以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、研磨装置に配置された研磨ユニットの一実施形態を示す模式図である。研磨装置は、図1に示すような研磨ユニットを少なくとも1つ備える。図1に示すように、研磨ユニットは、基板の一例であるウエハWを保持して回転させる研磨ヘッド1と、研磨パッド3を支持する研磨テーブル2と、研磨パッド3の表面に研磨液(例えばスラリー)を供給する研磨液供給ノズル4と、研磨パッド3の表面温度を調整するパッド温度調整装置5とを備えている。研磨パッド3の表面(上面)は、ウエハWを研磨する研磨面を構成する。
研磨ヘッド1は鉛直方向に移動可能であり、かつその軸心を中心として矢印で示す方向に回転可能となっている。ウエハWは、研磨ヘッド1の下面に真空吸着などによって保持される。研磨テーブル2にはモータ(図示せず)が連結されており、矢印で示す方向に回転可能となっている。図1に示すように、研磨ヘッド1および研磨テーブル2は、同じ方向に回転する。研磨パッド3は、研磨テーブル2の上面に貼り付けられている。
研磨ユニットは、研磨テーブル2上の研磨パッド3をドレッシングするドレッサ20をさらに備えている。ドレッサ20は研磨パッド3の表面上を研磨パッド3の半径方向に揺動するように構成されている。ドレッサ20の下面は、ダイヤモンド粒子などの多数の砥粒からなるドレッシング面を構成する。ドレッサ20は、研磨パッド3の研磨面上を揺動しながら回転し、研磨パッド3を僅かに削り取ることにより研磨パッド3の表面をドレッシングする。
ウエハWの研磨は次のようにして行われる。研磨されるウエハWは、研磨ヘッド1によって保持され、さらに研磨ヘッド1によって回転される。一方、研磨パッド3は、研磨テーブル2とともに回転される。この状態で、研磨パッド3の表面には研磨液供給ノズル4から研磨液が供給され、さらにウエハWの表面は、研磨ヘッド1によって研磨パッド3の表面(すなわち研磨面)に対して押し付けられる。ウエハWの表面は、研磨液の存在下での研磨パッド3との摺接により研磨される。ウエハWの表面は、研磨液の化学的作用と研磨液に含まれる砥粒の機械的作用により平坦化される。
パッド温度調整装置5は、研磨パッド3の表面に接触可能なパッド接触部材11と、温度調整された加熱液および冷却液をパッド接触部材11に供給する液体供給システム30と、研磨パッド3の表面温度を所定の目標温度に到達させ、その後、該目標温度に維持するように、加熱液および冷却液の流量を少なくとも制御する制御部40と、を備えている。
本実施形態では、制御部40は、パッド温度調整装置5を含む研磨装置全体の動作を制御するように構成されている。以下の説明では、制御部40がパッド温度調整装置5を含む1つの研磨ユニットの動作を制御する実施形態が説明されるが、本実施形態は、この例に限定されない。例えば、研磨装置が複数の研磨ユニットを備える場合は、制御部40は、各研磨ユニットの動作を個別に制御可能である。
図1に示す液体供給システム30は、温度調整された加熱液を貯留する加熱液供給源としての加熱液供給タンク31と、加熱液供給タンク31とパッド接触部材11とを連結する加熱液供給管32および加熱液戻り管33とを備えている。加熱液供給管32および加熱液戻り管33の一方の端部は加熱液供給タンク31に接続され、他方の端部はパッド接触部材11に接続されている。
温度調整された加熱液は、加熱液供給タンク31から加熱液供給管32を通じてパッド接触部材11に供給され、パッド接触部材11内を流れ、そしてパッド接触部材11から加熱液戻り管33を通じて加熱液供給タンク31に戻される。このように、加熱液は、加熱液供給タンク31とパッド接触部材11との間を循環する。本実施形態では、加熱液供給タンク31には、加熱源(例えば、ヒータ)48が配置されている。この加熱源48によって、加熱液供給タンク31に貯留される加熱液は所定の温度(設定温度)に加熱される。
加熱液供給管32には、第1開閉バルブ41および第1流量制御バルブ42が取り付けられている。第1流量制御バルブ42は、パッド接触部材11と第1開閉バルブ41との間に配置されている。第1開閉バルブ41は、流量調整機能を有しないバルブであるのに対し、第1流量制御バルブ42は、流量調整機能を有するバルブである。
液体供給システム30は、パッド接触部材11に接続された冷却液供給管51および冷却液排出管52をさらに備えている。冷却液供給管51は、研磨装置が設置される工場に設けられている冷却液供給源(例えば、冷水供給源)に接続されている。冷却液は、冷却液供給管51を通じてパッド接触部材11に供給され、パッド接触部材11内を流れ、そしてパッド接触部材11から冷却液排出管52を通じて排出される。一実施形態では、パッド接触部材11内を流れた冷却液を、冷却液排出管52を通じて冷却液供給源に戻してもよい。
冷却液供給管51には、第2開閉バルブ55および第2流量制御バルブ56が取り付けられている。第2流量制御バルブ56は、パッド接触部材11と第2開閉バルブ55との間に配置されている。第2開閉バルブ55は、流量調整機能を有しないバルブであるのに対し、第2流量制御バルブ56は、流量調整機能を有するバルブである。
パッド接触部材11に供給される加熱液としては、温水が使用される。温水は、加熱液供給タンク31の加熱源48により、例えば約80℃に加熱される。より速やかに研磨パッド3の表面温度を上昇させる場合には、シリコーンオイルを加熱液として使用してもよい。シリコーンオイルを加熱液として使用する場合には、シリコーンオイルは加熱液供給タンク31の加熱源48により100℃以上(例えば、約120℃)に加熱される。パッド接触部材11に供給される冷却液としては、冷水またはシリコーンオイルが使用される。シリコーンオイルを冷却液として使用する場合には、冷却液供給源としてチラーを冷却液供給管51に接続し、シリコーンオイルを0℃以下に冷却することで、研磨パッド3を速やかに冷却することができる。冷水としては、純水を使用することができる。純水を冷却して冷水を生成するために、冷却液供給源としてチラーを使用してもよい。この場合は、パッド接触部材11内を流れた冷水を、冷却液排出管52を通じてチラーに戻してもよい。
加熱液供給管32および冷却液供給管51は、完全に独立した配管である。したがって、加熱液および冷却液は、混合されることなく、同時にパッド接触部材11に供給される。加熱液戻り管33および冷却液排出管52も、完全に独立した配管である。したがって、加熱液は、冷却液と混合されることなく加熱液供給タンク31に戻され、冷却液は、加熱液と混合されることなく排出されるか、または冷却液供給源に戻される。
パッド温度調整システム5は、研磨パッド3の表面温度(以下、パッド表面温度ということがある)を測定するパッド温度測定器39をさらに備えており、制御部40は、パッド温度測定器39により測定されたパッド表面温度に基づいて、第1流量制御バルブ42および第2流量制御バルブ56を操作する。第1開閉バルブ41および第2開閉バルブ55は、通常は開かれている。
パッド温度測定器39は、研磨パッド3の表面の上方に配置されており、非接触で研磨パッド3の表面温度を測定するように構成されている。パッド温度測定器39は、制御部40に接続されており、さらに制御部40を介して温度表示器45に接続されている。パッド温度測定器39は、研磨パッド3の表面温度を測定する赤外線放射温度計または熱電対温度計であってもよく、研磨パッド3の表面温度を測定し、研磨パッド3の温度分布を取得するサーモグラフィまたはサーモパイルであってもよい。本実施形態では、パッド温度測定器39は、赤外線放射温度計、熱電対温度計、サーモグラフィ、およびサーモパイルのうち、少なくとも1つの温度測定器である。パッド温度測定器39に、ウエハWの研磨によって飛び散った液体(スラリーなど)が付着すると、パッド温度測定器39は、研磨パッド3の表面温度を正確に測定することができないことがある。したがって、パッド温度測定器39は研磨パッド3の表面から十分に高い位置に配置されている。
図2は、パッド温度測定器39の温度測定領域を上から見た図であり、図3は、パッド温度測定器39の温度測定領域を横から見た図である。パッド温度測定器39が熱電対温度計、サーモグラフィ、およびサーモパイルの場合は、パッド温度測定器39は、研磨パッド3の中心CLと研磨パッド3の外周部3aとを含む領域における研磨パッド3の表面温度を測定するように構成されている(図2および図3の点線参照)。パッド温度測定器39が赤外線放射温度計の場合は、パッド温度測定器39は、研磨パッド3の中心CLと研磨パッド3の外周部3aとの間に存在する一部の領域における研磨パッド3の表面温度を測定するように構成されている(図2および図3の一点鎖線参照)。パッド温度測定器39が赤外線放射温度計の場合は、研磨ユニットは、研磨パッド3の半径方向におけるパッド温度測定器39の位置を変更可能な位置調整機構を有しているのが好ましい。
パッド温度測定器39は、非接触でパッド表面温度を測定し、パッド表面温度の測定値を制御部40に送る。パッド温度測定器39は、所定時間毎(例えば、100ms毎)にパッド表面温度を測定する。制御部40は、パッド表面温度を予め設定された目標温度に到達させ、その後、該目標温度に維持されるように、測定されたパッド表面温度に基づいて、第1流量制御バルブ42および第2流量制御バルブ56を操作する。第1流量制御バルブ42および第2流量制御バルブ56は、制御部40からの制御信号に従って動作し、パッド接触部材11に供給される加熱液の流量および冷却液の流量を調整する。パッド接触部材11を流れる加熱液および冷却液と研磨パッド3との間で熱交換が行われ、これによりパッド表面温度が変化する。
このようなフィードバック制御により、パッド表面温度は、所定の目標温度に到達され、その後、該目標温度に維持される。フィードバック制御は、例えば、PID制御である。本実施形態では、制御部40は、研磨パッド3の表面温度と所定の目標温度との差に基づいて、第1流量調整バルブ42および第2流量調整バルブ56の操作量をPID制御する。このPID制御を実行するために、制御部40には、PIDパラメータ(すなわち、比例ゲインP、積分ゲインI、および微分ゲインD)が予め入力されている。
第1流量制御バルブ42の操作量および第2流量制御バルブ56の操作量は、言い換えれば、バルブ開度である。第1流量制御バルブ42の操作量は、加熱液の流量に比例し、第2流量制御バルブ56の操作量は、冷却液の流量に比例する。好ましくは、第1流量制御バルブ42の操作量は、加熱液の流量に正比例し、第2流量制御バルブ56の操作量は、冷却液の流量に正比例する。
制御部40としては、任意の制御装置を用いることができる。例えば、制御部40として、専用のコンピュータまたは汎用のコンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)を使用することができる。一実施形態では、制御部40は、PLC(Programmable Logic Controller)、またはサーバであってもよい。さらに、制御部40は、FPGA(Field-Programmable gate array)を含んでいてもよい。研磨パッド3の目標温度は、ウエハWの種類または研磨プロセスに応じて決定され、決定された目標温度は、制御部40に予め入力される。
パッド表面温度を所定の目標温度に到達させ、その後、維持するために、パッド接触部材11は、研磨パッド3の表面(すなわち研磨面)に接触する。本明細書において、パッド接触部材11が研磨パッド3の表面に接触する態様には、パッド接触部材11が研磨パッド3の表面に直接接触する態様のみならず、パッド接触部材11と研磨パッド3の表面との間に研磨液(スラリー)が存在した状態でパッド接触部材11が研磨パッド3の表面に接触する態様も含まれる。いずれの態様においても、パッド接触部材11を流れる加熱液および冷却液と研磨パッド3との間で熱交換が行われ、これによりパッド表面温度が制御される。
図1に示すように、パッド温度調整システム5は、パッド接触部材11を研磨パッド3の表面に対して垂直に移動させる上下動機構(垂直移動機構)71をさらに備えている。パッド接触部材11は、上下動機構71に保持されている。この上下動機構71は、パッド接触部材11を研磨パッド3の表面に対して上下方向に移動させることが可能に構成されている。このような構成により、パッド接触部材11は、研磨パッド3の表面に直接接触することができる。上下動機構71としては、サーボモータとボールねじ機構との組み合わせ、またはエアシリンダなどから構成される。このような上下動機構71によれば、パッド接触部材11を、研磨パッド3の表面に所定の押圧力で押し付けることができる。例えば、パッド接触部材11を研磨パッド3の表面に押し付ける押圧力は、サーボモータに送信するパルス信号、またはエアシリンダに供給される気体の圧力を制御することにより、所定の押圧力に調整される。
パッド接触部材11は、研磨パッド3の表面に対して垂直に移動して、研磨パッド3の表面上の領域(研磨パッド3の半径方向の位置)の温度を一定に維持するように構成されている。例えば、パッド接触部材11は、研磨パッド3の中心CLからの距離が100mmである研磨パッド3の半径方向の位置の温度を55度に維持するように、研磨パッド3の表面に対して垂直方向に移動する。ユーザーは、パッド接触部材11によって制御される研磨パッド3の表面温度および研磨パッド3の半径方向の位置を任意に決定(変更)することができる。例えば、ユーザーは、研磨パッド3の半径方向の位置として、研磨パッド3の中心CLからの距離を100mmから200mmに変更してもよく、研磨パッド3の表面温度として、55度から70度に変更してもよい。結果として、パッド接触部材11は、研磨パッド3の中心CLからの距離が200mmである研磨パッド3の半径方向の位置の温度を70度に維持するように、研磨パッド3の表面に対して上下方向に移動する。
次に、パッド接触部材11の一例について、図4を参照して説明する。図4は、パッド接触部材11の一実施形態を示す水平断面図である。図4に示すように、パッド接触部材11は、その内部に形成された加熱流路61および冷却流路62を有している。加熱流路61および冷却流路62は、互いに隣接して(互いに並んで)延びており、かつ螺旋状に延びている。さらに、加熱流路61および冷却流路62は、点対称な形状を有し、互いに同じ長さを有している。
図4に示すように、加熱流路61および冷却流路62のそれぞれは、曲率が一定の複数の円弧流路64と、これら円弧流路64を連結する複数の傾斜流路65から基本的に構成されている。隣接する2つの円弧流路64は、各傾斜流路65によって連結されている。このような構成によれば、加熱流路61および冷却流路62のそれぞれの最外周部を、パッド接触部材11の最外周部に配置することができる。つまり、パッド接触部材11の下面から構成されるパッド接触面のほぼ全体は、加熱流路61および冷却流路62の下方に位置し、加熱液および冷却液は研磨パッド3の表面を速やかに加熱および冷却することができる。
加熱液供給管32は、加熱流路61の入口61aに接続されており、加熱液戻り管33は、加熱流路61の出口61bに接続されている。冷却液供給管51は、冷却流路62の入口62aに接続されており、冷却液排出管52は、冷却流路62の出口62bに接続されている。加熱流路61および冷却流路62の入口61a,62aは、パッド接触部材11の周縁部に位置しており、加熱流路61および冷却流路62の出口61b,62bは、パッド接触部材11の中心部に位置している。したがって、加熱液および冷却液は、パッド接触部材11の周縁部から中心部に向かって螺旋状に流れる。加熱流路61および冷却流路62は、完全に分離しており、パッド接触部材11内で加熱液および冷却液が混合されることはない。
図4に示すように、加熱流路61および冷却流路62は、互いに隣接しているので、加熱流路61および冷却流路62は、研磨パッド3の径方向のみならず、研磨パッド3の周方向に沿って並んでいる。したがって、研磨テーブル2および研磨パッド3が回転している間、パッド接触部材11に接触する研磨パッド3は、加熱液および冷却液の両方と熱交換を行う。
図1に示すように、パッド温度調整装置5は、加熱液供給管32に取り付けられた加熱液ポンプ47を備えてもよい。加熱液ポンプ47は、制御部40に接続されており、制御部40は、加熱液ポンプ47の動作を制御可能に構成されている。例えば、制御部40は、加熱液ポンプ47の回転速度を制御することにより、パッド接触部材11に供給される加熱液の圧力を調整することができる。さらに、パッド温度調整装置5が加熱液ポンプ47を有する場合、加熱液供給管32に取り付けられた第1流量調整弁42を省略してもよい。制御部40が加熱液ポンプ47の回転速度を制御することにより、パッド接触部材11に供給される加熱液の流量を調整することができる。この場合、制御部40は、加熱液ポンプ47の回転速度と加熱液の流量との関係を示す関係式またはデータテーブルを予め記憶している。
図示はしないが、パッド温度調整装置5は、冷却液供給管51に取り付けられた冷却液ポンプを備えてもよい。この場合、冷却液ポンプは、制御部40に接続され、制御部40は、冷却液ポンプの動作を制御可能に構成されている。例えば、制御部40は、冷却液ポンプの回転速度を制御することにより、パッド接触部材11に供給される冷却液の圧力を調整することができる。さらに、パッド温度調整装置5が冷却液ポンプを有する場合、冷却液供給管51に取り付けられた第2流量調整弁56を省略してもよい。制御部40が冷却液ポンプの回転速度を制御することにより、パッド接触部材11に供給される冷却液の流量を調整することができる。この場合、制御部40は、冷却液ポンプの回転速度と冷却液の流量との関係を示す関係式またはデータテーブルを予め記憶している。
研磨装置は、上述した研磨ユニットを少なくとも1つ備えている。研磨装置が複数の研磨ユニットを備える場合は、上記制御部40は、複数の研磨ユニット間で共通の制御部として機能する。より具体的には、制御部40は、各研磨ユニットの動作、および各研磨ユニットが有するパッド温度調整装置5の動作を制御するように構成される。さらに、半導体デバイスなどの工場には、複数の研磨装置が設置されることが多い。すなわち、このような工場には、複数の研磨ユニットをそれぞれ有する複数の研磨装置が設置されている。
図5は、制御部40の一実施形態を示す模式図である。図5に示す制御部40は、専用のまたは汎用のコンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)である。一実施形態では、制御部40は、PLC(Programmable Logic Controller)、またはサーバであってもよい。さらに、制御部40は、FPGA(Field-Programmable gate array)を含んでいてもよい。図5に示す制御部40は、プログラムやデータなどが格納される記憶装置110と、記憶装置110に格納されているプログラムに従って演算を行うCPU(中央処理装置)またはGPU(グラフィックプロセッシングユニット)などの処理装置120と、データ、プログラム、および各種情報を記憶装置110に入力するための入力装置130と、処理結果や処理されたデータを出力するための出力装置140と、インターネットなどのネットワークに接続するための通信装置150を備えている。
記憶装置110は、処理装置120がアクセス可能な主記憶装置111と、データおよびプログラムを格納する補助記憶装置112を備えている。主記憶装置111は、例えばランダムアクセスメモリ(RAM)であり、補助記憶装置112は、ハードディスクドライブ(HDD)またはソリッドステートドライブ(SSD)などのストレージ装置である。
入力装置130は、キーボード、マウスを備えており、さらに、記録媒体からデータを読み込むための記録媒体読み込み装置132と、記録媒体が接続される記録媒体ポート134を備えている。記録媒体は、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、光ディスク(例えば、CD−ROM、DVD−ROM)や、半導体メモリー(例えば、USBフラッシュドライブ、メモリーカード)である。記録媒体読み込み装置132の例としては、CD−ROMドライブ、DVD−ROMドライブなどの光学ドライブや、カードリーダーが挙げられる。記録媒体ポート134の例としては、USBポートが挙げられる。記録媒体に記憶されているプログラムおよび/またはデータは、入力装置130を介してコンピュータに導入され、記憶装置110の補助記憶装置112に格納される。出力装置140は、ディスプレイ装置141、印刷装置142を備えている。
図19を参照して説明したように、各研磨ユニット間の機差に起因して、温度挙動にばらつきが発生してしまう。本実施形態では、このような温度挙動のばらつきを抑制するために、制御部40の処理装置120は、パッド温度測定器39の測定値と、その測定時点とに基づいて、研磨パッド3が所定の目標温度に到達するまでの温度挙動曲線を作成し、次のウエハWを研磨するときの温度挙動曲線が所定の許容範囲に維持されるように、温度挙動パラメータの少なくとも1つを変更するように構成されている。なお、温度挙動曲線はウエハWを研磨する毎に作成され、制御部40の処理装置120は、複数の温度挙動曲線を記憶装置110に蓄積する。以下、図6および図7を参照して、温度挙動曲線および所定の許容範囲について説明する。
図6は、温度挙動曲線の一例を示すグラフであり、図7は、温度挙動曲線の他の例を示すグラフである。図6は、温度挙動曲線が後述する許容範囲に入っている例を示すグラフであり、図7は、温度挙動曲線が許容範囲から外れた例を示すグラフである。図6および図7において、立軸は研磨パッド3の表面温度(パッド表面温度)を表し、横軸は時間を表す。
なお、図7に示すように、パッド温度調整装置5がパッド表面温度を目標温度に収束させる途中で、パッド表面温度が目標温度を一旦超えることがある。この現象は、「オーバーシュート」と称される。本明細書において、「研磨パッド3の表面温度(パッド表面温度)が目標温度に到達した」とは、このオーバーシュートを含む概念である。より具体的には、オーバーシュートが発生した場合、パッド表面温度が一旦目標温度に到達した時点を、パッド表面温度が目標温度に到達した時点と判断せず、オーバーシュート後にパッド表面温度が目標温度に収束した時点を、パッド表面温度が目標温度に到達した時点と判断する。
上述したように、最初に、制御部40は、上下動機構71に指令を与えて、パッド接触部材11を研磨パッド3の表面に接触させ、パッド表面温度の調整を開始する。これにより、研磨パッド3の表面温度が上昇し始める。図6および図7の時点Taは、パッド接触部材11が研磨パッド3の表面に接触した時点、すなわち、パッド接触部材11がパッド表面温度の調整を開始した時点である。次に、制御部40は、研磨ヘッド1に指令を与えて、該研磨ヘッド1に保持されるウエハWの表面を研磨パッド3に押し付けて、ウエハ(基板)Wの研磨を開始する。図6および図7の時点Tbは、ウエハWが研磨パッド3の表面(研磨面)に接触した時点、すなわち、ウエハWの研磨が開始された時点である。図6および図7に示すように、常温のウエハWが、パッド表面温度の調整が開始された後の研磨パッド3の表面に接触すると、パッド表面温度が一時的に低下する。
制御部40は、パッド接触部材11の加熱流路61および冷却流路62をそれぞれ流れる加熱液および冷却液の流量を少なくとも制御して、パッド表面温度を所定の目標温度に到達させる。図6および図7の時点Tcは、パッド表面温度が所定の目標温度に到達した時点である。その後、制御部40は、パッド表面温度が目標温度を維持するように、パッド接触部材11の加熱流路61および冷却流路62をそれぞれ流れる加熱液および冷却液の流量を少なくとも制御する。
温度挙動曲線Rは、パッド接触部材11がパッド表面温度の調整を開始した時点Taから目標温度に到達した時点Tcまでの、パッド表面温度の経時的な変化(すなわち、温度挙動)を示す曲線である。制御部40は、パッド温度測定器39から送られるパッド表面温度の測定値と、その測定時点に基づいて、温度挙動曲線Rを作成し、この温度挙動曲線Rを記憶する。
パッド温度測定器39は、所定時間毎(例えば、100ms毎)にパッド表面温度を測定しており、パッド表面温度の測定値は、制御部40に順次送られる。制御部40は、パッド温度測定器39からパッド表面温度の測定値と、その測定時点が送られるたびに、その測定値を図6に示すようなグラフに順次プロットしていき、研磨パッド3の表面温度が目標温度に到達した時点Tcで、複数のプロット点を滑らかな曲線で繋ぐ。これにより、制御部40は、温度挙動曲線Rを取得することができる。
図6および図7において、許容範囲は、該許容範囲の上限を区画する上限曲線Ruと、該許容範囲の下限を区画する下限曲線Rlとによって挟まれた領域である。この許容範囲は、温度挙動曲線Rのばらつきを許容可能な範囲である。制御部40は、温度挙動曲線Rの少なくとも一部が許容範囲を外れた場合(図7参照)に、温度挙動曲線Rが許容範囲外であると決定する。許容範囲は、例えば、研磨装置の製造者が行う実験により決定することができる。この許容範囲は、各研磨ユニットで共通に用いられる。
あるいは、許容範囲を、所定枚数(例えば、100枚)のウエハWを研磨したときに得られる複数の温度挙動曲線から作成してもよい。以下に、複数の温度挙動曲線から許容範囲を作成する方法の一例を説明する。
図6および図7に示すように、パッド温度測定器39は、所定の時間間隔ごとに(すなわち、測定時点T1,T2,T3,T4,・・・Tnごとに)パッド表面温度を測定し、制御部40には、所定時間間隔ごとにパッド表面温度の測定値が送られる。最初の測定時点T1は、上記時点Taに相当し、測定時点Tnは、上記時点Tcに相当する。本実施形態では、ウエハWの研磨が開始される時点Tbは、測定時点T1(=Ta)と測定時点Tn(=Tc)との間にある。なお、図6および図7では、図が煩雑になるのを避けるため、隣接する測定時点の間隔を拡大して描いている。隣接する測定時点の間の実際の間隔は、図6および図7に示す間隔よりも狭く、例えば、100msである。
制御部40は、時点Ta(=T1)から時点Tc(=Tn)までの複数のパッド表面温度の測定値を測定時点T1,T2,T3,T4,・・・Tnと関連付けて記憶する。さらに、制御部40は、この操作を所定枚数のウエハWを研磨するたびに実行する。これにより、制御部40には、同一の測定時点T1,T2,・・・Tnに関連付けられたパッド表面温度の測定値の複数のデータセットが蓄積される。図8は、複数のデータセットの一例を示す模式図である。なお、図8に示す複数のデータセットを作成する際に、許容範囲から外れた温度挙動曲線(図7参照)を構成するパッド表面温度の測定値と、その測定時点の組み合わせは除外されるのが好ましい。すなわち、図8に示す複数のデータセットは、許容範囲に入った温度挙動曲線(図6参照)を構成するパッド表面温度の測定値と、その測定時点の組み合わせのみから構成されるのが好ましい。
次に、制御部40は、各データセットの正規分布を作成する。図9は、図8に示す測定時点T2のデータセットD2に基づいて作成された正規分布を示す図である。制御部40は、図9に示すような正規分布に基づいて、上記上限曲線Ruの1つのプロット点を抽出する。例えば、図9に示す正規分布の2σに相当するパッド表面温度の値を、上限曲線Ruを構成する1つのプロット点Pu2(図6参照)として抽出する。制御部40は、この作業を全ての測定時点T1,T2,・・・Tnに対応するデータセットで繰り返し、上限曲線Ruを形成する複数のプロット点Pu1,Pu2,・・・Punを入手する。これらプロット点Pu1,Pu2,・・・Punを滑らかな曲線で繋ぐことにより、上限曲線Ruが得られる。なお、図6には、上限曲線Ruを形成するプロット点の代表として、プロット点Pu2のみが描かれている。
同様に、図9に示す正規分布の−2σに相当するパッド表面温度の値を、下限曲線Rlを構成する1つのプロット点Pl2(図6参照)として抽出する。制御部40は、この作業を全ての測定時点T1,T2,・・・Tnに対応するデータセットで繰り返し、下限曲線Rlを形成する複数のプロット点Pl1,Pl2,・・・Plnを入手する。これらプロット点を滑らかな曲線で繋ぐことにより、下限曲線Rlが得られる。なお、図6には、下限曲線Rlを形成するプロット点の代表として、プロット点Pl2のみが描かれている。このようにして得られた許容範囲は、所定枚数のウエハWを研磨したときに得られる複数の温度挙動曲線の平均の±2σの範囲に相当する。
許容範囲を、所定枚数(例えば、100枚)のウエハWを研磨したときに得られる複数の温度挙動曲線から作成する方法の他の例は、複数の温度挙動曲線のなかから基準温度挙動曲線を選択する方法である。基準温度曲線は、例えば、複数の温度挙動曲線を同一のグラフ上に描いたときに、最も中心に位置する温度挙動曲線である。許容範囲は、基準温度曲線から所定の割合だけ上下方向に離れた上限曲線Ruと下限曲線Rlとにより区画される。より具体的には、許容範囲の上限を区画する上限曲線Ruは、選択された基準温度挙動曲線を構成する各パッド表面温度の値に、正数である所定の係数(+C%)を乗算して得られた値を滑らかな曲線で繋ぐことにより得られる。許容範囲の下限を区画する下限曲線Rlは、選択された基準温度挙動曲線を構成する各パッド表面温度の値に、負数である所定の係数(−C%)を乗算して得られた値を滑らかな曲線で繋ぐことにより得られる。この場合、許容範囲は、基準温度曲線から±C%だけ上下方向に離れた上限曲線Ruと下限曲線Rlとによって区画される。一般に、所定の割合であるCの値としては、5から20の範囲にある値が用いられる。
図7に示すように、温度挙動曲線Rが所定の許容範囲を越えると、製品(すなわち、半導体デバイス)の歩留まりに悪影響を与えるおそれがある。そのため、温度挙動曲線Rは、常に、所定の許容範囲内に収まっているのが好ましい。温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に収めるための方法の一例は、ウエハWを研磨する際に作成される温度挙動曲線Rが所定の許容範囲を越えた場合に、次のウエハWの研磨時に使用される温度挙動パラメータの少なくとも1つを変更する方法である。変更されるべき温度挙動パラメータ、およびその変更値は、例えば、研磨装置の製造者によって行われる実験によって決定することができる。
しかしながら、本実施形態では、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するために、制御部40は、人工知能(AI:artificial intelligence)を使用して、変更されるべき温度挙動パラメータと、その変更値を予測する。
なお、本明細書において、温度挙動パラメータは、上述した温度挙動を変更可能なパラメータの総称である。温度挙動パラメータの代表的な例としては、以下のものがあげられる。
1)加熱液の流量
2)冷却液の流量
3)第1流量調整バルブ42および第2流量調整バルブ56の操作量を決定するためのPIDパラメータ
4)加熱液ポンプの回転速度
5)冷却液ポンプの回転速度
6)加熱液の供給圧
7)冷却液の供給圧
8)加熱液の温度
9)冷却液の温度
10)加熱源48の設定温度
11)研磨液の温度
12)研磨液の流量
13)研磨液の滴下位置
14)研磨ヘッド1の回転速度
15)研磨テーブル2の回転速度
16)ウエハWの研磨パッド3に対する研磨荷重
17)パッド接触部材11の研磨パッド3に対する押付荷重
18)ドレッシング条件
19)研磨ユニット内の雰囲気温度
20)研磨パッド3の半径方向におけるパッド温度測定器39の位置
21)時間
上記項目21)に記載の時間は、上記項目1)乃至20)に記載の温度挙動パラメータを制御部40が取得した時間を意味しており、上記項目1)乃至20)に記載の温度挙動パラメータに関連する値である。ここで、温度挙動パラメータを変更することにより、研磨パッド3の温度を調整するためには、時々刻々と変化する温度挙動パラメータを監視する必要があるため、温度挙動パラメータの取得時間は、正確な温度制御を実行するためには、非常に重要なファクターとなる。そのため、本明細書では、温度挙動パラメータには、「時間」を含むと定義する。
上記1)乃至20)に示される温度挙動パラメータの少なくとも1つを変更することにより、温度挙動(すなわち、温度挙動曲線)を変化させることができる。例えば、加熱液の流量および/または温度を増加させるか、冷却液の流量および/または温度を減少させると、研磨パッド3の表面温度は、より速やかに上昇する。PIDパラメータを変更すると、第1流量調整バルブ42および第2流量調整バルブ56の操作量が変化し、結果として、加熱液の流量および冷却液の流量が変更される。特に、PIDパラメータの比例ゲインPの変更は、温度挙動の変化に大きく作用する。
加熱液供給管32に加熱液ポンプ47(図1参照)が取り付けられている場合は、加熱液ポンプ47の回転速度を変更することにより、加熱液の流量および供給圧を変更することができる。同様に、冷却液供給管51に冷却液ポンプ(図示せず)が取り付けられている場合は、冷却液ポンプの回転速度を変更することにより、冷却液の流量および供給圧を変更することができる。したがって、加熱液ポンプ47の回転速度および/または冷却液ポンプの回転速度を変更することによって、温度挙動を変化させることができる。
また、制御部40は、加熱液供給タンク31に配置される加熱源(例えば、ヒータ)48の設定温度を変更してもよい。これにより、パッド接触部材11に供給される加熱液の温度が変更されるので、温度挙動を変化させることができる。
研磨パッド3上に供給される研磨液(スラリー)は、パッド接触部材11によって上昇されたパッド表面温度を低下させる。したがって、研磨液の温度および/または流量を変更すると、パッド表面温度の低下量が変化し、結果として、温度挙動が変化する。同様の理由から、研磨液の滴下位置を変更することで、温度挙動を変更させることができる。
回転する研磨ヘッド1に保持されたウエハWを、回転する研磨テーブル2に支持される研磨パッド3に押し付けると、ウエハWと研磨パッド3との間に摩擦熱が発生し、この摩擦熱によってパッド表面温度が上昇する。この摩擦熱の量は、研磨ヘッド1の回転速度、研磨テーブル2の回転速度、ウエハWの研磨パッド3に対する研磨荷重によって変化する。したがって、研磨ヘッド1の回転速度、研磨テーブル2の回転速度、および/または研磨荷重を変更することによって、温度挙動を変化させることができる。
さらに、上下動機構11によって、パッド接触部材11を回転する研磨パッド3の表面に押し付けると、パッド接触部材11と研磨パッド3との間に摩擦熱が発生し、この摩擦熱によっても、パッド表面温度が上昇する。この摩擦熱の量は、パッド接触部材11の研磨パッド3に対する押付荷重に応じて変化する。したがって、上下動機構11がパッド接触部材11を研磨パッド3の表面に押し付ける押付荷重を変更することにより、温度挙動を変化させることができる。
ドレッサ20は、予め設定されたドレッシング条件にしたがって研磨パッド3の表面をドレッシングする。このドレッシング条件には、例えば、ドレッサ20の回転速度、ドレッサ20の研磨パッド3に対する押付荷重などが含まれている。ドレッシング条件を変更すると、ドレッサ20によってドレッシングされた後の研磨パッド3の表面の粗さが変化する。その結果、研磨中のウエハWと研磨パッド3との間に発生する摩擦熱の量、およびパッド接触部材11と研磨パッド3との間に発生する摩擦熱の量が変化するので、ドレッシング条件を変更することにより、温度挙動を変化させることができる。
研磨ユニット内の雰囲気温度も温度挙動に影響を与えるので、該雰囲気温度も温度挙動パラメータの1つである。例えば、雰囲気温度が20℃である研磨ユニットにおける温度挙動曲線の勾配は、雰囲気温度が25℃である研磨ユニットにおける温度挙動曲線の勾配よりも小さくなる。
上述したように、パッド温度測定器39が赤外線放射温度計の場合は、研磨パッド3の半径方向におけるパッド温度測定器39の位置を調整することができる。研磨パッド3の半径方向におけるパッド温度測定器39の位置を変更すると、研磨パッド3におけるパッド温度測定器39の測定領域が変化する。そのため、パッド温度測定器39の測定値がその位置を変更する前後で変わる。制御部40は、測定されたパッド表面温度に基づいて、第1流量制御バルブ42および第2流量制御バルブ56を操作しているので、研磨パッド3の半径方向におけるパッド温度測定器39の位置を変更することにより、温度挙動を変化させることができる。
図10は、図5に示す制御部40に搭載される人工知能の構成の一例を示す模式図である。図10に示す人工知能では、ニューラルネットワークまたは量子コンピューティングを用いた機械学習を行い、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するための学習済モデルが構築される。一般に、学習済モデルは、入力データに対する予測結果または診断結果を出力するように構築される。例えば、少なくとも1つの温度挙動パラメータを学習済モデルに入力すると、学習済モデルは、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するために変更されるべき少なくとも1つの温度挙動パラメータと、その変更値を予測して出力する。
図11は、図10に示す学習済モデルを構築する方法を説明するためのフローチャートである。学習済モデルを構築する際には、最初に、データの収集を行い(ステップ1参照)、生データの集合体を作成する(ステップ2参照)。ステップ1で行われるデータの収集は広範囲にわたって実施される。例えば、収集されるデータには、研磨装置に配置された各種センサの測定値、研磨装置に配置された各構成機器の材料、作業者によって研磨装置に入力されたパラメータなどが含まれ、撮像装置が研磨装置に配置されている場合は、該撮像装置が取得した画像データも含まれる。さらに、収集されるデータには、センサの測定値、画像データなどを処理した加工データを含んでもよいし、研磨装置の各種データを保存しているデータベース、および検索データを含んでもよい。これら生データの集合体は、「ビッグデータ」と称されることがある。
次に、生データの集合体から、学習済モデルを構築するために必要な学習用データセットを作成する(ステップ3参照)。学習用データセットは、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するための学習済モデルを構築する際に必要なデータセットであり、「教師データ」とも称される。この学習用データセットは、正常データ、異常データ、参照データ、または混在データである。混在データとは、正常データと異常データとが所定の割合で混ざっているデータセットを意味する。例えば、混在データは、80%の正常データと20%の異常データから構成されてもよいし、90%の正常データと10%の異常データから構成されてもよい。一般的に、混在データには、正常データが異常データよりも多く含まれており、多用される異常データに対する正常データの割合は、8:1または9:1である。このように、正常データの割合と異常データの割合との合計が100%となるように、正常データの割合を70〜100%の範囲から選択し、かつ異常データの割合を0〜30%の範囲から選択して作成された混在データを使用するのが好適である。
学習用データセットは、例えば、少なくとも1つの温度挙動パラメータを含んでいる。上述したように、温度挙動パラメータは、加熱液の流量、冷却液の流量、第1流量調整バルブ42および第2流量調整バルブ56の操作量を決定するためのPIDパラメータ、加熱液ポンプの回転速度、冷却液ポンプの回転速度、加熱液の供給圧、冷却液の供給圧、加熱液の温度、冷却液の温度、加熱源48の設定温度、研磨液の温度、研磨液の流量、研磨液の滴下位置、研磨ヘッド1の回転速度、研磨テーブル2の回転速度、ウエハWの研磨パッド3に対する研磨荷重、パッド接触部材11の研磨パッド3に対する押付荷重、ドレッシング条件、および研磨ユニット内の雰囲気温度などの温度挙動パラメータ、研磨パッド3の半径方向における赤外線放射温度計の位置、および時間を含んでいる。学習用データセットは、制御部40の記憶装置110に予め記憶されていてもよいし、通信装置150を介して制御部40に提供されてもよい。さらに、学習用データセットは、記憶装置110に蓄積された複数の温度挙動曲線を含んでもよいし、さらに、各温度挙動曲線を作成する際に使用されたパッド温度測定器39の測定値と、その測定時点の組み合わせを含んでもよい。
次に、ニューラルネットワークまたは量子コンピューティングを用いた機械学習を行い(ステップ4参照)、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するための学習済モデルを構築する(ステップ5参照)。学習済モデルを構築するための機械学習には、正常データを学習用データセットとして用いる学習、異常データを学習用データセットとして用いる学習、参照データを学習用データセットとして用いる学習、および混在データを学習用データセットとして用いる学習が含まれる。学習済モデルを構築するための機械学習には、上記学習とは異なる学習も含まれる。例えば、学習済モデルは、学習用データセットを用いない学習(すなわち、「教師データ」がない学習)、または強化学習を行うことにより構築されてもよい。
ニューラルネットワークまたは量子コンピューティングを用いた機械学習としては、ディープラーニング法(深層学習法)が好適である。ディープラーニング法は、隠れ層(中間層ともいう)が多層化されたニューラルネットワークをベースとする学習法である。本明細書では、入力層と、二層以上の隠れ層と、出力層で構成されるニューラルネットワークを用いた機械学習をディープラーニングと称する。
図12は、ニューラルネットワークの構造の一例を示す模式図である。学習済モデルは、図12に示されるようなニューラルネットワークを用いたディープラーニング法によって構築される。
図12に示すニューラルネットワークは、入力層301と、複数の(図示した例では、5つの)隠れ層302と、出力層303を有している。正常データが学習用データセットとして用いられる場合は、制御部40は、学習済モデルを構築するために、正常データを用いてニューラルネットワークを構成する重みパラメータを調整する。より具体的には、制御部40は、学習用に作成された少なくとも1つの温度挙動パラメータを含むデータをニューラルネットワークの入力層301に入力したときに、温度挙動曲線を所定の許容範囲内に維持するために変更されるべき温度挙動パラメータと、その変更値に相当するデータがニューラルネットワークの出力層303から出力されるように、ニューラルネットワークの重みパラメータを調整する。例えば、少なくとも1つの温度挙動パラメータを含むデータをニューラルネットワークの入力層301に入力したときに、温度挙動曲線を所定の許容範囲内に維持するために変更されるべきPIDパラメータと、該PIDパラメータの変更値がニューラルネットワークの出力層303から出力されるように、ニューラルネットワークの重みパラメータを調整する。
出力層303から出力されたPIDパラメータの変更値は、温度挙動曲線が所定の許容範囲内に入っていたときのPIDパラメータの集合体である正常範囲と比較される。出力層303から出力されたPIDパラメータの変更値が正常範囲から外れる場合は、学習用に作成された少なくとも1つの温度挙動パラメータを含むデータをニューラルネットワークの入力層301に再度入力したときに、出力層303から出力されるPIDパラメータの変更値が正常範囲に入るように、重みパラメータを自動で調整していく。このように、学習済モデルは、入力層への少なくとも1つの温度挙動パラメータの入力、出力層からの出力値と正常範囲との比較、および重みパラメータの調整を繰り返し行うことにより構築される。
さらに、制御部40は、検証用データをニューラルネットワークに入力し、ニューラルネットワークから出力されたデータが、正常範囲に含まれるデータに相当するか否かを検証するのが好ましい。検証用データは、ステップ3で作成された学習用データセットの一部を予め抽出しておくことで作成してもよい。あるいは、ステップ3で作成された学習用データセットの全部を検証用データとして使用してもよい。この場合、ステップ3で作成された学習用データセットの全部が学習済モデルに再度入力され、重みパラメータの調整が同一の学習用データセットを用いて繰り返される。
一実施形態では、ニューラルネットワークは、入力層301とは異なる入力層301’を有していてもよい。入力層301’には、例えば、温度挙動パラメータとは異なるデータが入力されてもよいし、入力層301に入力された温度挙動パラメータとは異なる温度挙動パラメータが入力されてもよい。入力層301’に入力されるデータの例は、記憶装置110に蓄積された複数の温度挙動曲線、および/または各温度挙動曲線を作成する際に使用されたパッド温度測定器39の測定値と、その測定時点の組み合わせである。入力層301’に入力されるデータの他の例は、研磨ユニットで用いられる消耗品の使用時間である。消耗品の例には、研磨パッド3、ウエハWの研磨中に研磨ヘッド1からウエハWが飛び出すことを防止するリテーナリング(図示せず)、および研磨ヘッド1の下方に配置され、ウエハWを所定の押圧力で研磨パッド3に押圧するためのメンブレン(図示せず)などが含まれる。
入力層301’に入力されるデータのさらに他の例は、温度挙動に影響を与える状態量の経時的な変化を表す温度挙動パラメータ(例えば、加熱液の温度、研磨ヘッド1の回転速度、研磨テーブル2の回転速度、ドレッシング条件、研磨ヘッド1の研磨荷重、および研磨液の流量など)である。入力層301’に入力されるデータのさらに他の例は、温度挙動に影響を与える環境の経時的な変化を表す温度挙動パラメータ(例えば、パッド接触部材11の押付荷重、研磨液の温度、研磨ユニット内の雰囲気温度、加熱液の供給圧、および冷却液の供給圧など)である。
温度挙動パラメータとは異なるデータ、温度挙動に影響を与える状態量の経時的な変化を表す温度挙動パラメータ、および/または温度挙動に影響を与える環境の経時的な変化を表す温度挙動パラメータをニューラルネットワークに入力することにより、ニューラルネットワークの出力層303は、より正確な予測値(すなわち、変更されるべき温度挙動パラメータと、その変更値)を出力することができる。例えば、ニューラルネットワークは、温度挙動に影響を与える状態量の経時的な変化、および/または温度挙動に影響を与える環境の経時的な変化が考慮された、より正確な変更されるべき温度挙動パラメータの変更値を出力層303から出力することができる。
さらに、ニューラルネットワークは、出力層303とは異なる出力層303’を有していてもよい。出力層303’は、例えば、変更されるべき温度挙動パラメータと、その変更値とは異なるデータを出力する。出力層303’から出力されるデータの例は、ウエハWを研磨するときに調整される最適なパッド表面温度の時間経過を表す最適温度挙動曲線、および/または最適温度挙動曲線を構成するパッド表面温度と、その測定時点の組み合わせである。出力層303’から出力されるデータの他の例は、PIDパラメータとは異なる他の温度挙動パラメータである。例えば、出力層303’は、温度挙動曲線を所定の許容範囲内に維持するために変更されるべき、PIDパラメータとは異なる他の温度挙動パラメータとその変更値とを出力してもよい。あるいは、出力層303’は、出力層303から出力されるPIDパラメータを変更したときに、PIDパラメータとは異なる他の温度挙動パラメータの変化の予測値を出力してもよい。
このように構築された学習済モデルは、記憶装置110(図5参照)に格納されている。制御部40は、記憶装置110に電気的に格納されたプログラムに従って動作する。すなわち、制御部40の処理装置120は、少なくとも1つの温度挙動パラメータを含むデータを、前記学習済モデルの入力層301に入力し、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するために変更されるべき少なくとも1つの温度挙動パラメータと、その変更値とを出力層303から出力するための演算を実行する。
上述したように、PIDパラメータを変更すると、第1流量調整バルブ42および第2流量調整バルブ56の操作量が変化し、結果として、加熱液の流量および冷却液の流量が変更される。PIDパラメータの変更(特に、比例ゲインPの変更)は、温度挙動(すなわち、温度挙動曲線)の変化に直接的かつ大きく作用する。以下では、変更されるべき温度挙動パラメータとして、PIDパラメータと、その変更値が学習済モデルの出力層303から出力される実施例を説明する。
第1の例としては、制御部40は、PIDパラメータ、加熱液の流量、および冷却液の流量を入力層301に入力する。学習済モデルは、PIDパラメータ、加熱液の流量、および冷却液の流量を入力層301に入力したときに、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するために変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力層303から出力するように構築されている。学習済モデルは、PIDパラメータの少なくとも1つ(例えば、比例ゲインP)と、その変更値を出力層303から出力するように構築されていてもよい。
一実施形態では、制御部40は、入力層301に入力されるPIDパラメータ、加熱液の流量、および冷却液の流量の各データを取得した時間(上記項目21)参照)を入力層301’に入力してもよい。あるいは、制御部40は、PIDパラメータ、加熱液の流量、および冷却液の流量に加えて、PIDパラメータ、加熱液の流量、および冷却液の流量の各データを取得した時間を入力層301に入力してもよい。
上記項目1)乃至20)に記載の温度挙動パラメータは、研磨ユニットに配置された各種センサによって取得される。各種センサが温度挙動パラメータの測定値を取得する時間は、互いに異なっている。例えば、加熱液の流量を測定するセンサが該加熱液の流量値を取得する時間は、冷却液の流量を測定するセンサが該冷却液の流量値を取得する時間と異なる。さらに、各センサが取得した温度挙動パラメータを制御部40に送信してから、該制御部40が温度挙動パラメータを受け取るまでの時間も、互いに異なっている。例えば、加熱液の流量を測定するセンサから送信された加熱液の流量値を制御部40が受け取った時間は、冷却液の流量を測定するセンサから送信された冷却液の流量値を制御部40が受け取った時間と異なる。これは、各センサから制御部40までの距離が異なるために、各センサから制御部40まで延びるケーブル長に違いがあること、各センサに配置されたアンプなどの機器が互いに異なることなどが理由である。
ニューラルネットワークの出力層303が温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するために変更されるべき少なくとも1つの温度挙動パラメータと、その変更値とをより正確に出力するためには、制御部40によって取得される各温度挙動パラメータの時間を一致させることが好ましい。しかしながら、上述したように、制御部40が各温度挙動パラメータを取得する時間を一致させるのは困難である。そこで、ニューラルネットワークの入力層301(または、入力層301’)に時間を追加的に入力する。時間が入力されたニューラルネットワークは、時間以外に入力された複数の温度挙動パラメータの経時変化から、複数の温度挙動パラメータの測定時間を一致させた各予測値を演算し、この予測値に基づいて、出力層303から変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力する。これにより、制御部40が取得する各温度挙動パラメータの時間差を考慮したより正確な出力値を得ることができる。
一実施形態では、制御部40は、パッド温度測定器39の測定値と、その測定時点の組み合わせ、および/またはパッド温度測定器39の測定値と、その測定時点に基づいて作成された温度挙動曲線を学習済モデルの入力層301’にさらに入力してもよい。この場合も、学習済モデルは、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するために変更されるべきPIDパラメータ(または、PIDパラメータの少なくとも1つ)と、その変更値とを出力層303から出力する。
制御部40は、学習済モデルからの出力に応じてPIDパラメータを変更し、変更されたPIDパラメータにしたがって研磨パッド3の表面温度を調整しながら、次のウエハWを研磨する。PIDパラメータ、加熱液の流量、および冷却液の流量の組み合わせのデータセットは、温度挙動(すなわち、温度挙動曲線)の変化に最も影響を与えるパラメータの組み合わせである。したがって、第1の例のデータセットを入力層301に入力することにより、学習済モデルが最も適切なPIDパラメータと、その変更値を出力することが期待できる。上述したように、学習済モデルは、その出力層303’から最適温度挙動曲線、および/または最適温度挙動曲線を構成するパッド表面温度と、その測定時点の組み合わせをさらに出力してもよい。
一実施形態では、学習済モデルは、出力層303’から、温度挙動曲線を所定の許容範囲内に維持するために変更されるべき、PIDパラメータとは異なる他の温度挙動パラメータとその変更値とを出力してもよい。この場合、制御部40は、出力層303から出力されたPIDパラメータをその変更値に更新するのと同時に、出力層303’から出力される他の温度挙動パラメータをその変更値に更新する。この場合、温度挙動曲線が許容範囲から外れることをより効果的に防止することができる。
第2の例としては、制御部40は、加熱液の温度、研磨ヘッド1の回転速度、研磨テーブル2の回転速度、ドレッシング条件、研磨ヘッド1の研磨荷重、および研磨液の流量を入力層301に入力する。学習済モデルは、加熱液の温度、研磨ヘッド1の回転速度、研磨テーブル2の回転速度、ドレッシング条件、研磨ヘッド1の研磨荷重、および研磨液の流量を入力層301に入力したときに、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するために変更されるべきPIDパラメータ(または、PIDパラメータの少なくとも1つ)と、その変更値とを出力層303から出力するように構築されている。
第2の例のデータセットは、温度挙動に影響を与える状態量の経時的な変化を表す温度挙動パラメータの代表的な組み合わせである。例えば、加熱液の温度は、パッド温度調整装置5が研磨パッド3の表面温度を調整している間に時々刻々と変化する状態量であり、加熱液の温度の経時的な変化は、温度挙動の変化に影響を与える。したがって、第2の例のデータセットを入力層301に入力することにより、出力層303は、温度挙動に影響を与える状態量の経時的な変化に基づいた、変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力することができる。
第1の例と同様に、制御部40は、時間を学習済モデルの入力層301’(または入力層301)に入力してもよい。さらに、制御部40は、パッド温度測定器39の測定値と、その測定時点の組み合わせ、および/またはパッド温度測定器39の測定値と、その測定時点に基づいて作成された温度挙動曲線を学習済モデルの入力層301’に入力してもよい。さらに、学習済モデルは、その出力層303’から温度挙動曲線を所定の許容範囲内に維持するために変更されるべき、PIDパラメータとは異なる他の温度挙動パラメータとその変更値とを出力してもよいし、最適温度挙動曲線、および/または最適温度挙動曲線を構成するパッド表面温度と、その測定時点の組み合わせを出力してもよい。
制御部40は、学習済モデルからの出力に応じてPIDパラメータを変更し、変更されたPIDパラメータにしたがって研磨パッド3の表面温度を調整しながら、次のウエハWを研磨する。第2の例のデータセットが入力される学習済モデルを構築して、パッド表面温度の調整を行う場合は、研磨装置の各構成機器を改造する必要がない。すなわち、第2の例のデータセットは、既設の研磨装置でも常にモニタリングしているパラメータのみで構成されている。したがって、この学習済モデルを制御部40にインストールするだけで、既設の研磨装置を改造することなく、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持することができる。その結果、研磨性能のばらつきが低減された研磨装置を安価に提供することができる。
一実施形態では、第2の例のデータセットに追加して、第1の例のデータセットを、入力層301(または、入力層301’)に入力してもよい。上述したように、第2の例のデータセットは、温度挙動に影響を与える状態量の経時的な変化を表す温度挙動パラメータの代表的な組み合わせである。したがって、第1の例のデータセットと、第2の例のデータセットの組み合わせを入力層301に入力することにより、出力層303は、温度挙動に影響を与える状態量の経時的な変化を考慮して、変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力する。その結果、ニューラルネットワークは、より精度が高められた変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力することができる。
第3の例としては、制御部40は、パッド接触部材11の押付荷重、研磨液の温度、研磨ユニット内の雰囲気温度、加熱液の供給圧、および冷却液の供給圧を入力層301に入力する。学習済モデルは、パッド接触部材11の押付荷重、研磨液の温度、研磨ユニット内の雰囲気温度、加熱液の供給圧、および冷却液の供給圧を入力層301に入力したときに、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するために変更されるべきPIDパラメータ(または、PIDパラメータの少なくとも1つ)と、その変更値とを出力層303から出力するように構築されている。
第3の例のデータセットは、温度挙動に影響を与える環境の経時的な変化を表す温度挙動パラメータの代表的な組み合わせである。したがって、第3の例のデータセットを入力層301に入力することにより、出力層303は、温度挙動に影響を与える環境の経時的な変化に基づいた、変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力することができる。
第1の例と同様に、制御部40は、時間を学習済モデルの入力層301’(または入力層301)に入力してもよい。さらに、制御部40は、パッド温度測定器39の測定値と、その測定時点の組み合わせ、および/またはパッド温度測定器39の測定値と、その測定時点に基づいて作成された温度挙動曲線を学習済モデルの入力層301’に入力してもよい。さらに、学習済モデルは、その出力層303’から温度挙動曲線を所定の許容範囲内に維持するために変更されるべき、PIDパラメータとは異なる他の温度挙動パラメータとその変更値とを出力してもよいし、最適温度挙動曲線、および/または最適温度挙動曲線を構成するパッド表面温度と、その測定時点の組み合わせを出力してもよい。
制御部40は、学習済モデルからの出力に応じてPIDパラメータを変更し、変更されたPIDパラメータにしたがって研磨パッド3の表面温度を調整しながら、次のウエハWを研磨する。第3の例のデータセットが入力される学習済モデルを構築して、パッド表面温度の調整を行う場合は、研磨装置の改造が必要となるが、この学習済モデルを制御部40にインストールすることにより、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持することができる。
一実施形態では、第3の例のデータセットに追加して、第1の例のデータセットを、入力層301(または、入力層301’)に入力してもよい。上述したように、第3の例のデータセットは、温度挙動に影響を与える環境の経時的な変化を表す温度挙動パラメータの代表的な組み合わせである。したがって、第1の例のデータセットと、第3の例のデータセットの組み合わせを入力層301に入力することにより、出力層303は、温度挙動に影響を与える環境の経時的な変化を考慮して、変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力する。その結果、ニューラルネットワークは、より精度が高められた変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力することができる。
さらに、第3の例のデータセットに追加して、第1の例のデータセットと第2の例のデータセットとを、入力層301(または、入力層301’)に入力してもよい。第1の例のデータセット、第2の例のデータセット、および第3の例のデータセットの組み合わせを入力層301に入力することにより、出力層303は、温度挙動に影響を与える状態量の経時的変化と環境の経時的な変化を考慮して、変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力する。その結果、ニューラルネットワークは、より精度が高められた変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力することができる。
第4の例としては、制御部40は、パッド温度測定器39の測定値と、その測定時点の組み合わせを入力層301’のみに入力する。学習済モデルは、パッド温度測定器39の測定値と、その測定時点の組み合わせを入力層301’に入力したときに、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するために変更されるべきPIDパラメータ(または、PIDパラメータの少なくとも1つ)と、その変更値とを出力層303から出力するように構築されている。第1の例と同様に、学習済モデルは、その出力層303’から最適温度挙動曲線、および/または最適温度挙動曲線を構成するパッド表面温度と、その測定時点の組み合わせを出力してもよい。
制御部40は、学習済モデルからの出力に応じてPIDパラメータを変更し、変更されたPIDパラメータにしたがって研磨パッド3の表面温度を調整しながら、次のウエハWを研磨する。第4の例のデータセットが入力される学習済モデルを構築して、パッド表面温度の調整を行う場合は、第2の例と同様に、研磨装置の各構成機器を改造する必要がない。したがって、この学習済モデルを制御部40にインストールするだけで、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持することができる。
上述した実施形態において、研磨ユニットで研磨されるウエハWの膜の厚さに関連する少なくとも1つの膜厚パラメータを入力層301(または、入力層301’)にさらに入力してもよい。言い換えれば、制御部40は、少なくとも1つの温度挙動パラメータと、少なくとも1つの膜厚パラメータとを入力層301に入力してもよい。この場合、制御部40は、第1の例乃至第4の例に示すデータセットのうちの少なくとも1つのデータセットを入力層301(または、入力層301’)にさらに入力してもよい。本明細書では、膜厚パラメータは、ウエハ(基板)Wの表面に形成された膜の厚さに関連する指標値の総称である。以下で説明するように、膜厚パラメータは、例えば、膜厚センサによって取得された膜厚信号、および該膜厚信号を演算する(または、変換する)ことにより得られる膜厚値を含んでいる。
従来から、ウエハWを研磨する研磨工程で、所望のターゲット膜厚に到達した時点である研磨終点を検出するために、膜厚センサを用いて、ウエハWの表面に形成された膜の厚さを検出することが行われている。例えば、研磨ユニットで研磨されるウエハWの膜が導電性膜である場合は、渦電流式膜厚センサを用いて導電性膜の膜厚を検出することが行われている。渦電流式膜厚センサは、コイルに高周波の交流電流を流してウエハWの導電膜に渦電流を誘起させ、この渦電流の磁界に起因するインピーダンスの変化から導電膜の厚さを検出するように構成される。膜厚センサは、ウエハWの表面に形成された膜の厚さを検出可能である限り任意のセンサを用いることができるが、以下では、膜厚センサの一例である渦電流式膜厚センサを用いて、ウエハWの導電性膜の厚さを検出する例が説明される。
図13(a)は、渦電流式膜厚センサを備えた研磨ユニットの一例を示す模式図であり、図13(b)は、図13(a)に示す研磨ユニットの概略断面図である。図13(a)および図13(b)では、研磨ヘッド1、研磨テーブル2、研磨パッド3、および渦電流式膜厚センサ7以外の研磨ユニットの構成要素の図示を省略している。図13(b)は、渦電流式膜厚センサがウエハの下方を通過している様子を示している。特に説明しない本実施形態の研磨ユニットの構成は、上述した実施形態の研磨ユニットの構成と同様であるため、その重複する説明を省略する。
図13(a)および図13(b)に示すように、渦電流式膜厚センサ7は、研磨テーブル2に埋設されており、研磨テーブル2の回転にともなって研磨テーブル2の中心軸まわりに公転する。研磨テーブル2の中心軸は、図2および図3に示す研磨パッド3の中心CLを通って鉛直方向に延びる。渦電流式膜厚センサ7は、研磨テーブル2が回転するたびにウエハWの表面を走査しながら、該ウエハW上の少なくとも1つの測定点における膜厚信号を取得する。渦電流式膜厚センサ7は、制御部40に接続されており、渦電流式膜厚センサ7によって取得された少なくとも1つの膜厚信号は制御部40に送られる。この膜厚信号は、ウエハWの導電膜の厚さの変化に従って変化する。膜厚信号は、研磨されるウエハWの膜の厚さに関連する膜厚パラメータの1つである。制御部40は、膜厚信号に基づいてウエハWの研磨進捗を監視することができる。例えば、制御部40は、膜厚信号が所定のしきい値に達した時点である研磨終点を決定することができる。
一実施形態では、制御部40は、受信した膜厚信号を演算して、導電性膜の膜厚値を取得可能に構成されていてもよい。ウエハWの研磨進捗にしたがって変化する導電性膜の実際の膜厚値も、膜厚パラメータの1つである。制御部40は、膜厚値に基づいてウエハWの研磨進捗を監視することができる。例えば、制御部40は、演算により取得された導電性膜の膜厚値が所望のターゲット膜厚に到達した時点を研磨終点として決定することができる。
本実施形態では、渦電流式膜厚センサ7がウエハWの膜厚信号を取得するたびに、制御部40は、少なくとも1つの温度挙動パラメータと、少なくとも1つの膜厚パラメータとを入力層301に入力する。渦電流式膜厚センサ7が複数の測定点における複数の膜厚信号を取得する場合は、制御部40は、全ての膜厚信号を入力層301に入力してもよいし、複数の膜厚信号の代表値を入力層301に入力してもよい。膜厚信号の代表値は、例えば、全ての膜厚信号の平均値、最大値、および最小値のいずれかである。あるいは、制御部40は、全ての膜厚信号から選択された、いくつかの膜厚信号を入力層301に入力してもよい。例えば、制御部40は、全ての膜厚信号の平均値、最大値、および最小値を入力層301に入力する。
導電性膜の膜厚値が取得される場合は、制御部40は、上記膜厚信号に加えて、または、膜厚信号の代わりに、演算により得られた膜厚値を入力層301(または、入力層301’)に入力してもよい。膜厚値は、渦電流式膜厚センサ7がウエハWの膜厚信号を取得するたびに入力層301(または、入力層301’)に入力される。渦電流式膜厚センサ7が複数の測定点における複数の膜厚信号を取得する場合は、制御部40は、全ての膜厚信号から得られた全ての膜厚値を入力層301に入力してもよいし、複数の膜厚信号の代表値から得られた代表膜厚値を入力層301に入力してもよい。代表膜厚値は、例えば、全ての膜厚信号の平均値、最大値、および最小値のいずれかから得られた膜厚値である。あるいは、制御部40は、全ての膜厚信号から選択された、いくつかの膜厚信号から得られた選択膜厚値を入力層301に入力してもよい。例えば、制御部40は、全ての膜厚信号の平均値、最大値、および最小値から取得された3つの選択膜厚値を入力層301に入力する。
上述したように、学習済モデルは、その出力層303から変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力する。本実施形態では、学習済モデルは、さらに、渦電流式膜厚センサ7がウエハWの膜厚信号を取得するたびにウエハWの研磨終点を予測して、該予測された研磨終点をその出力層303(または、出力層303’)から出力するように構築される。一実施形態では、学習済モデルは、上記予測研磨終点に代えて、または予測研磨終点に加えて、渦電流式膜厚センサ7がウエハWの膜厚信号を取得するたびに現時点から研磨終点までの研磨完了時間を予測して、該予測された研磨完了時間をその出力層303(または、出力層303’)から出力するように構築されてもよい。この予測研磨終点および/または研磨完了時間は、時々刻々と研磨される(すなわち、変化する)膜の厚さを考慮しつつ、パッド表面温度が最適なPIDパラメータにしたがって調整された状態で研磨されたウエハWの研磨終点および/または研磨完了時間である。したがって、研磨されるべきウエハWの膜の厚さをより正確にターゲット膜厚に一致させることができる。
上述した実施形態において、研磨パッド3の厚さの変化量を入力層301(または、入力層301’)にさらに入力してもよい。言い換えれば、制御部40は、少なくとも1つの温度挙動パラメータと、研磨パッド3の厚さの変化量とを入力層301に入力してもよい。この場合、制御部40は、第1の例乃至第4の例に示すデータセットのうちの少なくとも1つのデータセットを入力層301(または、入力層301’)にさらに入力してもよい。
研磨パッド3の厚さの変化量は、ウエハWの研磨レートに影響を与えるパラメータである。すなわち、研磨パッド3の厚さが変化すると、ウエハWの研磨レートも変化する。したがって、研磨パッド3の厚さの変化量は、研磨環境の経時的な変化を表すパラメータの1つである。そこで、本実施形態では、研磨レートを最適な状態に保つために、パッド表面温度を調整する。具体的には、学習済モデルは、少なくとも1つの温度挙動パラメータに加えて、研磨パッド3の厚さの変化量をその入力層301(または、入力層301’)に入力したときに、最適な研磨レートを維持するために必要な温度挙動曲線を予測し、この予測温度挙動曲線を達成するために変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力層303から出力するように構築される。以下では、研磨パッド3の厚さの変化量を測定可能な研磨ユニットの例が説明される。
図14は、研磨パッドの厚さの変化量を測定するパッド高さセンサを備えた研磨ユニットの一例を示す模式図である。図14では、パッド温度調整装置5の図示を省略している。特に説明しない本実施形態に係る研磨ユニットの構成は、上述した実施形態に係る研磨ユニットの構成と同様であるため、その重複する説明を省略する。
図14に示す研磨ユニットでは、ドレッサ20は、ドレッサシャフト24に連結されており、ドレッサシャフト24の上端には、エアシリンダ25が設けられている。ドレッサシャフト24はドレッサアーム21に回転自在に支持されている。さらに、ドレッサシャフト24およびドレッサ20は、ドレッサアーム21に対して上下動可能となっている。エアシリンダ25は、研磨パッド3へのドレッシング荷重(すなわち、ドレッサ20の研磨パッド3に対する押付荷重)をドレッサ20に付与する装置である。ドレッシング荷重は、エアシリンダ25に供給される空気圧により調整することができる。エアシリンダ25は、ドレッサシャフト24を介してドレッサ20を所定の荷重で研磨パッド3の表面(すなわち、研磨面)に押圧する。
ドレッサアーム21は、モータ(図示せず)に駆動されて、支軸19を中心として揺動するように構成されている。このドレッサアーム21により、ドレッサ20は研磨パッド3に接触しながら、該研磨パッド3の半径方向に揺動するようになっている。ドレッサシャフト24は、ドレッサアーム21内に設置された図示しないモータにより回転し、このドレッサシャフト24の回転により、ドレッサ20は、その軸心まわりに回転する。
ドレッサアーム21には、研磨パッド3の表面の高さを測定するパッド高さセンサ(表面高さ測定機)27が固定されている。また、ドレッサシャフト24には、パッド高さセンサ27に対向してセンサターゲット28が固定されている。
エアシリンダ25を駆動すると、ドレッサ20、ドレッサシャフト24、およびセンサターゲット28が一体に上下動する。一方、ドレッサアーム21、およびパッド高さセンサ27の鉛直方向の位置は固定である。パッド高さセンサ27は、ドレッサ20が研磨パッド3の表面(すなわち、研磨面)に接触しているときに、ドレッサアーム21に対するドレッサ20の鉛直方向の相対位置を測定することにより、研磨パッド3の表面の高さを間接的に測定する。センサターゲット28はドレッサ20に連結されているので、パッド高さセンサ27は、研磨パッド3のコンディショニング中に研磨パッド3の表面の高さを測定することができる。パッド高さセンサ27としては、リニアスケール式センサ、レーザ式センサ、超音波センサ、または渦電流式センサなどのあらゆるタイプのセンサを用いることができる。パッド高さセンサ27は、制御部40に接続されており、パッド高さセンサ27によって取得された研磨パッド3の厚さの測定値は制御部40に送られる。
研磨パッド3の厚さの変化量は、次のようにして求められる。まず、エアシリンダ25を駆動させてドレッサ20を、摩耗していない研磨パッド3の表面に当接させる。この状態で、パッド高さセンサ27はドレッサ20の初期位置(研磨パッド3の初期表面高さ)を測定し、制御部40はそのドレッサ20の初期位置の測定値を取得する。そして、一枚の、または複数枚のウエハWの研磨処理が終了した後、再びドレッサ20を研磨パッド3の表面に当接させ、この状態でパッド高さセンサ27はドレッサ20の位置を再度測定する。制御部40は、そのドレッサ20の位置(すなわち、摩耗した研磨パッド3の表面高さ)の測定値を取得する。ドレッサ20は、研磨パッド3の摩耗に従って下方に変位するため、制御部40は、研磨パッド3の初期表面高さの測定値と、摩耗した研磨パッド3の表面高さの測定値との差から、研磨パッド3の厚さの変化量を決定することができる。
通常、研磨パッド3のドレッシングは、1枚のウエハWを研磨するたびに行なわれる。ドレッシングは、ウエハWの研磨の前または後、あるいはウエハWの研磨中に実施される。研磨パッド3の厚さの変化量の算出には、いずれかのドレッシング時に取得されたパッド高さセンサ27の測定値が使用される。
ドレッサ20は、ドレッサアーム21の揺動により、研磨パッド3上をその半径方向に揺動する。研磨パッド3の表面高さの測定値は、パッド高さセンサ27から制御部40に送られ、ここでドレッシング中の研磨パッド3の表面高さの測定値の平均が求められる。なお、1回のドレッシング動作につき、ドレッサ20は、1回または複数回研磨パッド3上を往復する。
本実施形態では、制御部40は、研磨パッド3の厚さの変化量を取得するたびに、少なくとも1つの温度挙動パラメータに加えて、研磨パッド3の厚さの変化量を入力層301(または、入力層301’)に入力する。学習済モデルは、最適な研磨レートを維持するために必要な温度挙動曲線を予測し、この予測温度挙動曲線を達成するために変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力層303から出力する。このように、出力層303は、研磨レートに影響を与える研磨パッド3の厚さの変化量を考慮して、最適な研磨レートを維持するために変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力する。制御部40は、学習済モデルからの出力に応じてPIDパラメータを変更し、変更されたPIDパラメータにしたがって研磨パッド3の表面温度を調整しながら、次のウエハWを研磨する。
一実施形態では、研磨レートを、さらに入力層301(または、入力層301’)に入力してもよい。制御部40は、研磨された膜の厚さを、研磨時間(すなわち、研磨開始から研磨終点までの時間)で除算することにより実際の研磨レートを取得することができる。実際の研磨レートをさらに入力層301(または、入力層301’)に入力することにより、ニューラルネットワークは、より精度が高められた変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力することができる。
一実施形態では、入力層301に、少なくとも1つの温度挙動パラメータと、研磨パッド3の厚さの変化量(および研磨レート)を入力したときに、出力層303(または、出力層303’)がドレッシング条件をさらに出力するように、学習済モデルを構築してもよい。ドレッシング条件は、例えば、ドレッサ20の回転速度、ドレッサ20の研磨パッド3に対する押付荷重、およびドレッサ20の揺動速度などを含む。出力層303から出力されたドレッシング条件で研磨パッド3をドレッシングすることで、研磨パッド3の表面状態を、最適な研磨レートを維持するための表面状態に維持するか、または近づけることができる。
制御部40は、記憶装置110に電気的に格納されたプログラムに従って動作する。すなわち、制御部40は、パッド温度測定器39によって測定されたパッド表面温度に基づいて、パッド表面温度を所定の目標温度に到達させ、その後、該目標温度に維持するように、加熱液および冷却液の流量を少なくとも制御し、パッド表面温度が目標温度に到達するまでの温度挙動曲線を作成し、機械学習によって構築された学習済モデルに少なくとも1つの温度挙動パラメータを入力して、PID制御のPIDパラメータの変更値を出力するための演算を実行し、次のウエハWを研磨するときに、変更されたPIDパラメータで加熱液および冷却液の流量を制御するステップを実行する。
上記ステップを制御部40に実行させるためのプログラムは、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、記録媒体を介して制御部40に提供される。または、プログラムは、通信装置150を介してインターネットなどの通信ネットワークを介して制御部40に提供されてもよい。制御部40に提供されたプログラムは、処理装置120によって記憶装置110にインストールされる。さらに、旧プログラムを新プログラムに更新する(例えば、プログラムのバージョンアップを行う)際には、新プログラムが、通信装置150を介して、または入力装置130を介して制御部40に提供される。処理装置120は、提供された新プログラムを記憶装置110にインストールして、旧プログラムを更新する。処理装置120は、旧プログラムを記憶装置110からアンインストールした後で、新プログラムを記憶装置110にインストールしてもよい。
このように、人工知能を用いてPIDパラメータを変更しながら、パッド表面温度を調整していても、図7に示すように、温度挙動範囲Rが所定の許容範囲から外れる可能性がある。温度挙動曲線Rが所定の許容範囲から外れた場合、制御部40は、警報を出力するのが好ましい。警報を受け取った研磨装置の作業者は、警報が出力された研磨ユニットで温度挙動の異常が発生したことを検知することができる。さらに、作業者は、温度挙動の異常が発生したウエハWの状態を確認することができる。
制御部40は、警報を出力した後、または警報の出力と同時に、警報が出力された研磨ユニットの動作を停止してもよい。これにより、研磨装置の作業者は、温度挙動の異常が発生したウエハWを回収し、該ウエハWの状態および研磨ユニットの状態を確認することができる。一実施形態では、制御部40は、研磨ユニットの動作を停止した後で、警報が出力された研磨ユニットで研磨中のウエハWをウエハ待避部(図示せず)に載置するステップを実行してもよい。ウエハ待避部は、好ましくは、研磨ユニット内に設けられる。これにより、研磨装置の作業者は、温度挙動異常が発生したウエハWを容易かつ確実に回収することができる。
所定枚数(例えば、25枚)のウエハWが収容されるウエハカセットが研磨装置に誤って搬送されることがある。本実施形態では、制御部40は、ウエハカセットの誤搬送を判断することができる。より具体的には、ウエハカセットが研磨装置に誤搬送された場合、このウエハカセットに収容されるウエハWの研磨に使用される研磨レシピは、本来使用されるべき研磨レシピとは異なる。ウエハWが本来使用される研磨レシピとは異なる研磨レシピで研磨されると、温度挙動曲線が許容範囲から大きく外れることが想定される。本実施形態では、作業者は、温度挙動の異常が発生したウエハWを回収できるので、容易にウエハカセットの誤搬送が発生しているか否かを確認することができる。その結果、ウエハカセットに収容されたウエハWの全数が廃棄処分となることを防止することができる。
図15は、図10に示す人工知能の構成の他の例を示す模式図である。図15に示す人工知能は、学習済モデルを自動で更新していく特徴を有する。より具体的には、学習済モデルの出力層303から出力されたPIDパラメータの変更値が正常範囲に含まれると判断された場合に、制御部40は、このPIDパラメータと、その変更値とを追加の学習用データセットとして記憶装置110に蓄積し、学習用データセットおよび追加の学習用データセットを基にした機械学習(ディープラーニング)を通じて、学習済モデルを自動で更新していく。これにより、学習済モデルから出力されるPIDパラメータ(少なくとも1つの温度挙動パラメータ)と、その変更値との精度を向上させることができる。
機械学習(ディープラーニング)は、変更されるべきPIDパラメータ(少なくとも1つの温度挙動パラメータ)と、その変更値との組み合わせだけでなく、様々な要素を学習することができる。そのため、機械学習によって構築された学習済モデルは、パッド温度調整装置5の状態および/または異常を診断または予測に利用することができる。さらに、機械学習によって構築された学習済モデルは、研磨ユニットの状態および/または異常を診断または予測に利用することができる。以下では、説明の便宜上、上述した実施形態に係る学習済モデルを、「学習済モデル1」と称することがある。さらに、以下に説明する学習済モデルを、「学習済モデル2」と称することがある。
学習済モデル2は、図12を参照して説明されたニューラルネットワークを用いて構築される。この学習済モデル2は、パッド表面温度器39の測定値と、その測定時点とに基づいて作成された温度挙動曲線Rと、記憶装置110に蓄積された複数の温度挙動曲線を入力層301に入力したときに、研磨パッド3の寿命および/またはドレッサ20の寿命を予測して、その結果を出力層303から出力するように構築される。あるいは、学習済モデル2は、パッド表面温度器39の測定値と、その測定時点とに基づいて作成された温度挙動曲線Rと、記憶装置110に蓄積された複数の温度挙動曲線を入力層301に入力したときに、研磨ヘッド1の異常、研磨テーブル3の異常、および研磨液供給ノズル4の異常を診断し、その結果を出力層303から出力するように構築されてもよい。
ウエハWを研磨パッド3に押し付けて該ウエハWを研磨すると、研磨パッド3が劣化し、研磨パッド3とウエハWとの間に発生する摩擦熱の量が減少する。そのため、研磨パッド3が劣化するにつれて、温度挙動曲線の勾配が徐々に低下する。あるいは、研磨パッド3がドレッサ20により削られるにつれて、研磨パッド3の表面に設けられている溝(図示せず)の深さが小さくなり、最終的には溝がなくなってしまう。このような現象に起因して、研磨パッド3とウエハWとの間に発生する摩擦熱の量が減少または増加することがあり、温度挙動曲線の勾配が変化する。そこで、学習済モデル2は、入力層301に入力されたパッド表面温度器39の測定値と、その測定時点とに基づいて作成された温度挙動曲線Rと、記憶装置110に蓄積された複数の温度挙動曲線を比較し、温度挙動曲線の勾配の減少量から研磨パッド3の寿命を予測して、その予測結果を出力層303から出力する。
さらに、ドレッサ20を使用して研磨パッド3の表面をドレッシングすると、ドレッサ20のドレッシング面が劣化し、ドレッシング後の研磨パッド3の表面の粗さが小さくなる。あるいは、ドレッシング面が劣化すると研磨パッド3の表面を適切にドレッシングできないことがある。そのため、ドレッサ20が劣化するにつれて、研磨パッド3とウエハWとの間に発生する摩擦熱の量が減少または増加し、温度挙動曲線の勾配が徐々に低下または増加する。そこで、学習済モデル2は、入力層301に入力されたパッド表面温度器39の測定値と、その測定時点とに基づいて作成された温度挙動曲線Rと、記憶装置110に蓄積された複数の温度挙動曲線Rを複数の温度挙動曲線を比較し、温度挙動曲線の勾配の減少量または増加量からドレッサ20の寿命を予測して、その予測結果を出力層303から出力する。
パッド接触部材11の底面に研磨液(スラリー)が固着することを防止するために、パッド接触部材11の底面にコーティング膜を貼付することがある。この場合、学習済モデル2は、パッド表面温度器39の測定値と、その測定時点とに基づいて作成された温度挙動曲線Rと、記憶装置110に蓄積された複数の温度挙動曲線Rを入力層301に入力したときに、コーティング膜の摩耗状態を診断し、その結果を出力層303から出力するように構築されてもよい。
コーティング膜の材料は、例えば、比較的高い断熱効果を有するテフロン(登録商標)である。パッド接触部材11は、研磨パッド3の表面に所定の押付荷重で押し付けられるため、パッド表面温度を調整するたびに、コーティング膜が摩耗する。コーティング膜の摩耗が進むにつれて、温度挙動曲線の勾配が上昇する。そこで、学習済モデル2は、入力層301に入力されたパッド表面温度器39の測定値と、その測定時点とに基づいて作成された温度挙動曲線Rと、記憶装置110に蓄積された複数の温度挙動曲線を比較し、温度挙動曲線の勾配の増加量からコーティング膜の寿命を予測して、その予測結果を出力層303から出力する。
研磨ヘッド1に保持されるウエハWと研磨パッド3の表面との間に発生する摩擦熱の量が変化することによっても、温度挙動曲線が変化する。例えば、ウエハWの研磨パッド3に対する研磨荷重が所望の値からずれると、温度挙動曲線が変化する。研磨液の供給量および/または温度が所望の値からずれたり、研磨液の滴下位置が所望の位置からずれることによっても、温度挙動曲線が変化する。さらに、研磨ヘッド1の回転速度、および/または研磨テーブル3の回転速度が所望の値からずれることによっても、温度挙動曲線が変化する。したがって、学習済モデル2は、入力層301に入力されたパッド表面温度器39の測定値と、その測定時点とに基づいて作成された温度挙動曲線Rと、記憶装置110に蓄積された複数の温度挙動曲線を比較することにより、研磨ヘッド1の異常、研磨テーブル3の異常、および研磨液供給ノズル4の異常を診断することができる。
制御部40は、記憶装置110に電気的に格納されたプログラムに従って動作する。すなわち、制御部40は、パッド温度測定器39によって測定されたパッド表面温度に基づいて、パッド表面温度を所定の目標温度に到達させ、その後、該目標温度に維持するように、加熱液および冷却液の流量を少なくとも制御し、パッド表面温度が目標温度に到達するまでの温度挙動曲線Rを作成し、作成された温度挙動曲線Rと、記憶装置110に蓄積された複数の温度挙動曲線を、機械学習により構築された学習済モデルに入力して、研磨パッド3の寿命および/またはドレッサ20の寿命を診断するステップを実行する。制御部40は、研磨パッド3の寿命および/またはドレッサ20の寿命を診断するステップに代えて、コーティング膜の摩耗を診断するステップを実行してもよいし、研磨ヘッド1の異常、研磨テーブル3の異常、および研磨液供給ノズル4の異常を診断するステップを実行してもよい。
上記ステップを制御部40に実行させるためのプログラムは、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、記録媒体を介して制御部40に提供される。または、プログラムは、通信装置150を介してインターネットなどの通信ネットワークを介して制御部40に提供されてもよい。制御部40に提供されたプログラムは、処理装置120によって記憶装置110にインストールされる。さらに、旧プログラムを新プログラムに更新する(例えば、プログラムのバージョンアップを行う)際には、新プログラムが、通信装置150を介して、または入力装置130を介して制御部40に提供される。処理装置120は、提供された新プログラムを記憶装置110にインストールして、旧プログラムを更新する。処理装置120は、旧プログラムを記憶装置110からアンインストールした後で、新プログラムを記憶装置110にインストールしてもよい。
図16は、少なくとも1つの研磨装置を含む研磨システムの一実施形態を示す模式図である。図16に示す研磨システムは、上述した実施形態に係る複数の研磨装置と、各研磨装置に接続される複数の中継装置500と、複数の中継装置500に接続されるホスト制御システム600と、を備える。中継装置500は、ルーターなどのゲートウェイであり、中継制御部510と、中継通信装置515と、中継記憶装置512と、を備える。ホスト制御システム600は、ホスト制御部610と、ホスト通信装置615と、ホスト記憶装置612と、を備える。
研磨装置の制御部40の通信装置150(図5参照)は、中継装置500の中継通信装置515と無線通信(例えば、高速WiFi(登録商標))または有線通信で情報を送受信可能に接続されている。中継装置500の中継通信装置515は、ホスト制御システム600のホスト通信装置615と無線通信(例えば、高速WiFi(登録商標))または有線通信で情報を送受信可能に接続されている。本実施形態では、各研磨装置は、ホスト制御システム600と中継装置500を介したネットワーク(例えば、インターネット)により接続されている。
さらに、ホスト制御システム600は、少なくとも1つの研磨装置が設置された工場内に配置されていてもよいし、少なくとも1つの研磨装置が設置された工場外に配置されていてもよい。ホスト制御システム600が少なくとも1つの研磨装置が設置された工場内に配置されている場合は、ホスト制御システム600は、該工場内に配置されたホストコンピュータであってもよいし、該工場内に構築されたクラウドコンピューティングシステムまたはフォグコンピューティングシステムであってもよい。ホスト制御システム600が少なくとも1つの研磨装置が設置された工場外に配置されている場合は、ホスト制御システム600は、好ましくは、クラウドコンピューティングシステムまたはフォグコンピューティングシステムである。この場合、ホスト制御システム600は、少なくとも1つの研磨装置が設置された複数の工場に接続されるのが好ましい。
図16に示す例では、中継装置500は、研磨装置の外部に配置されている。しかしながら、本発明はこの例に限定されない。例えば、中継装置500は、研磨装置の内部に配置されていてもよい。
図16に示す実施形態では、ホスト制御システム600のホスト制御部610が温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に入れるために変更されるべきPIDパラメータ(少なくともの1つの温度挙動パラメータ)と、その変更値とを人工知能(AI:artificial intelligence)によって決定する。ホスト制御部610のホスト記憶装置612は、図10乃至図15を参照して説明された学習済モデル1を予め記憶している。なお、ホスト制御部610は、図5に示す処理装置120に相当する処理装置(図示せず)を有している。ホスト制御部610の処理装置は、ホスト記憶装置612に記憶された学習済モデルを読み出して、少なくとも1つの温度挙動パラメータを該学習済モデルに入力し、PIDパラメータと、その変更値とを出力するための演算を実行する。
一実施形態では、ホスト制御部610の処理装置は、時間を学習済モデル1の入力層301’(または入力層301)に入力してもよい。さらに、ホスト制御部610の処理装置は、パッド温度測定器39の測定値と、その測定時点の組み合わせ、および/またはパッド温度測定器39の測定値と、その測定時点に基づいて作成された温度挙動曲線Rを学習済モデル1の入力層301’にさらに入力してもよい。さらに、学習済モデル1は、その出力層303’から温度挙動曲線を所定の許容範囲内に維持するために変更されるべき、PIDパラメータとは異なる他の温度挙動パラメータとその変更値とを出力してもよいし、最適温度挙動曲線、および/または最適温度挙動曲線を構成するパッド表面温度と、その測定時点の組み合わせを出力してもよい。
本実施形態では、各研磨装置の制御部40は、パッド表面温度器39の測定値と、その測定時点との組み合わせ、および学習済モデル1に入力される少なくとも1つの温度挙動パラメータを含むデータを、中継装置500を介してホスト制御システム600に送信する。このデータを受信したホスト制御システム600のホスト制御部610は、パッド表面温度器39の測定値と、その測定時点とから温度挙動曲線Rを作成するとともに、少なくとも1つの温度挙動パラメータをホスト記憶装置612に格納された学習済モデル1の入力層301に入力し、次のウエハWを研磨するときの温度挙動曲線を所定の許容範囲に維持するために変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力するための演算を実行する。
学習済モデル1の出力層303から出力されたPIDパラメータと、その変更値とは、中継装置500を介して研磨装置に送られる。研磨装置の制御部40は、受信したPIDパラメータと、その変更値とにしたがって、研磨パッド3の表面温度を調整する。出力層303’から温度挙動曲線を所定の許容範囲内に維持するために変更されるべき、PIDパラメータとは異なる他の温度挙動パラメータとその変更値とが出力されている場合は、制御部40は、他の温度挙動パラメータをその変更値に更新する。
学習済モデル1に入力するために、研磨装置がホスト制御システム600に送信するデータの第1の例は、上述したPIDパラメータ、加熱液の流量、および冷却液の流量である。研磨装置がホスト制御システム600に送信するデータの第2の例は、加熱液の温度、研磨ヘッド1の回転速度、研磨テーブル2の回転速度、ドレッシング条件、研磨ヘッド1の研磨荷重、および研磨液の流量である。研磨装置がホスト制御システム600に送信するデータの第3の例は、加熱液の温度、研磨ヘッド1の回転速度、研磨テーブル2の回転速度、ドレッシング条件、研磨ヘッド1の研磨荷重、および研磨液の流量である。学習済モデル1に入力するために、研磨装置がホスト制御システム600に送信するデータは、第1の例乃至第3の例の組み合わせであってもよい。さらに、上記項目21)に記載される時間をホスト制御システム600に送信し、学習済モデル1に入力してもよい。この場合、学習済モデル1は、時間以外に入力された複数の温度挙動パラメータの経時変化から、複数の温度挙動パラメータの測定時間を一致させた各予測値を演算し、この予測値に基づいて、出力層303から変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを出力する。これにより、制御部40が取得する各温度挙動パラメータの時間差を考慮したより正確な出力値を得ることができる。さらに、いずれの例においても、学習済モデル1に入力するために、研磨装置は、パッド表面温度器39の測定値と、その測定時点との組み合わせ、および/またはパッド表面温度器39の測定値と、その測定時点とに基づいて作成された温度挙動曲線Rを、さらにホスト制御システム600に送信してもよい。
学習済モデル1に入力するために、研磨装置がホスト制御システム600に送信するデータの他の例は、ウエハWの膜の厚さに関連する少なくとも1つの膜厚パラメータである。上述したように、膜厚パラメータは、膜厚センサによって取得された膜厚信号、および該膜厚信号を演算する(または、変換する)ことにより得られる実際の膜厚値を含んでいる。学習済モデル1に入力するために、研磨装置がホスト制御システム600に送信するデータのさらなる他の例は、研磨パッド3の厚さの変化量、および研磨レートである。
学習済モデル1の出力層303から出力されたPIDパラメータの変更値が正常範囲に含まれると判断された場合に、ホスト制御システム600のホスト制御部612は、このPIDパラメータと、その変更値とを追加の学習用データセットとしてホスト記憶装置612に蓄積し、学習用データセットおよび追加の学習用データセットを基にした機械学習(ディープラーニング)を通じて、学習済モデル1を自動で更新していく。ホスト制御システム600には、複数の研磨装置から変更すべきPIDパラメータと、その変更値とを含む膨大なデータが送られるので、学習済モデル1の出力層303から出力されるPIDパラメータと、その変更値との精度を短期間で向上させることができる。
ホスト制御システム600のホスト記憶装置612は、学習済モデル1に加えて、上述した学習済モデル2を格納していてもよい。この場合、ホスト制御システム600は、研磨パッド3の寿命および/またはドレッサ20の寿命を予測してもよいし、研磨ヘッド1の異常、研磨テーブル3の異常、および研磨液供給ノズル4の異常を診断してもよい。パッド接触部材11の底面にコーティング膜が設けられている場合は、ホスト制御システム600のホスト記憶装置612に格納された学習済モデルは、コーティング膜の摩耗状態を診断してもよい。
一実施形態では、研磨装置の制御部40の記憶部110に、上述した学習済モデル1を格納し、ホスト制御システム600のホスト記憶装置612に上述した学習済モデル2を格納してもよい。この場合、研磨装置の制御部40は、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するために変更されるべきPIDパラメータと、その変更値を演算し、ホスト制御システム600のホスト制御部612は、研磨パッド3の寿命および/またはドレッサ20の寿命を予測するか、研磨ヘッド1の異常、研磨テーブル3の異常、および研磨液供給ノズル4の異常を診断する。
あるいは、研磨装置の制御部40の記憶部110に、上述した学習済モデル2を格納し、ホスト制御システム600のホスト記憶装置612に上述した学習済モデル1を格納してもよい。この場合、研磨装置の制御部40は、研磨パッド3の寿命および/またはドレッサ20の寿命を予測するか、研磨ヘッド1の異常、研磨テーブル3の異常、および研磨液供給ノズル4の異常を診断し、ホスト制御システム600のホスト制御部612は、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するために変更されるべきPIDパラメータと、その変更値を演算する。
図17は、少なくとも1つの研磨装置を含む研磨システムの他の実施形態を示す模式図である。特に説明しない本実施形態の構成は、図16に示す実施形態と同様であるため、その重複する説明を省略する。
図17に示す実施形態では、中継装置500の中継制御部510が温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に入れるために変更されるべきPIDパラメータ(少なくともの1つの温度挙動パラメータ)と、その変更値とを人工知能(AI:artificial intelligence)によって決定する。この場合、研磨システムは、中継装置500が研磨装置の近くに配置されたエッジコンピューティングシステムとして構築されている。中継装置500の中継記憶装置512には、図10乃至図15を参照して説明された学習済モデルが予め格納されている。なお、説明の便宜上、中継記憶装置512に格納される学習済モデルを、「学習済モデル3」と称する。
中継制御部510は、図5に示す処理装置120に相当する処理装置(図示せず)を有している。中継記憶装置512に格納される学習済モデル3は、学習済モデル1と同様に、温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に維持するために、機械学習によって構築される学習済モデルである。学習済モデル3では、入力層301に、少なくとも1つの温度挙動パラメータに加えて、パッド温度測定器39がパッド表面温度を測定するたびに、その測定値と測定時点が入力される。学習済モデル3は、その出力層303から、パッド温度測定器39の測定値が許容範囲から外れないように予測されたPIDパラメータと、その変更値とが随時出力されるように構築されている。すなわち、学習済モデル3は、パッド表面温度を調整している間に送られてくるパッド表面温度器39の測定値と、その測定時点との組み合わせを入力層301に随時入力していき、温度挙動曲線Rが所定の許容範囲を越えるか否かをリアルタイムに予測して、変更されるべきPIDパラメータと、その変更値を出力層303から随時出力するように構築されている。
中継制御部510の処理装置は、中継記憶装置512に記憶された学習済モデル3を読み出して、少なくとも1つの温度挙動パラメータを入力層301に入力するとともに、パッド表面温度を調整している間に送られてくるパッド表面温度器39の測定値と、その測定時点との組み合わせを入力層301に随時入力していく。さらに、中継制御部510の処理装置は、温度挙動曲線Rが所定の許容範囲を越えるか否かをリアルタイムに予測して、変更されるべきPIDパラメータと、その変更値を出力層303から出力する演算をリアルタイムで実行する。演算されたPIDパラメータと、その変更値は、パッド表面温度を調整している間に随時出力層303から出力される。中継装置500の中継制御部510は、出力層303から出力されたPIDパラメータと、その変更値とを研磨装置の制御部40に送信する。
変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを受信した研磨装置の制御部40は、PIDパラメータを受信した変更値に随時変更しながら、パッド表面温度を調整する。
本実施形態では、中継処理装置500が、ウエハWの研磨中に、変更すべきPIDパラメータと、その変更値を随時予測し、予測されたPIDパラメータと,その変更値とを直ちに研磨装置に送る。したがって、温度挙動曲線Rが所定の許容範囲から外れることを効果的に防止することができる。
本実施形態に係る研磨システムでは、中継装置500の中継制御部510が温度挙動曲線Rを所定の許容範囲に入れるために変更される少なくともの1つの温度挙動パラメータと、その変更値との診断結果を高速で処理して、研磨装置に出力することができる。一方で、高速で処理する必要のない情報(例えば、各研磨ユニットのステータス情報など)は、研磨装置から中継装置500を介してホスト制御システム600に送信される。その結果、中継装置500の中継制御部510は、余計な情報処理を実行する必要がないので、変更すべきPIDパラメータと、その変更値の決定を高速で処理することができる。
一実施形態では、上述した「時間」を学習済モデル3の入力層301(または、入力層301’)に追加的に入力してもよい。この場合、学習済モデル3は、時間以外に入力された複数の温度挙動パラメータの経時変化から、複数の温度挙動パラメータの測定時間を一致させた各予測値を演算し、この予測値に基づいて、出力層303から変更されるべきPIDパラメータと、その変更値とを随時出力していく。これにより、各温度挙動パラメータの時間差を考慮したより正確な出力値を出力層303から出力することができる。その結果、温度挙動曲線Rが所定の許容範囲から外れることをより効果的に防止することができる。
さらに、出力層303’から温度挙動曲線を所定の許容範囲内に維持するために変更されるべき、PIDパラメータとは異なる他の温度挙動パラメータとその変更値とが出力してもよい。この場合、制御部40は、PIDパラメータと、他の温度挙動パラメータをその変更値に随時更新しながら、パッド表面温度を調整するので、温度挙動曲線Rが所定の許容範囲から外れることをより効果的に防止することができる。
一実施形態では、ホスト制御システム600のホスト記憶装置612に上述した学習済モデル2を格納してもよい。あるいは、研磨装置の制御部40の記憶部110に、上述した学習済モデル3を格納してもよい。
上述した実施形態では、学習済モデル1または学習済モデル3は、その出力層303から変更すべきPIDパラメータと、その変更値とを出力するが、本発明は、この例に限定されない。例えば、学習済モデル1または学習済モデル3は、その出力層303から変更すべきPIDパラメータと、その変更値を算出するためのプログラムとを出力してもよい。この場合、研磨装置の制御部40、中継装置500の中継制御部510、またはホスト制御装置600のホスト制御部610は、出力層303から出力されたプログラムにしたがってPIDパラメータの変更値を演算する処理を実行する。あるいは、ホスト制御システム600のホスト制御部610、または中継装置500の中継制御部510が、出力層303から出力されたプログラムにしたがって温度挙動パラメータの変更値を演算する処理を実行し、その結果を研磨装置に送ってもよい。
あるいは、学習済モデル1または学習済モデル3は、その出力層303から変更すべきPIDパラメータと、変更後のPIDパラメータの値を算出するための補正係数とを出力してもよい。この場合、研磨装置の制御部40、中継装置500の中継制御部510、またはホスト制御装置600のホスト制御部610は、出力層303から出力された補正係数を、現在のPIDパラメータに乗算することにより、変更後のPIDパラメータの値を得ることができる。あるいは、ホスト制御システム600のホスト制御部610、または中継装置500の中継制御部510が、出力層303から出力された補正係数を、現在のPIDパラメータに乗算することにより、変更後のPIDパラメータの値を得て、その値を研磨装置に送ってもよい。
上述した実施形態では、パッド表面温度を所定の目標温度に到達させ、その後、該目標温度に維持するパッド接触部材(パッド温調部材)11は、研磨パッド3の表面(すなわち、研磨面)に接触している。しかしながら、図18に示すように、パッド接触部材11は、研磨パッド3の表面から上方に離間していてもよい。この場合、図18で符号11が付される部材は、パッド表面温度を非接触式に調整するパッド温調部材として機能するため、以下では、「パッド温調部材」と称する。
パッド温調部材11は、研磨パッド3の表面を非接触式に加熱するパッド加熱源11aを含む。一実施形態では、パッド温調部材11は、パッド加熱源11a自体であってもよい。パッド加熱源11aの例としては、研磨パッド3の表面に向けて放射熱を発するヒーター(特に、赤外線ヒーター)、またはランプ(特に、赤外線ランプ)が挙げられる。パッド加熱源11aがヒーターまたはランプの場合は、上述した温度挙動パラメータのうちの「加熱液の温度」が「パッド加熱源の温度」に読み替えられる。
パッド加熱源11aの他の例としては、研磨パッド3の表面に温風、温水、および過熱蒸気などの加熱流体を噴射する加熱流体噴射装置が挙げられる。パッド加熱源11aが加熱流体噴射装置である場合は、加熱流体が図示しない供給ラインを介してパッド加熱源11aに供給される。さらに、上述した温度挙動パラメータのうちの「加熱液の流量」が「加熱流体の噴射量」と読み替えられ、「加熱液の温度」が「加熱流体の温度」と読み替えられる。
パッド温調部材11は、研磨パッド3の表面を非接触式に冷却するパッド冷却源11bをさらに含んでいてもよい。図18では、パッド冷却源11bが仮想線(点線)で描かれている。パッド冷却源11bの例としては、研磨パッド3の表面に冷風、および冷水などの冷却流体を噴射する冷却流体噴射装置が挙げられる。パッド冷却源11bが冷却流体噴射装置である場合は、冷却流体が図示しない供給ラインを介してパッド冷却源11bに供給される。さらに、上述した温度挙動パラメータのうちの「冷却液の流量」が「冷却流体の噴射量」と読み替えられ、「冷却液の温度」が「冷却流体の温度」と読み替えられる。
パッド冷却源11bの他の例としては、研磨パッド3の表面にドライアイスなどの冷却剤を噴射する冷却剤噴射装置が挙げられる。パッド冷却源11bが冷却剤噴射装置である場合は、冷却剤が図示しない供給ラインを介してパッド冷却源11bに供給される。さらに、上述した温度挙動パラメータのうちの「冷却液の流量」が「冷却剤の噴射量」と読み替えられ、「冷却液の温度」が「冷却剤の温度」と読み替えられる。
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。