以下、添付図面を参照して、本発明の一側面の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
<ガスバリア積層体>
まず、図1を参照しながら本実施形態に係るガスバリア積層体の一例について説明する。図1は、ガスバリア積層体の概略断面図である。図1に示されるガスバリア積層体1は、少なくとも酸素及び水蒸気等のガスバリア性を示すフィルムである。また、ガスバリア積層体1は、例えば可撓性及び光透過性等の少なくとも何れかを示す。
ガスバリア積層体1は、加圧加熱殺菌処理(レトルト処理)又はボイル処理が施される包装体に使用可能なフィルムである。このため、ガスバリア積層体1は、耐熱性も示す。ガスバリア積層体1は、ガスバリア性及び耐熱性の他に要求される性能(例えば、遮光性、耐水性、耐温湿性、機械的強度、印刷容易性、装飾容易性等)を備え得る。なお、レトルト処理は、例えば食品衛生法で定められた湿熱殺菌処理である。また、ボイル処理は、対象物を湯煎する殺菌処理である。レトルト処理は、100℃以上にて実施される殺菌処理である。一方、ボイル処理は、100℃未満にて実施される殺菌処理である。
ガスバリア積層体1は、樹脂基材10、下地層11(アンカーコート)、第1層12(蒸着層)、第2層13(メインコート)、第3層14(トップコート)を備える。樹脂基材10、下地層11、第1層12、第2層13、第3層14は、順に積層されている。
樹脂基材10は、支持体となる樹脂フィルム(プラスチックフィルム)である。樹脂基材10は、例えば、ポリオレフィン系重合体、及びその酸変性物;ポリエステル系重合体;ポリアミド系重合体;ポリエーテル系重合体;ハロゲン系重合体;アクリル系重合体;ポイイミド系重合体;エポキシ系重合体の少なくとも一種を含むフィルムである。このため、樹脂基材10は、上記重合体を構成するモノマーによる共重合体でもよい。また、樹脂基材10は、例えば、セルロースアセテート等の天然高分子化合物を含有してもよい。樹脂基材10は、延伸フィルムでもよいし、非延伸フィルムでもよい。樹脂基材10の厚さは、例えば5μm以上10mm以下でもよく、5μm以上800μm以下でもよく、5μm以上500μm以下でもよい。
樹脂基材10は、下地層11に接する第1表面10aと、厚さ方向において第1表面10aの反対側に位置する第2表面10bとを有する。下地層11との密着性の観点から、第1表面10aには表面処理が施されてもよい。表面処理は、例えば、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理等である。第2表面10b上には、例えば、バリア性フィルム、無機蒸着フィルム、又は金属箔等のバリア膜が設けられてもよい。このバリア膜は、例えば、液体及び空気が樹脂基材10を通過することを阻害する機能、及び光が樹脂基材10を透過することを抑制する機能等を示す。バリア性フィルムとしては、例えばポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、又はポリビニルアルコール(PVA)等から構成されるフィルムが挙げられる。また、無機蒸着フィルムは、樹脂フィルムに対して、アルミニウム、アルミナ、又はシリカ等が蒸着されたフィルムである。
下地層11は、樹脂基材10と第1層12との密着性向上に寄与する層であり、ウレタン系化合物を含む。下地層11の厚さは、例えば0.01μm以上2μm以下である。下地層11の厚さは、0.05μm以上1μm以下であってもよい。下地層11の厚さが0.01μm以上である場合、下地層11の特性が良好に発揮される。下地層11の厚さが2μm以下である場合、ガスバリア積層体1の可撓性低下を良好に抑制できる。これにより、ガスバリア積層体1を曲げたとき、下地層11にクラックが発生することを防止できる。下地層11は、アンカーコート液を樹脂基材10の第1表面10aに塗布することによって形成される。アンカーコート液の溶媒は、例えば極性溶媒である。アンカーコート液は、例えばオフセット印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、ドクターブレード法等の周知の方法によって第1表面10aに塗布される。
下地層11に含まれる化合物は、例えば、オルガノシランもしくは有機金属化合物と、ポリオール化合物と、イソシアネート化合物との反応物を含む。すなわち、下地層11は、ウレタン系接着剤層であるということもできる。オルガノシランは、例えば3官能オルガノシラン、もしくは3官能オルガノシランの加水分解物である。有機金属化合物に含まれる金属元素は、例えばAl、Ti、Zr等である。有機金属化合物は、例えば金属アルコキシドもしくは金属アルコキシドの加水分解物である。オルガノシランの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解物のそれぞれは、少なくとも一つの水酸基を有していればよい。ポリオール化合物とイソシアネート化合物との反応性の観点から、ポリオール化合物は、高分子化合物でもよい。この場合、透明性の観点から、ポリオール化合物は、アクリルポリオールでもよい。イソシアネート化合物は、主に架橋剤もしくは硬化剤として機能する。イソシアネート化合物は、モノマーでもよいしポリマーでもよい。
第1層12は、例えば水蒸気に対するガスバリア性(水バリア性)を示す層であり、下地層11上に位置すると共に無機酸化物を含有する。無機酸化物は、例えば酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫等である。第1層12の透明性及び水バリア性の観点から、無機酸化物は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、及び酸化マグネシウムからなる群より選ばれてもよい。第1層12の厚さは、例えば5nm以上100nm以下である。第1層12の厚さは、10nm以上50nm以下であってもよい。第1層12の厚さが5nm以上である場合、水蒸気に対する水バリア性が良好に発揮される。第1層12の厚さが100nm以下である場合、ガスバリア積層体1の可撓性低下を良好に抑制できる。これにより、ガスバリア積層体1を曲げたとき、第1層12にクラックが発生することを防止できる。なお、第1層12は、複数種類の無機酸化物を含んでもよい。
第1層12は、例えば物理気相成長法もしくは化学気相成長法などによって形成される蒸着層である。物理気相成長法は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等である。第1層12の下地層11への密着性と、第1層12の緻密性とを向上する観点から、プラズマアシスト法、イオンビームアシスト法等が実施されてもよい。第1層12の透明性を向上する観点から、第1層12の形成時、酸素ガス等が製造チャンバ内に供給されてもよい。
第2層13は、例えば酸素に対するガスバリア性(酸素バリア性)を示す層であり、第1層12上に位置すると共にカルボン酸系ポリマーを含有する。第2層13の厚さは、例えば0.01μm以上5μm以下である。第2層13の厚さは、0.02μm以上3μm以下でもよく、0.04μm以上1.2μm以下でもよい。第2層13の厚さが0.01μm以上である場合、酸素バリア性が良好に発揮される。第2層13の厚さが5μm以下である場合、ガスバリア積層体1の可撓性低下を良好に抑制できる。第2層13の厚さは、後述する、第3層14の厚さの第2層13の厚さに対する比率が所定の範囲内となるように調整することができる。第2層13は、例えば、少なくともカルボン酸系ポリマーを含有するコーティング液を第1層12上に塗布することによって形成される。コーティング液は、上記下地層と同様の手法にて第1層12上に塗布される。コーティング液の溶媒は、水及び有機溶媒の少なくともいずれかを含めばよい。
第2層13に含まれるカルボン酸系ポリマーは、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸重合体;エチレン性不飽和カルボン酸モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体;アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチン等の分子内にカルボキシ基を有する酸性多糖類等である。エチレン性不飽和カルボン酸は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸である。エチレン性不飽和モノマーは、例えば、飽和カルボン酸ビニルエステル系モノマー(エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等)、アルキルアクリレート系モノマー、アルキルメタクリレート系モノマー、アルキルイタコネート系モノマー、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル等である。第2層13は、複数種類のカルボン酸系ポリマーを含んでもよい。なお、カルボン酸系ポリマーは、2個以上のカルボキシ基を有するモノマーの重合体でもよい。
第2層13の酸素バリア性の観点から、カルボン酸系ポリマーは、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸及びクロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体から誘導される構成単位を含む重合体でもよい。この場合、重合体における上記構造単位の割合は、80mol%以上でもよく、90mol%以上でもよい。
カルボン酸系ポリマーの数平均分子量は、例えば2,000以上10,000,000以下である。カルボン酸系ポリマーの数平均分子量は、5,000以上1,000,000以下でもよい。カルボン酸系ポリマーの数平均分子量が2,000以上である場合、第2層13は、十分な耐水性を示す。これにより、水分に起因した第2層13の酸素バリア性の劣化、及び、第2層13が白化することを良好に抑制できる。カルボン酸系ポリマーの数平均分子量が10,000,000以下である場合、第2層13を容易に形成できる。なお、カルボン酸系ポリマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めた、ポリスチレン換算の数平均分子量である。
第1層12と第2層13との密着性向上の観点から、第2層13は、シランカップリング剤、その加水分解物及びそれらの縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のケイ素含有化合物を含んでもよい。加えてこの場合、第2層13の耐熱性、耐水性等を向上可能である。シランカップリング剤は、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等である。シランカップリング剤の加水分解物は、上記カップリング剤の酸素に結合されるアルキル基の少なくとも一つが水酸基に置換されたものである。シランカップリング剤の縮合物は、例えば、2分子の加水分解物のSi−OH同士が縮合することによって、Si−O−Si結合(シロキサン結合)を有するものである。第2層13がケイ素含有化合物を含有する場合、カルボン酸系ポリマーとケイ素含有化合物との質量比は、例えば、99.5:0.5〜80:20である。この場合、優れた耐虐待性を示すガスバリア積層体1が得られる。また、第1層12と第2層13との剥離が生じにくくなる。加えて、第2層13の厚さが均一になりやすくなると共に、第2層13が良好な耐酸性を示し得る。
カルボン酸系ポリマーに含まれるカルボキシ基の一部は、予め塩基性化合物にて中和されていてもよい。この場合、第2層13の酸素バリア性をさらに向上できる。加えて、第2層13の耐熱性も向上できる。塩基性化合物は、例えば、多価金属化合物、一価金属化合物、アンモニア等が挙げられる。多価金属化合物は、例えば、第3層14に含まれる多価金属化合物(詳細は後述)と同様のものである。多価金属化合物である塩基性化合物は、例えば酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等である。一価金属化合物である塩基性化合物は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等である。
本実施形態では、第2層13は、少なくとも塩基性化合物を構成する陽イオンを含有する。当該陽イオンは、第3層14から第2層13へ拡散された多価金属イオンである。このため本実施形態では、多価金属イオンとカルボキシ基とによるイオン架橋が形成される。換言すると、第2層13は、多価金属イオンを介してカルボン酸系ポリマー同士が架橋した架橋構造を有する。これにより、第2層13は、優れた酸素バリア性を発揮できる。例えば、ガスバリア積層体1の酸素透過度は、0.1cc/m2・day・atm以下を示す。
第2層13は、各種添加物を含んでもよい。添加物は、例えば、可塑剤、樹脂、分散剤、界面活性剤、柔軟剤、安定剤、アンチブロッキング剤、膜形成剤、粘着剤、酸素吸収剤等である。
第3層14は、例えば、第2層13に多価金属イオンを供給して第2層13に架橋構造を形成させ、酸素バリア性を向上させる機能を有すると共に、レトルト臭の原因となる硫化水素を吸収する機能を有する層である。第3層14は、第2層13上に位置すると共に多価金属化合物及び樹脂を含有する。
第3層14の厚さは、例えば0.10μm以上0.50μm以下であり、0.19μm以上0.42μm以下であってもよい。第3層14の厚さが0.10μm以上である場合、第3層14に十分な量の多価金属化合物を含有させることができると共に、レトルト処理又はボイル処理等の加熱処理により酸素バリア性が低下することを十分に抑制することができる。第3層14の厚さが0.50μm以下である場合、第3層14の可撓性の低下を良好に抑制できると共に、第3層14の表面14aに直径1.5μm以上の凹部が形成されることを抑制し易くなる。ここで、第3層14の厚さは、凹部30が形成されていない部分の厚さであり、走査プローブ型顕微鏡(SPM)により測定することができる。
第3層14は、例えば多価金属化合物及び樹脂を含有するコーティング液を第2層13上に塗布することによって形成される。コーティング液は、上記下地層と同様の手法にて第2層13上に塗布される。
本実施形態においては、第3層の厚さの第2層の厚さに対する比率(第3層の厚さ/第2層の厚さ)は1.0以上4.0以下であり、1.1以上3.0以下であってもよい。当該比率が1.0未満である場合、レトルト臭抑制と酸素バリア性とを両立できない。当該比率が4.0超である場合、第3層が厚くなりすぎ、塗工性が悪くなる。
第3層14に含まれる多価金属化合物は、例えば多価金属の単体、酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩(例えば、酢酸塩)、無機酸塩等である。多価金属化合物は、多価金属酸化物のアンモニウム錯体もしくは2〜4級アミン錯体、またはそれらの炭酸塩もしくは有機酸塩でもよい。第3層14に含まれる多価金属化合物の多価金属は、例えば、アルカリ土類金属、遷移金属、アルミニウム等が挙げられる。アルカリ土類金属は、例えばベリリウム、マグネシウム、カルシウムである。遷移金属は、例えばチタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等である。耐熱性及び製造性等の観点から、多価金属化合物は、アルカリ土類金属、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、もしくはアルミニウムの酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩または酢酸塩でもよい。あるいは、上記観点から、多価金属化合物は、銅もしくは亜鉛のアンモニウム錯体でもよい。工業的生産性の観点から、多価金属化合物は、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸亜鉛、酢酸カルシウムでもよい。さらに耐熱性、耐水性、透明性の観点も踏まえると、多価金属化合物は、酸化亜鉛もしくは炭酸カルシウムでもよい。本実施形態では、多価金属化合物は、酸化亜鉛である。
第3層14の質量基準にて、多価金属化合物の含有率は、例えば65質量%以上85質量%以下である。上記含有率が65質量%以上である場合、硫化水素が第3層14側からガスバリア積層体1に侵入するとき、当該硫化水素が第3層14内に良好に捕捉される。換言すると、硫化水素が第3層14側からガスバリア積層体1に侵入するとき、当該硫化水素(硫黄イオン)の第2層13までの拡散が良好に抑制される。加えて、多価金属イオンの少なくとも一部が第2層13へ拡散される。これにより、上述した架橋構造が第2層13に形成されるので、第2層13の酸素バリア性を良好に発揮できる。したがって、上記含有率が65質量%以上である場合、レトルト臭の抑制と、酸素バリア性との両立可能なガスバリア積層体1が形成され得る。
上記含有率が85質量%以下である場合、多価金属化合物の第3層14からの脱落を抑制できる。加えて、本実施形態では、多価金属化合物は酸化亜鉛であるため、上記含有率が85質量%以下であることによって第3層14の光透過性を確保できる。
第3層14に含まれる樹脂は、例えばアルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂等である。また、多価金属化合物の分散性の観点から、第3層14を形成するためのコーティング液は、分散剤(例えばアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤)等を含んでもよい。コーティング液は、他に柔軟剤、安定剤、膜形成剤、増粘剤等を含んでもよい。
第3層14は、第2層13とは反対側の表面における直径1.5μm以上の凹部の単位面積あたりの個数が2個/0.01mm2以下である。ここで、図2は、第3層14の概略断面図であり、当該第3層14の第2層13とは反対側の表面14aに、直径Xが1.5μm以上である凹部30が形成された状態を示している。第3層14の表面14aにおける凹部30の単位面積あたりの個数が2個/0.01mm2以下であることにより、レトルト処理又はボイル処理等の加熱処理によりガスバリア積層体1の酸素バリア性が低下することを十分に抑制することができる。なお、凹部30の単位面積あたりの個数が2個/0.01mm2を超えると、第3層14の表面14aが粗く不均一となり、内容物を収容した包装体の状態で加熱処理を施した際に、内容物から発生した硫化水素が第3層14を通過して第2層13まで到達し易くなる。その結果、第2層13の架橋構造が破壊され、ガスバリア積層体1の酸素バリア性が低下することとなる。また、ガスバリア積層体1の酸素バリア性の低下をより一層抑制する観点から、凹部30の単位面積あたりの個数が1個/0.01mm2以下であることがより好ましく、0個/0.01mm2であることが最も好ましい。
本明細書において、凹部30の単位面積あたりの個数は、以下の方法で測定したものである。まず、第3層14の表面14aを走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して0.1mm×0.1mmの視野の拡大画像を撮影し、そこに写る直径1.5μm以上の凹部30の個数を数える。これにより、直径1.5μm以上の凹部30の単位面積あたりの個数(単位:個/0.01mm2)を求める。ここで、第3層14の表面14aに対して垂直な方向から見た凹部30の平面形状は円形でなくてもよく、楕円形、多角形、不定形、及びこれらの形状を2種以上組み合わせた形状であってもよい。凹部30の平面形状が円形でない場合、凹部30の直径Xは、その形状における最大径を意味する。
ここで、第3層14の表面14aにおける直径1.5μm未満の凹部は、酸素バリア性に与える影響が小さく、その個数は特に限定されない。なお、加熱処理によるガスバリア積層体1の酸素バリア性の低下をより十分に抑制する観点から、第3層14の表面14aにおける直径1.0μm以上の凹部の単位面積あたりの個数が2個/0.01mm2以下、1個/0.01mm2以下、又は、0個/0.01mm2であることが好ましい。
直径1.5μm以上の凹部30の深さ(最大深さ)Yは特に限定されないが、例えば、第3層14の厚さの50%以上である。このような深さを有する凹部30は、酸素バリア性に与える影響が大きい。
第3層14の表面14aにおいて、第3層14の厚さの50%以上の深さを有する凹部(直径は限定されない)の単位面積あたりの個数は、2個/0.01mm2以下であることが好ましく、1個/0.01mm2以下であることがより好ましく、0個/0.01mm2であることが最も好ましい。上記深さを有する凹部の単位面積あたりの個数が2個/0.01mm2以下であると、レトルト処理又はボイル処理等の加熱処理によりガスバリア積層体1の酸素バリア性が低下することをより十分に抑制することができる。凹部の深さは、例えば、走査プローブ型顕微鏡(SPM)により測定することができる。なお、第3層14の厚さの50%以上の深さを有する凹部と、直径1.5μm以上の凹部30とは、両方の条件を満たす共通の凹部であってもよい。
第3層14の表面14aにおける直径1.5μm以上の凹部30の単位面積あたりの個数を2個/0.01mm2以下にする方法としては、例えば、第3層14の形成方法を調整する方法が挙げられる。
第3層14の表面14aに凹部30が形成されることを抑制するための第3層14の形成方法としては、第2層13の表面に上述した第3層14の構成成分を含むコーティング液をグラビア印刷法により塗工する方法が好ましい。また、第3層14の表面14aに凹部30が形成されることをより十分に抑制するには、グラビア印刷に用いるシリンダ(版胴)として、表面がセラミックコートされたシリンダを用いることが好ましい。セラミックコートされたシリンダは、コーティング液に対する濡れ性に優れ、シリンダ表面にコーティング液が均一に付きやすく、且つ、そのコーティング液を第2層13に均一に転写し易い。そのため、直径1.5μm以上の凹部30が第3層14の表面14aに形成されることを抑制することができる。
通常、第3層14の厚さが厚くなるほど、その表面14aには凹部30が形成され易くなるが、上述した方法を用いて第3層14を形成することにより、表面14aに凹部30が形成されることを抑制することができる。よって、第3層14の厚さが例えば0.1μm以上0.5μm以下の範囲内であっても、表面14aに凹部30が形成されることを抑制することができる。
<包装体及びパッケージ>
次に、図3及び図4を参照しながら、本実施形態に係るガスバリア積層体を用いて形成されるパッケージの構造について説明する。図3は、パッケージの概略平面図である。図4は、図3のIV−IV線に沿った断面図である。
まず、図3及び図4に示されるパッケージ2を構成するシート(包装フィルム)3について説明する。シート3は、ガスバリア積層体1と、第3層14上に位置する接着層21と、接着層21上に位置するカバー層22とを備える。接着層21は、ガスバリア積層体1とカバー層22とを接着するための層である。カバー層22は、カバー層22同士が対向するように重ねられたシート3の一部を融着するための層(シーラント層)である。
接着層21は、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリウレタン、ポリプロピレン、エチレン−不飽和エステル共重合樹脂、又はポリエステル系共重合樹脂等を含む。カバー層22は、包装体4の内面となる樹脂層であり、例えば未延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)である。接着層21の厚さは、例えば1μm以上5μm以下であり、カバー層22の厚さは、例えば10μm以上100μm以下である。接着層21は、例えば、第3層14上に塗布されることによって形成される。カバー層22は、例えば、接着層21上に塗布されることによって形成される。
パッケージ2は、二つ折りにしたシート3の端部をヒートシールすることによって袋形状に形成された包装体4と、包装体4に収容される内容物5とを備える。包装体4の外面4aは樹脂基材10によって構成されており、包装体4の内面4bはカバー層22によって構成されている。このため、樹脂基材10と、下地層11と、第1層12と、第2層13と、第3層14と、接着層21と、カバー層22とは、この順序で包装体4の外側から内側に向かって積層されている。また、包装体4では、シート3の一部と他部とは、互いに向かい合っている。
包装体4は、内容物5が収容される本体部6と、本体部6の縁に位置する溶着部7と、シート3が折り曲げられた折曲部8とを有する。図4に示されるように、断面図においては、溶着部7は2aの領域として、本体部6は2bの領域としてあらわされる。また、内容物5は、例えば液体L及び固体Sを含む。液体Lは、例えば水、油、清涼飲料水、アルコール飲料、有機溶媒等である。固体Sは、含硫アミノ酸を含む肉類、豆類等である。含硫アミノ酸は、例えばメチオニン、システインである。システインは、例えばL−システイン(2−アミノ−3−スルファニルプロピオン酸:HSCH2CH(NH2)COOH)であり、下記式(1)で表される。
溶着部7は、シート3の一部と他部とが加熱及び圧縮された部分である。これにより、溶着部7では、対向するカバー層22の樹脂同士が溶融して混ざり合い、熱融着する。
パッケージ2は、レトルト処理もしくはボイル処理が実施されたものでもよい。これにより、第2層13には上記架橋構造が形成され、且つ、形成された架橋構造が破壊されずに残存することから、ガスバリア積層体1による酸素バリア性が良好に発揮される。
次に、本実施形態に係るガスバリア積層体1を用いたパッケージ2によって奏される作用効果について、図5及び図6を参照しながら説明する。図5の(a)〜(d)は、レトルト処理の実施時におけるガスバリア積層体の変化を説明するための模式図である。図6の(a),(b)は、レトルト処理の実施時におけるパッケージの変化を説明するための模式図である。このレトルト処理では、ガスバリア積層体1及びパッケージ2のそれぞれは、125℃の水蒸気によって30分間加熱されたと想定した。ガスバリア積層体1の樹脂基材10側が水蒸気に曝露された。また、図5の(a)〜(d)において、「R−COOH」はカルボン酸系ポリマーを示し、「R−COO−」はカルボキシ基から水素イオンが遊離したカルボン酸系ポリマーを示し、「MOx」は多価金属化合物を示し、「My+」は多価金属イオンを示し、「R−COO−M−OOC−R」は多価金属イオンを介したカルボン酸系ポリマーの架橋構造を示す。
まず、図5の(a)〜(d)を参照しながら、レトルト処理の実施時におけるガスバリア積層体1の変化を説明する。図5の(a)に示されるように、レトルト処理中、高温の水蒸気(水分)が樹脂基材10側からガスバリア積層体1へ浸入する。これにより図5の(b)に示されるように、カルボン酸系ポリマーのカルボキシ基の水素イオン(H+)が遊離する。遊離した水素イオンの少なくとも一部は、第3層14側へ移動する。続いて図5の(c)に示されるように、第3層14へ移動した水素イオンが多価金属化合物を還元する。これにより、多価金属化合物から多価金属イオンが生じる。この多価金属イオンの一部は、第2層13へ移動する。そして図5の(d)に示されるように、第2層13へ移動した多価金属イオンを介して、カルボン酸系ポリマーが架橋構造を形成する。このように、レトルト処理中にカルボン酸系ポリマーと多価金属化合物とが化学反応することによって、第2層13における酸素バリア性が向上する。加えて、第3層14に残存する多価金属化合物がレトルト臭の吸収作用を示す。したがって、ガスバリア積層体1に対して例えばレトルト処理を実施することによって、ガスバリア積層体1は、レトルト臭の抑制作用及び良好な酸素バリア性を示す。
続いて、図6の(a),(b)を参照しながら、レトルト処理の実施時におけるパッケージ2の変化を説明する。図6の(a)に示されるように、レトルト処理中、パッケージ2の包装体4を構成するガスバリア積層体1には、上述した変化が発生する。また、内容物5の固体Sに含まれる含硫アミノ酸が加熱されて水と反応することによって、レトルト臭の原因となる硫化水素(H2S)が発生する。例えば、含硫アミノ酸がシステインである場合、以下の化学反応式に示されるように硫化水素が発生する。
HSCH2CH(NH2)COOH+H2O→H2S+CH3CHO+NH3+CO2
硫化水素は、カバー層22及び接着層21を通過し、第3層14側からガスバリア積層体1へ侵入する。第3層14へ侵入した硫化水素は、第3層14に含まれる多価金属化合物と化学反応する。これにより、第3層14には多価金属硫化物が生成し、硫化水素は第3層14に捕捉されることとなる。したがって、本実施形態に係るガスバリア積層体1を用いたパッケージ2によれば、レトルト臭を抑制できる。
ここで上述したように、第3層14の厚さの第2層13の厚さに対する比率が1.0以上4.0以下であり、第3層14の第2層13側とは反対側の表面14aにおける、直径1.5μm以上の凹部30の単位面積あたりの個数が2個/0.01mm2以下となっている。このようなガスバリア積層体1を用いることによって、ガスバリア積層体1へ侵入した硫化水素の大部分は、第3層14に捕捉される。すなわち、硫化水素(硫黄イオン)の第2層13までの到達は、良好に抑制される。侵入した硫化水素の一部が第2層13に到達することもあるが、大部分が第3層14で捕捉されているため、レトルト処理後の第2層13における硫黄元素の含有率は極めて低く(例えば、1.0atm%以下に)抑えることができる。これにより、第2層13における上記架橋構造が硫黄イオンによって破壊されることを抑制できる。したがって、内容物5から硫化水素が生じる場合であっても、ガスバリア積層体1の酸素バリア性は十分に発揮される。
本実施形態では、第3層14の厚さは、0.10μm以上0.50μm以下である。このため、第3層14に十分量の多価金属化合物を含有させることができる。また、第3層14の可撓性低下を良好に抑制できる。
本実施形態では、多価金属化合物は、酸化亜鉛であり、第3層14の質量基準にて、酸化亜鉛の含有率は、65質量%以上85質量%以下である。このため、光透過性を示しつつ、レトルト臭の抑制と、酸素バリア性との両方を実現可能なガスバリア積層体1を提供できる。
本実施形態では、上記レトルト処理の実施後、第2層13は、多価金属イオンを介してカルボン酸系ポリマー同士が架橋した架橋構造を有する。このため、第2層13による酸素バリア性が良好に発揮される。
本実施形態では、ガスバリア積層体1は、樹脂基材10と第1層12との間に位置し、ウレタン系化合物を含む下地層11を備える。このため、樹脂基材10と第1層12との剥離が抑制される。
本発明の一側面に係るガスバリア積層体及びそれを備える包装体は、上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、内容物に液体及び固体の両方が含まれているが、これに限られない。内容物は、液体及び固体のいずれかのみを含んでもよい。内容物が液体のみを含む場合、当該液体は含硫アミノ酸を含む。また、包装体4には、液体状、半固体状、又はゲル状の内容物5が収容されてもよい。すなわち、包装体4には、液体のように表面張力が働き得る物質が収容されてもよい。内容物の具体例としては、水、油、ドリンク、ヨーグルト、ゼリー、カレー、プリン、シロップ、ジャム、ムース、お粥、もしくはスープ等の食品、医薬品、化粧品、又は化学品等が挙げられる。もしくは、包装体4には、例えば滅菌済みの衛生用品、医療品、固体の食料品などが収容されてもよい。
上記実施形態では、ガスバリア積層体は、下地層を備えるが、これに限られない。すなわち、ガスバリア積層体は、下地層を備えなくてもよい。また、ガスバリア積層体は、下地層に代えて、樹脂基材10の第1表面10aがリアクティブイオンエッチング(以下「RIE」ともいう。)処理されることにより形成された改質処理層が備えていてもよい。改質処理層とは、樹脂基材10の表面近傍が、RIE処理により層状に改質された態様となっている部位を指すものである。
RIE処理にはプラズマが利用される。プラズマ中に発生したラジカルやイオンにより、樹脂基材10表面に官能基を付与する化学効果が得られる。また、イオンエッチングによって表面不純物を除去すると共に、表面粗さを大きくする物理的効果も得られる。そのため、RIE処理により上記化学効果および上記物理的効果が発現している改質処理層により、樹脂基材10と第1層12との間の密着性が向上し、高温高湿環境下においても樹脂基材10と第1層12との間の剥離が生じにくくなる。そのため、ガスバリア積層体1全体の耐熱性が向上し、ボイル処理、レトルト処理、加熱調理等の加熱処理を行ったときの、樹脂基材10と第1層12との間のデラミネーションの発生やガスバリア性の劣化等が抑制される。
樹脂基材10へのRIE処理は、RIE方式のプラズマ処理装置として、公知のものを用いて実施できる。該プラズマ処理装置としては、巻取り式のインラインプラズマ処理装置が好ましい。巻取り式のインラインプラズマ処理装置としては、プレーナ型プラズマ処理装置、ホローアノード型プラズマ処理装置等を用いることができる。
以下、プレーナ型プラズマ処理装置により、樹脂基材10表面をRIE処理する方法の一例を説明する。本例で用いるプレーナ型プラズマ処理装置は、真空室内に、電極(カソード)と、樹脂基材10を保持する円筒型の処理ロールとを備え、処理ロールの内側に電極が配置されている。このようなプレーナ型プラズマ処理装置の処理ロールの外側に、RIE処理する方法のガスを導入し、樹脂基材10を処理ロールに沿って搬送しながら電極に電圧を印加すると、処理ロールの外側でプラズマが発生し、プラズマ中のラジカルが、対極である処理ロール側に引き寄せられ、樹脂基材10の表面に作用する。また、カソードである電極側に樹脂基材10が設置されているため、樹脂基材10上に高い自己バイアスが得られ、この高い自己バイアスにより、プラズマ中のイオンが樹脂基材10側に引き寄せられ、樹脂基材10の表面にスパッタ作用(物理的作用)が働き、RIE処理が行われる。電圧を印加する電極が処理ロールの外側に配置されている装置でプラズマ処理する場合、樹脂基材10はアノード側に配置されることになる。この場合、高い自己バイアスは得られず、樹脂基材10にはラジカルのみが作用する。ラジカルの作用は化学反応だけであり、化学反応だけでは樹脂基材10と第1層12との密着性を充分に向上させることができない。
次に、ホローアノード型プラズマ処理装置により、樹脂基材10表面をRIE処理する方法の一例を説明する。本例で用いるホローアノード型プラズマ処理装置は、真空室内に電極(アノード)と、樹脂基材10を保持し、電極の対極(カソード)として機能する処理ロールと、インピーダンスを整合させるためのマッチングボックスと、ガス導入ノズルと、電極の両端に配置された遮蔽板とを備える。電極は、処理ロール側が開口した箱型である。ガス導入ノズルが、電極の上方に配置され、電極および遮蔽板と、処理ロールとの間の空隙に、RIE処理を行うためのガスを導入できるようになっている。マッチングボックスは、電極の背面に配置され、電極に接続されている。遮蔽板は、処理ロールの外周に沿った局面形状を有しており、処理ロールの外側に、処理ロールと対向するように配置されている。電極の面積(Sa)は、処理ロール側に開口した箱型であることにより、対極となる樹脂基材10の処理面の面積(Sc)、つまり、電極の開口の大きさよりも大きく(Sa>Sc)なっている。
このようなホローアノード型プラズマ処理装置の電極および遮蔽板と、処理ロールとの間の空隙にガスを導入し、樹脂基材10を処理ロールに沿って搬送しながら、マッチングボックスから電極に電圧を印加すると、箱型の電極の内側でプラズマが発生し、プラズマ中のラジカルが、対極である処理ロール側に引き寄せられ、樹脂基材10の表面に作用する。また、Sa>Scであることにより、樹脂基材10上に高い自己バイアスが発生し、この高い自己バイアスにより、プラズマ中のイオンが樹脂基材10側に引き寄せられ、樹脂基材10の表面にスパッタ作用(物理的作用)が働き、RIE処理が行われる。Sa>Scではない装置で、プラズマ処理すると、高い自己バイアスは得られず、樹脂基材10にはラジカルのみが作用する。ラジカルの作用は化学反応だけであり、化学反応だけでは樹脂基材10と第1層12との密着性を充分に向上させることができない。
ホローアノード型プラズマ処理装置は、さらに、箱型の電極中に磁石を組み込んで自記電極とした磁気アシスト・ホロアノード型プラズマ処理装置であってもよい。磁気電極から発生される磁界により、プラズマ閉じ込め効果をさらに高め、大きな自己バイアスで高いイオン電流密度を得ることができる。これによって、より強力で安定したRIE処理を高速で行うことが可能となる。
RIE処理を行うためのガス種としては、例えば、アルゴン、酸素、窒素、水素を使用することができる。これらのガスは単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。RIE処理は、2基以上のプラズマ処理装置は同じものを使用する必要はない。例えば、プレーナ型プラズマ処理装置で樹脂基材10を処理し、その後連続してホローアノード型プラズマ処理装置を用いて処理を行うこともできる。
また、上記実施形態のパッケージにおいて接着層は第3層に接触しているが、これに限られない。例えば、接着層と第3層との間に中間層が設けられてもよい。また、第3層上には印刷層が設けられてもよい。印刷層は、例えば文字、図形等を示すための塗料と、透明樹脂とを含む。
上記実施形態では、ガスバリア積層体に上記レトルト処理が実施された後、第2層は、多価金属イオンを介したカルボン酸系ポリマーの架橋構造を有しているが、これに限られない。第2層は、上記レトルト処理が実施される前から、上記架橋構造を有してもよい。この場合、上記レトルト処理が実施されなくても、ガスバリア積層体は、優れた酸素バリア性を示す。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例及び比較例で使用したアンカーコート液、コーティング液の調製方法を以下に示す。
<アンカーコート液の調製>
希釈溶媒(酢酸エチル)中、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン1質量部と、アクリルポリオール5質量部とを混合撹拌し、溶液を得た。その後、トリレンジイソシアネート(TDI)を、アクリルポリオールの水酸基に対しイソシアネート基が等量となるように上記溶液に加えた。そして、当該溶液を酢酸エチルにより2質量%の濃度に希釈したものをアンカーコート液とした。
<コーティング液Aの調製>
数平均分子量200,000のポリアクリル酸水溶液(東亞合成株式会社製「アロンA−10H」、固形分濃度25質量%)20gを蒸留水58.9gに溶解した。そこへ、アミノプロピルトリメトキシシラン(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)0.44gを添加して均一に撹拌した。これにより、コーティング液Aを得た。
<コーティング液Bの調製>
酸化亜鉛微粒子水分散液(住友大阪セメント株式会社製「ZE143」)100gと硬化剤(Henkel社製「Liofol HAERTER UR 5889−21」)1gとを混合してコーティング液Bを得た。
[実施例1]
(ガスバリア積層体の作製)
樹脂基材として2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製「ルミラー(登録商標)P60」、厚さ12μm、内側コロナ処理)のコロナ処理が施された面上に、アンカーコート液を、乾燥後の厚さが0.2μmになるようにバーコーターを用いて塗工し、150℃で1分間乾燥させることによって下地層を形成した。この下地層上に、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、金属アルミニウムを蒸発させ、そこに酸素ガスを導入し、酸化アルミニウムを蒸着して厚さ20nmの第1層を形成した。
次に、第1層上に、コーティング液Aを、乾燥後の厚さが0.15μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、80℃で5分間乾燥し、その後50℃で3日間熟成処理し、さらに200℃で5分間熱処理を施して第2層を形成した。続いて、この第2層上に、コーティング液Bを、乾燥後の厚さが0.25μmとなるように、表面がセラミックコートされたシリンダ(版胴)を用いたグラビア印刷法により塗工した後、90℃で2分間乾燥させて第3層を形成した。これにより、PETフィルム(12μm)/下地層(0.2μm)/第1層(20nm)/第2層(0.15μm)/第3層(0.25μm)の積層構造を有するガスバリア性積層体を得た。
(シート(包装フィルム)の作製)
ガスバリア性積層体の第3層上に、カバー層としての未延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム、東レフィルム加工株式会社製「トレファンNO ZK93KM」、厚さ60μm)を、2液型の接着剤(三井化学SKCポリウレタン株式会社製「A620/A65」)を用いて、ドライラミネート法によってラミネートした。これにより、ガスバリア積層体/接着層(3μm)/カバー層(60μm)の積層構造を有する透明な包装フィルムを得た。
[比較例1]
第2層上にコーティング液Bを塗工する際に、乾燥後の厚さ(第3層の厚さ)が1.2μmとなるように、表面がCrめっきされたシリンダを用いたグラビア印刷法により塗工したこと以外は実施例1と同様にして、ガスバリア積層体及び包装フィルムを作製した。
[比較例2]
第3層の厚さを0.07μmに変更したこと以外は比較例1と同様にして、ガスバリア積層体及び包装フィルムを作製した。
[比較例3]
2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ株式会社製「ルミラーP60」、厚さ12μm)にアルミ箔9μmを、ドライラミネート法によってラミネートし、ガスバリア積層体(Al箔積層体)を得た。また、当該ガスバリア積層体を用いたこと以外は実施例1と同様にして、PET(12μm)/アルミ箔(9μm)/接着層(3μm)/カバー層(60μm)の積層構造を有する包装フィルムを作製した。
<凹部の個数の測定>
実施例及び比較例で得られたガスバリア性積層体における第3層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、0.1mm×0.1mmの視野の拡大画像を撮影し、そこに写る直径1.5μm以上の凹部の個数を数えた。これにより、直径1.5μm以上の凹部の単位面積あたりの個数(単位:個/0.01mm2)を求めた。結果を表1に示す。また、実施例1及び比較例1で得られたガスバリア積層体における第3層の表面の拡大画像を図7及び図8にそれぞれ示す。
<レトルト臭の評価>
実施例及び比較例で得られた包装フィルムをA4サイズの大きさに切り出し、その長辺の中央でカバー層が内側となるように二つ折りにした後、2辺をヒートシールすることにより開口を有するパウチ(包装体)を作製した。ヒートシールは、卓上・脱気シーラーV−301(富士インパルス社製)を用いて、190℃、0.3MPa、2secの条件で行った。このパウチ内に、0.6質量%のシステイン水溶液150mLを収容した。その後、パウチの開口している1辺をヒートシールして、密封されたパッケージを得た。
ここで、本実施例にて収容した「0.6質量%のシステイン水溶液」は、収容が想定される実際の内容物から生じるシステイン水溶液よりも高い濃度を有する。すなわち、本実施例では実際よりも過酷な条件で、レトルト臭の抑制性及び酸素バリア性の確認を行うこととした。
得られたパッケージについて、貯湯式レトルト釜を用いて125℃で30分間レトルト処理を行った。レトルト処理後、パッケージ内の気体を採取し、気体中の硫化水素の量(単位:質量ppm)を北川式ガス検知器(光明理化学工業株式会社製、ガス採取器AP−20及び硫化水素検知管)にて測定した。この硫化水素の量が少ないほど、包装フィルムに硫化水素が吸着されており、レトルト臭が抑制されていると言える。結果を表1に示す。
<酸素透過度の測定>
レトルト臭の評価と同様の手順で、密封されたパッケージの作製及び当該パッケージに対するレトルト処理を行った。得られたレトルト処理後のパッケージについて、酸素透過度測定装置(Modern Control社製「OXTRAN2/20」)を用いて、温度30℃、相対湿度70%の測定条件にて、酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。