以下、一実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法について、添付図面を参照して説明する。図1において、レーザ加工機100は、レーザビームを生成して射出するレーザ発振器10と、レーザ加工ユニット20と、レーザ発振器10より射出されたレーザビームをレーザ加工ユニット20へと伝送するプロセスファイバ12とを備える。
また、レーザ加工機100は、操作部40と、NC装置50と、加工プログラムデータベース60と、加工条件データベース70と、アシストガス供給装置80と、表示部90とを備える。NC装置50は、レーザ加工機100の各部を制御する制御装置の一例である。
レーザ発振器10としては、レーザダイオードより発せられる励起光を増幅して所定の波長のレーザビームを射出するレーザ発振器、またはレーザダイオードより発せられるレーザビームを直接利用するレーザ発振器が好適である。レーザ発振器10は、例えば、固体レーザ発振器、ファイバレーザ発振器、ディスクレーザ発振器、ダイレクトダイオードレーザ発振器(DDL発振器)である。
レーザ発振器10は、波長900nm〜1100nmの1μm帯のレーザビームを射出する。ファイバレーザ発振器及びDDL発振器を例とすると、ファイバレーザ発振器は、波長1060nm〜1080nmのレーザビームを射出し、DDL発振器は、波長910nm〜950nmのレーザビームを射出する。
レーザ加工ユニット20は、加工対象の板金Wを載せる加工テーブル21と、門型のX軸キャリッジ22と、Y軸キャリッジ23と、Y軸キャリッジ23に固定されたコリメータユニット30と、加工ヘッド35とを有する。X軸キャリッジ22は、加工テーブル21上でX軸方向に移動自在に構成されている。Y軸キャリッジ23は、X軸キャリッジ22上でX軸に垂直なY軸方向に移動自在に構成されている。X軸キャリッジ22及びY軸キャリッジ23は、加工ヘッド35を板金Wの面に沿って、X軸方向、Y軸方向、または、X軸とY軸との任意の合成方向に移動させる移動機構として機能する。
加工ヘッド35を板金Wの面に沿って移動させる代わりに、加工ヘッド35は位置が固定されていて、板金Wが移動するように構成されていてもよい。レーザ加工機100は、板金Wの面に対して加工ヘッド35を相対的に移動させる移動機構を備えていればよい。
加工ヘッド35には、先端部に円形の開口36aを有し、開口36aよりレーザビームを射出するノズル36が取り付けられている。ノズル36の開口36aより射出されたレーザビームは板金Wに照射される。アシストガス供給装置80は、アシストガスとして窒素、酸素、窒素と酸素との混合気体、または空気を加工ヘッド35に供給する。板金Wの加工時に、アシストガスは開口36aより板金Wへと吹き付けられる。アシストガスは、板金Wが溶融したカーフ幅内の溶融金属を排出する。
図2に示すように、コリメータユニット30は、プロセスファイバ12より射出された発散光のレーザビームを平行光(コリメート光)に変換するコリメーションレンズ31を備える。また、コリメータユニット30は、ガルバノスキャナユニット32と、ガルバノスキャナユニット32より射出されたレーザビームをX軸及びY軸に垂直なZ軸方向下方に向けて反射させるベンドミラー33を備える。加工ヘッド35は、ベンドミラー33で反射したレーザビームを集束して、板金Wに照射する集束レンズ34を備える。
レーザビームの焦点位置を調整するために、集束レンズ34は図示していない駆動部及び移動機構によって、板金Wに近付く方向及び板金Wより離隔する方向に移動自在に構成されている。
レーザ加工機100は、ノズル36の開口36aより射出されるレーザビームが開口36aの中心に位置するように芯出しされている。基準の状態では、レーザビームは、開口36aの中心より射出する。ガルバノスキャナユニット32は、加工ヘッド35内を進行して開口36aより射出されるレーザビームを、開口36a内で振動させるビーム振動機構として機能する。ガルバノスキャナユニット32がレーザビームをどのように振動させるかについては後述する。
ガルバノスキャナユニット32は、コリメーションレンズ31より射出されたレーザビームを反射するスキャンミラー321と、スキャンミラー321を所定の角度となるように回転させる駆動部322とを有する。また、ガルバノスキャナユニット32は、スキャンミラー321より射出されたレーザビームを反射するスキャンミラー323と、スキャンミラー323を所定の角度となるように回転させる駆動部324とを有する。
駆動部322及び324は、NC装置50による制御に基づき、それぞれ、スキャンミラー321及び323を所定の角度範囲で往復振動させることができる。スキャンミラー321とスキャンミラー323とのいずれか一方または双方を往復振動させることによって、ガルバノスキャナユニット32は、板金Wに照射されるレーザビームを振動させる。
ガルバノスキャナユニット32はビーム振動機構の一例であり、ビーム振動機構は一対のスキャンミラーを有するガルバノスキャナユニット32に限定されない。
図3は、スキャンミラー321とスキャンミラー323とのいずれか一方または双方が傾けられて、板金Wに照射されるレーザビームの位置が変位した状態を示している。図3において、ベンドミラー33で折り曲げられて集束レンズ34を通過する細実線は、レーザ加工機100が基準の状態であるときのレーザビームの光軸を示している。
なお、詳細には、ベンドミラー33の手前に位置しているガルバノスキャナユニット32の作動により、ベンドミラー33に入射するレーザビームの光軸の角度が変化し、光軸がベンドミラー33の中心から外れる。図3では、簡略化のため、ガルバノスキャナユニット32の作動前後でベンドミラー33へのレーザビームの入射位置を同じ位置としている。
ガルバノスキャナユニット32による作用によって、レーザビームの光軸が細実線で示す位置から太実線で示す位置へと変位したとする。ベンドミラー33で反射するレーザビームが角度θで傾斜したとすると、板金Wへのレーザビームの照射位置は距離Δsだけ変位する。集束レンズ34の焦点距離をEFL(Effective Focal Length)とすると、距離Δsは、EFL×sinθで計算される。
ガルバノスキャナユニット32がレーザビームを図3に示す方向とは逆方向に角度θだけ傾ければ、板金Wへのレーザビームの照射位置を図3に示す方向とは逆方向に距離Δsだけ変位させることができる。距離Δsは開口36aの半径未満の距離であり、好ましくは、開口36aの半径から所定の余裕量だけ引いた距離を最大距離とした最大距離以下の距離である。
NC装置50は、ガルバノスキャナユニット32の駆動部322及び324を制御することによって、レーザビームを板金Wの面内の所定の方向に振動させることができる。レーザビームを振動させることによって、板金Wの面上に形成されるビームスポットを振動させることができる。
以上のように構成されるレーザ加工機100は、レーザ発振器10より射出されたレーザビームによって板金Wを切断して所定の形状を有する製品を製作する。レーザ加工機100は、レーザビームの焦点を、板金Wの上面、上面より所定の距離だけ上方、または上面より所定の距離だけ下方で板金Wの板厚内のいずれかの適宜の位置に位置させて、レーザビームを所定の振動パターンで振動させながら板金を切断する。
加工プログラムデータベース60には、板金Wを切断するための加工プログラムが記憶されている。NC装置50は、加工プログラムデータベース60より加工プログラムを読み出し、加工条件データベース70に記憶されている複数の加工条件ファイルのうちのいずれかの加工条件ファイルを選択する。NC装置50は、読み出した加工プログラム及び選択した加工条件ファイルで設定されている加工条件に基づいて板金Wを切断するようレーザ加工機100を制御する。
後述するように、レーザ加工機100は、加工条件ファイルで設定されている各加工条件に対応して、レーザビームの振動パターンを設定することができるように構成されている。表示部90は、NC装置50による制御に基づき、各加工条件に対応してレーザビームの振動パターンを設定する際の設定項目を表示する。
図4A〜図4Eを用いて、NC装置50がガルバノスキャナユニット32によってレーザビームを振動させる振動パターンの例を説明する。板金Wの切断進行方向をx方向、板金Wの面内でx方向と直交する方向をy方向とする。加工条件データベース70に記憶されている加工条件ファイルの各加工条件には振動パターンが設定されており、NC装置50は、加工条件で設定されている振動パターンでレーザビームを振動させるようガルバノスキャナユニット32を制御する。
図4A〜図4Eは、振動パターンを理解しやすいよう、加工ヘッド35をx方向に移動させない状態での振動パターンを示している。図4Aは、ビームスポットBsをビームスポットBsの進行によって形成された溝Wk内でx方向に振動させる振動パターンである。図4Aに示す振動パターンを平行振動パターンと称することとする。このとき、溝Wkのカーフ幅K1はほぼビームスポットBsの径となる。ビームスポットBsを切断進行方向と平行方向に振動させる周波数をFx、切断進行方向と直交する方向に振動させる周波数をFyとすれば、平行振動パターンはFx:Fyが1:0の振動パターンである。
図4Bは、ビームスポットBsをy方向に振動させる振動パターンである。ビームスポットBsをy方向に振動させることによって、溝Wkはカーフ幅K1よりも広いカーフ幅K2となる。図5に示す振動パターンを直交振動パターンと称することとする。直交振動パターンは、Fx:Fyが0:1の振動パターンである。
図4Cは、ビームスポットBsが円を描くようにビームスポットBsを振動させる振動パターンである。ビームスポットBsを円形に振動させることによって、溝Wkはカーフ幅K1よりも広いカーフ幅K3となる。図4Cに示す振動パターンを円振動パターンと称することとする。円振動パターンは、Fx:Fyが1:1の振動パターンである。
図4Dは、ビームスポットBsがアルファベットのCを描くようにビームスポットBsを振動させる振動パターンである。ビームスポットBsをC字状に振動させることによって、溝Wkはカーフ幅K1よりも広いカーフ幅K4となる。図4Dに示す振動パターンをC字状振動パターンと称することとする。C字状振動パターンは、Fx:Fyが2:1(=1:1/2)の振動パターンである。また、FyはFxと位相差1/2π(=90°)である。
図4Eは、ビームスポットBsが数字の8を描くようにビームスポットBsを振動させる振動パターンである。ビームスポットBsを8の字状に振動させることによって、溝Wkはカーフ幅K1よりも広いカーフ幅K5となる。図4Eに示す振動パターンを8の字状振動パターンと称することとする。8の字状振動パターンは、Fx:Fyが2:1の振動パターンである。
実際には、加工ヘッド35が切断進行方向に移動しながらレーザビームが振動するので、振動パターンは、図4A〜図4Eに示す振動パターンに切断進行方向(x方向)の変位を加えた振動パターンとなる。図4Bに示す直交振動パターンを例にすると、ビームスポットBsはx方向に移動しながらy方向に振動するので、実際の直交振動パターンは図5に示すような振動パターンとなる。
次に、図6〜図10を参照しながら、板金Wの加工条件に応じて適切な振動パターンがどのように設定されるかについて説明する。図6に示すように、NC装置50は、機能的な構成として、NC制御部501、パターンプログラム生成部502、パターンプログラム保持部503、振動制御部504、移動機構制御部505、発振器制御部506、加工条件設定部507、表示制御部508を有する。
操作部40によって加工プログラムを読み出す指示がなされると、NC制御部501は、板金Wを切断するために予め作成された、加工プログラムデータベース60に記憶されている加工プログラムを読み出す。加工プログラムは、一例として図7に示すような、機械制御コードで表現された複数の指令によって構成される。
図7において、M102は加工条件ファイルを選択する指令であり、ここでは一例として、C−SUS3.0なる名称の加工条件ファイルを選択するよう指令されている。M100はレーザ加工を実行させる指令を示す。アルファベットEが付された番号(E番号)は後述する加工条件番号を示す。G01で始まる指令は、レーザビームを始点からX及びYで指定される終点までを結ぶ直線上を移動速度Fで移動させる直線補間の加工指令を示す。
G02で始まる指令は、始点及び終点を結ぶ円弧上を移動速度Fで移動させる円弧補間の加工指令を示す。ここでは、円弧の半径を指定する円弧を特定する方法と円弧の中心を指定して円弧を特定する方法とのうち、前者の方法が示されている。
加工条件データベース70には、図8に示すC−SUS3.0なる名称の加工条件ファイル、及びその他の複数の加工条件ファイルが記憶されている。図8に示す加工条件ファイルは、振動パターンを決定するための後述するパラメータを付加していない状態を示している。パラメータは、振動パターンによる具体的な振動のさせ方を決定するための要素である。まず、振動パターンを決定するためのパラメータを付加していない状態の加工条件ファイルの概略は次のとおりである。
図8に示すように、加工条件ファイルは、レーザ発振器10の名称、板金Wの材質及び板厚、ノズル36の種類であるノズルタイプ、開口36aの径であるノズル径、集束レンズ34の焦点距離の情報を含む。これらの情報は、加工条件ファイルに設定されているいずれの加工条件番号の加工条件を選択しても共通に適用される条件を示している。加工条件ファイルは、図8では図示が省略されている他の情報を含んでもよい。
加工条件ファイルには、複数の加工条件番号に対応して、板金Wを加工する際の各種の条件が設定されている。加工条件番号は、図7に示す加工プログラムのアルファベットEが付された番号(E番号)に相当する。図8において、速度は加工ヘッド35の移動速度である板金Wの加工速度(速度データ)を示す。出力、周波数、デューティは、それぞれレーザ発振器10のレーザ出力(レーザパワー)、パルス発振するときの周波数、デューティを示す。ガス圧及びガス種類は、それぞれアシストガス供給装置80が供給するアシストガスのガス圧及びガス種類を示す。
ノズルギャップは、ノズル36の先端から板金Wの上面までの距離を示す。工具径補正量は、製品の端部に沿ってレーザビームを走査する際にレーザビームを端部から変位させる距離を示す。工具径補正量は、ビームスポットBsの半径に相当する距離である。焦点補正量は、レーザビームの焦点を基準となる位置(0.00)から上方または下方に変位させる距離を示す。各加工条件番号に対応して、図8では図示が省略されている他の条件が設定されていてもよい。
図9に示すように、加工条件データベース70には、各振動パターンを選択するための振動パターン番号に対応させて、各振動パターンを決定するための第1のパラメータが記憶されている。振動パターン番号は、レーザビームの振動パターンを選択するパターン選択情報である。第1のパラメータは、各振動パターンの形状を決定するためのパラメータである。ここでは理解を容易にするために各振動パターン番号に対応させて振動パターン名称を示しているが、加工条件データベース70に振動パターン名称が記憶されている必要はない。
加工条件データベース70には、各振動パターン番号に対応させて、第1のパラメータとして、x方向に振動させる周波数とy方向に振動させる周波数との周波数比、及び、x方向の振動とy方向の振動との位相差が設定されている。
操作部40によって振動パターンを決定するためのパラメータを設定する操作がなされると、加工条件設定部507は、図10に示すような設定リストを表示部90に表示するよう表示制御部508を制御する。図10に示すように、設定リストは、各E番号に対応して振動パターン番号を選択し、各振動パターン番号の振動パターンを決定するための第2のパラメータを振動パターン番号ごとに設定するためのリストである。第2のパラメータは、第1のパラメータで形状が決定した各振動パターンの振幅及び周波数を決定するパラメータである。
図10において、Qxはx方向の振幅を設定する設定値、Qyはy方向の振幅を設定する設定値を示す。例えば、E番号E2の加工条件には、x方向の振幅90(μm)、y方向の振幅90(μm)、周波数3000(Hz)の円振動パターンが設定されている。
設定リストには図8に示す加工条件ファイルの加工条件番号に対応した全ての情報が表示される必要はない。設定リストにE番号のみが表示され、E番号に振動パターン番号及び第2のパラメータが対応付けられていてもよい。
レーザ加工機100の製造メーカの設定者またはサービスマンは、操作部40を操作することによって、図10に示す設定リストを表示部90に表示して、振動パターン番号及び第2のパラメータを設定することができる。レーザ加工機100のユーザは、太実線で囲んだ設定項目を表示部90に表示する操作を行えず、太実線で囲んだ設定項目を見ることができないようにされていることが好ましい。ユーザが操作部40によってE番号のリストを表示部90に表示するよう操作したとき、太実線で囲んだ設定項目を除く加工条件の一覧が表示されるように設定されているのがよい。
以上のように振動パターンを決定するための振動パターン番号及び第2のパラメータが付加された加工条件ファイルは、加工条件データベース70に書き込まれる。加工条件データベース70は、振動パターン番号及び第2のパラメータが付加された加工条件ファイルを記憶する記憶部の一例である。NC装置50に接続された他の記憶部に加工条件ファイルが記憶されてもよい。
図7に示す加工プログラムがNC制御部501へと供給されると、図9に示す各振動パターン番号に第1のパラメータを対応付けた情報と、C−SUS3.0なる名称の加工条件ファイルが加工条件データベース70より読み出される。加工条件ファイルには、振動パターン番号及び第2のパラメータが付加されている。図9に示す情報及び加工条件ファイルは、加工条件設定部507からNC制御部501に供給される。
パターンプログラム生成部502は、NC制御部501が読み出した加工プログラムに含まれる全てのE番号に対応した振動パターンでレーザビームを振動させるためのパターンプログラムを生成する。パターンプログラムとはガルバノスキャナユニット32を作動させる制御コードであり、コンピュータに対する命令(処理)を記述したものである。パターンプログラム生成部502は、NC制御部501に供給された第1及び第2のパラメータに基づいてパターンプログラムを生成することができる。パターンプログラム生成部502が生成したパターンプログラムは、パターンプログラム保持部503に供給されて保持される。
加工プログラムによってレーザ加工を実行させるよう指令された後、NC制御部501は、E番号ごとに振動パターン番号を振動制御部504に供給する。NC制御部501は、加工条件ファイルに含まれる情報のうち、振動パターンを決定するために必要な集束レンズ34の焦点距離の情報を抽出して振動制御部504に供給する。NC制御部501は、焦点距離の情報に加えて焦点補正量の情報を抽出して振動制御部504に供給することが好ましい。図6では図示していないが、レーザビームの焦点位置を調整するために、焦点補正量の情報は集束レンズ34の駆動部を制御するためにも用いられる。また、NC制御部501は、G01またはG02等で始まるレーザビームを移動させる加工指令に基づき、レーザビームを移動させるベクトル情報を振動制御部504に供給する。
振動制御部504は、パターンプログラム保持部503より振動パターン番号に対応したパターンプログラムを読み出す。振動制御部504は、パターンプログラム、ベクトル情報、集束レンズ34の焦点距離及び焦点補正量に基づいて、選択された振動パターンでかつ設定された条件でレーザビームを振動させるよう、ガルバノスキャナユニット32の駆動部322及び324を制御する。
加工プログラムもしくは加工条件ファイル、または操作部40による手動設定によって、ノズル36の開口36aより射出されるレーザビームを開口36aの中心からx方向とy方向との少なくとも一方にオフセットさせる距離を示すオフセット値が設定されていてもよい。この場合、NC制御部501はx方向とy方向のオフセット値を振動制御部504に供給する。
X軸キャリッジ22及びY軸キャリッジ23よりなる移動機構(以下、移動機構22及び23)は、移動機構22及び23をそれぞれ駆動する駆動部220及び230を有する。移動機構制御部505は、レーザビームを移動させる加工指令に基づいて駆動部220及び230を制御して、加工ヘッド35を移動させる。移動機構制御部505は、例えば1msごとに駆動部220及び230を制御して加工ヘッド35を移動させる。よって、レーザビームが板金Wを切断する切断進行方向は1msの制御周期(第1の制御周期)で制御される。
振動制御部504は、1msより短い制御周期で駆動部322及び324を制御して、1msより短い制御周期でレーザビームの振動を制御するのがよい。図11は、G02(またはG03)で始まる加工指令に基づき、移動機構制御部505が1msの制御周期で加工ヘッド35(レーザビーム)を円弧状に移動させる状態を概念的に示している。振動制御部504は、例えば1msを1/100した10μsの制御周期(第2の制御周期)でレーザビームの振動を制御する。このようにすれば、10μsごとに各振動パターンで設定したパターンでレーザビームを高精度に振動させることができる。
なお、NC装置50、移動機構22及び23のモータアンプまたはモータの都合で、第1の制御周期と第2の制御周期における周期は任意に設定できる。また、第1の制御周期をさらに細分化するために、第1の制御周期と第2の制御周期との中間に別の制御周期を設定することも可能である。
図12及び図13を用いて、振動制御部504が移動機構制御部505による第1の制御周期よりも短い第2の制御周期でレーザビームの振動を制御することによる作用効果を具体的に説明する。図12は比較例であって、振動制御部504が第1の制御周期でレーザビームの振動を制御する場合の動作を概念的に示している。図13は、振動制御部504が第2の制御周期でレーザビームの振動を制御する場合の動作を概念的に示している。
図12は、移動機構制御部505が、製品の円弧状の端部E0に沿って加工ヘッド35を移動させる場合を示している。時刻t0〜t100が1msであるとする。図12は、振動制御部504が、図4Aに示す平行振動パターンでレーザビームを振動させるようガルバノスキャナユニット32を制御する場合を示している。一例として、時刻t0において、ビームスポットBsは開口36aの中心に位置しており、振動制御部504は、時刻t2までの20μsの時間をかけてx方向に変位させ、時刻t2でx方向の最大の振幅に到達したとする。
振動制御部504には、時刻t0よりも前に、移動機構制御部505が時刻t0以降に加工ヘッド35を移動させるベクトル情報が供給されている。振動制御部504は、時刻t0においてビームスポットBsをx方向に変位させるベクトルをベクトルV0と決定する。ベクトルV0は、時刻t0における端部E0の接線方向のベクトルである。振動制御部504は、時刻t0においてレーザビームをベクトルV0で変位させる。
振動制御部504が第1の制御周期でレーザビームの振動を制御する場合には、振動制御部504は、時刻t1においてもレーザビームをベクトルV0で変位させ、時刻t2においてはレーザビームを−x方向であるベクトル−V0で変位させる。同様に、振動制御部504は、時刻t099においてレーザビームをベクトルV0で変位させる。
振動制御部504には、時刻t100よりも前に、移動機構制御部505が時刻t100以降に加工ヘッド35を移動させるベクトル情報が供給されている。振動制御部504は、時刻t100においてビームスポットBsをx方向に変位させるベクトルをベクトルV1と決定する。ベクトルV1は、時刻t100における端部E0の接線方向のベクトルである。振動制御部504は、時刻t100においてレーザビームをベクトルV1で変位させる。
このように、振動制御部504が第1の制御周期でレーザビームの振動を制御すると、第1の制御周期の全期間中、振動制御部504は、レーザビームを、互いに反転したx方向及び−x方向の単一のベクトルによって振動させる。レーザビームを振動させるベクトルは1msごとにしか更新されない。よって、レーザ加工機100は、製品の端部E0を高精度に切断することはできない。
これに対して、振動制御部504が第2の制御周期でレーザビームの振動を制御すれば、図13に示すように、振動制御部504は、時刻t0及びt1においてビームスポットBsをx方向に変位させるベクトルをそれぞれベクトルV000及びV001と決定する。ベクトルV000は時刻t0における端部E0の接線方向のベクトルであり、ベクトルV001は時刻t1における端部E0の接線方向のベクトルである。ベクトルV001は時刻t1の時点でのベクトル情報に基づいてx方向に変位させるベクトルとして決定されるから、ベクトルV000とは異なるベクトルである。
振動制御部504は、時刻t2においてビームスポットBsを−x方向に変位させるベクトルをベクトルV002と決定する。ベクトルV002も時刻t2の時点でのベクトル情報に基づいて−x方向に変位させるベクトルとして決定されるから、ベクトルV000またはV001を反転したベクトルではない。振動制御部504は、時刻t0〜t100においてレーザビームを10μsごとに変化させたベクトルV000〜V099で変位させる。
振動制御部504は、時刻t100においてビームスポットBsをx方向に変位させるベクトルをベクトルV100と決定する。ベクトルV100は、時刻t100における端部E0の接線方向のベクトルである。以降同様に、振動制御部504は、レーザビームを10μsごとに変化させたベクトルで変位させる。
このように、振動制御部504は、第2の制御周期で、レーザビームを所定の振動パターンで振動させるための振動の方向を定めるベクトルを決定する。振動制御部504は、第2の制御周期で決定したベクトルに基づいてレーザビームを所定の振動パターンで振動させるようガルバノスキャナユニット32を制御する。よって、レーザ加工機100は、レーザビームを所定の振動パターンで振動させながら、製品の端部E0を高精度に切断することができる。
図13に示すように、板金Wの切断進行方向の前方側への振動と後方側への振動とを繰り返す平行振動パターンでレーザビームを振動させる場合には、振動制御部504は、具体的に次のようにしてベクトルを決定することが好ましい。振動制御部504は、レーザビームを前方側に振動させるときの振動の方向を定めるベクトルとして、レーザビームを、板金Wを切断して所定の形状を有する製品を製作するために切断しようとする製品の端部E0に沿った位置に移動させるベクトルを決定する。
また、振動制御部504は、レーザビームを後方側に振動させるときの振動の方向を定めるベクトルとして、レーザビームを切断済みの製品の端部E0に沿った位置(即ち、切断軌跡上)に移動させるベクトルを決定する。
振動制御部504は、少なくともレーザビームを前方側に振動させるときに、好ましくはレーザビームを前方側及び後方側に振動させるときに、製品の端部E0に沿った位置に移動させるベクトルを決定する。これによって、レーザ加工機100は、平行振動パターンでレーザビームを振動させながら、製品の端部E0を高精度に切断することができる。
本実施形態においては、振動制御部504がレーザビームを製品の端部E0に沿った位置に移動させるベクトルを、第2の制御周期における各時点における端部E0の接線方向の直線状のベクトルとしている。直線状のベクトルであっても、ほぼ製品の端部E0に沿って板金Wを切断することができる。直線状のベクトルとした方が振動制御部504によるレーザビームの変位の制御が容易となる。
さらに厳密に製品の端部E0に沿って板金Wを切断するために、レーザビームを移動させるベクトルを製品の端部E0に沿うように曲線状のベクトルとしてもよい。図13に示すように端部E0が円弧である場合、製品の端部E0に沿って板金Wを厳密に切断するには、ベクトルは微細な円弧状であることが好ましい。
図13は、レーザ加工機100が製品の円弧状の端部E0に沿って板金Wを切断する場合を示しているが、レーザ加工機100が図14A及び図14Bに示すような形状を有する製品の端部E0に沿って板金Wを切断する場合も同様に制御される。レーザ加工機100は、製品の端部E01に沿って端部E01と端部E02との接続点であるコーナE0cまで板金Wを切断する。続けて、レーザ加工機100は、コーナE0cから製品の端部E02に沿って板金Wを切断する。図14A及び図14Bにおいて、太実線で示す矢印は加工ヘッド35(ノズル36)の移動方向を示している。
図14Aに示すように、ビームスポットBsがコーナE0cに位置していて、レーザビームを前方側に振動させる場合には、振動制御部504は、端部E02に沿ったベクトルV02によってレーザビームを変位させることができる。図14Bに示すように、ビームスポットBsがコーナE0cに位置していて、レーザビームを後方側に振動させる場合には、振動制御部504は、ベクトルV02を反転させたベクトルではなく、端部E01に沿ったベクトル−V01によってレーザビームを変位させることができる。
レーザ加工機100は、製品の形状がいかなる形状であっても、製品の端部E0を高精度に切断することができる。
本発明は以上説明した本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。本実施形態においては、振動パターンによる振動のさせ方を決定するパラメータを第1のパラメータと第2のパラメータとに分けているが、各振動パターンの具体的な振動のさせ方を決定できればよく、パラメータの設定の仕方は任意である。図6に示すNC装置50内の機能的な構成は、非一時的な記憶媒体に記憶されたコンピュータプログラムをNC装置50の中央処理装置が実行することによって実現してもよい。