方法で選択してもよい。なお、アクセプター抗体の重鎖と軽鎖は同じアクセプター抗体に由来する必要はない。このようなヒト化抗体を作製する一部の方法は先行技術文献に記載されている(たとえば、欧州特許第0239400号明細書および欧州特許第054951号明細書を参照)。
「ドナー抗体」という用語は、その可変領域、CDR、あるいは他の機能的断片またはその類似体のアミノ酸配列を第一の免疫グロブリンパートナーに改変免疫グロブリンコード領域を提供し、その結果発現されるドナー抗体特有の結合特異性と中和活性を有する改変抗体を提供する抗体(モノクローナル抗体および/または組換え抗体)を指す。
「アクセプター抗体」という用語は、その重鎖および/または軽鎖のフレームワーク領域ならびに/あるいはその重鎖および/または軽鎖の定常領域をコードするアミノ酸配列全体(または任意の部分(一部の態様では全体)を第一の免疫グロブリンパートナーに与える、ドナー抗体にとって異種の抗体(モノクローナル抗体および/または組換え抗体)を指す。特定の態様では、ヒト抗体はアクセプター抗体である。
「CDR」は免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の超可変領域である、抗体の相補性決定領域のアミノ酸配列と定義される。たとえば、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest, 4th(免疫学的に有益なタンパク質の配列(第4版))Ed., U.S. Department of Health and Human Services(米国保健福祉省)、National Institutes of Health(国立衛生研究所)(1987)を参照のこと。免疫グロブリンの可変部分には3個の重鎖CDRと3個の軽鎖CDR(すなわちCDR)がある。したがって、本明細書で用いる場合、「CDR」は3個すべての重鎖CDR、または3個すべての軽鎖CDR(あるいは、適切な場合はすべての重鎖CDRとすべての軽鎖CDR)を指す。抗体の構造やタンパク質折り畳みは、他の残基が結合領域の一部と考えられ、そのように当業者に理解されることを意味する可能性がある。たとえばChothiaら、(1989) Conformations of immunoglobulin hypervariable regions(免疫グロブリンの超可変領域の立体構造); Nature 342, p 877-883を参照のこと。
「フレームワーク」または「フレームワーク配列」という用語は、可変領域からCDRを除いた残りの配列を指す。CDR配列の正確な定義は様々な体系によって決定できるため、フレームワーク配列の意味もそれに応じて様々に解釈される。6個のCDR(軽鎖のCDR−L1、CDR−L2、CDR−L3と重鎖のCDR−H1、CDR−H2、CDR−H3)はさらに、軽鎖および重鎖の各鎖のフレームワーク領域を4個の小領域(FR1、FR2、FR3、FR4)に分割する。FR1とFR2の間にCDR1、FR2とFR3の間にCDR2、FR3とFR4の間にCDR3が位置する。特定の小領域をFR1、FR2、FR3、またはFR4と指定せず、フレームワーク領域は、他の当業者がいう場合と同様に、1つの天然免疫グロブリン鎖の可変領域に存在するFR全体を表す。FRは4個の小領域のうちの1個を表し、複数のFRはフレームワーク領域を構成する4個の小領域のうち2個以上を表す。
本明細書で用いる場合、「免疫検定」は、標的分子に特異的に結合して標的分子を検出かつ定量できる抗体を用いる任意の結合試験を指す。
抗体に関して本明細書で用いる「特異的に結合する」という用語は、試料中の特定の結合パートナー分子を認識するが他の分子に対しては実質的に認識も結合もしない抗体を意味する。たとえば、1つの種に由来する結合パートナー分子に特異的に結合する抗体は1つ以上の種に由来するその結合パートナー分子にも結合する可能性がある。しかし、抗体が特異的だという分類はこのような異種間反応性自体によって変わるわけではない。別の例では、ある結合パートナー分子に特異的に結合する抗体はその結合パートナー分子の様々なアレル型にも結合する可能性がある。しかし、抗体が特異的だという分類はこのような交差反応性自体によって変わるわけではない。
一部の例では、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、抗体、タンパク質、またはペプチドと第二の結合パートナー分子との相互作用について使用でき、その相互作用が結合パートナー分子上の特定の構造(たとえば抗原決定基、すなわちエピトープ)の存在に依存することを意味する。たとえば、抗体は一般にタンパク質というよりも特定のタンパク質構造に対して認識・結合する。抗体がエピトープ「A」に特異的である場合、標識付きの「A」と抗体を含む反応にエピトープA含有分子(または標識のない遊離状態のA)が存在すると、抗体が結合する標識付きのAの量は減少する。一部の例では、「特異的結合」および「特異的に結合する」という用語は、抗体が結合パートナー分子に対する結合親和性を高めるのに重要な配列エピトープまたは立体構造エピトープを認識するような選択的結合を指す。
本明細書で用いる場合、「中和する」という用語は、結合性タンパク質がレナラーゼに特異的に結合した際のレナラーゼの生物学的活性の中和を指す。中和結合タンパク質は、レナラーゼと結合することによりレナラーゼの生物学的活性を阻害する中和抗体であることが好ましく、レナラーゼに結合してレナラーゼの生物学的活性を少なくとも約20%、40%、60%、80%、または85%低下させることが好ましい。一部の態様ではレナラーゼはヒトのレナラーゼである。
「エピトープ」という用語は、抗体またはその結合性部分あるいは他の結合分子(たとえばscFvなど)が認識する結合パートナー分子上の部位というこの用語の通常の意味を有する。エピトープはアミノ酸の分子またはセグメント(タンパク質またはポリペプチド全体のうちの小さな部分を表すセグメントを含む)であってよい。エピトープは立体構造(すなわち不連続)であってもよい。すなわち、エピトープは、一次配列では不連続であるがタンパク質折り畳みによって隣接するようになった部分がコードするアミノ酸で構成されてもよい。
本明細書で用いる「生体試料」という用語は、核酸またはポリペプチドの発現が検出できる細胞、組織、または体液を含有する任意の試料を含むものとする。このような生体試料の例としては、血液、リンパ液、骨髄、生検、塗抹標本などが挙げられるが、これらに限定するものではない。本来は液体である試料を本明細書では「体液」という。生体試料は、たとえばある範囲を擦過するか拭き取る、あるいは針を用いて体液を採取するなどの様々な方法で患者から入手できる。様々な生体試料を採取する方法は当技術分野で周知である。
本明細書で用いる場合、「がん」という用語は異常細胞の異常増殖を特徴とする疾患と定義される。がん細胞は局所的に広がる場合もあるし、血流やリンパ系を通じて体内の他の部分に広がる場合もある。様々ながんの例としては、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頚がん、皮膚がん(たとえば黒色腫)、膵臓がん、大腸がん、腎臓がん、肝臓がん、脳がん、リンパ腫、白血病、肺がん、肉腫などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本明細書で用いる場合、「複合」は1つの分子が第二の分子に共有結合していることを指す。
遺伝子の「コード領域」は、その遺伝子の転写によって得られるmRNA分子のコード領域に相同な、遺伝子のコード鎖のヌクレオチド残基と、同コード領域と相補的な、遺伝子の非コード鎖のヌクレオチドとで構成される。
mRNA分子の「コード領域」はさらに、そのmRNA分子のうち、mRNA分子の翻訳時に転移RNA分子の逆コドン領域と対合するヌクレオチド残基または停止コドンをコードするヌクレオチド残基で構成される。したがって、このコード領域は、mRNA分子がコードする成熟タンパク質には存在しないアミノ酸残基に関するコドンを含むヌクレオチド残基(たとえば、タンパク質輸送シグナル配列に含まれるアミノ酸残基)を含んでもよい。
核酸を指すために本明細書で用いる「相補的」は、2本の核酸鎖の領域間または同じ核酸鎖の2つの領域間の配列相補性という広い概念を指す。第一の核酸領域のアデニン残基は、第一の領域と逆平行である第二の核酸領域の残基がチミンまたはウラシルである場合、その残基と特異的な水素結合を形成できること(「塩基対形成」)が知られている。同様に、第一の核酸鎖のシトシン残基は、第一の鎖と逆平行な第二の核酸鎖の残基がグアニンである場合、その残基と塩基対形成できることが知られている。核酸の第一の領域と同じ核酸または別の核酸の第二の領域とが逆平行に配置されているときに第一の領域の少なくとも1個のヌクレオチド残基が第二の領域の残基と塩基対形成できる場合、第一の領域は第二の領域と相補的である。第一の領域は第一の部分を含み、第二の領域は第二の部分を含み、第一の部分と第二の部分が逆平行に配置されている場合、第一の部分のヌクレオチド残基の少なくとも約50%(少なくとも約75%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%であることが好ましい)は第二の部分のヌクレオチド残基と塩基対形成できることが好ましい。第一の部分のすべてのヌクレオチド残基が第二の部分のヌクレオチド残基と塩基対形成できることがより好ましい。
本明細書で用いる場合、「誘導体」という用語は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、またはその他の分子の化学修飾物を含む。本発明に関して、「誘導体ポリペプチド」(たとえば、グリコシル化、ペグ化、または同様の任意の処理によって修飾したもの)は結合活性を保持する。たとえば、結合ドメインの「誘導体」という用語は、野生型の結合ドメイン融合タンパク質には本来は結合していない、たとえば1つ以上のポリエチレングリコール分子、糖、リン酸塩、および/または他のこのような分子を付加することで化学修飾した結合ドメイン融合タンパク質、多様体、または断片を包含する。ポリペプチドの「誘導体」は、基準ポリペプチドに対してたとえばアミノ酸の置換、欠失、または挿入を有することによって基準ポリペプチドから「誘導」されるポリペプチドをさらに含む。したがって、ポリペプチドは、野生型ポリペプチドまたはその他の任意のポリペプチドから「誘導された」ポリペプチドであってよい。本明細書で用いる場合、ポリペプチドを含む化合物はさらに、特定の供給源(たとえば特定の生物、組織型、あるいは特定の生物や組織型に存在する特定のポリペプチド、核酸、または他の化合物)から「誘導された」ものであってもよい。
本明細書で用いる場合、「DNA」という用語はデオキシリボ核酸と定義される。
「コードする」は、ヌクレオチド(すなわちrRNA、tRNA、およびmRNA)の所定配列またはアミノ酸の所定配列とその配列により得られる生物学的特性を有する別の重合体や高分子を生物学的処理で合成するための鋳型として機能するポリヌクレオチド(例えば、遺伝子、cDNA、またはmRNA)に含まれる特定のヌクレオチド配列に固有の特性を指す。したがって、ある遺伝子に対応するmRNAの転写と翻訳によって細胞またはその他の生体系でタンパク質が産生される場合、その遺伝子はタンパク質をコードする。mRNA配列と同一で配列表に通常記載されるヌクレオチド配列を有するコード鎖も、遺伝子やcDNAの転写のための鋳型として用いられる非コード鎖も、その遺伝子またはcDNAのタンパク質やその他の産物をコードするということができる。
別に特定しない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重型であり同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。また、「タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列」という表現は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が一部の型でイントロンを含み得る場合、イントロンを含んでもよい。
「疾患」は、動物が恒常性を維持できず、改善されなければその動物の健康は悪化し続ける、動物の健康状態である。
一方、動物の「障害」は、その動物は恒常性を維持できるが、障害がない場合の健康状態に劣るような健康状態である。治療を受けずに放置した場合、障害は必ずしもその動物の健康状態をさらに悪化させるとは限らない。
疾患または障害の徴候または症状の重症度、患者がその徴候または症状を経験する頻度、あるいは重症度と頻度の両方が低減される場合、疾患または障害は「軽減される」。
化合物の「有効量」または「治療有効量」は、その化合物の投与対象に有益な治療上または予防上の効果をもたらすのに十分な化合物量である。
本明細書に記載の結合ドメインポリペプチドに関する「高親和性」という用語は、解離定数(Kd)が約10-6M以下であることを指し、約10-7M以下であることが好ましく、約10-8M以下であることがより好ましく、約10-9M以下であることがより好ましく、約10-10M以下であることがより好ましく、たとえば最大でも10-12Mである。しかし、「高親和性」結合は、別の結合ドメインポリペプチドの場合には異なる場合がある。
本明細書で用いる場合、「阻害する」という用語は、たとえば活性または機能を対照値の約10パーセント抑制または阻止することを意味する。活性を対照値に比べて50%抑制または阻止することが好ましく、75%の抑制または阻止がより好ましく、95%の抑制または阻止がさらに好ましい。本明細書で用いる場合、「阻害する」は、分子、反応、相互作用、遺伝子、mRNA、および/またはタンパク質の発現、安定性、機能、または活性の値を測定可能な量だけ低下させること、あるいは完全に防止することも意味する。阻害剤は、たとえば結合によって、部分的または完全に活性を阻止したり、減少させたり、防止したり、活性化を遅らせたり、不活性化させたり、脱感作させたり、あるいはタンパク質、遺伝子、mRNAの安定性、発現、機能、および活性を下方制御させる化合物(たとえば拮抗剤)である。
本明細書において様々な形で用いる、目的の分子の「調節剤」および「調節」という用語は、目的のタンパク質分解酵素に関連する活性の拮抗、刺激、部分的拮抗、および/または部分的刺激を包含するものとする。様々な態様では、「調節剤」は、タンパク質分解酵素の発現または活性を阻害または刺激できる。このような調節剤としては、タンパク質分解酵素分子、アンチセンス分子、リボザイム、三重鎖分子、RNAiポリヌクレオチドなどに対する低分子の刺激剤および拮抗剤が挙げられる。
本明細書で用いる場合、「説明資料」は、本明細書に記載の多様な疾患または障害を軽減するためのキットに含まれ本発明の化合物、組成物、ベクター、または送達系の有用性を伝えるために用いることのできる発行物、記録、図表、またはその他の任意の表現媒体を含む。それとは別に、あるいはその代わりに、説明資料に哺乳類の細胞または組織の疾患または障害を軽減する1つ以上の方法を記載してもよい。本発明のキットの説明資料は、たとえば、本発明の化合物、組成物、ベクター、または送達系を識別して入れた容器に貼ってもよいし、容器と一緒に輸送してもよい。あるいは、受取人が説明資料を見ながら化合物を使用する目的で、説明資料と容器を分けた状態で輸送してもよい。
「単離された」は、天然の状態から変更されるか取り出されたことを意味する。たとえば、本来の状況で動物生体に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されて」いないが、その本来の状況で共存する物質から部分的または完全に分離された同じ核酸またはペプチドは「単離されて」いる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することもできるし、たとえば宿主細胞などの非天然の環境に存在することもできる。
「単離核酸」は、天然の状態では近接していた配列から分離された核酸分節または核酸断片、すなわち、通常であれば近接している配列(その断片が天然に存在するゲノムではその断片に近接している配列)から取り出されたDNA断片を指す。この用語は、核酸に本来付随する他の成分(すなわち、細胞ではその核酸に本来付随しているRNAまたはDNAあるいはタンパク質)を実質的に取り除いた核酸にも用いる。したがって、この用語には、たとえば、ベクター、自己複製するプラスミドもしくはウイルス、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれた組換えDNA、あるいは他の配列から独立した別個の分子として存在する組換えDNA(すなわち、PCRまたは制限酵素消化によって得られたcDNAあるいはゲノム断片またはcDNA断片)も含まれる。また、この用語には、別のポリペプチド配列もコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAも含まれる。
本発明に関して、通常存在する核酸塩基について以下の略語を用いる。「A」はアデノシン、「C」はシトシン、「G」はグアノシン、「T」はチミジン、「U」はウリジンを指す。
本明細書で用いる場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチド鎖と定義される。核酸はヌクレオチドの重合体である。したがって、本明細書で用いる場合、核酸とポリヌクレオチドは互換可能である。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり単量体「ヌクレオチド」に加水分解できるという一般知識を有する。この単量体ヌクレオチドはヌクレオシドに加水分解できる。本明細書で用いる場合、ポリヌクレオチドとしては、当技術分野で利用可能な任意の手段(たとえば組換え技術、すなわち組換えライブラリーまたは細胞ゲノムから核酸配列を通常のクローニング技術とPCRによってクローニングすることなどが挙げられるが、これらに限定するものではない)と合成手段によって得られたすべての核酸配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本明細書で用いる場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」、「タンパク質」という用語は互換可能に用いられ、ペプチド結合で共有結合したアミノ酸残基で構成される化合物を指す。タンパク質またはペプチドは少なくとも2個のアミノ酸を含有しなければならないが、タンパク質またはペプチドの配列を構成し得るアミノ酸の最大数には制限はない。ポリペプチドにはペプチド結合で互いに連結した2個以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書で用いる場合、この用語は当技術分野で一般的にたとえばペプチド、オリゴペプチド、オリゴマーとも呼ばれる短い鎖と、それよりも長く当技術分野で一般的にタンパク質と呼ばれる鎖の両方を指し、多くの種類が存在する。「ポリペプチド」には特に、たとえば生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドの多様体、ポリペプチドの改変体、誘導体、類似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドとしては、天然のペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
ポリペプチドについて説明する場合の「保存的置換」という用語は、そのポリペプチドの活性を実質的に変化させないポリペプチドのアミノ酸組成の変化(すなわちアミノ酸を特性の似た他のアミノ酸と置換すること)を指す。機能の似たアミノ酸を示す保存的置換表は当技術分野で周知である。以下の6つの群はそれぞれ、互いに保存的置換となると一般に理解されているアミノ酸を含む:(1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);(2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);(3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);(4)アルギニン(R)、リジン(K);(5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);(6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)(Creighton, 1984, Proteins(タンパク質)、W.H. Freeman and Companyも参照のこと)。以上に定義した保存的置換の他、他のアミノ酸残基改変によっても「保存的に改変された多様体」が得られる場合がある。たとえば、荷電したアミノ酸はすべて、正電荷でも負電荷でも互いの置換体とみなすことができる。コードされた配列のうち1個のアミノ酸またはわずかな割合(たとえば5%未満であることが多い)のアミノ酸を変更、付加、または削除する個々の置換、欠失または付加によって保存的に改変された多様体を得ることもできる。組換えポリペプチドを基に、天然または野生型の遺伝子が利用するアミノ酸のコドンを同じアミノ酸の別のコドンで置換することによって保存的に改変された多様体を作製することもできる。
本明細書で用いる場合、「RNA」という用語はリボ核酸と定義される。
本明細書で用いる場合、「組換えDNA」という用語は、異なる供給源に由来するDNA片を連結することで作製されるDNAと定義される。
本明細書で用いる場合、「組換えポリペプチド」という用語は、組換えDNA法で作製されるポリペプチドと定義される。
「医薬的に許容される」は、たとえば、製剤に含まれる他の成分と適合性があり、その製剤の対象に投与しても一般的に安全な担体、希釈剤または賦形剤を意味する。本明細書で用いる場合、「医薬的に許容される担体」は、複合体と組み合わせた場合もその複合体の活性を保持し、かつ個体の免疫系と反応しない任意の物質を含む。例としては、リン酸緩衝食塩水、水、油/水乳剤などの乳剤、および様々な種類の湿潤剤などの任意の標準の医薬担体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。その他の担体としては、滅菌溶液、被覆錠剤などの錠剤、カプセルなども挙げられる。一般的に、このような担体は、デンプン、乳、糖、ある種の粘土、ゼラチン、ステアリン酸またはその塩、ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウム、タルク、植物性油脂、ゴム、グリコール、あるいはその他の既知の賦形剤などの賦形剤を含有する。このような担体としては、香味添加剤や着色添加剤またはその他の成分も挙げることができる。このような担体を含む組成物を周知の従来方法で製剤する。
「患者」、「対象」、「個体」などの用語は本明細書で互換可能に用いられ、補体系を有する任意の動物(状態またはその後遺症の治療を必要とするか、その状態またはその後遺症になりやすいヒトを含む)を指す。動物は哺乳類であることが好ましく、ヒトが最も好ましい。したがって、個体としては、たとえばイヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラット、サル、マウス、ヒトを挙げることができる。
「パーセント(%)同一性」という用語は、2つ以上のアミノ酸配列を比較したときにわかる配列類似性の割合を指す。パーセント同一性は任意の適切なソフトウェアを用いて電子的に決定できる。同様に、1つのポリペプチドのアミノ酸配列を第二のポリペプチドのアミノ酸配列と比較することによって、2つのポリペプチド(あるいは、一方または両方のポリペプチドの1つ以上の部分)の「類似性」を決定する。このような比較に有用な任意の適切なアルゴリズムを本発明に関する用途に適合させることができる。
「治療」処置は、病気の徴候を示す対象に対してその徴候を軽減するか取り除く目的で実施する処置である。
「治療有効量」という用語は、患者に投与した際に疾患の症状を改善するような本発明の化合物量である。「治療有効量」となる本発明の化合物量は、化合物、疾患の状態や重症度、処置を受ける患者の年齢などに応じて変動する。治療有効量は通常、当業者が自身の知識と本開示を考慮して決定できる。
「処置(する)」という用語は本明細書に記載の治療手段または予防手段を指す。この「処置」方法では、その処置を必要とする対象(たとえば、疾患または障害にかかった対象、あるいは最終的にその疾患または障害にかかるかもしれない対象)に対し、障害または再発性障害の1つ以上の症状を予防するため、治癒させるため、遅らせるため、重症度を下げるため、もしくは改善するため、あるいはその処置を行わない場合に期待されるよりも対象の生存期間を長くするため、本発明の組成物の投与を用いる。
本明細書で用いる場合、「多様体」という用語は、それぞれ基準の核酸配列またはペプチド配列と配列は異なるが基準分子の本質的な生物学的特性を保持している核酸配列またはペプチド配列を指す。核酸多様体の配列の変化によって、基準核酸がコードするペプチドのアミノ酸配列は変化しない場合もあればアミノ酸の置換、付加、欠失、融合、および切断が起こる場合もある。ペプチド多様体の配列の変化は一般的には限定的または保存的であり、結果として基準ペプチドと多様体の配列は全体的に非常に似ており、多くの領域で同一である。多様体と基準ペプチドは、任意の組み合わせで1つ以上の置換、付加、欠失が起こることでアミノ酸配列が異なってもよい。核酸またはペプチドの多様体は、アレル多様体などの天然に存在する多様体であってもよく、天然に存在するとわかっていない多様体であってもよい。天然に存在しない核酸多様体およびペプチド多様体は、変異誘発技術または直接合成によって作製できる。
範囲:本開示全体で、範囲を示す書式で本発明の様々な側面を記載する場合がある。当然ながら、範囲を示す書式による記載は単なる簡便が目的で、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈すべきではない。したがって、範囲の記載は、考えられるすべての部分的範囲と、その範囲に含まれる個々の数値とを具体的に開示しているものとする。たとえば、1〜6などの範囲の記載は、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6などの部分的範囲と、その範囲に含まれるたとえば1、2、2.7、3、4、5、5.3、6などの個々の数とを具体的に開示しているものとする。これを範囲の幅に関係なく適用する。
(説明)
本発明はレナラーゼ阻害剤を用いたレナラーゼの阻害に関する。様々な態様では、本発明は、レナラーゼ阻害剤の投与が必要な対象にレナラーゼ阻害剤を投与することによって個体のレナラーゼ関連疾患または障害を処置するための組成物および方法に関する。一部の態様では、レナラーゼ阻害剤はレナラーゼ結合性分子である。一部の態様では、レナラーゼ結合性分子は抗体である。様々な態様では、本発明の組成物および方法によって診断、予防、治療が可能な疾患および障害としては、急性腎不全(すなわち腎臓の虚血性状態である急性尿細管壊死(ATN))、心血管系疾患、およびがんが挙げられる。
一態様では、本発明は、がんの治療、予防、および診断に広く関する。一態様では、本発明は、がんの診断、病期決定、治療、阻害、予防、または軽減のための方法および組成物に関する。一態様では、本発明はレナラーゼの量、産生、活性のうち1つ以上を調節するための組成物および方法を提供する。がんならびに関連疾患および障害に関して、本発明はレナラーゼの量、産生、活性のうち1つ以上を低減するための組成物および方法を提供する。本発明の一部の側面では、がん転移の治療、予防、診断、または予後のための方法および組成物を提供する。
(治療用の阻害剤組成物と使用法)
様々な態様では、本発明はレナラーゼの量または活性の低下が望まれる疾患または障害を治療または予防するためのレナラーゼ阻害剤組成物および方法を包含する。本発明の組成物および方法で治療または予防できる、レナラーゼの量または活性の低下が望まれる疾患または障害の例としてはがんが挙げられるが、これに限定されるものではない。様々な態様では、本発明のレナラーゼ阻害剤組成物と治療または予防の方法は、レナラーゼポリペプチドの量、レナラーゼペプチド断片の量、レナラーゼmRNAの量、レナラーゼ酵素活性の量、レナラーゼ基質結合活性の量、レナラーゼ受容体結合活性の量、またはそれらの組み合わせを低減する。
当業者であれば本明細書の開示に基づき理解することであるが、レナラーゼ値の低減にはレナラーゼの発現(転写、翻訳、またはその両方)の低減が包含され、レナラーゼの分解(RNAレベルの分解(たとえばRNAi、shRNAなど)とタンパク質レベルの分解(たとえばユビキチン化など)を含む)の促進も包含される。また、当業者であれば本発明の教示を得れば理解することであるが、レナラーゼ値の低減には、レナラーゼの活性(たとえば酵素活性、基質結合活性、受容体結合活性など)の低減も包含される。したがって、レナラーゼの量または活性の低減としては、レナラーゼをコードする核酸の転写、翻訳、またはその両方を低減することが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、レナラーゼポリペプチドまたはそのペプチド断片の任意の活性を低減することも包含される。本発明のレナラーゼ阻害剤組成物および方法は、レナラーゼを選択的に阻害することもできるし、レナラーゼおよび別の分子を阻害することもできる。
レナラーゼの阻害は、本明細書に開示する方法と当技術分野で公知の方法または将来開発される方法を含む多様な方法で評価できる。すなわち、当業者であれば本明細書の開示に基づき理解できることであるが、レナラーゼの量または活性の低減は、生体試料に含まれる、レナラーゼをコードする核酸(たとえばmRNA)の値、レナラーゼポリペプチドまたはそのペプチド断片の値、レナラーゼ活性(たとえば酵素活性、基質結合活性、受容体結合活性など)の値、あるいはそれらの組み合わせを評価する方法を用いて容易に評価できる。
当業者であれば本明細書の開示に基づき理解することであるが、本発明は、対象が別の薬物療法または治療を受けているかどうかに関係なく、治療または予防を必要とする対象の治療または予防に有用である。さらに、当業者であれば本明細書の教示に基づき理解できることであるが、本明細書に記載の組成物および方法で処置できる疾患または障害としては、レナラーゼが関与しレナラーゼの量または活性を低減することで治療の予後が良くなるような任意の疾患または障害が包含される。様々な態様では、本発明の組成物および方法によって治療または予防できる疾患または障害としては、急性腎不全(すなわち腎臓の虚血性状態である急性尿細管壊死(ATN))、心血管疾患または心血管障害(たとえば、高血圧症、肺高血圧症、収縮期高血圧症、糖尿病性高血圧症、無症候性左室機能不全、慢性うっ血性心不全、心筋梗塞、心調律障害、アテローム動脈硬化症など)、がん、心疾患または心障害、腎疾患または腎障害、胃腸疾患または胃腸障害、肝疾患または肝障害、肺疾患または肺障害、膵疾患または膵障害(たとえば膵炎)、精神疾患または精神障害(たとえばうつ状態、不安など)、あるいは神経疾患または神経障害が挙げられる。
別の態様では、本発明のレナラーゼ阻害剤は、外因性レナラーゼ、組換えレナラーゼ、レナラーゼ断片、および/またはレナラーゼ活性化因子による治療を受けている患者に対し、患者の内因性レナラーゼおよび/または外因性レナラーゼの量または活性を制御、量設定、低減、または安定化するために投与できる。
レナラーゼまたはレナラーゼ断片の量または活性(たとえば酵素活性、基質結合活性、受容体結合活性など)を低減する本発明のレナラーゼ阻害剤組成物および方法は、化合物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、抗体、抗体断片、抗体模倣物、リボザイム、小分子化合物、低分子ヘアピン型RNA、RNAi、アンチセンス核酸分子(たとえばsiRNA、miRNAなど)、アンチセンス核酸分子をコードする核酸、タンパク質をコードする核酸配列、レナラーゼ受容体、レナラーゼ受容体断片、またはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されると解釈すべきではない。一部の態様では、阻害剤はアロステリック(構造変化によって活性を調節する)阻害剤である。当業者であれば本明細書の開示に基づき容易に理解できることであるが、レナラーゼ阻害剤組成物としては、レナラーゼまたはレナラーゼ断片の量または活性を低減する任意の化合物が包含される。また、化学分野の当業者には周知であるが、レナラーゼ阻害剤組成物としては化学修飾を施した化合物および誘導体が包含される。
レナラーゼまたはレナラーゼ断片の量または活性(たとえば酵素活性、基質結合活性、受容体結合活性など)を低減する本発明のレナラーゼ阻害剤組成物および方法には抗体と抗体断片が包含される。本発明の抗体としては、たとえばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、細胞内抗体、Fv、Fab、F(ab)2、単鎖抗体(scFv)、重鎖抗体(ラクダ科動物の抗体など)、合成抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの多様な形態の抗体が含まれる。一態様では、本発明の抗体はレナラーゼに特異的に結合する抗体である。一部の態様では、本発明の抗体は二重特異性抗体であり、ここで、第一の特異性はレナラーゼに対する特異性であり、第二の特異性は、細胞または組織に存在し前記二重特異性抗体を標的化分子が存在する解剖学的位置およびレナラーゼ結合が望まれる解剖学的位置へと導く標的化分子に対する特異性である。一部の態様では、本発明の抗体は二重特異性抗体であり、ここで、第一の特異性はレナラーゼに対する特異性であり、第二の特異性は、抗体の第二の特異性によって輸送されてレナラーゼ結合が望まれる解剖学的位置に配置される第二の結合パートナー分子(すなわち薬剤(payload))に対する特異性である。
一部の態様では、がんを処置するために対象に本発明のレナラーゼ阻害剤(たとえばレナラーゼ結合性分子)を投与することは、がんに対する個体の免疫系による免疫応答を開始かつ/または補足するのに役立つ。がんに対する個体の免疫応答は、自然免疫応答、液性免疫応答、細胞性免疫応答、またはそれらの組み合わせなどの任意の宿主防御または宿主応答であってよい。
また、当業者であれば本開示と本明細書に例示の方法を得れば認識できることであるが、レナラーゼ阻害剤組成物には、薬理学の技術分野で周知の基準(本明細書に詳細に記載され、かつ/または当技術分野で公知である、レナラーゼ阻害による生理学的成果など)により特定できるような、将来発見される阻害剤が包含される。したがって、本発明は、本明細書に例示または開示したいずれの特定のレナラーゼ阻害剤組成物にも全く限定されず、本発明は、有用であると当業者が理解するような当該技術分野で公知の阻害剤組成物および将来発見される阻害剤組成物を包含する。
レナラーゼ阻害剤組成物を特定し産生するさらなる方法は当業者に周知であり、天然供給源(たとえばストレプトミセス属(Streptomyces)種、プセウドモナス属(Pseudomonas)種、スティロテラ・アウランティウム(Stylotella aurantium)など)から阻害剤を得ることが挙げられるが、これに限定されない。あるいは、レナラーゼ阻害剤を化学的に合成してもよい。また、当業者であれば本明細書の教示に基づいて認識できることであるが、レナラーゼ阻害剤組成物を組換え生物から得てもよい。レナラーゼ阻害剤を化学合成するため、また、天然供給源からレナラーゼ阻害剤を得るための組成物および方法は、当技術分野で周知であり、当技術分野で記述がみられる。
当業者には分かっていることであるが、阻害剤は、化合物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、抗体、抗体断片、抗体模倣物、リボザイム、小分子化合物、低分子ヘアピン型RNA、RNAi、アンチセンス核酸分子(たとえばsiRNA、miRNAなど)、アンチセンス核酸分子をコードする核酸、タンパク質をコードする核酸配列、レナラーゼ受容体、レナラーゼ受容体断片、またはそれらの組み合わせとして投与できる。タンパク質またはタンパク質をコードする核酸構築物を細胞または組織に投与するための周知のベクターや他の組成物および方法は多数ある。したがって、本発明は、レナラーゼ阻害剤であるタンパク質またはタンパク質をコードする核酸の投与方法を含む(Sambrookら、2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual(分子クローニング:実験の手引き), Cold Spring Harbor Laboratory, New York; Ausubelら、1997, Current Protocols in Molecular Biology(分子生物学の最新プロトコール)、John Wiley & Sons, New York)。
当業者には分かっていることであるが、レナラーゼの量または活性を増加する分子の量または活性を低減することは、レナラーゼの量または活性を低減するための本発明の組成物および方法に役立つことができる。
アンチセンスオリゴヌクレオチドはRNA分子の一部に相補的なDNA分子またはRNA分子である。細胞内に存在する場合、アンチセンスオリゴヌクレオチドは既存のRNA分子にハイブリダイズして遺伝子産物への翻訳を阻害する。アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて遺伝子の発現を阻害することは当技術分野で周知であり(Marcus-Sekura, 1988, Anal. Biochem. 172:289)、細胞内でアンチセンスオリゴヌクレオチドを発現させる方法も当技術分野で周知である(Inoue、米国特許第5,190,931号明細書)。本発明の方法は、レナラーゼの量を低減するため、あるいはレナラーゼの量または活性を増加させる分子の量を低減することによってレナラーゼの量または活性を低減するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を包含する。
本発明では、当業者に周知の方法で合成し細胞に提供されるアンチセンスオリゴヌクレオチドを考慮する。一例として、アンチセンスオリゴヌクレオチドは約10〜約100ヌクレオチド長になるよう合成でき、約15〜約50ヌクレオチド長がより好ましい。核酸分子の合成は、非修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドに比べて生物学的活性を改善する修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドの合成(Tullis、1991年、米国特許第5,023,243号明細書)のように当技術分野で周知である。
同様に、アンチセンス分子を遺伝子のプロモーターまたは他の制御配列にハイブリダイズして遺伝子の発現を阻害することによって遺伝子の転写に影響を与えてもよい。目的の遺伝子と相互作用するプロモーターまたは他の制御配列を特定する方法は当技術分野で周知であり、酵母二重ハイブリッド系などの方法が挙げられる(BartelおよびFields, eds., In: The Yeast Two Hybrid System(酵母二重ハイブリッド系)、Oxford University Press, Cary, N.C.)。
あるいは、レナラーゼを発現する遺伝子もしくはレナラーゼの量または活性を増加するタンパク質を発現する遺伝子の阻害は、リボザイムを用いて達成できる。遺伝子発現を阻害するためにリボザイムを使用することは当業者に周知である(たとえば、Cechら、1992, J. Biol. Chem. 267:17479;Hampelら、1989, Biochemistry 28: 4929;Altmanら、米国特許第5,168,053号明細書)。リボザイムは他の一本鎖RNA分子を切断する能力を有する触媒性RNA分子である。リボザイムは配列特異性を有することが知られ、したがって特定のヌクレオチド配列を認識するように改変し、特定のmRNA分子を選択的に切断させることができる(Cech, 1988, J. Amer. Med. Assn. 260:3030)。分子のヌクレオチド配列があれば、当業者は本開示と本明細書に援用した参考文献を読めば過度の実験をしなくてもアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムを合成できるであろう。
あるいは、レナラーゼを発現する遺伝子もしくはレナラーゼの量または活性を増加するタンパク質を発現する遺伝子の阻害は、siRNA、miRNA、RNAiなどの低分子ヘアピン型RNAまたはアンチセンスRNAを用いて達成できる。分子のヌクレオチド配列があれば、当業者は本明細書に援用した開示と参考文献を読めば過度の実験をしなくても低分子ヘアピン型RNAまたはアンチセンスRNAを合成できるであろう。
当業者には分かっていることであるが、レナラーゼまたはレナラーゼ断片の阻害剤は、急性投与(たとえば1日、1週間、または1ヶ月などの短期間)してもよいし、慢性投与(たとえば数か月または1年以上などの長期間)してもよい。当業者には分かっていることであるが、レナラーゼの阻害剤は単独でも投与でき、他の薬剤と任意に組み合わせても投与できる。さらに、レナラーゼ阻害剤は、同時に投与しても互いに前後して投与してもよいという点で、時間的な意味で単独でも任意の組み合わせでも投与できる。当業者は本明細書の開示に基づき、レナラーゼ阻害剤組成物を用いて疾患または障害の治療または予防を必要とする個体の疾患または障害を治療または予防することができ、阻害剤組成物は単独使用しても別の阻害剤と任意に組み合わせて使用しても治療成果をもたらすことができることをよく理解している。
様々な態様では、本明細書に記載の本発明のレナラーゼ阻害剤またはレナラーゼ断片阻害剤はいずれも単独で投与してもよいし、他のがん関連分子に対する他の阻害剤と組み合わせて投与してもよい。
当業者であれば本明細書に詳述する方法を含む本開示を読めば分かることであるが、本発明は既に確立されている疾患または障害(がんなど)の処置に限定されるものではない。特に、疾患または障害は対象にとって有害な程度まで発症していなくてもよい。実際には、疾患または障害は処置を行う以前に対象で検出されなくてもよい。すなわち、本発明が利益をもたらす前に重大な疾患または障害が発生していなくてもよい。したがって、本発明は、本明細書中の他の箇所で既に説明したように、レナラーゼ阻害剤組成物を疾患または障害の発症前に対象に投与することによってその疾患または障害の発症を予防する方法を包含する。本明細書に記載の予防方法は、寛解期の個体に対する疾患または障害の再発予防のための処置も包含する。
当業者であれば本明細書の開示を得れば認識できることであるが、疾患または障害の予防には、レナラーゼ阻害剤組成物をその疾患または障害(がんなど)に対する予防手段として対象に投与することが包含される。本明細書中の他の箇所でさらに十分に説明するが、レナラーゼの量または活性を低減する方法には、レナラーゼ活性を低減するため、また、レナラーゼをコードする核酸の発現を低減する(転写の低減または翻訳の低減、あるいはその両方を含む)ための幅広い技術が包含される。
また、本明細書中の他の箇所でも開示するとおり、当業者であれば本明細書の教示を得れば理解できることであるが、本発明は、レナラーゼの発現および/または活性の低減によって治療または予防をもたらす、多様な疾患、障害、または症状に対する予防方法を包含する。疾患がレナラーゼの量または活性に関連するかどうかを評価する方法は当技術分野で公知である。また、本発明は将来発見されるこのような疾患の治療または予防も包含する。
本発明は、本発明の方法を実施するためのレナラーゼ阻害剤の投与を包含する。当業者であれば、本明細書の開示に基づき対象に適切なレナラーゼ阻害剤を製剤・投与する方法を理解できる。しかし、本発明は何らかの特定の投与方法または治療計画に限定されるものではない。
本発明はレナラーゼに結合する組成物を提供する。一態様では、レナラーゼ結合剤はレナラーゼの量または活性を阻害する。したがって、レナラーゼ活性の低減が有益となるような疾患および状態では、このような阻害性をもつレナラーゼ結合剤が治療薬として有効に作用するであろう。
一部の例では、レナラーゼは有効な治療的役割を有することに加え、疾患または障害の診断用マーカーとしても使用できる。疾患または障害の例としては、急性腎不全(すなわち腎臓の虚血性状態である急性尿細管壊死(ATN))、心疾患、がんなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。腎臓が適切に機能しない患者はレナラーゼの値が低い。したがって、本発明は本発明のレナラーゼ結合剤によるレナラーゼの検出および/または定量に基づいて心血管、心臓、腎臓、胃腸、肝臓、肺、膵臓、精神、および神経に関連する状態、障害、および疾患(がんを含む)に対する感受性を診断する方法も包含する。レナラーゼの値(たとえばレナラーゼタンパク質の値)を決定することにより、たとえば心血管の状態、障害、および疾患(高血圧症、無症候性左室機能不全、慢性うっ血性心不全、心筋梗塞、心調律障害、アテローム動脈硬化症など);精神の状態、障害、および疾患(うつ状態、不安など);心臓の状態、障害、および疾患(肺高血圧症など)をすべて診断、評価、監視することができる。たとえば、レナラーゼタンパク質の値の減少は交感神経による産生量の増加に関連する障害の診断マーカーとなる。本発明の組成物および方法は、収縮期高血圧症、孤立性収縮期高血圧症、糖尿病性高血圧症などの高血圧症を治療、予防、軽減、または改善するために使用できる。より珍しい高血圧性障害である肺高血圧症や膵炎についても同様の利点が期待される。肺高血圧症は肺動脈(心臓から肺に至る血管)の血圧が正常値を超える珍しい肺血管障害であり、致命的になる場合がある。糖尿病性高血圧と孤立性収縮期高血圧症では肺血管床(pulmonary bed)の血圧上昇と全身の血圧上昇の発症が似ていることから、同様の機構が関与していると示唆される。
レナラーゼの量または活性(たとえば酵素活性、基質結合活性、受容体結合活性など)を低減する本発明のレナラーゼ阻害剤組成物は、化合物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、抗体、抗体断片、抗体模倣物、リボザイム、小分子化合物、低分子ヘアピン型RNA、RNAi、アンチセンス核酸分子(たとえばsiRNA、miRNAなど)、アンチセンス核酸分子をコードする核酸、タンパク質をコードする核酸配列、レナラーゼ受容体、レナラーゼ受容体断片、またはそれらの組み合わせを包含するが、これらに限定されると解釈すべきではない。一部の態様では、阻害剤はアロステリック阻害剤である。当業者であれば本明細書の開示に基づき容易に理解できることであるが、レナラーゼ阻害剤組成物にはレナラーゼの量または活性を低減する化合物が包含される。また、化学分野の当業者はレナラーゼ阻害剤組成物としては化学修飾を施した化合物および誘導体が包含されることをよく理解している。
レナラーゼの量または活性(たとえば酵素活性、基質結合活性、受容体結合活性など)を低減する本発明のレナラーゼ阻害剤組成物には抗体と抗体断片が包含される。本発明の抗体としては、たとえばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、細胞内抗体、Fv、Fab、F(ab)2、単鎖抗体(scFv)、重鎖抗体(ラクダ科動物の抗体など)、合成抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの多様な形態の抗体が含まれる。一態様では、本発明の抗体はレナラーゼに特異的に結合する抗体である。一部の態様では、本発明の抗体は二重特異性抗体であり、ここで、第一の特異性はレナラーゼに対する特異性であり、第二の特異性は、前記二重特異性抗体をレナラーゼ結合が望まれる解剖学的位置へと導く標的化分子に対する特異性である。一部の態様では、本発明の抗体は二重特異性抗体であり、ここで、第一の特異性はレナラーゼに対する特異性であり、第二の特異性は、レナラーゼ結合が望まれる解剖学的位置へ輸送かつ配置される第二の結合パートナー分子に対する特異性である。
本発明の抗体(抗体のレナラーゼ結合性断片を含む)は、特定の態様では、任意の適切なポリヌクレオチドによってコードされる本明細書に開示の抗体アミノ酸配列、または任意の単離抗体または製剤抗体を包含する。また、本開示の抗体は、本明細書に記載の抗レナラーゼ抗体の構造的特徴および/または機能的特徴を有する抗体を包含する。一態様では、抗レナラーゼ抗体はレナラーゼに結合することにより、レナラーゼの少なくとも1つの生物学的活性(たとえば酵素活性、基質結合活性、受容体結合活性など)を部分的または実質的に変化させる。一部の態様では、レナラーゼはヒトのレナラーゼである。
一態様では、本発明の抗レナラーゼ抗体は、レナラーゼタンパク質、そのペプチド、構成亜単位(subunit)、断片、部分、またはそれらの任意の組み合わせに特異的な少なくとも1つの特定のエピトープに免疫特異的に結合するが、他のポリペプチド(他の種に由来するレナラーゼを除く)には特異的に結合しない。この少なくとも1つのエピトープは、レナラーゼタンパク質の少なくとも1つの部分を含む少なくとも1つの抗体結合領域を含んでよい。本明細書で用いる場合、「エピトープ」という用語は抗体に結合できるタンパク質決定基を指す。エピトープは通常、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面基で構成され、通常、特異的な三次元構造特性と特異的な電荷特性を有する。立体構造エピトープと非立体構造エピトープは、変性溶媒の存在下では前者に対する結合は失われるが後者に対する結合は失われないことによって区別される。
一部の態様では、本発明はレナラーゼに特異的に結合する抗体(たとえば抗体の結合性部分)を含有する組成物を包含する。一態様では抗レナラーゼ抗体はポリクローナル抗体である。別の態様では抗レナラーゼ抗体はモノクローナル抗体である。一部の態様では抗レナラーゼ抗体はキメラ抗体である。さらなる態様では抗レナラーゼ抗体はヒト化抗体である。一部の態様ではレナラーゼはヒトのレナラーゼである。一部の態様では、本発明の抗体は、配列番号1〜7、8、50、92、94、およびその断片のうちの少なくとも1つに特異的に結合する。
抗体の結合性部分は、結合パートナー分子(たとえばレナラーゼ)に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を含む。抗体の結合機能は全長抗体の断片によって達成できることがわかっている。抗体の「結合性部分」という用語に包含される結合性断片の例としては、以下が挙げられる:(i)Fab断片(VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、およびCH1ドメインで構成される一価の断片);(ii)F(ab’)2断片(2個のFab断片がヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結している二価の断片);(iii)Fd断片(VHドメインとCH1ドメインで構成される);(iv)Fv断片(抗体の1つのアームのVLドメインとVHドメインで構成される);(v)dAb断片(Wardら、(1989) Nature 341:544-546)(VHドメインで構成される);(vi)単離された相補性決定領域(CDR)。Fv断片の2つのドメインVLとVHは別々の遺伝子にコードされるが、これらをVL領域とVH領域とが対をなし一価の分子を形成する単一のタンパク質鎖にすることができる合成リンカーで組換え方法によって連結することができる(単鎖Fv(scFv)として知られる;たとえばBirdら、(1988) Science 242:423-426;およびHustonら(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照のこと)。このような単鎖抗体も抗体の「結合性部分」という用語に包含されるものとする。これらの抗体断片を当業者に公知の従来技術によって作製し、完全型抗体と同じ方法で有用性について選別する。結合性部分は、組換えDNA技術、あるいは完全型免疫グロブリンの酵素切断または化学切断によって作製できる。
本発明のレナラーゼ結合性抗体は、少なくとも1つのレナラーゼ活性(たとえば、酵素活性、基質結合活性、受容体結合活性など)を生体外および/または生体内原位置、および/または生体内で阻害、阻止、または干渉する抗体である。必要に応じて、適切な抗レナラーゼ抗体、特定の部分、または多様体もレナラーゼの少なくとも1つの活性または機能に影響を与えることができる。レナラーゼの活性または機能としては、RNA合成、DNA合成、タンパク質合成、タンパク質放出、レナラーゼシグナル伝達、レナラーゼ切断、レナラーゼ活性、レナラーゼ受容体結合、レナラーゼ産生、および/またはレナラーゼ合成などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
一態様では、本発明の抗体はレナラーゼに特異的に結合する。一態様では、抗体はレナラーゼ−1に特異的に結合する。別の態様では、抗体はレナラーゼ−2に特異的に結合する。さらに別の態様では、抗体はレナラーゼ−1とレナラーゼ−2の両方に特異的に結合する。さらに、エピトープに特異的な抗体を生成した。本発明の好ましい抗体としては、モノクローナル抗体1C−22−1、1D−28−4、1D−37−10、1F−26−1、1F−42−7、および3A−5−2が挙げられる。二重特異性抗体(たとえば、レナラーゼ−1とレナラーゼ−2を認識する抗体)の例としては、抗体1C−22−1、1D−28−4、1D−37−10、および表1に記載のポリクローナル抗体が挙げられる。型特異性のレナラーゼ抗体の例としては、レナラーゼ−1に特異的な1F−26−1、1F−42−7が挙げられる。3A−5−2はレナラーゼ−2に特異的である。抗レナラーゼモノクローナル抗体をコードする配列を図5に示す。
モノクローナル抗体1D−28−4の重鎖コード配列の核酸配列(配列番号52)とアミノ酸配列(配列番号9)、軽鎖コード配列の核酸配列(配列番号53)とアミノ酸配列(配列番号10)を図5に示す。
モノクローナル抗体1D−37−10の重鎖コード配列の核酸配列(配列番号60)とアミノ酸配列(配列番号17)、軽鎖コード配列の核酸配列(配列番号61)とアミノ酸配列(配列番号18)を図5に示す。
モノクローナル抗体1F−26−1の重鎖コード配列の核酸配列(配列番号68)とアミノ酸配列(配列番号25)、軽鎖コード配列の核酸配列(配列番号69)とアミノ酸配列(配列番号26)を図5に示す。
モノクローナル抗体1F−42−7の重鎖コード配列の核酸配列(配列番号76)とアミノ酸配列(配列番号33)、軽鎖コード配列の核酸配列(配列番号77)とアミノ酸配列(配列番号34)を図5に示す。
モノクローナル抗体3A−5−2の重鎖コード配列の核酸配列(配列番号84)とアミノ酸配列(配列番号41)、軽鎖コード配列の核酸配列(配列番号85)とアミノ酸配列(配列番号42)を図5に示す。
各配列の下線を施した配列は、重鎖と軽鎖それぞれのCDR1、CDR2、およびCDR3の配列を含む。
特定のモノクローナル抗体はレナラーゼタンパク質に結合できることから、VH配列およびVL配列を「適切に組み合わせ」て本開示の別の抗レナラーゼ結合性分子を作製してもよい。このような「適切に組み合わせた」抗体のレナラーゼ結合は、上述しかつ実施例にも記載する結合試験法(たとえば免疫ブロット、Bia−Core(登録商標)など)により試験できる。VH鎖とVL鎖を適切に組み合わせるときは特定のVH/VL対のうちVH配列を構造の似たVH配列で置き換えるのが好ましい。同様に、特定のVH/VL対のうちVL配列を構造の似たVL配列で置き換えるのが好ましい。
したがって、一側面では、本開示は(a)配列番号9、17、25、33、および41からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と(b)配列番号10、18、26、34、および42からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、レナラーゼタンパク質に特異的に結合する単離モノクローナル抗体またはその結合性部分を提供する。
重鎖と軽鎖の好ましい組み合わせとしては、以下が挙げられる:(a)配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(b)配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(c)配列番号25のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号26のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(d)配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;および(e)配列番号41のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号42のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域。
別の側面では、本開示は、1D−28−4、1D−37−10、1F−26−1、1F−42−7、または3A−5−2の重鎖と軽鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3、あるいはその組み合わせを含む抗体を提供する。1D−28−4、1D−37−10、1F−26−1、1F−42−7、および3A−5−2のVHのCDR1のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号11、19、27、35、43に示す配列を含む。1D−28−4、1D−37−10、1F−26−1、1F−42−7、および3A−5−2のVHのCDR2のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号12、20、28、36、44に示す配列を含む。1D−28−4、1D−37−10、1F−26−1、1F−42−7、および3A−5−2のVHのCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号13、21、29、37、45に示す配列を含む。1D−28−4、1D−37−10、1F−26−1、1F−42−7、および3A−5−2のVκのCDR1のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号14、22、30、38、46に示す配列を含む。1D−28−4、1D−37−10、1F−26−1、1F−42−7、および3A−5−2のVκのCDR2のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号15、23、31、39、47に示す配列を含む。1D−28−4、1D−37−10、1F−26−1、1F−42−7、および3A−5−2のVκのCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号16、24、32、40、48に示す配列を含む。これらのCDR領域を、Kabatシステム(Kabat, E. A.ら(1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition(免疫学的に有益なタンパク質の配列(第5版)), U.S. Department of Health and Human Services(米国保健福祉省), NIH Publication No. 91-3242)を用いて記載する。
これらの抗体のそれぞれがレナラーゼファミリーメンバーに結合できることや、結合特異性は主にCDR1領域、CDR2領域、およびCDR3領域によってもたらされることを考えれば、VHのCDRl配列、CDR2配列、CDR3配列とVLのCDR1配列、CDR2配列、CDR3配列を「適切に組み合わせる」(すなわち、各抗体はVHのCDRl、CDR2、CDR3とVLのCDRl、CDR2、CDR3を含まなければならないが、異なる抗体のCDRを適切に組み合わせることができる)ことによって本開示の別の抗レナラーゼ結合分子を作製できる。このような「適切に組み合わせた」抗体のレナラーゼ結合は、上述し実施例に記載する結合試験法(たとえば免疫ブロット、Biacore(登録商標)分析など)で試験できる。VHのCDR配列を適切に組み合わせるときは、特定のVH配列のに由来するCDRl配列、CDR2配列および/またはCDR3配列を構造の似たCDR配列で置き換えるのが好ましい。同様に、VLのCDR配列を適切に組み合わせるときは、特定のVL配列に由来するCDRl配列、CDR2配列および/またはCDR3配列を構造の似たCDR配列で置き換えるのが好ましい。当業者にはすぐに分かることであるが、VHおよび/またはVLの1つ以上のCDR領域配列を、本明細書に開示したモノクローナル抗体1D−28−4、1D−37−10、1F−26−1、1F−42−7、または3A−5−2のCDR配列に由来する似た構造の配列で置き換えることにより、新規なVH配列およびVL配列を作製できる。
したがって、別の側面では、本発明は、以下の(a)〜(f)からなる群より選択される少なくとも1つの配列を含む、レナラーゼに特異的に結合する単離モノクローナル抗体またはその結合性部分を提供する:(a)配列番号11、19、27、35、および43からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR1;(b)配列番号12、20、28、36、および44からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR2;(c)配列番号13、21、29、37、および45からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR3;(d)配列番号14、22、30、38、および46からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR1;(e)配列番号15、23、31、39、および47からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR2;ならびに(f)配列番号16、24、32、40、および48からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR3。
別の態様では、抗体は(a)配列番号11を含む重鎖可変領域CDR1;(b)配列番号12を含む重鎖可変領域CDR2;(c)配列番号13を含む重鎖可変領域CDR3;(d)配列番号14を含む軽鎖可変領域CDR1;(e)配列番号15を含む軽鎖可変領域CDR2;および(f)配列番号16を含む軽鎖可変領域CDR3から選択されるCDRのうち少なくとも1つの配列を含む。
別の態様では、抗体は(a)配列番号19を含む重鎖可変領域CDR1;(b)配列番号20を含む重鎖可変領域CDR2;(c)配列番号21を含む重鎖可変領域CDR3;(d)配列番号22を含む軽鎖可変領域CDR1;(e)配列番号23を含む軽鎖可変領域CDR2;および(f)配列番号24を含む軽鎖可変領域CDR3から選択されるCDRのうち少なくとも1つの配列を含む。
別の態様では、抗体は(a)配列番号27を含む重鎖可変領域CDR1;(b)配列番号28を含む重鎖可変領域CDR2;(c)配列番号29を含む重鎖可変領域CDR3;(d)配列番号30を含む軽鎖可変領域CDR1;(e)配列番号31を含む軽鎖可変領域CDR2;および(f)配列番号32を含む軽鎖可変領域CDR3から選択されるCDRのうち少なくとも1つの配列を含む。
別の態様では、抗体は(a)配列番号35を含む重鎖可変領域CDR1;(b)配列番号36を含む重鎖可変領域CDR2;(c)配列番号37を含む重鎖可変領域CDR3;(d)配列番号38を含む軽鎖可変領域CDR1;(e)配列番号39を含む軽鎖可変領域CDR2;および(f)配列番号40を含む軽鎖可変領域CDR3から選択されるCDRのうち少なくとも1つの配列を含む。
別の態様では、抗体は(a)配列番号43を含む重鎖可変領域CDR1;(b)配列番号44を含む重鎖可変領域CDR2;(c)配列番号45を含む重鎖可変領域CDR3;(d)配列番号46を含む軽鎖可変領域CDR1;(e)配列番号47を含む軽鎖可変領域CDR2;および(f)配列番号48を含む軽鎖可変領域CDR3から選択されるCDRのうち少なくとも1つの配列を含む。
上記の単離抗レナラーゼ抗体のCDR配列は、本発明に従って単離され、かつ列挙したCDR配列を有するポリペプチドを含む新規なレナラーゼ結合タンパク質のファミリーを確立する。レナラーゼ結合活性および/またはレナラーゼ検出活性および/またはレナラーゼ中和活性を有する本発明のCDRを生成し選択するには、本発明の結合性タンパク質を生成するため、また、それらの結合性タンパク質のレナラーゼ結合特性および/またはレナラーゼ検出特性および/またはレナラーゼ中和特性を評価するための当技術分野で公知の標準の方法(本明細書に具体的に記載した方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない)を用いることができる。
本発明のレナラーゼ結合性分子(たとえば抗体など)は、たとえば当技術分野で公知の生体内外での試験法のいずれかで試験した場合に、塩の混合物、化合物、および他のポリペプチドに含まれるレナラーゼに対して高い検出能力と結合能力を示すことが好ましい。当業者には分かることであるが、疾患の診断方法、治療方法、予防方法に有用な本明細書に記載のレナラーゼ結合性分子(たとえば抗体など)は、以下を含む(ただし、これらに限定されるものではない)本発明の手順と方法でも有用である:免疫クロマトグラフィー試験、免疫ドット試験、Luminex(登録商標)試験、酵素結合免疫吸着検定(ELISA)、酵素免疫スポット(ELISPOT)試験、タンパク質マイクロアレイ試験、ウェスタンブロット試験、質量分光光度測定試験、放射免疫測定試験(RIA)、放射免疫拡散試験、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法、オークタロニー(Ouchterlony)免疫拡散試験、逆相タンパク質マイクロアレイ、ロケット免疫電気泳動試験、免疫組織染色試験、免疫沈降試験、補体結合試験、FACS、タンパク質チップ試験、分離・精製処理、および親和性クロマトグラフィー(以下も参照のこと:2007, Van Emon, Immunoassay and Other Bioanalytical Techniques(免疫検定法および他の生化学分析技術), CRC Press; 2005, Wild, Immunoassay Handbook(免疫検定法ハンドブック), Gulf Professional Publishing; 1996, Diamandis and Christopoulos, Immunoassay(免疫検定法), Academic Press; 2005, Joos, Microarrays in Clinical Diagnosis(臨床診断におけるマイクロアレイ), Humana Press; 2005, Hamdan and Righetti, Proteomics Today(今日のプロテオミクス), John Wiley and Sons; 2007)。
本発明のレナラーゼ結合性分子(たとえば抗体など)は、当技術分野で公知の生体内外の試験法のいずれかで評価したときにレナラーゼ活性(たとえば、酵素活性、基質結合活性、受容体結合活性など)を低減または中和する高い能力を示すことがより好ましい。たとえば、これらのレナラーゼ結合性分子(たとえば抗体など)は、レナラーゼが関連または媒介する疾患または障害を中和する。本発明のレナラーゼ結合性分子(たとえば抗体など)はまた、レナラーゼ活性を低減または中和する高い能力を示すことが好ましい。一部の態様では、レナラーゼはヒトのレナラーゼである。
本明細書で用いる場合、「レナラーゼタンパク質に特異的に結合する」レナラーゼ結合性分子(たとえば抗体など)は、任意の動物のレナラーゼタンパク質に結合するレナラーゼ結合性分子(たとえば抗体など)を指すものとする。一部の態様では、そのような抗体はヒトのレナラーゼに結合する。レナラーゼ結合性分子(たとえば抗体など)は、1×10-6M以下のKDでレナラーゼタンパク質に結合することが好ましく、KDは1×10-7M以下であることがより好ましく、1×10-8M以下であることがより好ましく、5×10-9M以下であることがより好ましく、1×10-9M以下であることがより好ましく、あるいは3×10-10M以下であることがさらに好ましい。本明細書で用いる場合、タンパク質または細胞に「実質的に結合しない」という用語は、そのタンパク質または細胞に結合しないか、高親和性では結合しない、すなわち1×106M超(1×105M以上であることがより好ましく、1×104M以上であることがより好ましく、1×103M以上であることがより好ましく、1×102M以上であることがさらに好ましい)のKDで結合することを指す。本明細書で用いる場合、「KD」という用語は、KdのKaに対する比(すなわちKd/Ka)から求められモル濃度(M)として表される解離定数を指すものとする。レナラーゼ結合性分子(たとえば抗体など)のKD値は当技術分野で十分に確立された方法で求めることができる。結合性分子(たとえば抗体など)のKD値を求めるための好ましい方法は表面プラズモン共鳴を用いる方法であり、Biacore(登録商標)システムなどのバイオセンサーシステムを用いる方法が好ましい。
本明細書で用いる場合、IgG抗体に関する「高親和性」という用語は、抗体の標的結合パートナー分子に対するKD値が1×10-7M以下であることを指し、KD値は5×10-8M以下であることがより好ましく、1×10-8M以下であることがさらに好ましく、5×10-9M以下であることがさらに好ましく、1×10-9M以下であることがさらに好ましい。しかし、「高親和性」結合は、別の抗体アイソタイプに対しては異なってもよい。たとえば、IgMアイソタイプに対する「高親和性」結合は、抗体が10-6M以下のKD値を有することを指し、KD値は10-7M以下であることがより好ましく、10-8M以下であることがさらに好ましい。
特定の態様では、抗体はIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、IgM、またはIgDの定常領域などの重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域はIgG1の重鎖定常領域またはIgG4の重鎖定常領域であることが好ましい。抗体はκ軽鎖定常領域またはλ軽鎖定常領域のいずれかの軽鎖定常領域を含んでよいが、κ軽鎖定常領域を含むことが好ましい。あるいは、抗体部分はたとえばFab断片または単鎖Fv断片であってもよい。
(抗レナラーゼ抗体の生成)
本発明はレナラーゼに結合する組成物を提供する。本明細書に開示するレナラーゼ分子は、本明細書に開示する他のポリペプチドと有意なかつ/または高い配列同一性を有する分子を含む分子群である。より具体的には、推定上のレナラーゼは配列番号49または51の配列を有する核酸と少なくとも約40%の配列同一性を有する。レナラーゼをコードする核酸は、本明細書に開示する配列番号49または51の配列と少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の配列同一性を有することがより好ましい。上記の核酸は配列番号49、51、93、または95を有することがより好ましい。「レナラーゼ」という用語はレナラーゼのイソ型を包含する。レナラーゼ遺伝子はヒトゲノムの10番染色体に310188bpに及ぶ9個のエキソンを有する。本明細書に開示するレナラーゼクローン(配列番号49、GenBank受入番号:BC005364)はエキソン1、エキソン2、エキソン3、エキソン4、エキソン5、エキソン6、エキソン8を含む遺伝子である。ヒトゲノムのデータベースに示されるように、さらに少なくとも2種類、選択的スプライシングにより得られる型のレナラーゼタンパク質が存在する。その1つはヒトゲノムのデータベースにあるクローンで同定されたエキソン1、エキソン2、エキソン3、エキソン4、エキソン5、エキソン6、エキソン9を含む(GenBank受入番号AK002080およびNMJ)18363;これらの配列は参照により明示的に本明細書に組み込まれる)。選択スプライシングにより得られるもう一方の型はヒトゲノムデータベースにあるクローンで同定されたエキソン5、エキソン6、エキソン7、エキソン8を含む(GenBank受入番号BX648154;この配列は参照により明示的に本明細書に組み込まれる)。特に示さない限り、「レナラーゼ」は本明細書に開示するレナラーゼの特性および/または物理的特徴を有する既知のレナラーゼ(たとえばラットのレナラーゼ、ヒトのレナラーゼ)および未発見のレナラーゼすべてを包含し、たとえばヒトのレナラーゼおよびチンパンジーのレナラーゼが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、推定上のレナラーゼは、配列番号8または50の配列を有するポリペプチドと少なくとも約60%の配列同一性を有する。レナラーゼは、本明細書に開示する配列番号8または50と少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%の同一性、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の配列同一性を有することがより好ましい。レナラーゼポリペプチドは、配列番号8または50あるいは配列番号92または94のアミノ酸配列を有することがさらに好ましい。
一態様では、本発明の抗体は、レナラーゼの配列に由来するペプチドを用いて動物を免疫することにより、その動物が免疫原に対する抗体を産生することで生成できる。例示の免疫原としてはレナラーゼ由来のペプチドが挙げられる。すなわち、本発明ではレナラーゼ配列の断片を有するペプチドを使用できる。ペプチドは、組換えペプチドとして発現させる、より大きなポリペプチドとして発現させて酵素切断または化学切断するなど、様々な方法で作製できる。あるいは、当技術分野で公知のとおり合成によって作製してもよい。本発明の親和性試薬の生成に用いる好ましいペプチドを表1(配列番号1〜7)に示す。
本発明の抗レナラーゼ抗体は、KohlerおよびMilstein、(1975)Nature 256:495の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション法(ハイブリドーマ法)などの様々な方法で任意に作製できる。ハイブリドーマ法では、マウスまたはその他の適切な宿主動物(ハムスターまたはマカクザルなど)を本明細書に記載の方法で免疫化することにより、免疫化に用いたタンパク質に特異的に結合する抗体を産生する、または産生できるリンパ球を誘導する。あるいは、生体外でリンパ球を免疫化してもよい。次にこのリンパ球をポリエチレングリコールなどの適切な融合剤を用いて骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice(モノクローナル抗体:原理と実践)、pp.59-103 (Academic Press, 1986))。
ハイブリドーマ技術で特異的抗体を作製し選別する方法は通常の手順であり当技術分野で周知である。一態様では、本発明はモノクローナル抗体を生成する方法と、この方法で作製した抗体を提供する。この方法は、本発明の抗体を分泌するハイブリドーマを培養することと;次いでこの融合で得たハイブリドーマを選別して本発明のポリペプチドに結合できる抗体を分泌するハイブリドーマのクローンを得ることを含み、ここで、ハイブリドーマは本発明のポリペプチドまたはペプチドで免疫化したマウスもしくはウサギまたは他の種から単離した脾細胞を骨髄腫細胞と融合することによって生成されることが好ましい。要するに、マウスをレナラーゼポリペプチドまたはそのペプチドで免疫化できる。好ましい態様では、レナラーゼポリペプチドまたはそのペプチドを免疫賦活剤と共に投与して免疫応答を刺激する。このような免疫賦活剤としては、完全フロイント(Freund’s)免疫賦活剤または不完全フロイント免疫賦活剤、RIBI(商標)(ムラミルジペプチド)またはISCOM(免疫刺激複合体)が挙げられる。このような免疫賦活剤は、局所沈着物中でポリペプチドを捕捉してそのポリペプチドの急速な分散を予防できるか、宿主を刺激してマクロファージ走化因子および他の免疫系成分に対する走化因子を分泌させる物質を含むことができる。ポリペプチドを投与する場合、ポリペプチドは数週間かかって拡散するため、2回以上の投与を免疫化の計画に含むことが望ましい。
あるいは、ウサギをレナラーゼポリペプチドまたはそのペプチドで免疫化してもよい。この態様では、全長レナラーゼタンパク質とレナラーゼ由来ペプチドのいずれも免疫原として使用できる。
本発明で用いるレナラーゼは様々な形態を取ることができる。たとえば精製レナラーゼタンパク質またはその断片、組換えにより得られたレナラーゼまたはその断片を挙げることができる。一部の態様ではレナラーゼはヒトのレナラーゼである。組換えレナラーゼを用いる場合、当技術分野で公知のとおり、真核細胞または原核細胞でこれを産生できる。別の免疫原としてはレナラーゼ由来のペプチドが挙げられる。すなわち、本発明ではレナラーゼ配列の断片を有するペプチドを使用できる。ペプチドは、組換えペプチドとして発現させる、より大きなポリペプチドとして発現させて酵素切断または化学切断するなど、様々な方法で作製できる。あるいは、当技術分野で公知のとおり合成によって作製してもよい。本発明の親和性試薬の生成に用いる好ましいペプチドを表1(配列番号1〜7)に示す。ヒトレナラーゼの全長アミノ酸配列を配列番号8に記載する。そこに示すとおり既知の多型が起こる可能性がある(配列番号92と比較のこと)。レナラーゼ−2のアミノ酸配列を配列番号50に示す。同じく、そこに示すとおり既知の多型が起こる可能性がある(配列番号94と比較のこと)。他にも多型が存在することがわかっており、それらもレナラーゼの定義に含む。一部の態様では、本発明のレナラーゼ結合性分子は配列番号1〜7、8、50、92、94およびその断片のうち、少なくとも1つに特異的に結合する。
本明細書に記載し、また当技術分野でも公知のとおり、必要に応じて、様々なヒト抗体の産生能をもつ遺伝子導入動物(たとえばマウス、ラット、ハムスター、ヒト以外の霊長類など)を免疫化することによって抗レナラーゼ抗体を生成してもよい。本明細書に記載の方法などの適切な方法でこのような動物からヒト抗レナラーゼ抗体を産生する細胞を単離し、不死化することができる。あるいは、本明細書に教示する方法および当技術分野で公知の方法で、抗体コード配列をクローニングし、適切なベクターに導入し、これを用いて宿主細胞を形質移入して抗体を発現させ、単離してもよい。
生殖系列構造にヒト免疫グロブリン(Ig)座を有する遺伝子導入マウスを用いて、ヒト自己抗原(正常なヒト免疫系はこの抗原に対し耐性をもつ)を含む様々な標的に対する高親和性の完全型ヒトモノクローナル抗体を単離できる(Lonberg, N.ら、米国特許第5,569,825号明細書、米国特許第6,300,129号、および1994, Nature 368:856-9;Green, L.ら、1994, Nature Genet. 7:13-21;Green, L. & Jakobovits, 1998, Exp. Med. 188:483-95;Lonberg, N.およびHuszar, D., 1995, Int. Rev. Immunol. 13:65-93;Kucherlapatiら、米国特許第6,713,610号明細書;Bruggemann, M.ら、1991, Eur. J. Immunol. 21:1323-1326;Fishwild, D.ら、1996, Nat. Biotechnol. 14:845-851;Mendez, M.ら、1997, Nat. Genet. 15:146-156;Green, L., 1999, J. Immunol. Methods 231:11-23;Yang, X.ら、1999, Cancer Res. 59:1236-1243;Bruggemann, M.およびTaussig, M J., Curr. Opin. Biotechnol. 8:455-458, 1997;Tomizukaら、国際公開第02/043478号パンフレット)。上記のマウスに内在する免疫グロブリン座を破壊するか欠失させ、この動物による内因性遺伝子がコードする抗体の産生能を消失させることができる。また、Abgenix,Inc.(Freemont,Calif.)やMedarex(San Jose, Calif.)などの企業が関与して、本明細書で他の箇所に記載した技術を利用し、選択した標的結合性パートナー分子(たとえば抗原など)に対するヒト抗体を提供してもよい。
別の態様ではヒト抗体をファージライブラリーから選択する。ここで、このファージはヒト免疫グロブリン遺伝子を含み、ライブラリーはヒト抗体の結合ドメインをたとえば単鎖抗体(scFv)として、Fabとして、あるいは対合した抗体可変領域または対合していない抗体可変領域を提示する他の何らかの構築物として発現する(Vaughan et lo al. Nature Biotechnology 14:309-314 (1996): Sheetsら、PITAS (USA) 95:6157-6162 (1998));Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991);Marksら、J. Mol. Biol., 222:581 (1991))。本発明のヒトモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子のライブラリーを選別するためのファージ提示法でも作製できる。ヒト抗体を単離するためのこのようなファージ提示法は当技術分野で確立されている。たとえば以下を参照のこと:米国特許第5,223,409号、第5,403,484号、および第5,571,698号明細書(以上Ladnerら);米国特許第5,427,908号および第5,580,717号明細書(以上Dowerら);米国特許第5,969,108号および第6,172,197号明細書(以上McCaffertyら);ならびに米国特許第5,885,793号、第6,521,404号、第6,544,731号、第6,555,313号、第6,582,915号、および第6,593,081号明細書(以上Griffithsら)。
免疫原性抗原の調製とモノクローナル抗体の作製は、組換えタンパク質産生などの任意の適切な技術を用いて行うことができる。このような免疫原性抗原を精製タンパク質;または全細胞、細胞抽出物、もしくは組織抽出物を含むタンパク質混合物の形で動物に投与することもできるし、この抗原またはその一部分をコードする核酸を基に動物の体内で新たに形成することもできる。
本発明の単離核酸は、当技術分野で周知のように、(a)組換え法、(b)合成技術、(c)精製技術、またはそれらの組み合わせによって作製できる。モノクローナル抗体をコードするDNAは当技術分野で公知の方法(たとえば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブの利用など)で容易に単離・配列決定される。ハイブリドーマを作製する場合、上記の細胞はこのようなDNAの供給源として機能することができる。あるいは、コード配列と翻訳産物を連結する提示技術(ファージ提示ライブラリーまたはリボソーム提示ライブラリーなど)を用いることで結合剤および核酸の選択が単純になる。ファージ選択の後、ファージから抗体コード領域を単離し、これを用いてヒト抗体などの完全抗体または他の任意の所望の結合性断片を生成し、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、および細菌などの任意の所望の宿主で発現させることができる。
(ヒト化抗体)
本発明はさらに、ヒトレナラーゼに結合するヒト化免疫グロブリン(すなわち抗体)を提供する。ヒト化形態の免疫グロブリンは、ヒト免疫グロブリン(アクセプター免疫グロブリンという)に実質的に由来する可変フレームワーク領域と、レナラーゼに特異的に結合する非ヒトmAbに実質的に由来するCDRとを有する。定常領域(存在する場合)は実質的にヒト免疫グロブリン由来である。このヒト化抗体はレナラーゼに対し少なくとも約10-6M(1μM)、約10-7M(100nM)、またはそれ以下のKD値を示す。ヒト化抗体の結合親和性は、そのヒト化抗体が由来するマウス抗体の結合親和性より高くても低くてもよい。ヒト化抗体のレナラーゼに対する親和性の変化に影響を及ぼす(すなわち親和性を改善する)ため、CDR残基またはヒト残基に置換を施してもよい。
レナラーゼに結合するヒト化抗体を作製するための原料はマウス抗体1D−28−4、1D−37−10、1F−26−1、1F42−7、または3A−5−2が好ましい。これらのマウス抗体の生成、単離、特性決定については本明細書の実施例に記載する。しかし、レナラーゼとの結合についてマウス抗体1D−28−4、1D−37−10、1F−26−1、1F42−7、または3A−5−2と競合する他のマウス抗体も使用できる。配列表に示す同定されたCDRを出発点としてヒト化加工を行ってよい。たとえば、以下のアミノ酸配列(およびそれに対応する核酸配列)のいずれか1つ以上を出発点としてヒト化加工を行ってよい:(a)配列番号11、19、27、35、および43からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR1:(b)配列番号12、20、28、36、および44からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR2;(c)配列番号13、21、29、37、および45からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR3;(d)配列番号14、22、30、38、および46からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR1;(e)配列番号15、23、31、39、および47からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR2;(f)配列番号16、24、32、40、および48からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR3。
マウスのCDRをヒトの可変ドメインフレームワークに置き換えても、ヒトの可変ドメインフレームワークがCDRの由来するマウスの可変フレームワークと同じか似た立体配座をとれば、マウスのCDRの適切な空間的配位は保持される可能性が非常に高い。これは、フレームワーク配列がCDRの由来するマウスの可変フレームワークドメインと高い配列同一性を示すヒト抗体からヒト可変ドメインを得ることで達成される。重鎖および軽鎖の可変フレームワーク領域は、同じヒト抗体配列に由来しても異なるヒト抗体配列に由来してもよい。ヒト抗体配列は、天然に存在するヒト抗体の配列であってもよく、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来してもよく、一部のヒト抗体および/またはヒト生殖系列配列に共通の配列であってもよい。
マウスの可変領域のアミノ酸配列を既知のヒト抗体の配列とコンピューターで比較することによって適切なヒト抗体配列を同定する。比較は重鎖の場合と軽鎖の場合を別に行うが、原理はそれぞれ同様である。
一例では、抗レナラーゼmAbのアミノ酸配列を用いて、公共の抗体配列データベースから収集したヒト抗体データベースを照会する。重鎖可変領域を用いて最も配列同一性の高いヒト可変領域を見つけることができる。軽鎖可変領域も同様に最も配列同一性の高いヒト可変領域を見つけるのに用いることができる。選択したヒト重鎖可変領域配列にマウスmAbドナー由来の重鎖可変領域の1つのCDRをコードする領域を導入してヒトの可変領域のCDRを置き換えたDNA構築物を、マウスの各可変領域について作製した。
マウスのCDR領域を無理にヒト可変フレームワーク領域と並列させると立体配座に無理な制限が起こる可能性があり、特定のアミノ酸残基を置換することでこれを修正しない限り、結合親和性が失われる。上記のとおり、本発明のヒト化抗体は、実質的にヒト免疫グロブリンに由来する可変フレームワーク領域と実質的にマウス免疫グロブリンに由来するCDRとを含む。マウス抗体および適切なヒトアクセプター免疫グロブリン配列のCDRを特定し終えると、次の工程は、得られるヒト抗体の特性を最適化するためにこれらの成分のどの残基を置換するか(置換する場合)を決定することである。一般に、ヒトのアミノ酸残基をマウスのもので置換するのは最少にすべきである、というのもマウスの残基を導入すると抗体がヒトにヒト抗マウス抗体(HAMA)応答を誘発するリスクが増加するためである。アミノ酸がCDRの立体配座および/または標的結合パートナー分子との結合性に対して及ぼす可能性のある影響に基づき、置換するアミノ酸を選択する。このような可能性のある影響の調査は、モデリング、特定位置のアミノ酸の特性の試験、あるいは特定のアミノ酸の置換または変異誘発による影響の実験による観察によって行うことができる。実験による方法に関しては、所望の活性、結合親和性、または特異性について選別できる多様体配列ライブラリーの作製が特に好都合であることがわかっている。このような多様体のライブラリーを作製するための1つの形式はファージ提示ベクターである。あるいは、可変ドメイン内の標的残基をコードする核酸配列を多様化するその他の方法で作製することもできる。
さらに置換が必要かどうかの決定や置換するアミノ酸残基の選択をする別の方法は、コンピュータモデリングを用いて実行できる。免疫グロブリン分子の三次元画像を作成するコンピュータハードウェアやソフトウェアを広く利用できる。一般に、免疫グロブリン鎖またはそのドメインを解析した構造から出発して分子モデルを作成する。モデリングする鎖を、解析した三次元構造の鎖またはドメインとのアミノ酸配列の類似性について比較し、最も高い配列類似性を示す鎖またはドメインを分子モデル構築の出発点として選択する。モデリングする免疫グロブリン鎖またはドメインの実際のアミノ酸と開始構造のアミノ酸との違いを考慮に入れるため、解析した出発構造を修正する。次に修正後の構造を組み立てて複合体免疫グロブリンを得る。最後に、エネルギー最小化と、すべての原子が互いに適切な距離にあって結合の距離や角度が化学的に許容範囲内であることを確認することにより、モデルを精密にする。
ヒト化抗体のCDR領域は、それらの由来するマウス抗体の対応CDR領域と実質的に同一である場合が多く、同一である場合がさらに多い。通常は望ましいというわけではないが、得られるヒト化免疫グロブリンの結合親和性に認識できるほどの影響を与えずにCDR残基の1個以上のアミノ酸の保存的置換を行うことが可能な場合もある。場合によってはCDR領域の置換によって結合親和性を高めることができる。
上記の特定のアミノ酸置換の場合以外でも、ヒト化免疫グロブリンのフレームワーク領域は、それらの由来するヒト抗体のフレームワーク領域と実質的に同一である場合が多く、同一である場合がさらに多い。当然ながら、フレームワーク領域内のアミノ酸の多くは抗体の特異性または親和性への直接的な関与がほとんどないか、まったくない。したがって、フレームワーク領域の残基の個々の保存的置換の多くは、得られるヒト化免疫グロブリンの特異性または親和性に認識できるほどの変化をもたらさず、許容できる。
コードの縮重により、様々な核酸配列が各免疫グロブリンアミノ酸配列をコードすると考えられる。所望の核酸配列は、固相DNA新規合成または先に調製した所望ポリヌクレオチド多様体のPCR変異誘発によって作製できる。本願に記載の抗体をコードするすべての核酸を明示的に本発明に包含する。
上記の方法で作製したヒト化抗体の可変分節は、一般的にはヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部に連結している。この抗体は軽鎖定常領域と重鎖定常領域の両方を含む。重鎖定常領域は通常、CH1ドメイン、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、および場合によってCH4ドメインを含む。
ヒト化抗体は、任意のクラス(IgM、IgG、IgD、IgA、IgEなど)および任意のサブクラス(アイソタイプ)(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4など)の抗体に由来する任意の型の定常ドメインを含んでよい。ヒト化抗体が細胞傷害活性を示すことを望む場合、通常、定常ドメインは補体結合定常ドメインであり、一般的にクラスはIgG1である。このような細胞傷害活性を望まない場合、定常ドメインはIgG2クラスのものである可能性がある。ヒト化抗体は、2つ以上のクラスまたはアイソタイプに由来する配列を含んでもよい。
ヒト化軽鎖可変領域およびヒト化重鎖可変領域をそれぞれコードする核酸を必要に応じて定常領域と連結し、発現ベクターに挿入する。軽鎖と重鎖を同一の発現ベクターにクローニングしてもよいし、別の発現ベクターにクローニングしてもよい。免疫グロブリン鎖をコードするDNA分節を、免疫グロブリンポリペプチドを確実に発現する発現ベクターに含まれる制御配列と、作動可能に連結する。このような制御配列としては、シグナル配列、プロモーター、エンハンサー、および転写終結配列が挙げられる(Queenら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 10029 (1989);国際公開第90/07861号パンフレット;Coら、J. Immunol. 148, 1149 (1992)を参照のこと)。
(レナラーゼ結合性分子の使用法)
本発明のレナラーゼ結合性分子(たとえば抗体など)の特性を考慮すれば、このレナラーゼ結合性分子は、ヒトおよび動物のレナラーゼ関連の状態を診断、治療または予防するための診断薬、治療薬および予防薬として適切である。
一般に、用途には本発明の1つ以上のモノクローナル抗体または結合性断片の治療上または予防上の有効量を、感受性のある対象、またはレナラーゼ活性が腫瘍の増殖や転移などの病理学的後遺症を含むと知られている状態を示す個体に投与することが含まれる。抗体のFab断片およびF(ab’)2断片などを含む任意の活性型レナラーゼ結合性分子を投与することができる。
使用するレナラーゼ結合性分子は、レナラーゼ結合性分子に対する免疫応答によって循環半減期が許容できないほど短くなったり個体のレナラーゼ結合性分子に対する免疫応答が誘導されたりしないように、個体の種と適合性を有することが好ましい。投与されたレナラーゼ結合性分子は、個体のFc受容体との結合、ADCC機構の活性化などの何らかの二次機能を示すことが好ましい。
個体の治療は、治療有効量の本発明のレナラーゼ結合性分子を投与することを含んでよい。後述するように、レナラーゼ結合性分子をキットで提供してもよい。レナラーゼ結合性分子は、混合物(たとえば等量で混合したもの)としても単独でも使用または投与でき、順に提供しても一度にすべて投与してもよい。患者にレナラーゼ結合性分子を提供する際、投与する薬剤の用量は、患者の年齢、体重、身長、性別、全般的な医学的状態、既往歴などの要因によって変わる。
一般に、全身投与量のレナラーゼ結合性分子を投与する場合、約1ng/kg〜100ng/kg、100ng/kg〜500ng/kg、500ng/kg〜1μg/kg、1μg/kg〜100μg/kg、100μg/kg〜500μg/kg、500μg/kg〜1mg/kg、1mg/kg〜50mg/kg、50mg/kg〜100mg/kg、100mg/kg〜500mg/kg(個体の体重に対して)の範囲の投与量のレナラーゼ結合性分子を患者に与えるのが望ましいが、これよりも低用量または高用量で投与してもよい。わずか1.0mg/kgの用量でも何らかの効能を示すと期待できる。約5mg/kgを許容可能な用量とすることが好ましいが、最大約50mg/kgの投与量も特に治療用途には好ましい。あるいは、患者の体重に基づかない特定量のレナラーゼ結合性分子を投与してもよい。このような量は、たとえば1μg〜100μg、1mg〜100mg、または1mg〜100mgの範囲である。たとえば、部位特異的投与は、体内区画または体腔への投与であってよく、関節内投与、気管支内投与、腹腔内投与、関節包内(intracapsular)投与、軟骨内投与、腔内投与、腹腔内投与、小脳内投与、脳室内投与、結腸内投与、子宮頸管内投与、胃内投与、肝内投与、心筋内投与、骨内投与、骨盤内投与、心膜内投与、腹腔内投与、胸膜内投与、前立腺内投与、肺内投与、直腸内、腎内投与、網膜内投与、髄腔内投与、滑液嚢内投与、胸内投与、子宮内投与、膀胱内投与、病巣内投与、膣内投与、直腸投与、頬側投与、舌下投与、鼻腔内投与、眼内投与、または経皮投与などが挙げられる。
レナラーゼ結合性分子組成物は、非経口投与(皮下投与、筋肉内投与または静脈内投与)または他の任意の投与のため、特に液剤または懸濁剤の形で調製してもよく;膣投与または直腸投与のため、特にクリーム剤および坐剤(これらに限定するものではない)などの半固形状の形で調製してもよく;頬側投与または舌下投与のため、特に錠剤またはカプセル剤など(これらに限定するものではない)として調製してもよく;鼻腔内投与のため、散剤、点鼻剤、鼻用噴霧剤(これらに限定するものではない)または何らかの薬剤の形で調製してもよく;眼内投与のために点眼剤(これに限定するものではない)などとして調製してもよく;歯科疾患の処置のために調製してもよく;あるいは、経皮投与のため、ゲル剤、軟膏剤、ローション剤、懸濁剤、またはパッチ(これらに限定するものではない)などの送達系として調節してもよく、これらの送達系では、ジメチルスルホキシドなどの化学促進剤を用いて皮膚構造を変更するか経皮パッチ中の薬物濃度を増加させてもよく、タンパク質やペプチドを含む製剤を皮膚に塗布できるようにする酸化剤を用いてもよく(国際公開第98/53847号パンフレット)、電界を印加することで、一時的な経路を作る(電気穿孔など)か荷電薬物の経皮的移動性を高めてもよく(イオン導入など)、あるいは超音波を用いてもよい(超音波導入など)(米国特許第4,309,989号および第4,767,402号明細書)。
同様の方法で、本発明のレナラーゼ結合性分子の別の治療用途は、本モノクローナル抗体の1つに対して作製した抗イディオタイプ抗体による患者の能動免疫である。エピトープの構造を模倣した抗イディオタイプ抗体で免疫化することにより、能動的な抗レナラーゼ応答を誘発できるだろう(Linthicum, D. S.およびFarid, N. R., Anti-Idiotypes, Receptors, and Molecular Mimicry(抗イディオタイプ抗体、受容体、および分子模倣) (1988), pp 1-5 and 285-300)。
本発明のレナラーゼ結合性分子は薬学的に有用な組成物を調製するための既知の方法に従って製剤でき、このような方法により、これらの物質またはその機能性誘導体を医薬的に許容される担体溶媒と組み合わせて混合する。他のヒトタンパク質(たとえばヒト血清アルブミン)を含む適切な溶媒とその設計については、たとえばRemington's Pharmaceutical Sciences(レミントン薬学)第16版、Osol, A. ed., Mack Easton Pa (1980))に記述がある。有効な投与に適した医薬的に許容される組成物を作製するため、このような組成物は有効量の上記化合物と適量の担体溶媒を含有する。作用の持続時間を制御するため追加の薬学的方法を用いてもよい。重合体を用いて化合物を複合または吸収させることによって徐放性製剤を得てもよい。徐放性製剤により作用持続時間を制御するために可能な別の方法は、本発明の化合物をポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリ(乳酸)またはエチレンビニルアセテート共重合体などの重合体材料の粒子に組み込むことである。あるいは、これらの薬剤を重合体粒子に組み込む代わりに、これらの物質を、たとえば界面重合などにより調製したマイクロカプセル(たとえば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル);あるいはコロイド薬物送達系(たとえば、リポソーム、アルブミン微粒子、マイクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル);あるいはマクロエマルションに封入することができる。
処置は単回投与計画で行ってもよく、あるいは、複数回投与計画で行うのが好ましい。複数回投与では、最初の処置過程を1〜10回の個別の投与によって行ってよく、その後、応答を維持かつ/または強化するのに必要な時間間隔を空けてさらに投与を行ってよい(たとえば、1〜4ヶ月後に二回目の投与を行い、必要に応じて数か月後に次の投与を行う)。適切な処置計画の例としては、以下が挙げられる:(i)0ヶ月、1ヶ月後、および6ヶ月後に投与、(ii)0日、7日後、および1ヶ月後に投与、(iii)0ヶ月および1ヶ月後に投与、(iv)0ヶ月および6ヶ月後に投与、または疾患の症状を低減するか疾患の重症度を下げると期待される所望の応答を誘発するのに十分なその他の計画が挙げられる。
本発明はさらに、本発明を実施するのに有用なキットを提供する。本発明のキットは、上記の抗体が入った、または抗体と一緒に包装された、第一の容器を含む。本発明のキットはさらに、本発明を実施するのに必要または便利な溶液が入った、またはそれらと一緒に包装された、別の容器を含んでもよい。容器は、ガラス製、プラスチック製、または箔製であってよく、バイアル、瓶、パウチ、チューブ、袋などであってよい。本発明のキットはさらに、本発明を実施するための手順または分析情報などの情報(第一の容器に入っている試薬の量など)を記載した書類を含んでもよい。この情報書と共に容器を別の容器(たとえば箱または袋)に入れてもよい。
本発明のさらに別の側面は、生体試料中のレナラーゼを検出するためのキットである。このキットは、レナラーゼのエピトープに結合する1種以上のレナラーゼ結合性分子を保持する容器と;このレナラーゼ結合性分子をレナラーゼに結合させ、複合体を形成させて、その複合体(その有無が試料中にレナラーゼが存在するかどうかに関連する)の形成を検出する目的で用いるための説明書とを含む。容器の例としては、複数の試料でレナラーゼを同時に検出できるマルチウェルプレートが挙げられる。
(併用療法)
本発明のレナラーゼ結合性分子組成物を別の治療処置または治療薬と併用して疾患または障害を処置することができる。たとえば、本発明のレナラーゼ結合性分子を単独で投与してもよいし、1種以上の治療上有効な薬剤または処置と組み合わせて投与してもよい。このような別の治療上有効な薬剤を本発明のレナラーゼ結合性分子に結合してもよく、本発明のレナラーゼ結合性分子と同じ組成物に含ませてもよく、別の組成物として投与してもよい。このような別の治療薬または処置は、本発明の抗体または関連化合物の投与前、投与中および/または投与後に投与できる。
特定の態様では、本発明のレナラーゼ結合性分子を別の1種以上の治療薬または治療処置と同時投与する。他の態様では、本発明のレナラーゼ結合性分子を別の1種以上の治療薬の投与または処置の実施とは独立して投与する。たとえば、本発明のレナラーゼ結合性分子を最初に投与し、その後に別の1種以上の治療薬の投与または処置を行う。あるいは、別の1種以上の治療薬を最初に投与し、その後に本発明のレナラーゼ結合性分子を投与する。別の例として、ある処置(たとえば手術、放射線照射など)を最初に実施し、その後に本発明のレナラーゼ結合性分子を投与する。
他の治療上有効な薬剤/処置としては、手術、抗腫瘍剤(化学療法剤および放射線照射を含む)、抗血管新生剤、他の標的に対する抗体、小分子、光線力学療法、免疫療法、免疫増強療法、細胞傷害性剤、サイトカイン、ケモカイン、増殖阻害剤、抗ホルモン剤、キナーゼ阻害剤、心保護剤、免疫賦活剤、免疫抑制剤、および血液細胞の増殖を促進する薬剤が挙げられる。
一態様では、本明細書で用いる「別の治療剤」は、別の第二の治療剤または抗がん剤、すなわち本発明のレナラーゼ結合性分子「以外」の治療剤または抗がん剤である。任意の第二の治療剤を本発明の併用療法に使用できる。また、第二の治療剤または「第二の抗がん剤」は、以下の指針にしたがって、相加効果(相加効果を超えて相乗効果である可能性もある)を得るために選択できる。
腫瘍に対する併用療法を実施するため、本発明のレナラーゼ結合性分子を別の(すなわち第二の)異なる抗がん剤と併用で、それらを併せた抗腫瘍作用を動物または患者の体内でもたらすのに有効な方式で動物または患者に投与するであろう。したがって、薬剤が共に(すなわち同時に)腫瘍または腫瘍脈管構造に存在し、かつ腫瘍環境で共に作用するのに有効な量および期間で提供するであろう。この目的を達成するために、本発明のレナラーゼ結合分子および別の第二の抗がん剤を、単一の組成物または異なる投与経路を使う2つの異なる組成物として実質的に同時に動物に投与してもよい。
あるいは、本発明のレナラーゼ結合性分子を、異なる第二の抗がん剤投与の前後いずれかにたとえば数分から数週間の間隔で投与してもよい。本発明のレナラーゼ結合性分子と第二の別の抗がん剤とを別に動物に投与する特定の態様では、使用者は各薬剤が腫瘍に対して有利に併用効果を発揮し続けるように各薬剤の送達の間の有意な期間を決して過ぎないようにするであろう。このような場合、互いに約5分〜約1週間以内の間隔で両方の薬剤に腫瘍を接触させると考えられる。互いに約12時間〜72時間以内の間隔がより好ましく、わずか約12時間〜48時間の遅延時間が最も好ましい。
別個にタイミングを設定した併用療法のための第二の治療剤は、本明細書で他の箇所に記載するものを含む特定の基準に基づいて選択できる。先または後に投与するために1種以上の第二の異なる抗がん剤を選択することを好んでも、それらを必要に応じて実質的に同時投与で使用することを排除するものではない。第二の異なる抗がん剤を本発明の第一の治療剤の「前に」投与するために選択し、相乗効果となる可能性のある高い効果を得るように設計してもよい。
本発明の第一の治療剤の「後に」投与するために選択し、相乗効果となる可能性のある高い効果を得るように設計される第二の異なる抗がん剤としては、第一の薬剤の効果を活かす薬剤が挙げられる。したがって、後に投与する有効な第二の異なる抗がん剤としては、転移を阻害する抗血管新生剤;壊死させる腫瘍細胞を標的化する薬剤(生体内で悪性細胞が接触できるようになる、細胞内結合パートナー分子に特異的な抗体(米国特許第5,019,368号、第4,861,581号、および第5,882,626号明細書;各文献の内容は参照により本明細書に具体的に組み込まれる)など);化学療法剤;および任意の腫瘍細胞を攻撃する抗腫瘍細胞免疫複合体が挙げられる。
本発明のレナラーゼ結合分子は、がん免疫療法と併用で投与することもできる。がん免疫療法は、個体のがん細胞に対する液性免疫応答または個体のがん細胞に対する細胞性免疫応答、あるいは個体のがん細胞に対する液性応答と細胞性応答の組合せを誘発するように設計されたものであってよい。本発明のレナラーゼ結合性分子との併用で有用ながん免疫療法の例としては、がんワクチン、DNAがんワクチン、養子細胞療法、養子免疫療法、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法、抗体、免疫増強化合物、サイトカイン、インターロイキン(たとえばIL−2など)、インターフェロン(IFN−αなど)、およびチェックポイント阻害剤(たとえば、PD−1阻害剤、CTLA−4阻害剤など)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
状況により、それぞれの投与の間に数日間(2日、3日、4日、5日、6日、または7日)、数週間(1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、または8週間)、あるいは数ヶ月間(1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、または8ヶ月間)が経過するよう処置期間を有意に延長することが望ましい場合がある。これは、1つの処置(本発明の第一の治療剤など)には実質的に腫瘍の破壊を意図し、もう1つの処置(抗血管新生剤の投与など)には微小転移または腫瘍再増殖の予防を意図する状況では有利になるだろう。しかし、抗血管新生剤は、効果的な創傷治癒を得るために術後の慎重な期間に投与すべきである。その後、抗血管新生剤を患者の生存期間にわたり投与してもよい。
本発明のレナラーゼ結合性分子または異なる第二の抗がん剤を2回以上投与することも想定する。本発明のレナラーゼ結合性分子および異なる第二の抗がん剤は、隔日または隔週で交互に投与してもよいし、一方の薬剤で連続して処置を行った後にもう一方の薬剤で連続して治療を行ってもよい。いずれの場合も、併用療法で腫瘍の縮小を達成するには、投与回数には関係なく、抗腫瘍効果を発揮するのに有効な合計量で両方の薬剤を送達するだけでよい。
化学療法剤は本発明のレナラーゼ阻害剤と併用できる。化学療法剤によって増殖中の腫瘍細胞が死滅し、処置全体によって得られる壊死範囲が増える。
本発明の一側面は、本発明のレナラーゼ阻害剤を用いてがんを治療または予防する方法を提供する。当業者は、患者のがんの治療または予防ががん細胞の死滅および破壊とがん細胞の増殖または細胞分裂速度の低減(この例に限定されるものではない)を含むことを理解している。当業者は、非限定的な例としてがん細胞は原発性がん細胞、がん幹細胞、転移性がん細胞でであってよいことも理解している。以下は本開示の方法および組成物で処置できるがんの例であるが、これらに限定されるものではない:急性リンパ性白血病;急性骨髄性白血病;副腎皮質がん;小児副腎皮質がん;虫垂がん;基底細胞がん;肝外胆管がん;膀胱がん;骨がん;骨肉腫および悪性線維性組織球腫;小児脳幹神経膠腫;成人脳腫瘍;小児脳腫瘍、小児脳幹神経膠腫;脳腫瘍、中枢神経系の小児異型奇形腫瘍/ラブドイド腫瘍;中枢神経系胚芽腫;小脳星細胞腫;大脳星細胞腫/悪性神経膠腫;頭蓋咽頭腫;上衣芽腫;上衣腫;髄芽腫;髄様上皮腫;中間型松果体実質腫瘍;テント上原始神経外胚葉性腫瘍および松果体芽腫;視経路および視床下部神経膠腫(visual pathway and hypothalamic glioma);乳がん;気管支腫瘍;バーキットリンパ腫;カルチノイド腫瘍;消化管カルチノイド腫瘍;中枢神経系の異型奇形腫瘍/ラブドイド腫瘍;中枢神経系胚芽腫;中枢神経系リンパ腫;小児小脳星細胞腫、小児小脳悪性神経膠腫;子宮頚がん;小児脊索腫;慢性リンパ性白血病;慢性骨髄性白血病;慢性骨髄増殖性疾患;直腸がん;大腸がん;頭蓋咽頭腫;皮膚T細胞性リンパ腫;食道がん;ユーイング腫瘍ファミリーの腫瘍;性腺外生殖細胞腫瘍;肝外胆管がん;眼がん、眼球内黒色腫;眼がん、網膜芽細胞腫;胆嚢がん;胃がん;消化管カルチノイド腫瘍;消化管間質腫瘍(GIST);頭蓋外胚細胞腫瘍;性腺外生殖細胞腫瘍;卵巣胚細胞腫瘍;妊娠性絨毛性疾患腫瘍;神経膠腫;小児脳幹神経膠腫;神経膠腫、小児大脳星細胞腫;小児視経路および視床下部神経膠腫;有毛細胞白血病;頭頚部がん;肝細胞(肝臓)がん;ランゲルハンス細胞組織球症;ホジキンリンパ腫;下咽頭がん;視床下部および視経路神経膠腫;眼球内黒色腫;島細胞腫瘍;腎(腎細胞)がん;ランゲルハンス細胞組織球症;喉頭がん;急性リンパ性白血病;急性骨髄性白血病;慢性リンパ性白血病;慢性骨髄性白血病;有毛細胞白血病;口唇がんまたは口腔がん;肝臓がん;非小細胞肺がん;小細胞肺がん;AIDS関連リンパ腫;バーキットリンパ腫;皮膚T細胞性リンパ腫;ホジキンリンパ腫;非ホジキンリンパ腫;原発性中枢神経系リンパ腫;ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症;骨悪性線維性組織球腫および骨肉腫;髄芽腫;黒色腫;眼球内黒色腫(眼);メルケル細胞がん;中皮腫;原発不明の転移性頚部扁平上皮がん;口腔がん;多発性内分泌腫瘍症候群(小児);多発性骨髄腫および形質細胞腫瘍;菌状息肉症;骨髄異形成症候群;骨髄異形成/骨髄増殖性疾患;慢性骨髄性白血病;成人急性骨髄性白血病;小児急性骨髄性白血病;多発性骨髄腫;慢性骨髄増殖性疾患;鼻腔がんおよび副鼻腔がん;鼻咽腔がん;神経芽腫;非小細胞肺がん;口腔がん;中咽頭がん;骨肉腫および骨悪性線維性組織球腫;卵巣がん;卵巣上皮がん;卵巣胚細胞腫瘍;卵巣低悪性度腫瘍;膵臓がん;膵臓がん、膵島細胞がん;乳頭腫;副甲状腺がん;陰茎がん;咽頭がん;褐色細胞腫;傍神経節腫;中間型松果体実質腫瘍;松果体芽腫またはテント上原始神経外胚葉性腫瘍;下垂体腺腫;形質細胞腫瘍/多発性骨髄腫;胸膜肺芽腫;原発性中枢神経系リンパ腫;前立腺がん;、直腸がん;腎細胞(腎)がん;腎盂移行上皮がんおよび尿管移行上皮がん;15番染色体にあるNUT遺伝子に関連する気道がん;網膜芽細胞腫;横紋筋肉腫;唾液腺がん;肉腫(ユーイング腫瘍ファミリーの肉腫);カポジ肉腫;軟部肉腫;子宮肉腫;セザリー症候群、皮膚がん(非黒色腫);皮膚がん(黒色腫);メルケル細胞皮膚がん;小細胞肺がん;小腸がん;軟部肉腫;原発不明の転移性頚部扁平上皮がん;胃がん;テント上原始神経外胚葉性腫瘍;皮膚T細胞リンパ腫;精巣がん;咽頭がん;胸腺腫および胸腺がん;甲状腺がん;腎盂移行上皮がんおよび尿管移行上皮がん;妊娠性絨毛性腫瘍;尿道がん;子宮内膜がん;子宮肉腫;腟がん;外陰がん;ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症;ウィルムス腫瘍。
一態様では、本発明は、本発明のレナラーゼ結合性分子の投与前、投与時、または投与後に、がんの補完治療(たとえば、手術、化学療法、化学療法薬、放射線療法またはホルモン療法、あるいはそれらの組み合わせ)で対象のがんを処置することを含むがんの処置方法を提供する。
化学療法剤としては、細胞傷害性の薬剤(たとえば5−フルオロウラシル、シスプラチン、カルボプラチン、メトトレキサート、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、オキソルビシン(oxorubicin)、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、シタラビン(米国薬局方(USP))、シクロホスファミド、エストラムスチンリン酸エステルナトリウム、アルトレタミン、ヒドロキシ尿素、イホスファミド、プロカルバジン、マイトマイシン、ブスルファン、シクロホスファミド、ミトキサントロン、カルボプラチン、シスプラチン、組換えインターフェロンα−2a、パクリタキセル、テニポシド、ストレプトゾシン);細胞障害性のアルキル化剤(たとえば、ブスルファン、クロランブシル、シクロホスファミド、メルファラン、またはエチルスルホン酸);アルキル化剤(たとえば、アサレー(asaley)、AZQ、BCNU、ブスルファン、ビスルファン(bisulphan)、カルボキシフタラト−白金(carboxyphthalatoplatinum)、CBDCA、CCNU、CHIP、クロランブシル、クロロゾトシン、シス−プラチン、クロメソン、シアノモルホリノドキソルビシン、シクロジソン、シクロホスファミド、ジアンヒドロガラクチトール、フルオロドーパン、ヘプスルファム、ヒカントン、イホスファミド、メルファラン、メチルCCNU、マイトマイシンC、ミトゾラミド(mitozolamide)、ナイトロジェンマスタード、PCNU、ピペラジン、ピペラジンジオン、ピポブロマン、ポルフィロマイシン、スピロヒダントインマスタード、ストレプトゾトシン、テロキシロン、テトラプラチン、チオテパ、トリエチレンメラミン、ウラシルナイトロジェンマスタード、Yoshi−864);有糸分裂阻害剤(たとえば、アロコルヒチン、ハリコンドリンM、コルヒチン、コルヒチン誘導体、ドラスタチン10、メイタンシン、リゾキシン、パクリタキセル誘導体、パクリタキセル、チオコルヒチン、トリチルシステイン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン);植物性アルカロイド(たとえば、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、L−アスパラギナーゼ、イダルビシン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ダウノルビシン、VP−16−213、VM−26、ナベルビン(登録商標)、およびタキソテール(登録商標));生物学的薬剤(たとえば、αインターフェロン、BCG、G−CSF、GM−CSF、およびインターロイキン−2);トポイソメラーゼI阻害剤(たとえば、カンプトテシン、カンプトテシン誘導体、モルホリノドキソルビシン);トポイソメラーゼII阻害剤(たとえば、ミトキサントロン、アモナフィド、m−AMSA、アントラピラゾール誘導体、ピラゾロアクリジン、ビサントレンHCL、ダウノルビシン、デオキシドキソルビシン、メノガリル、N,N−ジベンジルダウノマイシン、オキサントラゾール(oxanthrazole)、ルビダゾン、VM−26、およびVP−16);ならびに合成薬剤(たとえば、ヒドロキシ尿素、プロカルバジン、o,p’−DDD、ダカルバジン、CCNU、BCNU、シス−ジアミンジクロロ白金、ミトキサントロン、CBDCA、レバミゾール、ヘキサメチルメラミン、全トランス型レチノイン酸、ギリアデル(登録商標)、およびポルフィマーナトリウム)が挙げられる。
抗増殖剤は細胞増殖を低減する化合物である。抗増殖剤としては、アルキル化剤;代謝拮抗剤;酵素;生体応答修飾物質;多様な薬剤、ホルモン、および拮抗剤;アンドロゲン阻害剤(たとえばフルタミドおよびリュープロレリン酢酸塩);抗エストロゲン剤(たとえば、クエン酸タモキシフェンとその類似体、トレミフェン、ドロロキシフェン、およびラロキシフェン)が挙げられる。具体的な抗増殖剤の例をさらに挙げると、レバミゾール、硝酸ガリウム、グラニセトロン、サルグラモスチム、塩化ストロンチウム−89、フィルグラスチム、ピロカルピン、デキスラゾキサン、およびオンダンセトロンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明のレナラーゼ結合性分子は、単独で投与することもできるし、細胞傷害性/抗悪性腫瘍薬剤および抗血管新生剤などの別の抗腫瘍剤と併用で投与することもできる。細胞傷害性/抗悪性腫瘍薬剤は、がん細胞を攻撃し死滅させる薬剤として定義される。一部の細胞傷害性/抗悪性腫瘍薬剤は腫瘍細胞内の遺伝物質をアルキル化するアルキル化剤であり、たとえば、シスプラチン、シクロホスファミド、ナイトロジェンマスタード、トリメチレンチオホスホラミド、カルムスチン、ブスルファン、クロランブシル、ベルスチン(登録商標)、ウラシルマスタード、クロマファジン(chlomaphazin)、およびダカルバジンが挙げられる。他の細胞傷害性/抗悪性腫瘍薬剤は腫瘍細胞に対する代謝拮抗剤であり、たとえば、シトシンアラビノシド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン、アザチオプリン、およびプロカルバジンが挙げられる。他の細胞障害性/抗悪性腫瘍薬剤は抗生物質であり、たとえば、ドキソルビシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ミトラマイシン、マイトマイシン、マイトマイシンC、およびダウノマイシンが挙げられる。このような化合物については多数のリポソーム製剤がある。さらに他の細胞障害性/抗悪性腫瘍薬剤は細胞分裂阻害剤(ビンカアルカロイド)であり、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびエトポシドが挙げられる。様々な細胞傷害性/抗悪性腫瘍薬剤としては、タキソール(登録商標)とその誘導体、L−アスパラギナーゼ、抗腫瘍抗体、ダカルバジン、アザシチジン、アムサクリン、メルファラン、VM−26、イホスファミド、ミトキサントロン、ビンデシンが挙げられる。
抗血管新生剤は当業者に周知である。本開示の方法および組成物に適切な抗血管新生剤 としては、抗VEGF抗体(ヒト化抗体およびキメラ抗体を含む)、抗VEGFアプタマー、ならびにアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。その他の既知の血管新生阻害剤としては、アンジオスタチン、エンドスタチン、インターフェロン、インターロイキン−1(αとβがある)、インターロイキン−12、レチノイン酸、組織メタロプロテアーゼ阻害物質1および組織メタロプロテアーゼ阻害物質2(TIMP−1およびTIMP−2)が挙げられる。トポイソメラーゼを含む小分子(抗血管新生活性を有するトポイソメラーゼII阻害剤であるラゾキサンなど)も使用できる。
本開示の化合物と併用できる他の抗がん剤としては以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない:アシビシン;アクラルビシン;塩酸アコダゾール;アクロニン;アドゼレシン;アルデスロイキン;アルトレタミン; アンボマイシン;酢酸アメタントロン;アミノグルテチミド;アムサクリン;アナストロゾール;アントラマイシン;アスパラギナーゼ;アスペルリン;アザシチジン;アゼテパ;アゾトマイシン;バチマスタット;ベンゾデパ;ビカルタミド;ビサントレン塩酸塩;メシル酸ビスナフィド;ビゼレシン;硫酸ブレオマイシン;ブレキナルナトリウム;ブロピリミン;ブスルファン;カクチノマイシン;カルステロン;カラセミド;カルベチマー;カルボプラチン;カルムスチン;カルビシン塩酸塩;カルゼレシン;セデフィンゴール;クロランブシル;シロレマイシン;シスプラチン;クラドリビン;メシル酸クリスナトール;シクロホスファミド;シタラビン;ダカルバジン;ダクチノマイシン;塩酸ダウノルビシン;デシタビン;デキソルマプラチン;デザグアニン;メシル酸デザグアニン;ジアジコン;ドセタキセル;ドキソルビシン;塩酸ドキソルビシン;ドロロキシフェン;クエン酸ドロロキシフェン;プロピオン酸ドロモスタノロン;デュアゾマイシン;エダトレキサート;塩酸エフロルニチン;エルサミトルシン;エンロプラチン;エンプロマート;エピプロピジン;塩酸エピルビシン;エルブロゾール;エソルビシン塩酸塩;エストラムスチン;リン酸エストラムスチンナトリウム;エタニダゾール;エトポシド;リン酸エトポシド;エトプリン;塩酸ファドロゾール;ファザラビン;フェンレチニド;フロクスウリジン;フルダラビンリン酸エステル;フルオロウラシル;フルオロシタビン(fluorocitabine);ホスキドン;ホストリエシンナトリウム;ゲムシタビン;ゲムシタビン塩酸塩;ヒドロキシ尿素;塩酸イダルビシン;イホスファミド;イルモホシン;インターロイキンII(組換えインターロイキンII(rIL2)など);インターフェロンアルファ−2a;インターフェロンアルファ−2b;インターフェロンアルファ−n1;インターフェロンアルファ−n3;インターフェロンベータ−Ia;インターフェロンガンマ−Ib;イプロプラチン;塩酸イリノテカン;ランレオチド酢酸塩;レトロゾール;リュープロレリン酢酸塩;リアロゾール塩酸塩;ロメトレキソールナトリウムナトリウム;ロムスチン;ロソキサントロン塩酸塩;マソプロコール;メイタンシン;塩酸メクロレタミン; 酢酸メゲストロール;酢酸メレンゲストロール;メルファラン;メノガリル;メルカプトプリン;メトトレキサート;メトトレキサートナトリウム;メトプリン;メツレデパ;ミチンドミド;ミトカルシン;ミトクロミン;ミトギリン;ミトマルシン;マイトマイシン;ミトスペル;ミトタン;ミトキサントロン塩酸塩;ミコフェノール酸;ノコダゾール;ノガラマイシン;オルマプラチン;オキシスラン;パクリタキセル;アルブミン結合パクリタキセル;ペグアスパラガーゼ;ペリオマイシン;ペンタムスチン;ペプロマイシン硫酸塩;ペルホスファミド;ピポブロマン;ピポスルファン;ピロキサントロン塩酸塩;プリカマイシン;プロメスタン;ポルフィマーナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニムスチン;塩酸プロカルバジン;ピューロマイシン;ピューロマイシン塩酸塩;ピラゾフリン;リボプリン;ログレチミド;サフィンゴール;サフィンゴール塩酸塩;セムスチン;シムトラゼン;スパルホサートナトリウム;スパルソマイシン;スピロゲルマニウム塩酸塩;スピロムスチン;スピロプラチン;ストレプトニグリン;ストレプトゾシン;スロフェヌル;タリソマイシン;テコガランナトリウム;テガフール;テロキサントロン塩酸塩;テモポルフィン;テニポシド;テロキシロン;テストラクトン;チアミプリン;チオグアニン;チオテパ;チアゾフリン; チラパザミン;トレミフェンクエン酸塩;トレストロンアセタート;リン酸トリシリビン;トリメトレキサート;グルクロン酸トリメトレキサート;トリプトレリン;ツブロゾール塩酸塩;ウラシルマスタード;ウレデパ;バプレオチド;ベルテポルフィン;硫酸ビンブラスチン;硫酸ビンクリスチン;ビンデシン;硫酸ビンデシン;ビネピジンスルファート;ビングリシナートスルファート;硫酸ビンロイロシン;ビノレルビン;ビノレルビン酒石酸塩;ビンロシジンスルファート;ビンゾリジンスルファート;ボロゾール;ゼニプラチン; ジノスタチン;ゾルビシン塩酸塩。他の抗がん剤としては以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない:20−エピ−1,25ジヒドロキシビタミンD3;5−エチニルウラシル;アビラテロン;アクラルビシン;アシルフルベン;アデシペノール(adecypenol);アドゼレシン;アルデスロイキン;ALL−TK拮抗剤類;アルトレタミン;アンバムスチン;アミドックス(amidox);アミホスチン;アミノレブリン酸;アムルビシン;アムサクリン;アナグレリド;アナストロゾール;アンドログラホリド;血管新生阻害剤類;アンタゴニストD(Antagonist D);アンタゴニストG(Antagonist G);アンタレリクス(antarelix);抗背側形成タンパク質−1(anti-dorsalizing morphogenetic protein-1);抗アンドロゲン剤(前立腺がん);抗エストロゲン剤;アンチネオプラストン;アンチセンスオリゴヌクレオチド;アフィジコリングリシナート;アポトーシス遺伝子調節物質;アポトーシス制御因子;アプリン酸;ara−CDP−DL−PTBA;アルギニンデアミナーゼ;アスラクリン;アタメスタン;アトリムスチン;アキシナスタチン1;アキシナスタチン2;アキシナスタチン3;アザセトロン;アザトキシン;アザチロシン;バッカチンIII誘導体;バラノール;バチマスタット;BCR/ABL拮抗剤;ベンゾクロリン(benzochlorin)類;ベンゾイルスタウロスポリン;βラクタム誘導体;βアレチン(beta−alethine);ベタクラマイシンB;ベツリン酸;bFGF阻害剤;ビカルタミド;ビサントレン;ビサジリジニルスペルミン(bisaziridinylspermine);ビスナフィド;ビストラテン(bistratene)A;ビゼレシン;ブレフラート(breflate);ブロピリミン;ブドチタン;ブチオニンスルホキシミン;カルシポトリオール;カルホスチンC;カンプトテシン誘導体;カナリアポックス(canarypox)IL−2;カペシタビン;カルボキサミド−アミノ−トリアゾール;カルボキシアミドトリアゾール;CaRest M3;CARN 700;軟骨由来阻害剤;カルゼレシン;カゼインキナーゼ阻害剤(ICOS);カスタノスペルミン;セクロピンB;セトロレリクス;クロリン類;クロロキノキサリンスルホンアミド(chloroquinoxaline sulfonamide);シカプロスト;シス−ポルフィリン;クラドリビン;クロミフェン類似体;クロトリマゾール;コリスマイシンA;コリスマイシンB;コンブレタスタチンA4;コンブレタスタチン類似体;コナゲニン;クランベシジン816;クリスナトール;クリプトフィシン8;クリプトフィシンA誘導体;クラシンA;シクロペンタアントラキノン(cyclopentanthraquinone)類;シクロプラタム(cycloplatam);シペマイシン(cypemycin);シタラビンオクホスファート;細胞溶解因子;シトスタチン(cytostatin);ダクリズマブ;デシタビン;デヒドロジデムニンB;デスロレリン;デキサメタゾン;デキシホスファミド(dexifosfamide);デキスラゾキサン;デクスベラパミル;ジアジコン;ジデムニンB;ジドックス(didox);ジエチルノルスペルミン;ジヒドロ−5−アザシチジン;9−ジヒドロタキソール;ジオキサマイシン(dioxamycin);ジフェニルスピロムスチン(diphenyl spiromustine);ドセタキセル;ドコサノール;ドラセトロン;ドキシフルリジン;ドロロキシフェン;ドロナビノール;デュオカルマイシンSA;エブセレン;エコムスチン;エデルホシン;エドレコロマブ;エフロルニチン;エレメン;エミテフル;エピルビシン;エプリステリド;エストラムスチン類似体;エストロゲン作用剤;エストロゲン拮抗剤;エタニダゾール;リン酸エトポシド;エキセメスタン;ファドロゾール;ファザラビン;フェンレチニド;フィルグラスチム;フィナステリド;フラボピリドール;フレゼラスチン;フルアステロン(fluasterone);フルダラビン;塩酸フルオロダウノルニシン(fluorodaunorunicin hydrochloride);ホルフェニメックス;ホルメスタン;ホストリエシン;ホテムスチン;ガドリニウムテキサフィリン;硝酸ガリウム;ガロシタビン;ガニレリクス;ゼラチナーゼ阻害剤;ゲムシタビン;グルタチオン阻害剤;ヘプスルファム;ヘレグリン; ヘキサメチレンビスアセトアミド;ヒペリシン;イバンドロン酸;イダルビシン;イドキシフェン;イドラマントン;イルモホシン;イロマスタット;イミダゾアクリドン(imidazoacridone)類;イミキモド;免疫賦活ペプチド類;インスリン様増殖因子−1受容体阻害剤;インターフェロン作用剤;インターフェロン;インターロイキン;ヨーベングアン;ヨードドキソルビシン;4−イポメアノール;イロプラクト(iroplact);イルソグラジン;イソベンガゾール(isobengazole);イソホモハリコンドリンB;イタセトロン;ジャスプラキノリド;カハラリドF;三酢酸ラメラリンN(lamellarin−N triacetate);ランレオチド;レイナマイシン(leinamycin);レノグラスチム;硫酸レンチナン(lentinan sulfate);レプトルスタチン;レトロゾール;白血病阻止因子;白血球αインターフェロン;リュープロリド+エストロゲン+プロゲステロン;リュープロレリン;レバミゾール;リアロゾール;直鎖ポリアミン類似体;親油性二糖ペプチド;親油性白金化合物類;リッソクリナミド7;ロバプラチン;ロンブリシン;ロメトレキソール;ロニダミン;ロソキサントロン;ロバスタチン;ロキソリビン;ルルトテカン; ルテチウムテキサフィリン;リソフィリン(lysofylline);溶解性ペプチド類;マイタンシン;マンノスタチンA;マリマスタット;マソプロコール;マスピン;マトリライシン阻害剤;細胞外基質分解酵素阻害剤;メノガリル;メルバロン;メテレリン(meterelin);メチオニナーゼ(Methioninase)(登録商標);メトクロプラミド;遊走阻害因子(MIF)阻害剤;ミフェプリストン;ミルテホシン;ミリモスチム;二重鎖の塩基が対応しないRNA;ミトグアゾン;ミトラクトール;マイトマイシン類似体;ミトナフィド;線維芽細胞増殖因子とサポリンを結合したミトトキシン(mitotoxin)(=分裂促進因子に由来する毒素);ミトキサントロン;モファロテン;モルグラモスチム;ヒト絨毛性ゴナドトロピンモノクローナル抗体;モノホスホリルリピドA+ミコバクテリア細胞壁sk;モピダモール;多剤耐性遺伝子阻害薬;MTS1(multiple tumor suppressor 1)に基づく治療;マスタード系抗がん剤;ミカペルオキシドB(mycaperoxide B);ミコバクテリアの細胞壁抽出物;ミリアポロン(myriaporone);N−アセチルジナリン;N−置換ベンズアミド;ナファレリン;ナグレスチップ(Nagrestip)(登録商標);ナロキソン+ペンタゾシン;ナパビン(napavin);ナフテルピン;ナルトグラスチム;ネダプラチン;ネモルビシン(nemorubicin);ネリドロン酸;中性エンドペプチダーゼ;ニルタミド;ニサマイシン(nisamycin);一酸化窒素調節剤;窒素酸化物系抗酸化剤;ニトルリン(nitrullyn);O6−ベンジルグアニン;オクトレオチド;オキセノン;オリゴヌクレオチド類;オナプリストン;オンダンセトロン;オンダンセトロン;オラシン(oracin);経口サイトカイン誘導剤;オルマプラチン;オサテロン;オキサリプラチン;オキサウノマイシン;パクリタキセル;パクリタキセル類似体;パクリタキセル誘導体;
パラウアミン;パルミトイルリゾキシン(palmitoylrhizoxin);パミドロン酸;パナキシトリオール;パノミフェン;パラバクチン;パゼリプチン;ペガスパルガーゼ;ペルデシン;ペントサン多硫酸ナトリウム;ペントスタチン;ペントロゾール(pentrozole);ペルフルブロン;ペルホスファミド;ペリリルアルコール;フェナジノマイシン;フェニルアセタート;ホスファターゼ阻害剤;ピシバニール(登録商標);ピロカルピン塩酸塩;ピラルビシン;ピリトレキシム;プラセチンA(placetin A);プラセチンB(placetin B);プラスミノーゲン活性化因子阻害因子;白金錯体;白金化合物;白金−トリアミン錯体;ポルフィマーナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニゾン;プロピルビスアクリドン(propyl bis−acridone);プロスタグランジンJ2;プロテアソーム阻害剤;タンパク質Aに基づく免疫調節剤;プロテインキナーゼC阻害剤;微細藻類のプロテインキナーゼC阻害剤;タンパク質チロシンホスファターゼ阻害剤;プリンヌクレオシドホスホリラーゼ阻害剤;プルプリン類;ピラゾロアクリジン; ピリドキシル化ヘモグロビン−ポリオキシエチレン複合体;Raf拮抗剤;ラルチトレキセド;ラモセトロン;Rasタンパク質ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤;Ras阻害剤;Ras−GAP阻害剤;脱メチル化レテリプチン;エチドロン酸レニウム(Re;原子量186);リゾキシン;リボザイム類;RIIレチンアミド;ログレチミド;ロヒツキン;ロムルチド;ロキニメクス;ルビギノンB1;ルボキシル;サフィンゴール;サイントピン;SarCNU;サルコフィトールA;サルグラモスチム;Sdi1模倣物;セムスチン;老化由来阻害剤1(senescence derived inhibitor 1);センスオリゴヌクレオチド類;シグナル伝達阻害剤;シグナル伝達調節剤;単鎖抗原結合性タンパク質;シゾフィラン;ソブゾキサン;ボロカプテイトナトリウム;フェニル酢酸ナトリウム;ソルベロール(solverol);ソマトメジン結合性タンパク質;ソネルミン;スパルホス酸;スピカマイシンD;スピロムスチン;スプレノペンチン;スポンギスタチン1(spongistatin 1);スクアラミン;幹細胞阻害剤;幹細胞分裂阻害剤;スチピアミド;ストロメライシン阻害剤;スルフィノシン;過活性(superactive)血管作用性腸ペプチド拮抗剤;スラジスタ(suradista);スラミン;スウェインソニン;合成グリコサミノグリカン類;タリムスチン;タモキシフェンメチオジド;タウロムスチン;タザロテン;テコガランナトリウム;テガフール;テルラピリリウム(tellurapyrylium);テロメラーゼ阻害剤;テモポルフィン;テモゾロミド;テニポシド;テトラクロロデカオキシド(tetrachlorodecaoxide);テトラゾミン;タリブラスチン;チオコラリン;トロンボポエチン;トロンボポエチン模倣物;サイマルファシン;サイモポエチン受容体作用剤;チモトリナン;甲状腺刺激ホルモン;エチルエチオプルプリンスズ(tin ethyl etiopurpurin);チラパザミン;二塩化チタノセン;トプセンチン;トレミフェン;全能性幹細胞因子;翻訳阻害剤;トレチノイン;トリアセチルウリジン;トリシリビン;トリメトレキサート;トリプトレリン;トロピセトロン;ツロステリド;チロシンキナーゼ阻害剤;チルホスチン類;UBC阻害剤;ウベニメックス;泌尿生殖洞由来増殖阻害因子;ウロキナーゼ受容体拮抗剤;バプレオチド;バリオリンB;ベクター系、赤血球遺伝子治療;ベラレソール;べラミン(veramine);ベルジン(verdin)類;ベルテポルフィン;ビノレルビン;ビンキサルチン(vinxaltine);ビタキシン(vitaxin);ボロゾール;ザノテロン;ゼニプラチン;ジラスコルブ;イミリムマブ(imilimumab);ミルタザピン;BrUOG 278;BrUOG 292;RAD0001;CT−011; FOLFIRINOX;ティピファルニブ;R115777;LDE225;カルシトリオール;AZD6244;AMG655;AMG479;BKM120;mFOLFOX6;NC−6004;セツキシマブ;IM−C225;LGX818;MEK162;BBI608;MEDI4736;ベムラフェニブ;イピリムマブ;イボルマブ(ivolumab);二ボルマブ;パノビノスタット;レフルノミド;CEP−32496;アレムツズマブ;ベバシズマブ;オファツムマブ;パニツムマブ;ペムブロリズマブ;リツキシマブ;トラスツズマブ;STAT3阻害剤(たとえばSTA−21、LLL−3、LLL12、XZH−5、S31−201、SF−1066、SF−1087、STX−0119、クリプトタンシノン、クルクミン、ジフェルロイルメタン、FLLL11、FLLL12、FLLL32、FLLL62、C3、C30、C188、C188−9、LY5、OPB−31121、ピリメタミン、OPB−51602、AZD9150など);低酸素誘導因子1(hypoxia inducing factor 1;HIF−1)阻害剤(たとえば、LW6、ジゴキシン、ラウレンジテルペノール(laurenditerpenol)、PX−478、RX−0047、ビテキシン、KC7F2、YC−1など);ならびにジノスタチンスチマラマー。一態様では、抗がん剤は5−フルオロウラシル、タキソール(登録商標)、またはロイコボリンである。
(診断方法)
一部の態様では、個体の細胞、組織、または体液に含まれるレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値が比較対照に比べて高いことを指標として疾患または障害を診断する本発明の方法に使用し、その重症度を評価し、その疾患または障害に対する処置の効果または有効性を監視する。様々な態様では、このような疾患または障害は、急性腎不全(すなわち腎臓の虚血性状態である急性尿細管壊死(ATN))、心血管疾患または心血管障害(たとえば、高血圧症、肺高血圧症、収縮期高血圧症、糖尿病性高血圧症、無症候性左室機能不全、慢性うっ血性心不全、心筋梗塞、心調律障害、アテローム動脈硬化症など)、がん、心疾患または心障害、腎疾患または腎障害、胃腸疾患または胃腸障害、肝疾患または肝障害、肺疾患または肺障害、膵疾患または膵障害(たとえば膵炎)、精神疾患または精神障害(たとえばうつ状態、不安など)、あるいは神経疾患または神経障害が挙げられる。
一態様では、本発明は個体の生体試料に含まれるレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値を評価することにより個体の疾患または障害を診断する方法である。一態様では、個体の生体試料は細胞、組織、または体液である。レナラーゼまたはレナラーゼ断片の値を評価できる体液の例としては、血液、血清、血漿、および尿が挙げられるが、これらに限定されるものではない。様々な態様では、個体の生体試料に含まれるレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値を、比較対照のレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値と比較する。比較対照の例としては、陰性対照、陽性対照、個体に期待される正常基準値、個体の歴史的な正常基準値、個体が属する母集団に期待される正常基準値、個体が属する母集団の歴史的な正常基準値が挙げられるが、これらに限定されるものではない。様々な態様では、このような疾患または障害は、急性腎不全(すなわち腎臓の虚血性状態である急性尿細管壊死(ATN))、心血管疾患または心血管障害(たとえば、高血圧症、肺高血圧症、収縮期高血圧症、糖尿病性高血圧症、無症候性左室機能不全、慢性うっ血性心不全、心筋梗塞、心調律障害、アテローム動脈硬化症など)、がん、心疾患または心障害、腎疾患または腎障害、胃腸疾患または胃腸障害、肝疾患または肝障害、肺疾患または肺障害、膵疾患または膵障害(たとえば膵炎)、精神疾患または精神障害(たとえばうつ状態、不安など)、あるいは神経疾患または神経障害が挙げられる。一部の態様では、この診断方法は診断した疾患または障害について患者を処置する工程をさらに含む。
別の態様では、本発明は個体の生体試料に含まれるレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値を評価することにより個体の疾患または障害の重症度を評価する方法である。一態様では、個体の生体試料は細胞、組織、または体液である。レナラーゼまたはレナラーゼ断片の値を評価できる体液の例としては、血液、血清、血漿、および尿が挙げられるが、これらに限定されるものではない。様々な態様では、個体の生体試料に含まれるレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値を、比較対照のレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値と比較する。比較対照の例としては、陰性対照、陽性対照、個体に期待される正常基準値、個体の歴史的な正常基準値、個体が属する母集団に期待される正常基準値、個体が属する母集団の歴史的な正常基準値が挙げられるが、これらに限定されるものではない。様々な態様では、このような疾患または障害は、急性腎不全(すなわち腎臓の虚血性状態である急性尿細管壊死(ATN))、心血管疾患または心血管障害(たとえば、高血圧症、肺高血圧症、収縮期高血圧症、糖尿病性高血圧症、無症候性左室機能不全、慢性うっ血性心不全、心筋梗塞、心調律障害、アテローム動脈硬化症など)、がん、心疾患または心障害、腎疾患または腎障害、胃腸疾患または胃腸障害、肝疾患または肝障害、肺疾患または肺障害、膵疾患または膵障害(たとえば膵炎)、精神疾患または精神障害(たとえばうつ状態、不安など)、あるいは神経疾患または神経障害が挙げられる。一部の態様では、この重症度評価方法は疾患または障害について患者を処置する工程をさらに含む。
一態様では、本発明は個体の生体試料に含まれるレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値を評価することにより個体の疾患または障害に対する処置の効果を監視する方法である。一態様では、個体の生体試料は細胞、組織、または体液である。レナラーゼまたはレナラーゼ断片の値を評価できる体液の例としては、血液、血清、血漿、および尿が挙げられるが、これらに限定されるものではない。様々な態様では、個体の生体試料に含まれるレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値を、比較対照のレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値と比較する。比較対照の例としては、陰性対照、陽性対照、個体に期待される正常基準値、個体の歴史的な正常基準値、個体が属する母集団に期待される正常基準値、個体が属する母集団の歴史的な正常基準値が挙げられるが、これらに限定されるものではない。様々な態様では、このような疾患または障害は、急性腎不全(すなわち腎臓の虚血性状態である急性尿細管壊死(ATN))、心血管疾患または心血管障害(たとえば、高血圧症、肺高血圧症、収縮期高血圧症、糖尿病性高血圧症、無症候性左室機能不全、慢性うっ血性心不全、心筋梗塞、心調律障害、アテローム動脈硬化症など)、がん、心疾患または心障害、腎疾患または腎障害、胃腸疾患または胃腸障害、肝疾患または肝障害、肺疾患または肺障害、膵疾患または膵障害(たとえば膵炎)、精神疾患または精神障害(たとえばうつ状態、不安など)、あるいは神経疾患または神経障害が挙げられる。一部の態様では、この処置の効果の監視方法は疾患または障害について患者を処置する工程をさらに含む。
様々な態様では、対象はヒトであり、任意の人種、性別、年齢であってよい。代表的な対象としては、疾患または障害にかかっている疑いのある対象、疾患または障害にかかっていると診断された対象、疾患または障害を有すると診断された対象、疾患または障害を発症するリスクのある対象が挙げられる。
本明細書に記載の本発明の方法で得た情報は単独でも利用できるし、対象または対象から採取した生体試料から得られるその他の情報(たとえば病状、病歴、生命徴候、血液化学など)と組み合わせても利用できる。
本発明の診断方法では、対象から採取する生体試料を、含有するレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値について評価する。一態様では、生体試料は、本明細書に記載の方法に有用なレナラーゼポリペプチドの断片を少なくとも含有する試料である。
本発明の方法の様々な他の態様では、レナラーゼ値が比較対照に比べて少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも400%、少なくとも500%、少なくとも600%、少なくとも700%、少なくとも800%、少なくとも900%、少なくとも1000%増加している場合に生体試料のレナラーゼ値が高いと決定する。様々な態様では、レナラーゼまたはレナラーゼ断片の値が高いことは疾患又は障害の指標となる。様々な態様では、疾患または障害は急性腎不全(すなわち腎臓の虚血性状態である急性尿細管壊死(ATN))、心血管疾患またはがんである。
本発明の方法では、対象から採取した生体試料の含有するレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値を評価する。生体試料中のレナラーゼまたはレナラーゼ断片の値は、生体試料に含まれる、レナラーゼポリペプチドまたはそのペプチド断片の量、レナラーゼmRNAまたはその断片の量、レナラーゼ活性(たとえば酵素活性、基質結合活性、受容体結合活性など)の量、あるいはそれらの組み合わせを評価することによって評価できる。一部の態様では、本明細書で他の箇所に記載する本発明の少なくとも1種のレナラーゼ結合性分子を用いて生体試料中のレナラーゼの値を決定する。
本発明の方法の様々な態様では、患者から採取した生体試料に含まれるレナラーゼの値を測定する方法としては以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない:免疫クロマトグラフィー試験、免疫ドット試験、Luminex(登録商標)試験、酵素結合免疫吸着検定(ELISA)、酵素免疫スポット(ELISPOT)試験、タンパク質マイクロアレイ試験、ウェスタンブロット試験、質量分光光度測定試験、放射免疫測定試験(RIA)、放射免疫拡散試験、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法、オークタロニー(Ouchterlony)免疫拡散試験、逆相タンパク質マイクロアレイ、ロケット免疫電気泳動試験、免疫組織染色試験、免疫沈降試験、補体結合試験、FACS、酵素−基質結合試験、酵素試験、検出可能な分子(発色団、蛍光色素、または放射性基質など)を用いた酵素試験、このような基質を用いた基質結合試験や基質置換試験、ならびにタンパク質チップ試験(以下も参照のこと:2007, Van Emon, Immunoassay and Other Bioanalytical Techniques(免疫検定法および他の生化学分析技術), CRC Press; 2005, Wild, Immunoassay Handbook(免疫検定法ハンドブック), Gulf Professional Publishing; 1996, Diamandis and Christopoulos, Immunoassay(免疫検定法), Academic Press; 2005, Joos, Microarrays in Clinical Diagnosis(臨床診断におけるマイクロアレイ), Humana Press; 2005, Hamdan and Righetti, Proteomics Today(今日のプロテオミクス), John Wiley and Sons; 2007)。一部の態様では、本明細書で他の箇所に記載する本発明の少なくとも1種のレナラーゼ結合性分子を用いた試験で生体試料中のレナラーゼの値を決定する。
(キット)
本発明には、本発明のレナラーゼ結合性分子(たとえば抗体など)またはその組み合わせと、たとえば、レナラーゼ結合性分子またはその組み合わせを本明細書で他の箇所に記載する治療処置または治療以外の処置として個体に投与することなどを記載した説明資料とを含むキットも包含される。一態様では、本発明のキットは、たとえば本発明のレナラーゼ結合性分子を個体に投与する前に本発明のレナラーゼ結合性分子またはその組み合わせを含有する治療組成物を溶解または懸濁するのに適した医薬的に許容される担体(無菌であることが好ましい)をさらに含む。必要に応じて、本発明のキットはレナラーゼ結合性分子を投与するためのアプリケーターをさらに含んでもよい。
以下、実施例を参照しながら本発明を説明する。これらの実施例は例示のみを目的として記載するものであり、本発明は決してこれらの実施例に限定されるものではなく、本明細書に記載の教示によって明らかとなるあらゆる変更をすべて包含するものと解釈すべきである。
別に説明がなければ、当業者は上記の説明と下記の実施例によって本発明の化合物を作製・利用でき、特許請求の範囲に記載の方法を実施できるだろう。したがって、以下の実施例は本発明の好ましい態様を具体的に示すものであり、決してそれ以外の本開示の内容を限定すると解釈すべきではない。
(実施例1:レナラーゼ抗体の開発)
ペプチドを免疫源として用いた。生成したペプチドはアミノ酸9個〜21個の範囲であり、レナラーゼ−1タンパク質およびレナラーゼ−2タンパク質の領域に対応していた。これらのペプチドはすべてN末端またはC末端にシステイン残基を有していた。ペプチドの配列を表1に示し、これらのペプチドがレナラーゼ−1またはレナラーゼ−2の配列に対応する箇所を図4の配列比較結果に示す。図のとおり、レナラーゼ−1に特異的なペプチドを1A〜1F、レナラーゼ−2に特異的なペプチドを3A5とする。各ペプチドを、システインを介して免疫賦活剤KLHと結合し、これを用いて6匹のウサギを免疫した。各個体から採取した抗血清を、関連ペプチド(BSA複合体)と全長のレナラーゼ−1またはレナラーゼ−2の両方を用いたELISAで抗レナラーゼ抗体価について選別した。さらに、組織可溶化液に含まれる内因性レナラーゼを検出する能力について、ウェスタンブロットで抗血清を試験した。これらの選別基準を用いて、好ましい特性を有する抗体を産生する個体を選択した。一部のペプチドについて、必要な特異性を有する抗体を産生する個体が複数存在する例があった。そのような場合、1体から最終抗血清を採取してポリクローナル抗体を作製し、別の1体(一部の例では2体)から脾臓リンパ球を採取した。他の例では1体から致死採血(terminal bleed)と脾臓摘出を行った。これらのペプチドすべてに対して得たポリクローナル抗体は、致死採血から得た全IgGをGタンパク質クロマトグラフィーで精製した後にペプチド親和性クロマトグラフィーでさらに精製することによって作製した。さらに、標準の方法で、選択した個体の脾臓から採取したリンパ球を骨髄腫細胞に融合させてハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの上清を、そのハイブリドーマが対象とするペプチドとの結合性について選別し、次に全長レナラーゼタンパク質に対する結合性についても選別した。選択したハイブリドーマをサブクローニングし抗体を精製するため増殖させた。条件を調節したハイブリドーマからプロテインA親和性クロマトグラフィーによってモノクローナル抗体を精製した。
(Biacore(登録商標)で測定した抗体親和性)
Biacore T100(登録商標)で結合試験を実施した。泳動用緩衝液として25mMのTris(pH8;NaCl(150mM)、EDTA(1mM)、グリセロール(10%)、Tween(登録商標)20(0.005%)、BSA(0.1mg/mL))を用いて25℃で結合試験を行った。ビオチン化抗体を以下のように個々のストレプトアビジンセンサーチップフローセル上に固定化した。本試験では2個のセンサーチップを用いたため、別のセンサーチップでもmAbのうち2個を分析し、これを繰り返すことでより多くのデータを収集した。レナラーゼ−1は、50nMを最高濃度として3倍希釈系列で試験した。5種類の濃度で2回ずつ試験を行った。結合した複合体を、リン酸濃度を1/1000にして短いパルスを用いて再生した。データセットを全体に適合し、結合定数の推定値を抽出した。概要を表2に示す。
1D28−4が最も親和性が高く、これを阻害試験に用いた。
(抗レナラーゼ抗体のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列)
レナラーゼ結合特異性と高親和性を有することから、モノクローナル抗体1D−28−4、1D−37−10、1F−26−1、1F−42−7、および3A−5−2を選択した。これらの抗体の抗体重鎖と軽鎖の可変領域のcDNAを、標準のポリメラーゼ連鎖反応方法と縮重プライマーセットを用いて、上記のサブクローニングしたハイブリドーマから増幅した。1D−28−4(RP−220)の可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を図5に示す。このように、好ましい特性を有する抗体の組成を例示する。
(抗体がレナラーゼのシグナル伝達を阻害することによってがん細胞生存率が低下する)
一部のがん細胞株ではレナラーゼの発現が上方調節された(図6)ため、レナラーゼががん細胞の生存に有利となったかどうかを確認するための実験を実施した。レナラーゼの発現は母斑および転移性黒色腫では正常皮膚に比べて顕著に増加する(図7)ことがわかり、レナラーゼがメラニン細胞の生存に有利であったことが示唆された。また、RenMonoAb1(RP−220に対して生成されたモノクローナル抗体)は、A375.S2(変異B−Raf(V600E)を有する黒色腫細胞株)の生存率の低減に非常に有効であり、黒色腫に有効な2種類のアルキル化剤、テモゾロミド(図8)およびダカルバジン(図9)と相乗作用を示した。RenMonoAb1は黒色腫細胞株Sk−Mel−28(変異B−Raf(V600E)および野生型N−Rasを発現する)の生存率の低減にも有効であり、テモゾロミドとの相乗作用を示した(図10)。
次に、RenMonoAb1の阻害作用が黒色腫に特異的であるか、より広範な腫瘍細胞に影響するかを決定するために実験を行った。CCL−119細胞(CCF−MEC、急性リンパ性白血病細胞株;American Type Culture Collection)は急速に分裂し、高レベルのレナラーゼ発現(NCI−60パネルを構成する細胞の平均値の約3.8倍)を示した(BioGPS.orgのマイクロアレイデータ)。RenMonoAb1は培養下のCCL−119細胞の生存率を有意に低下させた(図11)。同様に、RenMonoAb1は2つの膵臓がん細胞株MiaPacおよびPanc1の増殖も阻害した(図12〜図13)。図14は黒色腫細胞の数と形態に対するレナラーゼモノクローナル抗体の効果を示す顕微鏡写真である。レナラーゼモノクローナル抗体(たとえば1D−28−4)が培養下の黒色腫細胞を阻害することを確認した。図15は、別の2種類のレナラーゼモノクローナル抗体1C−22−1と1D−37−10も黒色腫細胞の増殖を阻害することを示す。これらのデータはレナラーゼ阻害が一部のがんで有用な治療選択肢となり得ることを示している。
(黒色腫患者の予後不良に関連するレナラーゼ過剰発現)
Yaleによる開示とMetastatic Series(患者263名を最大30年間追跡調査したもの)から得た原発性腫瘍および転移性腫瘍の試料でレナラーゼの発現を調べた。自動定量分析(AQUA)技術を用いて、蛍光発光に基づく免疫組織染色を行った(Gouldら、2009 Journal of Clinical Oncology, 27:5772-5780)。これは、抗S−100抗体と抗gp100で標識して定義した領域での標的抗原の発現を測定する方法である。黒色腫組織でのレナラーゼ発現の増加は疾患特異的死亡率の有意な増加と関連することがわかり(図16)、レナラーゼ作用の阻害はこの疾患では有用な治療選択肢となり得ることが示唆された。
(実施例2:代替活性化した腫瘍関連マクロファージによるレナラーゼ発現はSTAT3が媒介する機構を介して黒色腫の増殖を促進する)
RNLSはMAPK経路およびPI3K経路に関与する生存因子として機能すること、また、STAT3によって発現を制御される(Sonawaneら、2014 Biochemistry. 53(44):6878-6892)ことから、問題はRNLS発現とシグナル伝達ががん細胞の生存に有利であるかどうかである。黒色腫に着目する。黒色腫は、MAPK経路、PI3K経路、およびJAK/STAT経路の調節異常が起こり、さらなる治療標的が望まれる障害である。
RNLSの発現は黒色腫細胞株と腫瘍試料で顕著に増加する。転移性黒色腫の患者では、RNLS発現は疾患特異的生存率と逆相関する。黒色腫でのRNLS発現パターンの試験は、腫瘍に関連する間質の細胞内成分、特にCD163陽性マクロファージでは上方制御が主に起こることを示唆している。腫瘍に集まった代替活性化マクロファージ(M2様、CD163陽性)によって腫瘍への免疫応答が抑制され、血管新生が増大し、腫瘍細胞の移動、浸潤、および転移が促進されるとの実験データがある(Ruhrbergら、2010 Nat Med. 16:861-2; Pollardら、2004 Nat Rev Cancer. 4:71-8; Haoら、2012 Clinical and Developmental Immunology. 2012:11)。TAMはヒト黒色腫の腫瘍塊の相当の割合を占め、本試験で記載する異種移植モデルでも同様である。
RNLSはCD162陽性TAMで優先的に発現し、このことからM2様TAMがRNLSの分泌によって腫瘍の進行を促進する可能性があると示唆される。図22Cは、RNLSシグナル伝達の阻害で見られる抗腫瘍効果の根本である重要な機構を含む研究モデルを示す。抗RNLSモノクローナル抗体m28−RNLSがRNLSシグナル伝達を阻害することにより、CD86陽性TAMのCD163陽性TAMに対する比は増加し、CD162陽性TAMによるRNLS分泌は減少する。さらに、m28−RNLSは黒色腫細胞でRNLSシグナル伝達を阻害する。最終的には総STAT3値とリン酸化STAT3値が劇的に減少し、アポトーシスが起こる。
近年、RNLS遺伝子発現を調節する調節プロモーター配列や転写因子が研究されており(Sonawaneら、2014 Biochemistry. 53(44):6878-6892)、そのデータはSTAT3の重要な役割を示している。研究結果から、STAT3を上方制御するシグナルがRNLS遺伝子発現を増大し、RNLSはSTAT3活性を増大する正のフィードバックループがRNLSとSTAT3との間に存在すると示唆される。RNLSとSTAT3との間にこのような相互作用が存在することは、がんの病態形成におけるRNLSシグナル伝達の役割に関して重要な意味を有する。実際、STATファミリータンパク質(特にSTAT3)について、悪性形質転換とがん進行を促進する炎症微小環境の誘導・維持での重要な役割を示すデータは多く存在する(Yuら、2009 Nat Rev Cancer. 9:798-809)。悪性細胞ではSTAT3シグナル伝達が持続的に活性化されることが多く、この活性化により、腫瘍細胞の増殖が誘発され、さらには、腫瘍微小環境の炎症を維持する多数の遺伝子の産生が増加する。がん細胞および非形質転換と間質細胞との間に正のSTAT3フィードバックループがあることは、がんで証明されている(Catlett-Falconeら、1999 Immunity. 10:105-15;Yuら、2007 Nat Rev Immunol. 7:41-51;Araら、2009 Cancer Res. 69:329-37)。たとえば、STAT3は多発性骨髄腫患者では恒常的に活性化される。IL−6依存性ヒト骨髄腫細胞株U266では、IL−6はヤヌスキナーゼを介してSTAT3を活性化し、それによって抗アポトーシス因子が上方制御され、腫瘍細胞の生存が促進される(Catlett-Falconeら、1999 Immunity. 10:105-15)。様々な機構を通じて、STAT3は黒色腫の大部分で恒常的に活性化されて腫瘍細胞の生存、増殖、転移、血管新生を増大し、かつ腫瘍免疫応答を低減することもわかっている(Lesinskiら、2013 Future oncology. 9:925-7;Kortylewskiら、2005 Cancer metastasis reviews. 24:315-27;Emeagiら、2013 Gene therapy. 20:1085-92;Yangら、2010 International journal of interferon, cytokine and mediator research: IJIM. 2010:1-7)。
RNLSは、抗アポトーシス因子Bcl2を増加させ実行型カスパーゼの活性化を防止することによって細胞保護を媒介する(Wangら、2014 Journal of the American Society of Nephrology DOI:10.1681/asn.2013060665)。A375.S2細胞でのRNLSシグナル伝達の阻害は、p38MAPKの持続的活性化、その後に続くアポトーシス因子Baxの活性化、およびアポトーシスに関連する。p38MAPKは、炎症、細胞分化、細胞周期の制御、およびアポトーシスに関与するストレス活性化タンパク質キナーゼである(Onoら、2000 Cellular Signaling 12:1-13)。たとえば、神経成長因子を除去すると、JNKおよびp38の持続的活性化とERKの下方制御の後、アポトーシスが起こることがわかった(Xiaら、1995 Science. 270:1326-31)。しかし、ある条件ではp38を阻害することでアポトーシスを阻止できる(Onoら、2000 Cellular Signalling. 12:1-130)ため、アポトーシスでのp38の役割は明らかに状況に依存する。これらのデータから、A375.S2細胞ではRNLSに依存するp38の活性化によってアポトーシスが起こると示唆される。
黒色腫の異種移植では、RNLSシグナル伝達を阻害するとKi−67の発現が顕著に低減する。Ki−67は詳細がよくわかっている腫瘍増殖マーカーで、腫瘍の増殖能力の評価に広く利用されるため、このデータはRNLSシグナル伝達が腫瘍増殖に重要な要素であること、さらにはRNLSの阻害によって腫瘍の増殖率が低下することを示すものと解釈される。細胞周期進行を決定する重要な因子の多くは同定されており、これにはサイクリン依存性キナーゼ(CDK)と2種類のCDK阻害剤因子(すなわち、サイクリン依存性キナーゼ4阻害因子(INK4)とCDK相互作用タンパク質/キナーゼ阻害タンパク質(CIP/KIP)ファミリー)のセットが含まれる(Jungら、2010 Cellular Signalling(細胞シグナル伝達)22:1003-12)。CIP/KIPファミリーに属するCDK阻害因子であるp21の発現は、RNLSシグナル伝達により制御される。RNLSシグナル伝達の阻害はp21発現の顕著な増加と関連がある。p21は細胞をG0期に維持し、G1期からS期への移行を阻止し、G1期、またはS期への移行期で停止させる負の制御因子である(Jungら、2010 Cellular Signalling(細胞シグナル伝達)22:1003-12)。したがって、p21発現の増加は抗RNLS抗体で処置した腫瘍に見られる細胞増殖の減少によるものだったと考えられる。また、p38が細胞周期進行に影響を及ぼすこともわかっており(Onoら、2000 Cellular Signalling(細胞シグナル伝達)12:1-13)、抗RNLS抗体での処置によるp38細胞の活性化はも細胞周期進行に関与したと考えられる。
これらの知見によってRNLSをがん細胞の生存と増殖を促進する分泌型タンパク質と認識し、悪性黒色腫の処置に抗RNLS治療を単独使用あるいは他のTAM阻害薬(CSF−1R阻害因子など)または黒色腫阻害薬(MAPK経路阻害因子)と併用することについてさらに調査するための構想を得た。MAPK、PI3K、JAK/STAT3を制御する機構は複数あり、経路間のクロストークが存在するため、細胞運命は複数のシグナルの動的バランスと統合に依存し、上記データからRNLSの阻害によってこのバランスはがん細胞死に傾くと示唆される。
以下、本実施例に使用した物質と方法を記載する。
(試薬)
ヒトの黒色腫細胞株A375.S2、SkMel28、SkMel5、MeWo、およびWM266−4をAmerican Type Culture Collectionから入手し、推奨のとおりに維持した。文献に記述されているように、組み換えヒトRNLSを発現させ、精製し、濃縮し、PBSで透析を行った(Desirら、Journal of the American Heart Association. 2012;1:e002634)。RNLSペプチドRP220と変異ペプチドRP220AはUnited Peptide社で合成したものである。ウサギ抗RNLSモノクローナル抗体(AB178700)、ヤギ抗RNLSポリクローナル抗体(AB31291)、ヤギIgG、およびウサギIgGはAbcam社から購入した。
(抗RNLSモノクローナル抗体m28−RNLS(1D−28−4ともいう)とm37−RNLS(1D−37−10ともいう)の合成)
RNLSペプチドRP−220をKLHと結合させ、これを用いて6体のウサギを免疫化し、選択した個体の脾臓から採取したリンパ球を骨髄腫細胞に融合させ、ハイブリドーマを生成した。ハイブリドーマの上清を、rRNLSで選別し、選択したハイブリドーマをクローニングし、増殖させて抗体を精製した。条件を調節したハイブリドーマからプロテインA親和性クロマトグラフィーによってモノクローナル抗体を精製した。
Biacore T100(登録商標)システムで測定した結合親和性が高かったことに基づき、2つのクローンm28−RNLS(1D−28−4ともいう)(KD値=0.316nM)とm37−RNLS(1D−37−10ともいう)(KD値=2.67nM)を選択した。m28−RNLSのヌクレオチド配列をPCRで決定し、合成し、哺乳類の発現ベクターにクローニングした。293−F細胞に一過性発現させることで合成したm28−RNLSを、プロテインAクロマトグラフィーにより精製した。
(組織標本)
ヒト黒色腫のcDNAアレイIおよびIIをOriGene Technologies, Inc.(Rockville, MD, USA)から入手した。関連する症状の報告はオンラインで入手できる(http://www.origene.com/assets/documents/TissueScan)。US Biomax (Rockville, MD, USA)から入手したヒトの黒色腫組織と正常皮膚組織の試料を免疫組織化学的試験または免疫蛍光試験に用いた。
(定量RT−PCR)
先に記載した方法で様々な遺伝子の相対発現値をqRT−PCRで評価した(Leeら、2013 J Am Soc Nephrol. 24:445-55)。RNLSのmRNA値、2’−5’−オリゴアデニル酸合成酵素1(OAS1)、β−アクチン、および18SリボソームRNAをTaqMan(登録商標)Gene Expression Assay(Applied Biosystems, Carlsbad, CA, USA)を用いたリアルタイムPCR試験で評価した。結果を閾値サイクル(Ct)値で表した。標的転写産物の定量結果を内在対照である18SリボソームRNAまたはβアクチンの値に対して正規化した相対値を比較Ct法(ΔCt)で求め、試験細胞株の間に見られる遺伝子発現の相対的変化を2−ΔΔCt法で製造者のプロトコールに従い分析した(User Bulletin No. 2, Applied Biosystems)。
(免疫組織化学染色分析とウェスタンブロット分析)
過去に文献に記載された方法で免疫組織化学分析を実施した(Guoら、2012 Cancer science(がん科学)103:1474-80)。要約すると、腫瘍組織をホルマリン固定し、パラフィン包埋して、5μmの小片に切断してスライドガラスに置いた。スライドガラスの脱パラフィンと水和を行った後、10mMのクエン酸ナトリウム緩衝剤(pH:6)を入れた圧力釜で抗原を賦活化した。切片を3%過酸化水素で30分間、PBS/0.1%Tween(登録商標)20に溶解した2.5%正常ウマ血清で1時間、ブロッキングした後、一次抗体およびアイソタイプ対照IgGと共に4℃で一晩インキュベートした。本試験に用いた抗体は以下のとおりである:m28−RNLS(500ng/ml);ヤギ抗RNLSポリクローナル抗体(250ng/ml)(Abcam、ab31291);ウサギ抗CD68モノクローナル抗体(BDBioscience、1:100);ウサギ抗CD163モノクローナル抗体(AbD Serotec、1:100);ウサギ抗CD86モノクローナル抗体(Abcam、1:100);ウサギ抗Ki67モノクローナル抗体(Vector Lab、VP−RM04、1:100);ウサギ抗p21モノクローナル抗体、リン酸化Tyr705−STAT3および総Stat3(以上Cell Signaling Technologies、それぞれ♯2947、1:100;♯9145、1:400;♯4904、1:400)。ImmPRESSペルオキシダーゼ−抗ウサギIgG(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)を用いて一次抗体を検出した。Vector DAB Substrate Kitを用いて発色させ、ヘマトキシリンでカウンター染色した(Vector Laboratories)。カメラ付き顕微鏡Olympus BX41(Olympus America Inc, Center Valley, PA, USA)でスライドを観察し、撮影した。
上記の方法でウェスタンブロット分析を実施した(Wangら、2014 Journal of the American Society of Nephrology DOI:10.1681/asn.2013060665)。
(組織マイクロアレイ)
黒色腫組織マイクロアレイをUS BioMax, Inc.およびYale Tissue Pathology Servicesから購入した。本試験は、イェール大学医学部(Yale University School of Medicine)のHuman Investigation Committeeによる承認を受けている(HIC治験実施計画書番号1003006479)。イェール大学の黒色腫組織マイクロアレイは過去に記載された方法で構築した(Bergerら、2003 Cancer research(がん研究)63:8103-7;Rimmら、2001 Cancer journal(がんジャーナル)7:24-31)。全542件の黒色腫の症例を表す合計570個の組織コアを一連の対照小片(0.6mm)と0.8mm間隔でそれぞれスライドガラスに配置した。イェール大学医学部のDepartment of Pathologyから入手したホルマリン固定化パラフィン包埋組織ブロックを基にコホートを作成した。各例を病理学者が検査し、組織マイクロアレイに含むべき範囲を選択した。試料から得たコア生検をTissue Microarrayer(Beecher Instruments, Sun Prairie, WI)で組織マイクロアレイに置いた。次にこの組織マイクロアレイを切断して5μmの切片にし、接着テープによる移動システム(Instumedics, Inc., Hackensack, NJ)でスライドガラスに置き、UV架橋した。標本はすべて1959年〜1994年に切除されて保管されていた腫瘍から得たもので、2ヶ月〜38年の範囲で追跡調査が行われた(追跡調査期間の中央値は60ヶ月である)。コホートの特性は既に記載したとおりである(Bergerら、2004 Cancer research(がん研究)64:8767-72)。
組織マイクロアレイスライドを上記のとおり染色した(Bergerら、2004 Cancer research(がん研究)64:8767-72;Nicholsonら、2014 Journal of the American College of Surgeons(アメリカ外科学会誌)219:977-87)。免疫組織化学試験について上述したのと同様の手順でスライドを脱パラフィン処理し、再水和し、抗原を賦活化し(unmasked)、ブロッキングを行った。m28−RNLSと抗S100マウスモノクローナル抗体(1:100, Millipore, Temecula, CA, USA)と抗HMB45マウスモノクローナル抗体(1:100, Thermo Scientific, Fremont, CA, USA)とをBSA/TBSで希釈したカクテルを用いて、4℃で一晩かけて黒色腫組織アレイを染色した。BSA/TBSで希釈した二次抗体Alexa 488結合ヤギ抗マウス抗体(1:100、Molecular Probes、Eugene、OR)とEnvision抗ウサギ抗体(DAKO)を用いて室温で1時間染色した。スライドをTBST(それぞれ5分間×3回)で洗浄した後、Cy5−チラミド(Perkin-Elmer Life Science Products, Boston, MA)と共にインキュベートし、セイヨウワサビペルオキシダーゼで活性化することにより、セイヨウワサビペルオキシダーゼと結合した二次抗体のごく付近に、共有結合したCy5色素の沈着が多数みられる。Cy5は発光ピーク(赤色)が組織の自己蛍光のスペクトル(緑色〜橙色)の範囲から十分に離れているため、Cy5を用いた。4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールを含有するProlong Gold褪色防止剤を添加してカバーガラスでスライドを密封し、核を可視化した。
(細胞生存率試験)
全細胞数と生存細胞の割合をトリパンブルーで選別して評価し、細胞数をBioRad TC10(商標)自動細胞計数器で数えることにより評価した。さらに研究するため、細胞生存率をWST−1試薬(Roche Diagnostics, Indianapolis, IN, USA)を用いて製造者の指示に従い決定した。マイクロプレートリーダーで吸光度を測定した(Power Waves XS, BioTek Instruments, Winooski, VT, USA)。
(RNA干渉)
RNLSを標的とする4種の個別のsiRNAとsiRNAのSMARTプールをDharmacon(Lafayette, CO, USA)から購入した。製造者の指示に従い、DharmaFECT 4試薬(Dharmacon)を用いてRNLSのsiRNAまたは汎用的な陰性対照低分子干渉RNA(Control siRNA, Dharmacon)を細胞に形質移入した。ノックダウン効率をqPCRで確認した。
(マウス腫瘍モデル)
18〜20gの雌の無胸腺ヌードマウス(nu/nu)をCharles River(Willimantic, CT)から購入し、特定の無菌施設でオートクレーブ滅菌済みの敷藁を使用し、12時間の明暗周期でMicroisolator(登録商標)ケージ内で飼育した。VACHS IACUCの承認を受けた研究プロトコールに従い、マウスには水と食餌を自由に摂らせ、腫瘍の増殖、活性、摂食、疼痛の徴候を観察した。
A375.S2細胞(PBS(pH7.6)溶液、100μl中2×106個)を皮下注射し、異種移植腫瘍を確立した。腫瘍体積が50〜100mm3に達すると、マウスを対照群(ウサギIgG処置群(n=14)、週に1回40μgを腹腔内注射(IP)し、3日毎に腫瘍周辺に40μgを皮下注射(SQ))と、m28−RNLSを投与する実験群(n=14)(週に1回40μg(IP)、3日毎に40μg(SQ))とに分けた。腫瘍サイズをデジタルノギスで測定し、体積を公式(縦×横2)×π/2に従って計算した。
実験終了時にマウスを屠殺し、腫瘍を切除して直ちに液体窒素で瞬間冷凍し、−80℃で保存した。製造者の指示に従い、TUNEL試験でアポトーシスを検査した(Roche in situ Apotosis Detection System)。切片を光学顕微鏡で検査し、10例を無作為に選んで高倍率視野(拡大率:200倍)で1000個以上の細胞を計測し、アポトーシス指数を決定した。
(統計分析)
ウィルコクソン順位和検定およびマンホイットニーのU検定を対応データと独立データにそれぞれ用いた。ノンパラメトリックな反復測定に適切である場合、ANOVA(フリードマン検定)を使用して統計的有意性を評価した。フリードマン検定が統計的有意性を示した場合、ダン検定を用いて対比較を行った。さらにカプラン・マイヤー生存分析と多変量コックス回帰分析を行った。データはすべて平均値±標準誤差(平均値±SEM)であり、P値<0.05を統計的有意差と認めた。組織アレイのデータの統計分析は、SPSS(登録商標)ソフトウェアのバージョン21.0(SPSS Inc., Chicago, IL, USA)で行った。
以下、本実施例の結果について説明する。
(黒色腫でのRNLS過剰発現)
RNLS発現がヒトの正常な皮膚と悪性黒色腫とで異なるかどうかを判断するため、正常皮膚から良性母斑へ、さらには原発性黒色腫や転移性黒色腫への進行を対象範囲とする組織マイクロアレイ(TMA;Yale Tissue Microarray FacilityおよびUS Biomax, Inc.)を検査した。YaleのTMAには、1959年〜1994年に採取した192例の原発性黒色腫のコホートから得たホルマリン固定パラフィン包埋標本、1997年〜2004年に採取した246例の一連の原発性黒色腫および転移性黒色腫のコホート、良性母斑患者295人のコホート、ならびに15人の患者の対応正常皮膚の標本が含まれた。これらの組織マイクロアレイの人口統計学的特性と臨床的特性については前述のとおりである(Gould Rothbergら、2009 Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology. 27:5772-80)。US Biomaxのアレイには74例の標本が含まれ、そのうち35例は原発性黒色腫、11例は転移病巣、14例は良性母斑、14例は正常試料であった。自動免疫蛍光(IF)定量・顕微鏡検査システム(AQUA)を用いて、約600個の組織スポットでRNLSタンパク質の発現を検査した結果、正常皮膚から良性母斑へ、さらに原発性悪性黒色腫、転移性黒色腫への進行には、RNLS発現の有意な増加が伴うことが明らかになった(それぞれ、p=0.009、p=0.0003、p<0.001(図17A〜図17C)。
問題はRNLS発現やシグナル伝達の調節不全が黒色腫の増殖を促す可能性があって予後マーカーとして有用であるかどうかである。1997年〜2004年に採取した246例の一連の原発性黒色腫試料および転移性黒色腫試料のコホートの各原発性黒色腫を検査した。119人の患者がAQUA技術による評価に適した組織スポットを有していた。このグループでは、腫瘍のRNLS発現値が高い(RNLSのAQUAスコア>中央値75,764.45)患者の予後を、RNLS発現値の低い(RNLSのAQUAスコア<中央値)患者の予後と比較した。RNLS発現値が高いことは黒色腫特異的死亡の増加と関連していた。すなわち、疾患特異的な5年生存率は55%対69%、10年生存率は39.7%対58.5%であり、p値は0.008であった(図17D)。このコホートの多変量解析を行ったところ、黒色腫ではRNLS値が独立して生存期間を予測するとわかった(p=0.004、HR=3.130)。診断時の病期(p=0.05、HR=3.940)、Clarkレベル(p=0.015、HR=1.687)、および原発性腫瘍の潰瘍形成(p=0.001、HR=2.54)も独立して黒色腫における生存期間を予測するとわかった。これらの知見から、RNLSの発現は黒色腫の有用な予後マーカーとなる可能性があり、さらに悪性度の高い表現型を有する患者の部分集合を特定するのに役立つ可能性があると示唆される。
(RNLSの過剰発現はがん細胞の生存に有利である)
RNLSを媒介するシグナル伝達はアポトーシス抵抗性であり、毒性ストレスにさらされた正常細胞をアポトーシス死から防御する。(Wangら、2014 J Am Soc Nephrol.;Leeら、2013 J Am Soc Nephrol. 24:445-55)。RNLSシグナル伝達ががん細胞の生存に有利であるかどうかを調べるため、血清飢餓状態にした培養下の黒色腫細胞(A375.S2、MeWo、SkMel5およびSkMel28)に組換えRNLS(rRNLS)またはウシ血清アルブミン(BSA)を添加し、細胞生存率を測定した。BSAに比べてRNLSは顕著に血清飢餓細胞の生存率を増大し、WST−1試験で測定した増殖速度も明らかに増加した(n=6、p<0.05、図18A)。RNLSで処置した患者の全細胞数と生存細胞率を計測し、増殖速度の明らかな増加が細胞増殖の増加によるものか、アポトーシス速度の低減によるものかを決定した。図18Bに示すように、RNLS処置はBSA処置に比べて細胞数の増加と生存細胞率の増加を示し、RNLSがアポトーシス抵抗性の生存因子として機能することが示唆される。
(RNLSシグナル伝達の阻害は生体外で黒色腫細胞に対し細胞障害性を示す)
RNLSの発現とシグナル伝達を阻害することによる機能的結果を黒色腫で確認する3つの手法を用いた。第一に、RNLS発現の低減が細胞生存率にもたらす効果を評価した。siRNAでRNLSをノックダウンした結果、黒色腫細胞株A375.S2およびSkMel28の生存率は顕著に低下した(図19A、それぞれp=0.03、p=0.003)。第二に、RNLSペプチドRP−220はrRNLSの保護効果およびシグナル伝達特性を模倣するため、細胞外RNLSの受容体の重要な領域と相互作用する可能性があると考えられ、また、RP−220に対する抗体は阻害性を有する可能性があると考えられている。そこで、RP−220に対するモノクローナル抗体のパネルを開発し、がん細胞の生存に対する効果を試験した。RNLSに対して生成した2種類のモノクローナル抗体(クローン番号28−4(m28−RNLS)および37−10(m37−RNLS))は、試験したすべての(合計5個の)黒色腫細胞株の生存率を低減した。代表例を図19B〜図19Cに示す。m28−RNLSは、処置濃度の増加に関連して細胞毒性レベルの増加を示した(p<0.05、図19B)。第三に、RP−220の正味電荷を減少させることによってペプチド拮抗剤(RP−220A)を生成した(第3位のリジン/アルギニンをアラニンに変更した(図19D))。RP220AはRNLS依存性シグナル伝達を媒介せず、PMCA4bに結合して内在性RNLSの作用に拮抗する(Wangら、2015 PLoS ONE. 10:e0122932)。RP−220Aは投与量を増やすと培養下の黒色腫細胞に対し細胞傷害性を有することがわかった(p<0.005、図19D)。
(RNLSシグナル伝達の阻害は生体内で腫瘍の増殖を阻止する)
A375.S2(ヒト黒色腫)細胞を無胸腺ヌードマウスに皮下注射し、腫瘍を発生させた。腫瘍体積が約50mm3に達すると、個体をウサギIgG(対照)またはRNLS中和モノクローナル抗体m28−RNLSで処置した。試験中、個体の全般的な健康状態と活動は維持され、抗体処置に毒性は認められなかった。腫瘍サイズを1日おきに測定したところ、すべての試験時点でm28−RNLS処置により腫瘍体積が減少した(p<0.05、図20A)。11日目に個体を全体の腫瘍サイズと潰瘍形成によって屠殺した。細胞増殖マーカーKi67を有する異種移植腫瘍から採取した切片をIHC染色し、抗RNLS抗体で処置した腫瘍では、ウサギIgGで処置した腫瘍に比べて細胞増殖が有意に減少したことがわかった。すなわち、対照群の陽性細胞数は35.1±2.3/高倍率視野であったのに対し、RNLS抗体処置群では13.4±3.0であった(n=14、p=0.0004(図20B)。
(RNLSシグナル伝達を阻害すると内因性RNLS発現とSTAT3活性化が阻止されアポトーシスと細胞周期停止が誘発される)
STAT3はRNLS遺伝子のプロモーター領域に結合して発現を増大することが知られており、正のRNLS−STAT3フィードバックループが示唆されている(Sonawaneら、2014 Biochemistry(生化学)53(44):6878-6892)。対照IgGで処置した異種移植腫瘍とm28−RNLSで処置した異種移植腫瘍の免疫蛍光組織染色と細胞可溶化液の試験を行い、この関連性をさらに調査した。IFで評価したところ、RNLSとリン酸化STAT3および総STAT3の有意な共発現が腫瘍試料に認められた(図21A)。m28−RNLS処置により、RNLSタンパク質の発現が劇的に低下し、総STAT3およびリン酸化STAT3でも同様であった(図21A)。タンパク質発現の変化は、図21B〜図21Cに示すようにウェスタンブロット法で確認した。m28−RNLSで処置した腫瘍では、リン酸化STAT3(705位のチロシン;p−Y705−STAT3)と総STAT3が有意に減少した(n=8、p<0.005、図21B〜図21C)。
RNLS発現の有意な減少が黒色腫細胞で主に起こっているかどうかを試験するため、ヒトとマウスの特異的プライマーを用いて腫瘍塊の腫瘍(ヒト)RNLSと内因性(マウス)RNLSを増幅した。図21Dに示すように、m28−RNLS処置によりマウスRNLSの発現は有意に減少したが、ヒト(腫瘍)の発現には影響しなかったことから、腫瘍浸潤性細胞がRNLSの産生と分泌に重要な役割をもつことが示唆される。
さらに、細胞周期阻害因子p21の発現の増加が認められた。抗体での処置により、腫瘍試料では細胞周期制御因子p21の発現が顕著に増加した。すなわち、抗体処置群では陽性細胞が24.2±2.4であったのに対し、対照群では12.2±1.0であった(n=14、p=0.009)(図21E)。末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼを用いたdUTPニック末端標識(Terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick end labeling; TUNEL)法で染色を行ったところ、抗体で処置した腫瘍ではアポトーシスを起こした細胞数の平均値が対照群に比べて有意に増加したことが明らかになった。すなわち、抗体処置群では陽性細胞の平均値は13.3±0.6であったのに対し、対照群では4.3±0.2であった(n=14、p<0.001)(図21E)。アポトーシスの増加はp38MAPKのリン酸化やその後のB細胞リンパ腫2関連タンパク質Baxの活性化と時間的に関連していた(図21F)。これらのデータは、抗RNLS抗体で処置することにより、総STAT3およびリン酸化STAT3が顕著に減少し、細胞増殖が低減し、かつ腫瘍細胞のアポトーシスが起こることを示している。
(RNLSシグナル伝達の阻害によってCD86陽性TAMのCD163陽性TAMに対する比が増加する)
メラニン細胞は黒色腫の組織スポットに含まれたRNLSの主な発生源ではないようであった。というのも、RNLSの染色とメラニン細胞の染色との重複はごくわずかだったためである(図17A)。黒色腫ではマクロファージなどの免疫系細胞が有意に浸潤する場合が多い。浸潤性マクロファージは腫瘍の大部分のRNLSに関与するようであった。というのも、各組織スポットで認められたRNLS染色のうちかなりの成分が汎マクロファージマーカーCD68と有意に重複していたためである(図22A、上)。さらに調査し、RNLSが主にCD163陽性(M2様)TAMと共発現することを確認した(図22A、中央)。RNLSとCD86陽性(M1様)マクロファージの共発現はごくわずかであった(図22A、下)。M2様(CD163陽性)マクロファージは免疫回避に関連し、がんの発症と拡散を促進することがわかっている。一方、M1様(CD86陽性)マクロファージは一般的に炎症を誘発し、腫瘍の増殖を阻害する(Biswasら、2010 Nat Immunol. 11:889-96;Mantovaniら、Trends in Immunology(免疫の傾向)23:549-55)。m28−RNLS抗体で異種移植片を処置することにより、CD163陽性TMAの数が大幅に減少し、残った細胞は検出できるほどのRNLS発現値を示さなかった(図22B)。
(実施例3:細胞膜カルシウムATPアーゼPMCA4bを介する持続的なレナラーゼシグナル伝達により膵臓がんの増殖が促進される)
RNLSは、膵臓がんでは異常が起こるMAPK経路およびPI3K経路に関与する生存因子として機能し、発現がシグナル伝達因子および転写STAT3の活性化因子によって発現を制御される(Sonawaneら、2014 Biochemistry(生物化学)53(44):6878-6892)ため、RNLSの発現およびシグナル伝達の制御異常はがん細胞の生存にとって有利であり、腫瘍形成を促進する可能性があると仮定されている(Guoら、2014 Curr Opin Nephrol Hypertens. 23(5):513-8)。
本明細書では、一部の種類のがんでRNLS発現が増加することを実証する。膵管腺がん(PDAC)患者のコホートでは、全体の生存率は腫瘍におけるRNLS発現と逆相関し、RNLSが病態形成に関与することが示唆された。siRNAまたは阻害性をもつ抗RNLS抗体を用いてRNLS発現を阻害すると、培養PDAC細胞の生存率は低下した。異種移植マウスモデルでは、RNLSモノクローナル抗体m28−RNLSはPDACの増殖を阻害し、STAT3を下方制御しp21およびp38を上方制御することによってアポトーシスおよび細胞周期停止を起こした。腫瘍細胞でRNLS発現が下方制御されることによってPMCA4b(RNLS受容体)の発現も同等に低減し、阻害性をもつRNLS抗体を用いた場合に観察されたのと同様に腫瘍サイズが減少した。これらの結果から、RNLS経路はがんの生存に有利なこれまで認識されていなかった機能を有することが明らかであり、RNLSの発現が予後マーカーとして機能する可能性があることがわかり、さらには、膵臓がんを管理するための新規な治療標的が特定される。
RNLS発現の増加がPDACの病態形成に関与することと、RNLSシグナル伝達を阻害することが治療に有用であることについて証拠を示す。また、観察したRNLSシグナル伝達阻害剤の抗腫瘍活性に関与する分子機構を調査する。
総合すれば、これらの知見は、RNLSによるシグナル伝達が上方制御されるとPDACの病態形成に関与することを示す。ここでは、腫瘍のRNLS発現値が高いことによって全体の3年死亡率が2倍に上昇することを実証し、RNLSが診断マーカーまたは予後マーカーとしてされることを裏付ける。さらに、RNLSは分泌型タンパク質であるため、バイオマーカーとして初発時の腫瘍検出に使用してもよく、処置への応用または再発に関する代替マーカーとして用いてもよい。
RNLSによる細胞保護の主な機構は、AKT、ERK、およびSTATを活性化し、抗アポトーシス因子であるBcl2を増加させ、実行型カスパーゼの活性化を防止する能力である(Wangら、2014 Journal of the American Society of Nephrology DOI:10.1681/asn.2013060665)。Panc1細胞でのRNLSシグナル伝達の阻害は、p38MAPKの持続的活性化とその後に続くアポトーシスに関連する。p38は、炎症、細胞分化、細胞周期の制御、およびアポトーシスに関連するとされてきたストレス活性化タンパク質キナーゼである(Onoら、2000 Cellular Signaling 12(1):1-13)。たとえば、神経成長因子を除去すると、JNKおよびp38の持続的活性化とERKの下方制御に伴い、アポトーシスが起こる(Xiaら、1995 Science. 270(5240):1326-31)。しかし、ある条件ではp38を阻害することでアポトーシスを阻止できる(Onoら、2000 Cellular Signalling. 12(1):1-13)ため、アポトーシスでのp38の役割は明らかに状況に依存する。本明細書に記載のデータは、Panc1細胞でm28−RNLSに依存してp38が活性化することがアポトーシスに関連するという説明と合致する。
膵臓がんの異種移植片では、RNLSシグナル伝達を阻害するとKi−67の発現が顕著に低減する。Ki−67は細胞分裂レベルの評価に利用されるため、このデータはRNLSシグナルを阻害すると腫瘍の増殖率が低減するという説明と合致する。細胞周期進行を決定する重要な因子の多くは同定されており、これにはサイクリン依存性キナーゼ(CDK)と2種類の内因性CDK阻害因子(すなわち、サイクリン依存性キナーゼ4阻害因子(INK4)とCDK相互作用タンパク質/キナーゼ阻害タンパク質(CIP/KIP)ファミリーのセットが含まれる(Jungら、2010 Cellular Signalling(細胞シグナル伝達)22(7):1003-12)。データから、CIP/KIPファミリーに属するCDK阻害因子であるp21の発現はRNLSシグナル伝達により制御されることが明らかである。RNLSシグナル伝達の阻害はp21発現の顕著な増加と関連する。p21は細胞をG0期に維持し、G1期からS期への移行を阻止し、G1期、またはS期への移行期で停止させる負の制御因子である(Jungら、2010 Cellular Signaling(細胞シグナル伝達)22(7):1003-12)ため、p21の上方制御がm28−RNLSで処置した腫瘍に見られる細胞増殖の低減の原因になった可能性がある。また、p38が細胞周期進行に影響を及ぼすこともわかっており(Onoら、2000 Cellular Signalling(細胞シグナル伝達)12(1):1-13)、抗RNLS処置によるp38細胞の活性化も細胞周期進行に関与したと考えられる。
近年、RNLS遺伝子発現を調節する調節プロモーター配列や転写因子が研究されており(Sonawaneら、2014 Biochemistry. 53(44):6878-6892)、そのデータはSTAT3の重要な役割を示している。試験結果から、STAT3を上方制御するシグナルがRNLS遺伝子発現を増大し、RNLSはSTAT3活性を増大する正のフィードバックループがRNLSとSTAT3との間に存在すると示唆される。RNLSとSTAT3との間にこのような相互作用が存在することは、がんの病態形成におけるRNLSシグナル伝達の役割に関して重要な意味を有する。STATファミリータンパク質(特にSTAT3)は、悪性形質転換とがん進行を促進する炎症微小環境の誘導・維持と強く関連づけられている(Yuら、2009 Nat Rev Cancer. 9(11):798-809)。がん細胞ではSTAT3シグナル伝達が持続的に活性化されることが多く、この活性化により、腫瘍細胞の増殖が誘発され、さらには、腫瘍微小環境の炎症を維持する多数の遺伝子の産生が増加する。がん細胞および非形質転換と間質細胞との間に正のSTAT3フィードバックループがあることは、がんで証明されている(Catlett-Falconeら、1999 Immunity. 10(1):105-15;Yuら、2007 Nat Rev Immunol. 7(1):41-51;Araら、2009 Cancer Res. 69(1):329-37)。たとえば、STAT3は多発性骨髄腫患者では恒常的に活性化される。IL−6依存性ヒト骨髄腫細胞株U266では、IL−6はヤヌスキナーゼを介してSTAT3を活性化し、それによって抗アポトーシス因子が上方制御され、腫瘍細胞の生存が促進される(Catlett-Falconeら、1999 Immunity. 10(1):105-15)。同様に、STAT3は膵管腺がんの大部分で恒常的に活性化され、KRASが誘導する水腫瘍形成の開始と進行に必要だと考えられる(Corcoranら、2011 Cancer Res. 71(14):5020-9)。
STAT3経路とRNLSは、PDACの発症で最も一般的かつ重要な環境因子である喫煙の促進にも関与する可能性がある(Muscatら、1997 Cancer epidemiology, biomarkers & prevention(がん疫学、バイオマーカーと予防):(発行:American Association for Cancer Research、協力:American Society of Preventive Oncology)6(1):15-9;Boyleら、1996 International journal of cancer Journal international du cancer(がん国際ジャーナル)67(1):63-71;Fuchsら、1996 Archives of internal medicine(内科学)156(19):2255-60)。煙草の煙の主要成分であるニコチンは、がんの増殖速度と血管新生を増大することが示されている(Heeschenら、2002 J Clin Invest. 110(4):527-36;Heeschenら、2001 Nat Med. 7(7):833-9)。ニコチンの腫瘍増殖や転移の作用はアセチルコリン受容体α−7nACHRとの相互作用に起因しJAK−STAT3およびMEK−ERK1−2で下流シグナル伝達カスケードを起こすと考えられている(Momiら、2013 Oncogene(がん遺伝子)32(11):1384-95)。これに関して、ニコチンはSp1とSTAT3の相乗効果によりRNLSプロモーター活性を増大する(Sonawaneら、2014 Biochemistry(生化学)53(44):6878-6892)。
以前より、PMCA4bは細胞シグナル伝達、心肥大、およびがんに関与する原形質膜ATPアーゼとみなされてきた(Cartwrightら、2007 Annals of the New York Academy of Sciences. 1099(1):247-53;Pintonら、2001 EMBO J. 20(11): 2690-2701; Oceandyら、2011 Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Cell Research. 1813(5):974-8)。PMCA4bはCa2+を細胞基質から外環境へ輸送し、局所的なカルシウム濃度を制御すると考えられる。細胞基質のCa2+を制御する役割の他、PMCA4bは同じくRasとMAPKを通じてシグナル伝達する巨大分子複合体の中心である(Araら、2009 Cancer Res. 69(1):329-37;Corcoranら、2011 Cancer Res. 71(14):5020-9;Muscatら、1997 Cancer epidemiology, biomarkers & prevention(がん疫学、バイオマーカーと予防):(発行:American Association for Cancer Research、協力:American Society of Preventive Oncology. 6(1):15-9)。たとえば、腫瘍抑制因子RASSF1との相互作用を通じてRasシグナル伝達およびERK活性化を調節する(Armesillaら、2004 Journal of Biological Chemistry(米国生化学分子生物学会誌)279(30):31318-28)。このデータは、RNLSはPMCA4bを介してシグナル伝達し、PMCA4bの発現を下方制御するかPMCA4bの酵素作用を阻害することが膵臓腺がん細胞にとって細胞傷害性を有することを示す。これらの知見から、PMCA4bはPDACの管理で治療標的となると示唆される。
つまり、これらの知見によってRNLSをPDACの生存と増殖を促進する分泌型タンパク質であると実証される。このことによりRNLSを阻害する治療をがんの処置に使用することについてさらに調査するための構想が得られる。このことに関して、RNLSは、がんにおいて活性であるMAPK、PI3K、JAK−STAT3に関与し相互に関連する複数のシグナルを調節し、この分子は特に魅力的な治療標的となる可能性がある(図27E)。
以下、本実施例に使用した物質と方法を記載する。
(試薬)
ヒト膵管腺がん細胞株BxPC−3、Panc1、およびMiaPaCa−2をAmerican Type Culture Collection (ATCC) (Manassas, VA, USA)から入手し、推奨されるとおりに維持した。p38遮断剤SB203580およびSTAT3遮断剤StatticをAbcam (Cambridge, UK)から購入した。JNK阻害剤SP600125およびERK阻害剤U0126をそれぞれSigma Aldrich (St. Louis, MO, USA)、Cell Signaling Technologies (Beverly MA, USA)から入手した。組換えヒトRNLS(rRNLS)を発現させ、精製し、濃縮し、上記のとおりPBSで透析した(Desirら、2012 J Am Heart Assoc. 1(4):e002634)。ウサギ抗RNLSモノクローナル抗体(AB178700)、抗RNLSヤギポリクローナル抗体(AB31291)、ヤギIgGおよびウサギIgGをAbcamから購入した。
(抗RNLSモノクローナル抗体m28−RNLS(1D−28−4ともいう)とm37−RNLS(1D−37−10ともいう)の合成)
RNLSペプチドRP−220をKLHと結合させ、これを用いて6体のウサギを免疫化し、選択した個体の脾臓から採取したリンパ球を骨髄腫細胞に融合させ、ハイブリドーマを生成した。ハイブリドーマの上清を、rRNLSで選別し、選択したハイブリドーマをクローニングし、増殖させて抗体を精製した。条件を調節したハイブリドーマからプロテインA親和性クロマトグラフィーによってモノクローナル抗体を精製した。
Biacore T100(登録商標)システムで測定した結合親和性が高かったことに基づき、2つのクローンm28−RNLS(KD値=0.316nM)とm37−RNLS(KD値=2.67nM)を選択した。m28−RNLSのヌクレオチド配列をPCRで決定し、合成し、哺乳類の発現ベクターにクローニングした。293−F細胞に一過性発現させることで合成したm28−RNLSを、プロテインAクロマトグラフィーにより精製した。
(組織標本)
ヒトのがんcDNAアレイ(Screen cDNA Arrays IおよびII、膵臓がんcDNAアレイ)をOriGene Technologies(Rockville, MD, USA)から入手した。関連する症状の報告はオンラインで入手できる(http://www.origene.com/assets/documents/TissueScan)。US Biomax(Rockville, MD, USA)から入手したヒトの膵臓がん組織と正常組織の試料を免疫組織化学試験または免疫蛍光試験に用いた。
(定量PCR)
様々な遺伝子の相対発現値をqPCRで評価した。RNLSのmRNA値、2’−5’−オリゴアデニル酸合成酵素1(OAS1)、β−アクチン、および18SリボソームRNAをTaqMan(登録商標)Gene ExpressionリアルタイムPCR試験法(Applied Biosystems, Carlsbad, CA, USA)で評価した。結果を閾値サイクル(Ct)値で表した。標的転写産物の定量結果を内在対照である18SリボソームRNAまたはβアクチンの値に対して正規化した相対値を比較Ct法(ΔCt)で求め、試験細胞株の間に見られる遺伝子発現の相対的変化を2−ΔΔCt法で製造者のプロトコールに従い分析した(User Bulletin No. 2, Applied Biosystems)。
(免疫組織染色分析とウェスタンブロット分析)
過去に文献に記載された方法で免疫組織化学分析を実施した(Guoら、2012 Cancer science(がん科学)103(8):1474-80)。要約すると、腫瘍組織をホルマリン固定し、パラフィン包埋して、5μmの小片に切断してスライドガラスに置いた。スライドガラスの脱パラフィンと水和を行った後、10mMのクエン酸ナトリウム緩衝剤(pH:6)を入れた圧力釜で抗原を賦活化した。切片を3%過酸化水素で30分間、PBS/0.1%Tween(登録商標)20に溶解した2.5%正常ウマ血清で1時間、ブロッキングした後、一次抗体およびアイソタイプ対照IgGと共に4℃で一晩インキュベートした。本試験に用いた抗体は以下のとおりである:m28−RNLS(500ng/ml);ヤギ抗RNLSポリクローナル抗体(250ng/ml)(Abcam、ab31291);ウサギ抗Ki67モノクローナル抗体(Vector Lab、VP−RM04、1:100);ウサギ抗p21モノクローナル抗体、リン酸化Tyr705−Stat3および総Stat3(以上Cell Signaling Technologies、それぞれ♯2947、1:100;♯9145、1:400)。ImmPRESSペルオキシダーゼ−抗ウサギIgG(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)を用いて一次抗体を検出した。Vector DAB Substrate Kitを用いて発色させ、ヘマトキシリンでカウンター染色した(Vector Laboratories)。カメラ付き顕微鏡Olympus BX41(Olympus America Inc, Center Valley, PA, USA)でスライドを観察し、撮影した。
上記の方法でウェスタンブロット分析を実施した(Wangら、2014 Journal of the American Society of Nephrology DOI:10.1681/asn.2013060665)。
(組織マイクロアレイ)
膵臓組織マイクロアレイをUS BioMaxから購入した。組織マイクロアレイスライドを上記のとおり染色した(Nicholsonら、2014 Journal of the American College of Surgeons(アメリカ外科学会誌)219(5):977-87)。要約すると、m28−RNLSと汎サイトケラチンマウスモノクローナル抗体(1:100, DAKO M3515)を用いて4℃で一晩かけて標本を同時染色した。二次抗体Alexa 488結合ヤギ抗マウス抗体(1:100、Molecular Probes、Eugene、OR)とEnvision抗ウサギ抗体(DAKO)を用いて室温で1時間染色した。スライドをトリス緩衝液で洗浄(それぞれ5分間×3回)した後、Cy5−チラミド(Perkin-Elmer Life Science Products, Boston, MA)と共にインキュベートし、セイヨウワサビペルオキシダーゼで活性化した。Cy5は発光ピーク(赤色)が組織の自己蛍光のスペクトル(緑色〜橙色)の範囲に含まれないため、Cy5を用いた。4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールを含有するProlong Gold褪色防止剤を添加してカバーガラスでスライドを封止し、核を見やすくした可視化した。
(細胞生存率試験)
トリパンブルーで選別することにより細胞生存率を評価し、BioRad TC10(商標)自動細胞計数器で細胞を数えた。一部の試験では、上記のようにWST−1試薬(Roche Diagnostics, Indianapolis, IN, USA)を用いて細胞生存率を決定した(Wangら、2014 Journal of the American Society of Nephrology(米国腎臓学会誌)DOI:10.1681/asn.2013060665)。
(アポトーシスおよび細胞周期の分析)
細胞周期を分析するため、10mMのEDTAで培養細胞を分離し、氷冷した70%エタノールで固定化し、RNAse Aで消化し、ヨウ化プロピジウムで染色した。プロピジウム染色をBD FACSCalibur(商標)流動細胞計測器(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)で検出し、CellQuest(商標)ソフトウェアで解析した。
以前より行われている方法でアポトーシスを検出し、定量した(Guoら、2012 Cancer Science(がん科学)103(8):1474-80)。要約すると、製造者の指示に従い、FITC標識したアネキシンVとヨウ化プロピジウムで細胞を染色した(Bender MedSystems, Burlingame, CA, USA)。少なくとも20,000例をBD FACSCalibur(商標)流動細胞計測器(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)で収集し、CellQuest(商標)ソフトウェアで解析した。
(RNA干渉)
RNLSを標的とする4種の個別のsiRNAとsiRNAのSMARTプールをDharmacon(Lafayette, CO, USA)から購入した。DharmaFECT(商標)4試薬(Dharmacon)を用いて、製造者の提案に従い、RNLSのsiRNAまたは汎用的な陰性対照siRNA(Control siRNA, Dharmacon)を細胞に形質移入した。
安定に形質移入されたPanc1細胞株を生成するため、RNLSのshRNA(sh−RNLS)または対照shRNA(sh−対照)を有するレンチウイルス(Santa Cruz)を用いて、製造者のプロトコールに従い細胞を形質導入した。細胞を2回形質導入することでshRNAコピー数を増加させ、80μg/mlのピューロマイシンで10日間かけて選択した後、安定なクローンを確立した。ノックダウン効率をqPCRで決定した。
マウス異種移植腫瘍モデル
18〜20gの雌の無胸腺ヌードマウス(nu/nu)をCharles River(Willimantic, CT)から入手し、特定の無菌施設でオートクレーブ滅菌済みの敷藁を使用し、12時間の明暗周期でMicroisolator(登録商標)ケージ内で飼育した。VACHS IACUCの承認を受けた研究プロトコールに従い、マウスには水と食餌を自由に摂らせ、腫瘍の増殖、活性、摂食、疼痛の徴候を観察した。
BxPC3細胞(PBS(pH7.6)溶液、100μl中2×106個)を皮下注射し、異種移植腫瘍を確立した。腫瘍体積が50〜100mm3に達すると、マウスを対照群(ウサギIgG処置群(n=14)、40μgを腹腔内注射(IP))と、m28−RNLSを投与する実験群(n=14)(3日毎に40μg(IP))とに分けた。腫瘍サイズをデジタルノギスで測定し、体積を公式(縦×横2)×π/2に従って計算した。別の個体群(それぞれn=6)では、sh−RNLSまたはsh−対照Panc1細胞(PBS(pH7.6)溶液、100μl中2×106個)を皮下注射した。これらの個体には他に処置を行わず、最大30日間にわたり腫瘍のサイズと体積を測定した。
実験終了時にマウスを屠殺し、腫瘍を切除して直ちに液体窒素で瞬間冷凍し、−80℃で保存した。製造者の指示に従い、TUNEL試験でアポトーシスを検査した(Roche in situ Apotosis Detection System)。切片を光学顕微鏡で検査し、無作為に選択した5例の高倍率視野(拡大率:200倍)で1000個以上の細胞を計測し、アポトーシス指数を決定した。
(統計分析)
ウィルコクソン順位検定およびマンホイットニーのU検定を、対応データと独立データにそれぞれ用いた。適切である場合、ノンパラメトリックな反復測定、ANOVA(フリードマン検定)を使用して統計的有意性を評価した。フリードマン検定で統計的有意性が明らかになった場合、ダン検定を用いて対比較を行った。データはすべて平均値±標準誤差(平均値±SEM)であり、P値<0.05を統計的有意差と認めた。組織アレイのデータの統計分析は、SPSS(登録商標)ソフトウェアのバージョン21.0(SPSS Inc., Chicago, IL, USA)で行った。
以下、本実施例の結果について説明する。
(PDACでのRNLS過剰発現と生存率低下との関連)
RNLS発現がヒトの正常組織とがん組織とで異なるかどうかを判断するため、15種類の異なるがんを市販のヒト組織cDNAアレイを定量PCR(qPCR)スクリーニングにより検査した。RNLSの発現は膵臓がん、膀胱がん、乳がん、および黒色腫で有意に増加した(図23A)。膵臓腫瘍では特に生存率が低く、治療選択肢が限られているため、膵臓腫瘍に注目した。RNLSの発現はPDAC(約3倍)でも膵神経内分泌腫瘍(8倍)でも高かった(図23B)。抗RNLSモノクローナルm28−RNLSを用いた免疫細胞化学試験では、悪性度1〜4のPDACでRNLSの発現が見られ、主にがん細胞に局在することがわかった(図23Cおよび図28)。RNLSは、がん細胞ではほとんど細胞質に分布すると思われた;というのも、RNLSはどの悪性度の腫瘍にも見られたが、分化の進んだがん(悪性度I〜III)で最も明らかであった。膵神経内分泌腫瘍では、RNLSは腫瘍全体の細胞で発現されていた(図29)。RNLS遺伝子発現は、KRAS変異を有する膵管腺がん細胞株(PDACC)(MiaPaCa2およびPanc1)では野生型KRASを有する細胞株(BxPC3など)の場合に比べて多かった(図30)。
PDAC患者69名のRNLS発現を、ホルマリン固定パラフィン包埋処理した腫瘍コアと対にした隣接正常組織とで構成した組織マイクロアレイ(TMA)を用いて特性評価した。試料を採取した個体の人口統計学的特性と臨床的特性を表3に示す。対にしたPDAC腫瘍と非腫瘍隣接組織の中から138個の組織スポットを、RNLSタンパク質の発現について自動免疫蛍光顕微鏡定量システム(AQUA)で無作為に検査した(Gould Rothbergら、2009 Journal of Clinical Oncology(臨床腫瘍学会誌)27(34):5772-80)ところ、全体のRNLS値がPDAC腫瘍では隣接する非腫瘍膵組織の2倍超であった(p<0.001、図23D)。
RNLS発現の増加がPDAC患者の臨床的挙動に影響するかどうかを判断するため、発現値が予後に影響するかが問題となった。腫瘍のRNLS発現値が高い個体(n=34、RNLSのAQUA値>中央値)では3年生存率が劇的に下がった(24%対49%、p=0.024、図23E)。これらの知見は、腫瘍のRNLS発現値がPDACでは有用な予後マーカーとなる可能性があり、より悪性度の高い表現型を有する患者の部分集合を特定するのに役立つ可能性があることを示す。
(RNLSはPMCA4bを介してシグナル伝達し膵臓がん細胞の生存因子として作用する)
RNLSを媒介するシグナル伝達は、毒性ストレスにさらされたHK−2細胞をアポトーシスから防御する(Leeら、2013 J Am Soc Nephrol. 24(3):445-55; Wangら、2014 Journal of the American Society of Nephrology(米国腎臓学会誌)DOI:10.1681/asn.2013060665)。RNLSシグナル伝達がストレス下の膵管腺がん細胞(PDACC)の生存に有利であるかどうかを調べるため、培養下のBxPC3細胞、Panc1細胞、およびMiaPaCa2細胞に48時間血清を与えず、次の72時間は組換えRNLS(rRNLS)またはウシ血清アルブミン(BSA)を培地に添加し、全細胞数と生存細胞数(トリパンブルーで選別)を測定した。BSAに比べてrRNLSはPDACCの生存率を2〜5倍に増大した(図24A)。
過酸化水素水またはシスプラチンによる傷害にさらされたHK−2細胞にrRNLSを添加することで得られる細胞保護はERK活性化に依存することが実証されている(Leeら、2013 J Am Soc Nephrol. 24(3):445-55;Wangら、2014 Journal of the American Society of Nephrology(米国腎臓学会誌)DOI:10.1681/asn.2013060665)。図24Bに示す結果は、MAPKキナーゼMEK1の阻害剤であるU0126で前処理することによってrRNLSの保護効果が抑制されたことから、rRNLSもERKに依存してPDACCの生存率を改善することを示す。
siRNAを用いてPMCA4bの発現を特異的に下方制御することにより、膵臓がんでRNLS依存性のシグナル伝達にPMCA4bが関与していることについての証拠が得られた。対照実験では、非対象siRNAはPMCA4b遺伝子の発現にもRNLSを介するERKリン酸化にも影響しなかった(図24C)。一方、PMCA4bを標的とするsiRNAは遺伝子発現を90%超も低減し、RNLSに依存するERKリン酸化を約70%低減した(図24C)。PMCA4bの阻害は、RNLSを媒介するSTAT3リン酸化に対しては認識できるほどの影響をもたず、他にもRNLS受容体が存在すると示唆される。
rRNLSが存在する場合にPDAC細胞数で観察された増加は、細胞死を予防し、かつ/または細胞増殖を増大するRNLSシグナル伝達と合致する。PDACCの明らかな生存率上昇が細胞増殖の増大によるものか、細胞死の比率が低下したことによるものかを調べるため、RNLSが細胞周期に及ぼす影響を蛍光活性化細胞選別(FACS)分析で検査した。図24Dに示すように、BSAでの処理に比べてrRNLSは細胞周期プログラムに何の影響も与えず、このことは、RNLSは増殖プログラムには関係なく、細胞死を防止し、生存因子として機能することを示している。
(RNLSシグナル伝達を阻害すると膵臓がんの増殖が阻止される)
RNLSの発現とシグナル伝達を阻害することによる膵臓がんでの機能的結果を確認するため、siRNAでRNLSをノックダウンすることにより、RNLS発現の低減が生体外で細胞生存率にもたらす効果を評価した。この処置により、PDACC細胞Panc1株およびMiaPaCa2株の生存率は顕著に低下した(図25Aおよび図31)。RNLSペプチドRP−220はrRNLSの保護効果およびシグナル伝達特性を模倣するため、細胞外RNLSの受容体の重要な領域と相互作用する可能性があると考えられ、また、RP−220に対して生成された抗体は阻害性を有する可能性があると考えられている。ウサギでRP−220に対し生成されたモノクローナル抗体のパネルから、高親和性を有することに基づいて2種類のクローン(m28−RNLSおよびm37−RNLS)を選択した(KD値はそれぞれ0.316nM、2.67nM)。図25Bおよび図25Cに示す代表例は、m28−RNLS、m37−RNLS、および市販のポリクローナル抗体(RP−220の部分配列に対する)のPDACCの増殖に対する阻害効果を示す。培養細胞でのこれらの試験により、RNLSが自己分泌/傍分泌経路を介してPDACCの増殖を刺激するよう作用する可能性が示唆される。
RNLSシグナル伝達を阻害することが生体内での腫瘍の増殖に影響するかどうかを判断するため、shRNAを用いて、安定に形質移入された2種類のPanc1細胞株を生成した。一方には非標的shRNA(sh−対照)、もう一に方はRNLSを標的とするshRNA(sh−RNLS)を形質移入した。sh−RNLSを形質移入した細胞では、qPCRで評価したRNLS発現が90%超も減少していた(図31)。意外なことに、RNLSを標的とするshRNAによってRNLS発現を阻害した結果、RNLS受容体であるPMCA4bの発現が顕著に減少し、RNLSとPMCA4bの発現が同時制御されることが示唆される(図32)。形質移入細胞を無胸腺ヌードマウスに皮下注射して腫瘍サイズを30日間にわたって評価した。8日目以降、マウスを屠殺した30日目まで、sh−RNLSを形質移入した細胞によって発生した腫瘍の体積はsh−対照を形質移入した細胞の場合に比べて有意に小さかった(図25D)。宿主マウスによるRNLSの産生と分泌には影響がなかったことから、この結果は、sh−RNLSを形質移入した腫瘍細胞ではRNLS受容体PMCA4bも同時に阻害されたため循環RNLSに無反応だったことを示す。
阻害性を有する抗体の治療効果を評価するため、BxPC3細胞を無胸腺ヌードマウスに皮下注射し、ウサギIgG(対照)またはm28−RNLSで処置し、腫瘍体積を3週間後まで測定した。図25Eに示すように、ウサギIgGに比べ、m28−RNLSでの処置は腫瘍体積を有意に低減した。まとめると、培養PDACC細胞とPDACCの生体内モデルで行ったこれらの試験は、RNLS経路が膵臓がんの増殖を調節し、治療標的となる可能性があるという説得力のある証拠となる。
(m28−RNLS腫瘍細胞のアポトーシスおよび細胞周期停止の誘導)
ウサギIgGでの処置またはRNLS値を低減するm28−RNLSでの処置を受けたマウスから採取したBxPC3異種移植腫瘍の切片により、抗体で処置した腫瘍ではアポトーシスが約2倍増大したことが明らかになった(TUNEL染色)(図26A)。m28−RNLSでは28.4±3.3(陽性細胞数/高倍率視野)であったのに対し、IgGの場合は14.8±2.3であった(n=14、p=0.002)。培養下のPanc1細胞のFACS分析結果により、m28−RNLSがアポトーシスを引き起こしたことが確認された(図26Bおよび図33)。m28−RNLS抗体で処置することにより、処置の1日後に始まったp38MAPKの持続的リン酸化が起こった(図26C)。
m28−RNLSによるBxPC3腫瘍の処置はさらに、細胞増殖マーカーKi67の発現を2.5倍低減し(m28−RNLS対IgG:137.1±14.9対340.2±11.9(陽性細胞数/高倍率視野)、n=14、p=1.4×10-8)(図26D、上)、さらには細胞周期制御因子p21の発現を約4倍増大した(m28−RNLS対IgG:178.1±11.4対42.2±4.7.6(陽性細胞数/高倍率視野)、n=14、p=1.6×10-10)(図26D、下)。Panc1細胞のFACS分析を実施し、RNLSシグナル伝達の阻害が細胞周期に及ぼす効果について調べた。図26Eのデータから、G1期前に大きなピークが出現していることから明らかなように、RNLSの阻害がアポトーシスを引き起こしたことが確認できる。これらのデータからは、G2期に顕著な減少が明らかであり、m28−RNLSによるRNLSシグナル伝達の阻害がG2期前の細胞周期停止を引き起こしたことがわかる。
(正のRNLS−STAT3フィードバックループの存在とm28−RNLSによるその妨害)
STAT3はRNLS遺伝子のプロモーター領域に結合してその発現を増大する(Sonawaneら、2014 Biochemistry(生化学)53(44):6878-6892)。RNLSで処置したHK−2細胞ではSTAT3の727位のセリンのリン酸化(p−Ser727−STAT3)および705位のチロシンのリン酸化(p−Y705−STAT3)がそれぞれ2倍と4倍に増加したのに対し、STAT1には変化がない(図34)という所見から、正のRNLS−STAT3フィードバックループが示唆される。図27A〜Bに示すように、RNLSをPDACC株Panc1に添加すると、リン酸化STAT3(p−Ser727−STAT3およびp−Y705−STAT3)が急速に増加した。Panc1でm28−RNLSによるRNLSシグナル伝達の阻害の結果p−Y705−STAT3が長期的かつ持続的に減少した(図27C〜図27D)という知見からもRNLS−STAT3フィードバックループの存在が裏付けられる。
<配列表>
<配列番号1:抗原配列1a;PRT;ヒト(homo sapiens)>
AVWDKADDSGGRMTTAC
<配列番号2:抗原配列1b;PRT;ヒト>
AVWDKAEDSGGRMTTAC
<配列番号3:抗原配列1c;PRT;ヒト>
CTPHYAKKHQRFYDEL
<配列番号4:抗原配列1d;PRT;ヒト>
CIRFVSIDNKKRNIESSEIGP
<配列番号5:抗原配列1e;PRT;ヒト>
PGQMTLHHKPFLAC
<配列番号6:抗原配列1f;PRT;ヒト>
CVLEALKNYI
<配列番号7:抗原配列3a;PRT;ヒト>
PSAGVILGC
<配列番号8:ヒトレナラーゼ−1タンパク質(37位のアミノ酸がグルタミン酸になる多型);PRT;ヒト>
<配列番号9:1D−28−4の重鎖の全長アミノ酸配列;PRT;アナウサギ(oryctolagus cuniculus)>
<配列番号10:1D−28−4の軽鎖の全長アミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
<配列番号11:1D−28−4の重鎖CDR1のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
LSSFAVG
<配列番号12:1D−28−4の重鎖CDR2のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
IISSVGITRYASWAAG
<配列番号13:1D−28−4の重鎖CDR3のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
YGYSGDVNRLDL
<配列番号14:1D−28−4の軽鎖CDR1のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
SQSVYDNNNLA
<配列番号15:1D−28−4の軽鎖CDR2のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
GASTLAS
<配列番号16:1D−28−4の軽鎖CDR3のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
LGEFSCSSADCFA
<配列番号17:1D−37−10の重鎖の全長アミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
<配列番号18:1D−37−10の軽鎖の全長アミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
<配列番号19:1D−37−10の重鎖CDR1のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
LSDYAII
<配列番号20:1D−37−10の重鎖CDR2のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
IIGSSGDTFYATWAKG
<配列番号21:1D−37−10の重鎖CDR3のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
RYAGTTDYHDAFDP
<配列番号22:1D−37−10の軽鎖CDR1のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
SQNIYNYLS
<配列番号22:1D−37−10の軽鎖CDR2のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
KASTLTS
<配列番号24:1D−37−10の軽鎖CDR3のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
QINYSIYNHYNII
<配列番号25:1F−26−1の重鎖の全長アミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
<配列番号26:1F−26−1の軽鎖の全長アミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
<配列番号27:1F−26−1の重鎖CDR1のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
LSSYGVT
<配列番号28:1F−26−1の重鎖CDR2のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
LIGDRGTTFYASWAKS
<配列番号29:1F−26−1の重鎖CDR3のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
GSGYGARI
<配列番号30:1F−26−1の軽鎖CDR1のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
SQSVYKNNYLA
<配列番号31:1F−26−1の軽鎖CDR2のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
ETSKLAS
<配列番号32:1F−26−1の軽鎖CDR3のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
QGGYSGVDFMA
<配列番号33:1F−42−7の重鎖の全長アミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
<配列番号34:1F−42−7の軽鎖の全長アミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
<配列番号35:1F−42−7の重鎖CDR1のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
LTTYGVT
<配列番号36:1F−42−7の重鎖CDR2のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
LIGDRGTTYYASWVNG
<配列番号37:1F−42−7の重鎖CDR3のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
GSGYGARI
<配列番号38:1F−42−7の軽鎖CDR1のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
SQTVYNNNYLS
<配列番号39:1F−42−7の軽鎖CDR2のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
ETSKLSS
<配列番号40:1F−42−7の軽鎖CDR3のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
QGGYSGVDFM
<配列番号41:3A−5−2の重鎖の全長アミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
<配列番号42:3A−5−2の軽鎖の全長アミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
<配列番号43:3A−5−2の重鎖CDR1のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
LNNYHIY
<配列番号44:3A−5−2の重鎖CDR2のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
IIFNGGTYYARWTKG
<配列番号45:3A−5−2の重鎖CDR3のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
GDGI
<配列番号46:3A−5−2の軽鎖CDR1のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
SQSVFNNNYLA
<配列番号47:3A−5−2の軽鎖CDR2のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
SASTLAS
<配列番号48:3A−5−2の軽鎖CDR3のアミノ酸配列;PRT;アナウサギ>
AGSFDCNSGDCVA
<配列番号49:ヒトレナラーゼ−1の核酸配列(111位のヌクレオチドに多型の可能性が認められる);DNA;ヒト>
<配列番号50:ヒトレナラーゼ−2のアミノ酸配列(37位のアミノ酸がグルタミン酸になる多型が認められる;PRT;ヒト>
<配列番号51:ヒトレナラーゼ−2の核酸配列(111位のヌクレオチドに多型の可能性が認められる);DNA;ヒト>
<配列番号52:1D−28−4の重鎖の全長核酸配列;DNA;アナウサギ>
<配列番号53:1D−28−4の軽鎖の全長核酸配列;DNA;アナウサギ>
<配列番号54:1D−28−4の重鎖CDR1の核酸配列;DNA;アナウサギ>
ctcagtagttttgcagtgggc
<配列番号55:1D−28−4の重鎖CDR2の核酸配列;DNA;アナウサギ>
atcattagtagtgttggtattacacgctacgcgagctgggcggccggc
<配列番号56:1D−28−4の重鎖CDR3の核酸配列;DNA;アナウサギ>
tatggttatagtggtgatgttaatcggttggatctc
<配列番号57:1D−28−4の軽鎖CDR1の核酸配列;DNA;アナウサギ>
agtcagagtgtttatgataacaacaacttagcc
<配列番号58:1D−28−4の軽鎖CDR2の核酸配列;DNA;アナウサギ>
ggtgcatccactctggcatct
<配列番号59:1D−28−4の軽鎖CDR3の核酸配列;DNA;アナウサギ>
ctaggcgaatttagttgtagtagtgctgattgttttgct
<配列番号60:1D−37−10の重鎖の全長核酸配列;DNA;アナウサギ>
<配列番号61:1D−37−10の軽鎖の全長核酸配列;DNA;アナウサギ>
<配列番号62:1D−37−10の重鎖CDR1の核酸配列;DNA;アナウサギ>
ctcagtgactatgcaataatc
<配列番号63:1D−37−10の重鎖CDR2の核酸配列;DNA;アナウサギ>
attattggtagtagtggtgacacattctacgcgacctgggcgaaaggc
<配列番号64:1D−37−10の重鎖CDR3の核酸配列;DNA;アナウサギ>
cgttatgctggtactactgattatcatgatgcttttgatccc
<配列番号65:1D−37−10の軽鎖CDR1の核酸配列;DNA;アナウサギ>
agtcagaacatttacaactacttatcc
<配列番号66:1D−37−10の軽鎖CDR2の核酸配列;DNA;アナウサギ>
aaggcctccactctgacttct
<配列番号67:1D−37−10の軽鎖CDR3の核酸配列;DNA;アナウサギ>
caaatcaattactctatttataatcattataatattatt
<配列番号68:1F−26−1の重鎖の全長核酸配列;DNA;アナウサギ>
<配列番号69:1F−26−1の軽鎖の全長核酸配列;DNA;アナウサギ>
<配列番号70:1F−26−1の重鎖CDR1の核酸配列;DNA;アナウサギ>
ctcagtagctatggagtgacc
<配列番号71:1F−26−1の重鎖CDR2の核酸配列;DNA;アナウサギ>
ttgattggtgatcgtggtactacgttctacgcgagctgggcgaaaagc
<配列番号72:1F−26−1の重鎖CDR3の核酸配列;DNA;アナウサギ>
Gggagtgggtatggtgctcgcatc
<配列番号73:1F−26−1の軽鎖CDR1の核酸配列;DNA;アナウサギ>
agtcagagtgtttataagaacaactacttagcc
<配列番号74:1F−26−1の軽鎖CDR2の核酸配列;DNA;アナウサギ>
gaaacatccaaactggcatct
<配列番号75:1F−26−1の軽鎖CDR3の核酸配列;DNA;アナウサギ>
caaggcggttatagtggtgttgattttatggct
<配列番号76:1F−42−7の重鎖の全長核酸配列;DNA;アナウサギ>
<配列番号77:1F−42−7の軽鎖の全長核酸配列;DNA;アナウサギ>
<配列番号78:1F−42−7の重鎖CDR1の核酸配列;DNA;アナウサギ>
ctcactacctatggagtgacc
<配列番号79:1F−42−7の重鎖CDR2の核酸配列;DNA;アナウサギ>
ttgattggtgatcgcggtaccacttactacgcgagctgggtgaatggc
<配列番号80:1F−42−7の重鎖CDR3の核酸配列;DNA;アナウサギ>
gggagtggatatggtgctcgcatc
<配列番号81:1F−42−7の軽鎖CDR1の核酸配列;DNA;アナウサギ>
agtcagactgtttataacaataactacttatcc
<配列番号82:1F−42−7の軽鎖CDR2の核酸配列;DNA;アナウサギ>
gaaacatccaaactgtcatct
<配列番号83:1F−42−7の軽鎖CDR3の核酸配列;DNA;アナウサギ>
ggcggttatagtggtgttgattttatggct
<配列番号84:3A−5−2の重鎖の全長核酸配列;DNA;アナウサギ>
<配列番号85:3A−5−2の軽鎖の全長核酸配列;DNA;アナウサギ>
<配列番号86:3A−5−2の重鎖CDR1の核酸配列;DNA;アナウサギ>
ctcaataactaccacatatac
<配列番号87:3A−5−2の重鎖CDR2の核酸配列;DNA;アナウサギ>
atcattttcaatggtggcacatattacgcgagatggacaaaaggc
<配列番号88:3A−5−2の重鎖CDR3の核酸配列;DNA;アナウサギ>
ggggacggcatc
<配列番号89:3A−5−2の軽鎖CDR1の核酸配列;DNA;アナウサギ>
agtcagagtgtttttaataacaactatttagcc
<配列番号90:3A−5−2の軽鎖CDR2の核酸配列;DNA;アナウサギ>
tctgcatccactctggcgtct
<配列番号91:3A−5−2軽鎖CDR3の核酸配列;DNA;アナウサギ>
Gcaggcagttttgattgtaatagtggtgattgtgttgct
<配列番号92:代替のヒトレナラーゼ−1タンパク質(37位のアミノ酸がアスパラギン酸になる多型が認められる);PRT;ヒト>
<配列番号93:代替のヒトレナラーゼ−1の核酸配列(111位のヌクレオチドに多型の可能性が認められる);DNA;ヒト>
<配列番号94:代替のヒトレナラーゼ−2のアミノ酸配列(37位のアミノ酸がアスパラギン酸になる多型が認められる);PRT;ヒト>
<配列番号95:代替のヒトレナラーゼ−2の核酸配列(111位のヌクレオチドに多型の可能性が認められる);DNA;ヒト>
本明細書で引用したすべての特許、特許出願、および刊行物それぞれの開示内容全体は、これらを参照することによって本明細書に組み込まれる。
特定の態様を参照して本発明を開示したが、当然ながら、本発明の真の精神および範囲から逸脱しない範囲で本発明のこれら以外の実施形態や変形を他の当業者が考案してもよい。添付の特許請求の範囲はそのような態様および同等の変形をすべて含むと解釈するものとする。