以下、図面を用いて実施の形態を説明する。なお、以下では、実施の形態の説明において不要な部分についての図示及び説明が省略されている。
図1は、1つの実施の形態の到来角推定システムの第1の例の構成を示す図である。到来角推定システム100は、電子装置1と、送信機20とを有している。
送信機20は、送信用のアンテナ21と、送信用の信号を生成する送信部22とを有し、信号を放射する。送信機20が屋内にある場合等では、送信機20から放射された信号は、壁による反射等によって複数のパスを経由することでマルチパス信号となって電子装置1に到達する。
電子装置1は、信号受信部2を有している。信号受信部2は、アンテナアレイ3と、受信部4とを有している。
アンテナアレイ3は、複数のアンテナ素子を有している。アンテナアレイ3は、送信機20からの到来波を受信し、到来波に応じた受信信号を受信部4に出力する。
受信部4は、アンテナアレイ3から出力された受信信号を処理する。受信部4は、例えば、増幅処理、フィルタ処理、ベースバンド変換処理、A/D変換(アナログ−デジタル変換)処理といった各種の物理層での受信処理を行うための各種の回路を備える。また、受信部4は、必要に応じて、誤り検出及び訂正、パケットの読み出し等のデジタル信号のプロトコル層の処理を行うための回路を備えていてもよい。ここで、受信部4は、例えばアンテナ素子の数分の受信系統を有していてもよい。また、受信部4は、ブルートゥース(登録商標)規格のように1つの受信系統を有し、この受信系統に接続するアンテナ素子を時系列で切り替えてもよい。
また、電子装置1は、処理部5を有している。処理部5は、例えばCPU、ASIC、FPGA又はDSP等のデジタル信号処理器を有している。また、処理部5は、DRAM、SRAM等のメモリを有していてもよい。また、処理部5は、複数のデジタル信号処理器やメモリを有していてもよい。
処理部5は、到来角推定部6と、外れ値判定部7と、置換部8と、サイドローブ・メインローブ対応テーブル記憶部9とを有している。到来角推定部6と、外れ値判定部7と、置換部8とは、例えばソフトウェアによって構成される。もちろん、到来角推定部6と、外れ値判定部7と、置換部8とはハードウェアによって構成されていてもよい。また、サイドローブ・メインローブ対応テーブル記憶部9は、例えば、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリで構成される。
到来角推定部6は、到来波の到来方向を示す到来角を推定する。到来角の推定は、例えば受信信号の復調前の複素信号を使用して行われる。到来角推定部6は、到来角推定のための全てのアンテナ素子分の複素信号を信号受信部2から受け取って無線信号の到来角を推定する。到来角推定部6は、例えばMUSIC法によって到来角を推定する。勿論、到来角推定部6は、他の方式で到来角を推定してもよい。以下、到来角推定部6で推定された到来角を第1の到来角と呼ぶ。
外れ値判定部7は、到来角推定部6で推定された第1の到来角が外れ値であるか否かを第1の基準により判定する。第1の基準による判定については後で詳しく説明する。外れ値判定部7は、第1の到来角が外れ値であるか否かの判定結果を第1の到来角と併せて置換部8に出力する。
置換部8は、第1の到来角が外れ値でなければ第1の到来角をそのまま出力する。一方、置換部8は、第1の到来角が外れ値である場合、サイドローブ・メインローブ対応テーブル記憶部9に記憶されているテーブルを参照し、第1の到来角がサイドローブ角度であるとした場合のメインローブ角度を取得する。サイドローブ角度は、アンテナアレイ3のビーム形成時のサイドローブの方向を示す角度である。メインローブ角度は、アンテナアレイ3のビーム形成時のメインローブの方向を示す角度である。そして、置換部8は、取得したメインローブ角度が外れ値であるか否かを第2の基準により判定する。置換部8は、メインローブ角度が外れ値でなければ第1の到来角に代えてメインローブ角度を出力する。以下、置換部8から出力される到来角を第2の到来角と呼ぶ。
サイドローブ・メインローブ対応テーブル記憶部9は、サイドローブ・メインローブ対応テーブルを記憶している。サイドローブ・メインローブ対応テーブルは、アンテナアレイ3のビーム形成時のサイドローブ角度とメインローブ角度との対応を示すテーブルである。
以下、到来角推定システムの動作を説明する。アンテナアレイからの受信信号を使用する例えばMUSICのような到来角推定方式では、アンテナのステアリングベクトルと受信信号の全部又は一部との相関が検出される。ステアリングベクトルは、アンテナ素子間の位相差及び振幅差を記述するベクトルであり、理想的な平面波が1波のみ到来したときに各アンテナ素子で受信される信号成分の位相差及び振幅差を示している。ステアリングベクトルは、到来角の関数である。
ステアリングベクトルは、既知の到来角からの理想的な平面波を受信するのに最も適したアンテナウェイトを示している。アンテナウェイトによってビームを形成すると、メインローブとは異なる角度にサイドローブが形成される。
図2Aは、4素子円形アンテナアレイで80度の方位にメインローブをむけた場合のアンテナ利得パターンの例を示す図である。図2Aでは、80度方向にメインローブを表すピークがある。一方で、図2Aでは、80度方向とは異なる3つ方向に、サイドローブを表すピークがある。具体的には、図2Aでは205度、278度、337度にサイドローブを表すピークがある。サイドローブは、ビームウェイトであるステアリングベクトルとサイドローブ方向のステアリングベクトルとの相関が高くなっているために発生する。
図2Aの例では仰角は0度である。以下、仰角がほぼ0度で方位のみの検出が行われるとして説明を続ける。方位と仰角の双方を検出する場合には、方位と仰角の組でサイドローブ・メインローブ対応テーブルを作成することでメインローブ角度が取得されてもよい。または、0度でない仰角から無線信号が到来した場合であっても、方位のみのテーブルを参照してメインローブ角度が取得されてもよい。
マルチパスがある場合、コヒーレンスがある複数波は干渉して受信される。複数波に強いコヒーレンスがある場合、MUSICのようなアルゴリズムでは、特殊な事前処理を適用しない限り、複数波は合成された1波にしか見えない。このため、マルチパスがある場合、受信波のアンテナ素子間の位相差及び振幅差は平面波とは異なる。
多くの場合、到来角推定で推定したい角度は送信機の方向、すなわち、マルチパスに含まれる見通し(LOS: Line of Sight)成分の方向である。MUSICのようなアルゴリズムで強いコヒーレンスを持つマルチパス受信波とステアリングベクトルとの相関(MUSICでは正確には雑音部分空間との相関の低さ)を計算しても、複数パスが合成された波としてしか受信されていないため、LOS成分の方向のステアリングベクトルと受信信号とは明確な強い相関を示さない。LOS成分が見通し外(NLOS: Non-Line of Sight)成分よりも強ければ、受信信号は、LOS成分の方向のステアリングベクトルとは完全ではないものの、少なくない相関を持つ信号となっている可能性が高い。単純に、受信信号はLOS成分の角度と少し異なる角度のステアリングベクトルによく似ていることも多い。このような場合に推定される到来角は、外れ値ではなく通常の範囲の誤差を持つ。
マルチパスによる擾乱がより大きい場合には、受信信号はLOS成分の方向にメインローブがある場合のサイドローブ角度に対応するステアリングベクトルに似てしまうことが多い。これは、もともとメインローブ角度のステアリングベクトルとサイドローブ角度のステアリングベクトルとが似ているためである。このため、LOS成分の方向にメインローブがある場合のサイドローブ角度の近傍の角度が推定角となって、外れ値が発生することがある。
実施形態の処理部5は、第1の到来角が外れ値であることが判明したときに、その第1の到来角をサイドローブ角度とした場合のメインローブ角度を取得し、取得したメインローブ角度が外れ値でなければ、第1の到来角の代わりにメインローブ角度を第2の到来角として出力する。外れ値の原因は、メインローブとサイドローブとの類似性の外に、マルチパス干渉時の波面の広範囲にわたる強い歪みによって波面に垂直な方向と波の進行方向が著しく異なってしまうことにより起こるグリント雑音もある。グリント雑音による外れ値は、メインローブ角度に置き換えることでは救済されない。しかしながら、実施形態の手法によって外れ値の頻度は減少する。
推定した到来角がサイドローブ角度である場合のメインローブ角度を取得する最も簡単な方法は、予めサイドローブ・メインローブ対応テーブルを作成しておく方法である。
図2Bは、サイドローブ角度とメインローブ角度との対応関係の一例を示す図である。図2Bは、4素子円形アンテナアレイの各方位にメインローブが向いている場合の対応関係の一例である。図2Bの横軸はサイドローブ角度であり、縦軸はメインローブ角度である。メインローブ角度に対するサイドローブ角度は、アンテナ素子の配置からシミュレーションでビームを形成し、ビームからサイドローブのピークを検出することで検出できる。図2Bのグラフは、このように検出されたメインローブ角度とサイドローブとの組の縦軸と横軸を入れ替えてプロットすることで得られている。
予め検出されたメインローブ角度とサイドローブ角度の組をサイドローブ角度から検索できるように整理することでテーブルが作成される。図3は、サイドローブ・メインローブ対応テーブルの一例である。図2Bに示すように、1つのサイドローブ角度に対して複数のメインローブ角度があることがあるため、サイドローブ・メインローブ対応テーブルは、図3のように、1つのサイドローブ角度に対して複数のメインローブ角度を保持できるように構成される。複数のメインローブ角度から1つを選択する手順については後で説明する。
サイドローブ・メインローブ対応テーブルは、図3の形態でなくてもよい。例えば、図2Bで示したグラフがマトリックスの形式で保持されてもよい。この場合、グラフ上でプロットされていない箇所については空欄にする等して、サイドローブ角度に対応するメインローブ角度がないことが明確になっていればよい。また、サイドローブ・メインローブ対応テーブルはメインローブ角度に対するサイドローブ角度のままのテーブルとしておき、推定された第1の到来角の値をサイドローブ角度として、対応するメインローブ角度がその場で検索、取得されてもよい。
また、図3のテーブルでは、メインローブ角度及びサイドローブ角度ともに1度単位で保持されている。角度の粒度は1度でなくてもよい。つまり、テーブルにおける角度の粒度は、到来角として要求される角度分解能に対応して変化されてよい。粗い単位のテーブルの場合、第1の到来角の推定がそれよりも細かい単位で行われると、推定された第1の到来角に対応するサイドローブ角度がない場合がある。このような場合、テーブルとして保持されているサイドローブ角度のうちで、推定された第1の到来角に最も近いサイドローブ角度が取得されてよい。
また、メインローブ角度の取得の必要性が生じるたびにアンテナアレイ3のアンテナ素子の配置(座標)の情報からサイドローブ角度とメインローブ角度との関係が計算されてもよい。この場合、予め処理部5にサイドローブ・メインローブ対応テーブルを記憶させておく必要はない。アンテナ素子の配置の情報のみを使用したシミュレーションによるサイドローブ角度とメインローブ角度との関係の計算は、比較的容易に行われ得る。
アンテナアレイの実際のビームパターンとアンテナ素子の配置の情報のみから計算したビームパターンとは、素子単体の放射特性、素子間の結合、有限グラウンドとの相互作用、回路パターンとの相互作用等によって異なっていることが多い。このような場合、電磁界解析又は実測で得られたアンテナ素子のデータからビームパターンを作成することによってサイドローブを検出すれば、実際の機器特性に基づいたサイドローブ・メインローブ対応テーブルを作成することもできる。
電磁界シミュレーション又は実測によって得られたアンテナ特性がある場合には、このアンテナ特性を利用して到来角の推定時に校正が行われ得る。校正法には、到来角推定時のステアリングベクトルをアンテナ特性に基づいて変更するものがある。このような場合、到来角推定では校正されたステアリングベクトルで信号との相関が計算されるため、サイドローブとメインローブの関係も校正されたステアリングベクトルで得られるものとなる。そのため、サイドローブ・メインローブ対応テーブルは校正されたステアリングベクトルでビームパターンを計算して求めるとよい。
次に、外れ値判定方法について説明する。実施形態では、第1の到来角が外れ値であるか否かが第1の基準により判定され、第1の到来角が外れ値であるとき、第1の到来角をサイドローブ角度とした場合のメインローブ角度が外れ値であるか否かが第2の基準により判定される。
まず、第1の到来角についての外れ値判定方法について説明する。最も単純な方法は、同じ波源があまり動かない内に複数回の到来角推定を行って、到来角推定の結果のうちの明らかに異なる到来角を外れ値とする方法である。他には、受信信号の電力が明らかに小さい到来角が外れ値として除外されてもよい。また、複数の外れ値判定のための指標が組み合わせられてもよい。
さらには、後述するように、トラッキングで予測値が得られる場合、予測値と第1の到来角との差の絶対値が閾値以上である場合に外れ値と判定されてもよい。閾値は、受信電力等に対応して適応的に変化されてもよい。例えば、受信信号の電力が大きい方が第1の到来角の誤差が小さい確率が高い。したがって、電力が大きいときには、予測値との差が大きくても誤差は小さい可能性が高いと見做して、閾値が大きくされてよい。
外れ値判定に使用される電力は、1つのアンテナ素子の受信電力でよい。ただし、マルチパス環境ではアンテナ素子間で受信電力がばらつくことが多いので、1つのアンテナ素子の受信電力が用いられるよりは、全てのアンテナ素子の合計の電力又は平均電力が用いられることがより望ましい。さらには、第1の到来角が示す方向にビームを形成して電力を抽出すれば、雑音が多い場合でも精度の高い電力が得られる。また、到来角推定に固有値分解が用いられる場合、信号部分空間の全アンテナ素子の電力又は信号部分空間に対して第1の到来角が示す方向にビームを形成することで抽出された電力が用いられてもよい。
次に、メインローブ角度についての外れ値判定方法について説明する。第2の基準によるメインローブ角度の外れ値判定には、主としてトラッキングフィルタの予測値が使用される。詳細は後で説明する。ここではまず、サイドローブ角度に対するメインローブ角度が複数ある場合の選択方法を説明する。
最も単純な方法は、特定の1つのメインローブ角度を選択せずに、複数のメインローブ角度のそれぞれが外れ値であるか否かを第2の基準で判定し、外れ値でないものを第2の到来角とする方法である。なお、第2の基準を満足するメインローブ角度が2つ以上ある場合には、それぞれの判定に使用された指標の値が最もよいもの、すなわち、最も外れ値である確率が小さいものが採用されてよい。指標の値が最もよいメインローブ角度は、例えば予測値との差が最も小さいメインローブ角度又は他の時刻で出力された到来角との差が最も小さいメインローブ角度である。このようにして1つのメインローブ角度が選択される場合、選択されたメインローブ角度は第2の基準によって既に外れ値でないと判定されている。したがって、選択されたメインローブ角度についてさらに第2の基準による判定がされる必要はない。
他の方法として、ビームパターンを計算する際にメインローブの電力に対するサイドローブの電力を併せて検出して、メインローブの電力とサイドローブの電力との対応をテーブルに記録し、記録したテーブルの参照によってサイドローブの電力が大きいメインローブを採用する方法がある。この場合、最大の電力を有するサイドローブに対応したメインローブのメインローブ角度が選択されてよい。また、他の方法として、電力の大きい順に対応するメインローブ角度を選択していき、第2の基準を満足したところで選択を止める方法もある。
他の方法として、受信信号に対して複数のメインローブ角度でビームを形成して電力を抽出し、電力が大きかったメインローブ角度について第2の基準に基づく判定をする方法もある。また、他の方法として、電力の大きい順にメインローブ角度を選択し、選択したメインローブ角度について第2の基準で判定し、第2の基準を満足したところでやめる方法もある。
なお、第1の基準に基づく外れ値の判定方法と第2の基準に基づく外れ値の判定方法とは同じでもよいし、異なっていてもよい。外れ値の判定方法が同じである場合、判定に用いられる閾値等のパラメータは同じでもよいし、異なっていてもよい。この変形として、第1の基準に基づく判定が行われずに、第1の到来角と1つ以上のメインローブ角度とに対して同時に第2の基準に基づく判定が行われ、判定の結果、最も指標が優れていたメインローブ角度が選択されてもよい。
実施形態の到来角推定システム100は、アンテナを有する電子装置と送信機とを有している。しかしながら、実施形態の到来角推定システム100は、マルチパス環境でのアレイ素子による到来角推定の外れ値の頻度を改善する必要がある環境であれば、必ずしもアンテナを有する電子装置と送信機とを有していなくてもよい。例えば、アレイ素子による到来角推定は、音波でもほぼ同じ原理で動作する。したがって、到来角推定システム100は、アンテナの代わりにマイク等の集音素子を含む受信素子アレイを有する電子装置を有していてもよい。この場合、例えば送信機は、スピーカや話者、振動物等の音源又は音波反射源に置き換えられてよい。
また、図1では、波源は送信機である。しかしながら、実施形態において適用され得る波源は、送信機のように信号を発する意図を持って構成された波源である必要はない。実施形態において適用され得る波源は、電子レンジのような雑音源であってもよいし、それ自体が信号を発することはせずに他からの電波を反射するレーダ目標物であってもよい。
図4は、一つの実施の形態の到来角推定システムの第2の例の構成を示す図である。図1との違いは、処理部5がトラッキングフィルタ10を有している点と、置換部8から出力される第2の到来角がトラッキングフィルタ10に入力される点である。トラッキングフィルタ10に関する動作以外は、図1と同様である。したがって、それらの説明は省略する。
トラッキングフィルタ10は、例えばカルマンフィルタであり、電子装置1を基準とした送信機20の角度をトラッキングする。このトラッキングフィルタ10は、トラッキングで得られた推定値をトラッキング結果として出力する。トラッキングでは、特に対象の角度が時々刻々と変化するような場合、入力が長期間欠損すると予測値又は推定値が本来の値から大幅にずれる、いわゆるトラッキングが外れた状態となることがある。
外れ値と判定された第1の到来角を除外するだけでは、トラッキングフィルタ10に対する入力が長期間欠損してトラッキングが外れた状態となる可能性がある。そこで、前述したように、第1の到来角をただ単に外れ値として除外するのではなく、第1の到来角のうちでメインローブ角度に置換できるものを置換することで、外れ値の頻度を減らす。これにより、トラッキングフィルタ10に対する入力が長期間欠損する可能性が低減して、トラッキング外れが抑圧され得る。
図4の例で、第1の基準を用いた第1の到来角に対する外れ値の判定と第2の基準を用いたメインローブ角度に対する外れ値の判定とは前述した方法と同一であってもよいが、異なっていてもよい。ここでは、別の方法として、トラッキングフィルタ10が出力した予測値を利用して外れ値の判定をする方法を説明する。
カルマンフィルタ及びαβフィルタのようなトラッキングフィルタでは、入力値のトラッキングにより得られた推定値の他に、その先の時刻の予測値も出力され得る。これを利用して、第2の基準をトラッキングフィルタで得られた予測値とメインローブ角度との差の絶対値に対して設定することができる。この場合、差の絶対値が所定の範囲内、例えば30度以内であれば、外れ値でない、30度を超えていれば外れ値であるといった形で判定が行われる。このような判定のために、トラッキングフィルタ10は、破線の矢印で示すようにして予測値を置換部8に入力する。置換部8は、入力された予測値とメインローブ角度との差の絶対値に基づいて、メインローブ角度の外れ値判定を行う。また、置換部8は、複数のメインローブ角度が入力されているときには、最も差の絶対値が小さいメインローブ角度を選択する。複数のメインローブ角度の全てについての差の絶対値が所定の範囲外であれば、置換部8は、トラッキングフィルタ10に第2の到来角を入力しない。このとき、トラッキングフィルタ10は、入力の欠損があった時間を飛ばして、前後の入力があった時刻の時間間隔で入力があったとみなしてトラッキングをする。
また、外れ値判定部7による第1の到来角に対する第1の基準を用いた外れ値判定もトラッキングフィルタ10からの予測値に基づいて行われてもよい。この場合、トラッキングフィルタ10は、外れ値判定部7にも予測値を入力する。
フィルタがカルマンフィルタのように入力値の性質に基づいて適応的に利得等のパラメータを変化させることができる適応トラッキングフィルタであれば、観測雑音(測定値に含まれる誤差)を、受信強度に対応して変更するとよい。到来角推定では推定角の誤差分散は電力に反比例することが知られているため、測定値(角度)の観測雑音を受信振幅(受信電力の平方根)に反比例するように変更するとよい。受信振幅を計算するもととなる受信電力の求め方は、前述と同様である。
外れ値と判定されずに第1の到来角がそのまま第2の到来角としてトラッキングフィルタ10に入力される場合は、観測雑音を受信振幅に比例させることで正しい利得の調整をすることができる。一方、第1の到来角が外れ値と判定され、代わりに第2の到来角としてメインローブ角度が入力される場合でも、受信振幅が使用されて問題ない。外れ値が発生した時の受信電力は小さいことが多い。したがって、第1の到来角が外れ値である状況では、置き換えられたメインローブ角度の誤差も小さくない可能性が高い。カルマンフィルタでは、観測雑音が大きいと更新時の新規入力値の寄与を決定する利得が小さくなる。第1の到来角が外れ値である場合のメインローブ角の誤差は大きいと予想される。この場合、トラッキングが外れない程度に軌跡が維持されればよい。このため、利得が小さいことは却って望ましい。
電力として特定の到来角方向の電力が利用される場合には、メインローブ角度の方向にビームを作って、メインローブ角度の電力が抽出されてもよい。この場合、第1の到来角の電力よりもメインローブ角度の電力の方が低い確率が高いので、より新規の入力値の寄与は小さくなる。
なお、フィルタは予測値を出力できるトラッキングフィルタでなくてもよい。トラッキングフィルタの代わりに、移動平均値を出力するフィルタ等の時不変のインパルス応答で記述されるフィルタが用いられてもよい。予測値を出力できないフィルタの場合、波源の動きが小さければ1つ前の推定値が予測値の代わりに利用されてもよい。あるいは、予測値を出力できないフィルタの場合、電力による判定等の、予測値との差を必要と使用しない外れ値判定が使用されてもよい。
また、適応トラッキングフィルタでなく、αβフィルタのように固定係数のフィルタが使用されてもよい。また、粒子フィルタのように非線形モデルに対応できるフィルタが使用されてもよい。
トラッキングフィルタ10で得られた予測値を利用して外れ値判定が行われる場合、予測値はある程度に正しい必要がある。予測値が正しくなく、軌跡が外れ値に追従しているときには外れ値判定が正しく行われないためである。したがって、トラッキングの初期値は外れ値にならないように作る必要がある。例えば、次のようにする。
トラッキングの開始時に、到来角推定部6は、波源が大きく動かない短期間で複数の第1の到来角を推定する。そして、外れ値判定部7は、到来角推定部6で得られた複数の第1の到来角の統計処理、例えば、最近傍法を用いた第1の到来角のグループ化、第1の到来角のヒストグラムの算出、第1の到来角の平均値及び標準偏差の算出等を利用することで、第1の到来角を外れ値と外れ値でないものとに分ける。トラッキングフィルタ10は、外れ値でない第1の到来角のみを利用してトラッキングの初期軌跡を生成する。第1の到来角が外れ値のグループと外れ値でないグループとほぼ均等に分かれてしまうような場合には、外れ値判定部7は、電力等の外れ値判定の指標に使用できるパラメータでそれぞれの第1の到来角に重み付けをしてより外れ値でない確率が高いグループを選択する。または、外れ値判定部7は、複数の第1の到来角のうち、良い指標の値に対応した第1の到来角のみを選択してトラッキングの初期軌跡を生成してもよい。指標に対してできるだけ外れ値を含まないように閾値が設定されると、残るサンプルの数が非常に少なくなることがある。その場合、通常のトラッキングではなく、1次関数又は2次関数で軌跡を近似する等の方法により、サンプルの間隔が開いても軌跡を作成できるようにするとよい。また、良い指標に対応する第1の到来角であっても外れ値である可能性はあるので、外れ値判定部7は、指標に基づいて第1の到来角を選択した後で統計的処理をすることで外れ値を除外してもよい。
また、トラッキングの予測値との差に対して第1の基準が設定される場合、第1の到来角が外れ値であるとの判定又は第1の到来角からメインローブ角度への置き換えが長期間連続する場合には、予測値が正しく得られておらず、外れ値判定が正常に行われていない可能性がある。このような場合に備え、トラッキングフィルタ10は、外れ値が所定の数を超えて連続したら又は所定の入力数の内の外れ値の割合が所定の値を超えたら、正しい予測値が得られてないと判断して、初期値作成からトラッキングをやり直してもよい。
図5は、図1の送信機20の一例としての無線タグの方位推定の結果の一例を示した図である。図5の実線は第1の到来角に相当する推定値を示す。図5の丸印はそれぞれの第1の到来角をサイドローブ角度としたときのメインローブ角度を示す。図5の実線で示すように、第1の到来角の推定値は、主として0度から100度の間で推移している。したがって、無線タグは電子装置1から見て概ね0度から100度の方向にあることが分かる。一方、図5において一部の推定値は150度から300度の値を示している。これらの推定値は外れ値と考えることができる。ここで、図5において、外れ値が出力されているタイミングにおいてメインローブ角度を示す丸印が本来の無線タグのある方向に近い角度に現れている場合がある。特に、図5の破線で囲われているサンプル番号50〜120とサンプル番号200〜260とでは、外れ値のタイミングでメインローブ角度が本来の無線タグの方向を示している。この場合、外れ値がメインローブ角度で置き換えられることによって、到来角は正しい値に近い角度を示すことになる。
図6A及び図6Bは、実施形態の到来角推定システムの効果を説明するための図である。ここで、図6A及び図6Bは、図5のデータに対して第1の基準及び第2の基準の両方が予測値との差の絶対値に対して設定されるとして外れ値判定と置換判定とを行ってからカルマンフィルタでトラッキングをした結果を示している。
図6Aは、第1の到来角について外れ値判定がされて外れ値と判定された点をただ単に除外した場合のトラッキング結果を示している。一方、図6Bは、第1の到来角をサイドローブ角度としたときのメインローブ角度が外れ値でなければ第1の到来角をメインローブ角度に置き換えた場合のトラッキング結果を示している。図6A及び図6Bの丸印は、第1の到来角を示している。一般に、方位角は0度と360度とが繋がった円上に定義される。したがって、図6A及び図6Bでは、予測値との差の絶対値が最も小さくなるようにそれぞれの推定された第1の到来角に360度を加算又は減算している。また、図6A及び図6Bにおいて、丸印に重なるようにプロットされているバツ印は、対応する第1の到来角が外れ値と判定されたことを示す。したがって、図6Aでは、バツ印の点をスキップしてトラッキングが行われている。一方、図6Bの三角印は、第2の基準によって外れ値でないと判定されて置換された第1の到来角に対応するメインローブ角度である。図6Bでは、複数のメインローブ角度が得られているときには、複数のメインローブ角度のうちで予測値との差の絶対値が最も小さいメインローブ角度が選択されている。また、図6A及び図6Bの実線はトラッキングによって得られた予測値である。カルマンフィルタによる推定値は、予測値の時刻を状態遷移行列の逆行列を用いて戻したものである。この推定値は、予測値と殆ど同じ線になるため、図6A及び図6Bでは省略されている。
また、図6A及び図6Bにおいて、図5において破線で囲われているサンプル番号50〜120とサンプル番号200〜260は、破線で囲われている。サンプル番号50〜120について、図6Bの予測値は、図6Aの予測値よりも推定値に沿っている。また、サンプル番号200〜260について、図6Aの予測値は、外れ値の連続により本来の値から大幅にずれている。つまり、図6Aのサンプル番号200〜260では、トラッキングが外れた状態となっている。一方、図6Bの予測値は、自然な曲線でサンプル番号261以降につながっている。
図7は、一つの実施の形態の到来角推定システムの第3の例の構成を示す図である。電子装置1がブルートゥース機器等の低価格品である場合等では、電子装置1はあまり高度な処理をすることができない可能性がある。その場合、トラッキングは、電子装置1とは別の場所にある又は別の機材である処理装置、例えば処理用のサーバで行われてよい。この場合、図7に示すように、電子装置1は、第1の到来角とそれに対応するメインローブ角度を出力するだけの構成であってもよい。図7の電子装置1は、候補取得部11を有している。候補取得部11は、到来角推定部6で推定された全ての第1の到来角に対応したメインローブ角度を、サイドローブ・メインローブ対応テーブルを参照することで抽出する。そして、候補取得部11は、抽出したメインローブ角度を第1の到来角とセットにして、サーバ等の処理装置に出力する。
第3の例の変形例として、電子装置1は、候補取得部11とサイドローブ・メインローブ対応テーブル記憶部9を有していなくてもよい。この場合、電子装置1とは別の処理装置が、候補取得部11とサイドローブ・メインローブ対応テーブル記憶部9とを有する。そして、この処理装置は、外れ値判定からトラッキングまでの処理を行う。さらには、電子装置1の信号受信部2と処理部5とは、互いに離れた場所にあってもよいし、互いに異なる機材に設けられていてもよい。
図8は、一つの実施の形態の信号処理方法のアルゴリズムを示すフローチャートである。図8の処理は、処理部5において行われる。なお、以下で説明する処理部5による処理は必ずしもメモリに記憶されたプログラムに従って実行されるものに限らない。処理部5による処理は、ASIC及びFPGA等のようにハードウェアに実装されたアルゴリズムに従って実行されるものであってもよい。
処理部5は、アンテナアレイ3のそれぞれのアンテナ素子からの情報に基づく到来角推定によって第1の到来角を推定する(S200)。
次に、処理部5は、第1の基準により、第1の到来角が外れ値か否か判定する(S201)。ステップS201において、第1の到来角が外れ値でない場合には処理はS206に移行する。このとき、処理部5は、第1の到来角を第2の到来角として出力する(S206)。
ステップS201において、第1の到来角が外れ値である場合には処理はS202に移行する。このとき、処理部5は、サイドローブ・メインローブ対応テーブルを参照することで、第1の到来角をサイドローブ角度としたときのメインローブ角度を取得する(S202)。
次に、処理部5は、第2の基準により、メインローブ角度が外れ値か否か判定する(S203)。ステップS203において、メインローブ角度が外れ値でない場合には処理はS205に移行する。このとき、処理部5は、メインローブ角度を第2の到来角とする(S205)。その後、処理部5は、メインローブ角度を第2の到来角として出力する(S206)。
ステップS203において、メインローブ角度が外れ値である場合には処理はS204に移行する。このとき、処理部5は、第2の到来角を出力しない(S204)。
図8のように処理することにより、外れ値が連続することによって出力が長期間途切れる頻度を減らすことができる。なお、図7で説明したように、図8で示した処理は必ずしも同一の処理部5において行われる必要はない。図8で示した処理は、複数の分散された機器で行われてもよい。
図9は、一つの実施の形態の到来角推定システムの第4の例の構成を示す図である。第4の例では、アンテナアレイは受信側ではなく送信側に設けられている。しかしながら、到来角推定は受信側で行われる。このような到来角推定方法はAoD (Angle-of-Departure)推定と呼ばれている。
図9において、送信機20は、アンテナアレイ21aを有している。送信機20の送信部22は、アンテナアレイ21aの各アンテナ素子から互いに直交した信号を出力する。送信部22は、例えば無変調波(CW: Continuous Wave)又はパイロット等の既知信号を、アンテナ素子を一定時間毎に切り替えながら送ったり、アンテナ素子毎に直交する符号で変調してから送ったり、アンテナ素子毎に異なる周波数の信号にして送ったりする。
一方、受信側である電子装置1は、どのアンテナ素子からどのような種類の信号が来るかを予め送信機20からの通知等により知っている。そして、電子装置1は、受信した信号から、アンテナ素子毎の複素信号を分離する。また、到来角推定部6が到来角を推定するためには、アンテナアレイ21aの配置又はアンテナ特性情報が必要であり、図示しない位置推定部がアンテナ3aを有する機器の送信機20を基準とした位置を推定するためには、送信機20の位置が必要である。これらの、アンテナ素子の配置又はアンテナ特性情報や送信機20の位置は予め、通知されていたり、記憶部に保持されていたりする等して既知であるように構成されている。
前述したように、サイドローブ・メインローブ対応テーブルは、アンテナ素子の配置の情報及びアンテナ素子の特性情報から作成することも可能である。したがって、受信側の処理能力が高い場合には、サイドローブ・メインローブ対応テーブルは、前述のテーブル作成方法と同様の方法でその場で作成されてもよい。サイドローブ・メインローブ対応テーブルを通信によって他から取得する場合、アンテナ特性が理想的であるとの仮定に基づいてアンテナ素子の配置の情報のみからサイドローブ・メインローブ対応テーブルが作成されているならば、テーブルの通知量を減らすことができる。
例えば、等間隔円形アレイであれば、アンテナ素子の配置は円の中心に対して回転対称であるので、1つのアンテナ素子の円の中心からの方向から隣接するアンテナ素子の方向までの半分の角度の情報があれば、全角度のテーブルを作成することができる。例えば、図2Bでは、アンテナアレイは4素子円形アレイである。このとき、アンテナ素子間の角度は90度であるので、45度分の情報があればアンテナアレイの全角度のテーブルを作成することができる。具体的には、縦軸である0度〜90度までのメインローブ角度と対応するサイドローブ角度に90度が足されると、90度〜180度までのメインローブ角度と対応するサイドローブ角度になる。このように、4素子円形アレイであれば、メインローブ角度とサイドローブ角度とにそれぞれ90度を順に足していけば良いことが分かる。さらには、4素子円形アレイでは、メインローブ角度が0度〜45度のメインローブと90度〜45度のメインローブとは線対称である。したがって、例えば、メインローブ角度が30度のときに122度に現れているサイドローブは、メインローブ角度が60度の時には60−(122−30)=−32度、すなわち、328度に現れている。
このようにアンテナ素子の対称性を利用してアンテナ素子間の角度の半分のメインローブ角度とサイドローブ角度の組から、アンテナアレイの全角度のメインローブ角度とサイドローブ角度の組を生成できる。この全角度の組をソートすることで、サイドローブ・メインローブ対応テーブルが生成されてもよい。また、アンテナ素子の対称性によるメインローブ角度及びサイドローブ角度の対称性は、縦軸と横軸とを入れ替えても成立する。したがって、サイドローブ・メインローブ対応テーブルのアンテナ素子間の角度の半分のデータを通信等によって取得し、取得したアンテナ素子間の半分の角度のデータから全角度のテーブルが生成されてもよい。
また、円形アレイではなく、等間隔リニアアレイの場合には、このような対称性はアレイの線に垂直な方向に対する線対称性のみとなる。この場合、正面(0度)〜片側90度のサイドローブ・メインローブ対応テーブルのデータから、残りのデータが生成されればよい。
図9において、受信側の装置は、電子装置30と、処理装置40とを有している。電子装置30は、アンテナ3aと、受信部4と、到来角推定部6とを有している。処理装置40は、外れ値判定部7と、置換部8と、サイドローブ・メインローブ対応テーブル記憶部9とを有している。処理装置40は、トラッキングフィルタ10を有していてもよい。
アンテナ3aは、図1とは異なって単独のアンテナ素子であり、送信機20から送信された信号を受信する。
図9の例の受信部4は、各種の物理層での受信処理及びプロトコル層の処理を行い、到来角推定に使用する受信信号を複素信号に変換する。この変換に際して、図9の例の受信部4は、受信された信号をアンテナアレイ21aのアンテナ素子毎の信号に分離する。例えば、受信部4は、アンテナ素子が切り替えられながら時分割で信号が送信されているのであれば、受信された信号を時間毎に分けて分離する。また、受信部4は、受信信号が直交符号変調されているのであれば、アンテナ素子毎に予め定められた符号で逆拡散する。
到来角推定部6は、第1の到来角を推定する。到来角推定部6における到来角推定方法は、基本的には前述したアンテナアレイが電子装置に設けられている場合と同様でよい。ただし、到来角推定に際しては送信側のアンテナアレイ21aのアンテナ素子の配置情報又はアンテナ特性情報が使用される。
図9において推定される第1の到来角は、送信機20から電子装置1を見た角度である。一般にアンテナアレイを使用する到来角推定ではアンテナ素子間の位相差及び振幅差の情報が利用される。位相差や振幅差は送受が逆転してもほぼ同じ値となるので、図9のような構成であっても到来角推定をすることができる。すなわち、送信機20が有するアンテナアレイ21aから送信された信号を電子装置1が有するアンテナ3aで受信した場合に推定される到来角と、電子装置1が有するアンテナ3aから送信された信号を送信機20が有するアンテナアレイ21aで受信した場合に推定される到来角とはほぼ同等になる。したがって、マルチパスによって到来角が外れ値となるなり方は、図1の場合と図9の場合とで同等になる。
ここで、図9において、図1と同様に処理装置40は、電子装置30と一体であってもよいし、電子装置30とは別体で通信を介して電子装置30と接続されていてもよい。さらに、処理装置40は、送信機20と一体でもよい。
電子装置30が無線タグのような低コストかつ低消費電力の機器である場合、電子装置30はあまり多くの機能を持てない。そこで、電子装置30は、到来角推定結果を処理能力の高い処理装置40に委託する。この場合の電子装置30と処理装置40との間の通信は、有線でも無線でもよい。つまり、通信は、電子装置30及び処理装置40の両方がサポートしている方式で行われればよい。
また、電子装置30がスマートフォンのようなやや高い処理能力を有する機器であっても、それが送信機20の側を一瞬だけ通り過ぎるだけであるならば、サイドローブ・メインローブ対応テーブルを送信機20から取得するときの通信量は少なくない。サイドローブ・メインローブ対応テーブルをやりとりしてもよいが、望ましくは、送信機20そのものか、送信機20の近くに半固定的に存在する他の処理装置か、又は送信機20の近くに存在する他のノードを介して接続された他の処理装置が予めサイドローブ・メインローブ対応テーブルを記憶しておくことが望ましい。
アンテナアレイを有する機器の規模は、アンテナアレイを持たない機器の規模よりも大きくなりやすい。また、アンテナアレイを有する機器の価格は、アンテナアレイを持たない機器の価格よりも高くなりやすい。無線タグに対する適用例として、図10に示す第5の例の到来角推定システムが用いられてもよい。
図10では、アンテナアレイ21aを有する送信機20は比較的に大きい電力で到来角推定用の信号を送信し続ける。電力が大きければ比較的に広い範囲まで信号が到達する。一方、角度検出の対象である無線タグ50は、送信機20からの信号を受信し、第1の到来角を推定する。そして、無線タグ50は、第1の到来角をノード301、302、303のいずれか1以上に送る。無線タグ50は、第1の到来角を推定しなくてもよい。この場合、無線タグ50は、アンテナ素子毎の複素信号をそのまま他の到来角推定部を有する機器に送る。
ノード301、302、303は、送信機20よりも高密度に配置され、かつ、低電力の通信を行うように構成されている。処理装置40と、ノード301、302、303とは例えば有線で接続される。処理装置40と、ノード301、302、303とは例えばメッシュ型の通信網を形成していてもよい。また、図10では、3つのノードが示されているが、ノードの数は3つに限るものではない。
ノード301、302、303は、無線タグ50から第1の到来角を受信し、受信した第1の到来角を処理装置40に送信する。処理装置40は、前述した外れ値判定等の処理を行って、必要に応じて到来角をメインローブ角度に置き換える。処理装置40で得られる第2の到来角の情報は、処理装置40から、無線タグ50の角度の情報を使用する他の機器に通知される。なお、処理装置40は、単独であってもよいし、ノード301、302、303の何れかと一体であってもよいし、送信機20と一体であってもよい。
このような第5の例では、アンテナアレイを有する機器の数を減らすことができる。これにより、無線タグの消費電力及び装置規模の増大を抑圧しつつ、外れ値の影響の小さい角度検出を行うことができる。
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。