JP2020105602A - 浸炭鋼部品用鋼材 - Google Patents
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Abstract
Description
0.100<C+0.194×Si+0.065×Mn+0.012×Cr+0.033×Mo+0.067×Ni+0.097×Cu+0.078×Al<0.235 (1)
13.0<(0.70×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.2×Cr+1)×(3.0×Mo+1)×(0.36×Ni+1)<45.0 (2)
0.0003<Al×(N−Ti×(14/48))<0.0011 (3)
0.03≦Ca/S≦0.15 (4)
ここで、式(1)〜(4)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
13.0<(0.70×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.2×Cr+1)×(3.0×Mo+1)×(0.36×Ni+1)<45.0 (2)
ここで、式(2)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
0.100<C+0.194×Si+0.065×Mn+0.012×Cr+0.033×Mo+0.067×Ni+0.097×Cu+0.078×Al<0.235 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
0.0003<Al×(N−Ti×(14/48))<0.0011 (3)
ここで、式(3)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
0.03≦Ca/S≦0.15 (4)
ここで、式(4)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
0.100<C+0.194×Si+0.065×Mn+0.012×Cr+0.033×Mo+0.067×Ni+0.097×Cu+0.078×Al<0.235 (1)
13.0<(0.70×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.2×Cr+1)×(3.0×Mo+1)×(0.36×Ni+1)<45.0 (2)
0.0003<Al×(N−Ti×(14/48))<0.0011 (3)
0.03≦Ca/S≦0.15 (4)
ここで、式(1)〜(4)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
炭素(C)は、浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。C含有量が0.11%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、浸炭鋼部品の芯部の硬さが低下し、さらに、切りくず処理性が低下する。一方、従前の浸炭鋼部品用鋼材のC含有量は0.20%程度であるが、本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材では、限界加工率を高めるために、C含有量を0.15%以下とする。したがって、C含有量は0.11〜0.15%である。C含有量の好ましい下限は0.12%である。C含有量の好ましい上限は0.14%である。
シリコン(Si)は、浸炭鋼部品の焼戻し軟化抵抗を高め、浸炭鋼部品の疲労強度を高める。Si含有量が0.17%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、この効果が十分に得られない。一方、Si含有量が0.35%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、冷間鍛造前の浸炭鋼部品用鋼材の硬さが過剰に高くなり、限界加工率が低下する。したがって、Si含有量は0.17〜0.35%である。疲労強度をさらに高める観点では、Si含有量の好ましい下限は0.18%であり、さらに好ましくは0.19%である。限界加工率をさらに高める観点では、Si含有量の好ましい上限は0.30%であり、さらに好ましくは0.25%である。
マンガン(Mn)は、鋼の焼入性を高め、浸炭鋼部品の芯部硬さを高める。Mn含有量が0.45%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、十分な焼入れ性が得られない。一方、Mn含有量が0.80%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、冷間鍛造前の浸炭鋼部品用鋼材の硬さが過剰に高くなり、限界加工率が低下する。したがって、Mn含有量は0.45〜0.80%である。Mn含有の好ましい下限は0.47%であり、さらに好ましくは0.48%である。Mn含有量の好ましい上限は0.70%であり、さらに好ましくは0.60%である。
硫黄(S)は、鋼中のMnと結合してMnSを形成し、浸炭鋼部品用鋼材の切りくず処理性を高める。S含有量が0.005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、S含有量が0.050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、冷間鍛造時にMnSが割れの起点となり、限界加工率が低下する。したがって、S含有量は0.005〜0.050%である。S含有量の好ましい下限は0.006%であり、さらに好ましくは0.008%であり、さらに好ましくは0.010%である。S含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.020%である。
クロム(Cr)は、鋼の焼入性を高め、浸炭鋼部品の芯部硬さを高める。Crは、焼入れ性を高めるMn、Mo、Niと比較して、浸炭鋼部品用鋼材の硬さの上昇を押さえつつ、焼入れ性を高めることができる。Cr含有量が1.50%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、十分な焼入れ性が得られない。一方、Cr含有量が1.90%以上になれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、冷間鍛造前の浸炭鋼部品用鋼材の硬さが過剰に高くなり、限界加工率が低下する。したがって、Cr含有量は1.50〜1.90%未満である。Cr含有量の好ましい下限は1.52%であり、さらに好ましくは1.55%である。Cr含有量の好ましい上限は1.85%であり、さらに好ましくは1.80%である。
ホウ素(B)は、オーステナイトに固溶した場合、微量でも鋼の焼入性を大きく高める。そのため、浸炭鋼部品の芯部硬さを高める。Bはさらに、微量の含有により上記効果を発揮するため、浸炭鋼部品用鋼材中のフェライトの硬さが上昇しにくい。つまり、浸炭鋼部品用鋼材の限界加工率を高く維持しつつ、焼入れ性を高めることができる。B含有量が0.0005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、B含有量が0.0100%を超えれば、上記効果が飽和する。したがって、B含有量は0.0005〜0.0100%である。B含有量の好ましい下限は0.0007%であり、さらに好ましくは0.0010%である。B含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0025%である。
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Alはさらに、Nと結合してAlNを形成し、本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材における固溶B量を確保する。さらに、微細なAlNが微細分散することにより、ピンニング効果により、浸炭処理の加熱時にオーステナイト結晶粒が粗大化するのを抑制する。Al含有量が0.100%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、これらの効果が十分に得られない。一方、Al含有量が0.200%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼中に粗大な酸化物が形成して、浸炭鋼部品の疲労強度が低下する。したがって、Al含有量は0.100〜0.200%である。Al含有量の好ましい下限は0.101%であり、さらに好ましくは0.105%であり、さらに好ましくは0.110%であり、さらに好ましくは0.120%である。Al含有量の好ましい上限は0.190%であり、さらに好ましくは0.170%であり、さらに好ましくは0.150%である。
カルシウム(Ca)は、鋼中の硫化物に固溶して、硫化物を微細かつ球状化する。これにより、浸炭鋼部品用鋼材の冷間鍛造性が高まり、限界加工率が高まる。Ca含有量が0.0002%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、この効果が十分に得られない。一方、Ca含有量が0.0030%を越えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼中に粗大な酸化物が生成する。この場合、浸炭鋼部品用鋼材の冷間鍛造性及び限界加工率がかえって低下する。したがって、Ca含有量は0.0002〜0.0030%である。Ca含有量の好ましい下限は0.0005%であり、さらに好ましくは0.0007%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0025%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
窒素(N)は不可避に含有される不純物である。つまり、N含有量は0%超である。NはBと結合してBNを形成し、固溶B量を低減する。N含有量が0.0080%を超えれば、浸炭鋼部品用鋼材中のAl含有量が上述の範囲内であっても、AlがNを十分に固定することができなくなり、BNが過剰に生成する。その結果、浸炭鋼部品用鋼材の焼入れ性が低下する。N含有量が0.0080%を超えればさらに、粗大なAlNが生成して、冷間鍛造時に粗大なAlNが割れの起点となる。そのため、浸炭鋼部品用鋼材の限界加工率が低下する。したがって、N含有量は0.0080%以下である。N含有量の好ましい上限は0.0075%であり、さらに好ましくは0.0070%であり、さらに好ましくは0.0065%である。N含有量はできるだけ低い方が好ましい。しかしながら、N含有量の過剰の低減は、製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、N含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
燐(P)は不可避に含有される不純物である。つまり、P含有量は0%超である。Pは鋼材の疲労強度及び熱間加工性を低下する。したがって、P含有量は0.050%以下である。P含有量の好ましい上限は0.035%であり、さらに好ましくは0.020%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は、製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.001%である。
酸素(O)は不可避に含有される不純物である。つまり、O含有量は0%超である。Oは、酸化物を形成し、浸炭鋼部品用鋼材の限界加工率を低下し、浸炭鋼部品の疲労強度を低下する。したがって、O含有量は0.0030%以下である。O含有量の好ましい上限は0.0028%であり、さらに好ましくは0.0025%である。O含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、O含有量の過剰な低減は製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、O含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0007%である。
本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ti、Nb、Mo、Ni及びCuからなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。TiはNと結合して、固溶B量をさらに確保する。Nbは、炭化物及び炭窒化物を生成して結晶粒を微細化する。Mo、Ni及びCuはいずれも鋼の焼入れ性を高める。
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、Tiは鋼中のNをTiNとして固定する。これにより、BNの形成がさらに抑制され、固溶Bをさらに確保することができる。電炉により浸炭鋼部品用鋼材を製造する場合、鋼中のN含有量の調整が困難となる場合がある。このような場合に、Tiを含有するのが好ましい。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。一方、Ti含有量が高すぎれば、製造コストが高くなる。したがって、Ti含有量は0〜0.020%未満である。Ti含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。Ti含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.016%である。
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。含有される場合、NbはC及びNと結合して炭化物及び/又は炭窒化物を形成し、ピンニング効果により浸炭処理の加熱時のオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が0.100%を超えれば、粗大な炭化物及び/又は炭窒化物が生成して、浸炭鋼部品用鋼材の限界加工率が低下する。したがって、Nb含有量は0〜0.100%である。Nb含有量の好ましい下限は0.002%であり、さらに好ましくは0.004%であり、さらに好ましくは0.010%である。Nb含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.050%である。
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。含有される場合、Moは鋼の焼入性を高め、浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。Moはさらに、ガス浸炭による浸炭処理を実施する場合、浸炭処理時において酸化物及び窒化物を生成しない。そのため、Moは、浸炭層中に酸化物層、窒化物層及び浸炭異常層が生成するのを抑制する。Moが少しでも含有されれば、これらの効果がある程度得られる。しかしながら、Mo含有量が0.500%を超えれば、浸炭鋼部品用鋼材の硬さが過剰に高まり、限界加工率が低下する。したがって、Mo含有量は0〜0.500%である。Mo含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.050%である。Mo含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%であり、さらに好ましくは0.200%である。
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。含有される場合、Niは鋼の焼入性を高め、浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。Niはさらに、ガス浸炭による浸炭処理を実施する場合、浸炭処理時において酸化物及び窒化物を生成しない。そのため、Niは、浸炭層中に酸化物層、窒化物層及び浸炭異常層が生成するのを抑制する。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ni含有量が0.500%を超えれば、浸炭鋼部品用鋼材の硬さが過剰に高まり、限界加工率が低下する。したがって、Ni含有量は0〜0.500%である。Ni含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.050%である。Ni含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%であり、さらに好ましくは0.200%である。
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは鋼の焼入性を高め、浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。Cuはさらに、ガス浸炭による浸炭処理を実施する場合、浸炭処理時において酸化物及び窒化物を生成しない。そのため、Cuは、浸炭層表面の酸化物層、窒化物層、浸炭異常層の形成を抑制する。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が0.500%を超えれば、浸炭鋼部品用鋼材の硬さが過剰に高まり、限界加工率が低下する。したがって、Cu含有量は0〜0.500%である。Cu含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.050%である。Cu含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%である。Cuを含有する場合、Ni含有量をCu含有量の1/2以上とすれば、浸炭鋼部品用鋼材の熱間加工性がさらに高まる。
本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材の化学組成はさらに、式(1)〜式(4)を満たす。
0.100<C+0.194×Si+0.065×Mn+0.012×Cr+0.033×Mo+0.067×Ni+0.097×Cu+0.078×Al<0.235 (1)
13.0<(0.70×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.2×Cr+1)×(3.0×Mo+1)×(0.36×Ni+1)<45.0 (2)
0.0003<Al×(N−Ti×(14/48))<0.0011 (3)
0.03≦Ca/S≦0.15 (4)
ここで、式(1)〜(4)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
以下、各式について説明する。
F1=C+0.194×Si+0.065×Mn+0.012×Cr+0.033×Mo+0.067×Ni+0.097×Cu+0.078×Alと定義する。F1は浸炭鋼部品用鋼材(及び、浸炭鋼部品用鋼材を用いて製造される浸炭鋼部品)の硬さの指標である。
F2=(0.70×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.2×Cr+1)×(3.0×Mo+1)×(0.36×Ni+1)と定義する。F2は浸炭鋼部品用鋼材の焼入れ性に関する指標である。
F3=Al×(N−Ti×(14/48))と定義する。F3は、AlN析出量に関する指標である。TiがNに対して化学量論的に過剰に含有された場合、Nは全てTiNとして固定される。つまり、F3中の(N−Ti×(14/48))は、Nが鋼中においてTiN以外の形態になっている量を示す。つまり、(N−Ti×(14/48))は、鋼中においてTiと結合されていないN量を示す。なお、F3中の「14」はNの原子量、「48」はTiの原子量を表す。
F4=Ca/Sと定義する。F4は硫化物の微細化及び球状化に関する指標である。上述のとおり、Caは硫化物に固溶して硫化物を微細化し、さらに、硫化物を球状化する。しかしながら、浸炭鋼部品用鋼材の化学組成のCaを含む各元素の含有量が上記範囲内であっても、S含有量に対するCa含有量が高すぎれば、Caの一部が硫化物に固溶せず、酸化物を形成してしまう。Ca酸化物は鋼材の限界加工率を低下する。F4(=Ca/S)を適切な範囲に設定できれば、硫化物の微細化及び球状化を促進しつつ、酸化物の生成を抑制することができ、その結果、浸炭鋼部品用鋼材の冷間鍛造性及び限界加工率を高めることができる。その結果、浸炭鋼部品用鋼材から、複雑な浸炭鋼部品への成形が可能となる。
浸炭鋼部品用鋼材のミクロ組織のうち、介在物及び析出物を除く部分をマトリックス(母相)と定義する。浸炭鋼部品用鋼材のマトリックスは、主としてフェライト及びパーライトからなる。ここで、「主としてフェライト及びパーライトからなる」とは、ミクロ組織におけるフェライト及びパーライトの総面積率が85.0〜100.0%であることを意味する。マトリックスにおいて、フェライト及びパーライト以外の相(Phase)はたとえば、ベイナイト、マルテンサイト、及び、セメンタイト等である。本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材のミクロ組織において、ベイナイト、マルテンサイト及びセメンタイトの総面積率は0〜15.0%である。要するに、本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材において、ミクロ組織におけるフェライト及びパーライトの総面積率は85.0〜100.0%であり、ミクロ組織におけるベイナイト、マルテンサイト及びセメンタイトの総面積率は0〜15.0%である。なお、本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材のミクロ組織において、フェライト及びパーライトの総面積率が100.0%未満である場合、残部はベイナイト、マルテンサイト及びセメンタイトからなる群から選択される1種又は2種以上である。なお、ミクロ組織の面積率の算出には、フェライト、パーライト、マルテンサイト、ベイナイト、セメンタイトを含める。一方で、上記面積率の算出には、セメンタイト以外の析出物、介在物、及び、残留オーステナイトを含めない。
RP=パーライト粒2、23及び24の総面積/観察視野の面積×100
本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材のミクロ組織中のフェライト及びパーライトの総面積率(%)、及び、200μm2以上の面積を有するパーライト粒の総面積率(%)は次の方法で測定される。
本実施形態の浸炭鋼部品は、上述の本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材を用いて製造される。具体的には、浸炭鋼部品は、冷間鍛造後の上述の浸炭鋼部品用鋼材を浸炭処理して製造される。浸炭鋼部品の製造方法については後述する。
本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材の製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材は、以下に説明する製造方法に限定されず、上記構成を有すれば、製造方法は限定されない。ただし、以下に説明する製造方法は、本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材を製造する好適な一例である。
素材準備工程では、上述の式(1)〜式(4)を満たす化学組成を有する素材を準備する。素材はたとえば、次の方法により製造される。上述の式(1)〜式(4)を満たす化学組成の溶鋼を製造する。上記溶鋼を用いて、鋳造法により素材(鋳片又はインゴット)を製造する。たとえば、上記溶鋼を用いて周知の連続鋳造法により鋳片(ブルーム)を製造する。又は、上記溶鋼を用いて周知の造塊法によりインゴットを製造する。
熱間加工工程では、素材準備工程にて準備された素材(ブルーム又はインゴット)に対して、熱間加工を実施して、浸炭鋼部品用鋼材を製造する。浸炭鋼部品用鋼材の形状は特に限定されないが、たとえば、棒鋼又は線材である。以下の説明では、一例として、浸炭鋼部品用鋼材が棒鋼である場合について説明する。しかしながら、浸炭鋼部品用鋼材が棒鋼以外の他の形状であっても同様の熱間加工工程で製造可能である。
仕上げ温度T2が1000℃未満であれば、後述の冷却を実施した場合であっても、200μm2以上の面積を有するパーライト粒の総面積率が20.0%未満となり、切りくず処理性が低下する。一方、仕上げ圧延温度T2が1100℃を超えれば、200μm2以上の面積を有するパーライト粒の総面積率が35.0%以上となり、限界加工率が低下する。したがって、仕上げ温度T2は1000〜1100℃である。仕上げ温度T2の好ましい下限は1020℃であり、さらに好ましくは1030℃である。仕上げ温度T2の好ましい上限は1090℃であり、さらに好ましくは1080℃である。
次に、本実施形態による浸炭鋼部品の製造方法の一例について説明する。本製造方法は、上述の浸炭鋼部品用鋼材に対して冷間鍛造を実施して、中間部材を製造する冷間鍛造工程と、中間部材を切削する切削加工工程と、中間部材に対して浸炭処理又は浸炭窒化処理を実施する浸炭工程と、浸炭工程後の中間部材に対して焼入れ及び焼戻しを実施する仕上げ熱処理工程とを含む。
冷間鍛造工程では、上述の製造方法で製造された浸炭鋼部品用鋼材に、冷間鍛造を実施して形状を付与し、中間部材を製造する。この冷間鍛造工程での加工率、ひずみ速度などの冷間鍛造条件は特に限定されるものではなく、適宜、好適な条件を選択すればよい。
冷間鍛造工程後であって後述の浸炭工程前の中間部材に対して、切削加工を実施して形状を付与する。切削加工を実施することにより、冷間鍛造工程だけでは困難な、精密形状を浸炭鋼部品に付与することができる。本実施形態の浸炭鋼部品用鋼材を用いた場合、切削加工工程での切りくず処理性に優れる。
切削加工工程後の中間部材に対して、浸炭工程として、浸炭処理、又は浸炭窒化処理を実施する。上述のビッカース硬さを有する浸炭鋼部品を得るために、浸炭処理又は浸炭窒化処理の条件を、温度が830℃〜1100℃、カーボンポテンシャルが0.5%〜1.2%、浸炭時間が1時間以上とすることが好ましい。
浸炭工程後、必要に応じて、仕上げ熱処理工程を実施する。仕上げ熱処理工程では、焼入れ処理、又は、焼入れ及び焼戻し処理を実施して、浸炭鋼部品を製造する。上述したビッカース硬さを有する浸炭鋼部品を製造するために、焼入れ処理、又は、焼入れ及び焼戻し処理の条件として、焼入れ媒体の温度を室温〜250℃とすることが好ましい。また、必要に応じて焼入れ後にサブゼロ処理を実施してもよい。
必要に応じて、仕上熱処理工程後の浸炭鋼部品に対してさらに、研削加工を実施したり、ショットピーニング処理を実施してもよい。研削加工を実施することにより、精密形状を浸炭鋼部品に付与することができる。ショットピーニング処理を実施することにより、浸炭鋼部品の表層部に圧縮残留応力が導入される。圧縮残留応力は疲労き裂の発生及び進展を抑制する。そのため、浸炭鋼部品の疲労強度を高める。たとえば、浸炭鋼部品が歯車である場合、浸炭鋼部品の歯元及び歯面の疲労強度を向上できる。ショットピーニング処理は、周知の方法で実施すればよい。ショットピーニング処理はたとえば、直径が0.7mm以下のショット粒を用い、アークハイトが0.4mm以上の条件で実施するのが好ましい。
[ミクロ組織観察試験]
各試験番号の棒鋼のR/2位置から、ミクロ組織観察用のサンプルを採取した。サンプルの表面のうち、棒鋼の長手方向に垂直な断面に相当する表面を観察面とした。観察面を鏡面研磨した後、2%硝酸アルコール(ナイタール腐食液)を用いて観察面をエッチングした。エッチングされた観察面を、500倍の光学顕微鏡を用いて観察し、任意の20視野の写真画像を生成した。各視野のサイズは、500μm×500μmとした。フェライト、パーライト等の各相は、相ごとにコントラストが異なる。したがって、コントラストに基づいて、各相を特定した。特定された相のうち、各視野でのフェライトの総面積(μm2)、及び、パーライトの総面積(μm2)を求めた。全ての視野の総面積に対する、全ての視野におけるフェライトの総面積とパーライトの総面積との合計の割合(%)を、フェライト及びパーライトの総面積率(%)と定義した。(表2中の「フェライト+パーライト総面積率」に相当。)
各試験番号の棒鋼から、複数の限界圧縮率測定試験片を採取した。限界圧縮率測定試験片の直径は6mmであり、長さは9mmであった。限界圧縮率測定試験片の長手方向は、棒鋼の長手方向と平行であった。また、限界圧縮率測定試験片の中心軸は、各試験番号の棒鋼のR/2位置に相当した。限界圧縮率測定試験片の長手方向の中央位置に、周方向に切欠きを形成した。切欠き角度は30度であり、切欠き深さは0.8mmであり、切欠き先端の曲率半径は0.15mmであった。
各試験番号の直径30mmの棒鋼に対して、冷間鍛造を模擬した冷間引抜きを実施した。具体的には、直径30mmの棒鋼に対して、減面率30.6%で冷間引抜きを実施して、直径25mmの棒鋼とした。冷間引抜き後の棒鋼を長さ50mmに切断し、旋削加工用試験片とした。
母材材質:超硬P20種グレード
コーティング:なし
[旋削加工条件]
周速:150m/分
送り速度:0.2mm/rev
切り込み:0.4mm
潤滑:水溶性切削油を使用
各試験番号の棒鋼から、直径20mm、長さ30mmの試験片を採取した。試験片の中心は、各試験番号の棒鋼の中心とほぼ一致した。採取した試験片に対して、変成炉ガス方式による浸炭処理(ガス浸炭処理)を実施した。ガス浸炭処理では、カーボンポテンシャルを0.8%として、950℃で5時間保持した。続いて、850℃で0.5時間保持した。以上の工程後、試験片を130℃への油槽に浸漬して油焼入れを実施した。焼入れ後の試験片に対して、150℃で90分の焼戻しを行って、浸炭鋼部品を製造した。
上記浸炭鋼部品の鋼部について、表面から深さ2.0mmの位置での、旧オーステナイト結晶粒の観察を行った。具体的には、浸炭鋼部品の長手方向に垂直な切断面を観察面とした。観察面を鏡面研磨した後、ピクリン酸飽和水溶液にてエッチングを行った。エッチングされた観察面の、表面から2.0mm深さ位置を含む視野(300μm×300μm)を光学顕微鏡(400倍)で観察して、旧オーステナイト結晶粒を特定した。特定された旧オーステナイト結晶粒に対して、JIS G 0551:2013に準拠して、各旧―ステナイト粒の結晶粒度番号を求めた。結晶粒度番号でNo.4以下の結晶粒が一つでも存在している場合に「粗大粒発生あり」と判定した。
表1及び表2を参照して、試験番号1〜11の鋼材の化学組成は、本実施形態の化学組成の範囲内であり、式(1)〜式(4)を満たした。さらに、製造条件も適切であった。そのため、浸炭鋼部品用鋼材のミクロ組織において、フェライト及びパーライトの総面積率が85.0%以上であり、かつ、200μm2以上の面積を有するパーライト粒の総面積率が20.0〜35.0%未満であった。その結果、これらの試験番号の限界圧縮率は68%以上であり、十分な限界加工率を示した。さらに、いずれの試験番号も切りくず処理性に優れた。さらに、浸炭鋼部品用鋼材において、浸炭層は少なくとも0.4mm以上の深さを有した。また、50μm深さ位置での浸炭層のビッカース硬さは650〜1000HVであり、2.0mm深さ位置での芯部のビッカース硬さは250〜500HVであり、浸炭層及び芯部ともに、十分な硬さを有した。
Claims (2)
- 化学組成が、質量%で、
C:0.11〜0.15%、
Si:0.17〜0.35%、
Mn:0.45〜0.80%、
S:0.005〜0.050%、
Cr:1.50〜1.90%未満、
B:0.0005〜0.0100%、
Al:0.100〜0.200%、
Ca:0.0002〜0.0030%、
N:0.0080%以下、
P:0.050%以下、
O:0.0030%以下、
Ti:0〜0.020%未満、
Nb:0〜0.100%、
Mo:0〜0.500%、
Ni:0〜0.500%、
Cu:0〜0.500%、及び、
残部はFe及び不純物からなり、式(1)〜式(4)を満たし、
ミクロ組織において、フェライト及びパーライトの総面積率が85.0%以上であり、かつ、200μm2以上の面積を有するパーライト粒の総面積率が20.0〜35.0%未満である、
浸炭鋼部品用鋼材。
0.100<C+0.194×Si+0.065×Mn+0.012×Cr+0.033×Mo+0.067×Ni+0.097×Cu+0.078×Al<0.235 (1)
13.0<(0.70×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.2×Cr+1)×(3.0×Mo+1)×(0.36×Ni+1)<45.0 (2)
0.0003<Al×(N−Ti×(14/48))<0.0011 (3)
0.03≦Ca/S≦0.15 (4)
ここで、式(1)〜(4)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。 - 請求項1に記載の浸炭鋼部品用鋼材であって、
前記化学組成は、
Ti:0.001〜0.020%未満、
Nb:0.002〜0.100%、
Mo:0.005〜0.500%、
Ni:0.005〜0.500%、及び、
Cu:0.005〜0.500%、
からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する、
浸炭鋼部品用鋼材。
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