JP2020121332A - チタン鋳塊 - Google Patents

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Abstract

【課題】凝固組織が微細で溶質元素の偏析が抑制されたチタン合金鋳塊の提供。【解決手段】一の方向に延びる柱状のチタン鋳塊であって、前記チタン鋳塊は、工業用純チタンまたはチタン合金からなり、前記一の方向に直交する断面において、前記断面の形状の重心位置を図心とする30mm角の正方形の範囲内における平均結晶粒径をGSCとし、前記断面の形状の輪郭線から前記重心位置への垂線上において、前記輪郭線からの距離が15mm位置を図心とする30mm角の正方形の範囲内における平均結晶粒径をGSSとするとき、比GSC/GSSが、0.9〜1.1であり、GSSが0.5〜5.0mmである、チタン鋳塊。【選択図】なし

Description

本発明は、チタン鋳塊に関する。
チタンは、その溶融温度では激しく空気酸化される活性な金属であるため、鉄鋼材料のように耐火物製るつぼを用いて大気雰囲気下で溶解することは難しい。このため、工業用純チタン鋳塊またはチタン合金鋳塊(以下、これらを総称して「チタン鋳塊」ともいう。)の製造では、水冷銅ハースを用い、高真空下で、高電圧加速した電子線を被溶解材の表面に照射することにより得られる衝撃熱を利用する電子ビーム溶解(EBM: Electron Beam Melting)技術や、非消耗電極としてプラズマトーチを用いた溶解法であるプラズマ溶解(PAM: Plasma Arc Melting)技術が実用化されている。
工業用純チタンまたはチタン合金を溶解して鋳造する際には、高密度介在物(以下、HDI(High Density Inclusion)という)や低密度介在物(以下、LDI(Low Density Inclusion)という)が溶湯中の成分に起因して不可避的に生成する。上述の溶解技術は、高い精錬効果を有することからHDIやLDIの除去も期待され、HDIやLDIの除去に特に厳格な航空機用素材の製造方法として用いられている。
近年、HDIおよびLDIのより一層の低減が航空機用素材の性能のさらなる厳格化に伴い望まれており、様々な取り組みが行われている。アルミニウムを約6質量%、バナジウムを約4質量%含有するTi−6Al−4V合金の鋳塊が、上述の溶解技術により製造され、主に航空機用素材に用いられている。
しかし、航空機用素材の代表的なTi−6Al−4V合金は、アルミニウムやバナジウムを高濃度に含有するため、チタン合金鋳塊の凝固過程で著しい偏析が生じる。特に、チタン合金鋳塊の鋳造における凝固速度は低いため、凝固組織が大きくなって偏析が顕著になる。このため、偏析の低減対策が重要である。なお、JIS 1〜4種の工業用純チタンにおいても不純物である鉄が工業用純チタン鋳塊の凝固過程で偏析し易い。
凝固組織の微細化が溶質元素の偏析を低減するために有効であることが知られる。溶質元素は凝固組織の間隙に濃化するため、凝固組織が微細であるほど偏析の程度も小さい。さらに、チタン鋳塊の鋳造時間は長い。このため、凝固完了後のチタン鋳塊は、高温に長時間保持されるため、拡散が促進される。拡散は、拡散距離の二乗に反比例することが拡散の効果を表すフーリエ数から分かるからである。
チタン鋳塊の凝固組織を微細化するには、鋳込み後の鋳塊の外周面に冷却水を吹き付けて急冷する水冷を行うことが有効であると、一見考えられる。
しかし、水冷による鋳塊の冷却は鋳塊の熱伝導率により決定される。また、工業的規模で製造されるチタン鋳塊の厚さは100〜600mm程度である。
このため、鋳込み後のチタン鋳塊を水冷すると、鋳塊の表層から鋳塊の厚み方向へ20mmの位置までの表層部における結晶粒径を0.1〜5mm程度に微細化できるものの、この表層部以外の中心部における結晶粒径は10〜50mm程度と粗大化してしまい、表層部および中心部の全域においてチタン鋳塊の凝固組織を微細化することはできない。
特許文献1には、電子ビーム溶解法あるいはプラズマ溶解法により高融点金属または金属合金の鋳塊を製造する際に、鋳型内の溶湯に1〜50kHzの超音波振動エネルギーを付与すること、あるいは、鋳型内で凝固させた凝固金属または金属合金が再結晶温度領域を通過する時に再結晶温度領域内の金属または合金に1〜50kHzの超音波振動エネルギーを付与することにより、鋳塊の平均結晶粒径を微細化する発明が開示されている。
特許文献2には、電子ビーム溶解法により原料のチタンをハース内で溶解した後、ハース内の溶湯を鋳型内に流し込むことによりチタン鋳塊を製造する際に、ハースに20kHzの超音波振動を付与することにより不純物が少ない高純度のチタンを製造する発明が開示されている。この発明は、鋳塊の凝固組織を直接微細化するのではなく、振動、特に超音波振動によりハース内の溶湯中に凝固核が生成し、生成した凝固核が鋳型内に流れて、凝固組織が微細化するとしている。
さらに、特許文献3には、溶湯保留部から鋳型までの間に設けられた溶湯流動案内通路を流動中の溶湯に、振動発生器による超音波振動を、液相線温度を挟んだ温度域で連続して付与することにより、16〜60μmの結晶粒径を有するAl−Si合金鋳塊を製造する発明が開示されている。
特開平06−287661号公報 特開平11−350051号公報 特開2008−272819号公報
特許文献1により開示された発明は、鋳型を振動させることにより溶湯へ1〜50kHzの超音波振動エネルギーを間接的に付与するため、振動の付与効率が低い。このため、結晶粒の微細化効果が小さい。さらに、超音波振動により鋳型を破損するおそれがあり、工業的規模で実施することは難しい。また、特許文献1により開示された発明は、凝固が完了したチタン合金鋳塊を再結晶温度領域で超音波振動させるものであり、凝固組織の微細化を図ることはできない。
特許文献2により開示された発明においてハース内の溶湯中で発生する凝固核は、ハース内の溶湯温度の変動により溶解して消滅する可能性が高い。このため、特許文献2により開示された発明により凝固組織が微細なチタン鋳塊を工業的規模で製造することは難しい。
さらに、チタン合金の融点はAl−Si合金の融点よりも約1000℃高い。このため、特許文献3により開示された発明で付与する振動の効果を高めるために溶湯流動案内通路の長さを長くすると、溶湯流動案内通路を溶湯が接触して通過する際に、溶湯流動案内通路内で凝固シェルが不可避的に形成される。このため、通過中の溶湯に振動が伝播し難くなる。これを防ぐために溶湯流動案内通路を電子ビーム等により加熱すると、超音波振動を付与することにより生成した凝固核が溶解してしまう。このため、特許文献3により開示された発明により、凝固組織が微細なチタン鋳塊を工業的規模で製造することは難しい。
本発明は、従来の技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、表層部のみならず内部においても凝固組織が微細であり、溶質元素の偏析が抑制されたチタン鋳塊を提供することを目的とする。
チタン鋳塊は、真空容器内で減圧下あるいは不活性ガス雰囲気下で製造されることが多い。このため、チタン鋳塊の長さが限定されたバッチ式で操業する半連続鋳造法が用いられる。半連続鋳造法の鋳造速度は小さい。そして、チタン鋳塊の凝固は、底部から上部へ向けて進行し、いわゆる一方向凝固と同じ凝固組織形態となる。
凝固核の生成を促進することが凝固組織を微細化するために有効である。チタン鋳塊の固液界面に振動を与えることが凝固核の生成を促進するために有効であり、これにより、一方向的に成長している凝固組織を微細化することができる。ここで、「固液界面」とは、凝固組織である固相のデンドライトと、その間隙に存在する液相との界面を意味する。
固液界面への振動の与え方としては、液相側から振動を与える方法と、凝固した固相側から振動を与える方法とに大別される。
電子ビーム溶解法あるいはプラズマ溶解法の鋳造速度が低いため、鋳型内の溶湯の湯面が凝固して皮張りする可能性がある。これを防ぐために、鋳型内の溶湯の湯面に電子ビームあるいはプラズマを照射する必要がある。このため、振動子を溶湯に直接接触して鋳型内の溶湯の湯面を振動させることや、ホーンにより鋳型内の溶湯の湯面を振動させることは、電子ビームなどが振動子やホーンに照射されてしまうために困難である。
Ti−6Al−4V合金には、上述のようにアルミニウムやバナジウムが含有されていることから、固液共存温度範囲が存在する。この固液共存温度範囲で形成される凝固組織であるデンドライト樹間にある液相は、凝固直前の状態にある。この液相に振動を付与することができれば、凝固する際の核生成頻度を高めて凝固組織を微細化することができる。
しかし、複雑な形態を呈するデンドライト樹間に存在する液相に、液相側から振動を付与しても、抵抗が大きいために振動の付与効率が低い。これに対し、凝固が完了した固相側から振動を付与すれば、デンドライト樹間に存在する液相に高い効率で振動を付与・伝播することができ、これにより、凝固核がデンドライト樹間の液相に多く発生し、凝固組織を微細化できる。
通常のチタン鋳塊の凝固組織は、前述したように一方向的である。したがって、半連続鋳造法による鋳造中のチタン鋳塊の固液界面の下方の固相から振動を付与することにより、この固液界面に均等に振動を付与することができる。
また、振動の効果を一定にするためには、固液界面から一定の位置でチタン鋳塊を振動させればよい。すなわち、固液界面に振動を効率よく付与するためには、鋳型の直下でチタン鋳塊に振動を付与すればよい。
さらに、付与する振動を、特許文献1が開示する1〜50kHzの超音波振動では決して得られないmmオーダーの大きな振幅を有する振動とすることにより、チタン鋳塊の結晶粒を、表層部のみならず中心部においても、従来にはない程度に十分に微細化でき、溶質元素の偏析が抑制されたチタン鋳塊を提供できる。
すなわち、電子ビーム溶解法あるいはプラズマ溶解法により、凝固組織が微細で溶質元素の偏析が抑制されたチタン鋳塊を安定して製造するためには、鋳型の直下でチタン鋳塊に大きな振幅の振動を付与すればよい。
本発明は、これらの新規な知見に基づくものである。
一の方向に延びる柱状のチタン鋳塊であって、
前記チタン鋳塊は、工業用純チタンまたはチタン合金からなり、
前記一の方向に直交する断面において、前記断面の形状の重心位置を図心とする30mm角の正方形の範囲内における平均結晶粒径をGSとし、前記断面の形状の輪郭線から前記重心位置への垂線上において、前記輪郭線からの距離が15mm位置を図心とする30mm角の正方形の範囲内における平均結晶粒径をGSとするとき、
比GS/GSが、0.9〜1.1であり、
GSが0.5〜5.0mmである、
チタン鋳塊。
本発明に係るチタン鋳塊が、円柱形状の場合には、断面形状が直径:100〜1000mmの円であり、長さ:1000〜10000mmであることが例示され、直方体形状の場合には、断面形状が幅:300〜2000mm、厚さ:100〜700mmの矩形であり、長さ:1000〜10000mmであることが例示される。
本発明により、凝固組織が微細で溶質元素の偏析が抑制された工業用純チタン鋳塊またはチタン合金鋳塊が提供される。
図1(a)は、本発明に係るチタン合金鋳塊の製造装置を模式的に示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)におけるA−A断面図であって、振動発生装置11とチタン合金鋳塊0の縦断面を示す。 図2(a)は、鋳塊から円盤状試料を採取する位置を示す図であり、図2(b)は、円盤状試料から結晶粒径測定用試料およびグリーブル用試料を採取する位置を示す図である。
1.本実施形態に係るチタン鋳塊
チタン鋳塊は、一の方向に延びる柱状の鋳塊である。通常、一の方向(柱の軸方向)は、鋳込み時の鋳造方向と一致する。前記一の方向に直交する断面において、その断面の形状の重心位置を図心とする30mm角の正方形の範囲(以下、この範囲を「中央部」とも呼ぶ。)内における平均結晶粒径をGSとし、前記断面の形状の輪郭線からの距離が15mm位置を図心とする30mm角の正方形の範囲内(以下、この範囲を「表層部」とも呼ぶ。)における平均結晶粒径をGSとするとき、比GS/GSが、0.9〜1.1であり、GSが0.5〜5.0mmである必要がある。
なお、断面の形状の重心位置とは、断面の形状の幾何中心であり、鋳塊が円柱形状の場合には、断面を構成する円の中心を意味し、鋳塊が直方体形状の場合には、断面を構成する矩形の二つの対角線の交点を意味する。
結晶粒径の測定に際しては、バンドソーにより前記鋳塊を前記一の方向に直交する方向で切断して、厚みが約40mmの円盤状の試料を採取する。その後、この円盤状の試料から、断面の形状の重心位置を図心とする30mm角の正方形の試料と、前記断面の形状の輪郭線からの距離が15mm位置を図心とする30mm角の正方形の試料を採取する。採取した30mm角の試料を#80〜#1500のエメリー紙で研磨後、粒径0.05μmのシリカを含有する懸濁液を用いて研磨し、表面を鏡面状に仕上げ、その後、試料を硝酸−5vol%弗酸溶液中に、室温で30秒間浸漬させて結晶粒を現出させたものを結晶粒径測定用試料として用いる。
ここで、表層部の平均結晶粒径GSは、微細であることが好ましいが、0.5mm未満の場合には、表層部と中央部との平均結晶粒径の差を小さくすることが困難となる。一方、5.0mmを超える場合には、割れが発生し易く、良好な熱間加工性を得られない。よって、GSは0.5〜5.0mmの範囲とする。しかし、仮に表層部の平均結晶粒径GSを上記の範囲に調整しても、比GS/GSが0.9未満の場合または1.1を超える場合には、溶質元素の偏析が十分に抑制されず、チタン鋳塊の性能の劣化を免れることができない。よって、比GS/GSは、0.9〜1.1の範囲とする。比GS/GSは、好ましくは1.08以下であり、さらに好ましくは1.05以下である。また、上記比の値は、好ましくは0.92以上であり、さらに好ましくは0.95以上である。
表層部および中央部の平均結晶粒径は下記のようにして算出する。すなわち、上記の結晶粒径測定用試料において、結晶組織を観察して結晶粒の円相当直径を計算し、結晶粒径を平均して、表層部および中央部の平均結晶粒径を求める。
チタン鋳塊の化学組成を以下に例示する。下記の説明では、化学組成に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する。
チタン合金の場合、Al:4.1〜7.5%、Fe:0.1〜2.1%、V:2.8〜5.0%、O:0.03〜0.5%、N:0.005〜0.2%、C:0.005〜0.2%、残部Tiおよび不純物からなるものが例示される。
Alは、α安定化元素であり、ヤング率を向上させ、密度を小さくする作用がある。しかし、その含有量が4.1%未満であると強度を確保することができず、密度を十分に小さくすることができず、軽量化することができない。また、その含有量が7.5%超える場合、TiAlが生成しやすくなり脆くなる。このため、Al含有量は、4.1〜7.5%とした。
Feは、β安定化元素であり、添加量に従って強度が上昇し疲労強度が向上する。しかし、その含有量が0.1%未満であると強度の上昇は小さくその効果が認められない。また、その含有量が2.1%超える場合は凝固時の偏析が顕著になり、加工熱処理工程で偏析を解消することが困難になる。このため、Fe含有量は、0.1〜2.1%とした。
Vは、β安定化元素であり、冷間加工性を向上させる。しかし、その含有量が2.8%未満であると冷間加工性の改善効果が小さい。また、その含有量が5.0%超える場合は、Vが比較的高価な元素であるためコストが上昇する。このため、、V含有量は、2.8〜5.0%とした。
O、N、Cは、α安定化元素であり、不純物として含有される量は、Oが0.03〜0.5%、Nが0.005〜0.2%、Cが0.005〜0.2%である。これらの元素の含有量を増大させることで強度を向上させる傾向があるが、上記の範囲を超えると製品の延性が低下してしまう。一方、上記の範囲未満になるように含有量を低下させても延性の改善に繋がらず、製造コストが上昇してしまう。そこで、Oは0.03〜0.5%、Nは0.005〜0.2%、Cは0.005〜0.2%とした。
工業用純チタンの場合、O:0.15%以下、Fe:0.20%以下、N:0.03%以下、C:0.08%以下、H:0.013%以下であり、残部Tiであるものが例示される。上記の範囲を超えると製品の延性が低下してしまう。そこで、各元素の成分は上述の範囲とした。
2.製造装置
添付図面を参照しながら、本発明を説明する。また、以降の説明では、チタン合金鋳塊の製造装置および製造方法を例にとるが、本発明はJIS H4600(2012年)に規定されたJIS1〜4種の工業用純チタン鋳塊にも等しく適用される。
図1(a)は、本発明に係るチタン合金鋳塊0の製造装置1を模式的に示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)におけるA−A断面図であって、振動発生装置11とチタン合金鋳塊0の縦断面を示す。はじめに、製造装置1を簡単に説明する。
図1(a)に示すように、製造装置1は、原料供給手段2と、電子ビームまたはプラズマ照射手段(以下、単に「照射手段」という)3と、ハース4,5と、鋳型6と、振動発生装置11を備える。
原料供給手段2は、チタン合金を製造するための原料7を供給する。例えば、チタン合金製の原料、工業用純チタンと合金元素の混合原料、または、工業用純チタンとチタン合金の混合原料が原料7として例示される。原料7はチタンブリケットであることが望ましく、原料供給手段2は、チタンブリケット7を、後述する電子ビームまたはプラズマ照射手段3によるチタンブリケット7の溶解速度に応じた供給速度で、供給することが望ましい。原料7としてチタンブリケットを使用し、このチタンブリケット7を溶解ハース4の上方に連続的に供給しながら電子ビームあるいはプラズマで溶解し、溶解ハース4内に溶湯を供給することにより、溶解ハース4に供給する溶湯温度を安定に保持することができ、精錬ハース5に供給される溶湯に電子ビームあるいはプラズマを照射することにより、溶湯を所望の温度に制御することができる。
照射手段3は、供給された原料7に電子ビームまたはプラズマを照射することにより原料7を溶解する。
原料供給手段2は原料7を連続して供給することが望ましく、照射手段3は原料7を連続して溶解することが望ましい。
ハース4,5は、溶解されて流下する原料7の溶湯を収容し、流入する溶湯の一部を冷却凝固し、底部5aにスカルを形成しながら、残部の溶湯を流す。すなわち、ハース4,5は、溶解されて流下する原料7の溶湯を収容する溶解ハース4と、溶解ハース4から流入する溶湯の一部を冷却凝固し、底部5aにスカルを形成しながら、溶湯を流す精錬ハース5とを含むことが望ましい。溶解ハース4と精錬ハース5とは湯道8により連結されている。
精錬ハース5を流れる溶湯に、電子ビームまたはプラズマを照射することにより、溶湯の温度を調整する照射手段9を備えることが望ましい。
鋳型6は、ハース4から供給される溶湯を冷却してチタン合金鋳塊(インゴット)0とする。鋳型6に収容された溶湯に、電子ビームまたはプラズマを照射することにより、溶湯の温度を調整する照射手段10を備えることが望ましい。
図1(a)および図1(b)に示すように、振動発生装置11は、鋳型6の直下の領域に設置されて、チタン合金鋳塊0に振動を付与する。これにより、得られたチタン合金鋳塊0は、凝固が完了した固相側から振動を付与されるため、デンドライト樹間に存在する液相に効率よく振動を伝播でき、その結果、チタン合金鋳塊0のデンドライト樹間の液相に凝固核が多く発生し、表層部のみならず中心部においても凝固組織が微細化する。したがって、チタン合金鋳塊0は、割れを発生せずに、熱間加工性が良好である。また、鋳造中に振動を付与しながらチタン合金鋳塊0を製造すれば、例えばクロール法により製造された原料に不可避的に含まれるためにチタン合金鋳塊0に不純物として含有される塩素量が例えば0.0005〜0.0001質量%程度に低減される。
鋳型6の直下の範囲は、鋳型6の下端の高さ位置から下方1mの高さ位置までの範囲内であることが望ましい。1mを越えると、チタン合金鋳塊0の表面に与えた振動が、高温のチタン合金鋳塊0により減衰するため、チタン合金鋳塊0の固液界面に十分な振動を与えることが難しくなる。
振動を与える手段は、真空容器内に存在するチタン合金鋳塊0に振動を与えることができる機械式の振動装置が望ましい。振動の発生には、モーターの回転を応用した偏芯カムや、往復運動を利用した振動装置が例示される。また、電磁気力により振動子を振動させてチタン合金鋳塊0に振動を与える装置でもよい。
チタン合金鋳塊0に与える振動の周波数は、5〜500Hzが望ましい。振動の周波数が5Hz未満であると、固液共存状態にある固液界面において十分な凝固核を発生さできないおそれがある。また、振動の周波数が500Hzを超えると、微細化効果が飽和するだけでなく、振動がチタン合金鋳塊0以外にも伝搬して、例えば真空容器本体の接合部に緩みを発生させ操業が困難になるおそれがある。このため、チタン合金鋳塊0に与える振動の振動数は5〜500Hzであることが望ましい。
チタン合金鋳塊0の表面に付与する振動の振幅は、0.1〜5mmが望ましい。振幅が0.1mm未満であると、チタン合金鋳塊0に十分な振動を与えることができず、凝固界面に振動を付与できないおそれがある。また。振幅が5mmを超えると、鋳型6内の溶湯表面で形成された脆弱な凝固シェルが変形、あるいは破断し、ブレークアウトを引き起こし操業ができなくなるおそれがある。このため、チタン合金鋳塊0の表面に付与する振動の振幅は0.1〜5mmであることが望ましい。
3.製造方法
本発明に係るチタン合金鋳塊0の製造方法は、例えば、第1〜5の工程を有する。
第1の工程では、原料7を供給する。原料7はチタンブリケットであることが望ましく、第1の工程ではチタンブリケット7を、第2の工程でのチタンブリケット7の溶解速度に応じた供給速度で、供給することが望ましい。
第2の工程では、供給された原料7に電子ビームまたはプラズマを照射することにより原料7を溶解する。
第1の工程で前記原料を連続して供給することが望ましく、第2の工程では原料7を連続して溶解することが望ましい。
第3の工程では、溶解されて流下する原料7の溶湯をハース4,5に収容し、溶湯の一部を冷却凝固し、ハース4,5の底部5aにスカルを形成しながら、残部の溶湯を流す。すなわち、溶解されて流下する原料7の溶湯を収容する溶解ハース4と、溶解ハース4から湯道8を介して流入する溶湯の一部を冷却し、底部5aにスカルを形成しながら、溶湯を流す精錬ハース5を用いることが望ましい。
溶解ハース4は、原料7に電子ビームを照射して溶解したチタンあるいはチタン合金の溶融プールを形成する機能を有する。精錬ハース5は、溶解ハース4からの溶湯を受け、出口5bから鋳型6に溶湯を供給する機能を有する。
溶解ハース4において、電子ビームを照射された原料7が溶解され、溶解ハース4内を満たすと、湯道8を介して精錬ハース5へ溶湯が注がれる。溶解ハース4の供給口からの溶湯は、精錬ハース5の壁面に向かって流れ、この壁面と衝突して流れの向きが変わる。流れの向きが変わった溶湯は、精錬ハース5の出口5b、すなわち鋳型6への供給口に向かって流れることになる。
精錬ハース5を流れる溶湯に、電子ビームまたはプラズマを照射することにより、溶湯の温度を調整することが望ましい。
第4の工程では、精錬ハース5から供給される溶湯を冷却してチタン合金鋳塊(インゴット)0とする。
第5の工程では、鋳型6の直下のチタン合金鋳塊0に振動を付与する。すなわち、真空容器内にあるチタン合金鋳塊0に振動を効率よく、しかも安定して付与するためには、鋳型6の直下に、チタン合金鋳塊0の表面に振動を与える振動発生装置11を設置すればよい。
このようにして、温度の安定した溶湯を精錬ハース5から鋳型6に供給することにより、鋳型6内で形成される凝固界面の位置を一定に保つことができ、振動発生装置11により安定した振動をチタン合金鋳塊0に付与することができる。
本発明の効果を確認するため、図1(a),図1(b)に示す製造装置1を用いて、以下に示す試験を実施してその結果を評価した。
(1)溶解および鋳造条件
(1−1)溶湯成分:64合金(Ti−6.4%Al−4.2%V−0.2%Fe−0.1%O−0.03%N−0.06%C),工業用純チタンJIS一種(≦0.08%C、≦0.013%H、≦0.15%O、≦0.03%N、≦0.20%Fe)
(1−2)溶湯温度:1700℃(精錬ハース5内の溶湯温度)
(1−3)鋳型6の内径:650mm
(1−4)溶解量:8000kg
(1−5)溶解速度:8000kg/時間
(1−6)照射方法:電子ビームあるいはプラズマ
(1−7)ハース:以下の2種類(溶解ハース4および精錬ハース5)
(i)溶解ハース4
原料7を電子ビームで溶解し、この溶湯を溜め、精錬ハース5に供給するためのハースである。寸法は、幅500mm×長1500mm×深100mmである。
(ii)精錬ハース5
溶解ハース4からの溶湯をいったん溜めて、鋳型6に供給するためのハースである。寸法は、幅500mm×長1000mm×深150mmである。
(1−8)溶解ハース4の湯口から精錬ハース5に溶湯が流れる。
(1−9)溶解原料7:スポンジ・チタン、合金成分を混合した直径100mm×長200mmのブリケット
(1−10)溶解原料7の溶解方法:ブリケット7を溶解速度に合わせて連続供給するか、あるいは、ブリケット7を1000kgずつ8回に分けて溶解ハース4内に一括添加する。
(1−11)電子ビーム照射手段:原料7の溶解用2基、溶解ハース4用2基、精錬ハース5用2基、鋳型6用1機の合計7基
(1−12)振動発生装置11
振動方法:偏芯カムによりチタン合金鋳塊0の外周面を打撃する
振動数:1〜1000Hz
振幅:0.05〜10mm
(2)評価
(試験用試料の採取)
図2(a)に示すように、全長が約5500mmの円柱状のチタン鋳塊0を、バンドソーを用いて、ボトムから1000mm間隔で円柱の軸に垂直に切断し、厚みが約40mmの円盤状試料を5枚切り出した。
(結晶粒径の評価)
図2(b)に示すように、円盤状試料の切断面(断面)において、断面形状(円形)の中心を図心とする30mm角の正方形の試料と、断面形状(円形)の輪郭線から中心までの距離(輪郭線から中心への垂線上における距離)が15mm位置を図心とする30mm角の正方形の試料を採取する。採取した30mm角の試料を#80〜#1500のエメリー紙で研磨後、粒径0.05μmのシリカを含有する懸濁液を用いて研磨し、表面を鏡面状に仕上げ、その後、試料を硝酸−5vol%弗酸溶液中に、室温で30秒間浸漬させて結晶粒を現出させたものを結晶粒径測定用試料として用いる。
結晶粒径測定用試料について、光学顕微鏡を用いて30mm角の正方形の範囲内に存在する結晶粒の個数n(ただし、正方形と交差する結晶粒の個数は1/2個とする)を数え、正方形の面積(900mm)をnで割り、一個辺りの面積Sを算出し、その面積から円相当直径を計算した。中心部の平均結晶粒径GSと表層部の平均結晶粒径GSとの比(GS/GS)を計算した。
凝固組織は、固液界面における温度勾配が大きい方向へ向かって成長する。これらの凝固組織が互いに衝突すると境界が形成され、同一の境界で囲まれた領域を結晶粒と定義した。
(熱間加工性の評価)
図2(b)に示すように、ボトムから3000mm位置の円盤状試料について、断面形状(円形)の輪郭線から円の中心までの距離(輪郭線から中心への垂線上における距離)が、断面形状(円形)の直径Rの1/4の位置を図心とするグリーブル試験片(直径10mm×長さ120mm)を切り出し、グリーブル試験を行った。グリーブル試験では、室温から1100℃まで60秒間で昇温し、60秒間保持した後、毎分50℃で900℃まで冷却した。この温度に達した時点で、歪速度1.0×10−1−1で引張り、絞り率(900℃における絞り率)を測定した。この絞り率の大きいほど熱間加工性が良好であることを示す。絞り値は、80%以上であることを目標とする。
結果を表1にまとめて示す。
Figure 2020121332
*印は、本発明で規定される範囲を外れることを意味する。
表1に示すように、工業用純チタン鋳塊またはチタン合金鋳塊0に適切な振動を付与した本発明例1〜4は、比較例1,2よりも、比GS/GSが極めて小さくなり、熱間加工性を示す絞り率が大幅に大きくなることが分かる。特に、比較例4および比較例5は、比GS/GSが本発明で規定される範囲を若干外れ、比較例6は、GSが本発明で規定される範囲を若干外れる例であるが、絞り値が目標を大きく下回った。比較例7は、GSが本発明で規定される範囲内であるが、比GS/GSが本発明で規定される範囲を外れており、絞り値が目標を大きく下回った。
本発明例4は、比GS/GSおよび結晶粒径が本発明の範囲を満足するために良好な熱間加工性を示したものの、鋳塊に与えた振動数が高目であったために、真空容器本体の接合部に緩みが生じた。
なお、振幅が5mmを超えた比較例3は、チタン合金鋳塊0にブレークアウトが発生したため、比GS/GSおよび絞り率を測定できなかった。
0 チタン合金鋳塊
1 製造装置
2 原料供給手段
3 電子ビームまたはプラズマ照射手段
4 溶解ハース
5 精錬ハース
6 鋳型
7 原料
8 湯道
9,10 電子ビームまたはプラズマ照射手段
11 振動発生装置

Claims (1)

  1. 一の方向に延びる柱状のチタン鋳塊であって、
    前記チタン鋳塊は、工業用純チタンまたはチタン合金からなり、
    前記一の方向に直交する断面において、前記断面の形状の重心位置を図心とする30mm角の正方形の範囲内における平均結晶粒径をGSとし、前記断面の形状の輪郭線から前記重心位置への垂線上において、前記輪郭線からの距離が15mm位置を図心とする30mm角の正方形の範囲内における平均結晶粒径をGSとするとき、
    比GS/GSが、0.9〜1.1であり、
    GSが0.5〜5.0mmである、
    チタン鋳塊。
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