JP2020037885A - 点火プラグの異常判定装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】適切なタイミングで点火プラグの交換が行えるようにする。【解決手段】点火プラグの異常判定装置100である。点火プラグ25は電極対250を有している。異常判定装置100は、電極対250に点火エネルギーを付与することによって点火する着火部251を備える。制御部10は、点火プラグ25の異常を判定する異常判定部101を有している。異常判定部101は、エンジン1が高負荷で運転しているときに着火性が低下しているか否かを判定する。着火性が低下していた場合に、エンジン1が低負荷で運転しているときに、再度、着火性が低下しているか否かを判定する。その判定結果に基づいて、電極対250の摩耗を原因とする点火プラグ25の異常の有無を判定する。【選択図】図14

Description

開示する技術は、点火プラグの異常判定装置に関する。
通常、混合気に着火(あるいは点火)して燃焼を行うエンジンには、点火プラグが設置されている。点火プラグは、燃焼室の内部に臨む一対の電極(中心電極及び接地電極)を有している。中心電極と接地電極とは、僅かな隙間(ギャップ)を隔てて対向している。これら電極間に所定の電圧を印加することで、これら電極間に放電が生じる。それによって、混合気中に火炎核が形成され、その火炎核が成長することで、混合気は点火される。
中心電極及び接地電極は、放電によって摩耗する。摩耗が進むと、ギャップが大きくなり、それに伴って点火に必要な放電電圧も高くなる。放電電圧が過度に高くなると、電極間に印加される印加電圧が不足して失火が発生したり、印加電圧が点火プラグの耐久性を超えて点火プラグが破損したりするおそれがある。
そのため、点火プラグは、定期的に交換が必要な消耗品となっている。そして、その交換タイミングは、一律に、所定の走行距離毎に設定されているのが一般的である。
しかし、電極の摩耗量は、エンジンの運転状態によって変わる。そのため、実際に点火プラグを交換すべきタイミングは、ユーザの運転技術や嗜好に左右され、個々のエンジンで、ばらつきがある。
それにより、点火プラグの交換タイミングは、通常、個々のエンジンのばらつきを考慮して、安全サイドに設定される。その結果、実際には点火プラグを交換すべきタイミングには達していないユーザが、点火プラグを交換する場合も発生する。
従って、個々のエンジンにおいて、その運転状態に応じた電極の摩耗量を計測し、点火プラグの交換タイミングを個別に判断することができれば、ばらつきがあっても適切なタイミングで交換できるので、好ましい。
それに対し、特許文献1には、一般の火花点火式エンジンにおいて、そのエンジンの運転状態に基づいて、摩耗した電極のギャップ長(ギャップの大きさ)を推定する方法が開示されている。
すなわち、特許文献1は、放電時間、筒内ガス密度、及び筒内ガス流速からなる、点火時における3つのパラメータから、ギャップ長の推定が可能であることを示すとともに、これらパラメータから、ギャップ長を求めることができる関係式を示している。
そして、特許文献1では、その関係式を用いてエンジンの運転中にギャップ長を推定し、予め設定された値以上になると、警告灯の点灯などにより、点火プラグの異常を報知している。
特開2016−53314号公報
特許文献1に開示されている技術によれば、個別にギャップ長が推定できるので、適切なタイミングでの点火プラグの交換が期待できる。
しかし、特許文献1に開示されている技術では、電極近傍の筒内ガス流速を精度高く計測する必要があり、ギャップ長を精度高く推定することは難しい。
それに対し、個々の点火で生じる摩耗量を積算していくことで、経時的に増加する摩耗量を推定し、未使用な点火プラグのギャップに、推定した摩耗量を加えることで、摩耗した電極のギャップ長を推定することが考えられる。
しかし、未使用な点火プラグのギャップにおいても、公差に基づくばらつき(初期バラツキ)が存在する。この初期バラツキも、摩耗量とともに、点火プラグの交換タイミングに影響を与える。
特に、後述するSPCCI燃焼を行うエンジンなど、従来の火花点火式エンジンと比べて燃焼時に筒内圧が高くなる、高圧縮比のエンジンでは、その傾向は更に顕著になる。そのため、高圧縮比のエンジンでは、摩耗による影響はもとより、初期バラツキによる影響も、無視できない重要な課題となる。
すなわち、燃焼時の筒内圧が高くなると、それに伴って放電電圧も高くなる。従って、それに合わせて印加電圧も高くしなければならないが、印加電圧を高くすると摩耗が進み易くなる。
そこで、筒内圧が高くなる分、ギャップ長を従来よりも小さくして、放電電圧を下げることが考えられるが、ギャップ長が小さくなると、放電の影響が大きくなって電極が摩耗し易くなる。また、同じ摩耗量でも、ギャップ長が小さいと、摩耗量の変化に対する影響も大きくなる。
その結果、点火プラグの交換タイミングが短くなって、従来よりも高頻度での点火プラグの交換が必要になる。更に、点火プラグの交換タイミングのばらつきも大きくなって、不適切な交換が増加してしまう。そのため、仮に摩耗量を高精度に推定できたとしても、初期バラツキも加味できなければ、点火プラグの交換を適切なタイミングで行うことができない。
それに対し、本発明者らは、ギャップ長と着火性(混合気の着火に対する感度)との関係について調べたところ、詳細は後述するが、これらの相関関係から、初期バラツキも加味した状態で、ギャップ長の拡大に基づく点火プラグの異常判定が可能であることを見出した。
すなわち、詳細は後述するが、電極の摩耗が進んでギャップ長が大きくなっていくと、当初は、冷却損失の低減によって着火性は高くなっていくが、ギャップ長がある程度大きくなると、着火性が急激に低下する現象が認められることを、本発明者らは発見した。そして、本発明者らは、この現象で認められる着火性の変曲点を利用することにより、電極の摩耗を原因とする点火プラグの効果的な異常判定が可能になる新たな技術を完成した。
ところが、このような現象は、例えば、点火プラグの断線や燃料噴射の不具合など、電極の摩耗以外の原因でも起こり得る。そのため、このような現象が、電極の摩耗を原因とした現象であるか否かが判定できれば、点火プラグの交換を、より適切に行える。
それに対し、本発明者らは、電極の摩耗を原因とする場合には、上述した着火性の低下現象は、負荷の高い運転領域で最初に発現し、その後、摩耗量が増えるに従って、負荷の低い運転領域に拡大していくことを発見した。そして、この着火性の低下現象が、負荷の高低によって違いがあることを利用すれば、電極の摩耗を原因とする現象であるか否かが判定できると、本発明者らは考えた。
すなわち、開示する技術の目的は、従来の圧縮比のエンジンはいうまでもなく、高圧縮比のエンジンであっても、適切なタイミングで点火プラグの交換が行えるようにできる、点火プラグの異常判定装置を提供することにある。
開示する技術は、エンジンに組み付けられている点火プラグ、の異常判定装置に関する。
前記エンジンは、往復するピストンによって容積が変化するように筒内に区画された燃焼室を有している。前記点火プラグは、前記燃焼室に臨んだ状態で所定のギャップを隔てて対向する、接地電極及び中心電極からなる電極対を有している。
前記異常判定装置は、前記エンジンの運転に関係するパラメータを計測する計測部と、前記電極対に所定の点火エネルギーを付与することにより、前記燃焼室の内部に形成される混合気を点火する着火部と、前記計測部及び前記着火部の各々と電気的に接続されていて、前記計測部から入力される信号に基づいて、前記着火部に信号を出力する制御部と、を備えている。前記制御部は、前記点火プラグの異常を判定する異常判定部を有している。
前記異常判定部が、前記エンジンが所定値以上の負荷で運転しているときに、前記点火エネルギーよりも小さい判定用点火エネルギーを前記電極対に付与して前記点火プラグを作動させることにより、混合気の着火性が低下しているか否かを判定する第1着火性判定処理と、前記第1着火性判定処理において混合気の着火性が低下していたと判定された場合に、前記エンジンが前記所定値未満の負荷で運転しているときに、再度、前記判定用点火エネルギーを前記電極対に付与して前記点火プラグを作動させることにより、混合気の着火性が低下しているか否かを判定する第2着火性判定処理と、を実行する。そして、前記第2着火性判定処理での判定結果に基づいて、前記電極対の摩耗を原因とする前記点火プラグの異常である摩耗異常の有無を判定する。
詳細は後述するが、電極対の摩耗を原因とする点火プラグの異常の場合、着火性の低下現象が、負荷の高低によって違いが生じる場合があるのに対し、電極対の摩耗以外を原因とする点火プラグの異常の場合、負荷の高低によっては、そのような違いは生じない。この点火プラグの異常判定装置では、その違いを利用する。すなわち、点火プラグの異常判定装置は、負荷が高低に異なる運転状態において着火性の低下を判定し、これら着火性の低下現象に違いが認められた場合に、電極の摩耗を原因とする現象であると判定する。従って、点火プラグの交換についての判定を、より適切に行える。
前記第1着火性判定処理で混合気の着火性が低下していないと判定された場合に、前記異常判定部は、前記摩耗異常は無いと判定する、としてもよい。
すなわち、通常よりも着火し難い条件の下において、着火性が最初に低下し始める高負荷の運転領域においても着火性が低下していないので、点火プラグに電極対の摩耗を原因とする異常は無く、適切な点火が行える。従って、異常判定部は、摩耗異常は無いと判定することができ、一定期間の待機等、次の処理へと移行できる。
前記第2着火性判定処理で混合気の着火性が低下していると判定された場合に、前記異常判定部は、前記電極対の摩耗以外を原因とする異常が有ると判定する、としてもよい。
この場合、高負及び低負荷の両運転領域で着火性が低下した場合に相当する。電極対の摩耗を原因とする点火プラグの異常の場合、摩耗が拡大していくと、高負荷の運転領域で着火性の低下が認められるようになる(低負荷の運転領域では着火性の低下は認められない。)。従って、そのような状況で、低負荷の運転領域で着火性の低下が認められるのは、負荷の変化とは関係無く着火性が低下する異常であり、点火プラグの断線や燃料噴射の不具合など、電極対の摩耗以外を原因とする異常が有ると判定できる。
前記計測部は、前記燃焼室の内部の圧力を計測する筒内圧センサを含み、前記第1着火性判定処理の前に、前記燃焼室で行われる燃焼の毎に前記筒内圧センサから入力される信号と、前記燃焼に伴って前記点火プラグが点火される点火回数とを用いて、経時的な積算処理を行うことにより、前記電極対の摩耗量を推定する摩耗量推定処理が実行され、前記異常判定部は、前記摩耗量推定処理で推定された摩耗量が所定値以上になったと判定した場合に、前記第1着火性判定処理を実行する、としてもよい。
すなわち、異常判定部は、エンジンの運転状態に応じて、点火毎に、電極対で発生する摩耗量を推定し、それを積算していくことで摩耗量の総量を推定する。従って、エンジンの運転履歴の違いに基づくばらつきの影響を低減でき、電極対の摩耗量を精度高く推定することができる。そうした、高精度な電極対の摩耗量の推定により、摩耗量が限界近くになるまでは、第1着火性判定処理を実行しないことが可能になる。そして、摩耗量が限界近くに達したときに、第1着火性判定処理を実行することができる。従って、その後に行う第1着火性判定処理等の頻度が少なくなり、効率的な判定制御が実現できる。
前記第2着火性判定処理で前記摩耗異常が有ると判定された場合に、前記異常判定部が前記点火プラグの交換を要求する信号を出力する、としてもよい。
そうすれば、ユーザは、適切なタイミングで点火プラグの交換が行える。
前記エンジンの幾何学的圧縮比が16以上である、としてもよい。
上述したように、開示する点火プラグの異常判定装置は、圧縮比の高いエンジンに対して特に有効である。従って、開示する点火プラグの異常判定装置を適用するエンジンの幾何学的圧縮比が16以上であれば、その効果を効果的に発揮できる。
特にこの場合、所定のタイミングで前記燃焼室の内部に形成される混合気が点火されるように、前記制御部が前記着火部に信号を出力することにより、一部の混合気が火炎伝播を伴う燃焼を開始した後に、残りの未燃混合気が自己着火によって燃焼する、所定の圧縮着火燃焼が前記エンジンで行われる、としてもよい。
すなわち、SPCCI燃焼を行うエンジンに適用する。そうすれば、点火プラグを過不足無く交換できるうえに、点火プラグを適正な状態で使用できるため、高度な燃焼制御であっても安定して行える。従って、SPCCI燃焼を適切に行うことができる。
開示する技術によれば、従来の圧縮比のエンジンはいうまでもなく、高圧縮比のエンジンであっても、適切なタイミングで点火プラグの交換が行えるようなる。
エンジンの構成を例示する図である。 燃焼室の構成を例示する図であり、上図は燃焼室の平面視相当図、下図はII−II線断面図である。 燃焼室及び吸気系の構成を例示する平面図である。 点火プラグ及び着火装置を例示する図である。 エンジンの制御装置の構成を例示するブロック図である。 SPCCI燃焼の波形を例示する図である。 エンジンのマップの一例である。 燃焼サイクル数と、ギャップ長との関係を説明するための図である。 放電電圧と、筒内圧及びギャップ長の積算値と、の関係を示すグラフである。 異常判定装置に関係する主な構成を示すブロック図である。 摩耗推定量分布マップを示す図である。上段の図(a)は、中心電極の摩耗推定量分布マップを表している。下段の図(b)は、接地電極の摩耗量分布マップを表している。 ギャップ長と着火性との関係を表したグラフである。 点火プラグの異常判定制御のフローの一例を示す図である。 エンジンの運転領域において、電極対の摩耗によって発現する失火領域を説明するための簡略図である。 応用例の点火プラグの異常判定装置における、点火プラグの異常判定制御のフローの一例を示す図である。
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。以下の説明は、エンジン、及び、点火プラグの異常判定装置の一例である。
<エンジン>
図1〜図3に、開示する点火プラグの異常判定装置を適用したエンジン1を例示する。エンジン1は、燃焼室17が吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返すことにより運転する4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって、自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であればよい。燃料は、例えばバイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11(気筒)が形成されている。図1及び図2では、一つのシリンダ11のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。すなわち、燃焼室17は、往復するピストンによって容積が変化するように筒内に区画されている。尚、「燃焼室」は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
シリンダヘッド13の下面、つまり、燃焼室17の天井面は、図2の下図に示すように、傾斜面1311と、傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、吸気側から、後述するインジェクタ6の噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。傾斜面1312は、排気側から噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。燃焼室17の天井面は、いわゆるペントルーフ形状である。
ピストン3の上面は燃焼室17の天井面に向かって隆起している。ピストン3の上面には、キャビティ31が形成されている。キャビティ31は、ピストン3の上面から凹陥している。キャビティ31は、この構成例では、浅皿形状を有している。キャビティ31の中心は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側にずれている。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、10以上30以下に設定されている。例えば、エンジン1の幾何学的圧縮比は、一般的な火花点火式エンジンよりも高い、16以上としてもよい。後述するようにエンジン1は、一部の運転領域において、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱と圧力上昇とを利用して、CI燃焼をコントロールする。エンジン1は、圧縮着火式エンジンである。
しかし、このエンジン1は、ピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度(つまり、圧縮端温度)を高くする必要がない。エンジン1は、幾何学的圧縮比を、比較的低く設定することが可能である。幾何学的圧縮比を低くすると、冷却損失の低減、及び、機械損失の低減に有利になる。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、レギュラー仕様(燃料のオクタン価が91程度の低オクタン価燃料)においては、14〜17とし、ハイオク仕様(燃料のオクタン価が96程度の高オクタン価燃料)においては、15〜18としてもよい。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、図3に示すように、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182を有している。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が形成されるような形状を有している。
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、図4に示すように、可変動弁機構は、吸気電動S−VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S−VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気弁21の開弁タイミング及び閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、吸気動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
シリンダヘッド13にはまた、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19も、図3に示すように、第1排気ポート191及び第2排気ポート192を有している。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、図4に示すように、可変動弁機構は、排気電動S−VT24を有している。排気電動S−VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気弁22の開弁タイミング及び閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、排気動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24は、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間の長さを調節する。オーバーラップ期間の長さを長くすると、燃焼室17の中の残留ガスを掃気することができる。また、オーバーラップ期間の長さを調節することによって、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に導入することができる。内部EGRシステムは、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24によって構成されている。尚、内部EGRシステムは、S−VTによって構成されるとは限らない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射する。インジェクタ6は、燃料噴射部の一例である。インジェクタ6は、傾斜面1311と傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部に配設されている。図2に示すように、インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に位置している。インジェクタ6の噴射軸心X2は、中心軸X1に平行である。インジェクタ6の噴射軸心X2とキャビティ31の中心とは一致している。インジェクタ6は、キャビティ31に対向している。尚、インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1と一致していてもよい。その構成の場合に、インジェクタ6の噴射軸心X2と、キャビティ31の中心とは一致していてもよい。
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型の燃料噴射弁によって構成されている。インジェクタ6は、図2に二点鎖線で示すように、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がるように燃料を噴射する。インジェクタ6は、本構成例においては、十個の噴孔を有しており、噴孔は、周方向に等角度に配置されている。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留するよう構成された燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄える。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の噴口から燃焼室17の中に噴射される。燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料を、インジェクタ6に供給することが可能である。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
(点火プラグ)
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、この構成例では、シリンダ11の中心軸X1よりも吸気側に配設されている。点火プラグ25は、2つの吸気ポート18の間に位置している。点火プラグ25は、上方から下方に向かって、燃焼室17の中央に近づく方向に傾いて、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ25の電極は、図2に示すように、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井面の付近に位置している。尚、点火プラグ25を、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に配置してもよい。また、点火プラグ25をシリンダ11の中心軸X1上に配置してもよい。
点火プラグ25には、着火装置251が電気的に接続(単に接続ともいう)されている。着火装置251(着火部の一例)は、バッテリ252に接続されていて、点火プラグ25に電力を供給する(点火プラグ及び着火装置251の詳細については後述)。
エンジン1の一側面には吸気通路40が連結されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。燃焼室17に導入するガスは、吸気通路40を流れる。吸気通路40の上流端部には、エアクリーナー41が配設されている。エアクリーナー41は、新気を濾過する。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各シリンダ11の吸気ポート18に連結されている。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度を調節することによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調節する。すなわち、スロットル弁43は、各燃焼室17の内部に供給する空気量を増減して調整する「空気調整部」を構成する。
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入するガスを過給する。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される機械式の過給機である。機械式の過給機44は、ルーツ式、リショルム式、ベーン式、又は遠心式であってもよい。
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン1との間で、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達したり、駆動力の伝達を遮断したりする。後述するように、ECU10が電磁クラッチ45の遮断及び連結を切り替えることによって、過給機44はオンとオフとが切り替わる。
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44において圧縮されたガスを冷却する。インタークーラー46は、例えば水冷式又は油冷式に構成してもよい。
吸気通路40には、バイパス通路47が連結されている。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスするよう、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに連結する。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調節する。
ECU10は、過給機44をオフにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を遮断したとき)に、エアバイパス弁48を全開にする。吸気通路40を流れるガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に導入される。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
過給機44をオンにすると、エンジン1は過給状態で運転する。ECU10は、過給機44をオンにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を連結したとき)に、エアバイパス弁48の開度を調節する。過給機44を通過したガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。ECU10がエアバイパス弁48の開度を調節すると、燃焼室17に導入するガスの過給圧が変わる。尚、過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える時をいい、非過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる時をいう、と定義してもよい。
この構成例においては、過給機44とバイパス通路47とエアバイパス弁48とによって、過給システム49が構成されている。
エンジン1は、燃焼室17内にスワール流を発生させるスワール発生部を有している。スワール発生部は、図3に示すように、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56を有している。スワールコントロール弁56は、第1吸気ポート181につながるプライマリ通路401と、第2吸気ポート182につながるセカンダリ通路402との内の、セカンダリ通路402に配設されている。スワールコントロール弁56は、セカンダリ通路402の断面を絞ることができる開度調節弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さいと、第1吸気ポート181から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に多くかつ、第2吸気ポート182から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に少ないから、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182のそれぞれから燃焼室17に流入する吸気流量が、略均等になるから、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流が発生しない。尚、スワール流は、白抜きの矢印で示すように、図3における反時計回り方向に周回する(図2の白抜きの矢印も参照)。
エンジン1の他側面には、排気通路50が連結されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気ガスが流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダ11の排気ポート19に連結されている。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。上流の触媒コンバーターは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、エンジンルーム外に配設されている。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されるものではない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が連結されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバーターと下流の触媒コンバーターとの間に連結されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流部に連結されている。EGR通路52を流れるEGRガスは、バイパス通路47のエアバイパス弁48を通らずに、吸気通路40における過給機44の上流部に入る。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、排気ガスを冷却する。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる排気ガスの流量を調節する。EGR弁54の開度を調節することによって、冷却した排気ガス、つまり外部EGRガスの還流量を調節することができる。
この構成例において、EGRシステム55は、外部EGRシステムと、内部EGRシステムとによって構成されている。外部EGRシステムは、内部EGRシステムよりも低温の排気ガスを、燃焼室17に供給することができる。
(点火プラグ及び着火装置)
図4に示すように、点火プラグ25は、燃焼室17の内部に臨む一対の電極(電極対250)を有している。これら電極対250は、例えば、ニッケル合金、白金、イリジウム合金などの素材を用いて形成された、接地電極250a及び中心電極250bで構成されている。接地電極250aと中心電極250bとは、互いに所定の大きさ(ギャップ長G)を有するギャップを隔てて対向している。
これら電極対250に、点火エネルギーが付与(具体的には、高電圧が瞬間的に印加)されることで、電極対250の間で放電が生じる。それにより、火炎核が形成される。その火炎核が成長することで、燃焼室17の内部に形成された混合気が点火される。
ギャップ長Gが小さいと、接地電極250a及び中心電極250bにより、燃料熱が吸収され、火炎核の形成及び成長を阻害する(いわゆる冷却損失)。そのため、このエンジン1では、ギャップ長Gは、少なくとも0.5mm以上に設定されている(ギャップ長Gの初期値≧0.5mm)。
電極対250に電力を供給するために、点火プラグ25に着火装置251が接続されている。着火装置251は、イグニッションコイル251a、イグナイタ251b、放電電流計251cなどを有している。イグニッションコイル251aは、一次コイル251a1、二次コイル251a2、コア251a3などで構成されていて、一次コイル251a1への通電時間(ドエル時間)に対応した電圧を電極対250に印加する。
一次コイル251a1の一端はバッテリ252に接続されている。一次コイル251a1の他端は、ECU10と接続されているイグナイタ251bを介して基準電位に接続(アース)されている。二次コイル251a2の一端は、図示しないディストリビュータ(各シリンダ11の点火プラグ25に電力を分配する装置)を介して、各点火プラグ25(詳細には中心電極250b)に接続されている。
二次コイル251a2の他端は、ECU10と接続されている放電電流計251cを介して基準電位に接続(アース)されている。放電電流計251cは、二次コイル251a2を流れる電流の電流値を計測し、その信号をECU10に出力する。二次コイル251a2は、一次コイル251a1よりも、巻数が多く形成されている。イグナイタ251bは、ECU10から入力される信号に従って、一次コイル251a1にバッテリ252の電力が供給されるオン状態と、一次コイル251a1にバッテリ252の電力が供給されないオフ状態とを切り替える。
イグナイタ251bがオン状態になると、一次コイル251a1が通電され、イグニッションコイル251aに磁界が形成される。その後、所定のタイミングで、イグナイタ251bがオフ状態になると、電磁誘導により、二次コイル251a2に、電流が流れて電圧が発生する。二次コイル251a2の巻数は一次コイル251a1の巻数よりも多いため、二次コイル251a2には高電圧が発生する。この高電圧が電極対250に印加されることにより、燃焼室17の内部に形成された混合気が点火される。
点火時期は、一次コイル251a1が通電されるタイミングによって定まる。また、電極対250に印加される電圧(印加電圧)の大きさは、一次コイル251a1への通電時間(ドエル時間)によって定まる。すなわち、印加電圧はドエル時間と相関関係にある。通常、安定した点火を行うために、印加電圧は、放電に要する電圧(放電電圧)よりも大きく設定される。
放電電圧は、ギャップ長Gと、点火時の燃焼室17の内圧とに比例する。通常の制御ではギャップ長Gは一定値とみなされるため、着火装置251は、ECU10からの要求に応じて、点火時の燃焼室17の内圧に対応した所定の電圧(要求電圧)を電極対250に印加する。
具体的には、ECU10は、筒内圧センサSW6の入力信号から得られる燃焼室17の内圧、放電電流計251cの入力信号から得られる印加電圧などに基づいて、電極対250に印加すべき電圧(要求電圧)を設定する。このエンジン1では、要求電圧は、少なくとも10kV以上となるように設定されている。
それに対し、着火装置251は、設定された要求電圧に基づいて、放電可能な電圧が電極対250に印加されるように、ドエル時間を調整する。要求電圧が高い場合は、ドエル時間を長くし、要求電圧が低い場合は、ドエル時間を短くする。エンジン1が運転しているとき、イグニッションコイル251aは、燃焼室17の内部の状態、つまりは燃焼室17の内圧に応じて設定される要求電圧に従って通電される。
(ECU)
エンジン1には、その運転を制御するECU(Engine Control Unit)10が備えられている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、図5に示すように、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)10aと、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ10bと、電気信号の入出力をする入出力バス10cと、を備えている。ECU10は、「制御部」の一例である。
ECU10には、図1及び図5に示すように、各種のセンサSW1〜SW17が接続されている。センサSW1〜SW17は、信号をECU10に出力する。これらセンサSW1〜SW17は、エンジン1の運転に関連する各種パラメータを計測する「計測部」の一例である。これらセンサSW1〜SW17の内容を以下に示す。
エアフローセンサSW1:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量を計測する
第1吸気温度センサSW2:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の温度を計測する
第1圧力センサSW3:吸気通路40におけるEGR通路52の連結位置よりも下流でかつ、過給機44の上流に配置されかつ、過給機44に流入するガスの圧力を計測する
第2吸気温度センサSW4:吸気通路40における過給機44の下流でかつ、バイパス通路47の連結位置よりも上流に配置されかつ、過給機44から流出したガスの温度を計測する
第2圧力センサSW5:サージタンク42に取り付けられかつ、過給機44の下流のガスの圧力を計測する
筒内圧センサSW6:各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13に取り付けられかつ、各燃焼室17内の圧力を計測する
排気温度センサSW7:排気通路50に配置されかつ、燃焼室17から排出した排気ガスの温度を計測する
リニアOセンサSW8:排気通路50における上流の触媒コンバーターよりも上流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を計測する
ラムダOセンサSW9:上流の触媒コンバーターにおける三元触媒511の下流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を計測する
水温センサSW10:エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度を計測する
クランク角センサSW11:エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角を計測する
アクセル開度センサSW12:アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を計測する
吸気カム角センサSW13:エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角を計測する
排気カム角センサSW14:エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角を計測する
EGR差圧センサSW15:EGR通路52に配置されかつ、EGR弁54の上流及び下流の差圧を計測する
燃圧センサSW16:燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ6に供給する燃料の圧力を計測する
第3吸気温度センサSW17:サージタンク42に取り付けられかつ、サージタンク42内のガスの温度、換言すると燃焼室17に導入される吸気の温度を計測する。
着火装置251の放電電流計251cも、ECU10に信号を出力する。従って、計測部は、放電電流計251cも含む。
ECU10は、これらのセンサSW1〜SW17、及び放電電流計251cの信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ10bに記憶されている。制御ロジックは、メモリ10bに記憶しているマップを用いて、目標量及び/又は制御量を演算することを含む。
ECU10は、演算をした制御量に係る電気信号を、インジェクタ6、吸気電動S−VT23、排気電動S−VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、スワールコントロール弁56、報知器57、及び、着火装置251に出力する。なお、報知器57は、搭乗者に警報等を知らせる機器であり、例えば、インストルメントパネルに表示されたランプなどが挙げられる。
(SPCCI燃焼のコンセプト)
エンジン1は、燃費の向上及び排出ガス性能の向上を主目的として、所定の運転状態のときに、圧縮自己着火による燃焼を行う。自己着火による燃焼は、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
SPCCI燃焼は、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼をすると共に、SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなりかつ、火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することによって、未燃混合気が自己着火によるCI燃焼をする形態である(部分的圧縮着火燃焼)。
SI燃焼の発熱量を調節することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収することができる。ECU10が点火タイミングを調節することによって、混合気を目標のタイミングで自己着火させることができる。
SPCCI燃焼において、SI燃焼時の熱発生は、CI燃焼時の熱発生よりも穏やかである。SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、図6に例示するように、立ち上がりの傾きが、CI燃焼の波形における立ち上がりの傾きよりも小さくなる。また、燃焼室17の中における圧力変動(dp/dθ)も、SI燃焼時は、CI燃焼時よりも穏やかになる。
SI燃焼の開始後、未燃混合気が自己着火すると、自己着火のタイミングで、熱発生率の波形の傾きが、小から大へと変化する場合がある。熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングθciで、変曲点Xを有する場合がある。
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。しかし、CI燃焼は、圧縮上死点後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが大きくなりすぎることが回避される。CI燃焼時の圧力変動(dp/dθ)も、比較的穏やかになる。
圧力変動(dp/dθ)は、燃焼騒音を表す指標として用いることができる。前述の通りSPCCI燃焼は、圧力変動(dp/dθ)を小さくすることができるため、燃焼騒音が大きくなりすぎることを回避することが可能になる。エンジン1の燃焼騒音は、許容レベル以下に抑えられる。
CI燃焼が終了することによって、SPCCI燃焼が終了する。CI燃焼は、SI燃焼に比べて、燃焼期間が短い。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、燃焼終了時期が早まる。
SPCCI燃焼の熱発生率波形は、SI燃焼によって形成された第1熱発生率部QSIと、CI燃焼によって形成された第2熱発生部QCIと、が、この順番に連続するように形成されている。
ここで、SPCCI燃焼の特性を示すパラメータとして、SI率を定義する。SI率は、SPCCI燃焼により発生した全熱量に対し、SI燃焼により発生した熱量の割合に関係する指標と定義する。SI率は、燃焼形態の相違する二つの燃焼によって発生する熱量比率である。SI率が高いと、SI燃焼の割合が高く、SI率が低いと、CI燃焼の割合が高い。SI率は、CI燃焼により発生した熱量に対するSI燃焼により発生した熱量の比率と定義してもよい。つまり、SPCCI燃焼において、CI燃焼が開始するクランク角をCI燃焼開始時期θciとして、図6に示す波形801において、θciよりも進角側であるSI燃焼の面積QSIと、θciを含む遅角側であるCI燃焼の面積QCIとから、SI率=QSI/QCIとしてもよい。
エンジン1は、SPCCI燃焼を行うときに、燃焼室17内に強いスワール流を発生させる場合がある。より詳細に、エンジン1は、理論空燃比よりもリーンな混合気をSPCCI燃焼させるときに、燃焼室17内に強いスワール流を発生させる。強いスワール流とは、例えば4以上のスワール比を有する流れと定義してもよい。スワール比は、吸気流横方向角速度をバルブリフト毎に測定して積分した値を、エンジン角速度で除した値と定義することができる。吸気流横方向角速度は、図示を省略するが、公知のリグ試験装置を用いた測定に基づいて、求めることができる。
燃焼室17内に強いスワール流を発生させると、燃焼室17の外周部は強いスワール流れとなる一方、中央部のスワール流は相対的に弱くなる。強いスワール流が形成された燃焼室17内にインジェクタ6が燃料を噴射することにより、燃焼室17の中央部の混合気は燃料が相対的に濃く、外周部の混合気は燃料が相対的に薄くなって、混合気を成層化することができる。
(エンジンの基本的な制御)
ECU10は、メモリ10bに記憶している制御ロジックに従って、エンジン1を運転する。
すなわち、ECU10は、センサSW1〜SW17等の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、目標トルクを設定し、エンジン1が目標トルクを出力するように、燃焼室17の中の状態量の調節、噴射量の調節、噴射タイミングの調節、及び、点火タイミングの調節を行うための演算を行う。
ECU10はまた、SPCCI燃焼を行うときには、SI率とθciとの二つのパラメータを用いてSPCCI燃焼をコントロールする。具体的にECU10は、エンジン1の運転状態に対応する目標SI率及び目標θciを定め、実際のSI率が目標SI率に一致しかつ、実際のθciが目標θciとなるように、燃焼室17内の温度の調節と、点火時期の調節とを行う。
ECU10は、エンジン1の負荷が低いときには、目標SI率を低く設定し、エンジン1の負荷が高いときには、目標SI率を高く設定する。エンジン1の負荷が低いときには、SPCCI燃焼におけるCI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制と燃費性能の向上とが両立する。エンジン1の負荷が高いときには、SPCCI燃焼におけるSI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制に有利になる。
(エンジンの運転領域)
図7は、エンジン1の制御に係るマップ(温間時)を例示している。マップは、ECU10のメモリ10bに記憶されている。マップは、負荷の高低及び回転数の高低に対し、大別して三つの領域に分かれる。具体的に、三つの領域は、アイドル運転を含みかつ、低回転及び中回転の領域に広がる低負荷領域A1、低負荷領域A1よりも負荷が高い中高負荷領域A2、A3、A4、及び、低負荷領域A1、中高負荷領域A2、A3、A4よりも回転数の高い高回転領域A5である。中高負荷領域A2、A3、A4はまた、中負荷領域A2と、中負荷領域A2よりも負荷が高い高負荷中回転領域A3と、高負荷中回転領域A3よりも回転数の低い高負荷低回転領域A4とに分かれる。
ここで、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域はそれぞれ、エンジン1の全運転領域を回転数方向に、低回転領域、中回転領域及び高回転領域の略三等分にしたときの、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域としてもよい。図7の例では、回転数N1未満を低回転、回転数N2以上を高回転、回転数N1以上N2未満を中回転としている。回転数N1は、例えば1200rpm程度、回転数N2は、例えば4000rpm程度としてもよい。
また、低負荷領域は、軽負荷の運転状態を含む領域、高負荷領域は、全開負荷の運転状態を含む領域、中負荷は、低負荷領域と高負荷領域との間の領域としてもよい。また、低負荷領域、中負荷領域、及び、高負荷領域はそれぞれ、エンジン1の全運転領域を負荷方向に、低負荷領域、中負荷領域及び高負荷領域の略三等分にしたときの、低負荷領域、中負荷領域、及び、高負荷領域としてもよい。
エンジン1は、低負荷領域A1、中負荷領域A2、高負荷中回転領域A3、及び、高負荷低回転領域A4において、SPCCI燃焼を行う。エンジン1はまた、高回転領域A5においては、SI燃焼を行う。
例えば、低負荷領域A1では、混合気の空燃比(点火時における空燃比の値、A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比よりもリーンである(つまり、空気過剰率λ>1)。より詳細に、燃焼室17の全体において混合気のA/Fは25以上31以下である。従って、エンジン1が低負荷領域A1において運転しているときに、エンジン1は、空燃比がリーンな条件の下で、SPCCI燃焼を行う(リーンSPCCI燃焼)。
すなわち、エンジン1が低負荷領域A1において運転しているとき、ECU10は、燃料噴射の終了後、実際のSI率が目標SI率に一致しかつ、実際のθciが目標θciとなる、圧縮上死点前の所定のタイミングで、点火プラグ25が混合気を点火するように、着火装置251に信号を出力する。
<点火プラグの異常判定装置>
点火プラグの異常判定装置(単に異常判定装置100ともいう)は、点火プラグ25の異常の有無を判定する装置である。このエンジン1では、異常判定装置100は、ECU10、各センサSW1〜SW17、着火装置251などによって構成されている(図10参照)。異常判定装置100の構成は、仕様に応じて適宜変更できる。
点火プラグ25は、定期的に交換が必要な消耗品である。このエンジン1の場合、SPCCI燃焼を行うので、一般的な火花点火式エンジンと比べると、幾何学的圧縮比が高い。つまり、燃焼時における燃焼室17の内圧(筒内圧)は、相対的に高い。そのため、電極対250が摩耗し易く、高い頻度で点火プラグ25を交換する必要がある。異常判定装置100は、特に、そのような点火プラグ25の交換タイミングを判断するのに用いられる。
(電極対の摩耗と点火プラグの交換タイミングとの関係)
電極対250は、点火が行われる度に摩耗する。すなわち、中心電極250b及び接地電極250aの各々は、放電によって消耗する。中心電極250bは、主に誘導放電による摩耗が支配的である。それに対し、接地電極250aは、主に容量放電による摩耗が支配的である。中心電極250b及び接地電極250aの各々は、点火が行われる度に、その放電の強弱に応じて、次第に消耗し、ギャップ長Gは大きくなっていく。尚、これら電極の消耗のメカニズムは、公知であるため、その詳細な説明は省略する。
電極対250の摩耗量は、エンジン1の運転状態によって変わる。そのため、点火プラグ25を交換するタイミングは、ユーザの運転技術や嗜好に左右され、個々のエンジン1で、ばらつきがある。それに対し、点火プラグ25の交換タイミングは、経験則に基づいて、所定の走行距離毎に、一律に設定されているのが一般的である。そして、その点火プラグ25の交換タイミングは、ばらつきを考慮して、安全サイドに設定される。
そのため、従来通り、点火プラグ25の交換タイミングを、一律に安全サイドに設定すると、実際には点火プラグ25を交換すべきタイミングには達していないユーザが、まだ十分に使用できる点火プラグ25を交換してしまう場合も発生する。
この点、図8を参照して具体的に説明する。図8は、燃焼サイクル数(走行距離に相当)と、ギャップ長Gとの関係を模式的に示している。グラフL1は、一般的な火花点火式エンジンの経時的なギャップ長Gの変化を表している。グラフL2は、このエンジン1の経時的なギャップ長Gの変化を表している。GL1及びGL2は、それぞれ、一般的な火花点火式エンジン及びエンジン1のギャップ長Gの上限値を表している。
放電電圧は、パッシェンの法則により、換算電極間距離(筒内圧とギャップ長Gの積算値)に対して直線近似することができる。すなわち、放電電圧は、図9に示すように、筒内圧(例えば、充填効率/点火時の燃焼室17の容積)とギャップ長Gの積算値に比例する。従って、燃焼時の筒内圧が高くなると、ギャップ長Gが同じであれば、それに伴って放電電圧も高くなる。
尚、この相関関係は、印加電圧又は要求電圧においても同様である。従って、図9において、放電電圧は、印加電圧又は要求電圧に置き換えることもできる。
そのため、ギャップ長が拡大して、放電電圧が高くなると、その放電電圧の上昇に合わせて、印加電圧、あるいは要求電圧も高くしなければならないが、バッテリ252の電圧では不足するおそれがある。そのため、エンジン1では、筒内圧が高くなる分、放電電圧を下げるために、初期のギャップ長Gを従来の火花点火式エンジンよりも小さくすることが行われている(図8では、GS1からGS2へ変更)。
ところが、ギャップ長Gが小さくなると、放電の影響が大きくなって電極が摩耗し易くなる(グラフL1の傾き<グラフL2の傾き)。それにより、点火プラグ25の交換タイミングが短くなって、従来よりも高頻度での交換が必要になる。また、電極が摩耗し易くなれば、それに伴ってばらつきも大きくなる(グラフL1のばらつき幅D1<グラフL2のばらつき幅D2)。
その結果、ばらつき幅D2を考慮して、安全サイドで点火プラグ25の交換タイミングを設定すると、図8に矢印線R1、R2で示すように、高圧縮比のエンジン1では、一般的な火花点火式エンジンよりも、ユーザが不適切なタイミングで点火プラグ25を交換することになる期間が拡大する。
また、同じばらつきでも、ギャップ長Gが小さいと、その分、交換タイミングへ与える影響も大きくなる。例えば、1mmのギャップ長Gを0.5mmにすると、0.1mm摩耗した場合、前者であれば10%の拡大であったものが、後者であれば20%の拡大になる。そのため、ギャップ長Gは小さくなるほど、点火プラグ25の交換タイミングに与える影響が大きくなる。
しかも、ギャップ長Gは、点火プラグ25が未使用の状態(GS1、GS2)においても、公差に基づくばらつき(初期バラツキ)が存在する。この初期バラツキも、摩耗量とともに、点火プラグ25の交換タイミングに影響を与える。点火プラグ25の仕様にもよるが、初期バラツキだけで、走行距離で数百から数千kmの影響が及ぶおそれもある。
それに対し、この異常判定装置100では、点火プラグ25の交換が、過不足の無い適切なタイミングで行えるように、電極対250の摩耗によって発生する点火プラグ25の異常が、効果的に判定できるように工夫されている。
(異常判定部)
図10に、異常判定装置100に関係する主な構成を示す。ECU10には、異常判定部101が備えられている。異常判定部101は、電極対250が摩耗することによって発生する点火プラグ25の異常の有無を判定する。異常判定部101には、筒内圧センサSW6からの信号等、各センサSW1〜SW17からの信号、及び着火装置251の放電電流計251cからの信号が入力される。そして、異常判定部101は、これら信号に基づいて、電極対250の摩耗を原因とする点火プラグ25の異常を判定する所定の処理を実行するために、着火装置251に信号を出力する。
具体的には、異常判定部101は、第1判定処理、第2判定処理、及び第3判定処理などを実行する。そうして、異常判定部101は、第3判定処理で、混合気の着火性が低下していると判定された場合に、点火プラグ25には、電極対250の摩耗を原因とした異常があると判定する。
(第1判定処理)
第1判定処理では、エンジン1の運転状態に応じて増加する電極対250の摩耗量が、所定値(摩耗基準値)以上になったか否かを判定する処理が実行される。
具体的には、燃焼室17で行われる燃焼の毎に、各センサSW1〜SW17から入力される信号と、燃焼に伴って点火プラグ25が点火される点火回数とを用いて、経時的な積算処理を行う。そうすることにより、電極対250の摩耗量を推定する摩耗量推定処理が実行される。そうして推定された電極対250の摩耗量を用いて、摩耗基準値以上になったか否かが判定される。
異常判定部101には、第1判定処理を実行するために、エンジン1の運転状態に対応した2つのマップ(摩耗推定量分布マップ)が備えられている。これら摩耗推定量分布マップは、中心電極250b及び接地電極250aの各々に対応しており、それぞれ、中心電極250b及び接地電極250aの各々の摩耗特性に対応した摩耗推定式に基づいて設定されている。
各摩耗推定式は、耐久試験やリグ試験など、様々な試験を行った結果に基づいて構成されている。その具体例を示す。
(接地電極250aの摩耗推定式)
・接地電極250aの推定摩耗量=定数×プラグ容量×(全ガス充填量/点火時の筒内容積−定数)の二乗×点火回数
(中心電極250bの摩耗推定式)
・中心電極250bの推定摩耗量=定数×(点火時の筒内圧/点火時の筒内温度)の二乗×点火回数×放電電流の時間積分値
ここで、「全ガス充填量/点火時の筒内容積」、及び「点火時の筒内圧/点火時の筒内温度」の項は、それぞれ、筒内の密度に相当する。「放電電流の時間積分値」の項は、イグニッションコイル251aの放電特性に関係する値である。
図11に、各摩耗推定量分布マップの一例を示す。図11の上段の図(a)は、中心電極250bの摩耗推定量分布マップ(第1摩耗推定量分布マップ)を表している。図11の下段の図(b)は、接地電極250aの摩耗量分布マップ(第2摩耗推定量分布マップ)を表している。各摩耗推定量分布マップには、エンジン1の各回転数及び各負荷に応じて、単位時間あたりに発生すると推定される摩耗量が設定されている。
すなわち、第1摩耗推定量分布マップには、中心電極250bの単位時間あたりの摩耗量からなり、エンジン1の各回転数及び各負荷(吸気充填量)に対応した摩耗量の推定値(第1摩耗量推定値)が設定されている。第2摩耗推定量分布マップには、接地電極250aの単位時間あたりの摩耗量からなり、エンジン1の各回転数及び各負荷に対応した摩耗量の推定値(第2摩耗量推定値)が設定されている。
第1摩耗量推定値及び第2摩耗量推定値はいずれも、エンジン1の負荷が高くなるほど増加する傾向がある。第1摩耗量推定値及び第2摩耗量推定値はいずれも、エンジン1の回転数が高くなるほど増加する傾向がある。そして、第1摩耗量推定値及び第2摩耗量推定値はいずれも、エンジン1の回転数よりも負荷の変化に対して大きく変化する傾向がある。
また、エンジン1の回転数及び負荷が同じ条件の下で比較した場合には、第1摩耗量推定値よりも第2摩耗量推定値の方が大きい値に設定されている。すなわち、SPCCI燃焼が行われるエンジン1では、中心電極250bよりも接地電極250aの方が摩耗し易い傾向がある。
エンジン1が運転しているとき、異常判定部101は、各センサSW1〜SW17から信号を入力する。例えば、筒内圧センサSW6から入力される信号に基づいて点火時の筒内圧を取得したり、クランク角センサSW11から入力される信号に基づいて点火時の筒内容積を取得したりする。
そうして、異常判定部101は、エンジン1の回転数及び負荷、運転時における筒内の状態量を取得するとともに、第1摩耗推定量分布マップ及び第2摩耗推定量分布マップを用いて、エンジン1の回転数及び負荷に応じた、中心電極250b及び接地電極250aの一点火あたりの摩耗推定量を算出する。そして、異常判定部101は、これら中心電極250b及び接地電極250aの一点火あたりの摩耗推定量を合算することにより、電極対250の一点火あたりの摩耗推定量を取得する。
エンジン1で点火が行われる度に、異常判定部101は、電極対250の一点火あたりの摩耗推定量を取得し、取得した電極対250の一点火あたりの摩耗推定量を積算していく。そうすることにより、異常判定部101は、エンジン1の運転状態に応じて増加する電極対250の摩耗量を推定する。
このように、異常判定部101は、エンジン1の運転状態に応じて、点火毎に、各電極の摩耗特性を考慮しながら電極対250で発生する摩耗量を推定し、それを積算していくことで摩耗量の総量を推定する。従って、エンジン1の運転履歴の違いによるばらつきの影響を低減でき、摩耗量を精度高く推定することができる。
しかし、この第1判定処理だけでは、摩耗量を精度高く推定できても、初期バラツキは加味されていない。従って、摩耗量推定処理で推定された摩耗量に基づいて、点火プラグ25を交換すると、依然として不適切なタイミングで点火プラグ25を交換しなければならない場合がある。
そこで、この異常判定装置100では、この摩耗量推定処理が、点火プラグ25の異常判断における前処理として利用されている。すなわち、実際に点火プラグ25の交換タイミングを判定する第2判定処理及び第3判定処理の前に第1判定処理が行われ、これら第2判定処理及び第3判定処理を実行する頻度を少なくするために、摩耗量推定処理が行われる。
具体的には、ギャップ長Gの初期値よりも大きく、ギャップ長Gの上限値(点火が適切に行える限界値)よりも小さい、所定の摩耗量からなる摩耗基準値が、異常判定部101に設定されている。摩耗基準値は、適宜調整できるが、その目的から、ギャップ長Gの上限値に近い方が好ましい。
そして、異常判定部101は、摩耗量推定処理で推定された電極対250の摩耗量が、摩耗基準値以上になったか否かを判定する処理を実行し、その摩耗量が摩耗基準値以上になった場合に、次の第2判定処理を実行する。
(第2判定処理)
第2判定処理では、ギャップ長Gと着火性との関係を利用して、摩耗量だけでなく、初期バラツキも加味したギャップ長Gが、点火プラグ25を交換すべきタイミングに達しているか否かを判定する。具体的には、本来の点火エネルギーよりも小さい判定用点火エネルギーを電極対250に付与することにより、点火プラグ25を作動させる処理を実行する。
(ギャップ長Gと着火性との関係)
本発明者らは、ギャップ長Gと着火性(混合気の着火に対する感度)との関係について調べたところ、ギャップ長Gの変化に対して着火性が大きく変化する変曲点が認められることを発見した。
図12に、そのギャップ長Gと着火性との関係を表したグラフを例示する。初期のギャップ長Gは相対的に小さいため、接地電極250a及び中心電極250bは互いに近接している。そのため、放電によって接地電極250aと中心電極250bとの間で発生する熱は、これら電極に吸収され易い。つまり冷却損失が大きい。冷却損失によって熱が奪われる分、着火性は相対的に低い。
電極の摩耗が進んでギャップ長Gが大きくなっていくと、接地電極250aと中心電極250bとが互いに離れていく。その結果、冷却損失は低減されていくので、着火性は次第に高くなる。
一方、ギャップ長Gが大きくなると、それに伴って、放電電圧は高くなるので、点火し難くなる。これらの相反する特性が、ギャップ長Gの拡大に対して相互に作用する。そのため、ギャップ長Gが、ある程度大きくなると、着火性が急激に低下する現象が認められることを、本発明者らは見出した。そして、本発明者らは、電極の摩耗を原因とする点火プラグ25の異常判定に、この現象で認められる着火性の変曲点を利用することを思いついた。
すなわち、点火プラグ25が正常な段階、つまり摩耗量及び初期バラツキを含めたギャップ長G(実ギャップ長G’)が、点火プラグ25を交換すべきタイミングに達していない段階では、実ギャップ長G’の増加とともに、着火性も高くなっていく。
従って、この段階では、通常の制御の下で要求電圧を電極対250に印加すれば、安定した混合気の点火が行えるだけである。
そこで、印加電圧を下げ、本来付与されるべき点火エネルギーより小さい点火エネルギー(判定用点火エネルギー)を電極対250に付与して、点火プラグ25を作動、つまり放電させる。具体的には、要求電圧よりも低い、所定の判定用電圧が電極対250に印加されるように、通電時間(ドエル時間)を短く調整する。そうすることにより、現状よりも着火し難い状態を強制的に再現する。
(第3判定処理)
第3判定処理では、判定用点火エネルギーが電極対250に付与されたときに、混合気の着火性を判定する処理が実行される。すなわち、現状よりも着火し難い状態で、混合気の着火性が判定される。
その結果、着火性の低下が認められなければ、要求電圧よりも低い判定用電圧においても着火性が低下していないので、点火プラグ25は正常、つまり実ギャップ長G’は、交換を要するレベルではないと判断できる。
一方、着火性の低下が認められた場合には、実ギャップ長G’は、要求電圧を印加した場合でも、間もなく着火性が急激に低下し、点火プラグ25は異常、つまり点火プラグ25の交換を要するレベルであると判断できる。
判定用点火エネルギー、具体的には判定用電圧又はドエル時間は、仕様に応じて適宜設定できる。例えば、失火の有無で判定すれば、比較的容易に判定できる。但し、その場合、トルク変動等を招くおそれがある。
このエンジン1の場合、筒内圧センサSW6が備えられているので、これを用いて着火性の判定が行われる。筒内圧センサSW6を用いれば、失火させなくても、着火性の低下を精度高く判定することができる。具体的には、異常判定部101に、着火性の判定基準となる、筒内圧センサSW6の検出値に対応した所定値(着火性基準値)が予め設定されている。
着火性基準値は、筒内圧センサSW6の検出値それ自体でもよいし、筒内圧センサSW6の検出値から演算して得られる着火性に関係する特定値であってもよい。異常判定部101は、筒内圧センサSW6の検出値と、この着火性基準値とを比較することで、混合気の着火性を判定する。
(点火プラグ25の異常判定制御)
図13に、異常判定装置100による点火プラグ25の異常判定制御のフローを例示する。
ECU10(異常判定部101)は、センサSW1〜SW17等から入力される信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断する(ステップS1)。例えば、筒内圧センサSW6から入力される信号を用いて筒内圧を取得したり、アクセル開度センサSW12から入力される信号を用いてエンジン1の負荷(トルク)を取得したり、クランク角センサSW11から入力される信号を用いてエンジン1の回転数を取得したりする。
次に、ECU10は、これら入力した信号に基づいて、上述した第1判定処理を実行する(ステップS2)。すなわち、エンジン1の運転状態に応じて増加する電極対250の摩耗量の推定値が、所定値(摩耗基準値)以上になったか否かを判定する。
その結果、電極対250の摩耗量の推定値が、摩耗基準値未満であった場合には(ステップS2でNo)、ECU10は、点火プラグ25は正常、つまり実ギャップ長G’は交換を要するほど大きくなっていないと判定する(ステップS20)。このような制御が行われる場合としては、例えば、電極対250の摩耗が進んでおらず、点火プラグ25を交換するタイミングまで、十分な余裕があるような場合である。
そして、この場合、例えば10万回等、所定の点火回数が経過するまでは、正常との判定結果を保持し、リターンする(ステップS21)。電極の摩耗は急激に進行することはないので、頻度高く判定処理を行うのは好ましくない。従って、エンジン1の運転状態に応じた適切な頻度で点火プラグ25の異常判定を行うのが好ましい。
正常との判定結果を保持する点火回数(保持点火回数)は、仕様に応じて設定される。例えば、保持点火回数は、ステップS20が繰り返される度に、次第に小さくなるように設定してもよい。
対して、電極対250の摩耗量の推定値が、摩耗基準値以上であった場合には(ステップS2でYes)、ECU10は、電極の摩耗の進行により、実ギャップ長G’が交換を要するレベルに達していると判定し、上述した第2判定処理を開始する。このような制御が行われる場合としては、例えば、初期バラツキの影響が及ぶ程度まで電極対250の摩耗が進行し、点火プラグ25を交換するタイミングが間もなくやってくるような場合である。
このように、第1判定処理を事前に行うことで、第2判定処理及び第3判定処理を実行する頻度を、大幅に抑制することができる。第1判定処理では、エンジン1の運転状態に応じた摩耗量が精度高く推定できるので、実ギャップ長G’の限界値の近くまで、第2判定処理及び第3判定処理の実行を抑制することができる。それにより、点火プラグ25の異常判定制御の効率化が図れる。第2判定処理に伴ってトルク変動が生じても、そのトルク変動を抑制することができる。
ECU10は、第2判定処理を開始すると、まず、筒内圧センサSW6から入力される信号に基づいて筒内圧を検出し、その筒内圧検出値から判定用電圧値を算出する(ステップS3)。すなわち、ECU10は、通常の制御に従い、検出した筒内圧から混合気を安定して点火するのに必要な印加電圧を求め、それに応じた要求電圧を取得する。通常の制御であれば、ECU10は、その要求電圧に対応した電圧が電極対250に印加されるよう、ドエル時間を調整し、適切なタイミングで一次コイル251a1に通電する。
それに対し、この異常判定制御では、現状よりも着火し難い状態を強制的に再現するために、ECU10は、取得した要求電圧に基づいて、その要求電圧よりも小さい所定の判定用電圧を算出する。判定用電圧の値は、一定値であってもよいし、要求電圧等に応じて変化させてもよい。
ECU10は、算出した判定用電圧に基づいて、判定用のドエル時間を算出する(ステップS4)。判定用のドエル時間は、要求電圧に対応したドエル時間よりも短い。従って、一次コイル251a1に対する通電時間が相対的に短くなるので、それに伴って印加電圧も低下し、判定用電圧を電極対250に印加することができる。
そうして、ECU10は、所定のタイミングで点火するように、着火装置251に信号を出力して点火プラグ25を作動させる(ステップS5)。それにより、電極対250に判定用電圧が印加され、燃焼室17の内部に形成された混合気が点火される。
ECU10は、筒内圧センサSW6から入力される信号に基づいて、そのときの点火による混合気の着火性を判定する(ステップS6)。具体的には、ECU10は、筒内圧センサSW6の検出値と、所定値(着火性基準値)とを比較する。
その結果、筒内圧センサSW6の検出値が着火性基準値以上であった場合には(ステップS6でNo)、ECU10は、点火プラグ25は正常、つまり実ギャップ長G’は交換を要するほど大きくなっていないと判定する(ステップS20)。
そして、この場合、第1判定処理の場合よりも少ない、例えば1000回等、所定の点火回数が経過するまでは、正常との判定結果を保持し、リターンする(ステップS21)。また、第1判定処理の場合と同様に、正常との判定結果を保持する点火回数(保持点火回数)は、ステップS20が繰り返される度に、次第に小さくなるように設定してもよい。
一方、筒内圧センサSW6の検出値が着火性基準値未満であった場合には(ステップS6でYes)、ECU10は、実ギャップ長G’が上限値に近接しており、間もなく着火性が急激に低下する、つまり点火プラグ25は異常であると判定する(ステップS7)。
そして、この場合、ECU10は、点火プラグ25の交換を要求する信号を、報知器57に出力し、点火プラグ25の交換が必要であることをユーザに報知する(ステップS8)。
このように、ここで開示する点火プラグの異常判定装置100によれば、適切なタイミングで点火プラグ25の交換が行えるようなる。
特にこのエンジン1では、低負荷領域A1において運転しているときには、空燃比がリーンなリーンSPCCI燃焼が行われる。リーンSPCCI燃焼は、理論空燃比やそれに近い空燃比でのSPCCI燃焼に比べると、火炎伝播し難い。そのため、リーンSPCCI燃焼では、SI燃焼が不安定になり易い。つまり混合気の点火が難しい。また、CI燃焼の開始タイミングの制御、つまりθciの制御も難しい。従って、この異常判定装置100は、リーンSPCCI燃焼が行われるエンジン1に対して有効である。
<点火プラグの異常判定装置の応用例>
上述したように、異常判定装置100では、ギャップ長Gの拡大に伴って着火性が低下する現象を利用したことにより、点火プラグ25の適切な交換を可能にする異常判定を実現している。
ところが、このような着火性の低下現象は、例えば、点火プラグ25の断線や燃料噴射の不具合など、電極対250の摩耗以外の原因でも起こり得る。そのため、このような現象が、電極対250の摩耗を原因とした現象であるか否かが判定できれば、点火プラグ25の交換が、より適切に行えるようになる。
それに対し、本発明者らは、電極対250の摩耗を原因とする場合には、上述した着火性の低下現象は、負荷の高い運転領域で最初に発現し、その後、摩耗量が増えるに従って、負荷の低い運転領域に拡大していく、ということを発見した。
この点、図14を用いて具体的に説明する。図14は、エンジン1の運転領域を負荷と回転数とで表した簡略図である。図14では、便宜上、着火性の低下現象を、失火及び未失火に分けて表してある。失火領域は、失火(混合気を点火しても燃焼が生じない、燃焼が生じても不完全燃焼に終わるような場合)が高頻度で発生するような領域である。未失火領域は、失火がほとんど発生せず、安定した燃焼が行われる領域である。
尚、失火領域は、着火性が相対的に低い低着火性領域とし、未失火領域は、着火性が相対的に高い高着火性領域としてもよい。
図14に示すラインLaは、失火領域と未失火領域との境界を表している。失火領域と未失火領域との境界は、負荷が同じであれば、回転数が高低に変化しても略一定である。但し、ラインLaは例示であり、これら領域の境界は、必ずしも明確でない。ある程度の幅で、次第に両領域の間を移りゆく場合もあり得る。
図14は、電極対250の摩耗がかなり進んだ段階での状態を表している。電極対250に摩耗がほとんど生じていない段階、あるいは摩耗が生じていても、ギャップ長Gの拡大による影響よりも、冷却損失低減の影響の方が勝っている段階では、良好な着火性が得られる。そのため、エンジン1が高負荷で運転しているときであっても、失火はほとんど発生しない(失火領域は存在せず、未失火領域だけが存在する)。
ところが、電極対250の摩耗がかなり進んだ段階では、高負荷側から、着火性が低下する現象が発現するようになる。つまり失火領域が現れる。そして、図14に矢印で示すように、更に電極対250の摩耗が進むにつれて、失火領域は低負荷側に向かって拡大していく。最終的には、失火領域が、エンジン1の運転領域の全域に拡大する。
一方、電極対250の摩耗以外を原因とする場合には、負荷の高低とは無関係に、着火性の低下現象は発現する。従って、負荷の高低によって着火性の低下に差が生じるのは、電極対250の摩耗特有の現象といえる。
そこで本発明者らは、このような電極対250の摩耗特有の現象を利用することにより、点火プラグ25の異常判定において、電極対250の摩耗を原因とする現象であるか否かが判定できるように工夫した。
すなわち、この応用例で示す点火プラグ25の異常判定装置(単に異常判定装置100Aともいう)では、上述した異常判定装置100に、着火性の低下現象が、電極対250の摩耗を原因とした現象であるか、それとも、電極対250の摩耗以外を原因とした現象であるか、が判定できるように、変更が加えられている。
従って、異常判定装置100Aに関しては、上述した異常判定装置100と構造や機能が共通している構成には、同じ符号を用いてその説明は省略し、異なる構成について、具体的に説明する。
異常判定装置100Aでは、主に異常判定部101が行う処理が変更されている。すなわち、異常判定装置100Aの異常判定部101では、エンジン1が高負荷で運転しているときに行う点火プラグ25の異常判定と、エンジン1が低負荷で運転しているときに行う点火プラグ25の異常判定と、を組み合わせることにより、着火性の低下現象が、電極対250の摩耗を原因とする現象であるか否かが判定できるようにしている。
具体的には、異常判定部101は、エンジン1が所定値以上の高負荷で運転しているときに、電極対250の摩耗を原因とする点火プラグ25の異常(摩耗異常)を判定する一連の処理(上述した第2判定処理及び第3判定処理)を行う。そうすることにより、混合気の着火性が低下しているか否かを判定する処理(第1着火性判定処理)を実行する。
上述したように、着火性の低下現象は、負荷の高い運転領域で最初に発現する。従って、最初に、そのような着火性の低下現象が発現する運転領域において、第2判定処理及び第3判定処理を行うことで、点火プラグ25が正常であるか否かが判定できる。すなわち、着火性の低下現象が認められなければ、点火プラグ25は正常であると判断できる。従って、異常判定制御が効率的に行える。
尚、ここでいう所定値(第1判定値ともいう)は、仕様に応じて適宜調整される。所定値は、エンジン1の運転領域を負荷の高低の方向に二分する値であり、着火性の違いが判定可能になる基準値であればよい。例えば、第1判定値は、エンジン1の運転領域を負荷の高低の方向に二等分した場合における高負荷側の領域に位置する値が好ましく、エンジン1の運転領域を負荷の高低の方向に三等分した場合における最も高負荷側の領域に位置する値がより好ましい。
そして、第1着火性判定処理において混合気の着火性が低下していたと判定された場合、異常判定部101は、エンジン1が所定値未満の低負荷で運転しているときに、再度、第2判定処理及び第3判定処理を行って、混合気の着火性が低下しているか否かを判定する処理(第2着火性判定処理)を実行する。
すなわち、エンジン1が高負荷で運転しているときに、混合気の着火性が低下していたと判定された場合には、点火プラグ25が異常であると判断できる。但し、電極対250の摩耗を原因とする異常(摩耗異常)であるか、電極対250の摩耗以外を原因とする異常(摩耗外異常)であるか、はわからない。
そこで、異常判定部101は、エンジン1が所定値未満の低負荷で運転しているときに、再度、第2判定処理及び第3判定処理を行い、混合気の着火性が低下しているか否かを判定する。
なお、ここでいう所定値(第2判定値ともいう)は、第1判定値と同様に、仕様に応じて適宜調整される。第2所定値は、第1所定値と同じであってもよいし、第1所定値よりも小さい値(つまり低負荷な値)であってもよい。例えば、第2判定値は、エンジン1の運転領域を負荷の高低の方向に二等分した場合における低負荷側の領域に位置する値が好ましく、エンジン1の運転領域を負荷の高低の方向に三等分した場合における最も低負荷側の領域に位置する値がより好ましい。
上述したように、摩耗異常の場合には、図14に示すように、摩耗が進行している過程において、低負荷側の運転領域に未失火領域が存在している。従って、そのような場合には、第1着火性判定処理で認められた混合気の着火性の低下とは異なり、着火性の低下が認められないか、あるいはそれよりも良好な着火性が認められる。
一方、摩耗外異常の場合(例えば、点火プラグ25の断線や燃料噴射の不具合などが考えられる)には、エンジン1の負荷とは関係無しに、着火性の低下が生じるので、第1着火性判定処理と同等の着火性の低下が認められる。すなわち、着火性の低下に変化はない。
このような違いから、異常判定部101は、第2着火性判定処理での判定結果に基づいて、摩耗異常の有無を判定する。すなわち、第2着火性判定処理で、第1着火性判定処理と同様に、着火性の低下が認められた場合には、摩耗異常ではなく、摩耗外異常が有ると判定する。一方、第2着火性判定処理で、第1着火性判定処理ほどの着火性の低下が認められない場合には、上述した電極対250の摩耗特有の現象であることから、摩耗異常が有ると判定する。
(点火プラグ25の異常判定制御)
図15に、異常判定装置100Aによる点火プラグ25の異常判定制御のフローを例示する。
ECU10(異常判定部101)は、異常判定装置100と同様に、センサSW1〜SW17等から入力される信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断する(ステップS30)。
次に、ECU10は、これら入力した信号に基づいて、上述した第1判定処理と同様の処理を実行する(ステップS31)。すなわち、エンジン1の運転状態に応じて増加する電極対250の摩耗量の推定値が、所定値(摩耗基準値)以上になったか否かを判定する。
その結果、電極対250の摩耗量の推定値が、摩耗基準値未満であった場合には(ステップS31でNo)、ECU10は、点火プラグ25は正常、つまり実ギャップ長G’は交換を要するほど大きくなっていないと判定する(ステップS300)。このような制御が行われる場合としては、例えば、電極対250の摩耗が進んでおらず、点火プラグ25を交換するタイミングまで、十分な余裕があるような場合である(印加電圧を多少小さくしたとしても、エンジン1の高負荷側の運転領域に失火領域が発現しない)。
そして、この場合においても、例えば10万回等、所定の点火回数が経過するまでは、正常との判定結果を保持し、リターンする(ステップS301)。保持点火回数は、ステップS300が繰り返される度に、次第に小さくなるように設定してもよい。
対して、電極対250の摩耗量の推定値が、摩耗基準値以上であった場合には(ステップS31でYes)、ECU10は、電極対250の摩耗の進行により、実ギャップ長G’が交換を要するレベルに達していると判定し、上述した第1着火性判定処理を実行する。このような制御が行われる場合としては、例えば、初期バラツキの影響が及ぶ程度まで電極対250の摩耗が進行し、点火プラグ25を交換するタイミングが間もなくやってくるような場合である(印加電圧を小さくした場合に、エンジン1の運転領域の高負荷側に失火領域が発現する状態)。
ECU10は、第1着火性判定処理を開始すると、まず、エンジン1が所定値(上述した第1判定値)以上の負荷で運転しているか否かを判定する(ステップS32)。すなわち、最初に失火領域が発現する高負荷領域でエンジン1が運転しているか否かを判定する。
そうして、エンジン1がその所定値以上の負荷で運転している場合には、第1着火性判定処理が実行される(ステップS32でYes)。エンジン1がその所定値以上の負荷で運転していない場合には、エンジン1がその所定値以上の負荷で運転するまで待機する(ステップS32でNo)。
第1着火性判定処理が開始されると、ECU10は、筒内圧センサSW6から入力される信号に基づいて筒内圧を検出し、上述した第2判定処理及び第3判定処理を実行する(図13におけるステップS3〜ステップS6参照)。
具体的には、ECU10は、その筒内圧検出値から、要求電圧よりも小さい所定の判定用電圧を算出する。そして、ECU10は、所定のタイミングで着火装置251に信号を出力して点火プラグ25を作動させ、電極対250に判定用電圧を印加することにより、燃焼室17の内部に形成された混合気を点火する。そうして、ECU10は、筒内圧センサSW6の検出値と、所定値(着火性基準値)とを比較することにより、そのときの点火による混合気の着火性を判定する。
その結果、筒内圧センサSW6の検出値が着火性基準値以上であった場合には(ステップS33でNo)、着火性は低下していない。従って、ECU10は、点火プラグ25は正常、つまり、電極対250の摩耗が進んでいても、実ギャップ長G’は交換を要するほど大きくなっていない(摩耗異常は無い)と判定する(ステップS300)。
そして、この場合も、例えば1000回等、所定の点火回数が経過するまでは、正常との判定結果を保持し、リターンする(ステップS301)。保持点火回数は、ステップS300が繰り返される度に、次第に小さくなるように設定してもよい。
一方、筒内圧センサSW6の検出値が着火性基準値未満であった場合には(ステップS33でYes)、着火性が低下しているので、ECU10は、点火プラグ25に何らかの異常が有ると判定し、上述した第2着火性判定処理を実行する(この段階では、点火プラグ25の異常が摩耗異常か摩耗外異常かはわからない)。
ECU10は、第2着火性判定処理を開始すると、まず、エンジン1が所定値(上述した第2判定値)未満の負荷で運転しているか否かを判定する(ステップS34)。すなわち、低負荷領域(電極対250の摩耗が進まない限りは失火領域が発現しない領域)でエンジン1が運転しているか否かを判定する。
そうして、エンジン1がその所定値未満の負荷で運転している場合には、第2着火性判定処理が実行される(ステップS34でYes)。エンジン1がその所定値未満の負荷で運転していない場合には、エンジン1がその所定値未満の負荷で運転するまで待機する(ステップS34でNo)。
第2着火性判定処理が開始されると、ECU10は、再度、筒内圧センサSW6から入力される信号に基づいて筒内圧を検出し、上述した第2判定処理及び第3判定処理を実行する(ステップS35)。
その結果、筒内圧センサSW6の検出値が着火性基準値以上であった場合には(ステップS35でYes)、負荷の高低に関係なく着火性が低下しているので、ECU10は、点火プラグ25の異常は、電極対250の摩耗以外の異常、つまり摩耗外異常であると判定する(ステップS36)。
一方、筒内圧センサSW6の検出値が着火性基準値未満であった場合には(ステップS35でNo)、低負荷領域では着火性が低下していない、つまり未失火領域が存在しているので、ECU10は、電極対250の摩耗による異常(摩耗異常)であると判定する(ステップS37)。
そして、この場合、ECU10は、点火プラグ25の交換を要求する信号を、報知器57に出力し、点火プラグ25の交換が必要であることをユーザに報知する(ステップS38)。
このように、この異常判定装置100Aによれば、電極対250の摩耗を原因とした現象であるか否かが判定できるので、点火プラグ25の交換が、より適切に行えるようになる。
なお、開示する技術にかかる点火プラグの異常判定装置は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
例えば、適用するエンジンは、SPCCI燃焼を行うエンジンに限らない。通常の火花点火式エンジンにも適用できる。特に、圧縮比の高いエンジンに好適である。
筒内圧センサは、必須でない。クランク角センサでも着火性の低下の判定は可能である。但し、筒内圧センサであれば、着火性の低下を精度高く判定できる。その結果、失火に伴うトルク変動を抑制できるため、筒内圧センサを用いるのが好ましい。
1 エンジン
10 ECU(制御部)
25 点火プラグ
100 異常判定装置
101 異常判定部
250 電極対
250a 接地電極
250b 中心電極
251 着火装置(着火部)
SW1〜SW17 センサ(計測部)
G ギャップ長

Claims (7)

  1. エンジンに組み付けられている点火プラグ、の異常判定装置であって、
    前記エンジンは、往復するピストンによって容積が変化するように筒内に区画された燃焼室を有し、
    前記点火プラグは、前記燃焼室に臨んだ状態で所定のギャップを隔てて対向する、接地電極及び中心電極からなる電極対を有し、
    前記異常判定装置は、
    前記エンジンの運転に関係するパラメータを計測する計測部と、
    前記電極対に所定の点火エネルギーを付与することにより、前記燃焼室の内部に形成される混合気を点火する着火部と、
    前記計測部及び前記着火部の各々と電気的に接続されていて、前記計測部から入力される信号に基づいて、前記着火部に信号を出力する制御部と、
    を備え、
    前記制御部は、前記点火プラグの異常を判定する異常判定部を有し、
    前記異常判定部が、
    前記エンジンが所定値以上の負荷で運転しているときに、前記点火エネルギーよりも小さい判定用点火エネルギーを前記電極対に付与して前記点火プラグを作動させることにより、混合気の着火性が低下しているか否かを判定する第1着火性判定処理と、
    前記第1着火性判定処理において混合気の着火性が低下していたと判定された場合に、前記エンジンが前記所定値未満の負荷で運転しているときに、再度、前記判定用点火エネルギーを前記電極対に付与して前記点火プラグを作動させることにより、混合気の着火性が低下しているか否かを判定する第2着火性判定処理と、
    を実行し、
    前記第2着火性判定処理での判定結果に基づいて、前記電極対の摩耗を原因とする前記点火プラグの異常である摩耗異常の有無を判定する、点火プラグの異常判定装置。
  2. 請求項1に記載の点火プラグの異常判定装置において、
    前記第1着火性判定処理で混合気の着火性が低下していないと判定された場合に、前記異常判定部は、前記摩耗異常は無いと判定する、点火プラグの異常判定装置。
  3. 請求項1又は2に記載の点火プラグの異常判定装置において、
    前記第2着火性判定処理で混合気の着火性が低下していると判定された場合に、前記異常判定部は、前記電極対の摩耗以外を原因とする異常が有ると判定する、点火プラグの異常判定装置。
  4. 請求項1に記載の点火プラグの異常判定装置において、
    前記計測部は、前記燃焼室の内部の圧力を計測する筒内圧センサを含み、
    前記第1着火性判定処理の前に、前記燃焼室で行われる燃焼の毎に前記筒内圧センサから入力される信号と、前記燃焼に伴って前記点火プラグが点火される点火回数とを用いて、経時的な積算処理を行うことにより、前記電極対の摩耗量を推定する摩耗量推定処理が実行され、
    前記異常判定部は、前記摩耗量推定処理で推定された摩耗量が所定値以上になったと判定した場合に、前記第1着火性判定処理を実行する、点火プラグの異常判定装置。
  5. 請求項1に記載の点火プラグの異常判定装置において、
    前記第2着火性判定処理で前記摩耗異常が有ると判定された場合に、前記異常判定部が前記点火プラグの交換を要求する信号を出力する、点火プラグの異常判定装置。
  6. 請求項1〜5のいずれか1つに記載の点火プラグの異常判定装置において、
    前記エンジンの幾何学的圧縮比が16以上である、点火プラグの異常判定装置。
  7. 請求項6に記載の点火プラグの異常判定装置において、
    所定のタイミングで前記燃焼室の内部に形成される混合気が点火されるように、前記制御部が前記着火部に信号を出力することにより、一部の混合気が火炎伝播を伴う燃焼を開始した後に、残りの未燃混合気が自己着火によって燃焼する、所定の圧縮着火燃焼が前記エンジンで行われる、点火プラグの異常判定装置。
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