以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る過給機付2ストロークエンジン1(以下、省略してエンジン1という)を示す。このエンジン1は車両に搭載されるエンジンであって、本実施形態では、ガソリンを含む燃料(エタノールが含まれていてもよい)が供給されるガソリンエンジンである。
エンジン1は、エンジン本体10を備え、このエンジン本体10は、複数の気筒11(図1において1つのみ図示している)が設けられたシリンダブロック12と、このシリンダブロック12上に配設されたシリンダヘッド13とを有している。複数の気筒11は、筒軸方向が上下方向となり、紙面方向に垂直な方向が気筒列方向となるように配設されている。エンジン本体10の各気筒11内には、ピストン15が往復摺動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン15と、シリンダブロック12と、シリンダヘッド13とによって燃焼室16が区画されている。燃焼室16は、いわゆるペントルーフ型の燃焼室16であり、シリンダヘッド13における燃焼室16を構成する壁面は、2つ傾斜面13a,13bを有している。ピストン15は、シリンダブロック12内においてコンロッド17を介して、気筒列方向に延びるクランクシャフト18と連結されている。シリンダブロック12における気筒11の周囲には、エンジン冷却水が流通するウォータジャケット12aが形成されている。
エンジン本体10は、いわゆるオーバーヘッドカムシャフト方式の動弁機構を有しており、シリンダヘッド13には、燃焼室16に連通する吸気ポート19及び排気ポート20が、気筒11毎に形成されている。各吸気ポート19には、該各吸気ポート19の燃焼室16側の開口を開閉するための吸気弁21がそれぞれ配設されている。各排気ポート20には、該各排気ポート20の燃焼室16側の開口を開閉する排気弁22がそれぞれ配設されている。各気筒11毎の吸気弁21及び排気弁22は、当該気筒11の頭上に配置されている。各吸気ポート19の燃焼室16側の開口は、シリンダヘッド13の2つ傾斜面13a,13bのうちの一方(以下、吸気側傾斜面13aという)にそれぞれ形成され、各排気ポート20の燃焼室16側の開口は、シリンダヘッド13の2つ傾斜面13a,13bのうちの他方(以下、排気側傾斜面13bという)にそれぞれ形成されている。
吸気ポート19は、後述する吸気通路50と接続されている。図1に示すように、吸気ポート19は、シリンダヘッド13内において、吸気通路50との接続部分から、気筒11の中心軸方向及び気筒列方向の両方に直交する方向(以下、エンジン幅方向という)の一側に向かって延びた後、シリンダブロック12側に向かって、エンジン幅方向の他側に僅かに傾斜して延び、その後、燃焼室16近傍でエンジン幅方向の上記一側に向かって湾曲して延びている。図6及び図7に示すように、吸気側傾斜面13aと排気側傾斜面13bとの境界部分には、段差部13cが形成されている。詳しくは後述するが、この段差部13cは、吸気ポート19から燃焼室16に流入する吸気が排気ポート20に向かって流れるのを抑制するための部分である。
一方で、排気ポート20は、後述する排気通路60と接続されている。図1に示すように、排気ポート20は、燃焼室16側の開口から、シリンダブロック12とは反対側に向かって僅かに延びた後、エンジン幅方向の上記一側に向かって真っ直ぐに伸びている。
シリンダヘッド13内には、各吸気弁21を作動させる吸気カムシャフト31と、各排気弁20を作動させる排気カムシャフト41とが、クランクシャフト18の軸方向(気筒列方向)に延びるように設けられている。各カムシャフト31,41は、不図示のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介してクランクシャフト18に連結される。これにより、各カムシャフト31,41はクランクシャフト18の回転と連動して回転する。
吸気カムシャフト31には、バルブタイミングを可変にする吸気可変動弁機構が取り付けられている。本実施形態では、この吸気可変動弁機構は、吸気電動S−VT(Sequential-Valve Timing)30を有している。吸気電動S−VT30は、吸気カムシャフト31の回転位相を所定角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。つまり、吸気電動S−VT30は、位相式の可変動弁機構であって、開弁期間を一定としたまま、開弁時期及び閉弁時期の両方を連動して変化させる。この吸気電動S−VT30によって、吸気弁21の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。尚、吸気可変動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
排気カムシャフト41にも、バルブタイミングを可変にする排気可変動弁機構が取り付けられている。本実施形態では、この排気可変動弁機構は、排気電動S−VT40を有している。排気電動S−VT40は、排気カムシャフト41の回転位相を所定角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。つまり、排気電動S−VT40は、位相式の可変動弁機構であって、開弁期間を一定としたまま、開弁時期及び閉弁時期の両方を連動して変化させる。この排気電動S−VT40によって、排気弁22の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。尚、排気可変動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
シリンダヘッド13には、図1に示すように、気筒11毎に、燃料を燃焼室16内に直接噴射する燃料噴射弁23が設けられている。燃料噴射弁23は、その噴口が燃焼室16の天井部から該燃焼室16内に臨むように配設されている。燃料噴射弁23は、後述するECU100からの制御信号を受けて、圧縮行程においてエンジン本体10の運転状態に応じて設定された噴射タイミング(吸気弁21及び排気弁22の両方が閉じた後)でかつ、エンジン本体10の運転状態に応じた量の燃料を、燃焼室16内に直接噴射する。尚、燃料噴射弁23に代えて、又は加えて、吸気ポート19に燃料を噴射する燃料噴射弁が設けられてもよい。
シリンダヘッド13には、気筒11毎に、該気筒11内に噴射された燃料を火花点火により燃焼させるための点火プラグ24が取り付けられている。点火プラグ24は、図1に示すように、シリンダヘッド13の一側(本実施形態では排気側)から燃焼室16内に臨むように配設されている。点火プラグ24は、ECU100からの制御信号を受けて、所望の点火タイミングで火花を発生させるように、電極24aに通電する。
図1に示すように、エンジン本体10におけるエンジン幅方向の上記他側の面には、各気筒11の吸気ポート19に連通するように吸気通路50が接続されている。一方、エンジン本体10におけるエンジン幅方向の上記一側の面には、各気筒11の排気ポート20に連通するように接続され、各気筒11からの既燃ガス(つまり、排気ガス)を排出する排気通路60が接続されている。
吸気通路50の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ(図示省略)が配設されている。一方、吸気通路50における下流側端部の近傍には、サージタンク52が配設されている。このサージタンク52よりも下流側の吸気通路50は、気筒11毎に分岐する独立吸気通路とされ、これら各独立吸気通路の下流端が各気筒11の吸気ポート19にそれぞれ接続されている。
吸気通路50における上記エアクリーナとサージタンク52との間には、機械式過給機53が配設されている。尚、以下の説明では、吸気通路50における機械式過給機53よりも上流側の部分を上流側吸気通路50a(図2参照)といい、吸気通路50における機械式過給機53よりも下流側の部分を下流側吸気通路50bという。
機械式過給機53は、排気エネルギーを利用しない過給機であって、詳しくは、エンジン本体10に設けられたクランクシャフト18の回転により回転駆動する過給機である。図2に示すように、機械式過給機53とクランクシャフト18とは、第1プーリ71と、第2プーリ72と、第1プーリ71と第2プーリ72とを連結するベルト73とにより連結されている。具体的には、クランクシャフト18の出力軸18aに第1プーリ71が取り付けられ、第2プーリ72が機械式過給機53のコンプレッサ53a(遠心式ブロアで構成されている)の入力軸53bに取り付けられている。尚、図2では、サージタンク52及び排気通路60は省略している。
機械式過給機53は、クランクシャフト18の回転により回転駆動するため、その回転数はクランクシャフト18の回転数(つまり、エンジン本体10の回転数)に比例する。第1及び第2プーリ71,72のそれぞれの直径は、コンプレッサ53aの回転数が所望の回転数となるように設定されている。尚、第2プーリ72と入力軸53bとの間に電磁クラッチを配置して、コンプレッサ53aの回転数を調整できるようにしてもよい。
本実施形態では、機械式過給機53は、エンジン本体10の全運転領域(後述の低負荷側運転領域及び高負荷側運転領域)で作動することになる。尚、機械式過給機53に代えて、コンプレッサが遠心式ブロアで構成された電動過給機を用いてもよく、この場合、電動過給機は、後述のECU100によって制御されて、エンジン本体10の運転状態が後述の圧縮自着火燃焼領域にあるときに作動するようにしてもよい。但し、電動過給機も、機械式過給機53と同様に、エンジン本体10の全運転領域で作動するようにすることが好ましい。
上記排気通路60の上流側の部分は、気筒11毎に分岐して排気ポート20の外側端に接続された独立排気通路と該各独立排気通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
この排気通路60における上記排気マニホールドよりも下流側には、排気浄化触媒61が配設されている。排気浄化触媒61は、酸化触媒であって、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO2及びH2Oが生成される反応を促すものである。また、図示は省略しているが、排気通路60における排気浄化触媒61よりも下流側の部分には、エンジン本体10の燃焼室16からの排気ガス中に含まれるスート(煤)等の微粒子を捕集する微粒子捕集フィルタが配設されている。本実施形態では、エンジン1は、NOxを浄化するための触媒を備えていないが、NOxを浄化するための触媒を備えていてもよい。
図3に示すように、エンジン1(エンジン本体10)は、ECU(Engine ControlUnit)100によって制御される。ECU100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーである。ECU100は、CPU101、メモリ102、入出力バス103等を備えている。CPU101は、コンピュータプログラム(OS等の基本制御プログラム、及び、OS上で起動されて特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)を実行する中央演算処理装置である。メモリ102は、RAM及びROMにより構成されている。ROMには、種々のコンピュータプログラム(特にエンジン1を制御するための制御プログラム)や、該コンピュータプログラムの実行時に用いられる後述の燃焼領域マップ、着火性指数マップ、変更量マップ、温度範囲マップ及び補正マップを含むデータ等が格納されている。RAMは、CPU101が一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられるメモリである。入出力バス103は、ECU100に対して電気信号の入出力をするものである。
ECU100には、クランク角センサSN1、エアフローセンサSN2、アクセル開度センサSN3、吸気温度センサSN4、エンジン水温センサSN5(エンジン水温検出手段)、油温センサSN6(油温検出手段)、リニアO2センサSN7等の各種のセンサが電気的に接続されている。クランク角センサSN1は、シリンダブロック12に設けられていて、クランクシャフト18の回転角を検出する。エアフローセンサSN2は、上流側吸気通路50aを吸気の流量を検出する。アクセル開度センサSN3は、車両のアクセルペダル機構に取り付けられていて、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検出する。吸気温度センサSN4は、上流側吸気通路50aを吸気の温度を検出する。この吸気の温度から外気温を推定することができるので、吸気温度センサSN4は外気温検出手段を構成することになる。エンジン水温センサSN5は、ウォータジャケット12aを流通するエンジン冷却水の温度を検出する。油温センサNS6は、エンジンオイルの温度を検出する。リニアO2センサSN7は、排気通路60における排気マニホールドと排気浄化触媒61との間の部分に設けられていて、排気ガス中の酸素濃度(空燃比)を検出する。これらセンサSN1〜SN7等は、検出信号をECU100に出力する。
ECU100は、クランク角センサSN1の検出結果からエンジン本体10の回転数(以下、エンジン回転数という)を算出する。ECU100は、アクセル開度センサSN3の検出結果からエンジン本体10の負荷(以下、エンジン負荷という)を算出ずる。
ECU100は、センサSN1〜SN7等からの入力信号に基づいて、エンジン本体10の運転状態を判断するとともに、燃料噴射弁23、点火プラグ24,吸気電動S−VT30、排気電動S−VT40等といった、エンジン1の各デバイスに対して制御信号を出力して、各デバイスを制御する。ECU100は、吸気可変動弁機構及び排気可変動弁機構の作動を制御する制御手段を構成することになる。
図4は、機械式過給機53のコンプレッサ53aの性能特性を示す。縦軸は、上流側吸気通路50a内の圧力に対する下流側吸気通路50b内の圧力の比(以下、単に圧力比という)であり、横軸はコンプレッサ53aからの吐出流量である。図4において、曲線RLは回転限界ライン、線SL(略直線)はサージラインを表している。これらのラインで囲まれた領域が機械式過給機53の運転可能領域である。機械式過給機53の運転効率は、運転ポイントが運転可能領域の中央側に位置するほど高くなる。尚、本実施形態では、上流側吸気通路50a内の圧力は、基本的には大気圧となっているため、圧力比の高低は、機械式過給機53による過給圧の高低を表している。
また、この運転可能領域内に図示された複数の曲線RSLは、コンプレッサ53aの回転数が等しい運転ポイントを結んだ線であり、回転限界ラインRLに近いほど回転数が高い。また、機械式過給機53の運転可能領域を縦に縦断するように延びる一点鎖線BLは、コンプレッサ53aの回転数毎に、該コンプレッサ53aの運転効率が最も高い運転ポイントを結んだ線である。
コンプレッサ53aが遠心式ブロアで構成されていることから、該コンプレッサ53aは、基本的には、コンプレッサ53aの回転数が高いほど、圧力比が大きくかつ吐出流量が多くなるような傾向を示す。これは、エンジン回転数が高いほど過給圧が高いことを表している。エンジン回転数が低いときには、吸気弁21及び排気弁22がエンジン本体10の1燃焼サイクルあたりに開弁する実時間が長いため、過給圧が低くても、排気ガスの掃気を行うことができる。一方で、エンジン回転数が高いときには、吸気弁21及び排気弁22がエンジン本体10の1燃焼サイクルあたりに開弁する実時間が短いため、出来る限り高い過給圧で吸気を燃焼室16内に導入して、早期に排気ガスの掃気を行う必要がある。このため、コンプレッサ53aが上記のような特性を有することにより、適切な排気ガスの掃気を行うことができるようになっている。
排気ガスの掃気を効率的に行うために燃焼室16に供給すべき吸気の過給圧及び流量は、エンジン本体10のエンジン諸元(燃焼室16の容積など)により、予め求めることができる。このため、本実施形態では、エンジン本体10のエンジン諸元に基づいて、必要とされる過給圧及び吸気流量を算出して、運転ポイントが破線BL上に位置するような機械式過給機53が選択されている。これにより、エンジン回転数に合わせて効率良く過給できるようになっている。
本実施形態では、エンジン本体10の運転状態に応じて、点火プラグ24を作動させることなく燃焼室16内において燃料を圧縮自着火させる圧縮自着火燃焼(CI燃焼)と、点火プラグ24により燃焼室16内において燃料を火花点火させる火花点火燃焼(SI燃焼)とが実行される。ここでは、「圧縮自着火」には、点火プラグ24により点火アシストをした上で圧縮自着火させるSPCCI(Spark Controlled Compression Ignition)燃焼を含む。
本実施形態では、メモリ102のROMに、エンジン回転数とエンジン負荷との2軸の座標系で表された燃焼領域マップが記憶されている。この燃焼領域マップにおいて、エンジン負荷が所定負荷よりも低い低負荷側運転領域が、圧縮自着火燃焼領域とされ、エンジン負荷が上記所定負荷以上である高負荷側運転領域が、火花点火燃焼領域とされている。上記所定負荷は、エンジン回転数に応じて変化する(例えば、エンジン回転数が高くなるほど、所定負荷が高くなる)。但し、上記所定負荷がエンジン回転数に関係なく一定であってもよい。尚、エンジン本体10の全運転領域が、圧縮自着火燃焼領域であってもよい。
図5は、吸気弁21及び排気弁22のリフト特性の一例を示す。横軸はクランク角であり、圧縮上死点(TDC)のクランク角を0°として、これに対して進角側(圧縮上死点よりも早い時期)をマイナスで表し、遅角側(圧縮上死点よりも遅い時期)をプラスで表している。図5において、−360°は1燃焼サイクル前の圧縮上死点に相当する。
吸気弁21及び排気弁22の開弁期間は、圧縮下死点(BDC)を挟むとともに吸気弁21の開弁時期が排気弁22の開弁時期よりも遅くかつ吸気弁21の閉弁時期が排気弁22の閉弁時期と略同じか若しくは排気弁22の閉弁時期よりも遅くなるという特定条件を満たすように設定されている。すなわち、吸気弁21及び排気弁22は、吸気及び排気カムシャフト31,41、並びに、吸気電動S−VT30及び排気電動S−VT40により、上記特定条件を満たすようなリフト特性を示すようになっている。尚、本実施形態においては、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期は、1mmリフトの時点(ランプ部とリフト部との境界近傍の時点)と定義している。また、吸気弁21及び排気弁22の開弁時期も、1mmリフトの時点(ランプ部とリフト部との境界近傍の時点)と定義している。
本実施形態では、図5に示すリフト特性を基本リフト特性という。この基本リフト特性では、吸気弁21の開弁時期が排気弁22の開弁時期よりもクランク角で約20°遅くかつ吸気弁21の閉弁時期が排気弁22の閉弁時期と略同じにされている。ここで、「吸気弁21の閉弁時期が排気弁22の閉弁時期と略同じ」とは、吸気弁21の閉弁時期が排気弁22の閉弁時期よりも僅かに早い場合、及び、吸気弁21の閉弁時期が排気弁22の閉弁時期よりも僅かに遅い場合の両方を含む。すなわち、「吸気弁21の閉弁時期が排気弁22の閉弁時期と略同じ」とは、吸気弁21の閉弁時期と排気弁22の閉弁時期と差が、クランク角で2°〜3°程度である場合をいう。本実施形態では、上記基本リフト特性では、吸気弁21の閉弁時期が排気弁22の閉弁時期よりも僅かに(クランク角で2°〜3°程度)遅くなっている。
尚、基本リフト特性は、上記特定条件を満たせば、どのような特性であってもよい。例えば、吸気弁21の閉弁時期が排気弁22の閉弁時期よりも遅くなっていてもよい。この場合の吸気弁21の閉弁時期と排気弁22の閉弁時期と差は、吸気弁21の閉弁時期が排気弁22の閉弁時期と略同じである場合の差よりも大きい。
本実施形態では、エンジン1は2ストロークエンジンであるため、吸気弁21及び排気弁22の両方を開いて、吸気ポート19から燃焼室16に流入する吸気により、燃焼室16内の排気ガスを排気ポート20に押し流す掃気行程がある。エンジン本体10の燃焼サイクルにおいて掃気行程に入るときには、上述したように、排気弁22が吸気弁21よりも早い時期に開弁する。これは、吸気ポート21への排気ガスの流入を防止するためである。
ここで、図6及び図7において、掃気行程での燃焼室16内の様子を例示する。
図6に示すように、1燃焼サイクル前の燃焼サイクルにおいて燃料が燃焼した後、まず、排気弁22のみが開弁される。このときは、ピストン15が下降しながら排気ガスが排気ポート20に向かって流れる。ピストン15が下降していたとしても、排気ガスは燃焼圧により排気ポート20に流れ込む。
次に、図7に示すように、排気弁22に加えて、吸気弁21が開弁される。吸気弁21が開弁されると、吸気ポート19から吸気が燃焼室16に供給される。このとき、シリンダヘッド13に段差部13cが形成されていることにより、吸気は、排気ポート20に向かって流れずに、主に、吸気弁21とシリンダヘッド13との隙間のうち排気ポート20から遠い側の部分から燃焼室16に供給される。このように吸気が燃焼室16に供給されることで、図7に示すように、燃焼室16内の排気ガスが吸気によって排気ポート20に掃気される。
また、図5及び図7に示すように、ピストン15が圧縮上死点に向かって上昇しているときの前半においては、吸気弁21に加えて、排気弁22も開弁している。これにより、燃焼室16内の排気ガスは、燃焼室16に供給される吸気とピストン15の上昇とによって、排気ポート20に押し流される。
次いで、ピストン15の上昇途中で、図5に示すように、吸気弁21及び排気弁22が略同じタイミングで閉弁される。詳しくは、本実施形態では、排気弁22が閉弁した後、僅かに遅れて吸気弁21が閉弁される。吸気弁21の閉弁後、ピストン15の上昇により吸気が圧縮される。
その後の圧縮行程で、燃料噴射弁23により燃料が燃焼室16に噴射される。尚、吸気ポート19に燃料を噴射する燃料噴射弁の場合には、吸気弁21が開かれているときに、燃料が吸気ポート19に噴射される。
そして、エンジン本体10の運転状態が、上記燃焼領域マップによる圧縮自着火燃焼領域(低負荷側運転領域)にあるときには、圧縮上死点近傍で、燃料が圧縮自着火により燃焼する。一方、エンジン本体10の運転状態が、上記燃焼領域マップによる火花点火燃焼領域(高負荷側運転領域)にあるときには、圧縮行程における圧縮上死点近傍で点火プラグ24を作動させて燃料を火花点火燃焼させる。尚、本実施形態では、エンジン水温センサSN5によるエンジン水温が、予め設定された設定温度よりも低い場合には、上記燃焼領域マップによらずに、火花点火燃焼が実行される。
ここで、エンジン本体10の運転状態が圧縮自着火燃焼領域にあるときには、燃料(ガソリン)に対するエタノールの混入割合の大小によって、燃料自体の着火性にばらつきが生じて、燃料の自着火及び燃焼が安定しないという問題がある。
そこで、本実施形態では、ECU100は、エンジン本体10の運転状態が圧縮自着火燃焼領域にあるときには、燃焼室16に供給される燃料の着火性を推定して、その着火性に応じて、吸気弁21の少なくとも閉弁時期、又は、吸気弁21及び排気弁22の少なくとも閉弁時期を変化させるべく(エンジン本体10の有効圧縮比を変化させるべく)、吸気電動S−VT30及び排気電動S−VT40を作動させる。本実施形態では、吸気電動S−VT30及び排気電動S−VT40はどちらも位相式であるため、閉弁時期が変化するときには、開弁時期もそれに連動して変化することになる。また、本実施形態では、吸気弁21及び排気弁22の両方の閉弁時期(及び開弁時期)を同じ量でもって変化させる。
本実施形態では、ECU100は、リニアO2センサSN7の検出結果に基づいて、ガソリンに対するエタノールの混入割合(燃料のエタノール濃度)を推定して、該推定したエタノールの混入割合が高いほど、燃料の着火性が低いと推定する。このことで、ECU100及びリニアO2センサSN7は、燃料の着火性を推定する着火性推定手段を構成することになる。
尚、燃料の着火性については、着火性を指数化した指数値を用い、エタノール濃度が高いほど指数値は小さくなる。エタノール濃度と指数値との関係は、着火性指数マップ(メモリ102のROMに記憶されている)として予め決められている。
エタノールの理論空燃比(9.0)は、ガソリンの理論空燃比(14.7)よりも小さくて、燃料のエタノール濃度が高いほど理論空燃比はリッチ側になる(つまり、値が小さくなる)ことから、予想されるエタノール濃度の理論空燃比でエンジン本体10を運転しているときにおいて、排気ガス中に燃え残りの酸素が存在しているときには、燃料のエタノール濃度が予想よりも高かったと判断することができる。そこで、ECU100は、リニアO2センサSN7の検出信号から、空燃比がリーンであるときには、燃料中にエタノールが少ないと判断する一方、空燃比がリッチであるときには、燃料中にエタノールが多いと判断することによって、燃料のエタノール濃度を推定する。尚、このエタノール濃度の推定は、エンジン水温センサSN5又は油温センサSN6による検出温度が所定温度以上であるときに行う。この所定温度は、燃焼室16内に供給されたエタノールが概ね気化する温度である。また、エタノール濃度の推定は、基本的に、燃料タンクへの給油が行われる(例えば、燃料タンクのレベルゲージセンサの検出値から判断する)毎に行えばよい。エタノール濃度の推定値は、次の給油まで、メモリ102のRAMに記憶しておいて、その記憶した値を用いればよい。
ECU100は、エンジン本体10の運転状態が上記圧縮自着火燃焼領域にあるときにおいて、上記推定された着火性が低い(上記指数値が小さい)ほど、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を、上記特定条件を満たしたままで、エンジン本体10の有効圧縮比が高くなるように進角させるべく、吸気電動S−VT30及び排気電動S−VT40を作動させる。
本実施形態では、指数値が、燃料のエタノール濃度が0%であるときに対応する値であるとき、吸気弁21及び排気弁22のリフト特性を、図5に示す基本リフト特性とする。そして、指数値が、エタノール濃度が0%であるときに対応する値から小さくなるほど、吸気電動S−VT30及び排気電動S−VT40の作動によって、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を基本リフト特性(破線で示す)から進角させる(上記特定条件を満たすために、排気弁22の閉弁時期も進角させる(図8参照))。本実施形態では、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期の変更量(基本リフト特性からの進角量)は同じである。指数値と吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期の変更量(基本リフト特性からの進角量)との関係は、変更量マップ(メモリ102のROMに記憶されている)として予め決められている。
このように燃料自体の着火性に応じて吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更してもよいが、本実施形態では、ECU100は、エンジン本体10の運転状態が上記圧縮自着火燃焼領域にあるときにおいて、上記推定された着火性に加えて、後述のように推定された圧縮端温度を加味して、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更する。
ECU100は、エンジン本体10の運転状態が上記圧縮自着火燃焼領域にあるときに、吸気温度センサSN4の検出結果から推定される外気温、エンジン水温センサSN5の検出結果、油温センサSN6の検出結果、及び、上記燃料の着火性に応じて吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更した(上記指数値と上記変更量マップとから求まる変更量でもって該閉弁時期を変更した)と仮定した場合のエンジン本体10の有効圧縮比に基づいて、圧縮上死点における燃焼室16内のガス温度である圧縮端温度を推定する。このことから、ECU100は、圧縮端温度を推定する圧縮端温度推定手段を構成する。
尚、圧縮端温度の推定に際して、上記センサSN4〜SN6の検出結果及び上記有効圧縮比に加えて、クランク角センサSN1の検出結果から算出されるエンジン回転数も考慮するようにしてもよい。すなわち、圧縮行程の時間が長い低回転数では圧縮端温度が低くなり、圧縮行程の時間が短い高回転数では圧縮端温度が高くなる。また、高回転数では、掃気行程の時間が短くなるために過給圧が高くされ、この過給圧の上昇により吸気温度が高くなって圧縮端温度が高くなる。或いは、上記外気温及び上記有効圧縮比(又は、これらに加えて、上記エンジン回転数)に基づいて、圧縮端温度を推定するようにしてもよい。
そして、ECU100は、エンジン本体10の運転状態が上記圧縮自着火燃焼領域にあるときに、上記のようにして推定された圧縮端温度(以下、推定圧縮端温度)が所定温度範囲内にある場合には、上記推定された着火性(指数値)に応じた吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期の変更量(上記指数値と上記変更量マップとから求まる変更量)でもって、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更する。上記所定温度範囲は、燃料の着火性に対して適正な温度範囲(燃料の自着火及び燃焼が適切に行われる温度範囲)である。上記所定温度範囲は、燃料の着火性が低いほど(指数値が小さいほど)高い温度の範囲となる。燃料のエタノール濃度が0%であるときの着火性に対応する上記所定温度範囲は、例えば1000K±20Kの範囲である。上記指数値と上記所定温度範囲との関係は、温度範囲マップ(メモリ102のROMに記憶されている)として予め決められている。
一方、ECU100は、エンジン本体10の運転状態が上記圧縮自着火燃焼領域にあるときに、上記推定圧縮端温度が上記所定温度範囲を超える場合には、上記変更量を遅角側に補正して、その補正後の変更量)でもって、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更する。遅角側への補正量は、上記推定圧縮端温度の上記所定温度範囲の最大値に対する超過量が大きいほど大きくされる。また、ECU100は、エンジン本体10の運転状態が上記圧縮自着火燃焼領域にあるときに、上記推定圧縮端温度が上記所定温度範囲を下回る場合には、上記変更量を進角側に補正して、その補正後の変更量でもって、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更する。進角側への補正量は、上記推定圧縮端温度の上記所定温度範囲の最小値に対して下回る量が大きいほど大きくされる。すなわち、遅角側又は進角側に補正した後の変更量でもって吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更した(補正により有効圧縮比を更に変更した)と仮定した場合の推定圧縮端温度が、上記所定温度範囲内になるようにする。上記超過量と遅角側への補正量との関係、及び、上記下回る量と進角側への補正量との関係は、補正マップ(メモリ102のROMに記憶されている)として予め決められている。このように補正後の変更量でもって吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更する場合も、上記特定条件が満たされる。本実施形態では、該変更後も、吸気弁21の閉弁時期は排気弁22の閉弁時期と略同じである。
上記遅角側への補正後の変更量でもって吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更した場合においては、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期が基本リフト特性から遅角する場合がある。この場合、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を遅角させる代わりに、図9に示すように、吸気弁21のみの閉弁時期を基本リフト特性(破線で示す)から遅角させてもよい。また、基本リフト特性が、吸気弁21の閉弁時期が排気弁22の閉弁時期よりも遅い特性である場合(吸気弁21の閉弁時期と排気弁22の閉弁時期と差が、吸気弁21の閉弁時期が排気弁22の閉弁時期と略同じである場合の差よりも大きい場合)において、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期が基本リフト特性から進角する場合、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を進角させる代わりに、上記特定条件を満たす限り、吸気弁21のみの閉弁時期を進角させるようにしてもよい。
図10は、吸気弁21及び/又は排気弁22の閉弁時期を調整したときの圧縮端温度の変化をシミュレーションにより算出した結果を示す。また、図11は、吸気弁21及び/又は排気弁22の閉弁時期を調整したときのエンジントルク(エンジン本体10の出力トルク)の変化をシミュレーションにより算出した結果を示す。図10及び図11のシミュレーションでは、エンジン回転数を1500rpm、空燃比をA/F=30に設定している。
図10において、縦軸は圧縮端温度であり、横軸は吸気弁21及び/又は排気弁22の閉弁時期の変化量(クランク角での変化量)である。横軸は、図5に示す基本リフト特性の場合の閉弁時期を基準(0°)として、そこから遅角させた場合をマイナス側とし、進角させた場合をプラス側で表している。図10及び図11のシミュレーションにおいても、閉弁時期が変化するときには、開弁時期もそれに連動して変化している。図10に示すグラフにおいて、菱形マーク付きの曲線は、吸気弁21と排気弁22とを同期させてそれらの閉弁時期を同じ量だけ遅角又は進角した場合を示し、三角マーク付きの曲線は、吸気弁21のみを遅角又は進角した場合を示し、四角マーク付きの曲線は、排気弁22のみを遅角又は進角した場合を示す。また、図10に示す点線は、燃料のエタノール濃度が0%であるときの着火性に対応する上記所定温度範囲の中央値を表している。尚、このシミュレーションでは、吸気弁21の開弁時期が排気弁22の開弁時期よりも早くならないことを条件としている。このため、吸気弁21のみ閉弁時期を進角させる場合の進角量については約20°までとなっており、排気弁22のみ閉弁時期を遅角させる場合の遅角量についても約20°までとなっている。また、このシミュレーションでは、排気弁22の閉弁時期が吸気弁21の閉弁時期よりも遅くなることを許容している。
図11において、縦軸はエンジントルクであり、横軸は吸気弁21及び/又は排気弁22の閉弁時期の変化量である。横軸の表記、並びに、進角及び遅角の対象を示す各マーク付きの曲線は、図10と同じである。
図10に示すように、吸気弁21と排気弁22とを同期させて閉弁時期を遅角させた場合には、遅角量が大きいほど圧縮端温度が下がることが分かる。また、吸気弁21のみ閉弁時期を遅角した場合にも、吸気弁21と排気弁22とを同期させた場合と同程度に圧縮端温度が低下することが分かる。これは、吸気弁21の閉弁時期が遅角されることで、圧縮開始時のピストン15の位置が圧縮上死点に近い位置になり、有効圧縮比が変化するためである。
一方で、排気弁21のみ閉弁時期を遅角させた場合には、圧縮端温度は僅かに低下するだけであることが分かる。上述したように、今回のシミュレーションでは、閉弁時期が変化するときには、開弁時期もそれに連動して変化している。排気弁22の開弁時期が遅くなることで、筒内圧が低いときに排気弁22が開くことになり、排気ガスが排出され難くなる。これにより、圧縮開始時において燃焼室16内の排気ガスの量が多くなる。この結果、排気弁22を遅角させて、有効圧縮比が低下したとしても、圧縮端温度は低下し難くなる。
ここで、吸気弁21のみ閉弁時期を遅角させると、図12に示すように、ピストン15が圧縮上死点に近い位置にあるときに、吸気弁21のみが開いた状態になる。しかしながら、本実施形態では、主に、吸気弁21とシリンダヘッド13との隙間のうち排気ポート20から遠い側の部分から吸気が燃焼室16に供給されるようになっており、実質的に、吸気ポート19と燃焼室16との間の流路面積が小さくなっている。また、吸気ポート19から燃焼室16に供給される吸気は、機械式過給機53により過給された吸気である。これらのことにより、本実施形態では、図12に示すように、ピストン15が上昇しているときに吸気弁21のみが開弁していたとしても、過給された吸気が燃焼室16に供給されているため、燃焼室16から吸気ポート19への吹き戻しは殆どない。
燃焼室16から吸気ポート19への吹き戻しが殆どなければ、燃焼室16に供給される吸気量は一定となる。詳しくは、エンジン回転数が一定で、機械式過給機53のコンプレッサ53aの回転数が一定であれば、機械式過給機53からの吐出流量は一定となる。そして、機械式過給機53からの吐出流量が一定でありかつ燃焼室16から吸気ポート19への吹き戻しがなければ、燃焼室16に供給される吸気量は一定になる。このため、図11に示すように、エンジントルクについては、吸気弁21の閉弁時期を遅角させた場合でも、殆ど変化しない。
一方、図10を参照すると、吸気弁21と排気弁22とを同期させて各閉弁時期を進角させた場合には、進角量が大きいほど圧縮端温度が上がることが分かる。これは、有効圧縮比が高くなることに加えて、燃焼室16内の排気ガスの量が多くなるためである。すなわち、図13に示すように、吸気弁21と排気弁22とを同期させて各閉弁時期を進角させると、ピストン15の位置が圧縮上死点からより離れた位置から、燃焼室16内のガスの圧縮が開始されるため、有効圧縮比が低下する。また、吸気弁21の閉弁時期を進角させると、ピストン15が圧縮下死点に近い位置で吸気が燃焼室16に供給されるため、燃焼室16への吸気の供給により燃焼室16内の排気ガスの掃気する際の掃気圧が低くなる。これにより、排気ガスの掃気が抑制されるため、図13に示すように、圧縮開始時における燃焼室16内の排気ガス量が多くなる。
また、図10を参照すると、吸気弁21のみ閉弁時期を進角させた場合には、圧縮端温度が上昇するが、吸気弁21と排気弁22とを同期させた場合と比較すると、圧縮端温度の上昇量が小さいことが分かる。吸気弁21のみ閉弁時期を進角すると、排気弁22の閉弁時期が吸気弁21の閉弁時期よりも遅くなるため、有効圧縮比は排気弁22の閉弁時期で決まるようになる。吸気弁21のみを進角する場合、有効圧縮比は殆ど変化しない。一方で、上述のように、燃焼室16内の排気ガスの掃気する際の掃気圧が低くなって、圧縮開始時における燃焼室16内の排気ガス量は多くなる。このため、吸気弁21のみ閉弁時期を進角させても圧縮端温度は上昇するが、吸気弁21と排気弁22とを同期させた場合と比較すると、圧縮端温度の上昇量は小さくなる。また、進角量が20°のときは、進角量が10°のときと殆ど変わらないことが分かる。これは、有効圧縮比は排気弁22の閉弁時期で決まってしまい、吸気弁21の閉弁時期を進角させたとしても、有効圧縮比が変化しないためである。
さらに、図10を参照すると、排気弁22のみ閉弁時期を進角させた場合には、圧縮端温度が殆ど変化しないことが分かる。これは、排気弁22のみ閉弁時期を進角させたとしても、吸気弁21の閉弁時期が変わらず、有効圧縮比が変化しないためである。
ここで、上述したように、エンジン回転数が一定で、吸気弁21を進角させたとしても、燃焼室16に供給される吸気量は一定になる。このため、図11に示すように、エンジントルクについては、吸気弁21の閉弁時期を進角させた場合でも、殆ど変化しない。
上述のように、本実施形態では、エンジン本体10の運転状態が圧縮自着火燃焼領域にあるときにおいて、圧縮端温度を、燃料の着火性に対して適正な温度範囲になるように、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を補正することにより、エンジントルクの変化を抑制しながら、燃料の自着火及び燃焼が適切に行われるようにすることができる。
次に、エンジン本体10の運転状態が上記圧縮自着火燃焼領域にあるときにおいて、燃料の着火性及び推定圧縮端温度に基づいて吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を遅角又は進角させる際のECU100の処理動作について、図14及び図15のフローチャートを参照して説明する。このフローチャートに基づく処理動作は、エンジン1が作動している間において1燃焼サイクル毎に実行される。
最初のステップS1で、各種センサからの信号を読み込み、次のステップS2で、燃料の着火性を推定する。ここでは、既にメモリ102のRAMに記憶されているエタノール濃度の推定値と着火性指数マップとから、指数値を求める。
次のステップS3では、ステップS2で求めた上記指数値と上記変更量マップとから、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期の変更量(基本リフト特性からの進角量)を求める。
次のステップS4では、吸気温度センサSN4の検出結果から推定される外気温、エンジン水温センサSN5の検出結果、油温センサSN6の検出結果、及び、ステップS3で求めた上記変更量でもって吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更したと仮定した場合のエンジン本体10の有効圧縮比に基づいて、圧縮端温度を推定する。
次のステップS5では、ステップS4で推定した推定圧縮端温度が、所定温度範囲内にあるか否かを判定する。このステップS5の判定がYESであるときには、ステップS6に進んで、ステップS3で求めた変更量でもって、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更する。
一方、ステップS5の判定がNOであるときには、ステップS7に進んで、上記推定圧縮端温度が上記所定温度範囲を超えているか否かを判定する。このステップS7の判定がYESであるときには、ステップS8に進んで、ステップS3で求めた変更量を遅角側に変更する。この補正量は、上記推定圧縮端温度の上記所定温度範囲の最大値に対する超過量と補正マップとから求める。
ステップS7の判定がNOであるときには、ステップS9に進んで、ステップS3で求めた変更量を遅角側に変更する。この補正量は、上記推定圧縮端温度の上記所定温度範囲の最小値に対して下回る量と補正マップとから求める。
ステップS8又はステップS9の後は、ステップS10に進んで、ステップS8又はステップS9での補正後の変更量でもって、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更し、しかる後にリターンする。
したがって、本実施形態では、エンジン本体10の運転状態が圧縮自着火燃焼領域にあるときにおいて、燃料の着火性が低いほど、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を、エンジン本体10の有効圧縮比が高くなるように進角させるようにしたことにより、エンジントルクの変化を抑制しながら、燃料自体の着火性に関係なく燃料の自着火及び燃焼を安定させることができる。よって、圧縮自着火燃焼を行う過給機付2ストロークエンジンにおいて、高い燃焼安定性及び適切なエンジントルクを得つつ、異常燃焼を抑制することができかつエミッション性能の悪化を抑制することができる。
また、本実施形態では、エンジン本体10の運転状態が圧縮自着火燃焼領域にあるときにおいて、燃料の着火性に加えて、推定圧縮端温度を加味して、吸気電動S−VT30及び排気電動S−VT40を作動させる(着火性(指数値)に応じた吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期の変更量を補正する)ようにしたので、燃料の自着火及び燃焼をより一層安定させることができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、上記実施形態では、吸気可変動弁機構及び排気可変動弁機構が両方とも位相式のものであるため、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更するときには、それぞれの開弁時期も同時に遅角又は進角されるが、このような位相式に限らず、吸気可変動弁機構及び排気可変動弁機構がバルブリフト量を変更するものであって、このバルブリフト量の変更により閉弁時期のみを遅角又は進角させることが可能に構成されていてもよい。
また、上記実施形態では、エンジン1がガソリンエンジンであるが、軽油を含む燃料が供給されるディーゼルエンジンであってもよい。この場合、エンジン本体10の全運転領域が圧縮自着火燃焼領域となる。また、シリンダブロック13に点火プラグを設ける必要はなく、燃料噴射弁23からの燃料の噴射タイミングは、圧縮行程における圧縮上死点近傍とされる。
エンジン1が、軽油を含む燃料が供給されるディーゼルエンジンである場合、ECU100は、軽油のセタン価を推定して、該推定したセタン価が低いほど、燃料の着火性が低いと推定する。軽油のセタン価は、平均的なセタン価(例えば47)の燃料を基準として設定された基準着火時期と実着火時期との比較結果から推定する。実着火時期は、クランク角をθとし、筒内圧(筒内圧センサにより検出する)をPとして、圧力変化率dP/dθがピーク位置を示すクランク角位置である。このように、燃料噴射弁23から噴射された燃料の実着火時期に基づいて燃料のセタン価が推定され、このセタン価から着火性(指数値)が推定される。そして、ECU100は、ガソリンの場合と同様に、その推定された着火性に加えて、推定圧縮端温度を加味して、吸気弁21及び排気弁22の閉弁時期を変更する。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。