以下、本発明の実施の形態による斜軸式液圧回転機を、例えば油圧ポンプ(固定容量型斜軸式油圧ポンプ)として用いる場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1ないし図6は、第1の実施の形態を示している。図1において、斜軸式液圧回転機としての固定容量型斜軸式油圧ポンプ1(以下、単に「油圧ポンプ1」ともいう)は、ケーシング2と、回転軸5と、シリンダブロック8と、複数のピストン12と、ピストンリング15とを備えている。油圧ポンプ1は、例えば油圧ショベルの原動機(駆動源となるエンジンや電動モータ)によって回転駆動され、タンク内から吸込んだ作動油を高圧の圧油として吐出する。即ち、油圧ポンプ1は、タンクから作動油を吸込んで加圧し、加圧した作動油(圧油)を各種の油圧機器(いずれも図示せず)に供給する。
ケーシング2は、油圧ポンプ1の外殻を構成している。ケーシング2は、略「く」字状に屈曲した筒形状のケーシング本体3とヘッドケーシング4とを含んで構成されている。ケーシング本体3は、長さ方向(軸方向)の一側(図1の左側)に位置する一側筒部3Aと、長さ方向(軸方向)の他側(図1の右側)に位置する他側筒部3Bとにより構成され、一側筒部3Aと他側筒部3Bとの中間部位が略「く」字状に屈曲されている。また、ケーシング本体3の一側筒部3Aには、その軸方向の一側の端部に軸挿通孔3Cが形成されている。
ヘッドケーシング4は、ケーシング本体3の他側筒部3B側に位置するヘッド側端面に取付けられている。ヘッドケーシング4には、一対の給排通路(いずれも図示せず)が形成されている。これらの給排通路のうち低圧側の給排通路(吸入通路)は、タンク(図示せず)からの作動油を弁板13の低圧ポートとなる吸入ポート(図示せず)を介して各シリンダ穴10内に供給する。また、高圧側の給排通路(排出通路)は、弁板13の高圧ポートとなる排出ポート(図示せず)側から下流の油圧機器(例えば、油圧シリンダ等の油圧アクチュエータ)に向けて圧油(吐出油)を排出(吐出)する。
入力軸となる回転軸5は、ケーシング本体3の一側筒部3A内に設けられている。回転軸5は、ケーシング本体3の一側筒部3A内に軸受6,6を介して回転可能に支持されている。回転軸5の一端側は、ケーシング本体3の軸挿通孔3Cを通じてケーシング本体3の外部に突出し、例えば、油圧ポンプ1を駆動するエンジン、電動モータ等の原動機(図示せず)に連結される。
一方、ケーシング本体3の一側筒部3A内を他側筒部3Bに向けて延びる回転軸5の基端側(他端側)には、回転軸5と一体に回転するディスク部としてのドライブディスク7が一体的に設けられている。ドライブディスク7には、シリンダブロック8と対向する他側端面の中心側に位置して中心側凹球面部7Aが設けられている。中心側凹球面部7Aには、センタシャフト11の球形部11Aが摺動可能に連結される。また、ドライブディスク7の他側端面には、中心側凹球面部7Aの径方向外側に位置して回転伝達用の複数の外径側凹球面部7Bが、所定のPCD(ピッチ円直径)の円周上に互いに周方向に離間して設けられている。各外径側凹球面部6Bには、各ピストン12の球形部12Bがそれぞれ揺動可能に連結される。
シリンダブロック8は、ケーシング2内に回転可能に設けられている。シリンダブロック8は、センタシャフト11、各ピストン12等を介してドライブディスク7に連結され、回転軸5と一体に回転する。ここで、シリンダブロック8の中心部には、センタシャフト11が摺動可能に挿嵌されるセンタ穴9がシリンダブロック8の回転中心軸αに沿って穿設されている。また、シリンダブロック8には、それぞれ軸方向に延びる複数本(通常5本、7本または9本等の奇数本)のシリンダ穴10が穿設されている。
シリンダ穴10は、センタ穴9を中心とした所定のPCD(ピッチ円直径)の円周上に周方向に一定の間隔をもって配置されている。即ち、シリンダブロック8は、周方向に離間して軸方向に延びる複数のシリンダ穴10を有している。また、シリンダブロック8のうちヘッドケーシング4側の端面は、弁板13に摺接する凹湾曲面状の摺動面8Aとなっている。シリンダブロック8の摺動面8Aと各シリンダ穴10との間には、摺動面8A側で弁板13の給排ポート(低圧ポート、高圧ポート)に連通、遮断される複数のシリンダポート10A(1本のみ図示)が形成されている。
センタシャフト11は、シリンダブロック8のセンタリングを行うためにセンタ穴9に挿嵌して設けられている。センタシャフト11は、図1に示すように、一端側が球形部11Aとなり、他端側には有底状のばね収容穴11Bが形成されている。そして、センタシャフト11の球形部11Aは、ドライブディスク7の中心側凹球面部7Aに摺動可能に嵌合されている。センタシャフト11のばね収容穴11B内には、ばね14が配設されている。
複数のピストン12は、それぞれシリンダブロック8の各シリンダ穴10内に往復動可能に挿嵌されている。ピストン12は、ドライブディスク7側となる基端側からシリンダ穴10に挿嵌される側となる先端側に進む程、外径寸法が大きくなる方向に傾斜したテーパ状の外周面を有するテーパピストンとして構成されている。即ち、図2に示すように、ピストン12は、一端側(基端側)から他端側(先端側)に向けテーパ状に拡径して形成されたテーパ軸部12Aと、テーパ軸部12Aの一端(小径部)側に一体に形成された球形部12Bとを含んで構成されている。ピストン12の球形部12Bは、ドライブディスク7の外径側凹球面部7B内に揺動(摺動)可能に連結される。各ピストン12は、回転軸5に対して傾転したシリンダブロック8が回転することにより、シリンダ穴10内で往復動し、油液の吸込(吸入)、吐出(排出)を行う。
ここで、ピストン12の他端側には、ピストンリング装着溝12Cと小球部12Dとが設けられている。即ち、ピストン12は、他端側から順にピストンリング装着溝12Cと小球部12Dとを有している。ピストンリング装着溝12Cは、ピストン12の外周側に全周にわたって内径側に凹陥することにより形成された環状全周溝となっている。ピストンリング装着溝12Cには、ピストンリング15が装着されている。小球部12Dは、ピストンリング装着溝12Cよりもシリンダ穴10の開口側(即ち、ピストン12の球形部12B側)に位置している。小球部12Dは、シリンダ穴10の内周面に向けて全周にわたって凸湾曲状に突出している。ピストン12は、球形部12Bがドライブディスク7の外径側凹球面部7Bに挿入され、小球部12Dがシリンダブロック8のシリンダ穴10に挿入されている。
弁板13は、ケーシング2のヘッドケーシング4とシリンダブロック8との間、即ち、シリンダブロック8のシリンダ穴10の開口とは反対側(シリンダポート10A側)に設けられている。弁板13は、シリンダブロック8に対面する一側面が凸湾曲状の切換面13Aとなり、他側面は平坦面となってヘッドケーシング4に固定されている。シリンダブロック8は、その摺動面8Aが弁板13の切換面13Aに対して摺接しつつ回転することにより、各シリンダ穴10に対する圧油の供給,排出が下記のように行われる。
即ち、弁板13には、図示しない眉形状をなす一対の給排ポート、即ち、低圧ポート(吸入ポート)と高圧ポート(排出ポート)とが周方向に延びて形成されている。給排ポート(吸入ポート、排出ポート)は、ヘッドケーシング4に形成した一対の給排通路(吸入通路、排出通路)に連通している。そして、給排ポートは、シリンダブロック8の回転に伴って各シリンダ穴10のシリンダポート10Aと間欠的に連通する。
この場合、低圧側となる一方の給排ポート(吸入ポート)は、一対の給排通路のうち低圧側の給排通路(吸入通路)に接続され、タンクからの作動油を各シリンダ穴10内に供給する。また、高圧側となる他方の給排ポート(排出ポート)は、一対の給排通路のうち高圧側の給排通路(排出通路)に接続され、各シリンダ穴10内の高圧の作動油(圧油)を下流の油圧機器側に向けて排出する。
ばね14は、センタシャフト11とシリンダブロック8との間に設けられている。ばね14は、センタシャフト11のばね収容穴11B内に配置され、シリンダブロック8を弁板13の切換面13Aに向けて常時付勢している。これにより、シリンダブロック8は、その摺動面8Aを弁板13の切換面13Aに密着させた状態で弁板13に対して正方向または逆方向に相対回転する。
次に、各ピストン12のピストンリング装着溝12Cに装着されたピストンリング15について、図1および図2に加え、図3ないし図6も参照しつつ説明する。
即ち、ピストンリング15は、外周面15Aと内周面15Bとを有するリング体からなっている。ピストンリング15の外周面15Aは、軸方向の中央部が径方向外側に向けて突出した凸状湾曲面となっている。ピストンリング15の内周面15Bは、軸方向にわたって内径寸法が一定の円形内周面となっている。
また、ピストンリング15は、リング体の軸方向一側面である一側面15Cと、リング体の軸方向他側面である他側面15Dと、離間部15Eとを有している。一側面15Cは、ピストンリング装着溝12Cの軸方向両側面のうち、小球部12D側(基端側)の側面と対向する。即ち、図3に示すように、一側面15Cは、シリンダ穴10内の油液の圧力によって、ピストンリング装着溝12Cの小球部12D側の側面に押付けられる。他側面15Dは、ピストンリング装着溝12Cの軸方向両側面のうち、ピストン12の先端側(シリンダ穴10のシリンダポート10A側)の側面と対向する。即ち、他側面15Dは、一側面15Cとは軸方向反対側の側面である。
離間部15Eは、合口とも呼ばれ、ピストンリング15の周方向1個所位置に設けられた周方向の切り離し部、換言すれば、互いにピストンリング15の周方向に対向(対面)する一対の対向面(断面)を付き合わせた如き対向部(付き合わせ部)である。離間部15Eは、周方向に離間させることによりピストンリング15をピストンリング装着溝12Cに装着させることを可能とするものである。即ち、ピストンリング15は、離間部15Eをピストンリング15の周方向に開き、ピストンリング15を拡径方向に弾性変形させた状態で、ピストンリング装着溝12Cに装着することができる。これに加えて、離間部15Eは、図3に矢印Yで示すように、シリンダ穴10内の油液を潤滑油としてピストン12の小球部12Dとシリンダ穴10の内周面との接触部位に供給する絞り通路となるものである。なお、図3では、ピストン12の小球部12Dとシリンダ穴10の内周面との接触部位、および、ピストンリング15の外周面15Aとシリンダ穴10の内周面との接触部位を、それぞれドット模様を付して現わしている。
ここで、固定容量型斜軸式油圧ポンプ1の動作について説明する。シリンダブロック8の回転中心軸線α(図1参照)は、回転軸5およびドライブディスク7の回転中心軸線に対して所定の傾転角分傾いている。このため、シリンダブロック8は、回転軸5に対して所定の傾転角分傾いて回転する。このとき、センタシャフト11の球形部11Aとドライブディスク7の中心側凹球面部7Aとの球継手により、回転軸5の回転中心軸線とシリンダブロック8の回転中心軸線αとが接続されている。これにより、回転軸5が一回転する間に、ピストン12の小球部12Dは、シリンダ穴10を一回往復し、作動油を弁板13の低圧ポート(吸入ポート)を介してシリンダ穴10内に吸入し、弁板13の高圧ポート(排出ポート)に排出する。
次に、ピストン12の小球部12Dおよびピストンリング15とシリンダ穴10の摺動について図3を参照しつつ説明する。なお、図3中の「P」はシリンダ穴10内の背圧Pに対応し、図3中の「P1」は後述のV字空間18の圧力P1に対応し、図3中の「P2」は、ケーシング2内の圧力P2に対応する。
回転軸5の回転中心軸線とシリンダブロック8の回転中心軸線αは、傾斜角分傾いている。この場合、図3に示すように、「ドライブディスク7の外径側凹球面部7Bに挿入されたピストン12の球形部12Bの中心」と「シリンダブロック8のシリンダ穴10に挿入されたピストン12の小球部12Dの中心」とを結ぶピストン12の中心軸線S−Sと、シリンダ穴10の中心軸線T−Tとの傾き角をβとする。ピストン12の中心軸線S−Sは、ピストン12の小球部12Dがシリンダ穴10を往復するとき、シリンダ穴10の中心軸線T−Tに対する傾き角βを変化させながら往復動する。
このとき、シリンダ穴10内の背圧Pによりピストン12の断面積Aに加わる荷重は、「P×A」である。そして、この荷重「P×A」に基づいて、ピストン12の小球部12Dは、シリンダ穴10に「P×A×tanβ」の押し付け荷重で押付けられる。ピストン12の中心軸線S−Sとシリンダ穴10の中心軸線T−Tとの傾き角βは、ドライブディスク7、センタシャフト11、シリンダブロック8、ピストン12の幾何学的位置関係および各接続部のクリアランスの影響を受けて、ピストン12の一往復の間に変化する。これにより、ピストン12の小球部12Dのシリンダ穴10の内周面に対する接触点の位置は、小球部12Dの軸方向断面の円弧状に範囲を持つ。
一方、ピストンリング15の一側面15Cは、シリンダ穴10の背圧Pに基づいて、ピストンリング装着溝12Cの側面に押付けられる。これにより、ピストンリング15の一側面15Cとピストンリング装着溝12Cの側面との間からの漏れがシールされる。また、ピストンリング15は、ピストンリング15とシリンダ穴10とのクリアランスの範囲内で背圧Pにより径方向に押し広げられる。これにより、シリンダ穴10にピストンリング15の凸状湾曲の外周面15Aが押付けられ、ピストンリング15の外周面15Aとシリンダ穴10の内周面との隙間からの漏れをシールする。ピストンリング15は、ピストン12のピストンリング装着溝12Cの側面に押付けられているから、ピストンリング15の外周面15Aのシリンダ穴10の内周面に対する接触点の位置は、ピストン12の小球部12Dの接触点の位置と同様に、軸方向断面の円弧状に範囲を持つ。
ピストンリング15の外周面15Aの実押し付け荷重は、「背圧Pが加わるピストンリング15の内周面15Bの面積に加わる押し付け荷重」から「ピストンリング15の外周面15Aの頂点部からV字空間18の圧力P1を受ける側の一側面15Cの端部までの面積に加わる乖離荷重」と「ピストンリングの外周面15Aの頂点部から背圧Pを受ける側の他側面15Dの端部までの面積に加わる乖離荷重」を差し引いた荷重となる。このため、ピストンリング15の外周面15Aの頂点の軸方向位置は、ピストンリング15のシール性を確保でき、かつ、外周面15Aの潤滑を確保できる適切な乖離荷重となるように設定している。
また、背圧Pに基づいて、ピストンリング15の離間部15Eが開く(周方向に離間する)ことにより、ピストン12の小球部12Dに一定量の潤滑油が供給される。即ち、ピストンリング15の外周面15Aとピストン12の小球部12Dとシリンダ穴10の内周面とによって概略囲まれた軸方向断面が略V字状の空間であるV字空間18に、離間部15Eからの潤滑油が供給される。これにより、V字空間18には、離間部15Eの絞り(絞り通路)を通ることにより、背圧Pから減圧された圧力P1が立ち、押し付け荷重「P×A×tanβ」で押付けられているピストン12の小球部12Dが潤滑される。
ここで、ピストンリング15の離間部15Eの隙間からの潤滑油の供給量Qは、図7および図8に示すパラメータと下記の数1式(オリフィスの式)に示す関係がある。なお、数1式中の「a」は、ピストンリング15の離間部15Eによる開口面積aであり、下記の数2式で表される。図7および図8は、数1式および数2式のパラメータを説明するための図であり、シリンダ穴10の中心軸線とピストン12の中心軸線とが一致している。また、ピストンリング15は、シリンダ穴10の内周面まで離間部15Eが開いている状態を示している。また、図7中に「F」を付した矢印は、潤滑油の流れ方向を示している。
ここで、「Cd」は、流量係数Cdである。「P」は、シリンダ穴10内の背圧Pである。「P1」は、V字空間18の圧力P1である。「ρ」は、流体の密度である。「a」は、「シリンダ穴10の内周面」と「ピストン12の小球部12Dとピストンリング15との当接円」との間でピストンリング15の離間部15Eによって構成される開口面積aであり、上記の数2式で表される。この場合、ピストンリング15がシリンダ穴10の内周面まで開いた状態で、ピストン12の小球部12Dの端部とピストンリング15との当接円の半径r1は、ピストンリング15の凸湾曲状の外周面15Aと一側面15Cとの境界部の半径rrよりも小さいものとする(r1<rr)。
「L1」は、流体(潤滑油)の流れ方向に対して垂直な方向のピストンリング15の離間部15Eの開き幅L1である。「r1」は、小球部12Dの端部とピストンリング15との当接円の半径r1である。「r2」は、シリンダ穴10の半径r2である。また、「L1」は、シリンダ穴10の半径r2とピストンリング15の自然状態(離間部15Eが開いていない状態)での半径r3(図示せず)を用いて以下の数3式で表される。
上述のような関係があることから、「(r2−r1)」が大きいとき、および、「L1」が大きいとき(図7および図8の場合は、「r2−r3」が大きいとき)に、開口面積aが大きくなり、潤滑油の供給量Qが増加する。また、「L1」は、図8に示すように離間部15Eがピストンリング15の軸方向に形成されている場合は、上述のような関係で表される。これに対して、例えば、離間部15Eのピストンリング15の軸方向に対する傾きが変化すると、この変化に応じて「L1」も変化する。即ち、離間部15Eのピストンリング15の軸方向に対する傾きが変化すると、「L1」が変化し、供給量Qも変化する。
ところで、ピストン12の小球部12Dの潤滑を確保するためには、供給量Qを適切な一定の範囲に管理する必要がある。そして、供給量Qを適切な一定の範囲に管理するためには、L1、r1、r2、離間部15Eの傾き等を所定の寸法、角度に設定し、このL1、r1、r2、傾き等が一定のばらつきの範囲内となるようにピストンリング15を加工する(離間部15Eを形成する)必要がある。
一方、前述の特許文献2には、ピストンリングの内周側に設けたノッチを起点として離間部(合口)となる亀裂を内周側から外周側へ進展(伸展)させる技術が記載されている。しかし、この技術は、亀裂が内周側から外周側へ進展(進行)するときに、この亀裂を方向付ける形状的なガイドがない。このため、離間部(合口)となる亀裂がランダムに変化する可能性がある。これにより、例えば、ピストンリングの離間部の形状(傾き、長さ等)がばらつき、離間部の隙間を通過する潤滑油の流量(供給量Q)が所望の量(適切な量)から逸脱する可能性がある。そして、例えば、供給量Qが過多になると、ポンプ性能(効率)が低下する可能性がある。または、供給量Qが過小になると、ピストンの小球部とシリンダ穴の内周面との接触部位の潤滑を十分に確保できなくなる可能性がある。
これに対して、第1の実施の形態では、図4ないし図6に示すように、ピストンリング15の内周面15Bには、軸方向に延びる内周ノッチ16が形成されている。これに加えて、ピストンリング15の他側面15Dには、内周ノッチ16と連続し、かつ、径方向に延びる側面ノッチ17が形成されている。他側面15Dは、シリンダ穴10内の油液の圧力によってピストンリング装着溝12Cに押付けられるピストンリング15の一側面15Cとは反対側の面である。そして、ピストンリング15の離間部15Eは、内周ノッチ16および側面ノッチ17に沿って形成されている。この場合、内周ノッチ16は、ピストンリング15の一側面15Cと他側面15Dとの間の全体にわたって軸方向に延びている。また、側面ノッチ17は、ピストンリング15の内周面15Bと外周面15Aとの間の全体にわたって径方向に延びている。側面ノッチ17は、ピストンリング15の外周面15Aのうちシリンダ穴10の内周面と摺動(摺接)する部位(図3中の「ドット模様」参照)と干渉しない一定の深さで形成されている。内周ノッチ16は、ピストンリング15の一側面15Cから他側面15Dまでの全体にわたって一定の深さで形成されている。
第1の実施の形態では、内周ノッチ16は、離間部15Eが形成される前のリング体(完全リング体)の素材(ピストンリング素材)の内周面に形成される。内周ノッチ16は、例えば、ピストンリング素材の内周面に、この内周面から径方向外側に向けて砥石等により切り欠かれた切り欠きとして形成することができる。また、側面ノッチ17は、離間部15Eが形成される前のリング体の素材(ピストンリング素材)の側面に形成される。側面ノッチ17は、例えば、ピストンリング素材の側面に、この側面から反対側の側面に向けて砥石等により切り欠かれた切り欠きとして形成することができる。内周ノッチ16と側面ノッチ17は、ピストンリング素材(ピストンリング15)の内周面(内周面15B)と側面(他側面15D)とが交わる部分で接続している(連続している)。
そして、ピストンリング15の離間部15Eは、内周ノッチ16および側面ノッチ17に沿って亀裂が進展(進行)することにより形成されている。即ち、離間部15Eは、内周ノッチ16と側面ノッチ17とが形成されたリング体の素材(ピストンリング素材)の外周面のうち内周ノッチ16と位相が一致する部分に、径方向外側から内側(中心)に向けて荷重を加える。これにより、内周ノッチ16の径方向外側の先端に応力集中を生じさせ、離間部15E(合口)となる亀裂を発生させる。そして、この亀裂を進展(伸展)させることにより、内周ノッチ16の先端とピストンリング素材(ピストンリング15)の外周面(外周面15A)との間を破断させ、この破断された部分が離間部15Eとなる。このとき、亀裂が側面ノッチ17に沿って進展するため、所望の形状(傾き、長さ)の離間部15Eを精度よく形成することができる。換言すれば、離間部15Eの形状(傾き、長さ)が所望の形状からばらつくことを抑制できる。
また、実施の形態では、ピストンリング素材(ピストンリング15)の材質は、軸受鋼としている。ピストンリング素材は、仕上げ取り代を残して成形し(第1工程:成形工程)、内周ノッチ16および側面ノッチ17を形成する(第2工程:ノッチ形成工程)。その後、焼き入れ、焼き戻しの熱処理を施す(第3工程:熱処理工程)。熱処理が施されたピストンリング素材は、研磨により取り代を除去し、所定の寸法・粗さに加工してから(第4工程:仕上げ工程)、離間部15Eとなる部分を破断させることにより(第5工程::破断工程)、離間部15Eを形成する(ピストンリング15を製造する)。熱処理により、摺動時の耐久性を確保でき、かつ、離間部15Eを形成するときの切り欠き効果により、熱処理を行わない場合と比較して亀裂の発生・進展をしやすくできる。
第1の実施の形態による油圧ポンプ1は、上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
エンジン、モータ等の原動機(図示せず)によって回転軸5を回転駆動すると、回転軸5のドライブディスク7と共にシリンダブロック8が回転する。シリンダブロック8の回転中心軸αは、回転軸5に対して傾斜しているので、シリンダブロック8の回転に伴って各シリンダ穴10内でピストン12が往復動する。シリンダブロック8は、弁板13の凸球面状の切換面13A上を回転摺動し、シリンダブロック8に設けられた各シリンダ穴10のシリンダポート10Aは、弁板13に設けられた給排ポート(低圧ポート、高圧ポート)に間欠的に連通する。
シリンダポート10Aが各給排ポートのうち低圧側(吸込側)のポートである低圧ポート(吸入ポート)に連通する半回転の間は、ピストン12がシリンダ穴10から突出する吸込行程となり、シリンダ穴10内に作動油が吸込まれる。一方、シリンダポート10Aが各給排ポートのうち高圧側(吐出側)のポートである高圧ポート(排出ポート)に連通する半回転の間は、ピストン12がシリンダ穴10内に進入する吐出行程となり、吸込行程でシリンダ穴10内に吸込まれた作動油を加圧して弁板の高圧側のポートに排出(吐出)する。このように吸入行程と吐出行程とを繰返すことにより、固定容量型斜軸式油圧ポンプ1のポンプ作用が行われる。
ピストン12のピストンリング装着溝12Cに装着されたピストンリング15は、ピストン12と一緒に往復動する。このとき、シリンダ穴10内の油液は、ピストンリング15の離間部15Eを通じて、V字空間18、即ち、ピストン12の小球部12Dとシリンダ穴10の内周面との接触部位に供給される。この場合、ピストンリング15の離間部15Eを通じて、ピストン12の小球部12Dの潤滑に適切な量の潤滑油を供給することができる。
即ち、第1の実施の形態によれば、ピストンリング15の離間部15Eは、ピストンリング15の内周面15Bに形成された内周ノッチ16、および、この内周ノッチ16と連続してピストンリング15の他側面15Dに形成された側面ノッチ17に沿って形成されている。このため、ピストンリング15に離間部15Eが形成される前のリング体(完全リング体)の素材(ピストンリング素材)に内周ノッチ16と側面ノッチ17とを形成した状態で、ピストンリング素材の外周側のうち内周ノッチ16に対応する位置(位相が一致する位置)から径方向内側(中心側)に向けて荷重を加えると、内周ノッチ16を周方向に開く引っ張り荷重が加わる。これにより、内周ノッチ16の先端に応力集中が生じ、この先端を起点として離間部15Eとなる亀裂が生じる。
このとき、内周ノッチ16から径方向外側に順次、側面ノッチ17を周方向に開く引っ張り荷重が加わる。これにより、側面ノッチ17に応力集中が生じ、側面ノッチ17が延在する方向に離間部15Eとなる亀裂が進展する。即ち、内周ノッチ16と側面ノッチ17がガイドとなってそれぞれの方向の亀裂を進展させることができる。そして、これら内周ノッチ16と側面ノッチ17は連続しているため、内周ノッチ16と側面ノッチ17との両方がガイドとなって、1つの離間部15E(合口)を形成することができる。これにより、ピストンリング15の離間部15Eを精度よく形成することができる。この場合、内周ノッチ16と側面ノッチ17を、亀裂の進展する向きのばらつきを設計の範囲内に収めることができる最小限の長さに設定することで、成形のコストを低減できる。
また、内周ノッチ16と側面ノッチ17の深さは、それぞれのノッチ16,17が延在する方向の各位置において、所望に設定することができる。この場合、例えば、ノッチ16,17の深い部位では、引っ張り荷重を受ける長さが短くなることで、ノッチ16,17の先端の応力集中が大きくなる。これにより、亀裂の進展のガイド機能の安定性を向上することができる。このため、この面からも、即ち、ノッチ16,17の深さを位置(軸方向位置、径方向位置)に応じて変化させる(調整する)ことでも、ピストンリング15の離間部15Eを精度よく形成することができる。
また、内周ノッチ16および側面ノッチ17は、ピストンリング15の外周面15A(軸方向断面が凸湾曲状の外周面15A)のうちシリンダ穴10の内周面と摺動(摺接)する部位と干渉しないように形成することができる。これにより、摺動によって高応力が加わる部位(摺動範囲付近)の強度を確保することができ、ノッチ16,17が形成された部分を含むピストンリング15の離間部15Eの耐久性を向上することができる。
これらにより、離間部15Eの形状を所望の寸法で一定の安定的なばらつきの範囲内で形成することが可能になり、この離間部15Eを通じてピストン12の小球部12Dに、この小球部12Dの潤滑に適切な量の潤滑油を供給することができる。即ち、離間部15Eの形状(寸法、角度)が所望の範囲から外れることを抑制でき、供給量Qが過多になることによるポンプ性能(効率)の低下、および、供給量Qが過小になることによりピストン12の小球部12Dとシリンダ穴10の内周面との接触部位の潤滑が不十分になることを抑制できる。
しかも、側面ノッチ17は、ピストンリング15の他側面15Dに設けられており、ピストンリング15の一側面15Cに設けられていない。このため、シリンダ穴10内の油液の圧力によってピストンリング装着溝12Cの小球部12D側の側面に押付けられる一側面15Cと、このピストンリング装着溝12Cの側面(小球部12D側の側面)との間のシール性を確保することができる。即ち、ピストンリングの一側面に側面ノッチを設けると、シリンダ穴内の油液の圧力によって、この油液が側面ノッチを通じて漏れるおそれがある。これに対して、実施の形態では、他側面15Dに側面ノッチ17を設けているため、V字空間18に絞り通路となる離間部15E(合口)を通じて適切な油液を供給できる。この結果、斜軸式液圧回転機である油圧ポンプ1の漏れ損失を抑制しつつ、摺接部位の潤滑を確保でき、油圧ポンプ1の信頼性を向上することができる。
第1の実施の形態によれば、内周ノッチ16は、ピストンリング15の一側面15Cと他側面15Dとの間の全体にわたって延びている。このため、ピストンリング15の内周面15Bの軸方向の全体にわたって延びる内周ノッチ16の先端を起点として、離間部15Eとなる亀裂を進展させることができる。これにより、ピストンリング15に所望の離間部15Eを精度よく形成することができる。
第1の実施の形態によれば、側面ノッチ17は、ピストンリング15の内周面15Bと外周面15Aとの間の全体にわたって延びている。このため、ピストンリング15の他側面15Dの径方向の全体にわたって延びる側面ノッチ17によって、ピストンリング15の内周面15Bから外周面15Aの全体にわたって離間部15Eとなる亀裂を案内(ガイド)することができる。これにより、ピストンリング15に所望の離間部15Eを精度よく形成することができる。
第1の実施の形態によれば、側面ノッチ17は、径方向に延びている。このため、離間部15Eとなる亀裂を側面ノッチ17により径方向に案内することができる。これにより、径方向に延びる離間部15Eをピストンリング15に精度よく形成することができる。
次に、図9ないし図11は、第2の実施の形態を示している。第2の実施の形態の特徴は、側面ノッチが径方向に対して角度を持って延びる構成としたことにある。なお、第2の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第2の実施の形態によれば、側面ノッチ21は、径方向に対して角度を持って延びている。即ち、内周ノッチ16は、第1の実施の形態と同様に、ピストンリング15の内周面15Bの全域にわたって軸方向に延びて設けられている。この場合、内周ノッチ16は、ピストンリング15の一側面15Cから他側面15Dまでの全体にわたって一定の深さで延在している。一方、側面ノッチ21は、ピストンリング15の他側面15Dの全域(即ち、内周面15Bから外周面15Aまでの全域)にわたって径方向に対して角度を持って延びて設けられている。この場合、側面ノッチ21は、ピストンリング15の外周面15Aとシリンダ穴10の内周面とが摺動(摺接)する部位と干渉しない一定の深さで延在している。そして、内周ノッチ16と側面ノッチ21は、ピストンリング15の内周面15Bと他側面15Dとが交わる部位で連続している。
ここで、側面ノッチ21の角度、即ち、径方向に対する角度(傾き)は、ピストン12の小球部12Dとシリンダ穴10の内周面との接触部位の潤滑を確保でき、かつ、ポンプ性能(効率)の低減を抑制でき範囲となるように設定されている。即ち、絞りとなる離間部15Eの形状(寸法、角度)が所望の範囲となるように、側面ノッチ21の角度、延いては、この側面ノッチ21に沿って形成される離間部15Eの角度が設定されている。
第2の実施の形態の場合も、第1の実施の形態と同様に、ピストンリング15の離間部15Eは、内周ノッチ16および側面ノッチ21に沿って形成されている。即ち、離間部15Eが形成される前のリング体(完全リング体)の素材(ピストンリング素材)に内周ノッチ16および側面ノッチ21を形成する。そして、この素材(ピストンリング素材)の外周側のうち内周ノッチ16と対応する位置から内径側に荷重を加え、内周ノッチ16および側面ノッチ21に沿って亀裂を進展させることにより、離間部15E(合口)を形成する。この場合、亀裂が側面ノッチ21にガイドされつつ進展することにより、所望の形状(傾き、長さ)の離間部15Eを精度よく形成することができる。
第2の実施の形態は、上述のような内周ノッチ16および側面ノッチ21に沿って離間部15Eとなる亀裂を進展させたもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。即ち、第2の実施の形態も、第1の実施の形態と同様に、ピストンリング15の離間部15Eを精度よく形成することができる。これにより、ピストン12の小球部12Dの潤滑に適切な量の潤滑油を、ピストンリング15の離間部15Eを通じて供給することができる。
しかも、第2の実施の形態によれば、側面ノッチ21は、径方向に対して角度を持って延びている。このため、離間部15Eとなる亀裂を側面ノッチ21により径方向に対して角度を持って案内(ガイド)することができる。これにより、径方向に対して角度を持った離間部15Eをピストンリング15に精度よく形成することができる。
次に、図12ないし図14は、第3の実施の形態を示している。第3の実施の形態の特徴は、側面ノッチがピストンリングの内周面から外周面よりも内径側の途中位置まで延びており、かつ、ピストンリングの内周面側から外周面側に進む程深さが浅くなる構成としたことにある。なお、第3の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第3の実施の形態によれば、側面ノッチ31は、「ピストンリング15の内周面15B」から「外周面15Aよりも内径側の途中位置」まで延びている。逆に言えば、側面ノッチ31は、ピストンリング15の外周面15Aと内周面15Bとの間の途中位置から内周面15Bまで延びている。また、側面ノッチ31は、ピストンリング15の内周面15B側から外周面15A側に進む程、深さが浅くなっている。
即ち、内周ノッチ16は、第1の実施の形態と同様に、ピストンリング15の内周面15Bの全域にわたって軸方向に延びて設けられている。この場合、内周ノッチ16は、ピストンリング15の一側面15Cから他側面15Dまでの全体にわたって一定の深さで延在している。一方、側面ノッチ31は、ピストンリング15の他側面15Dの一部(即ち、内周面15Bから外周面15Aよりも内径側の途中位置)にわたって径方向に延びて設けられている。この場合、側面ノッチ31の深さは、ピストンリング15の内周面15B側から外周面15A側に進む程、深さが浅くなっている。これにより、側面ノッチ31は、ピストンリング15の外周面15Aとシリンダ穴10の内周面とが摺動(摺接)する部位と干渉しないようにしている。そして、内周ノッチ16と側面ノッチ31は、ピストンリング15の内周面15Bと他側面15Dとが交わる部位で連続している。
第3の実施の形態は、上述のような内周ノッチ16および側面ノッチ31に沿って離間部15Eとなる亀裂を進展させたもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態および第2の実施の形態によるものと格別差異はない。即ち、第3の実施の形態も、第1の実施の形態および第2の実施の形態と同様に、ピストンリング15の離間部15Eを精度よく形成することができる。これにより、ピストン12の小球部12Dの潤滑に適切な量の潤滑油を、ピストンリング15の離間部15Eを通じて供給することができる。
しかも、第3の実施の形態によれば、側面ノッチ31は、ピストンリング15の他側面15Dのうち内周面15Bから径方向の途中位置まで延びている。このため、側面ノッチ31によって、ピストンリング15の内周面15Bから途中位置まで離間部15Eとなる亀裂を案内することができる。この場合、側面ノッチ31は、ピストンリング15の外周面15Aに達していないため、シリンダ穴10の内周面と摺動(摺接)する部位と側面ノッチ31との離間寸法を大きくすることができる。このため、この面からも、摺動によって高応力が加わる部位の強度を確保することができ、ピストンリング15の耐久性を向上することができる。
第3の実施の形態によれば、側面ノッチ31は、ピストンリング15の内周面15B側から外周面15A側に進む程、深さが浅くなっている。このため、離間部15Eとなる亀裂を進展させるときに、ピストンリング15の内径側には比較的大きな応力集中が生じることにより内周ノッチ16の先端に沿って亀裂を発生しやすくできる。これに加えて、径方向の亀裂の進展についても、ピストンリング15の内径側で側面ノッチ31の深さが深い部分で初期の亀裂の進展の方向付けがされやすくなる。これにより、所望の離間部15Eを安定して形成することができる。この結果、「側面ノッチ31により離間部15Eとなる亀裂を外周面15A側に向けて案内すること」と「ピストンリング15の外周面15A側で摺動によって高応力が加わる部位の強度を確保すること」とを、高い次元で両立できる。
次に、図15ないし図17は、第4の実施の形態を示している。第4の実施の形態の特徴は、内周ノッチがピストンリングの一側面と他側面との間の途中位置から他側面まで延びる構成としたことにある。なお、第4の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第4の実施の形態によれば、内周ノッチ41は、ピストンリング15の一側面15Cと他側面15Dとの間の途中位置から他側面15Dまで延びている。この場合、内周ノッチ41の深さは、一側面15C側で、一側面15Cに進む程、深さが浅くなっている。そして、内周ノッチ41と側面ノッチ17は、ピストンリング15の内周面15Bと他側面15Dとが交わる部位で連続している。
第4の実施の形態は、上述のような内周ノッチ41および側面ノッチ17に沿って離間部15Eとなる亀裂を進展させたもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態ないし第3の実施の形態によるものと格別差異はない。即ち、第4の実施の形態も、第1の実施の形態ないし第3の実施の形態と同様に、ピストンリング15の離間部15Eを精度よく形成することができる。
次に、図18ないし図20は、第5の実施の形態を示している。第5の実施の形態の特徴は、内周ノッチが軸方向に対して角度を持って延びる構成としたことにある。なお、第5の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第5の実施の形態によれば、内周ノッチ51は、軸方向に対して角度を持って延びている。即ち、内周ノッチ51は、ピストンリング15の内周面15Bの全域にわたって軸方向に対して角度を持って延びて設けられている。この場合、内周ノッチ51は、ピストンリング15の一側面15Cから他側面15Dまでの全体にわたって一定の深さで延在している。一方、側面ノッチ17は、第1の実施の形態と同様に、ピストンリング15の内周面15Bと外周面15Aとの間の全体にわたって径方向に延びている。
ここで、前述したように、流体(潤滑油)の流れ方向に対して垂直な方向のピストンリング15の離間部15Eの開き幅「L1」は、離間部15Eがピストンリング15の軸方向に形成されている場合、前述の数3式の関係で表される。即ち、離間部15Eがピストンリング15の軸方向に形成されている場合は、「(r2−r1)」が大きいとき、および、「L1」が大きいときに、開口面積aが大きくなり、潤滑油の供給量Qが増加する。これに対して、「L1」は、ピストンリング15の軸方向に対して任意の角度θ傾けることによって、以下の数4式の関係で表される。
この場合、図20に示すように、「L」は、ピストンリング15の周方向の開き幅Lである。「θ」は、LとL1のなす角θである。このように、θを任意に決めることによって、シリンダ穴10の半径r2、ピストンリング15の自然状態での半径r3のみに限定されずに、「L1」を任意の長さに設定することができる。この結果、供給量Qを任意に設定することができる。
第5の実施の形態は、上述のような内周ノッチ51および側面ノッチ17に沿って離間部15Eとなる亀裂を進展させたもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態ないし第4の実施の形態によるものと格別差異はない。即ち、第5の実施の形態も、第1の実施の形態ないし第4の実施の形態と同様に、ピストンリング15の離間部15Eを精度よく形成することができる。この場合、内周ノッチ51の軸方向に対する角度、即ち、LとL1のなす角θを変更することによって、離間部15Eの開き幅L1を変更することができ、意図した供給量Qに調整できる。即ち、離間部15Eのなす角θを精度よく規制することができ、V字空間18(ピストン12の小球部12Dとシリンダ穴10の内周面との接触部位)に意図した量の潤滑油を供給することができる。
なお、第1の実施の形態では、斜軸式液圧回転機として固定容量型の油圧ポンプ1を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、可変容量型の油圧ポンプを用いてもよい。このことは、第2の実施の形態ないし第5の実施の形態についても同様である。
第1の実施の形態では、斜軸式液圧回転機として油圧ポンプ1を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、油圧モータ等、他の斜軸式液圧回転機として用いてもよい。このことは、第2の実施の形態ないし第5の実施の形態についても同様である。
実施の形態では、油圧ポンプ1を油圧ショベルに適用する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、油圧クレーン、ホイールローダ等の油圧ショベル以外の建設機械に適用してもよい。さらに、建設機械に限定されず、産業機械や一般機械に組み込まれる油圧ポンプ、油圧モータ等、各種機械に用いられる斜軸式液圧回転機として広く適用できるものである。また、上述した各実施の形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。