本発明者らは、高強度かつ三点曲げ試験における特性が高い成形品を得るべく、鋭意検討した結果、特定の構造によって衝突に対する特性が向上すること、ならびに、このような特定の構造を高強度の金属板で作製することで、高強度かつ三点曲げ試験における特性が高い成形品が得られることを見出した。
具体的には、高強度の金属板から形成され、2つの縦壁部と天板部とを有し、縦壁部と天板部との間に、外側を向く突出部が設けられた成形品は、高強度かつ三点曲げ試験における特性が高い成形品が得られることを見出した。
しかしながら、突出部を有するこのような構造の成形品を高強度の金属板から形成するためには、冷間プレスでは難しい場合があった。そこで、本発明者らは、上記構造の成形品について、被加工材である金属板を加熱した状態でプレス成形を行うホットスタンプ成形により作製することを試みた。
その結果、高強度かつ三点曲げ試験における特性が高い成形品を得るためには、成形品の製造方法の特定の工程をホットスタンプ成形によって行うことで、良好な成形性で、容易に製造できることを見出した。本発明は、この新たな知見に基づくものである。
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明する。
なお、以下の説明では本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明が以下に説明する例に限定されないことは自明である。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。以下の説明では、成形品を「プレス成形品」と称して説明する場合がある。
また以下の実施形態においては、金属板が鋼板である場合を例に挙げて本発明を説明する。金属板とは、アルミニウム系合金やマグネシウム系合金からなる、あるいはこれらの合金を含む金属板を意味する。以下の実施形態における鋼板を金属板と読み替えることができる。
以下の実施形態に係る成形品は、鋼板で形成された、縦壁部と、突出部と、突出部を介して縦壁部に隣接する天板部と、を含む長尺の成形品である。
以下の実施形態に係る成形品は、突出部において、天板部から延びる鋼板の一部と縦壁部から延びる鋼板の一部とが重なり合う重ね合わせ部と、重ね合わせ部を形成する鋼板の間に挟まれた挟み込み部と、重ね合わせ部を形成する鋼板が折り曲げられた先端部と、を有する。
あるいは、以下の実施形態に係る成形品は、突出部において、縦壁部から延びる鋼板の一部又は天板部から延びる鋼板の一部が重なり合う重ね合わせ部と、重ね合わせ部を形成する鋼板の間に挟まれた挟み込み部と、重ね合わせ部を形成する鋼板が折り曲げられた先端部と、を有する。
上記の成形品は、少なくとも、縦壁部および天板部、ならびに、突出部を形成する重ね合わせ部が、鋼板から形成されている。
上記の突出部では、天板部から延びる鋼板の一部と縦壁部から延びる鋼板の一部とが挟み込み部を介して重なり合う。あるいは、上記の突出部では、縦壁部から延びる鋼板の一部が挟み込み部を介して重なり合うか、又は天板部から延びる鋼板の一部が挟み込み部を介して重なり合う。
以下の実施形態の成形品は、全体として長尺形状を有する。縦壁部、天板部、および突出部は、いずれも成形品の長手方向に沿って延びている。また、以下の実施形態の成形品は、縦壁部から延びるフランジ部をさらに有していてもよく、このフランジ部および突出部は、成形品の長手方向全体にわたって形成されていてもよいし、成形品の長手方向の一部のみに形成されていてもよい。
また、縦壁部および天板部に凹部や凸部が形成されていてもよい。たとえば、図10の例は、天板部に凹部が形成されている例を示す。
以下の実施形態の説明では、2つの縦壁部と、2つの縦壁部の端部を結ぶ仮想の面と、天板部とによって囲まれた領域を「成形品の内側」と称し、縦壁部および天板部を挟んで当該内側とは反対側の領域を「成形品の外側」と称する場合がある。
以下の実施形態の成形品の例では、天板部は、2つの縦壁部を連結する。より詳細には、天板部は、突出部を介して2つの縦壁部を連結する。別の観点では、天板部は、2つの縦壁部を連結する横壁部である。そのため、この明細書において、天板部を横壁部と読み替えることが可能である。横壁部(天板部)を下方に向けて成形品を配置した場合、横壁部を底板部と呼ぶことも可能である。
以下の実施形態では、突出部において鋼板が二重に重ね合わされている部分を、「重ね合わせ部」と称する。重ね合わせ部は、全体として板状の形状を有する。
以下の実施形態の成形品では、突出部の先端部では鋼板が折り曲げられている。
以下の実施形態において「挟み込み部」は、重ね合わせ部を形成する鋼板とは別の部材で構成されてもよい。あるいは、「挟み込み部」は、縦壁部から延びる鋼板の一部又は天板部から延びる鋼板の一部によって形成されてもよい。
挟み込み部は、重ね合わせ部を形成する鋼板の間に挿入されている。
挟み込み部が、重ね合わせ部を形成する鋼板とは別の部材で構成される場合、挟み込み部としては、金属材料、セラミック材料などが採用できる。成形品の衝突特性を確保するという観点からは、挟み込み部の材料は硬い材料であることが好ましく、金属材料であることがより好ましい。
あるいは、製造コストを抑制しつつ、成形品の衝突特性を確保するという観点からは、挟み込み部の材料は天板部や縦板部と同じ材料であることが好ましい。
挟み込み部の板厚taは、重ね合わせ部に挟まれた挟み込み部の平均厚さとして定義できる。また、重ね合わせ部を形成する鋼板の板厚tは、重ね合わせ部における鋼板の平均厚さとして定義できる。
たとえば、挟み込み部が、重ね合わせ部を形成する鋼板とは別の部材である場合、その部材の平均厚さを挟み込み部の板厚taとしてもよい。
縦壁部から延びる鋼板の一部又は天板部から延びる鋼板の一部が挟み込み部を形成する場合、縦壁部又は天板部を形成する鋼板の平均厚さを重ね合わせ部の板厚tとしてもよい。あるいは、縦壁部又は天板部を形成する鋼板のうちで、重ね合わせ部を形成する部分の平均厚さを重ね合わせ部の板厚tとしてもよい。
成形品の長手方向に垂直な面を断面視した場合、天板部と縦壁部とがなす「角度Y」は、通常、90°程度である。角度Yについては、第1実施形態で説明する。角度Yは、90°未満であってもよいが、通常は90°以上であり、90°から150°の範囲にあってもよい。2つの角度Yは、異なっていてもよいが、ほぼ同じ(両者の差が10°以内)であることが好ましく、同じであってもよい。
以下の実施形態の説明では、天板部と重ね合わせ部とがなす角度を「角度X」と称する場合がある。なお、天板部に微小な凹凸が形成される等して天板部の一部が平板状ではない場合、天板部全体として平板とみなしたときの角度を、天板部の角度とする。
以下の実施形態の成形品においては、突出部は、2つの境界部のそれぞれから突出させてもよい。この場合、2つの境界部のそれぞれから1つずつ突出部が突出する。2つの突出部における角度Xは、両者の差が10°以内であることが好ましく、同じであってもよい。2つの突出部は、好ましくは、長手方向に垂直な断面におけるそれらの形状が線対称となるように形成される。しかし、2つの突出部は、線対称となるように形成されなくてもよい。
以下の実施形態の成形品においては、天板部と突出部とがなす角度Xは、90°以上であってもよいし、105°以上であってもよいし、135°以上であってもよい。角度Xは、180°以下であってもよい。なお、角度Xが180°とは、天板部と突出部とが平行であることを意味する。角度Xは、90°より大きく180°以下であってもよい。
以下の実施形態の成形品では、突出部の長さであって、プレス成形品の長手方向に垂直な面を断面視した場合、縦壁部と天板部のそれぞれの延長線が交差する境界点から前記突出部の先端部の外壁面までの長さが、3mm以上(たとえば5mm以上、10mm以上、または15mm以上)であってもよい。当該長さの上限に特に限定はないが、たとえば25mm以下であってもよい。
成形品が2つの突出部を含む場合、2つの突出部の長さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
以下の実施形態の成形品では、突出部において、重ね合わせ部の一部と挟み込み部の一部とが、接合手段によって固定されていてもよい。接合手段は、たとえば溶接等である。たとえば、挟み込み部が鋼板から形成されている場合、抵抗スポット溶接やレーザー溶接によって溶接されていてもよい。挟み込み部の材料によらず、接合手段は、溶接、接着剤、ろう付け、リベット、ボルト締め、および、摩擦攪拌接合のいずれかであってもよい。
以下の実施形態の成形品では、挟み込み部と重ね合わせ部とは、密着していてもよい。あるいは、上述のような接合手段により固定されていない部分については、挟み込み部と重ね合わせ部との間に空間があってもよい。
上述の金属板が鋼板である場合、以下の実施形態のプレス成形品を構成する鋼板としては、TRIP鋼、複合組織鋼、ホットスタンプ用鋼板、析出強化鋼等を用いることができる。
上述の金属板が鋼板である場合、以下の実施形態の成形品を構成する鋼板の引張強度は、590MPa以上であってもよく、780MPa以上であってもよく、980MPa以上であってもよく、または1200MPa以上であってもよい。成形品の引張強度の上限は特に限定されるものではないが、たとえば2500MPaである。
後述する実施形態に係る製造方法の第2工程をホットスタンピングによって行うことで、プレス成形品の引張強度を、材料である鋼板(ブランク)の引張強度よりも高くすることができる。
なお、成形品の引張強度が上記の値以上であることは、換言すれば、成形品の金属組織において、マルテンサイト組織が体積率で20%以上、成形品の引張強度が1310MPa以上の場合やホットスタンプ成形で製造された場合は90%以上を占める金属組織である。
以下の実施形態の成形品では、上述の金属板が鋼板である場合、たとえば、成形品の引張強度が1500MPa以上であり、マルテンサイト組織が体積率で90%以上である場合、天板部から延びる鋼板の一部、すなわち突出部のビッカース硬度が454以上となってもよい。また、このときの縦壁部におけるビッカース硬度に対する突出部におけるビッカース硬度の比が0.95以上となってもよい。
以下の実施形態の成形品は、1枚の素材鋼板、あるいは、複数の鋼板が接合された素材鋼板を変形させることによって形成できる。具体的には、以下の実施形態の製造方法によって素材鋼板をプレス成形することによって成形品を製造できる。材料となる素材鋼板については後述する。
(第1実施形態)
以下に、本発明に係る成形品のより具体的な例を第1実施形態として説明する。
本実施形態に係る成形品は、鋼板で形成された縦壁部と、突出部と、突出部を介して縦壁部に隣接する天板部と、を含む長尺の成形品であって、突出部において、天板部から延びる鋼板の一部と縦壁部から延びる鋼板の一部とが重なり合う重ね合わせ部と、重ね合わせ部を形成する鋼板の間に挟まれた挟み込み部と、重ね合わせ部を形成する鋼板が折り曲げられた先端部と、を有することを特徴とする。
第1実施形態の成形品100の斜視図を図1に模式的に示す。また、成形品100の長手方向に垂直な面の断面図を、図2に模式的に示す。
なお、以下では、図2における上方(天板部側)を本実施形態の成形品の上方と称し、図2における下方(フランジ部側)を本実施形態の成形品の下方と称する場合がある。
成形品100は、1枚の鋼板101で形成されている。図1および図2を参照して、長尺形状の成形品100は、2つの縦壁部111、天板部112、2つのフランジ部113、2つの突出部115を含む。
縦壁部111、天板部112、およびフランジ部113はそれぞれ長尺かつ平板状である。天板部112は、2つの突出部115を介して、天板部112に隣接する2つの縦壁部111を結んでいる。
図2に示す一例では、2つのフランジ部113は、2つの縦壁部111の下端部から、外側に向かってほぼ水平に延びている。すなわち、フランジ部113は、天板部112とほぼ平行である。
突出部115は、縦壁部111と天板部112とを結ぶコーナー部分の境界部114から、外側に向かって突出している。突出部115のうち、少なくとも先端部115t側には、重ね合わせ部115dが存在する。
重ね合わせ部115dでは、天板部112から延びる鋼板101a(天板部112から延びる鋼板の一部)と縦壁部111から延びる鋼板101b(縦壁部111から延びる鋼板の一部)とが、挟み込み部116を介して重ね合わされている。
鋼板101aおよび鋼板101bはそれぞれ、鋼板101の一部である。天板部112から延びる鋼板(鋼板101a)は、先端部115tにおいて逆方向に曲げられて鋼板101bとなっている。重ね合わせ部115dは、全体としては平板状である。
突出部115を除いた成形品100の断面(長手方向に垂直な断面)は、略ハット状である。
図2に示すように、天板部112と突出部115とがなす角度を、角度Xとする。より詳細には、角度Xは、天板部112の外側表面112sを含む面と、突出部115の一部である重ね合わせ部115dの表面115ds(重ね合わせ部115dにおける鋼板101aの表面)を含む面とがなす角度をいう。
図1および図2には、角度Xが180°の場合を示す。この場合、天板部112と突出部115とは平行である。角度Xが180°である場合の好ましい一例では、天板部112から延びる鋼板101aと天板部112との間に段差がない。
なお、角度Xが180°の状態は、別の観点では、天板部112と突出部115とがなす角度が0°の状態であるとみなすことも可能である。
角度Xが90°より大きい場合、天板部112の上方から成形品100を見たときに、突出部115を構成する鋼板101bが鋼板101aによって見えなくなっている。このような部分は、負角部と呼ばれることがある。別の観点では、負角部は、上型および下型のみでプレス成形しようとしたときに、逆勾配となる部分である。
本実施形態の成形品を構造部材として用いる場合、天板部112とフランジ部113とがそれぞれ他の部材の一部に固定されて利用される場合がある。その場合、角度Xが180°であることが好ましい場合がある。
角度Xが180°でかつ天板部112の表面と突出部115の表面とが面一となることによって、天板部112側を他の部材に固定しやすくなる場合がある。また、天板部112側から荷重が加えられたときに、天板部112および突出部115の全体で荷重を支えやすくなる。
突出部115の長さであって、成形品100の長手方向に垂直な面を断面視した場合、突出部115の長さ方向に平行な方向において、縦壁部111と天板部112のそれぞれの延長線が交差する境界点114pから突出部115の先端部115tのまでの長さD(図3参照)は、上述の範囲にあってもよい。
本実施形態の成形品では、図4に示すように、縦壁部111と突出部115を構成する鋼板101bとは、コーナー部117により結ばれている。また、天板部112と突出部115を構成する鋼板101aとは、コーナー部117により結ばれている。
なお、図3の例では、角度Xが180°であるため、天板部112と突出部115との間にコーナー部は存在しない。また、コーナー部117が設けられずに、成形品100の長手方向に垂直な面を断面視した場合、縦壁部111と鋼板101b、あるいは、天板部112と鋼板101aが角度を有して接続されていてもよい。
また、図4に示すように、先端部115tにおいて逆方向に曲げられた鋼板は内壁面115tiを有する。
成形品100の長手方向に垂直な断面における重ね合わせ部115dの長さL0は、突出部115の長さ方向に平行な方向において、このコーナー部117と突出部115を構成する鋼板101b又は鋼板101aとの境界点(図示せず)から、先端部115tにおいて曲げられた鋼板の内壁面115tiまでの距離とする。コーナー部117がない場合には、成形品100の長手方向に垂直な面を断面視した場合、縦壁部111と鋼板101bとの接続点、あるいは、天板部112と鋼板101aとの接続点から内壁面115tiまでの距離を長さL0とする。
本実施形態では、成形品100の長手方向に垂直な断面において、先端部115tの内壁面115tiのうち、縦壁部111から最も遠い内壁面115tiの点を、後述する距離L又は長さL0の基準とする。すなわち、この点から、所定の位置までの距離を距離L又は長さL0として定義する。
内壁面115tiの形状は、成形品100の長手方向に垂直な断面において、半円形状、半楕円形状、三角形状など、種々の態様をとることができる。
重ね合わせ部115dの長さL0は、突出部の長さDの1倍以下であり、0.1から1倍の範囲(たとえば0.5から1倍の範囲や、0.3から0.8倍の範囲)にあってもよい。
先端部115t以外の領域において、突出部115を構成する鋼板の一部はカーブしていてもよいが折り曲げられていない。すなわち、先端部115tを除いて突出部115には、突出部115の外側に向かって突出する稜線部がない。これらの点で、成形品100は、特許文献3および4に記載の部品とは異なる。
図2には、縦壁部111と天板部112とがなす角度Yが90°より大きい場合の一例を示している。ここで、角度Yは、図2に示す角度、すなわち、成形品100の内側において、縦壁部111と天板部112とがなす角度である。
図2に示すように、縦壁部111とフランジ部113とを結ぶコーナー部118は、丸められた形状を有してもよい。コーナー部118が丸められた形状を有することによって、コーナー部118で座屈することを抑制できる。
突出部115における鋼板101bと縦壁部111との境界のコーナー部117は、成形品100の長手方向に垂直な面を断面視した場合、曲面であることが好ましい。当該コーナー部117を曲面とすることによって、当該コーナー部117で座屈することを抑制できる。
成形品100の長手方向に垂直な面におけるコーナー部117の曲率半径は、長さDの0.1から1倍の範囲(たとえば0.2から0.8倍の範囲や、0.2から0.5倍の範囲)にあってもよい。
たとえば、角度Xが180°より小さい場合、突出部115の鋼板101aと天板部112との境界のコーナー部が曲面であってもよい。
本実施形態に係る成形品において、挟み込み部116が、縦壁部111又は天板部112に沿って延長されていてもよい。
図5に、挟み込み部116が縦壁部111に沿って延長されている例を示す。この例では、成形品100の長手方向に垂直な面を断面視した場合、挟み込み部116がコーナー部117および縦壁部111に沿って延長されている。挟み込み部116と縦壁部111あるいはコーナー部117とは、上述の接合手段によって接合されていてもよい。
挟み込み部116が縦壁部111に沿って延長されていることで、天板部112の板面に略垂直な方向から衝撃が加わったとき、縦壁部111の成形品100の内側方向への変形を抑制して、自動車の構造部材として用いたときの衝突安全性能をより向上させることができる。
図6に、挟み込み部116が天板部112に沿って延長されている例を示す。この例では、成形品100の長手方向に垂直な面を断面視した場合、挟み込み部116が天板部112に沿って延長されている。挟み込み部116と天板部112とは、上述の接合手段によって接合されていてもよい。図6の例では、挟み込み部は平板状である。
挟み込み部116が天板部112に沿って延長されていることで、天板部112の板面に平行な面の剛性を高めることができ、自動車の構造部材として用いたときの衝突安全性能をより向上させることができる。
本実施形態に係る成形品においては、挟み込み部116は、成形品100の長手方向の全長にわたり設けられていてもよく、成形品100の長手方向の一部にのみ設けられていてもよい。
たとえば、成形品100の長手方向の中央位置にのみ挟み込み部116が設けられていてもよく、成形品100の長手方向の両端部近傍にのみ挟み込み部116が設けられていてもよい。
また、成形品100の長手方向において、複数の挟み込み部116が所定の間隔を有して一列に並んで配置されてもよい。この場合の、成形品100の長手方向における挟み込み部116の長さと挟み込み部116同士の間隔は、特に限定されないが、挟み込み部116が存在しない箇所においても、成形性が劣ることがなければよい。
(第2実施形態)
以下に、本発明に係る成形品の第2実施形態を説明する。
本実施形態に係る成形品は、鋼板で形成された、縦壁部と、突出部と、突出部を介して縦壁部に隣接する天板部と、を含む長尺の成形品であって、突出部において、天板部から延びる鋼板の一部が重なり合う重ね合わせ部と、重ね合わせ部を形成する鋼板の間に挟まれた挟み込み部と、重ね合わせ部を形成する鋼板が折り曲げられた先端部と、を有し、天板部から延びる鋼板の一部が重ね合わせ部を形成し、縦壁部から延びる鋼板の一部が挟み込み部を形成することを特徴とする。
本実施形態に係る成形品200は、以下に説明する重ね合わせ部215dおよび挟み込み部216の構成を除き、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
第2実施形態の成形品100の長手方向に垂直な面の断面図を、図7に模式的に示す。図7は突出部215周辺の断面図を示す。
成形品200は、天板部212を形成する鋼板201と縦壁部211を形成する鋼板202とを含む。図7に示すように、成形品200は、縦壁部211、天板部212、フランジ部213、突出部215を含む。
縦壁部211、天板部212、およびフランジ部213はそれぞれ長尺かつ平板状である。天板部212は、2つの突出部215を介して、天板部212に隣接する2つの縦壁部211を結んでいる。
突出部215は、縦壁部211と天板部212とを結ぶコーナー部分の境界部から、外側に向かって突出している。突出部215のうち、少なくとも先端部215t側には、重ね合わせ部215dが存在する。
重ね合わせ部215dでは、天板部212から延びる鋼板201(天板部212から延びる鋼板の一部)が、縦壁部211から延びる鋼板202を挟んで配置されることで、挟み込み部216を介して重ね合わされている。
天板部212から延びる鋼板201は、先端部215tにおいて逆方向に曲げられている。重ね合わせ部215dは、全体としては平板状である。
突出部215を除いた成形品200の断面(長手方向に垂直な断面)は、略ハット状である。
図7には、天板部212と突出部215とがなす角度が180°の場合を示す。この場合、天板部212と突出部215とは平行である。
本実施形態の成形品200では、図7に示すように、縦壁部211と挟み込み部216とは、コーナー部217により結ばれている。すなわち、縦壁部211を形成する鋼板202が、当該コーナー部217において曲げられている。
図7の例では、天板部212と突出部215とがなす角度が180°であるため、天板部212と突出部215との間にコーナー部は存在しない。また、コーナー部217が設けられずに、成形品200の長手方向に垂直な面を断面視した場合、縦壁部211又は天板部212と突出部215とが角度を有して接続されていてもよい。
また、図7に示すように、先端部215tにおいて、天板部212を形成する鋼板201は、逆方向に曲げられて内壁面215tiを形成する。
成形品200の長手方向に垂直な断面における重ね合わせ部215dの長さL0は、突出部215の長さ方向に平行な方向において、このコーナー部217と突出部215を構成する鋼板201又は鋼板202との境界点(図示せず)から、先端部215tにおいて曲げられた鋼板201の内壁面215tiまでの距離とする。コーナー部217がない場合には、成形品200の長手方向に垂直な面を断面視した場合、縦壁部211と挟み込み部216との接続点、あるいは、天板部212と重ね合わせ部215dとの接続点から内壁面215tiまでの距離を長さL0とする。
(第3実施形態)
以下に、本発明に係る成形品の第3実施形態を説明する。
本実施形態に係る成形品は、鋼板で形成された、縦壁部と、突出部と、突出部を介して縦壁部に隣接する天板部と、を含む長尺の成形品であって、突出部において、縦壁部から延びる鋼板の一部が重なり合う重ね合わせ部と、重ね合わせ部を形成する鋼板の間に挟まれた挟み込み部と、重ね合わせ部を形成する鋼板が折り曲げられた先端部と、を有し、縦壁部から延びる鋼板の一部が重ね合わせ部を形成し、天板部から延びる鋼板の一部が挟み込み部を形成することを特徴とする。
本実施形態に係る成形品300は、以下に説明する重ね合わせ部315dおよび挟み込み部316の構成を除き、基本的な構成は第1実施形態又は第2実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
第3実施形態の成形品300の長手方向に垂直な面の断面図を、図8に模式的に示す。図8は突出部315周辺の断面図を示す。
成形品300は、天板部312を形成する鋼板301と縦壁部311を形成する鋼板302とを含む。図8に示すように、成形品300は、縦壁部311、天板部312、フランジ部313、突出部315を含む。
縦壁部311、天板部312、およびフランジ部313はそれぞれ長尺かつ平板状である。天板部312は、2つの突出部315を介して、天板部312に隣接する2つの縦壁部311を結んでいる。
突出部315は、縦壁部311と天板部312とを結ぶコーナー部分の境界部から、外側に向かって突出している。突出部315のうち、少なくとも先端部315t側には、重ね合わせ部315dが存在する。
重ね合わせ部315dでは、縦壁部311から延びる鋼板302(縦壁部311から延びる鋼板の一部)が、天板部312から延びる鋼板301を挟んで配置されることで、挟み込み部316を介して重ね合わされている。
縦壁部311から延びる鋼板302は、先端部315tにおいて逆方向に曲げられている。重ね合わせ部315dは、全体としては平板状である。
突出部315を除いた成形品300の断面(長手方向に垂直な断面)は、略ハット状である。
図8には、天板部312と突出部315とがなす角度が180°の場合を示す。この場合、天板部312と突出部315とは平行である。
本実施形態の成形品300では、図8に示すように、縦壁部311と重ね合わせ部315dとは、コーナー部317により結ばれている。すなわち、縦壁部311を形成する鋼板302が、当該コーナー部317において曲げられている。
図8の例では、天板部312と突出部315とがなす角度が180°であるため、天板部312と突出部315(あるいは、天板部312と挟み込み部316)との間にコーナー部は存在しない。また、コーナー部317が設けられずに、成形品300の長手方向に垂直な面を断面視した場合、縦壁部311又は天板部312と突出部315とが角度を有して接続されていてもよい。
また、図8に示すように、先端部315tにおいて、縦壁部311を形成する鋼板302は、逆方向に曲げられて内壁面315tiを形成する。
成形品300の長手方向に垂直な断面における重ね合わせ部315dの長さL0は、突出部315の長さ方向に平行な方向において、このコーナー部317と突出部315を構成する鋼板301又は鋼板302との境界点(図示せず)から、先端部315tにおいて曲げられた鋼板301の内壁面315tiまでの距離とする。コーナー部317がない場合には、成形品300の長手方向に垂直な面を断面視した場合、縦壁部311と重ね合わせ部315dとの接続点、あるいは、天板部312と挟み込み部316との接続点から内壁面315tiまでの距離を長さL0とする。
第2実施形態および第3実施形態に係る成形品では、縦壁部を形成する鋼板と天板部を形成する鋼板が別の鋼板で構成される。そのため、成形品の衝突特性に寄与する縦壁部を形成する鋼板の板厚を、天板部を形成する鋼板の板厚よりも厚くすることで、衝突特性を確保しつつ部材の軽量化を図ることができる。
上述の実施形態の成形品では、重ね合わせ部の一部と挟み込み部の一部とが溶接により接合されていてもよい。これにより、突出部の剛性を高めることができ、自動車の構造部材として用いたときの衝突安全性能をより向上させることができる。
たとえば、上述の第1実施形態においては、天板部112から延びる鋼板101aと挟み込み部116とが溶接により接合されていてもよい。あるいは、縦壁部111から延びる鋼板101bと挟み込み部116とが溶接により接合されていてもよい。なお、接合手段は、上述のものを採用できる。
上述の実施形態の成形品では、成形品の長手方向において、突出部を有する突出領域と、突出部を有さない非突出領域とを備えていてもよい。
長手方向の一部のみに突出部が形成されている成形品の一例の斜視図を、図9および図10に模式的に示す。図9又は図10の成形品400(又は成形品500)では、長手方向の両端の領域P2に突出部415(又は突出部515)が形成されておらず、長手方向の中央の領域P1に突出部415(又は突出部515)が形成されている。
このように構成することで、プレス成形品を他の部材と組み合わせて構造部材とした場合に、他の部材が形状の制約を受けることなく、かつ所望の衝突安全性能を得ることができる。
成形品400(又は成形品500)の長手方向における領域P1の長さは、成形品400(又は成形品500)の長手方向の全長の30%以上であってもよい。
突出部415(又は突出部515)が形成される領域P1においては、その長手方向の全長にわたり挟み込み部416(又は挟み込み部516)が設けられていてもよく、第1実施形態の例と同様に、複数の挟み込み部416(又は挟み込み部516)が所定の間隔を有して一列に並んで配置されてもよい。
上述の実施形態の成形品では、重ね合わせ部を形成する鋼板の極限変形能を|εt|、重ね合わせ部を形成する鋼板の板厚をt、挟み込み部の板厚をtaとしたとき、下記(式1)を満たしかつ、重ね合わせ部を形成する鋼板の一様伸びが5%超であるように構成してもよい。
|εt|>ln((2t+ta)/(t+ta)) ...(式1)
鋼板の「極限変形能|εt|」は、平面ひずみ引張における極限変形能として定義できる。具体的には、板厚t0の板を引張変形させて、板の幅方向の収縮がないと仮定した、平面ひずみ状態で板を破断させたときの破断部位の板厚をt1としたとき、極限変形能|εt|は以下の(式A)で表すことができる。
平面ひずみ状態で板を破断させる方法は、溝付き引張試験、中島法、Marciniak法を採用することができる。
|εt|=ln(t1/t0) ...(式A)
鋼板の「一様伸び」は、引張試験において、試験片の平行部がほぼ一様に変形する永久伸びの限界値を意味する。具体的には、JIS Z 2241(2011)に規定される引張試験によって得られる一様伸びとして定義できる。
上述の実施形態の成形品では、重ね合わせ部を形成する鋼板が折り曲げられた先端部の内壁面から挟み込み部までの距離をLとして、挟み込み部の板厚をtaとしたとき、下記(式2)を満たすように構成してもよい。
0≦L≦5ta ...(式2)
上述の実施形態では、先端部を構成する鋼板の内壁面から挟み込み部までの距離をLとして定義する。
距離Lは、L≦5taを満たす。すなわち、距離Lが、挟み込み部の板厚taの5倍以内に規定される。また、距離Lは、L≧0を満たす。
あるいは、上記の(式1)を満たす場合、距離LはL0以下であってもよい。
挟み込み部の端部は、その形状が加工され、成形品の長手方向に垂直な断面において、半円形状、半楕円形状、三角形状など、種々の態様をとることができ、これにより距離Lを0とすることができる。
上述の実施形態の成形品は、様々な用途に利用できる。たとえば、各種の移動手段(自動車、二輪車、鉄道車両、船舶、航空機)の構造部材や、各種機械の構造部材に用いることができる。
自動車の構造部材の例には、サイドシル、ピラー(フロントピラー、フロントピラーロア、センターピラー等)、ルーフレール、ルーフアーチ、バンパー、ベルトラインレインフォースメント、およびドアインパクトビームが含まれ、これら以外の構造部材であってもよい。
上述の実施形態に係る成形品は、そのまま各種の構造部材として用いることが可能である。あるいは、上述の実施形態に係る成形品は、他の部材(たとえば鋼板部材)と組み合わせて用いてもよい。
ここで、鋼板部材とは、鋼板で形成された部材である。以下の実施形態で説明する構造部材は、上述した実施形態のプレス成形品を含む。なお、以下で説明する自動車用の構造部材は、自動車以外の製品の構造部材として用いることが可能である。
構造部材の一例としては、上述した実施形態の成形品と、成形品と閉断面を構成するように成形品に固定された鋼板部材とを含むように構成された構造部材が挙げられる。すなわち、成形品と鋼板部材とは、中空体を構成してもよい。
上述した実施形態の成形品と、その成形品の2つのフランジ部に固定された1つの鋼板部材とを含むようにしてもよい。換言すれば、当該鋼板部材は、成形品の2つのフランジ部を結ぶように当該2つのフランジ部に固定されるようにしてもよい。
フランジ部には、他の部材がさらに固定されてもよい。鋼板部材の一例は、上述した実施形態のプレス成形品である。その場合の一例では、互いに固定される2つのプレス成形品は、それぞれの内側が対向するように向かい合わされて固定される。鋼板部材の例には、鋼板(裏板)や上述した実施形態の成形品ではない成形品が含まれてもよい。
成形品がフランジ部を含まない場合、鋼板部材は、閉断面を構成するように成形品の縦壁部に固定されてもよい。たとえば、鋼板部材の端部にフランジ部を設け、このフランジ部と成形品の縦壁部とを固定してもよい。
すなわち、上記実施形態に記載の成形品と、成形品に固定された鋼板部材とを含み、成形品の長手方向に垂直な面を断面視した場合、成形品と鋼板部材とが閉断面を構成する構造部材としてもよい。
成形品と鋼板部材との固定方法に特に限定はなく、状況に応じて適切な固定方法を選択すればよい。固定方法の例には、溶接、接着剤、ろう付け、リベット、ボルト締め、および、摩擦攪拌接合からなる群より選ばれる少なくとも1つが含まれる。これらの中でも、溶接は実施が容易である。溶接の例には、抵抗スポット溶接およびレーザー溶接が含まれる。
また、上述した実施形態の成形品のフランジ部の一部のみが他の鋼板部材に固定されていてもよい。その場合、フランジ部の他の部分は他の鋼板部材に固定されていない。たとえば、上述の実施形態の成形品のフランジ部のうち長手方向の両端部付近のフランジ部のみが他の鋼板部材に固定され、それ以外のフランジ部は他の鋼板部材に固定されていなくてもよい。
また、構造部材において、前記2つの縦壁部と前記天板部のうちの少なくとも一方、又は、前記2つの縦壁部のうちの少なくとも一方の縦壁部と前記天板部のそれぞれ、に接合された補助部材をさらに含んでもよい。
以上に説明した実施形態に係る成形品は、突出部において重ね合わせ部と挟み込み部とを備えることで、衝撃を受けた際に、突出部の曲げ変形抵抗が大きくなり、衝突特性を高くすることが可能となる。
以下、本発明に係る成形品の製造方法について説明する。本発明に係る成形品の製造方法は、上述した実施形態の成形品を製造するための方法である。
上述した実施形態の成形品について説明した事項は以下に説明する製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、以下の製造方法について説明した事項は、上述した実施形態の成形品に適用できることも自明である。
以下の実施形態の製造方法は、第1工程と第2工程とを含む。
第1工程は、2つの縦壁部となる2つの縦壁部相当部、天板部となる天板部相当部、および突出部となる突出部相当部、ならびに挟み込み部となる挟み込み部相当部を含む素材鋼板を変形させることによって、天板部相当部に対して2つの縦壁部相当部が同じ方向に曲がっている状態にある変形鋼板(変形された鋼板)を得る工程である。
第2工程は、変形鋼板をホットプレス成形することによって、プレス成形品を形成する工程である。第2工程において、突出部相当部の少なくとも一部を、挟み込み部となる挟み込み部相当部を挟んで重ね合わせることによって突出部を形成する。
変形鋼板において、縦壁部相当部、天板部相当部、挟み込み部相当部、および突出部相当部の間には、通常、明確な境界はない。しかし、それらの間に何らかの境界があってもよい。
変形鋼板は、荷重を除いたときに変形が解消される弾性変形の状態にあってもよいし、荷重を除いても変形が解消されない塑性変形の状態にあってもよい。すなわち、変形鋼板は、塑性変形の状態または弾性変形の状態にあってもよい。塑性変形の状態にある変形鋼板を、以下では「予備成形品」と称する場合がある。
第1工程に特に限定はなく、公知のプレス成形によって行ってもよい。
第2工程については後述するが、第2工程では、ホットプレス成形を利用する。第2工程によって得られたプレス成形品は、さらに後処理されてもよい。
第2工程によって得られた(またはその後の後処理によって得られた)成形品は、そのまま用いられてもよいし、他の部材と組み合わせて用いられてもよい。
以下では、出発材料である鋼板(素材鋼板)を「ブランク」と称する場合がある。ブランクは通常、平板状の鋼板であり、製造されるプレス成形品の形状に応じた平面形状を有する。
ブランクの厚さおよび物性は、プレス成形品に求められる特性に応じて選択される。
たとえば、プレス成形品が自動車用の構造部材である場合には、それに応じたブランクが選択される。ブランクの厚さは、たとえば0.4mmから4.0mmの範囲にあってもよく、0.8mmから2.0mmの範囲にあってもよい。上述の実施形態の成形品の肉厚は、ブランクの厚さと加工工程とによって決まり、ここで例示したブランクの厚さの範囲にあってもよい。
ブランクは、挟み込み部となる挟み込み部相当部を有している。
また、ブランクは、先端部となる先端部相当部を有していてもよい。先端部相当部は、突出部相当部に含まれていてもよい。
ブランクは、引張強度が340MPa以上(たとえば、引張強度が500〜800MPa、490MPa以上、590MPa以上、780MPa以上、980MPa以上、または1200MPa以上)の高張力鋼板(ハイテン材)であることが好ましい。
構造部材としての強度を保ちつつ軽量化を図るためには、成形品の引張強度が高いことが好ましく、590MPa以上(たとえば、780MPa以上、980MPa以上、または1180MPa以上)のブランクが用いられることがより好ましい。
ブランクの引張強度の上限に限定はなく、一例では2500MPa以下である。本実施形態のプレス成形品の引張強度は、通常はブランクの引張強度と同等かそれよりも高く、ここで例示した範囲にあってもよい。
素材鋼板(ブランク)の引張強度が590MPa以上である場合、ブランクと同等以上のプレス成形品を得るためには、第2工程がホットプレス成形(ホットスタンピング、熱間プレスとも称する)によって行われることが重要である。
引張強度が590MPa未満のブランクを用いる場合でも、第2工程をホットスタンピングによって行ってもよい。ホットスタンピングを行う場合、それに適した公知の組成を有するブランクを用いてもよい。
従来の製造方法では、ブランクの引張強度が高い場合、冷間プレスでは突出部の先端部で割れが生じる恐れがあったが、本発明に係る製造方法によれば、成形品において挟み込み部となる挟み込み部相当部を有するため、引張強度が高いブランクを使用した場合にも、突出部などでしわや割れが生じることを抑制できる。
たとえば、成形後の鋼板の引張強度が1200MPa以上(たとえば1500MPa以上または1800MPa以上)となる場合には、第2工程をホットスタンピングによって行うことで、良好な成形性で、成形品の製造を行うことができる。
成形後の鋼板の引張強度が1200MPa未満となる場合でも、第2工程をホットスタンピングによって行うことで、良好な成形性で、容易に成形品の製造を行うことができる。
特許文献3および4では、ホットスタンピングを用いた製造方法は開示されていない。しかし、上記のように、引張強度が590MPa以上であるプレス成形品を得るためには、第2工程をホットスタンピングによって行うことがより好ましい。
なお、ホットスプレス成形においては、所望の強度を確保するため、ブランクの化学組成として、C量は0.09〜0.40質量%有することがより好ましい。また、Mnも同様に1.0〜5.0質量%有することがより好ましい。また、Bも同様に0.0005〜0.0500質量%有することがより好ましい。
また、焼き入れ後の引張強度1500MPa以上となるブランクの代表的な化学組成は、特に限定されないが、C:0.19〜0.23質量%、Si:0.18〜0.22質量%、Mn:1.1〜1.5質量%、Al:0.02〜0.04質量%、Ti:0.015〜0.030量%、B:0.0010〜0.0020質量%であることが好ましく、例えば、C:0.20質量%、Si:0.20質量%、Mn:1.3質量%、Al:0.03質量%、Ti:0.020質量%、B:0.0015質量%である。
第1工程での変形は、通常、それほど大きくはない。そのため、ブランクの引張強度とは無関係に、第1工程は、通常、冷間加工(たとえば冷間プレス)で行うことができる。ただし、必要に応じて第1工程を熱間加工(たとえば熱間プレス)で行ってもよい。
第2工程でホットスタンプ成形(ホットスタンピング)を行う場合について説明する。
まず、被加工物(ブランクまたは予備成形品)を所定の焼入れ温度まで加熱する。焼入れ温度は、被加工物がオーステナイト化するA3変態点(より具体的にはAc3変態点)よりも高い温度であり、たとえば910℃以上であってもよい。
次に、加熱した被加工物を、プレス装置でプレスする。被加工物は加熱されているため、大きく変形させても割れが生じにくい。被加工物をプレスする際に被加工物を急冷する。この急冷によって、プレス加工の際に被加工物が焼入れされる。
被加工物の急冷は、金型を冷却したり、金型から被加工物に向けて水を噴出させたりすることによって実施できる。プレス装置によって被加工物を急冷するときの冷却速度は、たとえば、30℃/s以上が好ましい。
ホットスタンピングの手順(加熱およびプレス等)およびそれに用いられる装置に特に限定はなく、公知の手順および装置を用いてもよい。
予備成形品は、長手方向に垂直な断面がU字状であるU字状部を含んでもよい。このU字状部が、2つ縦壁部、天板部、および突出部となる。U字状部の端部には、フランジ部となる部分がつながっていてもよい。
以下の説明において、「断面」という語句は、原則として予備成形品等の部材の長手方向に垂直な断面を意味する。
[二工程による製造方法]
上述した第1工程および第2工程を含み、これらの工程を異なる装置または金型によって実施する成形品の製造方法(二工程による成形品の製造方法)の一例について以下に説明する。
第2工程においては、上型と下型とを含むプレス型と2つのカム型によってプレス成形が行われる。
第2工程においては、(a)天板部相当部を上型と下型によってプレスする工程と、(b)2つの縦壁部相当部を、下型と2つのカム型とによってプレスする工程と、を含む。
以下に説明する第5実施形態の製造方法において、第2工程は、以下の工程(a)および工程(b)を含んでもよい。この第2工程は、変形鋼板が、塑性変形している予備成形品である場合に好ましく用いられる。
工程(a)では、天板部相当部を、対をなす上型と下型とを含むプレス型によってプレスする。工程(b)では、2つの縦壁部相当部を、下型と2つのカム型とによってプレスする。
以下の実施形態の製造方法では、工程(a)および工程(b)の両方が完了したときに突出部が形成されるような金型を用いてもよい。カム型は、主に、プレス方向に対して垂直な方向(水平方向)に移動する。典型的な一例では、カム型は水平方向にのみ移動する。
工程(a)および工程(b)を行うタイミングは、状況に応じて選択でき、いずれかを先に完了させてもよいし、両者を同時に完了させてもよい。また、工程(a)および工程(b)のいずれかを先に開始してもよいし、両者を同時に開始してもよい。
工程(a)および工程(b)の完了のタイミングが異なる第1から第3の例について以下に説明する。
第2工程の第1の例では、工程(a)が完了した後に工程(b)を完了させる。第1の例は、天板部と重ね合わせ部とがなす角度Xが90°より大きく135°以下である場合に好ましく行われる。
なお、工程(a)が完了した後に工程(b)を完了させる限り、工程(a)が完了する前に工程(b)におけるカム型の移動を開始してもよい。
第2工程の第2の例では、工程(b)が完了した後に工程(a)を完了させる。第2の例は、天板部と重ね合わせ部とがなす角度Xが135°以上(たとえば135°から180°の範囲)である場合に好ましく行われる。
なお、工程(b)が完了した後に工程(a)を完了させる限り、工程(b)が完了する前に工程(a)におけるプレス型の移動を開始してもよい。
第2工程の第3の例では、工程(a)および工程(b)を同時に完了させる。工程(a)と工程(b)とが同時に完了する限り、工程(a)におけるプレス型の移動開始時期と、工程(b)におけるカム型の移動開始時期に限定はない。
なお、第2工程をホットプレス成形によって行う場合には、第1工程と第2工程との間に、変形鋼板を加熱する工程をさらに有し、第2工程において、下型の凸部と変形鋼板とが接しない状態で配置する工程をさらに有する。
(第4実施形態)
第4実施形態では、成形品を製造するための方法について説明する。第4実施形態では、第1実施形態で説明したプレス成形品を製造する一例について説明する。
第4実施形態に係る成形品の製造方法では、上述の実施形態に係る成形品の製造方法であって、挟み込み部となる挟み込み部相当部を有する素材鋼板を変形させることによって、長尺形状を有し、挟み込み部相当部、縦壁部となる縦壁部相当部、天板部となる天板部相当部、および突出部となる突出部相当部、を有する変形鋼板を得る第1工程と、変形鋼板をさらにホットプレス成形して成形品を形成する第2工程と、を含み、第2工程において、突出部相当部を重ね合わせかつ、突出部相当部によって挟み込み部相当部を挟み込み、突出部を形成する。
第4実施形態では、塑性変形している予備成形品を変形鋼板として用いる場合について説明する。
図11に、素材鋼板の一例を示す。図11の例では、素材鋼板600は、一枚の鋼板601と、鋼板601に接合された挟み込み部相当部602とを有する。
図12は、図11の素材鋼板600を断面視した図であり、図11の素材鋼板600の長手方向に平行な方向から見た場合の素材鋼板600の断面図である。
図12に示すように、素材鋼板600は、挟み込み部相当部602、縦壁部相当部603、天板部相当部604、突出部相当部605を有する。
まず、第1工程では、2つの縦壁部111となる部分(2つの縦壁部相当部603)、天板部112となる部分(天板部相当部604)、2つの挟み込み部116となる部分(2つの挟み込み部相当部602)および突出部115となる部分(突出部相当部605)を少なくとも含む予備成形品610(変形鋼板)を、素材鋼板600を変形させることによって形成する。
第1工程は、上述した方法(たとえばプレス加工)によって行うことができる。第1工程で形成される予備成形品610の一例の断面(長手方向に垂直な断面)を、図13に模式的に示す。
図13に示すように、予備成形品610は、U字状部611aと、フランジ部113となる平坦部611b(フランジ部相当部)とを含む。U字状部611aは、2つの縦壁部相当部603および天板部相当部604を含み、さらに、突出部相当部605を含む。
予備成形品610では、天板部相当部604に対して2つの縦壁部相当部603が同じ方向に曲がっている状態にある。すなわち、2つの縦壁部相当部603は共に、天板部相当部604の一方の主面側に曲がっている。
予備成形品610の断面は、略ハット状である。また、U字状部611aの断面は、略U字状である。予備成形品610は塑性変形しており、荷重が加わっていない状態において、図13の形状を維持する。
U字状部611aの長さ(断面長さ)をLuとする。さらに、成形品において、縦壁部の高さをHbとし、2つの縦壁部間の幅をWbとする。U字状部611aは、縦壁部相当部603および天板部相当部604に加えて、第2工程によって突出部115となる突出部相当部605を含む。そのため、長さLu、幅Wb、および高さHbは、Wb+2Hb<Luの関係を満たす。
さらに、U字状部611aの幅をWaとし高さをHaとする。通常、Wb≦Waの関係とWb+2Hb<Wa+2Haの関係とが満たされる。
なお、図13に示す予備成形品610のU字状部611aでは、突出部相当部605と他の部分との間には明確な境界がない。
予備成形品610の平坦部611bの端部は下方(天板部112から離れる方向)に下がっていてもよい。以下の図14から図17では、平坦部611bの端部が下がっていない予備成形品610を用いて第2工程を行う一例について説明する。
図18から図21に示すように、平坦部611bの端部が下がっている予備成形品610でも同様に成形が可能である。
第2工程はホットスタンピングによって行われる。そのため、予め、予備成形品を、Ac3変態点以上の温度(たとえばAc3変態点より80℃以上高い温度)にまで加熱する。この加熱は、たとえば、予備成形品を加熱装置内で加熱することによって行われる。
次に、予備成形品610をプレス装置40aによってプレス加工する。プレス加工に用いられるプレス型の構成の一例を図14等に示す。プレス装置40aは、プレス型10、プレート13、伸縮機構14、カム押圧型15、およびカム型(スライド型)21を含む。
プレス型10は、対となる上型11と下型12とを含む。下型12は、凸面が上型11の方向を向く凸部12aを含む。
カム押圧型15およびカム型21はそれぞれ、カム機構として働く傾斜面15aおよび21aを有する。カム押圧型15は、伸縮可能な伸縮機構14を介してプレート13に固定されている。伸縮機構には、バネおよび油圧シリンダ等の公知の伸縮機構を用いることができる。
プレート13の下降に伴って、上型11およびカム押圧型15が下降する。カム押圧型15の下降に伴い、カム型21がカム押圧型15に押されて下型12の凸部12a側に移動する。
よく知られているように、カム型21の移動のタイミングは、傾斜面15aおよび21aの位置および形状を変化させることによって調整できる。すなわち、それらの調整によって、上述した工程(a)の完了および工程(b)の完了のタイミングを調整できる。
上記の例では、カム機構によってカム型21を移動させている。しかし、カム機構を用いずに、油圧シリンダ等によってカム型21が、他の型の移動に依存せずに、独立して移動するような構成としてもよい。
この実施形態では、上型11とカム押圧型15とがプレート13を介してプレス機の同じスライドに取り付けられている一例について例示している。しかし、上型11とカム押圧型15とをプレス機の別々のスライドに取り付け、それらを個別に動作させてもよい。
また、この実施形態では、カム押圧型15が押し当てられることによってカム型21が移動する一例について例示している。しかし、カム型21に直接取り付けた駆動装置によって、カム型21を独立して移動させてもよい。
プレス型10およびカム型21は、冷却機能を有する。たとえば、ホットスタンプ成形を採用する場合、プレス型10およびカム型21は、それらの内部を冷却水が循環するように構成されてもよい。冷却された金型を用いてプレスを行うことによって、加熱された予備成形品610が成形および冷却される。その結果、プレス成形と焼入れとが同時に行われる。
なお、金型から水を噴出させることによって冷却を行ってもよい。
図14の装置を用いてプレス成形する工程の一例について説明する。
図14から図17に、上述した第2の例の方法で第2工程を行う場合の一例を模式的に示す。この第2の例の方法は、角度Xが135°から180°の範囲にある場合に好ましく用いられる。
まず、図14に示すように、上型11と下型12との間に予備成形品610を配置する。
このとき、下型12の凸部12aと予備成形品610とが接しない状態で配置することが重要である。
第2工程はホットスタンピングによって行われるため、上型11と下型12との間に予備成形品610を配置する際に、変形鋼板610のU字状部611a(挟み込み部相当部602、縦壁部相当部603、天板部相当部604、突出部相当部605を含む領域)、が下型12の凸部12aと接した状態であると、変形鋼板610において下型12の凸部12aと接している個所は下型12によって冷却される。
この場合、プレス成形時に、ホットプレスに必要な鋼板温度を維持できなくなる。このため、プレス成形品に割れやしわが生じる虞があり、所望の強度を得ることができなくなる。また、焼入れに必要な冷却速度を得ることができず。所望の強度を得ることができなくなる。
特に、変形鋼板610の突出部115となる部分(突出部相当部605)とその近傍においては、割れやしわが生じやすいため、下型12の凸部12aと接しない状態で、変形鋼板610を配置することが重要である。
次に、プレート13を下降させる。カム型21は、プレート13に伴って下降するカム押圧型15に押され、凸部12a側にスライドする。
その結果、図15に示すように、下型12(凸部12a)とカム型21とが、縦壁部111となる部分をプレスして拘束する。このようにして、工程(b)が完了する。
次に、図16に示すように、プレート13をさらに下降させ、それによって天板部112となる部分のプレスを開始する。このとき、伸縮機構14が縮む。
予備成形品610は突出部相当部605を有するため、その突出部相当部605がカム型21側に張り出す。
次に、図17に示すように、上型11を下死点まで下降させ、天板部112となる部分を上型11と下型12(凸部12a)とでプレスして拘束する。このようにして、工程(a)が完了する。
以上のようにして、プレス成形が完了する。突出部相当部605は、上型11とカム型21との間で折り重ねられて、重ね合わせ部115dを有する突出部115となる。そして、重ね合わせ部115dの間には、挟み込み部116が挟まれる。
このようにして、成形品100が得られる。
第2工程でホットスタンピングを行うときに、突出部の焼き入れ性を確保するため、すなわちプレス成形品の突出部の引張強度をホットスタンピングの所定の狙い強度とするためには、成形時の冷却速度を低下させないで成形する必要がある。
この観点からすると、突出部以外においては、鋼板の両面が金型と接触するため、両面から材料が冷却されて所定の冷却速度を確保することができる。
一方、突出部では、鋼板の片面(プレス成形品の外側)からしか冷却されないため、冷却速度が低下して所望の引張強度が得られない場合がある。そのため、プレス成形品の突出部の角度Xが135°から180°の範囲にある場合には、カム型21で縦壁部を成形した後に上型11で天板部を成形することが好ましい。
次に、上述した第1の例の方法で第2工程を行う場合の一例について説明する。図18から図21に、各工程を模式的に示す。この第1の例の方法は、角度Xが90°より大きく135°以下である場合に好ましく用いられる。
図18から図21では、フランジ部113となる平坦部611bの端部が下方に曲がっており、下型12がそれに対応する形状を有する場合について示す。このような構成によれば、平坦部611bの端部を、カム型21の下面と下型12との間に入れることが容易になる。
図14から図17に示すように、平坦部611bの端部が下方に曲がっていなくてもよい。すなわち、本実施形態の製造方法において、予備成形品のうちフランジ部となる部分の端部が、下方に曲がっていてもよいし、曲がっていなくてもよい。フランジ部となる部分の端部が下方に曲がっている場合、それに対応する凹部が下型に形成されていてもよい。
図18に示す装置では、伸縮可能な伸縮機構14を介して上型11がプレート13に固定されている。一方、カム押圧型15は、伸縮機構14を介さずにプレート13に固定されている。
この第2工程では、まず、図18に示すように、上型11と下型12との間に予備成形品610を配置する。
このとき、下型12の凸部12aと予備成形品610とが接しない状態で配置することが重要である。
次に、図19に示すように、プレート13を下降させ、上型11と下型12(凸部12a)とによって、天板部112となる部分をプレスして拘束する。このようにして、工程(a)が完了する。
次に、伸縮機構14を収縮させながらプレート13をさらに下降させる。これによって、図20に示すように、カム型21を凸部12a側にスライドさせる。予備成形品610は突出部相当部605を有するため、その突出部相当部605が上方に張り出す。
次に、図21に示すように、プレート13を下死点まで下降させ、カム型21と下型12(凸部12a)とによって縦壁部となる部分をプレスして拘束する。このとき、突出部相当部605は、上型11とカム型21との間で折り重ねられて突出部115となる。そして、重ね合わせ部115dの間には、挟み込み部116が挟まれる。このようにして、工程(b)が完了する。
以上のようにしてプレス成形が完了し、成形品100が得られる。
第2工程の第3の例として上述したように、第2工程において、工程(a)および工程(b)を同時に完了させてもよい。金型の形状および配置を調整することによって、工程(a)および工程(b)を同時に完了させることができる。
ホットスタンピングによって第2工程を行う場合、第2工程において適正な焼入れを行うために、金型(プレス型10およびカム型21)の移動が完了した時点で、それらの金型と成形品100とが密着していることが好ましい。
第2工程で得られた成形品100は、必要に応じて後処理がなされる。得られた成形品は、必要に応じて他の部品と組み合わされて用いられる。
第2工程は、プレス型の上型および下型の少なくとも一方から突出するピンを含むプレス型を用いて行ってもよい(他の実施形態においても同様である)。そのような第2工程の一例を、図22に模式的に示す。また、図23は、実際に製造した一例の一工程を示す写真である。
図22のプレス装置40bは、下型12の凸部12aから突出するピン16を含む。上型11には、上型11が下降したときにピン16が挿入される穴11hが形成されている。ピン16は、予備成形品610に形成された貫通孔に挿入される。その状態で第2工程のプレス成形を行うことによって、突出部を精度よく形成できる。なお、プレス型は、ピン16が上方から押圧されたときにピン16の少なくとも一部が下型12内に収納される機構を有してもよい。
成形品の突出部の角度Xが90°より大きく135°以下である場合、プレス成形品の突出部の冷却速度を高めて狙いの強度を得るためには、上型11で天板部を成形した後にカム型21で縦壁部を成形することが好ましい。
[一工程による製造方法]
上述した第1工程および第2工程を含む製造方法のその他の一例について以下に説明する。この一例の製造方法によれば、1つの装置によって第1工程および第2工程を実施することが可能である。
この製造方法では、第1工程の前に素材鋼板を加熱する工程を含み、第1工程および第2工程は、上型、下型、および鉛直方向および水平方向に移動可能な2つの移動型を含むプレス装置を用いて行われる。
当該下型は、パンチ型と、パンチ型を挟むように配置されかつ少なくとも鉛直方向に移動可能な2つの可動プレートを含む。そして、第1工程は、以下の工程(Ia)および工程(Ib)をこの順に含み、第2工程は、以下の工程(IIa)および工程(IIb)をこの順に含む。
ここで、移動型の移動可能な方向として、鉛直方向および水平方向とは、単なる鉛直方向の一方向および単なる水平方向の一方向のみならず、鉛直方向および水平方向の両方向が重なった斜めの方向を含んでもよい。
工程(Ia)は、上型および2つの移動型と、下型との間に挟み込み部となる挟み込み部相当部を有する素材鋼板を配置する工程である。
素材鋼板としては、図11又は図12に示す素材鋼板600を用いる。図11又は図12に示す素材鋼板600を変形させることで、上述の第1実施形態の成形品を得ることができる。
第1工程の前に素材鋼板を加熱する工程を含み、工程(Ia)では、上型および2つの移動型と、下型との間に、パンチ型と素材鋼板が接しない状態で、素材鋼板を配置する。
工程(Ib)は、2つの移動型を2つの可動プレートと共に下降させかつ、前記2つの移動型をパンチ型に向かって移動させることによって、2つの移動型と可動プレートとの間に2つのフランジ部相当部を挟み込んだ状態で変形鋼板を得る工程である。
あるいは、工程(Ib)は、2つの移動型を2つの可動プレートと共に下降させかつ、2つの移動型をパンチ型に向かって移動させることによって、素材鋼板の端部をパンチ型に接近させて変形鋼板を得る工程である。
工程(IIa)は、2つの移動型をパンチ型に向かってさらに移動させることによって、2つの縦壁部相当部を2つの移動型とパンチ型の側面部とによって拘束する工程である。
なお、工程(IIa)では、パンチ型の上面部と変形鋼板が接しない状態を維持したままで、2つの縦壁部相当部を2つの移動型とパンチ型の側面部とによって拘束する。
工程(IIb)は、上型を下降させることによって、天板部相当部を上型とパンチ型とによって拘束する工程である。
上述の工程を経ることで、上型と移動型との間で突出部相当部の少なくとも一部を重ね合わせ、これによって挟み込み部相当部を挟み込み、突出部および挟み込み部が形成されたプレス成形品を形成する。
なお、以下の実施形態の製造方法では、天板部相当部に貫通孔が形成されていてもよい。そして、第2工程において、プレス型から突出するピンを当該貫通孔に通すことによって天板部相当部の移動を抑制してもよい。ピンは、通常、プレス型の上型および下型のうちのいずれか一方から突出する。
プレス型の他方には、ピンが通る貫通孔が形成される。貫通孔は、一般的にブランクの段階で形成されるが、第2工程の前の他の段階で形成されてもよい。なお、第1工程においても、ピンを貫通孔に通すことによってブランクの移動を抑制してもよい。
以下では、一工程による製造方法について図面を参照しながら説明する。以下で説明する実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されず、上述した様々なバリエーションを適用できる。以下の説明では、同様の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。
(第5実施形態)
第5実施形態では、プレス成形品を製造するための一工程による製造方法の一例について説明する。この製造方法は、上述した工程(Ia)、(Ib)、(IIa)、および(IIb)を含む。この製造方法で製造されるプレス成形品は、2つのフランジ部を含む。そのため、変形鋼板は、2つのフランジ部となる2つのフランジ部相当部を含む。
第5実施形態に係る成形品の製造方法では、上述の実施形態に係る成形品の製造方法であって、上型、下型、並びに鉛直方向および水平方向に移動可能な移動型を含むプレス装置を用いて行われ、下型は、パンチ型と、パンチ型を挟むように配置されかつ少なくとも鉛直方向に移動可能な可動プレートを含み、挟み込み部となる挟み込み部相当部を有する素材鋼板を加熱する工程と、(Ia)上型および移動型と下型との間に、パンチ型と素材鋼板が接しない状態で、素材鋼板を配置する工程と、(Ib)移動型を可動プレートと共に下降させかつパンチ型に向かって移動させることによって、素材鋼板の端部をパンチ型に接近させて変形鋼板を得る工程と、(IIa)移動型をパンチ型に向かってさらに移動させることによって、パンチ型の上面部と変形鋼板とが接しない状態を維持したままで、変形鋼板の一部を移動型とパンチ型の側面部とによって拘束する工程と、(IIb)上型を下降させることによって、変形鋼板の一部を上型とパンチ型とによって拘束する工程と、を含み、上型と移動型との間で、変形鋼板の一部を重ね合わせることによって挟み込み部相当部を挟み込み、突出部を形成する。
この製造方法では、第1工程および第2工程が一つのプレス装置で実施される。
そのため、ホットスタンピングによってプレス成形を行う場合には、第1工程の前に素材鋼板(ブランク)を加熱しておく必要がある。
この製造方法で用いられるプレス装置の一例を図24に示す。図24のプレス装置40cは、上型50、下型60、2つの移動型51、およびプレート63を含む。
2つの移動型51はそれぞれ、鉛直方向および水平方向に移動可能である。下型60は、パンチ型61と、パンチ型61を挟むように配置されかつ鉛直方向に移動可能な2つの可動プレート64を含む。
なお、図24には、可動プレート64が、伸縮機構64aを介してプレート63に接続されている一例について示す。伸縮機構64aには、伸縮機構61bについて例示した機構を用いることができる。なお、可動プレート64に直接取り付けた駆動装置によって、可動プレート64を移動型51と独立して移動させてもよい。
プレス装置40cを用いてプレス成形品を製造する製造工程の一例について以下に説明する。まず、図24に示すように、上型50および移動型51と、下型60との間に素材鋼板B1を配置する(工程(Ia))。
素材鋼板B1は、中央に天板部相当部を有し、その両側に順に、突出部相当部、縦壁部相当部、およびフランジ部相当部を含む。工程(Ia)では、図24に示すように、上型50および2つの移動型51と、下型60との間に、パンチ型61と素材鋼板B1が接しない状態で、素材鋼板B1を配置することが重要である。
素材鋼板B1は、中央に天板部相当部(図示せず)を有し、その両側に順に、突出部相当部(図示せず)、縦壁部相当部(図示せず)、およびフランジ部相当部(図示せず)を含む。また、素材鋼板B1は、挟み込み部相当部602を有する。
素材鋼板B1としては、図11又は図12に示す素材鋼板600を用いることができる。図11又は図12に示す素材鋼板600を変形させることで、上述の第1実施形態の成形品を得ることができる。
次に、図25に示すように、2つの移動型51を下降させて2つの移動型51の段部51aと可動プレート64との間に2つのフランジ部相当部を挟み込み、さらに2つの移動型51を2つの可動プレート64と共に下降させかつ、2つの移動型51をパンチ型61に向かって移動させることによって、変形鋼板610を得る(工程(Ib))。
このとき、2つの移動型51と可動プレート64との間に2つのフランジ部相当部を挟み込んだ状態である。
次の第2工程では、上型50を下降させることによって、天板部相当部を上型50とパンチ型61とによってプレスするとともに上型50と移動型51との間で突出部相当部の少なくとも一部を重ね合わせて挟み込み部相当部602を挟み込み、突出部115を形成する。
第2工程の一例を以下に説明する。
まず、図26に示すように、2つの移動型51をパンチ型61に向かってさらに移動させることによって、2つの縦壁部相当部を2つの移動型51とパンチ型61の側面部とによって拘束する(工程(IIa))。この工程によって、縦壁部相当部が、所定の位置に拘束される。
このとき、移動型51の移動に伴って、2つのフランジ部相当部(フランジ部)は、可動プレート64上からパンチ型61上に移動する。
図26に示すように、パンチ型61は、フランジ部に対応する形状を有する部分(段差部)を含む。工程(IIa)の際には、当該部分と可動プレート64とを、ほぼ面一とする。工程(IIa)において、フランジ部相当部は、移動型51と可動プレート64との間に配置された状態から、移動型51とパンチ型61との間に配置された状態に移行する。
フランジ部相当部を挟む両者の間の間隔は、フランジ部相当部の板厚に0.1から0.3mm程度プラスした長さであることが好ましい。このような構成によれば、水平方向へのなめらかな移動が可能になる。
次に、図27に示すように、上型50を下降させることによって、天板部相当部を上型50とパンチ型61とによってプレスするとともに、上型50と移動型51との間で突出部相当部の少なくとも一部を重ね合わせ挟み込み部相当部を挟み込み、突出部115および挟み込み部116を形成する、これによって成形品100を形成する(工程(IIb))。
なお、上記の工程(IIa)では、2つの移動型51を下降させて2つの移動型51と可動プレート64との間に2つのフランジ部相当部を挟み込み、さらに2つの移動型51を下死点まで下降させる。その後に、2つの移動型51を水平方向に移動させることによって、2つの縦壁部相当部を2つの移動型51とパンチ型61とによって拘束する(図26参照)。
これに対し、2つの移動型51を下降させて2つの移動型51と可動プレート64との間に2つのフランジ部相当部を挟み込み、その後に、2つの移動型51を斜めの方向に移動させることによって、2つの縦壁部相当部を2つの移動型51とパンチ型61とによって拘束してもよい(図26参照)。
次に、図28に示すように、突出部115から離れるまで移動型51を水平方向に移動させた後に、移動型51、可動プレート64、および上型50を上昇させる。そして、成形品100をプレス装置40cから搬出する。プレス装置40cを用いるこの製造方法では、移動型51と可動プレート64とを同時に上昇させることができる。そのため、製造に要する時間を短縮することが可能である。
図24から図28で説明した一例では、フランジ部相当部(またはフランジ部)の全体が、工程(IIa)および工程(IIb)において、パンチ型61上に配置されている。以下では、フランジ部相当部(またはフランジ部)の少なくとも一部が、工程(IIa)および工程(IIb)において、可動プレート64上に配置される一例について説明する。
この一例の製造工程を、図29から図33に示す。図24から図28で説明した一例と同様の部分については、重複する説明を省略する場合がある。
この製造方法で用いられるプレス装置の一例を図29に示す。図29のプレス装置40dは、図24に示したプレス装置40cと比較して、パンチ型61の形状、および、可動プレート64の長さが異なる。プレス装置40dのパンチ型61は、フランジ部相当部(またはフランジ部)の全体を載せる形状とはなっておらず、その分だけ可動プレート64が長くなっている。
プレス装置40dを用いてプレス成形品を製造する製造工程の一例について以下に説明する。まず、図29に示すように、上型50および移動型51と、下型60との間に素材鋼板B1を配置する(工程(Ia))。
次に、図30に示すように、2つの移動型51を下降させて2つの移動型51と可動プレート64との間に2つのフランジ部相当部を挟み込んだ状態で、変形鋼板610を得る(工程(Ib))。
次の第2工程では、上型50を下降させることによって、天板部相当部を上型50とパンチ型61とによってプレスするとともに上型50と移動型51との間で突出部相当部の少なくとも一部を重ね合わせて挟み込み部相当部602を挟み込み、突出部115を形成する。第2工程の一例を以下に説明する。
まず、図31に示すように、2つの移動型51をパンチ型61に向かって移動させることによって、2つの縦壁部相当部を2つの移動型51とパンチ型61の側面部とによって拘束する(工程(IIa))。この工程によって、縦壁部相当部が、所定の位置に拘束される。この製造方法では、図26に示した製造方法とは異なり、2つのフランジ部相当部(フランジ部)は、依然として可動プレート64上に存在する。
次に、図32に示すように、上型50を下降させることによって、天板部相当部を上型50とパンチ型61とによってプレスするとともに、上型50と移動型51との間で突出部相当部の少なくとも一部を重ね合わせ挟み込み部相当部を挟み込み、突出部115および挟み込み部116を形成する、これによって成形品100を形成する(工程(IIb))。
次に、図33に示すように、上型50、移動型51、および可動プレート64を上昇させる。また、移動型51を水平方向に移動させる。この製造方法では、可動プレート64の上昇に伴って成形品100が上昇するため、上型50、移動型51、および可動プレート64を同時に上昇させることができる。プレス装置40dを用いるこの製造方法では、製造に要する時間をさらに短縮することが可能である。
なお、第5実施形態においては、フランジ部を含む成形品を製造する例を示したが、移動型に団部が設けられず、移動型と可動プレートが変形鋼板を挟まない状態で成形を行うように構成されてもよい。
図34に、素材鋼板の他の一例を示す。図34の例では、素材鋼板700は、天板部相当部を含む鋼板701と、縦壁部相当部を含む鋼板702から構成される。
図35は、図34の素材鋼板700を断面視した図であり、図34の素材鋼板700の長手方向に平行な方向から見た場合の素材鋼板700の断面図である。図35に示すように、素材鋼板700は、挟み込み部相当部703、縦壁部相当部704、天板部相当部705、突出部相当部706を有する。
図34又は図35に示す素材鋼板700を変形させることで、上述の第2実施形態の成形品を得ることができる。
図36に、素材鋼板の他の一例を示す。図36の例では、素材鋼板800は、天板部相当部を含む鋼板801と、縦壁部相当部を含む鋼板802から構成される。
図37は、図36の素材鋼板800を断面視した図であり、図36の素材鋼板800の長手方向に平行な方向から見た場合の素材鋼板800の断面図である。図37に示すように、素材鋼板800は、挟み込み部相当部803、縦壁部相当部804、天板部相当部805、突出部相当部806を有する。
図36又は図37に示す素材鋼板800を変形させることで、上述の第3実施形態の成形品を得ることができる。
上述の第4実施形態および第5実施形態の説明では、図11又は図12に示す素材鋼板600を用いる例を説明したが、これに替えて、素材鋼板700又は800も同様に用いることができる。
上記の実施形態に係る成形品の製造方法により、良好な成形性で、高強度かつ三点曲げ試験における特性が高い成形品を得ることができる。
[実施例]
本発明について、次の実施例によって、より詳細に説明する。
(実験例1)
実験例1では、本発明に係る成形品について、挟み板部を設けずに作成した成形品に対する最大荷重の向上効果を検証した。
上記実施形態で説明した挟み板を有する成形品と挟み板を有さない成形品とを用いた構造部材について、三点曲げ試験のシミュレーションを行った。シミュレーションには、汎用のFEM(有限要素法)ソフト(LIVERMORE SOFTWARE TECHNOLOGY社製、商品名LS‐DYNA)を用いた。
シミュレーションに用いたサンプルの断面図を、図38に模式的に示す。図38の構造部材は、上記実施形態の成形品100と、そのフランジ部113に溶接された裏板221とからなる。図38に示したサンプルのサイズは以下の通りである。
図38では、挟み板の記載は省略している。
・角度X:180°
・角度Y:90°
・突出部の長さD:15mm
・縦壁部の高さHb1:60mm
・2つの突出部の先端部間の幅Wt1:80mm
・2つの縦壁部間の距離(天板部の幅)Wb1:50mm(80−2D)
・裏板の幅Wp1:90mm(120−2D)
・コーナー部RaおよびRbにおける曲率半径:5mm
・鋼板の板厚:1.4mm
・挟み板の幅:10mm
・長手方向の長さ:1000mm
サンプルは、引張強度が1500MPaである鋼板からなるものであると仮定した。成形品のフランジ部と裏板とは、40mmのピッチでスポット溶接して固定したと仮定した。サンプルは、挟み板を除き、長手方向における単位長さあたりの質量が同じになるように設計した。
シミュレーションで用いた三点曲げ試験の方法を図39に模式的に示す。三点曲げ試験は、2つの支点5にサンプルを載せ、インパクタ6によって上方からサンプルを押すことによって行った。実験例2の試験において、2つの支点5の間の距離Sは400mmとした。支点5の曲率半径は30mmとした。インパクタ6の曲率半径は150mmとした。インパクタ6の衝突速度は7.5km/hとした。
三点曲げ試験では、各サンプルの上方からインパクタ6を衝突させた。インパクタ6の衝突方向を、図38中の矢印で示す。
図40に、挟み板を有する成形品のサンプルについて挟み板の板厚を変化させた場合の、挟み板部を有さない成形品に対する挟み板を有する成形品の最大荷重の向上効果を表すグラフを示す。
図40に示されるように、挟み板部を有さない成形品のサンプルに対して、挟み板を有する成形品のサンプルは、最大荷重が15%以上向上している。
実験例2からわかるように、本発明に係る成形品においては、挟みこみ部(挟み板)を有さない従来の成形品と比較した場合、最大荷重が顕著に向上する。