[実施形態]
以下、本発明の実施形態に係るシステム1を説明する。システム1は、土砂崩落の発生時刻を推定するシステムであり、対象地域内の鉄道等のインフラに影響する降雨による土砂災害が発生すると推定される時刻をユーザに通知するシステムである。
図1はシステム1の構成を示した図である。図1(A)は、システム1の全体構成を示した図である。システム1はユーザにより使用され、ユーザに対し通知する情報を生成するとともに、生成した情報をユーザに通知する端末装置11と、端末装置11に対し対象地域における降雨量の経時変化の実績値及び推定値を示す降雨量データを配信するサーバ装置12を備える。端末装置11とサーバ装置12はネットワークを介して通信接続されている。
端末装置11及びサーバ装置12のハードウェアはコンピュータである。図1(B)は端末装置11のハードウェアとして用いられるコンピュータ10の構成を示した図である。また、図1(C)はサーバ装置12のハードウェアとして用いられるコンピュータ20の構成を示した図である。
コンピュータ10は、各種データを記憶するメモリ101と、メモリ101に記憶されているプログラムに従う各種データ処理を行うプロセッサ102と、外部の装置との間でデータ通信を行う通信ユニット103と、ユーザに各種情報を表示するディスプレイ104と、ユーザのデータ入力操作を受け付けるキーボード105を備える。なお、ディスプレイ104及びキーボード105の少なくとも一方がコンピュータ10に内蔵されず、外
付けの装置としてコンピュータ10に接続されてもよい。
コンピュータ20は、各種データを記憶するメモリ201と、メモリ201に記憶されているプログラムに従う各種データ処理を行うプロセッサ202と、外部の装置との間でデータ通信を行う通信ユニット203を備える。
プロセッサ202がメモリ201に記憶されているプログラムに従う各種データ処理を行うと、コンピュータ20は降雨量データを端末装置11に配信するサーバ装置12として動作する。サーバ装置12の機能構成は、一般的なデータ配信を行うサーバ装置の機能構成と同様であるため、その説明を省略する。
図2は、対象地域U内の線路r上の1つの危険評価セルPiと、危険評価セルPiの監視領域Qiを示した図である。
図3は、端末装置11の機能構成のうち、土砂崩落が発生すると推定される時刻をユーザに通知するための処理を行う機能構成を示した図である。以下に図3に示される機能構成を説明する。端末装置11は、土砂崩落の発生時刻を推定するための構成部として、記憶部111と、演算部110と、表示部112と、サーバ装置12から降雨量データを受信する受信部113とを備える。受信部113は主として通信ユニット103により実現される。
記憶部111は主としてメモリ101により実現され、各種データを記憶する。記憶部111には、予め、対象地域の数値標高モデルを示す数値標高モデルデータと、対象地域内の鉄道(インフラの一例)の通過する位置を示す路線データが記憶されている。また、記憶部111には、以下に説明する演算部110により生成される各種データが記憶されてゆく。
演算部110は主としてプロセッサ102により実現され、対象地域を構成する複数のセルの各々に関し各種演算を行う。本願においてセルとは、対象地域を分割して得られる複数の所定の大きさの矩形の領域の各々を意味する。
記憶部111には、図2に示したような危険評価セルを示すデータが危険評価セルデータとして記憶されている。危険評価セルは、路線データに基づき対象地域内のセルの中から鉄道の線路が通るセルを抽出したものである。
また、記憶部111には、対象地域内の監視領域を示す監視領域データが記憶されている。監視領域は、危険評価セルの各々に関し、当該危険評価セルの集水領域として特定された領域である。数値標高モデルデータが示す数値標高モデルを用いて、危険評価セルの各々に関し、既知の地形水文分析により集水領域を特定し、特定した集水領域を当該危険評価セルの監視領域としている。以下、監視領域内のセルを監視対象セルという。
表示部112は主としてディスプレイ104により実現され、演算部110により生成され記憶部111に記憶されている各種データが示す情報を表示する。
演算部110は、圧力水頭算出部1110を備える。圧力水頭算出部1110は、対象地域内のセルの各々に関し、以下の式1に従い、降雨開始時刻を基準とする時刻t(すなわち、降雨開始時刻から時間t(単位:s)が経過した時刻)における圧力水頭ψ(t)(単位:m)を算出する。なお、以下の式1は、Richard M. Iversonにより2000年に発表された論文"Landslide triggering by rain infiltration"において提案されたモデル方程式である。
ただし、t*は以下の式2で示される値である。
ただし、D0は拡散係数(単位:m2/s)、αは斜面傾斜角(単位:deg)、Zは深さ(単位:m)である。
また、T*は以下の式3で示される値である。
ただし、Tは降雨持続時間(単位:s)である。
また、ψ0は圧力水頭の初期値、IZは雨量強度(単位:m/s)、KZは深さ方向の透水係数(m/s)、R(t*)は以下の式4のxにt*を代入した値、R(t*−T*)は以下の式4のxに(t*−T*)を代入した値である。
圧力水頭算出部1110により算出されたセル毎の時刻tにおける圧力水頭ψ(t)を示すデータは、圧力水頭データとして記憶部111に記憶される。
記憶部111には、圧力水頭算出部1110が各セルの時刻tにおける圧力水頭ψ(t)を算出するために用いるデータとして、拡散係数D0を示す拡散係数データ、各セルの斜面傾斜角αを示す斜面傾斜角データ、各セルの深さZを示す深さデータ、雨量強度IZを示す雨量強度データ、深さ方向の透水係数KZを示す透水係数データ、降雨持続時間Tを示す降雨持続時間データが記憶されている。
拡散係数データが示す拡散係数D0と、透水係数データが示す透水係数KZは、対象地域内の代表点における水文観測値と、式1に示されるモデル方程式とのフィッティングにより特定された値である。
斜面傾斜角データが示す各セルの斜面傾斜角αと、深さデータが示す各セルの深さZは、数値標高モデルデータに基づき特定された値である。
雨量強度データが示す雨量強度IZと、降雨持続時間データが示す降雨持続時間Tは、受信部113がサーバ装置12から受信した降雨量データに基づき特定された値である。
なお、圧力水頭算出部1110が時刻tにおける圧力水頭ψ(t)の算出に用いる圧力水頭の初期値ψ0は、圧力水頭データが示す降雨開始時刻における圧力水頭である。
演算部110は、安定性指標算出部1111を備える。安定性指標算出部1111は、対象地域内のセルの各々に関し、以下の式5に従い時刻tにおける斜面安定性指標FSを算出する。なお、以下の式5は、A. W. SkemptonとF. A. Deloryにより1957年に発表された論文" Stability of Natural Slopes in London Clay"において提案された算出式である。
ただし、cは土層の粘着力(単位:kPa)、Δcは樹木根系による粘着力の増加量(単位:kPa)、γは土層の飽和単位重量(単位:N/m3)、γWは水の単位重量(単位:N/m3)、hは土層厚(単位:m)、αは斜面傾斜角(単位:deg)、φはせん断抵抗角(単位:deg)である。
また、mは以下の式6に従い算出される地下水位パラメータ(土層厚hに対する圧力水頭の比)である。
斜面安定性指標FSは、1以上であれば斜面が安定しており、土砂崩落が発生しないことを示し、1未満であれば斜面が不安定であり、土砂崩落が発生することを示す。
記憶部111には、安定性指標算出部1111が各セルの時刻tにおける斜面安定性指標FSを算出するために用いるデータとして、土層の粘着力cを示す粘着力データ、樹木根系による土層の粘着力の増加量Δcを示す粘着力増加量データ、土層の飽和単位重量γを示す飽和単位重量データ、水の単位重量γWを示す単位重量データ、各セルの土層厚hを示す土層厚データ、各セルの斜面傾斜角αを示す斜面傾斜角データ、せん断抵抗角φを示すせん断抵抗角データが記憶されている。
粘着力データが示す土層の粘着力c、飽和単位重量データが示す土層の飽和単位重量γ、せん断抵抗角データが示すせん断抵抗角φは、対象地域内から採取したサンプルを用いて行われたせん断試験等により特定された値である。粘着力増加量データが示す土層の粘着力の増加量Δcは、土層中における深度の関数としての植物根系の数密度や根直径分布および過去の発災事例の逆解析により経験的に求められた値である。
斜面傾斜角データが示す各セルの斜面傾斜角αは、数値標高モデルデータに基づき特定された値である。
土層厚データが示す各セルの土層厚hは、数値標高モデルデータに基づき特定された傾斜曲率Cを以下の式7に代入して算出された値である。
ただし、h0は傾斜曲率Cが0の箇所の平板型斜面の土層厚であり、aは指数係数である。
式7の指数係数aは、対象地域内からランダムに選択された複数のセルの各々に関し、数値標高モデルデータに基づき特定された傾斜曲率Cと土層厚hの実測値との組み合わせをサンプルとする母集団に関し、回帰分析により特定された値を用いる。なお、傾斜曲率Cから土層厚hを推定するために用いる関数は回帰分析により求められるが、関数の種別は式7に例示の指数関数に限られず、傾斜曲率Cから土層厚hの有意な推定値を導出できる限り、例えば、線形関数、多項式関数、べき関数等のいずれの種別の関数が用いられてもよい。
安定性指標算出部1111により算出されたセル毎の時刻tにおける斜面安定性指標FSを示すデータは、斜面安定性指標データとして記憶部111に記憶される。
演算部110は、発生時刻推定部1112を備える。発生時刻推定部1112は、危険評価セルの各々に応じた監視領域に含まれる監視対象セルの各々に関し、監視領域内での斜面安定性指標データの値の分布を分析する。具体的には、斜面安定性指標データが1未満である監視対象セルは不安定であり土砂崩落が発生する可能性があるとみなす。そして、監視領域内のすべての監視対象セルの数に対する不安定な監視対象セルの比率が、例えば50%以上となる時刻を、その監視対象領域において土砂崩落が発生する時刻として推定する。
図4は、発生時刻推定部1112における土砂崩落の発生時刻の推定を説明するための図である。図4(A)、図4(B)は、各々同じ監視領域内の異なる時刻における各々の監視領域セルの斜面安定性指標データの分布を示している。図4(A)は降雨発生直後のある時刻における分布であり、図4(B)は降雨発生からさらに時間が経過したある時刻における分布である。
図4(A)においては、斜面安定性指標データが1未満である不安定な監視対象セルの数は、監視領域内のすべての監視対象セルの数に対して少なく、その比率は50%未満である。したがって、発生時刻推定部1112は、この時刻にはこの監視領域での土砂崩落は発生しないと推定する。
図4(B)においては、斜面安定性指標データが1未満である不安定な監視対象セルの数が増加しており、監視領域内のすべての監視対象セルの数に対しての比率は50%以上である。したがって、発生時刻推定部1112は、この時刻にこの監視領域での土砂崩落が発生すると推定する。
以上のように、発生時刻推定部1112は、降雨時に各々の時刻の各々の監視対象セルの斜面安定性指標データを取得し、図4に示したように斜面安定性指標データの分布を分析する。そして、図4(B)に示したように斜面安定性指標データが1未満である不安定な監視対象セルの比率が例えば50%に達した時刻を土砂崩落が発生する時刻であると推定する。
図5は、表示部112が表示するハザードマップを例示した図である。表示部112は、発生時刻推定部1112により推定される土砂崩落の発生場所及び発生時刻を表示する。図5に例示のハザードマップには、対象地域U内の線路r上の危険評価セルP1、P2、P3が図示されている。また、危険評価セルP1、P2、P3の各々に応じた監視領域Q1、Q2、Q3が図示されている。土砂崩落の発生が推定される監視領域と時刻が表示される。
ユーザはハザードマップを見て、線路r上で土砂災害を受けやすい場所に対し崩落土砂をもたらす可能性のある監視領域内において、いずれの場所でどの時刻に土砂崩落が発生するかを知ることができる。
図6は、端末装置11の機能構成のうち、土砂災害発生リスクが高い場所をユーザに通知するための処理を行う機能構成を示した図である。以下に図6に示される機能構成を説明する。端末装置11は、上述した記憶部111と、演算部110と、表示部112とを備える。
記憶部111には、予め、対象地域の数値標高モデルを示す数値標高モデルデータと、対象地域内の鉄道(インフラの一例)の通過する位置を示す路線データが記憶されている。また、記憶部111には、以下に説明する演算部110により生成される各種データが記憶されてゆく。
演算部110は、対象地域を構成する複数のセルの各々に関し、当該セルの集水面積を算出する集水面積算出部1101を備える。セルの集水面積とは、当該セルに流れ込む水を供給する領域である集水領域の面積である。集水面積算出部1101は、数値標高モデルデータが示す数値標高モデルを用いて、既知の地形水文分析により対象地域内の各セルの集水面積を算出する。集水面積算出部1101により算出された各セルの集水面積を示すデータは、集水面積データとして記憶部111に記憶される。
演算部110は、対象地域内の各セルの勾配を算出する勾配算出部1102を備える。勾配算出部1102は、数値標高モデルデータが示す数値標高モデルの空間微分を行い、対象地域内の各セルの勾配を算出する。勾配算出部1102により算出された各セルの勾配を示すデータは、勾配データとして記憶部111に記憶される。
演算部110は、対象地域における標準的な土砂の削れやすさをもたらす集水面積と勾配の組み合わせを示す回帰式を特定する回帰式特定部1103を備える。回帰式特定部1103は、対象地域内の各セルに関し、集水面積データが示す集水面積と、勾配データが示す勾配とを対応付け、対応付けられた集水面積と勾配の組をサンプルとする母集団に関し、回帰分析により回帰式を特定する。
本実施形態において、回帰式特定部1103が特定する回帰式は、以下の式8の構造を備える。
ただし、Sは勾配(単位:m/m)、Afは集水面積(単位:m2)である。また、B及びpは対象地域の土砂の特性により定まる定数であり、回帰分析により特定される。
式8は、以下の式9から導出される。
ただし、Eは土砂の侵食速度(単位:m/yr)、Kは土砂の侵食効率(単位:例えばyr-1(べき数mに依存))である。また、m及びnは集水面積Afと勾配Sの重み付けを示す数値(m>0、n>0)である。式9に示されるように、土砂の侵食速度が勾配と集水面積のべき乗の積に概ね比例する関係を有する点は既知である。なお、式8の定数と式9の定数には以下の式10及び式11に示す関係がある。
回帰式特定部1103により特定された回帰式を示すデータは、回帰式データとして記憶部111に記憶される。
演算部110は、対象地域内のセルの中から鉄道が通るセルを危険評価セルとして抽出する危険評価セル抽出部1104を備える。危険評価セル抽出部1104は、路線データに基づき危険評価セルを抽出する。危険評価セル抽出部1104により抽出された危険評価セルを示すデータは、危険評価セルデータとして記憶部111に記憶される。
演算部110は、危険評価セルの各々に関し、当該危険評価セルの集水領域を監視領域として特定する監視領域特定部1105を備える。監視領域特定部1105は、数値標高モデルデータが示す数値標高モデルを用いて、危険評価セルの各々に関し、既知の地形水文分析により集水領域を特定し、特定した集水領域を当該危険評価セルの監視領域とする。以下、監視領域内のセルを監視対象セルという。監視領域特定部1105により特定された各危険評価セルの監視領域を示すデータは、監視領域データとして記憶部111に記憶される。
演算部110(図6)は、危険評価セル抽出部1104により抽出された複数の危険評価セルの各々に関し、監視領域特定部1105により特定された監視領域内の監視対象セル毎に、土砂生産性を示す指標である土砂生産性指標を算出する土砂生産性指標算出部1106を備える。
本実施形態において、土砂生産性指標算出部1106は以下の式12に従い土砂生産性指標SAIを算出する。
ただし、Slocalは勾配データが示す監視対象セルの勾配、Aflocalは集水面積データが示す監視領域の集水面積である。また、S(Aflocal)は回帰式データが示す回帰式(式8)に従い算出される、監視領域の集水面積Aflocalに応じた勾配である。
土砂生産性指標算出部1106により算出された各危険評価セルの監視対象セル毎の土砂生産性指標SAIを示すデータは、土砂生産性指標データとして記憶部111に記憶される。
演算部110は、危険評価セル抽出部1104により抽出された複数の危険評価セルの各々に関し、監視領域特定部1105により特定された監視領域内の監視対象セル毎に、崩落土砂の当該危険評価セルへの到達可能性を示す指標である到達可能性指標を算出する到達可能性指標算出部1107を備える。
本実施形態において、到達可能性指標算出部1107は以下の式13に従い到達可能性指標IEFCを算出する。
ただし、HSは数値標高モデルデータが示す、危険評価セルを基準とする監視対象セルの高さ(単位:m)、すなわち監視対象セルの高さから危険評価セルの高さを減じた値である。また、Lは数値標高モデルデータが示す、危険評価セルと監視対象セルの水平距離(単位:m)である。
到達可能性指標算出部1107により算出された各危険評価セルの監視対象セル毎の到達可能性指標IEFCを示すデータは、到達可能性指標データとして記憶部111に記憶される。
演算部110は、危険評価セル抽出部1104により抽出された複数の危険評価セルの各々に関し、監視領域特定部1105により特定された監視領域内の監視対象セル毎に、危険評価セルに到達し得る崩落土砂の生産性を示す指標であるハザード指標を算出するハザード指標算出部1108を備える。
本実施形態において、ハザード指標算出部1108は以下の式14に従いハザード指標TGIを算出する。
さらに、降雨前後の斜面安定性指標の変化率から、以下の式15に従いハザード指標の増大度TGI*を算出する。
ただし、FS(t0)は、降雨前の斜面安定性指標であり、FS(t)は、降雨後の斜面安定性指標である。斜面安定性指標は、上述の式5、式6に従い算出する。
ハザード指標算出部1108により算出された各危険評価セルの監視対象セル毎のハザード指標の増大度TGI*を示すデータは、ハザード指標データとして記憶部111に記憶される。
演算部110は、危険評価セル抽出部1104により抽出された複数の危険評価セルの各々に関し、ハザード指標算出部1108により算出されたハザード指標TGIの統計量をインフラリスク指標として算出するインフラリスク指標算出部1109を備える。
本実施形態において、インフラリスク指標算出部1109はハザード指標の増大度TGI*の算術平均をインフラリスク指標SLPR*として、以下の式16に従い算出する。
ただし、nは、監視領域内の危険評価セルの数である。
インフラリスク指標算出部1109により危険評価セル毎に算出されたインフラリスク指標SLPR*を示すデータは、インフラリスク指標データとして記憶部111に記憶される。
表示部112は、演算部110により生成され記憶部111に記憶されている各種データが示す情報を表示する。図7及び図8は、表示部112が表示する情報を例示した図である。
図7は、表示部112が表示するハザードマップを示している。図7に例示のハザードマップには、対象地域U内の線路r上の危険評価セルのうちインフラリスク指標SLPR*が所定の閾値以上の危険評価セルとして、危険評価セルP1、P2、P3が図示されている。また、図7に例示のハザードマップには、危険評価セルP1、P2、P3の各々に応じた監視領域Q1、Q2、Q3に含まれる監視対象セルのうちハザード指標の増大度TGI*が所定の閾値以上の監視対象セルが×印で示されている。
ユーザはハザードマップを見て、線路r上で土砂災害を受けやすい場所と、対象地域内で土砂災害をもたらす土砂崩落の発生しやすい場所を知ることができる。
図8は、表示部112が表示する沿線リスクラインを示している。沿線リスクラインは、線路rの所定の起点駅から線路r上の危険評価セルまでの距離(線路rに沿った距離)を横軸とし、横軸に示される距離に応じた危険評価セルのインフラリスク指標SLPR*を縦軸にプロットしたグラフである。ユーザは沿線リスクラインを見て、線路r上の各地点の土砂災害の受けやすさを知ることができる。
[変形例]
本発明は、上述した実施形態と異なる形態で実施されてもよい。以下に上述した実施形態の変形例を示す。また、以下の変形例は各々組み合わされてもよい。
(1)上述した実施形態においては、鉄道の線路上のセルを危険評価セルとして用いるものとしたが、鉄道以外のインフラ(例えば、道路、発電所、変電所等)上のセルが危険評価セルとして用いられてもよい。また、民家等に設定されたセルが危険評価セルとして用いられてもよい。なお、インフラ上のセルは複数設定されてもよく、複数のセルが危険評価セルとして用いられてもよい。例えば、鉄道の線路の場合、線路の設置方向に沿って複数のセルが危険評価セルとして用いられてもよい。
(2)上述した実施形態においては、土砂崩落の発生時刻の推定には、監視領域内における所定値未満の斜面安定性指標データを有する監視対象セル(不安定な監視対象セル)の数の、監視領域内全体の監視対象セルの数に対する比率を用いることとしたが、これに限定されない。監視領域内における複数のセルの斜面安定性指標データの平均値(あるいは中央値)を用いることとしてもよい。すなわち、平均値(あるいは中央値)が所定の閾値に達した時刻を、土砂崩落の発生時刻と推定すればよい。また、監視領域内での不安定な監視対象セルの位置関係を分析し、不安定な監視対象セルが複数である所定数以上隣接している分布となった時刻を、土砂崩落の発生時刻と推定してもよい。
(3)上述した実施形態においては、監視領域内における土砂崩落の発生時刻を推定するための指標として、式5に定義される斜面安定性指標FSが用いられるものとしたが、対象地域における降雨量の経時変化に基づき算出される、各セルの斜面安定性を示す指標であれば、他の指標が用いられてもよい。
(4)上述した実施形態においては、監視対象セル毎の土砂生産性を示す指標として式12に定義されるSAIが用いられるものとしたが、監視対象セル毎の土砂生産性を示す指標であれば、他の指標が用いられてもよい。
(5)上述した実施形態においては、監視対象セル毎の崩落土砂の危険評価セルへの到達可能性を示す指標として式13に定義されるIEFCが用いられるものとしたが、監視対象セル毎の崩落土砂の危険評価セルへの到達可能性を示す指標であれば、他の指標が用いられてもよい。
(6)上述した実施形態においては、監視対象セル毎の危険評価セルに到達し得る崩落土砂の生産性を示す指標として式14、式15に定義されるTGI、TGI*が用いられるものとしたが、監視対象セル毎の土砂生産性を示す指標と、監視対象セル毎の崩落土砂の危険評価セルへの到達可能性を示す指標とを用いて算出される指標であれば、他の指標が用いられてもよい。
(7)上述した実施形態においては、インフラ上の危険評価セルが崩落土砂の被害を受ける可能性を示すインフラリスク指標SLPR*として、ハザード指標の増大度TGI*の算術平均が用いられるものとしたが、監視対象セル毎の土砂生産性を示す指標と、監視対象セル毎の崩落土砂の危険評価セルへの到達可能性を示す指標とを用いて算出される指標の統計量であれば、他の統計量がインフラリスク指標SLPR*として用いられてもよい。
(8)上述した実施形態においては、端末装置11及びサーバ装置12はコンピュータがプログラムに従う処理を実行することにより実現されるものとしたが、端末装置11及びサーバ装置12の少なくとも一方が、専用装置として構成されてもよい。