JP2020117789A - 自動車変速機用リングギアおよびその製造方法 - Google Patents

自動車変速機用リングギアおよびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】低コストで生産することができ、かつ、疲労特性の高さと、生産時の被削性の高さという、相反する性質を両立させることができる自動車変速機用リングギアを提供する。【解決手段】サンギアと、前記サンギアの径方向外側に配置され前記サンギアと噛合するピニオンギアとともにプラネタリギアユニットを構成する自動車変速機用リングギアであって、内周面に前記ピニオンギアと噛合する内周歯を有し、所定の成分組成を有し、表層に窒化層を有し、該窒化層の厚さが250μm以上であり、前記リングギアの任意の断面におけるベイナイトの面積率が50%超であり、表面から50μm位置におけるビッカース硬さが700〜900HV、前記窒化層以外の部分におけるビッカース硬さが220〜350HVである、自動車変速機用リングギア。【選択図】 なし

Description

本発明は、自動車変速機用リングギアに関し、特に、低コストで製造することができ、かつ、疲労特性の高さと、生産時の被削性の高さという、相反する性質を両立させることができる自動車変速機用リングギアに関する。また、本発明は前記自動車変速機用リングギアの製造方法に関する。
自動車の歯車等の機械構造部品には優れた疲労特性が要求されるため、表面硬化処理が施されるのが通例である。表面硬化処理を利用すれば、切削などの加工を行った後に硬度を上昇させることができるため、疲労特性と生産時の被削性の高さという、相反する性質を両立させることができる。前記表面硬化処理としては、浸炭処理や高周波焼入処理、窒化処理などが良く知られている。
これらのうち、浸炭処理は、高温のオーステナイト域においてCを浸入・拡散させる処理であり、深い硬化深さが得られるため、疲労特性の向上に有効である。しかしながら、浸炭処理により熱処理歪が発生するため、静粛性等の観点から厳しい寸法精度が要求される部品に対しては、その適用が困難であった。
また、高周波焼入処理は、高周波誘導加熱により表層部を焼入れする処理であるため、やはり熱処理歪が発生し、浸炭処理と同様に寸法精度の面で問題があった。
一方、窒化処理は、Ac1変態点以下の比較的低温度域で窒素を浸入・拡散させて表面硬さを高める処理であるため、上記したような熱処理歪みは小さい。しかしながら、処理時間が50〜100時間と長く、また処理後に表層の脆い化合物層を除去する必要があるという問題があった。
そのため、窒化処理と同程度の処理温度で処理時間を短くした、いわゆる軟窒化処理が開発され、近年では機械構造用部品などを対象に広く用いられている。この軟窒化処理は、500〜600℃の温度域でNとCを同時に浸入・拡散させて、表面を硬化するものであり、従来の窒化処理に比べて処理時間を半分以下にすることが可能である。
しかしながら、浸炭処理では焼入硬化により芯部硬度を上昇させることが可能であるのに対し、軟窒化処理は鋼の変態点以下の温度で処理を行うものであるため、芯部硬度が上昇しない。そのため、軟窒化処理材は浸炭処理材に比べて疲労特性が劣るという問題があった。
そこで、軟窒化処理材の疲労特性を高めるため、通常、軟窒化処理前に焼入・焼戻し処理を行い、芯部硬度を上昇させているが、得られる疲労特性は十分とは言い難く、また、製造コストが上昇し、さらに機械加工性の低下も避けられなかった。
このような問題を解決するものとして、特許文献1では、鋼中に、NiやCu、Al、Cr、Tiなどを含有させることにより、軟窒化処理後に高い曲げ疲労特性を得ることを可能にした軟窒化用鋼が提案されている。前記軟窒化用鋼では、軟窒化処理によりNi−Al、Ni−Ti系の金属間化合物あるいはCu化合物を析出するため、時効硬化により芯部硬度を確保することができる。また、前記軟窒化用鋼では、窒化層中にCr、Al、Ti等の窒化物や炭化物が析出するため、析出硬化により表層の硬度を確保することができる。そして、その結果として、軟窒化処理材の曲げ疲労特性が向上する。
また、特許文献2では、0.5〜2質量%のCuと、Ti、Nb、およびVの少なくとも1つを含有し、フェライト面積率が90%以上である軟窒化用鋼が提案されている。前記軟窒化用鋼では、軟窒化処理によってフェライト中にCuが析出し、析出硬化により硬度が向上する。さらに前記軟窒化用鋼では、Ti、V、およびNbが炭窒化物として析出するため、それら炭窒化物による析出硬化も併用することで、軟窒化処理後において優れた曲げ疲労特性が得られる。
特許文献3では、Ti−Mo炭化物、またそれらにさらにNb、V、Wの一種または二種以上を含む炭化物を分散させた軟窒化用鋼が提案されている。
特開平05−059488号公報 特開2002−069572号公報 特開2010−163671号公報
しかし、特許文献1に記載の軟窒化用鋼では、Ni−Al、Ni−Ti系の金属間化合物やCu等の析出硬化により曲げ疲労特性は向上するものの、加工性の確保が十分とは言い難かった。また、特許文献2に記載の軟窒化用鋼では、Cu、Ti、V、Nbを比較的多量に添加する必要があるため、生産コストが高いという問題があった。さらに、特許文献3に記載の軟窒化用鋼では、微細析出物を十分に析出させるためにはTi、Moを多量に含有させる必要があり、やはり高コストであるという問題があった。
特に、機械構造用部品の中でも自動車変速機用リングギアには、疲労特性の高さや生産性の高さに加え、低コストであることが求められる。
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、低コストで生産することができ、かつ、疲労特性の高さと、生産時の被削性の高さという、相反する性質を両立させることができる自動車変速機用リングギアを提供することを目的とする。
発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
(1)安価な元素であるCを比較的多量に含有し、さらにVおよびNbの量が特定の範囲に制御された鋼に軟窒化処理を施すと、芯部にVおよびNbを含む微細な析出物が分散析出し、その結果、表層だけでなく芯部の硬度が向上し、優れた疲労特性が得られる。
(2)一般的に、自動車変速機用リングギアは、鋼材を熱間鍛造した後に、切削加工と軟窒化処理を施すことにより製造される。したがって、生産時の被削性の高さを確保するためには、熱間鍛造後、軟窒化処理前の時点において芯部硬さを低く保つことが必要である。
(3)ベイナイト変態過程では、フェライト−パーライト変態過程に比べてVおよびNbの析出物が析出しにくい。したがって、上記(1)の成分組成を有する鋼材において、ミクロ組織をベイナイト主体とすることにより、製造過程におけるV、Nbの析出を抑制し、生産時の被削性の高さを確保することができる。
(4)自動車変速機用リングギアのミクロ組織は、基本的に熱間鍛造時の温度と、その後の冷却条件によって決まる。したがって、軟窒化処理後の自動車変速機用リングギアのミクロ組織がベイナイト主体であれば、熱間鍛造後、軟窒化処理前の時点におけるミクロ組織も必然的にベイナイト主体であるといえる。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
1.サンギアと、前記サンギアの径方向外側に配置され前記サンギアと噛合するピニオンギアとともにプラネタリギアユニットを構成する自動車変速機用リングギアであって、
内周面に前記ピニオンギアと噛合する内周歯を有し、
質量%で、
C :0.030%以上0.100%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:1.50%以上3.00%以下、
P :0.025%以下、
S :0.060%以下、
Cr:1.00%以上2.00%以下、
Mo:0.050%以上0.150%以下、
V :0.02%以上0.15%以下、
Nb:0.003%以上0.150%以下、
Al:0.010%以上0.200%以下、および
N :0.0200%以下を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
表層に窒化層を有し、該窒化層の厚さが250μm以上であり、
前記リングギアの任意の断面におけるベイナイトの面積率が50%超であり、
表面から50μm位置におけるビッカース硬さが700〜900HV、前記窒化層以外の部分におけるビッカース硬さが220〜350HVである、自動車変速機用リングギア。
2.前記成分組成が、さらに質量%で、
B :0.01%以下、
Cu:0.3%以下、
Ni:0.3%以下、
Sb:0.02%以下、
W :0.3%以下、
Co:0.3%以下、
Hf:0.2%以下、
Zr:0.2%以下、
Ti:0.1%以下、
Pb:0.2%以下、
Bi:0.2%以下、
Zn:0.2%以下、および
Sn:0.2%以下
からなる群より選択される1または2以上を含有する、上記1に記載の自動車変速機用リングギア。
3.さらに、はめ合い用のスプラインを外周部に有する、上記1または2に記載の自動車変速機用リングギア。
4.サンギアと、前記サンギアの径方向外側に配置され前記サンギアと噛合するピニオンギアとともにプラネタリギアユニットを構成する自動車変速機用リングギアを製造する方法であって、
質量%で、
C :0.030%以上0.100%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:1.50%以上3.00%以下、
P :0.025%以下、
S :0.060%以下、
Cr:1.00%以上2.00%以下、
Mo:0.050%以上0.150%以下、
V :0.02%以上0.15%以下、
Nb:0.003%以上0.150%以下、
Al:0.010%以上0.200%以下、および
N :0.0200%以下を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を1100℃を超える加熱温度に加熱し、
加熱された前記鋼素材を熱間鍛造して第1中間部材とし、
前記第1中間部材を、700〜200℃の温度域における平均冷却速度:10℃/秒以下、かつ、700〜500℃の温度域における平均冷却速度:0.5℃/秒超で空冷し、
空冷後の前記第1中間部材を切削加工して第2中間部材とし、
前記第2中間部材に、処理温度:550〜600℃で軟窒化処理を施す、自動車変速機用リングギアの製造方法。
5.前記成分組成が、さらに質量%で、
B :0.01%以下、
Cu:0.3%以下、
Ni:0.3%以下、
Sb:0.02%以下、
W :0.3%以下、
Co:0.3%以下、
Hf:0.2%以下、
Zr:0.2%以下、
Ti:0.1%以下、
Pb:0.2%以下、
Bi:0.2%以下、
Zn:0.2%以下、および
Sn:0.2%以下
からなる群より選択される1または2以上を含有する、上記4に記載の自動車変速機用リングギアの製造方法。
本発明の自動車変速機用リングギアは、生産性と寸法精度に優れる軟窒化処理で製造することができる。さらに、本発明の自動車変速機用リングギアは、高価な合金元素を多量に用いる必要がないため低コストで製造することができ、かつ、疲労特性の高さと、生産時の被削性の高さという、相反する性質を兼ね備えている。
歯車試験片の形状を示す模式図である。
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。
本発明の一実施形態における自動車変速機用リングギアは、サンギアと、前記サンギアの径方向外側に配置され前記サンギアと噛合するピニオンギアとともにプラネタリギアユニットを構成する自動車変速機用リングギアであって、内周面に前記ピニオンギアと噛合する内周歯を有している。
[成分組成]
本発明の一実施形態における自動車変速機用リングギアは、上述した成分組成を有する。言い換えると、本発明の一実施形態における自動車変速機用リングギアは、上述した成分組成を有する鋼からなる。そこで、以下、各元素の含有量の限定理由について説明する。なお、成分組成の説明における「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
C:0.030%以上0.100%以下
Cは、後述するベイナイトの生成、および、強度確保のために必要な元素である。C含有量が0.030%未満の場合、十分な量のベイナイトおよび炭化物が得られないために母相の強度が低下するだけでなく、軟窒化処理後にVおよびNbの析出物量が不足し、強度確保が困難となる。そのため、C含有量は0.030%以上、好ましくは0.060%以上とする。一方、C含有量が0.100%超になると、生成したベイナイトの硬さが増加し、被削性が低下する。そのため、C含有量は0.100%以下、好ましくは0.090%以下とする。
Si:1.00%以下
Siは、脱酸だけでなく、ベイナイトの生成に有効な元素である。しかし、Si含有量が1.00%を超えると、Siがフェライトおよびベイナイトに固溶し、固溶硬化により被削性が低下する。そのため、Si含有量は1.00%以下、好ましくは0.50%以下、より好ましくは0.30%以下とする。一方、Si含有量の下限は特に限定されないが、Siを脱酸に有効に寄与させるためには、Si含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
Mn:1.50%以上3.00%以下
Mnは、鋼の焼入れ性を高め、ベイナイトを安定的に生成させる作用を有する元素である。Mn含有量が1.50%未満の場合、上記効果は乏しく、また、MnSの生成量が十分でないため、被削性が低下する。そのため、Mn含有量は1.50%以上とする。一方、Mn含有量が3.00%を超えると熱間鍛造後の硬度上昇により被削性が低下する。そのため、Mn含有量は3.00%以下、好ましくは2.50%以下、より好ましくは2.00%以下とする。
P:0.025%以下
Pは、不純物として鋼中に混入する元素である。Pがオーステナイト粒界に偏析し、粒界強度を低下させることにより、強度および靭性が低下する。したがって、P含有量は極力低くすることが望ましいが、0.025%以下での含有は許容される。そのため、P含有量は0.025%以下とする。一方、P含有量の下限は特に限定されず、0%であってよい。しかし、過度のP低減はコストの増加を招くため、工業的には、コストの観点から、P含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
S:0.060%以下
Sは、不純物として鋼中に混入する元素であるが、S含有量が0.060%を超えると、鋼の強度・靭性が低下する。そのため、S含有量は0.060%以下、好ましくは0.040%以下とする。一方、S含有量の下限は特に限定されず、0%であってよい。しかし、Sは、鋼中でMnSを形成し、被削性をさらに向上させる作用を有している。そこで、Sによる追加的な被削性向上効果を発現させるという観点からは、S含有量を0.002%以上とすることが好ましい。
Cr:1.00%以上2.00%以下
Crは、軟窒化処理中に表層から拡散した窒素と窒化物を形成し、表層の硬度上昇に寄与する。また、Crはベイナイトの生成にも寄与する。Cr含有量が1.00%未満の場合、ベイナイトの生成量が少なくなるため、Cr量は1.00%以上とする。一方、Cr含有量が2.00%を超えると、製造過程における熱間鍛造後の硬さが上昇し、被削性が低下する。そのため、Cr含有量は2.00%以下、好ましくは1.50%以下とする。
Mo:0.050%以上0.150%以下
Moは、VおよびNb析出物を微細に析出させ、軟窒化処理材の強度を向上させる効果を有しており、本発明において重要な元素である。また、Moは、ベイナイトの生成にも寄与する。前記効果を得るために、Mo含有量は0.050%以上とする。一方、Moは高価な元素であるため、0.150%を超えて添加すると、成分コストの上昇を招く。そのため、Mo含有量は0.150%以下、好ましくは0.120%以下とする。
V:0.02%以上0.15%以下
Vは、軟窒化中に表層から拡散した窒素と窒化物を形成し、表層の硬度上昇に寄与する。また、Vは、軟窒化時の温度上昇によりNbとともに微細析出物を形成し、芯部硬さを増加させる。前記効果を得るために、V含有量は0.02%以上、好ましくは0.03%以上とする。一方、V含有量が0.15%超では、析出物が粗大化し、強度向上効果が飽和する。さらに、V含有量が0.15%超であると、熱間鍛造後における硬度が上昇し、切削性が低下する。そのため、V含有量は0.15%以下、好ましくは0.12%以下とする。
Nb:0.003%以上0.150%以下
Nbは、軟窒化中に表層から拡散した窒素と窒化物を形成し,表層の硬度上昇に寄与する。また、Nbは、軟窒化時の温度上昇によりVとともに微細析出物を形成し、芯部硬さを増加させる。したがって、Nbの添加は疲労特性向上に極めて有効である。前記効果を得るために、Nb含有量は0.003%以上、好ましくは0.020%以上とする。一方Nb含有量が0.150%超であると、析出物が粗大化し、強度向上効果が飽和する。さらに、Nb含有量が0.150%超であると、熱間鍛造後の硬度が上昇し、切削性が低下する。そのため、Nb含有量は0.150%以下、好ましくは0.120%以下とする。
Al: 0.010%以上0.200%以下
Alは、軟窒化処理後の表層硬さの向上に有用な元素である。そのため、Al含有量は0.010%以上、好ましくは0.020%以上とする。一方、Al含有量が0.200%を超えると、介在物が増加し、かえって疲労特性が低下する。そのため、Al含有量は0.200%以下、好ましくは0.100%以下、より好ましくは0.040%以下とする。
N:0.0200%以下
Nは、鋼中で炭窒化物を形成し、強度を向上させる効果を有する元素である。しかし、N含有量が0.0200%を超えると、熱間鍛造後の硬さが増加し、被削性が低下する。そのため、N含有量は0.0200%以下とする。一方、N含有量の下限は特に限定されないが、強度向上という観点からは、N含有量を0.0020%以上とすることが好ましい。
本発明の一実施形態における自動車変速機用リングギアは、上記各元素を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する。なお、本発明の一実施形態においては、上記各元素と残部のFeおよび不可避的不純物のみからなる成分組成とすることもできる。
また、上記成分組成は、上記各元素に加えて任意に、以下に挙げる元素を1または2以上をさらに含有することもできる。なお、以下に挙げる元素は、いずれも任意に添加できる元素であり、下記元素の含有量の下限は特に断らない限り0%であってもよい。
B:0.0100%以下
Bは、焼入れ性を向上させ、ベイナイト組織の生成を促進する効果を有する元素である。しかし、B含有量が0.0100%を超えると、BがBNとして析出し、焼入れ性向上効果が飽和するだけでなく、成分コストの上昇を招く。そのため、Bを添加する場合、B含有量を0.0100%以下、0.0080%以下とする。一方、B含有量の下限は特に限定されないが、B含有量を0.0003%以上とすることが好ましく、0.0005%以上とすることがより好ましい。
Cu:0.3%以下
Cuは、軟窒化処理中にFeやNiと金属間化合物を形成し、析出硬化によって軟窒化処理材の強度を向上させる効果を有する元素である。また、Cuは、ベイナイトの生成にも寄与する。しかし、Cu含有量が0.3%を超えると熱間加工性が低下するため、Cuを添加する場合、Cu含有量を0.3%以下、好ましくは0.25%以下とする。一方、Cu含有量の下限は特に限定されないが、Cu含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
Ni:0.3%以下
Niは、焼入れ性を増大し、低温脆性を抑制する効果を有する元素である。しかし、Ni含有量が、0.3%を超えると硬度が上昇し、被削性に悪影響を及ぼすばかりでなく、コスト的にも不利となる。そのため、Niを添加する場合、Ni含有量を0.3%以下、好ましくは0.25%以下とする。一方、Ni含有量の下限は特に限定されないが、Ni含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
Sb:0.02%以下
Sbは、ベイナイトの生成を促進する効果を有する元素である。しかし、Sb含有量が0.02%を超えて添加しても、効果が飽和し、成分コストの上昇を招くだけでなく、偏析により母材靭性の低下も生じる。そのため、Sbを添加する場合、Sb含有量は0.02%以下、好ましくは0.01%以下とする。一方、Sb含有量の下限は特に限定されないが、Sb含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0010%以上とすることがより好ましい。
W:0.3%以下
Wは、鋼のさらなる強度向上に有効な元素である。しかし、W含有量が0.3%を超えると、鋼の靭性が低下する。そのため、Wを添加する場合、W含有量は0.3%以下、好ましくは0.25%以下とする。一方、W含有量の下限は特に限定されないが、W含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
Co:0.3%以下
Coは、鋼のさらなる強度向上に有効な元素である。しかし、Co含有量が0.3%を超えると、鋼の靭性が低下する。そのため、Coを添加する場合、Co含有量は0.3%以下、好ましくは0.25%以下とする。一方、Co含有量の下限は特に限定されないが、Co含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
Hf:0.2%以下
Hfは、鋼のさらなる強度向上に有効な元素である。しかし、Hf含有量が0.2%を超えると、鋼の靭性が低下する。そのため、Hfを添加する場合、Hf含有量は0.2%以下、好ましくは0.15%以下とする。一方、Hf含有量の下限は特に限定されないが、Hf含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
Zr:0.2%以下
Zrは、鋼のさらなる強度向上に有効な元素である。しかし、Zr含有量が0.2%を超えると、鋼の靭性が低下する。そのため、Zrを添加する場合、Zr含有量は0.2%以下、好ましくは0.15%以下とする。一方、Zr含有量の下限は特に限定されないが、Zr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
Ti:0.1%以下
Tiは、鋼のさらなる強度向上に有効な元素である。しかし、Ti含有量が0.1%を超えると、鋼の靭性が低下する。そのため、Tiを添加する場合、Ti含有量は0.1%以下、好ましくは0.01%以下とする。一方、Ti含有量の下限は特に限定されないが、Ti含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
Pb:0.2%以下
Pbは、鋼の被削性を向上させる効果を有する元素である。しかし、Pb含有量が0.2%を超えると、強度や靭性が低下する。そのため、Pbを添加する場合、Pb含有量は0.2%以下、好ましくは0.1%以下とする。一方、Pb含有量の下限は特に限定されないが、0.02%以上とすることが好ましい。
Bi:0.2%以下
Biは、鋼の被削性を向上させる効果を有する元素である。しかし、Bi含有量が0.2%を超えると、強度や靭性が低下する。そのため、Biを添加する場合、Bi含有量は0.2%以下、好ましくは0.1%以下とする。一方、Bi含有量の下限は特に限定されないが、0.02%以上とすることが好ましい。
Zn:0.2%以下
Znは、鋼の被削性を向上させる効果を有する元素である。しかし、Zn含有量が0.2%を超えると、強度や靭性が低下する。そのため、Znを添加する場合、Zn含有量は0.2%以下、好ましくは0.1%以下とする。一方、Zn含有量の下限は特に限定されないが、0.02%以上とすることが好ましい。
Sn:0.2%以下
Snは、鋼の被削性を向上させる効果を有する元素である。しかし、Sn含有量が0.2%を超えると、強度や靭性が低下する。そのため、Snを添加する場合、Sn含有量は0.2%以下、好ましくは0.1%以下とする。一方、Sn含有量の下限は特に限定されないが、0.02%以上とすることが好ましい。
[窒化層]
本発明の自動車変速機用リングギアは、表層に窒化層を有している。ここで窒化層とは、母材の芯部よりも窒素含有量が高くなっている領域を指し、したがって硬質相であるといえる。窒化層を設けることにより、表層の硬度を高め、疲労強度を向上させることができる。
前記窒化層は、後述するように軟窒化処理によって形成することができる。なお、軟窒化処理では窒素とともに炭素も浸入、拡散する。したがって、本発明の自動車変速機用リングギアは、表層における炭素含有量も、母材芯部に比べて高くなっている。言い換えると、本発明の自動車変速機用リングギアは、その表層に、窒素含有量および炭素含有量が母材芯部(表層以外の部分)における含有量よりも高い領域が存在する。なお、リングギアの表面から深さ方向における濃度プロファイルにおいて、ある元素の濃度(含有量)が深さ方向に変化していない(一定である)領域における当該元素の濃度を、母材芯部における含有量と見なすことができる。前記母材芯部における含有量は、通常、リングギアの製造に用いた鋼素材における含有量に等しい。
本発明では、前記窒化層の厚さを250μm以上とする。すなわち、表面から250μmまでの領域におけるN含有量が、上述した成分組成におけるN含有量よりも高い必要がある。窒化層の厚さが250μm未満であると、リングギアへ負荷される応力に起因する疲労への耐性が十分ではなく、疲労特性に劣る。
[ミクロ組織]
次に、本発明の自動車変速機用リングギアを構成する鋼のミクロ組織について説明する。
ベイナイト面積率:50%超
本発明の自動車変速機用リングギアは、上述したように、特定の量のVおよびNbを含有するととともに、表面に窒化層を有している。鋼に含まれるVおよびNbは、窒化層を形成するための軟窒化処理の際に、リングギアの芯部に析出物として分散析出するため、芯部硬度が上昇し、疲労特性が向上する。しかし、一般的に軟窒化処理前には切削加工が行われるため、軟窒化処理前にVおよびNbの析出物が存在していると被削性の観点からは不利である。
そこで、本発明の自動車変速機用リングギアにおいては、該リングギアの任意の断面におけるベイナイトの面積率を50%超とする。ベイナイト変態過程では、フェライト−パーライト変態過程に比べ、母相中にVおよびNbの析出物が生成し難い。自動車変速機用リングギアのミクロ組織は、基本的に熱間鍛造時の温度と、その後の冷却条件によって決まるため、軟窒化処理後の自動車変速機用リングギアのミクロ組織がベイナイト主体であれば、切削加工を行う時点(すなわち、軟窒化処理前)におけるミクロ組織も必然的にベイナイト主体であるといえる。よって、自動車変速機用リングギアにおいては、該リングギアの任意の断面におけるベイナイトの面積率を50%超とすることにより、軟窒化処理前におけるVおよびNbの析出物の生成が抑制され、生産時の被削性の高さを確保することができる。前記ベイナイトの面積率は、60%超とすることが好ましく、80%超とすることがより好ましく、100%であってもよい。
ベイナイト以外の残部組織は特に限定されず、任意の組織とすることができる。残部組織は、例えば、フェライト、パーライト、およびマルテンサイトからなる群より選択される1または2以上とすることができる。ベイナイト以外の組織は少ないほどよい。
各組織の面積率は、後述する実施例に記載した方法で求めることができる。
[ビッカース硬さ]
表層硬さ:700〜900HV
本発明の自動車変速機用リングギアは、表面から50μm位置におけるビッカース硬さ(以下、「表層硬さ」という)が700〜900HVである。表層硬さは疲労特性に影響を及ぼす。そのため、表層硬さを700HV以上とする。一方、表層硬さを900HV超とすることは現実的では無いため、表層硬さは900HV以下とする。
芯部硬さ:220〜350HV
本発明の自動車変速機用リングギアは、表層に形成されている上記窒化層以外の位置、すなわち芯部におけるビッカース硬さ(以下、「芯部硬さ」という)が220〜350HVである。芯部硬さも、前記表層硬さとともに疲労特性に影響を及ぼす。そのため、芯部硬さを220HV以上とする。なお、上述した鋼の成分組成は、軟窒化処理前の切削性を確保するために、ベイナイト組織の硬さを抑制できるように決定されたものである。よって、軟窒化処理時のVおよびNbの微細析出による硬度上昇があったとしても、N含有量が上昇しない場合において現実的に得られる芯部硬さは350HV以下である。
本発明の一実施形態における自動車変速機用リングギアは、外周部に、はめ合い用のスプラインを有していてもよい。
[製造方法]
次に、本発明の一実施形態における自動車変速機用リングギアの製造方法について説明する。
本発明の自動車変速機用リングギアは、上述した成分組成を有する鋼素材に対して、下記(1)〜(5)の処理を順次施すことによって製造することができる。以下、各工程について説明する。なお、所望の組織および硬度が得られる範囲において、下記工程以外の各種処理を任意のタイミングで行うこともできる。
(1)加熱
(2)熱間鍛造
(3)空冷
(4)切削加工
(5)軟窒化処理
[鋼素材]
上記鋼素材としては、上述した成分組成を有する鋼素材を用いる。なお、軟窒化処理前の鋼素材を、軟窒化用鋼という場合がある。前記鋼素材の形状は特に限定されないが、例えば、棒鋼(steel bar)を用いることができる。前記棒鋼は、例えば、鋼塊を熱間加工することによって製造することができる。前記熱間加工としては、例えば、熱間圧延および熱間鍛造の一方または両方を用いることができる。前記棒鋼は、所望の寸法に切断した後に次の熱間鍛造工程に供することができる。
[加熱]
加熱温度:1100℃超
熱間鍛造に先だって、上記鋼素材を1100℃を超える加熱温度に加熱する。前記加熱温度が1100℃以下であると、熱間鍛造後の部材(第1中間部材)の硬度が低下し、その結果、最終的に得られるリングギアにおける芯部硬度を確保することができない。一方、前記加熱温度の上限は特に限定されないが、1250℃以下とすることが好ましい。
[熱間鍛造]
次いで、加熱された前記鋼素材を熱間鍛造して第1中間部材とする。熱間鍛造は、特に限定されることなく、常法に従って行えばよい。
[空冷]
次に、前記熱間鍛造で得られた第1中間部材を、700〜200℃の温度域における平均冷却速度:10℃/秒以下、かつ、700〜500℃の温度域における平均冷却速度:0.5℃/秒超の条件で空冷する。
平均冷却速度(700〜200℃):10℃/秒以下
前記空冷において、700〜200℃の温度域での平均冷却速度が10℃/秒を超えると、マルテンサイトの析出が生じ、ベイナイトの面積率を50%超とすることができない。そのため、前記平均冷却速度は10℃/秒以下とする。前記平均冷却速度の下限は特に限定されないが、0.3℃/秒以上とすることが好ましい。
平均冷却速度(700〜500℃):0.5℃/秒超
前記空冷工程において、700〜500℃の温度域における平均冷却速度が0.5℃/秒以下であると、ベイナイトの面積率を50%超とすることができない。また、その結果、VおよびNbの析出物が析出してしまうため、被削性を確保することができなくなる。そのため、前記空冷工程において、700〜500℃の温度域における平均冷却速度を0.5℃/秒超とする。前記平均冷却速度の上限は特に限定されないが、200℃/秒以下とすることが好ましい。
[切削加工]
前記空冷後の前記第1中間部材を切削加工して第2中間部材とする。前記切削加工により所望のリングギア形状に加工することができる。前記切削加工の方法は特に限定されず、任意の方法で行うことができる。例えば、前記切削加工としては、例えば、ドリル穿孔および旋削の一方または両方を行うことができる。
[軟窒化処理]
次いで、前記第2中間部材に、処理温度:550〜600℃で軟窒化処理を施す。この軟窒化処理により、鋼中に固溶状態で存在していたVおよびNbが微細に析出し、芯部の硬さが上昇する。また、前記軟窒化処理により、リングギアの表面に窒化層(硬化層)が形成される。
処理温度:550〜600℃
前記窒化処理における処理温度が550℃未満であると、十分な量の析出物が得られず、その結果、芯部硬度を確保することができない。そのため、前記処理温度は550℃以上、好ましくは560℃以上とする。一方、前記処理温度が600℃を超えると、オーステナイト域となり、軟窒化処理の際に相変態が生じる。その結果、変態膨張が発生し、軟窒化処理に伴う歪が大きくなる。そのため、前記処理温度は600℃以下、好ましくは590℃以下とする。
前記軟窒化処理の処理時間は特に限定されないが、90分以上とすることが好ましい。
なお、軟窒化処理ではNとCとを同時に鋼中に浸入・拡散させる。そのため、前記軟窒化処理は、窒素性ガスと浸炭性ガスの混合雰囲気中で行えばよい。前記窒素性ガスとしては、例えば、NHおよびNの一方または両方を用いることができる。また、前記浸炭性ガスとしては、COおよびCOの一方または両方を用いることができる。前記窒素性ガスと浸炭性ガスの混合は特に限定されないが、例えば、NH:N:CO=50:45:5の雰囲気で軟窒化処理を行えばよい。
次に、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明は、該実施例によって何ら限定されるものではない。
以下の手順で自動車変速機用リングギアを製造し、その特性を評価した。
まず、表1に示す成分組成を有する鋼素材を、次の手順で作成した。連続鋳造法により、断面300mm×400mmで、前記成分組成を有する鋳片を得た。その際、前記鋳片の表面における割れの有無を調査した。なお、表1の鋼種No.39は、JIS SCM420に相当する。
次いで、前記鋳片を1250℃で30分均熱した後、熱間圧延にて一辺が140mmの矩形断面の鋼片とした。さらに、前記鋼片を熱間圧延し、直径60mm×500mmの棒鋼(熱間圧延まま素材)とした。
次に、前記棒鋼を表2に示す加熱温度に加熱し、次いで熱間鍛造を行って直径35mm×230mmの円柱体(第1中間部材)とした。その後、前記円柱体を表2に示した平均冷却速度で空冷し、室温まで冷却した。なお、鋼種S39を用いた従来例No.44においては、熱間鍛造および空冷の後、950℃での焼入れと540℃での焼戻しを実施した。
以上の手順で得た円柱体(第1中間部材)のそれぞれについて、自動車変速機用リングギアの形状に切削加工するための素材としての特性を評価することを目的として、被削性、ビッカース硬さ、およびミクロ組織を評価した。前記評価は、以下の方法で実施した。
なお、従来例No.44については、空冷後の円柱体ではなく、空冷後、さらに焼入れ・焼戻しを施した円柱体を評価対象とした。これは、従来のリングギア製造プロセスにおける切削条件を模擬するためである。これは、従来技術においては、熱間鍛造、空冷、焼入れ・焼戻し、切削によるリングギア形状への加工(歯切り)、および軟窒化処理が、この順序で実施されるためである。すなわち、従来技術においては、軟窒化処理では窒化層が形成されない芯部の強度を確保するために焼入れ・焼戻しが行われているが、この焼入れ・焼戻しを切削の後に行うと、焼入れ時の相変態に伴う形状変化が起きる。そのため、従来技術においては、切削加工前に焼入れ・焼戻しを行う必要がある。No.44では、このような従来技術における切削条件を模擬するために、焼入れ・焼戻しを施した円柱体を試料として、以下の評価を実施した。
(被削性)
空冷後(軟窒化処理前)の円柱体のそれぞれについて、以下の条件で外周旋削試験を行い、被削性の指標としての工具寿命を評価した。前記外周旋削試験においては、フォルダーとして、三菱マテリアル社製CSBNR2020を、チップとして、三菱マテリアル社製SNGN120408 UTi20を、それぞれ使用した。前記外周旋削試験は、切り込み量:1.0mm、送り速度:0.25mm/rev、切削速度:200m/minの条件で行った。また、潤滑剤としては、ユシロ化学工業社製ユシローケンFGE234を用いた。前記外周旋削試験において、工具摩耗量(逃げ面摩耗量)が0.2mmとなるまでの時間を測定し、これを工具寿命とした。なお、工具摩耗量が0.2mmとなる前に刃具に欠けが生じた場合は、欠けが生じるまでの時間を工具寿命とした。
なお、前記被削性の評価においては、上述したように、No.44については、空冷後、さらに焼入れ・焼戻しを施した後、かつ軟窒化処理前の円柱体を評価対象とした。下記のビッカース硬さおよびミクロ組織の評価についても同様である。
(ビッカース硬さ)
空冷後(軟窒化処理前)の円柱体のそれぞれについて、ビッカース硬さを測定した。前記測定には、円柱体の1/4D位置(D比は円柱体の直径)から延伸方向が観察面となるように前記円柱体より採取したサンプルを使用した。前記測定は、ビッカース硬度計を用い、JIS Z 2244に準拠して、2.94N(300gf)の試験荷重で6点測定し、その平均値を採用した。
(ミクロ組織)
さらに、空冷後(軟窒化処理前)の円柱体のそれぞれについて、ミクロ組織を観察し、存在する相を以下の手順で同定した。すなわち、前記円柱体から試験片を採取し、延伸方向に平行な断面(L断面)について、表面を研磨した後、ナイタールで腐食した。次いで、光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、500mm×500mmの領域を観察し、相を同定した。また、前記走査型電子顕微鏡による観察結果から、ベイナイトの面積率を求めた。なお、ミクロ組織観察用の前記試験片は、最も冷却速度が速い位置である円柱体の表面と、最も冷却速度が遅い位置である円柱体の中心のそれぞれから採取した。
表3に、被削性、ビッカース硬さ、およびミクロ組織の評価結果を示す。なお、組織については、表面と中心とで同じであったため、1つの欄にまとめて記載した。
次に、以下に述べる方法により、自動車変速機用リングギアを製造した。まず、上述した直径60mm×500mmの棒鋼(熱間圧延まま素材)を表4に示す加熱温度に加熱した後に熱間鍛造して、図1(a)に示す円環形状に加工した。次いで、表4に示す平均冷却速度で空冷し、第1中間部材101とした。得られた第1中間部材101の内周に、ブローチ加工と歯端面取加工とにより内周歯11を形成するとともに、第1中間部材101の外周には、ボブカッターによる切削により、はめ合い用のスプライン12(12a、12b)を形成し、図1(b)に示すリングギア形状の第2中間部材102とした。
なお、従来例であるNo.44については、内周歯11およびはめ合い用スプライン12(12a、12b)を形成する前の第1中間部材101に対して、950℃での焼入れと、540℃での焼戻しを実施した。
次いで、第2中間部材102に対して軟窒化処理を施してリングギアを得た。前記軟窒化処理は、NH:N:CO=50:45:5の雰囲気中、表4に示す処理温度で、2.5時間行った。
得られたリングギアのそれぞれについて、以下の方法でビッカース硬さ、ミクロ組織、および疲労特性を評価した。評価結果を表4に併記する。
(ビッカース硬さ)
各リングギアの内周歯11の表面から50μm深さの位置におけるビッカース硬さ(表層硬さ)と、リングギアの中心位置(図1(c)における位置C)におけるビッカース硬さ(芯部硬さ)を測定した。測定にはビッカース硬度計を使用し、JIS Z2244に準拠して、2.94N(300gf)の試験荷重で6点測定し、その平均値を採用した。
(ミクロ組織)
上述した軟窒化処理前の円柱体に対するミクロ組織観察と同様の方法でミクロ組織を観察し、存在する組織の同定およびベイナイト面積率の算出を行った。ミクロ組織の観察は、リングギアの径方向断面(図1(c)参照)における、最も冷却速度が遅い位置である表面側の位置Sと、最も冷却速度が遅い位置である中心位置Cの両者において行った。位置Sは、リングギア内周側の角部表面における表面である。また、位置Cは、リングギア101のうち、外径が大きい上部分における肉厚方向の中心かつ高さ方向の中心位置である。
(窒化層の窒素濃度)
上述したビッカース硬さの評価において、芯部硬さを測定した位置と同じ位置(歯本部の表面から250μm深さの位置)における窒素濃度を測定した。前記測定は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて実施した。
(疲労特性)
得られた軟窒化処理後のリングギアの内周歯11に対して繰返し荷重を負荷することにより、疲労特性を試験した。負荷する加重は600MPaとした。疲労特性は、従来例No.44における結果を基準として評価した。すなわち、前記試験において、寿命がNo.44より優れていたものを「良」、従来例と同等以下であったものを「劣」とした。
Figure 2020117789
Figure 2020117789
Figure 2020117789
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Claims (5)

  1. サンギアと、前記サンギアの径方向外側に配置され前記サンギアと噛合するピニオンギアとともにプラネタリギアユニットを構成する自動車変速機用リングギアであって、
    内周面に前記ピニオンギアと噛合する内周歯を有し、
    質量%で、
    C :0.030%以上0.100%以下、
    Si:1.00%以下、
    Mn:1.50%以上3.00%以下、
    P :0.025%以下、
    S :0.060%以下、
    Cr:1.00%以上2.00%以下、
    Mo:0.050%以上0.150%以下、
    V :0.02%以上0.15%以下、
    Nb:0.003%以上0.150%以下、
    Al:0.010%以上0.200%以下、および
    N :0.0200%以下を含み、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
    表層に窒化層を有し、該窒化層の厚さが250μm以上であり、
    前記リングギアの任意の断面におけるベイナイトの面積率が50%超であり、
    表面から50μm位置におけるビッカース硬さが700〜900HV、前記窒化層以外の部分におけるビッカース硬さが220〜350HVである、自動車変速機用リングギア。
  2. 前記成分組成が、さらに質量%で、
    B :0.0100%以下、
    Cu:0.3%以下、
    Ni:0.3%以下、
    Sb:0.02%以下、
    W :0.3%以下、
    Co:0.3%以下、
    Hf:0.2%以下、
    Zr:0.2%以下、
    Ti:0.1%以下、
    Pb:0.2%以下、
    Bi:0.2%以下、
    Zn:0.2%以下、および
    Sn:0.2%以下
    からなる群より選択される1または2以上を含有する、請求項1に記載の自動車変速機用リングギア。
  3. さらに、はめ合い用のスプラインを外周部に有する、請求項1または2に記載の自動車変速機用リングギア。
  4. サンギアと、前記サンギアの径方向外側に配置され前記サンギアと噛合するピニオンギアとともにプラネタリギアユニットを構成する自動車変速機用リングギアを製造する方法であって、
    質量%で、
    C :0.030%以上0.100%以下、
    Si:1.00%以下、
    Mn:1.50%以上3.00%以下、
    P :0.025%以下、
    S :0.060%以下、
    Cr:1.00%以上2.00%以下、
    Mo:0.050%以上0.150%以下、
    V :0.02%以上0.15%以下、
    Nb:0.003%以上0.150%以下、
    Al:0.010%以上0.200%以下、および
    N :0.0200%以下を含み、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を1100℃を超える加熱温度に加熱し、
    加熱された前記鋼素材を熱間鍛造して第1中間部材とし、
    前記第1中間部材を、700〜200℃の温度域における平均冷却速度:10℃/秒以下、かつ、700〜500℃の温度域における平均冷却速度:0.5℃/秒超で空冷し、
    空冷後の前記第1中間部材を切削加工して第2中間部材とし、
    前記第2中間部材に、処理温度:550〜600℃で軟窒化処理を施す、自動車変速機用リングギアの製造方法。
  5. 前記成分組成が、さらに質量%で、
    B :0.01%以下、
    Cu:0.3%以下、
    Ni:0.3%以下、
    Sb:0.02%以下、
    W :0.3%以下、
    Co:0.3%以下、
    Hf:0.2%以下、
    Zr:0.2%以下、
    Ti:0.1%以下、
    Pb:0.2%以下、
    Bi:0.2%以下、
    Zn:0.2%以下、および
    Sn:0.2%以下
    からなる群より選択される1または2以上を含有する、請求項4に記載の自動車変速機用リングギアの製造方法。
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